(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】シャント抵抗器
(51)【国際特許分類】
H01C 13/00 20060101AFI20240521BHJP
H01C 7/06 20060101ALI20240521BHJP
H01C 1/148 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
H01C13/00 J
H01C7/06
H01C1/148 Z
(21)【出願番号】P 2020078971
(22)【出願日】2020-04-28
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【氏名又は名称】金沢 充博
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100092406
【氏名又は名称】堀田 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】大澤 亮
【審査官】上谷 奈那
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-110264(JP,A)
【文献】特表2013-536424(JP,A)
【文献】特開2017-098473(JP,A)
【文献】特開2017-005204(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063928(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 13/00
H01C 7/06
H01C 1/148
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗体と、
前記抵抗体の第1方向における前記抵抗体の両端に接続された一対の電極と、を備え、
前記一対の電極のそれぞれは、
前記第1方向と垂直な第2方向における前記抵抗体の両側に配置された第1突起部および第2突起部と、
前記第1突起部および前記第2突起部の少なくとも1つに形成された電圧検出端子と、を備えている、シャント抵抗器。
【請求項2】
前記第1突起部は、前記電極の四隅の一角を構成する第1角部を有しており、
前記電圧検出端子は、前記第1角部に形成されている、請求項1に記載のシャント抵抗器。
【請求項3】
前記第2突起部は、前記電極の四隅の一角を構成する第2角部を有しており、
前記電圧検出端子は、前記第2角部に形成されている、請求項2に記載のシャント抵抗器。
【請求項4】
前記抵抗体の両端は、鈍角から形成された多角形状を有する、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のシャント抵抗器。
【請求項5】
前記抵抗体の両端は、鈍角および鋭角から形成された多角形状を有する、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のシャント抵抗器。
【請求項6】
前記抵抗体の両端は、丸みを帯びた形状を有している、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のシャント抵抗器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャント抵抗器に関する。
【背景技術】
【0002】
シャント抵抗器は、電流検出用途に広く用いられている。このようなシャント抵抗器は、抵抗体と、抵抗体の両端に接合された電極と、を備えている。シャント抵抗器において、温度変動による影響が小さい条件下での電流の検出を可能にするために、抵抗温度係数(TCR)の特性は、重要である。なお、抵抗温度係数は、温度による抵抗値の変化の割合を示す指標である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2013-504213号公報
【文献】特開2017-9419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、電圧検出端子が設けられた抵抗器を開示している。特許文献1に係る発明は、抵抗器の幅方向における中央に配置された電圧検出端子の幅や長さを調整することによって、抵抗温度係数を減少する。また、特許文献1に開示された構成は、電極にL字形状を有する穴を形成することによって、抵抗温度係数を減少する。しかしながら、特許文献1に開示された構成では、抵抗温度係数を減少するために、複雑な切削などの作業が必要になる。
