(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】水溶性シート状製剤のアプリケータ2
(51)【国際特許分類】
A61M 35/00 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
A61M35/00 Z
(21)【出願番号】P 2020076010
(22)【出願日】2020-04-22
【審査請求日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2019083868
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501296380
【氏名又は名称】コスメディ製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】権 英淑
(72)【発明者】
【氏名】田中 弘
(72)【発明者】
【氏名】神山 文男
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-164688(JP,A)
【文献】登録実用新案第3155787(JP,U)
【文献】特開2003-205961(JP,A)
【文献】特開2002-253337(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0314924(US,A1)
【文献】特開昭62-120860(JP,A)
【文献】国際公開第2019/017369(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 35/00
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性シート状製剤を保持可能な大きさの平面を有する先端部に少なくとも1つの穴を有し、該穴を除く該平面は平滑であるノズルと、該ノズルの先端部の周縁の周囲に配置されたリング状発泡体とから構成される、水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
【請求項2】
水溶性シート状製剤を保持可能な大きさの平面を有する先端部に少なくとも1つの穴を有し、該穴を除く該平面上は凹凸部を有するノズルと、該ノズルの先端部の周縁の周囲に配置されたリング状発泡体とから構成される、水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
【請求項3】
前記凹凸部の深さが0.1~3.0mmである請求項2に記載の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
【請求項4】
前記凹凸部が前記穴から前記先端部の周縁に向かって延伸する溝を形成している請求項2又は3に記載の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
【請求項5】
前記先端部の周縁が前記凹凸部よりも高い凸部で囲まれている請求項2~4のいずれか1項に記載の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
【請求項6】
前記ノズルの先端部を上方に向け、該先端部の周縁を水平方向にしたとき、前記発泡体の上端は、前記ノズル先端部の周縁よりも0.1~10mm高い、請求項1~5のいずれか1項に記載の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
【請求項7】
前記ノズルがポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、軟質ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、及びシリコーン樹脂からなる群より選ばれる合成樹脂製である請求項1~6のいずれか1項に記載の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
【請求項8】
前記ノズルが自粘性を有する合成樹脂製である請求項1~7のいずれか1項に記載の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
【請求項9】
前記ノズルが軟質ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、及びシリコーン樹脂からなる群より選ばれる自粘性を有する合成樹脂製である請求項1~8のいずれか1項に記載の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
【請求項10】
前記発泡体の材料がポリウレタン、ポリオレフィン、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル、ユリア樹脂、及びそれらの混合物からなる群より選ばれるものである請求項1~9のいずれか1項に記載の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
