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特許7491718蓋体および蓋体と容器本体とからなる包装容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】蓋体および蓋体と容器本体とからなる包装容器
(51)【国際特許分類】
   B65D 81/34 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
B65D81/34 U
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020068828
(22)【出願日】2020-04-07
(65)【公開番号】P2021165157
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120064
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】佐野 光信
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3218049(JP,U)
【文献】特開2020-050447(JP,A)
【文献】特開2020-026298(JP,A)
【文献】登録実用新案第3138601(JP,U)
【文献】特開2017-132507(JP,A)
【文献】特開2014-091542(JP,A)
【文献】実開平04-029976(JP,U)
【文献】特開2019-108173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 81/34
B65D 51/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体と、容器本体の開口部を塞ぐ合成樹脂製の蓋体とからなる、電子レンジで加熱する内容物を収容するための包装容器の蓋体であって、
前記蓋体の蓋面部は、幅が0.1mm以上1.0mm以下である全体形状がU字形の前記蓋体の表裏を貫通するスリットと、
前記U字の両端部を結ぶ直線を支点とするように前記スリットによって前記スリットの内側部に形成されるフラップであって、前記スリットの前記U字形の内側縁と前記スリットの前記U字形の外側縁とは前記U字形の前記両端部のみでつながって形成されている前記フラップと、備え、
前記フラップのフラップ外周部とフラップ外郭部との間に、蓋面と直角な方向の隙間を有しない状態に前記フラップが位置し
前記フラップ前記スリットの全周に亘って形成される膨出部を備え、前記膨出部による前記フラップの撓み量が前記フラップ外郭部の厚さを越えないように設定されている蓋体。
【請求項2】
前記スリットの前記幅は0.5mmを超える請求項1に記載の蓋体
【請求項3】
前記膨出部は、前記蓋面部の厚さ×前記スリットの幅×前記スリットの全長に等しい容積を有する請求項1または2に記載の蓋体
【請求項4】
前記スリットが、前記蓋面部に設けられた凹部内に形成されている、請求項1または2に記載の蓋体。
【請求項5】
前記スリットの周辺に蓋面より上方に突出した凸部が形成されている、請求項1または2に記載の蓋体。
【請求項6】
前記合成樹脂がポリスチレン系樹脂である、請求項1からのいずれか1項に記載の蓋体。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1項に記載の蓋体と合成樹脂製容器本体とを備える包装容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器本体に嵌合して容器本体の開口部を塞ぐ合成樹脂製の蓋体、及び前記蓋体と前記容器本体とからなり、電子レンジで加熱する食品等の内容物を収納するための包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
