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  • 特許-制御装置、空気調和機及び制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】制御装置、空気調和機及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20240521BHJP
   F25B 49/02 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
F25B1/00 361A
F25B1/00 371B
F25B49/02 570B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018114600
(22)【出願日】2018-06-15
(65)【公開番号】P2019219072
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-06-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】是澤 丈幸
【合議体】
【審判長】水野 治彦
【審判官】竹下 和志
【審判官】間中 耕治
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-294029(JP,A)
【文献】特開平11-230598(JP,A)
【文献】特開2006-329595(JP,A)
【文献】特開平11-211247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
F25B 49/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝縮器の圧力について、前記凝縮器の温度に基づいて高圧保護制御を行う制御装置であって、
前記凝縮器の温度が所定の第1温度に達すると、前記高圧保護制御を実行し、
前記凝縮器の温度が、前記第1温度より低い所定の第2温度以上の場合、前記凝縮器の圧力の上昇速度を抑制する制御を行う制御部、
を備え、
前記制御部は、圧縮機の回転数を上昇させる制御において、前記凝縮器の温度が前記第1温度に達すると前記圧縮機の回転数を低下または停止させる前記高圧保護制御を実行し、前記温度が前記第2温度以上になると、前記圧縮機の回転数の上昇速度を、前記凝縮器の温度が前記第2温度より低いときよりも低速且つ0より大きい、前記凝縮器の温度によって正確に前記圧力を推定でき、且つ、ユーザの快適性を損なわないように設定された所定の値に制限し、
前記温度が前記第2温度以上の場合の前記圧縮機の回転数の上昇速度が、1rps/15秒から1rps/20秒の間で設定されている、
制御装置。
【請求項2】
前記第1温度と前記第2温度の温度差は2℃以上4℃以下の範囲である、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
冷房運転中に前記凝縮器の温度に基づいて前記高圧保護制御および前記凝縮器の圧力の上昇速度を抑制する制御を行う、
請求項1から請求項の何れか1項に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記高圧保護制御の実行において、前記凝縮器の温度が前記第1温度に達してから前記第2温度に低下するまでの間、0より大きい所定の速度で前記回転数を低下させる、
請求項1から請求項の何れか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを備える冷媒回路と、
前記凝縮器の温度を計測する温度センサと、
請求項1から請求項の何れか1項に記載の制御装置と、
を備える空気調和機。
【請求項6】
圧縮機の回転数を上昇させる制御において、
凝縮器の温度を取得する温度取得ステップと、
前記凝縮器の温度に基づいて前記圧縮機の回転数の上昇速度を設定する上昇速度設定ステップと、を有し、
前記上昇速度設定ステップでは、前記温度が所定の第1温度に達すると前記圧縮機の回転数を低下または停止させ、前記温度が前記第1温度より低い第2温度以上になると、前記圧縮機の回転数の上昇速度に制限を加え、前記上昇速度を前記凝縮器の温度が前記第2温度より低いときよりも低速且つ0より大きい、前記凝縮器の温度によって正確に前記凝縮器の圧力を推定でき、且つ、ユーザの快適性を損なわないように設定された所定の値に制限し、
