IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧 ▶ 東北特殊鋼株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-荷重センサおよび荷重検出装置 図1
  • 特許-荷重センサおよび荷重検出装置 図2
  • 特許-荷重センサおよび荷重検出装置 図3
  • 特許-荷重センサおよび荷重検出装置 図4
  • 特許-荷重センサおよび荷重検出装置 図5
  • 特許-荷重センサおよび荷重検出装置 図6
  • 特許-荷重センサおよび荷重検出装置 図7
  • 特許-荷重センサおよび荷重検出装置 図8
  • 特許-荷重センサおよび荷重検出装置 図9
  • 特許-荷重センサおよび荷重検出装置 図10
  • 特許-荷重センサおよび荷重検出装置 図11
  • 特許-荷重センサおよび荷重検出装置 図12
  • 特許-荷重センサおよび荷重検出装置 図13
  • 特許-荷重センサおよび荷重検出装置 図14
  • 特許-荷重センサおよび荷重検出装置 図15
  • 特許-荷重センサおよび荷重検出装置 図16
  • 特許-荷重センサおよび荷重検出装置 図17
  • 特許-荷重センサおよび荷重検出装置 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】荷重センサおよび荷重検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/12 20060101AFI20240521BHJP
   G01L 1/10 20060101ALI20240521BHJP
   G01N 5/02 20060101ALI20240521BHJP
   B06B 1/06 20060101ALI20240521BHJP
   B06B 1/08 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
G01L1/12
G01L1/10 A
G01N5/02 A
B06B1/06 Z
B06B1/08 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023506967
(86)(22)【出願日】2022-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2022009375
(87)【国際公開番号】W WO2022196391
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2021041320
(32)【優先日】2021-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・ウェブサイトのアドレス:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adma.202005448 ウェブサイトの掲載日:令和2年11月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000222048
【氏名又は名称】東北特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(72)【発明者】
【氏名】成田 史生
(72)【発明者】
【氏名】井上 久美
(72)【発明者】
【氏名】栗田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】長名 シオン
(72)【発明者】
【氏名】シティ マストゥラ ビンティ ファクルッディン
(72)【発明者】
【氏名】宮本 直人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 将仁
(72)【発明者】
【氏名】千葉 大喜
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】田山 厳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武信
(72)【発明者】
【氏名】江幡 貴司
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-236607(JP,A)
【文献】特表2013-520992(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230154(WO,A1)
【文献】特開昭61-292039(JP,A)
【文献】特開2011-017605(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0089515(US,A1)
【文献】NARITA, Fumio et al.,A Review of Piezoelectric and Magnetostrictive Biosensor Materials for Detection of COVID-19 and Other Viruses,Advanced Materials,ドイツ,Wiley-VCH GmbH,2021年01月07日,Vol. 33, Issue 1, 2005448,p. 1-24, 図5, 7, 15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/10
G01L 1/12
B06B 1/06
B06B 1/08
