(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】ディーゼルエンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 19/08 20060101AFI20240521BHJP
F02B 19/14 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
F02B19/08 E
F02B19/08 C
F02B19/14 A
(21)【出願番号】P 2020217119
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2022-12-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】末廣 貴一
(72)【発明者】
【氏名】尾曽 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】宮田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 明
(72)【発明者】
【氏名】藤田 健介
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特公昭37-017401(JP,B1)
【文献】実開昭58-075918(JP,U)
【文献】特開昭59-201922(JP,A)
【文献】実開昭62-018327(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 1/00-23/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主燃焼室と、前記主燃焼室から偏心した箇所に設けられる副室とが噴孔を介して連通され、前記噴孔は、ピストンの軸心方向視で前記副室の外縁に沿う外郭形状を有する幅広で扁平な円弧形状又はU字形状を呈する孔に形成され、
前記噴孔は、ピストンの軸心方向に沿って延びる縦孔に形成され、
前記噴孔は、前記主燃焼室側の下開口部の面積よりも前記副室側の上開口部の面積が大となるテーパ孔に形成され、
前記噴孔は、前記噴孔におけるピストンの軸心方向視での前記副室の周方向に沿う長さが、前記下開口部よりも前記上開口部の方が長くなるテーパ孔に形成され、
前記噴孔は、
ピストンの軸心方向視での前記噴孔の幅方向の両端側部分に上向き拡開状の一対のテーパ面部を備えている、ディーゼルエンジン。
【請求項2】
前記噴孔の開口長さは、ピストンの軸心方向視における前記副室の径の60%以上に設定されている請求項1に記載のディーゼルエンジン。
【請求項3】
前記噴孔は、ピストンの軸心方向視での前記副室におけるピストンの軸心に対して遠い側の壁面に形成されている請求項1又は2に記載のディーゼルエンジン。
【請求項4】
前記主燃焼室に隣り合う状態でシリンダヘッド壁に嵌着される口金が設けられ、
前記口金に、前記副室を形成するための副室形成用凹部が形成される胴部と、前記噴孔とが形成されている請求項1~3何れか一項に記載のディーゼルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主燃焼室に噴孔を介して連なる副室が設けられた構造のディーゼルエンジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
主燃焼室(主室)の他に副燃焼室(副室)を設けたディーゼルエンジン、即ち副室(IDI:Indirect Injection)式ディーゼルエンジンは、副室内に燃料を噴射して着火させ、副室の燃焼ガスが噴孔(絞り)を通じて主室内に噴出して燃焼が完了する。IDIでは、燃焼室表面積が大きいため、絞り損失と熱損失が大きいという弱点があるため、近年では直噴(DI:Direct Injection)式ディーゼルエンジンに置き換えられてきている。
【0003】
しかしながら、IDIは、限られた副室内で燃料を噴射するので、火炎の流速を高くできて低圧の噴射弁でも確実に着火できる良さがある。また、副室内は空気量が少なく燃焼圧と燃焼温度が低いため、DIに比べて、ディーゼルノックが発生しづらく、NOx生成量が少ないという利点もある。従って、IDIは低速型のエンジンに適したシステムであることから、農機や建機、発電機、或いは後進国向けの各種産業機器などには、まだまだニーズがあると考えられる。
