IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人東京医科大学の特許一覧

<>
  • 特許-医療用被ばく線量モニター 図1
  • 特許-医療用被ばく線量モニター 図2
  • 特許-医療用被ばく線量モニター 図3
  • 特許-医療用被ばく線量モニター 図4
  • 特許-医療用被ばく線量モニター 図5
  • 特許-医療用被ばく線量モニター 図6
  • 特許-医療用被ばく線量モニター 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】医療用被ばく線量モニター
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/204 20060101AFI20240521BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20240521BHJP
   G01T 1/16 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
G01T1/204 A
G01T1/20 D
G01T1/20 L
G01T1/16 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020200315
(22)【出願日】2020-12-02
(65)【公開番号】P2022088073
(43)【公開日】2022-06-14
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】505457994
【氏名又は名称】学校法人東京医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(72)【発明者】
【氏名】野村 貴美
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-524835(JP,A)
【文献】特表2003-532084(JP,A)
【文献】特開2013-253912(JP,A)
【文献】特開2010-049187(JP,A)
【文献】特開2008-190891(JP,A)
【文献】特表2019-504330(JP,A)
【文献】特開平03-242590(JP,A)
【文献】特開昭57-076466(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0129593(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00-1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブルチューブと液体シンチレータと光電子増倍管とを有し、
前記フレキシブルチューブは、外側チューブと内側チューブとを有し、
前記外側チューブは、コルゲートチューブであり、
前記外側チューブの内側に、前記内側チューブが挿入され、
前記内側チューブの内部に、前記液体シンチレータが封入され、
前記フレキシブルチューブの少なくとも一方の末端に、前記光電子増倍管が連結されていることを特徴とする医療用被ばく線量モニター。
【請求項2】
前記フレキシブルチューブの両端に、前記光電子増倍管がそれぞれ連結されている、請求項1に記載の医療用被ばく線量モニター。
【請求項3】
前記内側チューブは、チューブ本体と、前記チューブ本体の外側の被覆層とを有し、
前記内側のチューブ本体が、前記液体シンチレータに対する耐性を有するチューブであり、
前記外側の被覆層が、金属蒸着プラスチック層である、請求項1または2に記載の医療用被ばく線量モニター。
【請求項4】
前記内側チューブにおいて、前記チューブ本体が、フッ素樹脂製チューブである、請求項3に記載の医療用被ばく線量モニター。
【請求項5】
前記内側チューブにおいて、前記外側の被覆層が、アルミニウム蒸着ポリエチレンテレフタレート膜またはアルミニウム蒸着ポリエチレン膜である、請求項3または4に記載の医療用被ばく線量モニタ
【請求項6】
前記内側チューブの両端に、光透過性の蓋部を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の医療用被ばく線量モニター。
【請求項7】
前記蓋部が、石英ガラスである、請求項6に記載の医療用被ばく線量モニター。
【請求項8】
前記液体シンチレータの溶媒が、キシレンまたはプソイドクメンである、請求項1から7のいずれか一項に記載の医療用被ばく線量モニター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用被ばく線量モニターに関する。
【背景技術】
【0002】
医療において使用されている放射線診断機器は、X-CTのように画質の向上が図られている一方、短時間での局部照射であるものの、照射線量が増加している。このため、頭部、胴部、歯等の局所についてX線撮影を行った場合、被ばく線量の測定は、非常に重要である。
【0003】
被ばく線量の測定方法としては、例えば、胸や腰に小型の線量素子を装着し、一か月ごとの積算値として、被ばく線量を測定する方法が一般的である。この方法は、基本的に、医療従事者のみに行われている。近年では、医療従事者だけでなく、被検者についても、被ばく線量を可能な限り低くするように求められている。
