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特許7491722多段式ボールねじユニット及びこれを用いた電動アクチュエータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】多段式ボールねじユニット及びこれを用いた電動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/20 20060101AFI20240521BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20240521BHJP
   H02K 7/06 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
F16H25/20 A
F16H25/22 Z
H02K7/06 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020073292
(22)【出願日】2020-04-16
(65)【公開番号】P2021169842
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114498
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】咲山 隆
(72)【発明者】
【氏名】押田 敬史
(72)【発明者】
【氏名】西出 哲弘
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-213753(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0266385(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0017929(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/20
F16H 25/22
H02K 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体の転がる第一螺旋溝が外周面に形成されると共に軸方向に沿ってスプライン溝が形成された第一ねじ軸と、
前記第一ねじ軸を外側から覆う中空円筒状に形成され、外周面には転動体の転がる第二螺旋溝が前記第一螺旋溝とは逆巻きに形成されると共に軸方向に沿ってスプライン溝が形成された第二ねじ軸と、
前記第二ねじ軸の中空部内に設けられると共に多数のボールを介して前記第一ねじ軸の第一螺旋溝に螺合する内側ねじナットと、
多数のボールを介して前記第二ねじ軸の第二螺旋溝に螺合する外側ボールねじナットと、
を備え、
前記第一ねじ軸に形成された第一螺旋溝の条数は前記第二ねじ軸に形成された第二螺旋溝の条数よりも多いことを特徴とする多段式ボールねじユニット。
【請求項2】
前記第一ねじ軸に形成された第一螺旋溝の軸方向ピッチは前記第二ねじ軸に形成された第二螺旋溝の軸方向ピッチよりも小さいことを特徴とする請求項1記載の多段式ボールねじ
ユニット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の多段式ボールねじユニットを用いた電動アクチュエータであって、
前記外側ねじナットが固定されたハウジングと、
前記ハウジングに固定されると共に前記第一ねじ軸とスプライン結合し、当該第一ねじ軸の軸周りの回転を防止すると共に当該第一ねじ軸の軸方向への移動を許容する第一ジョイント部材と、
前記第二ねじ軸を回転駆動する電動モータと、
前記第二ねじ軸とスプライン結合し、当該第二ねじ軸に前記電動モータの回転を伝達すると共に、当該第二ねじ軸の軸方向への移動を許容する第二ジョイント部材と、
