(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】伝熱プレート
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20240521BHJP
H05B 6/10 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
F28D15/02 102A
F28D15/02 W
F28D15/02 101H
H05B6/10 331
(21)【出願番号】P 2020107938
(22)【出願日】2020-06-23
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000110158
【氏名又は名称】トクデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】北野 孝次
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-186195(JP,A)
【文献】特開平08-296986(JP,A)
【文献】特開平06-199300(JP,A)
【文献】特開2015-219639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/00-15/06
H05B 1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理物との間で熱のやり取りを行う伝熱プレートであって、
表面に前記熱処理物が載置されるとともに、裏面に設けられた誘導加熱機構により加熱されるものであり、
平板状をなす金属本体と、
前記金属本体の内部に形成され、気液二相の熱媒体が封入された複数のジャケット室とを有し、
前記複数のジャケット室は、前記金属本体の一面に設定された伝熱面の中央部から外側に向かって放射状に延びており、
前記複数のジャケット室それぞれは、平面視において湾曲又は屈曲した形状を有する、伝熱プレート。
【請求項2】
前記複数のジャケット室それぞれは、互いに同一形状をなすものである、請求項1に記載の伝熱プレート。
【請求項3】
前記複数のジャケット室は、前記伝熱面の中心に対して周方向に等間隔に設けられている、請求項1又は2に記載の伝熱プレート。
【請求項4】
前記複数のジャケット室において互いに隣り合うジャケット室は、互いに等距離となるように形成されている、請求項1乃至3の何れか一項に記載の伝熱プレート。
【請求項5】
前記ジャケット室は、前記伝熱面の中心をその中心とする基礎円に基づくインボリュート曲線に沿って形成されたものである、請求項1乃至4の何れか一項に記載の伝熱プレート。
【請求項6】
前記ジャケット室の内側端及び外側端は、前記伝熱面の中心周りに180°以上の位相差を有する、請求項1乃至5の何れか一項に記載の伝熱プレート。
【請求項7】
前記ジャケット室の断面形状は、前記伝熱面に平行な一辺を有する矩形状をなすものである、請求項1乃至6の何れか一項に記載の伝熱プレート。
【請求項8】
前記ジャケット室は、前記金属本体の一面に加工された溝を蓋部材により封止することにより形成されている、請求項1乃至7の何れか一項に記載の伝熱プレート。
【請求項9】
前記金属本体の外側周面に前記ジャケット室に対する気液二相の熱媒体の封入及び排出を行うための入出ポートが形成されている、請求項1乃至8の何れか一項に記載の伝熱プレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理物との間で熱のやり取りを行う伝熱プレートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱処理物との間で熱のやり取りを行う伝熱プレートとしては、特許文献1に示すように、金属本体の内部に直線状のジャケット室を形成したものがある。このジャケット室には、気液二相の熱媒体が封入されており、当該熱媒体の潜熱移動によって金属本体が均温化される。
【0003】
ここで、金属本体を大型化する場合にはジャケット室の内容積が大きくなるため、圧力容器のpV値(p:最高使用圧力[MPa]、V:内容積[m3])の制約から、ジャケット室を互いに独立に構成し、かつ、各ジャケット室を直線形状として、伝熱プレートにおいて直線方向のみの均温化を行う構成としている。
【0004】
しかしながら、pV値の制約がある伝熱プレートにおいても、直線方向に垂直な方向への均温化を図ることが望まれる場合がある。この場合には、前記ジャケット室を構成するドリル穴群とは直交しない肉厚内に別途ジャケット室を構成するドリル穴群を設ける必要があり、肉厚の増大による金属本体の重量増加や大型化の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであり、pV値の制約がある伝熱プレートにおいて、伝熱プレートの肉厚を大きくすることなく、径方向及び周方向の温度均一性を実現することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る伝熱プレートは、熱処理物との間で熱のやり取りを行う伝熱プレートであって、平板状をなす金属本体と、前記金属本体の内部に形成され、気液二相の熱媒体が封入された複数のジャケット室とを有し、前記複数のジャケット室は、前記金属本体の一面に設定された伝熱面の中央部から外側に向かって放射状に延びており、前記複数のジャケット室それぞれは、平面視において湾曲又は屈曲した形状を有することを特徴とする。
