(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】鍵盤楽器の鍵盤装置
(51)【国際特許分類】
G10H 1/34 20060101AFI20240521BHJP
G10B 3/12 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
G10H1/34
G10B3/12 113
G10B3/12 130
(21)【出願番号】P 2020153438
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001410
【氏名又は名称】株式会社河合楽器製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭裕
【審査官】山下 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-12060(JP,A)
【文献】特開2007-52411(JP,A)
【文献】特開2009-229488(JP,A)
【文献】特開2016-180773(JP,A)
【文献】特開2009-75404(JP,A)
【文献】米国特許第6087575(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/34
G10B 3/12
G10C 3/12-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棚板と、
この棚板上に設置された鍵盤シャーシと、
各々が前後方向に延び、前記鍵盤シャーシに回動自在に支持されるとともに左右方向に並設された複数の鍵と、
各々が前後方向に延び、前記複数の鍵の下方において、前記鍵盤シャーシに回動自在に支持されるとともに左右方向に並設され、対応する前記鍵の押鍵に伴って上下方向にそれぞれ回動する複数のハンマーと、
これら複数のハンマーの回動支点付近の下方において、当該複数のハンマー全体にわたって左右方向に延び、前記棚板から浮いた状態で、前記鍵盤シャーシに取り付けられた延設レールと、
この延設レール上に取り付けられ、離鍵状態において前記複数のハンマーの各々が所定の載置・当接部位を介して載置されるとともに、押鍵時に上方に回動した前記ハンマーが離鍵に伴って下方に回動したときに、当該ハンマーの前記載置・当接部位が上方から当接し、当該ハンマーのそれ以上の回動を阻止する下限ストッパと、
を備えていることを特徴とする鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項2】
前記下限ストッパは、前記延設レールの長さ方向に沿って延び、前記複数のハンマー全体にわたるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項3】
前記複数のハンマーの各々は、回動支点から後端まで所定長さを有しており、
前記下限ストッパは、前記各ハンマーの前記載置・当接部位が前記所定長さの1/2の位置よりも前記回動支点寄りに位置するよう、前記延設レール上に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項4】
前記下限ストッパは、弾性を有する材料で構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ピアノなどの鍵盤楽器に適用され、鍵の押鍵に伴って回動するハンマーを備えた鍵盤楽器の鍵盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の鍵盤楽器の鍵盤装置として、例えば、特許文献1に開示されたものが知られている。この鍵盤装置は、棚板としての鍵フレーム底板上に、鍵盤シャーシとしての鍵フレームが設置され、この鍵フレームの上側に鍵が配置されるとともに、鍵フレームの内側に、ハンマーとしての質量体が配置されている。鍵は、前後方向に延び、後端部において、鍵フレームの上面後端部に回動自在に支持されている。一方、質量体は、前後方向に延び、前部が鍵フレームに回動自在に支持されたアームと、このアームの後端に取り付けられた錘としての質量本体とを有している。また、鍵フレーム底板上の所定位置には、上下方向に回動する質量体の下限位置を規制するための下限ストッパが設けられている。
【0003】