【0004】
IDI型のディーゼルエンジンにおいては、実質的に燃焼室となる副室での渦流を如何に効率よく発生させるかが重要なポイントである。例えば、特許文献1において、渦流を弱めることなく始動性の改善が可能となる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、さらなる鋭意研究により、渦流が促進されてより燃焼効率に優れるように改善されるIDI型(副室型)のディーゼルエンジンを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ディーゼルエンジンにおいて、
主燃焼室と、主燃焼室から偏心した箇所に設けられる副室とが噴孔を介して連通され、前記噴孔は、ピストンの軸心方向視で前記副室の外縁に沿う外郭形状を有する幅広で扁平な円弧形状又はU字形状を呈する孔に形成され、
前記噴孔は、ピストンの軸心方向に沿って延びる縦孔に形成され、
前記噴孔は、前記主燃焼室側の下開口部の面積よりも前記副室側の上開口部の面積が大となるテーパ孔に形成され、
前記噴孔は、前記噴孔におけるピストンの軸心方向視での前記副室の周方向に沿う長さが、前記下開口部よりも前記上開口部の方が長くなるテーパ孔に形成され、
前記噴孔は、ピストンの軸心方向視での前記噴孔の幅方向の両端側部分に上向き拡開状の一対のテーパ面部を備えている、ディーゼルエンジン。
【0009】
本発明に関して、上述した構成(手段)以外の特徴構成や手段ついては、請求項2~4を参照のこと。
【発明の効果】
【0010】
副室式(過流式)のディーゼルエンジンにおいては、主燃焼室から噴孔を通過して副室に入ってくる空気流により、副室で渦流(タンブル)が生じるのであるが、従来のものでは、副室内での渦流が、噴孔から新たに副室に入ってくる空気流にぶつかるようになっていた。そこで、本発明では、ピストンの軸心方向視で副室の外縁に沿う外郭形状を有する幅広で扁平な円弧形状又はU字形状を呈する噴孔を設けたものである。
【0011】
噴孔から副室に入る空気流は、副室の壁面に沿った流れになり、副室内での渦流を強めるように作用する。加えて、従来技術によるものに比べて、噴孔はより副室の壁面に近づいた位置に設けられているので、副室内での渦流が噴孔の副室側の開口部に差し掛かるときの流れのベクトルと、噴孔から新しく副室に入ってくる空気流の流れのベクトルとが合致又は極力合致されるようになり、これら両者が円滑に合流されるようになる。
【0012】
つまり、副室内の渦流と副室に入ってくる空気流とがぶつかることなく又は少なくなり、円滑に合流されるか又は渦流が増速される作用が得られるようになり、渦流の強さを高めることが可能になる。その結果、噴孔の形状や副室に対する位置などを見直してのさらなる鋭意研究により、渦流が促進されてより燃焼効率に優れるようになって、燃費向上やスモーク低減が図れるように改善されたIDI型(副室型)のディーゼルエンジンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】産業用ディーゼルエンジンの副室付近の構造を示す要部の断面図
【
図2】副室形成用の口金を示し、(A)は平面図、(B)は
底面図
【
図3】
図2の口金の断面図を示し、(A)は
図2(A)のZ-Z線断面図、(B)は
図2(A)のY-Y線断面図
【
図4】(A)は口金を斜め上方から見た斜視図、(B)は噴孔位置が異なる口金を有する副室付近の構造を示す要部の断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明によるディーゼルエンジンの実施の形態を、農用トラクタなどに適用される産業用ディーゼルエンジンの場合について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1に過流式の産業用ディーゼルエンジンの副室周辺部の断面図が示されている。1はシリンダ(シリンダブロック)、2はシリンダヘッド、3はインジェクタ、4はグロープラグ、5は主燃焼室(主室)、6は副室(副燃焼室)、7は副室形成用の口金、8はピストン、9は口金7に形成された噴孔、10はウォータジャケット(冷却水の通路)、15はガスケットである。なお、ピストンの圧縮上死点においては主燃焼室5の体積は殆どないため、副室6が実質的に燃焼室である、といってもよい。
