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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】基質培養物の製造方法及び基質培養物
(51)【国際特許分類】
   C12P 1/02 20060101AFI20240521BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240521BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20240521BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20240521BHJP
   A61K 38/47 20060101ALN20240521BHJP
   C12R 1/66 20060101ALN20240521BHJP
   C12R 1/69 20060101ALN20240521BHJP
   A61K 31/716 20060101ALN20240521BHJP
   A61K 31/722 20060101ALN20240521BHJP
   A61P 37/04 20060101ALN20240521BHJP
   A61P 1/14 20060101ALN20240521BHJP
【FI】
C12P1/02 Z
C12N1/15
C12N15/56
A23K10/16
A61K38/47 ZNA
C12R1:66
C12R1:69
A61K31/716
A61K31/722
A61P37/04
A61P1/14
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019164037
(22)【出願日】2019-09-09
(65)【公開番号】P2021040512
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-04-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年10月2日にウェブサイト(https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/portal/seika/27fy.htm)において、バイオマス分解酵素の大量生産を可能とする固体培養技術の実用化開発に関する研究に係る報告書を掲載した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年6月21日付の山陽新聞朝刊第7面に、機能性飼料とその製造に使用する培養装置について紹介された記事が掲載された。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年7月3日にウェブサイト(http://www.kirari-okayama.jp/joseikai/?p=15)に掲載された記事において、麹菌の固体培養技術を応用した機能性飼料について、研究開発を行っていること、及び家畜の免疫向上効果が見込まれることを公開した。令和元年7月12日に上記のウェブサイト(http://www.kirari-okayama.jp/joseikai/?p=15)の記事を更新し、家畜の免疫向上効果が見込まれる旨を削除した記事を公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】000223931
【氏名又は名称】株式会社フジワラテクノアート
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100114535
【弁理士】
【氏名又は名称】森 寿夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075960
【弁理士】
【氏名又は名称】森 廣三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155103
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 厚
(74)【代理人】
【識別番号】100194755
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】狩山 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】森 章
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佐都子
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表平05-500907(JP,A)
【文献】特表平02-501266(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102363762(CN,A)
【文献】国際公開第2011/158623(WO,A1)
【文献】特開2004-329143(JP,A)
【文献】特開2020-184937(JP,A)
【文献】特開2007-300851(JP,A)
【文献】特開昭62-269645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
C12N 1/15
C12N 15/00-15/90
A23K 10/16
A61K 38/47
A61K 31/716
A61K 31/722
A61P 37/04
A61P 1/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飼料として用いる基質培養物の製造方法であって、
セルフクローニングによって目的の分解酵素を高生産するように育種した分解酵素高生産糸状菌を基質(醤油粕である場合を除く。)へ種付けし、
前記基質に通風して固体培養することにより、基質培養物を製造する方法であり、
前記目的の分解酵素は、アミラーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、キシラナーゼ、β-グルカナーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、ペクチナーゼ、キシラナーゼ・ペクチナーゼ複合酵素、及びセルラーゼ・プロテアーゼ・ペクチナーゼ複合酵素からなる群より選ばれる1種以上の酵素であり、
前記セルフクローニングは、前記目的の分解酵素をコードする外因性の遺伝子を宿主となる糸状菌に導入するものであり、前記外因性の遺伝子は前記宿主となる糸状菌と分類学上同一種である糸状菌に由来するものであり、
前記分解酵素高生産糸状菌は、カビ毒非生産菌であり、
前記カビ毒非生産菌は、Aspergillus oryzae、Aspergillus sojae又はAspergillus luchuensisであり、
基質に供給する空気の温度又は湿度のうち少なくともいずれか一方を調整することによって品温を制御して前記固体培養を行う基質培養物の製造方法。
【請求項2】
飼料として用いる基質培養物の製造方法であって、
前記飼料はタンニンを含有し、
セルフクローニングによって目的の分解酵素を高生産するように育種した分解酵素高生産糸状菌を基質(醤油粕である場合を除く。)へ種付けし、
前記基質に通風して固体培養することにより、基質培養物を製造する方法であり、
前記目的の分解酵素は、タンナーゼであり、
前記セルフクローニングは、前記目的の分解酵素をコードする外因性の遺伝子を宿主となる糸状菌に導入するものであり、前記外因性の遺伝子は前記宿主となる糸状菌と分類学上同一種である糸状菌に由来するものであり、
前記分解酵素高生産糸状菌は、カビ毒非生産菌であり、
前記カビ毒非生産菌は、Aspergillus oryzae、Aspergillus sojae又はAspergillus luchuensisであり、
