(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】ダイヤモンド電界効果トランジスタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20240521BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
H01L29/78 301B
H01L29/78 301G
H01L29/78 301S
(21)【出願番号】P 2020041416
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原田 洋
(72)【発明者】
【氏名】費 文茜
(72)【発明者】
【氏名】畢 特
(72)【発明者】
【氏名】岩瀧 雅幸
【審査官】石塚 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-175278(JP,A)
【文献】特開2020-035917(JP,A)
【文献】特開2006-216716(JP,A)
【文献】特開平10-125932(JP,A)
【文献】原 壮志 ほか,ダイヤモンド上SiO2ゲート絶縁膜の形成と評価,第62回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集,公益社団法人応用物理学会,2015年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のダイヤモンド層と、
前記第1のダイヤモンド層の表面に設けられたシリコン酸化膜を含むゲート絶縁膜と、前記第1のダイヤモンド層の表面に互いに離間して設けられたソース領域及びドレイン領域と、前記ゲート絶縁膜上に設けられたゲート電極と、を備え、
前記第1のダイヤモンド層と前記
シリコン酸化膜との界面に、炭素原子とシリコン原子との結合からなるC-Si結合を
主として含むシリコン終端層を含む、
ことを特徴とするダイヤモンド電界効果トランジスタ。
【請求項2】
前記ソース領域及び前記ドレイン領域は、前記第1のダイヤモンド層の表面において前記シリコン酸化膜が形成された以外の領域に形成された第2のダイヤモンド層である
ことを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド電界効果トランジスタ。
【請求項3】
前記第2のダイヤモンド層と前記シリコン酸化膜との界面に、炭素原子とシリコン原子との結合からなるC-Si結合を
主として含むシリコン終端層を含む
ことを特徴とする請求項2に記載のダイヤモンド電界効果トランジスタ。
【請求項4】
前記第1のダイヤモンド層と前記
シリコン酸化膜との界面及び前記第2のダイヤモンド層と前記シリコン酸化膜との界面に、前記C-Si結合を
主として含むシリコン終端層を複数含む
ことを特徴とする請求項3に記載のダイヤモンド電界効果トランジスタ。
【請求項5】
前記第2のダイヤモンド層は、ノンドープのダイヤモンド層である
ことを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載のダイヤモンド電界効果トランジスタ。
【請求項6】
前記第2のダイヤモンド層は、p型の不純物がドープされたダイヤモンド層である
ことを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載のダイヤモンド電界効果トランジスタ。
【請求項7】
前記ソース領域及び前記ドレイン領域の前記第2のダイヤモンド層の表面上に、前記ソース領域及び前記ドレイン領域の端部から所定の間隔を設けてそれぞれ接続されたソース電極及びドレイン電極を備え、
少なくとも前記所定の間隔内の前記第2のダイヤモンド層の表面に、炭素原子と水素原子との結合からなるC-H結合を含む水素終端層を含む
ことを特徴とする請求項2~6のいずれか1項に記載のダイヤモンド電界効果トランジスタ。
【請求項8】
第1のダイヤモンド層の表面にシリコン酸化膜を形成する工程と、
前記第1のダイヤモンド層の表面にソース領域及びドレイン領域を形成する工程と、
前記
シリコン酸化膜を含むゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、
前記第1のダイヤモンド層と前記シリコン酸化膜との界面に炭素原子とシリコン原子との結合からなるC-Si結合を含むシリコン終端層を形成する工程とを含
み、
前記第1のダイヤモンド層の表面に前記ソース領域及び前記ドレイン領域を形成する工程は、前記シリコン酸化膜の一部を除去し、前記第1のダイヤモンド層の表面の一部を露出させる工程と、前記第1のダイヤモンド層の露出させた表面に第2のダイヤモンド層を選択エピタキシャル成長させる工程を含む
ことを特徴とするダイヤモンド電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項9】
前記第2のダイヤモンド層と前記シリコン酸化膜との界面に、炭素原子とシリコン原子との結合からなるC-Si結合を含むシリコン終端層を形成する工程を含む
ことを特徴とする請求項
8に記載のダイヤモンド電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項10】
前記第1のダイヤモンド層と前記シリコン酸化膜との界面にC-Si結合を含むシリコン終端層を形成する工程及び前記第2のダイヤモンド層と前記シリコン酸化膜との界面にC-Si結合を含むシリコン終端層を形成する工程は、前記界面に前記C-Si結合を含むシリコン終端層を複数形成する工程である
ことを特徴とする請求項
9に記載のダイヤモンド電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項11】
第1のダイヤモンド層の表面にシリコン酸化膜を形成する工程と、
前記第1のダイヤモンド層の表面にソース領域及びドレイン領域を形成する工程と、
前記シリコン酸化膜を含むゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、
前記第1のダイヤモンド層と前記シリコン酸化膜との界面に炭素原子とシリコン原子との結合からなるC-Si結合を含むシリコン終端層を形成する工程とを含み、
前記C-Si結合を含むシリコン終端層を形成する工程は、還元性雰囲気中でのプラズマ処理を含む
ことを特徴とす
るダイヤモンド電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項12】
前記第1のダイヤモンド層と前記シリコン酸化膜との界面にC-Si結合を含むシリコン終端層を形成する工程と、前記第2のダイヤモンド層と前記シリコン酸化膜との界面にC-Si結合を含むシリコン終端層を形成する工程と、前記第1のダイヤモンド層の露出させた表面に前記第2のダイヤモンド層を選択エピタキシャル成長させる工程とを、同一の還元性雰囲気中でのプラズマ処理にて同時に実施する
ことを特徴とする請求項
9に記載のダイヤモンド電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項13】
前記第2のダイヤモンド層を選択エピタキシャル成長させる工程は、ノンドープのダイヤモンド層をエピタキシャル成長させる工程である
ことを特徴とする請求項
8に記載のダイヤモンド電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項14】
前記第2のダイヤモンド層を選択エピタキシャル成長させる工程は、p型の不純物をドープしたダイヤモンド層をエピタキシャル成長させる工程である
ことを特徴とする請求項
8に記載のダイヤモンド電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項15】
前記第2のダイヤモンド層の表面上に、前記シリコン酸化膜の端部から所定の間隔を設けてそれぞれ接続されたソース電極及びドレイン電極を形成する工程と、
少なくとも前記所定の間隔内の前記第2のダイヤモンド層の表面に、炭素原子と水素原子との結合からなるC-H結合を含む水素終端層を形成する工程とを含む
ことを特徴とする請求項
8に記載のダイヤモンド電界効果トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド電界効果トランジスタ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、高電圧、大電流動作が必要とされる大電力用のパワーデバイスに適した半導体材料として期待されている。ダイヤモンド基板の表面を水素終端してC-H結合を形成することによって、ダイヤモンド基板の表面直下に2次元正孔ガス(2DHG:2 Dimensional Hole Gas)を誘起し、ダイヤモンド電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)として動作させる技術が提案されている。ダイヤモンドFETでは、ゲート絶縁膜としてAl2O3(アルミナ)が使用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一方、Si(シリコン)基板上に作製するFETとしては、ゲート絶縁膜にはSiO2(シリコン酸化膜)を使用したMOS(Metal-Oxide-Semiconductor)型が広く利用されている。SiO2で形成されたゲート絶縁膜は、Al2O3(アルミナ)等で形成されたゲート絶縁膜に比べて安定した化学的結合構造を有し、絶縁膜としての信頼性が高いことが知られている。
【0004】
ダイヤモンド基板の表面をSi(シリコン)終端する技術については、モノレイヤーのみを作製した試料での基礎的な検討結果が報告されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「"Formation of a silicon terminated (100) diamond surface", Alex Schenk, Anton Tadich, Michael Sear, Kane M. O’Donnell, Lothar Ley, Alastair Stacey, and Chris Pakes, APPLIED PHYSICS LETTERS 106, 191603 (2015)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ダイヤモンドFETにおいては、ゲート絶縁膜とダイヤモンド基板との界面に形成されるC(カーボン)原子とO(酸素)原子からなるC-O結合によって界面準位密度が増加するという課題があり、MOS型FETの実用化にあたっては、界面準位密度を低減することが求められていた。しかしながら、これまで、ダイヤモンド表面上にC-O結合に代わりC-Si結合層を介してゲート絶縁膜としてシリコン酸化膜を形成したMOS型FETに関する報告はされていない。更に、ダイヤモンド表面上にゲート絶縁膜としてシリコン酸化膜を形成したMOS型FETが、高電圧、大電流動作が必要とされる大電力用のパワーデバイスに要求されるレベルの特性を発揮できるか否かについては不明であった。また、非特許文献1は、ダイヤモンド基板上にモノレイヤー分のシリコン終端層を形成したサンプルを用いて、結晶性に関する基礎的な検討をする段階に留まっており、電気的特性評価についての報告はない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、界面準位密度を低減するためにC-Si結合を含むシリコン終端層を備えたゲート絶縁膜としてシリコン酸化膜を用いるダイヤモンド電界効果トランジスタ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のダイヤモンド電界効果トランジスタは、第1のダイヤモンド層と、前記第1のダイヤモンド層の表面に設けられたシリコン酸化膜を含むゲート絶縁膜と、前記第1のダイヤモンド層の表面に互いに離間して設けられたソース領域及びドレイン領域と、前記ゲート絶縁膜上に設けられたゲート電極とを備え、前記第1のダイヤモンド層と前記ゲート絶縁膜との界面に、炭素原子とシリコン原子との結合からなるC-Si結合を含むシリコン終端層を含むものである。
【0010】
