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特許7491559ガスシールドアーク溶接装置及び溶接方法
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  • 特許-ガスシールドアーク溶接装置及び溶接方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】ガスシールドアーク溶接装置及び溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/16 20060101AFI20240521BHJP
   B23K 9/32 20060101ALI20240521BHJP
   B23K 37/02 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B23K9/16 M
B23K9/32 A
B23K37/02 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020119595
(22)【出願日】2020-07-12
(65)【公開番号】P2022016720
(43)【公開日】2022-01-24
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000147729
【氏名又は名称】株式会社石井鐵工所
(72)【発明者】
【氏名】石井 宏治
(72)【発明者】
【氏名】磯部 永舟
(72)【発明者】
【氏名】深沢 剣吾
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-098375(JP,U)
【文献】特開昭58-103966(JP,A)
【文献】実開平01-109377(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/16
B23K 9/32
B23K 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の母材で形成した開先をアーク溶接して該母材を一体にするためのガスシールドアーク溶接装置であって、
レールをガイドとして移動する台車と、
該台車に支持され、該台車と一体的に移動するガスシールドアーク溶接トーチと、
前記開先の長手方向に平行で、かつ前記開先の両側にあるように前記台車に直接的または間接的に保持されている互いに平行な一対の遮風部材と、
前記遮風部材間にあって、前記溶接トーチから噴射される第1シールドガスとは別の第2シールドガスを溶接部に向けて前記開先の長手方向に沿って噴射するガスノズルとを具備するガスシールドアーク溶接装置。
【請求項2】
前記ガスノズルは、矩形状の断面を持ち水平方向の幅が高さよりも大きい噴射口を有するものであって、該噴射口の幅方向が前記母材表面に対して概ね平行になるように直接的または間接的に台車に固定されている、請求項1に記載のガスシールドアーク溶接装置。
【請求項3】
前記ガスノズルの噴射口が前記遮風部材間に位置している、請求項1又は2に記載のガスシールドアーク溶接装置。
【請求項4】
前記遮風部材は、前記台車と一体的に移動するように前記台車に直接的または間接的に固定されている、請求項1ないし3のいずれかに記載のガスシールドアーク溶接装置。
【請求項5】
前記ガスノズルは、前記台車と一体的に移動するように、前記溶接トーチ又は前記遮風部材或いは前記台車に直接的又は間接的に固定されている、請求項1ないし4のいずれかに記載のガスシールドアーク溶接装置。
【請求項6】
前記ガスノズルから噴射する前記第2シールドガスがCOである、請求項1ないし5のいずれかに記載のガスシールドアーク溶接装置。
【請求項7】
前記遮風部材の下部に遮風のための柔軟性部材を有する、請求項1ないし6のいずれかに記載のガスシールドアーク溶接装置。
【請求項8】
2以上の母材で形成した開先をガスシールドアーク溶接トーチを用いてアーク溶接して該母材を一体にするためのガスシールドアーク溶接方法であって、
前記開先の長手方向に平行で、かつ該開先の両側にあって互いに平行な一対の遮風部材の間において前記溶接トーチを用いて前記開先に対してガスシールドアーク溶接を行う際に、前記溶接トーチから噴射される第1シールドガスとは別の第2シールドガスを前記遮風部材間の溶接部に向けて前記第1シールドガスの流れと合流するように噴射しながら溶接を行う、ガスシールドアーク溶接方法。
【請求項9】
前記第2シールドガスは、前記遮風部材の間の幅方向に均一な流量を層流をなすように噴射するものである、請求項8記載のガスシールドアーク溶接方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガスシールドアーク溶接装置及び溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスシールドアーク溶接法では、溶接トーチのノズル先端部の噴射口からCO等のシールドガスを放出して溶接部の周囲を大気から遮蔽し、溶接金属に大気中の酸素や窒素等が取り込まれることによって生じるブローホール等の溶接欠陥の発生を防止している。
