(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】圧電素子、圧電アクチュエータ、および圧電トランス
(51)【国際特許分類】
H10N 30/067 20230101AFI20240521BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20240521BHJP
H10N 30/50 20230101ALI20240521BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20240521BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20240521BHJP
H10N 30/40 20230101ALI20240521BHJP
C04B 35/495 20060101ALI20240521BHJP
C04B 35/491 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
H10N30/067
H10N30/20
H10N30/50
H10N30/87
H10N30/853
H10N30/40
C04B35/495
C04B35/491
(21)【出願番号】P 2020057901
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-08-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 維子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 浩輝
(72)【発明者】
【氏名】秋山 由美
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-027692(JP,A)
【文献】特表2015-502312(JP,A)
【文献】特開2017-092279(JP,A)
【文献】特開2006-108652(JP,A)
【文献】特開2000-313664(JP,A)
【文献】特開2016-001667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/067
H10N 30/20
H10N 30/50
H10N 30/87
H10N 30/853
H10N 30/40
C04B 35/495
C04B 35/491
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体層と内部電極層とが積層してある積層体を有し、
前記内部電極層は、Pd-Cu合金またはAu-Cu合金を含み、
前記内部電極層に含まれる銅の含有率が、銅元素換算で、1at%以上、15at%以下であり、
前記圧電体層には、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物が主成分として含まれ、
前記複合酸化物が、ニオブ酸アルカリ金属系化合物であり、
前記圧電体層に含まれる銅の含有率が、銅元素換算で、0mol%以上、5.0mol%以下であ
り、
下記の(1)~(5)のいずれかを満たす圧電素子。
(1)前記ニオブ酸アルカリ金属系化合物がKNbO
3
であり、前記内部電極層は、Pd-Cu合金を含み、前記内部電極層に含まれる銅の含有率が、銅元素換算で、1at%以上、15at%以下であり、かつ、前記圧電体層に含まれる銅の含有率が、銅元素換算で、0mol%である。
(2)前記ニオブ酸アルカリ金属系化合物がKNbO
3
であり、前記内部電極層は、Pd-Cu合金を含み、前記内部電極層に含まれる銅の含有率が、銅元素換算で、7.5at%以上、15at%以下であり、かつ、前記圧電体層に含まれる銅の含有率が、銅元素換算で、0.5mol%以上、5.0mol%以下である。
(3)前記ニオブ酸アルカリ金属系化合物がKNbO
3
であり、前記内部電極層は、Pd-Cu合金を含み、前記内部電極層に含まれる銅の含有率が、銅元素換算で、4.5at%以上、15at%以下であり、かつ、前記圧電体層に含まれる銅の含有率が、銅元素換算で、1.0mol%以上、5.0mol%以下である。
(4)前記ニオブ酸アルカリ金属系化合物がKNbO
3
であり、前記内部電極層は、Au-Cu合金を含み、前記内部電極層に含まれる銅の含有率が、銅元素換算で、1.0at%であり、かつ、前記圧電体層に含まれる銅の含有率が、銅元素換算で、0mol%である。
(5)前記ニオブ酸アルカリ金属系化合物が(K,Na)NbO
3
であり、前記内部電極層は、Pd-Cu合金を含み、前記内部電極層に含まれる銅の含有率が、銅元素換算で、4.5at%以上15at%以下であり、かつ、前記圧電体層に含まれる銅の含有率が、銅元素換算で、1.0mol%以上2.4mol%以下である。
【請求項2】
圧電体層と内部電極層とが積層してある積層体を有し、
前記内部電極層は、Pd-Cu合金を含み、
前記内部電極層に含まれる銅の含有率が、銅元素換算で、
4.5at%以上、8at%以下であり、
前記圧電体層には、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物が主成分として含まれ、
前記複合酸化物が、チタン酸ジルコン酸鉛であり、
前記圧電体層には、銅が含まれており、
前記圧電体層に含まれる銅の含有率が、銅元素換算で、1.0mol%以上、2.4mol%以下である圧電素子。
【請求項3】
前記圧電体層には、銅が含まれており、
前記圧電体層に含まれる銅の含有率が、銅元素換算で、1.0mol%以上、4.5mol%以下である請求項1に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記積層体に含まれる銅の総含有率が、銅元素換算で、1.0mol%以上、5.0mol%以下である請求項1~3のいずれかに記載の圧電素子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の圧電素子を含む圧電アクチュエータ。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の圧電素子を含む圧電トランス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体層と内部電極層とが積層された圧電素子、および、当該圧電素子を有する圧電アクチュエータおよび圧電トランスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、圧電体層と内部電極層とが積層された圧電素子が知られている。この積層型の圧電素子では、単位体積当たりの変位量や駆動力を、非積層型の圧電素子に比べて大きくすることが可能である。