【0008】
このような伝熱プレートであれば、複数のジャケット室が伝熱面の中央部から外側に向かって放射状に延びるとともに、複数のジャケット室それぞれが、平面視において湾曲又は屈曲した形状を有するので、pV値の制約(例えばpV>0.004)がある伝熱プレートにおいて、伝熱プレートの肉厚を大きくすることなく、径方向及び周方向の温度均一性を実現することができる。
【0009】
伝熱面における径方向及び周方向の温度均一性をより一層向上するためには、前記複数のジャケット室それぞれは、互いに同一形状をなすものであることが望ましい。
【0010】
同様に伝熱面における径方向及び周方向の温度均一性をより一層向上するためには、前記複数のジャケット室は、前記伝熱面の中心に対して周方向に等間隔に設けられていることが望ましい。
【0011】
また、伝熱面における径方向及び周方向の温度均一性をより一層向上するためには、前記複数のジャケット室において互いに隣り合うジャケット室は、互いに等距離となるように形成されていることが望ましい。
【0012】
互いに隣り合うジャケット室を互いに等距離となるように形成するためには、前記ジャケット室は、前記伝熱面の中心をその中心とする基礎円に基づくインボリュート曲線に沿って形成されたものであることが考えられる。このとき、インボリュート曲線形状の複数のジャケット室は基礎円の周りに等間隔に配置される。
【0013】
伝熱面の周方向における温度均一性を向上するためには、前記ジャケット室の内側端及び外側端は、前記伝熱面の中心周りに180°以上の位相差を有することが望ましい。
【0014】
ジャケット室に封入された熱媒体から伝熱面への熱伝達を均一にするためには、前記ジャケット室の断面形状は、前記伝熱面に平行な一辺を有する矩形状をなすものであることが望ましい。また、前記ジャケット室の断面形状は、前記伝熱面側が曲面形状であっても良い。
【0015】
平面視において湾曲又は屈曲したジャケット室を簡単に形成するためには、前記ジャケット室は、前記金属本体の一面に加工された溝を蓋部材により封止することにより形成することが望ましい。
【0016】
金属本体の一面(表面)に設定された伝熱面には、熱処理物が接触して設けられる。また、金属本体の伝熱面とは反対側の面(裏面)には加熱機構又は冷却機構が設けられる場合がある。このため、前記金属本体の外側周面に前記ジャケット室に対する気液二相の熱媒体の封入及び排出を行うための入出ポートが形成されていることが望ましい。この構成であれば、入出ポートが邪魔になりにくい。
【発明の効果】
【0017】
このように構成した本発明によれば、伝熱プレートの肉厚を大きくすることなく、径方向及び周方向の温度均一性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る伝熱プレート及び加熱機構を示す斜視図である。
【
図2】同実施形態における伝熱プレートの平面図である。
【
図3】同実施形態における伝熱プレートのA-A線断面図及び部分拡大断面図である。
【
図4】変形実施形態における伝熱プレートの平面図である。
【
図5】変形実施形態における伝熱プレートの平面図である。
【
図6】変形実施形態における伝熱プレートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明に係る伝熱プレートの一実施形態について図面を参照して説明する。
【0020】
<1.装置構成>
本実施形態に係る伝熱プレート100は、熱処理物Wとの間で熱のやり取りを行うものであり、例えば熱処理を伴う加工に用いられるものである。具体的に伝熱プレート100は、プレス加工に用いられる金型に組み込まれて当該金型を加熱又は冷却するもの、粉体や液体などを収容する容器が載置されて当該容器の底板を加熱又は冷却するもの、樹脂成形の金型に組み込まれて当該金型を加熱又は冷却するものとして用いることができる。
【0021】
本実施形態の伝熱プレート100は、
図1に示すように、表面に熱処理物Wが載置されるとともに、裏面に設けられた誘導加熱機構などの加熱機構5により加熱されるものである。なお、誘導加熱機構は、鉄心及び当該鉄心に巻回された誘導コイルを有し、伝熱プレート100を誘導加熱するものである。
【0022】
具体的にこの伝熱プレート100は、
図2及び
図3に示すように、平板状をなす金属本体2と、金属本体2の内部に形成され、水などの気液二相の熱媒体4が減圧封入された複数のジャケット室3とを有している。なお、
図2ではジャケット室3が6つであるが、ジャケット室3の数は適宜変更可能である。
【0023】
金属本体2は、平面視において例えば円形状をなすものであり、炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、又はアルミニウム合金などにより構成されている。そして、金属本体2の一面(表面)が、熱処理物Wとの間で熱のやり取りを行う伝熱面2xとなる。ここで伝熱面2xは、ジャケット室3による均温対象となる面であり、平面視において概略円形状をなすものである。
【0024】
複数のジャケット室3は、
図2に示すように、金属本体2の一面に設定された伝熱面2xの中央部から外側に向かって放射状に延びており、複数のジャケット室3それぞれは、平面視において湾曲又は屈曲した形状を有している。ここで、ジャケット室3の内側端3aは、伝熱面2xの中心Cの近傍に位置し、ジャケット室3の外側端3bは、伝熱面2xの外縁部の近傍に位置する。