また、本発明のダイヤモンド電界効果トランジスタの製造方法は、第1のダイヤモンド層の表面にシリコン酸化膜を形成する工程と、前記第1のダイヤモンド層の表面にソース領域及びドレイン領域を形成する工程と、前記ゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、前記第1のダイヤモンド層と前記シリコン酸化膜との界面に炭素原子とシリコン原子との結合からなるC-Si結合を含むシリコン終端層を形成する工程とを含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、C-O結合に代わりC-Si結合を含むシリコン終端層を備えることで界面準位密度を低減することができるダイヤモンド電界効果トランジスタ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るFETの構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るFETの動作説明図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係るFETの製造方法を段階的に示す断面図であり、シリコン酸化膜を形成した段階の断面図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係るFETの製造方法を段階的に示す断面図であり、シリコン酸化膜をエッチングした段階の断面図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係るFETの製造方法を段階的に示す断面図であり、シリコン終端層を形成した段階の断面図である。
【
図6】本発明の第1実施形態に係るFETの製造方法を段階的に示す断面図であり、ソース電極及びドレイン電極を形成した段階の断面図である。
【
図7】本発明の第1実施形態に係るFETの製造方法を段階的に示す断面図であり、水素終端層を形成した段階の断面図である。
【
図8】本発明の第1実施形態に係るFETの製造方法を段階的に示す断面図であり、フォトレジストマスクを形成した段階の断面図である。
【
図9】本発明の第1実施形態に係るFETの製造方法を段階的に示す断面図であり、チャネル部以外のシリコン酸化膜を除去した段階の断面図である。
【
図10】本発明の第1実施形態に係るFETの製造方法を段階的に示す断面図であり、素子分離層を形成した段階の断面図である。
【
図11】本発明の第1実施形態に係るFETの製造方法を段階的に示す平面図であり、絶縁膜を形成した段階の断面図である。
【
図12】本発明の第1実施形態に係るFETの製造方法を段階的に示す平面図であり、シリコン酸化膜をエッチングした段階の平面図である。
【
図13】本発明の第1実施形態に係るFETの製造方法を段階的に示す平面図であり、シリコン終端層を形成した段階の平面図である。
【
図14】本発明の第1実施形態に係るFETの製造方法を段階的に示す平面図であり、ソース電極及びドレイン電極を形成した段階の平面図である。
【
図15】本発明の第1実施形態に係るFETの製造方法を段階的に示す平面図であり、水素終端層を形成した段階の平面図である。
【
図16】本発明の第1実施形態に係るFETの製造方法を段階的に示す断面図であり、フォトレジストマスクを形成した段階の平面図である。
【
図17】本発明の第1実施形態に係るFETの製造方法を段階的に示す断面図であり、チャネル部以外のシリコン酸化膜を除去した段階の平面図である。
【
図18】本発明の第1実施形態に係るFETの製造方法を段階的に示す断面図であり、素子分離層を形成した段階の平面図である。
【
図19】本発明の第1実施形態に係るFETの製造方法を段階的に示す断面図であり、フォトレジストマスクを除去した段階の平面図である。
【
図20】本発明の第2実施形態に係るFETの構成を示す断面図である。
【
図21】本発明の第2実施形態に係るFETの動作説明図である。
【
図22】本発明の第2実施形態に係るFETの製造方法を段階的に示す断面図であり、ダイヤモンド層及びシリコン終端層を形成した段階の断面図である。
【
図23A】本発明の第1実施例に係るFET100Aの測定結果を示すグラフであり、ドレイン電圧-ドレイン電流特性を示すグラフである。
【
図23B】本発明の第1実施例に係るFET100Aの測定結果を示すグラフであり、ゲート電圧-ドレイン電流特性を示すグラフにおいて縦軸をリニアスケールとしたグラフである。
【
図23C】本発明の第1実施例に係るFET100Aの測定結果を示すグラフであり、ゲート電圧-ドレイン電流特性を示すグラフにおいて縦軸をログスケールとしたグラフである。
【
図24A】本発明の第2実施例に係るFET100Bの測定結果を示すグラフであり、ドレイン電圧-ドレイン電流特性を示すグラフである。
【
図24B】本発明の第2実施例に係るFET100Bの測定結果を示すグラフであり、ゲート電圧-ドレイン電流特性を示すグラフにおいて縦軸をリニアスケールとしたグラフである。
【
図24C】本発明の第2実施例に係るFET100Bの測定結果を示すグラフであり、ゲート電圧-ドレイン電流特性を示すグラフにおいて縦軸をログスケールとしたグラフである。
【
図25A】本発明の第3実施例に係るXPSの分析結果を示す図であり、50~550eVの結合エネルギー強度を示す図である。
【
図25B】本発明の第3実施例に係るXPSの分析結果を示す図であり、280~290eVの結合エネルギー強度を示す図である。
【
図26A】本発明の第4実施例に係るFET100Aの断面観察及び元素分析結果を示す図であり、TEMによる撮像図である。
【
図26B】本発明の第4実施例に係るFET100Aの断面観察及び元素分析結果を示す図であり、C原子の検出結果を示す図である。
【
図26C】本発明の第4実施例に係るFET100Aの断面観察及び元素分析結果を示す図であり、Si原子の検出結果を示す図である。
【
図26D】本発明の第4実施例に係るFET100Aの断面観察及び元素分析結果を示す図であり、元素分析結果を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係るダイヤモンド電界効果トランジスタ100A(以下、FET100Aと称する)の全体構成について
図1を参照して説明する。
図1はFET100Aの構成を示す断面図である。
【0014】
図1において、第1実施形態に係るFET100Aは、ダイヤモンド基板1A上にエピタキシャル成長させたノンドープのダイヤモンド層2Aが形成されている。ノンドープのダイヤモンド層2Aの厚さは例えば200nm以上5μm以下の範囲内である(以下の説明では、ノンドープのダイヤモンド層2Aをダイヤモンド層2Aと称することがある)。
【0015】
ノンドープのダイヤモンド層2A上の一部の領域には、シリコン酸化膜3Aが形成されている。シリコン酸化膜3Aの厚さは例えば250nmである。
【0016】
ノンドープのダイヤモンド層2A上には更に、互いに離間して形成された一対のノンドープのダイヤモンド層4Aが形成されている。一対のノンドープのダイヤモンド層4Aの一方がFET100Aのソース領域として機能し、他方がドレイン領域として機能する。以下の説明では、この一対のノンドープのダイヤモンド層4Aの一方(図中左側)をソース側のノンドープ・ダイヤモンド層4A、他方(図中右側)をドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aと称する。または、ソース側のダイヤモンド層4A、ドレイン側のダイヤモンド層4Aと称することもある。特にソース側とドレイン側を区別して説明しない場合は、単にノンドープ・ダイヤモンド層4Aと称する。
【0017】
ソース側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aは、シリコン酸化膜3Aのソース側の側面に接し、ドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aは、シリコン酸化膜3Aのドレイン側の側面に接している。これらのソース側及びドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aは、シリコン酸化膜3Aをマスクとして、ノンドープのダイヤモンド層2A上に選択エピタキシャル成長させた層である。その厚さは例えば300nmである。
【0018】
ソース側及びドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aの上端部には、それぞれシリコン酸化膜3Aの上部表面の一部を覆う庇状の形状を有する庇部4aが形成されている。庇部4aの厚さ及び長さは、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの厚さとシリコン酸化膜3Aの厚さとの差に対応して変化する。本実施形態では、上記のように、シリコン酸化膜3Aの厚さは例えば250nmであり、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの厚さは例えば300nmであるため、厚さの差は50nmとなる。庇部4aの厚さ及び長さは、この厚さの差に対応して50nm程度となる。
【0019】
なお、庇部4aは必要に応じて省略することが可能である。庇部4aを省略する場合は、シリコン酸化膜3Aの厚さに対して、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aを薄く形成する、または、ほぼ同一の厚さに形成すればよい。
【0020】
ダイヤモンド表面のC(カーボン)原子にSi(シリコン)原子を直接結合させてC-Si結合とすることを、以下の説明では、シリコン終端と称する。本実施形態では、また、C-Si結合を主として含む層を、シリコン終端層5Aと称する。
【0021】
本実施形態では、
図1に示すように、ノンドープのダイヤモンド層2Aとシリコン酸化膜3Aとの界面、及び、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aとシリコン酸化膜3Aとの界面に、C-Si結合を含むシリコン終端層5Aが形成されている。シリコン終端層5Aは、単層であってもよく、複数の層であると好ましい。ただし、シリコン終端層5Aに含まれるC原子がすべてSi原子と結合してC-Si結合を形成している必要はない。
【0022】
ソース側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aの表面上にはソース電極6Aが形成されており、ドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aの表面上にはドレイン電極7Aが形成されている。ソース電極6A及びドレイン電極7Aと、庇部4aを含まないソース側及びドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aの端部との間には、それぞれ所定の間隔が設けられている。ソース電極6A及びドレイン電極7Aは、それぞれ、Ti層、Pt層、Au層を順次積層させた構成となっており、ソース側及びドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aとそれぞれオーミック接続している。Ti層とノンドープ・ダイヤモンド層4Aとの間にはTiCからなるカーバイド層が形成されている。なお、
図1においては、Ti層、Pt層、Au層及びカーバイド層の図示を省略している。
【0023】
ダイヤモンドの表面のC原子に、H(水素)を結合させ、C-H結合を形成することを、以下の説明では、水素終端と称する。また、本実施形態では、C-H結合を主として含む層を、水素終端層8Aと称する。
【0024】
本実施形態では、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの表面上の一部に、水素終端層8Aが形成されている。具体的には、
図1に示すように、水素終端層8Aは、ソース電極6A及びドレイン電極7Aのそれぞれの端部から庇部4aを含むノンドープ・ダイヤモンド層4Aの端部まで間の領域に形成されている。
【0025】