【0003】
このような積層型の圧電素子は、オフセット印刷やスクリーン印刷などの各種印刷法により製造することができる。たとえば、圧電セラミックを含むグリーンシートに導電ペーストを印刷し、そのグリーンシートを複数積層することでグリーンチップを得る。そして、このグリーンチップを焼成することで、積層型の圧電素子が得られる。この際、圧電体層と内部電極層との密着性が十分でないと、得られる圧電素子において、誘電損失が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実情を鑑みてなされ、その目的は、誘電損失を低減した圧電素子と、当該圧電素子を有する圧電アクチュエータおよび圧電トランスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係る圧電素子は、
圧電体層と内部電極層とが積層してある積層体を有し、
前記内部電極層は、パラジウム、ニッケル、白金、金、銀から選ばれる少なくとも1種の元素と、銅とを含み、
前記内部電極層に含まれる銅(Cu)の含有率(CIE)が、銅元素換算で、1at%以上、50at%以下である。
【0007】
積層型の圧電素子では、内部電極層としてパラジウム(Pd)電極、または銀(Ag)-Pd合金電極を用いることが一般的であった。ただし、これらの電極を用いた場合、誘電損失の向上が課題であった。本発明者等は、鋭意検討した結果、内部電極層に所定量のCuを含有させることで、内部電極層と圧電体層との密着性が向上し、誘電損失を低減できることを見出した。
【0008】
好ましくは、前記圧電体層にも、銅(Cu)が含まれており、
前記圧電体層に含まれる銅の含有率(CPE)が、銅元素換算で、1.0mol%以上、4.5mol%以下である。
本発明の圧電素子では、圧電体層にも所定量のCuを含有させることで、誘電損失を低減することができると共に、機械的品質係数Qmを高くすることができる。
【0009】
好ましくは、前記積層体に含まれる銅の含有率(CLB)が、銅元素換算で、1.0mol%以上、5.0mol%以下である。
ここで「積層体に含まれる銅の含有率(CLB)」とは、積層体全体の総物質量(モル数)に対する、Cuの総物質量の比率を意味し、Cuの総物質量は、内部電極層に含まれるCuの物質量と圧電体層に含まれるCuの物質量との総和である。つまり、含有率CLBは、内部電極層に含まれるCuの含有率CIE、および、圧電体層に含まれるCuの含有率CPEのみならず、各層の積層数や寸法(すなわち積層体を構成する各層の体積)にも依存する。
【0010】
本発明の圧電素子では、積層体に含まれる銅の含有率CLBが所定の範囲内にあることで、誘電損失がより小さくなると共に、Qmがさらに向上する。
【0011】
好ましくは、前記圧電体層には、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物が主成分として含まれ、前記複合酸化物が、チタン酸ジルコン酸鉛、または、ニオブ酸アルカリ金属系化合物である。圧電体層を上記の材質で構成することで、圧電特性がより向上する。
【0012】
本発明に係る圧電素子は、機械エネルギーと電気エネルギーとを相互に変換することができ、圧電デバイスとして様々な分野で幅広く利用することができる。たとえば、本発明に係る圧電素子は、逆圧電効果を利用する圧電アクチュエータに適用できる。本発明の圧電素子を含む圧電アクチュエータは、印加電圧に対して、微小な変位が精度よく得られ、かつ、応答速度が速いため、たとえば、光学系部品の駆動装置、HDDのヘッド駆動装置、インクジェットプリンタのヘッド駆動装置、燃料噴射弁の駆動装置、およびハプティックスデバイスなどの各種電子機器に組み込むことができる。また、本発明の圧電素子は、逆圧電効果を利用する圧電ブザーや圧電スピーカとしても適用できる。
【0013】
さらに、本発明に係る圧電素子は、圧電効果を利用して、微小な力や変位量を読み取るためのセンサに適用できる。また、本発明に係る圧電素子は、優れた応答性を有するため、交流電界を印加することで、当該素子に含まれる圧電体層自身または圧電体層と接合関係にある弾性体を励振して共振を起こさせることが可能である。そのため、圧電トランスや超音波モータなどにも適用できる。
【0014】
本発明に係る圧電素子は、上述した用途のなかでも、特に、圧電アクチュエータまたは圧電トランスとして利用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る圧電素子を示す模式的な斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すII-II線に沿う模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る圧電素子の変形例を示す模式的な断面図である。
【
図4】
図4は、実施例の評価結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0017】
本実施形態では、本発明に係る圧電素子が適用された圧電デバイスの一例として、
図1に示す圧電トランス1について説明する。圧電トランス1は、圧電効果を利用して、入力された交流電圧を変圧して出力する変圧器である。
【0018】
図1に示すように、圧電トランス1は、素子本体10(積層体)と、素子本体10の主面である一対の対向面10a,10bに形成された一対の入力電極20a,20bとを備えている。素子本体10は、平面形状が長方形であって、全体形状が直方体形状を有している。ただし、素子本体10の形状は、特に限定されず、所望の特性、用途等に応じて、任意に設定することができる。また、素子本体10の寸法も、所望の特性、用途等に応じて、任意に設定することができる。
【0019】
本実施形態では、素子本体10は、長手方向の長さの中点Cを境界にして、電圧入力部11と電圧出力部12とに区分される。電圧入力部11と、電圧出力部12とは、一体化されている。
【0020】
図2に示すように、電圧入力部11は、圧電体層30と、内部電極層21aおよび内部電極層21bとが交互に積層された積層体である。すなわち、圧電トランス1は、積層型圧電トランスである。電圧入力部11における圧電体層30の積層数は、特に限定されず、所望の特性、用途等に応じて任意に設定できる。本実施形態では、圧電体層30は、1層~300層とすることができる。なお、電圧入力部11の両主面側には、圧電体層30が位置しており、内部電極層21a,21bの積層数は、圧電体層30の積層数に応じて決定される。
