(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
G03G9/087 331
(21)【出願番号】P 2020144554
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】日高 安啓
(72)【発明者】
【氏名】尾之上 昭弘
(72)【発明者】
【氏名】林 寛人
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-302361(JP,A)
【文献】特開平11-305485(JP,A)
【文献】特開2019-019322(JP,A)
【文献】特開平05-094041(JP,A)
【文献】特開平06-222615(JP,A)
【文献】特開平06-222616(JP,A)
【文献】特開2006-227540(JP,A)
【文献】特開2017-030346(JP,A)
【文献】特開2014-164065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08-9/097
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂及び着色剤を含有する電子写真用トナーであって、前記結着樹脂が、水溶性ポリエステル樹脂Aとガラス転移温度が80℃以上120℃以下の水不溶性ポリエステル樹脂Bを、55/45以上97/3以下の質量比(水溶性ポリエステル樹脂A/水不溶性ポリエステル樹脂B)で含有し、該水溶性ポリエステル樹脂Aが、
5-スルホイソフタル酸ナトリウムに由来するスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸モノマーユニットa、
2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来するスルホン酸塩基を有さないジカルボン酸モノマーユニットb、及び
エチレングリコールに由来するジオールモノマーユニットcを有し、
式(I):
【化1】
(式中、pはエチレン2,6-ナフタレンジカルボキシレートの重合度、qはエチレン5-スルホイソフタレートの重合度の数を示し、エチレン2,6-ナフタレンジカルボキシレートとエチレン5-スルホイソフタレートはブロック結合又はランダム結合である)
で表される単位を有するポリエステル樹脂であり、エチレングリコールに由来するジオールモノマーユニットcの含有量が全ジオールモノマーユニット中90モル%以上であり、水溶性ポリエステル樹脂A中のスルホン酸塩
基の含有量が0.5mmol/g以上3.0mmol/g以下であ
り、前記水不溶性ポリエステル樹脂Bが、水素添加ビスフェノールAを含むアルコール成分とカルボン酸成分の重縮合物である、トナー。
【請求項2】
水溶性ポリエステル樹脂Aにおいて、芳香族ジカルボン酸モノマーユニットaの割合が、全モノマーユニット中、5モル%以上35モル%以下である、請求項
1記載のトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像、電子写真式3Dプリンターによる三次元物体の形成等に用いられるトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックは、容器、包装袋等と極めて多岐にわたる用途で使用されており、それらの多くは機能的な理由から、全く異なる種類のフィルムやアルミ等の無機物、インキ等から構成されている。特にインキなどによる印刷物は、容器や包装袋にとって一般消費者に向けた情報伝達や製品の物流管理において無くてはならないものである。
【0003】
プラスチックは自然界で分解しにくいこと、省資源、経済性等より一部は分別され回収されており、再生加工されて二次製品として利用されているが、プラスチックをリサイクルするためには、印刷物からの印刷層の脱離が必要とされる。しかしながら、一般的なトナーは水に不溶であるため、プラスチックフィルムから印刷物を十分に脱離することができず、フィルムが着色した状態でリサイクルを行うためにリサイクルフィルムの着色が問題となり、リサイクルが困難な状況である。
【0004】
一方、脱墨性に優れるトナーがいくつか知られている。
【0005】
特許文献1には、脱墨性に優れた電子写真トナーとして、ポリα-ヒドロキシカルボン酸からなる分解性ポリエステル樹脂とスチレン系樹脂を含有したトナー用バインダー樹脂が提案されている。
【0006】
特許文献2には、バインダー用樹脂100重量部に対し、着色剤1~20重量部及び吸水性樹脂1~20重量部を含有した易脱墨性トナーが開示されている。
【0007】
特許文献3には、オキシ酸単位、ジオール単位、ジカルボン酸単位及び環状エステル単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の単位を構造単位として含む脂肪族ポリエステルと、架橋剤とを含有することを特徴とする静電画像用トナーの主成分であるバインダー樹脂が、従来実施されているアルカリを使用した複写紙の脱墨プロセスを容易にするための加水分解性を有することが記載されている。
【0008】
特許文献4には、古紙再生において優れた脱墨性、白色度を示すトナー用バインダー樹脂組成物として、アスパラギン酸及び/又はグルタミン酸の構造単位とヒドロキシカルボン酸の構造単位とを有する、重量平均分子量1000~100000の共重合体3~30質量%とポリエステル系樹脂70~97質量%とを含有することを特徴とするトナー用バインダー樹脂組成物が開示されている。
【0009】
また、特許文献5には、着色剤と、熱可塑性ポリマーと、タンパク質と、を含む脱墨性トナーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2002-55489号公報
【文献】特開平5-289392号公報
【文献】特開2001-83739号公報
【文献】特開2004-12834号公報
【文献】特表2006-519416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1~5に記載のトナーでは、そもそもトナーとしての印刷性能が十分でなく、特にプラスチックフィルムへの定着自体が困難である。
【0012】
また、脱墨に際し、アルカリ剤等の使用が必要であり、これらは印刷媒体の劣化を引き起こしやすいという課題がある。そこで、中性水による洗浄で印刷層をフィルムから脱離させるために、高温の水に可溶なスルホン酸塩基を導入した水溶性ポリエステル樹脂を用いると、スルホン酸塩基を導入した水溶性ポリエステル樹脂は、高湿環境で水不溶性のポリエステル樹脂よりも水分を保持しやすく、特に高温高湿下での保存性が低い。
【0013】
本発明は、プラスチックフィルムへの定着が可能であり、中性水による洗浄で印刷層をフィルムから脱離することができるとともに、保存性も良好な、トナーに関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、結着樹脂及び着色剤を含有する電子写真用トナーであって、前記結着樹脂が、水溶性ポリエステル樹脂Aとガラス転移温度が80℃以上120℃以下の水不溶性ポリエステル樹脂Bを、55/45以上97/3以下の質量比(水溶性ポリエステル樹脂A/水不溶性ポリエステル樹脂B)で含有し、該水溶性ポリエステル樹脂Aが、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸モノマーユニットa、スルホン酸塩基を有さないジカルボン酸モノマーユニットb、及びジオールモノマーユニットcを有し、該水溶性ポリエステル樹脂A中のスルホン酸塩基の含有量が0.5mmol/g以上3.0mmol/g以下である、トナーに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のトナーは、プラスチックフィルムへの定着が可能であり、中性水による洗浄で印刷層をフィルムから脱離することができるとともに、さらに保存性も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の電子写真用トナーは、結着樹脂と着色剤を含有し、結着樹脂が、特定のユニットからなる水溶性ポリエステル樹脂Aと所定のガラス転移温度を有する水不溶性ポリエステル樹脂Bを所定の質量比で含有するものであり、プラスチックフィルムへの定着が可能であり、中性水による洗浄で印刷層をフィルムから脱離することができるとともに、保存性も良好である。
