(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】血液分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/86 20060101AFI20240521BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
G01N33/86
G01N33/48 Z
(21)【出願番号】P 2020086344
(22)【出願日】2020-05-15
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川辺 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】小田 由紀夫
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-086518(JP,A)
【文献】特開2019-086517(JP,A)
【文献】下西成人、外6名,APTT凝固波形重心パラメータを用いた血友病Aの診断および第VIII因子定量法の開発,日本血栓止血学会誌,日本,2019年05月01日,Vol.30,No.2,Page.411
【文献】萩原建一、外6名,APTT凝固波形テンプレートマッチングによる血友病A診断アルゴリズム,日本血栓止血学会誌,日本,2019年05月01日,Vol.30,No.2,Page.411
【文献】下西成人、外6名,凝固波形解析重心法パラメータを用いたAPTTクロスミキシング試験の迅速定量化,日本血栓止血学会誌,日本,2019年05月01日,Vol.30,No.2,Page.440
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液分析方法であって、
(1)被検血液検体についての凝固反応データを取得すること、
(2)
該血液検体の凝固反応曲線の微分曲線から重心点に関するパラメータを算出すること、
(3)該重心点に関するパラメータを用いて該血液検体の凝固特性を評価すること、
を含
み、
該重心点が、以下:
該血液検体の凝固反応曲線の1次微分曲線の所定領域の重心点、
該血液検体の凝固反応曲線の2次微分曲線のプラスピークの所定領域の重心点、及び
該血液検体の凝固反応曲線の2次微分曲線のマイナスピークの所定領域の重心点、
からなる群より選択される少なくとも1つであり、
該1次微分曲線の所定領域の重心点が、重心時間vTg及び重心高さvHgで規定される座標(vTg, vHg)で表され、ここで、
該1次微分曲線をF(t)(tは時間)、F(t)が所定値Xである時間をt1、t2(t1<t2)、n=t2-t1+1、b=Xとするとき、vTgとvHgが下記式(1)及び(2)で表され、
【数1】
該2次微分曲線のプラスピークの所定領域の重心点が、重心時間pTg及び重心高さpHgで規定される座標(pTg, pHg)で表され、ここで、
該2次微分曲線をF'(t)(tは時間)、F'(t)が所定値X'である時間をt1、t2(t1<t2)、n=t2-t1+1、b'=X'とするとき、pTgとpHgが下記式(1)'及び(2)'で表され、
【数2】
該2次微分曲線のマイナスピークの所定領域の重心点が、重心時間mTg及び重心高さmHgで規定される座標(mTg, mHg)で表され、ここで、
該2次微分曲線をF'(t)(tは時間)、F'(t)が所定値X"である時間をt1、t2(t1<t2)、n=t2-t1+1、b"=X"とするとき、mTgとmHgが下記式(1)"及び(2)"で表される、
【数3】
方法。
【請求項2】
前記重心点に関するパラメータが、重心高さvHg、重心ピーク幅vWg、B扁平率vABg、W扁平率vAWg、及びW時間率vTWgからなる群より選択される1次微分曲線の所定領域の重心点に関する重心点のパラメータを1つ以上含み、ここで、
前記1次微分曲
線F(t)(tは時間
)が前記所定値Xである時間をt1、t2(t1<t2
)とするとき
、
vWgが、t1からt2までのF(t)≧vHgとなる時間長であり、
vABgが、vHgとvBとの比を表し、ここでvBは、t1からt2までのうちのF(t)≧Xとなる時間長であり、
vAWgが、vHgとvWgとの比を表し、
vTWgが、vTgとvWgとの比を表す、
請求項
1記載の方法。
【請求項3】
前記所定値Xが、前記1次微分曲線F(t)の最大値の0.5~99%である値である、請求項
1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記重心点に関するパラメータが、重心高さpHg、重心ピーク幅pWg、B扁平率pABg、W扁平率pAWg、及びW時間率pTWgからなる群より選択される2次微分曲線のプラスピークの所定領域の重心点に関するパラメータを1つ以上含み、ここで、
前記2次微分曲
線F'(t)(tは時間
)が前記所定値X'である時間をt1、t2(t1<t2
)とするとき
、
pWgが、t1からt2までのF'(t)≧pHgとなる時間長であり、
pABgが、pHgとpBとの比を表し、ここでpBは、t1からt2までのうちのF'(t)≧X'となる時間長であり、
pAWgが、pHgとpWgとの比を表し、
pTWgが、pTgとpWgとの比を表す、
請求項
1記載の方法。
【請求項5】
前記重心点に関するパラメータが、重心高さmHg、重心ピーク幅mWg、B扁平率mABg、W扁平率mAWg、及びW時間率mTWgからなる群より選択される2次微分曲線のマイナスピークの所定領域の重心点に関するパラメータを1つ以上含み、ここで、
前記2次微分曲
線F'(t)(tは時間
)が前記所定値X"である時間をt1、t2(t1<t
2)とするとき
、
mWgが、t1からt2までのF'(t)≦mHgとなる時間長であり、
mABgが、mHgとmBとの比を表し、ここでmBは、t1からt2までのうちのF'(t)≦X"となる時間長であり、
mAWgが、mHgとmWgとの比を表し、
mTWgが、mTgとmWgとの比を表す、
請求項
1記載の方法。
【請求項6】
前記所定値X'が、前記2次微分曲線F'(t)の最大値の0.5~99%である、請求項
1又は4記載の方法。
【請求項7】
前記所定値X"が、前記2次微分曲線F'(t)の最小値の0.5~99%である、請求項
1又は5記載の方法。
【請求項8】
前記凝固特性の評価が凝固因子濃度の測定である、請求項1~
7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記凝固因子が、凝固第VIII因子及び凝固第IX因子からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項
8記載の方法。
【請求項10】
前記凝固特性の評価が凝固異常の有無又は程度の評価である、請求項1~
7のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記凝固異常が血友病A又は血友病Bである、請求項
10記載の方法。
【請求項12】
前記凝固特性の評価が凝固時間の延長要因の評価である、請求項1~
7のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記延長要因の評価が、延長要因が凝固因子欠乏、ループスアンチコアグラント、凝固因子インヒビターのいずれであるかの評価である、請求項
12記載の方法。
【請求項14】
前記凝固特性の評価が凝固因子インヒビター力価の測定である、請求項1~
7のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記凝固因子インヒビターが凝固第VIII因子インヒビターである、請求項
14記載の方法。
【請求項16】
前記(1)が、
被検血液検体と正常血液検体とを混合した混合
検体を調製すること、
該混合検体を加温し、該加温した混合検体についての
凝固反応曲線を取得すること、
該加温を受けていない混合検体についての
凝固反応曲線を取得すること、
を含み、
前記(2)が、
前記血液検体の凝固反応曲線として該加温を受けていない混合検体についての
凝固反応曲線を用いて、前記重心点に関するパラメータを
算出し、第1のパラメータ
とすること、
前記血液検体の凝固反応曲線として該加温した混合検体についての
凝固反応曲線を用いて、前記重心点に関するパラメータを
算出し、第2のパラメータ
とすること、
を含み、
前記(3)が、
該第1のパラメータと該第2のパラメータとの比又は差に基づいて、該被検血液検体の凝固特性を評価すること、
を含む、
請求項
12~15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記加温が30℃以上40℃以下で2~30分間の加温である、請求項
16記載の方法。
【請求項18】
前記(2)が、
前記1次微分曲線、2次微分曲線のプラスピーク又は2次微分曲線のマイナスピークについて、複数の所定領域を抽出すること、
抽出した各所定領域から、前記重心点に関するパラメータを算出すること、
算出された重心点に関するパラメータからなるパラメータ群を含むパラメータセットを取得すること、
を含み、
前記(3)が、
前記
(2)で取得したパラメータセットを、テンプレート血液検体についての対応するパラメータセットと比較すること、
該比較の結果に基づいて、
前記被検血液検体における凝固異常の有無や程度を評価すること、
を含み、
該テンプレート血液検体が、該凝固異常の有無や程度が既知である血液検体である、
請求項
8~11のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
前記
複数の所定領域の数が5~50個である、請求項
18記載の方法。
【請求項20】
請求項1~
19のいずれか1項記載の血液分析方法を行うためのプログラム。
【請求項21】
請求項1~
19のいずれか1項記載の血液分析方法を行うための装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液凝固検査は、患者の血液検体に所定の試薬を添加して血液凝固時間等を測定することにより、患者の血液凝固特性を診断するための検査である。血液凝固検査の典型的な例としては、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、トロンビン時間の測定などがある。血液凝固検査の異常(血液凝固時間の延長)が生じる要因としては、凝固阻害薬剤の影響、凝固関与成分の減少、先天的な血液凝固因子の欠乏、凝固反応を阻害する自己抗体の存在などが挙げられる。
【0003】
血液凝固検査においては、血液検体への試薬添加後の血液凝固反応量を経時的に測定することにより、凝固反応曲線を求めることができる。この凝固反応曲線は、血液凝固系の異常のタイプに応じてそれぞれ異なる形状を有する(非特許文献1)。凝固反応曲線に基づいて血液検体の凝固能を評価する方法が知られている。例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3には、凝固反応曲線から最大凝固速度、最大凝固加速度、最大凝固減速度などのパラメータを求め、それらのパラメータに基づいて血液検体の凝固能を評価することが開示されている。特許文献4には、患者の凝固反応が最大凝固速度又は最大凝固加速度に達する時間までの凝固速度の平均変化率に基づいて、血友病の重症度を判定する方法が記載されている。特許文献5には、血漿希釈倍率に対する凝固時間を表す直線の傾きについての患者血漿と対照血漿との比に基づいて、凝固第VIII因子(FVIII)インヒビターの存在を判定する方法が記載されている。特許文献6には、凝固反応速度曲線の重心点を算出し、該重心点に基づく情報を用いて凝固関与成分の濃度又は凝固異常を評価することを含む、血液検体の凝固機能の評価方法が記載されている。ただし、特許文献6で実際に用いられている重心点及び重心速度とは、いわゆる加重平均点及び加重平均速度である。特許文献7には、凝固反応速度曲線の所定高さでのピーク幅を算出し、該ピーク幅に基づく情報を用いて凝固関与成分の濃度または凝固異常を判定することを含む、血液検体の凝固機能の評価方法が記載されている。
【0004】
血液検体にAPTTの延長が見られた場合、一般的にはクロスミキシング試験が行われ、APTTの延長の要因が判定される。例えば、APTTの延長が凝固因子インヒビター(抗凝固因子)、ループスアンチコアグラント(LA)、又は血友病等の凝固因子欠乏のうち何れに起因するかが判定される。クロスミキシング試験では正常血漿、被検血漿、及び被検血漿と正常血漿とを様々な容量比で含む混合血漿の、混合直後のAPTT(即時反応)と37℃で2時間インキュベーションした後のAPTT(遅延反応)とが測定される(特許文献2参照)。測定値は、縦軸をAPTT測定値(秒)、横軸を被検血漿と正常血漿の容量比としてグラフ化される。作成された即時反応及び遅延反応のグラフは、APTT延長要因に応じてそれぞれ「下に凸」、「直線」又は「上に凸」のパターンを示す。これら即時反応及び遅延反応のパターンに基づいて、APTT延長要因が判定される。例えば、即時反応で「下に凸」の反応曲線が得られたときは、凝固遅延の要因は、インヒビター又は因子欠乏であるが、そのいずれであるかの区別はできない。この場合、遅延反応の曲線が「下に凸」であれば凝固遅延の要因は因子欠乏、「直線」又は「上に凸」であれば凝固遅延の要因はインヒビターと判定できる。即時反応で「上に凸」の反応曲線が得られたときは、凝固遅延の要因は、インヒビター又はLAであるが、そのいずれであるかの区別はできない。この場合、遅延反応のパターンが即時反応のときよりさらに明確な「上に凸」になれば凝固遅延の要因はインヒビターと判定できる。
【0005】
上記クロスミキシング試験でAPTT延長が凝固因子インヒビターに起因すると判定された場合、一般的にはベセスダ(Bethesda)法によりインヒビター力価が測定される。ベセスダ法では、被検血漿の希釈系列と正常血漿とを混合したサンプルを37℃で2時間加温した後、該サンプルにおける凝固因子の残存活性を測定し、測定値から検量線に基づいて該凝固因子のインヒビターの力価を測定する。ベセスダ法は現在、凝固第VIII因子(FVIII)及び第IX因子(FIX)に対するインヒビター力価の標準的な定量法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-194426号公報
【文献】特開2016-118442号公報
【文献】特開2017-106925号公報
【文献】特開2018-017619号公報
【文献】特開2018-517150号公報
【文献】特開2019-086518号公報
【文献】特開2019-086517号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】British Journal of Haematology, 1997, 98:68-73
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
検査室で分析されている(検査)項目の測定データを用いて、より簡便又は短時間に血液凝固特性を評価することができれば望ましい。本発明は、凝固反応曲線に基づいて、凝固時間の延長要因、凝固因子濃度、凝固因子インヒビターの力価などの血液凝固特性に関する情報を取得する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、凝固反応曲線の1次微分又は2次微分曲線から重心点に関するパラメータを算出することで、血液凝固特性に関する情報を簡便且つ短時間に取得することができることを見出した。
【0010】
本発明は以下を提供する。
〔1〕血液分析方法であって、
(1)被検血液検体についての凝固反応データを取得すること、
(2)該凝固反応データの微分曲線から重心点に関するパラメータを算出すること、
(3)該重心点に関するパラメータを用いて該血液検体の凝固特性を評価すること、
を含む、方法。
〔2〕前記重心点が、前記血液検体の凝固反応曲線の1次微分曲線の所定領域の重心点、及び該凝固反応曲線の2次微分曲線の所定領域の重心点からなる群より選択される少なくとも1つである、〔1〕記載の方法。
〔3〕前記1次微分曲線の所定領域の重心点が、重心時間vTg及び重心高さvHgで規定される座標(vTg, vHg)で表され、
前記重心点に関するパラメータが、重心高さvHg、重心ピーク幅vWg、B扁平率vABg、W扁平率vAWg、及びW時間率vTWgからなる群より選択される1次微分曲線の所定領域の重心点に関する重心点のパラメータを1つ以上含み、ここで、
該1次微分曲線をF(t)(tは時間)、F(t)が所定値Xである時間をt1、t2(t1<t2)、n=t2-t1+1、b=Xとするとき、vTgとvHgが下記式で表され、
【数1】
vWgが、t1からt2までのF(t)≧vHgとなる時間長であり、
