(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】抗菌組成物及び抗菌方法
(51)【国際特許分類】
A01N 65/42 20090101AFI20240521BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240521BHJP
C05G 3/60 20200101ALI20240521BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240521BHJP
A23L 3/3472 20060101ALI20240521BHJP
A21D 2/36 20060101ALN20240521BHJP
A23L 9/20 20160101ALN20240521BHJP
【FI】
A01N65/42
A01P3/00
C05G3/60
A23L33/105
A23L3/3472
A21D2/36
A23L9/20
(21)【出願番号】P 2020069485
(22)【出願日】2020-04-08
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 久克
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕介
(72)【発明者】
【氏名】平田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】箕川 剛
(72)【発明者】
【氏名】小磯 博昭
(72)【発明者】
【氏名】山本 尚人
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-111554(JP,A)
【文献】特開2008-228587(JP,A)
【文献】特開平06-016514(JP,A)
【文献】園芸学研究 園芸学会平成19年度春季大会研究発表要旨,2007年,第6巻別冊1,第278頁
【文献】土と微生物,1998年,第51巻,第13-18頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 65/
A01P 3/
C05G 3/
A23L 33/
A23L 3/
A21D 2/
A23L 9/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラッキョウ(Allium chinense)の根、茎盤、若しくはそれらの組み合わせに由来する
、親水性溶媒による抽出物又はその精製物
(ただし、真菌類の菌体を含む場合は除く。)を含有する、抗
真菌組成物。
【請求項2】
前記
親水性溶媒が、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン及び酢酸エチルからなる群より選択される1種以上の溶
媒である、請求項1に記載の抗
真菌組成物。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の抗
真菌組成物を含有する、又は該抗
真菌組成物が付着した、飲食品、飼料、医薬品、医薬部外品、農薬、肥料、植物用活力剤、香粧品、農産物、又は物品類。
【請求項4】
ラッキョウ(Allium chinense)の根、茎盤、若しくはそれらの組み合わせに由来する
、親水性溶媒による抽出物又はその精製物
(ただし、真菌類の菌体を含む場合は除く。)を含有する抗
真菌組成物で、微生物を処理する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌組成物及び抗菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品だけでなく、飲食品、化粧品、日用品等の分野で、製品の腐敗や劣化、病原菌の増殖抑制のための抗菌性の組成物が必要とされている。そして、抗菌成分は抗菌スペクトルや作用を発揮できる条件が様々であることから、新たな抗菌組成物の開発が常に求められているのが実情である。
【0003】
特許文献1にはε-ポリリジンとプロタミンの併用、特許文献2にはシナピン酸、特許文献3にはフェルラ酸及びショ糖脂肪酸エステルの併用が、酵母又は真菌に効果をもたらしたことが記載されている。
【0004】
しかし、酵母、カビ等の真菌類に対して有効な抗菌組成物は、細菌を対象とする抗菌組成物と比べて依然種類が限られており、新たな抗菌組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平2-107175号公報
【文献】特開平7-194356号公報
【文献】特開2007-267632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような状況の中、真菌類の増殖を抑制する、新たな抗菌組成物を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ラッキョウ(Allium chinense)の根、茎盤、若しくはそれらの組み合わせに由来する抽出物又はその精製物を含有する組成物が、真菌類の増殖を抑制する活性が高いことを見出し、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の抗菌組成物、及びそれを含有する飲食品等を提供する。
