(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】扉駆動装置、扉駆動方法、扉駆動プログラム
(51)【国際特許分類】
B61D 19/02 20060101AFI20240521BHJP
E05F 15/643 20150101ALI20240521BHJP
【FI】
B61D19/02 V
E05F15/643
B61D19/02 R
(21)【出願番号】P 2020161175
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】宇野 博生
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/001604(WO,A1)
【文献】特開平05-208788(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109505481(CN,A)
【文献】特開2001-301616(JP,A)
【文献】特開2005-193761(JP,A)
【文献】米国特許第04491917(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 19/02
E05F 15/00-15/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相のコイルに流される駆動電流により回転動力を発生させるモータと、当該回転動力に基づき開閉駆動される扉とを有する車両の扉駆動装置であって、
前記モータの回転子の回転位置データに応じて、前記扉の開駆動時と閉駆動時で異なる相の前記コイルに前記駆動電流を流す駆動電流生成部と、
前記車両が所定の走行状態にあることを示す移動状態データと前記回転位置データとに基づき、前記開駆動時に前記駆動電流を流すべき相の前記コイルに、当該駆動電流が流れないように規制する規制回路と
を備え
、
前記駆動電流生成部は、前記扉の開閉駆動指令を生成するコントローラと、当該開閉駆動指令に基づき前記駆動電流を前記モータに印加するドライバとを備え、
前記規制回路は、前記コントローラと前記モータとの間に設けられ、
前記車両が前記走行状態にあることを前記移動状態データが示す場合、前記開駆動時に前記駆動電流を流すべき相の前記コイルに対する前記コントローラからの前記開閉駆動指令に応じた駆動電流を、前記ドライバが前記モータに印加しないように遮断し、
前記車両が前記走行状態にあることを前記移動状態データが示す場合、前記閉駆動時に前記駆動電流を流すべき相の前記コイルに対する前記コントローラからの前記開閉駆動指令に応じた駆動電流を、前記ドライバが前記モータに印加するように透過し、
前記車両が前記走行状態にないことを前記移動状態データが示す場合、前記開駆動時および前記閉駆動時に前記駆動電流を流すべき相の前記コイルに対する前記コントローラからの前記開閉駆動指令に応じた駆動電流を、前記ドライバが前記モータに印加するように透過する
扉駆動装置。
【請求項2】
前記規制回路は、前記コイルの全ての相に設けられ、前記開駆動時に前記駆動電流を流すべき各相の前記コイルに、当該駆動電流が流れないように規制する
請求項1に記載の扉駆動装置。
【請求項3】
前記規制回路は、前記開駆動時に、前記移動状態データに基づき前記車両が前記所定の走行状態にあることを検知し、かつ、前記回転位置データに基づき前記モータの回転子が前記各相のコイルに前記駆動電流を流すべき回転位置に来たことを検知した際、当該駆動電流が当該各相のコイルに流れないように規制する
請求項1または2に記載の扉駆動装置。
【請求項4】
前記規制回路は、前記移動状態データと前記回転位置データとに基づく論理演算を行う規制素子を備え、その論理演算結果に基づき前記開駆動時の前記駆動電流を規制する
請求項1から3のいずれかに記載の扉駆動装置。
【請求項5】
前記規制回路は、前記規制素子の入力と出力とを比較し、その論理演算結果が正しくないとき、前記閉駆動時の前記駆動電流も規制する入出力比較素子を備える
請求項4に記載の扉駆動装置。
【請求項6】
前記移動状態データは、一端が電源に接続され前記車両が前記所定の走行状態にあるときに開状態となる継電器の他端から供給される
請求項1から5のいずれかに記載の扉駆動装置。
【請求項7】
前記移動状態データは、前記継電器が閉状態のときに前記他端に現れる前記電源の電位と、前記継電器が開状態のときに前記他端に現れる前記電源の電位よりも低い電位とによるデジタルデータである
請求項6に記載の扉駆動装置。
【請求項8】
前記規制回路は、前記コントローラと前記ドライバとの間に設けられ、前記開駆動時に前記駆動電流を流すべき相の前記コイルに対する前記開閉駆動指令を規制する
請求項1から7のいずれかに記載の扉駆動装置。
【請求項9】
前記駆動電流生成部は、前記コイルの各相について、一端が高電位点に接続された高電位側トランジスタと、一端が低電位点に接続され他端が前記高電位側トランジスタの他端と接続された低電位側トランジスタとを備え、
前記高電位側トランジスタの導通時に、その他端から前記各相のコイルに正方向の前記駆動電流を流し、
前記低電位側トランジスタの導通時に、その他端から前記各相のコイルに負方向の前記駆動電流を流し、
前記規制回路は、前記開駆動時に前記駆動電流を流すべき相の前記高電位側トランジスタおよび前記低電位側トランジスタの少なくとも一つを非導通状態に規制する
請求項1から8のいずれかに記載の扉駆動装置。
【請求項10】
過大な前記駆動電流を検知した際に前記駆動電流生成部への電力供給を遮断する過電流検知部を備える
請求項1から9のいずれかに記載の扉駆動装置。
【請求項11】
前記駆動電流生成部は、前記扉の開駆動時には、前記モータの回転子を一方向に回転させる前記駆動電流を流し、前記扉の閉駆動時には、前記モータの回転子を前記一方向と逆方向に回転させる前記駆動電流を流す
請求項1から10のいずれかに記載の扉駆動装置。
【請求項12】
前記車両は鉄道車両であり、
前記所定の走行状態は、前記鉄道車両の走行速度が所定値以上の状態である
請求項1から11のいずれかに記載の扉駆動装置。
【請求項13】
多相のコイルに流される駆動電流により回転動力を発生させるモータと、当該回転動力に基づき開閉駆動される扉とを有する車両の扉駆動方法であって、
前記モータの回転子の回転位置データに応じて、前記扉の開駆動時と閉駆動時で異なる相の前記コイルに前記駆動電流を流す駆動電流生成ステップと、