vABgが、vHgとvBとの比を表し、ここでvBは、t1からt2までのうちのF(t)≧Xとなる時間長であり、
vAWgが、vHgとvWgとの比を表し、
vTWgが、vTgとvWgとの比を表す、
〔2〕記載の方法。
〔4〕前記所定値Xが、前記1次微分曲線F(t)の最大値の0.5~99%である値である、〔3〕記載の方法。
〔5〕前記2次微分曲線の所定領域の重心点が、該2次微分曲線のプラスピークの所定領域の重心点、及び該2次微分曲線のマイナスピークの所定領域の重心点からなる群より選択される1つ以上を含む、〔2〕~〔4〕のいずれか1項記載の方法。
〔6〕前記2次微分曲線のプラスピークの所定領域の重心点が、重心時間pTg及び重心高さpHgで規定される座標(pTg, pHg)で表され、
前記重心点に関するパラメータが、重心高さpHg、重心ピーク幅pWg、B扁平率pABg、W扁平率pAWg、及びW時間率pTWgからなる群より選択される2次微分曲線のプラスピークの所定領域の重心点に関するパラメータを1つ以上含み、ここで、
該2次微分曲線をF'(t)(tは時間)、F'(t)が所定値X'である時間をt1、t2(t1<t2)、n=t2-t1+1、b'=X'とするとき、pTgとpHgが下記式で表され、
【数2】
pWgが、t1からt2までのF'(t)≧pHgとなる時間長であり、
pABgが、pHgとpBとの比を表し、ここでpBは、t1からt2までのうちのF'(t)≧X'となる時間長であり、
pAWgが、pHgとpWgとの比を表し、
pTWgが、pTgとpWgとの比を表す、
〔5〕記載の方法。
〔7〕前記2次微分曲線のマイナスピークの所定領域の重心点が、重心時間mTg及び重心高さmHgで規定される座標(mTg, mHg)で表され、
前記重心点に関するパラメータが、重心高さmHg、重心ピーク幅mWg、B扁平率mABg、W扁平率mAWg、及びW時間率mTWgからなる群より選択される2次微分曲線のマイナスピークの所定領域の重心点に関するパラメータを1つ以上含み、ここで、
該2次微分曲線をF'(t)(tは時間)、F'(t)が所定値X"である時間をt1、t2(t1<t2)、n=t2-t1+1、b"=X"とするとき、mTgとmHgが下記式で表され、
【数3】
mWgが、t1からt2までのF'(t)≦mHgとなる時間長であり、
mABgが、mHgとmBとの比を表し、ここでmBは、t1からt2までのうちのF'(t)≦X"となる時間長であり、
mAWgが、mHgとmWgとの比を表し、
mTWgが、mTgとmWgとの比を表す、
〔5〕記載の方法。
〔8〕前記所定値X'が、前記2次微分曲線F'(t)の最大値の0.5~99%である、〔6〕記載の方法。
〔9〕前記所定値X"が、前記2次微分曲線F'(t)の最小値の0.5~99%である、〔7〕記載の方法。
〔10〕前記凝固特性の評価が凝固因子濃度の測定である、〔1〕~〔9〕のいずれか1項記載の方法。
〔11〕前記凝固因子が、凝固第VIII因子及び凝固第IX因子からなる群より選択される少なくとも1種である、〔10〕記載の方法。
〔12〕前記凝固特性の評価が凝固異常の有無又は程度の評価である、〔1〕~〔9〕のいずれか1項記載の方法。
〔13〕前記凝固異常が血友病A又は血友病Bである、〔12〕記載の方法。
〔14〕前記凝固特性の評価が凝固時間の延長要因の評価である、〔1〕~〔9〕のいずれか1項記載の方法。
〔15〕前記延長要因の評価が、延長要因が凝固因子欠乏、ループスアンチコアグラント、凝固因子インヒビターのいずれであるかの評価である、〔14〕記載の方法。
〔16〕前記凝固特性の評価が凝固因子インヒビター力価の測定である、〔1〕~〔9〕のいずれか1項記載の方法。
〔17〕前記凝固因子インヒビターが凝固第VIII因子インヒビターである、〔16〕記載の方法。
〔18〕前記(1)が、
被検血液検体と正常血液検体とを混合した混合検体を調製すること、
該混合検体を加温し、該加温した混合検体についての凝固反応データを取得すること、
該加温を受けていない混合検体についての凝固反応データを取得すること、
を含み、
前記(2)が、
該加温を受けていない該混合検体についての前記重心点に関するパラメータを第1のパラメータとして算出すること、
該加温した混合検体についての前記重心点に関するパラメータを第2のパラメータとして算出すること、
を含み、
前記(3)が、
該第1のパラメータと該第2のパラメータとの比又は差に基づいて、該被検血液検体の凝固特性を評価すること、
を含む、
〔14〕~〔17〕のいずれか1項記載の方法。
〔19〕前記加温が30℃以上40℃以下で2~30分間の加温である、〔18〕記載の方法。
〔20〕前記(2)が、
前記微分曲線の異なる領域から算出された重心点に関するパラメータからなるパラメータ群を含むパラメータセットを取得すること、
を含み、
前記(3)が、
前記被検血液検体についてのパラメータセットを、テンプレート血液検体についての対応するパラメータセットと比較すること、
該比較の結果に基づいて、該被検血液検体における凝固異常の有無や程度を評価すること、
を含み、
該テンプレート血液検体が、該凝固異常の有無や程度が既知である血液検体である、
〔10〕~〔13〕のいずれか1項記載の方法。
〔21〕前記異なる領域の数が5~50個である、〔20〕記載の方法。
〔22〕〔1〕~〔21〕のいずれか1項記載の血液分析方法を行うためのプログラム。
〔23〕〔1〕~〔21〕のいずれか1項記載の血液分析方法を行うための装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、簡便且つ短時間に血液検体の延長要因の評価、又は凝固因子濃度の測定を可能にする方法を提供する。また本発明の方法は、従来のベセスダ法に比べてより短時間に且つ高感度で凝固因子インヒビターの力価の測定を可能にする。さらに本発明の方法は、従来の血液凝固検査に用いられる自動分析装置への応用も可能であることから、測定に要する労力を大きく低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明による血液分析方法の手順の一実施形態。
【
図2】
図1に示すデータ解析工程の手順の一実施形態。
【
図5】A:凝固反応曲線の一例の部分拡大図、B:ベースライン調整後の凝固反応曲線の一例の部分拡大図。
【
図7】A:補正1次曲線の一例。B:補正2次曲線の一例。
【
図9】演算対象域値が10%(左)及び50%(右)のときの1次曲線の、A:重心点(黒四角)と加重平均点(黒丸)、B:重心ピーク幅vWgと加重平均ピーク幅vW(B)。
【
図10】演算対象域値が50%のときの2次曲線のプラスピーク及びマイナスピークの、A:重心点(黒四角)と加重平均点(黒丸)、B:重心ピーク幅pWg及びmWgと加重平均ピーク幅pW及びmW。
【
図11】本発明による血液分析方法を行うための自動分析装置の構成の一実施形態を示す概念図。
【
図12】凝固因子濃度とVmax、vHg、及びvHとの関係。Vmax、vHg、及びvHはFVIII濃度(左)及びFIX濃度(右)の対数に対してプロットされている。
【
図13】重心点と加重平均点の違い。補正1次曲線とともに、異なる演算対象域からの重心点(黒四角)と加重平均点(黒丸)が示されている。A:正常検体、B:FVIII欠乏血漿、C:FIX欠乏血漿。
【
図14】重心点と加重平均点の違い。vHg(白丸)及びvH(黒丸)の演算対象域値に対するプロット。A:正常検体、B:FVIII欠乏血漿、C:FIX欠乏血漿。
【
図15-1】パラメータvHg60のPa、Pb、Pb/Pa、及びPb-Paの分布。FVIII:FVIII群、LA:LA群、Inhi.:Inhibitor群。各図の下の数値はP値(両側T検定)。
【
図15-2】パラメータpHg60のPa、Pb、Pb/Pa、及びPb-Paの分布。FVIII:FVIII群、LA:LA群、Inhi.:Inhibitor群。各図の下の数値はP値(両側T検定)。
【
図15-3】パラメータmHg60のPa、Pb、Pb/Pa、及びPb-Paの分布。FVIII:FVIII群、LA:LA群、Inhi.:Inhibitor群。各図の下の数値はP値(両側T検定)。
【
図15-4】パラメータvABg5のPa、Pb、Pb/Pa、及びPb-Paの分布。FVIII:FVIII群、LA:LA群、Inhi.:Inhibitor群。各図の下の数値はP値(両側T検定)。
【
図15-5】パラメータAPTTのPa、Pb、Pb/Pa、及びPb-Paの分布。FVIII:FVIII群、LA:LA群、Inhi.:Inhibitor群。各図の下の数値はP値(両側T検定)。
【
図16】A:被検検体を含む混合検体のvHg30%のPb/Paの、被検検体のインヒビター力価の実測値に対するプロット。B:検量線。C:被検検体のインヒビター力価の実測値に対する、Bに示す検量線に基づく算出値のプロット。D、E:低力価領域での再プロット。
【
図17】A:被検検体を含む混合検体のRvABg20%のPb/Paの、被検検体のインヒビター力価の実測値に対するプロット。B:検量線。C:被検検体のインヒビター力価の実測値に対する、Bに示す検量線に基づく算出値のプロット。D、E:低力価領域での再プロット。
【
図18】A:被検検体を含む混合検体のRvAWg5%のPb/Paの、被検検体のインヒビター力価の実測値に対するプロット。B:検量線。C:被検検体のインヒビター力価の実測値に対する、Bに示す検量線に基づく算出値のプロット。D、E:低力価領域での再プロット。
【
図19】A:被検検体を含む混合検体のvTWg40%のPb/Paの、被検検体のインヒビター力価の実測値に対するプロット。B:検量線。C:被検検体のインヒビター力価の実測値に対する、Bに示す検量線に基づく算出値のプロット。D、E:低力価領域での再プロット。
【
図20】A:被検検体を含む混合検体のpAWg70%のPb/Paの、被検検体のインヒビター力価の実測値に対するプロット。B:検量線。C:被検検体のインヒビター力価の実測値に対する、Bに示す検量線に基づく算出値のプロット。D、E:低力価領域での再プロット。
【
図21】A:被検検体を含む混合検体のRmHg0.5%のPb/Paの、被検検体のインヒビター力価の実測値に対するプロット。B:検量線。C:被検検体のインヒビター力価の実測値に対する、Bに示す検量線に基づく算出値のプロット。D、E:低力価領域での再プロット。
【発明を実施するための形態】
【0013】
従来の血液凝固特性分析に使われた評価パラメータ、例えば、凝固反応曲線から算出される最大凝固速度、最大凝固加速度、最大凝固減速度などのパラメータは、凝固因子濃度又は凝固因子インヒビター力価などの血液凝固特性に関する情報を精度よく得る点では十分ではなかった。また、従来の凝固時間延長要因の判定に一般に用いられているクロスミキシング試験では、APTT延長要因が定性的なグラフパターンから判定されるため、グラフパターンによっては判定が難しいことがある。またクロスミキシング試験では、混合血漿を37℃で2時間、加温処理(インキュベーション)した後に、APTTの測定を行うことが求められるため、当該試験は、加温時間と測定時間を加味すると、約2時間半もの時間を要する。
【0014】
また、従来のインヒビター力価測定に用いられる標準的方法であるベセスダ法は、多大な労力及び時間を要求する。ベセスダ法では、サンプルの加温時間を含め測定に2時間以上の長い時間を要するうえ、分析装置による自動測定には不向きである。さらに上述のクロスミキシング試験の時間も必要である。ベセスダ法に関しては、日本血栓止血学会の用語集(www. jsth.org/glossary/)の「インヒビター(抗凝固因子)測定」に「基準値は"検出されない"であり、0.5BU/ml以上を陽性と判断する。」、「0~0.5BU/mlの範囲を精度よく測定するのは困難である。」との記載があることから、検出下限値は0.5BU/mLとされている。
【0015】
1.血液分析方法
本発明は、波形解析を応用した血液分析方法に関する。本発明の方法によれば、凝固因子の欠乏、ループスアンチコアグラント(LA)等の抗リン脂質抗体の存在、凝固因子インヒビターの存在、血液凝固時間の延長要因の判定、又は、各種凝固因子や凝固因子インヒビターなどの各成分の濃度の測定など、血液検体の血液凝固に関する様々な特性を評価することができる。また本発明によれば、従来の血液凝固検査の検査時間を簡便化又は短縮化することができる。例えば、クロスミキシング試験で凝固因子インヒビターの有無の評価するにあたり、加温の時間を2時間よりも短く、例えば10分程度とすることができる。さらに凝固因子インヒビターの有無の評価に際し、パラメータの比又は差を求めることにより定量的な判定が可能となる。また本発明によれば、従来法と比べて極めて短時間に、且つ高感度で凝固因子インヒビターの力価を測定することができる。
【0016】
1.1.分析方法の概要
本発明の血液分析方法(以下、本発明の方法ともいう)の概要を
図1に示すフローチャートを参照して説明する。本方法では、まず被検血液検体(以下、単に検体ともいう)が調製される(ステップ1)。次いで該検体についての凝固反応計測が実行される(ステップ2)。得られた計測データが解析されて、凝固反応曲線に関する各種パラメータが算出される(ステップ3)。得られたパラメータに基づいて、被検検体の凝固特性などが評価される(ステップ4)。
【0017】
1.2.凝固時間計測
被検検体としては、被検者の血漿が好ましく用いられる。該検体には、凝固検査に通常用いられる抗凝固剤が添加され得る。例えば、クエン酸ナトリウム入り採血管を用いて採血された後、遠心分離されることで血漿が得られる。本発明の方法で用いる被検検体は、分析の目的によって、正常検体であっても、凝固異常を有する異常検体であっても、それらの混合検体であってもよい。例えば、凝固因子濃度の測定の場合には、正常検体又は異常検体が好ましく使用されるが、凝固時間の延長要因の判定又はインヒビターの力価測定の場合には、混合検体が好ましく使用される。
【0018】
該被検検体に凝固時間測定試薬が添加され、血液凝固反応を開始させる。試薬添加後の混合液の凝固反応が計測される(ステップ2)。使用される試薬は、凝固反応計測の手法に合わせて任意に選択することができる。例えば、凝固反応計測の手法としては、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、希釈プロトロンビン時間、希釈部分トロンボプラスチン時間、カオリン凝固時間、希釈ラッセル蛇毒時間、又はフィブリノゲン濃度(Fbg)の測定のための凝固反応計測法が挙げられ、それぞれに適切な凝固時間測定試薬が使用される。凝固時間測定試薬は市販されている(例えば、APTT試薬コアグピア APTT-N;積水メディカル株式会社製)。以下の本明細書においては、主に、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の計測のための凝固反応計測を例として、本発明の方法を説明する。その他の凝固時間計測法(例えばプロトロンビン時間(PT)計測)への本発明の方法の変更は、当業者であれば実施可能である。
【0019】
凝固反応の計測には、一般的な手段、例えば、散乱光量、透過度、吸光度等を計測する光学的な手段、又は血漿の粘度を計測する力学的な手段などを用いればよい。凝固反応の反応開始時点は、典型的には、検体に試薬を混合して凝固反応を開始させた時点として定義され得るが、他のタイミングが反応開始時点として定義されてもよい。凝固反応の計測を継続する時間は、例えば、検体と試薬との混合の時点から数十秒~7分程度であり得る。この計測時間は、任意に定めた固定の値でもよいが、検体の凝固反応の終了を検出した時点までとしてもよい。該計測時間の間、所定の間隔で凝固反応の進行状況の計測(例えば、光学的に検出する場合は測光)が繰り返し行われ得る。例えば、0.1秒間隔で計測が行われればよい。該計測中の混合液の温度は、通常の条件、例えば30℃以上40℃以下、好ましくは35℃以上39℃以下である。また、計測の各種条件は、被検検体や試薬、計測手段等に応じて適宜設定され得る。
【0020】
上述の凝固反応計測における一連の操作は、自動分析装置を用いて行うことができる。自動分析装置の一例として、血液凝固自動分析装置CP3000(積水メディカル株式会社製)が挙げられる。あるいは、一部の操作が手作業で行われてもよい。例えば、被検検体の調製を人間が行い、それ以降の操作は自動分析装置で行うことができる。
【0021】
1.3.データ解析
1.3.1.データのベースライン調整及び補正処理
次に、凝固反応計測で得られたデータに対する解析が行われる(ステップ3)。ステップ3のデータ解析について説明する。データ解析のフローの一実施形態を
図2に示す。ステップ3でのデータ解析は、ステップ2の凝固反応計測と並行して行われてもよく、又は予め測定した凝固反応計測のデータを用いて、後から行われてもよい。
【0022】
