(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】ヘッドレストステー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60N 2/818 20180101AFI20240521BHJP
A47C 7/38 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B60N2/818
A47C7/38
(21)【出願番号】P 2021198186
(22)【出願日】2021-12-07
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】591283501
【氏名又は名称】備前発条株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100220892
【氏名又は名称】舘 佳耶
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【氏名又は名称】日野 和将
(74)【代理人】
【識別番号】100194478
【氏名又は名称】松本 文彦
(72)【発明者】
【氏名】山根 教代
(72)【発明者】
【氏名】前田 英史
(72)【発明者】
【氏名】飯沼 豊
(72)【発明者】
【氏名】小川 英利
(72)【発明者】
【氏名】石田 聖行
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-221489(JP,A)
【文献】特開昭59-136450(JP,A)
【文献】特開2004-344970(JP,A)
【文献】特開2001-087833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-90
A47C 7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドレスト本体を支持するための縦ステー部が、パイプ材によって形成され、
縦ステー部の外周部に、ヘッドレスト本体を高さ方向に位置決めするための位置決め用凹部が設けられた
ヘッドレストステーであって、
位置決め用凹部の上縁及び下縁に沿った箇所に、前記パイプ材の管壁を切断した切れ目が連続的に形成されるとともに、
位置決め用凹部の奥部に
おける左右方向中間部に、前記パイプ材の内側に凸となる内向き凸部が形成され
て、
位置決め用凹部の奥部における、内向き凸部の左右両側に、円弧状に湾曲した、内向き凸部とは逆向きの逆向き凸部が形成された
ことを特徴とするヘッドレストステー。
【請求項2】
前記パイプ材の管壁外周面から内向き凸部の頂点外面までの深さが、前記パイプ材の管壁の厚さよりも大きくされた請求項
1記載のヘッドレストステー。
【請求項3】
ヘッドレスト本体を支持するための縦ステー部がパイプ材によって形成され、縦ステー部の外周部に、ヘッドレスト本体を高さ方向に位置決めするための位置決め用凹部が設けられたヘッドレストステーの製造方法であって、
板状のパンチの先端面を前記パイプ材の外周面に押し当てることによって、位置決め用凹部を加工するとともに、
前記パンチとして、
前記先端面から突出する押し込み用凸部
と、
前記先端面の両端部に設けられた一対の押さえ用凸部と、
押し込み用凸部とそれぞれの押さえ用凸部との間に設けられた一対の湾曲凹部と
を有するものを用いることで、
位置決め用凹部の奥部に
おける左右方向中間部に、前記パイプ材の内側に凸となる内向き凸部を形成し
て、
位置決め用凹部の奥部における、内向き凸部の左右両側に、円弧状に湾曲した、内向き凸部とは逆向きの一対の逆向き凸部を形成し、
且つ、
位置決め用凹部の上縁及び下縁に沿った箇所に、前記パイプ材の管壁を切断した切れ目を連続的に形成する