【請求項11】
液体容器と、請求項1~10のいずれか1項に記載の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズルとから構成される水溶性シート状製剤のアプリケータ。
【請求項12】
前記液体容器の開口部に前記ノズルが装着されている請求項11に記載のアプリケータ。
【請求項13】
前記ノズルの先端部に水溶性シート状製剤を保持して皮膚に適用し、前記液体容器の押圧により該製剤の
皮膚に密着させる面とは反対側の面に液体を供給する請求項11又は12に記載のアプリケータ。
【請求項14】
前記液体容器が噴霧装置を装備し、該噴霧装置の先端開口部に前記ノズルが装着されている請求項11に記載のアプリケータ。
【請求項15】
前記ノズルの先端部に水溶性シート状製剤を保持して皮膚に適用し、該噴霧装置の発射により該製剤の
皮膚に密着させる面とは反対側の面に液体を供給する請求項14に記載のアプリケータ。
【請求項16】
前記液体容器がポンプを装備し、該ポンプの先端開口部に前記ノズルが装着されている請求項11に記載のアプリケータ。
【請求項17】
前記ノズルの先端部に水溶性シート状製剤を保持して皮膚に適用し、該ポンプを押して該製剤の
皮膚に密着させる面とは反対側の面に液体を吐出する請求項16に記載のアプリケータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性シート状製剤を皮膚に適用する際のアプリケータ用ノズル及び該ノズルを搭載したアプリケータに関する。
【背景技術】
【0002】
薬物を人の体内に投与する手法として、経口的投与と経皮的投与がよく用いられている。注射は代表的な経皮的投与法であるが、煩わしく苦痛を伴う。経皮的投与のさい皮膚角質層は薬物透過のバリアとして働き、単に皮膚表面に薬物を塗布するだけでは透過性は必ずしも十分ではない。これに対し微小な針、すなわちマイクロニードルを用いて角質層を穿孔することにより、塗布法より薬物透過効率を格段に向上させることができる。このマイクロニードルを基板上に多数集積したものがマイクロニードルアレイである。また、マイクロニードルアレイを皮膚に付着させるための粘着シートや、粘着シートを保護しマイクロニードルアレイを皮膚に貼付するさいの支えとするための保護離型シートなどを付加して使用しやすい製品としたものをマイクロニードルパッチという。
【0003】
マイクロニードルアレイを皮膚に投与するさい、マイクロニードルアレイを指で押さえるだけではマイクロニードルを皮膚内に刺入することは容易ではない。これは一般に皮膚は柔軟であり弾力性のある組織であるから、マイクロニードルのとがった先端を皮膚に押しつけても、皮膚がその衝撃を吸収し変形することによりマイクロニードルの皮膚内侵入を妨げるためである。
【0004】
マイクロニードルアレイを衝撃吸収能のある皮膚に投与するには、マイクロニードルアレイを皮膚方向に衝撃することが適切である。この具体的方法として、これまで、ばね(特許文献1-6、8)、空気圧(特許文献5)や磁力(特許文献7)などを用いたマイクロニードル投与装置(マイクロニードルアプリケータ)が提案されてきた。ばねを女性や小児にも容易に使用できるようにするには、ばね圧縮方法とトリガー方法に工夫を要する。また、空気圧や磁力の利用も、必ずしも簡便とは言えない。従来のマイクロニードルアレイ投与装置は実用上の問題を残しており、利用者からはより簡便でかつ刺入が確実に実現できる装置が求められていた。
【0005】
水溶性の素材で作られたマイクロニードルは、刺入後皮膚内の水分で溶解していくが、これには相当な時間を要し、特に化粧品を目的とする場合は、このため被投与者に対する利便性を著しく損なう。水溶性の素材でマイクロニードルアレイを作製し、皮膚へ刺入後その背面から水分を供給すると、マイクロニードルは迅速に溶解する(特許文献9)。また、本発明者らは、水溶性高分子であるヒアルロン酸を原料とした化粧用ヒアルロン酸ゲルシートを開発し、皮膚に適用後に少量の水を加えてマッサージすることにより、ヒアルロン酸及び配合成分の皮膚への浸透を促進させることを報告している(特許文献10)。
【0006】
本発明者らは、水溶性シート状製剤を様々な部位の皮膚に確実に投与でき、水溶性シート状製剤の背面から水分を供給することができるアプリケータを開発した(特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2004-510530号公報(特許4198985号公報)
【文献】特表2004-510534号公報(特許4104975号公報)
【文献】特表2004-510535号公報(特許4659332号公報)
【文献】特表2005-533625号公報
【文献】特表2006-500973号公報
【文献】特表2007-509706号公報(特許4682144号公報)
【文献】特開2011-078711号公報