水素終端層8Aにより、水素終端層8Aの直下のソース側及びドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aの内部には図示しない2次元正孔ガス(2DHG)が誘起され、p型導電層を形成することができる。なお、水素終端層8AはFET100Aに要求される仕様に応じて省略することもできる。
【0026】
シリコン酸化膜3A上、ノンドープ・ダイヤモンド層4A上、ソース電極6A上及びドレイン電極7A上には、絶縁膜10Aが形成されている。絶縁膜10Aは、例えばAl2O3(アルミナ)とすればよく、その厚さは、例えば100nm以上300nm以下の範囲内とすればよい。また、絶縁膜10Aは、他の絶縁膜、例えば、アルミニウムシリケート(AlSiO)膜、シリコン窒化膜(SixNy)でもよい。
【0027】
シリコン酸化膜3A上の絶縁膜10Aは、シリコン酸化膜3Aと共にゲート絶縁膜11Aを構成している。ゲート絶縁膜11Aの厚さは、シリコン酸化膜3Aの厚さを上記のように例えば250nmとした場合、例えば350nm以上550nm以下の範囲内となる。
【0028】
なお、このシリコン酸化膜3A上の絶縁膜10Aについては、その有無によって、FET100Aの主要な特性に変化は生じない。これは、FET100AのようにMOS型構造を有するFETでは、ノンドープのダイヤモンド層2Aの表面上に直接形成されているシリコン酸化膜3Aによって重要な特性が決定されるためである。より具体的には、FET100Aの特性は、ノンドープのダイヤモンド層2Aの表面と、その表面に直接形成されているシリコン酸化膜3Aとの界面に大きく依存する。そのため、シリコン酸化膜3A上の絶縁膜10Aは必要に応じて省略可能である。シリコン酸化膜3A上の絶縁膜10Aを省略する場合は、ゲート絶縁膜11Aはシリコン酸化膜3Aのみで構成される。ゲート絶縁膜11Aをシリコン酸化膜3Aのみで構成した場合のFET100Aの電気特性の変化分の調整、例えば閾値電圧の調整等は、シリコン酸化膜3Aの厚さを増加させること等で調整することができる。
【0029】
ノンドープ・ダイヤモンド層4A上の絶縁膜10Aは、ソース側及びドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aの表面、特に、水素終端層8Aを保護するパッシベーション膜として機能する。水素終端層8Aが存在することで、その直下のノンドープ・ダイヤモンド層4Aに2次元正孔ガスが誘起されるため、このようにノンドープ・ダイヤモンド層4Aを絶縁膜10Aで被覆して保護することが望ましい。ソース電極6A上及びドレイン電極7A上の絶縁膜10Aは、ソース電極6A及びドレイン電極7Aとゲート電極12Aとの間をそれぞれ絶縁する層間絶縁膜として機能する。
【0030】
ゲート電極12Aは、ゲート絶縁膜11A上に、例えばAl(アルミニウム)を用いて100nm程度の厚さで形成されている。FET100Aのゲート長は、ゲート電極12Aの幅ではなく、ノンドープのダイヤモンド層2A上のシリコン酸化膜3Aの幅LSiO2で定義する。このシリコン酸化膜3Aの幅は、庇部4aを含まない場合におけるソース側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aとドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aの間隔と同じである。また、本実施形態では、ソース電極6Aとドレイン電極7Aとの間隔をLSDと定義する。
【0031】
素子分離層9Aは、FET100Aのチャネル部以外の領域のノンドープのダイヤモンド層2A及びノンドープ・ダイヤモンド層4Aの表面の一部を絶縁体化して電気的に分離する。素子分離層9Aは、ノンドープのダイヤモンド層2Aの表面、及び、ダイヤモンド層4Aの表面のC原子に、O原子を結合させ、C-O結合とすることで形成されている。
【0032】
(動作原理)
次にFET100Aの動作原理について
図2を参照して説明する。以下の説明では、ドレイン電圧をV
DS、ゲート電圧をV
GSと称する。FET100Aは、ゲート電極12Aに印加するゲート電圧V
GSによって、ソース電極6Aからドレイン電極7Aに流れるドレイン電流I
DSが制御され、FET100Aのオンとオフを切り替えることができる。FET100Aはp型のMOS型の構造を有するFETであり、ドレイン電流I
DSは、正孔Hをキャリアとする正孔電流である。
【0033】
従来、ダイヤモンドFETは、ダイヤモンド基板の表面を水素終端してC-H結合を形成することによって、ダイヤモンド基板の表面直下に2次元正孔ガス(2DHG)を発生させてFETとして動作させている。この2DHGは、ゲート電圧=0Vの際にも発生しているため、ソースとドレインとの間に電位差がある場合は常に正孔電流が流れることとなる。この状態はノーマリオンと呼ばれ、パワーデバイス用のFETにおいては、特に解決すべき課題の一つである。
【0034】
FET100Aはエンハンスメント型のFETであり、ノーマリオフ化を実現している。FET100Aがオフ状態(VGS=0V)の場合においても、水素終端層8Aが形成されているソース側及びドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aの表面直下には、水素終端層8AのC-H結合によって2次元正孔ガスが発生している。一方、水素終端層8Aが存在しないノンドープのダイヤモンド層2Aの表面には2次元正孔ガスは発生しない。これにより、FET100Aでは、ソース側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aの内部で発生した2次元正孔ガスと、ドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aの内部で発生した2次元正孔ガスは分断され、連続して存在していない。そのため、FET100Aがオフ状態(VGS=0V)では、正孔は、ソース側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aからノンドープのダイヤモンド層2Aを横切り、ドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aを通過してドレイン電極7Aまで到達できない。結果として、FET100Aのソースとドレインとの間に電流は流れないため、ノーマリオンとはならない。
【0035】
FET100Aをオン状態とするには、例えば、VGS=-5V、VDS=-10Vとする。FET100Aをオン状態からオフ状態とするには、VDS=-10Vを維持したまま、VGS=0Vとする。FET100Aは、従来のダイヤモンドFETとは異なり、ノーマリオフのエンハンスメント型のFETであるため、VGS=0Vとすることで、FET100Aをオフ状態とすることができる。
【0036】
次に、FET100Aがオン状態の場合における正孔電流の流れを説明する。ゲート電極12Aに印加されるゲート電圧V
GSが0Vの状態でも、ソース電極6Aの端部から庇部4aまでのノンドープ・ダイヤモンド層4Aの表面直下には、ソース側の水素終端層8Aによって2次元正孔ガスが誘起されている。上記のようにオン状態に相当するゲート電圧V
GS及びドレイン電圧V
DSがFET100Aに印加されると、正孔Hはソース電極6Aからドレイン電極7Aに向かって移動を開始する。正孔Hはソース側の水素終端層8Aによってソース側の庇部4aを含むノンドープ・ダイヤモンド層4Aの表面直下に誘起されている2次元正孔ガスを介してソース側の庇部4aの内部を流れ、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aとシリコン酸化膜3Aとの界面に存在するシリコン終端層5A付近に到達し、このシリコン終端層5Aに沿って、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの内部をノンドープのダイヤモンド層2Aの方向(
図2の下方向)に移動する。FET100Aは、抵抗の高いノンドープ・ダイヤモンド層4Aを使用しているため、上記のように2次元正孔ガスを利用している。2次元正孔ガスを誘起するための水素終端層8Aを設けない場合は、FET100Aのオン電流は低下する。FET100Aの特性を向上させるためには、水素終端層8Aを形成することが好ましい。
【0037】
次いで、正孔Hは、ノンドープのダイヤモンド層2Aとシリコン酸化膜3Aとの界面にあるシリコン終端層5Aに沿ってノンドープのダイヤモンド層2Aの内部をドレイン側に移動する。次いで、ドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aとシリコン酸化膜3Aとの界面にあるシリコン終端層5Aに沿ってノンドープ・ダイヤモンド層4Aの内部をドレイン側の庇部4aの方向(
図2の上方向)に移動する。正孔Hは、ドレイン側の水素終端層8Aによってドレイン側の庇部4aを含むノンドープ・ダイヤモンド層4Aの表面直下に誘起されている2次元正孔ガスを介してドレイン電極7Aに到達する。これにより、FET100Aのオン電流がソース電極6Aからドレイン電極7Aに流れることとなる。
【0038】
正孔Hは、シリコン終端層5Aの内部を流れずに、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの内部を移動する。シリコン酸化膜3Aとノンドープ・ダイヤモンド層4Aとの間には、0.8eV-1.6eV程度のエネルギー障壁があるため、正孔Hはシリコン終端層5Aに沿って、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの内部に留められたまま移動する。
【0039】
(製造方法)
次に、第1実施形態に係るFET100Aの製造方法を説明する。まず、
図3に示すように、ダイヤモンド基板1Aの表面上に、マイクロ波CVD(Chemical Vaper Deposition)法により、ノンドープのダイヤモンド層2A(以下、ダイヤモンド層2Aと称する場合もある)を、例えば200nm以上5μm以下の厚さでエピタキシャル成長させて形成する。次に、ノンドープのダイヤモンド層2Aの表面上に、プラズマCVD法により、シリコン酸化膜3Aを例えば250nmの厚さで形成する。
【0040】
続いて、フォトレジストのマスクをシリコン酸化膜3A上に形成する。フォトレジストのマスクは、一般的なフォトリソグラフィ法を用いればよい。次いで、RIE(Reactive Ion Etching)法によって、フォトレジストのマスクで被覆されていない領域のシリコン酸化膜3Aを選択的にエッチングして除去した後、フォトレジストを除去する。これらの工程により、ダイヤモンド基板1A上には、ノンドープのダイヤモンド層2A上にシリコン酸化膜3Aが形成されている領域と、シリコン酸化膜3A除去され、ノンドープのダイヤモンド層2Aが露出している領域が形成される。
【0041】
この段階における断面図が
図4であり、平面図が
図12である。
図4の断面図は、
図12の平面図におけるA-A’の位置の断面を示している(なお、以降説明する断面図も対応する平面図のA-A’の位置の断面図である)。
図4及び
図12において、中央に位置するシリコン酸化膜3Aの横方向の幅が、FET100Aのゲート長L
SiO2に対応している。
【0042】
次に、露出しているノンドープのダイヤモンド層2A上に、上記エッチング処理で形成したシリコン酸化膜3Aをマスクとして、CVD装置を用いて、還元性雰囲気中での高温プラズマ処理により、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aを選択エピタキシャル成長させて形成する。ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの厚さは、例えば300nmとする。
【0043】
ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの選択エピタキシャル成長条件としては、例えば、成長温度を800℃以上とし、水素を90%以上99.9%以下及びメタンを0.1%以上10%以下含む還元性雰囲気として、プラズマを放電させて実施することが好ましい。
【0044】
ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの選択エピタキシャル成長はホモエピタキシャル成長(homo-epitaxial growth)であり、成長層は同一材料上にエピタキシャル成長する。本実施形態では、成長層であるノンドープ・ダイヤモンド層4Aは、露出しているノンドープのダイヤモンド層2A上に選択的にエピタキシャル成長し、シリコン酸化膜3A上にはエピタキシャル成長しない。
【0045】
ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの選択エピタキシャル成長は、露出しているノンドープのダイヤモンド層2Aの表面から始まり、その後は上方に向かって進行する。上記のように、本実施形態では、シリコン酸化膜3Aの厚さは250nmであり、ダイヤモンド層4Aの厚さは300nmとしている。そのため、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aは、シリコン酸化膜3Aの上端部を乗り越えて、シリコン酸化膜3Aの上部表面の一部を覆う庇状の形状である庇部4aを形成する(
図5)。
【0046】
庇部4aの高さ方向、すなわち、シリコン酸化膜3Aの上表面に乗り上げているダイヤモンド層4Aの厚さは、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの厚さである300nmとシリコン酸化膜3Aの厚さである250nmとの差分値に対応して、50nm程度となる。また、庇部4aの庇の長さ、すなわち、シリコン酸化膜3Aの表面上に乗り上げているノンドープ・ダイヤモンド層4Aの長さも、高さ方向と同様に50nm程度となる。これは、選択エピタキシャル成長の特性として、遮蔽物(この場合はシリコン酸化膜3A)がない場合は、成長は上方向と横方向にほぼ均等に進行するためである。
【0047】
上記のように、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの形成した後の断面図が
図5、平面図が
図13である。
図13の平面図では、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの形成前にノンドープのダイヤモンド層2Aが露出していた領域を点線で示し、庇部4aを含むノンドープ・ダイヤモンド層4Aの外周部を実線で示している。庇部4aを含むノンドープ・ダイヤモンド層4Aは、ノンドープのダイヤモンド層2Aが露出していた領域の外側に、庇部4aの長さの分だけ拡張された形状となっている。
【0048】
シリコン終端層5Aは、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの選択エピタキシャル成長中に、ノンドープのダイヤモンド層2Aとシリコン酸化膜3Aとの界面、及び、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aとシリコン酸化膜3Aとの界面に形成される。より具体的には、
図5に示すように、ノンドープのダイヤモンド層2Aの表面とシリコン酸化膜3Aの底面との界面、ソース側及びドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aの側面とシリコン酸化膜3Aの両側面との界面、及び、ソース側及びドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aの庇部4aの底面とシリコン酸化膜3Aの上部表面の一部との界面に、シリコン終端層5Aは形成される。
【0049】
次に、ノンドープ・ダイヤモンド層4A上及びシリコン酸化膜3A上に、フォトリソグラフィ法で、ソース電極6A及びドレイン電極7Aを形成する領域のみが開口したフォトレジストを形成する。続いて、露出しているノンドープ・ダイヤモンド層4A上及びフォトレジストマスク上に、ソース電極6A及びドレイン電極7Aを構成する金属、例えばTi、Pt(白金)及びAlからなる金属の積層膜をスパッタリング法または蒸着法で順次成膜する。それぞれの厚さは、例えば、Tiを20nm、Ptを30nm、Auを100nmとすればよい。続いて、アセトン等の有機溶媒を用いて、フォトレジスト及びフォトレジスト上に製膜された金属の積層膜を除去する。このように、リフトオフプロセスによって、ソース側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aの表面上にはソース電極6Aが形成され、ドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aの表面上にはドレイン電極7Aが形成される。フォトレジストを除去した後の、この段階における断面図が
図6、平面図が
図14である。
【0050】
図6及び
図14に示すように、ソース電極6A及びドレイン電極7Aと、庇部4aを含まないソース側及びドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aの端部との間には、それぞれ所定の間隔、例えば5μmが設けられている。従って、シリコン酸化膜3Aの横幅に対応するゲート長L
SiO2が6μmの場合、ソース電極6Aとドレイン電極7Aの間隔L
SDは16μmとなる。
【0051】
次いで、アニール処理によって、Ti層をTiC化するカーバイド処理を行う。このアニール処理は、水素ガスを導入した低圧雰囲気下でダイヤモンド基板1Aを所定時間加熱した後、ダイヤモンド基板1Aを急冷する処理である。これにより、Ti層とソース側及びドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aとの間には、図示しないTiCからなるカーバイド層が形成され、ソース電極6A及びドレイン電極7Aとノンドープ・ダイヤモンド層4Aとの間に低抵抗のオーミックコンタクトが形成される。
【0052】
続いて、ダイヤモンド基板1Aを加熱しながら水素プラズマに曝す。これによって、露出しているノンドープ・ダイヤモンド層4Aの表面のC原子と水素プラズマ中のH原子が反応し、C-H結合からなる水素終端層8Aが形成される。この段階における断面図が
図7、平面図が
図15である。
【0053】
シリコン酸化膜3Aで被覆されている領域のノンドープのダイヤモンド層2Aは水素プラズマに曝されないため、水素終端されることはない。同様に、ソース電極6A及びドレイン電極7Aで被覆されている領域のノンドープ・ダイヤモンド層4Aも水素終端されない。
【0054】
なお、上記のように、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの選択エピタキシャル成長は、水素を多く含む還元性雰囲気中で行っている。そのため、選択エピタキシャル成長中に、ソース側及びドレイン側のダイヤモンド層4Aが十分に水素終端されている場合は、上記の水素プラズマ照射の工程を省略することができる。
【0055】
続いて、フォトリソグラフィ法によって、フォトレジスト30を形成する。この段階における断面図が
図8、平面図が
図16である。フォトレジスト30は、FET100Aのチャネル部となる領域とソース電極6A及びドレイン電極7Aのほぼすべての領域を覆うように形成している。なお、説明を容易にするために、
図8及び
図16においてはフォトレジスト30はソース電極6A及びドレイン電極7Aの端部まで形成されているが、フォトリソグラフィ工程での位置合わせ余裕を考慮して、ソース電極6A及びドレイン電極7Aの端部より例えば数μm内側までをフォトレジスト30で被覆するようにしてもよい。
【0056】
次いで、フォトレジスト30をマスクとして、RIE法によって、露出している領域のシリコン酸化膜3Aを選択的にエッチングして除去する。この段階での断面図が
図9であり、平面図が
図17である。シリコン酸化膜3Aは、FET100Aのチャネル部のみ、ソース側のダイヤモンド層4Aとドレイン側のダイヤモンド層4Aとの間の一部の領域、すなわち、FET100Aのチャネル部のみに残り、その他の領域では除去されている。また、このエッチングによってシリコン終端層5Aも同時に除去される。そのため、
図17に示すように、シリコン酸化膜3Aが除去された領域では、ノンドープのダイヤモンド層2Aが露出している。
【0057】
続いて、引き続きフォトレジスト30をマスクとして、ダイヤモンド基板1Aの表面を酸素プラズマに曝す。酸素プラズマ照射によって露出しているノンドープのダイヤモンド層2Aの表面が酸素終端され、素子分離層9Aが形成される。また、フォトレジスト30で被覆されていない領域の、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの表面上の水素終端層8Aは、酸素プラズマによって水素終端されていた状態から酸素終端された状態となり、素子分離層9Aに変化する。この段階における断面図が
図10、平面図が
図18である。
【0058】
素子分離層9Aを形成し、フォトレジスト30を除去した後のこの段階における平面図が
図19である。シリコン酸化膜3Aの上部表面の一部は、庇部4aによって被覆されている。ゲート長L
SiO2はシリコン酸化膜3Aの横幅となっており、ゲート幅Wはシリコン酸化膜3Aの縦方向の長さとなっている。水素終端層8Aは、シリコン酸化膜3Aを両側にから挟むノンドープ・ダイヤモンド層4Aの表面上に、ゲート幅Wの長さの分だけ形成されている。
【0059】
続いて、ALD(ALD:Atomic Layer Deposition)法により、絶縁膜10Aとして、Al
2O
3を例えば100nmの厚さで形成する。これにより、シリコン酸化膜3A、ノンドープ・ダイヤモンド層4A、ソース電極6A、ドレイン電極7A及び素子分離層9Aの表面上に、絶縁膜10Aが形成される。ALDの条件としては、トリメチルアルミニウム(TMA:Trimethylaluminum)をAlの前駆体とし、水(H
2O)を酸化剤として使用して、ダイヤモンド基板1Aの温度は200℃以上とするのが好ましく、400℃以上とするのが更に好ましい。この水(H
2O)を酸化剤としたALD法の詳細は、文献「平岩、「GaN 基板上における原子層堆積Al
2O
3ゲート絶縁膜の信頼性」、応用物理学会・先進パワー半導体分科会第4回個別討論会テキスト(2018.07.30)」に記載されている。この段階での製造方法の断面図が
図11である。
【0060】
FET100Aのゲート絶縁膜11Aは、シリコン酸化膜3Aとシリコン酸化膜3A上に形成された絶縁膜10Aとで構成される。また、ノンドープ・ダイヤモンド層4A上の絶縁膜10Aは、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの表面の水素終端層8Aを保護するパッシベーション膜として機能する。ソース電極6A上及びドレイン電極7A上の絶縁膜10Aは、ソース電極6A及びドレイン電極7Aとゲート電極12Aとの間を絶縁する層間絶縁膜として機能する。
【0061】
なお、上記のように、シリコン酸化膜3A上の絶縁膜10Aは、必要に応じて省略可能である。すなわち、FET100Aのゲート絶縁膜11Aはシリコン酸化膜3Aのみで構成してもよい。その場合は、例えばシリコン酸化膜3A上の絶縁膜10Aのみを除去するためのフォトリソグラフィ工程とエッチング工程を適宜追加すればよい。
【0062】
続いて、絶縁膜10A上に、フォトリソグラフィ法で、ゲート電極12Aを形成する領域のみが開口したフォトレジストを形成する。次いで、例えば電子ビーム蒸着法または抵抗加熱蒸着法によりAl(アルミニウム)を例えば100nm以上300nm以下の厚さで、絶縁膜10A上に形成する。次いで、アセトン等の有機溶媒によって、フォトレジスト及びフォトレジスト上に製膜されたAlを除去して、ゲート電極12Aを形成する。この段階の製造方法の断面図が
図1である。
【0063】
図1において、ゲート電極12Aの横幅はシリコン酸化膜3Aの横幅よりも広く形成しているが、例えばシリコン酸化膜3Aと同等、または小さく形成してもよい。また、ゲート電極12Aの材料はAlに限られず、例えばNi(ニッケル)等を用いてもよい。ゲート電極12Aは
図1の断面に対して垂直方向に延伸され、図示しないボンディング用及びプローブ針のコンタクト用の電極を形成する。
【0064】
