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特許7491824レーザ溶接支援システム、レーザ溶接支援方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】レーザ溶接支援システム、レーザ溶接支援方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20240521BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20240521BHJP
【FI】
B23K26/21 L
B23K26/00 M
B23K26/00 N
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020204115
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091332
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐野 靖
(72)【発明者】
【氏名】國友 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】大内 尚
(72)【発明者】
【氏名】岡田 真
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-205153(JP,A)
【文献】特開昭59-191588(JP,A)
【文献】特開2015-018500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/21
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状素材に溶接部材をレーザ溶接して構成物を作成する際のレーザ溶接支援システムであって、
構成物の設計図面、素材および溶接部材の情報、溶接条件を入力する入力器と、
演算装置と、
表示器と、を備え、
前記演算装置は、
構成物の設計図面、素材および溶接部材の情報、溶接条件から構成物の変形量を予測し、
予測した前記構成物の変形量に基づいて、許容変形量に修正する際の修正荷重および修正位置を算出し、
前記表示器は、前記算出した修正荷重および修正位置を表示する、
ことを特徴とするレーザ溶接支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ溶接支援システムにおいて、
前記演算装置は、
前記構成物の設計図面から素材と溶接部材を溶接した溶接部の断面情報を抽出する処理と、
前記素材に前記溶接部材を付着した構成物の断面二次モーメントを算出する処理と、
前記素材に前記溶接部材を付着した構成物のヤング率および線膨張係数を算出する処理と、
前記溶接条件から算出した入熱量に基づいて、前記素材に前記溶接部材を付着した構成物の変形量を算出する処理と、
を行うことを特徴とするレーザ溶接支援システム。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザ溶接支援システムにおいて、
前記演算装置は、更に、
前記変形量、前記断面二次モーメント、前記ヤング率から、前記構成物の長さ方向の曲がりプロファイルを取得する処理と、
入力器で入力された許容変形量と前記変形量との差分と、前記断面二次モーメント、前記ヤング率から、変形の修正に必要な修正荷重を算出する処理と、
前記曲がりプロファイルに基づいて、変形の修正位置を推定する処理と、
を行うことを特徴とするレーザ溶接支援システム。
【請求項4】
請求項2に記載のレーザ溶接支援システムにおいて、
前記入力器は、溶接条件として前記溶接部材の積層回数を入力し、
前記演算装置は、
前記断面二次モーメントを算出する処理と、前記ヤング率および線膨張係数を算出する処理と、前記変形量を算出する処理とを、前記素材に前記溶接部材の各層を付着した構成物について繰り返すことを特徴とするレーザ溶接支援システム。
【請求項5】
請求項3に記載のレーザ溶接支援システムにおいて、
レーザパワーと送り速度の組み合わせの情報が格納されたデータベースを備え、
前記演算装置は、
溶接部材に対応した複数のレーザパワーと送り速度の組み合わせに基づいて、複数の入熱量を算出する処理と、
前記算出した入熱量に基づいて、前記素材に前記溶接部材を付着した構成物の変形量を算出する処理と、
前記算出した変形量が、入力器で入力された許容変形量と同等か、もしくは下回る入熱量の条件を推奨レーザパワー、推奨送り速度として選定する処理と、
