(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】適応可能な磁気車輪を備えた壁面走行車両
(51)【国際特許分類】
B62D 57/024 20060101AFI20240521BHJP
B60G 1/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B62D57/024 L
B60G1/00
(21)【出願番号】P 2022573450
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(86)【国際出願番号】 US2021033977
(87)【国際公開番号】W WO2021247275
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-01-20
(32)【優先日】2020-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ハルヒコ ハリー アサダ
(72)【発明者】
【氏名】衞藤 晴彦
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-185964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 57/02
B60B 19/00
B60G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャーシ;
前記シャーシに回転可能に連結された少なくとも1つの車輪;
前記車輪に結合され、前記車輪を選択的に駆動するように構成された車輪アクチュエータ;
前記少なくとも1つの車輪の内側に位置する磁石であって、前記磁石は、前記磁石が第1の軸周りに前記車輪に対して回転可能であるように、第1の磁石シャフトを介して前記少なくとも1つの車輪に回転可能に結合された磁石;および
前記第1の磁石シャフトに結合された磁石アクチュエータであって、前記磁石アクチュエータは前記第1の軸に対する前記磁石の角度を選択的に調整するように構成される、磁石アクチュエータ;を有
し、
前記磁石は、前記磁石が第2の軸周りに前記車輪に対して回転可能であるように、前記第1の磁石シャフトに回転可能に結合された第2の磁石シャフトを介して前記少なくとも1つの車輪に回転可能に結合される、
車両。
【請求項2】
前記第2の軸は前記第1の軸に対して垂直である、
請求項
1に記載の車両。
【請求項3】
シャーシ;
前記シャーシに回転可能に連結された少なくとも1つの車輪;
前記少なくとも1つの車輪を前記シャーシに結合するサスペンション;
前記車輪に結合され、前記車輪を選択的に駆動するように構成された車輪アクチュエータ;
前記少なくとも1つの車輪の内側に位置する磁石であって、前記磁石は、前記磁石が第1の軸周りに前記車輪に対して回転可能であるように、第1の磁石シャフトを介して前記少なくとも1つの車輪に回転可能に結合された磁石;および
前記第1の磁石シャフトに結合された磁石アクチュエータであって、前記磁石アクチュエータは前記第1の軸に対する前記磁石の角度を選択的に調整するように構成される、磁石アクチュエータ;を有し、
前記少なくとも1つの車輪は4つの車輪であり、前記サスペンションは、前記4つの車輪のうちの2つに結合された第1のロッカーアームと、前記4つの車輪のうちの他の2つに結合された第2のロッカーアームとを有するロッカーサスペンションであり、前記第1のロッカーアームおよび前記第2のロッカーアームの各々は前記シャーシに回転可能に結合される、
車両。
【請求項4】
シャーシ;
前記シャーシに回転可能に連結された少なくとも1つの車輪;
前記車輪に結合され、前記車輪を選択的に駆動するように構成された車輪アクチュエータ;
前記少なくとも1つの車輪の内側に位置する磁石であって、前記磁石は、前記磁石が第1の軸周りに前記車輪に対して回転可能であるように、第1の磁石シャフトを介して前記少なくとも1つの車輪に回転可能に結合された磁石;および
前記第1の磁石シャフトに結合された磁石アクチュエータであって、前記磁石アクチュエータは前記第1の軸に対する前記磁石の角度を選択的に調整するように構成される、磁石アクチュエータ;を有し、
前記磁石は複数設けられ、複数の前記磁石は、ハルバッハ配列に配置される、
車両。
【請求項5】
シャーシ;
前記シャーシに結合されたサスペンション;
前記サスペンションに回転可能に結合された少なくとも1つの車輪;
前記車輪に結合され、前記車輪を選択的に駆動するように構成された車輪アクチュエータ;
前記少なくとも1つの車輪の内側に位置する磁石であって、前記磁石は、前記磁石が第1の軸周りに前記車輪に対して回転可能であるように、第1の磁石シャフトを介して前記少なくとも1つの車輪に回転可能に結合される、磁石;および
前記第1の磁石シャフトに結合された磁石アクチュエータであって、前記磁石アクチュエータは、前記第1の軸に対する前記磁石の角度を選択的に調整するように構成される、磁石アクチュエータ;を有
し、
前記磁石は、前記磁石が第2の軸周りに前記車輪に対して回転可能であるように、前記第1の磁石シャフトに回転可能に結合された第2の磁石シャフトを介して前記少なくとも1つの車輪に回転可能に結合される、
車両。
【請求項6】
前記第2の軸は前記第1の軸に対して垂直である、
請求項
5に記載の車両。
【請求項7】
シャーシ;
前記シャーシに結合されたサスペンション;
前記サスペンションに回転可能に結合された少なくとも1つの車輪;
前記車輪に結合され、前記車輪を選択的に駆動するように構成された車輪アクチュエータ;
前記少なくとも1つの車輪の内側に位置する磁石であって、前記磁石は、前記磁石が第1の軸周りに前記車輪に対して回転可能であるように、第1の磁石シャフトを介して前記少なくとも1つの車輪に回転可能に結合される、磁石;および
前記第1の磁石シャフトに結合された磁石アクチュエータであって、前記磁石アクチュエータは、前記第1の軸に対する前記磁石の角度を選択的に調整するように構成される、磁石アクチュエータ;を有し、
前記少なくとも1つの車輪は4つの車輪であり、前記サスペンションは、前記4つの車輪のうちの2つに結合された第1のロッカーアームと、前記4つの車輪のうちの他の2つに結合された第2のロッカーアームとを有するロッカーサスペンションであり、前記第1のロッカーアームおよび前記第2のロッカーアームの各々は前記シャーシに回転可能に結合される、
車両。
【請求項8】
シャーシ;
前記シャーシに結合されたサスペンション;
前記サスペンションに回転可能に結合された少なくとも1つの車輪;
前記車輪に結合され、前記車輪を選択的に駆動するように構成された車輪アクチュエータ;
前記少なくとも1つの車輪の内側に位置する磁石であって、前記磁石は、前記磁石が第1の軸周りに前記車輪に対して回転可能であるように、第1の磁石シャフトを介して前記少なくとも1つの車輪に回転可能に結合される、磁石;および
前記第1の磁石シャフトに結合された磁石アクチュエータであって、前記磁石アクチュエータは、前記第1の軸に対する前記磁石の角度を選択的に調整するように構成される、磁石アクチュエータ;を有し、
前記磁石は複数設けられ、複数の前記磁石は、ハルバッハ配列に配置されている、
車両。
【請求項9】
シャーシと、前記シャーシに回転可能に連結された複数の車輪と、前記複数の車輪の各々に結合され、前記複数の車輪の各々を選択的に駆動するように構成された車輪アクチュエータと、前記複数の車輪の各々の内側に位置する磁石であって、第1の軸周りに前記複数の車輪の各々に対して回転可能であるように、第1の磁石シャフトを介して前記複数の車輪の各々に回転可能に結合され、且つ、第2の軸周りに前記複数の車輪の各々に対して回転可能であるように、前記第1の磁石シャフトに回転可能に結合された第2の磁石シャフトを介して前記複数の車輪の各々に回転可能に結合される磁石と、前記第1の磁石シャフトに結合され、前記第1の軸に対する前記複数の車輪の各々の角度を選択的に調整するように構成されている磁石アクチュエータと、を備えた車両を動作させる方法であって、
前記複数の車輪を表面に沿って、前記表面に対してある角度に向けられた壁に向かって駆動すること;
前記複数の車輪の少なくとも1つの前輪の内側に位置する
前記磁石を前記第1の軸周りに、前記壁に直交する方向に向き合わせすること;
前記複数の車輪のうち少なくとも1つの後輪を前記表面に沿って前記壁に向かって駆動すること;
前記少なくとも1つの後輪の内側に位置する
前記磁石を前記第1の軸周りに、前記壁に直交する方向に向き合わせすること;および
前記複数の車輪を前記壁に沿って駆動すること;を含む、
方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの前輪は2つの前輪である、
請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの後輪は2つの後輪である、