【0017】
このような効果を奏する理由は定かではないが、以下のように推察される。
本発明のトナーは、結着樹脂としてスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸をモノマーユニットとして特定量有する水溶性ポリエステル樹脂Aを含有する。当該水溶性ポリエステル樹脂Aはスルホン酸塩基を特定量有することで、温水可溶性を示す。当該水溶性ポリエステル樹脂Aは、25℃付近の常温域では水不溶性であり、芳香族ジカルボン酸をモノマーユニットとして持つことにより樹脂の耐水性がむしろ向上することで、本発明のトナーを使用した印刷物が水によって影響を受けることなく、安定に定着状態を保つことができる。一方、水溶性ポリエステル樹脂Aは、例えば70℃程度の高温水には速やかに溶解するため、印刷物を高温の中性水で処理することで、結着樹脂の一部が溶解しトナー粒子により形成された印刷ドットが崩壊することで、フィルムから印刷層を容易に脱離させることができると考えられる。
さらに、水溶性ポリエステル樹脂Aは、スルホン酸基を導入しているため、高湿環境で水不溶性ポリエステル樹脂よりも水分を保持しやすく、特に高温高湿下での保存性が悪いという欠点を有するが、ガラス転移温度の高い水不溶性ポリエステル樹脂と組み合わせることで、保存性が向上する。
【0018】
なお、本発明において、水への溶解性は、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達した樹脂を、所定の温度の脱イオン水100gに飽和するまで溶解させたときの溶解量で判断する。その溶解量が10g以上である場合に水溶性とし、一方、溶解量が10g未満である場合は、水不溶性とする。樹脂がアニオン性ポリマーの場合、その溶解量は、該ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。本発明において、水溶性ポリエステル樹脂Aは、前記のように、温水可溶性を示すものであり、25℃の水では不溶性であっても、70℃の水には水溶性を示すものとする。また、水不溶性ポリエステル樹脂Bは、25℃の水にも70℃の水にも不溶性を示すものとする。
【0019】
また、本発明において、中性水とは、pH6~8の水又は水溶液を意味する。前記中性水としては、具体的には、脱イオン水、純水、水道水、工業用水等が挙げられ、入手容易性の観点から脱イオン水又は水道水が好ましい。また、前記中性水は水溶性有機溶媒、界面活性剤等の他の成分を含んでいてもよいが、これら他の成分の含有量は15質量%以下が好ましい。前記水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール等の低級アルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられる。前記界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、オレフィンスルホン酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩等のアニオン界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルグリコシド等のノニオン界面活性剤等が挙げられる。
【0020】
水溶性ポリエステル樹脂Aは、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸モノマーユニットa、スルホン酸塩基を有さないジカルボン酸モノマーユニットb、及びジオールモノマーユニットcを有する。
【0021】
スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸モノマーユニットaの由来となる芳香族ジカルボン酸aとしては、中性水への溶解性及び耐吸湿性の観点から、5-スルホイソフタル酸、2-スルホテレフタル酸、及び4-スルホ-2,6-ナフタレンジカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、5-スルホイソフタル酸及び2-スルホテレフタル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のスルホフタル酸がより好ましく、5-スルホイソフタル酸がさらに好ましい。
【0022】
前記スルホン酸塩基は、水溶性ポリエステル樹脂Aの中性水への溶解性を向上させる観点、及び水溶性樹脂製造時の重合反応の容易さの観点から、-SO3M(ただし、Mはスルホン酸塩基を構成するスルホン酸基の対イオンを示す)で表されるスルホン酸塩基が好ましい。
【0023】
前記スルホン酸塩基を構成するスルホン酸基の対イオンとしては、水溶性ポリエステル樹脂Aの中性水への溶解性を向上させる観点から、金属イオン及びアンモニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上が好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、及びアンモニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上がより好ましく、ナトリウムイオン及びカリウムイオンからなる群より選ばれる1種以上がさらに好ましく、ナトリウムイオンがさらに好ましい。
【0024】
水溶性ポリエステル樹脂A中の前記スルホン酸塩基の含有量は、温水可溶性の観点から、0.5mmol/g以上であり、好ましくは0.6mmol/g以上、より好ましくは0.7mmol/g以上、さらに好ましくは0.8mmol/g以上、さらに好ましくは0.9mmol/g以上であり、そして、低温での耐水性の観点から、3.0mmol/g以下であり、好ましくは2.0mmol/g以下、より好ましくは1.5mmol/g以下、さらに好ましくは1.3mmol/g以下、さらに好ましくは1.2mmol/g以下である。
【0025】
芳香族ジカルボン酸モノマーユニットaの割合は、全モノマーユニット中、温水可溶性の観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは7モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは12モル%以上であり、そして、低温での耐水性の観点から、好ましくは35モル%以下、より好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは20モル%以下。さらに好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは13モル%以下である。
【0026】
スルホン酸塩基を有さないジカルボン酸モノマーユニットbの由来となる芳香族ジカルボン酸bとしては、温水可溶性及び低温での耐水性を向上させる観点、並びに製造時の重合反応の容易さの観点から、芳香族ジカルボン酸及び脂環式ジカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらの中でも、同様の観点から、テレフタル酸、イソフタル酸、2,5-フランジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、及び1,3-アダマンタンジカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく、テレフタル酸、2,5-フランジカルボン酸、及び2,6-ナフタレンジカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種以上がさらに好ましく、2,6-ナフタレンジカルボン酸がさらに好ましい。