を備えたことを特徴とする電動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに逆ねじの関係にある第一のボールねじ装置及び第二のボールねじ装置を重ね合わせて構成した多段式ボールねじユニット及びこれを用いて構成した電動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動モータの回転量に応じた直線運動を出力するアクチュエータは公知であり、そのようなアクチュエータでは電動モータの回転運動を第一ねじ軸の軸方向運動に変換する機構としてボールねじ装置が用いられている。また、前記第一ねじ軸の軸方向へのストローク量を増大させるため、互いに逆ねじの関係にある複数のボールねじ装置を重ね合わせた多段式アクチュエータも公知である(例えば特許文献1参照)。
【0003】
これら多段式アクチュエータは、ねじ軸及びこれに螺合するナット部材から構成されるボールねじ装置を半径方向へ二重に重ねたボールねじユニットを用いて構成されており、内側に位置する第一のボールねじ装置のナット部材が外側に位置する第二のボールねじ装置のねじ軸と一体化され、複合軸を構成している。また、このような多段式ボールねじユニットを構成する第一のボールねじ装置と第二のボールねじ装置は互いに逆ねじの関係にある。従って、第二のボールねじ装置のナット部材を固定した状態でこれに螺合する前記複合軸に電動モータの回転運動を伝達すると、当該複合軸は前記ナット部材に案内されて回転しながら軸方向へ運動する。このとき、第一のボールねじ装置のねじ軸を非回転に保持しておけば、当該ねじ軸は複合軸の回転に伴って軸方向へ運動することになる。すなわち、前記複合軸の軸方向への移動と当該複合軸に対する第一ボールねじ装置のねじ軸の軸方向への移動が重なることにより、このボールねじユニットでは第二のボールねじ装置のナット部材に対して第一のボールねじ装置のねじ軸を大きなストローク量で軸方向へ移動させることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2018-511754
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、ボールねじ装置における軸方向荷重の負荷能力はナット部材とねじ軸との間に螺旋状に配列されるボールの直径やボールの数によって決まる。この点に関し、前述した多段式ボールねじユニットでは、第一のボールねじ装置と第二のボールねじ装置とを径方向に重ねていることから、外側に位置する第二のボールねじ装置のねじ軸に比べて内側に位置する第一のボールねじ装置のねじ軸の軸径は自ずと小さなものとなり、結果として前記第一のボールねじ装置の荷重負荷能力は第二のボールねじ装置のそれよりも小さくなる傾向にある。
【0006】
すなわち、多段式の電動アクチュエータの荷重負荷能力に対しては第一のボールねじ装置のそれが支配的であり、アクチュエータそのものの荷重負荷能力の増大を図るのであれば、第一のボールねじ装置のねじ軸の軸径を大きくすることが必要であった。しかし、内側に位置する第一のボールねじ装置のねじ軸の軸径を大きくすると、外側に位置する第二のボールねじ装置のねじ軸も大径化し、結果的にアクチュエータの大型化を招くといった課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、軸方向荷重の負荷能力を十分に高めつつも、装置全体の小型化を図ることが可能な多段式ボールねじユニット及びこれを用いたアクチュエータを提供することにある。
【0008】
本発明が適用される多段式ボールねじユニットは、転動体の転がる第一螺旋溝が外周面に形成されると共に軸方向に沿って第一スプライン溝が形成された第一ねじ軸と、前記第一ねじ軸を外側から覆う中空円筒状に形成され、外周面には転動体の転がる第二螺旋溝が前記第一螺旋溝とは逆巻きに形成されると共に軸方向に沿って第二スプライン溝が形成された第二ねじ軸と、前記第二ねじ軸の中空部内に設けられると共に多数のボールを介して前記第一ねじ軸の第一螺旋溝に螺合する内側ねじナットと、多数のボールを介して前記第二ねじ軸の第二螺旋溝に螺合する外側ボールねじナットと、を備えている。
【0009】
そして、前記目的を達成する第一の発明においては、前記第一ねじ軸に形成された第一螺旋溝の条数は前記第二ねじ軸に形成された第二螺旋溝の条数よりも多く設定されている。