【文献】特開2014-42788号公報
【文献】特開2011-194189号公報(特許5408592号公報)
【文献】特開2014-024828号公報(特許5840107号公報)
【文献】特開2018-164688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
水溶性高分子を原料とするマイクロニードルアレイや化粧用ゲルシートは、皮膚への密着性を向上させるために、厚さが数百μm程度で可撓性のシート状製剤である。かかる水溶性シート状製剤は、皮膚に適用する際、指先の水分を吸収して目的の皮膚よりも指に付着したり、頭皮に適用する際には毛髪によって密着性が妨げられ、頭皮から吸収される前に剥がれ落ちることもあった。そこで、本発明者らは、水溶性シート状製剤の付着と離脱が容易にできるノズルを開発し、さらに、かかるノズルを種々の液体容器に装着して水溶性シート状製剤の皮膚への適用と溶解操作が瞬時にできるアプリケータを開発することに成功した(特許文献11)。
しかし、上記ノズルを装着したアプリケータを用いて、水溶性シート状製剤の背面から水分を供給する場合に、ノズルの皮膚への密着度合を適切に調節しないと、水分の供給が適切に行えない事態が生じることがあった。より具体的には、ノズルを皮膚に押し付けすぎると水分が十分に皮膚に供給されない、またノズルの皮膚への角度が不適切で水が皮膚を伝って流れ落ちるなどが起こる可能性を有していた。
本発明の課題は、水溶性シート状製剤の背面から水分を供給するノズル装着アプリケータからのより安定な水分供給手段を提供することである。
ここで、本発明における水溶性シート状製剤は、マイクロニードルアレイのみならず化粧用水溶性ゲルシートのように皮膚に適用後速やかに水分により溶解し皮膚吸収されることを目的とするシート状製剤を含むものである。水溶性シート状製剤は、水溶性高分子を基剤として調製され、厚さが約1mm以下である。水溶性高分子としては、ヒアルロン酸(又はそのナトリウム塩)及びその誘導体、コラーゲン、ヒドロキシプロピルセルロース、コンドロイチン硫酸、デキストラン、プロテオグリカンなど、並びにこれらの混合物などが挙げられる。水溶性シート状製剤の背面とは、皮膚に密着させる面とは反対側の面である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、水溶性シート状製剤の付着と離脱が容易にできるノズルを開発することに成功した。該ノズルは、液体の出口であるノズル先端の外周を発泡体で取り囲むことにより、皮膚への水分の供給がより安定することを見出し、かかるノズルを種々の液体容器に装着して水溶性シート状製剤の皮膚への適用と溶解操作が適切に誤りなくできる装置を開発し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下に示す通りである。
〔1〕 水溶性シート状製剤を保持可能な大きさの平面を有する先端部に少なくとも1つの穴を有し、該穴を除く該平面は平滑であるノズルと、該ノズルの先端部の周縁の周囲に配置されたリング状発泡体とから構成される、水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
〔2〕 水溶性シート状製剤を保持可能な大きさの平面を有する先端部に少なくとも1つの穴を有し、該穴を除く該平面上は凹凸部を有するノズルと、該ノズルの先端部の周縁の周囲に配置されたリング状発泡体とから構成される、水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
〔3〕 前記凹凸部の深さが0.1~3.0mmである〔2〕に記載の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
〔4〕 前記凹凸部が前記穴から前記先端部の周縁に向かって延伸する溝を形成している〔2〕又は〔3〕に記載の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
〔5〕 前記先端部の周縁が前記凹凸部よりも高い凸部で囲まれている〔2〕~〔4〕のいずれかに記載の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
〔6〕 前記ノズルの先端部を上方に向け、該先端部の周縁を水平方向にしたとき、前記発泡体の上端は、前記ノズル先端部の周縁よりも0.1~10mm高い、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
〔7〕 前記ノズルがポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、軟質ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、及びシリコーン樹脂からなる群より選ばれる合成樹脂製である〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