【0027】
ジカルボン酸モノマーユニットbの割合は、全モノマーユニット中、低温での耐水性を向上させる観点から、好ましくは15モル%以上、より好ましくは25モル%以上であり、そして、温水可溶性を向上させる観点から、好ましくは45モル%以下、より好ましくは40モル%以下である。
【0028】
芳香族ジカルボン酸モノマーユニットaとジカルボン酸モノマーユニットbのモル比(芳香族ジカルボン酸モノマーユニットa/ジカルボン酸モノマーユニットb)は、中性水への溶解性の観点から、好ましくは10/90以上、より好ましくは15/85以上、さらに好ましくは20/80以上であり、そして、好ましくは70/30以下、より好ましくは60/40以下、さらに好ましくは40/60以下である。
【0029】
水溶性ポリエステル樹脂Aにおいて、ジオールモノマーユニットの由来となるジオール(以下、ジオールcという)としては、特に限定されず、脂肪族ジオール、脂環式ジオール、芳香族ジオール等が挙げられるが、ポリエステル樹脂の製造コストの観点から、脂肪族ジオール又は脂環式ジオールが好ましく、中性水への溶解性の観点から、脂肪族ジオールがより好ましい。
【0030】
脂肪族ジオールとしては、中性水への溶解性及び耐熱性の観点から、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、及びジプロピレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール及び1,3-プロパンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく、エチレングリコールがさらに好ましい。
【0031】
脂肪族ジオールの炭素数は、中性水への溶解性の観点から、好ましくは2以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは6以下、より好ましくは4以下、さらに好ましくは3以下である。
【0032】
環式ジオールとしては、1,4-シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、イソソルバイド、ビスフェノキシエタノールフルオレン、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾキシエタノールフルオレン、及びビスクレゾールフルオレンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上が好ましい。
【0033】
環式ジオール(脂環式ジオール及び芳香族ジオール)の炭素数は、中性水への溶解性及び耐熱性の観点から、好ましくは6以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは31以下、より好ましくは25以下、さらに好ましくは20以下、さらに好ましくは15以下、さらに好ましくは10以下、さらに好ましくは8以下である。
【0034】
また、ジオールcは、エーテル酸素を有していてもよいが、ジオールcが脂肪族ジオールの場合は、中性水への溶解性の観点から、エーテル酸素の数は1以下が好ましく、前記ジオールCが環式ジオールの場合は、同様の観点から、エーテル酸素の数は2以下が好ましい。
【0035】
ジオールcが、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、及びジプロピレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する場合、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、及びジプロピレングリコールの合計の割合は、全ジオールモノマーユニット中、中性水への溶解性の観点から、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上、さらに好ましくは実質的に100モル%、さらに好ましくは100モル%である。
【0036】
本発明において、水溶性ポリエステル樹脂Aにおいて、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸モノマーユニットaはスルホフタル酸塩に由来するユニット、スルホン酸塩基を有さないジカルボン酸モノマーユニットbは2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来するユニット、ジオールユニットはエチレングリコールに由来するユニットであることがそれぞれ好ましく、特に好ましい水溶性ポリエステル樹脂Aとして、式(I):
【0037】
【0038】
(式中、pはエチレン2,6-ナフタレンジカルボキシレートの重合度、qはエチレン5-スルホイソフタレートの重合度の数を示し、エチレン2,6-ナフタレンジカルボキシレートとエチレン5-スルホイソフタレートはブロック結合又はランダム結合であり、中性水への溶解性を向上させる観点からランダム結合が好ましい)
で表される単位を有するポリエステル樹脂が挙げられる。
【0039】
式(I)において、q/pは、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸モノマーユニットaとスルホン酸塩基を有さないジカルボン酸モノマーユニットbのモル比(芳香族ジカルボン酸モノマーユニットa/ジカルボン酸モノマーユニットb)と同様に、好ましくは10/90以上、より好ましくは15/85以上、さらに好ましくは20/80以上であり、そして、好ましくは70/30以下、より好ましくは60/40以下、さらに好ましくは40/60以下である。
【0040】
水溶性ポリエステル樹脂Aは、本発明の効果を損なわない範囲で、芳香族ジカルボン酸モノマーユニットa、ジカルボン酸モノマーユニットb、及びジオールモノマーユニット以外のモノマーユニットを有していてもよい。
【0041】
芳香族ジカルボン酸モノマーユニットaとジカルボン酸モノマーユニットbとジオールモノマーユニットの合計の割合は、水溶性ポリエステル樹脂Aの全モノマーユニット中、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上、さらに好ましくは実質的に100モル%、さらに好ましくは100モル%である。なお、本明細書において実質的に100モル%とは不可避的に微量の不純物等を含んでいる状態を言う。
【0042】
水溶性ポリエステル樹脂Aの製造方法には特に限定はなく、必要に応じて、エステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、ジカルボン酸とジオールを含むモノマーを、好ましくは150℃以上300℃以下の温度で重縮合させる従来公知の製造方法を適用することができる。
【0043】
水溶性ポリエステル樹脂Aは、温水可溶性及び水不溶性樹脂との相溶性を向上させる観点から、さらに、有機塩化合物を含むことが好ましい。
【0044】
有機塩化合物としては、式(II):
(R1-SO3
-)nXn+ (II)
(式中、R1は置換基を有していてもよい炭素数1以上30以下の炭化水素基を示し、nは1又は2の数を示し、nが1のとき、Xn+はナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、アンモニウムイオン、又はホスホニウムイオンを示し、nが2のとき、Xn+はマグネシウムイオン、カルシウムイオン、バリウムイオン、又は亜鉛イオンを示す)
【0045】
