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特許7491681クロムブランクス、フォトマスクの製造方法、およびインプリントモールドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】クロムブランクス、フォトマスクの製造方法、およびインプリントモールドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/80 20120101AFI20240521BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20240521BHJP
   G03F 1/60 20120101ALI20240521BHJP
   G03F 1/54 20120101ALI20240521BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
G03F1/80
H01L21/30 502D
G03F1/60
G03F1/54
H01L21/302 105A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019204744
(22)【出願日】2019-11-12
(65)【公開番号】P2020126223
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2019018787
(32)【優先日】2019-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】522212882
【氏名又は名称】株式会社トッパンフォトマスク
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 幸司
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-151453(JP,A)
【文献】特開2018-046223(JP,A)
【文献】特開2011-164598(JP,A)
【文献】特開2014-082413(JP,A)
【文献】特開2017-040900(JP,A)
【文献】特開2012-236371(JP,A)
【文献】特開2013-238777(JP,A)
【文献】国際公開第2016/140044(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
H01L 21/027
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成されたクロム膜と、
前記クロム膜上に形成された第一ハードマスク層と、
前記第一ハードマスク層上に形成された第二ハードマスク層と、
を備え、
前記第一ハードマスク層は、シリコンを含み、塩素系ガスによるドライエッチングよりもフッ素系ガスによるドライエッチングの方がエッチングされやすい材料により形成され、
前記第二ハードマスク層は、金属元素を含み、フッ素系ガスによるドライエッチングよりも塩素系ガスによるドライエッチングの方がエッチングされやすい材料により形成されており、
前記基板は、ケイ素で形成され
前記金属元素は、クロムと、アルミニウム、ジルコニウム、ハフニウム、およびスズからなる群より選択される少なくとも一種と、を含み、
前記第一ハードマスク層は、モリブデンをさらに含み、
前記第二ハードマスク層の厚みは、2nm以上10nm以下である、
クロムブランクス。
【請求項2】
前記第二ハードマスク層は、酸素、窒素から選択される少なくとも一種を含む、
請求項1に記載のクロムブランクス。
【請求項3】
前記第一ハードマスク層は、酸素、窒素、炭素から選択される少なくとも一種を含む、
請求項1または2に記載のクロムブランクス。
【請求項4】
請求項1からのいずれか一項に記載のクロムブランクスを用いたフォトマスクの製造方法であって、
前記第二ハードマスク層上に形成されたレジストパターンをマスクとして、前記第二ハードマスク層に塩素系ガスを用いたドライエッチングを施して第二ハードマスクパターンを形成し、
前記第二ハードマスクパターンをマスクとして、前記第一ハードマスク層にフッ素系ガスを用いたドライエッチングを施して第一ハードマスクパターンを形成し、
前記第一ハードマスクパターンをマスクとして、前記クロム膜に塩素系ガスを用いたドライエッチングを施してクロムパターンを形成する、