ソース電極6A及びドレイン電極7Aには、必要に応じて、金属配線を更に接続するようにしてもよい。その場合は、フォトリソグラフィ法及びウエットエッチング法により、ソース電極6A上及びドレイン電極7A上の絶縁膜10Aに開口部(図示せず)を形成した後、リフトオフプロセスを用いて、Alで構成される金属配線(図示せず)を形成すればよい。以上のような工程を経て、FET100Aが作製される。なお、ソース電極6A上及びドレイン電極7A上の絶縁膜10Aに開口部を形成する工程は、ゲート電極12Aを形成する前に行うようにしてもよい。
【0065】
(作用効果)
第1実施形態のFET100Aでは、ノンドープのダイヤモンド層2Aの表面上にシリコン酸化膜3A及びゲート電極12Aを形成したFETを構成している。ゲート絶縁膜として用いるシリコン酸化膜をダイヤモンド層上にC-Si結合を介して直接形成する構造を用いるFETは、これまでに報告された事例はない。
【0066】
従来、ダイヤモンドFETの安定な動作を阻害する要因は、ダイヤモンド基板表面に形成されるC-O結合によって、ダイヤモンド基板と主にAl2O3で形成されるゲート絶縁膜との界面付近に発生する界面準位である。FET100Aは、ノンドープのダイヤモンド層2Aの表面上にC-Si結合を含むシリコン酸化膜3Aを有しているため、C-O結合によって発生する界面準位の発生が、従来のダイヤモンドFETに比べて大幅に低減できる。そのため、高耐圧、大電流動作が必要なパワーデバイス用のダイヤモンドFETを得ることができる。更に、FET100Aは、パワーデバイスにおいて重要な課題の一つであるノーマリオフ特性を達成している。
【0067】
本実施形態においては、シリコン終端層5Aの形成は、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの選択エピタキシャル成長工程で兼ねることができるため、従来よりも工程数を増加させることなく、シリコン終端層5Aを形成することができる。FET100Aを作製するために、シリコン終端層5Aを形成する工程を別個に設ける特段の理由はないが、必要に応じて、シリコン終端層5Aを形成する工程を、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの選択エピタキシャル成長工程と別個に設けてもよい。
【0068】
例えば、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの選択エピタキシャル成長条件を変更したい場合は、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの選択エピタキシャル成長を終了した後の適切な段階で、シリコン終端層5Aを形成する工程として、上記の還元性雰囲気中での高温プラズマ処理を実施するようにすればよい。
【0069】
また、例えば、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの選択エピタキシャル成長を行わない場合、または、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aを使用しない構造のFETの場合は、ノンドープのダイヤモンド層2Aの表面上にシリコン酸化膜3Aを形成した後の適切な段階で、シリコン終端層5Aを形成する工程として、上記の還元性雰囲気中での高温プラズマ処理を実施するようにすればよい。
【0070】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係るダイヤモンド電界効果トランジスタ100B(以下、FET100Bと称する)の全体構成について
図20を参照して説明する。
図20はFET100Bの構成を示す断面図である。なお、第1実施形態と共通する説明は省略する場合がある。
【0071】
図20において、第2実施形態に係るFET100Bは、ダイヤモンド基板1B上にエピタキシャル成長させたノンドープのダイヤモンド層2Bが形成されている。ノンドープのダイヤモンド層2Bの厚さは例えば200nm以上5μm以下の範囲内である(以下の説明では、ノンドープのダイヤモンド層2Bをダイヤモンド層2Bと称することがある)。
【0072】
ダイヤモンド層2B上の一部の領域には、シリコン酸化膜3Bが形成されている。シリコン酸化膜3Bの厚さは例えば250nmである。
【0073】
ダイヤモンド層2B上には更に、互いに離間して形成された一対のボロン(Boron)ドープのダイヤモンド層4Bが形成されている。一対のボロンドープのダイヤモンド層4Bの一方がFET100Bのソース領域として機能し、他方がドレイン領域として機能する。以下の説明では、この一対のボロンドープのダイヤモンド層4Bの一方(図中左側)をソース側のボロンドープ・ダイヤモンド層4B、他方(図中右側)をドレイン側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bと称する。または、ソース側のダイヤモンド層4B、ドレイン側のダイヤモンド層4Bと称することもある。特にソース側とドレイン側を区別して説明しない場合は、単にボロンドープ・ダイヤモンド層4Bと称する。
【0074】
ソース側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bは、シリコン酸化膜3Bのソース側の側面に接し、ドレイン側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bは、シリコン酸化膜3Bのドレイン側の側面に接している。ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bは、シリコン酸化膜3Bをマスクとして、ダイヤモンド層2B上に選択エピタキシャル成長させた層である。その厚さは例えば150nmである。p型の不純物であるボロンはこの選択エピタキシャル成長中にドーピングされている。
【0075】
本実施例において、ダイヤモンド層4Bにボロンをドーピングする理由は、FET100Bのソース領域及びドレイン領域を低抵抗化するためであり、ドーピングする元素は他のp型の不純物、例えば、AlまたはGa(ガリウム)でもよい。また、p型の不純物元素の導入は選択エピタキシャル成長中ではなくてもよく、例えばノンドープでダイヤモンド層4Bを形成した後に、イオン注入等の他の方法で導入するようにしてもよい。
【0076】
本実施形態では、
図20に示すように、ダイヤモンド層2Bとシリコン酸化膜3Bとの界面、及び、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bとシリコン酸化膜3Bとの界面に、C-Si結合を含むシリコン終端層5Bが形成されている。シリコン終端層5Bは、単層であってもよく、複数の層であると好ましい。ただし、シリコン終端層5Bに含まれるC原子がすべてSi原子と結合してC-Si結合を形成している必要はない。
【0077】
ソース側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの表面上にはソース電極6Bが形成されており、ドレイン側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの表面上にはドレイン電極7Bが形成されている。ソース電極6B及びドレイン電極7Bと、ソース側及びドレイン側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの端部との間には、それぞれ所定の間隔が設けられている。ソース電極6B及びドレイン電極7Bは、それぞれ、Ti層、Pt層、Au層を順次積層させた構成となっており、ソース側及びドレイン側のダイヤモンド層4Bとそれぞれオーミック接続している。Ti層とボロンドープ・ダイヤモンド層4Bとの間にはTiCからなるカーバイド層が形成されている。なお、
図20においては、Ti層、Pt層、Au層及びカーバイド層の図示を省略している。
【0078】
本実施形態では、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの表面上の一部に、水素終端層8Bが形成されている。具体的には、
図20に示すように、水素終端層8Bは、ソース電極6B及びドレイン電極7Bのそれぞれの端部からボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの端部まで間の領域に形成されている。
【0079】
水素終端層8Bにより、水素終端層8Bの直下のソース側及びドレイン側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの内部には図示しない2次元正孔ガス(2DHG)が誘起され、p型導電層を形成することができる。なお、水素終端層8Bは省略することもできる。
【0080】
シリコン酸化膜3B上、ボロンドープ・ダイヤモンド層4B上、ソース電極6B上及びドレイン電極7B上には、絶縁膜10Bが形成されている。絶縁膜10Bは、例えばAl2O3(アルミナ)とすればよく、その厚さは、例えば100nm以上300nm以下の範囲内とすればよい。また、絶縁膜10Bは、他の絶縁膜、例えば、アルミニウムシリケート(AlSiO)膜、シリコン窒化膜(SixNy)でもよい。
【0081】
シリコン酸化膜3B上の絶縁膜10Bは、シリコン酸化膜3Bと共にゲート絶縁膜11Bを構成している。ゲート絶縁膜11Bの厚さは、シリコン酸化膜3Bの厚さを上記のように例えば250nmとした場合、例えば350nm以上550nm以下の範囲内となる。
【0082】
なお、このシリコン酸化膜3A上の絶縁膜10Bの有無によって、FET100Bの主要な特性に変化は生じない。これは、FET100BのようにMOS型の構造を有するFETでは、ダイヤモンド層2Bの表面上に直接形成されているシリコン酸化膜3Bによって重要な特性が決定されるためである。より具体的には、FET100Bの特性は、ダイヤモンド層2Bの表面と、その表面に直接形成されているシリコン酸化膜3Bとの界面に大きく依存する。そのため、シリコン酸化膜3A上の絶縁膜10Bは必要に応じて省略可能である。シリコン酸化膜3B上の絶縁膜10Bを省略する場合は、ゲート絶縁膜11Bはシリコン酸化膜3Bのみで構成される。ゲート絶縁膜11Bをシリコン酸化膜3Bのみで構成した場合におけるFET100Bの特性変化分の調整、例えば閾値電圧の調整等は、シリコン酸化膜3Bの厚さを増加させること等で調整することができる。
【0083】
ボロンドープ・ダイヤモンド層4B上の絶縁膜10Bは、ソース側及びドレイン側の表面、特に、水素終端層8Bを保護するパッシベーション膜として機能する。ソース電極6B上及びドレイン電極7B上の絶縁膜10Bは、ソース電極6B及びドレイン電極7Bとゲート電極12Bとの間をそれぞれ絶縁する層間絶縁膜として機能する。
【0084】
ゲート電極12Bは、ゲート絶縁膜11B上に、例えば100nm程度の厚さで、例えばAl(アルミニウム)で形成されている。FET100Bのゲート長は、ゲート電極12Bの幅ではなく、ダイヤモンド層2B上のシリコン酸化膜3Bの幅LSiO2で定義する。また、本実施形態では、ソース側とドレイン側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの間隔を、LSDと定義する。本実施形態では、シリコン酸化膜3Bの幅は、ソース側とドレイン側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの間隔と同じであるため、LSiO2とLSDは同じ値である。
【0085】
素子分離層9Bは、FET100Bのチャネル部以外の領域のダイヤモンド層2B及び
ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの表面の一部を絶縁体化して電気的に分離する。素子分離層9Bは、ダイヤモンド層2Bの表面、及び、ソース側及びドレイン側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの表面のC原子に、O原子を結合させ、C-O結合とすることで形成されている。
【0086】
なお、ソース側及びドレイン側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの上端部に、それぞれシリコン酸化膜3Bの上部表面の一部を覆う庇状の形状を備えるようにしてもよい。その場合は、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの厚さを例えば300nmとして、シリコン酸化膜3Bよりも厚く形成すればよい。
