(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】シューズ
(51)【国際特許分類】
A43B 13/14 20060101AFI20240521BHJP
A43B 13/18 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
A43B13/14 A
A43B13/18
A43B13/14 B
(21)【出願番号】P 2020076951
(22)【出願日】2020-04-23
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/041127
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】WO
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】高増 翔
(72)【発明者】
【氏名】入江 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】三ツ井 滋之
(72)【発明者】
【氏名】中山 和長
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 政剛
(72)【発明者】
【氏名】阪口 正律
【審査官】遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-514579(JP,A)
【文献】特表2010-505538(JP,A)
【文献】特表2015-524739(JP,A)
【文献】特開2010-162318(JP,A)
【文献】実開昭54-001561(JP,U)
【文献】国際公開第2009/010700(WO,A2)
【文献】登録実用新案第3226883(JP,U)
【文献】米国特許第06487796(US,B1)
【文献】国際公開第2016/151728(WO,A1)
【文献】特開2000-083705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 13/14
A43B 13/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接足面及び接地面を有するソールと、
前記ソールの前記接足面を少なくとも部分的に覆うアッパーと、
前記接地面の少なくとも外足側から後方に延びるにしたがって上方に湾曲する弾性構造とを備え
、
前記弾性構造は、上下方向中間の断面において上面視したときに後方に突出する略U字形状を有するとともに、前記接地面の少なくとも後足部内足側に沿って延びる内足側部分と、前記接地面の少なくとも後足部外足側に沿って延びる外足側部分とを有し、
前記内足側部分の前端は、前記外足側部分の前端よりも前方に位置する、シューズ。
【請求項2】
接足面及び接地面を有するソールと、
前記ソールの前記接足面を少なくとも部分的に覆うアッパーと、
前記接地面の少なくとも外足側から後方に延びるにしたがって上方に湾曲する弾性構造とを備え
、
前記弾性構造は、上下方向中間の断面において上面視したときに後方に突出する略U字形状を有するとともに、前記接地面の少なくとも後足部内足側に沿って延びる内足側部分と、前記接地面の少なくとも後足部外足側に沿って延びる外足側部分とを有し、
前記内足側部分と、前記外足側部分は、前記接地面の後端よりも後方側で互いに連結される、シューズ。
【請求項3】
前記弾性構造は、側面視したときに後方に突出する略U字形状を有し、前記弾性構造の上端は前記接足面に接続される、請求項1
または2に記載のシューズ。
【請求項4】
前記弾性構造の内側面と、前記ソールの後端面は所定の距離をもって対向する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシューズ。
【請求項5】
前記ソールの後端面は下方に向かうにしたがって前方に湾曲する湾曲形状を有し、前記ソールの後端面と前記弾性構造の内側面との間には幅方向に貫通する空間が形成される、請求項4に記載のシューズ。
【請求項6】
前記ソールは、前記内足側部分と前記外足側部分の間に延びる溝を有する、請求項
1乃至5のいずれか1項に記載のシューズ。
【請求項7】