【0005】
そこで、本発明は、簡単な構造で、抵抗温度係数を減少することができるシャント抵抗器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、抵抗体と、前記抵抗体の第1方向における前記抵抗体の両端に接続された一対の電極と、を備えるシャント抵抗器が提供される。前記一対の電極のそれぞれは、前記第1方向と垂直な第2方向における前記抵抗体の両側に配置された第1突起部および第2突起部と、前記第1突起部および前記第2突起部の少なくとも1つに形成された電圧検出端子と、を備えている。
【0007】
一態様では、前記第1突起部は、前記電極の四隅の一角を構成する第1角部を有しており、前記電圧検出端子は、前記第1角部に形成されている。
一態様では、前記第2突起部は、前記電極の四隅の一角を構成する第2角部を有しており、前記電圧検出端子は、前記第2角部に形成されている。
一態様では、前記抵抗体の両端は、鈍角から形成された多角形状を有する。
【0008】
一態様では、前記抵抗体の両端は、鈍角および鋭角から形成された多角形状を有する。
一態様では、前記抵抗体の両端は、丸みを帯びた形状を有している。
【発明の効果】
【0009】
抵抗体をはめ込むための第1突起部および第2突起部の少なくとも1つに電圧検出端子を形成するだけの簡単な構造で、抵抗温度係数を減少することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】シャント抵抗器の一実施形態を示す斜視図である。
【
図2】シャント抵抗器の一実施形態を示す斜視図である。
【
図4】本実施形態に係る抵抗器の効果を説明するための図である。
【
図5】本実施形態に係る抵抗器の効果を説明するためのグラフである。
【
図7】温度変化による抵抗変化率の変動幅を示すグラフである。
【
図8】抵抗器のさらに他の実施形態を示す図である。
【
図9】抵抗器のさらに他の実施形態を示す図である。
【
図10】抵抗器のさらに他の実施形態を示す図である。
【
図11】抵抗器のさらに他の実施形態を示す図である。
【
図12】抵抗器のさらに他の実施形態を示す図である。
【
図13】抵抗器のさらに他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下で説明する図面において、同一又は相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。以下で説明する複数の実施形態において、特に説明しない一実施形態の構成は、他の実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0012】
図1および
図2は、シャント抵抗器1の一実施形態を示す斜視図である。
図1および
図2に示すように、シャント抵抗器1は、所定の厚みと幅を有する抵抗合金板材からなる抵抗体5と、抵抗体5の第1方向における抵抗体5の両端(すなわち、両側接続面)5a,5bに接合された高導電率金属からなる一対の電極6,7と、を備えている。電極6は、抵抗体5の一端(一方の接続面)5aに接触する接触面6aを有しており、電極7は、抵抗体5の他端(他方の接続面)5bに接触する接触面7aを有している。以下、本明細書において、シャント抵抗器1を単に抵抗器1と呼ぶことがある。
【0013】
抵抗体5の両端5a,5bのそれぞれは、電極6,7のそれぞれに溶接(例えば、電子ビーム溶接、レーザービーム溶接、または、ろう接)などの手段によって接続(接合)されている。抵抗体5の材質の一例として、Cu-Mg-Ni系合金などの低抵抗合金材を挙げることができる。電極6,7の材質の一例として、銅(Cu)を挙げることができる。
【0014】
抵抗体5の第1方向は、抵抗体5の長さ方向であり、抵抗器1の長さ方向に相当する。抵抗器1の長さ方向は、電極6、抵抗体5、および電極7がこの順に配置される方向である。この第1方向に垂直な方向は、抵抗体5の第2方向である。抵抗体5の第2方向は、抵抗器1の幅方向である。
【0015】
図1に示すように、電極6,7は、同一の構造を有しており、抵抗体5に関して対称的に配置されている。したがって、以下、主に、電極6の構造について説明する。
【0016】