[1]
ラッキョウ(Allium chinense)の根、茎盤、若しくはそれらの組み合わせに由来する抽出物又はその精製物を含有する、抗菌組成物。
[2]
前記抽出物が、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン及び酢酸エチルからなる群より選択される1種以上の溶媒による抽出物である、[1]に記載の抗菌組成物。
[3]
真菌類に用いられる、[1]又は[2]に記載の抗菌組成物。
[4]
[1]~[3]のいずれか1に記載の抗菌組成物を含有する、又は該抗菌組成物が付着した、飲食品、飼料、医薬品、医薬部外品、農薬、肥料、植物用活力剤、香粧品、農産物、又は物品類。
【0009】
また、本発明は、以下の方法を提供する。
[5]
ラッキョウ(Allium chinense)の根、茎盤、若しくはそれらの組み合わせに由来する抽出物又はその精製物を含有する抗菌組成物で、微生物を処理する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抗菌組成物は、真菌類の増殖を抑制する活性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】試験例3のHPLC分画における、クロマトグラムである。図の丸数字は、フラクションを表す。
【
図3】試験例4の蒸しパンの保存試験の結果を表す写真である。黒い斑状の部分は、カビ(Aspergillus niger)が増殖していることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[定義]
本明細書において、「抽出物」とは、原料となる植物を溶媒抽出して得られる、抽出液、その濃縮物及び乾燥物を包含する。
【0013】
本明細書において、「真菌類」とは、真核生物であって、分類学上は菌界(Regnum Fungi)に分類される生物である。真菌類には、いわゆる酵母(yeast)、カビ(mold)、又はキノコ(mushroom)と呼ばれるものが含まれる。
【0014】
本明細書において、「抗菌」(antimicrobial)とは、微生物(真菌類、細菌、及び古細菌)の増殖を抑制する性質を表す。真菌類に対する「抗菌」は、「抗真菌」(antifungal)と表す。
【0015】
本明細書において、v/v%はmL/100mLと、w/v%は、g/100mLと同義である。また、ppmは質量当たりの百万分率である。
【0016】
[抗菌組成物]
本発明の組成物は、ラッキョウ(Allium chinense)の根若しくは茎盤、又はそれらの組み合わせに由来する抽出物又はその精製物(本明細書では「根・茎盤抽出物」「根・茎盤精製物」とも呼ぶ)を含有し、真菌類を含む微生物に対する抗菌性を有する。
【0017】
(原料)
本発明の抗菌組成物の原料となるラッキョウは、中国原産のユリ科ネギ属(Allium)の多年草である。
図1にラッキョウの植物体基部の模式図を示す。一般に、小型のタマネギに類似した形状である鱗茎が塩漬や酢漬にされて食用となる。鱗茎は葉に相当する組織である。一方、茎盤は、この鱗茎の基部に接続する盤状の組織で、茎に相当する。また、根は、茎盤から伸びる組織である。従って、本発明の原料に使用される根及び茎盤は、鱗茎を含まない概念として当業者に理解される。
【0018】
上記のラッキョウの品種、栽培条件、収穫時期は特に限定されないが、抽出物を容易に得る観点から、ラッキョウは砂地で栽培されることが好ましい。
【0019】
ラッキョウの根及び茎盤は、特有の匂いを低減する観点から、溶媒抽出前にブランチング等の加熱処理を行うことが好ましい。ここで、ブランチングとは、沸騰水中で短時間(例えば5秒~1分、好ましくは10秒~40秒)加熱し、急冷する操作である。
【0020】
ラッキョウの根及び茎盤は、そのまま(生)若しくは破砕物として抽出操作に付してもよく、又は、乾燥後、必要に応じて粉砕若しくは粉末化して抽出操作に付してもよいが、乾燥工程を経てから抽出操作を行うことが好ましい。
【0021】
(根・茎盤抽出物とその製造方法)
根・茎盤抽出物は、上記のラッキョウの根若しくは茎盤、又はそれらの組み合わせを、溶媒抽出することによって得られる。使用される溶媒は、親水性溶媒であれば特に限定されない。中でも、本発明に用いられる溶媒としては、抽出物を飲食品に適用可能とする観点から、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、及び酢酸エチルからなる群より選ばれる1種単独又は2種以上の混合物であることが好ましく、水又は含水アルコールがより好ましい。
【0022】
抽出溶媒として含水アルコールを用いる場合、アルコールの含有量は、例えば1~99v/v%が好ましく、10~90v/v%がより好ましく、20~80v/v%が更に好ましく、30~70v/v%が更により好ましい。
【0023】