を行い、
前記表示器は、前記推奨レーザパワーおよび前記推奨送り速度を表示することを特徴とするレーザ溶接支援システム。
【請求項6】
請求項1に記載のレーザ溶接支援システムにおいて、
前記入力器および前記表示器は、システムGUIであることを特徴とするレーザ溶接支援システム。
【請求項7】
請求項1に記載のレーザ溶接支援システムにおいて、
前記棒状素材は、長尺円柱部材または長尺角柱部材であり、
前記構成物は、前記棒状素材の表面の一部に耐摩耗材料である溶接部材をレーザ溶接するものであるレーザ溶接支援システム。
【請求項8】
棒状素材に溶接部材をレーザ溶接して構成物を作成する際のレーザ溶接支援方法であって、
演算装置が、
構成物の設計図面、素材および溶接部材の情報、溶接条件から構成物の変形量を予測し、
予測した前記構成物の変形量に基づいて、許容変形量に修正する際の修正荷重および修正位置を算出し、
表示器が、前記算出した修正荷重および修正位置を表示する、
ことを特徴とするレーザ溶接支援方法。
【請求項9】
請求項8に記載のレーザ溶接支援方法において、
前記演算装置が、
前記構成物の設計図面から素材と溶接部材を溶接した溶接部の断面情報を抽出する処理と、
前記素材に前記溶接部材を付着した構成物の断面二次モーメントを算出する処理と、
前記素材に前記溶接部材を付着した構成物のヤング率および線膨張係数を算出する処理と、
前記溶接条件から算出した入熱量に基づいて、前記素材に前記溶接部材を付着した構成物の変形量を算出する処理と、
を行うことを特徴とするレーザ溶接支援方法。
【請求項10】
請求項9に記載のレーザ溶接支援方法において、
前記演算装置が、更に、
前記変形量、前記断面二次モーメント、前記ヤング率から、前記構成物の長さ方向の曲がりプロファイルを取得する処理と、
入力器で入力された許容変形量と前記変形量との差分と、前記断面二次モーメント、前記ヤング率から、変形の修正に必要な修正荷重を算出する処理と、
前記曲がりプロファイルに基づいて、変形の修正位置を推定する処理と、
を行うことを特徴とするレーザ溶接支援方法。
【請求項11】
請求項9に記載のレーザ溶接支援方法において、
前記演算装置が、
前記断面二次モーメントを算出する処理と、前記ヤング率および線膨張係数を算出する処理と、前記変形量を算出する処理とを、入力された前記溶接部材の積層回数ほど、前記素材に前記溶接部材の各層を付着した構成物について繰り返すことを特徴とするレーザ溶接支援方法。
【請求項12】
請求項10に記載のレーザ溶接支援方法において、
前記演算装置が、
レーザパワーと送り速度の組み合わせの情報が格納されたデータベースから、溶接部材に対応した複数のレーザパワーと送り速度の組み合わせを読み出し、複数の入熱量を算出する処理と、
前記溶接条件から算出した入熱量に基づいて、前記素材に前記溶接部材を付着した構成物の変形量を算出する処理と、
前記変形量が、入力器で入力された許容変形量と同等か、もしくは下回る入熱量の条件を推奨レーザパワー、推奨送り速度として選定する処理と、
を行い、
前記表示器が、前記推奨レーザパワーおよび前記推奨送り速度を表示することを特徴とするレーザ溶接支援方法。
【請求項13】
コンピュータに、棒状素材に溶接部材をレーザ溶接して構成物を作成する際の支援を行わせるプログラムであって、
ユーザが入力した、構成物の設計図面、素材および溶接部材の情報、溶接条件から構成物の変形量を予測し、
予測した前記構成物の変形量に基づいて、許容変形量に修正する際の修正荷重および修正位置を算出し、
前記算出した修正荷重および修正位置を表示する、
ことを実行させるプログラム。
【請求項14】
請求項13に記載のプログラムにおいて、
前記構成物の設計図面から素材と溶接部材を溶接した溶接部の断面情報を抽出する処理と、
前記素材に前記溶接部材を付着した構成物の断面二次モーメントを算出する処理と、
前記素材に前記溶接部材を付着した構成物のヤング率および線膨張係数を算出する処理と、
前記溶接条件から算出した入熱量に基づいて、前記素材に前記溶接部材を付着した構成物の変形量を算出する処理と、
を実行させるプログラム。
【請求項15】
請求項14に記載のプログラムにおいて、更に、
前記変形量、前記断面二次モーメント、前記ヤング率から、前記構成物の長さ方向の曲がりプロファイルを取得する処理と、
入力器で入力された許容変形量と前記変形量との差分と、前記断面二次モーメント、前記ヤング率から、変形の修正に必要な修正荷重を算出する処理と、
前記曲がりプロファイルに基づいて、変形の修正位置を推定する処理と、