前記温度が前記第2温度以上の場合の前記圧縮機の回転数の上昇速度が、1rps/15秒から1rps/20秒の間で設定されている、
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、空気調和機及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機の冷房運転では、室外熱交換器が高圧側になる。室外機熱交換器に温度センサを設け、この温度センサが計測する温度に基づいて、高圧側の圧力を推定し、推定した圧力に基づいて圧縮機の制御を行うよう構成された空気調和機が提供されている。このような空気調和機では、室外機熱交換器に設けた温度センサが計測した温度が所定の閾値以上となると高圧異常を防ぐために高圧保護制御を行う。
【0003】
高圧保護制御の例として、特許文献1には、暖房運転時に高圧側となる室内熱交換器の圧力上昇によって、圧縮機や冷媒回路の部品の故障等を防ぐために、室内熱交換器に送風するファンの回転数を低下させるときには、風量の低下と同調して圧縮機の回転数も低下させ、室内熱交換器に生じる圧力上昇を抑制する高圧保護制御が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-211247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、室外熱交換器の温度によって圧力を推定して高圧保護制御を行う場合、特に圧力が急激に上昇する場面では、実際の圧力と温度センサが計測する温度との間に応答遅れによる乖離が生じる可能性がある。実際の圧力と計測された温度に乖離が生じると、例えば、温度センサによって室外熱交換器の高圧異常を検出したときには、実際の圧力は既に閾値を超えて上昇している可能性があり、空気調和機の故障や運転停止を招く原因となる。
【0006】
そこでこの発明は、上述の課題を解決することのできる制御装置、空気調和機及び制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、制御装置は、凝縮器の圧力について、前記凝縮器の温度に基づいて高圧保護制御を行う制御装置であって、前記凝縮器の温度が所定の第1温度に達すると、前記高圧保護制御を実行し、前記凝縮器の温度が、前記第1温度より低い所定の第2温度以上の場合、前記凝縮器の圧力の上昇速度を抑制する制御を行う制御部、を備え、前記制御部は、圧縮機の回転数を上昇させる制御において、前記凝縮器の温度が前記第1温度に達すると前記圧縮機の回転数を低下または停止させる前記高圧保護制御を実行し、前記温度が前記第2温度以上になると、前記圧縮機の回転数の上昇速度を、前記凝縮器の温度が前記第2温度より低いときよりも低速且つ0より大きい、前記凝縮器の温度によって正確に前記圧力を推定でき、且つ、ユーザの快適性を損なわないように設定された所定の値に制限し、前記温度が前記第2温度以上の場合の前記圧縮機の回転数の上昇速度が、1rps/15秒から1rps/20秒の間で設定されている。
【0008】
本発明の一態様によれば、前記制御部は、前記制御部は、前記高圧保護制御の実行において、前記凝縮器の温度が前記第1温度に達してから前記第2温度に低下するまでの間、0より大きい所定の速度で前記回転数を低下させる。
【0010】
本発明の一態様によれば、前記第1温度と前記第2温度の温度差は2℃以上4℃以下の範囲である。
【0011】
本発明の一態様によれば、前記制御装置は、冷房運転中に前記凝縮器の温度に基づいて前記高圧保護制御および前記凝縮器の圧力の上昇速度を抑制する制御を行う。
【0012】
本発明の一態様によれば、空気調和機は、圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを備える冷媒回路と、前記凝縮器の温度を計測する温度センサと、上記の何れかに記載の制御装置と、を備える。
【0013】
本発明の一態様によれば、制御方法は、圧縮機の回転数を上昇させる制御において、凝縮器の温度を取得する温度取得ステップと、前記凝縮器の温度に基づいて前記圧縮機の回転数の上昇速度を設定する上昇速度設定ステップと、を有し、前記上昇速度設定ステップでは、前記温度が所定の第1温度に達すると前記圧縮機の回転数を低下または停止させ、前記温度が前記第1温度より低い第2温度以上になると、前記圧縮機の回転数の上昇速度に制限を加え、前記上昇速度を前記凝縮器の温度が前記第2温度より低いときよりも低速且つ0より大きい、前記凝縮器の温度によって正確に前記凝縮器の圧力を推定でき、且つ、ユーザの快適性を損なわないように設定された所定の値に制限し、前記温度が前記第2温度以上の場合の前記圧縮機の回転数の上昇速度が、1rps/15秒から1rps/20秒の間で設定されている