抽出方法としては、一般に用いられる方法が採用でき、例えばエキス剤、エリキシル剤、浸剤、煎剤、流エキス剤及びチンキ剤等の各種生薬製剤の調製に用いられる抽出方法を広く挙げることができる。特に限定されないが、例えば溶媒中に上記の植物(そのまま(生)若しくは粗末、細切物)、又はそれらの乾燥粉砕物(粉末等)を冷浸(通常1~25℃)や温浸(通常35~45℃)等によって浸漬する方法、加温し撹拌しながら抽出を行い、ろ過して抽出液を得る方法、パーコレーション法(通常1~30℃程度)、超臨界抽出法等を挙げることができる。
【0024】
抽出効率を高める観点から、上記の溶媒抽出は、溶媒を高温にして抽出することが好ましい。抽出時の溶媒の温度としては、特に限定されず、抽出効率を高める観点から、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。また、抽出時の溶媒の温度は、例えば、100℃以下、90℃以下、80℃以下、又は70℃以下であり得る。
【0025】
溶媒抽出の時間は、原料の形態、用いる溶媒の種類及び抽出温度によって適宜調整すればよい。特に限定されないが、常温での抽出の場合、抽出時間は、例えば1時間~1ヶ月、1日~2週間又は1日~1週間であり得る。50℃程度の加熱抽出の場合、抽出時間は、例えば、5分~24時間、10分~10時間、又は30分~5時間であり得る。
【0026】
得られた根・茎盤抽出物は、必要に応じてろ過又は遠心分離によって固形物を除去した後、使用の態様に応じて、そのまま用いるか、又は溶媒を留去して一部濃縮して軟エキスとして、若しくは噴霧乾燥、減圧乾燥や凍結乾燥等の通常の手段により乾燥して、エキス乾燥物として使用することもできる。また濃縮ないしは乾燥後、得られる濃縮物又は乾燥物を非溶解性溶媒で洗浄して精製して用いても、またこれを更に適当な溶剤に溶解若しくは懸濁して用いてもよい。
【0027】
(根・茎盤精製物とその製造方法)
根・茎盤抽出物は、そのまま、又は溶媒で溶解若しくは希釈して、さらに精製処理を経て、根・茎盤精製物を製造してもよい。精製処理工程としては、特に限定されないが、例えば、液々分配、固液分配、クロマトグラフィー等の分画工程、脱臭工程、脱色工程が挙げられる。これらの工程では、各種ふるい、フィルター、活性炭、シリカゲル、ゼオライト、活性白土、珪藻土、酸性白土、イオン交換樹脂、合成吸着剤等の精製手段を、その目的に応じて適宜用いることができる。これらの精製処理工程及び精製手段は、それぞれ1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
一実施形態として、根・茎盤抽出物の精製処理は、水-n-ブタノールの液々分配による分画である。水とn-ブタノールは、好ましくは体積比で1:10~10:1、より好ましくは1:2~2:1、更に好ましくは1:1で分配を行い、n-ブタノール画分を収集することで、目的物を得ることができる。
【0029】
一実施形態として、根・茎盤抽出物の精製処理は、逆相クロマトグラフィーによる分画である。この場合、精製物は、以下のHPLCの条件で、保持時間が16~30分の画分を収集することが好ましい。これによって、夾雑物の少ない高純度の精製物が得られる。また、特定の菌種(例えば、サッカロミセス酵母)に対する抗菌活性が高い精製物としては、同条件で、保持時間が16~20分の画分を収集することが好ましい。なお、保持時間は、±0.4分の誤差を許容するものとする。
<HPLC条件>
カラム: LiChrosorb RP-18(5μm) 10×300 mm(GL Science)
検出器:RI
展開溶媒:アセトニトリル:水=8:2
流速:3.5mL/min
【0030】
根・茎盤精製物は、上記の根・茎盤抽出物の場合と同様に、濃縮、乾燥、溶解、懸濁等を行ってもよい。
【0031】
(その他成分)
本発明の組成物は、製剤化をしやすくする観点から、さらに乳化剤を含有することができる。乳化剤の種類は、特に限定されないが、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル(例えば、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、有機酸モノグリセリド等)、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、酵素分解レシチン、酵素処理レシチン、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム、キラヤ抽出物、サポニン、ポリソルベート(例、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80)等が挙げられる。これらの乳化剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明の組成物は、製剤化をしやすくする観点から、さらに賦形剤を含有することができる。賦形剤の種類は、特に限定されないが、例えば、澱粉分解物(デキストリン、粉飴等)、糖類(単糖(グルコース、フルクトース等)、二糖(例えば、ショ糖、乳糖、麦芽糖、トレハロース等)、オリゴ糖(セロオリゴ糖、マルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖等)、糖アルコール(キシリトール、ソルビトール、ラクチトール、マルチトール等)、還元糖化物等)、食物繊維(例えば、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、グァーガム酵素分解物等)等が挙げられる。これらの賦形剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明の組成物において、賦形剤又は乳化剤は、根・茎盤抽出物又は精製物の溶液に加えることが好ましい。