【0021】
また、圧電体層30の1層あたりの平均厚み(層間平均厚み)は、所望の特性、用途等に応じて任意に設定すればよい。本実施形態では、圧電体層30の層間平均厚みは、たとえば1~200μmとすることができ、50~140μmであってもよい。一方、内部電極層21a,21bの1層あたりの平均厚みも、任意に設定可能であるが、本実施形態では、0.5~20μmとすることができ、1~10μmであってもよい。
【0022】
内部電極層21a,21bは、それぞれ、入力電極20a,20bと同じ形状を有している。積層方向から見た場合、入力電極20aと内部電極層21aとは、重複するように配置され、入力電極20bと内部電極層21bとは、重複するように配置される。また、内部電極層21aと内部電極層21bとは、圧電体層30を介して交互に積層されている。
【0023】
図1に示すように、内部電極層21aは、引出部21acを介して、素子本体10の端面10cに引き出され、端面10c上に露出している。同様に、内部電極層21bは、引出部21bdを介して、素子本体10の端面10cに引き出され、端面10c上に露出している。
【0024】
入力電極20aと引出部21acとは、接続電極20cにより電気的に接続されており、入力電極20bと引出部21bdとは、接続電極20dにより電気的に接続されている。すなわち、入力電極20aと内部電極層21aとは、電気的に接続されており、入力電極20bと内部電極層21bとは、電気的に接続されている。また、本実施形態では、接続電極20cと接続電極20dとは、素子本体10の短手方向に沿って、短手方向の長さの中点を通る直線に対して線対称に配置されており、互いに絶縁してある。
【0025】
本実施形態において、電圧入力部11が、上記のような構成を有することにより、入力電極20a,20bおよび内部電極層21a,21bを介して、各圧電体層30に電圧を印加することができる。なお、電圧入力部11の構成は、
図1に示す構成に限定されず、入力電極20aと入力電極20bとが短絡しないように、入力電極20aと内部電極層21aとが電気的に接続され、入力電極20bと内部電極層21bとが電気的に接続してあればよい。たとえば、接続電極20c,20dは、圧電体層30を貫通するスルーホール電極であってもよい。また、引出部21acと引出部21bdとは、素子本体10において、互いに異なる側面に露出して、接続電極20cまたは接続電極20dと電気的に接続してあってもよい。
【0026】
また、入力電極20aと接続電極20cとは、
図1および
図2において、区別して記載してあるが、これらは、製造過程において一体的に形成することができる。同様に、入力電極20bと接続電極20dも、一体的に形成することができる。
【0027】
電圧出力部12は、圧電体層30のみが積層された積層体であって、電圧出力部12の主面および内部には、電極が形成されていない。本実施形態では、電圧出力部12において、素子本体10の端面10cと対向する面、すなわち、素子本体10の端面10dに、出力電極20eが形成してある。
【0028】
また、本実施形態において、素子本体10の電圧入力部11は、素子の厚み方向に分極してあり、素子本体10の電圧出力部12は、素子の長手方向に分極してある。このように、内部電極層21a,21bを有する電圧入力部11と、圧電体層30のみで構成された電圧出力部12とを構成することで、素子本体10は、圧電トランスとして利用可能となる。
【0029】
たとえば、入力電極20a,20bに所定の周波数で交流電圧を印加すると、まず、圧電入力部11において、逆圧電効果により電気エネルギーが機械エネルギーに変換され、電圧入力部11が振動する。そして、電圧入力部11の振動により、電圧入力部11と一体化している電圧出力部12が励振され、電圧出力部12も振動する。その結果、電圧出力部12において、圧電効果により、機械エネルギーが電気エネルギーに変換され、出力電極20eから変換された電気エネルギーが出力される。
【0030】
以下、圧電トランス1の各構成要素について、詳細を説明する。
【0031】
(内部電極層21a,21b)
内部電極層21a,21bは、いずれも、主として導電材料で構成してある。本実施形態において、内部電極層21a,21bを構成する導電材料は、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)から選ばれる少なくとも1種の元素と、銅(Cu)とを含む合金である。たとえば、Pd-Cu合金、Ni-Cu合金、Pt-Cu合金、Au-Cu合金、Ag-Pd-Cu合金などが例示され、特に、Pd-Cu合金を用いることが好ましい。また、内部電極層21a,21bを構成する上記の合金は、融点が、850℃以上であることが好ましく、1000℃~1200℃の範囲内であることがより好ましい。
【0032】
上記のとおり、内部電極層21a,21bには、銅が含まれるが、各内部電極層21a,21bにおけるCuの含有率CIEは、銅元素換算で、1at%以上、50at%であり、1at%~15at%の範囲内であることがより好ましく、3at%~8at%の範囲内であることがさらに好ましい。CIEが上記の範囲内であることで、圧電トランス1の誘電損失を低減することができる。
【0033】
なお、各内部電極層21a,21bに含まれるCuの含有率CIEは、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP)による定量分析、もしくは、走査型電子顕微鏡(SEM)または走査透過型電子顕微鏡(STEM)などを用いた断面観察時に、電子線マイクロアナライザ(EPMA)による定量分析を行うことで測定することができる。すなわち、上記の含有率CIEは、所定の分析領域において、内部電極層100原子数中に含まれるCu元素の割合として表される。含有率CIEは、ICPもしくはEPMAによる定量分析を、測定領域(もしくは試料採取箇所)を変えて少なくとも2回実施し、その平均値として算出することが好ましい。
【0034】
また、含有率CIEは、ICPもしくはEPMAによる定量分析の他に、X線回折(XRD)によっても測定可能である。XRDを用いる場合、2θ/θ測定などにより得られたXRDパターンに対して、ピーク解析を実施し格子定数を算出する。そして、その格子定数からヴェガード則に基づいて銅の含有率CIEを算出する。
【0035】
(圧電体層30)