基質に供給する空気の温度又は湿度のうち少なくともいずれか一方を調整することによって品温を制御して前記固体培養を行う基質培養物の製造方法。
【請求項3】
飼料として用いる基質培養物の製造方法であって、
前記飼料はフィチン酸を含有し、
セルフクローニングによって目的の分解酵素を高生産するように育種した分解酵素高生産糸状菌を基質(醤油粕である場合を除く。)へ種付けし、
前記基質に通風して固体培養することにより、基質培養物を製造する方法であり、
前記目的の分解酵素は、フィターゼであり、
前記セルフクローニングは、前記目的の分解酵素をコードする外因性の遺伝子を宿主となる糸状菌に導入するものであり、前記外因性の遺伝子は前記宿主となる糸状菌と分類学上同一種である糸状菌に由来するものであり、
前記分解酵素高生産糸状菌は、カビ毒非生産菌であり、
前記カビ毒非生産菌は、Aspergillus oryzae、Aspergillus sojae又はAspergillus luchuensisであり、
基質に供給する空気の温度又は湿度のうち少なくともいずれか一方を調整することによって品温を制御して前記固体培養を行う基質培養物の製造方法。
【請求項4】
散水又は乾燥により基質培養物の含水率を調整する請求項1ないし3のいずれかに記載の基質培養物の製造方法。
【請求項5】
前記基質培養物は、前記分解酵素高生産糸状菌の菌糸を構成する多糖類を含む請求項1ないし4のいずれかに記載の基質培養物の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の方法で製造された基質培養物と、培養を行っていない新たな基質とを混合する工程をさらに行う基質培養物の製造方法。
【請求項7】
飼料として用いる基質培養物であり、
セルフクローニングによって目的の分解酵素を高生産するように育種された分解酵素高生産糸状菌の菌糸及び前記分解酵素高生産糸状菌により生産された目的の分解酵素の両方が含まれた固体状の基質培養物であり、
前記目的の分解酵素は、アミラーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、キシラナーゼ、β-グルカナーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、ペクチナーゼ、キシラナーゼ・ペクチナーゼ複合酵素、及びセルラーゼ・プロテアーゼ・ペクチナーゼ複合酵素からなる群より選ばれる1種以上の酵素であり、
前記セルフクローニングにより、宿主となる糸状菌に導入される遺伝子は、前記目的の分解酵素をコードする外因性の遺伝子であり、前記外因性の遺伝子は前記宿主となる糸状菌と分類学上同一種である糸状菌に由来するものであり、
前記固体状の基質培養物の基質が醤油粕である場合を除き、
前記分解酵素高生産糸状菌は、カビ毒非生産菌であり、
前記カビ毒非生産菌は、Aspergillus oryzae、Aspergillus sojae又はAspergillus luchuensisである固体状の基質培養物。
【請求項8】
飼料として用いる基質培養物であり、
前記飼料はタンニンを含有し、
セルフクローニングによって目的の分解酵素を高生産するように育種された分解酵素高生産糸状菌の菌糸及び前記分解酵素高生産糸状菌により生産された目的の分解酵素の両方が含まれた固体状の基質培養物であり、
前記目的の分解酵素は、タンナーゼであり、
前記セルフクローニングにより、宿主となる糸状菌に導入される遺伝子は、前記目的の分解酵素をコードする外因性の遺伝子であり、前記外因性の遺伝子は前記宿主となる糸状菌と分類学上同一種である糸状菌に由来するものであり、
前記固体状の基質培養物の基質が醤油粕である場合を除き、
前記分解酵素高生産糸状菌は、カビ毒非生産菌であり、
前記カビ毒非生産菌は、Aspergillus oryzae、Aspergillus sojae又はAspergillus luchuensisである固体状の基質培養物。
【請求項9】
飼料として用いる基質培養物であり、
前記飼料はフィチン酸を含有し、
セルフクローニングによって目的の分解酵素を高生産するように育種された分解酵素高生産糸状菌の菌糸及び前記分解酵素高生産糸状菌により生産された目的の分解酵素の両方が含まれた固体状の基質培養物であり、
前記目的の分解酵素は、フィターゼであり、
前記セルフクローニングにより、宿主となる糸状菌に導入される遺伝子は、前記目的の分解酵素をコードする外因性の遺伝子であり、前記外因性の遺伝子は前記宿主となる糸状菌と分類学上同一種である糸状菌に由来するものであり、
前記固体状の基質培養物の基質が醤油粕である場合を除き、
前記分解酵素高生産糸状菌は、カビ毒非生産菌であり、
前記カビ毒非生産菌は、Aspergillus oryzae、Aspergillus sojae又はAspergillus luchuensisである固体状の基質培養物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基質培養物の製造方法、及び基質培養物に関する。
【背景技術】
【0002】
玄米などの基質に特定の菌を種付けして培養し、これを動物の飼料として用いる技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、玄米にアスペルギルス・オリゼーIK-05074株を種付けして固体培養し、この固体培養物を飼料に混合して、鶏に摂取させることが記載されている。特許文献1には、この固体培養物を動物に摂取させれば、動物の腸内の病原菌やコクシジウムの増殖が抑えられ、感染症を予防等することができるとされている。上記の菌は、耐酸性α-アミラーゼの生産能力に優れているとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-325580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
飼料を摂食する動物の種類、又は飼料に使用される原料など飼料の特性によって、飼料の消化率の向上に効果的な分解酵素は異なる。例えば、牛と鶏では、飼料配合が異なるし、胃液のpHが異なるし、飼料が胃の中に滞留する時間も異なる。
【0006】
特許文献1では、特定の菌を玄米等に接種して、増殖させて、特定の菌又はそれが生産した耐酸性α-アミラーゼを動物に接触させるものである。特許文献1の方法では、耐酸性α-アミラーゼの活性を向上させるにとどまっており、飼料の消化率を向上させる効果は、限定的である。
【0007】
遺伝子操作を利用して、微生物に、所望の酵素を高発現させる手法も考えられる。しかしながら、微生物に導入された遺伝子が前記微生物のゲノム遺伝子とは本質的に異なるものである場合、安全性の評価が必要になる。
【0008】
本発明は、所望の分解酵素を多く含む基質培養物を安全かつ選択的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
飼料として用いる基質培養物の製造方法であって、セルフクローニングによって目的の分解酵素を高生産するように育種した糸状菌を基質へ種付けし、前記基質に通風して固体培養することにより、機能性を有する基質培養物を製造する基質培養物の製造方法により、上記の課題を解決する。
【0010】
上記の基質培養物の製造方法において、前記糸状菌は、カビ毒非生産菌であることが好ましい。また、上記の基質培養物の製造方法において、前記カビ毒非生産菌は、Aspergillus oryzae、Aspergillus sojae又はAspergillus luchuensisであることが好ましい。
【0011】
上記の製造方法において、基質に供給する空気の温度又は湿度のうち少なくともいずれか一方を調整することによって品温を制御して前記固体培養を行うことが好ましい。
【0012】
上記の製造方法において、散水又は乾燥により基質培養物の含水率を調整することが好ましい。