【0034】
一実施形態として、本発明の組成物には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、根・茎盤抽出物又はその精製物、乳化剤及び賦形剤以外に、その他成分として、抗菌成分、食品、医薬品、医薬部外品、又は化粧品に用いられ得る公知の栄養成分、アルコール、酒類、塩類、呈味成分、果汁、果肉、野菜、野菜汁、ピューレ、エキス(動物、植物、微生物等由来)、香辛料、甘味料、糖アルコール、高甘味度甘味料、苦味料、酸味料、香料、着色料、その他食品添加物(食物繊維、pH調整剤、保存料、酸化防止剤、増粘剤、安定化剤等);医薬品、医薬部外品又は化粧品の有効成分又は添加剤等を1種又は2種以上配合することができる。
【0035】
一実施形態として、本発明の組成物には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記の根・茎盤抽出物又はその精製物、乳化剤及び賦形剤以外に、その他成分として、防腐剤、防カビ剤、界面活性剤、ゲル化剤、溶剤、香料、別の殺菌又は抗菌剤、消臭成分等を1種又は2種以上配合することができる。
【0036】
本発明の組成物の製造においては、根・茎盤抽出物及びその精製物に、場合によって任意で、賦形剤、乳化剤、その他成分を添加した後で、上記の根・茎盤抽出物の場合と同様に、さらに濃縮、乾燥、溶解、懸濁等を行ってもよい。
【0037】
(用途)
本発明の組成物は、後述の実施例で示されるように、抗菌作用を有するため、飲食品、医薬品、医薬部外品、香粧品、物品等に抗菌性を付与するために用いることができる。
【0038】
また、本発明の組成物は、上記の抗菌作用によって、飲食品、医薬品、医薬部外品又は香粧品の防腐、保存安定性の向上に用いることができる。
【0039】
また、本発明の組成物は、上記の抗菌作用によって、微生物による疾患若しくは状態、好ましくは真菌が原因の疾患若しくは状態の改善又は予防に用いることができる。
本明細書において、「改善」とは、疾患、症状若しくは健康状態の好転若しくは緩和、疾患、症状若しくは健康状態の悪化の防止若しくは遅延、又は疾患若しくは症状の進行の逆転、防止若しくは遅延をいう。
本明細書において、「予防」とは、疾患若しくは症状の発症の防止、又は疾患若しくは症状の発症のリスクを低下させることを表す。
【0040】
本発明の組成物の抗菌作用を発揮する対象生物は、好ましくは真菌類である。真菌類としては、特に限定されないが、例えば、酵母(例えば、Saccharomyces属、Yarrowia属、Wickerhamomyces属、Candida属、Rhodotorula属等);カビ(例えば、Penicillium属、Cladosporium属、Aspergillus属、Eurotium属、Fusarium属、Alternaria属、Trichoderma属、Chaetomium属、Rhizopus属、Mucor属、Absidia属、Mortierella属、Aureobasidium属、Exophiala属、Microsporum属、Trichophyton属、Chrysosporium属、Wallemia属)が挙げられる。中でも、本発明の組成物の対象生物としては、Penicillium属、Aspergillus属、Eurotium属、Wallemia属、Cladosporium属、Saccharomyces属、Wickerhamomyces属、Yarrowia属、又はCandida属の生物が好ましく、Aspergillus属、Saccharomyces属、Yarrowia属、Wickerhamomyces属、又はCandida属の生物がより好ましい。
【0041】
(形態・使用方法)
一実施形態として、本発明の組成物は、特に限定されないが、例えば、飲食品;飼料;医薬品;医薬部外品;農薬、肥料、植物用活力剤;香粧品;農産物(例えば穀類、野菜、果物、畜肉、水産物、生花等);物品類;又は生体(例えばヒト、ヒト以外の動物、植物体等)に添加又は投与して抗菌性を付与するための製剤として使用することができる。係る場合の本発明の組成物の形態としては、粉末状、液状、ゲル状、顆粒状、錠剤状又はそれらを封入したカプセルが好ましい。