前記車両が所定の走行状態にあることを示す移動状態データと前記回転位置データとに基づき、前記開駆動時に前記駆動電流を流すべき相の前記コイルに、当該駆動電流が流れないように規制する規制ステップと
を備え
、
前記駆動電流生成ステップは、前記扉の開閉駆動指令を生成するコントローラと、当該開閉駆動指令に基づき前記駆動電流を前記モータに印加するドライバとによって実行され、
前記規制ステップは、前記コントローラと前記モータとの間で実行され、
前記車両が前記走行状態にあることを前記移動状態データが示す場合、前記開駆動時に前記駆動電流を流すべき相の前記コイルに対する前記コントローラからの前記開閉駆動指令に応じた駆動電流を、前記ドライバが前記モータに印加しないように遮断し、
前記車両が前記走行状態にあることを前記移動状態データが示す場合、前記閉駆動時に前記駆動電流を流すべき相の前記コイルに対する前記コントローラからの前記開閉駆動指令に応じた駆動電流を、前記ドライバが前記モータに印加するように透過し、
前記車両が前記走行状態にないことを前記移動状態データが示す場合、前記開駆動時および前記閉駆動時に前記駆動電流を流すべき相の前記コイルに対する前記コントローラからの前記開閉駆動指令に応じた駆動電流を、前記ドライバが前記モータに印加するように透過する
扉駆動方法。
【請求項14】
多相のコイルに流される駆動電流により回転動力を発生させるモータと、当該回転動力に基づき開閉駆動される扉とを有する車両の扉駆動プログラムであって、
前記モータの回転子の回転位置データに応じて、前記扉の開駆動時と閉駆動時で異なる相の前記コイルに前記駆動電流を流す駆動電流生成ステップと、
前記車両が所定の走行状態にあることを示す移動状態データと前記回転位置データとに基づき、前記開駆動時に前記駆動電流を流すべき相の前記コイルに、当該駆動電流が流れないように規制する規制ステップと
をコンピュータに実行させ
、
前記駆動電流生成ステップは、前記扉の開閉駆動指令を生成するコントローラと、当該開閉駆動指令に基づき前記駆動電流を前記モータに印加するドライバとによって実行され、
前記規制ステップは、前記コントローラと前記モータとの間で実行され、
前記車両が前記走行状態にあることを前記移動状態データが示す場合、前記開駆動時に前記駆動電流を流すべき相の前記コイルに対する前記コントローラからの前記開閉駆動指令に応じた駆動電流を、前記ドライバが前記モータに印加しないように遮断し、
前記車両が前記走行状態にあることを前記移動状態データが示す場合、前記閉駆動時に前記駆動電流を流すべき相の前記コイルに対する前記コントローラからの前記開閉駆動指令に応じた駆動電流を、前記ドライバが前記モータに印加するように透過し、
前記車両が前記走行状態にないことを前記移動状態データが示す場合、前記開駆動時および前記閉駆動時に前記駆動電流を流すべき相の前記コイルに対する前記コントローラからの前記開閉駆動指令に応じた駆動電流を、前記ドライバが前記モータに印加するように透過する
扉駆動プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の扉駆動技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両等の車両で人や物を安全に輸送する上で、出入りのための扉を適切に駆動することは極めて重要である。車両の走行時は安全のために扉は閉められ、車両の停止時は出入りのために扉は開けられる。
【0003】
特許文献1に開示される鉄道車両用ドア開閉制御装置では、ドア電磁弁によりドアが開閉駆動される。このドア電磁弁は、いわゆる常時閉タイプの弁であり、非通電時は閉状態を保ち、通電時のみに開く。そして、通電が解除されると閉状態に自動的に復帰する。特許文献1では、電源とドア電磁弁の間にドア開リレーが設けられ、そのONとOFFを切り替えると、ドア電磁弁の通電状態が切り替わり、ドアが開閉する。具体的には、鉄道車両の停止時に乗務員がドア開操作を行うと、ドア開リレーがONとなり、ドア電磁弁が通電してドアが開く。一方、鉄道車両の走行時は、ドア開リレーがOFFとなり、ドア電磁弁が通電せずドアが閉状態に保たれる。
【0004】
鉄道車両用ドア開閉制御装置としては、特許文献1の電磁弁の代わりにモータでドアを開閉駆動するものも知られている。この場合、モータの回転方向を切り替えることで開駆動と閉駆動を実現する。つまり、開駆動を実現する回転(以下、正回転という)と、閉駆動を実現する回転(以下、逆回転という)は、互いに逆方向である。特許文献1の電磁弁では通電を解除すると自動でドアが閉まるのに対し、モータでは逆回転させてドアを閉める必要がある。一方で、モータを使えば、電磁弁よりもきめ細かい開閉制御が可能となる。
【0005】
このようにモータを用いる鉄道車両用ドアでも、特許文献1のドア開リレーと同様のリレーを用いた開閉駆動が可能である。まず、鉄道車両の停止時に乗務員がドア開操作を行うと、リレーがONとなり、モータが通電してドアの開閉駆動が可能になる。モータを正回転させてドアを開けた後、鉄道車両を再び走行させる前にモータを逆回転させてドアを閉める。鉄道車両の走行時は、リレーがOFFとなり、モータが通電せず正回転/逆回転ともに禁止されるため、ドアが閉状態に保たれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、鉄道車両の走行時はドアが閉状態に保たれるようになっているが、何らかの理由で走行中にドアが開いている場合、その閉駆動(逆回転駆動)のために鉄道車両を停止させ、リレーをONにし、モータに通電する必要があり、煩雑である。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両が走行中であっても車両を停止させることなく扉を閉駆動できる扉駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の扉駆動装置は、多相のコイルに流される駆動電流により回転動力を発生させるモータと、当該回転動力に基づき開閉駆動される扉とを有する車両の扉駆動装置であって、モータの回転子の回転位置データに応じて、扉の開駆動時と閉駆動時で異なる相のコイルに駆動電流を流す駆動電流生成部と、車両が所定の走行状態にあることを示す移動状態データと回転位置データとに基づき、開駆動時に駆動電流を流すべき相のコイルに、当該駆動電流が流れないように規制する規制回路とを備える。