【0010】
また、前記目的を達成する第二の発明においては、前記第一ねじ軸に形成された第一螺旋溝の軸方向ピッチは前記第二ねじ軸に形成された第二螺旋溝の軸方向ピッチよりも小さく設定されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多段式ボールねじユニットによれば、前記第一ねじ軸の軸径を大きくすることなく、前記第一ねじ軸とこれに螺合する内側ねじナットの間に配置される転動体の数を増加させることができ、内側に位置する第一のボールねじ装置の荷重負荷能力を外側に位置する第二のボールねじ装置のそれと遜色がない程度にまで高めることが可能となる。従って、本発明のボールねじユニットを使用して電動アクチュエータを構成すれば、当該電動アクチュエータの軸方向荷重の負荷能力を十分に高めつつも、装置全体の小型化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のボールねじユニットを用いて構成した電動アクチュエータの実施形態の一例を示す斜視断面図である。
図2図1に示す電動アクチュエータの使用状態を示す斜視断面図である。
図3】電動アクチュエータの第一のボールねじ装置として適用可能なボールねじ装置の一例を示す斜視図である。
図4図3に示したボールねじ装置のナット部材の断面図である。
図5】電動アクチュエータの第二のボールねじ装置として適用可能なボールねじ装置の一例を示す斜視図である。
図6図5に示したボールねじ装置のナット部材の内部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を用いて本発明の多段式ボールねじユニット及びこれを用いた電動アクチュエータを詳細に説明する。
【0014】
図1及び図2は本発明の多段式ボールねじユニット(以下、「ボールねじユニット」という)を用いて構成した電動アクチュエータを示す斜視図である。図1はボールねじユニットの第一ねじ軸及び第二ねじ軸を電動アクチュエータのハウジング内に収納した状態を示す斜視断面図、図2は前記第一ねじ軸に対して最大ストローク量を与えて前記ハウジングから突出させた状態を示す斜視断面図である。
【0015】
前記電動アクチュエータは、ベースプレート1a及び当該ベースプレート1aに固定される円筒状のカバー部材1bを有するハウジング1を備えており、当該ハウジング1の内部に前記ボールねじユニット及び電動モータ7が収納されている。
【0016】
前記ボールねじユニットは、中空部を有して円筒状に形成されると共に外周面にボールの転動する第一螺旋溝が形成された第一ねじ軸3と、前記第一ねじ軸3を収容する中空部を有して円筒状に形成されると共に外周面にボールの転動する第二螺旋溝が形成された第二ねじ軸4と、前記第二ねじ軸4の中空部内に設けられると共に多数のボールを介して前記第一ねじ軸3に螺合する内側ねじナット5と、前記ハウジング1のカバー部材1bに固定されると共に多数のボールを介して前記第二ねじ軸4に螺合する外側ねじナット6と、を備えている。
【0017】
前記ハウジング1のカバー部材1bは大径円筒部11に小径円筒部12が連なった二段円筒形状を有しており、前記大径円筒部11の開放端に前記ベースプレート1aを固定することによって前記ハウジング1内に前記電動モータ7の収容室が形成されている。また、前記ボールねじユニットを構成する各部品は前記カバー部材1bの小径円筒部12に収納されている。前記小径円筒部12の内径は前記第二ねじ軸4の外径よりも僅かに大きく設定されており、当該第二ねじ軸4は前記ハウジング1と干渉することなく前記小径円筒部12の内部で自在に回転しながら軸方向へ移動可能である。前記小径円筒部12の前記大径円筒部11と反対側の先端には開口部13が設けられ、当該開口部13を通して前記第二ねじ軸4及び前記第一ねじ軸3が前記ハウジング1から外部へ進出するように構成されている。
【0018】