請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記複数の車輪は、4つの車輪であり、
前記4つ
の車輪を前
記シャーシに結合するサスペンションを用いて前記4つの車輪の位置を調整することをさらに含む、
請求項
9に記載の方法。
【請求項13】
前記4つの車輪の位置を調整することは、前記シャーシに対する第1のロッカーアームの角度を調整すること、および前記シャーシに対する第2のロッカーアームの角度を調整することを含む、
請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの前輪の内側に位置する
前記磁石を向き合わせすることは:
第1に、第1の前輪の内側に位置する
前記磁石を前記壁と直交する方向に向き合わせすることと;
第2に、前記第1の前輪の内側の
前記磁石が前記壁と直交する方向に向き合わせされた後、第2の前輪の内側に位置する
前記磁石を前記壁と直交する方向に向き合わせすることと;を含む、
請求項
9に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの後輪の内側に位置する前記磁石の向き合わせすることは:
最初に、第1の後輪の内側に位置する前記磁石を前記壁と直交する方向に向き合わせすることと;
第2に、前記第1の後輪の内側の前記磁石が前記壁と直交する方向に向き合わせされた後、第2の後輪の内側に位置する前記磁石を前記壁と直交する方向に向き合わせすることと;を含む、
請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの前輪の内側に位置する
前記磁石を、
前記第1の軸に垂直な
前記第2の軸周りに向き合わせすることをさらに含む、
請求項
9に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つの後輪の内側に位置する
前記磁石を、
前記第1の軸に垂直な
前記第2の軸周りに向き合わせすることをさらに含む、
請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
前記前輪の内側に位置する前記磁石を
前記第1の軸周りに向き合わせすることは、
前記前輪側の前記磁石アクチュエータを作動させることを含み、
前記後輪の内側に位置する前記磁石を
前記第1の軸周りに向き合わせすることは、
前記後輪側の前記磁石アクチュエータを作動させることを含む、
請求項
9に記載の方法。
【請求項19】
前記表面は地表面であり、前記壁は垂直壁である、
請求項
9に記載の方法。
【請求項20】
前記表面は天井であり、前記壁は垂直壁である、
請求項
9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2020年5月30日に出願された米国仮出願番号63/032,563の35 U.S.C.§119 (e)に基づく利益を主張しており、その開示は参照によりその全体が本出願に組み込まれる。
【0002】
開示された実施形態は、適応可能な磁気車輪および当該磁気車輪を有する壁面走行車両(wall-climbing vehicles)、ならびに関連する使用の方法に関する。
【背景技術】
【0003】
造船や大型クレーンなどの製造現場では、溶接、塗装、および目視検査のために使用される大きな湾曲したスチールの表面を登る能力を備えた車両が知られている。壁面走行タスクのための様々な移動および吸引の原理が研究され、そのようなタスクのために開発されてきた。例えば、いくつかの従来のシステムは、負圧吸引機構を備えた脚式移動を採用している。他の従来の技術は、マイクロ突起(micro spines)および繊維状乾燥接着剤(fibrillar dry adhesives)などの生体に触発された(生体模倣の)吸引メカニズムを持つ脚式ロボットを含む。壁材料が強磁性である場合の吸引には磁気吸引(Magnetic attraction)力が採用されている。例えば、いくつかの従来のクライミング(climbing)ロボットは、脚と各脚の電磁石を含む。しかし、これらの溶接用の脚式ロボットは、ほぼ平坦な表面での使用のために設計されていた。他の種類のクライミング方法を使用する脚式ロボットは、例えば、2つの平行な壁の間で使用される多肢ロボットのエンドエフェクタに電気接着パッドおよび摩擦パッドを備えたものを含む。
【発明の概要】
【0004】
いくつかの実施形態では、車両は、シャーシ、シャーシに回転可能に結合された少なくとも1つの車輪、車輪に結合され、車輪を選択的に駆動するように構成された車輪アクチュエータ、および少なくとも1つの車輪の内側に位置する磁石を含む。磁石は、磁石が第1の軸周りに車輪に対して回転可能であるように、第1の磁石シャフトを介して少なくとも1つの車輪に回転可能に結合される。車両はまた、磁石アクチュエータが第1の軸に対する磁石の角度を選択的に調整するように構成されている第1の磁石シャフトに結合された磁石アクチュエータを含み得る。磁石は、第2の軸周りに車輪に対して回転可能であるように、第1の磁石シャフトに回転可能に結合された第2の磁石シャフトを介して少なくとも1つの車輪に回転可能に結合される。
【0005】
いくつかの実施形態では、車両は、シャーシ、シャーシに結合されたサスペンション、サスペンションに回転可能に結合された少なくとも1つの車輪、車輪に結合され、車輪を選択的に駆動するように構成された車輪アクチュエータ、および少なくとも1つの車輪の内側に位置する磁石を含む。磁石は、磁石が第1の軸周りに車輪に対して回転可能であるように、第1の磁石シャフトを介して少なくとも1つの車輪に回転可能に結合される。車両はまた、磁石アクチュエータが第1の軸に対する磁石の角度を選択的に調整するように構成されている第1の磁石シャフトに結合された磁石アクチュエータを含み得る。磁石は、第2の軸周りに車輪に対して回転可能であるように、第1の磁石シャフトに回転可能に結合された第2の磁石シャフトを介して少なくとも1つの車輪に回転可能に結合される。
【0006】
いくつかの実施形態では、シャーシと、シャーシに回転可能に連結された複数の車輪と、複数の車輪の各々に結合され、複数の車輪の各々を選択的に駆動するように構成された車輪アクチュエータと、複数の車輪の各々の内側に位置する磁石であって、第1の軸周りに複数の車輪の各々に対して回転可能であるように、第1の磁石シャフトを介して複数の車輪の各々に回転可能に結合され、且つ、第2の軸周りに複数の車輪の各々に対して回転可能であるように、第1の磁石シャフトに回転可能に結合された第2の磁石シャフトを介して複数の車輪の各々に回転可能に結合される磁石と、第1の磁石シャフトに結合され、第1の軸に対する複数の車輪の各々の角度を選択的に調整するように構成されている磁石アクチュエータと、を備えた車両を動作させる方法であって、複数の車輪を表面に沿って、表面に対してある角度に向けられた壁に向かって駆動すること、複数の車輪の少なくとも1つの前輪の内側に位置する磁石を第1の軸周りに、壁に直交する方向に向き合わせする(orienting)こと、複数の車輪の少なくとも1つの後輪を表面に沿って壁に向かって駆動すること、少なくとも1つの後輪の内側に位置する磁石を第1の軸周りに、壁に直交する方向に向き合わせすること、および車両の複数の車輪を壁に沿って駆動することを含む。
【0007】
上記の概念および後述の追加の概念は、本開示はこの点に限定されないが、任意の適切な組み合わせで構成され得ることを認識すべきである。さらに、本開示の他の利点および新しい特徴は、添付の図と併せて考えるとき、様々な非限定的な実施形態の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
添付の図面は、縮尺どおりに描画することを意図していない。図面では、さまざまな図に示されている同一またはほぼ同一の各コンポーネントは同様の数字で表され得る。明確にするために、すべての図面ですべてのコンポーネントにラベルは付けられていないことがある。
【0009】
【
図1】形状適応可能な磁気ボール車輪を含む車両の一実施形態の斜視図である。
【
図4】適応可能な磁気ボール車輪の一実施形態の切り欠き図である。
【
図6】線6-6に沿って取られた
図5のボール車輪の断面図である。
【
図7】第1の磁石シャフト周りの
図4の磁気ボール車輪の磁石の回転角と、磁石によって永久磁石ホルダーに作用する回転トルクとの間の関係の一例を示すグラフである。
【
図8A】様々な壁面における磁気ボール車輪の磁石の配置を描いた
図1の車両の概略図である。
【
図8B】様々な壁面における磁気ボール車輪の磁石の配置を描いた
図1の車両の概略図である。
【
図8C】様々な壁面における磁気ボール車輪の磁石の配置を描いた
図1の車両の概略図である。
【
図8D】様々な壁面における磁気ボール車輪の磁石の配置を描いた
図1の車両の概略図である。
【
図9】適応可能な磁気ボール車輪を含む車両を動作させる方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【
図10A】
図9のステップを実行する車両を描いた概略図である。