電極6は、第2方向(すなわち、幅方向)における抵抗体5の両側に配置された第1突起部10および第2突起部11を備えている。第1突起部10および第2突起部11は、電極6の接触面6aから抵抗体5に向かって外側に延びている。抵抗体5は、第1突起部10と第2突起部11との間に挟まれる(
図2参照)。電極7は電極6と同様の構成を有している。
図2に示すように、電極7の第1突起部12および第2突起部13は、電極7の接触面7aから抵抗体5に向かって外側に延びており、抵抗体5は、電極7の第1突起部12と第2突起部13との間に挟まれる。
【0017】
電極6,7のそれぞれの厚さは、抵抗体5の厚さと同じであり、電極6,7のそれぞれの幅方向の長さは、抵抗体5の幅方向の長さよりも大きい。電極6,7のそれぞれは、抵抗体5がはめ込まれる凹形状を有している。したがって、抵抗体5および電極6,7の相対位置は、容易に決定可能である。
【0018】
電極6は、第1突起部10および第2突起部11の少なくとも1つに形成された電圧検出端子15を備えている。同様に、電極7は、第1突起部12および第2突起部13の少なくとも1つに形成された電圧検出端子15を備えている。
図1および
図2に示す実施形態では、電圧検出端子15は、第1突起部10および第2突起部11と、第1突起部12および第2突起部13と、に形成されている。
【0019】
図3は、抵抗器1の他の実施形態を示す図である。
図3に示すように、電圧検出端子15は、電極6の第1突起部10(または第2突起部11)にのみ形成されてもよい。同様に、電圧検出端子15は、電極7の第1突起部12(または第2突起部13)にのみ形成されてもよい。このような構成により、より簡易的に、抵抗体5の電圧を測定することができる。
【0020】
電圧検出端子15は、抵抗体5の両端5a,5bに発生する電圧を測定するための端子である。電圧検出端子15に導線(例えば、アルミワイヤー)を接続して、抵抗体5の両端に発生した電圧を測定する。
図2に示す実施形態では、電圧検出端子15は、電極6の第1突起部10および第2突起部11と、電極7の第1突起部12および第2突起部13と、に形成されている(すなわち、2対4か所)。第1突起部10および第2突起部11は同電位であり、第1突起部12および第2突起部13は同電位である。したがって、電極6の第1突起部10および第2突起部11に導線16Aを接続し、電極7の第1突起部12および第2突起部13に導線16Bを接続した状態で、抵抗体5の電圧を測定する。
【0021】
第1突起部10は、電極6の四隅の一角を構成する第1角部20を有しており、電圧検出端子15は、第1角部20に形成されている。同様に、第1突起部12は、電極7の四隅の一角を構成する第1角部20を有している。第2突起部11は、電極6の四隅の一角を構成する第2角部21を有しており、電圧検出端子15は、第2角部21に形成されている。同様に、第2突起部13は、電極7の四隅の一角を構成する第2角部21を有しており、電圧検出端子15は、第2角部21に形成されている。
【0022】
図3に示す実施形態では、電圧検出端子15は、第1角部20にのみ形成されているが、
図1および
図2に示す実施形態では、電圧検出端子15は、第1角部20および第2角部21の両方に形成されている。
図2に示すように、第1角部20および第2角部21に形成された2つの電圧検出端子15を導線16A(および導線16B)で接続し、導線16Aおよび導線16Bを用いて、抵抗体5の電圧を測定する。このような測定により、電流の流れる経路による電位の変動を抑制することができ、精度の高い電圧測定(電流測定)を実現することができる。
【0023】
図4は、本実施形態に係る抵抗器1の効果を説明するための図である。
図5は、本実施形態に係る抵抗器1の効果を説明するためのグラフである。
図4では、電圧の測定位置A,B,Cが示されている。測定位置Aは、幅方向における電極6,7のそれぞれの中央部分の位置である。測定位置Bは、幅方向における抵抗体5の端部に隣接する電極6,7のそれぞれの位置である。測定位置Cは、電極6,7のそれぞれの第1角部20の位置である。
【0024】
図5は、
図4に示す測定位置A,B,Cで電圧を測定したときにおける、温度変化による抵抗器1の抵抗値の変化率を示すグラフである。
図5の横軸は、材料温度[℃]を示しており、
図5の縦軸は、抵抗変化率ΔR[%]を示している。
図5に示す結果では、抵抗体5として、マンガニン(登録商標)が使用されている。
【0025】