【0010】
この態様では、モータの回転子の回転位置に応じた駆動電流が生成されるが、その駆動電流が流されるコイルの相は扉の開駆動時(モータ正回転時)と閉駆動時(モータ逆回転時)で異なる。つまり、回転位置データが同一でも、開駆動時と閉駆動時では異なる相のコイルに駆動電流が流される。規制回路は、この違いを利用して開駆動時の駆動電流を選択的に規制する。これにより、車両の走行中は開駆動が禁止されるので従来と同様の安全性を確保できる。一方、規制回路は閉駆動時の駆動電流を規制しないため、車両が走行中であっても扉を閉駆動でき、上記のように閉駆動のために車両を停止させる必要がなくなる。
【0011】
本発明の別の態様は、扉駆動方法である。この方法は、多相のコイルに流される駆動電流により回転動力を発生させるモータと、当該回転動力に基づき開閉駆動される扉とを有する車両の扉駆動方法であって、モータの回転子の回転位置データに応じて、扉の開駆動時と閉駆動時で異なる相のコイルに駆動電流を流す駆動電流生成ステップと、車両が所定の走行状態にあることを示す移動状態データと回転位置データとに基づき、開駆動時に駆動電流を流すべき相のコイルに、当該駆動電流が流れないように規制する規制ステップとを備える。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両が走行中であっても車両を停止させることなく扉を閉駆動できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る扉駆動装置が適用される鉄道車両用のドアを概略的に示す正面図である。
【
図2】実施形態の扉駆動装置の詳細な構成を示す図である。
【
図3】入出力比較素子(NAND回路)の入力および出力の取りうるデジタル値の一覧表である。
【
図4】モータの各相のコイルの状態、ドライバへの入力信号、駆動電流印加部のプラス側およびマイナス側のトランジスタの状態を示す一覧表である。
【
図5】実施形態の扉駆動装置がモータを開閉駆動する際のホール素子信号と各相の駆動電流の関係を示す図である。
【
図6】鉄道車両の走行時に開駆動をしようとする場合の各種信号とモータの各相の通電状態を示す図である。
【
図7】鉄道車両の走行時に閉駆動をしようとする場合の各種信号とモータの各相の通電状態を示す図である。
【
図8】規制回路の一部をドライバの後段に設ける構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
初めに実施形態の概要を説明する。本実施形態の扉駆動装置は、3相ブラシレスモータを回転駆動して、鉄道車両の扉を開閉駆動する。鉄道車両の停車時は開駆動と閉駆動の両方を許容するが、走行時は開駆動を規制し、閉駆動のみを許容することで、走行中の安全を確保する。走行時の開駆動の規制は、マイコンとドライバの間に設けられる論理回路群が行う。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る扉駆動装置1が適用される鉄道車両用のドア100を概略的に示す正面図である。ドア100は、開閉駆動される扉部110と、ドア100全体を制御するコントローラ120と、動力を発生させるドアエンジン130と、動力を扉部110に伝達する動力伝達部140とを主に備える。なお、以下の説明では、
図1における左右方向を水平方向とし、
図1における上下方向を鉛直方向とするが、ドア100は任意の姿勢で設置することができ、その設置方向が以下の例に限定されるものではない。また、図示されるドア100は左右に開閉する引き戸式だが、開き戸式や折り戸式といった他の形式のドアにも本実施形態の扉駆動装置1は適用できる。本実施形態では、人や物を輸送する車両として鉄道車両を例に取って説明するが、自動車等の他の車両にも本実施形態の扉駆動装置1は適用できる。
【0017】
扉部110は、それぞれ水平方向に可動に設けられる第1の可動扉111Lと第2の可動扉111Rと、第1の可動扉111Lおよび第2の可動扉111Rが開状態のときにそれぞれを収容する扉収容部112L、112Rと、第1の可動扉111Lと第2の可動扉111Rの水平方向の動作をガイドするガイド機構113を備える。第1の可動扉111L、第2の可動扉111Rは、鉛直方向の寸法が水平方向の寸法よりも大きい縦長の矩形状に構成される。扉部110の開駆動時には、
図1で左側に示される第1の可動扉111Lが左方向に駆動され、
図1で右側に示される第2の可動扉111Rが右側に駆動される。また、扉部110の閉駆動時には、開駆動時とは逆に、第1の可動扉111Lが右方向に駆動され、第2の可動扉111Rが左方向に駆動される。なお、扉部110を構成する扉の数や形状は上記に限られず、設置場所のニーズに合わせて適宜設計可能である。また、同様に、扉部110の可動方向も水平方向に限られず、水平方向から傾斜した方向としてもよい。
【0018】
ガイド機構113は、走行レール1131と、戸車1132と、ガイドレール1133と、振れ止め部1134を備える。走行レール1131は、可動扉111L、111Rの上方において、その可動域の全体に亘って水平方向に延伸する柱状のレール部材である。戸車1132は、可動扉111L、111Rの上部にそれぞれ二つずつ設けられ、各可動扉111L、111Rを走行レール1131に懸架する。各可動扉111L、111Rが水平方向に開閉駆動される際、戸車1132が走行レール1131を転動するため、円滑な開閉動作が可能となる。ガイドレール1133は、可動扉111L、111Rの下方において、その可動域の全体に亘って水平方向に延伸する溝状のレール部材である。振れ止め部1134は、可動扉111L、111Rの下部から張り出して溝状のガイドレール1133に収まる。各可動扉111L、111Rが水平方向に開閉駆動される際、振れ止め部1134がガイドレール1133に沿って動くため、各可動扉111L、111Rの見込み方向(
図1の紙面に垂直な方向)の振動を抑制できる。
【0019】
コントローラ120は、ドア100における各種の情報処理と制御を司る。後述するように本実施形態の扉駆動装置1は、コントローラ120内に実装される。
【0020】