【
図10B】
図9のステップを実行する車両を描いた概略図である。
【
図10C】
図9のステップを実行する車両を描いた概略図である。
【
図10D】
図9のステップを実行する車両を描いた概略図である。
【
図10E】
図9のステップを実行する車両を描いた概略図である。
【
図10F】
図9のステップを実行する車両を描いた概略図である。
【
図11】適応可能な磁気ボール車輪を含む車両を動作させる方法の別の実施形態を示すフローチャートである。
【
図13】適応可能な磁気車輪を含む車両のさらに別の実施形態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
溶接は、とりわけ重工業において重要な製造プロセスである。例えば、造船はいくつかの溶接タスクを必要とする。従来の車両およびロボットプラットフォームは、環境の複雑さとワークピースの多様性のために、これらのタスクを達成するために使用することが実用的ではなく、困難であった。例えば、一般的に採用されている脚式クライミング車両は凹凸面に対応できるが、この種の車両は車輪ベースのクライミング車両に比べてペイロード(payload(積載))能力や構造剛性が比較的低く、一般的に低い移動速度および不連続運動を有する。別の例として、従来の車両は、動作を可能にするためにオンまたはオフに切り替えられる真空ポンプおよび電磁石などの能動的に動力を供給される吸引システムを採用しており、結果として電力を大量に消費する移動手段となっている。これらの従来の車両は、車両のサイズに対してほぼ直線的な形状または均一な曲面である整然とした環境向けに設計されている。しかし、多くの製造施設には多くの不均一なワークピースがある。既存の車両は移動性が悪くそのようなワークピースに作業ができないため、人間の労働者が、様々なタスクを実行するために足場を組むために雇われている。
【0011】
上記の観点から、本発明者らは、複雑な強磁性面でのエネルギー効率の良い移動を可能にする、車輪に対して自由に回転可能な内部永久磁石を有する車輪を含む車両の利点を認識した。特に、表面の傾斜角度にかかわらず、垂直または反転面(inverted surfaces)を含む3次元(3D)物体の表面上を、確実に移動できる車両の利点を発明者は認識した。本明細書に記載されている例示的な実施形態によれば、適応可能な磁気車輪を有する車両が、船舶および貯蔵タンクのような強磁性構造物の製造を含む様々な産業用途に対して、強化された移動性、ペイロード能力、および構造剛性を提供し得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、車両は少なくとも1つの車輪に回転可能に結合されたシャーシを含む。車輪は、表面に沿って車輪を駆動するように構成された車輪アクチュエータに結合され得る。車輪はまた、車輪の内側に位置する磁石を含み、磁石は磁石シャフトを介して車輪に回転可能に結合される。いくつかの実施形態では、磁石シャフトは車輪の回転軸に平行であり得る。この実施形態によれば、磁石は、磁石と外部強磁性面との間の磁気吸引力に応じて、車輪に対して回転し得る。車輪は、アルミニウム、ポリマー、プラスチック、および複合材料を含むが、これらに限定されない非強磁性材料で形成され得る。さらに、車輪は、車輪内に配置された1つまたは複数の磁石の存在に対応する(accommodate)ために、いくつかの実施形態では、少なくとも部分的に中空であり得る。例えば、いくつかの実施形態では、車輪は、外側シェルが車輪内部の中に含まれる1つまたは複数の磁石を備える車輪の少なくとも一部を形成し得るシェル様構造を使用して形成され得る。
【0013】
車輪は、目的の用途に適した任意の形状を有し得ることを理解すべきである。例えば、いくつかの実施形態では、車輪は円筒形であり得、ここでは、単一の自由度(すなわち、磁石シャフト周り)を有する磁石が円筒形の車輪に対して円周方向に移動可能である。他の実施形態では、車輪は、曲面またはそれ以外の凹凸面の存在に対応するために、少なくとも部分的に球形またはそれ以外の湾曲形状を有し得る。このような実施形態では、球形状は、特に表面が不規則であるまたは車両の複数の車輪間に単一のピッチを持たない場合に、車輪とその下にある表面との間に代替の接触点を提供し得る。このような実施形態では、車輪内に配置された磁石を、磁石が車輪に対して2自由度で回転可能であるように、第1の磁石シャフトと磁石との間に配置された第2の磁石シャフトで車輪に結合することが有益であり得る。いくつかの実施形態では、第1の磁石シャフトと第2の磁石シャフトは互いに垂直であり得る。
【0014】
場合によっては、車輪と隣接面との間の摩擦の量を増やすことが望ましい場合がある。したがって、いくつかの実施形態では、車輪は、強磁性面と接触したときにトラクション(traction)を支援するために、車輪の基材(underlying material)よりも大きい摩擦係数を持つ高摩擦材料(例えば、EVA、ゴムなど)の外側コーティングを含み得る。
【0015】
本明細書に記載されているいくつかの例示的な実施形態によれば、1つまたは複数の自由度で車輪に対して回転可能な車輪の内部に配置された1つまたは複数の磁石は、磁石と隣接する強磁性面との間の磁気吸引力に基づいて受動的に回転し得る。すなわち、1つまたは複数の磁石は、強磁性面に最も近い(すなわち、垂直な)位置に受動的に向き合わせし(orient)得る。このような位置は、正味(net)0の磁気トルクを有し得、車輪を強磁性面に向けて付勢する(urging)対応する高い吸引力を有し得る。車両が、それぞれが1つまたは複数の内部回転可能な磁石を有する複数の車輪を含む場合、車輪の各々の内部の1つまたは複数の磁石の各々は、強磁性面と垂直な向きに向けて受動的かつ独立して調整し得る。磁石は、2自由度の一方または両方で受動的に回転し、その結果、一貫した磁気吸引力が、各車輪について複雑な3D表面で維持される。
【0016】
いくつかの実施形態では、車輪に回転可能に結合された内部磁石を有する車輪を含む車両は、車輪に対して磁石を能動的に位置決めするように構成された磁石アクチュエータを含み得る。磁石アクチュエータは、サーボモータ、DCモータ、ステッパモータ、または1つ以上の回転位置の間で磁石を回転させるように構成された別の適切なアクチュエータであり得る。磁石アクチュエータは、内部磁石と隣接する強磁性面との間の磁気吸引によって生成される最大磁気トルクより大きい最大出力トルクを有し得る。したがって、強磁性面に隣接している場合、磁石アクチュエータは内部磁石を強磁性面から遠ざけるように回転させ得、それによって面に向かって車輪を付勢する磁気吸引力を減少または排除する。このような構成は、不連続な面(例えば、垂直な壁、床、天井など)の間を移動する場合に有益であり得る。2つの面の間の接合部に近づくとき、受動的に回転する磁石が、車輪が接合部に位置する場合に、両方の面に同時に引きつけられ得る、したがって、磁気吸引力が車輪を車両が位置していた元の面に向かって依然として付勢するため、内部磁石は2つの表面間の移行に抵抗し得る。対照的に、1以上の自由度で回転する磁石の向きを制御する磁石アクチュエータを用いる車両では、車両は、磁石を隣接面に向き合わせすることができ、それによって車両を元の表面に保持する磁気吸引力を排除または大幅に減少させる。したがって、本明細書に記載された例示的な実施形態による車両は、様々な3D表面間の垂直(90度)コーナーを通り抜け(navigate)得る。いくつかの実施形態では、内部磁石は、内部磁石に結合されたアクチュエータをバックドライブする(back-drive)のに十分な磁気トルクを有し得る。この実施形態では、内部磁石は、一貫した磁気吸引力を確保するために依然として受動的に回転し得、アクチュエータは、車両の特定のモードにおいて磁石を回転させるためにのみパワーを供給されて使用され得る。いくつかの実施形態では、トルク制御が用いられ得、ほとんどのモードにおいて、アクチュエータは、磁気トルクに応答し、磁石が受動的に動くことを可能にし、内部磁石とアクチュエータとの間の伝達に関連する抵抗力をキャンセルするための動力移動(powered movement)のみを提供する。
【0017】
本明細書に記載された例示的な実施形態によれば、永久磁石が、車両が強磁性面を登ることを可能にする磁気吸引力を発生させるために車輪の内部に用いられ得る。このような構成は、車両を表面に付着させ続けるために能動的な電力引き出しを使用しない受動的な吸引を含む多くの利点を提供し得る。いくつかの実施形態では、限られた空間で強い磁気吸引力を提供するために、複数の磁石がアレイで使用され得る。例えば、複数の永久磁石がハルバッハ配列に配置され得、強磁性面に面した磁石の側が、単一の大きな磁石に対して高められた吸引力を提供することを可能にする。いくつかの実施形態では、5つのネオジム鉄ホウ素磁石、または他の種類の磁石が、車両の車輪の内側に円弧状に配置され得る。もちろん、本開示はそのように限定されないが、任意の適切な数および種類の永久磁石が使用され得る。さらに、いくつかの実施形態では、本開示はそのように限定されないが、電磁石が使用され得る。