しかし、ガスシールドアーク溶接は、屋外で風速が2m/sを超える条件では、溶接部の周囲に横風を遮蔽するものがない場合、シールドガスが乱されて、溶接部が横風の影響を受けて、大気を巻き込み易くなり、ブローホールが発生し易くなる。
特に、母材相互の突合せ溶接の最終層では、溶融金属が大気に晒され易い状態となるため、溶接欠陥の発生がより顕著となる。
そこで、シールドガスの流量を増やす方法や、溶接トーチ先端部のシールドノズルの外周部にさらにシールドノズルを追加で配設し、2つのノズルから二重にシールドガスを溶接部に噴射する方法等が採られている。
また、ガスシールドアーク溶接法により屋外溶接を行う場合には、風によってガスシールドが乱されることを防止する対策を講ずる必要があり、溶接施工箇所全体を覆うような大掛かりな防風用の囲いを使用する方法が採られている。さらに、溶接トーチの先端部周囲を覆う小型の防風箱に関する文献も開示されている。
【0003】
特許文献1「ガスシールドアーク立向自動溶接法」の発明がある。この発明には、ガスシールドアーク溶接時にアーク近傍で発生する上昇気流による下方からの大気の巻込みを防ぐため、シールドノズルの下方に専用のガス導管を設け、この導管に開けられた複数個のガス噴出孔からガスを下方向に流しながら溶接を行うガスシールドアーク立向自動溶接法が開示されている。
【0004】
特許文献2「鉄骨現場溶接の防風装置」の発明がある。この発明には、溶接部近傍の母材表面に磁着して該母材表面から突出するガスフードと、そのガスフードに設けられて上記溶接部またはその前方に吹き出し口を向ける複数の吹き出し通路と、その吹き出し通路にシールドガスを供給するガス供給装置とを備える鉄骨現場溶接の防風装置が開示されている。
【0005】
特許文献3「ガスシールドアーク自動溶接装置の防風箱」の発明がある。この発明には、上部と底部とが開口した角形の箱体の周壁に透視窓を設け、かつ底部開口縁に耐熱性および可撓性を有する資材でなる気密材を縁材として取付け、さらに箱体全体を自動溶接装置に連結するとともに、その箱体の上部開口より溶接トーチホルダーを挿入し、このトーチホルダーの適所と箱体の上部開口縁との間に遮風用シートをたるみをもたせて展設し、上部開口を閉塞したガスシ─ルドア─ク自動溶接装置の防風箱が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平2-6057号公報
【文献】実登第2588449号公報
【文献】実開昭53-137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガスシールドアーク溶接において、風によってシールドガスが乱されることを防止する対策として、大掛かりな防風用の囲い等を設けたり、シールドガスの流量を増すために流速を大きくしたり、溶接トーチに内外2つのノズルを設けて二重にシールドガスを溶接部に噴射する方法等が採られているが、以下の課題がある。
例えば、大掛かりな防風用の囲いを使用する防風対策は、溶接施工場所が遠隔地や高所である場合、作業場所までの運搬や高所への設置に労力や時間を要するだけでなく、溶接ヒュームの排出が課題となる。
防風箱は、大掛かりな防風用の囲いと比べて持ち運びや設置が容易であるが、溶接時に発生するヒュームが防風箱の内部に充満し、耐熱ガラス等で形成したのぞき窓を介しては溶接部の様子を十分に確認できず、溶接部のアーク柱や溶融池を視認することが困難になる等の問題がある。
シールドガスの流速の高速化は、溶滴やスパッタの飛散等の恐れがある。また、シールドガスを高速化することで、却って乱流を引き起こして大気を巻き込む恐れがある。
溶接トーチに内外2つのノズルを設けて二重にシールドガスを流す場合、既存の溶接トーチの外周部に新たにシールドノズルを追加する等の改造が必要になる。
特に、広いビード幅を確保するために、溶接進行方向に対して左右交互に溶接トーチ先端を振幅移動させながら溶接を行うウィービング溶接の場合、溶接トーチやその外周に設けたシールドノズルから噴射するシールドガスが振幅移動により乱されてガスシールドの効果が十分に得られない恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、2以上の母材で形成した開先をアーク溶接して該母材を一体にするためのガスシールドアーク溶接装置であって、
レールをガイドとして移動する台車と、
該台車に支持され、該台車と一体的に移動するガスシールドアーク溶接トーチと、
前記開先の長手方向に平行で、かつ前記開先の両側にあるように前記台車に直接的または間接的に保持されている互いに平行な一対の遮風部材と、