前記接足面上に配置され、着用時に着用者の踵部を支持する踵支持部を備え、前記踵支持部は前記弾性構造と連結されている、請求項1乃至
6のいずれか1項に記載のシューズ。
【請求項8】
前記踵支持部は、前記弾性構造に対して上下方向に力を伝達できるよう連結されている、請求項
7に記載のシューズ。
【請求項9】
前記踵支持部に連結され、前記接足面の少なくとも後足部から中足部にかけて内足側に沿って延びる内足側支持部と、
前記踵支持部に連結され、前記接足面の少なくとも後足部から中足部にかけて外足側に沿って延びる外足側支持部とを備える、請求項
7又は
8に記載のシューズ。
【請求項10】
前記ソールは、前足部が上方に向けて傾斜しており、前記シューズを平坦な仮想面上に配置したときの前記ソールの前端と前記仮想面との距離は、中足部における前記ソールの厚さの1.7~2.5倍である、請求項1乃至
9のいずれか1項に記載のシューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシューズに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ランニングシューズのようなスポーツシューズの分野において、シューズの性能を高めることにより着用者のパフォーマンスを向上させる技術が注目されている。特にランニングシューズにおいては、着地時の衝撃吸収性を高めて着用者の疲労を軽減させたり、地面を蹴るときの力を増加させたりする技術が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、シューズの底面に板バネを取り付け、板バネにより着地時の衝撃を吸収し、かつ蹴り出すときの力を増加させられることが記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたシューズは、接地時の安定性が低く、かつ底面に複雑な構造の板バネが設けられているため、板バネが振動して着用者に違和感を与えるおそれがあった。
【0006】
本発明は、特許文献1と比較して単純な構造で、着用者に違和感を与えることなく、反発力を高められるシューズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために、本発明の一態様は、接足面及び接地面を有するソールと、ソールの接足面を少なくとも部分的に覆うアッパーと、接地面の少なくとも外足側から後方に延びるにしたがって上方に湾曲する弾性構造とを備える。
【発明の効果】
【0008】
このような構成により、単純な構造で、着用者に違和感を与えることなく、反発力を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図12】変形例によるシューズの模式的な側面図を示す。
【
図13】変形例によるシューズの模式的な側面図を示す。
【
図14】変形例によるシューズの模式的な側面図を示す。
【
図15】変形例によるシューズの模式的な側面図を示す。
【
図16】変形例によるシューズの模式的な側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本明細書で用いる用語の定義について説明する。本明細書では、方向を示す用語として、前後方向、幅方向、及び上下方向を用いることがあるが、これら方向を示す用語は、シューズを平らな面に置き、シューズを着用したときの着用者の視点から見た方向を示す。したがって、前方向はつま先側を意味し、後方向はかかと側を意味する。また、方向を示す用語として、内足側、及び外足側を用いることがあるが、内足側とは足の幅方向内側、即ち足の母指(第1指)側を意味し、外足側とは幅方向において内足側とは反対側を意味する。
【0011】
また、以下の説明では、シューズのソールについて言及することがある。ソールとは、ミッドソールのみ、又はアウトソールとミッドソールの両者を意味する。また、幾つかの例では、3次元直交座標を用いて方向を説明することがある。この場合、X軸は外足側から内足側に向けて延び、Y軸は踵側からつま先側に向けて延び、Z軸は底面側から上側に向けて延びる。
【0012】
また、実施形態によるシューズの説明を行う前に、実施形態によるシューズと関連するこがある足の骨格について、
図1を参照しながら説明を行う。
【0013】