G01N 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振可能な磁歪素子または圧電素子を有する振動部と、
前記振動部の振動による前記磁歪素子の逆磁歪効果または前記圧電素子の圧電効果で誘導電流または誘導電圧を発生するピックアップと、
前記振動部に設けられた物質吸着体とを、
有することを特徴とする荷重センサ。
【請求項2】
前記物質吸着体はウイルスまたは細菌の抗体から成ることを特徴とする請求項1記載の荷重センサ。
【請求項3】
前記振動部は前記物質吸着体により少なくとも一部が覆われていることを特徴とする請求項2記載の荷重センサ。
【請求項4】
共振可能な磁歪素子または圧電素子を有する2つの振動部と、
前記振動部の振動による前記磁歪素子の逆磁歪効果または前記圧電素子の圧電効果で誘導電流または誘導電圧を発生する2つのピックアップと、
前記振動部の一方に設けられた物質吸着体とを、
有することを特徴とする荷重センサ。
【請求項5】
前記ピックアップは前記振動部を内部に配置したコイルから成ることを、特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の荷重センサ。
【請求項6】
前記物質吸着体はCD13抗体から成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の荷重センサ。
【請求項7】
前記振動部は前記磁歪素子と軟磁性体とを接合して成ることを、特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の荷重センサ。
【請求項8】
前記磁歪素子は板状のFe-Co系合金から成り、前記軟磁性体は板状のNi-0~20質量%Fe系合金またはNi-Co系合金から成り、前記振動部は前記磁歪素子と前記軟磁性体とのクラッド板から成り、片持ち梁状に一端が支持される構成を有していることを、特徴とする請求項7記載の荷重センサ。
【請求項9】
前記物質吸着体はCD13抗体から成ることを特徴とする請求項8記載の荷重センサ。
【請求項10】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の荷重センサと、前記振動部を共振させる共振発生装置と、前記ピックアップの誘導起電力の変化を検出する電圧検出部とを、有することを特徴とする荷重検出装置。
【請求項11】
前記共振発生装置は振動機から成ることを、特徴とする請求項10記載の荷重検出装置。
【請求項12】
前記共振発生装置は前記振動部に交流磁界を印加する交流磁界発生装置または交流電圧を印加する圧電材料から成ることを、特徴とする請求項10記載の荷重検出装置。
【請求項13】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の荷重センサと、前記振動部を共振させる共振発生装置と、前記ピックアップの誘導電流または誘導電圧により前記振動部の共振周波数に関する信号を無線送信する無線情報送信部とを有することを、特徴とする荷重検出装置。
【請求項14】
前記無線情報送信部は、前記ピックアップの誘導起電力による交流電圧を直流電圧に変換する整流回路と、前記整流回路が出力する電荷を蓄積するコンデンサと、前記コンデンサが蓄積する静電エネルギーが1回の無線情報送信に必要なエネルギー以上のときに前記静電エネルギーにより無線送信する無線情報送信回路とを有することを、特徴とする請求項13記載の荷重検出装置。
【請求項15】
前記物質吸着体はCD13抗体から成ることを特徴とする請求項14記載の荷重検出装置。
【請求項16】
前記荷重センサにバイアス磁場を印加する磁石を有することを特徴とする請求項14記載の荷重検出装置。
【請求項17】
前記無線情報送信回路から無線情報を受信する無線情報受信回路と、前記無線情報受信回路の受信間隔を検出する検出手段とを有することを、特徴とする請求項14記載の荷重検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス、細菌またはその他の物質を検出するための荷重センサおよび荷重検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、荷重が付加された際に応力が増加して透磁率が増加しまたは減少する磁歪素子と、荷重が付加された際に応力が減少して透磁率が減少しまたは増加する磁歪素子とで荷重を受け、磁歪素子に荷重が付加された際の各磁歪素子の透磁率変化を各々電磁的ピックアップで検知し、電磁的ピックアップでのインダクタンスの差により荷重を検出する荷重センサが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-241920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の荷重センサでは、ウイルスや細菌のような微小な物質の重量は検出しにくいという課題があった。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、ウイルスや細菌のような微小な物質の重量も検出可能な荷重センサおよび荷重検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る荷重センサは、共振可能な磁歪素子または圧電素子を有する振動部と、前記振動部の振動による前記磁歪素子の逆磁歪効果または前記圧電素子の圧電効果で誘導電流または誘導電圧を発生するピックアップと、前記振動部に設けられた物質吸着体とを、有することを特徴とする。