当該使用形態の場合、本発明の組成物は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、根・茎盤抽出物及びその精製物の固形分質量に換算して、上記の添加対象である飲食品等の全量に対して、好ましくは20ppm以上、より好ましくは30ppm以上、更に好ましくは50ppm以上、更により好ましくは100ppm以上、特に好ましくは160ppm以上、特により好ましくは200ppm以上となるように添加される。
当該使用形態の場合、本発明の組成物は、根・茎盤抽出物及びその精製物の固形分質量に換算して、上記の添加対象である飲食品等の全量に対して、例えば、10000ppm(1質量%)以下、5000ppm以下、3000ppm以下、2000ppm以下、又は1000ppm以下となるように添加される。
【0042】
一実施形態として、本発明の組成物は、飲食品、飼料、医薬品、医薬部外品、農薬、肥料、植物用活力剤、香粧品、農産物、物品類、又は生体に付着させて抗菌効果を付与する目的で使用することができる。係る場合の本発明の組成物の形態としては、液体状、固体状、粉末状、ゲル状、ミスト状、又はエアゾール状が好ましい。
当該使用形態の場合、根・茎盤抽出物及びその精製物の含有量は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、その固形分質量に換算して、本発明の組成物の全量に対して、好ましくは30ppm以上、より好ましくは50ppm以上、更に好ましくは100ppm以上、更により好ましくは160ppm以上、特に好ましくは200ppm以上である。
当該使用形態の場合、根・茎盤抽出物及びその精製物の含有量は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、その固形分質量に換算して、本発明の組成物の全量に対して、例えば、10000ppm(1質量%)以下、5000ppm以下、3000ppm以下、2000ppm以下、又は1000ppm以下である。
【0043】
本発明の組成物の対象である飲食品としては、特に限定されないが、例えば、清涼飲料、アルコール飲料等の飲料、若しくはその濃縮物;ゼリー、プリン、ババロア、ケーキ、クッキー、マカロン等のパティスリー;アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓等の冷菓;ヨーグルト、チーズ等の乳製品;タブレット、カプセル菓子、フィルム菓子、キャンディー、チューインガム、チョコレート、焼菓子等の菓子類;団子、カステラ等の和菓子類;ベーカリー製品(パン、調理パン等)、米飯製品(おにぎり、寿司、米飯等)、惣菜類、調理食品(カレー、パスタ、唐揚げ等)、畜肉類加工品、魚介類加工品、野菜加工品(ピューレ、野菜ソース、ケチャップ、ペースト、カット野菜等)、果物加工品(ピューレ、ジャム、フルーツソース、ペースト、カットフルーツ、フルーツプレパレーション等)、海産物加工品、穀物加工品等の加工食品;ソース、ドレッシング、食用油、スパイス等の調味料;又はシロップ、ホイップクリーム等の添加若しくは装飾用食品を挙げることができる。
【0044】
本明細書において、清涼飲料とは、特に限定されないが、例えば、乳性飲料(乳飲料、発酵乳、乳酸菌飲料等)、エネルギー飲料、健康飲料(薬系ドリンク、健康サポート飲料、機能性清涼飲料、スポーツドリンク、ビネガードリンク、麦芽ドリンク等)、植物性飲料(米、豆乳、アーモンドを主原料とする穀物飲料等)、ノンアルコール飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜入り混合果汁飲料、果肉飲料、コーヒー飲料、麦芽飲料、スポーツ飲料、茶系飲料(緑茶、紅茶、ウーロン茶等)、ゼリー飲料、ココア飲料、チョコドリンク、甘酒、しるこ、スープ飲料、粉末スープ飲料等のアルコール度数1度未満の飲料を指す。
【0045】
本明細書において、アルコール飲料は、飲料中のアルコール含量が1度以上の飲料であり、例えば、酒税法上の「酒」を指すアルコール飲料が挙げられる。特に限定されないが、具体的には、清酒類(清酒、合成清酒)、焼酎、ビール、果実酒類(果実酒、梅酒等の甘味果実酒)、ウイスキー類(ウイスキー、ブランデー)、スピリッツ類(ジン、ウォッカ)、リキュール類、発泡酒、その他の醸造酒(マッコリ等)、雑酒(粉末酒、その他の雑酒)等を挙げることができる。
【0046】
本明細書において、医薬品としては、特に限定されないが、例えば、錠剤(たとえば、糖衣錠)、顆粒剤、液剤、カプセル剤、トローチ剤、及びうがい薬等の経口医薬品、ハップ剤、軟膏剤等の皮膚外用剤等が挙げられる。
【0047】
本明細書において、医薬部外品としては、特に限定されないが、例えば、口中清涼剤、腋臭防止剤、てんか粉、育毛剤(養毛剤)、除毛剤、染毛剤(染毛、脱色又は脱染に用いるものを含む)、パーマネント・ウェーブ用剤、衛生綿類(生理処理用ナプキン、脱脂綿、ガーゼ等)、浴用剤、薬用化粧品(シャンプー、リンス、化粧水、クリーム、乳液、ハンドクリーム、化粧用油、ひげそり用剤、日やけ止め剤、パック、薬用せっけん等)、薬用歯磨き類(洗口剤等を含む)、忌避剤、殺虫剤、殺そ剤、ソフトコンタクトレンズ用消毒剤、のど清涼剤、健胃清涼剤、ビタミン剤、カルシウム剤、ビタミン含有保健剤等が挙げられる。
【0048】