【0018】
場合によっては、車両は、従来の車輪式または脚式車両では通り抜けることができない、または非効率に通り抜けることになる複雑な湾曲面、ジャンクション、または障害物を通り抜けるタスクを課せられ得る。したがって、発明者らは、様々なツール(例えば、溶接トーチ)のベースとして機能するのに十分な剛性を維持しながら、凹凸面に適合する車両の利点を認識した。特に、本発明者らは、様々な表面形状に適応可能な安定したプラットフォームを提供する、1つまたは複数の磁気車輪と結合されたサスペンションシステムの利点を認識した。
【0019】
いくつかの実施形態では、車両は、シャーシと、複数の車輪をシャーシに結合するサスペンションとを含み得る。サスペンションは、第1のピボット点でシャーシに回転可能に結合された第1のロッカーアームと、第2のピボット点でシャーシに回転可能に結合された第2のロッカーアームとを含み得る。第1のロッカーアームおよび第2のロッカーアームは、シャーシの反対側(opposite sides)に位置し得る。第1のロッカーアームと第2のロッカーアームの各々は、それぞれのピボット点に対してロッカーアームの反対側に位置する車輪に回転可能に結合され得る。すなわち、第1のピボット点は、第1のロッカーアームの第1の端部に位置する第1の車輪と、第1のロッカーアームの第2の反対側の端部に位置する第2の車輪との間に位置し得る。同様に、第2のピボット点は、第2のロッカーアームの第1の端部に位置する第3の車輪と、第2のロッカーアームの第2の反対側の端部に位置する第4の車輪との間に位置し得る。このように、車両が変化する地形を横断するとき、4つの車輪の各々が下にある面に接触し続けるように、ロッカーアームはシャーシに対して回転し得る。差動装置(differential)が、シャーシが2つのロッカーアーム間の平均ピッチ角を維持するように、第1のロッカーアームを第2のロッカーアームに結合し得る。ロッカーアームは十分に剛性があり、スプリングおよび/またはダンパーがない場合があるため、シャーシは、さまざまなタスクのための安定したプラットフォームとして機能し得る。もちろん、いくつかの実施形態では、ばねおよび/またはダンパーを備えたものを含む他のサスペンションが使用され得、このような減衰弾性サスペンションは、本開示はそのように限定されないが、いくつかのタスクによく適し得る。
【0020】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載された例示的な実施形態による車両を動作させる方法は、車両の複数の車輪を表面に沿って、表面に対してある角度に向けられた壁に向かって駆動することを含む。壁は垂直の強磁性壁であり得、面は地面であり得る。複数の車輪の各車輪は、磁石軸周りに車輪に対して回転可能な内部磁石を含み得る。いくつかの実施形態では、車輪は重力の局所的な方向に対して車両の下に垂直に位置する地面に沿って駆動されるため、複数の車輪の各々の内側に位置する磁石は車両のシャーシに向かって向き合わせされ得る。すなわち、重力が車両を地面に付着させるのに十分であるため、磁石が移動の妨げにならないように、磁石は、地面から離れる方に向き合わせされ得る。いくつかの実施形態では、磁石は、各磁石に関連付けられたアクチュエータ(例えば、サーボモータ)で向き合わせされ(oriented)得る。車両が壁に近づくとき、車両の前輪の内部の磁石が壁と直交する方向(すなわち、磁石が壁に最も近い位置にあるように)に向き合わせされ得る。したがって、車両の前輪は、前輪が壁に沿って移動することを可能にする十分な磁気吸引力を生成し得る。車両の後輪は、後輪が壁に隣接するまで、前輪を壁の上に移動させるように駆動され得る。後輪の内側に位置する磁石は、壁に向かって磁気吸引力を発生させるために壁に向かって向き合わせされ得る。前輪と後輪が壁に付着されると、車両は磁石のさらなる向き合わせ(orientation)なしに壁に沿って移動できる可能性がある。いくつかの実施形態では、磁石は、壁に直交したままにするように受動的に移動し得る。すなわち、吸引力によって生成された磁気トルクは、アクチュエータをバックドライブするのに十分であり得るまたはそうでなければ、車両に一貫した吸引力を確保するために抵抗力を克服し得る。前述のように、いくつかの実施形態では、磁石の抵抗力を低減するためにアクチュエータに電力を供給しない場合がある。いくつかの実施形態では、アクチュエータは、抵抗力を相殺しながら磁石の受動的な動きと効果的に張り合う(emulate)ためのトルクバランスを求め得る。
【0021】
場合によっては、本明細書に記載された例示的な実施形態による車両は、垂直または反転された2つの表面(例えば、2つの垂直壁の間または壁と天井の間)の間を移動し得る。このような場合およびいくつかの実施形態では、車両を動作させる方法は、車両がそのような2つの面の間の垂直接合部を横切っているときに、すぐ上で説明した方法と同様である。これらの移行の間、車両は、表面間の移行中の任意の所与の時間に少なくとも3つの接触点を維持し得る。したがって、この方法は、最初に、車両の前輪が第2の面に隣接するまで、第1の面に沿って複数の車輪を駆動することを含み得る。この動作の間、車輪の各々の磁石は、車両を面に保持するのに十分な磁気吸引力を提供するように、第1の表面に向かって向き合わせされ得る。前輪が第2の面に隣接すると、前輪の1つの磁石は第2の面に向かって(例えば、アクチュエータで)向き合わせされ得、他の前輪の磁石は第1の面に向かって向き合わせされたままである。このようにして、磁気吸引力の移行中に、磁気吸引力の3つの点は、車両と第1および第2の面との間で維持される。磁石の1つが第2の面に向かって向き合わせられると、前輪の他の磁石は第2の面に向かって向き合わせされ得る。後輪についても、車両が2つの面の間を移動するまで同じプロセスが繰り返され得る。したがって、このようにして、車両は、面間の移動中に可能な限り多くの磁気吸引点を維持するように、各車輪の磁気吸引力を順次移動させ得る。
【0022】
場合によっては、車両はピッチおよび形状が異なる表面を横断することがある。したがって、車両は、面および/または障害物の変動に対応するために、1つまたは複数の車輪が車両シャーシに対して動くことを可能にするサスペンションを含み得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載された例示的な実施形態による車両を動作させる方法は、車両が位置する面の変動に応じて第1のロッカーアームおよび第2のロッカーアームを回転させることを含む。第1のロッカーアームおよび第2のロッカーアームは、互いにおよびシャーシに差動装置を用いて、第1のロッカーアームおよび第2のロッカーアームが、第1のロッカーアームと第2のロッカーアームとの間の平均角度までシャーシの回転をもたらすように、結合され得る。ロッカーアームの回転は、車両の各車輪が、広範囲の面形状および障害物に対して車両が配置されている面に接触したままになることを確実にし得る。もちろん、本開示はこの点に関してそのように限定されないが、他のサスペンションが採用されてもよい。
【0023】
明確にするために、適応可能な磁気ボール車輪が主に図との関連で説明されている。しかしながら、任意の適切な形状の車輪が、前述のような開示された適応可能な磁気車輪と共に使用され得ることを理解すべきである。加えて、特定のセンサの種類のセンサが、以下に説明する制御プロセスに関して詳細に記載されていないが、開示はそのように限定されないため、隣接面の位置を感知する任意の適切な方法が使用され得ることを理解すべきである。例えば、本明細書に記載された方法を実装するために車両と一体化される可能性のある適切な種類のセンサは、前方視センサ(例えば、赤外線、レーダー、レーザー、光学、およびその他の適切なセンサ)、接触センサ、および/またはその他の適切なセンサを含み得る。さらに、センサを使用せずに本明細書で説明する方法を実行するために、車両が手動で操作される例も考えられる。したがって、現在開示されている車両および適応可能な磁気車輪は、様々な方法が自律的または手動でどのように実装されるかに限定されないことを理解すべきである。
【0024】
図を参照して、特定の非限定的な実施形態をさらに詳細に説明する。開示は本明細書に記載された特定の実施形態のみに限定されないので、これらの実施形態に関連して記載された様々なシステム、コンポーネント、特徴、および方法は、個別にまたは/または任意の望ましい組み合わせで使用され得ることを理解すべきである。
【0025】
図1は、適応可能な磁気ボール車輪を含む車両1の一実施形態の斜視図である。
図2は
図1の車両の正面図であり、
図3は
図1の車両の側面図である。
図1~3に示すように、車両1は、シャーシ2、左ロッカーアーム3L、右ロッカーアーム3R、左シャフト4L、右シャフト4R、4つの磁気吸引車輪5(左前5FL、右前5FR、左後5RL、右後5RR)、およびディファレンシャルギア6を有する。