図1は、足の骨格を示す上面図である。人体の足は、主に、楔状骨Ba、立方骨Bb、舟状骨Bc、距骨Bd、踵骨Be、中足骨Bf、趾骨Bgで構成される。足の関節には、MP関節Ja、リスフラン関節Jb、ショパール関節Jcが含まれる。ショパール関節Jcには、立方骨Bbと踵骨Beがなす踵立方関節Jc1と、舟状骨Bcと距骨Bdがなす距舟関節Jc2とが含まれる。本明細書での着用者の「前足部」は、MP関節Jaよりも前側の部分をいい、シューズの長さ比率で置き換えると、つま先側から測定してシューズの全長の0~約30%の部分をいう。また、「中足部」は、MP関節Jaからショパール関節Jcまでの部分をいい、同様に、つま先側から測定してシューズの全長の約30~80%の部分をいう。また、「後足部」は、ショパール関節Jcよりも後側の部分をいい、同様に、つま先側から測定してシューズの全長の約80~100%の部分をいう。また、
図1において中心線Sは、シューズの中心線を示し、足幅方向中央部に沿って延びる。中心線Sは、人体の第三中足骨Bf3と踵骨Beの踵骨隆起内側突起Be1を通る直線上に位置する部位を想定している。
図1では踵骨隆起内側突起Be1が位置すると想定される範囲を示す。シューズの全長における割合は目安であって、前足部、中足部、後足部の範囲を限定するものではない。
【0014】
図2は、シューズの側面図であり、
図3はシューズの底面図である。
図2及び
図3に示すようにシューズ10は、アッパー12と、ミッドソール14と、アウトソール16と、弾性構造18と、補強部材20とを備える。
【0015】
〔アッパー〕
アッパー12は、足の甲の上側を覆う形状を有している。アッパー12は、アッパー本体12aと、アッパー12の緊締手段(緊締構造)12bと、アッパー12の幅方向中央付近においてアッパー12の前後方向に延びるスリット12cとを備える。また、アッパー12にはシュータン12dが取り付けられている。本実施形態では、アッパー12の締め付け具合を調整するための緊締手段12bとして、ハトメと、シューレースとの組み合わせによる構造を採用しているが、緊締手段12bとしては面ファスナー等を用いてもよい。また、スリットを備えない、モノソックタイプのアッパーとしてもよい。
【0016】
アッパー本体12aは、例えばポリエステル、ポリウレタン等の合成繊維を編んだメッシュ素材、合成皮革、天然皮革によって形成され、足の甲を覆う形状を有している。スリット12cは、シューレースの締め具合によってアッパー本体12aの幅を調整するための緩衝部分である。スリット12cの幅方向両側には、複数のハトメが設けられている。スリット12cからはシュータン12dが露出しており、シューレースを付けた際にシューレースが着用者の足の甲に接触しないようになっている。
【0017】
〔ミッドソール〕
ミッドソール14は、衝撃を吸収する役割を果たし、その一部又は全部が例えば発泡EVA、若しくは発泡ウレタンのようなフォーム材、GEL、又はコルクを含む衝撃を吸収する軟質材によって形成される。ミッドソール14を形成する材料としては、ヤング率が10MPa以下(10%歪のとき)、又はアスカーゴム硬度計C型による計測値が70以下であることが好ましい。
【0018】
ミッドソール14の上には補強部材20が配置され、下には弾性構造18が配置される。ミッドソール14は、後足部において補強部材20及び弾性構造18により上下から挟まれている。ミッドソール14の底面には、Y軸に沿って延びる溝22が形成されている。
【0019】
ミッドソール14の外縁は、足を上面視したときの投影形状を模した平面形状を有している。ミッドソール14の上面は、足の裏の凹凸形状に対応する凹凸形状を有している。また、ミッドソール14の上面には、アッパー12が結合される。より具体的にはアッパー12は、ミッドソール14の外縁に沿って、又は外縁よりも僅かにミッドソール14の内側に沿って結合されている。アッパー12をミッドソール14に結合する手段としては、アッパー12の縁をミッドソール14に縫い付けたり、接着剤等の接合手段を用いて結合したりする方法がある。ミッドソール14の底面は、弾性構造18及びアウトソール16により覆われる。
【0020】
〔アウトソール〕
アウトソール16は、複数のラバーを所定形状に成形することで形成されている。アウトソール16は、ミッドソール14の底面を少なくとも部分的に覆うように、ミッドソール14の底面に貼り付けられている。また、詳細は後述するが、弾性構造18は二股形状を有しており、アウトソール16の一部は弾性構造18の外側面18aに貼り付けられている。