食品等の内容物を包装容器中に収容した状態で販売され、消費者はこれをそのまま電子レンジで加熱し、速やかに食事に供することができるよう利便性が図られたインスタント食品が、コンビニエンスストア等で近年多く販売されている。このような食品等を収容する包装容器では、加熱する際に内容物から発生する水蒸気を包装容器外に排出させ、容器内の圧力が高まることを防止する必要がある。水蒸気を排出する手段としては、打ち抜きにより蓋体の蓋面部に例えばU字形の切り込みを入れ、前記U字形の切り込みが、包装容器内外の圧力差に応じて上下に可動する弁体(本説明においては「フラップ」と呼ぶ。但し一般に「フラップ弁」等と呼称される逆止弁を意味するものではない。)として機能させる方法が考案され、このようなフラップを備える蓋体が従来から使用されている。即ちこのフラップは、U字形の両端部、即ちU字形の始点と終点とを結ぶ直線(基端線という)を支点として、加熱した際の内圧上昇によりフラップの先端部が浮き上がり、蓋体の蓋面との間に、水蒸気の通気口を形成させることを目的としたものである。(なお本説明においては、フラップの先端部に対して、フラップの基端線を含む部位をフラップの基端部と呼称する。)しかしながら、切り込みによるフラップは、打ち抜きにより形成させたものであり、フラップの外周部の側面(フラップ外周部という)と、フラップを囲む蓋体側の側面(フラップ外郭部という)との間には隙間がない。そのためフラップが閉まった状態にある、即ちフラップと蓋体とが同一面上にある場合では、フラップが蓋体に固着したような状態となるため、包装容器の内容物から発生する水蒸気による内圧の高まりに即応して浮き上がることができず、フラップとしての機能を果たすことができないという問題があった。この場合、例えば電子レンジ加熱した際の内圧上昇により、容器本体から蓋体が外れるという問題があった。
【0003】
この課題を解決するため、従来のフラップにおいては、U字形の切り込みを入れてフラップを形成した後に、さらに治具でフラップを強制的に包装容器の外側方向に押し上げておくことにより、フラップ外周部とフラップ外郭部との固着を解放し、フラップが可動しやすい状態を予め付与しておくよう対策していた。しかしながら押し上げられた位置に留まっているフラップは、常時通気口が開放された状態でもあり、しかもその通気口は、蓋面と直角な方向(フラップ可動方向に対して概ね直角な方向)に開いている隙間であるから、異物、特に微小な虫(例えばショウジョウバエ)等が、その隙間から包装容器内に侵入してくる可能性を高めるという新たな課題も発生した。
【0004】
特許文献1の段落0024及び図5には、蓋体に設けたフラップを先端部側にかけて予め浮き上げた状態としてある蓋体の発明が記載されている。さらに同文献の段落0015には、異物混入防止のため、同フラップの上方を接着ラベルで覆うとした発明が記載されている。ただしこの場合には、接着ラベルという副資材が必要となり、接着ラベルを貼り付ける工程も別途必要となり、商品生産上の経済性、効率性が低下する側面がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-52518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特に電子レンジで加熱する食品を収容することを目的とした包装容器において、蓋体に設ける水蒸気排出用のフラップに関しては、急激な温度上昇に伴い発生する水蒸気にも対応できるよう、なるべく通気量を多くできる、即ち開口面積が広くなるものであることが好ましいが、同時に、異物の混入、特に微小な虫等が侵入しないよう十分に配慮されたフラップである必要がある。従来開示されている、蓋体の蓋面部にU字形の切り込みを入れた構造のフラップでは、通気量は比較的確保しやすいが、フラップの先端部が電子レンジ加熱前に浮き上がった状態で保持されているため、虫等の異物混入の虞が払拭しきれなかった。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされた発明である。すなわち、本発明の課題は、電子レンジで加熱する食品を包装する包装容器において、蓋体に設けたU字形のスリットにより形成された本発明に係るフラップは、加熱前には蓋面と同一面上に位置して異物の混入を極力防止すると共に、加熱時には内容物から発生する水蒸気による圧力上昇に応じて浮き上がり、フラップ周囲の蓋面との間に通気口が滞りなく形成され、発生した水蒸気を容器外に排出できる蓋体の提供、および前記蓋体と容器本体とからなる包装容器を提供することである。なお、前記U字形のスリットにおける「U字形」とは、字義通りに狭義のU字形を意味するものではなく、変形したU字形であってもよい。