ステップ3aにおいて、上記凝固反応計測での計測データが取得される。このデータは、例えば上述のステップ2でのAPTT測定で得られる、検体の凝固反応過程を反映するデータである。例えば、検体と凝固時間測定試薬とを含む混合液の塩化カルシウム液添加後の凝固反応の進行量(例えば散乱光量)の時間変化を示すデータが取得される。これら凝固反応計測で得られたデータを、本明細書において凝固反応データとも称する。
【0023】
ステップ3aで取得される凝固反応データの一例を
図3に示す。
図3は散乱光量に基づく凝固反応曲線であり、横軸は塩化カルシウム液の添加後の経過時間(凝固反応時間)を示し、縦軸は散乱光量を示す。時間経過とともに、検体の凝固反応が進むため、散乱光量は増加している。本明細書では、このような散乱光量等で示される凝固反応時間に対する凝固反応量の変化を示す曲線を、凝固反応曲線と称する。
【0024】
図3に示すような散乱光量に基づく凝固反応曲線は、通常、シグモイド状である。一方、透過光量に基づく凝固反応曲線は、通常、逆シグモイド状である。以降の本明細書では、凝固反応データとして散乱光量に基づく凝固反応曲線を用いたデータ解析について説明する。凝固反応データとして透過光量や吸光度に基づく凝固反応曲線を用いたデータ解析の場合にも同様の処理が行われ得ることは、当業者に明らかである。あるいは、凝固反応データとして、混合液の粘度変化等の力学的な手段で得られた凝固反応曲線が解析対象にされてもよい。
【0025】
ステップ3bにおいて、凝固反応曲線のベースライン調整が行われる。該ベースライン調整には、ノイズを除去するための平滑化処理と、ゼロ点調整とが含まれる。
図4は、ベースライン調整(平滑化処理及びゼロ点調整)された
図3の凝固反応曲線の一例を示す。平滑化処理には、公知のノイズ除去方法の何れかが用いられ得る。また
図3に示すように、検体を含む混合液は元々光を散乱させるため、測定開始時点(時間0)での散乱光量は0より大きい。平滑化処理後のゼロ点調整により、
図4に示すように時間0での散乱光量が0に調整される。
図5A及びBは、それぞれ、ベースライン調整前及び後の
図3の凝固反応曲線の部分拡大図を示す。
図5Bでは、
図5Aのデータに対して、平滑化処理及びゼロ点調整が行われている。
【0026】
凝固反応曲線の高さは、検体のフィブリノゲン濃度に依存する。一方、フィブリノゲン濃度には個人差があるため、該凝固反応曲線の高さは検体によって異なる。したがって、本方法では、必要に応じて、ステップ3cにおいてベースライン調整後の凝固反応曲線を相対値化するための補正処理が行われる。該補正処理によって、フィブリノゲン濃度に依存しない凝固反応曲線を得ることができ、それにより検体間でのベースライン調整後の凝固反応曲線の形状の差異を定量的に比較することができるようになる。
【0027】
一実施形態において、当該補正処理では、ベースライン調整後の凝固反応曲線を、最大値が所定値となるように補正する。好適には、当該補正処理では、下記式に従って、ベースライン調整後の凝固反応曲線から補正凝固反応曲線P(t)を求める。式中、D(t)はベースライン調整後の凝固反応曲線を表し、Dmax及びDminは、それぞれD(t)の最大値及び最小値を表し、Drangeは、D(t)の変化幅(すなわちDmax-Dmin)を表し、Aは、補正凝固反応曲線の最大値を表す。
P(t)=[(D(t)-Dmin)/Drange]×A
【0028】
一例として、
図6に、
図4に示す凝固反応曲線が最大値100となるように補正されたデータを示す。なお、
図6では補正後の値が0から100までとなるように補正したが、他の値(例えば0から10000まで、すなわち式(1)でA=10000)であってもよい。また、この補正処理は必ずしも行われなくてもよい。
【0029】
あるいは、上述のような補正処理は、後述する微分曲線、又は微分曲線から算出したパラメータに対して行われてもよい。すなわち、補正処理が行われないベースライン調整後の凝固反応曲線D(t)について微分曲線を算出した後、これをP(t)に相当する値に変換することができる。あるいは、微分曲線からパラメータを算出した後、該パラメータの値をP(t)に相当する値に変換することができる。
【0030】
1.3.2.微分曲線の算出
ステップ3dでは、凝固反応曲線を微分した微分曲線が算出される。本明細書において、該微分曲線としては、凝固反応曲線(上記の補正処理あり又はなし)の1回微分によって得られる1次微分曲線と、該凝固反応曲線の2回微分(あるいは1次微分曲線の1回微分)によって得られる2次微分曲線が挙げられる。1次微分曲線には、未補正1次微分曲線(凝固速度曲線)と、補正1次微分曲線とが含まれる。凝固速度曲線は、凝固反応曲線(補正処理なし)を1回微分して得られる値、すなわち任意の凝固反応時間における凝固反応量の変化率(凝固速度)を表す。補正1次微分曲線は、凝固反応曲線(補正処理あり)を1回微分して得られる値、すなわち任意の凝固反応時間における凝固反応量の相対変化率(本明細書において凝固進行率と称する場合がある)を表す。したがって、該1次微分曲線は、検体の凝固反応における凝固速度又はその相対値を表す波形であり得る。
【0031】
2次微分曲線は、凝固反応曲線(補正処理あり又はなし)の2回微分によって得られる。凝固反応曲線(補正処理なし)に由来する2次微分曲線は、凝固加速度曲線とも称され、凝固反応時間に対する凝固加速度を示す。凝固反応曲線(補正処理あり)に由来する2次微分曲線は、補正2次微分曲線とも称され、凝固進行率の時間変化率を表す。
【0032】
本明細書においては、補正処理済み凝固反応曲線、及び補正処理なし凝固反応曲線を、それぞれ補正0次曲線、及び未補正0次曲線ともいい、またこれらを総称して「0次曲線」ともいう。また本明細書においては、該補正0次曲線、及び該未補正0次曲線の1次微分曲線を、それぞれ補正1次曲線、及び未補正1次曲線ともいい、またこれらを総称して「1次曲線」ともいう。また本明細書においては、該補正0次曲線、及び該未補正0次曲線の2回微分曲線、あるいは該補正1次曲線、及び該未補正1次曲線の1回微分曲線を、それぞれ補正2次曲線、及び未補正2次曲線ともいい、またこれらを総称して「2次曲線」ともいう。
【0033】
また本明細書では、由来する凝固反応曲線の補正処理あり、補正処理なしに係わらず、1次曲線による凝固の進行を表す値を総称して1次微分値ともいう。また本明細書では、由来する凝固反応曲線の補正処理あり、補正処理なしに係わらず、2次曲線による1次微分値の変化率を表す値を総称して2次微分値ともいう。
【0034】
当該0次曲線及び1次曲線の微分は、公知の手法を用いて行うことができる。
図7Aは、
図6に示す補正0次曲線を1回微分して得られる補正1次曲線を示す。
図7Aの横軸は凝固反応時間を表し、縦軸は1次微分値を表す。
図7Bは、
図7Aに示す補正1次曲線を1回微分して得られる補正2次曲線を示す。
図7Bの横軸は凝固反応時間を表し、縦軸は2次微分値を表す。
【0035】
1.3.3.パラメータの算出
ステップ3eでは、上記の1次曲線又は2次曲線を特徴付けるパラメータの算出が行われる。該1次曲線又は2次曲線からのパラメータの算出工程においては、該曲線から1つ以上の所定領域が抽出される一方、該1つ以上の所定領域の各々に対して、それを特徴付けるパラメータが算出される。結果、該1つ以上の所定領域のそれぞれに対して、それを特徴付ける1つ以上のパラメータが算出され得る。より詳細には、該1次曲線又は2次曲線からのパラメータは、検体の該1次曲線又は2次曲線の該所定領域の重心点に関するパラメータである。以下に、該パラメータについて説明する。
【0036】
1.3.3.1.演算対象域の抽出
パラメータの算出においては、まず、1次曲線から1つ以上の所定領域を抽出する。以下、該パラメータ算出に用いられる所定領域を、演算対象域とも称する。該演算対象域は、1次曲線の1次微分値(y値)が所定の演算対象域値X以上である領域(セグメント)である。いいかえると、該演算対象域は、1次曲線の1次微分値(y値)が所定の演算対象域値X以上且つ最大値以下である領域(セグメント)である。
【0037】
より詳細には、演算対象域は、微分曲線(1次曲線)をF(t)(t=時間)、F(t)の最大値をVmaxとしたときに、F(t)≧Vmax × x%を満たすF(t)の領域(セグメント)である。より詳細には、該演算対象域は、Vmax≧F(t)≧Vmax × x%を満たす1次曲線F(t)の領域(セグメント)である。したがって、「Vmax × x%」は、演算対象域値Xであり、演算対象域の下限値を表す。以下、演算対象域値についての「Vmax × x%」を、単にx%と表すことがある。演算対象域について
図8を参照して説明する。
図8には、1次曲線F(t)(t=時間)、及びF(t)の最大値Vmaxが示されている。また、Vmax × x%を示す基線が点線で図示されており、F(t)=Vmax × x%となる時点t1、t2が示されている。演算対象域は、F(t)が基線以上且つVmax以下(F(t)≧Vmax × x%、t1≦t≦t2)の領域である。
【0038】
本発明の方法では、1つ以上の演算対象域を抽出すればよい。本発明の方法において抽出される演算対象域の数は、必ずしも限定されない。複数の演算対象域を抽出する場合、該複数の演算対象域は、互いに異なる領域である。
【0039】
1.3.3.2.重心点
演算対象域の重心点について説明する。演算対象域の重心点(vTg, vHg)は、以下の手順で求めることができる。まず、1次曲線F(t)の最大値がVmax、演算対象域値がVmax×x%であるとき、F(t)≧Vmax×x×0.01を満たす時間t[t1, …, t2](t1<t2)を求める。vTg及びvHgは、それぞれ次式(1)及び(2)で算出される。式中、n=t2-t1+1であり、b=Vmax×x%である。
【0040】
【0041】
vTgは、1次曲線の重心点を示す時間(t)を表し、本明細書において重心時間とも称される。vHgは、1次曲線の重心点を示す1次微分値を表し、本明細書において重心高さとも称される。
【0042】
同様に、2次曲線についても、重心点、重心時間、及び重心高さが定義され得る。2次曲線は、
図7Bに示すように2次微分値のプラス方向及びマイナス方向の双方にピークを有する。そのため、2次曲線の重心点は、プラスピーク及びマイナスピークの両方に対して算出され得る。例えば、プラスピークについては、2次曲線A=F'(t)の最大値がAmaxであり、演算対象域値がAmax×x%のとき、F'(t)≧Amax×x×0.01を満たす時間t[t1, …, t2](t1<t2)を求め、下式(1)'及び(2)'(式中、n=t2-t1+1、b=Amax×x%)に従って、プラスピークの重心時間pTg、及び重心高さpHgを算出する。マイナスピークについては、2次曲線A=F'(t)の最小値がAminであり、演算対象域値がAmin×x%のとき、F'(t)≦Amin×x×0.01を満たす時間t[t1, …, t2](t1<t2)を求め、下式(1)"及び(2)"(式中、n=t2-t1+1、b=Amin×x%)に従って、マイナスピークの重心時間mTg、及び重心高さmHgを算出する。演算対象域値の変化に伴って、重心点の位置は変化する。
【0043】
【0044】
1.3.3.3.重心ピーク幅
上記の重心点に基づいて、1次曲線又は2次曲線の重心ピーク幅が算出され得る。まず、上述したF(t)≧Vmax×x%を満たす時間t[t1, …, t2]の最小値(t1)及び最大値(t2)は、1次曲線の演算対象域での凝固反応時間の最小値と最大値を表し、これらをそれぞれ領域始点時間vTs、及び領域終点時間vTe(vTs<vTe)と呼ぶことがある。重心ピーク幅vWgは、F(t)≧vHgを満たす1次曲線のピーク幅(vTsからvTeまでの時間のうち、F(t)≧vHgとなる時間長)を表す。
【0045】
同様に、2次曲線のプラスピークについては、F'(t)≧Amax×x%を満たす時間の最小値及び最大値はそれぞれpTs、pTeであり、pTsからpTeまでの時間のうち、F'(t)≧pHgを満たす時間長を重心ピーク幅pWgとする。2次曲線のマイナスピークについては、F'(t)≦Amin×x%を満たす時間の最小値及び最大値はそれぞれmTs、mTeであり、mTsからmTeまでの時間のうち、F'(t)≦mHgを満たす時間長を重心ピーク幅mWgとする。
【0046】
1.3.3.4.扁平率、時間率
上記の重心点に基づいて、1次曲線又は2次曲線の扁平率及び時間率が算出され得る。まず、vTsからvTeまでの時間のうち、F(t)≧Vmax×x%となる時間長を、1次曲線のピーク幅vBとする。同様に、2次曲線のプラスピークについては、pTsからpTeまでの時間のうち、F'(t)≧Amax×x%を満たす時間長をピーク幅pBとし、2次曲線のマイナスピークについては、mTsからmTeまでの時間のうち、F'(t)≦Amin×x%を満たす時間長をピーク幅mBとする。
【0047】
1次曲線の扁平率としては、ピーク幅vBに基づく扁平率(B扁平率)vABgと、重心ピーク幅vWgに基づく扁平率(W扁平率)vAWgが挙げられる。下記式(3a)及び(3b)のとおり、vABgは、重心高さvHgとピーク幅vBとの比で定義され、vAWgは、重心高さvHgと重心ピーク幅vWgとの比で定義される。
vABg=vHg/vB (3a)
vAWg=vHg/vWg (3b)
【0048】
1次曲線の時間率としては、ピーク幅vBに基づく時間率(B時間率)vTBgと、重心ピーク幅vWgに基づく時間率(W時間率)vTWgが挙げられる。下記式(4a)及び(4b)のとおり、vTBgは、重心時間vTgとピーク幅vBとの比で定義され、vTWgは、重心時間vTgと重心ピーク幅vWgとの比で定義される。
vTBg=vTg/vB (4a)
vTWg=vTg/vWg (4b)
【0049】
扁平率は、vABg=vB/vHg、又はvAWg=vWg/vHgであってもよい。時間率は、vTBg=vB/vTg、又はvTWg=vWg/vTgであってもよい。また、これら比に定数Kを乗じてもよい。すなわち、例えば、扁平率は、vABg=(vHg/vB)K、vABg=(vB/vHg)K、vAWg=(vHg/vWg)K、又はvAWg=(vWg/vHg)Kであってもよく、時間率は、vTBg=(vTg/vB)K、vTBg=(vB/vTg)K、vTWg=(vTg/vWg)K、又はvTWg=(vWg/vTg)Kであってもよい(Kは定数)。
【0050】
同様に、2次曲線についても扁平率、時間率を求めることができる。例えば、2次曲線のプラスピークについて、pHgと、pB又はpWgとの比として、ピーク幅に基づくB扁平率pABg又は重心ピーク幅に基づくW扁平率pAWgを、またpTgと、pB又はpWgとの比として、ピーク幅に基づくB時間率pTBg又は重心ピーク幅に基づくW時間率pTWgを求めることができる。同様に、2次曲線のマイナスピークについて、mHgと、mB又はmWgとの比として、ピーク幅に基づくB扁平率mABg又は重心ピーク幅に基づくW扁平率mAWgを、またmTgと、mB又はmWgとの比として、ピーク幅に基づくB時間率mTBg又は重心ピーク幅に基づくW時間率mTWgを求めることができる。
【0051】
1.3.3.5.異なる演算対象域に由来するパラメータ
本明細書においては、異なる演算対象域に由来するパラメータを識別するため、各パラメータを、それが由来する演算対象域値(Vmaxに対する%)に従って、vTgx、vHgxなどと称されることがある。例えば、演算対象域値がVmaxの50%であるとき、vTg、vHg、vWg、vB、vTs、vTe、vABg、vAWg、vTBg、vTWgは、vTg50%、vHg50%、vWg50%、vB50%、vTs50%、vTe50%、vABg50%、vAWg50%、vTBg50%、vTWg50%であり、pTg、pHg、pWg、pB、pTs、pTe、pABg、pAWg、pTBg、pTWgは、pTg50%、pHg50%、pWg50%、pB50%、pTs50%、pTe50%、pABg50%、pAWg50%、pTBg50%、pTWg50%であり、mTg、mHg、mWg、mB、mTs、mTe、mABg、mAWg、mTBg、mTWgは、mTg50%、mHg50%、mWg50%、mB50%、mTs50%、mTe50%、mABg50%、mAWg50%、mTBg50%、mTWg50%である(あるいは%を省略して単にvTg50、vHg50などと称することがある)。このとき、vABgxは、vBxとvHgxから算出され、vAWgxは、vWgxとvHgxから算出され、vTBgxは、vBxとvTgxから算出され、vTWgxは、vWgxとvTgxから算出される。pABgx、pAWgx、pTBgx、pTWgx、mABgx、mAWgx、mTBgx、mTWgxについても同様である。
【0052】
