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  • 特許-誘電体組成物および電子部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】誘電体組成物および電子部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/495 20060101AFI20240521BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20240521BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20240521BHJP
   H01G 4/12 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C04B35/495
H01B3/12 341
H01G4/30 201L
H01G4/12 090
H01G4/30 515
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020219262
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022104201
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】秋場 博樹
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-037490(JP,A)
【文献】特開2020-038853(JP,A)
【文献】特開2018-104209(JP,A)
【文献】特開2018-135258(JP,A)
【文献】国際公開第2017/163843(WO,A1)
【文献】特開2013-180908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/495
C04B 35/462
H01B 3/12
H01G 4/30
H01G 4/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(A1)(A2)(A3)(B1)(B2)15+σで表されるタングステンブロンズ型複合酸化物を主成分として含む誘電体組成物であって、
A1は、Ba、SrおよびCaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、
A2は、La、Pr、NdおよびSmからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、
A3は、Yb、Lu、ScおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、
B1は、TiおよびZrからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、
B2は、NbおよびTaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、
a、bおよびcが、それぞれ、
2.600≦a+b+c≦2.980、
1.003≦b+c≦1.500、
0.003≦c≦0.100、
である関係を満足する誘電体組成物。
【請求項2】
bおよびcが
1.250≦b+c≦1.400、
である関係を満足する請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の誘電体組成物を含む誘電体層と、電極と、を備える電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体組成物、および、当該誘電体組成物から構成される誘電体層を備える電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、その信頼性の高さやコストの安さから多くの電子機器に搭載されている。
【0003】
具体的な電子機器としては、携帯電話等の情報端末、家電、自動車電装品が挙げられる。この中でも車載用として使用される積層セラミックコンデンサは、家電や情報端末等に使用されている積層セラミックコンデンサに比べて、より高温域までの動作保証が求められている。たとえば、175℃以上の高温域において、車載用層セラミックコンデンサは、信頼性はもちろんのこと、定格電圧の2.5倍以上の高い絶縁破壊電圧が求められる。
【0004】
特許文献1は、化学式(Sr1.00-s-tBaCa6.00-x(Ti1.00-aZrx+2.00(Nb1.00-bTa8.00-x30.00で表されるタングステンブロンズ型複合酸化物を主成分として含み、s、t、x、aおよびbが所定の範囲である誘電体組成物を開示している。また、特許文献1には、当該誘電体組成物の200℃における比誘電率、比抵抗および耐電圧が良好である旨が記載されている。さらに、特許文献1には、当該誘電体組成物の250℃における高温負荷寿命が良好である旨が記載されている。
【0005】