前記修正荷重および前記修正位置を表示する処理と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光および粉末金属等の溶接部材を用いた溶接時のレーザ溶接支援技術に関する。
【背景技術】
【0002】
部材に熱を加えて溶接すると、加工後の部材に変形を生じる。そのため、予め溶接によって生じる変形を推定し、溶接前に溶接変形と逆方向の変位または歪みを与えて溶接変形を相殺することなどが、考えられている。
【0003】
特開2011-101900号公報(特許文献1)には、「部材に付与する逆ひずみの量を変化させて、溶接を行う前の部材の形状から溶接を行った後の部材の形状への変形量を求める準備工程と、前記準備工程で求められた変形量から、逆ひずみを付与したときに生じる固有ひずみを算出する算出工程と、前記付与した逆ひずみと前記算出された固有ひずみとの関係を示す情報をデータベースに記憶する記憶工程と、前記データベースに記憶された逆ひずみと固有ひずみとの関係を示す情報に基づいて、逆ひずみに対応する溶接部の固有ひずみを抽出する抽出工程と、前記抽出工程で抽出された固有ひずみを用いて溶接による変形情報を生成する生成工程とを含むことを特徴とする変形推定方法。」との記載がある(特許請求の範囲、請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-101900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
直径がΦ10~Φ50mm程度で、且つ長さが100mmを超えるような、所謂長尺細径の棒状素材の外周面に耐摩耗層を後付けする部品において、耐摩耗層を溶接などで形成する場合、溶接時の熱収縮などで、棒状素材が変形する。変形の修正には多くの工数を要する。変形の残る溶接後の棒状部品に対して、塑性変形を与えて修正を行うが、変形量が判明していない状態では、部品によっては過度な変形が与えられ、部品に不要な応力が発生して、応力残留部を起点に部品に損傷が発生するといった課題がある。
【0006】
特許文献1記載の発明は、板状部材、例えば試験用小片板に付与する逆ひずみの量を変化させて、溶接を行う前の部材の形状から溶接を行った後の部材の形状の変形量を求め、求めた変形量から、逆ひずみを付与したときに生じる固有ひずみを算出してデータベースに記録する。記録された逆ひずみと固有ひずみとの関係を示す情報に基づいて、逆ひずみに対応する溶接部の固有ひずみを用いて溶接による変形情報(変形量)を生成する方法に関するものである。この方法を用いて、溶接後に変形、特に横曲がりが無いものを製造するため、逆ひずみ、つまり曲げ量を教示することも可能としている。
【0007】
特許文献1記載の発明は、主に板状部材の突合せ溶接を対象としている。仮に特許文献1記載の方法を用いて、前述の長尺細径の棒状部材への溶接時の変形を抑制するために、逆ひずみを与えたとすると、変形している棒状部材への溶接を行うこととなり、溶接を行う際の軌跡が特殊なものとなる。溶接を、例えばX、Y、Z方向に駆動する機構を持ち、各軸の動作をコンピュータ数値制御(CNC:Computerrized Numerical Control)装置で制御する自動溶接装置で行う場合には、軌跡の特殊性から、溶接困難箇所が生じるなどの問題が発生する場合がある。
【0008】
本発明の目的は、棒状素材に耐摩耗部等の溶接部材をレーザ溶接して構成物を作成する際に、溶接後の変形量を簡易な計算により予測し、且つ個別の変形状態に見合った変形修正方案を提案するレーザ溶接支援システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題に対して、本発明は、溶接時の形状・物性変化をよく反映する入力情報として選定した、素材・溶接部材情報、溶接条件、構成物の設計図面を入力して、溶接後の変形量を簡易な計算により予測することで、溶接後の構成物の変形を精度良く予測し、その結果を用いた修正方案の提案を行う。
【0010】
本発明の「レーザ溶接支援システム」の一例を挙げるならば、
棒状素材に溶接部材をレーザ溶接して構成物を作成する際のレーザ溶接支援システムであって、
構成物の設計図面、素材および溶接部材の情報、溶接条件を入力する入力器と、演算装置と、表示器と、を備え、