前記遮風部材間にあって、前記溶接トーチから噴射される第1シールドガスとは別の第2シールドガスを溶接部に向けて前記開先の長手方向に沿って噴射するガスノズルとを具備するガスシールドアーク溶接装置を提供する。
【0009】
また本発明の前記ガスノズルは、矩形状の断面を持ち水平方向の幅が高さよりも大きい噴射口を有するものであって、該噴射口の幅方向が前記母材表面に対して概ね平行になるように直接的または間接的に台車に固定されている、前記のガスシールドアーク溶接装置を提供する。
【0010】
本発明はさらに、前記ガスノズルの噴射口が前記遮風部材間に位置している、前記のガスシールドアーク溶接装置を提供する。
【0011】
本発明はさらに、前記遮風部材が、前記台車と一体的に移動するように前記台車に直接的または間接的に固定されている、前記のガスシールドアーク溶接装置を提供する。
【0012】
本発明はさらに、前記ガスノズルが、前記台車と一体的に移動するように、前記溶接トーチ又は前記遮風部材或いは前記台車に直接的又は間接的に固定されている、前記のガスシールドアーク溶接装置を提供する。
【0013】
本発明はさらに、前記ガスノズルから噴射する前記第2シールドガスがCOである、前記のガスシールドアーク溶接装置を提供する。
【0014】
本発明はさらに、前記遮風部材の下部に遮風のための柔軟性部材を有する、前記のガスシールドアーク溶接装置を提供する。
【0015】
本発明はさらに、2以上の母材で形成した開先をガスシールドアーク溶接トーチを用いてアーク溶接して該母材を一体にするためのガスシールドアーク溶接方法であって、
前記開先の長手方向に平行で、かつ該開先の両側にあって互いに平行な一対の遮風部材の間において前記溶接トーチを用いて前記開先に対してガスシールドアーク溶接を行う際に、前記溶接トーチから噴射される第1シールドガスとは別の第2シールドガスを前記遮風部材間の溶接部に向けて前記第1シールドガスの流れと合流するように噴射しながら溶接を行う、ガスシールドアーク溶接方法を提供する。
【0016】
この本発明の溶接方法においては、前記第2シールドガスを前記遮風部材の間の幅方向に均一な流量を層流をなすように噴射する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のガスシールドアーク溶接装置及び溶接方法は、溶接トーチから噴射される第1シールドガスとは別の第2シールドガスを溶接部に向けて開先の長手方向に沿って噴射することにより、横風に対するガスシールド効果を向上することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るガスシールドアーク溶接装置の全体構造を示す正面図である。
図2図1のA部の拡大斜視図を示す。
図3図1のA部の拡大平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のガスシールドアーク溶接装置及び溶接方法の一実施形態について図1から図3を参照しながら説明する。なお、本発明は、下記の実施形態にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲で実施形態に変更を加えることが可能なことはもちろんである。また、図は概略を示すもので、一部のみを描き詳細構造は省略した。
【0020】
図1は、本発明の一実施形様に係るガスシールドアーク溶接装置の全体構造を示す正面図である。
本実施態様のガスシールドアーク溶接装置は、図1に示すように、2つの母材6a、6bの側面を互いに突き合わせて形成した開先3をアーク溶接して母材6を一体にするためのガスシールドアーク溶接装置である。
本実施態様においては、ガスシールドアーク溶接装置は、母材6aに対して固定されているレール4をガイドとして移動する台車5と、台車5に支持され、台車5と一体的に移動するガスシールドアーク溶接トーチ2と、開先3の長手方向に平行で、かつ開先3の両側にあるように台車5に直接的または間接的に保持されている互いに平行な一対の遮風部材10、10と、遮風部材10、10間にあって、溶接トーチ2から噴射される第1シールドガス7とは別の第2シールドガス8を溶接部11に向けて開先3の長手方向に沿って噴射するガスノズル1とを具備する。
【0021】
図1のガスシールドアーク溶接装置は、母材6aの表面にレール4を固定する事例を示しているが、レール4を母材6b或いは、母材6a、6bを支持する他の部材に固定しても良い。
なおガスノズル1は、ガスホース20を介して、シールドガスを封入したボンベやポンプ等からなるガス供給装置(図示しない)に接続されている。
【0022】
本実施態様においては、ガスシールドアーク溶接装置のガスノズル1の噴射口12が遮風部材10、10間に位置するように、母材6a、6b上に載置する。