特許文献2は、化学式(A1)(A2)(B1)(B2)15+σで表されるタングステンブロンズ型複合酸化物を主成分として含み、A1がBa等であり、A2がY等であり、B1がTi等であり、B2がNb等であり、a、b、cおよびdが所定の範囲である誘電体組成物を開示している。また、特許文献2には、当該誘電体組成物の225℃における比誘電率、比抵抗および絶縁破壊電圧が良好である旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/163843号
【文献】特開2020-037490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の誘電体組成物は、250℃を超える高温度域における高温負荷寿命については何ら評価されていない。
【0008】
また、特許文献2に記載の誘電体組成物は、高温負荷寿命については何ら評価されていない。
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、高温度域において、高温負荷寿命が長く、しかも絶縁破壊電圧が高い誘電体組成物と、その誘電体組成物から構成される誘電体層と電極とを備える電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の誘電体組成物は、
[1]化学式(A1)(A2)(A3)(B1)(B2)15+σで表されるタングステンブロンズ型複合酸化物を主成分として含む誘電体組成物であって、
A1は、Ba、SrおよびCaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、
A2は、La、Pr、NdおよびSmからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、
A3は、Yb、Lu、ScおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、
B1は、TiおよびZrからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、
B2は、NbおよびTaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、
a、bおよびcが、それぞれ、
2.600≦a+b+c≦2.980、
1.003≦b+c≦1.500、
0.003≦c≦0.100、
である関係を満足する誘電体組成物である。
【0011】
[2]bおよびcが、
1.250≦b+c≦1.400、
である関係を満足する[1]に記載の誘電体組成物である。
【0012】
[3][1]または[2]に記載の誘電体組成物を含む誘電体層と、電極と、を備える電子部品である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温度域において、高温負荷寿命が長く、しかも絶縁破壊電圧が高い誘電体組成物と、その誘電体組成物から構成される誘電体層と電極とを備える電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
1.積層セラミックコンデンサ
1.1 積層セラミックコンデンサの全体構成
1.2 誘電体層
1.3 内部電極層
1.4 外部電極
2.誘電体組成物
2.1 複合酸化物
3.積層セラミックコンデンサの製造方法
4.本実施形態のまとめ
5.変形例
【0016】
(1.積層セラミックコンデンサ)
(1.1 積層セラミックコンデンサの全体構成)
本実施形態に係る電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1が図1に示される。積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成の素子本体10を有する。この素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、素子本体10の寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0017】
(1.2 誘電体層)
誘電体層2は、後述する本実施形態に係る誘電体組成物から構成されている。その結果、誘電体層2を有する積層セラミックコンデンサは、高温度域においても、高い電界強度下で高い比抵抗を示し、かつ高い絶縁破壊電圧を示すことができる。
【0018】
誘電体層2の1層あたりの厚み(層間厚み)は特に限定されず、所望の特性や用途等に応じて任意に設定することができる。通常は、層間厚みは100μm以下であることが好ましく、より好ましくは30μm以下である。本実施形態では、層間厚みの下限は、特に制限されないが、たとえば0.5μm程度である。また、誘電体層2の積層数は特に限定されないが、本実施形態では、たとえば20以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましい。
【0019】
(1.3 内部電極層)
本実施形態では、内部電極層3は、各端面が素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。
【0020】
内部電極層3に含有される導電材としては特に限定されない。本実施形態では、Ni、Ni系合金、Pd、Ag、Pd-Ag合金、CuまたはCu系合金が好ましい。より好ましくは、NiまたはNi系合金である。さらに好ましくは、内部電極層3の主成分をNiまたはNi系合金とし、副成分としてAl、Si、Li、CrおよびFeから選択される1種以上を含有する導電材である。なお、内部電極層3の主成分とは、内部電極層3全体に対して85質量%以上含有される成分を指す。