ことを特徴とするヘッドレストステーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドレスト本体を支持するためのヘッドレストステーと、その製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、乗員の安全性を確保するために、座席にヘッドレストを設けることが義務付けられている。この種のヘッドレストとしては、例えば、特許文献1の第1図に示されるように、乗員の頭部を受ける部分(ヘッドレスト本体)の下側に、一対の縦ステー部(同図におけるステー2,3)を取り付けたものが知られている。シートバックの上部に固定したステーホルダ(同図におけるホルダ6,7)に、縦ステー部の下端側をそれぞれ挿入することで、ヘッドレスト本体がシートバックの上側に支持される。縦ステー部の外周部には、位置決め用凹部(同図における切り欠き凹部4,17)が設けられており、この位置決め用凹部に、ステーホルダの係止部材(同図におけるストッパ13)を係止させることで、ヘッドレスト本体が高さ方向で位置決めされる。この縦ステー部を備えた支持部品は、「ヘッドレストステー」と呼ばれている。ヘッドレストステーの中には、位置決め用凹部が上下多段に設けられ、ステーホルダの係止部材を係止させる位置決め用凹部を切り替えることで、ヘッドレスト本体の高さを調節できるようにしたものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、縦ステー部の位置決め用凹部αは、
図1及び
図2に示すように、縦ステー部となるパイプ材Pの外周面に、板状のパンチ100の先端面を押し当てることによって加工される。しかし、この方法で位置決め用凹部αを加工すると、
図2(c)に示すように、位置決め用凹部αの上縁と下縁に沿った箇所に、ダレ部α
2が形成されてしまい、平面部α
1の幅W
1が狭くなるという問題があった。既に述べたように、ヘッドレスト本体は、ステーホルダの係止部材が位置決め用凹部αに係止されることで、高さ方向で位置決めされるところ、係止部材が実際に係止されるのは、平面部α
1である。このため、平面部α
1の幅W
1が狭いと、車体に衝撃や振動が生じたときに、係止部材が位置決め用凹部αから外れるおそれがある。また、ヘッドレスト本体に下向きの力が加わった際に、係止部材が位置決め用凹部αから外れるおそれもある。さらに、係止部材と位置決め用凹部αとの係止が外れなくても、ヘッドレスト本体やヘッドレストステーがガタつきやすくなるおそれもある。
【0005】
加えて、上記の方法では、パイプ材Pの外周面に対して板状のパンチ100の先端面を押し当てた際に、パイプ材Pの余肉が、パイプ材Pの外周部における位置決め用凹部αの周辺にはみ出てしまい、その部分に膨らみが形成されるおそれがある。このため、位置決め用凹部αに対して係止部材を係止させにくくなり、ヘッドレスト本体の高さ調節をスムーズに行いにくくなるおそれもある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、位置決め用凹部に平面部を広く確保することができ、位置決め用凹部から係止部材が外れにくい構造のヘッドレストステーを提供するものである。また、縦ステー部となるパイプ材の外周部に、そのパイプ材の余肉がはみ出にくい構造のヘッドレストステーを提供することも本発明の目的である。さらに、このヘッドレストステーの製造方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、
ヘッドレスト本体を支持するための縦ステー部がパイプ材によって形成され、縦ステー部の外周部に、ヘッドレスト本体を高さ方向に位置決めするための位置決め用凹部が設けられたヘッドレストステーの製造方法であって、
板状のパンチの先端面を前記パイプ材の外周面に押し当てることによって、位置決め用凹部を加工するとともに、
前記パンチとして、前記先端面から突出する押し込み用凸部を有するものを用いることで、
位置決め用凹部の奥部に、前記パイプ材の内側に凸となる内向き凸部を形成し、
且つ、
位置決め用凹部の上縁及び下縁に沿った箇所に、前記パイプ材の管壁を切断した切れ目を連続的に形成する
ことを特徴とするヘッドレストステーの製造方法
を提供することによって解決される。
【0008】
このように、位置決め用凹部を加工するパンチの先端面に押し込み用凸部を形成することで、位置決め用凹部に平面部(ステーホルダ等の係止部材が係止される平面部)を広く確保することが可能になる。