〔8〕 前記ノズルが自粘性を有する合成樹脂製である〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
〔9〕 前記ノズルが軟質ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、及びシリコーン樹脂からなる群より選ばれる自粘性を有する合成樹脂製である〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
〔10〕 前記発泡体の材料がポリウレタン、ポリオレフィン、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル、ユリア樹脂、及びそれらの混合物からなる群より選ばれるものである〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル。
〔11〕 液体容器と、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズルとから構成される水溶性シート状製剤のアプリケータ。
〔12〕 前記液体容器の開口部に前記ノズルが装着されている〔11〕に記載のアプリケータ。
〔13〕 前記ノズルの先端部に水溶性シート状製剤を保持して皮膚に適用し、前記液体容器の押圧により該製剤の背面に液体を供給する〔11〕又は〔12〕に記載のアプリケータ。
〔14〕 前記液体容器が噴霧装置を装備し、該噴霧装置の先端開口部に前記ノズルが装着されている〔11〕に記載のアプリケータ。
〔15〕 前記ノズルの先端部に水溶性シート状製剤を保持して皮膚に適用し、該噴霧装置の発射により該製剤の背面に液体を供給する〔14〕に記載のアプリケータ。
〔16〕 前記液体容器がポンプを装備し、該ポンプの先端開口部に前記ノズルが装着されている〔11〕に記載のアプリケータ。
〔17〕 前記ノズルの先端部に水溶性シート状製剤を保持して皮膚に適用し、該ポンプを押して該製剤の背面に液体を吐出する〔16〕に記載のアプリケータ。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水溶性シート状製剤の保持溶解用ノズル(以下、「本発明の発泡体リング縁付きノズル」と省略する)は、皮膚に貼付した水溶性シート状製剤にノズルの先端を押し付け、ノズルの穴から水を供給することにより、該製剤を迅速に溶解させることができる。本発明の特徴は、ノズルの周辺に発泡体からなるリング状の縁を有することである。リング縁は連続気泡発泡体からなり、ノズル穴から水を供給するに際し、ノズル-皮膚間の空気をスムースに外部に排気することができる。したがって、本発明の発泡体リング縁付きノズルは、水の皮膚への供給が、リング縁がない場合に比べて、はるかに容易にスムースにマイクロニードルパッチ背後に行き渡るものである。ノズルの先端部は凹凸部を有するほうが好ましいが、本発明によるリング縁を有するノズルには、凹凸は必ずしも必須でない。
本発明のアプリケータは、本発明の発泡体リング縁付きノズルと液体容器とから構成され、液体容器の開口部とノズルとが嵌合可能な限りはいずれの液体容器を用いてもよい。本発明のアプリケータを用いて水溶性マイクロニードルアレイを投与する場合、ノズルの先端をマイクロニードルアレイに押し付けて適当な時間を置くことにより、マイクロニードルの皮膚への刺し入れが確実となる。さらに、ノズルの先端をマイクロニードルアレイに押し付けて液体容器から水をアレイの背面に均一に全面に供給することにより、マイクロニードルアレイの溶解が迅速に行われる。その際に、発泡体リング縁の助けにより水が的確にマイクロニードルアレイ背後に均一に供給され、かつ皮膚を伝って水が流れ落ちるなどの不便さがなくなる。本発明のアプリケータを用いて化粧用水溶性ゲルシートを適用する場合、ノズルの先端をゲルシートに押し付けて背面から液体容器内の水を供給することにより、ゲルシートが迅速に溶解して皮膚表面に広がり、皮膚の保湿、有価成分の吸収が促進される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】実施例1のノズルをポリエチレン製液体容器に装着したアプリケータ
【
図3】ノズルの例(A、B、C)。それぞれ左側は底面図、右側は断面図を示す。簡略化のため、リング状発泡体を省略している。
【
図4】ノズルを液体容器に装着したアプリケータの例(A、B、C)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の発泡体リング縁付きノズルは、水溶性シート状製剤を保持可能な大きさの平面を有する先端部に少なくとも1つの穴を有し、該穴を除く該平面は平滑であるかあるいは凹凸部を有するノズル(以下、「本発明におけるノズル」と省略する場合がある)と、該ノズルの先端部の周縁の周囲に配置されたリング状発泡体(以下、「本発明における発泡体」と省略する場合がある)とから構成される。
【0014】