R1で表される炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基のいずれであってもよい。前記炭化水素基の炭素数には、置換基の炭素数も含まれ、炭化水素基が芳香族炭化水素基の場合、炭素数は、中性水への溶解性の観点から、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上であり、そして、30以下、好ましくは25以下である。
【0046】
R1で表される炭化水素基が有していてもよい置換基としては、中性水への溶解性の観点から、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる1種以上を含むものが好ましく、中でも炭素数1以上22以下の炭化水素基又は炭素数1以上22以下のハロゲン化アルキル基が好ましく、炭素数1以上16以下の炭化水素基がより好ましく、炭素数1以上12以下の炭化水素基がさらに好ましい。
【0047】
式(II)において、nは、中性水への溶解性の観点から、1が好ましく、Xn+としては、中性水への溶解性の観点から、ナトリウムイオン又はホスホニウムイオンが好ましく、ホスホニウムイオンがより好ましい。ホスホニウムイオンの中でも、テトラアルキルホスホニウムイオンが好ましく、テトラブチルホスホニウムイオンがより好ましい。
【0048】
前記有機塩化合物の含有量は、水溶性ポリエステル樹脂A中、温水可溶性の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上であり、低温での耐水性を向上させる観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは7質量%以下である。
【0049】
また、水溶性ポリエステル樹脂Aにおいて、中性水への溶解性の観点から、前記有機塩化合物のアルキルスルホン酸イオン(R1-SO3
-)の物質量X(モル)と芳香族ジカルボン酸モノマーユニットaのスルホン酸塩基の物質量Y(モル)とのモル比(X/Y)は、好ましくは0.005以上、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.02以上、さらに好ましくは0.03以上であり、そして、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、さらに好ましくは0.2以下である。
【0050】
水溶性ポリエステル樹脂Aの重量平均分子量は、低温での耐水性を向上させる観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは5,000以上、さらに好ましくは10,000以上、さらに好ましくは15,000以上であり、温水可溶性の観点から、好ましくは80,000以下、より好ましくは50,000以下、さらに好ましくは30,000以下、さらに好ましくは20,000以下である。
【0051】
水溶性ポリエステル樹脂Aのガラス転移温度は、プラスチックフィルムへの定着及び低温での耐水性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上であり、そして、温水可溶性の観点から、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは115℃以下である。
【0052】
水不溶性ポリエステル樹脂Bは、ガラス転移温度が、保存性の観点から、80℃以上であり、好ましくは83℃以上、より好ましくは85℃以上であり、そして、定着性の観点から、120℃以下であり、好ましくは110℃以下、より好ましくは100℃以下である。
【0053】
水不溶性ポリエステル樹脂Bは、水素添加ビスフェノールAを含むアルコール成分とカルボン酸成分の重縮合物であることが好ましい。
【0054】
水素添加ビスフェノールAの含有量は、アルコール成分中、ガラス転移温度を上げる観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは25モル%以上であり、そして、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下である。
【0055】
水素添加ビスフェノールA以外のアルコール成分としては、脂肪族ジオール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール、3価以上のアルコール等が挙げられるが、これらの中では、定着性の観点から、脂肪族ジオールが好ましい。
【0056】
脂肪族ジオールの炭素数は、好ましくは2以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは6以下である。
【0057】
好適な脂肪族ジオールの具体例としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ブテンジオール、1,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられるが、これらの中では、エチレングリコールが好ましい。
【0058】
脂肪族ジオールの含有量は、アルコール成分中、好ましくは5モル%以上、より好ましくは15モル%以上であり、そして、好ましくは70モル%以下、より好ましくは60モル%以下、さらに好ましくは50モル%以下である。
【0059】
カルボン酸成分は、保存性の観点から、芳香族ジカルボン酸系化合物を含むことが好ましい。
【0060】
芳香族ジカルボン酸系化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、それらの無水物、又はアルキル基の炭素数が1以上3以下のアルキルエステル等の誘導体等が挙げられる。
【0061】
芳香族ジカルボン酸系化合物の含有量は、カルボン酸成分中、保存性の観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上であり、そして、他のカルボン酸系化合物を含む場合には、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下、さらに好ましくは85モル%以下である。
【0062】
芳香族ジカルボン酸系化合物以外のカルボン酸成分としては、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、炭素数1以上20以下の脂肪族炭化水素基で置換されたコハク酸、それらの無水物、又はアルキル基の炭素数が1以上3以下のアルキルエステル等の脂肪族ジカルボン酸系化合物、3価以上のカルボン酸系化合物等が挙げられる。
【0063】
アルコール成分及び/又はカルボン酸成分は、保存性の観点から、3価以上の原料モノマー、即ち3価以上のアルコール及び/又は3価以上のカルボン酸系化合物を含むことが好ましく、アルコール成分が3価以上のアルコールを含むことが好ましい。
【0064】
3価以上のアルコールとしては、トリメチロールプロパン、グリセリン等が挙げられ、トロメチロールプロパンが好ましい。
【0065】
3価以上のカルボン酸系化合物としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸、これらの酸の無水物及びアルキル基の炭素数が1~3のアルキルエステル等が挙げられる。
【0066】
3価以上の原料モノマーの含有量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量中、好ましくは3モル%以上、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは7モル%以上であり、そして、定着性の観点から、好ましくは40モル%以下、より好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは20モル%以下である。
【0067】
なお、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸系化合物が、ポリエステル樹脂の分子量及び軟化点を調整する観点から、適宜含有されていてもよい。