ドアエンジン130は、モータ131と、駆動プーリ132を備える。モータ131は、コントローラ120内の扉駆動装置1で生成される駆動電流が流される多相のコイルを有するブラシレスモータである。詳細は後述するが、ホール素子等の磁気センサで検出される回転子の回転位置に応じて各相のコイルの駆動電流を変化させることで、正回転(扉部110の開駆動に対応)または逆回転(扉部110の閉駆動に対応)の回転磁界を発生させ、回転子を回転させて回転動力を得る。本実施形態では、多相ブラシレスモータとして、U相、V相、W相の3相のコイルを持つ3相ブラシレスモータを例に取って説明する。モータ131によって回転駆動される駆動プーリ132は、図示しない歯車機構等を介してモータ131の回転子と連結され、連動して回転する。
【0021】
動力伝達部140は、ドアエンジン130で発生された動力を扉部110に伝達し、可動扉111L、111Rを開閉駆動する。動力伝達部140は、動力伝達ベルト141、従動プーリ142、連結部材143を備える。動力伝達ベルト141は、内周面に多数の歯が形成された環状のタイミングベルトであり、
図1の右側において駆動プーリ132に巻き付けられ、
図1の左側において従動プーリ142に巻き付けられる。この状態において動力伝達ベルト141の水平方向の寸法は、駆動プーリ132と従動プーリ142の水平方向の距離に等しく、また可動扉111L、111Rの可動域の水平方向の寸法と同程度である。モータ131により駆動プーリ132が回転すると、動力伝達ベルト141を介して従動プーリ142が連動して回転する。
【0022】
連結部材143は、可動扉111L、111Rをそれぞれ動力伝達ベルト141に連結して、開閉駆動する。ここで、一方の可動扉は動力伝達ベルト141の上側に連結され、他方の可動扉は動力伝達ベルト141の下側に連結される。
図1の例では、動力伝達ベルト141が時計回りに回転(正回転)すると、第1の可動扉111Lが左側に移動し第2の可動扉111Rが右側に移動する開動作となり、動力伝達ベルト141が反時計回りに回転(逆回転)すると、第1の可動扉111Lが右側に移動し第2の可動扉111Rが左側に移動する閉動作となる。
【0023】
図2は、本実施形態の扉駆動装置1の詳細な構成を示す。扉駆動装置1は、図の左から右に向かって、制御情報処理部2と、マイコン3と、規制回路4と、ドライバ5と、駆動電流印加部6とを備える。
【0024】
制御情報処理部2は、主に鉄道車両が駅等で停車する際に、各種の制御情報を処理して扉駆動装置1の状態を制御する。制御情報としては、車速検知データ211、テスト指令212、一斉解錠指令213、開許可指令214、再開閉指令215、リレー閉信号216が例示され、制御情報取得部21の各端子から取得できる。
【0025】
車速検知データ211は、鉄道車両の走行速度が所定値(例えば時速5km)以上のときに低レベル、所定値未満のときに高レベルとなる信号である。したがって、鉄道車両の停止時に車速検知データ211は高レベルとなる。以降の説明では、便宜上、車速検知データ211が高レベルのときを「停車時」といい、車速検知データ211が低レベルのときを「走行時」という。ここで、本実施形態における「鉄道車両の走行時」が、本発明における「車両が所定の走行状態にあるとき」に対応する。
【0026】
テスト指令212は、メンテナンス作業員等がテストを行う際に扉駆動装置1を起動する指令である。一斉解錠指令213は、鉄道車両の指定されたドア100を一斉に解錠する指令である(例えば、一両の車両の片側の全ドア、一編成中の全車両の片側の全ドアを一斉に解錠できる)。開許可指令214は、鉄道車両の指定されたドア100の開閉駆動を許可する指令である。再開閉指令215は、鉄道車両の全てのドア100の閉操作後に、未だ閉まっていないドア100のみを再び開閉する指令である。リレー閉信号216は、後述するように、停車時に閉じるFSR接点41から供給される信号である。テスト指令212、一斉解錠指令213、開許可指令214、再開閉指令215は、乗務員等の操作によりそれぞれの指令が発令されているときに高レベルの信号となる。リレー閉信号216は、停車時にFSR接点41が閉じているときに高レベルの信号となる。
【0027】
トランジスタ22は、npn型のバイポーラトランジスタであり、上記の制御情報のうち、車速検知データ211を除く、テスト指令212、一斉解錠指令213、開許可指令214、再開閉指令215、リレー閉信号216をベースで受ける。このうち少なくとも一つの制御情報が高レベルとなることでトランジスタ22はONになり、エミッタとコレクタが導通する。エミッタが接地されているため、トランジスタ22がONのときは、コレクタが低レベルになる。
【0028】
トランジスタ23は、pnp型のバイポーラトランジスタであり、エミッタで車速検知データ211を受け、ベースにトランジスタ22のコレクタが接続される。車速検知データ211が高レベルとなる停車時に、制御情報212~216の少なくとも一つが高レベルとなってトランジスタ22がONになると、ベースが低レベルとなったトランジスタ23もONになり、高レベルの車速検知データ211が後段のマイコン3に供給される。このようにして、マイコン3は、鉄道車両が停車状態にあり、かつ制御情報212~216の少なくとも一つがアクティブ(高レベル)であることを認識する。
【0029】
トランジスタ24は、npn型のバイポーラトランジスタであり、高レベルの車速検知データ211を受けたマイコン3が生成する高レベルの信号をベースで受けてONになり、接地されたエミッタとコレクタが導通する。
【0030】
トランジスタ23のコレクタとトランジスタ24のコレクタの間には、継電器ないしリレーを構成するFSRコイル25が直列に接続される。上記のようにトランジスタ23とトランジスタ24が同時にONになると、高レベルになっている車速検知データ211のラインからトランジスタ24のエミッタが繋がる接地のラインまで導通し、その経路上にあるFSRコイル25に電流が流れて励磁される。後述するように、FSRコイル25に電流が流れている励磁状態ではFSR接点41が閉じ、FSRコイル25に電流が流れていない消磁状態ではFSR接点41が開く。なお、FSRとはFail Safe Relayの略であり、次に述べるように、停車時かつ制御情報アクティブ時のみに励磁状態を許容し、誤動作の防止や安全性の確保を行うことに由来する。
【0031】
以上の制御情報処理部2の処理は次の通り小括される。
・車速検知データ211が低レベルとなる走行時は、その他の制御情報212~216によらずFSRコイル25は常に消磁状態であり、FSR接点41は開いている。