前記演算装置は、構成物の設計図面、素材および溶接部材の情報、溶接条件から構成物の変形量を予測し、予測した前記構成物の変形量に基づいて、許容変形量に修正する際の修正荷重および修正位置を算出し、前記表示器は、前記算出した修正荷重および修正位置を表示する、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、棒状素材へ溶接部材をレーザ溶接して構成物を作成する際に、簡易な計算を実施することで、溶接後の素材の変形量を精度よく予測することができる。また、溶接される棒状部品毎に溶接した棒状部材の変形量を予測し、その変形量に応じた適正な修正荷重や修正位置を提案することにより、製造の工数削減や、製品に内在する損傷要因を抑制することができる。
【0012】
上記以外の課題、構成および効果等は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1のレーザ溶接支援システムの一例を示す図である。
図2】実施例1のシステムGUIの項目入力器や、出力表示器の詳細な説明図である。
図3】実施例1のレーザ溶接支援システムの変形量予測の処理手順を示すフローチャートである。
図4図3で算出された変形量から、変形修正を行う際の修正荷重や修正位置の提案値を算出する処理手順を示すフローチャートである。
図5】データベース(DB)のテーブル内容を示す図である。
図6】本発明のレーザ溶接支援システムのハードウエア構成を示す図である。
図7】実施例1のレーザ溶接支援システムを用いて、変形量予測を実証した際に用いた素材と、溶接部の概略図である。
図8】実施例1のシステムGUIの入力および表示の一例を示す図である。
図9】構成物の長さ方向の曲がりプロファイルの一例を示す図である。
図10】レーザ溶接を行った際の、素材の変形量の実験値と、実施例1のレーザ溶接の変形量予測方法を用いて予測した各積層回数ごとの変形量を示すグラフである。
図11】実施例2のレーザ溶接支援システムの、システムGUIの項目入力器や、出力表示器の詳細な説明図である。
図12】実施例2のレーザ溶接支援システムの変形量予測の処理手順を示すフローチャートである。
図13図12で算出された変形量から、推奨レーザパワーや推奨送り速度を提案する処理手順を示すフローチャートである。
図14】データベース(DB2)のテーブル内容を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は本発明を実施する一例であり、これに限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の実施例1のレーザ溶接支援システムの一例を示す図である。実施例1のレーザ溶接支援システムは、グラフィック・ユーザー・インターフェース(システムGUI)1と、演算装置2と、データベース(DB)3から構成されている。グラフィック・ユーザー・インターフェース(システムGUI)1は、項目入力器と出力表示器を備え、ユーザからの入力を受け付けたり、演算された結果をユーザに表示する機能を備えている。演算装置2は、主にレーザ溶接後の変形量の予測のための演算や、変形修正量の演算を行う。データベース(DB)3は、ユーザが入力した、例えば素材情報に関連した、素材の物性値などを記録しておく。
【0016】
図2は、システムGUI1の項目入力器や、出力表示器の詳細な説明図である。システムGUI1上の素材情報入力器4では、素材の材料名の入力を受け付ける。材料名は予め準備された材料名をリスト上に表示し選択しても良いし、ユーザがリストに無い材料を直接入力しても良い。
溶接部材入力器5では、溶接される材料名の入力を受け付ける。この溶接材料名の入力も素材の材料名の入力と同様に、予め準備されたリストから選択するか、ユーザの直接入力で入力することができる。
溶接する際の溶接条件として、レーザパワー入力器6、送り速度入力器7、積層回数入力器8からそれぞれ入力する。積層回数は、溶接部が一度の溶接で形成できない場合、複数回に分けて積層して溶接する際の回数を入力するものである。
ユーザが形成したい製品等のCAD図面ファイルのファイルパスの入力を、CAD図面入力器9で受け付ける。受け付けるCAD図面(構成物の設計図面)では、図面作成時に予め素材と、溶接部の指定を行う。指定方法は例えば、2次元CAD図面で用いられる各レイヤーを素材と溶接部で分けておくなどで指定する。CAD図面の受け付け時には、図示しない、素材と溶接部のレイヤーの紐付けを設定するウィンドウ画面が表示され、入力する。受け付けられたCAD図面の内容はCAD図面表示器10に表示される。
本実施例のレーザ溶接の変形量予測により算出された変形量が、変形量表示器11に表示される。
製品等のレーザ溶接が完了した際に許容可能な許容変形量は、許容変形量入力器12に入力する。