【0021】
内部電極層3が、主成分としてNiまたはNi系合金を含有し、副成分としてAl、Si、Li、CrおよびFeから選択される1種以上を含有することで、内部電極層3に含まれるNiが酸化されにくくなる。そして、250℃程度の高温下で積層セラミックコンデンサ1を連続使用しても内部電極層3の酸化による内部電極層3の連続性および導電性の劣化が起こりにくくなる
【0022】
内部電極層3が副成分としてAl、Si、Li、CrおよびFeから選択される1種以上を含有することで、内部電極層3に含まれるNiが酸化されにくくなる理由は下記の通りである。内部電極層3がAl、Si、Li、CrおよびFeから選択される1種以上を含有する場合には、Niが大気中の酸素と反応しNiOになる前に、上記副成分と酸素とが反応し、内部電極3に含まれるNiの表面に上記副成分の酸化膜を形成する。これにより、大気中の酸素は酸化膜を通過しないとNiと反応できなくなるため、Niが酸化され難くなる。
【0023】
なお、内部電極層3には、P等の各種微量成分が0.1質量%程度以下含まれていてもよい。また、内部電極層3は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0024】
(1.4 外部電極)
外部電極4に含有される導電材は特に限定されない。たとえばNi、Cu、Ag、Pd、Pt、Auあるいはこれらの合金、導電性樹脂など公知の導電材を用いればよい。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0025】
(2.誘電体組成物)
本実施形態に係る誘電体組成物は、タングステンブロンズ型結晶構造を有する複合酸化物を主成分として含有している。具体的には、複合酸化物は、本実施形態に係る誘電体組成物100mol%中に、50mol%よりも多く含有され、75mol%以上含まれることが好ましい。
【0026】
(2.1 複合酸化物)
タングステンブロンズ型結晶構造を有する複合酸化物の組成は、化学式A15で表される。タングステンブロンズ型結晶構造において、Bサイトを占める原子に酸素が6配位して形成される酸素八面体が互いの頂点を共有した3次元ネットワークを形成している。さらに、酸素八面体の間隙にAサイトを占める原子が位置している。
【0027】
電荷のバランスを取るために、化学式A15で表される酸化物の1種として、Aサイトを占める原子が、酸化数が2価の元素が2つと、酸化数が3価の元素が1つとであり、Bサイトを占める原子が、酸化数が4価の元素が2つと、酸化数が5価の元素が3つとである酸化物が例示される。この酸化物は、化学式(A1)(A2)(B1)(B2)15で表される。この化学式において、A1は酸化数が2価の元素であり、A2は酸化数が3価の元素であり、B1は酸化数が4価の元素であり、B2は酸化数が5価の元素である。すなわち、上記の酸化物における各元素の構成比は、酸化数が2価の元素:酸化数が3価の元素:酸化数が4価の元素:酸化数が5価の元素=2:1:2:3である。
【0028】
本実施形態では、複合酸化物は化学式(A1)(A2)(A3)(B1)(B2)15+σで表される。複合酸化物中に含まれる金属元素である「A1」元素と、「A2」元素および「A3」元素と、「B1」元素と、「B2」元素とは、安定な酸化数を基準として分けられている。
【0029】
上記の複合酸化物を構成する「A1」元素、「A2」元素、「A3」元素、「B1」元素および「B2」元素が占めるサイトは、複合酸化物がタングステンブロンズ型結晶構造を有している限り、特に制限されない。しかしながら、酸化数およびイオン半径等を考慮すると、通常、「A1」元素、「A2」元素および「A3」元素はAサイトを占める傾向にあり、「B1」元素および「B2」元素はBサイトを占める傾向にある。
【0030】
「A1」元素は酸化数が2価の元素である。本実施形態では、「A1」元素は、Ba(バリウム)、Sr(ストロンチウム)およびCa(カルシウム)からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素である。「A1」元素は、Baを少なくとも含むことが好ましく、Baであることがより好ましい。
【0031】
「A2」元素は酸化数が3価の元素である。本実施形態では、「A2」元素は、La(ランタン)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)およびSm(サマリウム)からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素である。「A2」元素はLaを少なくとも含むことが好ましく、Laであることがより好ましい。
【0032】
「A3」元素は酸化数が3価の元素である。本実施形態では、「A3」元素は、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)、Sc(スカンジウム)およびAl(アルミニウム)からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素である。「A3」元素はYbを少なくとも含むことが好ましく、Ybであることがより好ましい。
【0033】
「A2」元素は、「A3」元素よりもイオン半径が大きい傾向にある。
【0034】