即ちここで言うU字形とは、オーバルの一箇所が繋がっていない形状、及びそれに類する形状全般である。この場合、U字形スリットと、U字形の基端線が交差しないことを除いて、U字形の形状には特に制約はなく、例えば、その一部が繋がってない円形、楕円形、長円形、卵形、長(方)形や、馬蹄形等の外周形状がその好ましい形状である。そして、U字形の内側に相当する部分が、本発明の蓋体に係るフラップとして機能する。さらに前記U字形のスリットの個数についても特に限定はない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、容器本体の開口部を塞ぐ蓋体の蓋面部に設けた、包装容器内外圧力の差に応じて上下に可動し、自動的に開閉するフラップの全体構造について鋭意検討した。その結果、本発明の蓋体では、蓋体の蓋面部に、全体形状がU字形のスリット(U字形スリットという)により形成され、前記U字形スリットの内側部が、U字の始点と終点とを結ぶ基端線を支点として機能するフラップを設けた。前記U字形スリットのスリット周囲におけるU字の内側に沿う線はフラップ外周部であり、またU字の外側に沿う線はフラップ外郭部である。また本発明の蓋体における前記U字形スリットは、単なる切り込みではなく貫通長孔であり、前記フラップ外周部が、フラップ外郭部と少なくとも接触しない長さのスリット幅を保持しており、さらに本発明の蓋体においては、前記フラップ外周部とフラップ外郭部との間に、蓋面と直角な方向の隙間を有しない状態に前記フラップが位置している構造となすに至った。なお前記フラップを有する蓋体は、通常の状態では微小な異物の混入を防止している。また電子レンジによる加熱時に発生する水蒸気の圧力によりフラップの先端部が浮き上がり、フラップ外周部とフラップ外郭部との間に、蓋面と直角な方向の隙間が形成されて、容器内に発生した水蒸気を容器外へ滞りなく排出できる通気口の弁体として機能することが確認され、本発明の完成に至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下(1)~(6)のような構成を有している。
(1)容器本体と、容器本体の開口部を塞ぐ合成樹脂製の蓋体とからなる、電子レンジで加熱する内容物を収容するための包装容器の蓋体であって、
前記蓋体の蓋面部に、スリットの幅が0.1mm以上1.0mm以下である全体形状がU字形のスリットを有し、
前記スリットの内側部は、U字の両端部を結ぶ直線を支点とするフラップを形成し、
前記フラップのフラップ外周部とフラップ外郭部との間に、蓋面と直角な方向の隙間を有しない状態に前記フラップが位置している蓋体である。
(2)前記U字形スリットの全周に亘り膨出部が形成されている、(1)に記載の蓋体であることが好ましい。
(3)前記U字形スリットが、前記蓋面部に設けられた凹部内に形成されている(1)または(2)に記載の蓋体であることが好ましい。
(4)前記U字形スリットの周囲に蓋面より上方に突出した凸部が形成されている、(1)または(2)の何れかに記載の蓋体であることが好ましい。
(5)前記合成樹脂がポリスチレン系樹脂である、前記(1)乃至(4)の何れかに記載の蓋体出あることが好ましい。
(6)前記(1)乃至(5)に記載の蓋体と合成樹脂製容器本体とからなる包装容器である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の包装容器の蓋体は、電子レンジで加熱する食品等の内容物を包装する包装容器の開口部を塞ぐものであり、また前記蓋体の蓋面部に設けたU字形スリットにより形成されたフラップは、通常の状態では微小な異物の混入を防止し、さらに電子レンジ加熱時に発生する水蒸気の圧力によりフラップの先端部が浮き上がり、フラップ外周部とフラップ外郭部との間に、蓋面と直角な方向の隙間が形成されて、容器内に発生した水蒸気を容器外へ排出できる通気口の弁体として機能する。従って本発明の蓋体では、予めフラップを蓋面の上方に位置させておく必要もなく、またフラップの上方を接着ラベルで覆う等の必要もない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】包装容器全体と、それを構成する容器本体と蓋体の概略斜視図である。
図2】U字形スリットを有する蓋体の実施例を示す平面図、及びU字形スリットが形成するフラップの拡大図である。