本発明に係る荷重センサでは、振動部を共振させたとき物質吸着体に物質が吸着して重量が増加すると、振動部の共振周波数が減少し、ピックアップの誘導起電力が低下する。その誘導起電力の変化を検出することにより、物質吸着体に吸着した物質の重量を検出することができる。ウイルスや細菌のような微小な物質の存在も検出可能である。振動部が振動することにより、物質吸着体も振動して物質を吸着させやすくなる。物質吸着体は、物理吸着により吸着させるものでも、化学吸着により吸着させるものでもよい。
【0007】
前記物質吸着体はウイルスまたは細菌の抗体から成ってもよい。この場合、抗体に応じたウイルスまたは細菌を検出することができる。
前記振動部は前記物質吸着体により少なくとも一部が覆われていることが好ましい。この場合、物質吸着体に物質を吸着させやすい。
前記ピックアップは前記振動部を内部に配置したコイルから成ることが好ましい。この場合、振動部の共振周波数の減少による誘導起電力の低下を容易に検出することができる。
前記振動部は前記磁歪素子と軟磁性体とを接合して成ることが好ましい。この場合、磁歪素子の逆磁歪効果が大きく、ピックアップに誘導電流を効率よく発生させることができる。
前記物質吸着体は、CD13抗体から成ってもよい。この場合、ヒトコロナウイルスHCoV-229Eを検出することができる。
【0008】
前記磁歪素子は板状のFe-Co系合金から成り、前記軟磁性体は板状のNi-0~20質量%Fe系合金またはNi-Co系合金から成り、前記振動部は前記磁歪素子と前記軟磁性体とのクラッド板から成り、片持ち梁状に一端が支持される構成を有していることが好ましい。
この場合、ウイルスや細菌のような微小な物質の荷重を検出するのに効果的である。
本発明に係る荷重センサは、空気中のほか、水中、真空中などの環境で使用されてもよい。
【0009】
本発明に係る荷重検出装置は、前述の荷重センサと、前記振動部を共振させる共振発生装置と、前記ピックアップの誘導起電力の変化を検出する電圧検出部とを、有することを特徴とする。
前記共振発生装置は、例えば振動機から成る。前記共振発生装置は、前記振動部に交流磁界を印加する交流磁界発生装置または交流電圧を印加する圧電材料から成ってもよい。
【0010】
本発明に係る荷重検出装置では、本発明に係る荷重センサを用いて共振発生装置により振動部を共振させ、電圧検出部でピックアップの誘導起電力の変化を検出することにより、物質吸着体に吸着した物質の重量を検出することができる。本発明に係る荷重検出装置は、重量を数値的に検出するものに限られず、重量の変化により物質の存在を検出するものも含まれる。
【0011】
本発明に係る荷重検出装置は、前述の荷重センサと、前記振動部を共振させる共振発生装置と、前記ピックアップが発電する電磁誘導エネルギーにより前記振動部の共振周波数に関する信号を無線送信する無線情報送信部とを有していてもよい。
この場合、物質吸着体に物質が吸着して重量が増加すると、振動部の共振周波数が減少する。その共振周波数の変化を信号として前記電磁誘導エネルギーにより前記無線情報送信部から無線送信する。これにより物質吸着体に吸着した物質の重量を検出することができる。
【0012】
前記無線情報送信部は、前記ピックアップの誘導起電力による交流電圧を直流電圧に変換する整流回路と、前記整流回路が出力する電荷を蓄積するコンデンサと、前記コンデンサが蓄積する静電エネルギーが1回の無線情報送信に必要なエネルギー以上のときに前記静電エネルギーにより無線送信する無線情報送信回路とを有することが好ましい。
この場合、物質吸着体に物質が吸着して重量が増加すると、ピックアップの誘導起電力が低下し、前記コンデンサが電荷を蓄積する速度が低下する。このため、無線情報送信回路の送信間隔が変化し、その変化を検出することにより物質吸着体に吸着した物質の重量を検出することができる。
【0013】
前記荷重センサにバイアス磁場を印加する磁石を有していてもよい。
この場合、前記ピックアップの発電量が増大し、前記無線情報送信回路の前記無線通信の送信間隔を短くする、あるいは送信距離を延ばす、あるいはセンサ情報を増やすことができる。
本発明に係る荷重検出装置は、さらに、前記無線情報送信回路から無線情報を受信する無線情報受信回路と、前記無線情報受信回路の受信間隔を検出する検出手段とを有していてもよい。
この場合、検出手段が検出した受信間隔の変化から物質吸着体に吸着した物質の重量を検出することができる。
本発明に係る荷重センサは、共振可能な磁歪素子または圧電素子を有する2つの振動部と、前記振動部の振動による前記磁歪素子の逆磁歪効果または前記圧電素子の圧電効果で誘導電流または誘導電圧を発生する2つのピックアップと、前記振動部の一方に設けられた物質吸着体とを、有していてもよい。
この場合、2つの振動部を同時に振動させ、各ピックアップの誘導起電力の変化を比較することにより、物質吸着体への物質の吸着を検出することができる。特に、物質吸着体がCD13抗体から成るとき、振動部が常に同じ周波数で振動するとは限らない自然界の振動中でもコロナウイルスを検出可能になるため、効果的である。
【0014】
本発明に係る荷重センサは、振動体に取り付けて好適に使用される。振動体は、振動するものであればいかなるものであってもよいが、ピックアップに誘導電流を効率良く発生させるために、振動部の振動方向に振動し、振動部の固有振動数を含むほぼ一定の周波数で振動するものが好ましい。振動体は、例えば、ポンプやモーターなどの産業用機械などである。なお、振動部は、例えば、軟磁性体と磁歪素子とを接合したものを複合型磁歪素子として大量生産し、その複合型磁歪素子から所望の部品形状に切り出して形成してもよい。
【0015】