以上の1次曲線の重心点に関するパラメータvTgx、vHgx、vWgx、vABgx、vAWgx、vTBgx、vTWgx、ならびに2次曲線の重心点に関するパラメータpTgx、pHgx、pWgx、pABgx、pAWgx、pTBgx、pTWgx、mTgx、mHgx、mWgx、mABgx、mAWgx、mTBgx、mTWgxは、1次曲線又は2次曲線を特徴付けるパラメータとして、本発明による血液分析に使用され得る。
【0053】
1.3.3.6.加重平均点に関するするパラメータとの対比
図9Aに、演算対象域値がVmax(=100%)の10%(左)及び50%(右)の場合の1次曲線の演算対象域の重心点を示す。黒四角印が重心点を示す。演算対象域値の変化に伴って、重心点の位置は変化する。
【0054】
図9Aにはまた、該1次曲線の演算対象域の加重平均点(特許文献6参照)が示されている(黒丸印)。1次曲線F(t)の加重平均点(vT, vH)は、下記式で表される。
【数6】
【0055】
上式及び
図9A、及び後述する
図13~14から明らかなとおり、vTgx=vTxであるが、vHgxとvHxは異なり得、結果、重心点と加重平均点は異なる点に位置し得る。また
図9Bに、演算対象域値がVmax(=100%)の10%(左)及び50%(右)の場合の1次曲線の演算対象域の重心ピーク幅vWgと加重平均ピーク幅vWを示す。図中、黒四角印は重心点、黒丸印は加重平均点を示す。加重平均ピーク幅vWは、F(t)≧vHを満たす1次曲線のピーク幅(vTsからvTeまでの時間のうち、F(t)≧vHとなる時間長)を表し、vWgとは異なる値を有する。したがって、vHg又はvWgに基づく他の重心点に関するパラメータ(例えば、1次曲線のB扁平率vABg、W扁平率vAWg、及びW時間率vTWg)も、同じ演算対象域での加重平均点に関するパラメータ(例えば、1次曲線の加重平均点から算出されるB扁平率、W扁平率、及びW時間率)と異なり得る。
【0056】
図10に、2次曲線のプラスピーク及びマイナスピークの演算対象域の重心点及び加重平均点(A)、ならびに重心ピーク幅vWgと加重平均ピーク幅vW(B)を示す。演算対象域値はAmax又はAminの50%である。2次曲線においても重心点と加重平均点は異なる点に位置し、vWgはvWと異なる値を有する。
【0057】
1.3.3.7.その他のパラメータ
上述した重心点に関するパラメータは、その他の1次曲線又は2次曲線を特徴付けるパラメータと組み合わせて、本発明による血液分析に使用され得る。その他のパラメータの例としては、上述した1次曲線の最大値Vmax、2次曲線の最大値及び最小値Amax及びAmin、及びそのときの時間(それぞれ、VmaxT、AmaxT、AminTと称する)、ならびに上述したピーク幅vB、pB、mB、領域始点時間vTs、pTs、mTs、及び領域終点時間vTe、pTe、mTeが挙げられる。
【0058】
本発明において、重心点に関するパラメータと組み合わせて使用され得るその他のパラメータのさらなる例としては、上述した1次曲線又は2次曲線の演算対象域の加重平均点に関するパラメータvT、vH、vAB(vH/vB)、vAW(vH/vW)、vTB(vT/vB)、vTW(vT/vW)、pT、pH、pAB(pH/pB)、pAW(pH/pW)、pTB(pT/pB)、pTW(pT/pW)、mT、mH、mAB(mH/mB)、mAW(mH/mW)、mTB(mT/mB)、mTW(mT/mW)が挙げられる。該加重平均点に関するパラメータは、演算対象域値に従って、vTx、vHxなどと称され得る。例えば、演算対象域値がVmaxの50%であるときのvT、vHは、それぞれvT50%、vH50%である。あるいは%を省略して単にvT50、vH50などと称することがある。以降においても同様の表記の場合に%を省略することがある。
【0059】
本発明において、重心点に関するパラメータと組み合わせて使用され得るその他のパラメータのさらなる例としては、1次曲線又は2次曲線の演算対象域における曲線下面積(AUCが挙げられる。AUCは、1次曲線についてのAUC(vAUC)と、2次曲線のプラスピーク及びマイナスピークについてのAUC(それぞれpAUC、mAUC)を含み得る。AUCは、演算対象域値に従って、AUCxと称されることがある。例えば、演算対象域値がVmaxの50%であるときのvAUC、pAUC、及びmAUCは、それぞれvAUC50%、pAUC50%、及びmAUC50%である。本発明において、重心点に関するパラメータと組み合わせて使用され得るその他のパラメータのさらなる例としては、凝固時間Tcが挙げられる。凝固時間Tcは、0次曲線における散乱光量の変化量が所定条件を満たした時点での散乱光量を100%としたときに、散乱光量がc%に相当する反応経過時間である。cは任意の値でよく、例えばc=5~95である。
【0060】
本発明において、重心点に関するパラメータと組み合わせて使用され得るその他のパラメータのさらなる例としては、平均時間vTa、平均高さvHa、及び領域中央時間vTmが挙げられる。vTa、vHa、及びvTmは、F(vTs)からF(vTe)までのデータ点数をnとしたときにそれぞれ以下の式で表される。vTa、vHa、及びvTmは、演算対象域値に従って、vTax、vHax、及びvTmxと称され得る。例えば、演算対象域値がVmaxの50%であるときのvTa、vHa、及びvTmは、それぞれvTa50%、vHa50%、及びvTm50%である。
【数7】
【0061】
上述したその他のパラメータについては、これまでに、凝固時間の延長要因の評価、凝固異常の有無や程度の評価、又は、各種凝固因子や凝固因子インヒビターなどの各成分の濃度の測定のためのパラメータとして使用できることが見出されている(特許文献6、7、PCT/JP2019/044943、PCT/JP2020/003796、及びPCT/JP2020/017507、この各々は、その全体が本明細書中に参考として援用される)。
【0062】
上述した一連のパラメータは、補正処理済み凝固反応曲線(補正0次~2次曲線)由来のパラメータであってもよく、又は補正処理なし凝固反応曲線(未補正0次~2次曲線)由来のパラメータであってもよい。
【0063】
重心点に関するパラメータは、補正1次~2次曲線から求めてもよいが、未補正1次~2次曲線から求めてもよい。例えば、補正1次曲線では凝固速度が相対値化されているが、ある種の血液凝固異常は、凝固速度の大きさに反映され得る。したがって、いくつかの評価パラメータ、好ましくは凝固速度に関連するパラメータ、例えば重心高さ、扁平率などは、補正1次~2次曲線よりも、未補正1次~2次曲線から求めた値のほうが、血液凝固特性をよりよく反映することがある。
【0064】
以上、散乱光量に基づく凝固反応曲線に基づいて、凝固反応曲線に関するパラメータについて説明した。一方、他の凝固計測手段(例えば透過光量や吸光度)に基づく凝固反応曲線から同等のパラメータが取得できることは、当業者に明らかである。例えば、透過光量に基づくような逆シグモイド状の凝固反応曲線から得られる1次曲線F(t)は、上述した散乱光量に基づくものに対して正負が逆になる。このような場合に、パラメータの計算においてF(t)の符号が逆転すること、例えば、最大値Vmaxは最小値Vminに置き換えられ、演算対象域はF(t)≦Vmin×x%を満たす領域であり、vWgがそれぞれt1からt2までのF(t)≦vHgとなる時間長であること等は、当業者に明らかである。
【0065】
1.4.評価
上述した重心点に関するパラメータ、すなわち1次曲線の重心点に関係するパラメータ(vTg、vHg、vWg、vABg、vAWg、vTBg、vTWg)、及び2次曲線の重心点に関係するパラメータ(pTg、pHg、pWg、pABg、pAWg、pTBg、pTWg、mTg、mHg、mWg、mABg、mAWg、mTBg、mTWg)は、血液凝固に関する特性を反映する。該重心点に関するパラメータの組み合わせも、血液凝固に関する特性を反映し得る。また、該重心点に関するパラメータと、上述したその他のパラメータとの組み合わせも、血液凝固に関する特性を反映し得る。例えば、パラメータ同士の四則演算その他の各種演算の結果が、血液凝固に関する特性を反映する場合がある。したがって、該重心点に関するパラメータに基づいて、凝固因子の欠乏、ループスアンチコアグラント等の抗リン脂質抗体の存在、凝固因子インヒビターの存在などを含む、血液凝固時間の延長要因の評価、凝固異常の有無や程度の評価、又は、各種凝固因子や凝固因子インヒビターなどの各成分の濃度の測定など、血液検体の凝固特性を評価することができる(ステップ4)。
【0066】
一実施形態において、本発明の方法では、血液検体における凝固因子濃度などの成分の濃度が測定される。一実施形態において、本発明の方法では、血液検体における凝固異常の有無や程度が評価される。一実施形態において、本発明の方法では、血液検体における血液凝固時間の延長要因(以下、単に延長要因ともいう)が評価される。一実施形態において、本発明の方法では、血液検体における凝固因子インヒビター力価(抗凝固因子、以下、単にインヒビターともいう)が測定される。
【0067】
重心点を求める元となるデータである凝固反応曲線は、例えばAPTT測定といった、臨床検査室での通常の測定で取得されている。したがって、本発明の血液分析方法は、データ解析の方法を導入するのみで、容易に臨床現場で利用され得る。
【0068】
2.凝固特性の評価
以下に、重心点に関するパラメータを用いた血液検体の凝固特性の評価の例示的実施形態を説明する。
【0069】
2.1.凝固因子濃度
一実施形態において、本発明の方法では、上述した重心点に関するパラメータを用いて、血液検体における凝固因子などの成分の濃度が測定される。例えば、該重心点に関するパラメータは、凝固因子などの成分の濃度と相関関係を示すことがある。したがって、凝固因子などの成分の濃度が既知の検体から該重心点に関するパラメータを取得することで検量線が作成され得る。この検量線を用いて、被検検体から算出した同じパラメータに基づいて、凝固因子などの成分の濃度が測定され得る。あるいは、被検検体の重心点に関するパラメータを正常検体と比較することで、被検検体における凝固因子濃度の異常(欠乏など)を検出することができる。
【0070】
あるいは、該重心点に関するパラメータ間、又は該重心点に関するパラメータと他のパラメータとの間の比や差(以下、パラメータ比、パラメータ差とも称する)が凝固因子などの成分の濃度と相関関係を示すことがある。パラメータ比の例としては、上述した扁平率vABgやvAWg、などが挙げられる。パラメータ差の例としては、ピーク幅と重心ピーク幅との差などが挙げられる。このようなパラメータ比やパラメータ差を取得することで検量線が作成され得る。この検量線を用いて、被検検体から算出した同じパラメータ比やパラメータ差に基づいて、凝固因子などの成分の濃度が測定され得る。あるいは、被検検体のパラメータ比やパラメータ差を正常検体と比較することで、被検検体における凝固因子濃度の異常(欠乏など)を検出することができる。
【0071】
測定される凝固因子の種類としては、凝固第V因子(FV)、凝固第VIII因子(FVIII)、凝固第IX因子(FIX)、凝固第X因子(FX)、凝固第XI因子(FXI)、及び凝固第XII因子(FXII)からなる群より選択される1種以上が挙げられ、このうちFVIII及びFIXからなる群より選択される1種以上が好ましく、FVIIIがより好ましい。
【0072】
凝固因子濃度測定のための重心点に関するパラメータの好ましい例しては、vHg、vWg、vABg、vAWg、vTWg、pHg、pABg、pAWgなどが挙げられ、このうちvHg、vWg、vABg、vAWg、vTWgが好ましく、vHgがさらに好ましい。これらのパラメータを取得するための演算対象域値は、0%以上100%未満の間であればよいが、好ましくは0.5~99.5%、より好ましくは5~95%、さらに好ましくは5~70%、さらに好ましくは5~60%である。
【0073】
凝固因子濃度測定のための検量線は、目的の凝固因子の濃度が既知の検体から取得した重心点に関するパラメータ、パラメータ比又はパラメータ差に基づいて作成することができる。被検検体から、重心点に関するパラメータ、パラメータ比又はパラメータ差を取得し、それを検量線に当てはめることによって、目的の凝固因子の濃度を測定することができる。
【0074】
2.2.テンプレート検体を用いた凝固特性評価
一実施形態において、本発明の方法では、異なる演算対象域から算出された重心点に関するパラメータからなるパラメータ群を含むパラメータセットを用いて、凝固特性が評価される。例えば、同様の凝固特性を有する検体の間で、重心点に関するパラメータが互いに高い相関を有することがある。したがって、各種重心点に関するパラメータを被検検体と凝固特性が既知のテンプレート検体との間で比較することで、被検検体の凝固特性(凝固時間の延長要因、血液凝固の異常の有無や程度、又は凝固因子濃度など)を評価することができる。
【0075】
2.2.1.パラメータセットの作成
本実施形態では、被検検体について、異なる演算対象域から算出された重心点に関するパラメータからなるパラメータ群を含む、パラメータセットが取得される。本実施形態において、パラメータ群とは、1次曲線又は2次曲線の異なる演算対象域から算出された同種のパラメータからなるパラメータの集合をいい、パラメータセットとは、1つ以上のパラメータ群を含むパラメータの集合をいう。
【0076】
該パラメータセットは、いずれか1種の重心点に関するパラメータについてのパラメータ群を1つ以上含んでいればよい。一例において、該パラメータセットは、重心点に関するパラメータについてのパラメータ群を2つ以上含む。別の一例において、該パラメータセットは、重心点に関するパラメータについてのパラメータ群を1つ以上含み、さらに、その他のパラメータ(例えばvB、pB、mB、vTs、pTs、mTs、vTe、pTe、mTe、vTa、vHa又はvTm)についてのパラメータ群を1つ以上、及び/又は、その他のパラメータ(例えばvAUC、pAUC、mAUC、Tc、Vmax、Amax、Amin、VmaxT、AmaxT又はAminT)を1つ以上含む。
【0077】
本実施形態で使用される重心点に関するパラメータの好ましい例としては、vHg、vWg、vABg、vAWg、vTBg、vTWg、pHg、pWg、pABg、pAWg、pTBg、pTWg、mHg、mWg、mABg、mAWg、mTBg、mTWgなどが挙げられ、このうちvHg、vWg、vABg、vAWg、vTBg、vTWgが好ましく、あるいは、これらと、他の重心点に関するパラメータやその他のパラメータ、例えばvTg、vB、Vmax、Amax、Amin、VmaxT、AmaxT、AminTなどとの組み合わせも好ましい。該パラメータセットが重心点に関するパラメータについてのパラメータ群を2つ以上含む場合、該パラメータ群の各々は、異なる種類の重心点に関係するパラメータに由来する。例えば、該パラメータセットは、1次曲線の重心点に関する異なるパラメータについてのパラメータ群の組み合わせ、2次曲線の重心点に関する異なるパラメータについてのパラメータ群の組み合わせ、又は1次曲線の重心点に関するパラメータについてのパラメータ群と2次曲線の重心点に関するパラメータについてのパラメータ群との組み合わせ、を含み得る。好ましいパラメータセットとしては、vTg、vHg、vB、vABg、及びvTBgのパラメータ群の組み合わせ、vB、vABg、及びvTBgのパラメータ群の組み合わせ、vB、及びvABgのパラメータ群の組み合わせが挙げられる。さらに、これらのパラメータ群の組み合わせと、Vmax、Amax、VmaxT、AmaxTとを含むパラメータセットも好ましい。
【0078】
パラメータ群に含まれるパラメータを取得するための演算対象域値は、0%以上100%未満の間であればよいが、好ましくは0.5~99.5%、より好ましくは5~95%、さらに好ましくは5~90%である。1つのパラメータについて使用される演算対象域の数は、2つ以上であればよいが、好ましくは5個以上、より好ましくは10個以上であり、例えば5~100個、好ましくは5~50個であり、例えば5~20個又は10~50個である。
【0079】
例えば、演算対象域がL個抽出されており、採用するパラメータがvHgxである場合、該パラメータセットは、L個のvHgxを含む。例えば、10個の演算対象域値(5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%及び90%)に基づく10個の演算対象域が抽出され、各演算対象域からパラメータvHgxを算出した場合、パラメータセットは10個のvHgxの集合[vHg5%, vHg10%, vHg20%, vHg30%, vHg40%, vHg50%, vHg60%, vHg70%, vHg80%, vHg90%]である。同様に、演算対象域がM個抽出されており、採用するパラメータが及びvABgx及びvBxである場合、該パラメータセットは、Mセット分の[vABgx, vBx]から構成される。
【0080】
2.2.2.テンプレート検体