【0068】
水不溶性ポリエステル樹脂Bにおけるカルボン酸成分とアルコール成分との当量比(COOH基/OH基)は、非晶質ポリエステル樹脂の軟化点を調整する観点から、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.75以上であり、そして、好ましくは1.1以下、より好ましくは1.05以下である。
【0069】
水不溶性ポリエステル樹脂Bは、例えば、アルコール成分とカルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中、好ましくはエステル化触媒の存在下、さらに必要に応じて、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、好ましくは130℃以上、より好ましくは170℃以上、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下の温度で重縮合させて製造することができる。
【0070】
なお、本発明において、水溶性ポリエステル樹脂A及び水不溶性ポリエステル樹脂Bは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステル樹脂であってもよい。変性されたポリエステル樹脂としては、例えば、特開平11-133668号公報、特開平10-239903号公報、特開平8-20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステル樹脂が挙げられるが、変性されたポリエステル樹脂のなかでは、ポリエステル樹脂をポリイソシアネート化合物でウレタン伸長したウレタン変性ポリエステル樹脂が好ましい。
【0071】
水不溶性ポリエステル樹脂Bは、軟化点が、保存性の観点から、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは140℃以上であり、そして、プラスチックフィルムへの定着の観点から、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下、さらに好ましくは170℃以下である。
【0072】
水不溶性ポリエステル樹脂Bの酸価は、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは3mgKOH/g以上、さらに好ましくは5mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは40mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、さらに好ましくは25mgKOH/g以下、さらに好ましくは10mgKOH/g以下である。
【0073】
水不溶性ポリエステル樹脂Bは、総合的にトナー性能を担保する観点から、非晶質であることが好ましい。
なお、樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最大ピーク温度との比、即ち[軟化点/吸熱の最大ピーク温度]の値で定義される結晶性指数によって表わされる。結晶性樹脂は、結晶性指数が0.6以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.9以上であり、そして、1.4以下、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下の樹脂である。
一方、非晶質樹脂は、吸熱ピークが観測されないか、観測される場合は、結晶性指数が1.4を超える、好ましくは1.5を超える、より好ましくは1.6以上の樹脂であるか、または、0.6未満、好ましくは0.5以下の樹脂である。
樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。なお、吸熱の最大ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度を指す。
【0074】
水溶性ポリエステル樹脂Aと水不溶性ポリエステル樹脂Bの質量比(水溶性ポリエステル樹脂A/水不溶性ポリエステル樹脂B)は、温水可溶性の観点から、55/45以上であり、好ましくは60/40以上、より好ましくは65/35以上であり、定着性の観点から、97/3以下であり、好ましくは95/5以下、より好ましくは93/7以下、さらに好ましくは90/10以下である。
【0075】
水溶性ポリエステル樹脂Aと水不溶性ポリエステル樹脂Bの総含有量は、結着樹脂中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
【0076】
結着樹脂の含有量は、トナー中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%未満、より好ましくは98質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下である。
【0077】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料、磁性体等を使用することができる。例えば、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントレッド122、ピグメントグリーンB、ローダミン-Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、イソインドリン、ジスアゾエロー等が挙げられる。なお、本発明において、トナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。
【0078】
着色剤の含有量は、トナーの画像濃度及び低温定着性を向上させる観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは40質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0079】
本発明のトナーには、結着樹脂及び着色剤以外に、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0080】
離型剤としては、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンポリエチレン共重合体ワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、サゾールワックス等の炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物;カルナウバワックス、モンタンワックス及びそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステル系ワックス;脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を用いることができる。
【0081】
離型剤の融点は、トナーの転写性の観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下、さらに好ましくは120℃以下、さらに好ましくは110℃以下である。
【0082】
離型剤の含有量は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点及び結着樹脂中への分散性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下、さらに好ましくは7質量部以下である。
【0083】
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
【0084】