本実施例のレーザ溶接の変形量予測で算出された変形を修正する際に用いる修正荷重と修正位置は、それぞれ、修正荷重表示器13、修正位置表示器14に表示される。
【0017】
図3は、本実施例のレーザ溶接の変形量予測の処理手順を示すフローチャートである。この処理は、図1の演算装置2が行う。
【0018】
処理15(断面情報抽出処理)では、CAD図面入力器9で入力されたCAD図面(構成物の設計図面)から、素材と溶接部のそれぞれの断面情報を抽出する。断面情報は主に、素材が長尺細径丸棒である場合には丸棒の直径と、長尺角柱である場合には角柱断面の縦(高さ)、横(幅)寸法である。
【0019】
次に処理16(積層回数・ループ回数入力処理)で、システムGUI1の積層回数入力器8で入力された積層回数をNの変数に格納し、同時にループ回数を格納する変数nを定義する。変数nの初期値は0である。
【0020】
処理17(断面二次モーメント算出処理)では、処理15で入力された溶接部の断面情報と処理16で入力された積層回数Nから、溶接部を1/Nごとの厚みに分割した断面情報を作成する。そして、まず、素材と、溶接部を1/N化したものを結合した形状について断面二次モーメントを算出する。断面二次モーメントは溶接が複数回で積層される場合には、順次変化する断面形状に対応して算出を行う。
【0021】
処理18(ヤング率・線膨張係数算出処理)では、素材と、溶接部を1/N化したものを結合した形状でのヤング率と線膨張係数を算出する。算出の際、素材と溶接部の材料毎のヤング率と線膨張係数は、予め準備したデータベースDB19を参照して取得する。図5にデータベースDB19の一例を示す。図5の例では、各材料に対応する密度、ヤング率、熱膨張係数、比熱の数値を格納している。本発明の対象とする素材に溶接部材を溶接により結合した材料のヤング率の計算については、式(1)を用いて計算する。同様に、素材に溶接部材を溶接により結合した材料の線膨張係数については、式(2)を用いて計算する。
【0022】
【数1】
【0023】
【数2】
【0024】
式(1)のEはヤング率である。tは結合した材料(素材と溶接部材)のそれぞれの厚み、即ち断面情報の高さである。溶接が複数回で積層される場合には、順次、ヤング率に厚みを乗算したものを加算し、それを厚みを加算したもので除することで順次変化するヤング率を算出する。
式(2)のαは線膨張係数である。aは結合した材料(素材と溶接部材)のそれぞれ厚みの割合を示すものである。例えば、1の材料が素材で、その厚みが30mm、2の材料が溶接部材でその厚みが1mmとした場合、a1が0.97でa2が0.03として計算を行う。
【0025】
処理20(たわみ(変形量)算出処理)では、素材と、溶接部を1/N化したものを結合した形状でのたわみ即ち変形量を算出する。変形量は式(3)の片持ち梁のたわみ量計算式を用いて算出する。
式(3)のWは熱収縮応力で、これは式(4)に示す、線膨張係数αと、温度差△Tとヤング率E、素材と溶接部を1/N化したものを結合した形状の断面積Aから算出される。その他、式(3)のLは素材の長さ、式(3)のEはヤング率、Iは断面二次モーメントのそれぞれの値を適用して、たわみを求め、そのたわみを変形量とする。
【0026】
【数3】
【0027】
【数4】
【0028】
【数5】
【0029】
式(4)の熱収縮応力の算出には、入熱量を用いる。入熱量は処理22(入熱量算出処理)で算出し、システムGUI1のレーザパワー入力器6と送り速度入力器7で入力された値を用いて、レーザパワーを送り速度で除することで算出され、その入熱量から、温度変化を温度差として入力して算出する。式(4)で用いる、温度差の算出には式(5)を用いる。入熱量Qを材料の比熱Cで除することで算出する。
【0030】
次に処理21では、ループ回数nに1を加算する。次いで処理23にてループ回数nと、積層回数Nと比較して、ループ回数nが積層回数Nを下回っている、即ち処理23の判定がNOの場合は、算出が終了した素材と結合された溶接部の情報を次のループの素材情報(断面二次モーメント、ヤング率、線膨張係数)として、処理17~処理20を順次行う。
【0031】
処理23にてループ回数nと積層回数Nの数が同じか、ループ回数nが積層回数Nを上回った場合、即ち処理23の判定がYESとなった場合にはループ処理を終了して次の処理に移る。
【0032】
図4は、本実施例において、図3で算出された変形量から、変形修正を行う際の修正荷重や修正位置の提案値を算出する処理手順を示すフローチャートである。この処理は、図1の演算装置2が行う。