本実施形態では、上述した被検検体についてのパラメータセット(以下、被検パラメータセットとも称する)を、テンプレート検体についての対応するパラメータセット(以下、テンプレートパラメータセットとも称する)と比較する。該比較の結果に基づいて、被検検体の凝固特性を評価することができる。本実施形態では、1つ以上のテンプレート検体が準備される。該テンプレート検体は、評価する凝固特性(例えば、凝固時間延長要因、血液凝固異常の有無や程度、又は凝固因子濃度)が既知の血液検体である。
【0081】
例えば、FVIIIについて評価する場合、該1つ以上のテンプレート検体は、FVIIIの活性レベルが異常でない検体(FVIII正常検体)を1つ以上と、FVIIIの活性レベルが異常である検体(FVIII異常検体、例えばFVIII欠乏検体)を1つ以上含む。例えば、FIXについて評価する場合、該1つ以上のテンプレート検体は、FIXの活性レベルが異常でない検体(FIX正常検体)を1つ以上と、FIXの活性レベルが異常である検体(FIX異常検体、例えばFIX欠乏検体)を1つ以上含む。例えば、FVIII及びFIXについて評価する場合、該1つ以上のテンプレート検体は、FVIIIもFIXも活性レベルが異常でない検体(FXIII/FIX正常検体)を1つ以上と、FVIIIの活性レベルが異常である検体(FVIII異常検体、例えばFVIII欠乏検体)を1つ以上と、FIXの活性レベルが異常である検体(FIX異常検体、例えばFIX欠乏検体)を1つ以上とを含む。
【0082】
好ましくは、該FVIII異常検体は、重症、中等症及び軽症の血友病A患者由来の検体を含む。好ましくは、該重症、中等症及び軽症の血友病A患者由来の検体は、それぞれ、FVIII活性が、1%未満、1%以上5%未満、及び5%以上40%未満(正常者の活性を100%としたときの値、以下同じ)である検体である。より詳細な評価を求める場合、必要に応じて、FVIII活性レベルが異なる重症血友病A患者由来の検体を複数準備してもよい。例えば、FVIII活性が0.2%以上1%未満のModestly-Severe Haemophilia A(MS-HA)患者由来の検体と、FVIII活性が0.2%未満のVery-Severe Haemophilia A(VS-HA)患者由来の検体を準備してもよい。近年、重症血友病A患者の中でも特にFVIII活性が低いVS-HAの患者(FVIII活性0.2%未満)と、そうでないMS-HAの患者(FVIII活性0.2%以上1%未満)では、臨床的な重症度に差があることが報告されている(松本 智子,嶋 緑倫,凝固波形解析と第VIII因子微量測定への応用,2003年,14巻2号,p.122-127)。VS-HAの患者を鑑別することは、患者に適切な治療を施すために有用である。
【0083】
同様に、該FIX異常検体は、好ましくは重症、中等症及び軽症の血友病B患者由来の検体を含む。好ましくは、該重症、中等症及び軽症の血友病B患者由来の検体は、それぞれ、FIX活性が1%未満、1%以上5%未満、及び5%以上40%未満(正常者の活性を100%としたときの値、以下同じ)である検体である。より詳細な評価を実施する場合、必要に応じて、FIX活性レベルが異なる重症血友病B患者由来の検体を複数準備してもよい。例えば、FIX活性が0.2%以上1%未満の検体と、FIX活性が0.2%未満の検体を準備してもよい。
【0084】
2.2.3.テンプレートとの比較
本実施形態においては、被検パラメータセットを、各テンプレート検体由来のテンプレートパラメータセットのそれぞれと比較する。好ましくは、被検パラメータセットと、各テンプレートパラメータセットそれぞれとの間で回帰分析が行われる。
【0085】
回帰分析に用いられるテンプレートパラメータセットは、被検パラメータセットと対応するパラメータを含む。すなわち、テンプレートパラメータセットに含まれるパラメータの種類及びそれらの算出に用いる一連の演算対象域値は、被検パラメータセットと同じである。各テンプレートパラメータセットに含まれる個々のパラメータは、被検パラメータセットに含まれる個々のパラメータと相互に対応する。例えば、被検パラメータセットがL個のvHgx([vHgx1, vHgx2, ..., vHgxL])であれば、テンプレートパラメータセットもL個のvHgx([vHgx1, vHgx2, ..., vHgxL])である。
【0086】
該テンプレートパラメータセットは、予め取得しておくことが望ましい。また、各テンプレートパラメータセットは、複数のテンプレート検体から得たパラメータセットを加工して得られた合成パラメータセットであってもよい。例えば、同様の凝固特性を有する複数のテンプレート検体についてパラメータセットを取得し、それらを統計処理することによって、標準テンプレート検体を表す合成パラメータセットを1つ以上作成してもよい。
【0087】
回帰分析の手法は、特に限定されず、例えば最小二乗法による直線回帰が挙げられる。例えば、被検パラメータセット中の各パラメータの値をyとし、いずれか1つのテンプレートパラメータセット中の対応するパラメータの値をxとして回帰直線を求める。該回帰直線の傾き、切片や相関性(相関係数、決定係数等)などに基づいて、被検パラメータセットと各テンプレートパラメータセットとの相関性を調べる。被検パラメータセットとテンプレートパラメータセットとの相関性は、被検検体と、該テンプレートパラメータセットが由来するテンプレート検体との間での凝固特性の相関性(近似状態)を反映する。
【0088】
2.2.4.凝固特性の評価
次いで、回帰分析の結果に基づいて、被検検体における凝固特性を評価する。評価する凝固特性の例としては、凝固時間延長要因、血液凝固異常の有無や程度、又は凝固因子濃度などが挙げられ、好ましくは、血液凝固異常の有無や程度、又は凝固因子濃度(活性レベル)である。評価する血液凝固異常としては、血友病A及び血友病Bが挙げられ、血友病Aが好ましい。評価する凝固因子の種類としては、FV、FVIII、FIX、FX、FXI、FXIIからなる群より選択される1種以上が挙げられ、このうちFVIII又はFIXが好ましく、FVIIIがより好ましい。以下、例として、FVIIIの活性レベル又は活性異常(血友病A)の判定の手順を説明する。FIX等の他の因子についても同様の手順で評価すればよい。
【0089】
2.2.4.1.FVIII活性レベル評価
テンプレート検体は、1つ以上のFVIII正常検体と、FVIII活性レベルが様々に異なる1つ以上のFVIII異常検体とを含む。好ましくは、テンプレート検体は、1つ以上のFVIII正常検体と、重症(必要に応じてVS-HA及びMS-HA)、中等症及び軽症の血友病A患者由来のFVIII異常検体をそれぞれ1つ以上含む。回帰分析に用いた全てのテンプレート検体の中から、被検パラメータセットとテンプレートパラメータセットとの相関性が所定の基準を満たす、少なくとも1つの検体を選出する。
【0090】
一実施形態においては、当該相関性が予め設定した閾値以上であるテンプレート検体が選出される。別の一実施形態においては、当該相関性(例えば相関係数)が所定値以上であり、且つ当該相関性が最も高いテンプレート検体が選出される。別の一実施形態においては、被検パラメータセットとテンプレートパラメータセットとの回帰直線の傾きが所定範囲内(例えば0.70以上1.30以下、好ましくは0.75以上1.25以下、より好ましくは0.80以上1.20以下、さらに好ましくは0.85以上1.15以下、さらに好ましくは0.87以上1.13以下)であるテンプレート検体が選出される。別の一実施形態においては、被検パラメータセットとテンプレートパラメータセットとの回帰直線の傾きが上記所定範囲内であり、且つ該回帰直線の相関係数が所定値以上(例えば0.75より大きい、好ましくは0.80より大きい、より好ましくは0.85より大きい、さらに好ましくは0.90より大きい)であるテンプレート検体が選出される。一方、該所定の基準を満たすテンプレート検体が選出されなかった場合は、該基準を変更して再度テンプレート検体の選出を行ってもよく、あるいは「テンプレート検体選出なし」と評価してもよい。
【0091】
好ましい一実施形態においては、当該回帰直線の傾きが所定範囲内(例えば0.70以上1.30以下、好ましくは0.75以上1.25以下、より好ましくは0.80以上1.20以下、さらに好ましくは0.85以上1.15以下、さらに好ましくは0.87以上1.13以下)であるテンプレート検体が選出される。好ましくは該回帰直線の傾きが上記所定範囲内であり、且つ該回帰直線の相関係数が所定値以上(例えば0.75より大きい、好ましくは0.80より大きい、より好ましくは0.85より大きい、さらに好ましくは0.90より大きい)であるテンプレート検体が選出される。選出されたテンプレート検体の中から、該回帰の相関係数が最も高いテンプレート検体が選出される。所定の基準を満たすテンプレート検体が複数選出された場合は、その中から、さらなる基準に基づいて1つのテンプレート検体を選出してもよい。
次いで、該選出されたテンプレート検体におけるFVIIIの状態(すなわち、FVIIIの活性レベル又は活性異常)を、該被検検体におけるFVIIIの状態と判定する。複数のテンプレート検体が選出された場合は、被検検体におけるFVIIIの状態が、該複数のテンプレート検体における状態のいずれかに相当すると判定してもよく、又は、該複数のテンプレート検体についての平均的な状態を、被検検体におけるFVIIIの状態と判定してもよい。
例えば、選出されたテンプレート検体がFVIII正常検体であれば、該被検検体におけるFVIIIの状態は異常なしと判定され得、一方、選出されたテンプレート検体がFVIII異常検体であれば、該被検検体はFVIII活性の異常を有すると判定され得る。また例えば、選出されたテンプレート検体が重症、中等症、及び軽症の血友病A患者由来の検体であれば、該被検検体はそれぞれ、重症、中等症、及び軽症の血友病Aであると判定され得る。また例えば、選出されたテンプレート検体がVS-HA又はMS-HA患者由来の検体であれば、該被検検体はVS-HA又はMS-HAであると判定され得る。あるいは、該被検検体におけるFVIII活性レベルを判定する場合、選出されたテンプレート検体のFVIII活性レベルが、該被検検体におけるFVIII活性レベルとして判定され得る。
一方、テンプレート検体が重症、中等症及び軽症の血友病A患者由来の検体を含み、且つ上記相関性の評価で「テンプレート検体選出なし」であれば、該被検検体は「FVIII活性異常を有さない」、又は被検検体の「血液凝固時間の延長要因がFVIII活性異常によるものではない」と判定され得る。
【0092】
別の好ましい一実施形態においては、当該回帰直線の傾きが所定範囲内(例えば0.70以上1.30以下、好ましくは0.75以上1.25以下、より好ましくは0.80以上1.20以下、さらに好ましくは0.85以上1.15以下、さらに好ましくは0.87以上1.13以下)であるテンプレート検体が全て選出される。好ましくは該回帰直線の傾きが上記所定範囲内であり、且つ該回帰直線の相関係数が所定値以上(例えば0.75より大きい、好ましくは0.80より大きい、より好ましくは0.85より大きい、さらに好ましくは0.90より大きい)であるテンプレート検体が全て選出される。選出されたテンプレート検体の間で最も高頻度に見出されるFVIIIの状態(すなわち、FVIIIの活性レベル又は活性異常)を、該被検検体におけるFVIIIの状態と判定する。
例えば、選出されたテンプレート検体のなかでFVIII正常検体の数が最も多ければ、該被検検体におけるFVIIIの状態は異常なしと判定され得る。一方、選出されたテンプレート検体のなかでFVIII異常検体の数が最も多ければ、該被検検体はFVIII活性の異常を有すると判定され得る。また例えば、選出されたテンプレート検体のなかで重症、中等症、及び軽症の血友病A患者由来の検体が最も多いとき、該被検検体はそれぞれ、重症、中等症、及び軽症の血友病Aであると判定され得る。また例えば、選出されたテンプレート検体のなかでVS-HA及びMS-HAの重症血友病A患者由来の検体が最も多いとき、該被検検体はそれぞれ、VS-HA及びMS-HAであると判定され得る。また例えば、選出されたテンプレート検体のなかでFVIII異常でない血液凝固時間延長検体が最も多いとき、該被検検体は、血友病A患者(重症、中等症、及び軽症)以外の異常検体と判定され得る。あるいは、該被検検体におけるFVIII活性レベルを判定する場合、選出されたテンプレート検体の中で最も高頻度に見出されるFVIII活性レベルが、該被検検体におけるFVIII活性レベルとして判定され得る。
【0093】
別の好ましい一実施形態においては、当該回帰直線の傾きが所定範囲内(例えば0.70以上1.30以下、好ましくは0.75以上1.25以下、より好ましくは0.80以上1.20以下、さらに好ましくは0.85以上1.15以下、さらに好ましくは0.87以上1.13以下)であるテンプレート検体が全て選出される。好ましくは該回帰直線の傾きが上記の所定範囲内であり、且つ該回帰直線の相関係数が所定値以上(例えば0.75より大きい、好ましくは0.80より大きい、より好ましくは0.85より大きい、さらに好ましくは0.90より大きい)であるテンプレート検体が全て選出される。
選出されたテンプレート検体を、FVIII活性レベルに従って、FVIII活性の低い血友病A患者(重症、中等症、及び軽症)由来の検体と、それ以外の検体に分ける。前者の数が後者の数より多い場合、前者の検体のなかで最も多く見られる重症度(重症、中等症、及び軽症のいずれか)を、該被検検体の状態と判定する。異なる重症度の検体が同数存在する場合には、より重症な方を該被検検体の状態と判定してもよく、又は基準を変更して再度テンプレート検体の選出を行ってもよい。一方、後者の数が前者の数より多い場合、該被検検体は血友病A患者(重症、中等症、及び軽症)以外のものと判定される。
【0094】
上述の手順により、被検検体におけるFVIII活性レベル、又はその活性異常の有無が判定され得る。一実施形態においては、被検検体におけるFVIIIの活性異常の有無が判定され、該判定は、該被検検体が血友病A患者の検体であるか否かの判定についての情報を提供する。一実施形態においては、被検検体におけるFVIII活性レベルが判定され、該判定は、該被検検体を提供した患者における血友病Aの重症度の判定についての情報を提供する。したがって、本実施形態の方法は、血友病Aの判定、血友病Aの重症度、例えば重症(必要に応じてVS-HA及びMS-HA)、中等症及び軽症の判定等のための方法、又はそれらの判定のためのデータを取得する方法であり得る。
【0095】
2.2.4.2.他の凝固因子の活性レベル評価
一実施形態において、被検検体に対して、他の凝固因子についての評価を行ってもよい。好ましくは、当該他の凝固因子は、FIXである。FIXの活性レベル、又はその活性異常の有無の評価の手順は、上述したFVIIIの活性レベルの評価と同様の手順で実施することができる。一実施形態においては、被検検体におけるFIXの活性異常の有無が判定され、該判定は、該被検検体が血友病B患者の検体であるか否かの判定についての情報を提供する。別の一実施形態においては、被検検体におけるFIX活性レベルが判定され、該判定は、該被検検体を提供した患者における血友病Bの重症度の判定についての情報を提供する。本実施形態は、血友病Bの判定、血友病Bの重症度の(例えば重症、中等症及び軽症の)判定を可能にする。
【0096】
当該FIXについての評価は、上述したFVIIIについての評価と別途に行っても、組み合わせて行ってもよい。FVIIIについての評価とFIXについての評価とを組み合わせることで、より包括的に被検検体における凝固特性を分析することができる。例えば、上述したFVIIIについての評価において「血液凝固時間の延長要因がFVIII活性異常によるものではない」又は「血友病A患者(重症、中等症、及び軽症)以外」と判定された被検検体について、FIXの活性レベル、又はその活性異常の有無を評価してもよい。その場合、FIXについての評価に用いるテンプレート検体は、FVIIIについての評価で用いたものと同じであっても異なっていてもよい。またFIXについての評価に用いる被検パラメータセット及びテンプレートパラメータセットは、FVIIIについての評価で用いたものと同じであっても異なっていてもよい。
【0097】
2.3 凝固時間の延長要因の評価
一実施形態において、本発明の方法では、被検検体と正常検体との混合検体を加温処理し、次いで該加温検体と非加温検体との間で該重心点に関するパラメータを比較することで、被検検体の凝固時間の延長要因が評価される。例えば、延長要因のタイプによって、混合検体の加温処理が重心点に関するパラメータに影響することがある。したがって加温検体と非加温検体で該重心点に関するパラメータを比較することで、延長要因を評価することができる。
【0098】
2.3.1 検体調製