フォトマスクの製造方法。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載のクロムブランクスを用いたインプリントモールドの製造方法であって、
前記第二ハードマスク層上に形成されたレジストパターンをマスクとして、前記第二ハードマスク層に塩素系ガスを用いたドライエッチングを施して第二ハードマスクパターンを形成し、
前記第二ハードマスクパターンをマスクとして、前記第一ハードマスク層にフッ素系ガスを用いたドライエッチングを施して第一ハードマスクパターンを形成し、
前記第一ハードマスクパターンをマスクとして、前記クロム膜に塩素系ガスを用いたドライエッチングを施してクロムパターンを形成する、
インプリントモールドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板上にクロム膜またはクロム化合物膜を備えるクロムブランクス、およびこのクロムブランクスを用いたフォトマスクの製造方法およびインプリントモールドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速動作と低消費電力化の要求から、大規模集積回路のパターン微細化が加速している。大規模集積回路の高集積化に伴う回路パターンの微細化要求に応えるために、高度の半導体微細加工技術が極めて重要な要素技術となっている。例えば、大規模集積回路の高集積化には、回路を構成する配線パターンの細線化技術や、セルを構成する層間の配線のためのコンタクトホールパターンの微細化技術が欠かせない。
【0003】
フォトマスクを用いるフォトリソグラフィ技術は、高度な微細加工の一分野を形成しており、フォトマスクは露光装置やレジスト材料とともに微細化技術を支える基本技術となっている。上述の細線化された配線パターンやコンタクトホールパターンを有するフォトマスクを実現する目的で、より微細で、且つ均一性の高い線幅精度を有するパターンをフォトマスクブランクス上に形成するための技術開発が進められてきた。
【0004】
フォトマスクパターンを形成するためには、通常、まず石英等の透明基板上に遮光層を設けたフォトマスクブランクスの上に電子線レジスト層を形成し、この電子線レジスト層に電子線を照射してパターン描画を行い、電子線レジスト層を現像してレジストパターンを得る。次に、このレジストパターンを遮光層用のエッチングマスクとして遮光層をパターニングしてフォトマスクパターンを得る。
レジスト層を塗布形成する前後の形態のどちらも「ブランクス」と呼ばれることがあるが、以下、本明細書ではレジスト層形成前の形態をブランクスと称する。
【0005】
上記のような手法で微細なフォトマスクパターンを得るためには、電子線レジスト層の薄膜化と遮光層の材料選択とエッチング条件の確立とが重要となる。遮光膜材料についてはすでに多くの材料が提案されてきた。このうち、クロム膜及びクロム化合物膜はエッチング特性に対する情報量が多く、実用上、遮光膜材料として標準的に用いられている(例えば特許文献1、2参照)。
以下、本明細書では、簡略化のため、クロム膜及びクロム化合物膜を「クロム膜」と総称する。
【0006】
一方で、ナノメーターレベルまでの微細加工をスタンプの要領で簡便に行えるインプリント技術が注目されている。インプリント技術は樹脂への加工が可能であるため、エレクトロニクス分野、バイオ分野等、広い応用範囲をもっている。
【0007】
半導体デバイスや記録媒体の製造に際して、加工対象体の表面に微細な凹凸パターンをもつ樹脂層を形成する方法として、インプリント法が知られている。このインプリント法は、原版(モールド)に形成したナノメートルサイズの凹凸部を被加工対象体表面の樹脂層に押し当てることによってモールドの凹凸形状を樹脂層に転写する。
【0008】
主なインプリント法としては、光硬化樹脂を利用する光インプリント法と、加工材料に熱可塑性樹脂を利用する熱インプリント法とが挙げられる。光インプリント法はパターンが形成されたモールドに樹脂を接触させた状態で光を照射し、光硬化させてパターンを形成する。一方、熱インプリント法は、ガラス転移温度以上に加熱した樹脂にモールドを押し付け、冷却後に離型する。
【0009】
光インプリント用モールドの材料としては、光(紫外線)を透過させる必要があるため、主として石英等のガラスが用いられ、通常はガラス自体にフォトマスクを形成し、電子線リソグラフィとエッチングにより、ガラスの表面に微細な凹凸形状を形成する。
【0010】