【0009】
というのも、
図2(c)に示した平面部α
1を広く確保するためには、同図のダレ部α
2の発生を防ぐことが重要である。このダレ部α
2は、
図2(b)に示すように、パイプ材P(縦ステー部)の外周面にパンチ100の先端面を当てて押し込む際に、パイプ材Pの管壁における、パンチ100が当たった部分よりも上側や下側に位置する部分が、パンチ100を押し込む方向に引き込まれることで形成される。この点、後掲する
図3~5に示すように、パンチ100の先端面に押し込み用凸部101を形成しておくことで、パイプ材Pの管壁における、押し込み用凸部101が当たった箇所が、その周囲よりも局所的に深く押し込まれるようになる。換言すると、パンチ100が、面ではなく線や点でパイプ材Pの管壁に当接しながら、その当接した部分の管壁を深く押し込むようになる。このため、押し込み用凸部101の上下に沿った箇所でパイプ材Pの管壁が剪断し始め、その後、パンチ100をさらに押し込んでいくと、その剪断部分を起点として、位置決め用凹部αの上縁及び下縁に沿って切れ目が形成されていく。したがって、パイプ材Pの管壁における、パンチ100が当たった部分よりも上側や下側に位置する部分が、パンチ100を押し込む方向に引き込まれなくなるからである。
【0010】
このように、ダレ部α2の発生を抑えて、平面部α1を広く確保することによって、車体に衝撃や振動が生じたときや、ヘッドレスト本体に下向きの力が加わったときでも、係止部材が位置決め用凹部αから外れないようにすることができる。また、ヘッドレスト本体やヘッドレストステーのガタつきを抑えることも可能になる。
【0011】
なお、先端面に押し込み用凸部101を有するパンチ100を用いて位置決め用凹部αを形成すると、
図5(c)に示すように、パイプ材Pの管壁を周回する周回区間Sのうち、位置決め用凹部αに重なる凹部重合区間S
1には、パイプ材Pの内側に凸となる内向き凸部α
3が形成される。この内向き凸部α
3が存在することによって、平面部α
1がより広い範囲で現れるようになる。また、位置決め用凹部αに対して、係止部材をより深く係止することも可能になる。
【0012】
また、上記のように、位置決め用凹部αの上縁及び下縁に沿って切れ目が形成されるようにすると、その切れ目の部分でパイプ材P(縦ステー部)の管壁が分断される。このため、パイプ材Pの外周面にパンチ100の先端面を当てて押し込む際に、パイプ材Pの余肉が、パイプ材Pの外周部における位置決め用凹部αの周辺に移動できなくなる。したがって、位置決め用凹部αの周辺に余分な膨らみが形成されなくなる。よって、ヘッドレスト本体の高さ調節をスムーズに行いやすくなる。
【0013】
また、上記課題は、
ヘッドレスト本体を支持するための縦ステー部が、パイプ材によって形成され、
縦ステー部の外周部に、ヘッドレスト本体を高さ方向に位置決めするための位置決め用凹部が設けられた
ヘッドレストステーであって、
位置決め用凹部の上縁及び下縁に沿った箇所に、前記パイプ材の管壁を切断した切れ目が連続的に形成されるとともに、
位置決め用凹部の奥部に、前記パイプ材の内側に凸となる内向き凸部が形成された
ことを特徴とするヘッドレストステー
を提供することによっても解決される。
【0014】
このヘッドレストステーは、上記の製造方法で好適に製造することができる。既に述べたように、位置決め用凹部の上縁及び下縁に沿った箇所に切れ目が形成され、位置決め用凹部の奥部に内向き凸部が形成されたヘッドレストステーは、位置決め用凹部に上記の平面部が広く確保されており、その位置決め用凹部に係止部材をしっかりと係止させることができる。位置決め用凹部に係止させる係止部材は、上述したステーホルダに設けられたものに限定されず、ヘッドレスト本体に設けられたものとすることもできる。
【0015】
本発明のヘッドレストステーにおいては、内向き凸部を、位置決め用凹部の左右方向中間部に設け、内向き凸部の左右両側に、内向き凸部とは逆向きの逆向き凸部を形成することが好ましい。この場合には、逆向き凸部を、円弧状に湾曲することが好ましい。これにより、位置決め用凹部の上縁及び下縁に沿った箇所で、前記パイプ材の管壁をより確実に剪断(切断)させ、上記の平面部をより広く確保することができる。