電圧出力部12、および、電圧入力部11の圧電体層30は、圧電効果および逆圧電効果を奏する圧電組成物で構成してある。圧電組成物としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:PbZrxTi1-xO3)、ニオブ酸アルカリ金属系化合物(KN:KNbO3またはKNN:(K,Na)NbO3)、チタン酸ビスマスナトリウム(BNT:BiNaTiO3)、ビスマスフェライト(BFO:BiFeO3)、BLSF(一般式:(Bi2O2)2+(Am-1BmO3m+1)2-)、ニオブ酸バリウムナトリウム(BSN:Ba2NaNb5O15)などが例示される。
【0036】
本実施形態の圧電体層30では、上記の化合物のなかでも、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含むことが好ましい。なお、本実施形態において、主成分とは、圧電組成物100mol%中、90mol%以上を占める成分を意味する。
【0037】
ペロブスカイト構造の複合酸化物は、一般式ABO3で表され、上記の化合物のなかでは、PZT、KN、KNN、BNT、BFOが該当する。本実施形態では、ペロブスカイト構造の複合酸化物のなかでも、特にPZT、もしくは、KN、KNNなどのニオブ酸アルカリ金属系化合物を主成分とすることが好ましい。PZTもしくはニオブ酸アルカリ金属系化合物は、特に圧電特性が優れ、これらを主成分とすることで変位量や駆動力などの圧電素子としての性能が向上する。
【0038】
本実施形態において、圧電体層30は、上述した主成分の他に、副成分としてCuを含むことが好ましい。副成分として銅を含む場合、圧電体層30におけるCuの存在形態は、特に制限されず、Cuは、主成分で構成される主相の粒内に固溶していてもよいし、粒界に存在していてもよい。Cuが粒界に存在する場合には、他の元素と化合物を形成していてもよい。
【0039】
圧電体層30に含まれるCuの含有率CPEは、銅元素換算で、0.5mol%以上、5.0mol%以下であることが好ましく、1.0mol%~4.5mol%の範囲内であることがより好ましい。圧電体層30におけるCuの含有率CPEが上記の範囲内であることで、本実施形態に係る圧電トランス1では、機械的品質係数Qmが向上する傾向にある。また、圧電体層30においてCuが主相の粒内または/および粒界に存在することにより、主相間の結合力が強くなり、圧電体層30の機械的強度を高めることもできる。
【0040】
また、圧電体層30に含まれるCuの含有率CPEは、含有率CIEと同様に、ICPによる定量分析、もしくは、EPMAによる定量分析を行うことで測定できる。すなわち、含有率CPEは、所定の分析領域において、圧電体層100モルに含まれるCu元素の割合として表される。なお、含有率CPEも、ICPもしくはEPMAによる定量分析を、測定領域(もしくは試料採取箇所)を変えて少なくとも2回実施し、その平均値として算出することが好ましい。
【0041】
また本実施形態において、圧電体層30には、Cu以外に、副成分として他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、たとえば、遷移金属元素(長周期型周期表における3族~11族の元素)、長周期型周期表における2族元素、12族元素、13族元素、およびゲルマニウム(Ge)から選択される少なくとも1種を含有していてもよい。
【0042】
具体的には、希土類元素を除く遷移金属元素として、たとえば、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)などが挙げられる。また、希土類元素として、たとえば、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)などが挙げられる。
【0043】
2族元素としては、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)が例示され、12族元素としては、亜鉛(Zn)、13族元素としては、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)が例示される。
【0044】
なお、上述したCu以外の副成分は、Cuの副成分と共に添加されることが好ましい。圧電体層30の主成分がPZTである場合、上記の副成分(Cu以外)のなかでは、Mn、Cr、Feを選択することが好ましい。一方、圧電体層30の主成分がニオブ酸アルカリ金属系化合物である場合、上記の副成分(Cu以外)のなかでは、Ge、Ta、Znを選択することが好ましい。
【0045】
(その他の電極)
入力電極20a,20bと、接続電極20c,20dと、出力電極20eとは、いずれも、導電材で構成してあればよく、当該導電材は特に限定されない。たとえば、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、Ni(ニッケル)、銅(Cu)、錫(Sn)など、もしくは、上記の元素のうちいずれかを含む合金が挙げられる。電極20a~20eを構成する導電材は、内部電極層21a,21bを構成する合金と同じであってもよい。また、電極20a~20eは、上記の金属元素の粉末と、SiO2等のガラス粉末とを混合したペーストを、焼き付け処理することで形成してもよい。さらに、各電極20a~20eの外層には、上記の金属元素等を含むメッキ層やスパッタ層が形成してあってもよい。
【0046】
(素子本体10)
前述したように、本実施形態では、内部電極層21a,21bにCuが含まれており、圧電体層30にもCuが含まれていることが好ましい。この場合、素子本体10(積層体)全体に含まれるCuの含有率CLBは、1.0mol%以上、5.0mol%以下とすることが好ましい。素子本体10全体に対するCuの含有率CLBを上記の範囲内とすることで、誘電損失をさらに低減することができ、かつ、Qmをさらに向上させることができる。
【0047】
ここで「銅の含有率CLB」とは、素子本体10全体の総モル数(総物質量)に対する、Cuの総モル数の比率を意味し、Cuの総モル数は、内部電極層21a,21bに含まれるCuのモル数と圧電体層30に含まれるCuのモル数との総和である。つまり、含有率CLBは、内部電極層21a,21bに含まれるCuの含有率CIE、および、圧電体層30に含まれるCuの含有率CPEのみならず、各層の積層数や寸法(すなわち積層体を構成する各層の体積)にも依存する。
【0048】
より具体的に、含有率CLBは、以下の手順により算出される。まず、内部電極層21a,21bの全モル数NIEと、圧電体層30の全モル数NPEとを算出する。内部電極層の全モル数NIEは、素子本体10に含まれる内部電極層21a,21bの全体積をVIEとし、内部電極層21a,21bの理論密度をρIEとし、内部電極層21a,21bの理論分子量をMIEとして、以下の(1)式に基づいて算出される。