図3図2に示されるU字形スリットが形成するフラップの、通常状態におけるX-X断面図、及びフラップ先端部近傍の拡大図である。
図4図2に示されるU字形スリットが形成するフラップの、包装容器に収容した食品を電子レンジで加熱した場合に、排出される水蒸気により、フラップの先端部が浮き上がった時の状態におけるX-X断面図である。
図5】蓋面部に設けられた凹部内にU字形スリットを有する、他の実施例を示す蓋体の概略斜視図である。
図6】U字形スリットの周囲に、蓋面より上方に突出した凸部が形成された、他の実施例を示す蓋体の概略斜視図である。
図7】U字形スリットの他の実施例を示す蓋体の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について以下に説明する。但し本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
《蓋体及び包装容器》
図1は包装容器全体を、それを構成する容器本体と蓋体とに分けて表示した概略斜視図である。図1に示した、本発明の実施形態である蓋体1は、蓋体1の蓋面部11に、全体形状がU字形で、本発明で規定しているスリット幅を保持するスリット3を有している。スリット3の内側部がフラップ4であり、水蒸気を排出する通気口の弁体として機能する。蓋体1は、容器本体2の上方の開口21に被せて嵌合させ、容器本体2の開口21を塞ぐ蓋体1として、本発明の別の実施形態である包装容器5の一部を構成するものである。
【0014】
《蓋体の素材》
本発明の実施形態である蓋体1は合成樹脂製である。合成樹脂は、一般に成形加工性に優れ、また蓋面部11の一部がそのままフラップ、即ち水蒸気を排出する通気口の弁体として機能を果たすよう可撓性を有している。なお蓋体1の素材である合成樹脂は、包装容器内の内容物を目視で確認できるように、透明な合成樹脂を使用することが好ましい。透明な合成樹脂としては、ポリスチレン系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリエステル系の合成樹脂を挙げることができる。
【0015】
蓋体1は、前記合成樹脂を用い、合成樹脂の分子が配向するよう延伸加工して製造した延伸シートを成形して得たものであることが、蓋体の機械的強度の面で好ましい。また延伸シートは、一軸延伸シートよりも二軸延伸シートの方が物性バランスに優れており、より好ましい。特にポリスチレン系樹脂の二軸延伸シートは、剛性、耐熱性、透明性、環境性、加工性においてバランスのとれた性能を有しており、蓋体の素材として適している。なおここで言うポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン樹脂、スチレンとアクリル酸エステルの共重合体樹脂、スチレンとメタクリル酸エステルの共重合体樹脂を好ましいポリスチレン系樹脂として挙げることができる。さらに、前記ポリスチレン系樹脂製のシートを用いた場合には、後述するレーザー光線による穿孔の速度が、他の合成樹脂によるシートより早いため、蓋体の生産効率向上にも寄与する側面がある。そこで本実施形態の包装容器5に用いた蓋体1は、一般に市販されている二軸延伸ポリスチレンのシートを成形して得た蓋体とした。
【0016】
《容器本体の素材》
また容器本体2の素材としても、一般的に合成樹脂が好ましく使用されるが、電子レンジでの加熱が可能であれば、紙、ガラス、陶器等、特に限定されるものではない。容器本体2の素材を合成樹脂とする場合、前記合成樹脂は蓋体1に用いられている合成樹脂と同じであっても異なっていても良い。また電子レンジ加熱直後であっても素手で持てるように断熱性を考慮して、熱伝導率の比較的低い素材、例えば発泡させた、ポリスチレン系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリエステル系等の発泡合成樹脂を、容器本体2の素材として好ましく用いることができる。そこで本実施形態の包装容器5に用いた容器本体2は、発泡ポリスチレンのシートを成形して得た容器本体とした。
【0017】
《蓋体、容器本体の成形方法》
