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特許7491839長期作用型の変異ヒト由来線維芽細胞増殖因子の新規な用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】長期作用型の変異ヒト由来線維芽細胞増殖因子の新規な用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/18 20060101AFI20240521BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240521BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240521BHJP
   C07K 14/50 20060101ALN20240521BHJP
【FI】
A61K38/18
A61P1/16
A61P29/00
C07K14/50
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020500949
(86)(22)【出願日】2018-03-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 CN2018079482
(87)【国際公開番号】W WO2018171557
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-02-02
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】201710172824.0
(32)【優先日】2017-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519342482
【氏名又は名称】天士力生物医薬股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】TASLY BIOPHARMACEUTICALS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Building 1,2,No.280 Juli Road,China (Shanghai) Pilot Free Trade Zone,Shanghai 201203 China
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(72)【発明者】
【氏名】李 剣
(72)【発明者】
【氏名】韓 君
(72)【発明者】
【氏名】馬 暁慧
(72)【発明者】
【氏名】太 平
(72)【発明者】
【氏名】王 根輩
(72)【発明者】
【氏名】曹 小丹
(72)【発明者】
【氏名】黄 瑞晶
(72)【発明者】
【氏名】金 永傑
(72)【発明者】
【氏名】李 静
(72)【発明者】
【氏名】陳 晨
(72)【発明者】
【氏名】賈 国勇
(72)【発明者】
【氏名】王 媛媛
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】田村 直寛
【審判官】松波 由美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/065326(WO,A2)
【文献】特表2013-533227(JP,A)
【文献】特表2013-532644(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103193878(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101935346(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103923207(CN,A)
【文献】特表2011-523561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K38/00
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非アルコール性脂肪肝炎治療用医薬の調製における、PEG化hmFGF21またはその薬学的に許容可能な塩の使用であって、
前記使用は、血清中のアラニントランスアミナーゼおよびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼレベルの低下、脂肪変性の程度の改善、肝小葉炎症の程度の改善、肝細胞風船様変性の程度の低下および肝損傷の程度の改善におけるPEG化hmFGF21またはその薬学的に許容可能な塩の使用から選ばれることを特徴とする使用
【請求項2】