本実施形態で分析される被検検体の例としては、血液凝固検査で凝固時間(例えばAPTT)延長を示す血液検体が挙げられる。
【0099】
本実施形態では、該被検検体と正常検体との混合検体が、凝固時間計測に使用される。混合検体の調製では、該被検検体と、別途に準備した正常検体とが所定の比率で混合される。正常検体としては、凝固時間延長を示さない血液検体が用いられる。市販の正常検体を用いてもよい。被検検体と正常検体との混合比は、合計を10容量とした容量比で、被検検体:正常検体=1:9~9:1の範囲であればよく、好ましくは4:6~6:4の範囲、より好ましくは5:5である。
【0100】
調製された混合検体の一部は、加温される。該加温の温度は、例えば30℃以上40℃以下であればよく、好ましくは35℃以上39℃以下、より好ましくは37℃である。該加温の時間は、例えば、2~30分間の範囲であればよく、好ましくは5~30分間、より好ましくは10分程度である。該加温時間はさらに長くてもよいが、好ましくは1時間以内、最大でも2時間以内である。本明細書においては、上記の加温処理で得られた混合検体を「加温検体」とも称する。一方、本実施形態の方法では、上記の加温処理を受けていない混合検体も用いられ、これを本明細書では「非加温検体」とも称する。ただし、該「非加温検体」は、通常の凝固反応計測における検体の予備的加温処理、例えば、30℃以上40℃以下で1分以下の加温を受けていてもよく、その場合、該「加温検体」は、上記の加温処理に加えて、該予備的加温処理を受けていてもよい。
【0101】
2.3.2.パラメータ取得
次いで、該加温検体及び非加温検体についての凝固反応計測が行われる。したがって、本実施形態の方法においては、調製された混合検体のうち、一部は上記の加温処理後に凝固反応計測が行われ得、一部は該加温処理なしで凝固反応計測が行われ得る。該凝固反応計測の手順は、上記1.2.に述べたとおりである。該加温検体と非加温検体の凝固反応計測の順序は、特に限定されない。例えば、該混合検体の一部を加温した後、該加温検体と、非加温検体との凝固反応計測を行ってもよく、又は非加温検体の凝固反応計測を行った後に、加温検体の凝固反応計測を行ってもよい。
【0102】
凝固反応計測で得られた該加温検体及び非加温検体の凝固反応データから、上記1.3.に従って重心点に関するパラメータ、及び必要に応じてその他のパラメータがそれぞれ取得される。以下の本明細書において、非加温検体から取得したパラメータを第1のパラメータ(又はPa)といい、加温検体から取得したパラメータを第2のパラメータ(又はPb)という。以下の本実施形態において、パラメータの値、例えばその比や差について述べる場合には、「パラメータ」と「パラメータ値」は同義である。一方、パラメータの種類について述べる場合には、「パラメータ」と「パラメータ種」は同義である。
【0103】
2.3.3.延長要因の評価
ループスアンチコアグラント(LA)といった抗リン脂質抗体や、凝固因子欠乏が延長要因の場合、混合検体の加温処理の有無による凝固時間の変化はあまり認められないのに対して、凝固因子インヒビターが延長要因の場合、加温検体で凝固時間の延長が検出される。そこで本実施形態の方法では、該第1のパラメータと該第2のパラメータとの比(Pb/Pa)又は差(Pb-Pa)に基づいて、混合検体に含まれる被検検体の延長要因を評価する。好ましくは、本実施形態での延長要因の評価は、延長要因が凝固因子欠乏、LA陽性、及びインヒビター陽性のいずれであるかの評価である。好ましくは、本実施形態で評価されるインヒビターはFVIIIインヒビターである。好ましくは、本実施形態で評価される凝固因子はFVIIIである。さらに当業者であれば、インヒビターの種類が第IX因子(FIX)や第V因子(FV)等の他の凝固因子であっても同様の結果が得られることを容易に想定できる。
【0104】
一例においては、第1のパラメータと第2のパラメータとの比が1(Pb/Pa)を含む所定の範囲内に収まらない場合には、延長要因は、インヒビターの存在など、インヒビターによると評価され、第1のパラメータと第2のパラメータとの比(Pb/Pa)が1を含む所定の範囲内に収まる場合には、延長要因は、インヒビターではなく、LAの存在や凝固因子欠乏など、LA又は凝固因子によると評価される。別の一例においては、第1のパラメータと第2のパラメータとの差(Pb-Pa)が0を含む所定の範囲内に収まらない場合には、延長要因はインヒビターと評価され、第1のパラメータと第2のパラメータとの差(Pb-Pa)が0を含む所定の範囲内に収まる場合には、延長要因はインヒビターではなく、LA又は凝固因子によると評価される。なお、延長要因は、検体中におけるインヒビターもしくはLAの存在、又は凝固因子の完全な欠乏のみならず、その存在量にも影響され得る。
【0105】
評価に使われる第1及び第2のパラメータは、上述した重心点に関するパラメータのいずれか1種以上であればよく、又は該重心点に関するパラメータと、上述したその他のパラメータとのの組み合わせであってもよい。あるいは、第1及び第2のパラメータは、該重心点に関するパラメータ同士の四則演算値、又は該重心点に関するパラメータと該その他のパラメータとの四則演算値であってもよい。第1及び第2のパラメータは、好ましくはvHg、vABg、vAWg、vTWg、pHg、pABg、pAWg、mHgからなる群より選択される1種以上であり、より好ましくはvABg、vAWg、pHgからなる群より選択される1種以上である。また、第1及び第2のパラメータは、未補正1次又は2次曲線からのパラメータであると好ましい。該パラメータを取得するための演算対象域値は、0%以上100%未満の間であればよいが、好ましくは0.5~99.5%、より好ましくは5~90%、さらに好ましくは5~60%である。
【0106】
凝固因子欠乏とLA陽性の判別は、第1のパラメータ(Pa)又は第2のパラメータ(Pb)そのものを比較することで行うことができる。例えば、凝固因子欠乏検体由来の混合検体のPa又はPbは、正常検体と同様の値となり、LA陽性検体由来の混合検体のPa又はPbとは異なり得る。したがって、混合検体のPa又はPbの値に基づいて、延長要因が凝固因子欠乏かLAかを評価することができる。したがって、本実施形態の方法の一例は、延長要因がインヒビターか、それともLA又は凝固因子欠乏かを評価する方法である。本実施形態の方法の別の一例は、延長要因がLAか凝固因子欠乏かを評価する方法である。
【0107】
本実施形態によれば、評価パラメータの比又は差という指標を用いて、定量的に延長要因の評価が可能となる。さらに本実施形態によれば、従来のクロスミキシング試験の検査時間を短縮化することができる。例えば、従来の従来のクロスミキシング試験と比べて、検体の加温時間を短くすることができる。
【0108】
2.4 凝固因子インヒビター力価の測定
一実施形態において、本発明の方法では、被検検体と正常検体との混合検体を加温処理し、次いで該加温検体と非加温検体との間で該重心点に関するパラメータを比較することで、被検検体の凝固因子インヒビター力価が測定される。例えば、凝固因子インヒビターの力価に応じて、混合検体の加温処理が重心点に関するパラメータに与える影響が変化することがある。したがって加温検体と非加温検体で該重心点に関するパラメータを比較することで、凝固因子インヒビターの力価を測定することができる。
【0109】
2.4.1.検体調製
本実施形態で分析される被検検体の例としては、血液凝固検査で凝固時間(例えばAPTT)延長を示す血液検体、好ましくは、凝固因子インヒビターの存在に起因する凝固時間の延長を示す血液検体が挙げられる。より好ましくは、該被検検体は、既にクロスミキシング試験等によりインヒビターの存在に起因する凝固時間延長を示すことが確認されており、且つ凝固因子活性検査によりインヒビターが阻害する凝固因子の種類が同定されている検体である。
【0110】
本実施形態では、該被検検体と正常検体との混合検体から調製された加温検体及び非加温検体が、凝固時間計測に使用される。該混合検体は、上記2.3.1.と同様の手順に従って調製することができる。該被検検体と該正常検体との混合比は、合計を10容量とした容量比で、被検検体:正常検体=1:9~9:1の範囲であればよく、好ましくは4:6~6:4の範囲、より好ましくは5:5である。なお、被検検体のインヒビター力価が高い場合には、被検検体を、正常検体と混合する前に予め2~100倍程度に希釈し、得られた希釈検体を上記の容量比で正常検体と混合して、混合検体を調製してもよい。被検検体の希釈には、正常血漿、緩衝液、FVIII欠乏血漿などを用いることができる。あるいは、被検検体と正常検体とを上記の容量比で含む混合検体を、被検検体の最終的な容量比が1/2~1/100程度になるように正常検体で希釈して、希釈混合検体を調製してもよい。該混合検体から加温検体及び非加温検体が調整される。加温検体及び非加温検体の調製の手順は、上記2.3.1.と同様である。
【0111】
2.4.2.パラメータ取得
加温検体及び非加温検体の凝固反応計測の手順は、上記1.2.に述べたとおりである。凝固反応計測で得られた該加温検体及び非加温検体の凝固反応データから、上記1.3.に従って重心点に関するパラメータ、及び必要に応じてその他のパラメータがそれぞれ取得される。非加温検体から取得したパラメータを第1のパラメータ(又はPa)といい、加温検体から取得したパラメータを第2のパラメータ(又はPb)という。以下の本実施形態において、パラメータの値、例えばその比や差について述べる場合には、「パラメータ」と「パラメータ値」は同義である。一方、パラメータの種類について述べる場合には、「パラメータ」と「パラメータ種」は同義である。
【0112】
2.4.3.インヒビター力価測定
一実施形態において、混合検体に含まれる被検検体は、特定のインヒビターの存在に起因する凝固時間延長を示す検体であることが既に判定されている。この場合、後述する手順に従って、該第1及び第2のパラメータに基づいてインヒビター力価を算出することができる。別の一実施形態において、混合検体に含まれる被検検体は、特定のインヒビターの存在に起因する凝固時間延長を示すか否かが未知である。この場合、延長要因の評価又はインヒビターの種類の同定を実施した後、後述する手順に従って、該第1及び第2のパラメータに基づいてインヒビター力価を算出することができる。延長要因の評価やインヒビターの種類の同定は、従来のクロスミキシング試験や凝固因子活性検査に従って実施してもよいが、上記2.3.3.及び上記2.2に記載したような本発明の方法に従って実施してもよい。後者の場合、時間のかかる従来のクロスミキシング試験や凝固因子活性検査を行う必要がないため、より簡便にインヒビター力価の測定が実現される。
【0113】
本発明の方法において力価測定されるインヒビターの例としては、特に限定されないが、FVIIIインヒビター、FIXインヒビターなどが挙げられる。好ましくは、本実施形態の方法において、インヒビター力価はベセスダ等価単位(BU/mL)として算出される。
【0114】
凝固因子インヒビターによる凝固時間延長を示す被検検体を含む混合検体では、加温処理によりその凝固反応曲線の形状が変化する。さらに、加温検体における該凝固反応曲線の形状の変化の大きさは、インヒビターの活性(力価)依存的である。結果、インヒビター力価に依存して、加温検体と非加温検体の間でパラメータ値は異なり得る。本実施形態の方法では、該第1のパラメータと該第2のパラメータとの比(Pb/Pa)又は差(Pb-Pa)に基づいて、混合検体に含まれる被検検体のインヒビター力価を測定する。
【0115】
より詳細には、被検検体を含む混合検体から第1のパラメータと第2のパラメータとの比又は差を求める。目的のインヒビターの力価についての検量線を用いて、該第1と第2のパラメータの比又は差に基づいて、目的のインヒビターの力価を算出することができる。検量線は予め作成することができる。例えば、目的のインヒビターの力価が既知且つ様々に異なる一連の検体を標準検体として上記の手順により混合検体を調製し、第1のパラメータと第2のパラメータを求め、次いで、該標準検体のインヒビター力価と、該第1と第2のパラメータの比又は差に基づいて検量線を作成すればよい。
【0116】
評価に使われる第1及び第2のパラメータは、上述した重心点に関するパラメータのいずれか1種以上であればよく、又は該重心点に関するパラメータと、上述したその他のパラメータとの組み合わせであってもよい。あるいは、第1及び第2のパラメータは、該重心点に関するパラメータ同士の四則演算値、又は該重心点に関するパラメータと該その他のパラメータとの四則演算値であってもよい。第1及び第2のパラメータは、好ましくはvHg、vABg、vAWg、vTWgからなる群より選択される1種以上であり、より好ましくはvHgである。該パラメータを取得するための演算対象域値は、0%以上100%未満の間であればよいが、好ましくは0.5~99.5%、より好ましくは0.5~90%、さらに好ましくは1~70%、さらに好ましくは1~60%である。
【0117】
3.自動分析装置
上述の本発明の血液分析方法は、コンピュータプログラムを用いて自動的に行われ得る。したがって、本発明の一態様は、上述の本発明の血液分析方法を行うためのプログラムである。また、検体の調製及び凝固時間の測定も含め、上述した本発明の方法の一連の工程は、自動分析装置によって自動的に行われ得る。したがって、本発明の一態様は、上述の本発明の血液分析方法を行うための装置である。
【0118】
本発明の装置の一実施形態について、以下に説明する。本発明の装置の一実施形態は、
図11に示すような自動分析装置1である。自動分析装置1は、制御ユニット10と、操作ユニット20と、測定ユニット30と、出力ユニット40とを備える。
【0119】
制御ユニット10は、自動分析装置1の全体の動作を制御する。制御ユニット10は、例えば1台以上のコンピュータによって構成され得る。制御ユニット10は、CPU、メモリ、ストレージ、通信インターフェース(I/F)などを備え、操作ユニット20からのコマンドの処理、測定ユニット30の動作の制御、測定ユニット30から受けた計測データの保存やデータ分析、分析結果の保存、出力ユニット40による計測データや分析結果の出力の制御、などを行う。さらに制御ユニット10は、外部メディア、ホストコンピュータなどの他の機器と接続されてもよい。なお、制御ユニット10において、測定ユニット30の動作を制御するコンピュータと、計測データの分析を行うコンピュータは、同一であっても、異なっていてもよい。
【0120】
操作ユニット20は、操作者からの入力を取得し、得られた入力情報を制御ユニット10へと伝達する。例えば、操作ユニット20は、キーボード、タッチパネル等のユーザーインターフェース(UI)を備える。出力ユニット40は、制御ユニット10の制御下で、測定ユニット30の計測データや、該データの分析結果を出力する。例えば、出力ユニット40は、ディスプレイ等の表示装置を備える。
【0121】
測定ユニット30は、血液凝固検査のための一連の操作を実行し、血液検体を含む試料の凝固反応の計測データを取得する。測定ユニット30は、血液凝固検査に必要な各種の器材や分析モジュール、例えば、血液検体を収める検体容器、検査用試薬を収める試薬容器、検体と試薬との反応のための反応容器、血液検体及び試薬を反応容器に分注するためのプローブ、光源、反応容器内の試料からの散乱光又は透過光を検出するための検出器、検出器からのデータを制御ユニット10に送るデータ処理回路、制御ユニット10の指令を受けて測定ユニット30の操作を制御する制御回路、などを備える。
【0122】
制御ユニット10は、測定ユニット30が計測したデータに基づいて、検体の凝固特性の分析を行う。本分析には、上述した凝固反応曲線、1次曲線、2次曲線などの波形データの取得、検体についてのパラメータの算出、得られたパラメータに基づく凝固特性の評価(例えば、延長要因の判定、凝固因子やインヒビターなどの各成分の濃度の測定など)、などが含まれ得る。本分析は、本発明の方法を行うためのプログラムによって実施され得る。したがって、制御ユニット10は、本発明の方法を行うためのプログラムを備え得る。
【0123】
上述の制御ユニット10での分析において、該分析に用いる凝固反応曲線、1次曲線、2次曲線などの波形データは、測定ユニット30からの計測データに基づいて制御ユニット10で作成されてもよく、又は、別の機器、例えば測定ユニット30で作成し、制御ユニット10に送られてもよい。あるいは、測定ユニット30で凝固反応曲線が作成されて制御ユニット10に送られ、制御ユニット10で1次曲線又は2次曲線が作成されてもよい。検量線や、テンプレート検体の情報、テンプレート検体との回帰分析に基づく凝固特性の判定基準などのデータは、予め本装置で作成し、保存しておいてもよく、又は外部から取り込んでもよい。本発明の分析方法の各実施形態に合わせて、分析の手順は本発明のプログラムによって制御され得る。
