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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】ユニバーサルインフルエンザワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/145 20060101AFI20240521BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20240521BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240521BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20240521BHJP
   A61K 35/64 20150101ALI20240521BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240521BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20240521BHJP
   C12N 15/866 20060101ALN20240521BHJP
【FI】
A61K39/145 ZNA
A61P31/16
A61P37/04
A61K39/39
A61K35/64
A61K48/00
C12N5/10
C12N15/866 Z
【請求項の数】 20
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022111165
(22)【出願日】2022-07-11
(62)【分割の表示】P 2019224243の分割
【原出願日】2019-12-12
(65)【公開番号】P2022137177
(43)【公開日】2022-09-21
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】62/778,409
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519443929
【氏名又は名称】ケンブリッジ、テクノロジーズ、リミテッド、ライアビリティ、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE TECHNOLOGIES LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(72)【発明者】
【氏名】ベン、ハウゼ
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0045540(US,A1)
【文献】Influenza Other Respir Viruses,2013年,Vol.7, No.3,pp.340-348
【文献】J Virol,2015年,Vol.89, No.14, pp.7224-7234,pp.7224-7234
【文献】International Journal of Infectious Diseases,2010年,Vol. 14, No.Suppl. 2, pp. S47-S48
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 35/00-35/768
A61K 48/00
A61P 1/00-43/00
C12N 5/10
C12N 15/866
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物においてインフルエンザに対する免疫応答を誘導するための全般的免疫原性組成物であって、前記組成物は、昆虫細胞培養培地を含んでなる薬学上許容可能な担体に分散された培養昆虫細胞における組換えバキュロウイルス発現ベクターと、任意のアジュバントとを含んでなり、前記組換えバキュロウイルス発現ベクターは治療上有効量のインフルエンザノイラミニダーゼを発現し、前記ノイラミニダーゼは前記組成物において前記昆虫細胞の細胞膜および/またはバキュロウイルスのウイルス膜の表面と関連し、かつ、前記膜の表面に存在し、組成物が関連ウイルス様粒子を実質的に含まず、前記動物が家禽、イヌ、ウマおよびネコからなる群から選択される、組成物。
【請求項2】
前記組換えバキュロウイルス発現ベクターが、天然の全長ノイラミニダーゼタンパク質を発現する、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項3】
前記組換えバキュロウイルス発現ベクターが、H1N1、H3N1、H1N2、H3N2、H5N1、H5N2、H3N8、および/またはH3N2の配列に由来するノイラミニダーゼを発現する、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
前記組成物が、ノイラミニダーゼ亜型1を発現する組換えバキュロウイルス発現ベクターの第1セットと、ノイラミニダーゼ亜型2を発現する組換えバキュロウイルス発現ベクターの第2セットとを含んでなる、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
前記組成物におけるインフルエンザ抗原成分が、インフルエンザノイラミニダーゼ型タンパク質からなる、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
前記組成物が、化学的に不活性化されている、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項7】
前記組成物が、未精製である、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項8】
前記昆虫細胞が、ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)細胞、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)細胞、カイコ(Bombyx mori)細胞、またはそれらに由来する細胞株である、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項9】
前記細胞培養培地が、無血清培養培地である、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項10】
前記薬学上許容可能な担体が、リン酸緩衝生理食塩水をさらに含んでなる、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項11】
単位投与形態である、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項12】
前記組成物が、1以上のインフルエンザヘマグルチニン、マトリックスタンパク質M1もしくはM2、RNAポリメラーゼサブユニットPB1、PB2、およびPA、核タンパク質NP、または非構造タンパク質NS1もしくはNS2を実質的に含まない、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項13】
動物においてインフルエンザ感染症に対する全般的免疫応答を刺激するためのキットであって、
請求項1~12のいずれか一項に記載の免疫原性組成物と、
インフルエンザ感染症の検出可能な臨床徴候を示していない動物に対して前記組成物を投与するための説明書とを含んでなり、
前記動物が家禽、イヌ、ウマおよびネコからなる群から選択される、キット。
【請求項14】
非ヒト宿主動物においてインフルエンザ感染症に対する全般的免疫応答の刺激方法であって、インフルエンザ感染症の検出可能な臨床徴候を示していない宿主動物に対して、請求項1~12のいずれか一項に記載の免疫原性組成物を有効量で投与することを含んでなり、前記宿主動物が家禽、イヌ、ウマおよびネコからなる群から選択される、方法。
【請求項15】
前記有効量が、前記組成物において発現するノイラミニダーゼの治療上有効量を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物が、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、静脈内投与、または粘膜投与される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記免疫応答が、前記宿主動物におけるノイラミニダーゼに特異的に向けられる抗体、B細胞および/またはT細胞の産生または活性化を含んでなる、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記免疫応答が、前記宿主動物におけるノイラミニダーゼ亜型1および亜型2の両方に向けられる抗体、B細胞および/またはT細胞の産生または活性化を含んでなる、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記免疫応答が、前記宿主動物におけるウイルス伝播を予防する、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記免疫原性組成物が、H1N1、H3N1、H1N2、H3N2、H5N1、H5N2、H3N8および/またはH3N2に対する前記宿主動物における防御免疫応答を提供する、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗ノイラミニダーゼ抗体を誘発するインフルエンザ、特にA型インフルエンザに対するワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