【0004】
一方、以下のような理由から、被検者が均一な放射線場に暴露された場合に、線量素子は、リスク評価として有用とされている。すなわち、小型の線量素子の使用であっても、均一な放射線場であれば、被検者の全身に対する被ばく線量(実効線量)は、高い信頼性で算出できる。しかしながら、後に、専用の測定機器で測定して、評価することになるので、時間と手間がかかる。
【0005】
また、このような方法は、前述のような放射線診断においては有効とはいえない。すなわち、放射線診断の場合、例えば、患者に対して局所的に高い線量が照射される。このように照射部位が限られ、その線量も高いことから、照射部位における照射線量を測定しても、被検者の全身に対する被ばく線量は、実測のものではなく、シミュレーションにより算出されるにすぎず、個体差により信頼性に欠ける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特に、福島第一原発の事故後、診断における放射線の使用に対する患者の不安が増している。このため、診断において被ばく線量の実測値を患者に伝えることができれば、不安解消にもつながると考えらえる。
【0007】
そこで、本発明は、医療分野での放射線照射において、被検者に対する線量を、照射しているその部位の測定から、より迅速により簡便に評価できるモニター装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の医療用被ばく線量モニターは、フレキシブルチューブと液体シンチレータと光電子増倍管とを有し、前記フレキシブルチューブは、外側チューブと内側チューブとを有し、前記外側チューブは、コルゲートチューブであり、前記外側チューブの内側に、前記内側チューブが挿入され、前記内側チューブの内部に、前記液体シンチレータが封入され、前記フレキシブルチューブの少なくとも一方の末端に、前記光電子増倍管が連結されていることを特徴とする。以下、本発明の医療用被ばく線量モニターは、「線量モニター」ともいう。
【発明の効果】
【0009】
本発明の線量モニターは、前述のように、前記フレキシブルチューブにより構成されていることから、使用時に、例えば、被検者の局所的な照射部位に応じて、線量を測定したい周辺領域に対して、本発明の線量モニターを所望の形状で配置できる。さらに、本発明の線量モニターにおいて、前記フレキシブルチューブに封入されているシンチレータは、固体ではなく、測定対象であるヒトの身体の65%を占める体液と同様に、液体であることから、組織に対して等価な線量が得られる。このため、本発明の線量モニターによれば、人体への局所的に高い強度(例えば、数秒または数十秒以内)の放射線照射であっても、照射部位の周囲における線量をより迅速に測定でき、例えば、それを、実効線量に代わる実測の実用線量(線量当量)として、被ばくの評価に用いることができる。また、前記液体シンチレータは、例えば、固体シンチレータよりも発光減衰が早いことから、次のパルスがきても数え落としがされにくいため、放射線の強度が高くても、飽和することなく検出可能である。したがって、本発明の線量モニターによれば、例えば、頭部、頚部、口腔部、胸部というような局所に対する放射線照射により診断を行う際、より迅速且つ簡便にその場で、実用としての線量(1cm線量当量とも言う)や被ばくの評価結果を、患者に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の線量モニターの一例を示す断面図である。
図2図2は、実施例1のラケット型の線量モニターの一例を示す概略図である。
図3図3は、実施例2において、標準線源241Am(エネルギー:59.5keV)を使用した結果であり、ラケット型線量モニターによるカウント率と前記NaIシンチレーション検出器による線量率との関係を示すグラフである。
図4図4は、標準線源137Cs(エネルギー: 772 keV)を使用した結果であり、ラケット型線量モニターによるカウント率と前記NaIシンチレーション検出器による線量率との関係を示すグラフである。
図5図5は、実施例3における、ラケット型線量モニターによるPHAスペクトルのグラフである。
図6図6(A)は、実施例3における、ラケット型線量モニターとルミネス線量素子との位置関係を示す概略図であり、図6(B)は、実施例3における被検者とラケット型線量モニターとルミネス線量との位置関係を示す概略図である。
図7図7は、実施例3における、ラケット型線量モニターによる経時的なカウントを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の線量モニターは、前述のように、フレキシブルチューブと液体シンチレータと光電子増倍管とを有し、前記フレキシブルチューブは、外側チューブと内側チューブとを有し、前記外側チューブは、コルゲートチューブであり、前記外側チューブの内側に、前記内側チューブが挿入され、前記内側チューブの内部に、前記液体シンチレータが封入され、前記フレキシブルチューブの少なくとも一方の末端に、前記光電子増倍管が連結されていることを特徴とする。本発明の線量モニターは、例えば、液体シンチレーションライトガイド(Liquid Scintillation Light Guide)放射線検出器ともいう。