本明細書において、香粧品としては、特に限定されないが、例えば、香水等のフレグランス製品、基礎化粧品(洗顔クリーム、バニシングクリーム、クレンジングクリーム、コールドクリーム、マッサージクリーム、乳液、化粧水、美容液、パック、メイク落とし等)、仕上げ化粧品(ファンデーション、タルカムパウダー、口紅、リップクリーム、頬紅、アイライナー、マスカラ、アイシャドウ、眉墨、アイパック、ネイルエナメル、エナメルリムバー等)、頭髪化粧品(ポマード、ブリランチン、セットローション、ヘアーステック、ヘアーソリッド、ヘアーオイル、ヘアートリートメント、ヘアークリーム、ヘアートニック、ヘアーリキッド、ヘアースプレー、ヘアワックス、バンドリン、養毛料、染毛料等)、日焼け化粧品(サンタン製品、サンスクリーン製品等)、ハンドクリーム、オーラルケア用品(洗口液、歯磨き等)、アロマ用品(芳香剤、消臭剤、フレグランスオイル等);衣類用洗剤、台所用洗剤、トイレ用洗剤、浴室用洗剤、柔軟剤、衣類仕上げ剤等の洗剤類;ワックス類;クレンザー類;ボディケア用品(固形石鹸、ハンドソープ、ボディソープ、シャンプー、リンス、コンディショナー等);入浴剤;オーラルケア用品(歯ブラシ、歯間清掃具等);ペーパー類(ティッシュペーパー、トイレットペーパー、ウェットティッシュ、紙おむつ、マスク類等)等が挙げられる。
【0049】
本明細書において、物品類としては、電気・電子・通信、農林水産、鉱業、建設、食品、繊維、衣類、医療、石炭、石油、ゴム、皮革、自動車、精密機器、木材、建材、土木、家具、印刷、楽器等の幅広い分野で使用される物品が挙げられる。特に限定されないが、具体的には、エアコン、空気清浄機、換気扇、掃除機、洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ、照明器具、ゲーム機、アイロン、コタツ等の家電機器;レンズ類;プリンター、パソコン、ワープロ、キーボード、PDA(小型情報端末機)、電話機、複写機、ファクシミリ、ECR(電子式金銭登録機)、電卓、電子手帳、カード、ホルダー、文具等の事務、OA機器;テレビ、ビデオカメラ、ラジカセ、テープレコーダー、ミニディスク、CDプレーヤー、スピーカー、液晶ディスプレー等のAV機器;コネクター、リレー、コンデンサー、スイッチ、プリント基板、コイルボビン、半導体封止材料、LED封止材料、電線、ケーブル、トランス、偏向ヨーク、分電盤、時計等の電気・電子部品及び通信機器;段ボール等の紙包材;製版用フィルム、粘着フィルム、ボトル、食品用容器、食品包装用フィルム、製薬・医薬用ラップフィルム、製品包装フィルム、農業用フィルム、農業用シート、温室用フィルム等が挙げられる。
さらに、本明細書において、物品類の具体例としては、上記家電機器等に用いられるフィルター類;座席の詰物・表地、ベルト、天井張り、コンパーチブルトップ、アームレスト、ドアトリム、リアパッケージトレイ、カーペット、マット、サンバイザー、ホイルカバー、マットレスカバー、エアバック、絶縁材、吊り手、吊り手帯、電線被覆材、電気絶縁材、塗料、コーティング材、上張り材、床材、隅壁、カーペット、壁紙、壁装材、外装材、内装材、屋根材、デッキ材、壁材、柱材、敷板、塀の材料、骨組及び繰形、窓及びドア形材、こけら板、羽目、テラス、バルコニー、防音板、断熱板、窓材等の自動車、車両、船舶、航空機、建物、住宅及び建築用材料や土木材料;衣料、カーテン、シーツ、不織布、合板、合繊板、絨毯、玄関マット、シート、バケツ、ホース、容器、眼鏡、鞄、ケース、ゴーグル、スキー板、ラケット、テント、楽器等の生活用品、スポーツ用品が挙げられる。
【0050】
[微生物を処理する方法]
本発明の微生物を処理する方法は、ラッキョウ(Allium chinense)の根、茎盤、若しくはそれらの組み合わせに由来する抽出物又はその精製物を含有する抗菌組成物を使用することを含む。当該抗菌組成物は、上記の[抗菌組成物]の項に記載した組成物を使用することができる。
【0051】
その他、本発明の方法及び使用の具体的な実施形態は、上記の[抗菌組成物]の項の説明及び技術常識に基づいて理解することができる。
【0052】
さらに、本明細書には以下の発明が包含される。これらの発明の具体的な実施形態は、上記の[抗菌組成物]の項の説明及び技術常識に基づいて理解することができる。
抗菌、好ましくは抗真菌のための、ラッキョウ(Allium chinense)の根、茎盤、若しくはそれらの組み合わせに由来する抽出物又はその精製物の使用。
ラッキョウ(Allium chinense)の根、茎盤、若しくはそれらの組み合わせに由来する抽出物又はその精製物の、抗菌剤、好ましくは抗真菌剤の製造のための使用。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実験例及び実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、特に記載がない限り、それぞれ「質量部」「質量%」を意味する。また、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製であることを示し、文中「※」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