ブタインフルエンザ(SI)は、オルトミクソウイルス(Orthomyxoviridae)科ファミリーのエンベロープを有するウイルスであるA型インフルエンザウイルスにより引き起こされる急性呼吸器疾患である。ブタインフルエンザウイルス(SIV)は、ブタ産業にとって経済的に重要な病原体でもある。SIVは特定の状況下でヒトに伝染するため、SIVに関するさらなる懸念は、その人獣共通感染能であり、これは、ブタ起源に由来する2009 H1N1パンデミックにより最もよく例示される。そのため、これは、USDAにとって動物の健康における優先度の高い薬剤である。
【0003】
SIVにより引き起こされる呼吸器疾患の典型的な大流行は、突然の発症および群れ内での急速な伝播を特徴とする。SIに関連する臨床症状は、咳、くしゃみ、鼻汁、直腸温上昇、嗜眠、呼吸困難、および食欲減退を含み得る。SIV感染症では罹病率は100%に達し得るが、死亡率は一般に低い。
【0004】
SIVのゲノムは、8本の独立したRNAセグメントに分かれており、これにより、1匹のブタの同じ細胞内で2種の異なるウイルスが感染および複製する際の、頻繁な遺伝子再集合を可能とする。遺伝子再集合はしばしば、新たなインフルエンザウイルスの産生(抗原不連続変異)をもたらし、これは、現在の株特異的なワクチン戦略を無効とするものである。さらに、A型インフルエンザウイルスは、その主要な表面タンパク質であるヘマグルチニン(HA)のアミノ酸配列の最大50%を、HAタンパク質の機能を変化させることなく変異させ得るという点で、遺伝的変異(抗原連続変異)を受ける独特の能力を有する。抗原連続変異および抗原不連続変異は、ブタ産業で使用される場合のSIワクチンの明らかな失敗に寄与する。
【0005】
米国では、H1N1、H1N2およびH3N2の亜型がSI大流行の主因であるが、他の亜型も罹患ブタから分離されている。各亜型も、いくつかの遺伝子クラスターおよび抗原クラスターからなっている。現代のH3N2 SIV株は、ヒト、鳥類、およびSIウイルス系統の寄与から生じた、三重リアソータント株である。H3N2は、米国のブタの群れにおいて広く伝播している。類似の遺伝子再集合機序が、米国のブタ集団において地方病にもなっている三重リアソータントH1N1ウイルスの発生および急速な伝播をもたらした。
【0006】
現在入手可能なSIワクチンは、中国特許出願公開第102747045号明細書および欧州特許出願公開第2704740号明細書に記載されるような、H1N1、H1N2およびH3N2の亜型を含有する死滅(不活化)ウイルスに基づいている。抗原連続変異および抗原不連続変異のために、死滅ワクチンは、ワクチン株と遺伝的および抗原的に異なるSIV株に対する防御の提供が非常に限られている。これらの死滅ワクチンは、ウイルス感染後の一部の状況下でのワクチン接種ブタにおける疾患増強にも関連しているようである。
【0007】
にもかかわらず、ワクチン接種は、依然として、インフルエンザ流行を予防するための最も有効なアプローチである。従来のインフルエンザワクチンは、臨床疾患を予防できるが、それらの有効性は、ワクチン調製に用いられる株と集団内で流行している株との間の抗原の「一致」の程度に依存する。この課題のために、ユニバーサルワクチン(万能ワクチン)とも呼ばれる、多様なインフルエンザ亜型に対する広域の防御を誘発するワクチン候補の発見に向けて、多大な努力がなされている。
【0008】
A型インフルエンザウイルスは、2種の大きな表面糖タンパク質、HAおよびノイラミニダーゼ(NA)を有する。HAは、ウイルスの受容体結合および侵入過程を媒介し、一方、NAは、新たに形成されたウイルス粒子の放出を触媒的に駆動する他に、粘膜表面を介したウイルス粒子の移動を促進する。
【0009】
いくつかの市販の不活化全ウイルスワクチンおよび自家ワクチンが広く使用されているが、現場条件における有効性は、ワクチン株と攻撃ウイルスとの間の遺伝的ミスマッチのために、欠如していることが多い。ワクチン接種後の免疫応答は、大部分が液性であり、ほぼ独占的に免疫優性HA遺伝子に対して向けられる。米国特許第8597661号明細書は、主としてHAに基づき、いずれのNA成分も不十分なワクチンさえ考慮する。HAを認識する抗体は、しばしば中和抗体であり、殺菌免疫を与え得るが、抗体とウイルスとの間のミスマッチは、結合の欠如または、ワクチン接種関連呼吸器疾患増強(VAERD)と呼ばれる現象である疾患の増強をももたらし得る。
【0010】
多数の研究が、NA特異的抗体が、ウイルス粒子の放出を遮断することによる、インフルエンザ防御の提供に有効であることを示している。A型インフルエンザウイルス感染症の管理および予防のための重要な標的としてのNAは、オセルタミビルおよびザナミビル(NA阻害剤)のようなFDA承認の抗ウイルス治療薬により実証されている。NAタンパク質は、異なるインフルエンザ株の中でHAよりも比較的保存性が高く、ブタおよびヒトの分離株は、主にN1およびN2と呼ばれる2種の主要な亜型からなるという点で、ウイルスNAはウイルスHAと異なる。現在市販されているインフルエンザワクチンは、(他のウイルス粒子の中でも)NA成分を含有するが、主に、これもこのようなワクチンに含まれるウイルスHAタンパク質の免疫優性のために、一般に防御抗NA抗体を誘導することができない。HAのようなウイルス表面糖タンパク質であるにもかかわらず、NAに対して向けられる自然免疫応答は、実質的にHAのものより少ない。結果として、NAは、HAよりも小さな変異性を示し、より保存性の高い抗原を示す。ビリオンの解離またはNAの組換え発現のいずれかによる、免疫系に対するNAのより顕著な提示により、より強力な抗NA抗体応答を誘発することが示されている。
【0011】
HAタンパク質およびNAタンパク質の両方とも、インフルエンザウイルスの生活環に非常に重要である。HAは、細胞膜タンパク質に存在する細胞表面シアル酸にウイルスが結合することを許し、エンドサイトーシスおよびウイルス内部移行をもたらす。対照的に、NAは、宿主細胞からシアル酸を切断して、成熟ビリオンが放出および播種することを許す。HA抗体は、感染症を理想的に予防できる一方、NA抗体は、細胞感染を許すが、ウイルスの播種を予防する。これにより、抗原がMHCIおよびMHCIIの両方を介して処理され得るため、より頑強な免疫応答が可能となり、感染免疫を効果的に刺激することができる。
【0012】
バキュロウイルス発現系は、ワクチン生産に広く用いられている。ヒトにおける例としては、ヒトパピローマウイルスおよびインフルエンザウイルスに対するワクチンが含まれるが、ブタにおいては、バキュロウイルスは、多数のブタサーコウイルス2型ワクチンに対して用いられている。バキュロウイルスの発現は、いくつかの特徴のために、ワクチン抗原の生産に一般的である。バキュロウイルスは、特定の昆虫にのみ感染し得ることから、哺乳類に使用するのに非常に安全となっている。バキュロウイルス発現系を用いて、大量の抗原を容易に生産できることからも、経済的となっている。
【発明の概要】
【0013】
インフルエンザに対する全般的免疫応答(ユニバーサルな免疫応答)を誘導するための免疫原性組成物。上記組成物は、昆虫細胞培養培地を含んでなる薬学上許容可能な担体に分散された培養昆虫細胞における組換えバキュロウイルス発現ベクターおよび任意のアジュバントを含んでなる。上記組換えバキュロウイルス発現ベクターは、NAを発現する。好ましくは、上記NAは、組換え発現した野生型NAタンパク質である。
【0014】
インフルエンザ感染症に対する全般的免疫応答を刺激するためのキットも説明する。上記キットは、本明細書に記載の態様のいずれか一つに記載の免疫原性組成物と、インフルエンザに罹患しやすい宿主動物に対して上記組成物を投与するための説明書とを含んでなる。
【0015】