上記の鍵盤装置では、鍵の前端部が押し下げられて押鍵されるのに伴い、質量体のアームの前端部も押し下げられる。これにより、質量体は、その後端部の質量本体が上昇するように回動し、質量本体が上限位置に到達する。その後、押鍵された鍵から指が離されて離鍵されると、質量体は、そのアームの前端部の押下げが解除され、上限位置に位置する質量本体が下降するように回動する。そして、質量本体又はアームの後端部が下限ストッパに上方から当接し、質量体のそれ以上の回動が阻止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来の鍵盤装置では、押鍵直後の離鍵時に、質量体の回動支点から比較的遠く離れた部位、具体的には質量体の質量本体やアームの後端部が、下限ストッパに上方から当接する。この場合、質量本体が下降し始めるときの高さ、すなわち、上限位置に位置する質量本体と下限ストッパとの距離が比較的大きいため、質量本体等が下限ストッパに当接する際の速度や衝撃が大きくなり、その当接による雑音が発生しやすい。また、下限ストッパが、棚板としての鍵フレーム底板上に取り付けられているため、質量本体等が下限ストッパに当接した際に、その振動や雑音が、鍵フレーム底板に直接伝わり、それを介して周囲に、より大きく広がるおそれもある。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、押鍵直後の離鍵時にハンマーが下限ストッパに当接した際に発生する雑音を大幅に低減することができる鍵盤楽器の鍵盤装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、棚板と、この棚板上に設置された鍵盤シャーシと、各々が前後方向に延び、鍵盤シャーシに回動自在に支持されるとともに左右方向に並設された複数の鍵と、各々が前後方向に延び、複数の鍵の下方において、鍵盤シャーシに回動自在に支持されるとともに左右方向に並設され、対応する鍵の押鍵に伴って上下方向にそれぞれ回動する複数のハンマーと、これら複数のハンマーの回動支点付近の下方において、複数のハンマー全体にわたって左右方向に延び、棚板から浮いた状態で、鍵盤シャーシに取り付けられた延設レールと、この延設レール上に取り付けられ、離鍵状態において複数のハンマーの各々が所定の載置・当接部位を介して載置されるとともに、押鍵時に上方に回動したハンマーが離鍵に伴って下方に回動したときに、ハンマーの載置・当接部位が上方から当接し、ハンマーのそれ以上の回動を阻止する下限ストッパと、を備えていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、棚板上に設置された鍵盤シャーシには、各々が前後方向に延びる複数の鍵及びそれらの下方に配置された複数のハンマーが、回動自在に支持されるとともに左右方向に並設されている。これらのハンマーは、対応する鍵の押鍵に伴って上下方向に回動する。また、鍵盤シャーシには、複数のハンマーの回動支点付近の下方において、それらのハンマーの全体にわたって左右方向に延びる延設レールが、棚板から浮いた状態で取り付けられている。さらに、この延設レール上には、下限ストッパが取り付けられている。この下限ストッパには、離鍵状態において、各ハンマーが所定の載置・当接部位を介して載置され、また押鍵時に上方に回動したハンマーが離鍵に伴って下方に回動したときに、そのハンマーの載置・当接部位が上方から当接する。
【0009】
上記の下限ストッパは、延設レール上に取り付けられているので、ハンマーの回動支点から遠く離れた部位が下限ストッパに当接する従来と異なり、ハンマーの回動支点に比較的近い位置に配置された下限ストッパに、ハンマーの載置・当接部位が当接する。これにより、押鍵直後の離鍵時に、ハンマーが下方に回動し始めるときの載置・当接部位と下限ストッパとの距離が比較的短くなるため、ハンマーの載置・当接部位が下限ストッパに当接する際の速度及び衝撃が小さくなり、その結果、従来に比べて、上記当接によって発生する雑音を低減することができる。また、下限ストッパが取り付けられた延設レールは、棚板から浮いた状態で鍵盤シャーシに取り付けられているため、ハンマーが下方に回動し、下限ストッパに当接した際に、その振動や雑音が棚板に直接伝わることがない。