測定位置A,Bで測定された電圧から算出された抵抗変化率の変動幅と、測定位置Cで測定された電圧から算出された抵抗変化率の変動幅と、の比較から明らかなように、電圧検出端子15を測定位置Cに設けることにより、抵抗変化率の変動幅を減少することができる。本実施形態によれば、抵抗体5がはめ込まれる第1突起部10(および第1突起部12)および第2突起部11(および第2突起部13)の少なくとも1つに電圧検出端子15を形成するだけの簡単な構造で、抵抗温度係数を減少することができる。
【0026】
図5に示す実験結果では、
図5の太線で示す抵抗変化率の曲線は、抵抗変化率の負数まで傾いている。なお、
図5の太線で示す抵抗変化率の曲線は、一例であり、本実施形態の構成を採用することにより、抵抗温度係数は、容易に変更可能である。
【0027】
図6は、第2突起部11の拡大図である。
図6に示す実施形態では、第2突起部11のサイズを変更することによって、抵抗温度係数を変更することが可能である。しかしながら、第2突起部11のみならず、第1突起部10,12および第2突起部13のいずれのサイズを変更しても抵抗温度係数を変更することが可能である。
【0028】
図6に示すように、第2突起部11の基端面11aと先端面11bとの間の距離SLと、第2突起部11の外側端面11cと内側端面11dとの間の距離SWと、を変更することによって、抵抗温度係数を変更することが可能である。ここで、基端面11aは、電極6の接触面6aに接続された面であり、先端面11bは、基端面11aの反対側の面である。内側端面11dは、抵抗体5に接触する面であり、外側端面11cは、内側端面11dの反対側の面である。
【0029】
距離SWおよび距離SLの少なくとも1つを変更することにより、抵抗温度係数を変更することができる。距離SLの変更は、距離SWの変更よりも抵抗温度係数に大きな影響を与えるため、距離SLを大きく変更し、距離SWを小さく変更することにより、抵抗温度係数を最適な値に決定することができる。
【0030】
図7は、温度変化による抵抗変化率の変動幅を示すグラフである。
図7では、特許文献2で開示された抵抗器(すなわち、従来の抵抗器)と、本実施形態に係る抵抗器1と、の比較結果が示されている。なお、
図7の横軸は、材料温度[℃]を示しており、
図7の縦軸は、抵抗変化率ΔR[%]を示している。
【0031】
図7のグラフから明らかなように、本実施形態に係る抵抗器1の、温度変化における抵抗変化率の変動幅(
図7の変動幅A参照)は、従来の抵抗器の、温度変化における抵抗変化率の変動幅(
図7の変動幅B参照)よりも非常に小さい。さらに、本実施形態に係る抵抗器1を採用した場合、-50℃から125℃までの温度範囲における抵抗変化率の変動幅を、同じ温度範囲における従来の抵抗器の、抵抗変化率の変動幅よりも大幅に小さくすることができる。
【0032】
図8乃至
図13は、抵抗器1のさらに他の実施形態を示す図である。
図8乃至
図13では、電圧検出端子15の図示は省略されている。
図8および
図9に示すように、抵抗体5の両端5a,5bのそれぞれは、鈍角から形成された多角形状を有している。
図8に示す実施形態では、両端5a,5bのそれぞれには、3つの鈍角が形成されており、
図9に示す実施形態では、両端5a,5bのそれぞれには、4つの鈍角が形成されている。図示しないが、両端5a,5bのそれぞれには、5つ以上の鈍角が形成されてもよい。
【0033】
図10および
図11に示すように、抵抗体5の両端5a,5bのそれぞれは、丸みを帯びた形状を有してもよい。
図10に示す実施形態では、抵抗体5は、その角部が丸みを帯びた形状を有しており、
図11に示す実施形態では、抵抗体5は楕円形状を有している。
【0034】
図12および
図13に示すように、抵抗体5の両端5a,5bのそれぞれは、鈍角および鋭角から形成された多角形状を有してもよい。
図12に示す実施形態では、抵抗体5は、上から見たとき、リボン形状を有しており、
図13に示す実施形態では、抵抗体5は、
図12に示す実施形態に係る抵抗体5よりも、幅方向において大きなサイズを有している。
【0035】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0036】
1 シャント抵抗器
5 抵抗体
5a,5b 両端(両側接続面)
6 電極
6a 接触面
7 電極
7a 接触面
10 第1突起部
11 第2突起部
11a 基端面
11b 先端面
11c 外側端面
11d 内側端面
12 第1突起部
13 第2突起部
15 電圧検出端子
16A 導線
16B 導線
20 第1角部
21 第2角部