図4~5を参照してさらに説明すると、磁気吸引車輪は各々、それが中に位置する車輪に対して回転可能な内部磁石を含む。磁石は、車両を強磁性面に保持するために磁気吸引力を発生するように構成される。
【0026】
図1~3の実施形態によれば、シャーシ2は、溶接、塗装、目視検査などを含むが、これらに限定されないタスクを行うためのワークアタッチメント(図示せず)を備え得る。また、シャーシ2は、磁気吸引車輪5の動作を制御する制御ユニット(すなわち、メモリに格納されたプロセッサ可読命令を実行するように構成されたプロセッサ)を備え得る。特に、制御ユニットは、後述するように、車輪5の各々に結合された車輪駆動モータ56と、内部磁石の各々に結合された磁石駆動サーボモータ57を制御するように構成され得る。いくつかの実施形態では、車両1は、オペレータの操作を受け入れるために関連するユーザ入力装置(例えば、タブレット、携帯電話、コンピュータ、ハンドヘルドコントローラなど)を含み得る。ユーザ入力装置は、ユーザ(例えば、オペレータ)からの入力に基づいて磁気吸引車輪5を制御するために、制御ユニットに加えてまたはその代替として使用され得る。いくつかの実施形態では、制御ユニットは、事前に入力され、シャーシ2上に搭載されたメモリに格納されたプログラムに基づいて磁気吸引車輪5を制御し得る。
【0027】
図1~3の実施形態によれば、車両1は、各車輪が異なる傾きで接触点を持つ場合でも、4つの車輪5すべてが平らでない面(non-level surface)に接触し続けることを可能にするロッカーアーム3L、3Rによって形成された非弾性サスペンションを含む。左および右ロッカーアーム3L、3Rは、中央シャーシ2の間に配置されている。左シャフト4Lが、左ロッカーアーム3Lに取り付けられ、シャーシ2に取り付けられたベアリング21によって回転可能に支持される。すなわち、左ロッカーアーム3Lおよび左シャフト4Lは、シャーシ2にベアリング21で回転可能に結合される。同様に、右シャフト4Rは右ロッカーアーム3Rに取り付けられる。シャフト4Rは、右ロッカーアームおよび右シャフトがシャーシに対して自由に回転し得るように、シャーシ2に結合された別のベアリング22によって支持される。
図1~3の実施形態によれば、左シャフト4Lと右シャフト4Rは同軸に配置されている。また、左シャフト4Lと右シャフト4Rはディファレンシャルギア6を介して接続されている。ディファレンシャルギアは、右ロッカーアームおよび左ロッカーアームが逆方向に回転することを可能にし、シャーシ2は左および右ロッカーアームの間の平均角度に傾斜している。
【0028】
図1~3からに示すように、左ロッカーアーム3Lは逆V字形状に形成され得る。左ロッカーアーム3Lは、左シャフト4Lが固定される中央部分31と、中央部分31から前方且つ下方に延びる前方部分32と、中央部分31から後方且つ下方に延びる後方部分33とを有する。ロッカーアーム3Lの前方部分32は、磁気吸引車輪5FLを有し、後方部分33は、もう一つの磁気吸引車輪5RLを有する。したがって、左ロッカーアームには、シャーシ2に回転可能に取り付けられた中央部分の両側に2つの車輪が配置されている。同様に、右ロッカーアーム3Rは、横から見て略逆V字形状に形成され得る。右ロッカーアーム3Rはまた、右シャフト4Rが固定された中央部分34と、中央部分34から前方且つ下方に延びる前方部分35と、中央部分34から後方且つ下方に延びる後方部分36とを有する。ロッカーアーム3Rの前方部分35は、磁気吸引車輪5FRを有し、後方部分36はもう一つの磁気吸引車輪5RRを有する。従って、
図1~2の実施形態では、車両は4つの車輪を含み、各車輪はロッカーアームの端部に位置している。もちろん、特定の逆V字形状のロッカーアームが
図1~3に示されているが、本開示はそのように限定されていないので、ロッカーアームに適した任意の形状が使用され得る。
【0029】
図1~3の実施形態によれば、ディファレンシャルギア6は、左シャフト4Lの端部に固定された第1のベベルギア(図示せず)、第1のベベルギアと同軸に配置され右シャフト4Rの端部に固定された第2のベベルギア(図示せず)、第1のベベルギアと第2のベベルギアの軸に直交する第3のベベルギア(図示せず)、および第3のベベルギアを回転自在に支持するフレーム(図示せず)を有する。ディファレンシャルギア6のフレーム部分はシャーシ2に固定されている。第3のベベルギアは、右シャフトまたは左シャフトのいずれかの回転が第3のベベルギアを回転させるように、第1のベベルギアと第2のベベルギアの各々に接続される。ディファレンシャルギア6は、第1のベベルギアと第2のベベルギアとの間の平均回転角にしたがってフレーム部分を回転させる。したがって、ロッカーアーム3Lとロッカーアーム3Rは、揺動軸(oscillation axis)として同軸に配置されたシャフト4L、4Rを使用して、車両1では個別に揺動する(oscillated)ことができる。この構成により、磁気吸引面(付着されることになる面)が湾曲または凹凸面であっても、すべての4つの磁気吸引車輪5(5FL、5FR、5RL、5RR)が磁気吸引面に接触することができる。また、4つの磁気吸引車輪5をすべて磁気吸引面に接触させるために、ロッカーアーム3Lとロッカーアーム3Rを個別に揺動させることができる。いくつかの実施形態では、ディファレンシャルギア6の代わりに、ロッカーアーム3Lおよびロッカーアーム3Rは、ロッカーアームがシャーシに対して回転することを可能にする別の適切な機構によって接続され得る。もちろん、
図1~3に示されている別のサスペンションが使用されてもよく、本開示はそのように限定されないため、ロッカーボギー(rocker-bogie)サスペンションおよび減衰弾性サスペンションを含むが、これらに限定されない。
【0030】
図4~6は、
図1~3に示される車両1の磁気吸引車輪5の一実施形態を示す。
図1~3の実施形態によれば、車両1の4つの磁気吸引車輪5FL、5FR、5RL、5Rの各々は同じ構成を有する。このため、以下の説明は、右前磁気吸引車輪5FRを例に使用し、磁気吸引車輪5FL、5RL、5Rの説明を省略する。
図4は磁気吸引車輪5FRの切り欠き図であり、
図5は磁気吸引車輪5FRの断面図であり、
図6は
図5の6-6線に沿って取られた磁気吸引車輪5FRの部分拡大断面図である。
図4では、車輪の内部構造を見ることができるように、車輪の一部が取り除かれている。また、
図5は、軸心を通る垂直面で切断した第1の磁石シャフト54の断面図を示す。
図6は、第1の磁石シャフト54に垂直な面で切断した断面図を示す。
【0031】
図4~6に示す実施形態によれば、磁気吸引車輪5は、少なくとも部分的に球形の車輪51、永久磁石52、永久磁石ホルダー53、第1の磁石シャフト54、第2の磁石シャフト55、車輪駆動モータ56、磁石駆動サーボモータ57、およびベアリング58-60から成る。車輪は、ロッカーアーム3Rの前方部分35に形成された二股フォーク351、352によって支持される。球形車輪51は、中空の略球形シェル形状を有する。具体的には、球形車輪51は、球形部分511と平坦部分512、513を有する。球形部分511は、車両の移動を可能にするために面(例えば、強磁性面)に接触する表面である。
図4に示すように、平面512および平面513は、球形車輪51の回転軸に垂直な平面である。言い換えると、球形車輪51の外形は、球形から左右側部が部分的に切り取られた形状を有する。球形車輪51は、例えばアルミニウム、プラスチック、または複合材料などの非磁性材料から形成される。いくつかの実施形態では、球形シェル車輪51は、強磁性面に付着されるときにトラクションを補助するために、高摩擦材料(例えば、EVA、ゴムなど)の外側コーティングを含み得る。
【0032】
図4~6に示す実施形態によれば、車輪駆動モータ56はフォーク351に固定される。車輪駆動モータ56の出力シャフト561は、フォーク351の貫通部分351aを貫通し、球形車輪51の平坦部分512で固定される。具体的には、図示の実施形態では、キー溝付きのシャフトホルダー514が、球形車輪51の平坦部分512の外側に設けられる。シャフトホルダー514は、球形車輪51に、図に示されていないボルト、ナット等によって固定される。出力シャフト561はキー562を介してシャフトホルダー514に固定される。車輪駆動モータは、DCモータ、ステッパモータ、連続サーボ、またはその他の適切なアクチュエータであり得る。さらに、車輪駆動モータと球形車輪51との間のインターフェースは、キー溝とインターフェースされたキーを使用しているが、本開示はそのように限定されていないので、車輪駆動アクチュエータと車輪との間の任意の適切な結合が採用され得る。
【0033】
図4~6の実施形態によれば、第1の磁石シャフト54は、球形車輪51の回転軸(車輪駆動モータ56の出力シャフト561)と同軸に配置され、球形車輪51の対向する部分に取り付けられたベアリング58、59によって自由に支持されている。したがって、第1の磁石シャフト54は車輪51に対して自由に回転できる。