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロンN-04」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリヱント化学工業(株)製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリヱント化学工業(株)製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(クラリアント社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリヱント化学工業(株)製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成工業(株)製)等;スチレン-アクリル系樹脂、例えば「FCA-701PT」、「FCA-201-PS」(藤倉化成(株)製)等が挙げられる。
【0085】
また、負帯電性荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリヱント化学工業(株)製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」、「T-77」(保土谷化学工業(株)製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット(株)製)等;サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「ボントロンE-304」(以上、オリヱント化学工業(株)製)、「TN-105」(保土谷化学工業(株)製)等;銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(クラリアント社製)、ニトロイミダゾール誘導体等;有機金属化合物等が挙げられる。
【0086】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。
【0087】
トナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤等の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、結着樹脂、着色剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。
【0088】
本発明のトナーには、転写性を向上させるために、外添剤を用いることが好ましい。外添剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子や、メラミン系樹脂微粒子、ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子等の樹脂粒子等の有機微粒子が挙げられ、2種以上が併用されていてもよい。これらの中では、シリカが好ましく、トナーの転写性の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであることがより好ましい。
【0089】
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、シリコーンオイル、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0090】
外添剤の平均粒子径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上であり、そして、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは150nm以下、さらに好ましくは90nm以下である。
【0091】
外添剤の含有量は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、外添剤で処理する前のトナー100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0092】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。また、トナーを外添剤で処理している場合には、外添剤で処理する前のトナー粒子の体積中位粒径をトナーの体積中位粒径とする。
【0093】
本発明のトナーを用い、プラスチックフィルムに画像を印刷することができる。プラスチックフィルムとしては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、酢酸セルローズ、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート等のフィルムが挙げられ、これらの中では、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが好ましい。
【0094】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【0095】
また、本発明のトナーは、電子写真式3Dプリンターによって三次元物体を製造する際に、三次元物体を支持するサポート材としても使用することができる。
【実施例】
【0096】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。圧力は、絶対圧力で表記し、「常圧」とは101.3kPaを示す。樹脂等の物性は、以下の方法により測定した。
【0097】
〔水溶性ポリエステル樹脂の全モノマーユニット中の5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウムから誘導されるモノマーユニット(モノマーユニットa)の割合〕
試料を重クロロホルム、重トリフルオロ酢酸の混合溶媒に溶解し、Agilent社製NMR、MR400を用いたプロトンNMR測定により5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウムから誘導されるモノマーユニット(モノマーユニットa)中のベンゼン環由来ピークの積分値Aを、モノマーユニットA中のベンゼン環に対応するプロトンの数で除した物質量A、及び2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルから誘導されるモノマーユニット(モノマーユニットb)中のナフタレン環由来ピークの積分値Bを、モノマーユニットb中のナフタレン環に対応するプロトンの数で除した物質量Bを算出する。物質量Aを、物質量A及び物質量Bの和の2倍量で除して求められた値を100分率で表したもの(100×物質量A/(2×(物質量A+物質量B)))を、水溶性ポリエステル樹脂の全モノマーユニット中のモノマーユニットaの物質量の割合とする。
なお、モノマーユニットaの割合に限らず、ポリエステル樹脂のジカルボン酸組成及びジオール組成は、プロトンNMR測定により測定することができる。NMR測定からはピークが重なる等の理由によりジカルボン酸モノマーユニットの組成、及びジオールモノマーユニットの組成を求めることが困難である場合には、ポリエステルをアルカリで加水分解後、ガスクロマトグラフィ分析を行うことによって求めることができる。
【0098】
〔樹脂中のスルホン酸塩基の含有量〕
スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸モノマーユニットの組成からポリエステル樹脂中のスルホン酸塩基量(mmol/g)を下式に従い算出する。ただし、全ジカルボン酸モノマーユニットのモル数と全ジオールモノマーユニットのモル数は等しいと仮定する。
スルホン酸塩基量(ミリモル/g)
=A×1000/(A×(Ms+Mo)+(100-A)×(Mc+Mo)-2×18.0×100)
・A:全ジカルボン酸モノマーユニット中のスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸モノマーユニットの割合(モル%)