前記非アルコール性脂肪肝炎は、肝炎に起因する非アルコール性脂肪肝炎、肥満症に起因する非アルコール性脂肪肝炎、糖尿病に起因する非アルコール性脂肪肝炎、インスリン抵抗性に起因する非アルコール性脂肪肝炎、高トリグリセリド血症に起因する非アルコール性脂肪肝炎、無βリポ蛋白血症に起因する非アルコール性脂肪肝炎、糖原病に起因する非アルコール性脂肪肝炎、ウェーバー・クリスチャン病に起因する非アルコール性脂肪肝炎、ウォルマン病に起因する非アルコール性脂肪肝炎または脂肪栄養不良に起因する非アルコール性脂肪肝炎から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記医薬は、医薬活性成分としてPEG化hmFGF21またはその薬学的に許容可能な塩を含有する医薬組成物であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記医薬組成物は、いずれか1種の薬学的に許容可能な剤形に調製されてもよいことを特徴とする請求項に記載の使用。
【請求項5】
前記剤形は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、散剤、ペースト剤、ペレット、注射剤、坐剤、噴霧剤、滴剤、貼布剤、滴丸剤より選ばれることを特徴とする請求項に記載の使用。
【請求項6】
前記剤形は、粉末注射剤または液状注射剤から選ばれることを特徴とする請求項に記載の使用。
【請求項7】
前記液状注射剤は、水性注射剤、有機溶剤注射剤、懸濁性注射剤から選ばれることを特徴とする請求項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医薬分野に属し、具体的には、非アルコール性脂肪肝炎治療用医薬における、長期作用型の変異ヒト由来線維芽細胞増殖因子-21の応用に関する。
【背景技術】
【0002】
非アルコール性脂肪肝(non-alcoholic fatty liver)とも呼ばれる非アルコール性脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease,NAFLD)は、様々な原因に起因するが、病変の主体は肝小葉での肝実質細胞の脂肪変性およびトリグリセリド(triglyceride,TG)の蓄積(肝組織の脂質含量が肝湿量の5%以上を超えるか、または組織学的に1/3以上の肝細胞が脂肪化されている)を特徴とし、病理学的変化はアルコール性肝疾患(alcoholic liver disease,ALD)と類似しているが、過度な飲酒歴(エタノール量換算で、男性<140g/週、女性<70g/週)およびその他の明確な肝損傷要因のない臨床病理学的症候群である。
【0003】
非アルコール性脂肪肝疾患の疾患スペクトラムには、非アルコール性単純脂肪肝(non-alcoholic fatty liver,NAFL)、非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis,NASH)、非アルコール性脂肪肝硬変(non-alcoholic cirrhosis,NAC)および肝細胞癌が含まれる。
【0004】
ここ20年にわたり、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)および非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、すでに西洋諸国の肝疾患の主要な病因となっている。非アルコール性脂肪肝疾患は、このときに適時の制御ができないと、脂肪が過度に累積して変性し続け、非アルコール性脂肪肝炎に進展しやすい。非アルコール性脂肪肝炎と非アルコール性脂肪肝疾患は、脂肪の過度な累積の他に、炎症性細胞浸潤、様々な程度の線維化および肝細胞の損傷が肝部に現われるという点で区別される。なお、非アルコール性脂肪肝炎が有効に制御されずに進展し続けると、肝線維化、肝硬変、ひいては肝癌が極めて容易に発生してしまう。
【0005】
現在のところ、NASH疾患の臨床に対し、長期的に応用でき、安全かつ有効な医薬は未だない。
【0006】
線維芽細胞増殖因子-21(fibroblast growth factor-21,FGF-21)は、近年発見されたin vivoにおけるもう1つの代謝調節因子であり、線維芽細胞増殖因子ファミリーに属し、その特異性である肝臓、脂肪、膵島細胞に作用しかつインスリンに依存せずに有効かつ安全に血糖血脂を調節する能力が研究者に重視されており、線維芽細胞増殖因子-21(FGF-21)がin vitro誘導におけるNAFLDを有効に予防治療できるということも報告されている(劉敏等、in vitro誘導における非アルコール性脂肪肝細胞モデルの脂質代謝に対する線維芽細胞増殖因子-21の影響、吉林大学学報、2012年5月、第38卷第3期、477~481)。