【0012】
本発明の線量モニターによりモニターできる放射線の種類は、特に制限されず、例えば、γ線、X線、β線があげられる。本発明の線量モニターは、例えば、γ線およびX線については線量モニターとして、β線についてはβ線放出核種の汚染検査の目的に使用できる。本発明によれば、相対的に低い線量から相対的に高い線量の放射線であっても検出可能である。
【0013】
本発明の線量モニターにおける前記フレキシブルチューブおよび前記液体シンチレータの構成の一例を図1に示す。図1は、前記液体シンチレータが封入された前記フレキシブルチューブの断面図である。図1に示すように、フレキシブルチューブ20は、内側チューブ21と外側チューブ22とを有し、外側チューブ22の内部に内側チューブ21が挿入されている。内側チューブ21は、内側のチューブ本体211と外側の被覆層212とを有し、例えば、後述するように、チューブ本体211の外側が、被覆層212で被覆されている。内側チューブ21の内部には、液体シンチレータ10が封入されている。液体シンチレータ10が封入されたフレキシブルチューブ20を、以下、液体シンチレーションチューブ1ともいう。
【0014】
前記液体シンチレータは、放射線(具体的には、γ線、X線、β線)により発光を生じる液体試薬である。前記液体シンチレータは、例えば、発光効率をあげるための第1溶質と、放出された光の波長を長波長側にシフトさせる第2溶質とを含む。前記第1溶質は、例えば、p-テルフェニル(TP、PTP)、2,5-ジフェニルオキサゾール(PPO、DPO)、2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(ビフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(Bu-PBD、ブチル-PBD)等があげられ、好ましくは、ブチル-PBDである。前記第2溶質は、例えば、1,4-ビス-2-(5-フェニルオキサゾリル)ベンゼン(POPOP)、1,4-ビス-2-(4-メチル-5-フェニルオキサゾリル)ベンゼン(DMPOPOP)、1,4-ビス-(O-メチルスチリル)ベンゼン(bis-MSB)等があげられ、好ましくは、bis-MSBである。
【0015】
前記液体シンチレータは、例えば、前記第1溶質および前記第2溶質の他に、さらに溶媒を含む。前記溶媒によって前記溶質を希釈することで、例えば、前記フレキシブルチューブの内部で発光した光の多重反射や吸収による減衰を抑制できる。前記液体シンチレータの溶媒は、特に制限されず、トルエン、O-キシレン、m-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、クメン、プソイドクメン等があげられる。前記溶媒は、例えば、非揮発性であり、気泡が発生にくく、光透過性に優れるものが好ましい。具体的には、例えば、トルエン、キシレン、プソイドクメン等があげられ、好ましくは、キシレンまたはプソイドクメンである。中でも、例えば、光電子増倍管の感度が高い波長(400~500nm)において、より透過性が高いことから、キシレンが特に好ましく、また、非揮発性の点から、プソイドクメンが特に好ましい。
【0016】
前記液体シンチレータの屈折率nは、例えば、1.5±0.2(1.48~1.52)であり、具体例としては1.5である。
【0017】
前記フレキシブルチューブは、例えば、撓みが可能なチューブ、または可撓性を有するチューブともいう。前記フレキシブルチューブは、例えば、軸方向の伸縮、横方向の変位、曲げ変位等を示すことが好ましい。本発明の線量モニターにおいて、前記フレキシブルチューブは、前記線量モニターの使用時において、例えば、所望の形態に変位可能な状態であってもよいし、所望の形態に変位させ且つそれが固定された状態であってもよい。
【0018】
前記フレキシブルチューブは、外側チューブと内側チューブとを有し、前記外側チューブの内側に前記内側チューブが挿入されており、前記内側チューブの内部に前記液体シンチレータが封入されている。照射された放射線が前記フレキシブルチューブを通過すると、前記フレキシブルチューブ内において、前記液体シンチレータは放射線との接触により、発光を生じる。このため、前記フレキシブルチューブは、例えば、前述のように、撓みが可能であり、前記液体シンチレータを封入でき、且つ放射線を通過できればよく、その構造および材質は、特に制限されない。
【0019】
前記外側チューブは、コルゲートチューブであり、例えば、蛇腹構造を有し、これにより伸縮や曲げ等が可能である。前記外側チューブの素材は、特に制限されず、例えば、プラスチックがあげられる。具体例として、前記放射線がX線の場合、例えば、プラスチック製のコルゲートチューブであり、具体例として、相対的に硬質であるポリスチレンでもよいし、相対的に軟質であるナイロンでもよい。前記放射線がγ線の場合、例えば、プラスチック層とアルミニウム層との積層チューブであり、プラスチックの具体例として、塩化ビニル、ポリウレタン等があげられる。前記外側チューブの色は、特に制限されないが、外部からの光の侵入を防止するために、例えば、黒色が望ましい。
【0020】
前記内側チューブは、例えば、光の屈折率が低く、且つ、耐薬品性のものが好ましい。