また、インフルエンザ感染症に対する全般的免疫応答の刺激方法も、本明細書に記載する。上記方法は、インフルエンザに罹患しやすい宿主動物に対して、本明細書に記載の態様のいずれか一つに記載の免疫原性組成物を有効量で投与することを含んでなる。有利には、上記免疫原性組成物は、ワクチンにより刺激された抗NA抗体が、異種インフルエンザ感染症(すなわち、組換え発現したNAが由来する株とは異なる他の株による感染症)に対する防御を提供するという点で、「全般的(ユニバーサル)」な免疫応答を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、組換えバキュロウイルス発現系において発現したNAの活性を示すグラフである。
図2図2は、攻撃日におけるブタから回収された血清におけるIDEXX IAV-S NP ELISAおよびNA阻害(NI)力価を示すグラフである。
図3図3は、攻撃後1、3および5日におけるブタから回収された鼻腔スワブにおけるCt値に対するqRT-PCR Ct値のグラフである。
図4図4は、攻撃後1、3および5日におけるブタから回収された鼻腔スワブにおけるSIV力価(TCID50/mL)のグラフである。
図5図5は、攻撃後5日におけるqRT-PCR Ct値および肺硬化パーセントのグラフである。
図6図6は、肺組織染色からの病理スコアのグラフである。
図7図7は、N1およびN2に対して作製された抗体を示すNA阻害アッセイの結果のグラフである。
図8図8は、異種H1N1による攻撃後5日に回収された肺組織からのPCR結果のグラフである。
図9図9は、攻撃後5日に回収された肺に関する肉眼的および顕微鏡的病理スコアのグラフである。
図10図10は、精製NA1およびNA2タンパク質のSDS-PAGEおよびウェスタンブロットの像を示す。
図11図11は、親ウイルスに対する血清学的検査-NA阻害(NI)抗体力価のグラフである。
図12図12は、攻撃後1、2および5日に回収された鼻腔スワブならびに攻撃後5日に回収された肺組織に関するIAV PCR(Ct)値のグラフである。
図13図13は、攻撃後5日に回収された肺組織に関する肉眼的および顕微鏡的スコアのグラフである。
図14図14は、親ウイルスに対する血清学的検査-NA阻害(NI)抗体力価のグラフである。
図15図15は、攻撃後3および5日に回収された鼻腔スワブならびに攻撃後5日に回収された肺組織に関するIAV PCR(Ct)値のグラフである。
図16図16は、攻撃後5日に回収された肺組織に関する肉眼的および顕微鏡的スコアのグラフである。
図17図17は、希釈ワクチン製剤に関する親ウイルスに対する血清学的検査-NA阻害(NI)抗体力価のグラフである。
図18図18は、希釈ワクチン製剤をワクチン接種されたブタに対する攻撃後の肉眼的肺病変をスコア化したグラフを示す。
図19図19は、希釈ワクチン製剤をワクチン接種されたブタの肺組織に関するIHC染色およびH&E染色のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
我々のユニバーサルインフルエンザワクチン戦略は、バキュロウイルス発現系において産生されたSIに対するものなどのインフルエンザウイルスに対する組換え発現したノイラミニダーゼ系防御ワクチンを開発することである。バキュロウイルス発現系およびバキュロウイルス発現ベクターは、一般に、米国特許第4,745,051号明細書、O'Reilly at al. (Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manual. (1993))、およびMurhammer (Baculovirus and Insect Cell Expression Protocols. In: Methods in Molecular Biology(TM). Volume 388 (2007))を含む文献において広範に記載されており、これらは、引用することにより本明細書の一部とされる。
【0018】
任意のアジュバント(水中油、油中水、など)とともに、細胞培養培地に分散された培養昆虫細胞における組換えバキュロウイルス発現ベクターを含んでなる免疫原性組成物が、本明細書に記載される。上記バキュロウイルス発現ベクターは、感染昆虫細胞における天然または野生型NAタンパク質の発現を指示する。すなわち、膜貫通ドメインが修飾または欠失しているものなど、修飾NAタンパク質を用いた従前のアプローチとは異なり、本発現系は、全長、野生型または天然NAタンパク質配列が上記系において発現する(切断型ではない)ように、より詳しくは、天然または野生型NAタンパク質が、昆虫細胞膜タンパク質の一部として発現し、昆虫細胞膜および培養上清中の出芽バキュロウイルス膜に組み込まれることが分かり得るように、設計される。好ましくは、全長、野生型/天然NAコード配列(cDNA)は、発現のためにバキュロウイルス系にクローン化される。このような配列は、特定の時間において集団内で分離された流行株に基づき同定され得、流行株を標的とした最新のワクチンを作製するために合成され得ることが分かるであろう。しかしながら、データに示されるように、本発明のワクチンは、異種攻撃に対する防御を提供する。従って、防御免疫は、流行株と異なるワクチンからも得られ得る。有利には、発現系は、該発現系における膜成分(すなわち、感染昆虫細胞およびバキュロウイルス成分)と関連し、それにより提示されており、かつ、溶液中の遊離可溶性組換えNAとしてではない、全長、野生型/天然NAタンパク質を発現するように設計されるため、本発明のワクチンにおける発現NAタンパク質は、その天然コンフォメーションとよりよく似ている(おそらく実質的にそれに類似する)ような様式で(折り畳み構造)、免疫系に提示され、さらに免疫応答を亢進すると考えられる。
【0019】
発現系成分の粗培養物および未精製培養物は、好ましくは、免疫原性組成物に、すなわち、任意のアジュバントとともに、(NAを提示している)未精製感染細胞、(NAを発現している)バキュロウイルス、および細胞培地を含有する粗細胞培養物として、用いられる。すなわち、感染細胞培養物は、化学的に不活性化されてよいが、そうでなければ処理または精製されない。
【0020】
本発明に使用するための例示的昆虫細胞としては、鱗翅目種ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)およびそれに由来する細胞株が含まれる。イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)、カイコ(Bombyx mori)、それに由来する細胞株などを含む他の昆虫細胞宿主を使用することができる。特に好ましい昆虫細胞株としては、SF9(および変異株)、SF21、High Five(BTI-TN-5B1-4)などが含まれる。いずれの好適な培養培地も、細胞を増殖するために用いることができる。昆虫細胞の培養に好適な培養培地は、好ましくは無血清であり、SF900IIなどの種々の配合物が、当技術分野で既知であり、広く入手可能である。一般に、培養培地は、アミノ酸、糖、塩、タンパク質などの混合物を含んでなる。グレース培地などの公的に入手可能な配合物も、好適である。種々のバキュロウイルス発現系が、市販されている。例示的バキュロウイルス発現ベクターとしては、一般に、外来遺伝子を含有する導入ベクター(ドナーまたはシャトル)プラスミドDNAを用いた同時トランスフェクション用のProEasy(AB Vector)、BaculoGold(商標)DNA(PharMingen)、Bac-N-Blue(商標)DNA(Invitrogen)、またはBacPAK6(商標)DNA(Clontech)が含まれる。あるいは、昆虫細胞は、Bac-to-Bac(商標)(Invitrogen-Gibco/Life Technologies)システムを用いて、大腸菌細胞におけるドナープラスミドDNAの転移により作製された組換えバクミドDNAでトランスフェクトされる。pAcAB3およびpAcAB4などの複数の遺伝子導入ベクターが、特に好ましい。
【0021】
好ましいバキュロウイルス発現ベクターは、複数の遺伝子導入ベクターと、ゲノムDNA消化により必須遺伝子ORF1629の一部が失われるようにBsu36.Iにより線形化されるバキュロウイルスゲノムDNAとの間の二重組換えを利用する。導入ベクターと線形化バキュロウイルスDNAとの間の二重組換えは、ORF1629を修復し、同時に、バキュロウイルスゲノムへの異種遺伝子発現カセットの組込みを媒介する。この系のさらに好ましい特徴は、Bsu36.Iによる線形化を介して失われる条件致死遺伝子を保有するバキュロウイルス株に由来するバキュロウイルスゲノムDNAの利用である。この特徴は、いずれのコンタミした(contaminating)非切断親バキュロウイルスDNAも、親ウイルスのレスキューをもたらさないことを保証し、その結果、総てのレスキューされたバキュロウイルスが、導入ベクターによる組換えに由来することが保証される。
【0022】