熱インプリント用モールドの材料としては、半導体製造プロセスで微細加工技術の蓄積があるSi、薬品耐性と硬度に優れたSiC、長寿命化を狙ったNi電鋳等の単一材料に凹凸形状を形成して構成されることが一般的である。一方で、熱によるモールド変形に対する考慮から、基板と薄膜のパターンからなる複合構造とし、該薄膜として、熱膨張係数が被加工対象体と略同等の材料を用いることが提案されている(例えば特許文献3参照)。
【0011】
前記のような複合構造のモールドの形態として、例えば特許文献4には、石英ガラスからなる基板上にクロムを含む材料からなる微細凹凸パターンを形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2003-195479号公報
【文献】特開2003-195483号公報
【文献】特開2013-136181号公報
【文献】特開平5-177705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
フォトマスクやインプリントモールドにおいて、微細パターンのアスペクト比(パターン高さ/パターン線幅)を高くしたいという要望が高まっている。
これに対し、厚い遮光層をエッチングするために単純にレジストパターンを厚くすると、レジストのパターニングにおける解像性が低下し、ナノオーダーの微細パターンを形成することが困難となる。また、形成できたとしても、アスペクト比の高いレジストパターンを用いてエッチングを行うと、プロセス中にパターンが倒れやすくなる。さらに、パターンの奥までエッチングガスが進入しにくいため、遮光層のエッチングにおいても精度が低下する。
このように、高アスペクト比を有する微細パターンを高精度で均一に形成することは容易ではない。
【0014】
上記事情を踏まえ、本発明は、高アスペクト比を有する微細パターンを高精度で均一に形成できるクロムブランクスを提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、高アスペクト比を有する微細パターンを高精度で均一に形成されたフォトマスクおよびインプリントモールドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第一の態様は、基板と、基板上に形成されたクロム膜と、クロム膜上に形成された第一ハードマスク層と、第一ハードマスク層上に形成された第二ハードマスク層とを備えるクロムブランクスである。
第一ハードマスク層は、シリコンを含み、塩素系ガスによるドライエッチングよりもフッ素系ガスによるドライエッチングの方がエッチングされやすい材料により形成されている。
第二ハードマスク層は、金属元素を含み、フッ素系ガスによるドライエッチングよりも塩素系ガスによるドライエッチングの方がエッチングされやすい材料により形成されている。
【0016】
本発明の第二の態様は、第一の態様に係るクロムブランクスを用いたフォトマスクの製造方法である。
この製造方法では、第二ハードマスク層上に形成されたレジストパターンをマスクとして、第二ハードマスク層に塩素系ガスを用いたドライエッチングを施して第二ハードマスクパターンを形成し、第二ハードマスクパターンをマスクとして、第一ハードマスク層にフッ素系ガスを用いたドライエッチングを施して第一ハードマスクパターンを形成し、第一ハードマスクパターンをマスクとして、クロム膜に塩素系ガスを用いたドライエッチングを施してクロムパターンを形成する。
上記と同様の方法により、インプリントモールドも製造できる。
【0017】
本発明の第三の態様は、基板と、基板上に形成されたクロム膜と、クロム膜上に形成されたハードマスク層とを備えるクロムブランクスである。
ハードマスク層は、シリコンを含み、塩素系ガスによるドライエッチングよりもフッ素系ガスによるドライエッチングの方がエッチングされやすい材料により形成されている。
【0018】
本発明の第四の態様は、第三の態様に係るクロムブランクスを用いたフォトマスクの製造方法である。
この製造方法では、ハードマスク層上に形成されたレジストパターンをマスクとして、ハードマスク層にフッ素系ガスを用いたドライエッチングを施してハードマスクパターンを形成し、ハードマスクパターンをマスクとして、クロム膜に塩素系ガスを用いたドライエッチングを施してクロムパターンを形成する。
上記と同様の方法により、インプリントモールドも製造できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高アスペクト比を有する微細パターンを高精度で均一に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第一実施形態に係るクロムブランクスの模式断面図である。