前記ハウジング1のベースプレート1aには棒状の第一ジョイント部材2が固定されている。この第一ジョイント部材2はその軸方向の一端が前記ベースプレート1aに固定され、他端は前記第一ねじ軸3の中空部に挿入されて、円筒形状に形成された前記カバー部材1bの中心に位置している。また、当該第一ジョイント部材2は前記ハウジング1内を貫通しており、前記ベースプレート1aと反対側の端部は前記カバー部材1bの開口部13に略合致している。
【0019】
前記第一ジョイント部材2とその外側に位置する前記第一ねじ軸3はボールスプライン装置を構成している。前記第一ジョイント部材2の外周面と前記第一ねじ軸3の内周面には軸方向に沿った複数条のスプライン溝が設けられており、多数のボールがこれらスプライン溝に配置されている。すなわち、前記第一ジョイント部材2と前記第一ねじ軸3は前記スプライン溝を転動する多数のボールを介してスプライン結合しており、前記第一ねじ軸2は前記ハウジング1に固定された第一ジョイント部材2に対して当該第一ジョイント部材2の軸方向へ自在に移動可能である一方、当該第一ジョイント部材2の周方向には回転不能である。すなわち、前記第一ジョイント部材2は前記第一ねじ軸3の回転止めとして機能している。尚、図1に示した本実施形態では前記第一ジョイント部材2と前記第一ねじ軸3の間に転動体としてのボールを介在させたが、ボールの代わりにローラを用いてもよい。また、前記第一ジョイント部材2と前記第一ねじ軸3が滑り接触によってスプライン結合するものであってもよい。
【0020】
前記第一ねじ軸3と前記内側ねじナット5は第一のボールねじ装置を構成している。具体的には、前記第一ねじ軸3の外周面にはボールの転動する第一螺旋溝が30形成されており、前記内側ねじナット5は当該第一螺旋溝30に配列された多数のボールを介して前記第一ねじ軸3に螺合している。前記第一ねじ軸3は前記第一ジョイント部材2によって回転止めがなされているため、前記内側ねじナット5に回転を与えると、前記第一ねじ軸3は前記内側ねじナット5に対して軸方向へ移動する。
【0021】
図3は前記第一のボールねじ装置として適用可能なボールねじ装置の一例を示すものであり、外周面に第一螺旋溝30としての転動溝が形成されたねじ軸3Aと、多数のボールを介して前記ねじ軸3Aに螺合した円筒状のナット部材3Bとから構成されている。前記ねじ軸3Aが前記第一ねじ軸3に相当し、前記ナット部材3Bが前記内側ねじナット5に相当する。
【0022】
前記ねじ軸3Aは所謂多条ねじであり、当該ねじ軸3Aの外周面には3条の転動溝30a,30b,30cが形成され、これら転動溝30a,30b,30cは同一のリードを有している。従って、前記ねじ軸3Aの外周面には軸方向に沿って前記リードの1/3のピッチで前記転動溝30a,30b,30cが等間隔で均等に配置されている。すなわち、軸方向における転動溝のピッチとは、前記転動溝のリードを当該転動溝の条数で割った値である。また、互いに隣接する転動溝30a,30b,30cの間はねじ山部31であり、当該ねじ山部31が前記ねじ軸3Aの外径を示している。尚、前記ねじ軸3Aに形成される前記転動溝の条数は2条以上の複数であれば、適宜設計変更して差支えない。
【0023】
一方、前記ナット部材3Bは前記ねじ軸3Aが挿通する貫通孔を有して円筒状に形成され、当該貫通孔の内周面には前記ボールの無限循環路が設けられている。前記ボールは前記ねじ軸3Aとナット部材3Bとの間に介在しており、前記ナット部材3Bを前記ねじ軸3Aに対して回転させることにより、当該ねじ軸3Aが前記ナット部材3Bの軸方向へ移動を生じる。前記無限循環路は前記ねじ軸3Aの周囲を一周しており、図3に示した例では前記ナット部材3Bに対して3回路の無限循環路が設けられている。前記無限循環路の回路数は前記ナット部材3Bの軸方向長さや必要とする荷重負荷能力に応じて適宜設計変更することが可能である。
【0024】