免疫原性組成物の種々の成分が、薬学上許容可能となるように選択される。本明細書で使用する場合、用語「薬学上許容可能な」は、過剰な毒性、刺激、もしくはアレルギー反応をもたらすことなく対象に投与することができ、許容されない生物学的効果を引き起こさない、または、それが含有される組成物の他の成分のいずれとも有害な様式で相互作用しないという点で、生物学的にまたはその他の点で望ましくないものではないことを意味する。薬学上許容可能な担体は、当業者に周知であるように、バキュロウイルス、昆虫細胞、および他の成分のいずれかの分解を最小限にするように、また、対象におけるいずれかの有害な副作用を最小限にするように、当然選択される。薬学上許容可能な成分は、獣医学的使用およびヒトへの薬学的使用に許容可能なものを含み、投与経路に依存する。
【0023】
天然/野生型NAタンパク質は、バキュロウイルス発現ベクターに感染した昆虫細胞において、高レベルで組換え発現する。有利には、一次遺伝子産物は、感染昆虫細胞の細胞膜および出芽バキュロウイルス膜と関連したままである未処理全長NAである。そうであるから、修飾または変異されているものなどのNAの精製型または可溶型とは異なり、本発明の組成物におけるNAは、このような膜および複合体の表面に存在し、本明細書で考察するように、組成物の免疫原性(特に、バキュロウイルスのウイルス膜表面に提示されるような)に寄与する可能性が高い。
【0024】
発現プラスミドは、公的に入手可能な配列に基づいて、および/または新たに配列決定された流行株に基づいて、NAに関する配列情報を用いて作製することができる。例示的NA配列としては、ジェンバンク登録番号KY115564およびKU752376、もしくはNAの機能性を保持するその保存的修飾変異体、またはジェンバンク登録番号APG56794.1およびAMP44884.1などのNAタンパク質をコードする配列、もしくはNAの機能性を保持するその保存的修飾変異体が含まれる。様々な種においてワクチンとして使用するための野生型/天然NA配列は、最新のワクチンを開発できるように、公的に入手可能な配列および/または流行株から同定できることが分かるであろう。同定された配列は、cDNAに合成され、適当な調節配列、プロモーターなどとともに、バキュロウイルス発現ベクターに挿入またはクローン化される。次に、得られた発現ベクターを、適当な昆虫細胞にトランスフェクトすることができ、粗培養物をワクチン生産に使用することができる。
【0025】
理想的には、免疫原性組成物は、多価防御を提供するために2種以上のNAタンパク質サブタイプの混合物を含む。しかしながら、これは、ワクチン接種される種にも依存する。例えば、ブタは、N1株およびN2株の両方に感染することで知られる。しかしながら、イヌは、N2のみに感染する可能性がより高い。よって、特定の種に対しては、ワクチン接種を達成するために、1つのみのNAタンパク質亜型が必要であり得る。開発されたプラットフォームが、実施例においてブタを対象に例示されており、その実施例では、我々は、我々の試験において用いたBacNA1発現構築物を開発している。NA1(配列番号2)は、A/swine/Iowa/A01782229/2016 H1N1(配列番号1)に由来する。我々は、A/swine/Oklahoma/A01730659/2016 H1N2(配列番号3)に由来するBacNA2発現プラスミドも作製した。上記のように、pAcAB3などの好適なバキュロウイルス発現シャトルベクターは、市販されている。しかしながら、上記ワクチンプラットフォームは、家禽、イヌ、ウマ、およびネコ、ならびにヒトを含むインフルエンザ感染症に罹患しやすい他の様々な種に適用できることが分かるであろう。
【0026】
研究および試験に関わる一つ以上の態様では、バキュロウイルス分泌シグナル配列(例えば、GP67)および親和性タグ(例えば、ポリヒスチジン-タグ)を、(アフィニティークロマトグラフィーによる分泌タンパク質の試験および研究に有用である)細胞培養中に上清へのタンパク質の分泌を促進するために、合成中にNA遺伝子に付加することができる。研究および試験用の培養培地からの分離および精製は、細胞材料を調製物から除去する必要がないため、細胞溶解物からの精製よりもかなり容易である。
【0027】
しかしながら、ワクチン調製では、天然NAタンパク質を発現するバキュロウイルスは、プラスミドDNA(例えば、NA1またはNA2を含有するpAcAB3シャトルベクター)および線形化バキュロウイルスDNA(ABVECTORから購入)を緩やかに混合した後、混合物にProfectin(ABVECTOR)を滴加することにより、調製することができる。10分間のインキュベーション後、DNA-Profectin混合物を、昆虫細胞(例えば、SF9)の半コンフルエント単層に加え、さらに72時間インキュベーションする。ウェスタンブロットおよびNA活性アッセイにおいてNA1およびNA2タンパク質の発現を確認した後、シードウイルスストック(BacNA1およびNacNA1)を力価測定し、感染量および培養時間の点で最適化することができる。細胞培養物は、ホルムアルデヒド、β-プロピオラクトン、エチレンイミン、バイナリーエチレンイミン、またはチメロサール(および好ましくは、バイナリーエチレンイミン)などによる適当な化学処理を用いて不活性化することができる。
【0028】
好ましくは、本発明による免疫原性組成物におけるインフルエンザ抗原成分は、インフルエンザNA型タンパク質からなる。すなわち、免疫原性組成物は、好ましくは、インフルエンザHA、マトリックスタンパク質(M1もしくはM2)、RNAポリメラーゼサブユニットPB1、PB2、およびPA、核タンパク質(NP)、非構造タンパク質(NS1、NS2)、または関連ウイルス様粒子などの、他のインフルエンザタンパク質、サブユニット、粒子などを実質的に含まない。本明細書で使用する場合、「実質的に含まない」とは、残存量もしくは偶発量または不純物が、少量で存在し得る(例えば、100重量%とみなされる複合物の総重量に対して、約0.1重量%未満および好ましくは、約0.01重量%未満)と認識されるが、成分は意図的に加えられていない、または組成物の一部ではないことを意味する。すなわち、本発明の組成物中に存在する唯一の1つまたは複数のインフルエンザ抗原成分は、NA(および好ましくは、NA1とNA2の混合物)である。より好ましくは、ワクチンにおける組換え発現したNAタンパク質は、膜結合型または膜型の全長または天然NAタンパク質(遊離可溶性修飾NAタンパク質とは対照的)である。
【0029】
免疫原性組成物は、好適な担体に分散された治療上有効な量のNAを含んでなり得る。例としては、滅菌水/蒸留オートクレーブ水(DAW)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、正常(n.)生理食塩水(約0.9%NaCl)、デキストロース水溶液、グリセロール水溶液、エタノール、正常尿膜腔液、種々の水中油または油中水エマルションなどの水溶液、ならびにジメチルスルホキシド(DMSO)または他の許容可能なビヒクルなどを含む。本発明の組成物において、好適な担体は、昆虫細胞を培養するための細胞培養培地、および細胞培養上清をさらに含む。本明細書で考察するように、発現したNAは、好ましくは、本発明のワクチンを作製するために、発現系から精製および分離されず、好適な担体と混合されない。むしろ、発現したNAは、感染昆虫細胞、膜粒子、および組換えバキュロウイルス(ならびに関連する細胞培養物および上清)とともに、精製せずに投与するために、上記の担体系に直接分散させることができる。組成物に含まれる量は、治療上有効な量の発現したNAを提供する量である。特定の発現系から発現したNAの量を検出する方法が、本明細書に記載される。
【0030】
本明細書で使用する場合、「治療上有効な」量は、研究者または臨床家により求められている組織、系、または対象の生物学的または医学的応答を誘発する量、特に、1つ以上のインフルエンザウイルス株(および好ましくは、少なくとも標的株)に特異的な免疫応答をプライムまたは刺激することにより、ウイルス感染に対する所望の防御効果を誘発する量を意味する。当業者ならば、病態が完全には根絶または予防されていないが、病態またはその症状および/または効果が、対象において部分的に改善または緩和されている場合であっても、量は治療上「有効」とみなされ得ることを認識する。いくつかの態様では、組成物は、用量あたり少なくとも約1μg全NA、好ましくは、少なくとも5μg全NA、より好ましくは、少なくとも10μg全NA、より好ましくは、少なくとも15μg全NA、より好ましくは、より好ましくは、少なくとも20μg全NA、およびさらにより好ましくは、約25μg以上を含んでなる。本明細書で使用する場合、「全」NAは、2種の異なるNAの亜型がワクチンに含まれる場合、組成物中のNAの全亜型の総量であることを明らかにしたものである。
【0031】
