(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】クリンカの熱履歴の推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20240521BHJP
G01N 23/2055 20180101ALI20240521BHJP
【FI】
G01N33/38
G01N23/2055 310
(21)【出願番号】P 2020162050
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-08-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第74回セメント技術大会 講演要旨 2020、発行日:令和2年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】櫨 達斗
(72)【発明者】
【氏名】馬場 智矢
(72)【発明者】
【氏名】細川 佳史
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-085448(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0356729(US,A1)
【文献】引田友幸ら,クリンカ間隙相の微細組織解析におけるEBSDの適用,セメント技術大会講演要旨,日本,セメント協会,2018年04月30日,72,p30-31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
G01N 23/2055
C04B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリンカの製造時の焼成における熱履歴を推定するための方法であって、
電子後方散乱回折用の電子線を照射するための平滑な面を有するクリンカ試料を作製する試料作製工程と、
電子後方散乱回折によって、上記クリンカ試料の菊池パターンをマッピングして、結晶マップを作成する結晶マップ作成工程と、
上記結晶マップを画像処理することによって、上記クリンカ試料を構成する鉱物の定性・定量情報を得る画像処理工程と、
上記定性・定量情報
が、上記クリンカ試料を構成する鉱物であるビーライトの平均粒径であり、該平均粒径が大きいほど、クリンカの製造時の焼成における1,200℃到達以降の積算温度が大きいという傾向があることに基いて、クリンカの製造時の焼成における熱履歴を推定する熱履歴推定工程を含むことを特徴とするクリンカの熱履歴の推定方法。
【請求項2】
クリンカの製造時の焼成における熱履歴を推定するための方法であって、
電子後方散乱回折用の電子線を照射するための平滑な面を有するクリンカ試料を作製する試料作製工程と、
電子後方散乱回折によって、上記クリンカ試料の菊池パターンをマッピングして、結晶マップを作成する結晶マップ作成工程と、
上記結晶マップを画像処理することによって、上記クリンカ試料を構成する鉱物の定性・定量情報を得る画像処理工程と、
上記定性・定量情報が、上記クリンカ試料を構成する鉱物であるエーライトの平均粒径であり、該平均粒径が大きいほど、クリンカの製造時の焼成における昇温速度が大きいという傾向があることに基いて、
クリンカの製造時の焼成における熱履歴を推定する熱履歴推定工程を含むことを特徴とするクリンカの熱履歴の推定方法。
【請求項3】
クリンカの製造時の焼成における熱履歴を推定するための方法であって、
電子後方散乱回折用の電子線を照射するための平滑な面を有するクリンカ試料を作製する試料作製工程と、
電子後方散乱回折によって、上記クリンカ試料の菊池パターンをマッピングして、結晶マップを作成する結晶マップ作成工程と、
上記結晶マップを画像処理することによって、上記クリンカ試料を構成する鉱物の定性・定量情報を得る画像処理工程と、
上記定性・定量情報が、上記クリンカ試料を構成する鉱物であるビーライトの平均角度偏差と上記クリンカ試料を構成する鉱物であるエーライトの平均角度偏差の比(上記ビーライトの平均角度偏差/上記エーライトの平均角度偏差)であり、該比が小さいほど、クリンカの製造時の焼成における最高焼成温度の保持時間が長いという傾向があることに基いて、