例えば、ガスノズル1の噴射口12の幅が5cm程度の場合は、一対の遮風部材10、10相互の間隔は、5cmと略同等か若干大きい程度(例えば6cm程度)とする。
一対の遮風部材10、10間に間隔を設け、高さ方向頂部を開放することにより、溶接部11の視認性を損なうことがない。また、溶接ヒュームが溶接部11周囲に滞留することがなく、溶接ヒュームを大気中に直ぐに逃がすことができる。
【0023】
本実施態様のガスシールドアーク溶接装置は、図1に示すように、一対の遮風部材10、10を台車5と一体的に移動するように、連結アーム18を介して台車5に間接的に連結している。各々の遮風部材10、10の一部にアーム固定具19、19を設け、各々の該アーム固定具19、19に連結アーム18を連結する。
なお、遮風部材10、10を台車5に直接固定する構造としても良い。
また、各々の母材6a、6bの上面に各々の遮風部材10、10を溶接等で予め固定する構造としても良い。この場合、連結アーム18とアーム固定具19、19は不要である。
【0024】
本実施態様のガスシールドアーク溶接装置は、ガスノズル1又はガスノズル1が連結されたホース20を台車5に連結アーム17を介して間接的に固定している。
なお、溶接トーチ2とガスノズル1双方を固定具(図示しない)で間接的に固定する構造としても良い。
また、遮風部材10、10にガスノズル1を直接固定する構造としても良い。この場合、連結アーム17或いは連結アーム18は不要である。
さらにまた、ガスノズル1を台車5に直接固定する構造としても良い。
【0025】
本実施態様において、ガスシールドアーク溶接装置を溶接トーチ2から噴射する第1シールドガス7として炭酸ガス(以下、「CO」と称する)を使用する炭酸ガスシールドアーク溶接(MAG溶接)に使用する場合は、ガスノズル1から噴射する第2シールドガス8をCOとする。
一方、溶接トーチ2から噴射する第1シールドガス7としてアルゴンを使用する溶接(MIG溶接)の場合は、ガスノズル1から噴射する第2シールドガス8をアルゴンとする。
【0026】
図2は、図1のA部の拡大斜視図を示す。
図1と同じ構造の説明は省略する。
本実施態様のガスシールドアーク溶接装置のガスノズル1は、図2に示すように、矩形状の断面を持ち水平方向の幅が高さよりも大きい噴射口12を有するものであって、噴射口12の幅方向が母材6表面に対して概ね平行になるように連結アーム17を介して間接的に台車5に固定されているものとする。
ガスノズル1は、遮風部材10、10の間の幅方向に均一な流量の第2シールドガス8を層流をなすように噴射する。
【0027】
遮風部材10は、下部に遮風のための柔軟性部材14を有する。
本実施態様においては、遮風部材10、10を平らな鋼板等で形成し、該鋼板の下部に耐熱ガラスクロス等で形成された柔軟性部材14を設けている。
被溶接材の母材6表面と当接する部分に耐熱ガラスクロス等で形成された柔軟性部材14を設けることにより、遮風部材10を母材6表面上でスムーズに移動させることができる。
なお、ガスノズル1の高さは、図2に示すように、遮風部材10と柔軟性部材14を合わせた高さよりも低い高さとする。
【0028】
図3は、図1のA部の拡大平面図を示す。
図1図2と同じ構造の説明は省略する。
本実施態様においては、被溶接材の母材6aと母材6b相互で突合せ継手のV形の開先3を形成し、開先3の底部の裏側に、十分な溶け込みを確保することを目的として裏当材15を設けている。
裏当材15の材質は、母材6と同材質の鋼板或いはセラミック等とする。
【0029】
本実施態様のガスシールドアーク溶接トーチ2は、溶接ワイヤ9を軸心に有し、溶接ワイヤ9がモータ(図示しない)により定速度で送られ、溶接ワイヤ9の先端と母材6間でアーク13を発生し、アーク溶接するものである。
アーク溶接時に母材6a、6b相互の溶接部11を大気から遮蔽するため、溶接トーチ2のシールドノズル22先端部の噴射口23からCO等の第1シールドガス7を放出すると共に、ガスノズル1の噴射口12から層流の第2シールドガス8を放出し、横風に対するシールド効果を向上する。
なお溶接トーチ2は、台車5と一体的に移動するように、トーチホルダ16を介して台車5に間接的に連結している。
【0030】
次に、本発明のガスシールドアーク溶接方法の実施態様について説明する。
以下、タンクの側板等の縦継手の突合せ溶接を立向きで下方から上方に向かって立向上進溶接する方法の実施態様について説明する。
本実施態様のガスシールドアーク溶接方法は、2以上の母材6a、6bの側面を互いに突き合わせて形成した開先3をガスシールドアーク溶接トーチ2を用いてアーク溶接して該母材6を一体にするためのガスシールドアーク溶接方法である。
本溶接方法は、開先3の長手方向に平行で、かつ開先3の両側にあって互いに平行な一対の遮風部材10、10の間において溶接トーチ2を用いて開先3に対してガスシールドアーク溶接を行う際に、溶接トーチ2から噴射される第1シールドガス7とは別の第2シールドガス8を遮風部材10、10間の溶接部11に向けて第1シールドガス7の流れと合流するように噴射しながら溶接を行う。