・車速検知データ211が高レベルとなる停車時に、その他の制御情報212~216の少なくとも一つが高レベル(アクティブ)になれば、FSRコイル25は励磁状態となり、FSR接点41が閉じる。
・車速検知データ211が高レベルとなる停車時であっても、その他の制御情報212~216の全てが低レベル(非アクティブ)であれば、FSRコイル25は消磁状態のままで、FSR接点41は開いている。
【0032】
マイコン3は、扉駆動装置1の各種の情報処理と制御を司るマイクロコントローラICであり、ドア100の開閉駆動のための開閉駆動指令を後段の規制回路4、ドライバ5、駆動電流印加部6に供給する。また、上記の通り、マイコン3は、制御情報処理部2のトランジスタ24のON/OFF制御も行う。なお、以下で詳しく説明するように、マイコン3、ドライバ5、駆動電流印加部6は、モータ131の回転子の回転位置データに応じてドア100の開閉駆動電流を生成する駆動電流生成部を構成する。
【0033】
規制回路4、ドライバ5、駆動電流印加部6は、3相ブラシレスモータであるモータ131のU相、V相、W相の各コイルに対応して、ほぼ同様の構成のものが設けられる。そこで、以下ではU相について詳しく説明し、V相およびW相についてはU相と差異がある場合に適宜言及するに留める。
【0034】
規制回路4は、マイコン3とドライバ5との間に設けられて各相のコイルに対する開閉駆動指令を規制するもので、その最前段には、FSRコイル25とともに継電器を構成し、FSRコイル25により開閉制御されるFSR接点41が設けられる。FSR接点41は一端が5Vの電源に接続され、他端の信号が前述のリレー閉信号216となる。したがって、FSR接点41が閉状態のとき、リレー閉信号216は高レベル(5V)となり、FSR接点41が開状態のとき、リレー閉信号216は低レベルとなる。
【0035】
また、FSR接点41の他端側は分岐しており、NOT回路42が接続される。NOT回路42が出力するデジタル信号は、リレー閉信号216を反転したものであり、以下これを「FSR信号」または単純に「FSR」と表す。FSR信号のデジタル値は、FSR接点41が閉状態のとき0であり、FSR接点41が開状態のとき1である。上記の通り、鉄道車両の走行時は、FSR接点41が常に開いているため、FSR信号は常に1である。このようにFSR信号は鉄道車両が走行状態にあることを示すデータであり、本発明における移動状態データに相当する。このFSR信号はマイコン3に供給され、駆動信号の生成に利用される。
【0036】
規制回路4は、マイコン3からの駆動信号と、FSR信号と、モータ131の回転子の回転位置データとに基づく所定の論理演算を行う論理回路群を有する。なお、
図2に示すのは論理回路群の一つの構成例に過ぎず、同じ論理演算を実現するために他の構成を採用できるのは周知の通りである。図示の論理回路群の例は、二つのNAND回路43、44と、二つのAND回路45、46とを含む。
【0037】
NAND回路43には、FSR信号と、モータ131の回転子の回転位置データが入力される。ここで、回転位置データとは、
図2のモータ131において模式的に示されるホール素子H1、H2、H3の検出データである。周知の通り、3相ブラシレスモータでは、互いに120度の機械角をなす位置に三つのホール素子H1、H2、H3が設けられ、回転する回転子の磁気を検出することで、その回転位置(角度)を検出する。U相のNAND回路43にはホール素子H1の検出データが入力され、V相のNAND回路43にはホール素子H2の検出データが入力され、W相のNAND回路43にはホール素子H3の検出データが入力される。これは、後述するように、鉄道車両の走行時の開駆動を規制するためである。なお、本実施形態のドア100は、
図1に示されるように、モータ131が時計回りに回転すると扉部110が開き、モータ131が反時計回りに回転すると扉部110が閉まるが、これとは逆勝手すなわち時計回りで閉まり反時計回りで開くドア100の場合は、U相、V相、W相の各NAND回路43に入力するホール素子をそれぞれH2、H3、H1に切り替えることで、走行時の開駆動を規制できる。
【0038】
なお、3相ブラシレスモータにおいて、後述する
図5で示される位相差120度のホール素子信号H1、H2、H3を生成する手法は上記に限られず、磁石である回転子のN極およびS極の数に応じて、適切な機械角にホール素子を設ければよい。例えば、N極およびS極がそれぞれ10個ずつの10極の磁石を回転子として用いる場合、三つのホール素子を互いに機械角60度をなす位置に設ければよい。10極の場合、60度の機械角は60×10=600度の電気角に相当するが、これを360度の倍数である720度から減算すると所望の120度の位相差が得られるためである。この場合、三つのホール素子を120度の機械角の範囲に固めて実装できるため、その配線の引き回しを低減できる。
【0039】
AND回路45には、NAND回路43の出力信号INEと、マイコン3からのパルス幅変調信号PWMが入力される。ここで、パルス幅変調信号PWMは、モータ131を回転駆動するために、各相のドライバ5にずれたタイミングで供給される。詳細は後述するが、モータ131を正回転(開駆動)させる場合は、U相、V相、W相の順にパルス幅変調信号PWMがドライバ5に供給され、モータ131を逆回転(閉駆動)させる場合は、W相、V相、U相の順にパルス幅変調信号PWMがドライバ5に供給される。
【0040】
以上の構成において、NAND回路43は、移動状態データとしてのFSR信号と、回転位置データとしてのホール素子信号H1、H2、H3とに基づき、鉄道車両が走行状態にあるときの開駆動を規制する規制素子を構成する。より具体的には、NAND回路43は、開駆動時に、FSR信号に基づき鉄道車両が走行状態にあることを検知し、かつ、ホール素子信号H1、H2、H3に基づきモータ131の回転子が各相のコイルに駆動電流を流すべき回転位置に来たことを検知した際、その駆動電流が各相のコイルに流れないように規制する。上記の通り、鉄道車両の走行時は、FSR信号は常に1である。そのため、NAND回路43の出力信号INEは、ホール素子信号が1であれば0となり、ホール素子信号が0であれば1となる。したがって、AND回路45は、ホール素子信号が1(INEが0)のときは0を出力し、ホール素子信号が0(INEが1)のときはマイコン3のPWM出力をそのまま出力する。
【0041】