クリンカの製造時の焼成における熱履歴を推定する熱履歴推定工程を含むことを特徴とするクリンカの熱履歴の推定方法。
【請求項4】
上記試料作製工程の前に、
上記クリンカと同じ原料組成を有し、かつ、クリンカの製造時の焼成における熱履歴が異なる2種以上のクリンカを準備するクリンカ準備工程と、
上記2種以上のクリンカの各々について、上記試料作製工程、上記結晶マップ作成工程、及び、上記画像処理工程と同様な一連の操作を行い、上記2種以上のクリンカの各々から作製したクリンカ試料の各々について、該クリンカ試料を構成する鉱物の定性・定量情報を得る定性・定量情報入手工程と、
上記定性・定量情報入手工程で得た上記定性・定量情報と、上記2種以上のクリンカの各々の、製造時の焼成における熱履歴に基いて、上記定性・定量情報と上記熱履歴の相関関係を決定する相関関係決定工程を含み、かつ、
上記相関関係決定工程で決定された、上記定性・定量情報と上記熱履歴の相関関係を用いて、上記熱履歴推定工程における、クリンカの製造時の焼成における熱履歴の推定を行う請求項1~
3のいずれか1項に記載のクリンカの熱履歴の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリンカの熱履歴の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントの原料であるクリンカの製造時の焼成における熱履歴は、セメントの品質に大きな影響を与えることが知られている。
クリンカの製造時の焼成における熱履歴を推定する方法として、特許文献1には、偏光顕微鏡に映し出されるクリンカのサンプルの結晶画像をコンピュータに取り込むなどして、ビーライト(C2S)の結晶の直径を得た後、この直径の大きさに基いて、クリンカの製造時の焼成における高温保持時間を推定することが記載されている。
【0003】
一方、電子後方散乱回折(EBSD:Electron backscatter diffraction)を用いてクリンカの品質を推定する方法が知られている。例えば、特許文献2には、クリンカの水和反応性を推定するための方法であって、電子後方散乱回折用の電子線を照射するための平滑な面を有するクリンカ試料を作製する試料作製工程と、電子後方散乱回折によって、上記クリンカ試料の菊池パターンをマッピングして、結晶マップを作成する結晶マップ作成工程と、上記結晶マップを画像処理することによって、上記クリンカ試料を構成する鉱物の定性・定量情報を得る画像処理工程と、上記定性・定量情報に基づいて、上記クリンカの水和反応性を推定する反応性推定工程を含むことを特徴とするクリンカの水和反応性の推定方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平09-052741号公報
【文献】特開2020-085448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、クリンカの製造時の焼成における熱履歴を容易に推定することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、電子後方散乱回折用のクリンカ試料を作製する工程と、電子後方散乱回折によって、クリンカ試料の菊池パターンをマッピングして結晶マップを作成する工程と、結晶マップを画像処理することによって、クリンカ試料を構成する鉱物の定性・定量情報を得る工程と、定性・定量情報に基づいて、クリンカの製造時の焼成における熱履歴を推定する工程を含む方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]を提供するものである。
[1] クリンカの製造時の焼成における熱履歴を推定するための方法であって、電子後方散乱回折用の電子線を照射するための平滑な面を有するクリンカ試料を作製する試料作製工程と、電子後方散乱回折によって、上記クリンカ試料の菊池パターンをマッピングして、結晶マップを作成する結晶マップ作成工程と、上記結晶マップを画像処理することによって、上記クリンカ試料を構成する鉱物の定性・定量情報を得る画像処理工程と、上記定性・定量情報に基づいて、クリンカの製造時の焼成における熱履歴を推定する熱履歴推定工程を含むことを特徴とするクリンカの熱履歴の推定方法。