【0021】
前記内側チューブの構造は、特に制限されず、例えば、積層構造であり、具体的には2層構造があげられる。前記内側チューブは、例えば、チューブ本体と、前記チューブ本体の外側の被覆層とを有し、前記外側層は、例えば、内側の前記チューブ本体の保護層(すなわち、外部からの電磁波の遮へい膜および/または液体シンチレーションで生じた光の反射膜)ともいえる。
【0022】
前記内側チューブにおける前記チューブ本体は、例えば、前記液体シンチレータに対する耐性を有し、且つ、透明性を有するもの、すなわち低い屈折率のものが好ましく、その材質は、例えば、フッ素樹脂(FEP)があげられる。前記フッ素樹脂は、例えば、テトラフルオロエチレンもしくはヘキサフルオロプロピレンンのホモポリマーまたはコポリマー、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンンとのコポリマー等があげられる。また、前記チューブ本体は、例えば、例示したもの以外の樹脂から構成され、その内部表面が前記例示した樹脂でコートされた形態でもよい。
【0023】
前記内側チューブにおける前記チューブ本体は、前記液体シンチレーションと接触することから、例えば、前記液体シンチレーションの屈折率に応じて、その屈折率を設定してもよい。前記チューブ本体は、例えば、設定した所望の屈折率に応じて、構成する材質を選択することもできる。前記チューブ本体の屈折率は、例えば、前記液体シンチレーションよりも低い屈折率である。前記チューブ本体と前記液体シンチレーションとの屈折率の差は、例えば、0.2以上と大きいほうが好ましく、具体例としては、0.2程度である。前記チューブ本体の屈折率nは、例えば、1.33~1.35であり、具体例としては1.34であり、その材質としては、特に制限されず、前述のようなフッ素樹脂である。
【0024】
前記内側チューブにおける前記被覆層は、例えば、被覆膜が使用でき、前記チューブ本体の外面に前記被覆膜を巻き付けることで、前記チューブ本体を被覆できる。前記被覆膜は、例えば、前記チューブ本体に密着させてもよいし、非密着でもよい。前記被覆膜は、例えば、被覆シートともいう。
【0025】
前記被覆層は、例えば、プラスチック層の少なくとも一方の表面に金属が蒸着された層であり、プラスチック層と金属蒸着層との積層体ということもできる。前記金属蒸着膜は、例えば、前記プラスチック層の両方の面に形成されてもよいし、一方の面に形成されてもよい。好ましくは後者である。前記内側チューブにおいて、前記被覆層は、例えば、前記金属の蒸着面が前記チューブ本体側に向いていることが好ましい。また、前記内側チューブにおいて、前記チューブ本体と前記被覆層との間は、例えば、隙間(空隙)があってもよい。この場合、前記隙間が屈折率の小さい空気層(屈折率1)となるため、例えば、光の反射率をより大きくすることができる。前記本体チューブの外側を前記被覆層で被覆することによって、例えば、前記本体チューブの内部に封入された前記液体シンチレータに対する外部の光の遮へい、前記本体チューブの保護、外部の電磁波および幅射熱によるノイズを防止できる。
【0026】
前記被覆層において、前記プラスチックの種類は、特に制限されず、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等である。前記被覆層において、前記金属の種類は、特に制限されず、例えば、アルミニウム等である。前記プラスチックと前記金属との組み合わせは、例えば、ポリエチレンまたはポリエチレンテレフタレートとアルミニウムとの組合せが好ましい。前記被覆層において、前記蒸着金属層の厚みは、特に制限されず、蒸着されていればよく、例えば、0.01μm以下である。
【0027】
前記内側チューブは、例えば、その外側に、両端をつなぐように、導電性テープを配置してもよい。後述するように、前記フレキシブルチューブは、両端に、光電子増倍管を連結させてもよい。この場合、前記導電性テープの配置により、例えば、両端の2つの光電子増倍管を導通させることができ、これにより、例えば、静電気ノイズ信号の発生を防止することができる。前記導電性テープは、両端の光電子増倍管の導通を目的とするため、例えば、両端をまたぐように配置されていればよい。前記テープの厚みは、例えば、0.1mm以下である。
【0028】
前記フレキシブルチューブの大きさは、特に制限されず、例えば、持ち運び、使用時の配置等の点において、取り扱いが容易であることから、ハンディタイプとなる大きさが好ましい。前記フレキシブルチューブの長さは、特に制限されず、例えば、1m~3mの範囲であり、具体例としては、1.2mである。前記フレキシブルチューブにおいて、前記外側チューブの外径は、例えば、1cm~2cmであり、内径は、特に制限されず、前記内側チューブが挿入できればよい。前記内側チューブの外径は、例えば、6mm~12mmであり、内径は、例えば、5mm~10mmである。
【0029】