図4は一つの無限循環路に沿ってナット部材を切断した断面図を示すものである。前記ナット部材3Bの内周面には前記ねじ軸3Aの周囲を一周する無限循環路32が設けられ、当該無限循環路32には多数のボール3Cが配列されている。前記無限循環路32は前記ねじ軸3Aに設けられた複数条の転動溝30a,30b,30cに対応している。前述の如く、前記ねじ軸3Aに対して3条の転動溝30a,30b,30cが設けられているとすると、各無限循環路32は3個の負荷部33及び3個の無負荷部34で構成されている。個々の負荷部33は前記ねじ軸3Aの転動溝30a,30b,30cのいずれかと対向しており、ボール3cは当該負荷部33と前記ねじ軸3Aの転動溝30a,30b,30cとの間で荷重を負荷しながら転動する。一方、前記無負荷部34は前記負荷部33同士を連結すると共に前記ねじ軸3Aのねじ山部31と対向しており、当該無負荷部34を転動するボール3cは荷重から開放されて前記ねじ軸3Aのねじ山部31を乗り越える。また、これら負荷部33及び無負荷部34は前記ナット部材3Bの周方向に沿って交互に設けられ、その結果として前記無限循環路32はねじ軸3Aの周囲を一周する環状をなしている。図4に示した実施形態では前記無負荷部34が前記無限循環路32内に三か所存在することから、これら無負荷部34は前記ナット部材3Bの周方向に等間隔をおいて配置されている。
【0025】
前記ねじ軸3Aの転動溝30a,30b,30cは当該ねじ軸3Aの周囲を一周すると軸方向へ1リード分だけ進行するが、前記無限循環路32は前記負荷部33及び前記無負荷部34の組み合わせを3組含んでおり、それらは前記ねじ軸2の周囲を120度ずつ3等分して設けられているので、一つの負荷部33を転動したボール3cはねじ軸3Aの軸方向へリードの1/3だけ進行する。
【0026】
従って、図3及び図4に示すボールねじ装置では、各転動溝30a,30b,30cのリードに対して各無限循環路32の軸方向の長さ、すなわち前記ねじ軸3Aの軸方向に沿った無限循環路32の幅を小さく設定することができ、前記転動溝30a,30b,30cのリードが大きく設定された多条ねじタイプのボールねじ装置において、前記ナット部材3Bの軸方向長さを短縮化して、その小型化を図ることが可能となる。
【0027】
前記無負荷部34は駒状のデフレクタ35に形成されている。前記ナット部材3Bには前記デフレクタ35を装着する貫通穴が外周面から内周面へ貫通形成されており、当該貫通孔に前記デフレクタ35を嵌合させることによって前記ナット部材3Bの内周面に無負荷部34が設けられ、前記ボール3Cの無限循環路32が完成している。
【0028】
前記ボール3Cの無限循環路32は前記ナット部材3Bに前記デフレクタ35を嵌合させるのみで完成しており、当該ナット部材3Bの外周面に突起物が存在しないことから、当該ナット部材3Bの外径を小さく抑えることが可能となっている。このため、前記ナット部材3Bの構造を前記内側ねじナット5に適用すれば、当該内側ねじナット5を中空部内に収めた前記第二ねじ軸4の外径も小さく抑えることが可能となる。
【0029】
一方、前記第二ねじ軸4の中空部は軸方向に二分割されており、一方は前記内側ねじナットの収容部として利用され、他方は後述する第二ジョイント部材8の収容部として利用されている。前記第二ジョイント部材8の収容部は前記カバー部材1bの大径円筒部側に位置し、前記内側ねじナット5の収容部は前記カバー部材1bの開口部13側に位置している。
【0030】
前記ハウジング1の内部には前記電動モータ7の回転を前記第二のねじ軸4に伝達するための第二ジョイント部材8が設けられている。前記第二ジョイント部材8は、一対のアンギュラコンタクト軸受80を介して前記ハウジング1に保持される基端部81と、当該基端部81よりも肉厚の薄い円筒状に形成されて前記第一ねじ軸3の外周面と前記第二ねじ軸4の内周面との隙間に挿入された回転伝達部82とから構成されている。前記基端部81の外周面には前記電動モータ7のロータが固定され、当該電動モータ7に通電すると、前記第二ジョイント部材8が前記ハウジング1に対して回転を生じる。
【0031】