「B1」元素は酸化数が4価の元素である。本実施形態では、「B1」元素は、Ti(チタン)およびZr(ジルコニウム)からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素である。「B1」元素はZrであることが好ましい。
【0035】
「B2」元素は酸化数が5価の元素である。本実施形態では、「B2」元素は、Nb(ニオブ)およびTa(タンタル)からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素である。「B2」元素はNbであることが好ましい。
【0036】
化学式において、「a」は、「B1」元素および「B2」元素の合計原子数5に対する「A1」元素の原子数を示している。また、「b」は、「B1」元素および「B2」元素の合計原子数5に対する「A2」元素の原子数を示している。また、「c」は、「B1」元素および「B2」元素の合計原子数5に対する「A3」元素の原子数を示している。
【0037】
本実施形態では、「a」、「b」および「c」は、2.600≦a+b+c≦2.980である関係を満足する。
【0038】
「a+b+c」は、Bサイトを占める傾向にある元素(「B1」元素および「B2」元素)の合計原子数5に対して、Aサイトを占める傾向にある元素(「A1」元素、「A2」元素および「A3」元素)の合計原子数を示している。したがって、上記の複合酸化物におけるAサイトを占める傾向にある元素の合計原子数が、化学式A15で表される複合酸化物におけるAサイトの原子数(3)よりも少ない傾向にある。
【0039】
その結果、上記の複合酸化物において、陽イオン空孔が生じやすくなる。この陽イオン空孔は、たとえば、複合酸化物の還元焼成時に生成しやすい酸素空孔を補償する。したがって、「a+b+c」が上記の範囲内である場合、誘電体組成物の高温負荷寿命が向上する傾向にある。
【0040】
「a+b+c」が小さすぎる場合、タングステンブロンズ型結晶構造が不安定となり、絶縁破壊電圧が低下する傾向にある。一方、「a+b+c」が大きすぎる場合、生成する陽イオン空孔が少ないため、高温負荷寿命の向上が抑制される傾向にある。
【0041】
また、本実施形態では、「b」および「c」は、1.003≦b+c≦1.500である関係を満足する。「b+c」は1.250以上であることが好ましい。一方、「b+c」は1.400以下であることが好ましい。
【0042】
「b+c」は、「B1」元素および「B2」元素の合計原子数5に対して、Aサイトを占める傾向にある元素のうち、酸化数が3価である元素(「A2」元素および「A3」元素)の合計原子数を示している。
【0043】
「a+b+c」の範囲と「b+c」の範囲とを比較すると、Aサイトを占める傾向にある元素において、酸化数が3価である元素(「A2」元素および「A3」元素)が比較的に多く、逆に、酸化数が2価である元素(「A1」元素)が比較的に少ない傾向にある。
【0044】
酸化数が3価である元素は、酸化数が2価である元素よりも、共有結合性が高いため、「b+c」が上記の範囲内であることにより、タングステンブロンズ型結晶構造が強固となり、絶縁破壊電圧が向上する傾向にある。
【0045】
「b+c」が小さすぎる場合、共有結合性が低くなるため、絶縁破壊電圧の向上が抑制される傾向にある。一方、「b+c」が大きすぎる場合、タングステンブロンズ型結晶構造が不安定となり、絶縁破壊電圧が低下する傾向にある。
【0046】
また、本実施形態では、「c」は0.003≦c≦0.100である関係を満足する。「c」は0.005以上であることが好ましい。一方、「c」は0.050以下であることが好ましい。
【0047】
「c」は、「B1」元素および「B2」元素の合計原子数5に対して、Aサイトを占める傾向にある元素のうち、「A3」元素の原子数を示している。「A3」元素は、「A2」元素よりも共有結合性が高い傾向にある。したがって、「c」が上記の範囲内であることにより、タングステンブロンズ型結晶構造が強固となり、絶縁破壊電圧が向上する傾向にある。
【0048】
「c」が小さすぎる場合、共有結合性が低くなるため、絶縁破壊電圧の向上が抑制される傾向にある。一方、「c」が大きすぎる場合、タングステンブロンズ型結晶構造が不安定となり、絶縁破壊電圧が低下する傾向にある。
【0049】
なお、当該複合酸化物では、酸素(O)量は、「A1」、「A2」、「A3」、「B1」および「B2」の構成比、酸素欠陥等により変化することがある。そこで、本実施形態では、化学式(A1)(A2,A3)(B1)(B2)15で表される複合酸化物における化学量論比を基準として、化学量論比からの酸素の偏倚量を「σ」で表す。「σ」の範囲としては特に制限されず、たとえば-0.900以上0.925以下程度である。
【0050】
また、本実施形態に係る誘電体組成物は、上述した効果を奏する範囲内において、上述した主成分以外に他の成分を含んでいてもよい。他の成分の含有量は、誘電体組成物100mol中に、1.00mol以下であることが好ましく、0.50mol以下であることがより好ましい。
【0051】
(3.積層セラミックコンデンサの製造方法)
次に、図1に示す積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例について以下に説明する。