前記フレキシブルチューブの前記内側チューブには、例えば、その内部に液体シンチレータを封入するために、その両端に蓋部を有する。前記蓋部は、例えば、前記内側チューブの内部での前記液体シンチレータによる発光を、前記内側チューブの両端から外部に透過できる透過性の蓋部が好ましい。前記蓋部の種類は、特に制限されず、例えば、光透過性に優れることから石英ガラスが好ましい。前記蓋部の形状は、特に制限されず、例えば、前記フレキシブルチューブの前記内側チューブの両端の開口に挿入でき、前記内側チューブの内部を液密状態とできればよく、具体例として、棒状の蓋部があげられる。前記棒状の蓋部の大きさは、特に制限されず、その直径は、例えば、前記内側チューブの内径に応じて設定でき、その長さは、例えば、4~5cm程度である。前記棒状の蓋部は、例えば、両端面と側面とが研磨されていることが好ましい。
【0030】
前記内側チューブの内部における発光は、例えば、両端の開口に配置された前記蓋部を介して出射されるため、前記蓋部の屈折率に応じて、前記液体シンチレータの屈折率を設定してもよい。この場合、前記液体シンチレータの屈折率は、例えば、前記蓋部の屈折率と近い値に設定することが好ましく、例えば、1.5±0.02であり、具体例としては1.5である。
【0031】
前記外側チューブの内部に前記内側チューブを挿入することで、前記フレキシブルチューブを構成できる。前記フレキシブルチューブの両端は、例えば、金属製の口金により、前記外側チューブと前記内側チューブとを固定することが好ましい。前記口金の種類は、特に制限されず、例えば、硬質アルミニウム製等があげられる。X線-CT診断の場合、ステンレス鋼製の口金を用いると、前記口金に含まれる鉄およびクロム等の蛍光X線がX線診断画像に影響に与える可能性があることから、例えば、低い原子番号のアルミニウム製口金が好ましい。
【0032】
本発明の線量モニターは、前記液体シンチレータが封入された前記フレキシブルチューブ(液体シンチレーションチューブ)の少なくとも一方の末端に、光電子増倍管が連結されている。前記光電子増倍管を連結することで、前記フレキシブルチューブの内部の液体シンチレータで発生する発光を増幅でき、より感度に優れる線量測定が可能である。本発明の線量モニターにおいて、前記光電子増倍管の数は、特に制限されず、例えば、1個でも2個でもよく、2個が好ましい。
【0033】
前記液体シンチレーションチューブは、例えば、両末端に、それぞれ前記光電子増倍管が連結されていることが好ましい。診断のために身体へ放射線照射する際、本発明の線量モニターは、例えば、線量を測定したい所望の領域に、所望の形で配置され、前記液体シンチレーションチューブの両端において発光の強度が検出される。ここで、前記フレキシブルチューブの一方の末端E1のみに前記光電子増倍管が連結されている場合、前記フレキシブルチューブのある位置で放射線により発光すると、その末端E1側の光電子増倍管でその光が電子増幅されるため、その強度を同じ末端E1側で検出できる。一方、他方の末端E2でも発光を検出するが、光の行路差が生じているので、前記フレキシブルチューブのような長い行路では、光の反射回数が多くなり、前記末端E2側では発光強度が減衰する。これに対して、前記液体シンチレーションチューブの両端に光電子増倍管を連結することによって、どの位置で発光が生じても、両端のそれぞれの光電子増倍管で発光の減衰を補完しているため、例えば、発光強度の減衰の影響を受けにくい。このため、例えば、前記両端からのシグナル強度により、前記液体シンチレーションチューブ全体の発光のシグナル強度を算出でき、より一層感度の良い測定が可能になる。
【0034】
本発明の線量モニターにおいて、前記光電子増倍管の種類は、特に制限されず、例えば、前記液体シンチレータの発光波長に感度を有する光電子増倍管や、ハンドリングの観点から軽量の光電子増倍管が好ましい。また、前記フレキシブルチューブに前記蓋部を配置する場合、前記蓋部(例えば、石英ガラス蓋)の直径以上の入射窓を有する光電子増倍管が好ましい。前記光電子増倍管としては、例えば、市販品(例えば、商品名 光電子増倍管アッセンブリH3165-10、CG1443 内蔵PMT型名R647-01、浜松ホトニクス製等)が使用できる。
【0035】
本発明の線量モニターの使用時の形態は、前述のように特に制限されず、ハンドリングが容易であることが好ましい。具体例としては、例えば、前記フレキシブルチューブを円形に巻いた状態で持ち運び、使用時にそのまま配置してもよいし、使用時には前記液体シンチレーションチューブを伸ばし、所望の形状に湾曲させて配置してもよい。また、前記液体シンチレーションチューブを、例えば、聴診器の首掛け部のような逆転U字状(ラケット枠型ともいう)とし、放射線照射を受ける患者の首にかけてもよい。
【0036】
本発明の線量モニターは、例えば、前記液体シンチレーションチューブと前記光電子増倍管とを連結させた状態で、200g以下とすることができる。このため、前述のように、持ち運び等が容易である。また、前記液体シンチレーションチューブと前記光電子増倍管とは、例えば、簡単に切り離しができるため、長さの異なる様々なチューブの交換が容易にできる。
【0037】
本発明の線量モニターは、医療診断における様々な放射線照射の際に利用でき、特に局所的な照射の際に有用である。具体例として、例えば、頭部、頚部、口腔部、胸部、腹部、生殖器部等の局所の際に利用すること好ましい。頭部、頚部、口腔部、胸部等への照射の場合、例えば、前述のような首掛け方の形態を利用することが好ましい。胸部、腹部、生殖器部等への照射の場合、例えば、前述のように円形に巻いた状態で、照射部位の下にひいてもよいし、照射部位の周辺に所望の形に湾曲させて配置してもよい。