【0025】
具体的に複数のジャケット室3それぞれは、互いに同一形状をなすものであり、伝熱面2xの中心Cに対して周方向に等間隔、つまり、伝熱面2xの中心Cに対して回転対称に設けられている。また、複数のジャケット室3において互いに隣り合うジャケット室3は、互いに等距離L1となるように形成されている。
【0026】
より詳細には、ジャケット室3は、伝熱面2xの中心Cをその中心とする基礎円BCに基づくインボリュート曲線ICに沿って形成されたものである。つまり、ジャケット室3は、インボリュート曲線ICを軌跡線(中心線)とするインボリュート曲線形状である。さらに、ジャケット室3の内側端3a及び外側端3bは、伝熱面2xの中心C周りに180°以上の位相差を有しており、本実施形態では、ジャケット室3が伝熱面2xの中心Cをほぼ1周りするように、伝熱面2xの中心C周りに300°~360°の位相差を有している。
【0027】
また、ジャケット室3の断面形状は、
図3に示すように、伝熱面2xに平行な一辺を有する矩形状をなすものである。ジャケット室3の断面形状は、内側端3aから外側端3bに亘って等断面である。さらに、ジャケット室3は、内側端3aから外側端3bに亘って、伝熱面2xから等距離に設けられている。なお、ジャケット室3は、内側端3aから外側端3bに亘って等断面でなくてもよく、場所によって断面形状が異なるものであっても良い。例えば、ジャケット室3が内側端3aから外側端3bに亘って、ジャケット室3の下面と伝熱面2Xとの距離が徐々に大きくなる(ジャケット室3を構成する溝が深くなる)又は小さくなる(ジャケット室3を構成する溝が浅くなる)ものであっても良い。
【0028】
上記のジャケット室3は、
図3の部分拡大図に示すように、金属本体2の一面に加工された溝2Mを蓋部材21により封止することにより形成されている。ここでは、金属本体2の溝2Mに蓋部材21を溶接封止している。
【0029】
その他、金属本体2の外側周面にジャケット室3に対する気液二相の熱媒体4の封入及び排出を行うための入出ポート2Pが設けられている。なお、熱媒体4は、例えば、純水、アルコール、有機熱媒体、ナフタレン等を用いることができる。
【0030】
この伝熱プレート100は、加熱機構5により加熱されると、ジャケット室3内に減圧封入した気液二相の熱媒体4の潜熱移動により、伝熱面2xの温度が均一化される。ここで、各ジャケット室3が、径方向に延びるだけでなく、周方向に湾曲しているので、気液二相の熱媒体の潜熱移動により、伝熱面2xの温度は径方向に均一化されるだけでなく、周方向においても均一化される。
【0031】
<2.本実施形態の効果>
このように構成された本実施形態に係る伝熱プレート100によれば、複数のジャケット室3が伝熱面2xの中央部から外側に向かって放射状に延びるとともに、複数のジャケット室3それぞれが、平面視において湾曲又は屈曲した形状を有するので、伝熱プレート100の肉厚を大きくすることなく、径方向及び周方向の温度均一性を実現することができる。
【0032】
<3.その他の本実施形態の効果>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0033】
例えば、前記実施形態では、複数のジャケット室3は互いに独立しているが、
図4に示すように、複数のジャケット室3が互いに連通していても良い。
図4では、伝熱面2xの中央部で複数のジャケット室3が連通する構成であるが、例えば、伝熱面2xの外周部などのその他の部分で複数のジャケット室3が連通する構成であっても良い。また、互いに連通するジャケット室3を分割して、互いに連通するジャケット室群を複数有する構成としても良い。
【0034】
前記実施形態では、ジャケット室3の形状がインボリュート曲線形状であったが、その他、内側端3aから外側端3bに向けて連続的にその曲率が変化する曲線形状、円弧形状(
図5(a)参照)、又は、楕円弧形状であっても良い。また、ジャケット室を直線形状及び曲線形状を組み合わせた形状としても良いし、平面視において径方向に対して徐々に傾斜角度が大きくなるように複数の直線形状を組み合わせた形状(
図5(b)参照)としても良い。
【0035】
さらに、前記実施形態では、伝熱プレート100の外部に加熱機構又は冷却機構を設けた構成であったが、伝熱プレート100の内部に加熱機構又は冷却機構を設けた構成としてもよい。この場合、
図6(a)に示すように、金属本体2の内部にカートリッジヒータなどのヒータ6を設けることや、
図6(b)に示すように、金属本体2の内部に冷媒が流れる冷却流路7を設けることが考えられる。
【0036】
前記実施形態は、複数のジャケット室3が平面視において互いに同一形状をなすものであったが、平面視において互いに異なる形状であっても良い。
【0037】
前記実施形態の伝熱プレートは平面視において円形状をなすものであったが、その他、平面視において矩形状をなすものであっても良いし、用途に応じた種々の形状であっても良い。
【0038】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0039】
100・・・伝熱プレート
2 ・・・金属本体
3 ・・・ジャケット室
2x ・・・金属本体の一面(伝熱面)
C ・・・伝熱面の中心
BC ・・・基礎円
IC ・・・インボリュート曲線
3a ・・・内側端
3b ・・・外側端
21 ・・・蓋部材
2P ・・・入出ポート