・Ms:スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸(遊離ジカルボン酸型)の分子量
・Mo:ジオールの分子量(ただし、ジオール種が複数の場合は数平均分子量)
・Mc:スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸の分子量(ただし、該ジカルボン酸種が複数の場合は数平均分子量)
【0099】
〔樹脂の重量平均分子量(Mw)〕
下記条件により、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法を用いて標準ポリスチレン、又は標準ポリメチルメタクリレートから校正曲線を作成し、重量平均分子量(Mw)を求める。
・装置:HLC-8320 GPC(東ソー社製、検出器一体型)
・カラム:α-M×2本(東ソー社製、7.8mmI.D.×30cm)
・溶離液:60mmol/Lリン酸+50mmol/L臭素化リチウムジメチルホルムアミド溶液
・流量:1.0mL/min
・カラム温度:40℃
・検出器:RI検出器
・標準物質:ポリスチレン又はポリメチルメタクリレート
【0100】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター「CFT-500D」((株)島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0101】
〔樹脂の吸熱の最大ピーク温度〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、室温(25℃)から降温速度10℃/minで0℃まで冷却し、そのまま1分間静止させる。その後、昇温速度50℃/minで測定する。
【0102】
〔樹脂のガラス転移温度〕
示差走査熱量計「DSC Q20」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで-10℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで昇温し測定する。吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とする。
【0103】
〔樹脂の酸価〕
JIS K 0070:1992の方法に基づき測定する。ただし、測定溶媒のみJIS K 0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更する。
【0104】
〔樹脂の水への溶解性〕
250mL容のビーカーに攪拌子を入れ、脱イオン水100gを注ぎ入れた後に、ホットスターラー(アズワン社製、HOT STIRRER HS-7BHSD)を所定の温度に設定し水温を所定の温度にする樹脂を105℃で2時間乾燥させ室温まで放冷の後15g計量する。この計量した樹脂をビーカーに入れ、所定の温度300r/minで攪拌しながら60分溶解を行う。溶け残った樹脂を減圧濾過により濾別(アドバンテック社製、濾紙No. 5C/70mm)し、乾燥する。溶け残った樹脂の乾燥質量を測定し、下記式から溶解した樹脂量を算出する。
溶解樹脂量(g)=溶解前の樹脂の質量(15g)-溶け残った樹脂の質量
【0105】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計「DSC Q20」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで180℃まで昇温し測定する。そこで得られる融解吸熱カーブから観察される吸熱の最大ピーク温度を離型剤の融点とする。
【0106】
〔トナーの体積中位粒径〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマン・コールター(株)製)
アパチャー径:100μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマン・コールター(株)製)
電解液:アイソトンII(ベックマン・コールター(株)製)
分散液:電解液にエマルゲン109P(花王(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB(グリフィン):13.6)を溶解して5質量%に調整したもの
分散条件:前記分散液5mLに測定試料10mgを添加し、超音波分散機(機械名:(株)エスエヌディー製US-1、出力:80W)にて1分間分散させ、その後、前記電解液25mLを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を調製する。
測定条件:前記電解液100mLに、3万個の粒子の粒径を20秒間で測定できる濃度となるように、前記試料分散液を加え、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0107】
〔外添剤の平均粒子径〕
走査型電子顕微鏡(SEM)写真から500個の粒子の粒径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの数平均値とする。
【0108】
水溶性ポリエステル樹脂の製造例
2L容のステンレス製セパラブルフラスコ(K字管、撹拌機、及び窒素導入管付)に2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル(東京化成工業社製、一級)97.7g、5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)40.6g、エチレングリコール(富士フイルム和光純薬社製、特級)76.7g、チタンテトラブトキシド(東京化成工業社製、一級)82mg、及び酢酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製、特級)506mgを仕込み、常圧、窒素雰囲気下、撹拌しながらマントルヒータで1時間かけて外温140℃から260℃まで昇温し、その温度で6.5時間撹拌してエステル交換反応を行った。その後、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩(竹本油脂社製、商品名エレカットS-418)6.89gを添加し、15分間撹拌した。その後、30分間かけて外温260℃から290℃まで昇温し、同時に常圧から5.3kPaまで減圧し、そのまま1時間半反応を行った。この後、800Paで30分間撹拌しながら反応を行った後、常圧に戻した。常圧で15分間かけて外温290℃から295℃まで昇温した後、420Paで15分間撹拌しながら反応を行い、この後15分間かけて470Paから100Paまで徐々に減圧度を増しながら撹拌して反応を行い、常圧に戻して水溶性ポリエステル樹脂(樹脂A1)を得た。ただし、エチレングリコールについては、過剰量は反応系外に留去され、ジオールユニットとジカルボン酸ユニットが等量で反応したという仮定している。得られた樹脂は、5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウムに由来するモノマーユニットaの割合が12.5モル%、5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウムに由来するモノマーユニットbの割合が37.5モル%、モノマーユニットa/モノマーユニットbが25/75、スルホン酸塩基(スルホン酸ナトリウム)の含有量が1.0mmol/g、重量平均分子量(Mw)が18,800、ガラス転移温度が109℃、水への溶解性は25℃では0.15g、70℃では15gであった。
【0109】
水不溶性ポリエステル樹脂の製造例1
表1に示す、原料モノマー及びエステル化触媒を、窒素導入管、98℃の熱水を通した分留管を装着した脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、180℃で2時間保温した後に180℃から230℃まで5℃/hで昇温し、その後230℃で2時間重縮合させた。さらに230℃で10kPaの減圧下にて表1に記載の軟化点まで反応を行って、非晶質の水不溶性ポリエステル樹脂(樹脂B1~B3)を得た。物性を表1に示す。