本発明におけるノズルは、水溶性シート状製剤を溶解させることを目的とする水分供給部材である。ノズルの先端部は、水溶性シート状製剤を保持可能な大きさの平面を有する。本発明におけるノズルは、水溶性シート状製剤の大きさに応じて、先端部の平面の形状を変更することができ、円形、楕円形、勾玉形、三角形、四角形、五角形、六角形などの多角形であってもよい。本発明のノズルの本体は、先端部の平面の形状に合わせて、円筒形、楕円筒系、多角柱であってもよい。様々な液体容器の開口部に嵌合できるようにするためには、円筒形が望ましい。
【0015】
本発明におけるノズルの先端部周縁は、供給された水が溢れないように、前記平滑平面又は前記凹凸部よりも高い凸部で囲まれていることが望ましい。周縁の凸部は、前記平滑平面に広がった水、又は前記凹凸部により形成された溝を通過して広がった水を水溶性シート状製剤の外部に逃がさないようにする堰の役割を果たす。
【0016】
本発明におけるノズルの先端部には、少なくとも1つの穴を有する。該穴は、液体容器から水溶性シート状製剤の背面に水を導入する目的のためには、2個以上であってもよく、穴の大きさも特に限定されない。穴の位置は、先端部の平面の中央であっても、周辺部であってもよい。複数個の穴の配置や間隔も特に限定されない。
【0017】
本発明におけるノズルの先端部の平面は平滑であってよい。しかしながら、さらに水のノズル先端部への均一供給のためには、平面上には、前記穴を除き、凹凸部が形成されていることが望ましい。凹凸部は、水溶性シート状製剤をノズルの先端部に着脱可能で、穴から先端部全体に水が供給できる溝が形成できる限り、螺旋状、ドット状、放射状など、どのような形状であってもよい。典型的には、凹凸の度合いは、凹凸の深さが0.1~3.0mmが望ましく、0.1~2.0mmがより好ましい。深さが0.1mm以下では穴を通じて供給される水の表面への供給において迅速性に欠ける。また深さが3.0mm以上では穴を通じて供給される水が表面全体に行き渡るのに多量を要する。
凸部もしくは平面部と溝部もしくは凹部との面積比は20:1以上であることが望ましい。凹部の面積比が小さすぎると溝部が小さく水の底面部全面供給が難しい。また溝部の面積が大きすぎるとノズル平面部の平面が小さくなり水溶性シートをノズルで皮膚に圧着しても平面部との密着度が不十分でありノズルに十分に付着しない恐れが生じる。それゆえ凸部もしくは平面部と溝部もしくは凹部との面積比は1:10以下であることが望ましい。
【0018】
本発明におけるノズルは、水溶性シート状製剤に適量の水を全体に円滑に供給するためには、前記凹凸部が前記穴から前記先端部の周縁に向かって延伸する溝を形成していることが望ましい。ここで溝とは、隣接する2つの凸部と該2つの凸部で囲まれた1つの凹部で形成される低地である。溝の形状は特に限定されない。具体例として、
図1に示すノズルの先端部において、中央部の穴2を中心に同心円状に広がる凹凸部3における同心円状の細長い溝、穴2に直結している放射状(扇状)の溝5が挙げられる。本ノズルには、周縁の凸部4も形成されている。
本発明におけるノズルのさらなる態様を、
図3に示す。
図3Aは、ノズルの先端部の平面は平滑であり、凹凸部も溝も形成されていない。
図3Cは、放射状の溝5と同心円状の溝が形成されている。
図3Bは、凹凸部3が多数のドットで形成され、穴2から周縁に向かってドット状の溝5が形成されている。
【0019】
本発明におけるノズルの材料は特に限定されることはなく、金属、セラミック、プラスチック、など多様な材料を使用することができる。製造の容易さ、使用の便、等を考慮するとプラスチックが好ましく、なかでもポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、等の合成樹脂がより好ましい。種々の材質の液体容器との嵌合性及びノズルの皮膚への接触感の良好さを考慮すると、軟質の高分子物質が好ましい。ノズル材料の硬さの尺度であるヤング率に関しては500~5MPaであることが望ましい。このような軟質の高分子はガラス転移温度が室温以下であって室温ではゴム状態であり自着性及びマイクロニードルパッチ背面への接着性を有する。ここで室温とは、20℃~25℃をいう。このような性質を自粘性という。高分子自身が固くても可塑剤を含んだ樹脂組成物として軟質であり、自粘性を有する合成樹脂であってもよい。具体的材料としては軟質ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、軟質塩化ビニル樹脂、やシリコーン樹脂が好ましく、シリコーン樹脂がより一層好ましい。ノズルが自粘性を有することの利便性は水溶性シート状製剤との付着性を向上させ、弱い接触でシート状製剤をノズルに付着させその状態で皮膚にシート状製剤を押し付けることによりシート状製剤を皮膚に適用できるという利便性を有するものである。
【0020】
合成樹脂製のノズルは、公知の方法によって製造することができ、例えば、原料の樹脂を金型に注入して成形することにより製造することができる。
【0021】