【0021】
〔ミッドソール〕
図4は、シューズの側面図を示し、アッパーを取り除いた状態を示す。
図5は、シューズの上面図を示し、アッパーを取り除いた状態を示す。
【0022】
上述したようにミッドソール14の上面(即ち接足面)40には、補強部材20が配置され、ミッドソール14の底面(即ち接地面)42は、弾性構造18上に配置される。接足面40とは、着用者の足が直接接触する面、及びインナーソールのような中間部材を介して着用者の足が間接的に接触する面を含む。つまり接足面40とは、着用者の体重が加えられるミッドソール14の上面全体を指す。また弾性構造18は、接地面42から接足面40にかけて延びているため、ミッドソール14は、弾性構造18によって上下から挟まれているということもできる。接地面42の後端42aは、着用者の足の後端の略真下又はそれよりも前に位置する。ミッドソール14の後端面44は、接地面42の後端42aからミッドソール14の最後端14aの間で延びる。ミッドソール14の後端面44は、側面視したときに前方かつ上方に凹んだ湾曲形状を有する。
図4中の破線Aで囲んだ領域内には、接地面42の後端付近の上面図を示す。破線Aで囲んだ領域内に示すように、ミッドソール14の接地面42は、後足部において後側に向けて先細る形状を有している。つまり、接地面42の後端付近では、幅方向両側において接地面42の外縁は中心側に向けて傾斜している。これにより、弾性構造18の内側面46の一部が上面に露出している。これにより、ミッドソール14の後端付近は、幅方向両側において先細る形状を有する。ミッドソール14の幅方向両端側が切り欠いている、ということもできる。ミッドソール14の後端付近を先細る形状とすることでミッドソール14を圧縮したときに変形し易くなり、クッション性を向上させられる。
【0023】
ミッドソール14の後端面44と、弾性構造18の内側面(U字形状の内側面)46との間には空間48が形成される。空間48は、後端面44及び弾性構造18の内側面46により定められ、シューズ10の幅方向に貫通する。空間48は、弾性構造18が上下方向に圧縮された際に弾性構造18を変形させるための空間として機能する。つまり空間48を設けることにより、弾性構造18が上下方向に弾性変形し易くなる。
【0024】
接足面40の一部は、着用者の踵をつま先よりも高い位置に保つように水平面(XY平面)L1に対して傾斜している。接足面40の踵中心に相当する部位と、接足面40の中足部の最も下方に位置する部位とを結ぶ線を仮想線L2とする。この場合、水平面L1と仮想線L2とがなす鋭角αは、4~16度であることが好ましい。鋭角αは、8~16度であることがさらに好ましい。
【0025】
〔弾性構造〕
弾性構造18は、側面視したときに後側に突出するU字形状を有する。また弾性構造18は、上下方向中間の断面において上面視したときに後方に突出するU字形状を有する。弾性構造18は、ミッドソール14よりもヤング率が大きい、例えば熱可塑性ポリウレタンのようなポリウレタン樹脂、又は繊維強化プラスチックのようなプラスチック材料によって形成されている。弾性構造18は、ヤング率が100MPa以上の材料で形成されることが好ましい。
【0026】
弾性構造18の一端は、ミッドソール14の接足面40を部分的に覆い、後足部から中足部付近まで延びる。弾性構造18の他端は、ミッドソール14の接足面40付近まで延びる。つまり、弾性構造18は、接地面42から一旦、後側に延び、変曲点を経て再び接足面40に向けて戻るようなループ形状を有する。なお、弾性構造18の他端がミッドソール14の接足面40付近まで延びるとは、厳密に弾性構造18が接足面40に接触することを意味するものではなく、接足面40に加えられた荷重が直接的に、又は補強部材20を含む他の部材を介して間接的に弾性構造18の他端に伝達されるような関係を有していることを意味する。また、弾性構造18の他端は、補強部材20と係合される。
【0027】
弾性構造18の外側面18aは、側面視したときに連続した曲面を有している。このとき、
アウトソール16の最後端における接線L3と、水平面L1とがなす鋭角βは、10~40度、好ましくは20~30度とされる。なお、鋭角βは、アウトソール16の接線と水平面L1との角度としてもよい。
【0028】