【0016】
本発明のヘッドレストステーにおいては、前記パイプ材の管壁外周面から内向き凸部の頂点外面までの深さを、前記パイプ材の管壁の厚さよりも大きくすることが好ましい。これにより、少なくとも、パイプ材の管壁の厚さ分は、上記の平面部を確保することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によって、位置決め用凹部に平面部を広く確保することができ、位置決め用凹部から係止部材が外れにくい構造のヘッドレストステーを提供することが可能になる。また、縦ステー部となるパイプ材の外周部に、そのパイプ材の余肉がはみ出にくい構造のヘッドレストステーを提供することも可能になる。さらに、このヘッドレストステーの製造方法を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】縦ステー部となるパイプ材の外周部に、従来の方法により位置決め用凹部を加工している様子を示した斜視図である。
【
図2】縦ステー部となるパイプ材の外周部に、従来の方法により位置決め用凹部を加工している様子を示した縦断面図である。
【
図3】縦ステー部となるパイプ材の外周部に、本発明の方法により位置決め用凹部を加工している様子を示した斜視図である。
【
図4】縦ステー部となるパイプ材の外周部に、本発明の方法により位置決め用凹部を加工している様子を示した縦断面図である。
【
図5】縦ステー部となるパイプ材の外周部に、本発明の方法により位置決め用凹部を加工している様子を示した横断面図である。
【
図6】本発明のヘッドレストステーの全体を示した斜視図である。
【
図7】本発明のヘッドレストステーをシートバックに取り付けている様子を示した斜視図である。
【
図8】本発明のヘッドレストステーを、
図6におけるA-A面で切断した状態を示した断面図である。
【
図9】他の実施形態のヘッドレストステーを示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のヘッドレストステーについて、図面を用いてより具体的に説明する。以下で述べる構成は、飽くまで好適な実施形態に過ぎず、本発明の技術的範囲は、以下で述べる構成に限定されない。本発明のヘッドレストステーには、発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更を施すことができる。
【0020】
図6は、本発明のヘッドレストステー10の全体を示した斜視図である。このヘッドレストステー10は、
図6に示すように、左右一対の縦ステー部11と、左右一対の縦ステー部11の上端部同士を連結する横ステー部12とを有しており、正面視逆「U」字状を為している。ヘッドレストステー10は、異なる部材(左側の縦ステー部11を形成する部材と、右側の縦ステー部11を形成する部材と、横ステー部12を形成する部材)を事後的に接合することで一体化させたものであってもよいが、本実施形態においては、1本のパイプ材Pを折り曲げることにより形成している。
【0021】
ヘッドレストステー10を形成するパイプ材Pの管壁の厚さ(後掲する
図8の厚さT
1を参照。)は、特に限定されない。しかし、パイプ材Pの管壁を薄くしすぎると、ヘッドレストステー10の強度が低下するだけでなく、後述する平面部α
1(後掲の
図4(c)を参照)を確保しにくくなる。このため、パイプ材Pの管壁の厚さT
1は、1mm以上とすることが好ましく、2mm以上とすることがより好ましい。ただし、パイプ材Pの管壁を厚くしすぎると、ヘッドレストステー10が重くなる。このため、パイプ材Pの管壁の厚さT
1は、通常、3mm以下とされる。本実施形態においては、パイプ材Pの管壁の厚さT
1を、約2.3mmに設定している。
【0022】
図7は、本発明のヘッドレストステー10をシートバック20に取り付けている様子を示した斜視図である。