【0038】
本発明の線量モニターは、例えば、使用時において、前記光電子増倍管で増幅された光から変換された電子のシグナル強度を検出する検出デバイスと連結する。本発明の線量モニターは、例えば、その両端のそれぞれにおいて、リード線を介して前記検出デバイスと連結できる。
【0039】
本発明の線量モニターが前記液体シンチレーションチューブの両端に前記光電子増倍管を有する場合、例えば、両端の前記光電子増倍管をそれぞれ前記リード線と連結する。また、前記液体シンチレーションチューブの一端のみが前記光電子増倍管を有する場合は、例えば、前記液体シンチレーションチューブの一方端の前記光電子増倍管にリード線を連結し、前記液体シンチレーションチューブの他端にリード線を連結する。
【0040】
前記検出デバイスは、特に制限されず、例えば、前記光電子増倍管と連結して発光のシグナル強度を測定する一般的な装置が使用できる。前記線量モニターの両端からの信号は、例えば、前記検出デバイスにおいて合算できる。前記検出デバイスの具体例としては、例えば、高圧電源、信号を処理するプリアンプおよびリニアーアンプを備える装置があげられる。前記検出デバイスは、例えば、市販品(商品名7195型 液体シンチレーションライトガイド(LSLG)用マルチチャンネルアナライザー(MCA)、クリアパルス株式会社製)を利用できる。前記検出デバイスの測定モードは、特に制限されず、パルス波高分析(PHA)モードでもよいし、マルチチャンネルスケーラー(MCS)モードでもよい。
【0041】
前記検出デバイスは、例えば、PCと接続可能であり、その接続方法は、特に制限されず、例えば、USB等により接続できる。前記検出デバイスは、例えば、接続したPCのプログラムによりコントロールでき、具体的には、前記PC内のプログラムにより、前記検出デバイスからPHAスペクトルを取得したり、前記検出デバイスの高圧電源、信号増幅率等を設定したり、カウント数の経時変化を処理すること等ができる。
【0042】
前記検出デバイスの大きさは、例えば、前記市販品の場合、外形寸法140×50×150mmであり、質量約800gである。このため、例えば、本発明の線量モニターを前述のように200g程度とすることで、800g程度の前記検出デバイスとあわせても、合計約1kg程度である。したがって、例えば、前記線量モニターと前記検出デバイスとを連結した状態であっても、携帯するのに十分な軽量化を図ることができる。なお、本発明において、重量は、この例に限定されない。
【0043】
本発明の線量モニターは、例えば、さらに、前記検出デバイスを含んでもよく、この形態は、例えば、線量測定セットということもできる。前記線量測定セットは、例えば、前記線量モニターと前記検出デバイスとが使用前から連結された一体型でもよいし、使用前には連結されておらず使用時に連結できる分離型でもよい。
【実施例
【0044】
[実施例1]
図1に示す液体シンチレーションチューブ1を用いて、図2に示すラケット型の線量モニター3を製造した。図2は、ラケット型の線量モニター3の概略を示す模式図である。
【0045】
内側チューブ21のチューブ本体211として、市販のフッ素樹脂チューブ(商品名ジュンフロンFEPチューブ、潤工社製)を使用した。
フッ素樹脂の種類:テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化)
長さ:1.2m
内径:8mm
外径:9mm
【0046】
前記液体シンチレータ10には、市販のシンチレーションカクテル試薬(商品名Ultima Gold-F(UGF)、パーキンエルマージャパン社)を使用し、前記試薬とキシレンとを50%:50%となるように混合して調製した。前記市販品において、第1溶質は、2,5-Diphenyloxazole (1%)、第2溶質は、1,4-Bis(2-methylstyryl) benzene (1%)である。
【0047】
チューブ本体211内に液体シンチレーション10を導入し、チューブ本体211の両端に石英ガラス棒を挿入して、内部に液体シンチレータ10を封入した。前記石英ガラス棒は、長さ4cm、直径0.8cmとし、端面および側面は研磨されたものを使用した。そして、チューブ本体211の外側の全面に、前記被覆シートとしてアルミニウム蒸着ポリエチレンシート(商品名アルミブランケット、株式会社武田産業、厚み0.02mm)を巻き付け、被覆層212とした。さらに、被覆層212の外側に、一端から他端まで、導電性アルミニウムテープ(厚み0.08mm)を緩く巻き付けた。
【0048】
前記導電性アルミニウムテープを巻き付けた内側チューブ21を、さらに、外側チューブ22の内部に挿入して、液体シンチレータ10が封入されたフレキシブルチューブ20とした(以下、液体シンチレーションチューブ1という)。外側チューブ22は、市販のコルゲートチューブ(外径18mm、内径14mm、黒色)を使用した。液体シンチレーションチューブ1の両末端は、硬質アルミニウム製の口金(タシロイーエル社製、内径9mm、外径10mm)で固定した。
【0049】
つぎに、図2に示すように、液体シンチレーションチューブ1をラケット枠の形状のように湾曲させ、交差部分をバンドで固定した。そして、液体シンチレーションチューブ1の両末端に、前記口金を介して光電子増倍管2をそれぞれ連結し、線量モニター3とした。光電子増倍管2は、市販品(商品名 光電子増倍管アッセンブリH3165-10、CG1443 内蔵PMT型名R647-01、浜松ホトニクス製)を使用した。