【0016】
シリンダヘッド2にはインジェクタ3が貫通装備され、インジェクタ3の先端噴射部3aが副室6に臨むように配置されている。副室6は、シリンダ1内に形成される主燃焼室5に、その主燃焼室5の偏心箇所に設けられる噴孔9を介して連通されている。インジェクタ3の先端噴射部3aから副室6に高圧の燃料が噴射され、噴孔9から副室に入ってくる圧縮された空気流eと噴射燃料とが、空気流eによって生じる渦流uにより効率よく混合されるようになる。
【0017】
図1に示されるように、シリンダヘッド2におけるピストン8の軸心8Pからシリンダ周壁側に偏心した位置に、シリンダ1に開口する状態の副室形成穴2Aが形成され、副室形成穴2Aには副室形成用の口金(チャンバー)7が収容されている。副室形成穴2Aは、シリンダヘッド2の主燃焼室5に臨むヘッド底面2aから順に、大径の開口部12と、小径の胴部収容部13と、胴部収容部13よりも奥に位置する空洞部14とを有して構成されている。
【0018】
開口部12には、カップ状に形成された口金7の底部7Aが収容されている。胴部収容部13は、口金7の胴部7Bが収容される箇所であって開口部12よりも小径である。空洞部14は半球よりも少し大きい略半球形に凹んだ箇所に形成され、胴部収容部13とは段付き面(符記省略)で繋がる構成とされている。
【0019】
図1~
図4(A)に示されるように、口金7は、ピストン軸心8Pに沿う口金軸心7pを有して円柱状の胴部7Bと底部7Aとを含んだ段付円柱状の金具で形成されている。底部7Aは胴部7Bの一端側を胴部7Bの外径よりも大径で周方向に張り出たフランジ状の部位として形成され、底面7aを有している。胴部7Bの他端側には、胴部7Bの上端面7bから半球よりも少し小さい略半球形(又は卵球形、まゆ形)の副室形成用凹部11が形成されている。
【0020】
副室6は、空洞部14と副室形成用凹部11とで構成され、噴孔9は、副室形成用凹部11と主燃焼室5とを連通させる部位として底部7Aから胴部7Bにかけて形成されている。つまり、シリンダヘッド2における主燃焼室5に隣り合う状態でシリンダヘッド壁2bに嵌着される口金7には、副室6を形成するための副室形成用凹部11が形成される胴部7Bと、噴孔9とが形成されている。
【0021】
図1に示されるように、副室6から噴孔9を通って上開口部9Aから主燃焼室5へ噴出するのは燃焼気流w(
図1に仮想線で示す矢印)であり、ピストン8の上昇移動による圧縮工程時には、主燃焼室5から噴孔9を通って副室6へ圧縮された空気流(圧縮空気流)eが流れ込む。副室6に流れ込む空気流eにより、副室6ではその壁面に沿って流れる縦向きの渦流(タンブル)uが生じる構成とされている。
【0022】
次に、副室6での渦流uを促進させる構造について説明する。
図1~
図4(A)に示されるように、噴孔9は、ピストン8の軸心8Pの方向に沿って延びる縦孔であって、ピストン8の軸心8P方向視で副室6の外縁6Aに沿う外郭形状を有する幅広で扁平な円弧形状(又はU字形状)を呈する孔に形成されている。
【0023】
詳しくは、噴孔9は、口金7の副室形成用凹部11の壁面hのうちの上端の径(最大径)Rの外縁6Aに沿う外郭形状とする、即ち外周縁9aとし、かつ、口金7の底部7Aにおける径内側の外郭形状である内周縁9bとされ、かつ、両端の湾曲縁9e,9eを備えてピストン側(下側の)の下開口部9Bを有する円弧状の縦孔である。
【0024】
そして、噴孔9の副室6側(上側)の上開口部9Aは、副室形成用凹部11の直径にまで延びた外縁6Aである外周縁9cと、同じく副室形成用凹部11の直径にまで延びた内周縁9dとが、前述の外周縁9a及び内周縁9bに加えられた三日月状(円弧状でもある)に形成されている。
【0025】
つまり、噴孔9は、主燃焼室5側の下開口部9Bの面積よりも副室6側の上開口部9Aの面積が大となるように、ピストン8の軸心8P方向視での副室6の周方向に沿う長さが、下側の外周縁9a及び内周縁9bを含みそれらよりも長い上側の外周縁9c及び内周縁9dを有するテーパ孔に形成されている。
【0026】
図2(A)及び