【0087】
(動作原理)
次にFET100Bの動作原理について
図21を参照して説明する。なお、第1実施形態と共通する説明は省略する場合がある。FET100Bは、ゲート電極12Bに印加するゲート電圧V
GSによって、ソース電極6Bからドレイン電極7Bに流れるドレイン電流I
DSが制御され、FET100Bのオンとオフを切り替えることができる。FET100Bはp型のFETであり、ドレイン電流I
DSは、正孔Hをキャリアとする正孔電流である。
【0088】
FET100Bはエンハンスメント型のFETであり、ノーマリオフ化を実現している。FET100Bがオフ状態(VGS=0V)の場合においても、水素終端層8Bが形成されているソース側及びドレイン側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの表面直下には、水素終端層8BのC-H結合によって2次元正孔ガスが発生している。一方、水素終端層8Bが存在しないダイヤモンド層2Bの表面には2次元正孔ガスは発生しない。そのため、FET100Bでは、ソース側のボロンドープ・ダイヤモンド層4B内部で発生した2次元正孔ガスと、ドレイン側のボロンドープ・ダイヤモンド層4B内部で発生した2次元正孔ガスは分断され、連続して存在していない。そのため、FET100Bがオフ状態(VGS=0V)では、正孔は、ソース側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bからダイヤモンド層2Bを横切り、ドレイン側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bを通過してドレイン電極7Bまで到達できない。結果として、FET100Bのソース電極6Bとドレイン電極7Bとの間に電流は流れないため、ノーマリオンとはならない。
【0089】
FET100Bをオン状態とするには、VGS=-5V、VDS=-10Vとする。FET100Bをオン状態からオフ状態とするには、VDS=-10Vを維持したまま、VGS=0Vとする。FET100Bは、従来のダイヤモンドFETとは異なり、ノーマリオフのエンハンスメント型のFETであるため、VGS=0Vとすることで、FET100Bをオフ状態とすることができる。
【0090】
次に、FET100Bがオン状態の場合における正孔電流の流れを説明する。ゲート電極12Bに印加されるゲート電圧VGSが0Vの状態でも、ソース電極6Bの端部からシリコン酸化膜3Bに至るまでのボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの表面直下には、2次元正孔ガスが誘起されている。上記のようにオン状態に相当するゲート電圧VGS及びドレイン電圧VDSがFET100Bに印加されると、正孔Hはソース電極6B側からドレイン電極7B側に向かって移動を開始する。ここで、FET100Bは、低抵抗のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bを使用しているため、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの表面直下の2次元正孔ガスは正孔電流には寄与しない。そのため、FET100Bでは、2次元正孔ガスを誘起するための水素終端層8Bを省略しても、FET100Bのオン電流は低下しない。
【0091】
正孔Hは、
図21に矢印で示すように、ソース電極6Aから流れ出し、ソース側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの内部をダイヤモンド層2Bの方向(
図21の下方向)へ移動する。
【0092】
次に、ダイヤモンド層2Bに到達した正孔Hは、シリコン終端層5Bに沿ってダイヤモンド層2Bの内部をドレイン側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの方向に移動する。ドレイン側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bに移動した正孔Hは、
図21に矢印で示すように、ドレイン側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの内部をドレイン電極7Bの方向へ移動し、ドレイン電極に到達する。これにより、FET100Bのオン電流がソース電極6Bからドレイン電極7Bに流れることとなる。
【0093】
(製造方法)
次に、第2実施形態に係るFET100Bの製造方法を説明する。なお、第1実施形態の製造方法と共通する説明は省略する場合がある。
【0094】
まず、ダイヤモンド基板1Bの表面上に、マイクロ波CVD法により、ノンドープのダイヤモンド層2B(以下、ダイヤモンド層2Bと称する場合もある)を、例えば200nm以上5μm以下の厚さでエピタキシャル成長させて形成する。次に、ダイヤモンド層2Bの表面上に、プラズマCVD法により、シリコン酸化膜3Bを例えば250nmの厚さで形成する。
【0095】
続いて、フォトレジストのマスクをシリコン酸化膜3B上に形成する。フォトレジストのマスクは、一般的なフォトリソグラフィ法を用いればよい。次いで、RIE法によって、フォトレジストのマスクで被覆されていない領域のシリコン酸化膜3Bを選択的にエッチングして除去する。次に、フォトレジストをアセトン等の有機溶剤を用いて除去する。これらの工程により、ダイヤモンド基板1B上には、ダイヤモンド層2B上にシリコン酸化膜3Bが形成されている領域と、シリコン酸化膜3B除去され、ダイヤモンド層2Bが露出している領域が形成される。
【0096】
次に、露出しているダイヤモンド層2B上に、上記エッチング処理で形成したシリコン酸化膜3Bをマスクとして、CVD装置を用いて、還元性雰囲気中での高温プラズマ処理により、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bを選択エピタキシャル成長させて形成する。ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの厚さは、例えば150nmとする。
【0097】
ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの選択エピタキシャル成長の条件としては、例えば、成長温度を900℃以上とし、水素を85%程度、メタンを5%程度、及び、TMB(トリメチルボロン)1%とTMB希釈用水素99%とからなる混合ガスを10%程度含む還元性雰囲気中でプラズマを放電させて実施することが好ましい。なお、水素85%、メタン5%、TMB1%と水素99%との混合ガスが10%の場合、TMB希釈用水素の量を含めると、雰囲気中のガス比率は、正確には、水素94.9%、メタン5%、TMB0.1%である。
【0098】
ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの選択エピタキシャル成長はホモエピタキシャル成長(homo-epitaxial growth)であり、成長層は同一材料上にエピタキシャル成長する。本実施形態では、成長層であるボロンドープ・ダイヤモンド層4Bは、露出しているダイヤモンド層2B上に選択的にエピタキシャル成長し、シリコン酸化膜3B上にはエピタキシャル成長しない。
【0099】
ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの選択エピタキシャル成長は、露出しているダイヤモンド層2Bの表面から始まり、その後は上方に向かって進行する。上記のように、本実施形態では、シリコン酸化膜3Bの厚さは250nmであり、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの厚さは150nmとしている。そのため、シリコン酸化膜3Bの両側の側壁は100nm程度露出した状態となる。このようにボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの形成した後の断面図が
図22である。
【0100】
シリコン終端層5Bは、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの選択エピタキシャル成長中に、ダイヤモンド層2Bとシリコン酸化膜3Bとの界面、及び、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bとシリコン酸化膜3Bとの界面に形成される。より具体的には、
図20に示すように、ダイヤモンド層2Bの表面とシリコン酸化膜3Bの底面との界面、及び、ソース側及びドレイン側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの側面とシリコン酸化膜3Bの両側面との界面に、シリコン終端層5Bは形成される。
【0101】
続いて実施するソース電極6B及びドレイン電極7B、水素終端層8B、素子分離層9B、絶縁膜10B、ゲート電極12B、及び、その後更に必要に応じて実施される金属配線の製造方法は、第1実施例と同様であるため説明を省略する。
【0102】
なお、上記のように、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの選択エピタキシャル成長は、水素を多く含む還元性雰囲気中で行っている。そのため、選択エピタキシャル成長中に、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bが十分に水素終端されている場合は、上記の水素プラズマ照射の工程を省略することができる。
【0103】
FET100Bのゲート絶縁膜11Bは、シリコン酸化膜3Bとシリコン酸化膜3B上に形成された絶縁膜10Bとで構成される。また、ボロンドープ・ダイヤモンド層4B上の絶縁膜10Bは、ソース側及びドレイン側のダイヤモンド層4Bの表面の水素終端層8Bを保護するパッシベーション膜として機能する。ソース電極6B上及びドレイン電極7B上の絶縁膜10Bは、ソース電極6B及びドレイン電極7Bとゲート電極12Bとの間を絶縁する層間絶縁膜として機能する。
【0104】
なお、シリコン酸化膜3B上の絶縁膜10Bは、必要に応じて省略可能である。すなわち、FET100Bのゲート絶縁膜11Bはシリコン酸化膜3Bのみで構成してもよい。その場合は、例えばシリコン酸化膜3B上の絶縁膜10Bのみを除去するためのフォトリソグラフィ工程とエッチング工程を適宜追加すればよい。
【0105】
(作用効果)
第2実施形態のFET100Bでは、ダイヤモンド層2Bの表面上にシリコン酸化膜3B及びゲート電極12Bを形成したFETを構成しており、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0106】
本実施形態では、ソース領域及びドレイン領域のダイヤモンド層を、ノンドープではなく、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bとすることにより、ソース領域及びドレイン領域の低抵抗化を実現している。そのため、FET100Bのオン電流を増加させることができる。
【0107】
また、本実施形態では、シリコン酸化膜3Bよりもボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの厚さを薄く形成しており、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bがシリコン酸化膜3Bの表面上に乗り上げて形成される庇部が存在しない。このように、ソース領域及びドレイン領域となるボロンドープ・ダイヤモンド層4Bが薄く、かつ庇部が存在しないことは、FET100Bにおいて、ソース電極6Bとドレイン電極7Bとの間の電流経路が短くなることを意味するため、FET100Bのオン電流を増加させることができる。更に、FET100Bは、パワーデバイスにおいて重要な課題の一つであるノーマリオフ特性を達成している。
【0108】