【0013】
上記の製造方法において、前記基質培養物は、前記糸状菌の菌糸を構成する多糖類を含むようにすることが好ましい。
【0014】
上記の製造方法で製造された基質培養物から目的の酵素を含む成分を抽出する工程をさらに行い、抽出物を製造する方法としてもよい。
【0015】
上記の製造方法で製造された基質培養物、又は上記の方法で製造された抽出物と、培養を行っていない新たな基質とを混合する工程をさらに行ってもよい。
【0016】
上記の製造方法により、セルフクローニングによって目的の分解酵素を高生産するように育種された糸状菌の菌糸及び前記糸状菌により生産された目的の分解酵素が含まれた固体状の基質培養物を製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、所望の分解酵素を多く含む基質培養物を安全かつ選択的に製造する方法を提供することができる。例えば、目的の分解酵素が飼料の消化を促進するものであれば、製造された基質培養物を飼料として動物に与えることにより、前記分解酵素の作用により飼料の消化率が向上する。また、前記基質培養物には糸状菌の菌糸を構成する多糖類が含まれているので、多糖類を含む前記基質培養物と共に糸状菌を摂取させるようにすれば、摂取した動物の免疫力が向上することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】基質培養物の製造方法で使用する固体培養装置の一例を示す図である。
図2】基質の品温と時間経過の関係の一例を示すグラフである。
図3】発現カセット1ないし5の構成と、設定するプライマーの位置とを示す図である。
図4】2-4株を作製するに際して導入する発現カセットと、マーカー遺伝子と、設定するプライマーの位置とを示す図である。
図5】3-12株を作製するに際して導入する発現カセットと、マーカー遺伝子と、設定するプライマーの位置とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、説明する。
【0020】
本発明は、飼料として用いる基質培養物の製造方法であって、セルフクローニングによって目的の分解酵素を高生産するように育種した糸状菌を基質へ種付けし、前記基質に通風して固体培養することにより、機能性を有する基質培養物を製造する方法である。
【0021】
基質は、糸状菌が生育するのに適した固体の有機物であればよい。固体には、硬さのある固形分の他、スラリー状の物質、又は粉粒体も含まれるものとする。基質としては、例えば、大麦、小麦、小麦のふすま、米、豆、トウモロコシなどの穀物;ビートパルプ、油の搾り粕、醸造食品の搾り粕などの食品加工残渣;及び残飯などの食品残渣からなる群より選ばれる1種以上の有機物が挙げられる。油の搾り粕には、例えば、大豆の搾り粕、菜種の搾り粕、ゴマの搾り粕、トウモロコシの搾り粕などが挙げられる。醸造食品の搾り粕としては、例えば、酒粕、醤油粕などが挙げられる。
【0022】
上述の基質のうち、菜種から油を搾った後の搾り粕(以下、菜種粕)は、大豆から油を搾った後の搾り粕(以下、大豆粕)に比して、消化効率が悪いため、飼料としての価値が大豆粕よりも低い。また、菜種粕は、特定の栄養成分の吸収を阻害する物質を含んでいることから、給餌量に制限がある。目的の分解酵素をセルフクローニングによって高生産させた基質培養物を、菜種粕を含む飼料に配合することによって、菜種粕の消化効率を上げたり、特定の栄養成分の吸収を阻害する物質を減らして給餌制限を低減することが期待できる。これによって、菜種粕のような、従来は価値が低い飼料であっても、飼料としての価値を向上させることができる。
【0023】
糸状菌は、摂取した動物に対して害が無く、基質を資化して増殖するものであればよい。そのような糸状菌としては、例えば、カビ毒非生産菌が挙げられる。カビ毒非生産菌としては、例えば、カビ毒の生合成に関わる遺伝子の変異、欠損、又は転写抑制などの遺伝要因の蓄積によって、カビ毒の生産に関連する遺伝子が発現されず、カビ毒の生産能が喪失している菌体を好適に使用することができる。カビ毒非生産菌としては、例えば、Aspergillus oryzae、Aspergillus sojae又はAspergillus luchuensisが挙げられる。これらの糸状菌は、発酵食品の醸造用の種菌が市販されているし、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NBRC)で分譲を受けることができる。そのような糸状菌のゲノム等をセルフクローニングのテンプレートとすることができるし、またセルフクローニング遺伝子を導入する宿主として利用することができる。
【0024】
カビ毒としては、例えば、アフラトキシン、デオキシニバレノール、オクラトキシン、フモニシン、ゼアラレノン、パツリン、スレリグマトシスチン、又はフザリウム・トキシンなどが挙げられる。
【0025】
分解酵素は、基質又は飼料に含まれる任意の物質を当該任意の物質に比して分子量が低い物質に分解し、基質培養物になんらかの機能性を付与できるものであればよい。基質培養物とは、基質の培養物のことをいう。分解酵素としては、例えば、アミラーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、キシラナーゼ、β-グルカナーゼ、セルラーゼ、タンナーゼ、フィターゼ、ラクターゼ、リパーゼ、ポリガラクチュロナーゼなどのペクチナーゼ、キシラナーゼ・ペクチナーゼ複合酵素、及びセルラーゼ・プロテアーゼ・ペクチナーゼ複合酵素などからなる群より選ばれる1種以上の酵素が挙げられる。
【0026】
基質培養物には、糸状菌の働きにより、機能性が付与される。顕在化する機能性は、セルフクローニングによって高生産される分解酵素によって異なる。
【0027】
例えば、目的の分解酵素がフィターゼの場合、フィターゼは飼料等に含まれるフィチン酸から無機態のリン酸を切り離す化学反応を触媒する。フィチン酸は、飼料等に含まれるカルシウムや亜鉛などのミネラルが飼料を摂取した動物の体内に吸収されるのを阻害するといわれている。このため、フィターゼでフィチン酸を分解することにより、ミネラルの吸収率が向上する。また、フィチン酸が分解して生じたリンも飼料を摂取した動物の体内に吸収させることができる。
【0028】
また、例えば、目的の分解酵素がタンナーゼの場合、タンナーゼは飼料等に含まれるタンニンを分解する反応を触媒する。タンニンは、たんぱく質などの高分子と強く結合し複合体を形成するものがある。また、タンニンは、植物の細胞壁を構成する成分と複雑に絡み合った状態で存在し、細胞壁の分解を阻害する可能性がある。タンナーゼでタンニンを分解することにより、飼料に含まれる植物性の原料の細胞壁の分解効率が向上し、消化しやすくなると考えられる。また、タンニンは苦み成分としても知られており、タンニンを分解することにより渋みが減少して飼料の嗜好性が向上する。
【0029】
また、例えば、目的の分解酵素がセルラーゼやペクチナーゼなどの場合、それらの分解酵素は飼料等に含まれるセルロースやペクチンなどを分解する反応を触媒する。セルロースやペクチンなどの多糖は、植物の細胞壁を構成する成分の一種である。植物の細胞壁を構成する多糖には色々な種類が知られており、その形態は様々であるが、その構成は複雑である。複雑な構造の細胞壁多糖を効率よく分解するためには、複数の分解酵素を段階的に作用させることが好ましい。例えば、セルラーゼやペクチナーゼなど複数の酵素でセルロースやペクチンなどを分解することにより、飼料に含まれる植物性の原料の細胞壁の分解効率が向上し、消化されやすくなる。
【0030】
分解酵素は、キシラナーゼ、ペクチナーゼ、アミラーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、β-グルカナーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、ラクターゼ、又はリパーゼなどの飼料の消化を助ける消化促進系酵素、又はタンナーゼ若しくはフィターゼなどの任意の物質の吸収を阻害する物質分解する阻害物分解系酵素に分類することができる。