本発明に係る荷重センサで、前記磁歪素子は、Fe-Co系合金またはFe-Al系合金から成ることが好ましい。この場合、比較的安価なFe-Co系合金またはFe-Al系合金に圧延加工や熱処理を施すことにより、逆磁歪効果が大きい磁歪素子を容易に製造することができる。また、これらの磁歪素子は、加工性が良く、切削加工や曲げ加工などの塑性加工が容易であるため、容易に任意の形状にすることができる。
【0016】
軟磁性体は、例えば、純鉄やPBパーマロイに代表されるFe-Ni系合金、ケイ素鋼、電磁ステンレス鋼などから成る。軟磁性体は、保磁力が8A/cm以下であることが好ましく、3A/cmであることが特に好ましい。軟磁性体は、前記磁歪素子の磁歪とは異なる符号の磁歪を有する磁歪素子から成っていてもよい。これらの材料として、例えば、前記軟磁性体および前記磁歪素子のいずれか一方が、正の磁歪を有するFe-Co系合金またはFe-Al系合金から成り、他方が、負の磁歪を有するNi-0~20質量%Fe系合金またはNi-Co系合金から成っていてもよい。この場合、振動によって同時に発生する圧縮応力および引張応力による逆磁歪効果を利用し、ピックアップに誘導電流を効率よく発生させることができる。
【0017】
前記軟磁性体と前記磁歪素子とは、熱拡散接合,熱間圧延加工、熱間引抜加工、接着剤または溶接など、いかなる方法により接合されていてもよい。特に、熱拡散接合、熱間圧延加工または熱間引抜加工により接合されている場合、高温で接合して冷却した後の残留応力により、磁歪素子の磁壁移動が容易になり、磁化変化が促進されるため、ピックアップに誘導電流を効率よく発生させることができる。
【0018】
前記軟磁性体と前記磁歪素子とは、負荷を加えた状態で接合されていてもよい。この場合、接合後に負荷を解除したときの残留応力により、磁歪素子の磁壁移動が容易になり、磁化変化が促進されるため、ピックアップに誘導電流を効率よく発生させることができる。
【0019】
前記振動部は、振動したときに応力集中する部分を1箇所以上有していてもよい。この場合、振動時の応力集中部付近の磁束密度の変化を大きくすることができ、応力集中する位置とピックアップの位置とを調整することにより、ピックアップの誘導電流の発生効率を高めることができる。応力集中する部分は、例えば、振動部の長さ方向に沿って断面形状を変化させることにより、形成することができる。
【0020】
振動部は、軟磁性体以外の固体、例えばステンレス、木材などと磁歪素子とを熱拡散接合,熱間圧延加工または熱間引抜加工により接合して成っていてもよい。振動部は、固体と磁歪素子とを、負荷を加えた状態で接着剤または溶接により接合して成っていてもよい。これらの場合、軟磁性体を使用したときに比べて劣ったとしても、残留応力により磁歪素子の磁壁移動が容易になり、磁化変化が促進されるため、ピックアップに誘導電流を効率よく発生させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ウイルスや細菌のような微小な物質の重量も検出可能な荷重センサおよび荷重検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態の荷重検出装置を示す概略図である。
図2】本発明の実施の形態の荷重センサを示す概略図である。
図3図2に示す荷重検出装置により測定された振動部の共振周波数とピックアップの誘導起電力(出力電圧)との関係を示すグラフである。
図4図2に示す荷重検出装置により測定された振動部の周波数シフトと物質吸着体の重量との関係を示すグラフである。
図5図2に示す荷重検出装置により測定されたピックアップの誘導起電力(出力電圧)と物質吸着体の重量との関係を示すグラフである。
図6図2に示す荷重検出装置により検出中の振動部の共振周波数とピックアップの誘導起電力(出力電圧)との関係を示すグラフである。
図7】模擬ウイルスに用いたシリカ粒子の吸着方法の説明図である。
図8図2に示す荷重検出装置による模擬ウイルスに用いたシリカ粒子の検出実験結果を示すグラフである。
図9図2に示す荷重検出装置による模擬ウイルスに用いたシリカ粒子を吸着させた物質吸着体の(A)表面の顕微鏡写真および(B)裏面の顕微鏡写真である。
図10】本発明の実施例4の荷重検出装置の構成を示す概略図である。
図11】本発明の実施例5の荷重検出装置の構成を示す概略図である。
図12】本発明の実施例5の荷重検出装置で用いた振動部の生体機能化の処理工程を示す概略図である。
図13】本発明の実施例5の荷重検出装置の(a)センシングテストのセットアップ状態を示す概略図、(b)センシングテスト後の振動部の処理工程を示す概略図である。
図14】本発明の実施例5の荷重検出装置の(a)振動部の出力電圧を示すグラフ、(b)振動部の出力電力と負荷抵抗の関係を示すグラフである。
図15】本発明の実施例5の荷重検出装置の(a)振動部にバイアス磁場がない場合のコンデンサに蓄積された直流(DC)電圧と時間との関係を示すグラフ、(b)振動部にバイアス磁場がある場合のコンデンサに蓄積された直流(DC)電圧と時間との関係を示すグラフである。
図16】(a)HCoV-229Eウイルスの1時間のインキュベーション後の蛍光画像と、ウイルスなしの蛍光画像と、PBSおよびBSA処理後の蛍光画像、(b)HCoV-229Eウイルスの24時間のインキュベーション後の蛍光画像と、ウイルスなしの蛍光画像と、PBSおよびBSA処理後の蛍光画像、(c)条件ごとの補正した全蛍光を示すグラフである。
図17】本発明の実施例5の荷重検出装置の、HCoV-229Eウイルスの1時間のインキュベーション前後の周波数と出力電圧との関係を示すグラフである。