NIE = VIE×ρIE/MIE … (1)
【0049】
同様に、圧電体層30の全モル数NPEは、素子本体に含まれる圧電体層30の全体積をVPEとし、圧電体層30の理論密度をρPEとし、圧電体層30の理論分子量をMPEとして、以下の(2)式に基づいて算出される。
NPE = VPE×ρPE/MPE … (2)
【0050】
なお、上記の(1)式および(2)式において、ρIEとMIE、およびρPEとMIEは、いずれも、ICPもしくはEPMAによる定量分析結果に基づいて算出する。たとえば、内部電極層の定量分析結果が、Cu:4at%(=4mol%)、Pd:残部(96at%)である場合、ρIEとMIEは以下の式で求められる。
ρIE = {4mol% ×Cuの密度(8.96g/cm3)}+
{96mol% ×Pdの密度(12.02g/cm3)}
MIE = {4mol% ×Cuの原子量(63.5g/mol)}+
{96mol% ×Pdの密度(106.4g/mol)}
【0051】
また、上記の(1)式および(2)式において、V
IEおよびV
PEは、各層の積層数や各層の寸法によって算出する。なお、
図1に示す圧電トランス1の場合、圧電体層30の全体積V
PEは、電圧入力部11に含まれる圧電体層30の体積と、電圧出力部12に含まれる圧電体層30の体積との総和である。
【0052】
そして、上記で得られたNIEとNPE、および、定量分析結果(すなわちCIEおよびCPE)を、以下の(3)式に代入することにより、含有率CLBが得られる。
CLB(mol%)={(CIE×NIE/100)+(CPE×NPE/100)}/{NIE+NPE} ×100% … (3)
【0053】
上記の(1)~(3)式から明らかなように、素子本体10(積層体)全体に含まれるCuの含有率CLBは、内部電極層21a,21bの組成、圧電体層30の副成分の含有量、各層の積層数および寸法により制御することができる。
【0054】
次に、本実施形態に係る圧電トランス1の製造方法の一例について、以下に説明する。
【0055】
まず、素子本体10の製造工程について説明する。素子本体10の製造工程では、焼成後に圧電体層30となるグリーンシートと、焼成後に内部電極層21a,21bとなる内部電極用ペーストとを準備する。
【0056】
グリーンシートは、たとえば以下の方法で製造される。まず、圧電体層30の出発原料を、所定の割合に秤量した後、ボールミルなどの混合機を用いて、5~20時間混合する。この際、主成分の出発原料としては、酸化物、炭酸塩、炭酸水素化合物などを用いることができる。たとえば、圧電体層30の主成分をKNbO3とする場合、Kを含む出発原料として炭酸水素カリウム(KHCO3)の粉末を用いることができ、Nbを含む出発原料として酸化ニオブ(Nb2O5)の粉末を用いることができる。また、圧電体層30に副成分が含まれる場合、副成分の出発原料としては、金属単体、酸化物、複合酸化物、炭酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物などを用いることができる。たとえば、副成分としてCuを添加する場合、Cuの出発原料としては、Cu単体、酸化銅(CuOなど)、KαCuβTaγOδなどのCuを含む複合酸化物などが例示される。
【0057】
主成分の出発原料、および、副成分の出発原料は、いずれも、粉体であって、その平均粒径は、0.1μm~5.0μmの範囲内であることが好ましい。なお、副成分の出発原料は、上記の主成分出発原料の混合工程で添加してもよいが、後述する仮焼成後に添加することが好ましい。
【0058】
また、出発原料の混合工程において、混合の方法としては、湿式混合でもよいし、乾式混合でもよい。湿式混合を行った場合は、混合後に得られた混合粉を乾燥させる。また、ここで得られた混合粉は、プレス成形して、仮成形体としたうえで、次に示す仮焼き処理を実施してもよい。
【0059】
仮焼き処理では、混合粉または仮成形体を、大気中において750~1050℃、1~20時間の条件で熱処理し、複合酸化物の仮焼き粉末(もしくは仮焼成体)を得る。仮成形体を仮焼きした場合、もしくは、得られた仮焼き粉末が凝集している場合には、たとえば、ボールミルなどの解砕機を用いて、所定時間仮焼き粉末の粉砕を行い、解砕粉とすることが好ましい。次工程で使用する仮焼き粉末の平均粒径、または、解砕粉の平均粒径は、0.1μm~5μmであることが好ましい。
【0060】
仮焼き処理後に副成分を添加する場合には、上記の仮焼き粉末または解砕粉に、所定の割合に秤量した副成分の出発原料を添加して混合し、圧電組成物の原料粉を得る。主成分と副成分との混合も、上記における主成分出発原料の混合と同様に、ボールミルやビーズミルなどの各種混合機で、湿式混合もしくは乾式混合により実施することができる。圧電体層30が副成分としてCuを含む場合、このCuの含有率CPEは、副成分の出発原料の添加量によって制御することができる。
【0061】
次に、上記で得られた原料粉に、バインダと溶媒とを添加して、ボールミルなどで混合しスラリー化することで、グリーンシート用ペーストを得る。この際使用するバインダとしては、アクリル系樹脂、エチルセルロース系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂などの有機溶剤に溶解する樹脂、もしくはポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などの水溶性バインダを用いることができ、溶媒としては、エタノール、アセトン、テルピネオール、ブチルカルビトールなどの有機溶剤、もしくは純水などを用いることができる。また、上記の他に、可塑剤、分散剤などを添加してもよい。
【0062】
そして、ドクターブレード法などの手法により、PETなどの樹脂フィルム上に、グリーンシート用ペーストを所定の厚みで塗布し、その後、適宜乾燥させることで、グリーンシートを得る。
【0063】
一方、内部電極用ペーストは、導電性金属の粉末と、バインダと溶媒とを、三本ロールなどの混練機を用いて混錬し、スラリー化することで得られる。導電性金属の粉末としては、Cu粉末、Pd粉末、Ni粉末、Pt粉末、Au粉末、Ag粉末などを用いることができる。また、Pd-Cu合金粉末や、Ag-Pd合金粉末などの予め合金化した粉末を用いることもできる。本実施形態の内部電極層21a,21bは、Cuを含むが、このCuの含有率CIEは、内部電極用ペーストに含まれるCu粉末の割合によって制御することができる。