本実施形態においては、シリコン終端層5Bの形成は、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの選択エピタキシャル成長工程で兼ねることができるため、従来よりも工程数を増加させることなく、シリコン終端層5Bを形成することができる。そのため、FET100Bを作製するために、シリコン終端層5Bを形成する工程を別個に設ける特段の理由はないが、必要に応じて、シリコン終端層5Bを形成する工程を、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの選択エピタキシャル成長工程と別個に設けてもよい。
【0109】
例えば、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの選択エピタキシャル成長条件を変更したい場合は、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの選択エピタキシャル成長を終了した後の適切な段階で、シリコン終端層5Bを形成する工程として、上記の還元性雰囲気中での高温プラズマ処理を実施するようにすればよい。
【0110】
また、例えば、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの選択エピタキシャル成長を行わない場合、または、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bを使用しない構造のFETの場合は、ダイヤモンド層2Bの表面上にシリコン酸化膜3Bを形成した後の適切な段階で、シリコン終端層5Bを形成する工程として、上記の還元性雰囲気中での高温プラズマ処理を実施するようにすればよい。
【実施例】
【0111】
(第1実施例)
第1実施例では、
図1に示す構成のFET100Aのサンプルを、上記第1実施形態に記載した製造方法に従って作製した。作製したFET100Aの仕様は以下のとおりである。
【0112】
ノンドープのダイヤモンド層2Aとソース側及びドレイン側のダイヤモンド層4Aはノンドープとし、厚さは2μmとした。ソース側及びドレイン側のダイヤモンド層4Aはノンドープとし、厚さは330nmとした。シリコン酸化膜3Aの厚さは260nm、絶縁膜10Aの厚さは100nmとし、ゲート絶縁膜11Aの厚さは、シリコン酸化膜3Aの厚さと絶縁膜10Aの厚さの和である360nmとした。ゲート電極12Aの厚さは100nmとした。
【0113】
作製したFET100Aの製造工程においては、ダイヤモンド基板1Aは、窒素を含有したIB型の結晶方位(100)基板を使用した。まず、ダイヤモンド基板1Aの表面上に、ノンドープのダイヤモンド層2Aを2μmの膜厚でエピタキシャル成長させて形成した。ノンドープのダイヤモンド層2Aのエピタキシャル成長は、マイクロ波励起プラズマを用いた化学的気相成長法(Microwave Plasma Chemical Vapor Deposition)によって実施した。ノンドープのダイヤモンド層2Aを形成後、UV-O3処理を行った。
【0114】
続いて、ノンドープのダイヤモンド層2Aの表面上に、プラズマCVD法によって、シリコン酸化膜3Aを260nmの厚さで形成した。プラズマCVDの原料ガスはTEOSガスを使用し、成膜温度は300℃とした。
【0115】
次に、フォトレジストのマスクをシリコン酸化膜3A上に形成した後、ICP(Inductively Coupled Plasma、誘導結合プラズマ)-RIE装置を用いて、シリコン酸化膜3Aをエッチングした。エッチングガスには、C3F8を使用し、水素は使用せずにエッチング処理を行った。
【0116】
次に、上記シリコン酸化膜3Aエッチング処理で形成したシリコン酸化膜3Aをマスクとして、上記シリコン酸化膜3Aのエッチング処理によって露出したノンドープのダイヤモンド層2A上に、CVD法でノンドープ・ダイヤモンド層4Aを選択エピタキシャル成長した。ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの厚さは330nmとした。
【0117】
ノンドープ・ダイヤモンド層4Aの選択エピタキシャル成長は、温度を800℃とし、水素を99.5%、メタンを0.5%の還元性雰囲気中で、プラズマを放電させて実施した。
【0118】
次に、ノンドープ・ダイヤモンド層4A上及びシリコン酸化膜3A上に、フォトリソグラフィ法で、ソース電極6A及びドレイン電極7Aを形成する領域のみが開口したフォトレジストマスクを形成した。続いて、露出させたノンドープ・ダイヤモンド層4A上及びフォトレジストマスク上に、ソース電極6A及びドレイン電極7Aを構成する金属として、Ti、Pt及びAlからなる金属の積層膜を、電子ビーム蒸着法で順次成膜した。膜厚は、Tiを20nm、Ptを30nm、Auを100nmとした。
【0119】
次いで、アセトンを用いて、フォトレジスト及びフォトレジスト上に製膜された金属の積層膜を除去した。このように、リフトオフプロセスによって、ソース側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aの表面上にソース電極6Aを形成し、ドレイン側のノンドープ・ダイヤモンド層4Aの表面上にドレイン電極7Aをそれぞれ形成した。続いて、Ti層をTiC化するカーバイド処理を行った。カーバイド処理では、まずダイヤモンド基板1Aを水素ガス雰囲気において、500℃、50分間の加熱処理を行い、その後、ダイヤモンド基板1Aを急冷した。これにより、Ti層とノンドープ・ダイヤモンド層4Aとの間に、TiCからなる低抵抗のカーバイド層を形成した。
【0120】
次に、ダイヤモンド基板1Aを、450℃に加熱した状態で30分間、水素プラズマに曝した。これによって、露出しているダイヤモンド層4Aの表面を水素終端して、水素終端層8Aを形成した。
【0121】
次に、FET100Aのチャネル部となる領域上を覆うフォトレジスト30を形成した。フォトレジスト30をマスクとして、ICP-RIE装置を用いて、シリコン酸化膜3Aをエッチングした。エッチングガスには、C3F8を使用し、水素は使用せずにエッチング処理を行った。
【0122】
シリコン酸化膜3Aのエッチング後、フォトレジスト30を除去せずに、ダイヤモンド基板1Aをプラズマリアクタ装置内で常温、大気圧で酸素プラズマに曝した。これにより、フォトレジスト30で被覆されていないノンドープのダイヤモンド層2A及びノンドープ・ダイヤモンド層4Aの表面を酸素終端し、素子分離層9Aを形成した。フォトレジスト30で被覆されていない領域に位置する水素終端層8Aは、この酸素プラズマ処理によって、水素終端されていた状態から酸素終端された状態に変化させた。
【0123】
フォトレジスト30を除去した後、絶縁膜10AとなるAl2O3を、ALD装置において、トリメチルアルミニウムをAlの前駆体とし、水(H2O)を酸化剤として使用して、ダイヤモンド基板1Aの温度を450℃として、100nmの厚さで形成した。
【0124】
続いて、フォトリソグラフィ法及びウエットエッチング法を用いて、ソース電極6A及びドレイン電極7A上の絶縁膜10Aの一部を除去して、ボンディング用及びプローブ針のコンタクト用の開口を形成した。
【0125】
続いて、絶縁膜10A上に、フォトリソグラフィ法で、ゲート電極12Aを形成する領域のみが開口したフォトレジストを形成した。次いで、電子ビーム蒸着法によりAlを100nmの厚さで、絶縁膜10A上に形成した後、アセトンによって、フォトレジスト及びフォトレジスト上に製膜されたAlを除去して、ゲート電極12Aを形成した。ゲート電極12A用の電極パッド(図示せず)は、ゲート電極12Aを
図1の断面に対して垂直方向に延伸した位置で形成した。
【0126】
作製したFET100Aのサンプル1は、ノンドープのダイヤモンド層2A上のシリコン酸化膜3Aの幅LSiO2を6μm、ソース電極6Aとドレイン電極7Aとの間隔LSDを16μm、ゲート幅Wを25μmとした。
【0127】
サンプル1について、ドレイン電圧―ドレイン電流(V
DS―I
DS)特性を室温で測定した。この測定では、ドレイン電圧V
DSを0V~-50Vまで変化させた。ゲート電圧V
GSは-60V~+4Vの範囲でプラス方向に+4Vずつ変化させた。サンプル1のV
DS―I
DS特性の測定結果を
図23Aに示す。
図23A横軸はV
DS(V)であり、縦軸はI
DSをゲート幅Wで規格化した単位である[mA/mm]で示す。
【0128】
図23Aに示すように、サンプル1は、良好なV
DS―I
DS特性を示し、ドレイン電流I
DSの最大値は、-17 mA/mmとなった。また、ゲート電圧V
GSを変化させることにより、ドレイン電流I
DSを良好に制御できていることを確認した。
【0129】
続いて、サンプル1について、ゲート電圧―ドレイン電流(V
GS―I
DS)特性を室温で測定した。この測定では、ドレイン電圧V
DSを-30Vとし、ゲート電圧V
GSを+10V~-40Vまで増加させた。サンプル1のV
GS―I
DS特性の測定結果を
図23B及び
図23Cに示す。
図23Bの横軸はV
GS(V)であり、縦軸はI
DSをゲート幅Wで規格化した単位として「(-I
DS)
0.5(A
0.5/mm
0.5)」を使用し、リニアスケールで示す。
図23Cの横軸はV
GS(V)であり、縦軸の単位は-I
DS(A)として対数スケールで示す。
【0130】
図23B及び
図23Cに示すように、サンプル1は良好なV
GS―I
DS特性を示した。
図23Bに示す結果により、FET100Aの閾値電圧V
Tは-19Vであり、ゲート電圧V
GS=0Vにおいて電流が流れないノーマリオフを実現していることを確認した。また、
図23Cに示す結果により、FET100Aのオン電流とオフ電流の差が約7桁あることを確認した。
【0131】
上記のFET100Aのサンプル1測定結果より、FET100Aは良好なトランジスタ特性を有しており、その特性はパワーデバイス用のFETとして必要な水準を満たしていることを確認した。
【0132】
(第2実施例)
第2実施例では、
図20に示す構成のFET100Bのサンプルを、上記第2実施形態に記載した製造方法に従って作製した。作製したFET100Bの仕様は以下のとおりである。
【0133】
ダイヤモンド層2Bはノンドープとし、厚さは2μmとした。ソース側及びドレイン側のダイヤモンド層4Bはボロンドープとし、厚さは130nmとした。シリコン酸化膜3Bの厚さは260nm、絶縁膜10Bの厚さは100nmとし、ゲート絶縁膜11Bの厚さは、シリコン酸化膜3Bの厚さと絶縁膜10Bの厚さの和である360nmとした。ゲート電極12Bの厚さは100nmとした。
【0134】
作製したFET100Bの製造方法について説明する。シリコン酸化膜3Bの形成と及びボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの形成について説明し、その他の第1実施例と同様の工程については説明を省略する。
【0135】
ノンドープのダイヤモンド層2Bの表面上に、プラズマCVD法によって、シリコン酸化膜3Bを260nmの膜厚で形成した。プラズマCVDの原料ガスはTEOSガスを使用し、成膜温度は300℃とした。
【0136】
次に、フォトレジストのマスクをシリコン酸化膜3B上に形成した後、ICP-RIE装置を用いて、シリコン酸化膜3Bをエッチングした。エッチングガスには、C3F8を使用し、水素は使用せずにエッチング処理を行った。
【0137】
次に、エッチング処理後のシリコン酸化膜3Bをマスクとして、上記シリコン酸化膜3Bのエッチング処理によって露出したノンドープのダイヤモンド層2B上に、CVD法でp型の不純物であるボロンをドープしたダイヤモンド層4Bを選択エピタキシャル成長した。ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの膜厚は130nmとした。
【0138】
ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの選択エピタキシャル成長は、温度を960℃とし、水素を85%、メタンを5%、及び、TMB1%とTMB希釈用水素99%とからなる混合ガスを10%加えた還元性雰囲気中で、プラズマを放電させて実施した。還元性雰囲気中のガス比率は、正確には、水素94.9%、メタン5%、TMB0.1%となった。形成したボロンドープ・ダイヤモンド層4Bには、ボロンが1×1021cm-3の濃度で含まれていることを確認した。
【0139】