アジュバント、他の活性剤、保存剤、緩衝剤、塩、他の薬学上許容可能な成分など、他の成分が組成物に含まれてもよい。用語「アジュバント」は、本明細書において、免疫増強効果を有し、ワクチン成分に対する自然、液性、および/または細胞性免疫応答を亢進、誘発、および/または調節するために、ワクチン組成物に加えられる、または同時配合される物質を意味する。好適なアジュバントとしては、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、ミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム)などのアルミニウム塩、または混合アルミニウム塩、ペプチド、油もしくは炭化水素エマルション、またはヒトもしくは動物への使用に好適とみなされるいずれかの他のアジュバントを含む。一つ以上の態様では、発現系自体のバキュロウイルス成分は、アジュバント効果に寄与する。ネオマイシン、ポリミキシンB、ストレプトマイシンおよびゲンタマイシンなどの抗生物質は、ワクチン生産の一環として使用することもでき、ワクチン中に少量存在してもよい。
【0032】
有利には、本発明の免疫原性組成物は、対象において、NAのみに対する抗インフルエンザ抗体を特異的に産生する。抗NA抗体は、ウイルスの取り込みを防止しないが、むしろ、新たに形成されたウイルスが細胞から脱出することを防止する。このことは、我々のワクチンは、感染免疫も生じるため、すなわち、インフルエンザによる許容感染を許すが、ウイルス伝播を防止することにより、臨床疾患および観察可能な症状を制御するため、重要な特徴である。我々は、ワクチンにおける抗原を標的とした免疫を得るだけでなく、ワクチン接種された対象におけるウイルスの限られた複製を許すことにより、細胞性免疫の刺激も行う。
【0033】
さらに、母系由来抗HA抗体は、ブタなどの幼若動物においてほぼ普遍的に存在し、ワクチン接種を妨げている。対照的に、抗NA抗体は、伝統的なワクチンをワクチン接種された動物または感染後の動物において、大部分が少ないか、存在していない。抗NA抗体は動物において少ないため、我々は、免疫原性組成物を用いて、幼若の発育期の母系由来抗体の干渉を有さない動物にワクチン接種することができる。
【0034】
さらに、免疫原性組成物は、従前に試みられている精製型または可溶型のNAと比較して、より頑強な免疫応答を促進する、全長、野生型/天然、膜結合型NAの発現に頼っている。再度述べるが、本組成物に用いられるNAは、処理および精製されない。従って、NAは、昆虫細胞膜および培養上清中の出芽バキュロウイルス膜に組み込まれることが分かる。これらの複合体構造におけるNAの提示は、それをさらに免疫原性(特に、バキュロウイルスのウイルス膜に提示されるような)にさせる可能性が高い。培養物におけるNA活性の測定は、約半分が細胞におけるものであり、もう半分が上清(おそらく、上清中のバキュロウイルス膜中)におけるものであることを示している。
【0035】
同種および異種攻撃試験は、NA1およびNA2を少なくとも各25μg含有する粗バキュロウイルス培養物(Sf9細胞+バキュロウイルス+Sf900II培地)は、インフルエンザウイルスに対する防御をもたらすことを示している。防御の一次測定は、肺病変の減少である。防御の二次測定は、肺におけるインフルエンザウイルス力価の減少である。ワクチン接種/攻撃試験は、NA阻害抗体力価が防御の優れた相関物であることを示している。最低25μg全NA/用量で処方されたワクチンは、40超のNI力価をもたらすが、10μg全NAもの低い用量は、防御免疫応答を提供することが示されている。
【0036】
よって、感染症の症状を阻害、低減、またはさらには予防するための、ワクチン接種方法またはインフルエンザ感染症に対する免疫応答の刺激方法が、本明細書に記載される。上記方法は、一般に、インフルエンザに罹患しやすい宿主動物に対して、免疫原性組成物を有効量で投与することを伴う。上記組成物は、針およびシリンジ、または無針注射器を用いて、筋肉内、皮下、皮内、または静脈内に、ならびに鼻腔内投与などの粘膜に送達することができる。有利には、これまでのところ、ワクチン接種された対象において有害な注射部位反応は認められていない。単一用量による防御免疫応答の刺激が好ましいが、所望の予防または治療効果を達成するために、同一または異なる経路により、追加の用量を投与することができる。ワクチンは、必要とみなされる場合、プライムおよびブースト投与計画を用いて投与することもできる。いくつかの態様では、本明細書に記載の方法は、上記のように、インフルエンザ感染症に対する免疫応答を誘発するのに有用である。
【0037】
有利には、組成物は、インフルエンザに対する免疫応答および異種防御を提供する。理想的には、組成物は、その防御適用範囲を広げるために、少なくとも1つのNA亜型NA1および少なくとも1つのNA亜型NA2を含む。このような「免疫応答」は、例えば、NA1および/またはNA2に特異的に向けられる抗体、B細胞および/または種々のT細胞の産生または活性化を含む。免疫応答は、観察可能な臨床症状の欠如、感染動物により通常示される臨床症状の低減、感染症からのより迅速な回復時間、ウイルス排出の期間または量の減少などにより示される。従って、ワクチン接種動物は、非ワクチン接種動物と比較して、新たな感染症(もしくは感染症の観察可能な徴候)に対する抵抗性または感染症の重症度の減少を示す。臨床症状および/またはウイルス排出の発生率、重症度、および/または期間の「減少」とは、非ワクチン接種動物における野生型感染症と比較して、群内の感染動物の数、感染症の臨床徴候を示す動物の数の減少もしくは排除、または動物において呈されるいずれかの臨床徴候の重症度の減少を意味する。
【0038】
いくつかの態様では、ワクチンは、好適な容器内において単位投与形態で提供することができる。用語「単位投与形態」は、ヒトまたは動物への使用のための単位用量として好適な物理的に別々の単位を意味する。各単位投与形態は、所望の効果をもたらすように計算された担体中の所定量のワクチン(および/または他の活性剤)を含有し得る。他の態様では、ワクチンは、対象に投与する前に現場で混合するために、担体とは別に(例えば、それ自身のバイアル、アンプル、サシェ、または他の好適な容器に入れて)提供することができる。ワクチンを含んでなるキットも、本明細書に開示される。上記キットは、対象にワクチンを投与するための説明書をさらに含んでなる。ウイルスは、薬学上許容可能な担体(例えば、培養培地および/またはアジュバント溶液とともに)にすでに分散された用量単位の一部として提供することができ、あるいは、担体とは別に提供することができる。上記キットは、例えば、好適な担体にウイルスを分散させるための説明書を含む、対象に投与するためのウイルスを調製するための説明書をさらに含んでなり得る。
【0039】
本明細書に記載の方法および技術を用いて、ブタにおけるH1N1、H3N1、H1N2、およびH3N2ウイルスに対して有効な組成物を開発することができ、該組成物は、「ユニバーサル(全般的)」ワクチン候補とみなすことができる。他の種において、NA亜型を配列決定することができ、種々のHまたはHウイルスに対する防御を提供する組成物の作製に使用することができる。具体的には、トリインフルエンザは、一般にH5N1またはH5N2である。ニワトリまたはシチメンチョウは、H5N1/H5N2ウイルスに対する抗体応答を引き起こすためにBacNA1/BacNA2をワクチン接種することができる。イヌインフルエンザは、一般にH3N8またはH3N2であるため、BacNA2がイヌインフルエンザを防御すると予測することができる。同様に、ヒトは、一般にH1N1またはH3N2に感染し、本明細書に記載のワクチン接種戦略から利益を得られ得る。
【0040】
本明細書で使用する場合、用語「ワクチン」は、それが投与されている対象における疾患または病態に対する部分的または完全な免疫原性防御を誘発できる免疫原性組成物を意味する。ワクチンは一般に予防的なものとみなされるが、ワクチンは、疾患または病態の治療的処置に使用され得る。本明細書に開示される態様による組成物は、対象(例えば、ブタ)におけるインフルエンザによるウイルス感染の処置、および/または感染症の臨床症状の予防または低減に有用である。このような臨床症状は、呼吸促迫、発熱、食欲不振および嗜眠を含む。よって、本明細書に記載の態様は、治療的および/または予防的使用を有し、特に、ウイルス感染の予防的処置に使用することができる。一般に、組成物は、対象がウイルスによる感染症に対する適応免疫応答を生じるように、予防的に、すなわち、対象が感染症の検出可能な臨床徴候を示す前に投与される。そうであるから、上記方法は、非ワクチン接種対照動物と比較した、ウイルス感染による観察可能な臨床症状の発症の予防、ならびに/または臨床症状の発生率もしくは重症度、および/または感染症の作用の減少、感染症/症状/作用の期間の減少、ならびに/またはウイルス排出/ウイルス血症の量および/または期間の減少に有用である。よって、組成物は、非ワクチン接種対照動物と比較して、ウイルス感染による罹病率の程度を部分的に予防および/または減少(すなわち、症状の重症度および/もしくは感染症の作用を減少、ならびに/または感染症/症状/作用の期間を減少)するだけであり得る。にもかかわらず、組成物は、100%有効ではないが、標的の感染症または疾患を処置または「予防」すると依然としてみなされる。