まず、処理24(曲がりプロファイル取得処理)では、図3の処理手順により算出されたたわみ量(変形量)、断面二次モーメント、ヤング率から、素材の長さ方向の曲がりプロファイルを取得する。
処理25(許容変形量取得処理)では、システムGUI1の許容変形量入力器12に入力された、許容変形量を取得する。
処理26(修正荷重算出処理)では、式(3)を、熱収縮応力を出力変数として変形した式に、変形量と許容変形量の差分と、断面二次モーメント、ヤング率を入力して、変形の修正に必要な修正荷重を算出する。
処理27(修正位置推定処理)では、処理25で求めた曲がりプロファイルの内、変形量が最大となる座標を求め、変形の修正位置を推定する。
処理28(提案値出力処理)では、図4の処理手順で算出した修正荷重と修正位置を、システムGUI1のそれぞれの表示箇所に表示する。
【0033】
図6に、本発明を実現するハードウエア構成について示す。図は、本発明をコンピュータ上に構成した例である。プロセッサ101は、バス110を介して外部記憶装置103から処理プログラム104をメモリ102に読み込み、実行する。また、必要なデータをデータベース(DB)3から取り込む。プロセッサの一例としては、CPUやGPUが考えられるが、所定の処理を実行する主体であれば他の半導体デバイスでもよい。素材情報等の情報を入力器106から入力し、処理結果を表示器107で表示する。外部とのやり取りは通信部108を介して行う。
【0034】
図1との対応は、入力器106と出力器107が、図1のシステムGUI1に対応し、プロセッサ101、メモリ102および外部記憶装置103のプログラム104が、図1の演算装置に対応し、外部記憶装置のDB3が図1のデータベース3に対応している。
【0035】
上記は本発明をコンピュータ上に構築した例であるが、クラウド上に構築し、クラウドサーバで処理してもよい。プログラム104やデータベース(DB)3はクラウド上に記憶してもよい。システムGUIはタブレットや入出力用の計算機で構成し、演算装置はクラウド上に構成してもよい。
【0036】
図7に、これまで説明してきた本実施例のレーザ溶接支援システムを用いて、実際に変形量予測を実証した際に用いた素材と、溶接部の概略図を示す。本実施例では素材29として、厚み30mm×幅30mm×長さ250mmのステンレスSUS316L材を用いた。溶接部30の材料はステライト#6材を用いた。溶接は、素材29の先端から20mmの位置から80mmの長さで、溶接を行った。溶接は素材の幅30mmの方向に順次溶接位置を変えながら行った。即ち本溶接方法で形成される溶接部は80mm×30mmの大きさとなる。溶接の1層あたりの高さは1.2mmで、本実施例では積層回数を4回とした。したがって溶接部の高さは1.2mm×4回の4.8mmである。本実施例の溶接部の積層条件はレーザパワーが1500W、送り速度が500mm/分とした。この条件による入熱量は1.8kJ/cmとなる。
【0037】
図8に、図7に示す素材に溶接部をレーザ溶接した例について、システムGUI1の入力および出力表示を示す。また、図9に、取得した曲がりプロファイルのグラフを示す。曲がりプロファイルは、素材端部からの距離に応じた変形量を示している。
【0038】
図8において、算出した予測変形量は0.62mmであり、提案する修正荷重は776N、修正位置は210mmである。修正位置は、図9の曲がりプロファイルにおいて、曲率最大位置を算出して求めた。修正荷重は、変形量と許容変形量の差分にヤング率、断面二次モーメントを乗算して、図9で表す曲率をもって変形している部分の長さ(本実施例では100mmと設定)を3乗した値で除した値である。
【0039】
図10に、上記の素材、溶接部材とレーザ溶接条件を用いてレーザ溶接を行った際の、素材の変形量の実験値と、本実施例のレーザ溶接支援システムを用いて予測した積層回数ごとの変形量を示す。変形量は、図7に示す素材29の先端から10mmの位置のZ方向の変位を計測した。図10のグラフ中のマーカ○で示したものが実験値であり、マーカ□で示したものが本実施例で予測した結果である。このグラフから分かるように、本実施例のレーザ溶接の変形量予測は、実験値をよく予測できていることが分かる。
【0040】
本実施例によれば、レーザ溶接時の素材の変形量が予測可能となり、図4で出力した変形修正荷重や修正位置をユーザに教示することで、適正な変形修正を行うことができる。これにより、変形の残る溶接後の棒状部品に対して、適正な塑性変形を与えることができるので、部品に不要な応力が発生することなく、健全な部品製造が可能となる。
【実施例2】
【0041】