【0124】
制御ユニット10での分析結果は、出力ユニット40に送られ、出力される。出力は、画面への表示、ホストコンピュータへの送信、印刷など、任意の形態をとり得る。出力ユニットからの出力情報は、被検検体についての凝固特性の評価結果(例えば、延長要因、凝固因子やインヒビターの濃度など)を含み、且つ所望により、検体の波形データ、パラメータ値、検量線、テンプレート検体の情報、回帰分析の結果などのさらなる情報を含んでいてもよい。出力ユニットからの出力情報の種類は、本発明のプログラムによって制御され得る。
【0125】
一実施形態において、本発明の方法を行うためのプログラムを備えていること以外は、自動分析装置1は、APTT、PT等の血液凝固時間計測に従来使用されているような、一般的な血液凝固検査用の自動分析装置の構成をとり得る。
【実施例】
【0126】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0127】
以下の実施例に用いられるパラメータは、特に言及しない限り、補正0次~2次曲線由来のパラメータを表す。一方、未補正0次~2次曲線由来のパラメータは、各パラメータの名称の頭にRを付けて表される。例えば、補正1次曲線の重心高さがvHgであるとき、未補正1次曲線の重心高さはRvHgで表される。また以降の説明において、扁平率及び時間率は、係数kを省略した式で表記される場合がある。
【0128】
本実施例で血液分析に用いた重心点に関するパラメータ、及びその他のパラメータの一覧を下記の表1に示す。
【0129】
【0130】
実施例1 凝固特性とパラメータとの関係
1)検体の調製
被検検体として、FVIII欠乏血漿(Factor VIII Deficient Plasma;George King Bio-Medical,Inc.製、FVIII濃度を0%とみなした)、又はFIX欠乏血漿(Factor IX Deficient Plasma;George King Bio-Medical, Inc.製、FIX濃度を0%とみなした)を用いた。正常検体には、FVIII濃度及びFIX濃度が100%とみなせる正常プール血漿を用いた。FVIII欠乏血漿及びFIX欠乏血漿を正常プール血漿と種々の容量比で混合し、それぞれの因子濃度が50%、25%、10%、5%、2.5%、1%、0.75%、0.5%、0.25%の検体を調製した(各濃度でN=1)。
【0131】
2)凝固反応計測
検体の凝固反応を計測した。検体を凝固時間測定試薬と混合して試料を調製し、散乱光量の測光データを取得した。測定試薬は、APTT測定試薬であるコアグピア APTT-N(積水メディカル株式会社製)を、塩化カルシウム液はコアグピア APTT-N 塩化カルシウム液(積水メディカル株式会社製)を用いた。凝固反応計測は、血液凝固自動分析装置CP3000(積水メディカル株式会社製)を用いて行った。キュベット(反応容器)に吐出され37℃で45秒間加温した試料50μLに、約37℃に加温したAPTT測定試薬50μLを添加(吐出)し、さらに171秒経過後に25mM塩化カルシウム液50μLを添加(吐出)して凝固反応を開始させた。反応は、37℃に維持した状態で行った。凝固反応の検出(測光)は、波長660nmのLEDを光源とする光を照射し、0.1秒間隔で90度側方散乱光の散乱光量を検出することによって行った。計測時間は360秒間とした。
【0132】
3)データ解析
得られた凝固反応データに対して、ノイズ除去を含む平滑化処理、及び測光開始時点の散乱光量が0となるようにゼロ点調整を行って凝固反応曲線(未補正0次曲線)を得た。続いて、凝固反応曲線の最大高さが100となるように補正し、補正処理済み凝固反応曲線(補正0次曲線)を得た。得られた補正0次曲線を1次微分して補正1次曲線を得、さらにこれを微分して補正2次曲線を得た。同様に、未補正0次曲線から未補正1次曲線及び未補正2次曲線を得た。
【0133】
4)パラメータ算出
補正1次曲線から最大値(Vmax)、ならびに重心点(vTg, vHg)及び加重平均点(vT, vH)を算出した。重心点及び加重平均点の算出のための演算対象域値は、1次曲線の最大高さVmax(100%)に対して0.5~95%に設定した。
【0134】
5)凝固因子濃度とパラメータとの関係
図12は、凝固因子濃度とパラメータとの関係を示す。
図12では、FVIII濃度(A)及びFIX濃度(B)の対数(Log(FVIII濃度)又はLog(FIX濃度))に対して最大値Vmax(三角)、重心高さvHg60%(四角)、及び加重平均高さvH60%(丸)がプロットされている。なお、FVIII又はFIX欠乏血漿を対数変換するときには、濃度0.1%として計算した。
図12から明らかなように、vHgは、FVIII濃度及びFIX濃度と高い相関関係を有していた。したがって、凝固因子濃度が既知の検体のvHgに基づく検量線を用いて、被検検体のvHgから、該被検検体のFVIII濃度又はFIX濃度を算出できることが示された。さらに、vHgと関連するパラメータであるvABg、vAWgについても、同様に検量線を作成することができ、これを用いて被検検体のFVIII濃度又はFIX濃度を算出できることが示唆された。
【0135】
図13A~Cは、正常検体、FVIII欠乏血漿、及びFIX欠乏血漿からの補正1次曲線を示す。各図において、黒丸は、下から順に、演算対象域値がそれぞれ1~95%のときの重心点(黒四角)及び加重平均点(黒丸)を示す。
図14A~Cには、
図13A~Cに示した正常検体、FVIII欠乏血漿、及びFIX欠乏血漿からの補正1次曲線についての、演算対象域値1~95%での重心高さvHg(白丸)及び加重平均点高さvH(黒丸)を示す。
図14A~Cの左側は、演算対象域値が1~95%のときのvHg及びvHを示し、右側は、演算対象域値が0.5~10%のときのvHg及びvHを示す。
【0136】
図13及び
図14に示すとおり、正常検体と凝固因子欠乏検体では、vHgが大きく異なることが明らかになった。したがって、被検検体のvHgを正常検体と比較することで、凝固因子の欠乏状況を検出できることが示された。
【0137】
6)重心点と加重平均点との対比
加重平均点に関するパラメータが血液分析に使用できることが見出されている(特許文献6、7、PCT/JP2019/044943、PCT/JP2020/003796、及びPCT/JP2020/017507)。
図13及び
図14に示すとおり、重心点と加重平均点の位置は、演算対象域値が同じであれば、横軸上の位置は同じであるが縦軸上の位置は異なる。詳細には、演算対象域値が2%より低いときはvHgの方がvHより大きく、演算対象域値が約2%より高いときはvHgの方がvHより小さい傾向があった。演算対象域値が大きくなるとともに、vHgは直線的に増加したがvHの増加量は徐々に小さくなった。そのためvHgとvHの差は、演算対象域値が大きくなるとともに徐々に小さくなった。FVIII欠乏血漿及びFIX欠乏血漿(
図14Bと及びC)では、演算対象域値70%付近でvHの増加率が変化した。これは、
図13B、Cで見られるように、FVIII欠乏血漿及びFIX欠乏血漿の補正1次曲線が2峰性ピークであることの影響を受けたためと思われた。
【0138】
実施例2 凝固因子濃度の測定
1)混合検体の調製
実施例1で用いたFVIII欠乏血漿と正常検体とを異なる比率で混合して、異なる凝固因子濃度の被検検体を調製した。FVIII欠乏血漿及び正常検体は、実施例1と同じものを用いた。被検検体のFVIII濃度は、50%、25%、10%、5%、2.5%、1%、0.75%、0.5%、0.25%、及び0.1%(FVIII欠乏血漿のみ)に調製した(各濃度でN=1)。
【0139】
2)凝固反応計測及びデータ解析
凝固反応計測及びデータ解析は実施例1と同様の手順で行った。
【0140】
3)パラメータ算出
得られた補正0次曲線から凝固時間(APTT)を求めた。APTTは、補正0次曲線の最大高さを100%としたときに50%高さに達する時間(T50)とした。補正1次曲線から最大値(Vmax)、及び補正2次曲線から最大及び最小2次微分値(Amax及びAmin)を取得した。1次曲線及び2次曲線から重心点に関するパラメータを算出した。重心点の算出のための演算対象域値は、Vmax、Amax又はAmin(100%)に対して5~95%の範囲で設定した。同じ演案対象域値を用いて、加重平均点に関するパラメータを算出した。
【0141】
4)検量線の作成
算出されたパラメータごとに、対数変換したパラメータと検体のFVIII濃度(50%、25%、10%、5%、2.5%、1%、0.75%、0.5%、0.25%)の対数(Log(FVIII濃度))に対する一次回帰直線を求め、該パラメータについての両対数検量線として用いた。
【0142】
5)FVIII濃度の算出
検量線に基づいて、各パラメータから検体のFVIII濃度を算出した。算出したFVIII濃度の実濃度に対する比(%)を正確性として評価した。なお実濃度0%の場合、濃度0.1%(Log(FVIII濃度)=-1)の場合と比較した。
【0143】
5.1)1次曲線のパラメータ
5.1.1)重心時間vTg
表2にFVIII濃度の異なる検体についての、各演算対象域での重心時間vTg及びAPTTにより算出したFVIII濃度の実濃度との対比率(%)(以後、正確性と表記することがある)を示す。表中、正確性が100±15%以内となった場合をグレーで示す。重心時間vTg(加重平均時間も重心時間と同じ値)は、演算対象域値80%において、すべての濃度で正確性が100±15%以内となった。また、APTTと、vTgの演算対象域値が5から60までの濃度0%以外で正確性が100±15%以内となった。vTgがAPTTと同程度又はそれ以上にFVIII濃度と関連するパラメータであることが示唆された。
【0144】
【0145】
5.1.2)重心高さvHg
表3AにFVIII濃度の異なる検体についての、各演算対象域での重心高さvHgにより算出したFVIII濃度の実濃度との対比率(正確性)(%)を示す。表中、正確性が100±10%以内となった場合をグレーで示す。比較のため、表3Bに加重平均高さvHを用いた場合の正確性を同様に示す。vHgに基づく算出濃度が、vHに基づく算出濃度と比べてより正確性が高く、vHgがvHよりもFVIII濃度と関連性の高いパラメータであることが示唆された。
【0146】
【0147】
5.1.3)重心ピーク幅vWg
表4AにFVIII濃度の異なる検体についての、各演算対象域での重心ピーク幅vWgにより算出したFVIII濃度の実濃度との対比率(正確性)(%)を示す。表中、正確性が100±10%以内となった場合をグレーで示す。比較のため、表4Bに加重平均ピーク幅vWを用いた場合の正確性を同様に示す。vWgに基づく算出濃度は、vWに基づく算出濃度と比べていくぶん正確性が高く、vWgがvWと同程度又はそれ以上にFVIII濃度と関連性の高いパラメータであることが示唆された。
【0148】
【0149】
5.1.4)B扁平率vABg
表5AにFVIII濃度の異なる検体についての、各演算対象域での重心点に基づくB扁平率vABgにより算出したFVIII濃度の実濃度との対比率(正確性)(%)を示す。表中、正確性が100±10%以内となった場合をグレーで示す。比較のため、表5Bに加重平均点に基づくB扁平率vABを用いた場合の正確性を同様に示す。vABgに基づく算出濃度は、vABに基づく算出濃度と比べていくぶん正確性が高く、vABgがvABと同程度又はそれ以上にFVIII濃度と関連性の高いパラメータであることが示唆された。
【0150】
【0151】
5.1.5)W扁平率vAWg
表6AにFVIII濃度の異なる検体についての、各演算対象域での重心点に基づくW扁平率vAWgにより算出したFVIII濃度の実濃度との対比率(正確性)(%)を示す。表中、正確性が100±10%以内となった場合をグレーで示す。比較のため、表6Bに加重平均点に基づくW扁平率vAWを用いた場合の正確性を同様に示す。vAWgに基づく算出濃度は、vAWに基づく算出濃度と比べていくぶん正確性が高く、vAWgがvAWと同程度又はそれ以上にFVIII濃度と関連性の高いパラメータであることが示唆された。
【0152】
【0153】
5.1.6)W時間率vTWg
表7AにFVIII濃度の異なる検体についての、各演算対象域での重心点に基づくW時間率vTWgにより算出したFVIII濃度の実濃度との対比率(正確性)(%)を示す。表中、正確性が100±15%以内となった場合をグレーで示す。比較のため、表7Bに加重平均点に基づくW時間率vTWを用いた場合の正確性を同様に示す。vTWgに基づく算出濃度は、vTWに基づく算出濃度と比べていくぶん正確性が高く、vTWgがvTWと同程度又はそれ以上にFVIII濃度と関連性の高いパラメータであることが示唆された。
【0154】
【0155】
5.2)2次曲線のパラメータ
5.2.1)重心高さpHg
表8AにFVIII濃度の異なる検体についての、各演算対象域での重心高さpHgにより算出したFVIII濃度の実濃度との対比率(正確性)(%)を示す。表中、正確性が100±10%以内となった場合をグレーで示す。比較のため、表8Bに加重平均高さpHを用いた場合の正確性を同様に示す。pHgがpHと同程度にFVIII濃度と関連性の高いパラメータであることが示唆された。
【0156】
【0157】
5.2.2)B扁平率pABg
表9AにFVIII濃度の異なる検体についての、各演算対象域での重心点に基づくB扁平率pABgにより算出したFVIII濃度の実濃度との対比率(正確性)(%)を示す。表中、正確性が100±10%以内となった場合をグレーで示す。比較のため、表9Bに加重平均点に基づくB扁平率pABを用いた場合の正確性を同様に示す。pABgがpABと同程度にFVIII濃度と関連するパラメータであることが示唆された。
【0158】
【0159】
5.2.3)W扁平率pAWg
表10AにFVIII濃度の異なる検体についての、各演算対象域での重心点に基づくW扁平率pAWgにより算出したFVIII濃度の実濃度との対比率(正確性)(%)を示す。表中、正確性が100±10%以内となった場合をグレーで示す。比較のため、表10Bに加重平均点に基づくW扁平率pAWを用いた場合の正確性を同様に示す。pAWgは、pAWと比べていくぶん劣るが、FVIII濃度と関連するパラメータであることが示唆された。
【0160】
【0161】
5.3)凝固因子濃度とパラメータとの関係
以上のとおり、1次曲線及び2次曲線についての重心点に関するパラメータを用いて凝固因子濃度を測定することができた。特に1次曲線から算出した重心点に関するパラメータは、凝固因子濃度と高い相関性を有しており、これらのパラメータを用いることで高い正確性で凝固因子濃度を算出できることが示された。
【0162】
実施例3 凝固時間延長要因の評価
1)混合検体の調製
被検検体として、血液凝固異常のある検体:FVIII欠乏血漿8検体(FVIII群)、LA陽性血漿4検体(LA群)及びFVIIIインヒビター陽性血漿8検体(Inhibitor群)を用いた。FVIII欠乏血漿には、Factor VIII Deficient Plasma(George King Bio-Medical,Inc.)を用いた。LA陽性血漿には、Positive Lupus Anticoagulant Plasma(George King Biomedical, Inc.)を用いた。FVIIIインヒビター陽性血漿には、インヒビター力価が4.6から108(BU/mL)までのFactor VIII Deficient with Inhibitor(George King Biomedical,Inc.)を用いた。正常検体には、市販の正常血漿(CRYOcheck Pooled Normal Plasma;Precision BioLogic Incorporated)を用いた。
【0163】
2)加温処理
12分加温処理が動作するようにCP3000(積水メディカル株式会社製)を設定した。通常設定モードでは、被検検体と正常検体を各25μLずつ採取した後の加温処理時間は37℃で45秒であるが、本モードでの加温時間は37℃で12分間に延長される。12分加温処理した混合検体を加温検体とし、通常設定モードで測定した混合検体を非加温検体とした。
【0164】
2)凝固反応計測及びデータ解析
実施例1と同様の手順で、加温検体と非加温検体の凝固反応計測及びデータ解析を行った。1次曲線及び2次曲線から重心点に関するパラメータを算出した。演算対象域値は、Vmax、Amax又はAmin(100%)の5~90%の範囲で設定した。同じ演案対象域値を用いて、加重平均点に関するパラメータを算出した。非加温検体からのパラメータをPa、加温検体からの同じパラメータをPbとし、パラメータ比Pb/Pa及びパラメータ差Pb-Paを求めた。
【0165】
3)パラメータに対する延長要因の影響