【0031】
分解酵素は、少なくとも1種類の酵素が高生産されていればよいが、2種類以上の酵素が高生産されていることが好ましい。例えば、動物に飼料を与える場合、複数の飼料を混合して給餌することが多い。飼料の種類によってその消化に有効な分解酵素の種類も異なる。そこで、混合する複数の飼料の種類に応じて有効な2種類以上の酵素を高生産することにより消化の効率を上昇させることができる。また、例えば、前述した通り、飼料に含まれる植物性の原料の細胞壁は、構造が複雑であり、複数の分解酵素が順に作用し、段階的に分解することで、動物に消化吸収されやすい形態となる。細胞壁の分解に効果的な2種以上の酵素を高生産することにより細胞壁を分解しやすくすることができる。
【0032】
上記の例のように、2種類以上の複数の酵素を高生産させることによって、動物が飼料を摂取する際に、より飼料中の成分が効率的に消化吸収されやすくなる。複数の分解酵素を種々の組み合わせで高生産させることによって、飼料として用いられる基質培養物の機能性をより高めることができる。もちろん、高生産させた酵素は、もともと糸状菌が生産する多種多様な酵素に対しても相乗的に働く。したがって、高生産させる酵素の種類が多いほど相乗効果も大きくなる。
【0033】
糸状菌は、セルフクローニングによって目的の分解酵素を高生産するように育種したものを使用する。セルフクローニングとは、組み込む遺伝子配列の由来となる生物種と当該遺伝子配列を組み込まれる宿主の生物種とが、分類学上同一種となるクローニング技術のことをいう。このため、セルフクローニングより得られた組換体は、本質的に天然のものと変わらず、その他の遺伝子組換体とは区別され、安全性確認の対象外とされる。通常、遺伝子組換体を産業利用する場合、自然界へ遺伝子組換体が流出するのを防ぐための封じ込め措置が必要であるが、セルフクローニングより得られた組換体は、遺伝子組換体の封じ込め措置を省略することができる。したがって、設備にかかるコストが大幅に削減できるメリットがある。
【0034】
セルフクローニング技術は、その他の遺伝子組み換え技術とは異なり、安全性が認められている組換え技術である。セルフクローニングを利用すれば、飼料の種類や、飼料を与える動物の消化機構などの特徴にあわせて、短期間で目的の特性を備える糸状菌を育種することができ、目的の分解酵素を高生産させた基質培養物又は目的の酵素そのものを高効率かつ安全に大量生産することが可能になる。
【0035】
セルフクローニングの方法は、遺伝子配列を組み込む対象とする糸状菌と分類学上同一種の菌の遺伝子配列を、宿主となる糸状菌に導入し、目的の分解酵素を高生産させるものであればよい。糸状菌に目的の遺伝子配列を導入するに際しては、プラスミドに目的とする遺伝子配列を導入し、当該プラスミドを糸状菌に導入してもよいし、後述する高発現用カセットを糸状菌に導入してもよい。
【0036】
セルフクローニングの方法としては、例えば、高発現用のプロモーター配列と、目的の分解酵素の遺伝子と、ターミネーター配列とを有する高発現用カセットを糸状菌に対して形質転換する方法が挙げられる。形質転換を行う際に、形質転換体を選択培養するためのマーカー遺伝子も、コトランスレーションしてもよい。高発現用カセット、又はマーカー遺伝子の作製には、例えば、PCRを利用することが好ましい。
【0037】
目的の分解酵素を、糸状菌において高生産させるには、例えば、高発現用のプロモーター配列、ターミネーター配列、又はマーカー遺伝子を使用するとよい。この場合、プロモーター配列、ターミネーター配列、又はマーカー遺伝子も、前記糸状菌と分類学上同一種である菌に由来するものを使用する。
【0038】
セルフクローニングによって、目的の分解酵素や、プロモーター配列などをクローニングするには、例えば、糸状菌のゲノムDNAをテンプレートにして、所望の遺伝子配列をPCRにより増幅してもよいし、cDNAをテンプレートにして所望の遺伝子配列をPCRにより増幅してもよい。
【0039】
上述のプロモーター配列と、目的の分解酵素の遺伝子と、ターミネーター配列とを有する高発現カセットの作製は、例えば、以下のようにして行うことが好ましい。プロモーター配列については、セルフクローニングに際して、5´末端側のセンスプライマーとして、プロモーター配列に対応する通りの配列を設計する。3´末端側のアンチセンスプライマーとしても、プロモーター配列に対応する通りの配列を設計する。同様に、ターミネーター配列についても、セルフクローニングに際して、5´末端側のセンスプライマーとして、ターミネーター配列に対応する通りの配列を設計する。3´末端側のアンチセンスプライマーとしても、ターミネーター配列に対応する通りの配列を設計する。そして、目的の分解酵素については、セルフクローニングに際して、5´末端側のセンスプライマーとして、プロモーターの下流の配列とオーバーラップするように5~40ベースペアの配列を目的の分解酵素に対応する配列に対して付加したプライマーを設計する。3´末端側のアンチセンスプライマーとして、ターミネーターの上流の配列とオーバーラップするように5~40ベースペアの配列を目的の分解酵素に対応する配列に対して付加したプライマーを設計する。このように設計した各プライマーを用いて、プロモーター配列、目的の分解酵素遺伝子、及びターミネーター配列を増幅して、これらを混合する。この混合物をテンプレートとして、例えば、プロモーターの増幅に使用した5´末端側のセンスプライマーと、ターミネーター配列の増幅に使用した3´末端側のアンチセンスプライマーを用いて、フュージョンPCRを行う。これによって、プロモーター配列と、目的の分解酵素と、ターミネーター配列とが接合された発現カセットが増幅される。なお、5´末端側又は3´末端側という場合は、センス鎖を基準とする。また、センスプライマーという場合、アンチセンス鎖にアニーリングするプライマーのことを示し、アンチセンスプライマーという場合、センス鎖にアニーリングするプライマーのことを示す。
【0040】
上記の例では、オーバーラップする配列は、目的の分解酵素に設けた。プロモーター配列の3´末端又はターミネーター配列の5´末端にオーバーラップする配列を設けてもよい。
【0041】
セルフクローニングによって、糸状菌に導入する遺伝子の数は限定されない。例えば、糸状菌に複数の分解酵素をコードする遺伝子を導入し、分解酵素の組み合わせによって、種々の機能性を発現するようにしてもよい。
【0042】
固体培養は、セルフクローニングにより育種した糸状菌の胞子を基質へ種付けし、温湿度を調整した空気を基質に対して通風しながら行う。培養中の基質の温度管理は、通風する空気の温度を一定にして行う風温制御でもよいし、基質の品温によって通風する空気の温度を変化させて行う品温制御でもよい。これらの温度制御と、湿度制御とによって、通風する空気の温湿度を調整し、固体培養を行うことができる。
【0043】
固体培養装置は、例えば、図1に示したように、基質5を堆積する培養床2を内部に有した培養室1と、培養床2の下から温湿度を調整した空気を送風することができる空調装置10とを備えたものが好ましい。培養室1は培養床2によって上室3と下室4に仕切られている。培養床2には複数の開孔が設けられており、空調装置10から供給された空気は、下室4へと送り込まれ、開孔を通過して基質の間を通り抜け、上室3へと抜ける。上室3には、基質の温度を測定する品温センサー6が設けられており、下室4には、下室4に送り込まれた空気の湿度を測定する湿度センサー7が設けられている。
【0044】
前記固体培養装置は、基質5に対して空気を供給するに際して、排気ダクト8を通じて一部又は全ての空気を外部に排出してもよいし、循環ダクト9を通じて一部又は全ての空気を循環させてもよい。
【0045】