【0110】
水不溶性ポリエステル樹脂の製造例2
表1に示す、無水トリメリット酸以外の原料モノマー、エステル化触媒、及びエステル化助触媒を、窒素導入管、撹拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、235℃まで昇温し、その後235℃で6時間重縮合させた後、10kPaに減圧し、1時間さらに重縮合させた。その後、210℃まで降温し、無水トリメリット酸を添加し、210℃で1時間反応させた。その後、210℃で10kPaの減圧下にて表1に記載の軟化点まで反応を行って、非晶質の水不溶性ポリエステル樹脂(樹脂B4)を得た。物性を表1に示す。
【0111】
水不溶性ポリエステル樹脂の製造例3
表1に示す、無水トリメリット酸以外の原料モノマー及びエステル化触媒を、窒素導入管、撹拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、235℃まで昇温し、その後235℃で6時間重縮合させた後、10kPaに減圧し、1時間さらに重縮合させた。その後、210℃まで降温し、無水トリメリット酸を添加し、210℃で1時間反応させた。その後、210℃で10kPaの減圧下にて表1に記載の軟化点まで反応を行って、非晶質の水不溶性ポリエステル樹脂(樹脂B5)を得た。物性を表1に示す。
【0112】
【0113】
実施例1、3~6及び比較例1~4
表2に示す結着樹脂、カーボンブラック「Mogul-L」(キャボット・スペシャリティー・ケミカルズ・インク社製)4.0質量部、負帯電性荷電制御剤「T-77」(保土ヶ谷化学工業社製)1.0質量部、及び離型剤「カルナウバワックスC1」(加藤洋行社製、融点:88℃)1.0質量部をヘンシェルミキサーにて1分間撹拌混合後、以下に示す条件で溶融混練した。
【0114】
同方向回転二軸押出機PCM-30(池貝鉄工社製)を使用した。同方向回転二軸押出機の運転条件は、バレル設定温度170℃、軸回転数 200r/min(軸の回転の周速 0.30m/sec)、混合物供給速度 3kg/hrであった。
【0115】
得られた樹脂混練物を冷却し、IDS粉砕・分級機(日本ニューマチック社製)を用いて体積中位粒径(D50)が7μmになるように粉砕・分級を行い、トナー粒子を得た。
【0116】
得られたトナー粒子100質量部と、外添剤として、疎水性シリカ「RY50」(日本アエロジル社製、疎水化処理剤:シリコーンオイル、平均粒子径40nm)1.5質量部、及び疎水性シリカ「R972」(日本アエロジル社製、疎水化処理剤:DMDS、平均粒子径16nm)1.0質量部をヘンシェルミキサーにて3分間混合して、トナーを得た。
【0117】
実施例2
負帯電性荷電制御剤として、「T-77」の代わりに「ボントロンE-84」(オリエント化学社製)1.0質量部を、カーボンブラックの代わりに銅フタロシアニン顔料「ECB-301」(大日精化社製)4.0質量部を、それぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。
【0118】
試験例1〔最低定着温度〕
非磁性一成分現像装置「OKI DATA COREFIDO C712」(沖データ社製)にトナーを実装し、トナー付着量を0.50mg/cm2に調整して、20mm×30mmのベタ画像を「Color Copy90紙」(富士ゼロックスオフィスサプライ社製)に印刷し、定着機を通過する前にベタ画像を取り出して未定着画像を得た。
得られた未定着画像を有する用紙を非磁性一成分現像装置「OKI MICROLINE 3020c」(沖データ社製)の定着機を改造した外部定着機にて、定着ロール温度を110℃に設定し、15mm/secの定着速度で定着させた。その後、定着ロール温度を115℃に設定し、同様の操作を行った。これを190℃まで5℃ずつ上昇させながら、各温度で未定着画像の定着処理を行い、定着画像を得た。
【0119】
底面が50φである1000gの重りに白紙「L紙」(Xerox社製)を巻き付け、この重りを、各定着温度で得られた画像部分に置き、画像部分の幅にて5往復させ、擦り前後の画像濃度を画像濃度測定器「SPM-50」(Gretag社製)を用いて測定した。擦り前後の比率([擦り後の画像濃度/擦り前の画像濃度]×100)が最初に90%を超える定着ロールの温度を最低定着温度とした。結果を表2に示す。表中、「190<」は最低定着温度が190℃を超えていることが示す。
【0120】
なお、比較例2のトナーは、最低定着温度が高すぎるためプラスチックフィルムに定着させることができない。そのため、次の定着画像の水可溶性試験は行わなかった。
【0121】
試験例2〔定着画像の水可溶性〕
非磁性一成分現像装置「OKI DATA COREFIDO C712」(沖データ社製)にトナーを実装し、トナー付着量を0.50mg/cm2に調整して、20mm×30mmのベタ画像をOHPフィルム「CG3300」(3M社製)に印刷した。定着機を通過する前にベタ画像を取り出して未定着画像を得た。得られた未定着画像を有する用紙を非磁性一成分現像装置「OKI MICROLINE 3020c」(沖データ社製)の定着機を改造した外部定着機にて、定着ロール温度を180℃に設定し、15mm/secの定着速度で定着させ定着画像を得た。
100mL容のビーカー(直径5.5cm)に30℃又は70℃のイオン交換水100gと長さ4cmのスターラーチップを入れ、回転数400r/minのスターラーで撹拌しながら、前記ベタ画像を印刷したフィルムの定着画像部分を切り抜いて浸漬し、30秒後にフィルムを水中から引き上げ、定着画像の状態を目視にて観察し、以下の評価基準に従って評価した。結果を表2に示す。
【0122】
〔評価基準〕
〇:可溶(フィルム上にトナーは残らず、すべて水中に溶解又は分散する)
△:一部可溶(トナーは水中に溶解又は分散するが、フィルム上に画像の一部が残る)
×:不溶(フィルム上の画像は変化しない)
【0123】
試験例3〔保存性〕
トナーを、20mL容のポリプロピレン製の容器に、4g計量した。容器の蓋を空けた状態で、温度50℃、湿度80%に設定した高温高湿槽中で48時間放置した。
放置前後のトナーの凝集度を以下の方法により測定し、放置前後の凝集度の比(放置後/放置前)を用いて、以下の評価基準に従って評価した。結果を表2に示す。
【0124】
<凝集度>
凝集度は、パウダーテスタ(ホソカワミクロン(株)製)を用いて測定する。
150μm、75μm、45μmの目開きの篩を重ね、一番上にトナーを4g載せ、1mmの振動幅で15秒間振動させる。振動後、篩い上に残ったトナー量を測定し、下記の計算式を用いて凝集度を算出する。
【0125】
【0126】
〔評価基準〕
A:3倍以下
B:3倍より大きく5倍未満
C:5倍以上
【0127】
【0128】
実施例1~6のトナーは、プラスチックフィルムに定着可能な温度範囲での定着が可能であり、かつ中性水にも溶解するとともに、保存性も良好であることが分かる。
これに対し、水溶性ポリエステル樹脂と水不溶性ポリエステル樹脂の質量比が所定の範囲外である比較例1では、水溶性ポリエステル樹脂が少ないため70℃でも中性水に不溶であり、水不溶性ポリエステル樹脂を含有していない比較例2では、定着温度が高すぎるためプラスチックフィルムに定着することができないことが分かる。また、水不溶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度が低すぎる比較例3、4では、保存性に欠けていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明のトナーは、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像、電子写真式3Dプリンターによる三次元物体の形成等に好適に用いられるものである。