【0064】
なお、内部電極用ペーストにおいて、バインダとしては、エチルセルロース系樹脂、ブチラール系樹脂、アクリル系樹脂などを用いることができ、溶媒としては、テルピネオール、ターピネオールなどの各種アルコール類や、メチルエチルケトン(MEK)、キシレンなどを用いることができる。さらに、内部電極用ペーストには、上記の他に、ベンゾトリアゾールなどの腐食抑制剤や、ホモゲノールなどの帯電防止剤などを添加してもよい。
【0065】
こうして得られたグリーンシートと、内部電極用ペーストとを用いて、素子本体10となるグリーンチップを作製する。まず、オフセット印刷やスクリーン印刷などの各種印刷法により、内部電極用ペーストをグリーンシートの上に印刷する。この際、内部電極層21a,21bに対応するパターンが形成された印刷用マスクなどを使用して、ペーストの塗布箇所を調整する。
【0066】
そして、内部電極用ペーストを印刷したグリーンシートを、
図1に示すような所定の順序で積層する。この際、積層方向の最下層と最上層には、内部電極用ペーストが印刷されていないグリーンシートを配置する。その後、この積層体に対して、熱プレスを行い、グリーンチップを得る。本実施形態において、熱プレスは、20~100℃に加熱しながら、30~300MPaの圧力で3~15分間行うことが好ましい。
【0067】
次に、得られたグリーンチップに対して、脱バインダ処理を施す。脱バインダ処理の条件は、保持温度を好ましくは400℃~800℃とし、温度保持時間を好ましくは2時間~8時間とする。
【0068】
続いて、脱バインダ処理後のグリーンチップを焼成する。焼成条件としては、保持温度を好ましくは950℃~1060℃とし、温度保持時間を好ましくは2時間~4時間とし、昇温および降温速度を好ましくは50℃/時間~300℃/時間とする。また、焼成時の炉内雰囲気は、窒素もしくは窒素・水素の混合雰囲気、すなわち還元雰囲気とすることもできるが、大気雰囲気とすることが好ましい。なお、還元雰囲気で焼成した場合は、圧電体組成物の組成が若干変動するため、焼成後に再酸化処理を実施することが好ましい。
【0069】
また、圧電体層30に副成分としてCu成分を添加する場合には、内部電極用ペースト中にCu粉末を添加しなくてもよい。この場合、焼成の条件を適正に制御することで、圧電体層30(グリーンシート)中に含まれるCuを、内部電極層21a,21bに拡散させることができる。
【0070】
たとえば、焼成温度に到達する前に瞬間的(もしくは数分程度)に温度を1060℃~1200℃と通常よりも高い温度にすることが好ましい。このように、焼成時に加える総熱エネルギーを増やすことで、圧電体層側のCuが内部電極層側に拡散しやすくなる。
【0071】
上記のように圧電体層側のCuを拡散させて内部電極層に含まれるCuの含有率CIEを制御する場合、含有率CIEは、1.0at%~10at%程度の範囲となる。すなわち、含有率CIEを10at%超過とする場合は、内部電極用ペースト中にCu粉末を添加して、含有量を調整することが好ましい。
【0072】
上記のような方法により、焼結体としての素子本体10が得られる。焼成後の素子本体10には、適宜研磨や切断などの処置を施し、素子本体10に入力電極20a,20b、接続電極20c,20d、出力電極20eを形成する。これらの電極20a~20eは、電極用ペーストを塗布して焼き付けることで形成できる。その他、蒸着、スパッタリング、メッキなどで形成してもよく、電極20a~20eの形成方法は特に限定されない。
【0073】
最後に、電極を形成した素子本体10を、所定の温度のオイル中で2kV/mm~5kV/mmの電界を5分間~1時間程度印加して、分極処理する。なお、オイルの温度や、印加する電界の大きさなどは、圧電組成物の主成分によって最適範囲が異なる。また、電圧入力部11に対しては、内部電極の積層方向に分極処理し、電圧出力部12対しては、素子本体10の長手方向に分極処理する。これにより、分極処理後に、電圧入力部11においては自発分極が内部電極の積層方向に揃えられ、電圧出力部12においては自発分極が素子本体の長手方向に揃えられた圧電トランスが得られる。
【0074】
なお、上記において、1個の素子本体10を得るための手順を示したが、一枚のシートに多数の内部電極パターンが形成されたグリーンシートが用いられてもよい。このようなシートを用いて形成された集合積層体は、焼成前もしくは焼成後に適宜切断される。これにより、最終的に
図1に示すような素子が複数個得られる。
【0075】
(本実施形態のまとめ)
本実施形態に係る圧電素子(圧電トランス1)は、素子本体10に含まれる内部電極層21a,21bが、Cuを含む合金で構成してある。そして、内部電極層21a,21bに含まれるCuの含有率CIEが、1.0at%以上、50at%以下である。このように内部電極層中のCu含有量を調整することで、誘電損失を低減することができる。
【0076】
ここで、誘電損失は、圧電素子の性能を決める重要な特性のひとつである。たとえば、圧電素子に電界を印加した際、誘電損失の大きさに応じて、供給された電気エネルギーの一部が熱エネルギーとして消費される。すなわち、電気エネルギーと機械エネルギーとの相互変換において、誘電損失が大きいと、変換効率が低下する。一般的に、誘電損失は、インピーダンスアナライザなどを用いて、誘電正接tanδ(単位:%)として測定され、tanδの値が小さいほど、誘電損失が小さく性能が良好であると判断する。本実施形態の圧電素子では、内部電極層に所定量のCuが含まれることで、測定周波数1kHzでのtanδを10%未満に低減することができる。
【0077】
誘電損失が低減する理由は、必ずしも明らかではないが、たとえば以下の事由が考えられる。圧電素子における内部電極として、一般的なPd電極やAg-Pd合金電極を用いた場合、内部電極層と圧電体層とが十分に密着せずに隙間や剥離が生じることがあり、このような隙間などの影響で誘電損失が大きくなると考えられる。本実施形態の圧電素子では、内部電極層に所定量のCuを含有させることで、内部電極層と圧電体層との密着性が向上すると考えられる。密着性が向上した結果、内部電極層と圧電体層との間で隙間や剥離の発生が抑制され、誘電損失を低減することができると考えられる。
【0078】
また、本実施形態の圧電素子では、圧電体層30にもCuが含まれており、圧電体層30に含まれるCuの含有率CPEが、1.0mol%以上、4.5mol%以下である。このように圧電体層30にCuが含まれることで、分極処理においてリーク電流の発生が抑制でき、圧電体層30の自発分極が十分に進むと考えられる。その結果、誘電損失を低減できると共に、機械的品質係数Qmを高くすることができる。