詳細は後述するが、例えばU相で開駆動を行うためには、対応するホール素子信号H1が1のときにパルス幅変調信号PWMをドライバ5に供給する必要がある。しかし、上記の通り、ホール素子信号が1のときはINEが0となってAND回路45の出力が0に規制されるため、パルス幅変調信号PWMが遮断されてドライバ5に供給されない。したがって、鉄道車両の走行時の開駆動が禁止される。一方、U相で閉駆動を行うときは、開駆動時とは逆に、ホール素子信号H1が0のときにパルス幅変調信号PWMをドライバ5に供給すればよいが、今度はINEが1となるためパルス幅変調信号PWMはAND回路45で遮断されない。したがって、鉄道車両の走行時の閉駆動は許容される。なお、鉄道車両の停車時にFSR信号が0となっているときは、NAND回路43の出力INEはホール素子信号によらず常に1となるため、AND回路45はマイコン3からのパルス幅変調信号PWMを常に透過させる。したがって、停車時は開駆動と閉駆動の両方が許容される。
【0042】
NAND回路44は、規制素子としてのNAND回路43の入力と出力とを比較し、その論理演算結果が正しくないとき、閉駆動時の駆動電流も規制する入出力比較素子を構成する。具体的には、NAND回路44には、NAND回路43の入力であるFSR信号およびホール素子信号と、NAND回路43の出力信号INEの三つの信号が入力され、そのNAND演算結果CINEに基づきNAND回路43の故障が検知される。
図3は、NAND回路44の三つの入力FSR、H、INEと、その出力CINEの取りうるデジタル値の一覧表である。ここで、NAND回路43が故障している場合は、INEの列において三角形で囲まれた不正な演算結果が生じる。NAND回路44の出力CINEはほとんどの場合で1になるが、唯一、FSRとHがともに1でINEが不正値1を取る場合にCINEが0になる。換言すれば、CINEが0を示すときは、NAND回路43が故障している。
【0043】
NAND回路44の後段に設けられるAND回路46には、マイコン3からのシャットダウン信号SDとCINEが入力される。シャットダウン信号SDは、それが0のときに各相のコイルへのプラス通電およびマイナス通電を禁止するものである。後述するように、モータ131を駆動する際、各相のコイルは、プラス通電状態、マイナス通電状態、非通電のオープン状態を周期的に繰り返すが、シャットダウン信号SDはオープン状態を実現するために利用される。ここで、NAND回路43に故障がない正常時はCINEが常に1であるため、AND回路46の出力はマイコン3からのシャットダウン信号SDと等しくなる。一方、NAND回路43に故障がある異常時はCINEが0になるため、AND回路46の出力はシャットダウン信号SDに関わらず0となり、対応する相のコイルが強制的にオープン状態に切り替えられる。こうして通常の駆動シーケンスから逸脱したモータ131は自動的に駆動不可の状態となり、安全に停止する。
【0044】
ドライバ5は、マイコン3からの開閉駆動指令に基づき駆動電流をモータ131に印加するもので、マイコン3からのパルス幅変調信号PWMが入力される信号入力端子INと、マイコン3からのシャットダウン信号SDが入力されるシャットダウン端子SDを有する。
図4は、各相のコイルの状態、信号INおよびSD、後述する駆動電流印加部6のプラス側のトランジスタFET+およびマイナス側のトランジスタFET-の状態を示す一覧表である。プラス通電時は、INにパルス幅変調信号PWMが入力され、SDに1が入力される。このとき、FET+がONとなって電源電圧と導通し、コイルに正方向の電流が流れる。マイナス通電時は、INに0が入力され、SDに1が入力される。このとき、FET-がONとなって接地電圧と導通し、コイルに負方向の電流が流れる。オープン時は、SDに0が入力される(INには影響されない)。このとき、FET+とFET-がともにOFFとなって、コイルに電流が流れない。
【0045】
駆動電流印加部6は、各相のコイルにプラス通電するプラス側の高電位側トランジスタとしてのFET61と、マイナス通電するマイナス側の低電位側トランジスタとしてのFET62を有する。FET61とFET62は、高電位点である110Vの電源と低電位点である接地の間で直列に接続され、その接続点から対応する相のコイル131U、131V、131Wに駆動電流を流す。FET61とFET62は、ともにn型のMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)であり、ドライバ5から正のゲート電圧が印加されることで導通状態(ON状態)になる。
【0046】
ここで、プラス側のFET61については、ONのための十分なゲート電圧を得るため、いわゆるブートストラップ回路が用いられる。ブートストラップ回路は、12Vの電源に順方向に接続されたブートストラップダイオード63と、電荷を蓄積してFET61のONのためのゲート電圧を得るブートストラップコンデンサ64で構成される。各相のコイルのマイナス通電時にFET62がONとなっている間、ブートストラップコンデンサ64の負極は接地電位となり、正極の電源電位12Vとの差でブートストラップコンデンサ64に電荷が蓄積される。各相のコイルのプラス通電時には、この蓄積電荷による電圧をFET61のゲートに印加することで、FET61をONにできる。なお、FET61をp型のMOSFETで構成する場合は、負のゲート電圧でONにできるため、ブートストラップ回路は不要である。
【0047】
110Vの電源とプラス側のFET61の間には、過電流検知部としての過電流継電器65(OCR(Over Current Relay)とも呼ばれる)が設けられる。過電流継電器65は、FET61やFET62の短絡等が原因で発生する過大な駆動電流を検知すると、直ちに電力供給を遮断して扉駆動装置1を安全に停止させる。
【0048】
以上のような構成の扉駆動装置1がモータ131を開閉駆動する際のホール素子信号H1、H2、H3と各相の駆動電流の関係を
図5に示す。本図の上段には、モータ131の回転子の電気角に応じた各ホール素子H1、H2、H3の検出値が1と0の二値で示される。本図の中段には、モータ131を時計回り方向に回転駆動する際に各相のコイルに流す駆動電流が「プラス」「オープン(0)」「マイナス」の三値で示される。本図の下段には、モータ131を反時計回り方向に回転駆動する際に各相のコイルに流す駆動電流が「プラス」「オープン(0)」「マイナス」の三値で示される。なお、図示されるように、中段の時計回り方向の回転駆動の際は、図の左から右に向かって各相の駆動電流が制御され、下段の反時計回り方向の回転駆動の際は、図の右から左に向かって各相の駆動電流が制御される。