FVIII群とInhibitor群、及びLA群とInhibitor群との間で、パラメータ比(Pb/Pa)及びパラメータ差(Pb-Pa)の分布の差を評価した。各群の分布についてF検定(有意水準1%)により等分散か非等分散かを判断し、次いでT検定(両側)により、FVIII群とInhibitor群、及びLA群とInhibitor群の間での各パラメータ比(Pb/Pa)及びパラメータ差(Pb-Pa)のP値を算出した。さらにFVIII群とLA群の間のPa及びPbの分布差のP値を算出した。
【0166】
パラメータvHg60、pHg60、mHg60、及びvABg5のPa、Pb、Pb/Pa及びPb-Paの分布の例を
図15-1~
図15-4に示す。いずれのパラメータでも、Pa及びPbは、FVIII群とLA群で統計学的に有意に異なる分布を示した。より詳細には、FVIII群のPa及びPbは正常検体と同レベルであった(データなし)。またいずれのパラメータでも、Pb/Paは、FVIII群、LA群では1付近に分布していたが、Inhibitor群では1より小さく、FVIII群又はLA群とInhibitor群で異なる分布を示した。vHg60、pHg60及びvABg5については、FVIII群とInhibitor群、及びLA群とInhibitor群いずれの間でも、Pb/Paの分布は統計学的に有意に異なっていた。特に、vHg60及びvABg5で低いP値が得られた。mHg60については、FVIII群とInhibitor群間でPb/Paの分布が統計学的に有意に異なっていた。同様に、いずれのパラメータでも、Pb-Paは、FVIII群、LA群では0付近に分布していたが、Inhibitor群では0より小さく、FVIII群又はLA群とInhibitor群で統計学的に有意に異なる分布を示した。特に、vHg60では、Pb-Paの分布は統計学的に有意に異なっていた。
【0167】
したがって、上記パラメータのPa又はPbを用いてFVIII群、LA群、及びInhibitor群を判別することができる。例えば、Pb/Paが約1、又はPb-Paが約0であることを基準に、FVIII群又はLA群とインヒビター群とを判別することができる。次いで、Pa又はPbが正常検体(混合検体ではない)と同レベルになる群をFVIII群として、FVIII群とLA群とを判別することができる。
【0168】
比較として、パラメータAPTTのPa、Pb、Pb/Pa及びPb-Paの分布の例を
図15-5に示す。FVIII群とLA群の間でPa及びPbの分布に有意差はみられなかった。またFVIII群又はLA群とInhibitor群との間でPb/PaやPb-Paの分布に有意差はみられなかった。
【0169】
各パラメータについて、Pb/Paに基づくFVIII群、LA群、Inhibitor群の判別の精度を評価した。(i)FVIII群とインヒビター群の間のPb/Paの分布差のP値、(ii)LA群とインヒビター群の間のPb/Paの分布差のP値、(iii)FVIII群とLA群の間のPaの分布差のP値、を求めた。(i)~(iii)のP値に基づいて、パラメータを以下のように評価した:[A]いずれのP値も0.01%未満;[B]いずれのP値も0.01%以上0.1%未満;[C]いずれのP値も0.1%以上1%未満;[D]それ以外。結果を表11~12に示す。重心点に関するパラメータ(表11)と加重平均点に関するパラメータ(表12)でP値の傾向に大きな違いはなかった。1次曲線については、ピーク幅以外のパラメータで有意性がみられた。また、2次曲線については、プラスピークではピーク幅と時間率以外のパラメータが良好であり、マイナスピークでは高さのみが良好な結果であった。
【0170】
【0171】
【0172】
同様に、各パラメータについて、Pb-Paに基づくFVIII群、LA群、Inhibitor群の判別の精度を評価した。結果を表13~14に示す。重心点に関するパラメータ(表13)と加重平均点に関するパラメータ(表14)でP値の傾向に大きな違いはなかった。
【0173】
【0174】
【0175】
以上の結果から、加温検体と非加温検体からの重心点に関するパラメータ、特に1次曲線からの重心点に関するパラメータを用いて、凝固因子欠乏検体、LA陽性検体、凝固因子インヒビター検体を判別することができることが示された。
【0176】
実施例4 凝固因子インヒビター力価の測定
1)被検検体
被検検体として、FVIIIインヒビター血漿(Factor VIII Deficient with Inhibitor、George King Biomedical,Inc.)を、FVIII欠乏血漿(Factor VIII Deficient、George King Biomedical,Inc.)で希釈調製した検体を用いた。
【0177】
2)インヒビター力価(ベセスダ単位)の算出
被検検体のインヒビター力価は、FVIII欠乏血漿の力価をゼロとし、FVIIIインヒビター血漿の表示値(力価)と、被検検体中のFVIIIインヒビター血漿の希釈割合に基づいて計算した。得られた値を被検検体の実測力価とした。インヒビター力価の「低」、「中」、「高」は、ベセスダ単位(BU/mL)の値によって以下のように分類した:
低:0.3~1.6(BU/mL)
中:2.0~40.5(BU/mL)
高:66~302(BU/mL)
【0178】
3)混合検体の調製及び加温処理
正常検体には、FVIII濃度及びFXI濃度が100%とみなせる正常プール血漿を用いた。各被検検体と正常検体を1:1の容量比で混合した混合検体を調製した。混合検体の一部を取り分け、37℃で10分加温処理し、加温検体とした。この加温処理をしなかった検体を非加温検体とした。
【0179】
4)凝固反応計測及びデータ解析
実施例1と同様の手順で、加温検体と非加温検体の凝固反応計測及びデータ解析を行った。1次曲線及び2次曲線から重心点に関するパラメータを算出した。演算対象域値は、Vmax、Amax又はAmin(100%)の0.5~90%の範囲で設定した。同じ演案対象域値を用いて、加重平均点に関するパラメータを算出した。非加温検体からのパラメータをPa、加温検体からの同じパラメータをPbとし、パラメータ比Pb/Paを求めた。
【0180】
5)インヒビター力価とパラメータ比との関係
各混合検体から得た重心点に関するパラメータのPb/Paの、該混合検体に含まれる被検検体のインヒビター力価の対数値(Log(実測力価)、BU/mL)に対するプロットを
図16A~21Aに示す。Pb/Paの算出に用いた重心点に関するパラメータは、
図16AはvHg30%、
図17AはRvABg20%、
図18AはRvAWg5%、
図19AはvTWg40%、
図20AはpAWg70%、
図21AはRmHg0.5%であった。
図16A~21Aに示すように、これらの重心点に関するパラメータの比Pb/Paは、インヒビター力価とともに増加又は減少し、Pb/Paがインヒビター力価と相関関係を有することが示された。一方で、インヒビター力価が低い領域と高い領域とで、Pb/Paの分布に異なる傾向がみられた。このことから、低インヒビター力価領域と高インヒビター力価領域を異なる直線で回帰させることで、力価とPb/Paとの相関性が向上することが示唆された。
【0181】
6)検量線の作成
被検検体と同様にして、FVIIIインヒビター力価が既知のFVIIIインヒビター血漿(Factor VIII Deficient with Inhibitor、George King Biomedical,Inc.)をFVIII欠乏血漿(Factor VIII Deficient、George King Biomedical,Inc.)で希釈調製して検量線用検体を調製した。検量線用検体(Cal)としては、FVIII欠乏の1検体、及びFVIIIインヒビター力価が0.5、1.1、2.2、4.4、8.7、17.4、34.9(BU/mL)の7検体の合計8検体を用いた。FVIII欠乏検体のインヒビター力価は0.1とみなし、各検体のインヒビター力価の対数(Log(実測力価)、BU/mL)とPb/Paとの一次回帰直線を求めた。その際、検体をインヒビター力価の低い群と高い群に分け、それぞれについての回帰直線を求めた。低インヒビター力価群と高インヒビター力価群との境界となる力価は2.2(BU/mL)とした。作成した検量線の例を
図16B~21Bに示す。用いたパラメータは、それぞれA図と同じである。いずれの検量線も、2つの直線から成る折れ線とした。
【0182】
7)検量線を用いたインヒビター力価の算出
作成した検量線を基に、Pb/Paから被検検体のFVIIIインヒビター力価を算出した。
図16C~21Cは、各被検検体のインヒビター力価(実測力価)に対する、検量線に基づく算出値のプロットである。
図16D~21DはC図の力価20BU/mL以下のデータのみを用いて再プロットした図である。
図16E~21EはC図の力価5BU/mL以下のデータのみを用いて再プロットした図である。
【0183】
各重心点に関するパラメータのPb/Paから作成した検量線に基づく算出力価(y)の、実測力価(x)に対する一次回帰式の傾きと切片、及び相関係数を求め、回帰式の相関性を表15のとおり評価した。参考として、加重平均点に関するパラメータのPb/Paから作成した検量線に基づく算出力価(y)の、実測力価(x)に対する一次回帰式の相関性を、表16に示す。
【0184】
【0185】
【0186】
以上の結果から、重心点に関するパラメータ、特に1次曲線からの重心点に関するパラメータを用いて、検体のインヒビター力価を測定できることが示された。
【0187】
実施例5 テンプレート検体を用いた凝固特性評価
1)検体の調製
34検体(血漿)を分析した。該34検体は、24件のFVIII欠乏検体(重症(FVIII<1%)13件、中等症(FVIII=1-5%)8件、軽症(FVIII=5-40%)3件)、及び10件のVIII欠乏検体以外の検体(Other)を含んでいた。
【0188】
2)凝固反応計測及びデータ解析
凝固反応計測及びデータ解析は実施例1と同様の手順で行った。1次曲線及び2次曲線から重心点に関するパラメータ、ならびにその他のパラメータとして、1次曲線の最大値Vmax及びそのときの時間VmaxT、2次曲線の最大値Amax及びそのときの時間AmaxTを算出した。演算対象域値は、Vmax又はAmax(100%)の5~90%の範囲で設定した。
【0189】
3)テンプレート検体
分析に用いたテンプレート検体の構成を表17に示す。FVIII活性が異なる43検体、及びFVIII活性は正常であるが他の要因によって血液凝固時間が延長する88検体を調製した。前者43検体のFVIII活性は、血友病A重症(FVIII<1%)、中等症(FVIII=1-5%)、及び軽症(FVIII=5-40%)、ならびにその他(FVIII>40%はOther)のいずれかに属している。後者88検体は、FVIII活性が異常ではないため、表1の分類では「Other」に属する。これらの計131検体をテンプレート検体として分析に用い、2)の手順に従って、各検体からパラメータを算出した。
【0190】
【0191】
4)パラメータセットの作成
被検検体及びテンプレート検体についてのパラメータを組み合わせて、以下のとおり被検パラメータセット、及びテンプレートパラメータセットを作成した:
(パラメータセットA-1)演算対象域値5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%及び90%でのvTg、vHg、vB、vABg、及びvTBgのパラメータ群(各群10パラメータ)からなるパラメータセット(計50パラメータ);
(パラメータセットA-2)演算対象域値5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%及び90%でのvB、vABg、及びvTBgのパラメータ群(各群10パラメータ)からなるパラメータセット(計30パラメータ);
(パラメータセットA-3)演算対象域値5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%及び90%でのvB、及びvABgのパラメータ群(各群10パラメータ)からなるパラメータセット(計20パラメータ);
(パラメータセットA-4)パラメータセットA-1に、Vmax、Amax、VmaxT及びAmaxTを追加した54パラメータからなるパラメータセット;
(パラメータセットB-1)演算対象域値5%、20%、40%、60%及び80%でのvTg、vHg、vB、vABg、及びvTBgのパラメータ群(各群5パラメータ)からなるパラメータセット(計25パラメータ);
(パラメータセットB-2)演算対象域値5%、20%、40%、60%及び80%でのvB、vABg、及びvTBgのパラメータ群(各群5パラメータ)からなるパラメータセット(計15パラメータ);
(パラメータセットB-3)演算対象域値5%、20%、40%、60%及び80%でのvB、及びvABgのパラメータ群(各群5パラメータ)からなるパラメータセット(計10パラメータ);
(パラメータセットB-4)パラメータセットB-1に、Vmax、Amax、VmaxT及びAmaxTを追加した29パラメータからなるパラメータセット;
(比較パラメータセット1)Vmax、Amax、VmaxT及びAmaxTの4パラメータからなるパラメータセット。
作成したパラメータセットの構成内容を表18に示す。
【0192】
【0193】
5)被検検体のFVIII活性又は異常の判定
取得したパラメータセットA-1~A-4、B-1~B-4、及び比較パラメータセット1のそれぞれについて、34個の被検検体と、各テンプレート検体との回帰分析を行った。被検検体と全てのテンプレート検体との間でパラメータセットについての直線回帰式を求め、その中から回帰直線の傾きが0.87から1.13の範囲であったテンプレート検体を選出した。次に選出したテンプレート検体の中から、最も相関係数の高いものを相関性が最も高いテンプレート検体として選出した。選出したテンプレート検体のFVIII活性を、被検検体のFVIII活性と判定した。判定結果をもとに、被検検体のFVIII活性レベルを4段階(FVIII活性:<1%、1-5%、5-40%、及びOther)に分類した。分類された被検検体のFVIII活性レベルと、凝固一段法で求めた実際の被検検体のFVIII活性レベルから、本判定におけるFVIII活性レベル一致率及びFVIII欠乏一致率を次式により計算した。FVIII活性レベル一致率は、判定による被検検体のFVIII活性レベルが実際の被検検体のFVIII活性レベルと一致した割合を示し、FVIII欠乏一致率は、判定による被検検体のFVIII欠乏の有無が実際の被検検体のFVIII欠乏の有無と一致した割合を示す。
【0194】
【0195】
表19~21は、判定された被検検体のFVIII活性と実際の被検検体のFVIII活性との対比表である。パラメータセットA-1~A-4を用いた場合の対比表を表19に、パラメータセットB-1~B-4を用いた場合の対比表を表20に、比較パラメータセット1を用いた場合の対比表を表21に示す。
【0196】
【0197】
【0198】
【0199】
6)相関性の評価基準の違いによる判定結果の差異
相関性の評価基準の違いによる判定結果の差異を確認するため、相関性の評価基準のみが異なる比較検討を以下の2条件で実施した。パラメータセットはA-4を使用した。
相関性評価基準1:全てのテンプレート検体と被検検体との間でパラメータセットについての直線回帰式を求め、その中から回帰直線の傾きが0.87から1.13の範囲に含まれるテンプレート検体を選出し、選出した中から最も相関係数の高いテンプレート検体を選出した(上記5)と同じ評価基準)。
相関性評価基準2:全てのテンプレート検体と被検検体との間でパラメータセットについての直線回帰式を求め、その中から最も相関係数の高いテンプレート検体を選出した。
判定結果を表22に示す(表22-1は表19-A4と同じ)。分析に使用したパラメータの種類と、FVIII欠乏一致率及びFVIII活性レベル一致率について表23にまとめた。
【0200】
【0201】
【0202】
7)被検検体のFIX活性の判定
被検検体のうちOther(FVIII>40%)と判定されたがFIX欠乏である8件の検体について、FIX活性の判定を実施した。テンプレート検体には表24のものを用いた。パラメータセットに4)で取得したパラメータセットA-1を、相関性の評価には6)に示す相関性評価基準1を用いた。5)と同様の手順で、FIX活性レベル一致率及びFIX欠乏一致率を計算した。評価結果を表25に示す。高い一致率で被検検体のFIX活性レベルを判定することができた。
【0203】
【0204】
【0205】
以上、本発明の実施形態を例示したが、上記実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。また、各構成や、数値等は適宜変更して実施することができる。さらにそれぞれの実施例を組み合わせて新たな実施形態とすることもできる。