【0007】
[2] 上記定性・定量情報が、上記クリンカ試料を構成する鉱物であるビーライトの平均粒径であり、該平均粒径が大きいほど、クリンカの製造時の焼成における1,200℃到達以降の積算温度が大きいという傾向があることに基いて、上記熱履歴推定工程における、クリンカの製造時の焼成における熱履歴の推定を行う前記[1]に記載のクリンカの熱履歴の推定方法。
[3] 上記定性・定量情報が、上記クリンカ試料を構成する鉱物であるエーライトの平均粒径であり、該平均粒径が大きいほど、クリンカの製造時の焼成における昇温速度が大きいという傾向があることに基いて、上記熱履歴推定工程における、クリンカの製造時の焼成における熱履歴の推定を行う前記[1]に記載のクリンカの熱履歴の推定方法。
[4] 上記定性・定量情報が、上記クリンカ試料を構成する鉱物であるビーライトの平均角度偏差と上記クリンカ試料を構成する鉱物であるエーライトの平均角度偏差の比(上記ビーライトの平均角度偏差/上記エーライトの平均角度偏差)であり、該比が小さいほど、クリンカの製造時の焼成における最高焼成温度の保持時間が長いという傾向があることに基いて、上記熱履歴推定工程における、クリンカの製造時の焼成における熱履歴の推定を行う前記[1]に記載のクリンカの熱履歴の推定方法。
【0008】
[5] 上記試料作製工程の前に、上記クリンカと同じ原料組成を有し、かつ、クリンカの製造時の焼成における熱履歴が異なる2種以上のクリンカを準備するクリンカ準備工程と、上記2種以上のクリンカの各々について、上記試料作製工程、上記結晶マップ作成工程、及び、上記画像処理工程と同様な一連の操作を行い、上記2種以上のクリンカの各々から作製したクリンカ試料の各々について、該クリンカ試料を構成する鉱物の定性・定量情報を得る定性・定量情報入手工程と、上記定性・定量情報入手工程で得た上記定性・定量情報と、上記2種以上のクリンカの各々の、製造時の焼成における熱履歴に基いて、上記定性・定量情報と上記熱履歴の相関関係を決定する相関関係決定工程を含み、かつ、上記相関関係決定工程で決定された、上記定性・定量情報と上記熱履歴の相関関係を用いて、上記熱履歴推定工程における、クリンカの製造時の焼成における熱履歴の推定を行う前記[1]~[4]のいずれかに記載のクリンカの熱履歴の推定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のクリンカの熱履歴の推定方法によれば、クリンカの製造時の焼成における熱履歴を容易に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】1,200℃到達以降の積算温度と、ビーライト(C
2S)の平均粒径の関係を示す図である。
【
図2】昇温温度が5℃/分のクリンカと20℃/分のクリンカとの間の、エーライト(C
3S)の平均粒径の比較を示す図である。
【
図3】最高焼成温度の保持時間が20分のクリンカと60分のクリンカとの間の、ビーライト(C
2S)の平均角度偏差(MAD)とエーライト(C
3S)の平均角度偏差(MAD)の比である「(C
2SのMAD)/(C
3SのMAD)」の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のクリンカの熱履歴の推定方法は、クリンカの製造時の焼成における熱履歴を推定するための方法であって、電子後方散乱回折用の電子線を照射するための平滑な面を有するクリンカ試料を作製する試料作製工程と、電子後方散乱回折によって、上記クリンカ試料の菊池パターンをマッピングして、結晶マップを作成する結晶マップ作成工程と、上記結晶マップを画像処理することによって、上記クリンカ試料を構成する鉱物の定性・定量情報を得る画像処理工程と、上記定性・定量情報に基づいて、クリンカの製造時の焼成における熱履歴を推定する熱履歴推定工程を含むものである。以下、工程ごとに詳しく説明する。
【0012】
[試料作製工程]
本工程は、電子後方散乱回折用の電子線を照射するための平滑な面を有するクリンカ試料を作製する工程である。