図2】(a)から(d)は、それぞれ同クロムブランクスを用いた構造体の製造方法の一過程を示す図である。
図3】(a)は、同構造体を示す図であり、(b)は、同構造体に追加工程を施した状態を示す図である。
図4】同クロムブランクスの変形例を示す模式断面図である。
図5】変形例のクロムブランクスを用いて製造した構造体を示す図である。
図6】本発明の第二実施形態に係るクロムブランクスの模式断面図である。
図7】同クロムブランクスを用いた構造体の製造方法の一過程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の第一実施形態について、図1から図5を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るクロムブランクス10の模式断面図である。クロムブランクス10は、基板1と、基板1上に形成されたクロム膜2と、クロム膜2上に形成された第一ハードマスク層3と、第一ハードマスク層3上に形成された第二ハードマスク層4とを備えている。
【0022】
基板1としては、クロムブランクス10の用途に応じて透明基板や不透明基板を選択できる。例えば、クロムブランクス10を用いてフォトマスクを作製する等の場合は、透明基板を選択する。クロムブランクス10を用いてインプリントモールドを作製する等の場合は、加工対象の材質等を考慮して、透明基板および不透明基板のいずれかを選択できる。
透明基板の材質としては石英を、不透明基板の材質としては、Si、SiC等をそれぞれ例示できる。
クロム膜2は、クロム単体またはクロム化合物からなる膜である。クロム膜2の厚みは、クロム膜2に形成される微細パターンの高さ等に応じて適宜決定できる。
【0023】
第一ハードマスク層3および第二ハードマスク層4は、クロムブランクス10を用いてフォトマスクやインプリントモールド等を作製する際に、ドライエッチングにより所定の微細パターンが形成される層である。
【0024】
一般に、ドライエッチングは、プラズマ中で導入ガスが電子と衝突し、活性ラジカルや種々の形に解離した反応性イオンが発生してエッチングを引き起こす。被エッチング材料のエッチング表面に低沸点の揮発性生成物を形成するほどエッチングがされやすいことが知られている。被エッチング材料と導入ガスによる反応生成物の沸点や蒸気圧は、エッチングされやすさの指標となる。すなわち、沸点が低い反応生成物ほど気化して蒸気圧は高くなり排気されやすくなる。
【0025】
第一ハードマスク層3は、塩素系ガスによるドライエッチングよりもフッ素系ガスによるドライエッチングの方がエッチングされやすい材料により形成されている。このような材料としては、シリコン(Si)の単体または化合物が挙げられる。シリコンの単体で第一ハードマスク層3を形成する場合、第一ハードマスク層3はシリコンのみを含有する。シリコンの化合物としては、酸化物、窒化物、炭化物など、より具体的には、SiO、SiON、SiOC、SiNなどを例示できる。これらの化合物で第一ハードマスク層3を形成する場合、第一ハードマスク層3はシリコンに加えて、酸素、窒素、炭素から選択される少なくとも一種の元素を含有する。
第一ハードマスク層3は、モリブデンを含有してもよい。
上述したシリコンを含む材料において、フッ化物は沸点が低いためエッチングされ易く、塩化物は沸点が高いためエッチングされ難いことが知られている。したがって、第一ハードマスク層3は、塩素系ガスによるドライエッチングよりもフッ素系ガスによるドライエッチングのエッチングレートが高い。
【0026】
第二ハードマスク層4は、フッ素系ガスよりも塩素系ガスによりドライエッチングされやすい材料である。このような材料としては、塩化物の沸点がフッ化物の沸点よりも低い金属材料を例示できる。
表1に、第二ハードマスク層4の材料として適した金属を示す。表1に記載されたクロム、アルミニウム、ジルコニウム、ハフニウム、およびスズは、フッ化物の沸点の2分の1以下の沸点を有する塩化物あるいは酸塩化物を生じる。実際のエッチングレートやエッチング選択比はガス流量、圧力、パワー密度等のドライエッチングの各条件により変化するため、沸点と完全にパラレルというわけではないが、表1に記載の各金属においては、必ずフッ素系ガスによるドライエッチングよりも塩素系ガスによるドライエッチングのエッチングレートが高くなる。
【0027】
【表1】
【0028】
以上より、第二ハードマスク層4は、クロム、アルミニウム、ジルコニウム、ハフニウム、スズからなる群より選択される少なくとも一種の金属元素を含んで構成されることが好ましい。