【0049】
このような3相ブラシレスモータの駆動方法は周知なので詳しい説明は省略するが、例えば、電気角150°と90°の間では、H1とH3が1、H2が0であり、時計回り方向駆動のときはU相をプラス通電、V相をマイナス通電、W相をオープンとして、U相からV相に向けて駆動電流を流し、反時計回り方向駆動のときはU相をマイナス通電、V相をプラス通電、W相をオープンとして、V相からU相に向けて駆動電流を流す。同様に、電気角90°と30°の間では、H1が1、H2とH3が0であり、時計回り方向駆動のときはU相をプラス通電、V相をオープン、W相をマイナス通電として、U相からW相に向けて駆動電流を流し、反時計回り方向駆動のときはU相をマイナス通電、V相をオープン、W相をプラス通電として、W相からU相に向けて駆動電流を流す。以下、同様である。
【0050】
なお、
図5に示されるように、モータ131の回転子の回転位置データであるホール素子信号H1、H2、H3あるいは電気角が同じであっても、ドア100の開駆動時(時計回り方向駆動時)と閉駆動時(反時計回り方向駆動時)では異なる相のコイルに
駆動電流が流される。
【0051】
続いて、以上のような構成の扉駆動装置1の停車時と走行時の動作を説明する。
【0052】
扉駆動装置1の停車時とは、上記の通り、鉄道車両の走行速度が所定値(例えば時速5km)未満のときであり、車速検知データ211が高レベルとなる。この状態で、制御情報212~216のいずれかが高レベルになると、トランジスタ22およびトランジスタ23がONとなり、高レベルの車速検知データ211がマイコン3に供給される。高レベルの車速検知データ211を受けたマイコン3は、高レベルのベース駆動信号を生成しトランジスタ24をONにする。こうしてトランジスタ23およびトランジスタ24がともにONになると、その間のFSRコイル25に電流が流れて励磁される。励磁状態のFSRコイル25はFSR接点41を閉じ、その出力であるリレー閉信号216が高レベルになる。高レベルのリレー閉信号216はトランジスタ22およびトランジスタ23のON状態を維持するため、FSRコイル25の励磁状態も維持される。換言すれば、FSR接点41が閉じたことで、FSRコイル25の励磁状態が自己保持される。リレー閉信号216以外の制御情報212~215でもFSRコイル25は励磁できるが、例えば開許可指令214は乗務員が発令操作を行った際に一時的に高レベルになるだけなので、開許可指令214が低レベルに戻った後もFSRコイル25の励磁状態を自己保持するリレー閉信号216が必要となる。
【0053】
マイコン3の後段の規制回路4では、FSR接点41が閉じているため、NOT回路42の出力であるFSR信号は0になる。このため、規制素子であるNAND回路43の出力INEは常に1になり、その後段のAND回路45は、マイコン3からのパルス幅変調信号PWMを常に透過させる。したがって、
図5に示される駆動シーケンスに基づいてモータ131を駆動することでドア100を開閉できる。鉄道車両が駅に停車し、乗客が乗降する際は、プラットホームに面するドア100のモータ131が時計回り方向に駆動され、ドア100が開駆動される。乗降が完了した後は、逆にモータ131が反時計回り方向に駆動され、ドア100が閉駆動される。マイコン3は、全てのドア100が完全に閉まったことを確認すると、トランジスタ24へのベース駆動信号を停止する。こうしてトランジスタ24がOFFになると、FSRコイル25が消磁状態となり、FSR接点41が開く。これに伴ってFSRコイル25の励磁状態を自己保持していたリレー閉信号216が低レベルになり、トランジスタ22およびトランジスタ23がOFFになる。以上で停車時の動作は終了し、鉄道車両は走行を開始できる。
【0054】
続いて、扉駆動装置1の走行時の動作を説明する。走行時は、鉄道車両の走行速度が所定値(例えば時速5km)以上であり、車速検知データ211が低レベルとなる。停車時と異なり、高レベルの車速検知データ211がマイコン3に供給されることがないため、トランジスタ24へのベース駆動信号が生成されない。したがって、トランジスタ24は常にOFFであり、FSRコイル25に電流が流れないため、FSR接点41は常に開いている。
【0055】
マイコン3の後段の規制回路4では、FSR接点41が開いているため、NOT回路42の出力であるFSR信号は1になる。このとき、
図6および
図7に示すように、規制回路4の作用により、ドア100の開駆動は禁止され、ドア100の閉駆動のみが許容される。
【0056】
図6は、走行時に開駆動をしようとする場合の各種信号とモータ131の各相の通電状態を示す。この図において、ホール素子信号H1、H2、H3とマイコン指令PWM_U、PWM_V、PWM_Wは、
図5に示される開駆動シーケンスそのものである。INE_U、INE_V、INE_Wは、各相の規制素子であるNAND回路43の出力である。ここで、マイコン指令がプラス通電を行う「PWM」となっている相のINEに着目すると、U相のPWM_Uが「PWM」のときは、対応するINE_Uが0となっており、V相のPWM_Vが「PWM」のときは、対応するINE_Vが0となっており、W相のPWM_Wが「PWM」のときは、対応するINE_Wが0となっていることが分かる。上述の通り、INEが0となっている相のパルス幅変調信号PWMはAND回路45により遮断されるため、全ての相へのプラス通電「PWM」が規制されることを意味する。したがって、走行時は、コイル131U、131V、131Wに駆動電流が流れずモータ131の時計回り方向の駆動が禁止され、ドア100の開駆動が禁止される。換言すると、規制回路4は、開駆動時に駆動電流を流すべき相の高電位側トランジスタFET61を非導通状態に規制している。なお、規制回路4の構成を適宜
調整し、低電位側トランジスタFET62を非導通状態に規制することもできる。
【0057】
図7は、走行時に閉駆動をしようとする場合の各種信号とモータ131の各相の通電状態を示す。この図において、ホール素子信号H1、H2、H3とマイコン指令PWM_U、PWM_V、PWM_Wは、
図5に示される閉駆動シーケンスそのものである。