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、凝縮器の圧力を制限値内に制御して冷凍サイクルを運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態における空気調和機の一例を示す図である。
図2】本発明の一実施形態における制御装置の一例を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施形態における圧縮機の回転数制御テーブルの一例を示す図である。
図4】本発明の一実施形態における圧縮機の回転数の推移の一例を示す図である。
図5】本発明の一実施形態における圧縮機の制御方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態>
以下、本発明の一実施形態による空気調和機での温度センサに基づく高圧保護制御について図1図5を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態における空気調和機の一例を示す図である。
図1に、空気調和機100の構成を示す。図1に示すように空気調和機100は、圧縮機1、室内熱交換器2、膨張弁3、室外熱交換器4、四方弁5、及びそれらを接続する冷媒配管6などを含む冷媒回路と、この冷媒回路を制御する制御装置20とを備える。例えば、室内機9には室内熱交換器2が、室外機10には、膨張弁3、室外熱交換器4、四方弁5が設けられる。また、室外熱交換器4の圧縮機1側に冷媒の温度を計測する温度センサ11が、室内熱交換器2には温度センサ12が設けられている。図1に示す構成は、空気調和機100の基本的な構成を模式図であって、さらに他の構成要素が含まれていてもよい。
【0017】
圧縮機1は、冷媒を圧縮し、圧縮後の高温、高圧の冷媒を吐出する。暖房運転では、制御装置20は、四方弁5のポート5aとポート5bを接続し、ポート5cとポート5dを接続する。冷媒は矢印8の方向に流れる。つまり、高温、高圧の冷媒は、四方弁5を介して室内熱交換器2(凝縮器)に供給される。冷媒は、室内熱交換器2で放熱し、凝縮して液化する。室内熱交換器2で凝縮した冷媒は、膨張弁3によって減圧され、低圧の冷媒となる。低圧の冷媒は、室外熱交換器4(蒸発器)へ供給され、例えば外気からの吸熱により気化する。気化した冷媒は、四方弁5を通過して圧縮機1へ吸入される。圧縮機1は低圧の冷媒を圧縮して高圧の冷媒を吐出する。
【0018】
また、冷房運転では、制御装置20は、四方弁5のポート5aとポート5dを接続し、ポート5bとポート5cを接続する。つまり、高温、高圧の冷媒は、四方弁5を介して室外熱交換器4(凝縮器)に供給され、外気へ放熱し凝縮する。凝縮した冷媒は膨張弁3によって減圧され、室内熱交換器2(蒸発器)へ供給される。室内熱交換器2では、冷媒は、室内の空気からの吸熱により気化する。気化した冷媒は、四方弁5を通過して圧縮機1へ吸入される。圧縮機1は低圧の冷媒を圧縮して高温、高圧の冷媒を吐出する。図1に示す冷媒回路では、上記の過程が繰り返されて冷媒が循環する。これにより空気調和機100は、暖房または冷房を行う。制御装置20は、四方弁5の制御により暖房運転と冷房運転の切り替えを行う。また、制御装置20は、室内熱交換器2の温度センサ12が計測する温度とユーザが設定した設定温度の差に基づいて、室温が設定温度となるように圧縮機1の回転数を調整し、暖房運転または冷房運転を実行する。
【0019】
このような空気調和機100では、冷媒回路の高圧異常を防止するために、制御装置20は、高圧保護制御を実行する機能を有している。高圧保護制御とは、例えば冷房運転時に高圧となる室外熱交換器4の圧力が閾値に達すると、圧縮機1の回転数を維持したり低下させたり、あるいは圧縮機1を停止させたりして高圧の圧力上昇を抑える(高圧を低下させる)制御のことをいう。高圧保護制御によって、圧縮機1の回転数の上昇が止まり、室外熱交換器4の圧力が低下すると、制御装置20は、高圧保護制御を解除し、圧縮機1の通常運転を再開する。ところで、冷房運転時の室外熱交換器4での冷媒の温度と圧力は概ね比例する。その為、配管内に圧力センサを設ける代わりに室外熱交換器4の配管に温度センサ11を設け、温度センサ11が計測する温度によって、室外熱交換器4での冷媒の圧力(高圧)を推定することができる。制御装置20は、温度センサ11が計測する温度ThO-Rに基づいて高圧保護制御を行う。具体的には、制御装置20は、温度ThO-Rが、高圧が過度に上昇していることを示す温度となると、高圧保護制御を開始する。次に図2を用いて制御装置20について説明する。