第二ハードマスク層4には、2種類以上の金属が含まれてもよい。第二ハードマスク層4全体として、フッ素系ガスによるドライエッチングよりも塩素系ガスによるドライエッチングのエッチングレートが高ければ、上述の群に含まれない金属元素が第二ハードマスク層4に含まれてもよい。
【0029】
第二ハードマスク層4には、金属以外の元素が含まれてもよい。金属元素を化合物として第二ハードマスク層4に含有させることにより、第二ハードマスク層4の結晶性、電気的特性、エッチング性、洗浄液耐性等を調整できる。
例えば第二ハードマスク層4に酸素や窒素を含有させると洗浄液耐性を高くできる。また、電気抵抗も高くなる。一般に、化学量論比通りの金属酸化物、金属窒化物は酸素や窒素の含有量が多く電気抵抗が高すぎる場合があるため、化学量論比よりも金属を多めに含有する金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物が生じるように酸素や窒素の量を設定することが好ましい。
【0030】
クロムブランクス10は、基板1上に、クロム膜2、第一ハードマスク層3、および第二ハードマスク層4を順次成膜することにより製造できる。各部の成膜には、スパッタリング等の公知の技術を適用できる。
【0031】
上記の様に構成された本実施形態のクロムブランクス10は、アスペクト比の高いナノオーダーの微細構造を作製するのに好適である。以下、クロムブランクス10を用いたフォトマスクの製造方法について説明する。
【0032】
まず図2の(a)に示すように、クロムブランクス10の第二ハードマスク層4上にレジスト層100を形成し、(b)に示すように、レジスト層100を処理して所望のパターンを形成したレジストパターン100Aとする(ステップA)。レジスト層100を形成するレジストは、ポジ型、ネガ型のいずれでもよい。
【0033】
次に、レジストパターン100Aをエッチングマスクとして、第二ハードマスク層4に塩素系エッチングガスを用いたドライエッチングを施す(ステップB)。ステップBにより、第二ハードマスク層4は、レジストパターン100Aに倣ってエッチングされ、図2の(c)に示すように、第二ハードマスクパターン4Aとなる。
【0034】
ステップBの終了時において、レジストパターン100Aが第二ハードマスクパターン4A上に一部残留していてもよい。
第二ハードマスク層4がクロムを主成分とする場合、塩素系エッチングガスに酸素が混合されてもよい。この場合、沸点の低いクロムの酸塩化物が生じやすくなり、エッチングが進みやすい。
【0035】
次に、第二ハードマスクパターン4Aをエッチングマスクとして、第一ハードマスク層3にフッ素系エッチングガスを用いたドライエッチングを施す(ステップC)。ステップCにより、第一ハードマスク層3は、第二ハードマスクパターン4Aに倣ってエッチングされ、図2の(d)に示すように、第一ハードマスクパターン3Aとなる。
【0036】
ステップCにおいては、第二ハードマスクパターン4Aもフッ素系エッチングガスのアタックを受けるが、第二ハードマスクパターン4Aの構成材料は、フッ素系ガスよりも塩素系ガスによりドライエッチングされやすいため、単位時間あたりのエッチング量は、第一ハードマスク層3の方がより大きくなる。その結果、第二ハードマスクパターン4Aよりも厚い第一ハードマスク層3であっても、第二ハードマスクパターン4Aを用いてパターニングを完遂することができる。
ステップCの終了時において、第二ハードマスクパターン4Aが第一ハードマスクパターン3A上に一部残留していてもよい。
【0037】
次に、第一ハードマスクパターン3Aをエッチングマスクとして、クロム膜2に塩素系エッチングガスを用いたドライエッチングを施す(ステップD)。ステップDにより、クロム膜2は、第一ハードマスクパターン3Aに倣ってエッチングされ、図3の(a)に示すように、クロムパターン2Aとなる。
【0038】
ステップDにおいては、第一ハードマスクパターン3Aも塩素系エッチングガスのアタックを受けるが、第一ハードマスクパターン3Aの構成材料は、塩素系ガスよりもフッ素系ガスによりドライエッチングされやすいため、単位時間当たりのエッチング量は、クロム膜2の方がより大きくなる。その結果、第一ハードマスクパターン3Aよりも厚いクロム膜2であっても、第一ハードマスクパターン3Aを用いてパターニングを完遂することができる。
【0039】
ステップDにおいても、ステップBと同様に、塩素系エッチングガスに酸素が混合されてもよい。