図18】(a)CD13を固定化した振動部を、HCoV-229Eウイルスを含まない溶液中で1時間インキュベートした後の蛍光画像と、HCoV-229Eウイルスを含む溶液中で1時間インキュベートした後の蛍光画像、(b)各条件の補正した全蛍光を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1に示すように、荷重検出装置は、共振発生装置1と荷重センサ2とデータロガー3とコンピュータ4とを有している。
共振発生装置1は、振動機から成る。共振発生装置1は、パワーアンプ11を介してファンクションジェネレータ12に接続されている。ファンクションジェネレータ12は振幅が一定の任意の周波数の正弦波信号を出力し、パワーアンプ11が増幅した信号を共振発生装置1に出力する。共振発生装置1は、その増幅信号を入力して一定の振幅で振動するようになっている。
【0024】
図2に示すように、荷重センサ2は、振動部21とピックアップ22と物質吸着体23とを有している。
振動部21は、細長い長方形板状の磁歪体と同一形状の軟磁性体とを、平面全体を重ね合わせて接合したクラッド板から成っている。振動部21は、エナジーハーベスト機能を備えている。軟磁性体は、例えば、Ni-0~20質量%Fe系合金(純Niを含む)、Ni-Co系合金または純鉄など、磁歪素子とは異なる種類の磁性材料から成っている。磁歪素子は、例えば、Fe-Co系合金またはFe-Al系合金から成っている。なお、振動部21は、圧電素子から成っていてもよい。
【0025】
振動部21は、片持ち梁状に一端が共振発生装置1に取り付けられて支持されている。振動部21は、共振発生装置1の振動と共振可能である。
ピックアップ22は、振動部21を内部に配置したコイルから成り、振動部21の振動による磁歪素子の逆磁歪効果で誘導電流を発生するようになっている。物質吸着体23は、ウイルスまたは細菌の抗体から成り、振動部21の自由端側を覆って振動部21に取り付けられている。物質吸着体23の大きさと取付け位置は、適宜、設定可能である。
データロガー3およびコンピュータ4は、ピックアップ22の誘導起電力(出力電圧)の変化を検出する電圧検出部を構成する。データロガー3は、ピックアップ22の誘導起電力のデータを保存し、コンピュータ4に送信する。コンピュータ4は、データロガー3からのデータに基づき、ピックアップ22の誘導起電力の変化を検出する。
【0026】
次に作用について説明する。
荷重検出装置において、ファンクションジェネレータ12から振幅が一定の任意の周波数の正弦波信号を出力し、パワーアンプ11により増幅した信号を共振発生装置1に出力する。共振発生装置1は、その増幅信号を入力して一定の振幅で振動する。共振発生装置1の振動により振動部21が共振することにより、物質吸着体23も振動して物質を吸着させやすくなる。荷重センサ2の物質吸着体23にウイルスなどの物質が吸着して重量(荷重)が増加すると、振動部21の共振周波数が減少し、ピックアップ22の誘導起電力(出力電圧)が変化する。
【0027】
データロガー3がピックアップ22の誘導起電力のデータを保存し、コンピュータ4がデータロガー3からのデータに基づき、ピックアップ22の誘導起電力の変化を検出する。その誘導起電力の変化を検出することにより、物質吸着体23に吸着した物質の重量を検出することができる。磁歪素子および振動部21の最適設計により、マイクログラムオーダーまたはナノグラムオーダーの重量を検出可能である。また、抗体に応じたウイルスまたは細菌を検出することができ、ウイルスや細菌のような微小な物質の存在も検出可能である。抗体に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-2)の抗体を用いて、SARS-CoV-2の検出も可能である。
【実施例1】
【0028】
振動部となる長さ50mm、幅5mm、厚さ0.2mmのFe-Co/Niクラッド板カンチレバーの自由端側に、質量1、2、4、7、10mgのプルーフマス(錘)をそれぞれ取り付けたものと、プルーフマスを取り付けないものとを準備した。プルーフマスには、紙製のマスキングテープを用いた。実施例では、マスキングテープの粘着剤が物質吸着体を構成している。巻数が約4200、コイル抵抗が7.47kΩのピックアップコイルを準備して基台に取り付け、振動部の振動により誘導電流を発生するよう振動部をその内部に配置した。振動機に振動部を自由長が33mmとなるよう取り付け、振動機で強制変位振動を加えた。誘導起電力(出力電圧)Vppを、データロガー(Keyence NR-500、Keyence Co.、Japan)によってサンプリング周期100μsで記録した。
その結果を図3図5に示す。
【0029】
図3に示すように、プルーフマスのない振動部の共振周波数は約107.1Hzであった。プルーフマスの重量が増加すると、共振周波数が減少し、最大誘導起電力(最大出力電圧)がわずかに増加した。図4は、プルーフマスによる周波数シフトとプルーフマスの重量および対応する表面応力の関係を示す。周波数シフトが重量または応力の増加に伴って直線的に減少することがわかる。1mgの重量増加により、周波数が約0.75Hz減少した。
【0030】
図5は、誘導起電力(出力電圧)とプルーフマスの重量および対応する表面応力の関係を示す。誘導起電力は、1mgの重量で約12mV減少した。
得られた結果から、荷重検出装置によりプルーフマスの重量を検出できることが確認できた。特に、誘導起電力の12mVの変化から約1mgの重量を検出できることがわかった。磁歪素子の誘導起電力は、コイルの巻数に比例して増加する。したがって、コイルの巻数を増やすことによって、より小さい重量を検出可能である。
【実施例2】
【0031】