図6と同様に、マイコン指令がプラス通電を行う「PWM」となっている相のINEに着目すると、開駆動時とは逆に、U相のPWM_Uが「PWM」のときは、対応するINE_Uが1となっており、V相のPWM_Vが「PWM」のときは、対応するINE_Vが1となっており、W相のPWM_Wが「PWM」のときは、対応するINE_Wが1となっていることが分かる。上述の通り、INEが1となっている相のパルス幅変調信号PWMはAND回路45をそのまま通過するため、全ての相に正常にプラス通電「PWM」を行える。したがって、走行時は、モータ131の反時計回り方向の駆動が許容され、ドア100の閉駆動が許容される。
【0058】
以上で説明した本実施形態の扉駆動装置1によれば、規制回路4が走行時のドア100の開駆動を規制するため、鉄道車両の走行中の安全を確保できる。また、規制回路4は走行時のドア100の閉駆動を許容するため、何らかの理由で走行中にドア100が開いている場合、鉄道車両を停止させることなくドア100を安全に閉めることができる。例えば、異物が挟まってドア100が開いたまま発車してしまった場合、走行中に異物を取り除いた後そのままドア100を閉めることができる。また、走行中に手動で解錠されドア100が開けられた場合、安全確保のために直ちに閉駆動できる。さらに、ドア100を通常通り閉めても隙間ができてしまう場合、走行中に常時閉駆動することで隙間を低減できる。
【0059】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0060】
実施形態では、規制回路4をマイコン3とドライバ5の間に設けていたが、規制回路4の全部または一部をドライバ5の後段に設けて、実施形態と同様の規制動作を実現してもよい。ただし、マイコン3とドライバ5の間に規制回路4が設けられる場合、ドライバ5の後段に比べて低電圧で動作できればよいので、安価に構成できる。
【0061】
図8は、規制回路4の一部をドライバ5の後段に設ける構成例を示す。ドライバ5の後段に設けられるAND回路47は、プラス通電のためにFET61に印加されるゲート電圧と、NAND回路43の出力INEと、NAND回路44の出力CINEとの論理積を演算することで、開駆動のためのプラス通電を走行時に規制する。
図6で説明したように、走行中の開駆動時のプラス通電(PWM)相のINEは常に0となるため、AND回路47の出力は0に規制される。したがって、走行時の開駆動が規制される。一方、
図7で説明したように、走行中の閉駆動時のプラス通電(PWM)相のINEは常に1となるため、AND回路47はプラス通電のためのゲート電圧を透過させる。したがって、走行時の閉駆動が許容される。また、停車時にFSR接点41が閉じているときのINEは常に1となるため、AND回路47はプラス通電のためのゲート電圧を透過させる。したがって、停車時は開駆動、閉駆動ともに許容される。なお、
図3で示されるように、NAND回路44の出力CINEは、NAND回路43に故障がなければ常に1であるため、上記の規制動作への影響はない。一方、NAND回路43に故障があり、CINEが0になる場合は、AND回路47によりプラス通電が規制され、モータ131が安全に停止する。
【0062】
実施形態では、規制素子としてのNAND回路43に入力されるFSR信号をFSR接点41から得ていたが、車速検知データ211をNOT回路42に通したものをFSR信号の代わりにNAND回路43に入力してもよい。鉄道車両の走行時は車速検知データ211が低レベルなので、NOT回路42を通すと常に1のデジタル値になる。したがって、同じく走行時に常に1のデジタル値になるFSR信号の代わりに用いることができる。ただし、安全確保の観点からは、車速検知データ211と、制御情報212~216による二段階のアクティベートを要するFSR信号を用いることが好ましい。
【0063】
実施形態では、モータ131の全ての相(U相、V相、W相)に同一の規制回路4を設けたが、一部の相に規制回路4を設けてもよい。実施形態で説明したように、規制回路4を設けた相の走行時かつ開駆動時のプラス通電が禁止され、
図5に示される通常の開駆動のシーケンスが実行不可となるため、走行時の開駆動が規制される。例えば、U相のみに規制回路4を設ける場合、走行時の開駆動を示す
図6において、規制回路4のないV相とW相のプラス通電(PWM印加)は許容されるが、U相のプラス通電は規制回路4により規制される。そこで、走行前にドア100を全閉する際に、モータ131の回転子の位置を、U相へのプラス通電を行うべき位置に調整すれば、その全閉位置からの開駆動を禁止できる。具体的には、
図6において、U相へのプラス通電が試みられるのは(H1、H2、H3)=(1、0、1)(1、0、0)のときであり、
図5の電気角150°~30°に対応する。したがって、ドア100の全閉時に、この電気角範囲内の任意の回転位置、例えば60°の回転位置に回転子を移動させておけば、走行中に開駆動をするためのU相へのプラス通電が禁止されるので、ドア100の全閉状態を保つことができる。このとき、回転子の回転位置は例えば60°に保たれ、V相またはW相にプラス通電すべき電気角位置に回転子が来ることもないため、V相およびW相に規制回路4を設けなくても問題ない。ただし、走行時の開駆動を確実に禁止するためには、実施形態のように全相に駆動電流を規制する規制回路4を設けることが好ましい。
【0064】
なお、実施形態で説明した各装置の機能構成はハードウェア資源またはソフトウェア資源により、あるいはハードウェア資源とソフトウェア資源の協働により実現できる。ハードウェア資源としてプロセッサ、ROM、RAM、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてオペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【0065】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の機能が分散して設けられているものは、当該複数の機能の一部又は全部を集約して設けても良く、逆に複数の機能が集約して設けられているものを、当該複数の機能の一部又は全部が分散するように設けることができる。機能が集約されているか分散されているかにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0066】
1 扉駆動装置、2 制御情報処理部、3 マイコン、4 規制回路、5 ドライバ、6 駆動電流印加部、25 FSRコイル、41 FSR接点、65 過電流継電器、100 ドア、131 モータ。