ステップDの終了時において、第一ハードマスクパターン3Aがクロム膜2上に一部残留していてもよい。第一ハードマスクパターン3Aを完全に除去したい場合は、フッ素系エッチングガスを用いたドライエッチングを追加してもよい。
【0040】
ステップDが終了すると、基板1上にクロムパターン2Aを備えた構造体50が完成する。構造体50は、基板1の態様に応じて、フォトマスクやインプリントモールドとして使用できる。
構造体50に対して、クロム膜2をエッチングマスクとして、基板1にフッ素系エッチングガスを用いたドライエッチングを施してもよい(ステップE)。ステップEにより、図3の(b)に示すように、基板1の表面に微細パターンが形成された構造体60を得ることができる。構造体60も、基板1の材質や透明性等に応じて、フォトマスクやインプリントモールドとして使用できる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態のクロムブランクス10によれば、クロム膜2上に、第一ハードマスク層3および第二ハードマスク層4を備えることにより、塩素系ガスおよびフッ素系ガスによるエッチング特性が層ごとに逆転した構造になっている。このため、所定のガスを用いて上側の層をマスクとして下側の層をドライエッチングすると、下側の層をより深くエッチングできる。
したがって、ナノオーダーの微細パターン形成を高精度に形成可能な薄いレジスト層を用いて最上層の第二ハードマスク層4をパターニングした後、下側の層を順にエッチングすることにより、微細パターンの精度および均一性を保持しつつ、よりアスペクト比の高い微細パターンを形成することができる。
【0042】
また、構造体の製造過程において生じるレジストパターン100A、第二ハードマスクパターン4A、および第一ハードマスクパターン3Aのアスペクト比は、最終的に形成されるクロムパターン2Aのアスペクト比よりも小さい。したがって、これらのパターンがプロセス中に倒れる事象は発生しにくく、各パターンの深部にもエッチングガスが進入しやすい。その結果、各ステップにおけるエッチングの精度が高く保持され、最終的に形成されるクロムパターン2Aを高精度かつ均一に形成できる。
【0043】
本実施形態においては、図4に示す変形例のクロムブランクス10Aのように、クロム膜2を厚く形成してもよい。そして、ステップDにおいてハーフエッチングを行うことにより、図5に示すように、貫通しないパターンを有するクロムパターン2Bが形成された構造体50Aが製造されてもよい。
クロムパターン2Bのような非貫通パターンにおいては、オーバーエッチングによりパターンの均一性を高めることが困難であるが、クロムブランクス10Aは第一ハードマスク層3および第二ハードマスク層4を備えるため、非貫通パターンであっても精度よく均一に形成できる。
さらに、クロムブランクス10Aはクロムで形成されているため、以下の利点を有する。
・導通が取れるため、走査電子顕微鏡(SEM)による断面観察時に帯電しづらく、形状をはっきり認識しやすい。その結果、微細パターンの確認を正確に行える。
・合成石英製のモールドよりもパターン面の刻印文字を視認しやすい。
・クロムは合成石英よりもエッチングを等方的に調整しやすいため、テーパーや丸みのある形状を作りやすい。その結果、作製されるモールドの離型性を容易に調整できる。
【0044】
上述したように、本実施形態のクロムブランクス10は、アスペクト比の高い(例えば3以上)ナノオーダーの微細パターンを形成するのに適している。以下、クロムブランクス10を用いた構造体作製における数値例を説明する。
【0045】
クロムパターン2Aに形成する微細パターンの目標線幅を60nm、アスペクト比を3とすると、エッチングするクロム膜2の目標深さは180nmとなる。
第一ハードマスク層3のエッチング選択比(第一ハードマスク層3のエッチングレート/第二ハードマスク層4のエッチングレート)をα、クロム膜2のエッチング選択比(クロム膜2のエッチングレート/第一ハードマスク層3のエッチングレート)をβとすると、ステップCにおける第一ハードマスク層3のエッチング深さの理論値は、第二ハードマスク層4の厚みのα倍となる。同様に、ステップDにおけるクロム膜2のエッチング深さの理論値は、第一ハードマスク層3の厚みのβ倍となる。第二ハードマスク層4の厚みをt1、クロム膜2のエッチング目標深さをt2とすると、以下の式(1)が成り立つ。
(1) t2=t1×α×β
【0046】