【0020】
図2は、本発明の一実施形態における制御装置の一例を示すブロック図である。
制御装置20は、例えばマイコン等のCPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)を備えたコンピュータである。制御装置20は、室内機9、室外機10を構成する機器に関する種々の制御を行う。以下、本実施形態の高圧保護制御に関係する機能に絞って説明を行う。図示するように制御装置20は、センサ情報取得部21と、圧縮機制御部22とを備えている。圧縮機制御部22は、回転数設定部23を備えている。
【0021】
センサ情報取得部21は、温度センサ11が計測した室外熱交換器4での冷媒の温度ThO-Rと、温度センサ12が計測した室内熱交換器2での冷媒の温度を取得する。
圧縮機制御部22は、圧縮機1の起動停止、回転数の制御を行う。例えば、圧縮機制御部22は、温度ThO-Rが所定の第1温度(例えば49℃)に達すると圧縮機1の高圧保護制御を実行する。具体的には、圧縮機1の回転数を低下または停止させる。圧縮機制御部22は、温度ThO-Rが所定の第3温度(例えば45℃)に低下するまでの間、圧縮機1の回転数の低下や停止を継続する。また、圧縮機制御部22は、冷房運転中に圧縮機1の回転数が上昇する場面で、温度ThO-Rが所定の第2温度(例えば45~47℃の間の所定値)以上、第1温度以下となると、圧縮機1の回転数の上昇速度に制限を加える。圧縮機1の回転数の上昇速度に制限を加えるとは、温度ThO-Rが第2温度より低い場合の回転数上昇速度よりも低速な上昇速度で圧縮機1の回転速度を上昇させることをいう。
【0022】
回転数設定部23は、圧縮機1の回転数の上昇速度や低下速度を設定する。例えば、回転数設定部23は、温度ThO-Rが第1温度に達すると、圧縮機1の回転数の低下速度(例えば、8rps/1秒)を設定する。また、回転数設定部23は、圧縮機1の回転数を上昇させる場面で、温度ThO-Rが第2温度(例えば、45℃)に達すると、圧縮機1の回転数の上昇速度(例えば、1rps/20秒)を設定する。圧縮機制御部22は、回転数設定部23が設定した上昇速度や低下速度で、圧縮機1の回転数を上昇させたり低下させたりする。
【0023】
図3に温度ThO-Rの温度帯ごとの圧縮機1の回転数の上昇速度および低下速度の設定例を示す。図3は、本発明の一実施形態における圧縮機の回転数制御テーブルの一例を示す図である。回転数設定部23は、回転数制御テーブルに基づいて圧縮機1の回転数の変化速度を設定する。
【0024】
図3に示す「一般領域」とは、例えば、温度ThO-Rが45℃未満の温度領域である。温度ThO-Rが「一般領域」の範囲にある場合、回転数設定部23は、圧縮機1の回転数の上昇速度を、回転数制御テーブルの設定に基づいて、「N1」rps/秒(例えば、1rps/秒)に、低下速度を「N2」rps/秒(例えば、1rps/秒)に設定する。「N1」=1の場合、1秒をかけて1秒間あたりの回転数を1回転だけ上昇させることを意味する。
【0025】
「制限領域」とは、例えば、温度ThO-Rが45℃以上49℃未満の温度領域である。温度ThO-Rが「制限領域」の範囲にある場合、回転数設定部23は、圧縮機1の回転数の上昇速度を「L1」rps/秒(例えば、1rps/20秒)に、低下速度を「L2」rps/秒(例えば、1rps/秒)に設定する。
【0026】
「保護領域」とは、例えば、温度ThO-Rが49℃以上の温度領域である。温度ThO-Rが「保護領域」の範囲にある場合、回転数設定部23は、圧縮機1の回転数の低下速度を「P2」rps/秒(例えば、8rps/秒)に設定する。温度ThO-Rが「保護領域」に達すると、回転数を低下させるので(高圧保護制御)、上昇速度は設定されていない。
【0027】