以上のように、ハンマーが当接する下限ストッパを、ハンマーの回動支点付近の下方に配置しかつ棚板から浮いた状態の延設レールに取り付けることにより、ハンマーが下限ストッパに当接した際に発生する雑音を、従来に比べて大幅に低減することができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、下限ストッパは、延設レールの長さ方向に沿って延び、複数のハンマー全体にわたるように配置されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、延設レール上の下限ストッパが、その延設レールの長さ方向に沿って延び、複数のハンマー全体にわたるように配置されるので、単一の部材によって、全てのハンマーに対応する下限ストッパを容易に構成することができる。また、鍵盤装置の製造時に、ハンマーごとに個別の下限ストッパを延設レールに取り付ける場合に比べて、製造効率を高めることができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、複数のハンマーの各々は、回動支点から後端まで所定長さを有しており、下限ストッパは、各ハンマーの載置・当接部位が所定長さの1/2の位置よりも回動支点寄りに位置するよう、延設レール上に配置されていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、回動支点から後端まで所定長さを有しているハンマーに対し、その載置・当接部位が上記所定長さの1/2の位置(以下、本欄において「中央位置」という)よりも回動支点寄りに位置するよう、下限ストッパが延設レール上に配置されている。このように、ハンマーの中央位置よりも回動支点寄りに位置する載置・当接部位が下限ストッパに当接するので、例えば、ハンマーの中央位置よりも後端寄りに位置する部位が下限ストッパに当接する場合に比べて、ハンマーが下方に回動し始めるときの載置・当接部位と下限ストッパとの距離を確実に短くすることができる。これにより、ハンマーが下限ストッパに当接する際の速度及び衝撃を小さくし、雑音の低減を確保することができる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1から3のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、下限ストッパは、弾性を有する材料で構成されていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、下限ストッパは、弾性を有する材料で構成されているので、ハンマーが下限ストッパに当接した際の衝撃を緩和し、それにより、当接した際に発生する雑音をより一層低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態による電子ピアノの鍵盤装置を、離鍵状態において示す図であり、(a)は側面図、(b)は(a)の一点鎖線円内を拡大して示す図である。
【
図3】押鍵時におけるハンマーの動作を説明するための説明図であり、(a)は白鍵が押鍵された状態、(b)は押鍵された白鍵が離鍵された状態を示す。
【
図4】ハンマーと下限ストッパとの位置関係を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1(a)及び
図2は、本発明の一実施形態による電子ピアノの鍵盤装置を示している。これらの図に示すように、この鍵盤装置1は、鍵盤シャーシ2と、この鍵盤シャーシ2に回動自在に取り付けられた白鍵3及び黒鍵4から成る複数(例えば88個、
図2では8個のみ図示)の鍵5と、鍵5ごとに鍵盤シャーシ2に回動自在に取り付けられた複数のハンマー6などを備えている。なお、以下の説明では、白鍵3と黒鍵4を特に区別しない場合には、単に鍵5というものとする。
【0018】
鍵盤シャーシ2は、所定の樹脂材料(例えばABS樹脂)を射出成形することなどにより、1オクターブごとに所定形状に成形された複数の成形品を左右方向(
図1(a)の表裏方向、
図2の左右方向)に並設した状態で構成されている。
図1(a)に示すように、鍵盤シャーシ2の前部(
図1(a)の左部)11、中間部12及び後部(
図1(a)の右部)13は、互いに図示しないリブによって連結された状態で、一体に構成されている。また、これらの前部11、中間部12及び後部13はそれぞれ、左右方向に延びる前側レール14、中間レール15(延設レール)及び後側レール16を介して、鍵盤シャーシ2における1オクターブごとの複数の成形品が連結され、加えて、前部11及び後部13が、前側レール14及び後側レール16を介して、棚板10上に固定されている。なお、以下の説明では、鍵盤シャーシ2の前部11、中間部12及び後部13をそれぞれ、「シャーシ前部11」、「シャーシ中間部12」及び「シャーシ後部13」というものとする。