【0031】
第2シールドガス8は、遮風部材10、10の間の幅方向に均一な流量を層流をなすように噴射する。
【0032】
本実施態様のガスシールドアーク溶接方法においては、図1に示す通り、下方から上方に向かって溶接する立向上進溶接を採用しており、台車5と連結アーム17を介して連結したガスノズル1の噴射口12から上方向に向けて第2シールドガス8を噴射する。
台車5と連結アーム17を介してガスノズル1又はガスノズル1が連結されたホース20を間接的に連結すると共に、台車5と連結アーム18を介して遮風部材10、10を間接的に連結することにより、台車5とガスノズル1及び遮風部材10、10を一体的に移動させることができる。
なお、ガスノズル1が常に溶接トーチ2近傍に位置するように、ガスノズル1やホース20を手で持って追随して移動させることも可能である。この場合、連結アーム17は不要である。
また、ガスノズル1以外の第2シールドガス8を供給する手段を採用しても良い。
【0033】
以上、本発明の一実施態様につき述べたが、本発明はこの実施態様に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
例えば、本発明に係る溶接装置及び溶接方法は、下方から上方に向かって溶接する立向上進溶接に限らず、上方から下方に向かって溶接する立向下進溶接に適用することも可能である。立向下進溶接に適用する場合は、遮風部材10、10間の上方から下方に向けて層流の第2シールドガス8を噴射する。
【0034】
また、本発明に係る溶接装置及び溶接方法は、2つの母材6a、6bの側面を互いに突き合わせて開先3を形成して行う突合せ溶接に限らず、水平の母材6a表面に対して垂直方向に母材6bを設けて開先3を形成する角継手やT継手の隅肉溶接等にも適用することが可能である。さらに、開先3の形状もV形に限らず、I形やレ形等の開先形状においても適用することが可能である。
なお、立向溶接に限らず、本溶接装置及び被溶接材を地面に対して水平となるように載置し、下向等の溶接姿勢にも適用することができる。
【0035】
上記の本発明の各実施態様のガスシールドアーク溶接装置及び溶接方法は、下記の効果を少なくとも1以上有している。
母材6上面に立設した遮風部材10、10をガイドとして、所定の方向(本実施態様では下方向から上方向)に対して、幅方向に均一で層流をなすように流す第2シールドガス8と溶接トーチ2から噴射する第1シールドガス7によって横風に対するガスシールド効果を向上し、空気中の酸素や窒素が溶融金属に侵入する可能性を低くし、ブローホール等の溶接欠陥の発生を抑制することができる。特に、横風を遮るものがない溶接部11の最終層に対するガスシールド効果を向上することができる。
台車5と溶接トーチ2、ガスノズル1及び遮風部材10、10を溶接の進行方向と連動させて移動させ、溶接部11を常に横風から遮蔽した状態で、溶接部11に向けて第1シールドガス7及び第2シールドガス8を供給することにより、ガスシールド効果を向上することができる。
既存の溶接装置にガスノズル1、遮風部材10、10等の部材を追加で設けることによって簡単に実施することができ、大掛かりな設備投資が不要である。また、既存の溶接装置を使用できるため、溶接方法を変更する必要もない。
第2シールドガス8として安価なCOを使用することにより、炭酸ガスシールドアーク溶接において、低コストで実施できる。
従来の溶接トーチ2から噴出するシールドガス流を高速化する方法によって生じる乱流の恐れもない。
大掛かりな防風用の囲いや防風箱を使用する防風対策と比べて、密閉空間を形成せず、溶接時のヒュームの排出対策を講じる必要が無い。
特に、溶接トーチ2から噴射する第1シールドガス7が乱れ易いウィービング溶接において、溶接部11に向けて開先3の長手方向に沿って層流をなすように第2シールドガス8を噴射することにより、溶接部及びその周囲に安定して第1シールドガス7及び第2シールドガス8が供給され、ガスシールド効果が向上し、溶接品質を向上することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 ガスノズル
2 溶接トーチ
3 開先
4 レール
5 台車
6 母材
6a 母材
6b 母材
7 第1シールドガス
8 第2シールドガス
9 溶接ワイヤ(電極)
10 遮風部材
11 溶接部(溶融金属)
12 噴射口
13 溶接アーク
14 柔軟性部材(耐熱ガラスクロス)
15 裏当材
16 トーチホルダ
17 (ガスノズル1の)連結アーム
18 (遮風部材10の)連結アーム
19 アーム固定具
20 ホース
21 溶接金属
22 シールドノズル
23 噴射口

W 横風
P 溶接(台車5)の進行方向



図1
図2
図3