前記第二ジョイント部材8とその外側に位置する前記第二ねじ軸4はボールスプライン装置を構成している。前記第二ジョイント部材8の回転伝達部82の外周面と前記第二ねじ軸4の内周面には軸方向に沿った複数条のスプライン溝が設けられており、多数のボールがこれらスプライン溝に配置されている。すなわち、前記第二ジョイント部材8と前記第二ねじ軸4は前記スプライン溝を転動する多数のボールを介してスプライン結合しており、前記第二ねじ軸4は前記第二ジョイント部材8の回転伝達部82に対して当該第二ジョイント部材8の軸方向へ自在に移動可能である一方、当該第二ジョイント部材8の周方向には回転不能である。尚、図1に示した本実施形態では前記第二ジョイント部材8と前記第二ねじ軸4の間に転動体としてのボールを介在させたが、ボールの代わりにローラを用いてもよい。また、前記第二ジョイント部材8と前記第二ねじ軸4は滑り接触によってスプライン結合するものであってもよい。
【0032】
従って、前記電動モータ7によって前記第二ジョイント部材8に回転を与えると、前記第二ねじ軸4が当該第二ジョイント部材8に連れ回されて前記ハウジング1に対して回転を生じ、当該第二ねじ軸4に固定された前記内側ねじナット5も前記ハウジング1に対して回転を生じる。
【0033】
一方、前記ハウジング1の小径円筒部12の内周面側には前記外側ねじナット6が固定されている。この外側ねじナット6は前記第二ねじ軸4と協働して第二のボールねじ装置を構成している。具体的には、前記第二ねじ軸4の外周面にはボールの転動する第二螺旋溝40が形成されており、前記外側ねじナット6は当該第二螺旋溝40に配列された多数のボールを介して前記第二ねじ軸4に螺合している。前記第二ねじ軸4の外周面に形成された第二螺旋溝は前記第一ねじ軸3の外周面に形成された第一螺旋溝と巻き方向が逆ねじの関係になっている。
【0034】
尚、図1及び図2に示した実施形態では、前記外側ねじナット6が前記ハウジング1の小径円筒部12の内周面側に固定されていたが、当該外側ねじナット6を前記小径円筒部12と一体に形成してもよい。
【0035】
前述の如く、前記第二ねじ軸4は前記第二ジョイント部材8と共に前記ハウジング1に対して回転を生じるため、当該第二ねじ軸4に回転を与えると、前記第二ねじ軸4が前記ハウジング1に固定された外側ねじナット6に対して軸方向へ移動する。前記第二ねじ軸4は前記第二ジョイント部材8によって支承されており、このような軸方向への移動が許容されている。このため、前記電動モータ7によって前記第二ねじ軸4に回転を与えると、当該第二ねじ軸4は前記ハウジング1に対して回転を生じながら軸方向へ移動し、結果的に前記第二ねじ軸4は前記ハウジング1に対して螺旋状に運動する。
【0036】
図5は前記第二のボールねじ装置として適用可能なボールねじ装置の一例を示すものであり、外周面に第一螺旋溝40としてのボールの転動溝が螺旋状に形成されたねじ軸4Aと、多数のボールを介して前記ねじ軸4Aに螺合した円筒状のナット部材4Bとから構成されている。前記ねじ軸4Aが前記第二ねじ軸4に相当し、前記ナット部材4Bが前記外側ボールねじナット6に相当する。
【0037】
前記ねじ軸4Aの外周面には所定のリードでボールの転動溝40が一条形成されている。また、互いに隣接する転動溝40の間はねじ山部41であり、当該ねじ山部41が前記ねじ軸4Aの外径を示している。
【0038】
前記ナット部材4Bは前記ねじ軸4Aが挿通する貫通孔を有して円筒状に形成され、当該貫通孔の内周面には前記ねじ軸4Aの周囲を一周する無限循環路が設けられ、当該無限循環路には多数のボール4Cが配列されている。前記ナット部材4Bは前記ボール4Cの無限循環路を三回路有しており、当該ナット部材4Bの外周面にはボール4Cの無負荷通路を構築するためのカバープレート43が三か所に装着されている。前記無限循環路の回路数は当該ナット部材4Bに必要とされる荷重負荷能力に応じて適宜選択して差し支えない。尚、前記無限循環路にボール4Cが配列されていることを明確にするため、図5では前記ナット部材4Bに設けられた三回路の無限循環路のうち、二番目に位置する無限循環路について前記カバープレート43を取り外した状態を示している。
【0039】
前記ナット部材4Bには前記無限循環路の一部をなすボール回送路44が形成されており、前記カバープレート43を前記ナット部材4Bから取り外すことによって当該ボール回送路44を外側から視認することができる。前記ボール回送路44は前記ナット部材4Bの軸方向に延びると共に当該前記ナット部材4Bを外周面から内周面に貫通しており、例えばエンドミルを用いた切削加工によって容易に形成することが可能である。また、前記カバープレート43は合成樹脂の射出成型で形成することが可能である。そして、前記ボール回送路44を前記カバープレート43で外側から閉塞することにより、ボール4Cの無限循環路が完成する。