図7に示すように、ヘッドレストステー10の上部(横ステー部12の周辺)には、ヘッドレスト本体30(使用者の頭部を受ける部分)が取り付けられる。一方、ヘッドレストステー10の下部(縦ステー部11の下端側)は、シートバック20に取り付けられる。シートバック20の上部には、左右一対のステーホルダ40が固定される。このステーホルダ40に設けられたステー挿入孔41に縦ステー部11を挿入することで、ヘッドレストステー10がシートバック20に取り付けられる。
【0023】
ヘッドレストステー10の縦ステー部11の外周部には、位置決め用凹部αが設けられている。この位置決め用凹部αは、ヘッドレスト本体30を高さ方向(上下方向)で位置決めするためのものとなっている。本実施形態においては、縦ステー部11の下部区間に位置決め用凹部αを多段に設けている。上記のステー挿入孔41に挿入された縦ステー部11の位置決め用凹部αに、ステーホルダ40の係止部材(図示省略)を係止させることで、ステーホルダ40に対して縦ステー部11が動かない状態となり、ヘッドレスト本体30の高さ(上下位置)が維持される。また、係止部材を係止させる位置決め用凹部αを切り替えることで、ステーホルダ40に対するヘッドレストステー10の上下位置を変化させ、ヘッドレスト本体30の高さを段階的に調節することができる。位置決め用凹部αの配置ピッチは、通常、5~30mmの範囲とされ、好ましくは、10~20mmの範囲とされる。本実施形態においては、位置決め用凹部αの配置ピッチを約13mmに設定している。
【0024】
ステーホルダ40の係止部材周辺の構造は、特に限定されないが、通常、ステーホルダ40に設けられたプッシュボタン等の係止部材操作手段(図示省略)を操作することで、係止部材をステー挿入孔41内で進退させる構造が採用される。本実施形態においては、係止部材を、ステー挿入孔41内に進出する向きに弾性的に付勢しており、係止部材操作手段を操作していないとき(プッシュボタンを押していないとき)には、係止部材がステー挿入孔41内に進出して縦ステー部11の外周部に押し当たって位置決め用凹部αに係止可能な状態となり、係止部材操作手段を操作しているとき(プッシュボタンを押しているとき)には、係止部材がステー挿入孔41内から退避して縦ステー部11の位置決め用凹部αから外れた状態となるようにしている。
【0025】
位置決め用凹部αは、左右一対の縦ステー部11の双方に設けることもできる。しかし、この場合には、ヘッドレスト本体30の高さを調節する操作が難しくなる。すなわち、ヘッドレスト本体30の高さを調節する際に、左右一対のステーホルダ40の両方の係止部材操作手段を操作しながら、ヘッドレスト本体30を上下方向に動かす必要が生じる。このため、本実施形態においては、一方の縦ステー部11にのみ、位置決め用凹部αを設けている。また、縦ステー部11の下端部近傍には、抜け止め用凹部βを設けている。この抜け止め用凹部βは、ステーホルダ40の係止部材が係止することで、ステーホルダ40のステー挿入孔41に挿入された縦ステー部11がステー挿入孔41から抜けないようにするためのものとなっている。抜け止め用凹部βは、両方の縦ステー部11に設けている。
【0026】
それぞれの位置決め用凹部αは、
図3~5に示すように、縦ステー部11となるパイプ材Pの外周面に板状のパンチ100の先端面を押し当てることによって形成される。
図3~5は、パイプ材Pの外周部に位置決め用凹部αを加工している様子を示した図である。
図3は、パイプ材Pにおける位置決め用凹部αが設けられる側を斜め上方から見た斜視図であり、
図4は、パイプ材P及びパンチ100をパイプ材Pの中心線L
1を含む平面で切断した縦断面図であり、
図5は、パイプ材P及びパンチ100をパイプ材Pの中心線L
1に垂直な平面で切断した横断面図である。
図3(a)、
図4(a)及び
図5(a)は、パイプ材Pの外周面にパンチ100を押し当てる前の状態を、
図3(b)、
図4(b)及び
図5(b)は、パイプ材Pの外周面にパンチ100を押し当てた状態を、
図3(c)、
図4(c)及び
図5(c)は、パイプ材Pの外周面からパンチ100を後退させた状態を、それぞれ示している。
【0027】