【0079】
さらに、本実施形態の圧電素子では、素子本体10(積層体)全体に含まれるCuの含有率CLBが、1.0mol%以上、5.0mol%以下である。含有率CLBが上記の範囲内にあることで、誘電損失がさらに低減されると共に、Qmをさらに向上させることができる。
【0080】
(変形例)
なお、本実施形態では、圧電素子の一例として圧電トランス1を示したが、本発明の圧電素子は、圧電トランスの他に、圧電アクチュエータ、圧電ブザー、圧電スピーカ、超音波モータ、センサなどにも適用可能である。たとえば、
図3に示すような圧電素子100は、圧電アクチュエータとして利用することができる。
【0081】
図3に示す圧電素子100は、
図1の圧電トランス1における電圧出力部12に相当する構成を有しておらず、素子本体110では、圧電体層30と内部電極層21a、21bとが交互に積層してある。また、内部電極層21a,21bとは、それぞれ、端部が素子本体110の端面110c,110dに露出しており、露出した端部で、端子電極220c,220dと電気的に接続している。圧電素子100は、図示しない配線などを介して、端子電極220c,220dに外部電源や外部回路を接続することで、圧電アクチュエータとして機能する。
【0082】
なお、圧電素子100においても、圧電体層30の平均厚みや積層数は、上述した実施形態と同様とすることができる。また、圧電素子100における内部電極層21a,21bの平均厚みや積層数も、上述した実施形態と同様とすることができる。
【0083】
また、圧電素子100においても、Cuの含有率CIE,CPE,CLBを所定の範囲に制御することで、上述した実施形態と同様の効果が得られる。また、圧電素子100を含む圧電アクチュエータは、印加電圧に対して、微小な変位が精度よく得られ、かつ、応答速度が速いため、たとえば、光学系部品の駆動装置、HDDのヘッド駆動装置、インクジェットプリンタのヘッド駆動装置、燃料噴射弁の駆動装置、およびハプティックスデバイスなどに適用できる。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の様態で改変してもよい。
【実施例】
【0085】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
(実施例1)
実施例1では、以下の手順で
図3に示す圧電素子100を作製し、得られたサンプルの誘電正接tanδと機械的品質係数Qmとを測定した。
【0087】
まず、圧電組成物の出発原料として、炭酸水素カリウム(KHCO3)の粉末と酸化ニオブ(Nb2O5)の粉末とを準備し、焼成後に所定の組成(KNbO3)となるように秤量した。そして、この出発原料を、ボールミルにより16時間湿式混合した後、120℃において乾燥し、混合粉を得た。次に、得られた混合粉をプレス成形して、1000℃で4時間仮焼き、複合酸化物の仮焼成体を得た。さらに、この仮焼成体をボールミルにより16時間解砕し、解砕粉を得た。
【0088】
実施例1では、副成分を添加することなく、上記で得られた解砕粉(原料粉)に、バインダと溶媒とを添加して、ボールミルで混合することで、グリーンシート用ペーストを作製した。この際、バインダとしてポリビニルブチラール樹脂を用いて、これを、原料粉100重量部に対して、10重量部添加した。また、溶媒としてはMEKを用い、これを原料粉100重量部に対して、100重量部添加した。さらに、実施例1では、可塑剤としてジブチルフタレート(DOP)を、原料粉100重量部に対して、5重量部添加した。
【0089】
また、上記とは別に、Pd粉末とCu粉末とを用いて、内部電極用ペーストを作製した。具体的に、Pd粉末とCu粉末とを所定の割合で秤量し、これにエチルセルロース(バインダ)とテルピネオール(溶媒)とベンゾトリアゾール(腐食防止剤)とを加えて、3本ロールにより混練することで、Pd-Cu合金ペーストを作製した。この際、各成分の添加量は、ペースト100wt%に対して、バインダ:3wt%、溶媒:52wt%、腐食防止剤:0.4wt%とした。
【0090】
続いて、グリーンシート用ペーストを、PETフィルム上に所定の厚みで塗布し、これを乾燥させることで、グリーンシートを得た。そして、このグリーンシートの上に、Pd-Cu合金ペーストを所定のパターンで印刷し、PETフィルム上から剥離することで、内部電極パターンが印刷されたグリーンシートを得た。次に、このグリーンシートを所定の順番で複数積層した。また、積層方向の最下層および最上層には、電極パターンが形成されていないグリーンシートを積層し、その後、加圧接着することでグリーンチップを得た。
【0091】
こうして得られたグリーンチップに、脱バインダ処理を施した。脱バインダ処理は、大気雰囲気下において、保持温度を550℃、温度保持時間を2時間として実施した。次に、脱バインダ処理後のグリーンチップを、大気雰囲気で1050℃、2時間の条件で焼成し、積層体(焼結体)試料を得た。
【0092】
続いて、得られた積層体の2つの端面に、銀ペーストを印刷し、800℃にて焼き付け処理し、端子電極を形成した。最後に、端子電極形成後の積層体に対して、150℃のシリコンオイル中で3kV/mmの電界を5分間印加して、分極処理を施し、実施例1に係る圧電素子試料を得た。
【0093】
なお、上記では説明を省略したが、実施例1では、グリーンシートの積層体を集合積層体として作成し、脱バインダ処理の前にこの集合積層体を切断することで、30個の圧電素子試料を作製した。また、実施例1の圧電素子試料において、圧電体層は、平均厚み20μmであり、内部電極層は、平均厚み2μmで10層積層してある。加えて、得られた圧電素子試料の断面をSEMにより観察した。その際、EPMAにより圧電体層および内部電極層の定量分析を行い、実施例1の圧電素子試料におけるCIE,CPE,CLBを測定したところ、表1に示すような結果が得られた。なお、表1におけるCotherは、内部電極層に含まれるCu以外の成分の含有率を意味している。
【0094】
(特性評価)
また、実施例1に係る圧電素子試料のtanδとQmとを、HEWLETT PACKARD社製のインピーダンスアナライザ(4194A)により測定した。なお、tanδは、測定電圧:100mV,測定周波数:1kHの条件で測定した。本実施例では、tanδの基準値を10%以下とし、6%以下を良好、4%以下をさらに良好と判断する。一方、Qmについては、290を基準値とし、1000以上を良好、2000以上をさらに良好と判断する。