また、前記固体培養装置の空調装置10は、湿度調整のための二流体ノズル11及び温度調整のための蒸気ノズル12を設けた構造が好ましく、さらに、冷却部13、又は加熱部14などを設けてもよい。冷却部は、吸気した気体を冷却することができるものであればよく、例えば、内部に冷媒を通過させる熱交換器が挙げられる。加熱部は、吸気した気体を加熱することができるものであればよく、例えば、内部に加熱媒体を通過させる熱交換器又はヒーターなどが挙げられる。上記の熱交換器としては、例えば、フィンチューブ式熱交換器が挙げられる。冷媒としては、冷水などの液体、又は冷媒ガスなどの気体が挙げられる。加熱媒体としては、温水などの液体、熱風などの気体、又は蒸気などが挙げられる。
【0046】
固体培養は、セルフクローニングにより育種した糸状菌の胞子を基質へ種付けし、前記固体培養装置の培養床に盛り込み、厳密に温湿度管理された空気を基質へ通風させて行う。糸状菌が増殖し、酵素を生産する過程で、基質の品温は培養経過に伴い変化する。そこで、所望の品温経過で培養が進むよう、基質に供給する空気の温度又は湿度のうち少なくともいずれか一方を調整し、固体培養するのが好ましい。これにより、培養中の正確な温湿度の管理が可能となり、雑菌の増殖を抑えつつ糸状菌を効率的に増殖させて、目的とする分解酵素の高生産を促すことができる。
【0047】
糸状菌が酵素を生産する際、温度によって生産する酵素の種類が変わる。特に、目的の分解酵素をより高生産させるためには、糸状菌の酵素生産期における品温経過が重要である。酵素生産期は、糸状菌の菌体増殖期の後に続く期間であり、固体培養の後半に現われる。糸状菌の菌体増殖期と酵素生産期を区別するには、例えば、図2に示したように、菌体増殖に伴う糸状菌の発熱がひとつの目安になる。この例では糸状菌の菌体増殖に伴う発熱のピークの後において品温が安定する時期より前が菌体増殖期であり、前記時期よりも後が酵素生産期である。例えば、糸状菌の酵素生産期における基質の品温は、18~50℃にすることができ、より好ましくは、18~34℃、又は35~50℃である。
【0048】
固体培養は、セルフクローニングにより育種した糸状菌の胞子を基質へ種付けし、散水又は乾燥により基質培養物の含水率を調整することにより行うことが好ましい。散水又は乾燥は、固体培養中に行ってもよいし、固体培養が終わった後に行ってもよい。固体培養中に基質に含まれる水分を調整することにより、糸状菌の生育に適した水分を維持し、糸状菌の増殖及び糸状菌による酵素生産をより活発にすることができる。また、固体培養が終わった後で基質に含まれる水分を取り除くことにより、基質培養物又は基質培養物を混合した飼料の劣化を防ぎ、品質を安定化することができるし、基質培養物に含まれる酵素の活性を維持したままで長期間の保存が可能となる。
【0049】
基質培養物の含水率は、例えば、基質へ種付けする前の原料処理工程において、基質に対して加える水の量によって調整することができる。固体培養装置に種付けした基質を盛り込む際の基質の含水率(以下、初期含水率という。)は、例えば、30~80質量%にすることができ、より好ましくは、30~55質量%、又は56~70質量%である。なお、含水率は、基質を90℃の乾燥機で15時間放置(絶対乾燥)し、乾燥前と後の重量から含水率を算出した値である。
【0050】
また、基質培養物の含水率は、例えば、固体培養が終わった後で、乾燥した空気を基質へ通風させて、基質に含まれる水分を取り除くことにより調整することができる。固体培養装置から固体培養した基質を取り出す際の基質の含水率(以下、最終含水率という。)は、例えば、25質量%以下にすることが好ましく、14%以下とすることがより好ましい。前記基質の含水率の下限値は、特に限定されないが、例えば、0質量%よりも大きくなるようにすることができる。
【0051】
基質培養物は、糸状菌の菌糸を構成する多糖類が含まれるようにすることが好ましい。菌糸を構成する細胞は、細胞壁で覆われており、細胞壁の主成分は、多糖類である。多糖類としては、例えば、グルカン、キチン、キトサンなどが挙げられる。これらの多糖類は、免疫賦活効果に関与していると言われている。したがって、これらの多糖類が基質培養物に含まれるようにすることによって、飼料を摂取した動物の免疫力を向上させる効果が期待される。また、糸状菌の菌体に含まれるたんぱく質や脂質なども、摂取した動物の栄養分として吸収される。
【0052】
基質培養物は、そのまま動物に与えてもよいし、他の飼料に混合して与えてもよい。また、基質培養物から目的の酵素を含む成分を抽出する工程をさらに行い、前記抽出物を動物に与えてもよいし、前記抽出物を他の飼料に混合して与えてもよい。酵素を抽出する工程は、例えば、緩衝液又は水などの液体を用いて行うのが好ましい。前記液体に基質培養物を浸漬し、ホモジナイズ等により菌体を物理的に粉砕及び液化し、遠心分離又は濾過により酵素を取り出してもよい。
【0053】
上記の製造方法により製造された基質培養物、又は上記の製造方法により製造された抽出物は、培養を行っていない新たな基質と混合する工程を行うことにより、飼料として使用してもよい。これによって、基質培養物又は抽出物を嵩増しして混合飼料とし、培養を行っていない新たな基質の分解を促すことができる。また、基質培養物に糸状菌の生菌が含まれている場合には、新たな基質と基質培養物を混合してさらに培養することにより、新たな基質に機能性を付与することができる。
【0054】
飼料として用いる基質培養物の給餌対象は、特に限定されず、牛、豚、羊、ヤギ、家禽などの家畜、エビ、カニなどの甲殻類若しくは魚類(養殖魚を含む)などが挙げられる。家禽には、例えば、鶏、鴨、アヒル、又はガチョウなどが含まれる。牛や羊やヤギなどの反芻動物は、ルーメンと呼ばれる第一胃の中にルーメン細菌を保有している。このルーメン細菌が飼料を分解することで消化が促進される。目的の分解酵素として、ルーメン細菌が生産する分解酵素又はルーメン細菌が生産する分解酵素と一緒に働き相乗効果を示す分解酵素をセルフクローニングにより高生産させれば、前記反芻動物での消化促進に効果を発揮する。
【実施例
【0055】
以下、本発明の実施例を挙げて、さらに具体的に説明する。以下に挙げる実施例では、フィターゼ、ポリガラクチュロナーゼ、キシラナーゼ、又はタンナーゼをコードする遺伝子をセルフクローニングの対象とした。フィターゼについては、飼料に含まれるフィチン酸を分解してミネラルの吸収率を向上させる目的で選定した。キシラナーゼ及びポリガラクチュロナーゼについては、植物の細胞壁を構成する多糖を分解して飼料の消化率を向上させる目的で選定した。タンナーゼについては、植物の細胞壁を構成する成分と結合したタンニンを分解して飼料の消化率を向上させる目的で選定した。
【0056】
[セルフクローニング]
麹菌ゲノムデータベース(http://www.aspgd.org/)およびグルコシルハイドロラーゼのデータベースCAZy(http://www.cazy.org/fam/acc_GH.html)を利用して、フィターゼ、ポリガラクチュロナーゼ、キシラナーゼ、又はタンナーゼをコードする遺伝子を探索して、フィターゼについてはphyAを候補遺伝子とし、ポリガラクチュロナーゼについてはpgaBを候補遺伝子とし、キシラナーゼについてはxynG1を候補遺伝子とし、タンナーゼについてはtanAを候補遺伝子とした。phyAのDNA配列は、配列表の配列番号1の通りであり、pgaBのDNA配列は、配列表の配列番号2の通りであり、xynG1のDNA配列は、配列表の配列番号3の通りであり、tanAのDNA配列は、配列表の配列番号4の通りである。また、後述するAmyBプロモーター及びAmyBターミネーターを含むアミラーゼ(AmyB)のDNA配列を、配列表の配列番号28に示す。さらに、後述するenoAプロモーター及びenoAターミネーターを含むエノラーゼ(enoA)のDNA配列を、配列表の配列番号29に示す。
【0057】