荷重検出装置を磁歪バイオセンサとして使用する場合、実施例1の構成でプルーマスを使用せず、振動部のカンチレバーの表面を生体分子認識素子で覆っておく。生体分子認識素子には、抗体を用いることができる。振動部に交流(AC)磁界を印加すると、磁歪効果により屈曲振動を起こし、物理的な共振を示す。図6に示すように、振動部の表面に固定化された抗体に抗原が結合すると、抗原結合のない振動部の基本共振周波数f0はf1に低下する。この共振周波数のシフトは、ピックアップコイルを使用して監視できる。
【0032】
振動部は曲げ振動エネルギーハーベスティングデバイスとして機能し、抗体に抗原の吸着がない場合、収集された電力はいつでもビッグデータにエアコンディションを送ることができる。特に、曲げ振動を受けるエネルギーハーベスティング用の振動部は、交流磁界を必要とせずにバイオセンサの役割を果たす。センサを駆動してデータを通信するには、数μW~mWの電力が必要である。多数のセンサにバッテリーを使用する場合、環境、リソース、コストの面で非常に大きな社会問題になる。このため、自然環境に広く存在する未利用エネルギー(振動、熱、光、電波など)から電力を回収するエネルギーハーベスティングが注目されている。また、センサ駆動やデータ通信用の電力としての活用も期待されている。荷重検出装置は、共振現象を利用したセルフパワーウイルスセンサとして使用可能である。
【実施例3】
【0033】
実施例1の構成の荷重検出装置で模擬ウイルスの検出実験を行った。模擬ウイルスとしてシリカ粒子を用いた。振動部に金表面を有する試験片を取り付け、シリカ粒子吸着方法によりシリカ粒子を検出した。シリカ粒子吸着方法では、図7に示すように、試験片の金表面に10mMの11-メルカプトウンデカン酸(11-MUA)エタノール溶液を窒素ガス雰囲気下、室温で一晩反応させ、エタノールですすぎ、共振周波数を測定した。
次に、0.15MのEDCと0.05Mのスルホ-NHSのMES緩衝液(pH5.5)溶液を室温で4時間反応させ、MES緩衝液ですすいで試験片表面を活性化させた。1μm、50mg/mLのシリカ粒子を12時間反応させ、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)ですすぎ、共振周波数を測定した。
【0034】
その結果を図8に示す。図8に示すように、反応後、反応前に比べて共振周波数が85.0Hzから83.7Hzに変化した。誘導起電力(出力電圧)は、85Hzで1.276Vから0.975Vに変化し、300mV減少した。このことから、シリカ粒子の付着が検出された。図9に示す顕微鏡観察結果からも、シリカ粒子を確認することができた。
【実施例4】
【0035】
鉄(Fe)とコバルト(Co)の粉末を高周波誘導真空溶解炉で溶解し、鋳造した。製造されたインゴットは、スラブに熱間鍛造された。その後、熱間および冷間圧延により厚さ0.1mmの板状にスラブを加工し、圧延板を切断した。厚さ0.1mmのニッケル(Ni)板もFe-Co合金板と同じ手順で作製した。正の磁歪特性を有するFe-Co板と負の磁歪特性を有するNi板とを拡散結合させてクラッド板を形成した。厚さ0.2mmのFe-Co/Niクラッド板を所定の形状に切断した。
【0036】
作製した厚さ0.2mm、幅5mmのFe-Co/Niクラッド板の一端を、図10に示すように振動振とう機(ET-132、Labworks Inc.、USA)に取り付けた。自由長は34mmであった。曲げ振動は、関数発生器(33250A、AgilentTechnologies、日本)とパワーアンプ(PA-151、Labworks Inc、米国)によって駆動されるシェーカーで行った。Fe-Co/Niクラッド板を28000ターン、抵抗11.7キロオームのピックアップコイルで囲み、データロガー(NR-500、キーエンス、日本)を用いてクラッド板の出力電圧Voutをモニターした。シェーカーの振幅Aは周波数fとともに変化するが、加えられた加速度a=A(2πf)=170m/secであった。次に、クラッド板からの出力電力Poutを、共振周波数での出力電圧Voutと負荷抵抗Rを使用して評価した。
【実施例5】
【0037】
図11にエネルギー貯蔵と無線通信システムの概略図を示す。振動部には、実施例4と同じFe-Co/Niクラッド板を使用した。無線情報送信部は、直流(DC)電圧2.0Vで信号を伝送する回路から成り、クラッド板に接続されている。コンデンサの容量は1000μFである。曲げ振動によりFe-C/Niクラッド板で発生した交流電圧を直流電圧に変換し、コンデンサに蓄積する整流回路がクラッド板と無線情報送信部との間に接続されている。コンデンサが蓄積する直流電圧を電圧計で測定した。また、受信した信号とその時刻をパソコンに記録した。バイアス磁場が0および10mTのときに実験を行った。バイアス磁場には、ネオジム磁石が用いられた。
【0038】
実験には、ヒトコロナウイルス229E(HCoV-229E)を用いた。精製キットには、レトロウイルス精製ミニキット(商品名「ViraTrap」、Cat.V1172-02、Biomiga Inc.)を使用した。HCoV-229E検出テストの前に、Fe-Co/Niクラッド板の質量検出性能を調査するため、疑似ウイルス粒子を検出する実験を試みた。
【0039】