図6は、弾性構造の斜視図である。
図6に示すように弾性構造18は、略Y字形状のプレートを湾曲させた形状を有する。弾性構造18の一端は、二股に分かれており、それぞれが内足側部分54及び外足側部分56を形成する。内足側部分54は、接地面42の内足側に沿って延びる。外足側部分56は、接地面42の外足側に沿って延びる。内足側部分54及び外足側部分56の外縁は、接地面42の形状に倣う形状を有する。内足側部分54と外足側部分56の間には所定の隙間60が形成される。隙間60は、ミッドソール14の溝22の位置に適合し、隙間60から溝22が露出する。内足側部分54及び外足側部分56の前端54a,56aは、中足部まで延びる。内足側部分54の前端54aは、外足側部分56の前端56aよりも前側に位置する。つまり、内足側部分54の方が、前後方向においてより長い範囲で接地面42を覆う。これにより、接地面42の内足側の剛性を高めてプロネーションを防止できる。内足側部分54と外足側部分56が連結される位置は、接地面42の後端42aよりも後側にあり空間48(
図4参照)内に位置する。つまり隙間60は空間48と連続する、ということもできる。
【0029】
二股に分かれた内足側部分54及び外足側部分56を採用することにより、内足側部分54及び外足側部分56を独立して変形させることができる。これにより、体重のかかり方に応じて内足側部分54及び外足側部分56がそれぞれ自由に変形できる。また、内足側部分54と外足側部分56が連結される位置を、接地面42の後端42aよりも後側にすることで、さらに独立した変形性を向上させられる。
【0030】
図3を参照して、内足側部分54及び外足側部分56の外側表面には、アウトソール16が貼り付けられる。アウトソール16を貼り付ける位置は特に限定されないが、内足側部分54の前端54aとミッドソール14との境界、及び外足側部分56の前端56aとミッドソール14の境界の上にアウトソール16を貼り付けることが好ましい。これにより、前端54a,56aが直接地面42に接触しなくなり、弾性構造18が剥がれるのを防止できる。またアウトソール16は、接地面42の後端42aよりもさらに後側に設けられていることが好ましい。詳細は後述するが、着地時には接地面42の後端42aよりも後側が最初に地面に接触するからである。この場合、シューズ10が接地面42に対してつま先を上方にして30度の角度で接地しても、アウトソール16から着地できるようにアウトソール16を配置することが好ましい。
【0031】
弾性構造18は、内足側部分54と外足側部分56が連結される位置付近から上方に立ち上がる立ち上がり部58を有する。立ち上がり部58は、XY平面及びYZ平面の2つの平面において後側に凸な湾曲形状を有する。立ち上がり部58をXY平面において湾曲させることで上下方向の荷重に対する剛性を挙げられる。また立ち上がり部58をYZ平面において湾曲させることで弾性構造18のバネ定数を高めて弾性を付与できる。立ち上がり部58の上端(つまり弾性構造18の他端)付近は、ミッドソール14の上面に接触し、ミッドソール14により下側から支持される。立ち上がり部58の上端付近には、補強部材20を係合させるための凹部62が形成される。凹部62は、弾性構造18の他端の上面側に形成された凹みである。
【0032】
弾性構造18の凹部62の幅方向両側には、前側に突出する一対の突出部64が形成されている。一対の突出部64によりミッドソール14を幅方向から挟み込み、弾性構造18がミッドソール14に対して幅方向にずれないようになっている。
【0033】
〔補強部材〕
図7は補強部材の斜視図を示し、
図8は補強部材の背面図を示し、
図9は補強部材の側面図を示す。補強部材20は、ミッドソール14(
図4等参照)の上面に配置され、ミッドソール14の後足部から、中足部と前足部との境界付近にかけて連続して延びる。補強部材20は、例えば熱可塑性ポリウレタンのようなポリウレタン樹脂、又は繊維強化プラスチックのようなプラスチック材料によって形成されている。補強部材20は、弾性構造18と同一の材料によって形成されることが好ましい。また、補強部材20と弾性構造18とを一体に形成してよい。補強部材20は、後足部から中足部と前足部の境界にかけてミッドソール14の強度を向上させることができ、かつ一体性を向上させる。また、補強部材20は、シューズ10の中心線S回りの捻れを抑制できる。