【0054】
[試験例1.植物抽出物の調製と酵母の生育抑制活性の評価]
(抽出物の調製)
ラッキョウの茎盤及び根、又は鱗茎の乾燥物に対して、乾燥重量の10倍量の95v/v%エタノールを加えて10日間浸漬して、それぞれの植物の抽出液を得た。得られた抽出液を、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮、乾燥して、実施例1-1及び比較例1-1の抗菌成分サンプルを調製した。収率は、それぞれの部位の乾燥重量に対し、実施例1-1は11%、比較例1-1は23%であった。
また、ラッキョウ、タマネギ(Allium cepa)、又はネギ(Allium fistulosum)の茎盤及び根の乾燥物に対して、乾燥重量の10倍量の95v/v%エタノールに25日間又は28日間浸漬して、それぞれの植物の抽出液を得た。得られた抽出液を、ロータリーエバポレーターを用いて乾固して、実施例1-2~3、比較例1-2~4の抗菌成分サンプルを調製した。
【0055】
(抗菌性の評価)
抗菌性は、以下の手順で寒天平板希釈法により評価した。
(1)加熱溶解して約50℃に保温したポテトデキストロース寒天培地(顆粒)「ニッスイ」(日水製薬株式会社製)に上記の抗菌成分サンプル、日持向上剤であるユッカ抽出物(比較例1-5)、チアミンラウリル硫酸塩(比較例1-6)、又は保存料であるポリリジン(比較例1-7)を添加したものを調製した。
(2)(1)の液20mlを、直径9cmのシャーレに流し込んで寒天平板培地を作製した。
(3)得られた平板培地にサッカロミセス酵母(Saccharomyces cerevisiae)懸濁液(約107cfu/ml)を50μl塗布した。
(4)25℃で5日間培養し、酵母の発育が見られなかった最小の抗菌成分サンプル濃度を、最小発育阻止濃度(MIC)とした。
【0056】
結果を表1に示した。ラッキョウの茎盤及び根の抽出物は、ラッキョウの鱗茎の抽出物及びタマネギ又はネギの茎盤及び根の抽出物に比べて、サッカロミセス酵母に対して極めて高い抗菌性を示した。また、市販の日持向上剤や保存料と比べても、実施例のラッキョウ抽出物の抗菌性は高かった。
【0057】
【0058】
[試験例2.ラッキョウ抽出物の各種真菌類に対する生育抑制活性の評価]
(抽出物の調製)
(1)ラッキョウの茎盤及び根125gを水洗した後に、沸騰水で30秒間ブランチングした。
(2)得られた茎盤及び根を乾燥し、粉砕して、50gの乾燥粉砕物を得た。
(3)乾燥粉砕物50gを60v/v%メタノール水溶液500mlに懸濁し、50℃で2時間加熱抽出した。
(4)懸濁液を濾過し、得られた残渣に対して(3)の処理を行う操作を2回行い、それぞれの濾液を全て回収した。
(5)濾液を、ロータリーエバポレーターを用いて乾固して、7.6gの抽出物(実施例2)を得た。即ち、ラッキョウの茎盤・根の乾燥物からの抽出物の収率は、15.2%であった。
【0059】
(分画)
上記のラッキョウ抽出物200mgに、n-ブタノールと水を5mlずつ入れ、分配抽出した。このn-ブタノール/水分配抽出を繰り返して、得られた分液を乾固した。最終的に油溶性画分(n-ブタノール画分)乾燥物65mg、水溶性画分(水画分)乾燥物117mgを得た。
【0060】
(抗菌性の評価)
抗菌性は、以下の手順で寒天平板希釈法により評価した。
(1)試験例1と同様の方法で、分画前のラッキョウのメタノール抽出物、そのn-ブタノール画分及び水画分の乾燥物を種々の濃度(20~320ppm)で含有する寒天平板培地を作製した。
(2)得られた平板培地に、サッカロミセス酵母の場合は懸濁液(約106個/ml)を白金耳で塗布し、真菌類は菌の懸濁液を10μl培地にスポットした。
(3)それぞれ25℃で72時間培養し、各菌の生育が認められなかった濃度をMICとした。
【0061】
(結果)
結果を表2に示した。ラッキョウの茎盤及び根の抽出物は、様々な真菌類に対して抗菌性を示すことが明らかとなった。その有効成分は、主に油溶性画分にあることが判明した。
【0062】
【0063】
また、ブランチング処理を経て調製したラッキョウのメタノール抽出物は、匂いが少なかった。一方、ブランチング処理をしなかった場合は、ラッキョウ特有の刺激臭が強く感じられ、食品等に添加した場合には、その風味に影響を与えるレベルであった。
【0064】
次に、試験例1の実施例1-3のラッキョウ抽出物も、サッカロミセス酵母及びYarrowia lipolyticaを対象に、上記と同様の方法で抗菌性の評価を行った。このとき、医薬品等で使用される抗真菌剤も評価を行った。結果を表3に示した。実施例1-3のラッキョウ抽出物は、既存の抗真菌剤と比べて同等の真菌類に対する抗菌性を示した。
【0065】
【0066】
[試験例3.油溶性画分のHPLC分画及び活性評価]
実施例2のラッキョウのメタノール抽出物の油溶性画分(n-ブタノール画分)(実施例3)を、以下の条件で、逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により4分画した。