従来の高圧保護制御の場合、「制御領域」を設けず、「一般領域」における上昇速度のまま、温度ThO-Rが第1温度(「保護領域」)に達するまで回転数を上昇させる。このような制御の場合、急激に圧縮機1の回転数が上昇するような場面では、温度センサ11による高圧の推定が困難になることがある。例えば、負荷が高く、高圧保護制御の解除後に再び圧縮機1の回転数が上昇するような場合、急激な圧縮機1の回転数の上昇に伴う圧力の上昇が、温度として現れるまでの間には時間的な遅れが生じる。温度ThO-Rに基づいて圧力を推定し、高圧保護制御を実行する場合、この応答遅れにより、高圧保護制御の開始が遅れ、その間にも圧縮機1の回転数が比較的高速な上昇速度(例えば、1rps/秒)のまま、上昇し続けてしまう。圧縮機1の回転数が上昇すると、室外熱交換器4の圧力はさらに上昇し、許容範囲を超えてしまう。そこで、本実施形態では、温度ThO-Rが「保護領域」に達する前段階(「制限領域」)になると、圧縮機1の回転数の上昇速度を抑制し、圧力の急激な上昇を防止する(圧力の上昇速度を抑制する)制御を行う。これにより、実際の圧力と温度ThO-Rが示す圧力との乖離が低減し、実際の圧力変化に追随して圧縮機1の回転数を制御することができるようになる。
【0028】
次に図4を用いて、圧縮機制御部22による圧縮機1の回転数制御の例を説明する。
図4は、本発明の一実施形態における圧縮機の回転数の推移の一例を示す図である。
図4の縦軸は温度ThO-Rを、横軸は時間を示している。図中のグラフL1は、圧縮機1の回転数の変化を表している。温度T1は第1温度(例えば、49℃)の例、温度T2は第2温度(例えば、45℃)および第3温度の例である(本例では第2温度=第3温度とする)。また、空気調和機100は冷房運転中で、圧縮機1の回転数が上昇する場面であるとする。
時刻t0において、温度ThO-Rは温度T2より低い。つまり、冷媒回路の高圧は、それほど高くない状態である。回転数設定部23は、温度ThO-Rが温度T2より低いことに基づいて、図3で例示した回転数制御テーブルに基づいて、圧縮機1の回転数の上昇速度を「N1」rps/秒に設定する。圧縮機制御部22は、回転数設定部23が設定した上昇速度で圧縮機1の回転数を上昇させながら、圧縮機1を駆動する。
【0029】
次に時刻t1において、温度ThO-Rが温度T2に達する。つまり、冷媒回路の高圧は「制限領域」に達し、やや高い状態である。回転数設定部23は、温度ThO-Rが温度T2(第2温度)に達したことに基づいて、圧縮機1の回転数の上昇速度を「L1」rps/秒に設定する。圧縮機制御部22は、回転数設定部23が設定した上昇速度で緩やかに圧縮機1の回転数を上昇させる。
【0030】
次に時刻t2において、温度ThO-Rが温度T1に達する。つまり、冷媒回路の高圧は許容範囲の上限に達しており、高圧保護制御を開始しなければならない状態である。回転数設定部23は、温度ThO-Rが温度T1に達したことに基づいて、圧縮機1の回転数の低下速度を「P2」rps/秒に設定する。圧縮機制御部22は、回転数設定部23が設定した低下速度で圧縮機1の回転数を低下させる(高圧保護制御)。
【0031】
次に時刻t3において、温度ThO-Rが温度T2(第3温度)まで低下する。つまり、高圧は、高圧保護制御を解除できる程度に低下している。回転数設定部23は、温度ThO-Rが温度T2(第2温度)以上でT1(第1温度)未満の範囲にあることに基づいて、圧縮機1の回転数の上昇速度を「L1」rps/秒に設定する。圧縮機制御部22は、回転数設定部23が設定した上昇速度で圧縮機1の回転数を上昇させる。
【0032】
なお、例えば、時刻t4において室内の温度が設定温度に達しているような場合、圧縮機制御部22は、圧縮機1の回転数を低下もしくは維持する。回転数を低下させる場合には、回転数設定部23は、回転数制御テーブルに基づいて、圧縮機1の回転数の低下速度を「L2」rps/秒に設定する。圧縮機制御部22は、回転数設定部23が設定した低下速度で圧縮機1の回転数を低下させる。
【0033】
ここで、第1温度と第2温度の温度差をあまり広く設定すると、室温と設定温度の温度差が大きい場合などに空調の応答性が悪くユーザの快適性が損なわれるおそれがある。反対に温度差が小さすぎると、高圧の急激な上昇を十分に抑えられない可能性がある。第1温度と第2温度の適切な温度差は、例えば、2℃以上4℃以下の範囲である。例えば、第1温度が49℃の場合、第2温度は45℃~47℃の範囲で設定されることが好ましい。
【0034】