【0034】
補強部材20は、踵支持部66と、内足側支持部68と、外足側支持部70と、凸部72とを備える。内足側支持部68及び外足側支持部70は、踵支持部66の前端の幅方向両側からそれぞれ前側に延びる。したがって補強部材20は、上面視したときに略U字形状を有する。凸部72は、踵支持部66の後側に形成される。なお、図示は省略するが補強部材20の上にインナーソール又はインソールを配置してもよい。なお、補強部材20は必須の構成ではなく、補強部材を設けなくてもよい。
【0035】
踵支持部66は、着用時に使用者の踵の幅方向両側及び後側を囲み、着用時に使用者の踵を保持する。踵支持部66は、前側が開いたカップ形状を有する。
【0036】
内足側支持部68は、接足面40の後足部から中足部にかけて内足側に沿って延びる。内足側支持部68は、着用者の足の内足側を支持する。外足側支持部70は、接足面40の後足部から中足部にかけて外足側に沿って延びる。外足側支持部70は、着用者の足の外足側を支持する。内足側支持部68と外足側支持部70との間には所定の間隔が形成されている。この間隔を設けることにより、着用者の足とミッドソール14(
図4等参照)との間に比較的硬質な補強部材20が介在しないようにする。これにより、クッション性が損なわれるのを防止する。
【0037】
図4及び
図5を参照して、内足側支持部68及び外足側支持部70は、後足部と中足部の境界付近でミッドソール14の内側に入り込む。したがって内足側支持部68及び外足側支持部70は、側面視したときに前側に傾斜した形状となる。
【0038】
図7乃至
図9に戻り、凸部72は弾性構造18の凹部62と係合することにより、補強部材20と弾性構造18とを連結する。弾性構造18と補強部材20とを連結するとは、弾性構造18と補強部材20との間で少なくとも上下方向の力が伝達できるように連結することをいう。凸部72は、上側から凹部62内に嵌まる。凸部72と凹部62との間に接着剤等の接着手段を設けてもよい。凹部62によって凸部72の左右への移動が規制される。凸部72と凹部62の係合構造により、補強部材20に荷重がかかったときに荷重を弾性構造18に伝達するとともに、弾性構造18が反発力を発生させたときに反発力を補強部材20に伝達する。シューズ10の着用時は補強部材20には使用者の体重がかかるため基本的には補強部材20の凸部72が弾性構造18を下側に押している状態となる。また、弾性構造18が反発力を発生させたときは弾性構造18の凹部62が補強部材20の凸部72に押し付けられる状態となる。凹部62と凸部72とを用いた連結構造以外の構造を用いてもよい。
【0039】
〔ミッドソールの断面形状〕
図10は、
図4のBB断面に沿った断面図を示す。
図10に示すように、ミッドソール14の内足側及び外足側には、補強部材20に沿って立ち上がる巻き上げ部76,76が形成される。これにより、補強部材20が幅方向にずれるのを防止できる。また、図示は省略するが、ミッドソール14は補強部材20の後側にも巻き上げ部を有していてもよい。
【0040】
溝22は、ミッドソール14の幅方向中間に形成され、後足部から中足部にかけて延びる。溝22は、弾性構造18の内足側部分54と外足側部分56の間に配置される。溝22の内面は、上側に向けて幅が狭くなる略テーパー形状を有する。溝22を設けることにより、ミッドソール14の幅方向中間が下側に向けて撓み易くなり、クッション性を向上させられる。
【0041】
次にシューズ10の作用について説明する。
【0042】
図11は、シューズの側面図を示す。シューズ10を着用して着地する際、最初にシューズ10の踵部分、すなわち弾性構造18が地面Gに接触する。弾性構造18が地面Gに接触すると、弾性構造18は変形する。このとき弾性構造18の上側には空間48が設けられているため弾性構造18の変形が阻害されない。弾性構造18が変形すると、弾性構造18はクッション性を発生させる。接足面40が傾斜しているため、着地時には着用者の足の中足部は地面Gに対して略平行な状態となる。
【0043】