【0007】
HARBIN BOAO BIO-MEDICAL TECHNOLOGY DEVELOPMENT COMPANYによるCN2013101152100(公開番号CN103193878A)には、新規な長期作用型の変異ヒト由来線維芽細胞増殖因子およびポリエチレングリコールの架橋物が開示されているが、ポリエチレングリコール架橋物の蛋白質構造は配列3であり、その調製方法は該文献の実施例4を参照し、後日、この発明の発明者が脂糖素(英文名:PEGylation Recombinant Human-mouse Chimeric Fibroblast Growth Factor 21、略称PEG-hmFGF21)と命名した。
【0008】
脂糖素は、血糖の調節、血液中のトリグリセリドの低下および総コレステロールの調節等の効果を有するが、脂糖素を使用した非アルコール性脂肪肝炎の治療に関しては、今のところ報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、非アルコール性脂肪肝炎治療用医薬における、長期作用型の変異ヒト由来線維芽細胞増殖因子の応用を提供する。
【0010】
前記長期作用型の変異ヒト由来線維芽細胞増殖因子は、脂糖素またはその塩であり、その配列は、CN2013101152100(公開番号CN103193878A)の配列3を参照する。
【0011】
本発明に係る応用には、脂糖素またはその塩が、血清中のアラニントランスアミナーゼ(ALT)およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)レベルを低下させ、脂肪変性の程度を改善し、肝小葉炎症の程度を改善し、肝細胞風船様変性の程度を低下させ、肝損傷の程度を改善することが可能であることが含まれる。
【0012】
本発明に係る非アルコール性脂肪肝炎には、肝炎に起因する非アルコール性脂肪肝炎に限定されず、肥満症に起因する非アルコール性脂肪肝炎、糖尿病に起因する非アルコール性脂肪肝炎、インスリン抵抗性に起因する非アルコール性脂肪肝炎、高トリグリセリド血症に起因する非アルコール性脂肪肝炎、無βリポ蛋白血症に起因する非アルコール性脂肪肝炎、糖原病に起因する非アルコール性脂肪肝炎、ウェーバー・クリスチャン病に起因する非アルコール性脂肪肝炎、ウォルマン病に起因する非アルコール性脂肪肝炎および脂肪栄養不良に起因する非アルコール性脂肪肝炎等が含まれるが、これらに限定されない。
【0013】
ここで、前記医薬は、医薬活性成分として本発明の脂糖素またはその薬学的に許容可能な塩を含有する医薬組成物であり、前記医薬組成物は、いずれか1種の薬学的に許容可能な剤形に調製されてもよく、これらの剤形は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、散剤、ペースト剤、ペレット、粉剤、溶液剤、注射剤、坐剤、噴霧剤、滴剤、貼布剤を含み、本発明の医薬は、粉末注射剤、または、水性注射剤、有機溶剤注射剤、懸濁性注射剤等のような液状注射剤に調製される注射用医薬であることが好ましい。
【0014】
本発明の医薬組成物において、経口投与による製剤は、例えば、接着剤、充填剤、希釈剤、錠剤圧縮剤、潤滑剤、崩壊剤、着色剤、調味剤および湿潤剤のような通常用いられる賦形剤を含有してもよい。適用される充填剤は、デンプン、スクロース、セルロース、マンニトール、ラクトースおよびその他の類似の充填剤を含む。好適な崩壊剤は、デンプン、ポリビニルピロリドンおよびデンプン誘導体を含み、例えば、デンプングリコール酸ナトリウムである。好適な潤滑剤は、例えば、ステアリン酸マグネシウムを含む。混合、充填、打錠等の通常用いられる方法によって経口固形組成物を調製することができる。繰り返し混合することで、大量の充填剤を用いたこれらの組成物全体に活性物質を分布させることができる。通常用いられる補助材料の成分は、マンニトール、ソルビトール、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、塩酸システイン、メルカプト酢酸、メチオニン、ビタミンC、EDTA二ナトリウム、EDTAカルシウムナトリウム、一価アルカリ金属の炭酸塩、酢酸塩、リン酸塩またはそれらの水溶液、塩酸、酢酸、硫酸、リン酸、アミノ酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、乳酸ナトリウム、キシリトール、マルトース、グルコース、フルクトース、デキストラン、グリシン、デンプン、スクロース、ラクトース、マンニトール、ケイ素誘導体、セルロースおよびそれらの誘導体、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、グリセリン、ツイン80、寒天、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、界面活性剤、ポリエチレングリコール、シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、リン脂質系材料、カオリン、タルカムパウダー、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等を含む。