【0040】
図6は前記ナット部材4Bの無限循環路に配列されたボール4Cを当該ナット部材4Bの貫通孔から観察した様子を示すものである。前記ナット部材4Bの内周面には前記ねじ軸4Aの転動溝40に対向する螺旋状の負荷転動溝45が形成されており、前記ボール4Cはねじ軸4Aの転動溝40とナット部材4Bの負荷転動溝45との間で荷重を負荷しながら転動する。また、ボール4Cは前記ナット部材4Bの負荷転動溝45を転動して前記ボール回送路44の形成位置に到達すると、当該ボール回送路44の内部に徐々に沈み込み、無負荷状態となって当該ボール回送路44を転動する。
【0041】
同図に示すように、前記ボール回送路44に配列された総てのボール4Cは当該ナット部材4Bの内周面に露出しており、前記ボール回送路44を転動するボール4Cは常に前記ねじ軸4Aに接触している。このように、前記ボール回送路44を無負荷状態で転動するボール4Cは常に前記第二ねじ軸4に面しているので、前記ナット部材4Bの外径は小さく抑えることが可能であり、前記ナット部材4Bの構造を前記外側ねじナット6に適用すれば、当該外側ねじナット6の外径を小さく抑え、その結果として当該外側ねじナット6を収容する前記ハウジング1の小径円筒部12の外径も小さく抑えることが可能となる。
【0042】
次に、図1に示した電動アクチュエータの動作について説明する。
【0043】
図1に示した状態、すなわち前記第二ねじ軸4及び前記第一ねじ軸3がハウジング1内に収納されている状態で前記電動モータ7に通電し、当該電動モータ7を回転駆動すると、前記ハウジング1に対して回転自在に支承された第二ジョイント部材8に回転が与えられる。前記第二ジョイント部材8が回転すると、前記第二ねじ軸4は当該第二ジョイント部材8に連れ回され、前記ハウジング1のカバー部材1bの内部で回転を生じる。また、前記カバー部材1bには前記外側ねじナット6が固定されており、当該外側ねじナット6は前記第二ねじ軸4に螺合しているので、当該第二ねじ軸4は自らの回転に伴い前記外側ねじナット6に対して軸方向へ移動を生じることになる。すなわち、前記電動モータ7に通電すると、図2に示すように、前記第二ねじ軸4は螺旋状に運動しながら前記カバー部材1bの開口部13から前記ハウジング1の外へ進出する。
【0044】
一方、前記第二ねじ軸4が回転すると、当該第二ねじ軸4に固定された前記内側ねじナット5も回転を生じる。このとき、前記内側ねじナット5と第一のボールねじを構成している前記第一ねじ軸3は前記第一ジョイント部材2によって周方向への回転が係止されているので、前記内側ねじナット5が回転を生じると、前記第一ねじ軸3が前記内側ねじナット5に対して軸方向へ移動することになる。すなわち、前記第二ねじ軸4が回転すると、前記第一ねじ軸3が前記第二ねじ軸4に対して軸方向へ移動する。
【0045】
前記第二ねじ軸4の外周面に形成された第二転動溝40と前記第一ねじ軸3の外周面に形成された第一転動溝30は螺旋の巻き方向が逆方向なので、前記第二ねじ軸4を電動モータ7によって回転させた場合に、当該第二ねじ軸4の軸方向への移動方向と前記第一ねじ軸3の軸方向への移動方向は同一となる。このため、電動モータ7を駆動すると、図2に示すように、前記ハウジング1から進出した前記第二ねじ軸4の先端から前記第一ねじ軸3が更に進出することになり、前記第一ジョイント部材2が前記第一ねじ軸3の中空部から抜け出さない範囲で、当該第一ねじ軸3を軸方向へ移動させることが可能となり、前記ハウジング1に対する前記第一ねじ軸3のストローク量を大きく設定することができる。つまり、本実施形態の電動アクチュエータは多段式となっている。
【0046】
一方、前記電動モータ7の回転方向を逆転させると、前記第二ねじ軸4及び前記第一ねじ軸3の軸方向への移動方向は逆転し、図1に示すように、前記第一ねじ軸3を前記第二ねじ軸4の中空部内に引き込み、更に前記第二ねじ軸4を前記ハウジング1のカバー部材1bの内部に引き込み、前記第一ねじ軸3及び前記第二ねじ軸4は互いに重ね合わされた状態で前記ハウジング1の内部に格納される。