蓋体1、及び容器本体2を成形する方法に特に限定はない、但し、好ましく合成樹脂製のシートを素材として用いるため、蓋体1や容器本体2の成形には、通常、公知の真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法等の加熱成形法等が好ましく使用される。加熱成形法において、シートの加熱手段として熱板を用いる方法を熱板成形法ということがある。また、これらの成形方法に限らず、射出成形やブロー成形によって蓋体1や容器本体2を成形してもよい。
【0018】
《U字形スリットとフラップ》
本実施形態の蓋体1には、蓋面部11にU字形のスリット3を設けてある。ここでいう蓋面部とは、蓋体において容器本体との嵌合に関わる周辺部位以外の天面部を指している。なお蓋面部において、U字形のスリットを設ける箇所は平面であることが好ましい。図2は、スリットの一例であるU字形のスリット3を有する、蓋体1の平面図とU字形のスリット3の拡大図である。図2に示したように、スリット3の全体形状をU字形にすることにより、スリット3の内側部にフラップ4が形成される。なおスリット3のU字内側はフラップ4の外周でもあり、同様にU字外側はフラップ4の外郭になる。またフラップ4の外周と外郭とは、U字の始点31、終点32の2箇所で繋がっている。
【0019】
図3は、図2のU字形のスリット3(フラップ4)を含む蓋面部の、通常状態におけるX-X断面図、及びフラップ4の先端部41近傍の拡大図である。なおここで言う通常状態とは、食品等を収容する包装容器において、電子レンジで加熱する直前までの期間における、その流通時に想定される以上の機械的な外力や振動等の作用を受けてない状態のことである。
【0020】
図3に示されるように、U字形のスリット3により形成されるフラップ4は、包装容器を加熱する前には蓋面部11と同一平面にあるよう位置している。なお、スリット3を成形する際の歪みによる反りや撓みの影響や、フラップ4の自重による撓み等により、フラップ4と蓋面部11との位置関係は、完全な同一平面に位置しない場合もあり得るが、本発明の蓋体では、前記フラップ4のフラップ外周部とフラップ外郭部との間に、蓋面と直角な方向の隙間を有しない状態に前記フラップが位置している蓋体である。即ち図3の拡大図に示されるよう、例えばフラップ4が自重により、包装容器の内側方向の一点鎖線で示される位置まで撓んだとしても、 前記の隙間は形成されておらず、異物の混入も防止できるフラップとして機能している。ここで、図3に例示されているスリット3は、その全周に亘り膨出部34が形成されているため、フラップ4の反りや撓みに関する前記隙間を生ずるまでの許容量は、膨出部を有しないフラップよりも大きい。ただし、スリットが前記膨出部を有さない場合でも、本発明においては、少なくとも蓋材として用いたシートの厚さ分は、反りや撓みに対する許容量を有している。
【0021】
図4は食品を収容した包装容器5を、例えば電子レンジで加熱した場合に、排出される水蒸気により、フラップ4の先端部41が浮き上がった時の状態におけるX-X断面図である。フラップ4は、食品を収容した包装容器5を電子レンジで加熱した際に内容物から発生する水蒸気を容器外へ効率的に排出するため設けたものであり、図4の矢印は、包装容器5の内部から排出されている水蒸気により、フラップ4を通常の状態の位置から浮き上がらせている様を表現している。そして、図4に示したように、加熱時に食品から発生する水蒸気の圧力により先端部41が浮き上がってフラップ4のフラップ外周部43とフラップ外郭部331との間に、蓋面と直角な方向の隙間Sが形成される。即ち加熱時にフラップ4は、容器内の水蒸気の圧力によりU字形のスリット3の始点31と終点32とを結ぶ基端線421側で固定され、その先端部41が浮き上がることにより、フラップ4のフラップ外周部43とフラップ外郭部331との間に、蓋面と直角方向の隙間Sが形成される。その隙間Sの大きさはフラップ4の基端部42の位置で0であり、先端部41の位置で最大となる。なお、図4におけるフラップ4の断面形状は直線的に描かれているが、必ずしも直線的な断面形状を保ったまま浮き上がる必要はなく、反ったような形状であってもよい。
【0022】
図5はU字形のスリット3が、蓋面部11に設けられた凹部12内に形成された他の実施態様を示す蓋体の概略斜視図である。スリット3が凹部12の中に形成されることにより、包装容器5全体に帯封を巻回した際にフラップ4が帯封に押さえられることがなく、フラップ4の先端部41は内容物から発生した水蒸気によりスムーズに浮き上がることができる。
【0023】