【0015】
本発明の医薬組成物は、使用の際に、疾病の状態に応じて使用方法および使用量を決定し、各回1~10の用量単位で、1日につき1~6回服用してもよく、各用量単位は、0.1mg~1000mgであってもよい。
【0016】
本発明で提供される脂糖素の新規な用途は、以下の利点を有する。
【0017】
脂糖素は、血清中のアラニントランスアミナーゼ(ALT)およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)レベルを顕著に低下させ、脂肪変性の程度を改善し、肝小葉炎症の程度を改善し、肝細胞風船様変性の程度を低下させ、肝損傷の程度の病理学的スコアを改善することができる。最終的な結果は、本発明が非アルコール性脂肪肝炎の治療に用いられることができ、かつ効果が従来技術より優れていることを証明している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【0019】
本発明に用いられる脂糖素の調製方法は、CN2013101152100(公開番号CN103193878A)の実施例4を参照することができる。
【0020】
実施例1:水性注射剤の調製
【0021】
1.組成:
脂糖素蛋白質(濃度10mg/mL)、ヒスチジン(薬用グレード、濃度10mg/mL)、クエン酸-クエン酸ナトリウム緩衝液(20mMのクエン酸ナトリウム-クエン酸、100mMのNaCl、pH5.5±0.1)。
【0022】
2.調製方法:
(1)濃度が12.5mg/mLである脂糖素蛋白質原液を、緩衝系がクエン酸-クエン酸ナトリウムである緩衝液で、pH5.5±0.1に調節して用意する。
【0023】
(2)濃度が50mg/mLであるヒスチジン母液を、緩衝系がクエン酸-クエン酸ナトリウムである緩衝液で、pH5.5±0.1に調節して用意する。
【0024】
(3)ステップ(1)の脂糖素蛋白質原液とステップ(2)のヒスチジン母液とを、体積比が4:1である配合比率に基づいて、500μL/本の基準で2mLのバイアルに充填する。
【0025】
実験例1:有効用量範囲における、メチオニン・コリン欠乏飼料(MCD diet)により誘導される非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis,NASH)マウスモデルに対する脂糖素の治療作用。
【0026】
本実験では、メチオニン・コリン欠乏飼料(MCD)により誘導されるマウスNASHモデルを選択して使用する。その主な理由は、このような飼料の応用にはすでに40年以上の歴史があり、その生産工程は発展を重ねて成熟しており、かつ誘発される特徴もすでに多方面から検証され、その迅速性(約4週間でNASH関連症状を誘発することができる)および有効性(誘発される症状とヒトNASHとには大きな類似性がある)のためである。
【0027】
1.実験方法:
8週齢のC57BL雄性マウスを2週間適応するように餌付けた後、メチオニン・コリン欠乏(MCD)飼料で飼育を開始し、MCD飼料で2週間飼育した後、動物の体重に基づいて、溶剤群、FGF-21群、脂糖素低用量群、脂糖素高用量群の4つの群にランダムに分け、各群10匹であり、投与方式は皮下注射で1日1回投与し、投与周期は2週間である。
【0028】
動物群および投与状況における具体的な状況は、表1に示す通りである。
【0029】
【表1】
【0030】
投与終了後にマウスを致死させ、関連組織を摘出して後続の分析を行う。
【0031】
2.検出指標:
2.1 血清を分離して、血清中の各種生化学指標である血清アラニントランスアミナーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の含有量を、臨床で常用される測定キット(Shensuo UNF)で測定して検出する。
【0032】
2.2 マウス肝臓組織を形態学的に検出する。H&E染色方法によりマウス肝臓の形態変化を観察する。その具体的なステップは次の通りである。新たに取り出された小塊の肝臓をホルマリン溶液中で一晩固定し、勾配による脱水後にさらに浸漬し、包埋して、5μmに薄切りし、ヘマトキシリン-エオジン染液を用いて肝臓切片を染色し、最後に顕微鏡下で各マウス肝臓組織の形態を観察する。
【0033】