平滑な面を有するクリンカ試料を作製する方法の例としては、推定の対象となるクリンカを樹脂に包埋した後、砥粒等を用いて、クリンカの観察する面を研磨してクリンカ試料を得る方法等が挙げられる。
【0013】
[結晶マップ作成工程]
本工程は、電子後方散乱回折によって、試料作製工程で得られたクリンカ試料の菊池パターンをマッピングして、結晶マップを作成する工程である。
電子後方散乱回折(以下、「EBSD」と略すことがある。)は、通常、走査型電子顕微鏡にEBSD検出器を装着し、対象となる試料に電子線を照射して、照射によって得られる菊池パターンを分析して、マッピングすることによって行われる。マッピングによって、クリンカ試料の結晶マップ(マップデータ)を得ることができる。
【0014】
[画像処理工程]
本工程は、結晶マップ作成工程で得られた結晶マップを画像処理することによって、クリンカ試料を構成する鉱物の定性・定量情報を得る工程である。
クリンカ試料を構成する鉱物の例としては、エーライト(3CaO・SiO2:C3S)、ビーライト(2CaO・SiO2:C2S)、アルミネート相(3CaO・Al2O3:C3A)、フェライト相(4CaO・Al2O3・Fe2O3:C4AF)等が挙げられる。
本明細書中、「定性・定量情報」とは、定性情報(数値で表すことのできない情報)と、定量情報(数値で表すことのできる情報)のいずれか一方または両方をいう。
【0015】
画像処理によって得られる、鉱物の定性情報の例としては、鉱物の種類に関するデータが挙げられる。鉱物の定量情報の例としては、鉱物の形態に関するデータ等が挙げられる。
鉱物の種類に関するデータの例としては、R、MIII、MI、Tなどのエーライトの多形の種類や、α、β、γなどビーライトの多形の種類や、M、O、CII、CIなどのアルミネート相の多形の種類等の、多形を含めた鉱物(エーライト、ビーライト、アルミネート相、及びフェライト相)の種類に関するデータや、上記鉱物の種類に関するデータに、別のX線検出器(EDS)を用いることで同時に得られる、鉱物に固溶している成分(Mg、P、S、Na、K等)の情報を加えて、さらに詳細に分類した鉱物の種類に関するデータ等が挙げられる。
鉱物の形態に関するデータの例としては、鉱物の、結晶粒径、結晶子径、結晶分率、アスペクト比、面積比率等の鉱物の面積に関するデータや、結晶粒界長さ、累帯構造、ラメラ構造等の鉱物の分布状態に関するデータや、結晶ひずみ等の結晶方位に関するデータや、平均角度偏差(Mean Angular Deviation)等の電子後方散乱回折(EBSD)において得られるデータ等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
[熱履歴推定工程]
本工程は、画像処理工程で得られた定性・定量情報に基づいて、クリンカの製造時の焼成における熱履歴を推定する工程である。
クリンカの製造時の焼成における熱履歴とは、クリンカ原料を焼成してクリンカを得る際の焼成条件であり、例えば、クリンカ原料を焼成する際の、1,200℃到達以降の積算温度、昇温温度、最高焼成温度、及び最高焼成温度の保持時間等が挙げられる。
クリンカの製造時の焼成における熱履歴の推定は、例えば、(a)クリンカ試料を構成する鉱物であるビーライト(以下、単に「ビーライト」ともいう。)の平均粒径と、クリンカの製造時の焼成における1,200℃到達以降の積算温度の相関関係、(b)クリンカ試料を構成する鉱物であるエーライト(以下、単に「エーライト」ともいう。)の平均粒径と、クリンカの製造時の焼成における昇温速度の相関関係、(c)ビーライトの平均角度偏差とエーライトの平均角度偏差の比(ビーライトの平均角度偏差/エーライトの平均角度偏差)と、クリンカの製造時の焼成における最高焼成温度の保持時間の相関関係等を用いて行うことができる。以下、具体的に説明する。
【0017】
(a)定性・定量情報として、ビーライトの平均粒径を用いる場合
ビーライトの平均粒径が大きくなるほど、クリンカの製造時の焼成における1,200℃到達以降の積算温度が大きくなるという傾向がある。すなわち、ビーライトの平均粒径と、クリンカの製造時の焼成における1,200℃到達以降の積算温度は正の相関関係を有している(