図6はU字形のスリット3の周辺に、蓋面部11より上方向、即ち包装容器の外側方向に突出した凸部13が形成された、他の実施態様を示す蓋体の概略斜視図である。スリット3の周辺に凸部13を形成することにより、包装容器5全体に帯封を巻回した際にフラップ4が帯封に押さえられることがなく、フラップ4の先端部41は内容物から発生した水蒸気によりスムーズに浮き上がることができる。
【0024】
図7は他のU字形のスリット3の例を示す蓋体の平面図である。図7(A)は図1で示したスリットよりも小さいU字形のスリット3aを蓋面部11の二箇所に設けてあり、前記U字形のスリット3aの内側に、それぞれフラップ4aが形成されている。図7(A)は、スリットを二箇所に対称する位置に配置した実施例だが、本発明においてU字形のスリットの大きさ、数、配置等は適宜選択できる。また図7(B)はU字形のスリットの始点と終点とを、それぞれフラップ4から離れる方向へ延設して始点311と終点321とした例である。図7(B)のようなスリットの形状も、本発明でいうU字形に含まれ、本実施例のように、U字形のスリットの始点と終点とを延設した形状にすることにより、基端部におけるフラップの破断をより高く防止することができる。
【0025】
《U字形のスリットの幅》
U字形のスリット3の幅は広いほど虫等の異物混入の危険性が高くなる。異物混入を抑制する観点から、例えば図2拡大図におけるDで示されている本発明の蓋体に係るU字形のスリットの幅は1.0mm以下であり、0.8mm以下がより好ましい。また前述のU字形のスリットを、後述するレーザー照射により穿設して形成する場合、スリットの幅を狭く設定しすぎると、フラップ4のフラップ外周部43とフラップ外郭部331との間に、溶融した樹脂により糸状の連結部が形成されて残る(前記の現象を「糸引き」ともいう)、即ち基端部以外にフラップと蓋体とが連接する箇所が生じ、フラップとしての機能を果たさなくなる。従ってスリットの幅Dは、0.1mm以上であり、0.3mm以上がより好ましい。
【0026】
《U字形のスリットの穿設方法》
U字形のスリット3の穿設方法は、フラップ4のフラップ外周部43がフラップ外郭部331と干渉することなく基端線421を支点として撓み、フラップ4のフラップ外周部43とフラップ外郭部331との間に、水蒸気を排出できる蓋面と直角な方向の隙間Sを形成できれば特に限定されるものではないが、レーザー光線照射による穿設が好ましい。またレーザー光線を合成樹脂シートに照射し、合成樹脂を溶融しながら穿設する場合には、スリット3のスリット周囲33の全周にわたり、即ちフラップ4のフラップ外周部43とフラップ外郭部331とが繋がるU字形のスリット3の始点31と終点32となる部分の縁部には、蓋面から盛り上がるように連続して形成された後述する膨出部34が形成される。なおスリットをレーザー光線照射により穿設する場合では、スリットの幅Dは、レーザー光線の出力、移動速度を適切に調節することによって制御することができる。
【0027】
レーザーには、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、半導体レーザー、アルゴンレーザー等の各種レーザーがあるが、波長領域9~11μmの炭酸ガスレーザーを用いることが好ましい。特に、10~100Wの出力の炭酸ガスレーザー照射することが好ましい。炭酸ガスレーザーの出力範囲が、10Wよりも低出力である場合には、作業性が悪く、また、樹脂を貫通できないことがある一方、100Wを超えると過負荷な状態となり、所望の幅の穿孔をできないことがある。
【0028】
また、レーザー光線によるU字形のスリットの穿設は、比較的寸法精度も良く、短時間での穿設が可能である。この場合、合成樹脂シートの表面に、通常は5~30000mm/sの移送速度でレーザー光線を照射することにより、円滑に穿設することができる。レーザー光線の移動速度が5mm/sより低速になると、作業性が悪く、また、過剰な照射となり、合成樹脂の温度過昇によりスリットの寸法制度が低下することがあり、好ましくない。一方、レーザー光線の移動速度が30000mm/sを超える場合には、所望の幅のスリットを穿設できない場合がある。
【0029】
《膨出部》