例えば、α、βがいずれも5である場合、t2=180を達成するために必要なt1の値は7.2となり、厚さ7.2nmの第二ハードマスク層4および厚さ36nmの第一ハードマスク層3を形成すればよい。実際に必要な厚さは微細パターンの線幅にも影響され、形状の均一性を良くするためにオーバーエッチングする場合もあるため、これらの要素を考慮して、実際の各ハードマスク層の厚みやエッチング条件(ガス流量、圧力、パワー密度等)等を調整すればよい。
【0047】
厚さ180nmのクロム膜上に直接レジストパターンを形成して上述の高アスペクト比微細パターンを形成する場合、レジストパターンをかなり厚くする必要がある。レジストパターンが厚くなりすぎると、パターニングの精度も低下するため、このやり方で上記のような高アスペクト比の微細パターンを形成することは実質的に不可能である。
【0048】
本実施形態のクロムブランクス10では、最終的なパターン形成対象であるクロム膜2上に第一ハードマスク層3および第二ハードマスク層4を備えるため、レジストパターンを用いてエッチングする第二ハードマスク層4を薄くしても、クロム膜2にアスペクト比の高いナノオーダーの微細パターンを精度良く形成できる。
第二ハードマスク層4の厚みが2nm~10nm程度であれば、これをエッチングするために必要なレジストパターンも、線幅数十nm前後のレジストパターンを十分精度よく形成する程度に薄くできる。
【0049】
微細パターンのアスペクト比が高くなると、エッチングガスはパターンの深部まで入り込みにくくなり、パターニングの精度が低下する。これは、第一ハードマスク層3や第二ハードマスク層4においても同様であるため、第一ハードマスク層3や第二ハードマスク層4は薄い方が好ましい。このような観点から、アスペクト比の高いナノオーダーの微細パターンを形成する場合、上述のαおよびβの値は20以上であることが好ましく、40~60程度がより好ましい。
【0050】
本発明の第二実施形態について、図6を参照して説明する。
図6は、本実施形態に係るクロムブランクス110の模式断面図である。クロムブランクス110は、基板1と、基板1上に形成されたクロム膜2と、クロム膜2上に形成された第一ハードマスク層(ハードマスク層)3とを備え、第二ハードマスク層4を備えない層構成となっている。第一ハードマスク層3の材料は、第一実施形態と同様でよい。
【0051】
クロムブランクス110を用いて、フォトマスクやインプリントモールドとして使用可能な構造体を製造する場合は、図7に示すように、第一ハードマスク層3上にレジストパターン101Aを形成する(ステップA1)。
続いて、レジストパターン101Aをエッチングマスクとして、第一ハードマスク層3にフッ素系エッチングガスを用いたドライエッチングを施し、第一ハードマスクパターン3Aを形成する(ステップC1)。
その後、第一実施形態と同様にステップDを行うことで、クロムパターン2Aを有する構造体50を得ることができる。
【0052】
本実施形態のクロムブランクス110も、第一実施形態のクロムブランクス10と同様に、クロム膜2にアスペクト比の高いナノオーダーの微細パターンを精度良く形成できる。
第二実施形態においても、第一実施形態と同様に、ステップEを追加したり、クロム膜2にハーフエッチングを施したりすることが可能である。
【0053】
ステップA1において、第一ハードマスク層3は、第二ハードマスク層4に比べてレジストとの密着性が低いため、必要に応じて第一ハードマスク層3上に疎水性の層を設けてレジストとの密着性を高めてもよい。疎水性層は、例えばHMDS(ヘキサメチレンジシラザン)等を用いて形成できる。
ステップA1においては、レジスト層上に導電膜を形成して電子線描画時のチャージアップを抑制してもよい。
【0054】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。
【0055】
例えば、第二ハードマスク上に第一ハードマスク層と同様のエッチング特性を有する第三ハードマスク層が形成されてもよいし、さらに、この第三ハードマスク層上に第二ハードマスク層と同様のエッチング特性を有する第四ハードマスク層が形成されてもよい。このようにすると、さらに大きいアスペクト比を有する微細構造の作製も可能となる。
【符号の説明】
【0056】
1 基板
2 クロム膜
2A、2B クロムパターン
3 第一ハードマスク層(ハードマスク層)
3A 第一ハードマスクパターン
4 第二ハードマスク層
4A 第二ハードマスクパターン
10、110 クロムブランクス
50、60 構造体(フォトマスク、インプリントモールド)
100A レジストパターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7