図3(A)に示されるように、噴孔9の外周壁9G及び内周壁9Nはそれぞれピストン8の軸心8Pに沿う鉛直(垂直)な壁であり、周方向で両側の各側壁9S,9Sが周方向に傾いて上下で周方向長さの異なる上拡がりのテーパ壁に形成されている。
【0027】
噴孔9の開口長さ(下開口部9Bの長手方向の長さ)Lは、ピストン8の軸心8P方向視における副室6の径Rの60%以上に設定されており、好ましくは70%~75%(0.7R≦L≦0.75R)に設定されている。また、噴孔9の開口幅(下開口部9Bの副室6の径方向に沿った方向の幅)Dは、開口長さLの7.5%~17.5%の範囲に、好ましくは10%~15%の範囲(0.10L≦D≦0.15L)に設定されている。
【0028】
上開口部9Aは、その両端部が実質的に側壁の無い尖った形状に形成されるに対して、下開口部9Bは、その両端部が滑らかな湾曲縁であり、それら両開口部9A,9Bの上下間に形成される側壁9S,9Sにおいて形状が滑らかに変化する形状に噴孔9は構成されている。
【0029】
図1に示されるように、噴孔9は、ピストン8の軸心8P方向視での副室6におけるピストン8の軸心8Pに対して最も近い側の壁面hに形成されている。詳しくは、副室6のピストン軸心8Pに対する偏心方向に沿う方向の軸線Q(
図1の紙面における水平方向)の上手側に長さ方向(長さL)の中心を有する縦孔として噴孔9が口金7に設けられている。
【0030】
本発明は、従来技術の課題であった「副室での渦流の強さを如何に高めるか」を実現させるものであり、ピストン8の軸心8P方向視で副室6の外縁に沿う外郭形状を有する幅広で扁平な円弧形状又はU字形状を呈する噴孔9を設けた、点に特徴がある。
具体的には、上開口部9Aの方が下開口部9Bよりも長さが長く、周方向に傾いた両側壁9S,9Sを有するテーパ孔形状の噴孔9とされている。
【0031】
噴孔9が副室6の接線方向に配置され、副室6の卵球形状(球形状)に沿わせるように渦流(タンブル流)u(
図1参照)が形成されることにより、渦流uの壁面hへの衝突によるロスが低減され、渦流uの強さが高められるようになる。噴孔9の両側壁9S,9Sが上拡がり傾斜しているので、副室6の内部全域に渦流uを行き亘らせることが可能となり、従来に比べて渦流uの強さが高められる。その結果、従来品に比べて、空気と燃料の混合が促進され、燃費改善やスモーク低減に寄与できる作用効果を得ることができる。
【0032】
また、テーパ孔形状の噴孔9により、下開口部9Bにおいては適切な断面積としながら、副室に入ってくる空気流eを副室6の幅いっぱい又はそれに近づけて広く作用させることができ、渦流(タンブル流)uを副室6の全域に行き亘らせることが可能となる効果も奏することができる。
【0033】
〔別実施形態〕
(1)
図4(B)に示されるように、噴孔9が、ピストン8の軸心8P方向視での副室6におけるピストン8の軸心8Pに対して最も遠い側の壁面hに形成される構造でもよい。また、図示は省略するが、
図1に示す位置(ピストン軸心8Pから最も近い位置)と、
図4(B)に示される位置(ピストン軸心8Pから最も遠い位置)との間に噴孔9が配置される構造でも良い。つまり、主燃焼室5に開口される位置ならば、噴孔9はどこの位置にあってもよい。
【0034】
(2)噴孔9は、ピストン軸心8Pの方向視でU字形状を呈するものや、噴孔としての断面積は従来品と同じ(又は殆ど同じ→例:従来断面積の90%~110%)でありながら長さは従来品より長い扁平な円弧形状又はU字形状の噴孔9としてもよい。
[まとめ]
本発明では、
図2(A)に例示するように、前記噴孔9は、前記噴孔9におけるピストン8の軸心8P方向視での前記副室6の周方向に沿う長さが、前記下開口部9Bよりも前記上開口部9Aの方が長くなるテーパ孔に形成されている。
そして、
図2(A),3(A)(B),4(A)に例示するように、前記噴孔9は、
ピストンの軸心方向視での前記噴孔の幅方向の両端側部分に上向き拡開状の一対のテーパ面部9Sa・9Saを備えている。
【符号の説明】
【0035】
2 シリンダヘッド
2b シリンダ壁
5 主燃焼室
6 副室
6A 外縁
7 口金
7B 胴部
8 ピストン
8P ピストンの軸心
9 噴孔
9a 上開口部
9b 下開口部
9Sa テーパ面部
11 副室形成用凹部
L 噴孔の長さ
R 副室の径
h 壁面