合成樹脂製蓋体の蓋面部11にレーザー光線を照射してU字形のスリット3を穿設すると、溶融した合成樹脂がスリットの全周に亘り集積し、再度固化することにより膨出部34が形成される。U字形のスリット3の内周部はフラップ外周部43となるから、U字形のスリット3の内周部に形成された膨出部34はフラップ外周部43に形成された膨出部34を兼ねることになる。フラップ外周部43に膨出部34が形成されることにより、フラップ4の曲げ強度が増し、フラップ4の自重による先端部41の撓みが抑制される。その際、膨出部34を大きくするほど先端部41の垂れ下がりによる撓みの量は小さくなる。また、U字形のスリット3の外周部に形成された膨出部34は、蓋面部11に形成されたフラップ外郭部における膨出部34となる。このとき、レーザー光線を照射してU字形のスリット3を形成することにより、フラップ4のフラップ外郭部331の厚さを蓋面の厚さTよりも厚くすることができる。即ちレーザー光線照射によりスリットを穿設した場合、スリットが占める容積に相当する合成樹脂が、スリット周囲33の膨出部34となる。そのため、スリットの幅Dが広いほど膨出部34は大きくなり、蓋面の厚さ(フラップの厚さ)Tが大きいほど膨出部34は大きくなる。つまり、膨出部34の全容積は蓋面の厚さT×スリットの幅D×スリットの全長にほぼ等しい。
【0030】
《フラップの厚さ》
合成樹脂シートから成形される蓋体1は、0.15mmの蓋面厚さが蓋体として使用可能な強度が得られる限界であり、0.15mmの厚さに満たない厚さでは包装容器としての機能を果たすことができなくなる。また蓋面厚さが0.7mm以上では、シートから蓋体への成形加工が難しくなるのみならず、多量の樹脂材料を要するため容器のコストが高くなって非経済的である。そのため、蓋面の厚さは、0.15mm以上であることが好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.7mm以下が好ましく、0.5mm以下がより好ましい。
【0031】
《蓋面と直角な方向の隙間S》
以上に記載したように、異物混入を抑制する観点からU字形のスリットの幅Dは狭い方が良いが、スリットの幅Dを狭くしても、例えばフラップ4の撓みや反りが大きい場合には、フラップ4のフラップ外周部43とフラップ外郭部331との間に、蓋面と直角な方向の隙間Sが生じて異物混入の危険性が高くなる。そのため、本発明の蓋体は、図3に示したように、電子レンジで加熱する前の状態においては、フラップ4がその先端431に至る位置にまで含めて、フラップの撓み(一点鎖線の膨出部34)量が、フラップ外郭部331の厚さを越えず、即ちフラップ外周部43とフラップ外郭部331との間に、蓋面と直角な方向の隙間Sを有しない蓋体である。さらに前述したように、蓋面部11にレーザー光線を照射することによってフラップ外周部43とフラップ外郭部331とに亘り、同時に膨出部34が形成される。このとき外郭部331の厚さは、スリット周囲33に膨出部34がない場合は蓋面の厚さTと同じ厚さであるが、膨出部34を設けることにより膨出部分の厚さ分だけ増す。また、フラップ外周部43にも膨出部34ができるため、フラップ4の撓みによるフラップ外周部の先端431とフラップ4のフラップ外郭部331との間に、蓋面と直角な方向の隙間Sを有し難くなる。つまり、膨出部34の存在は異物混入を抑制する観点から有効である。そして、電子レンジ加熱時にフラップ4の先端部41の撓み量がスリット周囲33の厚さ以上となることにより内容物から発生する水蒸気を大量に容器外へ排出することが可能となり容器内の圧力上昇による蓋体の外れを防止することができる。
【実施例
【0032】
以下に本発明の実施の形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)
本実施例1における蓋体1は、耐熱二軸延伸ポリスチレン(デンカ株式会社製、デンカサーモシート高耐熱BOPS(R反))を熱板成形して、蓋面部の直径が175mmの円盤状とした蓋体である。この蓋体1の蓋面部11の中央付近にレーザー光線の照射によりU字形のスリット3を一つ穿孔した。図2に示される蓋体1において、蓋面部11の厚さは0.27mm、膨出部を含むスリット周囲33の厚さは0.39mm、U字形のスリットの幅Dは0.7mm、フラップ4の基端部42の幅は15mm、フラップ4の基端線421からフラップ外周の先端431までの長さ、即ちフラップ4の全長は18mmとした。
【0034】