図1参照)。この傾向に基いて、ビーライトの平均粒径から、クリンカの製造時の焼成における1,200℃到達以降の積算温度を推定することができる。
なお、1,200℃到達以降の積算温度とは、焼成温度が1,200℃に到達した時から、焼成最高温度に到達し、その後冷却によって1,200℃に降温するまでの間における、20℃を基準とした温度の大きさ(焼成温度-20℃)(℃)と時間(分)の積の合計(積分して得た値)をいう。
【0018】
(b)定性・定量情報として、エーライトの平均粒径を用いる場合
エーライトの平均粒径が大きくなるほど、クリンカの製造時の焼成における昇温速度が大きくなるという傾向がある。すなわち、エーライトの平均粒径と、クリンカの製造時の焼成における昇温速度は正の相関関係を有している(
図2参照)。この傾向に基づいて、エーライトの平均粒径から、クリンカの製造時の焼成における昇温速度を推定することができる。
【0019】
(c)定性・定量情報として、ビーライトの平均角度偏差とエーライトの平均角度偏差の比を用いる場合
ビーライトの平均角度偏差とエーライトの平均角度偏差の比(ビーライトの平均角度偏差/エーライトの平均角度偏差)が小さくなるほど、クリンカの製造時の焼成における最高焼成温度の保持時間が長くなるという傾向がある。すなわち、ビーライトの平均角度偏差とエーライトの平均角度偏差の比と、クリンカの製造時の焼成における最高焼成温度の保持時間は負の相関関係を有している(
図3参照)。この傾向に基づいて、ビーライトの平均角度偏差とエーライトの平均角度偏差の比から、クリンカの製造時の焼成における最高焼成温度の保持時間を推定することができる。
なお、ビーライトの平均角度偏差またはエーライトの平均角度偏差と、クリンカの製造時の焼成における最高焼成温度の保持時間との間に、相関関係はみられない。
【0020】
定性・定量情報と、クリンカの製造時の焼成における熱履歴の相関関係は、例えば、以下の工程(クリンカ準備工程~相関関係決定工程)を試料作製工程の前に行うことによって決定することができる。
[クリンカ準備工程]
本工程は、試料作製工程の前に、クリンカの製造時の焼成における熱履歴の推定の対象となるクリンカと同じ原料組成を有し、かつ、クリンカの製造時の焼成における熱履歴が異なる2種以上(好ましくは3種以上)のクリンカを準備する工程である。
[定性・定量情報入手工程]
本工程は、クリンカ準備工程において準備した、2種以上のクリンカの各々について、上述した、試料作製工程、結晶マップ作成工程、画像処理工程と同様な一連の操作を行い、2種以上のクリンカの各々から作製したクリンカ試料を構成する鉱物の定量・定性情報を得る工程である。
[相関関係決定工程]
本工程は、定性・定量情報入手工程で得た定性・定量情報と、クリンカ準備工程で準備した2種以上のクリンカの各々の、製造時の焼成における熱履歴に基づいて、上記定性・定量情報と上記熱履歴の相関関係を決定する工程である。
【0021】
さらに、推定工程の前に、XRD/リートベルト法によって、別途、クリンカに関するデータを得てもよい。
推定工程において、XRD/リートベルト法によって得られたクリンカに関するデータと、画像処理工程において得られた鉱物の定性・定量情報を組み合わせてクリンカの製造時の焼成における熱履歴を推定することで、より正確な推定結果を得ることができる。
XRD/リートベルト法によって得られるクリンカに関するデータの例としては、クリンカに含まれる鉱物の種類やその含有率、格子定数等が挙げられる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[クリンカ1~8の製造]
クリンカの化学組成が、表1に示す目標値となるように、各種試薬を混合した後、成型した。焼成の前処理として、成型したクリンカ原料を、室温から1,000℃まで加熱し、1,000℃を30分間保持することで、クリンカ原料を脱炭酸させた。
脱炭酸後のクリンカ原料を、表2に示す熱履歴(昇温速度、最高焼成温度、最高焼成温度の保持時間)で、電気炉を用いて焼成してクリンカを得た。電気炉からクリンカを取り出して、クリンカの表面温度が室温と同程度になるまで大気冷却した。得られたクリンカの化学組成は、いずれも表1に示す目標値と概ね同等であった。