【0019】
シャーシ前部11には、上下方向に貫通する左右2つの係合孔21(
図1(a)では1つのみ図示)を一組として、白鍵3ごとに設けられた複数組の係合孔21を有しており、各組の両係合孔21に、対応する白鍵3の後述する左右の上限位置規制部3cが貫通した状態で係合している。また、シャーシ前部11には、係合孔21の前側の下縁部に、白鍵3の上限位置を規制するための白鍵用鍵ストッパ22が取り付けられている。離鍵状態において、白鍵3の上限位置規制部3cが白鍵用鍵ストッパ22に下方から当接することで、白鍵3の上限位置が規制される。さらに、シャーシ前部11には、白鍵3ごとに複数の白鍵用鍵ガイド23が立設されており、これらの白鍵用鍵ガイド23により、白鍵3が回動する際に、その前端部が上下方向に案内されるとともに横振れが防止される。
【0020】
シャーシ中間部12は、左右方向に延びる支軸12a(回動支点)を有しており、この支軸12aにハンマー6が回動自在に支持されている。また、シャーシ中間部12には、シャーシ前部11との間に、各鍵5の押鍵情報を検出するための鍵スイッチ27が取り付けられている。この鍵スイッチ27は、プリント基板27aと、このプリント基板27a上に鍵5ごとに取り付けられたゴムスイッチから成るスイッチ本体27bとで構成されている。そして、この鍵スイッチ27は、プリント基板27aの後端部がシャーシ中間部12に差し込まれるとともに、プリント基板27aの前端部がシャーシ前部11にねじ止めされた状態で、鍵盤シャーシ2に取り付けられている。
【0021】
シャーシ後部13は、鍵5の後端部に設けられた後述する支点軸5aを支持することにより、この支点軸5aを中心として、鍵5を回動自在に支持する鍵支持部28を有している。また、鍵支持部28の下面後端部には、ハンマー6の上限位置を規制するための上限ストッパ29が取り付けられている。さらに、鍵支持部28の前端部には、隣り合う鍵5、5の後端部間ごとに、後側鍵ガイド28aが立設されており、2つの後側鍵ガイド28a、28aによって、それらの間に位置する鍵5の後端部の横振れが防止される。
【0022】
また、シャーシ後部13とシャーシ中間部12との間には、鍵5とハンマー6の間に、ほぼ水平な平板部31が設けられている。この平板部31の前端部には、黒鍵4が回動する際に、それを上下方向に案内するとともに横振れを防止するための複数の中間鍵ガイド32(
図1(a)では1つのみ図示)が、黒鍵4ごとに立設されている。
【0023】
鍵5は、所定の樹脂材料(例えばASなど)を射出成形することなどによって成形されており、前後方向(
図1(a)の左右方向)に延びるとともに、横断面が下方に開放する逆U字状に形成されている。また、鍵5は、後端部の左右両側に突設された支点軸5aを中心として鍵盤シャーシ2に回動自在に支持された鍵本体(白鍵3の鍵本体3a、黒鍵4の鍵本体4a)を有している。
【0024】
白鍵3は、
図1(a)に示すように、鍵本体3aの前後方向の中央部よりも前寄りの所定位置に、下方に所定長さ突出するアクチュエータ部3bを有しており、このアクチュエータ部3bが、ハンマー6の後述する係合凹部36bに収容された状態で、これに係合している。また、白鍵3は、鍵本体3aの前端部から下方に所定長さ突出しかつその下端部が前方に屈曲するように形成された左右一対の上限位置規制部3c、3c(
図1(a)では1つのみ図示)を有しており、両上限位置規制部3c、3cが、シャーシ前部11の対応する前記係合孔21、21にそれぞれ貫通した状態で係合している。
【0025】
一方、黒鍵4は、鍵本体4aの前端部から下方に所定長さ突出するアクチュエータ部(図示せず)を有しており、そのアクチュエータ部が、白鍵3のアクチュエータ部3bと同様、対応するハンマー6の係合凹部36bに収容された状態で係合している。
【0026】
図1(a)に示すように、ハンマー6は、ハンマー本体34と、このハンマー本体34に着脱自在に取り付けられた錘35とで構成されている。ハンマー本体34は、所定の樹脂材料(例えばポリアセタール)を射出成形することなどにより、所定形状に成形された樹脂成形品で構成されている。このハンマー本体34は、前後方向に延び、その前半部(