本発明の発泡体リング縁付きノズルは、前記本発明におけるノズルの先端部の周縁の周囲にリング状発泡体からなる縁が配置されている。リング状発泡体は、供給された水がノズル先端部に均一に流れ、かつ溢れないように、前記平滑平面又は前記凹凸部、さらには周縁の凸部よりも高くなるように配置する。周縁のリング状発泡体は、先端部に広がった水を水溶性シート状製剤の外部に逃がさないようにする堰の役割を果たす。
【0022】
本発明における発泡体としては、あらゆる樹脂発泡体を成形して用いることができる。用いる樹脂発泡体は、連続気泡型である。連続気泡型は気泡が繋がって連通している開放気泡を有するので望ましい。気泡径は小さすぎると空気の透過に難を有し、大きすぎると水も容易に透過するので、気泡径は0.1mm以上5mmが望ましい。
【0023】
本発明における発泡体は、本発明におけるノズルの先端部の周縁の周囲に配置される。発泡体の形状は、ノズルの先端部の周縁に合わせた空洞を中央に有するリング状の形状である。リング状の形状の外周は、典型的には円形であるが、楕円形、多角形であってもよい。中央の空洞の形状は、ノズルの先端部の平面の形状に合わせて適宜設定することができ、円形、楕円形、勾玉形;三角形、四角形、五角形、六角形、八角形などの多角形であってもよい。
【0024】
リング状発泡体とノズルとの関係は、発泡体の上端がノズル先端部の周縁より高いことが必要である。ノズル先端部を上方に向け、先端部の周縁を水平方向にしたとき、発泡体の上端は、ノズル先端部の周縁よりも0.1mm~10mm高いことが望ましく、0.3mm~5mm高いことがさらに望ましい。
【0025】
本発明における発泡体の原料としては、特に限定されるものではないが、合成樹脂があげられる。合成樹脂としては、ポリウレタン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル、ユリア樹脂、及びそれらの混合物などがあげられる。
【0026】
本発明における発泡体の大きさは、配置されるノズルの形状に応じて、任意の大きさに設定することができる。円形の空洞を中央に有する同心円状のドーナツ形の場合、2つの円の半径の差、すなわち、ノズルの周囲を囲む部分の大きさは、通常、5mm~30mm程度であり、7mm~20mmが好ましい。その他の形状の発泡体も、同心円状のドーナツ形の発泡体に準じて、同様に設定することができる。
【0027】
本発明における発泡体の製造は、公知の化学発泡法又は物理的発泡法による連続気泡を有する発泡体ブロックを製造し、製造した発泡体ブロックをスライス加工、スリット加工、打抜裁断加工等により成形する方法があげられる。
【0028】
上記のように製造したリング状発泡体は、本発明におけるノズルの先端部を中央の空洞部に入れ、所定の位置で固定することによって、本発明の発泡体付きノズルとすることができる。ノズル先端部を上方に向け、先端部の周縁を水平方向にしたとき、リング状発泡体の固定位置は、リング状発泡体の上端がノズル先端部の周縁よりも0.1mm~10mm高いことが望ましく、0.3mm~5mm高いことがさらに望ましい。
固定方法は、接着剤等による固定、ノズルの先端部からリング状発泡体の厚さだけ後方に設けたストッパーによる固定などがあげられる。
接着剤等による固定方法の場合は、リング状発泡体はノズルごと交換し、ストッパーによる固定方法の場合は、リング状発泡体のみを交換することができる。後者の場合、使用毎にリング状発泡体をノズルから取り外し、洗浄及び乾燥して該発泡体の清潔を維持することができる。また、リング状発泡体のみが劣化した場合、該発泡体の部分交換が可能である。
【0029】
本発明のアプリケータは、液体容器と、本発明の発泡体リング縁付きノズルとから構成される。前記液体容器と発泡体リング縁付きノズルとは別々にした組み合わせであってもよい。この場合、使用時に液体容器の開口部に発泡体リング縁付きノズルが装着される。液体容器中には、予め液体が充填されていてもよく、使用直前に液体を注入してもよい。本発明において液体は、典型的には水であるが、水溶性シート状製剤を溶解可能であれば水以外の溶媒との混合液体であってもよい。また、必要に応じて皮膚に適用する薬効成分や有価成分を追加して含む水溶液であってもよい。
【0030】
前記液体容器の材料は特に限定されることはなく、ノズルとの嵌合性を考慮して、金属、セラミック、プラスチック、など多様な材料を使用することができる。製造の容易さ、使用の便、等を考慮するとプラスチックが好ましく、なかでもポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、等の合成樹脂がより好ましい
【0031】
本発明のアプリケータは、本発明の発泡体リング縁付きノズルを有している。例えば、
図4Cに示すアプリケータが挙げられる。この場合、ノズルの先端部に水溶性シート状製剤を保持して皮膚に適用し、前記液体容器の押圧により該製剤の背面に液体を供給することができる。供給される液体の量は、水溶性シート状製剤の大きさ(面積、厚さ)等に応じて適宜設定することができる。液体の量の調節は、ノズルの穴の大きさ、液体容器に加える圧力、押圧回数等によって行うことができる。