【0047】
以上のように構成された本実施形態の電動アクチュエータでは、前記第二ねじ軸4がハウジング1から進出する速度、ハウジング1に収納される速度を高速化するため、前記第二ねじ軸4の外周面に形成された第二螺旋溝40のリードを当該第二ねじ軸4の軸径よりも大きく設定している。また、前記第二ねじ軸4に対する前記第一ねじ軸3の進出速度を高速化するため、前記第一ねじ軸3の外周面に形成された第一螺旋溝30のリードは第二螺旋溝40のリードと略同一に設定されている。
【0048】
一方、前記第一螺旋溝30のリードと前記第二螺旋溝40のリードを略同一に設定したのでは、前記第一ねじ軸3の軸径が第二ねじ軸4のそれよりも小さいため、前記第一ねじ軸3と前記内側ねじナット5で構成された第一のボールねじ装置の荷重負荷能力が、前記第二ねじ軸4と前記外側ねじナット6で構成された第二のボールねじ装置のそれよりも小さくなってしまい、電動アクチュエータの全体としての荷重負荷能力が低下してしまう懸念がある。このことは、前記第一ねじ軸3の進出速度を高速化するため、当該第一ねじ軸3の外周面に形成された第一螺旋溝30のリードを大きく設定するほど顕著である。
【0049】
この点に関して本実施形態の電動アクチュエータでは、第一ねじ軸3に対して第一螺旋溝30を多条溝として形成しているので、当該第一螺旋溝30のリードが前記第二ねじ軸4の第二螺旋溝40のリードと略同一であっても、前記第一ねじ軸3と前記内側ねじナット5との間に配列されるボールの数は、前記第二ねじ軸4と前記外側ねじナット6との間に配列されるボールの数と同程度にまで増加させることが可能である。
【0050】
従って、径方向の内側に位置する第一のボールねじ装置の荷重負荷能力を外側に位置する第二のボールねじ装置のそれと同等程度にまで高めることができ、前記第一ねじ軸3の軸径を大きくすることなく、電動アクチュエータ全体としての荷重負荷能力を高めることが可能となる。
【0051】
また、前記第一螺旋溝30は前記第一ねじ軸3に対して多条ねじとして形成されているので、当該第一螺旋溝30のリードが前記第二ねじ軸4の第二螺旋溝40のリードと略同一であっても、前記第一ねじ軸3における第一螺旋溝30の軸方向ピッチは前記第二ねじ軸4における第二螺旋溝40の軸方向ピッチよりも小さいものとなる。この点においても、前記第一ねじ軸3と前記内側ねじナット5との間に配列されるボールの数は、前記第二ねじ軸4と前記外側ねじナット6との間に配列されるボールの数と同程度にまで増加させることが可能であり、径方向の内側に位置する第一のボールねじ装置の荷重負荷能力を外側に位置する第二のボールねじ装置のそれと同等程度にまで高めることが可能となる。
【0052】
以上説明してきたように、本発明の多段式ボールねじユニットを用いて電動アクチュエータを構成すれば、半径方向に重ねた第一のボールねじ装置及び第二のボールねじ装置に関して、内側に位置する第一のボールねじ装置のねじ軸3の軸径を大きく設定することなく、当該第一ボールねじの荷重負荷能力を外側に位置する第二のボールねじ装置のそれと同程度にまで高めることができ、ストローク量が大きく且つ伸縮速度の速い、小型電動アクチュエータを実現することが可能である。
【0053】
尚、本発明のボールねじユニットにおいて、前記第一ねじ軸3に形成された第一螺旋溝30のリードと第二螺旋溝40のリードは、出力軸としての前記第一ねじ軸3に必要とされるストローク量や移動速度、当該第一ねじ軸3に必要とされる荷重負荷能力に応じて適宜変更して差し支えない。また、第一螺旋溝30のリードと第二螺旋溝40のリードは略同一でなくても差し支えない。
【符号の説明】
【0054】
1…ハウジング、2…第一ジョイント部材、3…第一ねじ軸、4…第二ねじ軸、5…内側ねじナット、6…外側ねじナット、7…電動モータ、8…第二ジョイント部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6