図4~6に示されている具体的な配置では、円形部材515と保持部材516が、球形車輪51の平坦部分512の内側に設けられる。環状部材515と押さえ部材516は、図示しないボルトやナット等によって球形車輪51に固定される。ベアリング58の外輪は環状部材515内に配置され、押さえ部材516によって所定の位置に保持される。ベアリング58の内輪は第1の磁石シャフト54の一端を支持する。第1の磁石シャフト54が通る貫通孔517が、球形車輪51の平坦部分513に形成される。保持部材518が球形車輪51の平坦部分513の内側に設けられる。保持部材519が球形車輪51の平坦部分513の外側に設けられる。保持部材518、519は、図示しないボルトやナット等によって球形車輪51に固定される。ベアリング59の外輪は貫通孔517に配置され、保持部材518、519によって引き込まれる。ベアリング59の内輪は、貫通孔517を通る第1の磁石シャフト54を支持する。フォーク352は、第1の磁石シャフト54が同様に貫通する貫通孔352aを有する。ベアリング60の外輪は、貫通孔352aに配置される。ベアリング60の内輪は、貫通孔352aを通る第1の磁石シャフト54を支持する。ベアリング60の外輪は、球形車輪51の側のフォーク352に接触することによって位置決めされ、ベアリング60の内輪は反対側のカプラ572に接触している。したがって、
図4~6に示す配置は、磁石ホルダー53が球形車輪51の回転軸に平行な軸周りを旋回することを可能にし得る。
【0034】
図4~6の実施形態によれば、磁石を駆動するサーボモータ57は、ブラケット352bを介してフォーク352に固定される。カプラ572が、磁石駆動サーボモータ57の出力シャフト571に固定される。第1の磁石シャフト54の他端はキー541を介してカプラ572に固定される。磁石サーボモータ57は、第1の磁石シャフトを駆動し、それに対応して磁石ホルダーを回転させることができる。
【0035】
図4~6の実施形態によれば、第1の磁石シャフト54とともに回転する第2の磁石シャフト55が球形車輪51の内部に設けられて、磁石ホルダー53が第2の自由度で回転することを可能にする。
図4~6の具体的な実施形態では、第2の磁石シャフト55は、ベース551および軸部分552、553を有する。ベース551は、第1の磁石シャフト54が挿入される貫通孔551aを有し、キー541を介して第1の磁石シャフト54に固定される。軸部分552、553は、同軸に配置され、第1の磁石シャフト54の回転軸と直交する。円筒状のカラー543、544が第1の磁石シャフト54に配置される。カラー543は、ベアリング58の内輪に接触する一端および第2の磁石シャフト55に接触する他端を有する。カラー544は、ベアリング59の内輪に接触する一端および第2の磁石シャフト55に接触する他端を有する。結果として、第2の磁石シャフト55のベース551は左右方向において位置決めされる。具体的には、軸部分552、553の軸は、それらが球形車輪51(球形部分511)の中心を通るように位置決めされる。永久磁石ホルダー53は、第2の磁石シャフト55の軸552、553に吊り下げられる。言い換えれば、永久磁石ホルダー53は、第2の磁石シャフト55の軸552、553を回転軸として揺動することができる。また、永久磁石ホルダー53は、第1の磁石シャフト54を軸として回転可能に構成される。このように、永久磁石ホルダーは、球形車輪51の内側で、2自由度で移動可能である。
【0036】
図4~6の実施形態によれば、永久磁石52は、永久磁石ホルダー53に埋め込まれ、車輪51の外径内に配置される。例えば、永久磁石52は、永久磁石ホルダー53に設けられたくぼみに収容され、保持部材531によって引き込まれる。永久磁石ホルダー53は、球形車輪51の内面に沿った扇形形状を有する。これは、永久磁石52が磁気吸引面にできるだけ近づくことを可能にする。永久磁石52は、例えば、
図6に示すように、円弧状に配置され、永久磁石ホルダー内に配置された5つのネオジム磁石を有する。さらに、いくつかの実施形態では、5つのネオジム磁石によるハルバッハ配列が採用されて、比較的小さい磁石体積で強い磁力を発生させ得る。もちろん、本開示はそのように限定されないので、球形車輪内の磁石の他の配置も考えられる。
図4~6に示すように、永久磁石ホルダー53は、球形車輪51の内面に沿った扇形または円弧形状を有する。永久磁石ホルダー53の外径は、球形車輪51の内径以下に形成される。永久磁石ホルダー53の外面は、いくつかの実施例では、球形車輪51の内面と接触し得る、または、内面から分離され得る。永久磁石ホルダー53の外面が球形車輪51の内面に接触する構成では、磁石ホルダー53の動きに対する摩擦抵抗を緩和するために、2つの面の間に潤滑剤が塗布され得る。
【0037】
上述のように、永久磁石ホルダー53に保持された永久磁石52は、車輪51内に置かれ、第1の磁石シャフト54周りに(
図4の白い矢印で示されている第1の回転方向に)回転する。それは、第1の磁石シャフトによって定義される第1の軸周りに能動的または受動的に回転することができる。さらに、磁石ホルダーは、第2の磁石シャフト55周りに(
図4の両側矢印で示されている第2回転方向に)第1の軸に垂直な第2の軸周りに回転可能であり得る。このように、磁石ホルダー53は、隣接する強磁性面への磁気吸引力が最も強く、磁石52にかかる磁気トルクが実質的にゼロとなる位置まで受動的に回転できるように構成される。磁石ホルダーの受動回転に対する磁気トルクの影響については、
図7を参照してさらに説明する。いくつかの実施形態では、磁石ホルダー53はまた、本開示はそのように限定されないので、第2の磁石シャフト55周りに能動的に回転可能であり得る。
【0038】
図7は、第1の磁石シャフト54周りの
図6に示す回転角θと永久磁石52によって永久磁石ホルダー53に作用する回転トルクとの間の関係の一例を示すグラフである。ここで、
図7に示すグラフでは、横軸は永久磁石52が強磁性面Wの方向に角度θ=0°で向くときの
図6に示す回転角θを示し、縦軸はその回転角でのトルクを示す。永久磁石ホルダー53に作用するトルクは、3次元磁場解析によって計算された磁気吸引力から決定された。この例では、トルクの最大値は2.4Nmであり得る。したがって、例えば、ストールトルク6Nmの磁石駆動サーボモータ57を使用することによって、永久磁石ホルダー53を磁気吸引力に逆らって回転させることができ、永久磁石ホルダー53を壁面Wから離れて動かすことができる。言い換えれば、磁気吸引車輪5の壁面Wへの磁気吸引は解放されることができる。磁石52およびそれに対応するサーボモータ57、または他のアクチュエータは、車両が様々な表面間の接合部や交差点を横断することを可能にするように、モータのそのような最大トルクが面に吸引された磁気の解放トルクよりも大きくなり得るように選択され得る。
【0039】
図8A~8Dは、本実施形態の車両1が様々な湾曲形状の壁面に吸着される場合の永久磁石52の配置の例を示している。図では、磁気吸引力の方向が太字の矢印で示されている。
【0040】
図8Aは、永久磁石52の向きが、車両1を車両1の移動の方向に沿った湾曲面に引きつけていることを示している。ここでは、磁石駆動サーボモータ57への電源供給が遮断され、磁石駆動サーボモータ57の出力シャフト571(第1の磁石シャフト54)は外部トルクで受動的に回転されることができるバックドライブ状態にある。永久磁石52の磁力は、永久磁石52の磁力の方向が磁気吸引面の法線方向に向けられることができるように、永久磁石ホルダー53を第1の磁石シャフト54周りに受動的に回転させる。結果として、永久磁石ホルダー53は、壁面Wの任意の方位角を自動的に実現し、車両1は、壁面Wに引きつけられることができる。結果として、永久磁石ホルダー53は、壁面Wの任意の方位角を自動的に実現し、車両1は壁面Wへの一定の吸引力を維持する。
【0041】
図8Bは、車両1を車両1のシャーシ幅方向に沿った凹湾曲面に引きつける際の永久磁石52の向きを示している。第2の磁石シャフト55を回転軸として永久磁石ホルダー53を回転させることにより、永久磁石52の磁力方向を受動的に磁気吸引面の法線方向に向けることができる。
【0042】
図8Cは、車両1を車両1の幅方向に沿った凸湾曲面に引きつける際の永久磁石52の向きを示している。第2の磁石シャフト55を回転軸として永久磁石ホルダー53を回転させることにより、永久磁石52の磁力方向を受動的に磁気吸引面の法線方向に向けることができる。
【0043】
図8Dは、磁石の位置および法線方向が凹凸面に対応する車輪間ですべて異なる場合の4つの車輪の接触面(破線で示す)を示している。車両1は、前述のようにロッカーサスペンションを備えているため、すべての4つの車輪は、面が均一でなくても強磁性面に引きつけられることができ、各車輪は表面の異なるピッチに対応している。
【0044】
図9は、適応可能な磁気車輪を含む車両を動作させる方法の一実施形態を示すフローチャートである。
図10A~10Fは、
図9のステップを実行する車両の一実施形態を示している。この方法は、車両1が床面W1から強磁性壁面W2に移動するときの動作を示している。