<HPLC条件>
カラム: LiChrosorb RP-18(5μm) 10×300 mm(GL Science)
ポンプ:880-PU (Jasco)
検出器:RI-930 (Jasco)
展開溶媒:アセトニトリル:水=8:2
流速:3.5mL/min
注入量:約1質量%の油溶性画分溶液を150μL
【0067】
HPLC分画の結果を
図2に示した。また、各フラクション領域とそのピークの位置に対応する保持時間を、表4に示した。HPLC操作を繰り返した結果、乾燥重量で、フラクション1は726mg、フラクション2は180mg、フラクション3は158mg、フラクション4は342mg得られた。
【0068】
【0069】
次に、上記の各フラクションの乾燥物を50v/v%エタノールに溶解させ、1w/v%の溶液を作製した。これを抗菌性評価試験サンプルとして、以下のディスク拡散法によって酵母の抗菌性を評価した。
<ディスク拡散法の手順>
(1)ペーパーディスク(ADVANTEC抗生物質検定用濾紙、直径8mm、厚さ1.5mm)に各1%溶液サンプル25μlを浸み込ませて風乾した。
(2)20mLの標準寒天培地(日水製薬(株)製)に約106cfu/mLのサッカロミセス酵母懸濁液100μlを塗布し、乾燥後に(1)のペーパーディスクを置いて、25℃で培養した。
(3)培養24時間後にペーパーディスク周囲の阻止円の直径を測定した。
【0070】
ディスク拡散法による抗菌性評価の結果を表5に示した。フラクション1では抗菌性は観察されなかったが、フラクション2~4では抗菌性が観察された。従って、ラッキョウ抽出物には、逆相クロマトグラフィーで分離可能な複数の抗菌成分が含まれることが判明した。
【0071】
【0072】
[試験例4.ラッキョウ抽出物を含有する食品の保存性の評価]
(試験例4-1.蒸しパンの保存性評価)
以下の方法で、蒸しパンを作製し、保存性を評価した。
(1)薄力粉100部、グラニュー糖60部、及び膨張剤7部に対して、試験例1の実施例1-3のラッキョウのエタノール抽出物を終濃度で0.01質量%若しくは0.05質量%、又はポリリジン製剤(サンキーパー(※)NO.381、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)を終濃度で0.1質量%含有するように加えて混合した。さらに水60部を混ぜ合わせて生地を調製した。
(2)得られた生地をカップに20部ずつ充填し、蒸し器で弱~中火で約10分間蒸した。
(3)出来上がった蒸しパンを放冷後、カビであるAspergillus nigerを接種し、30℃で5日間保存後の外観を観察した。
【0073】
結果を
図3に示した。無添加の蒸しパン(比較例4-1)及びポリリジン製剤を含有する蒸しパン(比較例4-2)では、真菌の生育が抑えきれていないが、ラッキョウ抽出物を0.01質量%又は0.05質量%含有する蒸しパン(実施例4-1、4-2)では、カビの増殖は観察されなかった。このことから、ラッキョウ抽出物は、食品中の成分や蒸し工程の加熱によって抗菌活性が阻害されず、優れた抗菌性を発揮することが明らかとなった。
【0074】
また、実施例4-1及び4-2の蒸しパンは、ラッキョウ特有の風味が感じられなかったことから、本発明のラッキョウ抽出物は、食味に影響を与えないレベルの添加量で、抗菌性を発揮することが確認された。
【0075】
(試験例4-2.ホイップクリームの保存性評価)
試験例4-1と同じラッキョウ抽出物又はポリリジン製剤を、それぞれ0.03質量%含有するホイップクリームを調製した。調製したホイップクリームに、サッカロミセス酵母を2.0cfu/gとなるように摂取し、10℃で10日間保存した。保存期間中に、クリームの一部を採取して、当該食品中のサッカロミセス酵母の数をコロニー計数法で測定した。
【0076】
結果を表6に示した。ポリリジン製剤では酵母の増殖が顕著であり、生育抑制されていなかったのに対し、ラッキョウ抽出物では10日経過後も酵母数の増加が抑えられていた。このことから、真菌類の増殖を促すタンパク質等の栄養成分が豊富な食品においても、ラッキョウ抽出物は高い抗菌性を発揮することが明らかとなった。
【0077】
また、実施例4-3のホイップクリームは、ラッキョウ特有の風味がほとんど感じられなかった。
【0078】
【0079】
[試験例5.ラッキョウ抽出物とネギ抽出物の抗菌性の比較]
ラッキョウ又はネギ由来の茎盤及び根の乾燥物に対して、乾燥重量の10倍量の95v/v%エタノールに28日間浸漬して、それぞれの植物の抽出液を得た。得られた抽出液を、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮、乾燥して、ラッキョウ抽出物及びネギ抽出物を調製した。収率は、それぞれの植物の乾燥重量に対し、ラッキョウ抽出物は5%、ネギ抽出物は4%であった。
【0080】
試験例2と同じ方法で、得られた抽出物の各種酵母、真菌類に対する抗菌性の評価を行った。結果を表7に示した。同じ茎盤及び根から得られた抽出物であっても、ラッキョウ抽出物は、ネギ抽出物に比べて真菌類に対して顕著に高い抗菌性を示すことが確認された。
【表7】