【0095】
(実施例2~6)
実施例2~6では、Pd-Cu合金ペーストの作成時にPd粉末とCu粉末の割合を変えて実験を行い、実施例1とはCIEが異なる圧電素子試料を作製した。各実施例2~6のCIE,CPE,CLBをEPMAにより測定した結果を表1に示す。また、実施例2~6において、上記以外の実験条件は実施例1と同様として、各圧電素子試料のtanδとQmとを測定した。
【0096】
(比較例1および2)
比較例1および2でも、Pd-Cu合金ペーストの作成時にPd粉末とCu粉末の割合を変えて実験を行い、実施例1とはCIEが異なる圧電素子試料を作製した。上記以外の実験条件は実施例1と同様として、比較例1および2に係る圧電素子試料のtanδとQmとを測定した。
【0097】
(実施例7~10)
実施例7~10では、Pd-Cu合金ペーストの組成を変更すると共に、圧電体層にも副成分としてCuを添加して、実施例1とはCIEおよびCPEが異なる圧電素子試料を作製した。なお、実施例7~10では、仮焼成後に解砕した解砕粉と、CuOとを、ボールミルで16時間混合し、その後、120℃で乾燥することで圧電体層用の原料粉を得た。また、実施例7~10におけるCPEは、添加するCuOの添加量によって制御した。上記以外の実験条件は実施例1と同様として、各実施例7~10に係る圧電素子試料のtanδとQmとを測定した。
【0098】
(実施例11~13)
実施例11~13では、積層体に含まれる圧電体層の平均厚み、および内部電極層の平均厚みを変えて実験を行い、CLBの範囲が実施例1~10とは異なる圧電素子試料を作製した。実施例11~13におけるCIE,CPE,CLBを表1に示す。
【0099】
【0100】
(評価結果1)
比較例1では、CIEが1.0at未満であるため、tanδが大きく、誘電損失の基準値を満足できなかった。また、比較例1では、Qmが小さく、Qmの基準値も満足できなかった。比較例2では、CIEが50at%超過であるため、比較例1と同様に、tanδの基準値およびQmの基準値をいずれも満足することができなかった。これに対して、CIEが、1.0at%以上50at%以下の範囲内にある実施例1~6では、比較例1および2よりも、tanδが低くなり、誘電損失を低減することができた。また、実施例1~6では、比較例1および2よりもQmが向上しており、Qmの基準値を満足することができた。
【0101】
また、
図4は、比較例1~2および実施例1~10の評価結果に基づいて、C
IEに対してtanδの測定結果をプロットしたグラフである。
図4の結果から、C
IEが1.0~50at%の場合に誘電損失を低減できることが確認でき、さらに、C
IEは、1.0~15at%であることが好ましく、3~8at%であることがより好ましいことが確認できた。
【0102】
また、実施例1~6と実施例7~10とを比較すると、圧電体層にもCuが含まれることで、Qmが飛躍的に向上することがわかる。
図5は、比較例1~2および実施例1~13の評価結果に基づいて、C
PEに対してQmの測定結果をプロットした結果である。
図5の結果から、C
PEが1~4.5mol%の範囲内である場合、Qmが2000以上とより高くなることが確認できた。
【0103】
さらに、実施例1~6と実施例11~13とを比較すると、CLBが1~5mol%の範囲内である場合に、tanδがより低減され、かつ、Qmが向上することがわかる。加えて、実施例7~10と実施例11~12とを比較すると、実施例11~12で特に評価結果が良好であることがわかる。この結果から、CIEとCPEとCLBとが、いずれも好適な範囲を満足する場合、すなわち、CIEが1.0~50at%の範囲内で、CPEが1~4.5mol%の範囲内で、CLBが1~5mol%の範囲内である場合、tanδがさらに低減され、Qmもさらに向上することが確認できた。
【0104】
(実施例21)
実施例21では、内部電極層をAu-Cu合金で構成し、圧電素子試料を作製した。実施例21において、上記以外の実験条件は実施例1と同様とした。
【0105】
(実施例22)
実施例22では、内部電極用ペースト中にはCu粉末を加えずに実験を行い、圧電素子試料を作製した。なお、実施例22では、焼成条件を実施例1の条件から変更することで、圧電体層に含まれるCuを内部電極層に拡散させた。具体的に、実施例22では、焼成時において、温度を1060℃と実施例1よりも高くし1分保持したあと、1050℃に下げ、そのまま2時間保持した。また、実施例22において、上記以外の実験条件は実施例12と同様とした。
【0106】
(実施例23~26)
実施例23,24では、圧電体層の主成分をKNN((K,Na)NbO3)で構成し、圧電素子試料を作製した。また、実施例25,26では、圧電体層の主成分をPZT(Pb(Zr,Ti)O3)で構成し、圧電素子試料を作製した。なお、圧電体層の主成分を変更した以外は、実施例23,25の実験条件は、実施例12と共通しており、実施例24,26の実験条件は、実施例11と共通している。
【0107】
実施例21~26の評価結果を表2に示す。
【0108】
【0109】
実施例21の結果から、内部電極層を構成する合金の種類を変更しても、CIEとCPEとCLBとが所定の範囲内にあることで、tanδを低減でき、かつQmが向上することが確認できた。
【0110】
実施例22の結果から、Cuを圧電体層から内部電極層に拡散させた場合であってもCIEが所定の範囲内であることで、tanδを低減できることが確認できた。また、実施例22と表1に示す実施例12とを比較すると、実施例22のほうが実施例12よりも評価結果が良好である。この結果から、内部電極用ペースト中にCu粉末を添加するよりも、圧電体層からCuを拡散させた方が、tanδをより低減でき、かつ、Qmがより向上することがわかった。
【0111】
実施例23~26の結果から、圧電体層を構成する主成分を変更しても、CIEとCPEとCLBとが所定の範囲内にあることで、tanδを低減でき、かつQmが向上することが確認できた。また、実施例11~12と実施例23~26とを比較すると、圧電体層の主成分がKNNもしくはPZTであることで、tanδの低減効果や、Qmの向上効果がより大きくなることがわかった。
【符号の説明】
【0112】
1 … 圧電トランス(圧電素子)
10 … 素子本体
11 … 電圧入力部
20a,20b … 入力電極
20c,20d … 接続電極
21a,21b … 内部電極層
21ac,21bd … 引出部
30 … 圧電体層
12 … 電圧出力部
20e … 出力電極
100 … 圧電素子
110 … 素子本体
220c,220d … 端子電極