2.3 マウス肝臓組織のコラーゲン線維を検出する。シリウスレッド(Sirius Red,SR)染色法によりマウス肝臓のコラーゲン蓄積を観察する。その具体的なステップは次の通りである。パラフィンブロックから切り出したマウス肝臓切片をSirius Red染色キットを用いて染色し、最後に顕微鏡下で各マウス肝臓組織の線維化状況を観察する。
【0034】
非アルコール性脂肪肝炎の深刻度に対するスコア基準(NASH Clinical Research Network scores)を臨床的に設定する。主に、脂肪変性(steatosis)、肝小葉炎症(lobular inflammation)、肝細胞風船様変性(ballooning)の3つの態様を含む。本実験では、各群から5匹のマウスをランダムに選択し、対応するマウス肝組織のH&E染色切片において、5つの視野をランダムに選択して、上記の3つの態様からスコアを付け、各群のマウスの肝炎の病変の程度を客観的に評価する。
【0035】
3.データの統計および分析は、SPSS16.0統計学ソフトウェアで分析し、2つの群のデータ間はt検定を採用し、複数の群のデータ間はOne-way ANOVA検定を採用し、多重線形回帰分析し、P<0.05で、統計学的有意差ありとする。
【0036】
4.実験結果:
4.1 血清中のアラニントランスアミナーゼ(ALT)レベルに対する脂糖素の影響は、表2に示した通りである。
【0037】
【表2】
【0038】
表2の結果は次の通りである。2週間の治療を経た後に次のことが見出された。FGF-21群の非アルコール性脂肪肝炎マウスのALTレベルが100.2±20.6U/Lに低下し、かつ溶剤群の199.8±30.8U/Lに比べて顕著な差があり(P<0.05)、脂糖素低用量群および高用量群のALTレベルがそれぞれ51.1±7.7U/Lおよび39.9±4.1U/Lに低下し、かつ溶剤群とは極めて顕著な差があり(P<0.001)、FGF-21群に比べても顕著な差があり(P<0.05)、いずれも脂糖素はALTレベルを低下させる薬効を有するだけでなく、その薬効がFGF-21群より優れていることを説明している。
【0039】
4.2 血清中のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)レベルに対する脂糖素の影響は、表3に示した通りである。
【0040】
【表3】
【0041】
表3の結果は次の通りである。2週間の治療を経た後に次のことが見出された。FGF-21群の非アルコール性脂肪肝炎マウスのASTレベルが115.7±15.9U/Lに低下し、かつ溶剤群の196.9±29.3U/Lに比べて顕著な差があり(P<0.05)、脂糖素低用量群および高用量群のALTレベルがそれぞれ74.4±7.9U/Lおよび73.7±7.8U/Lに低下し、かつ溶剤群とは極めて顕著な差があり(P<0.01)、FGF-21群に比べても顕著な差があり(P<0.05)、脂糖素はALTレベルを低下させる薬効を有するだけでなく、その薬効がFGF-21群より優れていることを説明している。
【0042】
4.3 NASH臨床関連スコアに対する改善作用は、表4に示した通りである。
【0043】
【表4】
【0044】
表4の結果は次の通りである。2週間の治療を経た後に、FGF-21群は、溶剤群に比べて肝細胞風船様変性およびNASHの総スコアはいずれも顕著な改善があったが(P<0.05)、肝細胞炎症に対しては顕著な改善がなかった(P>0.05)。脂糖素低用量群および高用量群は、溶剤群に比べて肝小葉炎症、肝細胞風船様変性およびNASHの総スコアにおいていずれも極めて顕著な改善があった。なお、脂糖素高用量群は、脂肪変性レベルにおいても溶剤群より顕著に優れていた。なお、脂糖素低用量群または/および脂糖素高用量群は、脂肪変性、肝小葉炎症、肝細胞風船様変性およびNASHの総スコアにおいていずれもFGF-21処理群より顕著に優れていた。以上の結果は、脂糖素が、肝小葉炎症、肝細胞風船様変性およびNASHの総スコアを改善する薬効を有するだけでなく、その薬効がFGF-21群より顕著に優れていることを説明している。
【0045】
5.実験結果:
脂糖素を注射して検出することにより、次のことが見出された。脂糖素低用量群または/および脂糖素高用量群は、溶剤群およびFGF-21群に比べて血清中のアラニントランスアミナーゼ(ALT)およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)レベルを顕著に低下させ、脂肪変性の程度を改善し、肝小葉炎症の程度を改善し、肝細胞風船様変性の程度を低下させ、肝損傷の程度の病理学的スコアを改善することができる。以上の結果は、脂糖素が非アルコール性脂肪肝炎の治療作用を有することを説明している。
【0046】
6.結論:
脂糖素は、非アルコール性脂肪肝炎を治療する臨床的応用価値を有し、かつ従来技術より優れている。