【0041】
本発明の種々の態様の追加の利点は、本明細書の開示および以下の実施例の検討に基づき、当業者には明らかであろう。本明細書に記載の種々の態様は、本明細書で特に断りのない限り、必ずしも相互排他的ではないと認識されるであろう。例えば、一態様において記載または描写された特徴は、他の態様にも含まれ得るが、必ずしも含まれるわけではない。よって、本発明は、本明細書に記載される特定の態様の様々な組合せおよび/または組込みを包含する。
【0042】
本明細書で使用する場合、句「および/または」は、2つ以上の項目の一覧で使用される場合、記載項目のいずれか1つをそれ自体で使用することができる、または、記載項目の2つ以上のいずれかの組合せを使用することができることを意味する。例えば、組成物が、成分A、B、および/またはCを含有するまたは除外すると記載されている場合、上記組成物は、A単独;B単独;C単独;AおよびBの組合せ;AおよびCの組合せ;BおよびCの組合せ;またはA、B、およびCの組合せを含有または除外することができる。
【0043】
本明細書はまた、本発明の種々の態様に関する特定のパラメーターを定量化するための数値範囲を使用する。数値範囲が提供されている場合、このような範囲は、範囲の下限値のみを列挙する請求項の限定および範囲の上限値のみを列挙する請求項の限定に対する文字支援として解釈されると理解されるべきである。例えば、約10~約100という開示された数値範囲は、「約10超」(上限なし)を列挙する請求項および「約100未満」(下限なし)を列挙する請求項に対する文字支援を提供する。
本発明は以下の通りである。
[1]インフルエンザに対する免疫応答を誘導するための全般的免疫原性組成物であって、前記組成物は、昆虫細胞培養培地を含んでなる薬学上許容可能な担体に分散された培養昆虫細胞における組換えバキュロウイルス発現ベクターと、任意のアジュバントとを含んでなり、前記組換えバキュロウイルス発現ベクターは、ノイラミニダーゼを発現する、組成物。
[2]前記組換えバキュロウイルス発現ベクターが、天然の全長ノイラミニダーゼタンパク質を発現する、上記[1]に記載の免疫原性組成物。
[3]前記ノイラミニダーゼが、前記組成物において前記昆虫細胞の細胞膜および/またはバキュロウイルスのウイルス膜の表面と関連する、上記[1]に記載の免疫原性組成物。
[4]前記ノイラミニダーゼが、前記膜の表面に存在する、上記[3]に記載の免疫原性組成物。
[5]前記組換えバキュロウイルス発現ベクターが、H1N1、H3N1、H1N2、H3N2、H5N1、H5N2、H3N8、および/またはH3N2の配列に由来するノイラミニダーゼを発現する、上記[1]に記載の免疫原性組成物。
[6]前記組成物が、ノイラミニダーゼ亜型1を発現する組換えバキュロウイルス発現ベクターの第1セットと、ノイラミニダーゼ亜型2を発現する組換えバキュロウイルス発現ベクターの第2セットとを含んでなる、上記[1]に記載の免疫原性組成物。
[7]前記組成物におけるインフルエンザ抗原成分が、インフルエンザノイラミニダーゼ型タンパク質からなる、上記[1]に記載の免疫原性組成物。
[8]前記組成物が、化学的に不活性化されている、上記[1]に記載の免疫原性組成物。
[9]前記組成物が、未精製である、上記[1]に記載の免疫原性組成物。
[10]前記昆虫細胞が、ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)細胞、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)細胞、カイコ(Bombyx mori)細胞、またはそれらに由来する細胞株である、上記[1]に記載の免疫原性組成物。
[11]前記細胞培養培地が、無血清培養培地である、上記[1]に記載の免疫原性組成物。
[12]前記薬学上許容可能な担体が、リン酸緩衝生理食塩水をさらに含んでなる、上記[1]に記載の免疫原性組成物。
[13]単位投与形態である、上記[1]に記載の免疫原性組成物。
[14]前記組成物が、1以上のインフルエンザヘマグルチニン、マトリックスタンパク質M1もしくはM2、RNAポリメラーゼサブユニットPB1、PB2、およびPA、核タンパク質NP、非構造タンパク質NS1もしくはNS2、または関連ウイルス様粒子を実質的に含まない、上記[1]に記載の免疫原性組成物。
[15]インフルエンザ感染症に対する全般的免疫応答を刺激するためのキットであって、
上記[1]~[14]のいずれかに記載の免疫原性組成物と、
インフルエンザに罹患しやすい宿主動物に対して前記組成物を投与するための説明書
とを含んでなる、キット。
[16]インフルエンザ感染症に対する全般的免疫応答の刺激方法であって、インフルエンザに罹患しやすい非ヒト宿主動物に対して、上記[1]~[14]のいずれかに記載の免疫原性組成物を有効量で投与することを含んでなる、方法。
[17]前記有効量が、前記組成物において発現するノイラミニダーゼの治療上有効量を含む、上記[16]に記載の方法。
[18]前記組成物が、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、静脈内投与、または粘膜投与される、上記[16]に記載の方法。
[19]前記免疫応答が、前記宿主動物におけるノイラミニダーゼに特異的に向けられる抗体、B細胞および/またはT細胞の産生または活性化を含んでなる、上記[16]に記載の方法。
[20]前記免疫応答が、前記宿主動物におけるノイラミニダーゼ亜型1および亜型2の両方に向けられる抗体、B細胞および/またはT細胞の産生または活性化を含んでなる、上記[16]に記載の方法。
[21]前記免疫応答が、前記宿主動物におけるウイルス伝播を予防する、上記[16]に記載の方法。
[22]前記免疫原性組成物が、H1N1、H3N1、H1N2、H3N2、H5N1、H5N2、H3N8および/またはH3N2に対する前記宿主動物における防御免疫応答を提供する、上記[16]に記載の方法。
[23]前記宿主動物が、8週齢未満の幼若動物である、上記[16]に記載の方法。
[24]前記幼若動物における母系由来抗体が、前記免疫原性組成物または免疫応答を妨害しない、上記[23]に記載の方法。
[25]前記動物が、ブタである、上記[16]に記載の方法。
【実施例
【0044】
以下の実施例により本発明の方法を説明する。しかしながら、これらの実施例は説明のために提供され、これらの実施例において何ら本発明の全体的範囲を限定するものとはみなされるべきではないことが理解されるべきである。
【0045】
実施例1:SIV NA亜型1(NA1)または亜型2(NA2)を発現するバキュロウイルス株の作製
合成NA遺伝子を、遺伝子配列のすぐ上流および下流にBamHI部位を付加することにより、Integrated DNA Technologiesにて合成した。A/swine/Iowa/A01782229/2016(H1N1)(配列番号1)およびA/swine/Oklahoma/A01730659/2016(H1N2)(配列番号3)のNAタンパク質遺伝子を、それぞれ登録番号KY115564およびKU752376でジェンバンク(Genbank)からダウンロードした。
【0046】
次に、合成NA遺伝子を、大腸菌pAcAB3(AB Vector-カタログ番号B2)のBamHI部位にクローン化した。大腸菌へのトランスフォーメーション後、DH5α細胞、アンピシリン耐性コロニーを選択し、100μg/mLアンピシリンを用いて、ルリア-ベルターニ(LB)培地の2mL培養液中で一晩増やした。QiagenミニプレップキットによるプラスミドDNAの分離後、プラスミドを、制限消化により選別し、制限エンドヌクレアーゼ消化により、NA1またはNA2遺伝子を適切な向きで含有するクローン(それぞれpAcAB3-NA1およびpAcAB3-NA2)を同定した。同定されたクローンを、DNAシークエンシングによりさらに検証した。
【0047】
プラスミドDNA(pAcAB3-NA1およびpAcAB3-NA2)をBsu36I線形化バキュロウイルスベクターDNA(ProEasy、AB Vector、カタログ番号A10)とともに用いて、Sf9(ツマジロクサヨトウ)昆虫細胞をトランスフェクトし、NA1(配列番号2)またはNA2(配列番号4)発現カセットをコードする組換えバキュロウイルスを作製した。トランスフェクションは、1×10個/ウェルの6ウェルプレート中で実施した。各トランスフェクションサンプルに対して、プラスミドDNAおよびProfectin試薬(AB Vector、カタログ番号T10)複合体を、以下のように12×75mm無菌チューブ内で調製した。
溶液A:水45μL+Profectinトランスフェクション試薬5.0μL