また、「制限領域」における上昇速度(「L1」rps/秒)は、室外熱交換器4の圧力が上昇する速度に遅れることなく、温度ThO-Rによって正確に高圧を推定できる範囲内となるよう設定する必要がある。「L1」の値が大きいと、温度ThO-Rが示す圧力と実際の圧力に差が生じ、圧力が閾値を超えて上昇する状況を検出できない能性がある。また、「L1」の値が小さいと、圧縮機1の回転数を上昇させる場面(例えば、冷房時に室温と設定温度の差が大きく、なるべく早い室温の低下が求められている場面)で圧縮機1を十分に稼働させることができずユーザの快適性を損なってしまう。「制限領域」における圧縮機1の回転数の上昇速度の適切な値は、例えば、1rps/20秒(20秒かけて1秒あたりの回転数を1回転増加させる)~1rps/15秒(15秒かけて1秒あたりの回転数を1回転増加させる)程度である。
【0035】
次に圧縮機1の回線数制御の流れについて図5を用いて説明する。
図5は、本発明の一実施形態における圧縮機の制御方法の一例を示すフローチャートである。
空気調和機100は、冷房運転中であるとする。また、温度センサ11、12の各々は、冷房運転中に計測した温度を制御装置20へ送信する。制御装置20では、センサ情報取得部21が、それらの温度の計測値を取得し、圧縮機制御部22へ出力する。
まず、圧縮機制御部22が、圧縮機1の回転数を上昇させるか否かを判定する(ステップS11)。例えば、温度センサ12が計測した温度と設定温度との温度差が所定値以上であれば、圧縮機制御部22は、圧縮機1の回転数を上昇させると判定する。
【0036】
また、例えば、温度センサ12が計測した温度と設定温度との温度差が所定値以下であれば、圧縮機制御部22は、圧縮機1の回転数を上昇するとの判定を行わない。その場合(ステップS11;No)、圧縮機制御部22は、圧縮機1の回転数を維持または低下させる。例えば、回転数設定部23が、温度センサ11が計測した温度ThO-Rと図3で例示した回転数制御テーブルに基づいて低下速度を設定する。圧縮機制御部22は、回転数設定部23が設定した低下速度で回転数を低下させつつ、圧縮機1を駆動する。
【0037】
圧縮機1の回転数を上昇させると判定した場合(ステップS11;Yes)、圧縮機制御部22は、温度ThO-Rが「一般領域」、「制御領域」、「保護領域」の何れの領域に属するかを判定する(ステップS14)。
【0038】
温度ThO-Rが「一般領域」にある場合、回転数設定部23が、温度ThO-Rと図3で例示した回転数制御テーブルに基づいて上昇速度「N1」rps/秒を設定する。圧縮機制御部22は、「N1」rps/秒で回転数を上昇させつつ、圧縮機1を駆動する。
【0039】
温度ThO-Rが「制御領域」にある場合、回転数設定部23が、温度ThO-Rと図3で例示した回転数制御テーブルに基づいて上昇速度「L1」rps/秒を設定する。圧縮機制御部22は、「L1」rps/秒で回転数を上昇させつつ、圧縮機1を駆動する。
【0040】
温度ThO-Rが「保護領域」にある場合、回転数設定部23が、温度ThO-Rと図3で例示した回転数制御テーブルに基づいて低下速度「P2」rps/秒を設定する。圧縮機制御部22は、「P2」rps/秒で回転数を低下させつつ、圧縮機1を駆動する。
圧縮機制御部22は、ステップS11以下の制御を繰り返し行う。
【0041】
本実施形態によれば、空気調和機100の冷房運転中に高圧が上昇する運転状態でも、高圧の急激な上昇を防ぎ、温度センサで高圧を推定できるようにする。これにより、高圧を制限値内に制御し、空気調和機100の連続運転が可能になる。また、高圧異常による圧縮機1やその他の機器の故障を防ぐことができる。
【0042】
なお、上記の説明では、冷房運転時の室外熱交換器4の温度に基づいて高圧保護制御を行う例を挙げたが、同様に、暖房運転時に室内熱交換器2に設けた温度センサ12が計測する温度に基づいて暖房運転時の高圧保護制御を実行するシステムがあれば、本実施形態の制御をそのシステムに適用することができる。
【0043】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。また、この発明の技術範囲は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
圧縮機制御部22は、制御部の一例である。
【符号の説明】
【0044】
1・・・圧縮機
2・・・室内熱交換器
3・・・膨張弁
4・・・室外熱交換器
5・・・四方弁
5a、5b、5c、5d・・・ポート
6・・・冷媒配管
9・・・室内機
10・・・室外機
11・・・温度センサ
12・・・温度センサ
20・・・制御装置
21・・・センサ情報取得部
22・・・圧縮機制御部
23・・・回転数設定部
100・・・空気調和機
図1
図2
図3
図4
図5