以下の方法により、phyA遺伝子及びpgaB遺伝子の計2つの遺伝子をセルフクローニングし、形質転換したAspergillus oryzae(以下、2-4株という。)と、xynG1遺伝子、phyA遺伝子、及びtanA遺伝子の計3つの遺伝子をセルフクローニングし、形質転換したAspergillus oryzae(以下、3-12株という。)を作製した。以下、その方法について説明する。
【0058】
〔ゲノムDNAの抽出〕
NBRC(独立行政法人製品評価技術基盤機構)で分譲を受けた麹菌の野生株(Aspergillus oryzae、RIB40)を液体培養し、以下の方法により、ゲノムDNAを抽出した。すなわち、前記野生株の分生子を液体培地に植菌し、30℃で2~3日間静置培養して得た菌体にガラスビーズを加えて激しく撹拌し、凍結融解を繰り返してゲノムDNAを抽出した。なお、この野生株は、カビ毒非生産菌である。
【0059】
〔遺伝子カセットの作製〕
上記の方法により抽出したゲノムDNAをテンプレートとして、図3に示した発現カセット1ないし5を作製した。発現カセット1又は2は、RIB40のゲノム遺伝子由来のアミラーゼプロモーター(AmyBプロモーター)と、RIB40のゲノム遺伝子由来のアミラーゼターミネーター(AmyBターミネーター)との間に目的の分解酵素として、RIB40のゲノム遺伝子に由来するphyA又はpgaBをそれぞれ接合した塩基配列を有する。アミラーゼプロモーターは、高発現用プロモーターとして機能する。
【0060】
発現カセット3、4、又は5は、RIB40のゲノム遺伝子由来のエノラーゼプロモーター(enoAプロモーター)と、RIB40のゲノム遺伝子由来のエノラーゼターミネーター(enoAターミネーター)との間に目的の分解酵素として、RIB40のゲノム遺伝子由来のtanA、xynG1、又はphyAをそれぞれ接合した塩基配列を有する。エノラーゼプロモーターは、高発現用プロモーターとして機能する。
【0061】
各発現カセットは、プロモーター配列と、ターミネーター配列と、前記プロモーター配列と重複する配列を5´末端に有しており、前記ターミネーター配列と重複する配列を3´末端に有する分解酵素の遺伝子とを混合し、フュージョンPCRを行うことにより合成した。プロモーター、ターミネーター、及び各分解酵素の増幅と、フュージョンPCRとは、以下のようにして行った。
【0062】
〔プロモーター配列及びターミネーター配列の増幅〕
AmyBプロモーターについては、図3及び配列表に示したセンスプライマー5及びアンチセンスプライマー6を設定して、以下の条件でPCRを行うことにより、AmyBプロモーターを増幅した。センスプライマー5は、図3においては符号5で示し、その塩基配列は配列表の配列番号5に示した通りである。アンチセンスプライマー6は図3においては、符号6で示し、その塩基配列は配列表の配列番号6に示した通りである。このように、本明細書、図3図4図5、及び配列表において、図面に記載した符号と、明細書に記載したプライマー番号と、配列表に記載した配列番号とは、相互に一致するものとする。例えば、センスプライマー19の塩基配列は、配列表の配列番号19に示した配列とされる。配列番号は配列表において<210>で示される。以下同様とする。
(PCR反応液の組成)
テンプレート(RIB40ゲノムDNA) 1μl
10mMdNTP 1μl
5×Q5緩衝液 10μl
50μMセンスプライマー5 0.5μl
50μMアンチセンスプライマー6 0.5μl
DNAポリメラーゼ(Q5) 0.5μl
蒸留水 36.5μl
(PCR反応の条件)
1.98℃、30秒
2.(98℃、10秒→72℃、30秒)のサイクルを30回
3.72℃、5分
4.12℃に維持
【0063】
AmyBターミネーターについては、図3及び配列表に示したセンスプライマー9及びアンチセンスプライマー10を設定した点以外は、AmyBプロモーターの場合と同様の条件により、AmyBターミネーターを増幅した。同様に、enoAプロモーターについても、図3及び配列表に示したセンスプライマー13及びアンチセンスプライマー14を設定した点以外は、AmyBプロモーターの場合と同様の条件により、enoAプロモーターを増幅した。同様に、enoAターミネーターについても、図3及び配列表に示したセンスプライマー17及びアンチセンスプライマー18を設定した点以外は、AmyBプロモーターの場合と同様の条件により、enoAターミネーターを増幅した。
【0064】
〔目的の分解酵素遺伝子の増幅〕
発現カセット1で使用するphyA遺伝子については、図3及び配列表に示したセンスプライマー7及びアンチセンスプライマー8を設定して、以下の条件でPCRを行うことにより、phyA遺伝子を増幅した。
(PCR反応液の組成)
テンプレート(RIB40ゲノムDNA) 1μl
10mMdNTP 1μl
5×Q5緩衝液 10μl
50μMセンスプライマー7 0.5μl
50μMアンチセンスプライマー8 0.5μl
DNAポリメラーゼ(Q5) 0.5μl
蒸留水 36.5μl
(PCR反応の条件)
1.98℃、30秒
2.(98℃、10秒→72℃、1分)のサイクルを30回
3.72℃、5分
4.12℃に維持
【0065】
pgaBについては、図3及び配列表に示したセンスプライマー11及びアンチセンスプライマー12を設定した点以外は、phyAの場合と同様の条件により、pgaBを増幅した。同様に、発現カセット5で使用するphyAについても、図3及び配列表に示したセンスプライマー21及びアンチセンスプライマー22を設定した点以外は、phyAの場合と同様の条件により、発現カセット5用のphyAを増幅した。同様に、xynG1についても、図3及び配列表に示したセンスプライマー19及びアンチセンスプライマー20を設定した点以外は、phyAの場合と同様の条件により、xynG1を増幅した。
【0066】
tanA遺伝子については、図3及び配列表に示したセンスプライマー15及びアンチセンスプライマー16を設定して、以下の条件でPCRを行うことにより、phyA遺伝子を増幅した。
(PCR反応液の組成)
テンプレート(RIB40ゲノムDNA) 1μl
10mMdNTP 2μl
2×KOD緩衝液 25μl
50μMセンスプライマー15 0.2μl
50μMアンチセンスプライマー16 0.2μl
DNAポリメラーゼ(KOD Fx neo) 1μl
蒸留水 20.6μl
(PCR反応の条件)
1.94℃、2分
2.(98℃、10秒→58℃、30秒→68℃、1分15秒)のサイクルを40回
3.68℃、5分
4.12℃に維持
【0067】
〔フュージョンPCR〕
図3に示した発現カセット1については、上述のセンスプライマー5と図3及び配列表に示すアンチセンスプライマー27を使用して、以下の条件でPCRを行うことにより、phyA遺伝子を増幅した。なお、KOD Fx neo(東洋紡株式会社)は、市販のDNAポリメラーゼである。
(PCR反応液の組成)
テンプレート(AmyBプロモーター) 1μl
テンプレート(AmyBターミネーター) 1μl
テンプレート(発現カセット1用のphyA) 1μl
10mMdNTP 2μl
2×KOD緩衝液 25μl
50μMセンスプライマー5 0.2μl
50μMアンチセンスプライマー27 0.2μl
DNAポリメラーゼ(KOD Fx neo) 1μl
蒸留水 18.6μl
(PCR反応の条件)
1.94℃、2分
2.(98℃、10秒→58℃、30秒→68℃、2分)のサイクルを40回
3.68℃、5分
4.12℃に維持
【0068】
図3に示した発現カセット2については、発現カセット1用のphyAに替えて上述の方法で合成したpgaBを使用した点以外は、発現カセット1の場合と同様の条件によりPCRを行い、発現カセット2を増幅した。
【0069】