【0052】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様の公知の方法で製造することができる。公知の方法としては、たとえば、誘電体組成物の原料を含むペーストを用いてグリーンチップを作製し、これを焼成して積層セラミックコンデンサを製造する方法が例示される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0053】
まず、誘電体組成物の出発原料を準備する。本実施形態では、当該出発原料は粉末であることが好ましい。誘電体組成物の出発原料として、主成分の仮焼き粉末を準備する。
【0054】
主成分の仮焼き粉末の出発原料としては、主成分である上述した複合酸化物に含まれる各金属の酸化物、または、焼成により当該複合酸化物を構成する成分となる各種化合物を用いることができる。各種化合物としては、たとえば炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等が例示される。
【0055】
たとえば、「A1」の炭酸塩粉末、「A2」の水酸化物あるいは酸化物粉末、「A3」の酸化物粉末、「B1」の酸化物粉末、「B2」の酸化物粉末を準備する。なお、各粉末の平均粒子径は1.0μm以下であることが好ましい。
【0056】
続いて、準備した出発原料を所定の割合に秤量した後、ボールミル等を用いて所定の時間、湿式混合を行う。混合粉を乾燥後、大気中において1000℃以下で熱処理を行い、主成分である複合酸化物の仮焼き粉末を得る。
【0057】
その後、得られた主成分の仮焼き粉末を解砕し、誘電体組成物原料粉末を得る。誘電体組成物原料粉末の平均粒子径は任意である。例えば、0.5μm~2.0μmである。
【0058】
続いて、グリーンチップを作製するためのペーストを調製する。得られた誘電体組成物原料粉末と、バインダと、溶剤と、を混練し塗料化して誘電体層用ペーストを調製する。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。また、誘電体層用ペーストは、必要に応じて、可塑剤等の添加物を含んでもよい。
【0059】
内部電極層用ペーストは、上述した導電材の原料と、バインダと、溶剤と、を混練して得られる。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。内部電極層用ペーストは、必要に応じて、共材や可塑剤等の添加物を含んでもよい。
【0060】
外部電極用ペーストは、内部電極層用ペーストと同様にして調製することができる。
【0061】
上記した各ペースト中のバインダおよび溶剤の含有量は特に制限はされず、通常の含有量であればよい。たとえば、バインダは1質量%~5質量%程度、溶剤は10質量%~50質量%程度であればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体材料、絶縁体材料等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は10質量%以下とすることが好ましい。
【0062】
分散剤の種類は任意である。たとえば、界面活性剤型分散剤、高分子型分散剤を用いることができる。可塑剤の種類は任意である。たとえば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチルを用いることができる。誘電体材料の種類は任意である。たとえば、BaTiO系、CaZrO系を用いることができる。絶縁体材料の種類は任意である。たとえば、Al、SiOを用いることができる。
【0063】
得られた各ペーストを用いて、グリーンシートおよび内部電極パターンを形成し、これらを積層してグリーンチップを得る。
【0064】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5℃/時間~300℃/時間、保持温度を好ましくは180℃~500℃、温度保持時間を好ましくは0.5時間~24時間とする。また、雰囲気は、空気もしくは還元雰囲気とする。また、上記した脱バインダ処理において、脱バインダ処理の雰囲気は加湿してもよい。加湿する方法は任意である。たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5℃~75℃程度が好ましい。
【0065】
脱バインダ処理後、グリーンチップの焼成を行い、素子本体を得る。焼成条件は特に制限されない。保持温度は、好ましくは1100℃~1400℃である。保持温度が低すぎると、素子本体の緻密化が不十分となる。保持温度が高すぎると、内部電極層の異常焼結による電極の途切れ、および、内部電極層を構成する材料の拡散による容量変化率の悪化が生じやすくなる。さらに、主成分から構成される粒子が粗大化して、高温負荷寿命を低下させてしまうおそれがある。
【0066】
また、昇温速度は好ましくは200℃/時間~5000℃/時間である。また、焼成時の温度保持時間、および、焼成後の冷却速度は任意である。焼成後の主成分から構成される主相粒子の粒度分布を0.5μm~5.0μmの範囲内に制御し、主相粒子同士の体積拡散を抑制するために、温度保持時間は好ましくは0.5時間~2.0時間であり、冷却速度は好ましくは100℃/時間~500℃/時間である。
【0067】