図11は、本発明の実施例2のレーザ溶接支援システムの、システムGUIの項目入力器や、出力表示器の詳細な説明図である。システムGUI上の素材情報入力器4、溶接部材入力器5、レーザパワー入力器6、送り速度入力器7、積層回数入力器8、CAD図面入力器9、CAD図面表示器10、許容変形量入力器12の各機能は、実施例1に示すシステムGUI1と同機能を有する。図11の推奨レーザパワー表示器31、推奨送り速度表示器32はそれぞれ、本発明のレーザ溶接の変形量予測方法を用いて、許容変形量を満足する入熱量を算出し、その入熱量を実現する推奨条件を表示するものである。
【0042】
図12は、本実施例のレーザ溶接の変形量予測の処理手順を示すフローチャートである。処理41から処理45までと処理49、50は、実施例1で説明した図3のフローチャートの処理1から19までと処理21、23と同じ処理を行う。処理46では、実施例1の処理20と同様に、素材と、溶接部を1/N化したものを結合した形状でのたわみ即ち変形量を算出する。但し、処理46(たわみ(変形量)算出処理)では式(4)に示す、温度差△Tを積極的に変化させる入熱量条件を、処理47(入熱量算出処理)で数水準準備する。処理47では、所定の入熱量を実現するレーザパワーと送り速度の組み合わせの情報が格納されたDB2(48)から、溶接部材に対応したレーザパワーと送り速度の組み合わせを数個出力する。その後処理46にて式(4)及び式(3)を用いて入熱量の条件ごとにたわみ量を算出する。DB2(48)に格納するレーザパワー、送り速度については、別途実験等により取得した、健全に溶接可能な条件が格納されている。図14に、DB2内のテーブルの一例を示す。溶接材料に応じて、複数のレーザ出力と送り速度の組合せが格納されている。
【0043】
図13は、図12で算出、予測された変形量から、変形修正を行う際の修正荷重や修正位置の提案値を算出する処理手順を示すフローチャートである。処理51、52の処理内容は、実施例1の図4の処理24、25と同じ処理を行う。処理53では、図12のフローチャートで算出した、入熱量の条件ごとに算出したたわみ量のうち、図11のシステムGUIから入力された許容変形量と同等か、もしくは下回る入熱量の条件を推奨レーザパワー、推奨送り速度として選定する。選定した推奨レーザパワー、推奨送り速度は、処理54でシステムGUI上に表示される。
【0044】
本実施例によれば、許容変形量に収まるレーザ溶接条件をユーザに教示することで、適正なレーザ溶接を行うことができる。これにより、レーザ溶接後の棒状部品には許容される変形しか残留せず、健全な部品製造が可能となる。
【0045】
本発明におけるプログラムの発明は、図6に示すようにコンピュータ(計算機)に組み込まれ、コンピュータをレーザ溶接支援システムとして動作させるプログラムである。本発明のプログラムをコンピュータに組み込むことにより、図3図4の処理を行うレーザ溶接支援システムが構成される。
【0046】
以上、本発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0047】
また、上記の各図において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、必ずしも実装上の全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1:システムGUI
2:演算装置
3:データベース(DB)
4:素材情報入力器
5:溶接部材情報入力器
6:レーザパワー入力器
7:送り速度入力器
8:積層回数入力器
9:CAD図面入力器
10:CAD図面表示器
11:変形量予測値表示器
12:許容変形量入力器
13:修正荷重表示器
14:修正位置表示器
15:断面情報抽出処理
16:積層回数・ループ回数入力処理
17:断面二次モーメント算出処理
18:ヤング率・線膨張係数算出処理
19:データベース
20:たわみ(変形量)算出処理
22:入熱量算出処理
24:曲がりプロファイル取得処理
25:許容変形量取得処理
26:修正荷重算出処理
27:修正位置推定処理
28:提案値出力処理
29:素材
30:溶接部
31:推奨レーザパワー表示器
32:推奨送り速度表示器
101:プロセッサ
102:メモリ
103:外部記憶装置
104:処理プログラム
106:入力器
107:表示器
108:通信部
110:バス
図1
図2
図3
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図6
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