なお、メタン(CH4)には4個の水素原子が含まれている。そのため、5%のメタン中に含まれる水素原子によって、選択エピタキシャル成長中の実質的な水素濃度は94.9%よりも高くなっていたと考えられる。
【0140】
作製したFET100Bのサンプル2は、ノンドープのダイヤモンド層2B上のシリコン酸化膜3Bの幅LSiO2を6μm、ソース側とドレイン側のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの間隔LSDはLSiO2と同じ6μm、ソース電極6Aとドレイン電極7Aとの間隔を16μm、ゲート幅Wを25μmとした。測定条件及びグラフで示す単位について第1実施例と同じ場合は説明を省略する。
【0141】
サンプル2について、ドレイン電圧―ドレイン電流(V
DS―I
DS)特性を室温で測定した結果を
図24Aに示す。
図24Aに示すように、サンプル2は、良好なV
DS―I
DS特性を示し、ドレイン電流I
DSの最大値は、-165 mA/mmとなった。
【0142】
続いて、サンプル2について、ゲート電圧―ドレイン電流(V
GS―I
DS)特性を室温で測定した結果を
図24B及び
図24Cに示す。この測定では、ドレイン電圧V
DSを-10Vとし、ゲート電圧V
GSを+30V~-30Vまで増加させた。
【0143】
図24B及び
図24Cに示すように、サンプル2は良好なV
GS―I
DS特性を示した。
図24Bに示す結果により、FET100Bの閾値電圧V
Tは-6Vであり、ゲート電圧V
GS=0Vにおいて電流が流れないノーマリオフを実現していることを確認した。また、
図24Cに示す結果により、FET100Bのオン電流とオフ電流の差が約8桁あることを確認した。
【0144】
上記のFET100Bのサンプル2の測定結果より、FET100Aは良好なトランジスタ特性を有しており、その特性はパワーデバイス用のFETとして必要な水準を満たしていることを確認した。ドレイン電流IDSの最大値については、FET100BはFET100Aの約10倍の値を示した。これは、ソース領域及びドレイン領域を、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aよりも低抵抗のボロンドープ・ダイヤモンド層4Bで構成した効果であると考えられる。
【0145】
更に、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aとソース電極6A及びドレイン電極7Aとのコンタクト抵抗よりも、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bとソース電極6B及びドレイン電極7Bとのコンタクト抵抗の方が低い。加えて、FET100Aのノンドープ・ダイヤモンド層4Aの厚さは330nmであり、かつ庇部4aを有しているのに対して、FET100Bのボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの厚さは150nmであり、庇部4aを有していない。すなわち、FET100Bの場合は、ソースからドレインに至る電流経路に、FET100Aよりも抵抗が高くかつ厚みのある直列抵抗成分が接続されていることになる。以上説明した理由により、FET100AとFET100Bとで、ドレイン電流IDSに違いが生じていると考えられる。
【0146】
(第3実施例)
第3実施例では、シリコン終端層5Bを分析するためのサンプル(以下、サンプル3と称する)を作製し、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)を用いて分析を行った。
【0147】
サンプル3は、ダイヤモンド基板1B上にノンドープのダイヤモンド層2Bとシリコン酸化膜3Bを形成した後に、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bを選択エピタキシャル成長せずに、還元性雰囲気中でプラズマ処理のみを行い、シリコン酸化膜3Bを除去することで作製した。ノンドープのダイヤモンド層2B及びシリコン酸化膜3Bの形成方法と厚さは、第2実施例と同一である。
【0148】
サンプル3の製造工程においては、ダイヤモンド基板1Bは、窒素を含有したIB型の結晶方位(100)基板を使用した。まず、ダイヤモンド基板1Bの表面上に、ノンドープのダイヤモンド層2Bを2μmの厚さでエピタキシャル成長させて形成した。続いて、ノンドープのダイヤモンド層2Bの表面をクリーニングし、酸素終端するために、硫酸と硝酸を3:1の割合で含む熱混酸によって洗浄した後、UV-O3処理を行った。
【0149】
続いて、ノンドープのダイヤモンド層2Bの表面上に、プラズマCVD法によって、シリコン酸化膜3Bを260nmの厚さで形成した。プラズマCVDの原料ガスはTEOS(Tetraethoxysilane、テトラエトキシシラン)ガスを使用し、成膜温度は300℃とした。
【0150】
次に、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bを選択エピタキシャル成長を実施しない以外は、実施例2と同一の条件での処理、すなわち、温度を960℃とし、水素を85%、メタンを5%、及び、TMB1%とTMB希釈用水素99%からなる混合ガス10%を加えた還元性雰囲気中で、プラズマを放電させた処理を実施した。TMB希釈用水素の量を含めると、還元性雰囲気中のガス比率は、正確には、水素94.9%、メタン5%、TMB0.1%となった。
【0151】
続いて、フッ化水素を用いて、ノンドープのダイヤモンド層2Bの表面上に形成されているシリコン酸化膜3Bを除去することで、サンプル3を作製した。
【0152】
図25A及び
図25Bにサンプル3をXPSで測定した結果を示す。
図25A及び
図25Bの横軸は結合エネルギー(Binding Energy)、縦軸c/sは検出強度を示している。
図25Aはワイドスキャンモードでの分析結果であり、結合エネルギーが50~550eVまでの範囲で検出されたピークを示している。
図25Aに示すように、280eV近辺に、C1の強いピークが存在していることを確認した。また、100eV付近にSi2pのピークと、160eV付近にSi2sのピークを確認した。
【0153】
ワイドスキャンモードでC1の強いピークを確認した付近である280eV~290eVの範囲を、分解能の高いナロースキャンモードで測定した結果を
図25Bに示す。
図25Bに示すように、284.79eVで、C-Cが検出された。更に、283.93eVにC-Siに由来する化学シフトによるピークが観測された。
【0154】
シリコン酸化膜3Bを除去した後のノンドープのダイヤモンド層2B表面のXPS分析によって、上記のようなピークが確認されたことは、サンプル3のシリコン酸化膜3Bとノンドープのダイヤモンド層2Bとの界面に、シリコン終端層5Bが形成されていたことを示している。すなわち、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bを選択エピタキシャル成長せずに、還元性雰囲気中でのプラズマ処理のみで、シリコン終端層5Bが形成されることを確認した。このことは、シリコン終端層5A形成処理と、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの選択エピタキシャル成長処理は独立して実施が可能であることを示している。ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bの選択エピタキシャル成長を行わない場合、または、ボロンドープ・ダイヤモンド層4Bを使用しない構造のFETの場合は、ノンドープのダイヤモンド層2Bの表面上にシリコン酸化膜3Bを形成した後の適切な段階で、シリコン終端層5Bを形成する工程として、上記の還元性雰囲気中での高温プラズマ処理を実施することが可能であることが確認できた。このことは、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aとシリコン終端層5Aの形成処理に関しても同様と考えられる。
【0155】
サンプル3のC1ピークは、モノレイヤーのC-Si結合をXPSで分析した非特許文献1のC1よりも強い強度を示した(非特許文献1のFig.2を参照)。このことは、ノンドープのダイヤモンド層2Bとシリコン酸化膜3Bとの界面には、C-Si結合を含むシリコン終端層5Bが単層ではなく、複数の層存在している可能性を示している。このことは、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aとシリコン終端層5Aの形成処理に関しても同様と考えられる。
【0156】
(第4実施例)
第4実施例では、第1実施例と同様にノンドープ・ダイヤモンド層4Aを形成した段階まで作製した分析用サンプルを作製した(以下、サンプル4と称する)。サンプル4の断面観察と元素分析には、第1実施例と同様にノンドープ・ダイヤモンド層4Aを形成した段階まで作製した分析用サンプルを使用した。サンプル4は、断面観察と元素分析をフッ化水素(HF)で処理した後に、TEM(Transmission Electron Microscopy)による観察及びTEMの観察部位に対してX線による元素分析を行った。X線による元素分析には、EDS(Energy dispersive X-ray spectroscopy)装置を用いた。
【0157】
図26Aは、サンプル4の断面のTEM観察画像である。観察には、HAADF-STEM(High-angle Annular Dark Field Scanning TEM)を使用した。観察部位は、FET100Aにおいて、シリコン酸化膜3Aとダイヤモンド層2Aとノンドープ・ダイヤモンド層4Aとが接するコーナー部とした。
【0158】
図26Aにおいて、ダイヤモンド層2Aは図中の下に「CVD diamond」と記載のある領域に横方向に存在している。ノンドープ・ダイヤモンド層4Aは、図中左側の「SG diamond」と記載のある領域に縦方向に存在する。シリコン酸化膜3AはTEM観察前のフッ化水素の処理で溶解しており、図中の中央から右上に掛けての暗い領域が、フッ化水素処理前にシリコン酸化膜3Aが存在していた領域である。
【0159】
続いて、
図26Aと同じサンプル4の同一部位において、X線による元素分析を行った。ダイヤモンド層2A及びノンドープ・ダイヤモンド層4Aが存在する領域全体にC原子が検出された(
図26B)。そして、ダイヤモンド層2Aとシリコン酸化膜3Aの界面(図中の横方向)、及び、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aとシリコン酸化膜3Aの界面(図中の縦方向)には、Si原子がそれぞれの界面に沿って検出された(
図26C)。
図26Cに示すように。Si原子は帯状に分布していることが確認できた。
【0160】
図26Dは、元素分析の結果を説明するための模式図である。シリコン酸化膜3Aはフッ化水素に溶解して除去される。一方、C-Si結合はフッ化水素に溶解せず除去されない。このことは、
図26Cにおいて検出されたSi原子は、シリコン酸化膜3A中に存在していたSi原子ではなく、C-Si結合中のSi原子であることを明確に示している。すなわち、以上の元素分析の結果から、ダイヤモンド層2Aとシリコン酸化膜3Aの界面、及び、ノンドープ・ダイヤモンド層4Aとシリコン酸化膜3Aの界面には、C-Si結合を含むシリコン終端層5Aが存在していることが明らかとなった。また、これにより、発明者らは、これらのC-Si結合は、シリコン酸化膜3Aから還元反応によって脱離したSi原子が、ダイヤモンド層2A及びダイヤモンド層4A中のC原子と反応して形成されたものであるとの結論に至った。
【符号の説明】
【0161】
100A、100B ダイヤモンド電界効果トランジスタ
1A、1B ダイヤモンド基板
2A、2B ダイヤモンド層
3A、3B シリコン酸化膜
4A ノンドープのダイヤモンド層
4a 庇部
4B、ボロンドープのダイヤモンド層
5A、5B シリコン終端層
6A、6B ソース電極
7A、7B ドレイン電極
8A、8B 水素終端層
9A、9B 素子分離層
10A、10B 絶縁膜
11A、11B ゲート絶縁膜
12A、12B ゲート電極
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