図10A~10Fは、車両1が面の間を横断して移行するときの水平側面図である。
【0045】
ステップS1において、制御ユニットは、前後輪(磁気吸引車輪5FL、5FR、5RL、5RR)の永久磁石ホルダー53がシャーシ2を向く(
図10A参照)ように、磁石駆動用サーボモータ57を制御する。制御ユニットは、シャーシに向かって永久磁石ホルダー53の向きを維持するように、磁石駆動用サーボモータ57を制御し得る。いくつかの実施形態では、シャーシは、サーボモータに電力が供給されないままであり得るように、磁石ホルダーをシャーシに向かう向きで受動的に保持する強磁性材料を含み得る。ステップS1において、制御ユニットは、車輪51(
図10Aの白抜き矢印を参照)を駆動するように車輪駆動モータ56を制御し得る。結果として、車両1が床面W1上を移動するとき、床面への磁気吸引力による駆動トルクの増加を抑えることができる。また、床面W1上の砂鉄等の磁性異物の吸引を防止することができる。前輪(磁気吸引車輪5FL、5FR)が壁面W2に達すると、制御ユニットは、車輪駆動モータ56を停止させ、ステップS2に進む。
【0046】
ステップS2において、制御ユニットは、壁面W2に向かって前輪(磁気吸引車輪5FL、5FR)の永久磁石52を向ける(
図10Bの黒塗りの矢印を参照)。言い換えれば、制御ユニットは、壁面W2に向かって永久磁石ホルダー53を向けるために、磁石駆動サーボモータ57、または磁石を駆動するために使用される他のアクチュエータに制御コマンドを提供し得る。このコマンドは、本明細書に記載されているさまざまな制御方法のために、命令された速度、トルク、位置、または磁石のアクチュエータを制御する他の適切な方法を含む多くの方法で具体化され得る。このようにして永久磁石52は強磁性壁面W2を引きつける。その後、サーボモータ57への電源を遮断し、サーボモータ57をバックドライブ状態にすることで、永久磁石52の磁気吸引力によって永久磁石52の磁気方向が壁面W2に向くように永久磁石ホルダー53が回転する。すなわち、磁石は、受動的に調整されて壁に向かう垂直の向き(normal orientation)を維持するため、一貫した磁気吸引力が提供される。
【0047】
ステップS3において、制御ユニットは、車輪駆動モータ56を制御することによって球形車輪51を駆動しながらシャーシ2に向かって後磁石を向け続けるようにサーボモータ57を制御する(
図10C参照)。その結果、壁W2に磁気的に吸着した前輪が壁W2を登る(
図10Cの白抜き矢印を参照)。床面W1の後輪はさらに壁面W2に向かって前進する(
図10C、白色の分離矢印参照)。後輪が壁W2(
図10D参照)に達すると、制御ユニットは車輪駆動モータ56を停止させ、ステップS4に進む。
【0048】
ステップS4において、制御ユニットが、壁面W2に向かって後輪(磁気吸引車輪5RL、5R)の永久磁石52を向ける(
図10E参照)。言い換えれば、制御ユニットは、壁面W2に向かって永久磁石ホルダー53を向けるように制御コマンドを磁石駆動サーボモータ57に提供し得る。このようにして、永久磁石52は強磁性壁面W2に吸引される。その後、サーボモータ57への電源を遮断し、後輪のサーボモータ57をバックドライブ状態にすることで、永久磁石ホルダー53は、壁面W2に向かって向き合わせされ、永久磁石52の磁気吸引力によって壁面に引きつけられるように、回転する。ステップS4に続いて、車両は、壁面W2に取り付けられ得、磁石が車両を壁面に受動的に付着させながら車輪を駆動するように駆動モータ56を動作させることによって移動し得る。
【0049】
ステップS5では、制御ユニットは、球形車輪51を駆動するように車輪駆動モータ56を制御する(
図10F参照)。この動きの間、車両1の前後の車輪は壁W2に磁気的に取り付けられ、壁W2を上昇する(
図10Fの白い塗りつぶされた矢印を参照)。従って、
図9~10を参照して記述された実施形態によれば、車両1は床面W1に接地した状態から壁W2を登ることができる。
【0050】
図11は、磁気ボール車輪を含む車両を動作させる方法の別の実施例を示すフローチャートである。特に、車両1がある強磁性壁面から別の強磁性壁面に移動するときの車両1の動作が
図11を用いて説明される。
図12は、
図11のステップを実行する車両1の状態を示す概略図である。さらに、
図12A~12Fは、車両1が面の間を横断し移行する際の側面図を描いている。
【0051】
なお、スタートにおいて、車両1は、
図12Aに示すように第1の壁W3に引きつけられる。すなわち、車両1の前輪および後輪(磁気吸引車輪5FL、5FR、5RL、5RR)の永久磁石ホルダー53は第1の壁を向いている。
【0052】
ステップS21において、制御ユニットは、前輪および後輪(磁気吸引車輪5FL、5FR、5RL、5RR)の永久磁石ホルダー53が第1の壁面W3に向く状態で車輪51を駆動するように車輪駆動モータ56を制御する(
図12Aの白抜き矢印を参照)。ここで、磁石駆動サーボモータ57への電源を遮断し、磁石駆動サーボモータ57の出力シャフト571(第1の磁石シャフト54)をバックドライブ状態にすることで、永久磁石52の磁気方向が永久磁石52の磁気吸引力により第1の壁面W3に向くように、永久磁石ホルダー53は回転する。結果として、車両1は第1の壁W3に引き寄せられ、垂直に移動することができる。前輪(磁気吸引車輪5FL、5FR)が第2の壁面W4に達すると、制御ユニットは車輪駆動モータ56を停止させ、ステップS22に進む。
【0053】
ステップS22において、制御ユニットは、第2の壁W4に向かって前輪(磁気吸引車輪5FL、5FR)の永久磁石52を向ける(
図12Bの黒塗りの矢印を参照)。言い換えれば、制御ユニットは、第2の壁W4に向かって永久磁石ホルダー53を向けるように磁石駆動サーボモータ57に制御コマンドを提供し得る。このようにして、前輪の永久磁石52は強磁性の第2の壁W4に引きつけられる。その後、サーボモータ57への電源を遮断し、サーボモータ57の出力シャフト571(第1の磁石シャフト54)をバックドライブ状態にすることで、永久磁石ホルダー53は、永久磁石52の磁気吸引力により永久磁石52の磁気方向が第2の壁面W4に向くように回転する。
【0054】
制御ユニットは、ステップS22の処理中に、前輪(磁気吸引車輪5FL、5FR)の一方の永久磁石52を第1の壁面W3の法線方向から第2の壁面W4の法線方向に向ける。次に、制御ユニットは、前輪(磁気吸引車輪5FL、5FR)の永久磁石52の他方の側を第1の壁面W3の法線方向から第2の壁面W4の法線方向に向ける。言い換えれば、車両1は、4つの車輪のうち少なくとも3つが壁W3、W4に引きつけられている間に、1つの車輪の永久磁石ホルダー53を、第1の面に向けられた第1の向きから第2の面に向けられた第2の向きに回転させる。これは、次いで、車両が面の間を移行するときに、各車輪に対して順番に実行され得る。結果として、車両1は、接合部を通過するときに壁から落下することを回避するために十分な吸引力を維持するように、少なくとも3つ以上の磁気吸引車輪5によって壁W3および/またはW4に吸引されることができる。
【0055】
ステップS23において、制御ユニットは、前輪(磁気吸引車輪5FL、5FR)の永久磁石ホルダー53が第2の壁W4に向き、後輪(磁気吸引車輪5RL、5RR)の永久磁石ホルダー53が第1の壁W3に向いた状態で、車輪51を駆動するように車輪駆動モータ56を制御する(
図12C参照)。このようにして、第2の壁W4に磁気吸引された前輪は、第2の壁W4に沿って前進する(
図12Cの白抜き矢印を参照)。第1の壁W3の後輪は、第2の壁W4に向かってさらに前進する(
図12Cの白色の分離矢印を参照)。後輪が第2の壁W4に達する(
図12D参照)と、制御ユニットは車輪駆動モータ56を停止させ、ステップS24に進む。
【0056】
ステップS24において、制御ユニットは、第2の壁W4に向かって後輪(磁気吸引車輪5RL、5RR)の永久磁石52を向ける(
図12E参照)。言い換えれば、制御ユニットは、第2の壁W4に向かって永久磁石ホルダー53を向けるように磁石駆動サーボモータ57に制御コマンドを提供し得る。このようにして、永久磁石52は強磁性体を第2の壁W4に引きつける。その後、サーボモータ57への電源を遮断し、サーボモータ57の出力シャフト571(第1の磁石シャフト54)をバックドライブ状態にすることで、永久磁石52の磁気方向が永久磁石52の磁気吸引力により第2の壁面W4に向くように永久磁石ホルダー53が回転する。
【0057】
ここで、制御ユニットは、後輪(磁気吸引車輪5RLまたは5RR)の永久磁石52の1つを第1の壁W3の法線方向から第2の壁W4の法線方向に向ける。次に、制御ユニットは後輪(磁気吸引車輪5RLまたは5RR)の永久磁石52のもう1つを第1の壁W3の法線方向から第2の壁W4の法線方向に向ける。言い換えれば、車両1は、4つの車輪のうち少なくとも3つが壁W3、W4に引きつけられている間に、1つの車輪の永久磁石ホルダー53を回転させる。結果として、車両1は、移行中常に少なくとも3つ以上の磁気吸引車輪5によって壁W3、W4に引きつけられる。