図1(a)の左半部)36の所定位置に、側面形状が下方に開放するU字状の軸受部36aを有しており、この軸受部36aが、シャーシ中間部12の支軸12aに回動自在に係合している。また、ハンマー本体34の前半部36には、軸受部36aの前方に、白鍵3又は黒鍵4のアクチュエータ部3bに係合する係合凹部36bが設けられている。この係合凹部36bは、上方及び前方に開放しており、白鍵3では、そのアクチュエータ部3bの下端が係合凹部36b内の底面に当接した状態で、アクチュエータ部3bの下部が収容されている。さらに、ハンマー本体34の前半部36には、係合凹部36bの下側に、鍵スイッチ27のスイッチ本体27bを押圧するためのスイッチ押圧部36cが設けられている。
【0027】
ハンマー本体部34の後半部である錘取付け部37は、右方(
図1(a)の表側)に開放する開口部37aを有しており、この開口部37aを介して、錘35がハンマー本体34に着脱自在に取り付けられている。
【0028】
一方、錘35は、ハンマー本体34よりも比重の大きな材料(例えば鉄などの金属)で構成され、ハンマー本体34の厚さ(
図1(a)の表裏方向の厚さ)よりも薄い金属板をプレス加工することなどによって、所定形状に形成されている。この錘35は、前後方向に延び、その前半部が、ハンマー本体34の錘取付け部37に取り付けられ、後半部が、シャーシ後部13の後端付近まで後方に延びている。
【0029】
次に、鍵盤シャーシ2に取り付けられた中間レール15及び下限ストッパ30について、
図1(b)を参照して説明する。鍵盤シャーシ2のシャーシ中間部12には、ハンマー6の回動支点としての支軸12a付近の下方に、中間レール15が取り付けられるとともに、この中間レール15の上面の後端部(
図1(b)の右端部)に、ハンマー6の下限位置を規制するための下限ストッパ30が取り付けられている。
【0030】
中間レール15は、所定の金属(例えば亜鉛メッキ鋼板(SECC)やアルミ合金など)から成り、前壁15a、上壁15b及び後壁15cにより、横断面が下方に開放するコ字状に形成されている。また、中間レール15は、前壁15aがシャーシ中間部12の垂下壁12bに後方から密着した状態で、かつ上壁15bの前端部が取付ねじ38によってシャーシ中間部12にねじ止めされている。中間レール15の前壁15aは、シャーシ中間部12の垂下壁12bとともに、下方から嵌め込まれたクリップ部材39によって前後から挟持されている。なお、このクリップ部材39は、ゴムや合成樹脂から成り、シャーシ中間部12側から棚板10側への振動を抑制できるように構成されている。また、上記のクリップ部材39については、緩衝材としての不織布やフェルトを貼り付けるように構成してもよい。
【0031】
上記のようにシャーシ中間部12に取り付けられた中間レール15は、
図1(b)に示すように、棚板10から浮いた状態で配置されている。具体的には、中間レール15の前壁15aの下端は、シャーシ中間部の垂下壁12bの下端よりも高く、クリップ部材39内の底面との間に隙間が設けられている。また、中間レール15の後壁15cの下端は、棚板10よりも高い位置に位置している。
【0032】
そして、中間レール15の上壁15bの後端部には、中間レール15の長さ方向(
図1の表裏方向)に沿って延びかつ複数のハンマー6全体にわたる下限ストッパ30が取り付けられている。この下限ストッパ30は、弾性を有する材料(例えば発泡ウレタンなど)から成り、横断面が矩形状に形成されている。なお、上記の下限ストッパ30は、単一の長尺な部材によって構成されているが、例えば、単一又は複数のハンマー6ごとに設けることも可能である。
【0033】
上記のように、中間レール15上に下限ストッパ30が配置された鍵盤装置1では、
図1に示すように、離鍵状態において、ハンマー6は、下限ストッパ30の真上に位置する載置・当接部位6aが、下限ストッパ30に載置される。なお、
図1では、下限ストッパ30の後半部に、ハンマー6の載置・当接部位6aが載置されることにより、下限ストッパ30の後半部が若干押し潰された状態を示している。
【0034】
以上のように構成された鍵盤装置1では、
図1に示す離鍵状態において、鍵5を押鍵すると、例えば白鍵3を押鍵した
図3(a)に示すように、押鍵された鍵5が後端部の支点軸5aを中心として反時計方向に回動する。これに伴い、鍵5のアクチュエータ部3bが、ハンマー6の係合凹部36bを下方に押圧する。それにより、ハンマー6は、シャーシ中間部12の支軸12aを中心として反時計方向に回動しながら、スイッチ押圧部36cで鍵スイッチ27のスイッチ本体27bを上方から押圧する。また、この場合、ハンマー6は、その後端部(錘35の後端部)がシャーシ後部13の上限ストッパ29に下方から当接することによって、それ以上の回動が阻止される。以上の押鍵動作により、ハンマー6の重量及びトルクに応じた所定のタッチ重さが、鍵5に付与されるとともに、鍵5の押鍵情報が鍵スイッチ27を介して検出される。そして、検出された押鍵情報に応じた音が、図示しないスピーカから出力される。