パンチ100は、通常、高硬度の金属によって形成される。このような金属としては、SKD材等の金型用鋼材が例示される。パンチ100の横幅は、パイプ材Pの直径等に応じて適宜決定される。パンチ100の厚さ(板厚)も、特に限定されないが、通常、1~5mmの範囲とされ、好ましくは、1~3mmの範囲とされる。本実施形態においては、パンチ100の厚さを約2mmに設定している。パンチ100の基端側(先端面とは反対側)は、図示省略の駆動機構に取り付けられる。この駆動機構によって、パンチ100の進退動作(パンチ100をパイプ材Pに押し当てる動作と、パイプ材Pからパンチ100を後退させる動作)が行われる。
【0028】
パンチ100の先端面(パイプ材Pの外周面に押し当てられる端面)には、押し込み用凸部101が設けられている。このため、
図5(b)に示すように、パンチ100の先端面をパイプ材Pの外周面に押し当てた際に、パイプ材Pの管壁における、押し込み用凸部101が当たった箇所が、その周囲よりも局所的に深く押し込まれるようになっている。したがって、パイプ材Pにパンチ100の先端面が当接し、当該先端面がパイプ材Pの管壁を押し込んでいくにつれて、押し込み用凸部101の上下に沿った箇所でパイプ材Pの管壁が剪断し始め、それ以降、その剪断部分を起点として、位置決め用凹部αの上縁及び下縁に沿って切れ目が形成されるようになる。位置決め用凹部αの加工を終えたときには、パイプ材Pの管壁における位置決め用凹部αの上縁及び下縁に沿った箇所が、凹部重合区間S
1(
図5(c))の略全区間に亘って切断された状態となる。換言すると、凹部重合区間S
1の管壁(パイプ材Pの管壁)は、凹部重合区間S
1の両端部でのみ、周囲の管壁とつながった状態となる。
【0029】
このように、位置決め用凹部αの上縁及び下縁に沿って切れ目を形成することによって、位置決め用凹部αの上縁と下縁に沿った箇所に、ダレ部α
2(
図2(c)を参照。)が形成されにくくなる。このため、
図4(c)に示すように、平面部α
1を広く確保することができる。したがって、上記のステーホルダ40の係止部材を、位置決め用凹部αに安定して係止させることができ、位置決め用凹部αに係止されている係止部材が位置決め用凹部αから外れないようにすることができる。また、ヘッドレスト本体30やヘッドレストステー10のガタつきを抑えることもできる。加えて、位置決め用凹部αの奥部には、押し込み用凸部101に倣った形状の内向き凸部α
3(
図5(b),(c))が形成される。このため、平面部α
1をさらに広く確保しやすくなるだけでなく、位置決め用凹部αに対して、ステーホルダ40の係止部材をより深く係止することも可能になる。
【0030】
さらに、位置決め用凹部αの上縁及び下縁に沿って切れ目を形成することにより、パイプ材Pの外周面にパンチ100の先端面を押し当てる際に、パイプ材Pの余肉がパンチ100の周辺に移動しにくくなる。このため、位置決め用凹部αの周辺に余分な膨らみ(位置決め用凹部αに対する係止部材の係止を邪魔するような膨らみ)が形成されなくなる。したがって、ヘッドレスト本体30の高さ調節をスムーズに行いやすくなる。
【0031】
図8は、ヘッドレストステー10を、
図6におけるA-A面で切断した状態を示した断面図である。パイプ材Pの管壁外周面から内向き凸部α
3の頂点外面までの深さD
1(
図8)は、特に限定されないが、パイプ材Pの管壁の厚さT
1(本実施形態においては、2.3mm)よりも大きくすることが好ましい。これにより、平面部α
1をより広く確保することができる。深さD
1は、3mm(厚さT
1の1.3倍)以上確保することが好ましく、4mm(厚さT
1の1.7倍)以上確保することがより好ましい。深さD
1の上限は、特に限定されないが、通常、6~7mm程度までである。
【0032】
パンチ100(
図5)は、その先端面に押し込み用凸部101を有するのであれば、特に限定されない。本実施形態においては、
図5に示すように、パンチ100の先端面における押し込み用凸部101の両側に湾曲凹部102を設けている。これにより、パンチ100をパイプ材Pの外周面に押し当てる際に、パンチ100がパイプ材Pの外周面に対してより狭い範囲で接触するようになる。このため、位置決め用凹部αの上縁及び下縁に沿った箇所で、パイプ材Pの管壁をより確実に剪断(切断)させ、平面部α