【0032】
前記液体容器が噴霧装置を装備している場合、本発明のアプリケータは、該噴霧装置の先端開口にノズルを装着している。例えば、
図4Bに示すアプリケータが挙げられる。この場合も同様に、前記ノズルの先端部に水溶性シート状製剤を保持して皮膚に適用し、該噴霧装置の発射により該製剤の背面に液体を供給することができる。供給される液体の量は、水溶性シート状製剤の大きさ(面積、厚さ)等に応じて適宜設定することができる。液体の量の調節は、ノズルの穴の大きさ、噴霧装置の排液能力、発射回数等によって行うことができる。
【0033】
前記液体容器がポンプを装備している場合、本発明のアプリケータは、該ポンプの先端開口にノズルを装着している。例えば、
図4Aに示すアプリケータが挙げられる。この場合も同様に、前記ノズルの先端部に水溶性シート状製剤を保持して皮膚に適用し、該ポンプを押して該製剤の背面に液体を吐出することができる。吐出される液体の量は、水溶性シート状製剤の大きさ(面積、厚さ)等に応じて適宜設定することができる。液体の量の調節は、ノズルの穴の大きさ、ポンプの吐出能力、吐出回数等によって行うことができる。
【0034】
このように、本発明は、種々の液体容器を用いて、該液体容器の開口部に嵌合可能な形態の本発明の発泡体リング縁付きノズルを装着することによって種々の態様のアプリケータを提供することができる。したがって、水溶性シート状製剤の形状、適用目的、適用頻度、適用部位等に応じて、ノズルと液体容器を自由に組み合わせることができる。また、本発明の発泡体リング縁付きノズルは安価に量産可能であるので、被験者毎、適用日毎に取り換えて使用することができる。使用後のアプリケータは、発泡体リング縁付きノズルを取り外して開口部を蓋等で密閉し、液体容器に残った液体を冷蔵保存し、使用期限内に再度使用することもできる。さらに、本発明のアプリケータは、1回の液量を充填した液体容器と発泡体リング縁付きノズルとを装着させ、1回使い切りのディスポーザブル装置として使用することもできる。
【0035】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。しかし、本発明は実施例の内容に限定されるわけではない。
【実施例】
【0036】
実施例1
図1に示すようなノズルを作製した。シリコーン樹脂(1液型RTVゴム、信越化学工業(株))を用いて型注入成形により作製した。ノズル先端1の平面の直径は12mm、同心円状の凹凸部3の深さは0.5mm、凹凸部の間隔は1mmであった。ノズル全体の断面を
図1の上図に、ノズルの底面図を
図1の下図に示す。穴2は、ノズル本体10の中央を貫通し、先端部の中心部に見える。液体は穴2から出て、溝5に広がり、さらに凹凸部3を経由して平面全体に広がる。ウレタン発泡体シート((株)大番、特注品、発泡倍率5倍、厚さ2.0cm)を切削加工して外形3.0cmの円形に打ち抜き、さらに中心内径1.5cmの穴を有するリング状発泡体を作製した。本リング状発泡体をノズルの先端の周囲に固定し、ノズル先端平面よりも1.0mm高くセットした。
【0037】
本発泡体リング縁付きノズルをポリエチレン製容器に取り付け(
図2参照)、リムベールHV(フコイダン1.2%含有水溶液、タングルウッド(株))0.1gを水200gに溶解し、フコイダン含有エキスを満たしアプリケータとした。
【0038】
マイクロニードルパッチは以下のように製造した。ヒアルロン酸(FCH-80、培養由来、キッコーマンバイオケミファ(株))5gとリムベールHV5gを90gの水に加え、均一な溶液とした。その水溶液を鋳型上に流延し、室温で24時間乾燥し、鋳型から抜き出してマイクロニードルアレイシートを得た。このシートを裁断し、直径1cmのマイクロニードルアレイを得た。マイクロニードル1個あたりのフコイダン含有量は25μgであった。本マイクロニードルパッチ及びエキスは育毛を目的とした製剤である。
【0039】
使用に先立ち、アプリケータノズル部でマイクロニードルアレイの背面を押し付着させ保持した。ボランティアの前額部に押しつけ、容器を圧迫することによりフコイダンエキスをマイクロニードルアレイの背面から供給した。本試験を10名のボランティアに関して実施した。アプリケータを押し付けた際の前額部を観察したが、10名において水がノズル面から外に流れ出てはいなかった。
【0040】
比較例1
リング縁がないことを除き実施例1と同様なノズルを用いて、実施例1と同様な試験を実施した。容器を圧迫することによりフコイダンエキスをマイクロニードルアレイの背面から供給した。本試験を10名のボランティアに関して実施した。アプリケータを押し付けた際の前額部を観察したが、10名中3名において水がノズル面から外に流れ出ていた。
【符号の説明】
【0041】
1 ノズルの先端部
2 穴
3 凹凸部
4 周縁の凸部
5 溝
6 リング状発泡体
10 ノズル本体
20 液体容器
21 開口部
22 ポンプ
23 噴霧装置