【0050】
[実施例2]
前記実施例1のラケット型線量モニターの性能について確認した。
【0051】
(1)線源に対する角度の影響
実施例においては、放射線源に代えて同程度の線量である標準線源を使用した。γ線に相当する線源は、137Cs(662keV)を使用した。前記液体シンチレーションチューブの光電子増倍管は、その両端をリード線で介して、検出デバイス(商品名7195型 液体シンチレーションライトガイド(LSLG)用マルチチャンネルアナライザー(MCA))に連結した。そして、線源から2mの距離をあけて、前記ラケット型線量モニターを配置し、線源に対する前記ラケット型線量モニターの面の角度を変化させ、それぞれの角度におけるパルス波高分析(PHA)スペクトルを測定した。なお、前記ラケット型線量モニターの面は、ラケット枠に相当する前記液体シンチレーションチューブで囲まれる面とした。そして、PHAスペクトルから計数率(counts/s)を求め、前記線源からの距離2mにおける計算基準値33.59μSv/hを用いて、換算係数を算出した。ここでは、90°に配置した線量率を基準1として、それぞれ角度の相対値を求めた。
【0052】
この結果を、下記表1に示す。表1に示すように、相対値による差は誤差であり、いずれの角度でも有意な変化は見られなかった。このため、前記ラケット型線量モニターの照射に対する角度は、線量の測定結果にあまり影響を与えないことがわかった。
【0053】
【表1】
【0054】
(2)線源に対する距離の影響
γ線に相当する標準線源として、137Cs(662keV)を使用し、X線に相当する標準線源として、241Am(59.5keV)を使用した。前記(1)と同様にして、前記ラケット型線量モニターを前記検出デバイスに連結した。そして、線源に対する前記ラケット型線量モニターの面の角度は90°に固定し、線源からの距離を変化させて、前記ラケット型線量モニターを配置し、それぞれの距離におけるパルス波高分析(PHA)スペクトルを測定し、カウント率を求めた。また、参照例として、既存の小型NaIシンチレーション検出器(商品名EMF211型ガンマ線スペクトロメータ、EMFジャパン社製、3インチ検出器)を使用し、これを、前記ラケット型線量モニターの面と標準線源との間の距離と同じ距離に固定し、同時に前記線源から照射を行い、線量当量を測定した。
【0055】
この結果を、図3および図4に示す。図3は、標準線源241Amを使用した結果であり、前記ラケット型線量モニターによるカウント率と前記NaIシンチレーション検出器による線量率との関係を示すグラフである。図4は、標準線源137Csを使用した結果であり、前記ラケット型線量モニターによるカウント率と前記NaIシンチレーション検出器による線量率との関係を示すグラフである。
【0056】
図3に示すように、標準線源241Amを使用した場合、前記ラケット型線量モニターによるカウント率は、既存のNaIシンチレーション検出器による線量率と一定の比例関係にあることが確認できた。また、図4に示すように、より強い標準線源137Csを使用した場合も、前記ラケット型線量モニターによるカウント率は、既存のNaIシンチレーション検出器による線量率と一定の比例関係にあることが確認できた。このことから、前記ラケット型線量モニターによれば、実効線量に代わる実用の線量当量を測定できることがわかった。
【0057】
前記ラケット型線量モニターに関して、高線量率である137Cs(662keV)の結果から求めた換算係数は、526.1[cps]/1[μSv/h]であり、低線量率である241Am(59.2keV)の結果から求めた換算係数は、533.8[cps]/1[μSv/h]であった。このように、137Csは241Amの約10倍ものエネルギーであるが、双方の換算係数はほぼ同程度であったことから、前記ラケット型線量モニターは、広いエネルギー範囲に属する様々な放射線照射に対して適用可能であることがわかった。
【0058】
[実施例3]
歯科用パラボリックX線照射において、前記実施例1のラケット型線量モニターを用いてPHAスペクトルの測定を行った。
【0059】
(1)PHAスペクトル
歯科用パラボリックX線照射装置として、市販品(朝日レントゲン社製)を使用した。歯科用パラボリックX線照射装置は、被検者の口腔領域に対して、そのX線照射部が左右方向に回転移動しながら、X線を照射する。前記実施例1のラケット型線量モニターに対して、図6(A)に示すように、中心(P3)、前記中心から右に10cm(P2)、20cm(P1)、前記中心左に10cm(P4)、20cm(P5)の位置に、それぞれ参照例となるルミネス線量素子(商品名nanoDot、長瀬ランダウア社製)を貼り付けた。そして、前記ラケット型線量モニターの湾曲した頂点(P3)部分が被検者の首の後下付近にくるように、前記ラケット型線量モニターを被検者の首にかけた。前記ラケット型線量モニターには、前記実施例2と同様に、前記検出デバイスに連結した。そして、被検者の顎を、前記パラボリックX線照射装置の顎乗せ台に乗せ、90kV、10mAでX線照射を行い、並行して、前記ラケット型線量モニターについてPHAスペクトルの測定を行った。また、参照例として、前記ラケット型線量モニターに張り付けた前記ルミネス線量素子により、吸収線量(mGy 単位)を測定した。