溶液B:水44μL+プラスミド(pAcAB3-NA1またはpAcAB3-NA2)0.1μg+線形化バキュロウイルスDNA(ProEasy、AB Vector)5μL
【0048】
溶液Aと溶液Bを合わせ、20℃+/-5℃で20分間インキュベートした。次に、複合体をSf9細胞に加える前に、SF-900 II培地0.9mLを各チューブに加えた。DNA Profectin複合体をSf9細胞に導入し、27℃+/-1℃で24時間インキュベートした。次に、新鮮細胞培養培地2mLを、各ウェルに加えた。組換えバキュロウイルスの作製のために、トランスフェクトされた細胞を27℃でインキュベートした。
【0049】
Sf9細胞のトランスフェクションにより作製された組換えバキュロウイルスは、通常、トランスフェクション後4~5日に培地に放出される。細胞が感染したように見えたら(細胞拡大、内顆粒形成、細胞培養表面から剥離された細胞、細胞分解)、500×gでの10分間の遠心分離によりウイルスを細胞培養培地から回収し、細胞および大きなデブリを除去した。この組換えバキュロウイルスは、P0ウイルスストックと命名した。
【0050】
P1ウイルスストックを、Sf900II培地20mL中の約60%コンフルエントなSf9細胞のT75振とうフラスコにP0材料0.5mLを接種することにより、Sf9細胞において増幅した。感染後4日に、P1を回収した。同様に、P1回収物(1mL)を用いて、Sf900II 100mL中のSf9細胞(約60%の集密度)の2-T225フラスコを感染させた。継代数2(p2)の組換えバキュロウイルスを感染後4日に回収し、BacNA1 P2 072817およびBacNA2 P2 072817として同定されたマスターシードストックとしてアリコートした。
【0051】
実施例2:BacNA1およびBacNA2におけるNA活性の検証
成熟インフルエンザNAタンパク質は、4つの同一のサブユニットから構成される四量体タンパク質である。成熟NAは、糖タンパク質上でシアル酸部分を切断するシアリダーゼ活性を有する。成熟四量体タンパク質のみが、この酵素活性を有する。バキュロウイルスにおいて発現したNA1およびNA2遺伝子が、酵素的に活性であるかを検証するために、NA活性アッセイを実施した。
【0052】
NA活性は、2-o-(p-ニトロフェニル)-α-D-N-アセチルノイラミン酸(NP-NANA、SigmaAldrich N1516)を用いてアッセイする。NA活性の測定のために、0.3mM NP-NANA 50μLを清澄な培養上清50μLと合わせ、平底96ウェルプラスチックプレート中で37℃で1時間インキュベートした後、1.0N NaOH 100μLを加えて反応を停止し、405nmでの吸光度を測定した。図1に示されるように、0.4超の吸光度によりNA活性が確認されているが、対照バキュロウイルス培養物からの上清は、0.2未満の吸光度を有している。対照バキュロウイルス培養物は、同様の条件下で、バキュロウイルス対照株、BacConを培養することにより生成する。BacConは、pAcAB3をSf9細胞のトランスフェクションに用いた以外は、Bac-NA1およびBac-NA2に関する記載どおりに作製した。BacConは、NA遺伝子を含有せず、Sf9細胞において増殖したバキュロウイルスに対するバックグラウンド吸光度を確立している。
【0053】
実施例3:BacNA1をワクチン接種されたブタに異種H1N1攻撃に対する防御が与えられた
実験ワクチンは、BacNA1に感染されたSf9細胞と、市販の15%水中油アジュバント(CA50、Cambridge Technologies)で処方されたバイナリーエチレンイミンで不活性化された培養上清との粗混合物からなっていた。Midwest Research Swineから得た8匹のインフルエンザ血清陰性の3週齢ブタの群を、不活性化BacNA1培養液、不活性化全ウイルスH1N2 SIVのいずれかをワクチン接種し、あるいは偽(モック)ワクチン接種した。ワクチンは、4および6週齢時に筋肉内投与した。ブタに対し、6.0TCID50/mLの異種SIV A/swine/Minnesota/2073/2008(H1N1)2mLで鼻腔内攻撃した。攻撃ウイルス(αクラスター)は、不活性化H1N2ワクチン群(γクラスター)および組換えNA1(92%の類似度)の両方に対して異種であった。
【0054】
攻撃日に回収した血清を、市販のIDEXX ELISAアッセイを用いて、α-IAV-S核タンパク質抗体に関して分析した。攻撃日におけるブタから回収された血清におけるIDEXX IAV-S NP ELISAおよびNA阻害力価を、図2に示す。BacNA1を接種されたまたは偽ワクチン接種された総てのブタは、陰性のままであったが、不活性化H1N2ウイルスをワクチン接種されたブタは、陽性であった(図2)。血清は、攻撃ウイルスを用いて、NA阻害抗体力価に関しても分析した。BacNA1をワクチン接種されたブタは、平均NI力価69を示したが、他の処置群のブタは陰性であった(図2)。
【0055】
攻撃日ならびに攻撃後1、3および5日に、鼻腔スワブを回収した。我々は、ウイルス排出を検出するために、2つの補完的アプローチを使用した。第1のアプローチは、読み取りとしてサイクル閾値(Ct)の値を用いた標準qRT-PCRであり、これは、攻撃後1、3および5日にブタから回収した鼻腔スワブにおけるCt値に関して、図3に示している。Ct値が高いほどウイルス負荷量が低いことが、一般に同意されている。第2のアプローチは、鼻腔スワブにおける感染性ウイルス粒子の量を測定する細胞ベースのTCID50実験であった。我々は、ウイルスTCID50の決定に、ブタ精巣(ST)細胞を用いた。総てのブタが、qRT-PCRにより、攻撃日のSIVに対して陰性であった。興味深いことに、我々は、我々のN1に基づく組換えワクチンは、不活性化H1N2ワクチンよりも優れた防御をもたらしたことを見出した。具体的には、我々は、BacNA1に関してワクチン接種されたブタのサイクル閾値(CT)の値は、全3日でより高く、これは、IAV-S排出のレベルがより低いことを表していることを認めた(図3)。図4は、攻撃後1、3および5日におけるブタから回収された鼻腔スワブにおけるSIV力価(TCID50/mL)を示す。qRT-PCRの結果と同様に、不活性化H1N2ウイルスをワクチン接種されたまたは偽ワクチン接種されたブタよりも、BacNA1をワクチン接種されたブタにおいて、より少ない量のIAV-Sが検出された(図4)。
【0056】
攻撃後5日において、ブタを安楽死させ、肺全体を除去し、全罹患肺面積の計算に用いた各葉における肉眼的肺硬化(%)に基づき、盲検化された獣医師がスコア化した。図5は、攻撃後5日におけるqRT-PCR Ct値および肺硬化パーセントを示す。肺病変は、BacNA1ワクチン接種ブタでは非常に低かったが(0.34%)、H1N2ワクチン接種ブタおよび偽ワクチン接種ブタの両方に相当な肺硬化が認められた(それぞれ6.0および5.1%、図5)。右うっ血肺の一部も、qRT-PCRによりSIVに関して分析した。SIVは、BacNA1ワクチン接種ブタではかろうじて検出可能であったが(Ct=35.4)、H1N2処置群および偽処置群において高いウイルス負荷が検出された(Ctはそれぞれ23.1および21.8)。
【0057】
また、右うっ血肺葉の一部は、ホルマリン固定し、組織病理に関して分析した。サンプルを、SIVに対するヘマトキシリン・エオシン染色および免疫組織化学に基づき、病理の悪化を表す0~4尺度でスコア化した。IAV-Sに対するヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色および免疫組織化学(IHC)に基づいた顕微鏡的肺病変スコアを、図6に示す。病理学者は、試験デザインに対して盲検化された。肉眼的肺病変と同様に、BacNA1ワクチン接種ブタにおいて、非常に小さな肺病理が顕微鏡的に認められ、SIVはIHCにより同定されなかった(図6)。対照的に、H1N2処置ブタおよび偽処置ブタにおいて、有意に多い肺病変が、関連IAV-Sの検出とともに認められた。
【0058】
実施例4:BacNA1およびBacNA2をワクチン接種されたブタに異種H1N1攻撃に対する防御が与えられた
バキュロウイルスN1およびN2培養物(2つの別々の株)を、超遠心分離により10倍濃縮し、これらを用いて、10倍抗原濃縮物の、ストレート抗原(用量あたり0.85mL N1 10倍濃縮物、0.85mL N2 10倍濃縮物、0.3mL CA50アジュバント)または1:5および1:20倍希釈物を有するワクチンを処方した。ブタに対し、3および5週齢時にワクチン接種し、BacNA1と約92%類似するN1タンパク質を有する異種H1N1(6TCID50/mL)を用いて、7週齢時に攻撃した。
【0059】