また、焼成雰囲気としては、加湿したNとHとの混合ガスを用い、酸素分圧が10-2~10-6Paであることが好ましい。内部電極層がNiを含む場合、酸素分圧が高い状態で焼成を行うと、Niが酸化してしまい、導電性が低下してしまう場合がある。しかしながら、Niを主成分とする導電材に対し、Al、Si、Li、Cr、Feから選択された1種類以上の内部電極用副成分を含有させることで、Niの耐酸化性が向上し、酸素分圧が高い雰囲気で焼成する場合でも、内部電極層の導電性を確保することが容易となる。
【0068】
焼成後、得られた素子本体に対し、必要に応じてアニール処理を行う。アニール処理条件は、公知の条件とすればよく、たとえば、アニール処理時の酸素分圧を焼成時の酸素分圧よりも高い酸素分圧とし、保持温度を1150℃以下とすることが好ましい。
【0069】
また、上記の脱バインダ処理、焼成およびアニール処理は、独立して行ってもよく、連続して行ってもよい。
【0070】
上記のようにして得られた素子本体の誘電体層を構成する誘電体組成物は、上述した誘電体組成物である。この素子本体に端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼き付けし、外部電極4を形成する。そして、必要に応じて、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0071】
このようにして、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサが製造される。
【0072】
(4.本実施形態のまとめ)
本実施形態では、各元素の構成比が、2価の元素:3価の元素:4価の元素:5価の元素=2:1:2:3であるタングステンブロンズ型複合酸化物において、Aサイトを占める元素の原子数を減らすことにより、陽イオン空孔を生成させている。生成した陽イオン空孔は、誘電体組成物の還元焼成時に酸素空孔が生成してもこれを補償することができる。その結果、高温負荷寿命が向上する。
【0073】
さらに、Aサイトを占める元素において、3価の元素の原子数を2価の元素の原子数よりも多くすることにより、タングステンブロンズ型結晶構造における共有結合性を高めて、タングステンブロンズ型結晶構造をより安定させている。その結果、絶縁破壊電圧が向上する。このような効果は、3価の元素として、より共有結合性が高い元素を上述した範囲内で含むことによりさらに向上する。
【0074】
(5.変形例)
上述した実施形態では、本実施形態に係る電子部品が積層セラミックコンデンサである場合について説明したが、本実施形態に係る電子部品は、積層セラミックコンデンサに限定されず、上述した誘電体組成物と電極とを有する電子部品であれば何でもよい。
【0075】
さらに、上述した誘電体組成物は、上述した効果を奏する範囲内において、所望の特性に応じて副成分を有していてもよい。副成分としては、Siの酸化物、Vの酸化物、Mnの酸化物、Alの酸化物等が例示される。副成分の含有割合は、所望の特性に応じて決定すればよい。
【0076】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変してもよい。
【実施例
【0077】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
(実験例1)
まず、主成分の出発原料として平均粒径1.0μm以下のBaCO、SrCO、CaCO、La(OH)、Pr11、Nd、Sm、Yb、Lu、Sc、Al、TiO、ZrO、Nb、Taの各粉末を準備した。最終的に得られる誘電体組成物に含まれる主成分(複合酸化物)が表1に示す組成を有するように、これらの原料を秤量した。その後、分散媒としてエタノールを用いてボールミルにより24時間湿式混合した。その後、得られた混合物を乾燥して混合原料粉末を得た。その後、大気中で保持温度900℃、保持時間2時間の条件で熱処理を行い、主成分の仮焼き粉末を得た。
【0079】
上記の方法で得られた主成分の仮焼き粉末を混合および解砕し、誘電体組成物原料粉末を得た。次に、誘電体組成物原料粉末1000gに対して、トルエン+エタノール溶液(トルエン:エタノール=50:50(重量比))、可塑剤(フタル酸ジオクチル(DOP)(ジェイ・プラス製))および分散剤(マリアリムAKM-0531(日油製))を90:6:4(重量比)で混合した溶剤を700g添加し、混合物を得た。次に、得られた混合物を、バスケットミルを用いて2時間分散させ、誘電体層用ペーストを作製した。なお、全ての実施例および比較例において、誘電体層用ペーストの粘性が約200cpsになるように調整した。具体的には、トルエン+エタノール溶液を微量添加することで粘度の調整を行った。
【0080】
内部電極層の原料として、平均粒径が0.2μmのNi粉末、平均粒径が0.1μm以下のAlの酸化物粉末、および、平均粒径が0.1μm以下のSiの酸化物粉末を準備した。AlおよびSiの合計がNiに対して5質量%となるように、これらの粉末を秤量し、混合した。その後、加湿したNとHとの混合ガス中において1200℃以上で熱処理した。熱処理後の粉末をボールミル等により解砕することで、平均粒径0.20μmの内部電極層の原料粉末を準備した。
【0081】
準備した内部電極層の原料粉末100質量%、有機ビヒクル(エチルセルロース樹脂8質量%をブチルカルビトール92質量%に溶解したもの)30質量%、およびブチルカルビトール8質量%を、3本ロールにより混練、ペースト化し、内部電極層用ペーストを得た。
【0082】