【0058】
ステップS25では、制御ユニットは、前輪および後輪(磁気吸引車輪5FL、5FR、5RL、5RR)の永久磁石ホルダー53が第2の壁W4に向く状態で球形車輪51を駆動するように車輪駆動モータ56を制御する(
図12Fの白抜き矢印を参照)。したがって、車両1の前輪および後輪(車輪5FL、5FR、5RL、5RR)は第2の壁W4に磁気的に取り付けられ、それに応じて第2の壁W4に沿って前進し得る(
図12Fの白い塗りつぶされた矢印を参照)。
【0059】
なお、
図11および
図12は車両1が壁から壁へ移動する場合を示しており、一例として説明している。例えば、同じ方法が、車両1を壁面から天井面におよび天井面から壁面に並びに/または隣接する2つの面間の他の接合部に移動させることに適用可能である。代替的には、車両1は、壁面から床面に移動し得る。
【0060】
図13は、適応可能な磁気車輪を含む車両1Aのさらに別の実施形態の斜視図である。
図1~3に示される車両1と比較して、車両1Aは、車輪の形状を少なくとも部分的に球形の車輪51から円筒形の車輪51A、51Bに変更している。車両1Aでは、永久磁石ホルダー53は、車輪51A、51Bの外径内に配置され、第1の磁石シャフト54に固定される。このような配置は、強磁性面が車幅方向に曲率を持たない場合に適し得る。
図13の車両1Aでは、永久磁石ホルダー53はまた、第1の磁石シャフト54周りに能動的または受動的に回転することができる。これは、車両1Aが、例えば、
図9~12を参照して示され説明されているように、床面、壁面、天井面の間を移動することを可能にする。
【0061】
例:プロトタイプ車両の構造
【0062】
本明細書で説明する例示的な実施形態による車両の機能を検証するために、車両プロトタイプが開発された。プロトタイプは、磁気球形車輪を備えた一対のロッカーアームおよび中央シャーシを含んでいた。プロトタイプの寸法は、307mm×480mm×185mm、重量は7.4kgであった。ロッカーアームサスペンションと磁気球形車輪の組み合わせが、本明細書で説明する表面適応性を達成するために示された。車両は4つの車輪を備えていた。各車輪は、2つの半球状のアルミニウムシェル、磁石ホルダー、およびアクチュエータからなっていた。シェルの厚さは2mm、外径は127mm、外面は、車輪と壁との間に十分な摩擦を得るためにエチレン酢酸ビニル(EVA)がコーティングされていた。DCウォームギアモータがシェルに直接接続されていた。ウォームギアモータのセルフロック機能が、電源喪失時に車両が壁から落下するのを防ぐために選択された。ネオジム磁石を備えた磁石ホルダーはシェルの内側に位置し、車輪の回転軸に沿ってシャフトに固定されていた。このシャフトは、サーボモータに直結され、ベアリングを使用することで車輪シェルの動きから分離されていた。また、磁石ホルダーとシェルの内面との間のギャップ長は0.5mmであった。したがって、シャフトに取り付けられた磁石ホルダーは車輪とは独立して回転することができた。磁石ホルダーの向きはサーボモータを使用することによって能動的に変えることができ、それは、車両が磁石ホルダーを回転させることによって両の磁力のオンおよびオフすること並びに方向を変えることを可能にした。サーボモータへの電源が切られると、サーボモータはバックドライブ可能になり、磁石ホルダーは、磁力を最大化する方向に受動的に回転できた。磁石ホルダーはまた、サーボモータシャフトに垂直な別の回転軸を備えていた。この軸は、磁石ホルダーは受動的に移動してその方向を壁面に対して垂直にすることができるように、自由回転ジョイントであった。この第2の軸は、接触面が車輪の回転軸と平行でない場合に使用された。第2の軸の自由回転ジョイントにより、磁石ホルダーは、重力のために、下に下がり(fall down)、車輪シェルの側壁に接触することができた。このような磁石ホルダーと車輪シェルとの間の接触は、磁石/車輪がスムーズに回転することを時折妨げることがあった。この機械的接触を避けるために、下部フレーム部分に小さいスチールプレート(60mm×20mm×4mm)が置かれた。磁石ホルダーは、初期位置に近づくときにプレートに引きつけられ、それが下に下がることを防いだ。
【0063】
プロトタイプの磁気吸引力は、車両が垂直壁上にある(例えば、
図10Fを参照)ときの力のバランスとモーメントのバランスの静的解析によって推定された。車輪F
momentで必要な磁力は以下のように求められた:
【数1】
ここで、l
1は重心と壁面との間の距離、l
2は前輪と後輪との間の距離、mは車両の質量、gは重力加速度である。力のバランスから、必要な磁力F
forceは次のように求められた:
【数2】
ここで、μは車輪と壁の間の摩擦係数である。
【0064】
この計算では、車両重量を8.0kg、車輪とスチール壁との間の摩擦係数を0.5と仮定した。l1は101.3mm、l2は180mmである。これらの値を用いると、FmomentとFforceはそれぞれ22.1Nと32.7Nであることがわかった。Fmoment<Fforceのため、32.7Nを基準磁力とした。安全率2を使用すると、望ましい磁気力は65.4Nであることが示された。65.4Nより強い力を生成できる磁石構成を見つけるために、Femtetを使用した有限要素法(FEM)シミュレーションが用いられた。ホルダー内に置かれハルバッハ配列を形成するN52ネオジム磁石(15mm×15mm×15mm)が所望の力を発生させるのに十分であることが分かった。また、磁気吸引力に及ぼす影響について、EVAスキン厚さが評価された。スキン厚さ1.5mmでの磁力は63.6Nであった;したがって、この特定の例におけるEVAスキン厚さは、望ましくは1.5mmより薄いことが示された。スキン厚さが3mmの場合、磁力は46.2Nであり、安全率は1.4に低下する。FEMシミュレーションでは、一般的な工場の要件に基づいて、車両が引き付けられるスチールプレートの厚さは6mmであった。
【0065】
例:プロトタイプ車両の性能
【0066】
車両のクライミング能力が、いくつかの異なる状況でテストされた。以下のテストでは、車両はゲームパッドを使用して遠隔操作Sare、12Vの電力が外部電源から供給された。
図9~12を参照して説明した方法がテストされ、車両は方法を正常に実行した。複雑な面に対応する車輪の能力もテストされた。2DOF回転機構をテストするために、スチールパイプが凸壁として使用された。パイプの外径は406.4mm、厚さは7.9mmであった。車両は、面に沿って直線で移動することができ、壁の形状は均一であると考えられた。壁の形状が動的に変化し、車両がロッカーアームサスペンションと2DOF回転磁石を十分に発揮しなければならない状況を作り出すために、旋回運動が凸壁でテストされた。タスク中、4つの車輪はパイプ表面にしっかりと取り付けられ、車両は、スムーズな移動を行った。この結果は、車両が不均一な湾曲面上を確実に移動できることを示した。車両はロッカーサスペンション機構を有しているため、車両はまた地面の上の小さな物体を登ることができることも示された。車両が通過することが示された物体の最大高さは、50mmであり、複数の50mmの物体を同時に含んでいた。
【0067】
プロトタイプ車両のペイロード能力もテストされた。車両は4kgの重りプレートを支えることができ、これは車両が垂直壁にあるときの最大ペイロードであった。ペイロードが4kgより重い場合、車両は壁を滑り落ちた。車両が天井にあるときの最大ペイロードは12kgであった。これら2つのペイロード値から実際の磁力および摩擦係数を推定された。推定された磁力は47.6Nであり、摩擦係数は0.6であった。車輪上のEVAスキンの厚さは約2mmから3mmであった。
【0068】
平坦な床、垂直平坦壁、垂直凸壁での車両の走行速度が測定された。測定では、外部定電圧電源が車輪を駆動するために使用された。電源は2つの出力チャネルを有する;したがって、2つのDCウォームギアモータが1つのチャンネルに接続された。出力電圧は12Vに設定され、電流制限は2つの車輪で3Aであった。DCウォームギアモータの仕様から、無負荷の回転速度は16rpmであり、直径127mmの車輪を使用した車両の移動速度は10.6cm/sであると推定された。測定結果を表1にまとめる。車両が平坦な床の上にあるとき、移動速度はモータ仕様で与えられるものと同じ10.7cm/sであった。車両は壁を登る間に車重を支える必要があるため、移動足とは、地面の上のものよりも遅くなった。車両が下がるとき、車両は、その重さを利用してそれ自身を加速することができ、速度は速くなる。凸壁を昇り降りする速度は、車輪の有効半径が凸面で短くなるため、平坦な床での速度よりも遅くなる。
【表1】
【0069】
本教示は、様々な実施形態および例と併せて説明されているが、本教示はそのような実施形態または例に限定されることを意図していない。それどころか、本教示は、当業者には理解されるように、さまざまな代替形態、修正形態、および均等物を含んでいる。したがって、上記の説明および図面は単なる例である。