図3に示した発現カセット3については、発現カセット1用のphyAに替えて上述の方法で合成したtanAを使用し、AmyBプロモーターに替えて上記の方法で増幅したenoAプロモーターを使用し、AmyBターミネーターに替えて上記の方法で増幅したenoAターミネーターを使用し、センスプライマー5に替えてセンスプライマー13を使用し、アンチセンスプライマー27に替えてアンチセンスプライマー18を使用した点以外は、発現カセット2の場合と同様の条件によりPCRを行い、発現カセット3を増幅した。図3に示した発現カセット4については、tanAに替えて上述の方法で合成したxynG1を使用した点以外は、発現カセット3の場合と同様の条件によりPCRを行い、発現カセット4を増幅した。図3に示した発現カセット5については、発現カセット4用のxynG1に替えて上述の方法で合成した発現カセット5用のphyAを使用した点以外は、発現カセット4の場合と同様の条件によりPCRを行い、発現カセット5を増幅した。
【0070】
〔2-4株の作製〕
酒造用の麹菌として市販されているAspergillus oryzae(AOK11)から、Mon Gen Genet(1989)218:99-104に記載された方法でniaD欠損株を選抜した。この欠損株は、カビ毒非生産菌である。このniaD欠損株に対して、図4に示したように、上述の方法で作製した発現カセット1、発現カセット2及びniaD遺伝子をコトランスフォーメンションした。
【0071】
niaD遺伝子は、図4及び配列表に示したセンスプライマー23とアンチセンスプライマー24を設定し、以下の条件でPCRを行うことにより増幅した。なお、Q5(ニュー・イングランド・バイオラボ・ジャパン株式会社)は、市販のDNAポリメラーゼである。
(PCR反応液の組成)
テンプレート(RIB40ゲノムDNA) 2μl
10mMdNTP 1μl
5×Q5緩衝液 10μl
50μMセンスプライマー23 0.5μl
50μMアンチセンスプライマー24 0.5μl
DNAポリメラーゼ(Q5) 0.5μl
蒸留水 35.5μl
(PCR反応の条件)
1.98℃、30秒
2.(98℃、10秒→72℃、2分30秒)のサイクルを30回
3.72℃、5分
4.12℃に維持
【0072】
カセット1、カセット2、及びniaDのコトランスフォーメションは、プロトプラスト-PEG法により行った。液体培地50mlに宿主株の分生子を1×10個程度植菌し、120rpm、30℃で36時間培養した。菌体を滅菌したガラスフィルターを用いて回収し、濾過滅菌したプロトプラスト化溶液に懸濁した。30℃、120rpmにて2~3時間振盪して反応させた後、ミラクロースで濾過して回収したプロトプラストに対して発現カセット1、発現カセット2、及びniaD遺伝子(形質転換マーカー)を加えてよく混合し、40%(w/v)PEG6000、50mMCaCl2を含む溶液でプロトプラスト融合を促進させて各DNAを細胞内に導入した。
【0073】
niaDマーカーを用いた形質転換体の選抜は、窒素源を0.6%NaNO3とした最小培地で生育できる株を選抜することによって行った。選抜された株について、センスプライマー7及びアンチセンスプライマー10と、センスプライマー11及びアンチセンスプライマー10とを用いて、PCRを行い、phyA遺伝子とpgaBとの両方が導入された株を選抜した。
【0074】
〔3-12株の作製〕
図5に示したように、発現カセット1及び発現カセット2に替えて、発現カセット4及び発現カセット5を使用した点以外は、2-4株の作製方法と同様にして、phyA遺伝子とxynG1遺伝子との両方が導入された形質転換体を得た。
【0075】
上記のphyA遺伝子及びxynG1遺伝子が導入された形質転換体に対して、上記と同様の方法により、発現カセット3及びprtA遺伝子(選択マーカー)を、コトランスフォーメンションした。
【0076】
prt遺伝子は、図5及び配列表に示したセンスプライマー25とアンチセンスプライマー26を設定し、以下の条件でPCRを行うことにより増幅した。なお、テンプレートとして使用したpPTRI(タカラバイオ株式会社)は麹菌のクローニングにおいて使用される市販のベクターである。
(PCR反応液の組成)
テンプレート(pPTRI) 2μl
10mMdNTP 1μl
5×Q5緩衝液 10μl
50μMセンスプライマー25 0.5μl
50μMアンチセンスプライマー26 0.5μl
DNAポリメラーゼ(Q5) 0.5μl
蒸留水 35.5μl
(PCR反応の条件)
1.98℃、30秒
2.(98℃、10秒→72℃、1分)のサイクルを30回
3.72℃、5分
4.12℃に維持
【0077】
prtAマーカーを使用した形質転換体の選抜は、窒素源を0.6%NaNO3とした最小培地にピリチアミンを添加して、形質転換体を選抜した。そして、センスプライマー15及びアンチセンスプライマー18と、センスプライマー19及びアンチセンスプライマー18と、センスプライマー21及びアンチセンスプライマー18とを用いてPCRを行い、tanA、xynG1、及びphyAが導入された株を選抜した。
【0078】
[培養条件]
AOK11野生株(以下、「野生株」と称する)、又はセルフクローニングにより育種した前記2-4株、又は3-12株の種菌を、それぞれ基質であるふすまに種付けし、固体培養を行った。具体的な培養条件は、以下の通りである。
【0079】
・(1)野生株の培養:初期含水率60%、ベースパターン
含水率11%のふすま160kgに対して、含水率58%となるように加水して撹拌した後、0.2MPaで加圧蒸煮処理した。蒸煮処理が完了した後、ふすまが30℃前後になるまで冷却し、AOK11野生株の種菌を一定量種付けし、均一になるよう丁寧に混合した。種付け後の原料の含水率は60%であった。この原料を培養装置の培養床へ盛込み、層厚が一定になるよう均してから培養を開始した。培養中は厳密に温湿度管理された空気を基質へ通風し、ベースパターンの品温経過となるよう品温制御を行った。ベースパターンの品温経過を、表1に示す。なお、ベースパターンでは、培養時間21時間以降が酵素生産期にあたる。
【0080】
【表1】
【0081】
・(2)2-4株の培養:初期含水率60%、ベースパターン
含水率11%のふすま160kgに対して、含水率58%となるように加水して撹拌した後、0.2MPaで加圧蒸煮処理した。蒸煮処理が完了した後、ふすまが30℃前後になるまで冷却し、2-4株の種菌を一定量種付けし、均一になるよう丁寧に混合した。種付け後の原料の含水率は60%であった。この原料を培養装置の培養床へ盛込み、層厚が一定になるよう均してから培養を開始した。培養中は厳密に温湿度管理された空気を基質へ通風し、ベースパターンの品温経過となるよう品温制御を行った。
【0082】
・(3)2-4株の培養:初期含水率50%、ベースパターン
含水率11%のふすま160kgに対して、含水率48%となるように加水して撹拌した後、0.2MPaで加圧蒸煮処理した。蒸煮処理が完了した後、ふすまが30℃前後になるまで冷却し、2-4株の種菌を一定量種付けし、均一になるよう丁寧に混合した。種付け後の原料の含水率は50%であった。この原料を培養装置の培養床へ盛込み、層厚が一定になるよう均してから培養を開始した。培養中は厳密に温湿度管理された空気を基質へ通風し、ベースパターンの品温経過となるよう品温制御を行った。
【0083】
・(4)3-12株の培養:初期含水率60%、ベースパターン
含水率11%のふすま160kgに対して、含水率58%となるように加水して撹拌した後、0.2MPaで加圧蒸煮処理した。蒸煮処理が完了した後、ふすまが30℃前後になるまで冷却し、3-12株の種菌を一定量種付けし、均一になるよう丁寧に混合した。種付け後の原料の含水率は60%であった。この原料を培養装置の培養床へ盛込み、層厚が一定になるよう均してから培養を開始した。培養中は厳密に温湿度管理された空気を基質へ通風し、ベースパターンの品温経過となるよう品温制御を行った。
【0084】
・(5)3-12株の培養:初期含水率50%、ベースパターン