CD13/アミノペプチダーゼN(APN)は、膜ペプチダーゼである150~160kDAのII型糖タンパク質である。複数の機能を持つ、広く発現している外部酵素(複数の細胞表面に10.5nm伸びる二量体として発現)である。CD13は、ペプチドからN末端アミノ酸を切断し、ペプチドの不活性化または分解を誘発し、急性骨髄性白血病のバイオマーカーであり、腫瘍浸潤に関与する。また、HCoV-229Eスパイク糖タンパク質結合の受容体としても機能し、細胞への侵入と感染を開始する。HCoV-229Eの受容体結合ドメインは、以前と比較してより高い結合親和性を持つように進化した(~440nmから~30nm)。CD13は、細胞ベースのアッセイでHCoV-229Eの受容体として、またはHCoV-229Eスパイクタンパク質の受容体としてよく使用されるが、CD13のみを使用してHCoV-229E自体のバイオ受容体として機能させる方法は新規な方法である。
【0040】
CD13をHCoV-229Eの新規生体認識層として使用し、このキャプチャー法の実行可能性は、蛍光顕微鏡とアミノシラン処理スライドガラスを使用して最初に確認された(グルタルアルデヒド架橋法を使用してCD13をスライドガラス表面に固定した)。蛍光色素(商標「Alexa Fluor 488」)標識抗Hisタグ抗体を蛍光標識として使用し、Hisタグ付きCD13修飾スライドガラス表面に結合させた。ウイルスによる立体障害は、蛍光標識の結合を妨げる。これは、蛍光シグナルの減少がウイルス結合の成功を示していることを意味する。
図12にFe-Co/Ni被覆板の生体機能化の概略図を示す。長さ30mm、幅5mm、厚さ0.2mmのクラッド板の両面に金(Au)フィルムでスパッタし、生体機能化を促進し、表面の錆びを防止した。次に、Fe-Co/Niで覆われた板を、Milli-Q、アセトン、イソプロパノール、99.5%エタノールの順に浸漬して洗浄した。
【0041】
Fe-Co/Ni被覆板を、アルミニウムで覆った2mL試験管内の10mM 11-メルカプトウンデカン酸(11-MUA、エタノール中2mL、Sigma-Aldrich製)に室温(RT)で一晩浸した。11-MUAは、表面に-COOH基を持つ自己組織化単分子膜(SAM)を形成した。Fe-Co/Niで覆われた板は、最初にエタノールで、次にMES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)緩衝液(pH5.5)ですすがれた。次に、MES緩衝液(pH5.5)中の40mM EDC(1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド)および10mM スルホ-NHS(N-ヒドロキシスルホスクシンイミド)に浸漬した。室温で2時間、光から保護するためにAl箔で覆った。EDC/NHSは、-COOH基と反応して、アミン反応性のスルホ-NHSエステルを形成した(図12の上段を参照)。
【0042】
次に、Fe-Co/Niで覆われた板を、ウイルス検出実験のためにCD13タンパク質溶液に室温で一晩浸した。CD13(25μg/mL)も同様にMESバッファーで希釈した。Fe-Co/Niクラッド板をPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4)ですすぎ、未反応のCD13を除去した。次に、CD13で修飾されたクラッド板に、ウシ血清アルブミン(BSA)ブロッキングステップを行った(図12の下段を参照)。
【0043】
図13aにHCoV-229Eセンシングテストのセットアップを示す。実験は、曲げ振動下でFe-Co/Niクラッド板を使用して実施された。CD13は、CD13上の-NH2基とアミド結合を形成する-COOH基の自己組織化単分子膜を使用して固定化された。出力電圧と周波数を測定した。クラッド板によるHCoV-229Eセンシングの実現可能性が確認された。
【0044】
HCoV-229Eセンシングテスト後、Fe-Co/Niクラッド板の表面を、蛍光色素(商標「Alexa Fluor 488」)標識抗Hisタグ抗体(1μg/mL、PBS溶液中)とともに34℃で1時間インキュベートした(図13bを参照)。図13bでは、Au表面をPBSでリンスして未反応の抗Hisタグ抗体を除去してから、Ex:460~490nmおよびEm:510nm~用のフィルターを備えた蛍光顕微鏡(Olympus社製)で観察した。蛍光画像は、250、400または700ミリ秒の露光と通常10倍の倍率を使用して観察された。
【0045】
[結果]
図14aに115Hz~117Hzの振動エネルギーハーベスティング試験で得られたFe-Co/Niクラッド板の出力電圧(ピークツーピーク電圧Vp-p)を示す。共振周波数116Hzで、出力電圧は約8.4Vであった。図14bは、116HzでのFe-Co/Niクラッド板の出力電力と負荷抵抗の関係を示している。出力電力は、負荷抵抗Rの増加とともに増加し、R=32kΩで最大に達し、その後減少した。得られた最大電力は約0.414mW(12mW/cm3)であった。
【0046】
図15aは、コンデンサに蓄積された直流電圧と、115および116Hzのバイアス磁場がない場合のFe-Co/Niクラッド板の時間との関係を示している。蓄積される直流電圧は、時間の経過とともに増加する。共振状態(116Hz)では、蓄積される直流電圧が約670秒後に約1.9Vに達し、その後低下することがわかる。これは、信号がリモートPCにワイヤレスで送信されたためである。ここで、信号は電圧が低下した時間である。その後、再び蓄電が始まり、直流電圧が上昇する。約980秒後、蓄積される直流電圧は再び約1.9Vに達し、2回目の無線通信のために低下した。3回目の無線通信は約1270秒後であることがわかった。一方、共振周波数から外れた115Hzでは、直流電圧の回復に時間がかかり、約930秒後に最初の信号が無線で送信された。周波数が共振周波数から離れるにつれて、出力電圧のピークツーピーク電圧(Vp-p)は低くなり、直流電圧を回復するためにより多くの時間が必要になる。その結果、信号が送信される間隔が長くなる。この無線通信システムを利用することで、クラッド板は曲げ振動で得られる電力で信号を伝送でき、電池を使わずに信号の伝送間隔を監視することができる。言い換えれば、信号が無線で送信される時間間隔から、共振状態からの偏差を検出することが可能である。たとえば、Fe-Co/Niクラッド板に物質が付着すると、クラッド板の重量が変化し、共振周波数が変化する。したがって、Fe-Co/Niクラッド板は、時間間隔の情報から物質の付着を検出できる。