【0060】
前記ラケット型線量モニターにより得られたPHAスペクトルの結果を図5に示す。図5において、X軸は、チャンネル(パルスの波高値(エネルギー)に相当)であり、Y軸は、パラボリックX線の1スキャンによって得られたカウント数の対数を示す。1スキャンは、17.1秒である。図5のスペクトルの形状は、X線が前記ラケット型線量モニターの全体で検出されていることを表しており、前記照射装置のX線照射部が回転しながら狭いスリットを通して歯に照射したX線が、前記ラケット型線量モニターの全体に散乱していると考えられる。照射されるX線は連続X線であり、照射されたX線は、シンチレーション溶液に吸収され、その相互作用(コンプトン散乱電子)によって発光した光は、チューブ内の反射を繰り返して光電子増倍管に到達する。そして、前記ラケット型線量モニター自身のエネルギー分解能も低いことから、測定されるエネルギー分布も、図5に示すように、連続的で低エネルギーの領域にピークが現れるスペクトルになることが確認できた。
【0061】
(2)各部位の測定結果
前記(1)と同様に、図6(A)に示すように、ラケット型線量モニター3の5か所(P1~P5)に、前記ルミネス線量素子を貼り付けた。また、図6(B)は、前記ラケット型線量モニター3を被検者4の首の後下付近にかけた状態であり、被検者4の頭頂部から前記被検者を見た概略図である。図6(B)に示すように、被検者4のメガネ5のP6(フレームの右耳側の後ろ)、P7(フレームの右前)、P8(フレームの左前)P8(フレームの左耳側の後ろ)と、被検者4の顎前P10に、前記ルミネス線量素子を貼り付けた。そして、前記(1)と同様にして、3回のX線照射を行い、前記ルミネス線量素子により、各部位(P1~P10)における積算吸収線量を算出した。なお、バックグラウンドとしてX線照射していない状態での積算吸収線量も算出した。これらの結果を下記表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
前記表2において、各部位に設置した前記ルミネス線量素子の結果は、いずれもその部位における局所被ばくの値である。表2に示すように、被検者の顔の前面(P7、P8、P10)では、低い線量を示したが、これに対して、メガネの後ろ、つまり耳の後ろ(P6、P9)において線量が高いことが分かった。このことから、例えば、前面の歯の部分にX線が集中的に回転照射され、後ろにX線が分散して広がっている様子がうかがえる。これは、医師やレントゲン技師に見られる頭部の被ばく状況(すなわち、顔の前面の線量が高い)とは、まったく逆になることが、今回始めて分かった。前記ラケット型線量モニターにおいても、首の後下付近にかけた場合、首の後ろの位置(P3)の線量が最も高く、その中心(P3)から遠ざかるにつれて減少した。これは、散乱X線が、さまざまの方向に広がっていることを意味する。リスク評価においては、身体上部が90%、頭部が10%というように、リスクの重みが考えられていることから、前記ラケット型線量モニターを首から肩の付近にかけることによって検出した値は、実効線量の90%を反映していると考えられる。
【0064】
(3)再現性
前記(1)の被検者の肩と同じ高さの台に前記ラケット型線量モニターをセットし、まず、2回の測定を行い、さらに、3回目は、前記ラケット型線量モニターを、1回目および2回目の測定位置から、前記装置に対して水平方向にさらに8cm遠くに移動させてから、同様にして測定した。この結果を図7に示す。図7において、X軸は、50msあたりのカウント(単位Counts/50ms)であり、Y軸は、経過時間(ms)を示す。
【0065】
図7の結果から、以下のことがわかった。同じ条件で測定した1回目と2回目とでは、ほぼ同一の結果が得られたことから、再現性の良さが確認できた。1回目および2回目よりも平行に後ろに前記ラケット型線量モニターを移動した3回目の測定では、全計数は、ほとんど変わらなかったが、強度が、時間(ここでは回転位置)に応じて変化した。この結果は、X線源が回転しながら照射する条件下において、固定された長いモニター(すなわち、前記ラケット型線量モニター)が50ミリ秒ごとにカウント数の変化をとらえることを証明した、はじめてのデータである。この結果は、前記X照射装置が縦に狭いスリットからX線を照射していること、また、そのX線束の指向性が強く、かつ、前記X線照射装置の回転軸から線量モニターまでの距離による変化を反映していると考えられる。この17秒間(50ms×423ch.)のカウントの和から線量換算係数を用いれば、1回のX線照射による実効線量の90%を、直接求めることができる。
【0066】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の線量モニターによれば、例えば、頭部、頚部、口腔部、胸部というような局所に対する放射線照射により診断を行う際、より迅速且つ簡便に、照射しているその場で、実用としての線量(線量当量)や被ばくの評価結果を、患者に提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7