弾性構造18が一定量変形すると、弾性構造18は復元し始める。シューズ10がある程度前方にローリングした状態で弾性構造18が復元すると、弾性構造18の復元力は、連結構造を介して補強部材20に伝達される。補強部材20に復元力が伝達されると、踵支持部66、内足側支持部68、及び外足側支持部70が着用者の足裏を押す。接地面42が地面Gと平行な状態に移行すると、接足面40の傾斜により中足部が前傾した状態となる。これにより、着用者の姿勢が自然に前傾姿勢に移行する。補強部材20は、前方に向けて傾斜しているため、補強部材20が足裏を押す力は、前向きの成分Fを有する。これにより、着用者に前向きの加速力が作用する。
【0044】
このようにシューズ10によれば、弾性構造18で得られた反発力を用いて着用者を加速させ、又は少なくとも着用者に加速感を与えられる。
【0045】
また弾性構造18の内足側部分54及び外足側部分56は接地面42と一体にされるため、見た目上、弾性構造18が設けられていないシューズとシューズ10との違いは、ミッドソール14の後側に突出する弾性構造18だけである。弾性構造18は、ミッドソール14に固定されているため走行時に振動せず、着用者に違和感を与えない。また、弾性構造18は、ミッドソール14の後側に突出しているため、シューズ10を平坦に接地させたときに安定性を損ねることはない。
【0046】
本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、実施形態の各構成は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更できる。本発明の範囲内において以下のような変形例が想定される。
【0047】
図12乃至
図16は、変形例によるシューズの模式的な側面図である。
【0048】
図12に示すように、第1変形例によるシューズ120は、ローリングを促進するため前足部が大きく上方に持ち上がった前足リフト形状を有する。シューズ120を水平面L1上に配置した場合、水平面L1からミッドソール122の前端までの距離L4は、中足部におけるミッドソール122の厚さの1.7~2.5倍とされる。中足部におけるミッドソール122の厚さは、ミッドソール122が上方に持ち上がり始める位置よりも後側にある、ミッドソール122の接地面と水平面L1が接地する位置で計測するのがよい。このようなシューズ120によれば、弾性構造18と前足リフト形状との組み合わせでさらに加速力を発生させられる。
【0049】
図13に示すように、第2変形例によるシューズ130は、弾性構造132が補強部材134と連結されていない。弾性構造132は、ミッドソール136の最後側部分の上面に連結されている。弾性構造132と補強部材134とを連結しなくても、一定の反発力及びクッション性が期待できる。
【0050】
図14に示すように、第3変形例によるシューズ140は、弾性構造142が補強部材144と連結されておらず、弾性構造142の他端146はミッドソール148とも連結されていない。つまり弾性構造142の後端は、上向きに湾曲した自由端となっている。このような構成によっても、一定の反発力及びクッション性が期待できる。
【0051】
図15に示すように、第4変形例によるシューズ150は、弾性構造152の後端が、ミッドソール154の後端面156に接触している。このような構成によっても、弾性構造152の反発力を、ミッドソール154を介して補強部材158に伝達できる。この場合、ミッドソール154の後端部だけ剛性が高い材料により形成してもよく、これにより実質的に剛体により補強部材158と弾性構造152を連結できる。このような構成によっても、一定の反発力及びクッション性が期待できる。
【0052】
図16に示すように、第5変形例によるシューズ160は、ミッドソール162が後足部において上下に分離されている。ミッドソール162の下側部分164の底面には弾性構造166が配置されている。このような構成によっても、一定の反発力及びクッション性が期待できる。
【0053】
以上のように実施形態及び変形例によれば、ミッドソールの接地面から後側に向けて弾性構造が設けられてさえいれば、一定の反発力及びクッション性が期待できる。この場合、弾性構造は、少なくとも着地時に最初に地面に接触することが多い外足側にだけ設けられていればよい。
【符号の説明】
【0054】
10 :シューズ
12 :アッパー
14 :ミッドソール
18 :弾性構造
22 :溝
40 :接足面
42 :接地面
44 :後端面
46 :内側面
48 :空間
54 :内足側部分
56 :外足側部分
66 :踵支持部
68 :内足側支持部
70 :外足側支持部