【0047】
図15bは、コンデンサに蓄積された直流電圧と、116Hzで10mTのバイアス磁場下でのFe-Co/Niクラッド板の時間との関係を示している。蓄積された直流電圧が上昇し、短時間で約1.9Vに達し、信号は無線で送信された。無線通信後も、蓄積された直流電圧はほとんど低下せず、約2.6Vを維持する。最初の信号は、約20秒後に送信され、その後10秒ごとに送信され続けた。ここで、無線情報送信回路の最短送信間隔は10秒に設定した。これは、1回の無線通信に必要なエネルギーが10秒以内に蓄積されたことを示している。
【0048】
CD13のAPSスライドガラスへの固定化は、受容体結合ドメインが別の場所にあるため、HCoV-229Eスパイク糖タンパク質との受容体結合能力に影響を与えてはならない。これを確認し、CD13のHCoV-229Eへの結合を評価するために、1時間および24時間のインキュベーション期間を伴う蛍光アッセイを使用した。HCoV-229EをCD13修飾APSスライドガラス上でインキュベートすることにより、疑似競合結合アッセイを適用した。次に蛍光色素(商標「Alexa Fluor 488」)標識抗Hisタグ抗体をインキュベートすると、ウイルスによる立体障害により、蛍光プローブがCD13のHisタグに結合するのを防ぐことができる。このため、ウイルスがCD13に結合すると、蛍光が減少する。
【0049】
図16にHCoV-229Eの蛍光画像と補正した全蛍光を示す。図16(c)に見られるように、ウイルスの1時間のインキュベーション後は蛍光が減少するが、24時間のインキュベーションでは減少しない。ウイルスがCD13に結合するには、1時間のインキュベーションで十分であったが、ネガティブコントロールのPBSおよびBSAのCTFが高いことからわかるように、24時間のインキュベーションでは非特異的結合の増加が誘導された。さらに、図16(a)および(b)に見られるように、蛍光画像は1時間のインキュベーションと比較して24時間で凝集した蛍光シグナルの増加を示し、より長いウイルスインキュベーション時間がCD13タンパク質の完全性に影響を及ぼし、クラスター化を誘発した可能性がある。CD13タンパク質を固定化するアミド結合は、架橋によって非常に安定している。したがって、1時間のウイルスインキュベーション期間をCD13-ウイルス結合コンフォメーションに使用した。
【0050】
ウイルスの検出は磁歪測定でテストされた。Fe-Co/Niクラッド板は、HCoV-229Eサンプル溶液中で33~34℃および4%COで1時間インキュベートする前後に測定した。144.7Hzから144.4Hzに約0.3Hzの共振周波数の大幅な低下が見られた(図17参照)。ウイルス溶液には特定の定義された濃度がなく、ウイルス力価が約3であると仮定すると、ウイルス力価あたり0.1Hzの推定周波数変化が得られた。
【0051】
次に、Fe-C0/Niクラッド板を使用したHCoV-229Eの検出は、最初に蛍光顕微鏡を使用してCD13-ウイルス結合を確認することによって実行された。2枚のCD13修飾クラッド板を、HCoV-229Eを含むまたは含まない別々のサンプル溶液中で、それぞれ33~34℃および4%COで1時間インキュベートした。蛍光色素(商標「Alexa Fluor 488」)標識抗Hisタグ抗体とさらにインキュベートした後、蛍光顕微鏡を使用してクラッド板を観察した(図18a参照)。図18bに見られるように、プロットされた結果は、ウイルスなしのインキュベーションと比較して、ウイルスとのインキュベーション後の蛍光の減少を同様に示し、ウイルスがCD13修飾クラッド板にうまく結合していることを示している。
【0052】
以上のとおり、CD13を蛍光顕微鏡と疑似競合結合アッセイ法を使用してHCoV-229Eを検出するためのバイオ受容体として使用できることが確認できた。CD13を磁歪測定用の磁歪FeCo/Niカンチレバーに適用した結果、CD13の新しい生体認識法が磁歪カンチレバーバイオセンサーでも暫定的に成功した。また、磁歪材料特有の高エネルギーハーベスティング能力を利用して、直流電圧を蓄え、その電力で無線情報を送信することに成功した。バイアス磁場を印加することにより、より多くの記憶容量があることが確認された。シリカ粒子を疑似ウイルスとして用いた実験では、濃度が高くなるにつれて共振周波数の変化量が大きくなり、ウイルスセンサーとしての適用性が確認された。HCoV-229Eを用いた実験では、反応前後の共振周波数の変化が見られ、観察結果とは明らかな違いがあった。これらを組み合わせて種々の振動を利用した環境発電を行うと同時に、ウイルスの検出や変化の発生の情報伝達も可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 共振発生装置、2 荷重センサ、3 データロガー、4 コンピュータ、11 パワーアンプ、12 ファンクションジェネレータ、21 振動部、22 ピックアップ、23 物質吸着体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18