そして、作製した誘電体層用ペーストをPETフィルム上に塗布してグリーンシートを形成した。この際に、乾燥後のグリーンシートの厚みが10μmとなるようにした。次いで、内部電極層用ペーストを用いて、所定パターンの内部電極層をグリーンシート上に印刷した。その後、PETフィルムからグリーンシートを剥離することで、内部電極層が所定パターンで印刷されたグリーンシートを作製した。次いで、内部電極層が所定パターンで印刷されたグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とした。さらに、グリーン積層体を所定の形状に切断することにより、グリーンチップを得た。
【0083】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニール処理を行うことで積層セラミック焼成体(素子本体)を得た。脱バインダ処理、焼成およびアニールの条件は以下に示す通りである。また、脱バインダ処理、焼成およびアニール処理において、雰囲気ガスの加湿にはウェッターを用いた。
【0084】
(脱バインダ処理)
昇温速度:100℃/時間
保持温度:400℃
温度保持時間:8.0時間
雰囲気ガス:加湿したNとHとの混合ガス
【0085】
(焼成)
昇温速度:500℃/時間
保持温度:1200℃~1350℃
温度保持時間:2.0時間
冷却速度:100℃/時間
雰囲気ガス:加湿したNとHとの混合ガス
酸素分圧:10-5~10-9Pa
【0086】
(アニール処理)
保持温度:800℃~1000℃
温度保持時間:2.0時間
昇温、降温速度:200℃/時間
雰囲気ガス:加湿したNガス
【0087】
得られた各積層セラミック焼成体の誘電体層(誘電体組成物)についてICP発光分光分析法を用いて組成分析を行った結果、分析後の組成は、表1に記載されている組成と同組成であることが確認できた。また、誘電体組成物に対してX線回折測定を行った結果、得られたX線回析パターンより、誘電体組成物がタングステンブロンズ型の結晶構造を有していることが確認できた。
【0088】
得られた積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn-Ga共晶合金を塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサと同形状の各積層セラミックコンデンサ試料を得た。得られた積層セラミックコンデンサ試料のサイズは、いずれも3.2mm×1.6mm×1.2mmであり、誘電体層の厚み7μm、内部電極層の厚み2μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は50層とした。
【0089】
得られた積層セラミックコンデンサ試料について、175℃における絶縁破壊電圧および280℃における高温負荷寿命を下記に示す方法により測定した。
【0090】
(175℃での絶縁破壊電圧)
積層セラミックコンデンサ試料を、175℃のオイルバス中に載置し、昇圧速度100V/secの条件で直流電圧を印加し、漏れ電流が10mAを超えた時点での電圧値を耐電圧とした。得られた耐電圧を誘電体層の厚みで割ることにより、単位厚みあたりの耐電圧(絶縁破壊電圧)を算出した。絶縁破壊電圧は高いほうが好ましく、本実施例では、絶縁破壊電圧が270V/μm以上である試料を良好であると判断した。絶縁破壊電圧が290V/μm以上である試料がより好ましい。結果を表1に示す。
【0091】
(280℃における高温負荷寿命)
280℃において、積層セラミックコンデンサ試料の誘電体層に対し電界強度40V/μmが印加されるように直流電圧を印加しながら、絶縁抵抗の経時変化を測定した。直流電圧印加開始時の絶縁抵抗値から絶縁抵抗値が1桁低下するまでの時間を故障時間とした。故障時間のワイブル解析から50%の平均故障時間(MTTF)を算出した。各試料番号において、20個の試料について平均故障時間を測定し、その平均値を高温負荷寿命とした。高温負荷寿命は長いほど好ましい。本実施例では、高温負荷寿命が9.0時間以上である試料を良好と判断した。結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1より、A1、A2、A3、B1およびB2が適切に選択され、「a」、「b」および「c」が上述した範囲内にある積層セラミックコンデンサ試料は、175℃における絶縁破壊電圧と280℃における高温負荷寿命が良好であることが確認できた。
【0094】
これに対し、「a」、「b」および「c」が上述した範囲外である場合には、175℃における絶縁破壊電圧と280℃における高温負荷寿命のうち少なくとも1つが悪化することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本実施形態に係る誘電体組成物は、高温度域において、高温負荷寿命が長く、しかも絶縁破壊電圧が高い。したがって、175℃以上の高温領域での使用が求められる車載用途の電子部品に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0096】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… 素子本体
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極
図1