【0023】
【0024】
【0025】
[実施例1]
クリンカ1~8の各々について、クリンカをエポキシ樹脂に包埋した後、2×5×10mmの板状のクリンカ試料を切り出した。次いで、炭化ケイ素砥粒(♯240~♯1,200)を用いて粗研磨を行い、さらに、イオンミリング装置(日本電子社製、商品名「IB-19530CP」)を用いて、加速電圧8kVで2時間研磨した後、さらに加速電圧4kVで30分間研磨した。次いで、走査型電子顕微鏡を用いてクリンカ試料の観察を行う面に、帯電防止の目的で、炭素蒸着を施し、厚さが5nm程度のカーボン膜を成膜した。
電界放出型走査電子顕微鏡(日本電子社製、商品名「JSM-7001F」)に、EBSD検出器(Oxford Instruments社製、商品名「Nordlys Nano」)を装着して、電子後方散乱回折(EBSD)を行い、クリンカ試料の菊池パターンをマッピングして、結晶マップを作成した。
【0026】
電子後方散乱回折における、菊池パターンの指数付けは、Oxford Instruments社製のEBSD分析ソフトウェア「AztecHKL」を使用し、加速電圧20kV、WD15mmの条件で、クリンカ試料を水平面から70°傾斜させて行った。上記指数付けには、表3に示す空間群及び結晶格子パラメータを有する結晶を使用した。
電子後方散乱回折によって得られた結晶マップを用いて、エーライト及びビーライトの、平均粒径、平均角度偏差:Mean Angular Deviation(表4中、「MAD」と示す。)を測定した。また、平均角度偏差の標準偏差を算出した。結果を表4に示す。
なお、平均角度偏差は、菊池パターンの実測値と菊池パターンの理論値の平均角度偏差である。該偏差から菊池パターンの指数付けの良否を判断することができる。具体的には、該偏差が小さいほど(例えば、1°以下)、作成された結晶マップの信頼性が高いことを意味する。すなわち、実施例1において作成された結晶マップは信頼性の高いものであることがわかる。
【0027】
【0028】
【0029】
各クリンカの製造時の焼成における1,200℃到達以降の積算温度と、ビーライト(C
2S)の平均粒径との関係を
図1に示す。
また、昇温温度が異なること(5℃/分または20℃/分)以外は、熱履歴の条件が同じであるクリンカ同士(クリンカNo1とNo5、クリンカNo2とNo6、クリンカNo3とNo7、クリンカNo4とNo8)の、エーライト(C
3S)の平均粒径の比較を
図2に示す。
さらに、最高焼成温度の保持時間が異なること(20分または60分)以外は、熱履歴の条件が同じであるクリンカ同士(クリンカNo1とNo2、クリンカNo3とNo4、クリンカNo5とNo6、クリンカNo7とNo8)の、ビーライト(C
2S)の平均角度偏差(MAD)とエーライト(C
3S)の平均角度偏差(MAD)の比である「(C
2SのMAD)/(C
3SのMAD)」の比較を
図3に示す。
【0030】
図1から、1,200℃到達以降の積算温度とビーライト(C
2S)の平均粒径は、正の相関関係を有し、ビーライト(C
2S)の平均粒径が大きくなると、1,200℃到達以降の積算温度も大きくなることがわかる。
また、表4及び
図2から、昇温速度以外の熱履歴の条件が同じである場合、昇温速度が20℃/分であるクリンカ(クリンカNo5~8)のエーライト(C
3S)の平均粒径は、各々、昇温温度が5℃/分であるクリンカ(クリンカNo1~4)のエーライト(C
3S)の平均粒径よりも大きいことがわかる。
また、表4及び
図3から、最高焼成温度の保持時間以外の熱履歴の条件が同じである場合、最高焼成温度の保持時間が20分間であるクリンカ(クリンカNo1、3、5、7)の、ビーライト(C
2S)の平均角度偏差とエーライト(C
3S)の平均角度偏差の比(C
2SのMAD/C
3SのMAD)は、各々、最高焼成温度の保持時間が60分間であるクリンカ(クリンカNo2、4、6、8)の、ビーライトの平均角度偏差とエーライトの平均角度偏差の比(C
2SのMAD/C
3SのMAD)よりも大きいことがわかる。