【0035】
一方、押鍵した鍵5を離鍵すると、
図3(b)に示すように、ハンマー6は、支軸12aを中心として、上記とは逆に、時計方向に回動する。それに伴い、鍵5は、アクチュエータ部3bを介して押し上げられることにより、支点軸5aを中心として、上記とは逆に、時計方向に回動する。そして、ハンマー6の載置・当接部位6aが下限ストッパ30に上方から当接することにより、ハンマー6は、それ以上の回動が阻止され、離鍵状態の元の位置に戻る。また、鍵5は、白鍵3の場合、上限位置規制部3cが白鍵用鍵ストッパ22に下方から当接し、それ以上の回動が阻止され、離鍵状態の元の位置に戻る。
【0036】
ここで、
図4を参照して、ハンマー6と下限ストッパ30との位置関係について、より具体的に説明する。同図に示すように、ハンマー6は、支軸12aから後端まで、所定長さLを有しており、また同図に示す長さMは、所定長さLの1/2の長さを表している。下限ストッパ30に当接するハンマー6の載置・当接部位6aは、支軸12aからの距離Sが、長さMよりも短くなっている。すなわち、下限ストッパ30は、ハンマー6の載置・当接部位6aが上記所定長さLの1/2の長さMの位置よりも支軸12a寄りに位置するよう、中間レール15上に配置されている。
【0037】
ハンマー6と下限ストッパ30との位置関係を上記のように設定することにより、例えば、ハンマー6の中央位置よりも後端寄りに位置する部位35aがその下方の下限ストッパ40に当接する場合に比べて、上限位置に位置するハンマー6(ハンマー6が下方に回動し始めるとき)の載置・当接部位6aと下限ストッパ30との距離Pが、上記部位35aと下限ストッパ40との距離Qに比べて、大幅に短くなる。
【0038】
以上詳述したように、本実施形態によれば、鍵盤シャーシ2には、複数のハンマー6の支軸12a付近の下方に、中間レール15が取り付けられ、この中間レール15上に下限ストッパ30が取り付けられている。この下限ストッパ30は、ハンマーの回動支点から遠く離れた位置に下限ストッパ(例えば
図4の下限ストッパ40)を配置した従来と異なり、ハンマー6の回動支点である支軸12aに比較的近い位置に配置される。これにより、押鍵直後の離鍵時に、ハンマー6が下方に回動し始めるときの載置・当接部位6aと下限ストッパ30との距離(例えば
図4の距離P)が、従来(例えば
図4の距離Q)に比べて短くなるため、ハンマー6の載置・当接部位6aが下限ストッパ30に当接する際の速度及び衝撃が小さくなり、その結果、従来に比べて、上記当接によって発生する雑音を低減することができる。また、下限ストッパ30が取り付けられた中間レール15は、棚板10から浮いた状態で鍵盤シャーシ2に取り付けられているため、ハンマー6が下方に回動し、下限ストッパ30に当接した際に、その振動や雑音が棚板10に直接伝わることがない。以上のように、ハンマー6が当接する下限ストッパ30を、ハンマー6の支軸12a付近の下方に配置しかつ棚板10から浮いた状態の中間レール15に取り付けることにより、ハンマー6が下限ストッパ30に当接した際に発生する雑音を、従来に比べて大幅に低減することができる。
【0039】
また、下限ストッパ30は、弾性を有する材料で構成されているので、ハンマー6が下限ストッパ30に当接した際の衝撃を緩和し、それにより、当接した際に発生する雑音をより一層低減することができる。
【0040】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、本発明の鍵盤装置1を電子ピアノに適用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の鍵盤楽器にも適用することが可能である。また、実施形態で示した鍵盤シャーシ2、鍵5、ハンマー6、中間レール15及び下限ストッパ30の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 鍵盤装置
2 鍵盤シャーシ
3 白鍵
4 黒鍵
5 鍵
5a 支点軸
6 ハンマー
6a 載置・当接部位
10 棚板
11 前部
12 中間部
12a 支軸(回動支点)
13 後部
15 中間レール(延設レール)
30 下限ストッパ
35 錘