1をより広く確保することができる。この湾曲凹部102によって、
図5(c)に示すように、パイプ材Pにおける内向き凸部α
3の両側には、内向き凸部α
3とは逆向きの逆向き凸部α
4が断面円弧状に形成される。
【0033】
また、本実施形態においては、
図5(c)に示すように、パンチ100の先端面における両端部(湾曲凹部102のさらに外側)に、押さえ用凸部103を設けている。というのも、上記の切れ目(パイプ材Pの管壁における位置決め用凹部αの上縁及び下縁に沿った箇所に形成される切れ目)によって、パイプ材Pの管壁の余肉の移動(パンチ100の先端面をパイプ材Pの外周面に押し当てていく際に生じる余肉の移動)を、上下方向では制限することができるものの、パイプ材Pの周回方向では制限することができない。このため、パンチ100をパイプ材Pに押し当てると、パイプ材Pの管壁の余肉が、パンチ100の左右(位置決め用凹部αの左右)に移動して、その部分に膨らみが形成され、ステーホルダ40の係止部材が位置決め用凹部αに適切な状態で係止されなくなるおそれがある。この点、上記の押さえ用凸部103を設けておくことによって、パイプ材Pの管壁を押さえ用凸部103で押さえつけ、パイプ材Pの管壁の余肉がパンチ100の左右(位置決め用凹部αの左右)に移動しないようにすることができるからである。
【0034】
ところで、ここまでは、位置決め用凹部αを、ヘッドレストステー10の縦ステー部11における下部区間に設け、ステーホルダ40の係止部材を位置決め用凹部αに係止させる場合について説明した。しかし、位置決め用凹部αを設ける場所は、これに限定されない。例えば、
図9に示すように、ヘッドレストステー10の縦ステー部11における上部区間に位置決め用凹部αを多段に設けることもできる。
図9は、他の実施形態のヘッドレストステー10を示した斜視図である。
【0035】
図9のヘッドレストステー10においては、ヘッドレストステー10に対してヘッドレスト本体30(
図7)を昇降可能な状態で取り付けるとともに、位置決め用凹部αに係止させる係止部材を、ヘッドレスト本体30の側に設ける。これにより、ヘッドレストステー10に対するヘッドレスト本体30の上下位置を変化させることで、ヘッドレスト本体30の高さ調節を行うことができるようになる。このように、位置決め用凹部αを設ける場所は、ヘッドレストの仕様等に応じて適宜変更することができる。
図9のヘッドレストステー10における位置決め用凹部αは、既に述べたものと同様の方法で加工することができる。
【0036】
以上で説明した本発明のヘッドレストステー10では、位置決め用凹部αに平面部α1が広く確保されており、ステーホルダ40の係止部材が位置決め用凹部αから外れにくくなっている。このため、ヘッドレストステー10に衝撃や振動が加わったときでも、ヘッドレスト本体30を所定の高さで維持し続けることができる。また、縦ステー部11を形成するパイプ材Pの余肉が、パイプ材Pの外周部にはみ出にくくなっている。このため、ヘッドレスト本体30の高さ調節(ステーホルダ40に対するヘッドレストステー10の高さ調節)をスムーズに行うことができる。
【0037】
本発明のヘッドレストステー10は、各種のヘッドレストで採用することができるが、自動車等、移動体の座席のヘッドレストで好適に採用することができる。というのも、自動車等は、衝撃や振動が発生することが想定されるため、本発明のヘッドレストステー10を採用して、位置決め用凹部αから係止部材が外れないようにすることのメリットが大きいからである。
【符号の説明】
【0038】
10 ヘッドレストステー
11 縦ステー部
12 横ステー部
20 シートバック
30 ヘッドレスト本体
40 ステーホルダ
41 ステー挿入孔
100 パンチ
101 押し込み用凸部
102 湾曲凹部
103 押さえ用凸部
L1 パイプ材の中心
P パイプ材
α 位置決め用凹部
α1 平面部
α2 ダレ部
α3 内向き凸部
α4 逆向き凸部
β 抜け止め用凹部