図7は、N1およびN2に対して作製された抗体を示す、親H1N1およびH1N2ウイルスならびに攻撃ウイルスを用いた血清学的検査(NA阻害アッセイ)のデータを示す。血清は、攻撃日に総てのブタから回収した。NIアッセイの結果は、BacNA1およびBacNA2の両方が、NA1およびNA2活性を阻害できる抗体応答を刺激できることを示している。重要なことに、BacNA1に対して作製された抗体は、攻撃に用いられた異種ウイルスと交差反応することができる。
【0060】
図8は、異種H1N1による攻撃後5日に回収された肺組織に対するPCRの結果を示す。これらの結果は、攻撃後の肺におけるインフルエンザウイルス力価が、ワクチン接種に用いた抗原の量と逆相関するような用量依存的効果を示している。
【0061】
攻撃後5日に回収された肺に関する肉眼的および顕微鏡的肺スコアを、図9に示す。これらの結果は、3つ総てのワクチン処方は、インフルエンザウイルス感染症により引き起こされた肺損傷に対する防御を提供できたことを示している。3つのワクチンの作製に用いた抗原プールは、10倍濃縮バキュロウイルス培養物であったため、これらのワクチンは、用量あたりおよそ8.5、1.7および0.43mLのBacNA1およびBacN
A2を示した。
【0062】
実施例5:BacNA1およびBacNA2により産生されたNAの定量化
BacNA1およびBacNA2それぞれにより発現したNA1およびNA2の全長天然配列は、各々N末端膜貫通ドメインを含有しており、結果的に、Sf9細胞膜またはバキュロウイルス脂質膜と関連することが見出されている。膜タンパク質は、精製することが困難である。NA1およびNA2に対する高度に精製された参照標準を調製するために、我々は、可溶性タンパク質の発現を可能とするためにバキュロウイルスGP67分泌シグナル配列を含んだ、バキュロウイルスにおけるN末端切断型のNA1(配列番号5)およびNA2(配列番号6)を発現させた。A/swine/Iowa/A01782229/2016(H1N1)およびA/swine/Oklahoma/A01730659/2016(H1N2)のNAタンパク質遺伝子は、N末端の35個のアミノ酸をコードするヌクレオチドが除去され、かつ、バキュロウイルスGp67分泌シグナルペプチドと置換されるように、並びにヘキサヒスチジンタグがタンパク質(配列番号5および配列番号6)のC末端に付加されるように合成した。得られた遺伝子は、実施例1に記載のように、pAcAB3にクローン化し、これを用いて、可溶性NA1およびNA2を発現する組換えバキュロウイルスを作製した。得られたバキュロウイルス株のSf9細胞培養物は、アフィニティークロマトグラフィー(固定化Ni2+)を用いた培養上清からの可溶性NA1およびNA2の精製に用いた。精製されたNA1およびNA2タンパク質は、ヘキサヒスチジンタグを認識する抗体を用いたSDS-PAGEおよびウェスタンブロットにより、可視化した。
【0063】
各調製物中のNAの純度は、SDS-PAGEゲルのデンシトメトリーにより、90%超と決定された。図10において、レーン1は、参照としてのウシ血清アルブミン標準2ugを含有する。レーン2は、精製NA 2μgを含有する。レーン3は、精製NA 2μgを含有する。タンパク質濃度は、ウシ血清アルブミン標準曲線を用いたブラッドフォードアッセイにより決定した。精製NA1は0.21mg/mLであり、NA2は0.14mg/mLであった。
【0064】
実施例2に記載のように、精製可溶性NA1およびNA2とともに、BacNA1およびBacNA1の代表的な培養物に対して、NA活性アッセイを実施した。NA活性アッセイ曲線に対して平行線分析を実施し、既知濃度の精製参照NA1およびNA2を用いて、それぞれBacNA1およびBacNA2により産生されたNA1およびNA2の濃度を決定した。BacNA1およびBacNA2培養物の反復測定値は、両培養物においておよそ50μg/mL NAであることが見出された。
【0065】
実施例6:BacNA1およびBacNA2をワクチン接種されたブタに同種H1N2攻撃に対する防御が与えられた
バキュロウイルスN1およびN2培養物(2つの別々の株)を、超遠心分離により10倍濃縮した。濃縮培養物に存在するNAの量は、実施例5に記載のとおりに決定した。ワクチンは、NA1およびNA2両方を200、100、50、25または0μg/用量と15% CA50アジュバントとを含有するように処方された。用量の容量は、リン酸緩衝生理食塩水で2mLに調整した。ブタに対し、3および5週齢時にワクチン接種し、同種H1N2(6TCID50/mL)親ウイルスを用いて、7週齢時に攻撃した。
【0066】
親ウイルスに対する血清学的検査-NA阻害抗体力価を、図11に示す。総てのワクチン処方が、両方の親ウイルスに対して抗体力価を誘導した。攻撃後1、2および5日に回収された鼻腔スワブならびに攻撃後5日に回収された肺組織に関するIAV PCR(Ct)値を、図12に示す。鼻腔スワブおよび肺において検出されたウイルスの量は、全時点において、偽ワクチン接種ブタより低かった。図13は、攻撃後5日に回収された肺組織に関する肉眼的および顕微鏡的スコアを含む。総てのワクチン処方が、肺病変を有意に減少させた。
【0067】
実施例7:BacNA1およびBacNA2をワクチン接種されたブタに同種H1N1攻撃に対する防御が与えられた
バキュロウイルスN1およびN2培養物(2つの別々の株)を、超遠心分離により10倍濃縮した。濃縮培養物に存在するNAの量は、実施例5に記載のとおりに決定した。ワクチンは、NA1およびNA2両方を200、100、50、25または0μg/用量と15% CA50アジュバントとを含有するように処方された。用量の容量は、リン酸緩衝生理食塩水で2mLに調整した。ブタに対し、3および5週齢時にワクチン接種し、同種H1N1(6TCID50/mL)親ウイルスを用いて、7週齢時に攻撃した。
【0068】
親ウイルスに対する血清学的検査-NA阻害抗体力価を、図14に示す。総てのワクチン処方が、両方の親ウイルスに対して抗体力価を誘導した。攻撃後3および5日に回収された鼻腔スワブならびに攻撃後5日に回収された肺組織に関するIAV PCR(Ct)値を、図15に示す。ワクチン接種ブタに関して鼻腔スワブに検出されたインフルエンザの量は、偽ワクチン接種ブタと有意差はなかったが、総てのワクチン群が、肺サンプル中のインフルエンザのレベルが有意に低かった。図16は、H&EおよびIHC染色により評価された肺病変スコアGMT(幾何平均力価)が、偽ワクチン接種ブタと比較して全ワクチン群において有意に減少したことを示す。
【0069】
実施例8:用量漸増試験
さらに、用量漸増試験を実施した。ブタに対し、種々の希釈レベルで記載された粗バキュロウイルス培養液をワクチン接種した。結果を図17~19に示す。1倍組成物は、用量あたりNA1 42.5μgおよびNA2 42.5μgで処方した。最も希釈したワクチンに関しては、NA1 5μgおよびNA2 5μgが、防御を与えるのに十分な抗原であった。図17は、NA阻害アッセイを用いた血清学的検査のグラフである。これは、全ワクチンに対するセロコンバージョンおよび用量反応の成功(より低いNI力価をもたらす抗原の減少)を明らかに示している。図18は、N1およびN2に関する肺病変スコアの結果を示す。図19は、H&EおよびIHC染色により評価された肺病変スコアが、偽ワクチン接種ブタと比較して全ワクチン群において有意に減少したことを示す。これらの結果は、粗バキュロウイルス培養液は、約8倍希釈することができ、それでも有効であり得る(用量あたり約0.1mL BacNA1/BacNA2)ことを示している。
【0070】
考察
これらのワクチン接種試験の結果は、インフルエンザNA単独に基づく免疫は、同種および異種攻撃からの有意な防御を提供することを確信的に示している。NAに基づく免疫は、感染症を予防しないが、ブタは、肺損傷からほぼ完全に保護された。in vivoでのウイルス播種を制御することを目的としたワクチン接種は、臨床疾患を軽減しながら、感染免疫の発生を可能とし得る。この試験の別の刺激的な結果は、組換えNA1が異種H1N1攻撃に対する有意な防御を提供する能力であった。
【0071】
現在までのところ、2種のNA亜型(N1またはN2)を含有するSIVのみが、世界的なブタ産業を感染させ、重大な経済的懸念を生じさせている。SIVのNA遺伝子は、HA遺伝子よりも変異性が低く、優れたワクチン標的となっている。現在、ヒトインフルエンザを処置するためのFDA承認の阻害剤も、機能性NAタンパク質を標的としている。市販の不活性化SIVワクチンなどのワクチンにHA成分が含まれていると、大部分が免疫優性HAに対して向けられる免疫応答が駆動されるため、普遍的な防御能を有するNAに対する抗体応答が、遮蔽されるまたは減少することになる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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【配列表】
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