前記実施例1の蓋体1が内嵌合する発泡ポリスチレン製の容器本体2を準備し、容器本体2に水400mlを入れた後、蓋体1を容器本体2に嵌合させ、通常の状態における包装容器5とした。加熱試験前の蓋体1のフラップ位置を目視で確認し、フラップ4のフラップ外周部43とフラップ外郭部331との間に、蓋面と直角な方向の隙間の有無を目視確認した。また包装容器5の容器本体2と蓋体1との嵌合強度は、テンシロン(RTC-1210A、オリエンテック社製、引張速度:30mm/分、温度20~30℃)による引張試験で測定された最大強度とした。このとき蓋体の縁の一箇所(蓋体の縁に、開封を容易にする指でつまむ所謂「ベロ」が設けられている場合はベロ)にフックを取り付けるように加工し、容器本体底部は固定しておき、フックの位置で上方に引張る方法とした。次いで、この包装容器を用いて1500Wの電子レンジによる加熱試験を実施した。加熱試験の方法としては、包装容器5を2分間加熱し、フラップ4の開閉状態、及び容器本体2と蓋体1との嵌合状態、水蒸気の排出状態を目視確認した。加熱試験終了後、さらに使用した包装容器5の容器本体2と蓋体1との嵌合強度を、同じ方法で測定した。なお実施例1の包装容器5における蓋体1と容器本体2の嵌合強度は、電子レンジ加熱前が1500cN、電子レンジ加熱後が1400cNであった。
【0035】
上記実施例1の包装容器を用いた電子レンジ加熱試験の結果は以下のとおりであった。
(1)電子レンジ加熱前のフラップの状態
電子レンジ加熱前のフラップ4は撓みがなく蓋面とほぼ同一平面であり、図4に示される隙間Sは認められなかった。
(2)電子レンジ加熱時のフラップの状態
電子レンジ加熱開始後90秒後にフラップ4の先端部41が浮き上がり始め、即ち図4に示される隙間Sが認められるようになり、105秒後にフラップ4の先端部41が蓋面より約5mm浮き上がって、その状態が維持された。
(3)電子レンジ加熱時の蓋体の嵌合状態
電子レンジ加熱時に蓋体1が容器本体2から外れることはなく、包装容器5内の水蒸気はスムーズに容器外へ排出されて、蓋体1と容器本体2の嵌合状態が維持された。
【0036】
(実施例2)
実施例1と同じ蓋体1の膨出部34を削り取り、即ちフラップ4のフラップ外周部43とフラップ外郭部331の厚さを蓋面の厚さと同一にした蓋体を作成し、前記実施例1と同じ条件の電子レンジ加熱試験を実施したところ、以下のような結果を得た。
(1)電子レンジ加熱前のフラップの状態
電子レンジ加熱前のフラップ4は、先端部41が蓋面より僅かに垂れ下がっていたが、フラップ外周部43とフラップ外郭部331との間に、蓋面と直角な方向の隙間Sを有してないことが目視観察された。
(2)電子レンジ加熱時のフラップの状態
電子レンジ加熱開始後86秒後にフラップ4の先端部41が浮き上がり始め、99秒後にフラップ4の先端部41が蓋面より約6mm浮き上がった状態で維持された。
(3)電子レンジ加熱時の蓋体の嵌合状態
電子レンジ加熱時に蓋体1が容器本体2から外れることはなく、包装容器5内の水蒸気はスムーズに排出されて、蓋体1と容器本体2の嵌合状態は維持された。
【0037】
以上、実施例1、2による検証結果から、U字形のスリット3を有する蓋体1を使用した包装容器5は、電子レンジ加熱前にはフラップ4の撓みによるフラップ外周部43とフラップ4のフラップ外郭部331との間に、蓋面と直角な方向の隙間Sは存在しておらず、しかも電子レンジ加熱時の包装容器5内の水蒸気排出効果は良好であった。
【0038】
また、スリット周囲33に膨出部34を有する場合、電子レンジ加熱前のフラップ4の撓みによるフラップ外周部43とフラップ4のフラップ外郭部331との間に、蓋面と直角な方向の隙間Sが形成されるまで、フラップの垂れ下がりは殆ど見られなくなると共に、さらに許容幅もあり、電子レンジ加熱時の包装容器5内の水蒸気排出効果は良好であった。
【符号の説明】
【0039】
1 蓋体
11 蓋面部
12 凹部
13 凸部
2 容器本体
21 開口
3,3a スリット
31 始点
32 終点
33 スリット周囲
331 フラップ外郭部
34 膨出部
4,4a フラップ
41 先端部
42 基端部
421 基端線
43 フラップ外周部
431 フラップ外周部の先端
5 包装容器
D スリットの幅
T 蓋面の厚さ
S 蓋面と直角な方向の隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7