含水率11%のふすま160kgに対して、含水率48%となるように加水して撹拌した後、0.2MPaで加圧蒸煮処理した。蒸煮処理が完了した後、ふすまが30℃前後になるまで冷却し、3-12株の種菌を一定量種付けし、均一になるよう丁寧に混合した。種付け後の原料の含水率は50%であった。この原料を培養装置の培養床へ盛込み、層厚が一定になるよう均してから培養を開始した。培養中は厳密に温湿度管理された空気を基質へ通風し、ベースパターンの品温経過となるよう品温制御を行った。
【0085】
・(6)3-12株の培養:初期含水率60%、低温パターン
含水率11%のふすま160kgに対して、含水率58%となるように加水して撹拌した後、0.2MPaで加圧蒸煮処理した。蒸煮処理が完了した後、ふすまが30℃前後になるまで冷却し、3-12株の種菌を一定量種付けし、均一になるよう丁寧に混合した。種付け後の原料の含水率は60%であった。この原料を培養装置の培養床へ盛込み、層厚が一定になるよう均してから培養を開始した。培養中は厳密に温湿度管理された空気を基質へ通風し、低温パターンの品温経過となるよう品温制御を行った。低温パターンの品温経過を、表1に示す。なお、低温パターンでは、培養時間27時間以降が酵素生産期にあたる。
【0086】
〔酵素活性の評価〕
前記(1)~(6)の基質培養物に含まれる酵素活性を評価した。各基質培養物からの粗酵素液の抽出及び各酵素活性の測定は、公知の方法で行った。酵素活性の評価は、前記(1)における各酵素活性をコントロールとし、前記(2)~(6)における各酵素活性がコントロールの何倍相当であるかによって評価した。
【0087】
・2-4株におけるフィターゼ活性及びポリガラクチュロナーゼ活性の評価
前記(2)及び(3)の基質培養物に含まれるフィターゼ活性は、コントロールに比して9~17倍であった。また、前記(2)及び(3)の基質培養物に含まれるポリガラクチュロナーゼ活性は、コントロールに比して14~15倍であった。これらの結果から、2種類の分解酵素、フィターゼ及びポリガラクチュロナーゼを高発現するよう育種した2-4株は、セルフクローニングによって目的の分解酵素を高生産することを確認した。
【0088】
・3-12株におけるタンナーゼ活性、キシラナーゼ活性及びフィターゼ活性の評価
前記(4)、(5)及び(6)の基質培養物に含まれるタンナーゼ活性は、コントロールに比して2~4倍であった。また、前記(4)、(5)及び(6)の基質培養物に含まれるキシラナーゼ活性は、コントロールに比して21~43倍であった。また、前記(4)、(5)及び(6)の基質培養物に含まれるフィターゼ活性は、コントロールに比して11~18倍であった。これらの結果から、3種類の分解酵素、タンナーゼ、キシラナーゼ及びフィターゼを高発現するよう育種した3-12株は、セルフクローニングによって目的の分解酵素を高生産することを確認した。
【0089】
〔人工ルーメン法による消化率の評価〕
消化試験装置(ANKOM DAISY II インビトロインキュベーター)を用いて、人工ルーメン法による消化率の評価を行った。まず、前記消化試験装置の構成部品であるガラス瓶(消化ジャー)に、牛の第一胃より採取したルーメンジュースを4倍希釈した液400mLと、牛の人工唾液1600mLを投入し、よく混合したものを反応液とした。次に、大豆粕または菜種粕を、それぞれポリエステル製のメッシュバッグに各0.4gずつ入れてシールし、前記反応液中に大豆粕入りメッシュバッグ10袋、菜種粕入りメッシュバッグ10袋を投入した。ここに、前記(1)~(6)の基質培養物のうち1種類を1g添加し、二酸化炭素ガスを封入した後、39℃に保った前記消化試験装置内で48時間反応させた。そして、24時間経過後と48時間経過後の時点において、前記メッシュバッグを各5袋ずつ取り出して流水で十分にすすぎ、90℃の乾燥機で15時間放置(絶対乾燥)した後、各メッシュバッグの重量を測定した。大豆粕および菜種粕の消化率は、反応前後の重量変化から算出した。なお、前記反応液とメッシュバッグを投入した消化ジャーに、固体培養する前の基質(ふすま)を1g添加したものをコントロールとした。
【0090】
以下、人工ルーメン試験の結果を反応条件ごとに説明する。
【0091】
・野生株、2-4株、3-12株を同一の品温パターンかつ同一の初期含水率で培養した場合
品温パターンをベースパターンとし、初期含水率60%で培養した野生株の基質培養物(前記(1)の基質培養物)を添加した試験区に比して、同一の品温パターンかつ同一の初期含水率で培養した2-4株の基質培養物(前記(2)の基質培養物)を添加した試験区の方が、大豆粕の消化率は最大9.9%、菜種粕の消化率は最大10.5%高かった。また、品温パターンをベースパターンとし、初期含水率60%で培養した野生株の基質培養物(前記(1)の基質培養物)を添加した試験区に比して、3-12株の基質培養物(前記(4)の基質培養物)を添加した試験区の方が、大豆粕の消化率は最大13.1%、菜種粕の消化率は最大14.7%高かった。
【0092】
上記の結果から、今回評価した野生株、2-4株及び3-12株については、同一の品温パターンかつ同一の初期含水率で培養した場合、野生株よりも2-4株及び3-12株を固体培養した方が、大豆粕及び菜種粕の消化に有効な基質培養物が得られることがわかった。次に、2-4株及び3-12株について、ベースパターンで培養した場合の初期含水率による影響を評価した。
【0093】
・2-4株を同一の品温パターンで培養し、初期含水率を変えた場合
初期含水率50%の基質培養物(前記(3)の基質培養物)を添加した試験区に比して、初期含水率60%の基質培養物(前記(2)の基質培養物)を添加した試験区の方が、大豆粕の消化率は1.6%~8.2%、菜種粕の消化率は3.5%~5.1%高かった。
【0094】
・3-12株を同一の品温パターンで培養し、初期含水率を変えた場合
初期含水率50%の基質培養物(前記(5)の基質培養物)を添加した試験区に比して、初期含水率60%の基質培養物(前記(4)の基質培養物)を添加した試験区の方が、大豆粕の消化率は1.9%~5.5%、菜種粕の消化率は2.2%~4.0%高かった。
【0095】
上記の結果から、今回評価した2-4株及び3-12株については、初期含水率60%で固体培養した方が、大豆粕及び菜種粕の消化に有効な基質培養物が得られることがわかった。そこで、3-12株について、初期含水率60%で培養した場合の品温パターンによる影響を評価した。
【0096】
・3-12株を同一の初期含水率で培養し、品温パターンを変えた場合
ベースパターンの基質培養物(前記(4)の基質培養物)を添加した試験区に比して、低温パターンの基質培養物(前記(6)の基質培養物)を添加した試験区の方が、大豆粕の消化率は最大1.0%、菜種粕の消化率は最大0.8%高かった。
【0097】
上記の結果から、今回評価した3-12株については、低温パターンで固体培養した方が、大豆粕及び菜種粕の消化に有効な基質培養物が得られることがわかった。上記の実施例では、大豆粕及び菜種粕の消化率を人工ルーメン法により評価したが、例えば、ゴマの搾り粕やトウモロコシの搾り粕などのその他の飼料についても消化率の向上が確認できた。また、例えば、フィターゼ(phyA)、キシラナーゼ(xynG1)及びペクチンリアーゼ(pelA)の3種類を高発現する株や、フィターゼ(phyA)、ポリガラクチュロナーゼ(pgaB)、タンナーゼ(tanA)及びペクチンリアーゼ(pelA)の4種類を高発現する株など、上記の実施例で評価した株以外についても固体培養したところ、人工ルーメン法において大豆粕及び菜種粕の消化に有効な基質培養物が得られた。以上の結果から、本発明の方法により製造された基質培養物を飼料として動物に与えれば、前記分解酵素の作用により飼料の消化率が向上することが明確になった。さらに、前記基質培養物には糸状菌の菌糸を構成する多糖類が含まれており、摂取した動物の免疫力が向上することが期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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