(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜、選択性膜構造、及び関連する方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20240521BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240521BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240521BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240521BHJP
B01D 71/10 20060101ALI20240521BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20240521BHJP
B01D 71/28 20060101ALI20240521BHJP
B01D 71/30 20060101ALI20240521BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20240521BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20240521BHJP
B01D 71/38 20060101ALI20240521BHJP
B01D 71/40 20060101ALI20240521BHJP
B01D 71/42 20060101ALI20240521BHJP
B01D 71/48 20060101ALI20240521BHJP
B01D 71/52 20060101ALI20240521BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20240521BHJP
B01D 71/64 20060101ALI20240521BHJP
B01D 71/70 20060101ALI20240521BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20240521BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240521BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02 500
B01D71/10
B01D71/26
B01D71/28
B01D71/30
B01D71/34
B01D71/36
B01D71/38
B01D71/40
B01D71/42
B01D71/48
B01D71/52
B01D71/56
B01D71/64
B01D71/70
B01D71/68
B01D71/70 500
H01B1/06 A
C04B38/00 303Z
(21)【出願番号】P 2020537487
(86)(22)【出願日】2019-01-04
(86)【国際出願番号】 US2019012380
(87)【国際公開番号】W WO2019136272
(87)【国際公開日】2019-07-11
【審査請求日】2021-12-28
(32)【優先日】2018-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514104933
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ ワシントン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・エム・ニューブルーム
(72)【発明者】
【氏名】アーロン・エフ・ウェスト
(72)【発明者】
【氏名】ライアン・カスティラニ
(72)【発明者】
【氏名】キャンフェン・ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイミー・ロドリゲス
(72)【発明者】
【氏名】リロ・ディー・ポッツォ
(72)【発明者】
【氏名】ローレン・マーティン
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-077572(JP,A)
【文献】国際公開第2016/069820(WO,A1)
【文献】特表2012-507398(JP,A)
【文献】特開平09-142964(JP,A)
【文献】国際公開第2017/172038(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00
B01D 69/00
B01D 69/10
B01D 69/12
B01D 71/02
B01D 71/10
B01D 71/26
B01D 71/28
B01D 71/30
B01D 71/34
B01D 71/36
B01D 71/38
B01D 71/40
B01D 71/42
B01D 71/48
B01D 71/52
B01D 71/56
B01D 71/64
B01D 71/70
B01D 71/68
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径10nm以上である複数の支持体細孔を有する多孔質支持体と、
多孔質支持体の少なくとも一部を充填するナノ多孔質ゾルゲルセラミック複合材を含むナノ多孔質複合材と
を含むナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜であって、
ナノ多孔質複合材が、小角X線散乱プロファイルを0.01Å
-1~1Å
-1の散乱ベクトルq範囲にわたって多分散フラクタルモデルに当てはめることにより決定される0.7以下の多分散指数を有する平均半径5nm以下の複数のナノ細孔を有し、
ナノ多孔質ゾルゲルセラミック複合材が、1種又は複数種のセラミック前駆体を含むゾルゲル前駆体組成物の酸溶液への曝露によるゲル化生成物であり、
セラミック前駆体が、テトラアルキルオルトシリケートを含み、かつ、ゾルゲル前駆体組成物が、添加剤としてのイオン電導性ポリマーをゾルゲル前駆体組成物の10体積%以下の量でさらに含み、
ここで、多分散フラクタルモデルは、フラクタル凝集体モデルにおいて構成単位の半径R
Oがガウス関数に従う加重平均である数学モデルであって、
- フラクタル凝集体モデルが、下記式
【数1】
[式中、
P(q)は、フラクタル凝集体モデルの構成単位の形状因子であり、
S(q)は、フラクタル凝集体モデルの有効構造因子であり、
bckは、バックグラウンド散乱である]
に従う散乱ベクトルqの関数としての散乱強度Iの尺度であり、
- 形状因子P(q)が、下記式
【数2】
[式中、
【数3】
であり、
【数4】
であり、
【数5】
であり、
スケールは、測定されたナノ多孔質ゾルゲルセラミックの構成単位の体積分率であり、
R
Oは、構成単位の加重平均半径であり、
D
fは、フラクタル次元であり、
ξは、相関長であり、
ρ
溶媒は、溶媒の散乱長密度であり、
ρ
構成単位は、構成単位の散乱長密度である]
により定義される均一球形状因子であり、
- 構成単位の加重平均半径R
Oの多分散
比が、下記式
【数6】
[式中、
x
平均は、分布の平均値であり、
Normは、数値計算中に決定される正規化因子である]
のガウス関数に従う、
数学モデルである、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項2】
直径10nm以上である複数の支持体細孔を有する多孔質支持体と、
多孔質支持体の少なくとも一部を充填するナノ多孔質ゾルゲルセラミック複合材を含むナノ多孔質複合材と
を含むナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜であって、
ナノ多孔質複合材が、小角X線散乱プロファイルを0.01Å
-1~1Å
-1の散乱ベクトルq範囲にわたって多分散フラクタルモデルに当てはめることにより決定される0.7以下の多分散指数を有する平均半径5nm以下の複数のナノ細孔を有し、
ナノ多孔質ゾルゲルセラミック複合材が、1種又は複数種のセラミック前駆体を含むゾルゲル前駆体組成物の酸溶液への曝露によるゲル化生成物であり、
セラミック前駆体が、テトラアルキルオルトシリケート又はコロイド状セラミック粒子を含み、式R*
2-Si-(OR)
2又はR*-Si-(OR)
3
[式中、R*は、それぞれ出現する毎に独立して、任意選択で置換されていてよいC1~C15アルキル、任意選択で置換されていてよいC4~C20ヘテロアルキル、任意選択で置換されていてよいアリール、又は任意選択で置換されていてよいヘテロアリールであり、Rは、それぞれ出現する毎に独立して、任意選択で置換されていてよいC1~C6アルキルである]
を有する1種又は複数種の有機シランをさらに含み
ここで、多分散フラクタルモデルは、請求項1で定義したとおりである、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項3】
有機シランが、C
6H
13-Si-(OR)
3である、請求項2に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項4】
直径10nm以上である複数の支持体細孔を有する多孔質支持体と、
多孔質支持体の少なくとも一部を充填するナノ多孔質ゾルゲルセラミック複合材を含むナノ多孔質複合材と
を含むナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜であって、
ナノ多孔質複合材が、小角X線散乱プロファイルを0.01Å
-1~1Å
-1の散乱ベクトルq範囲にわたって多分散フラクタルモデルに当てはめることにより決定される0.7以下の多分散指数を有する平均半径5nm以下の複数のナノ細孔を有し、
ナノ多孔質ゾルゲルセラミック複合材が、1種又は複数種のセラミック前駆体を含むゾルゲル前駆体組成物の酸溶液への曝露によるゲル化生成物であり、
セラミック前駆体が、Ti(OH)
x(OR)
y
[式中、Rは、出現する毎に独立して、C1~C6アルキルであり、xは、0~4の範囲の整数であり、yは、0~4の範囲の整数であり、x及びyの和は、4である]
を含み、テトラアルキルオルトシリケートをさらに含むか又は含まず
ここで、多分散フラクタルモデルは、請求項1で定義したとおりである、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項5】
多孔質支持体が、ポリマー材料、セラミック材料、金属、及びそれらの組合せからなる群から選択される材料を含む、請求項1、2、又は4に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項6】
多孔質支持体が、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアセトニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリスルホンアミド、ポリアクリルアミド、ポリジメチルシロキサン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンスルフィド、ポリテトラフルオロエチレン、セルロース、及びそれらの組合せからなる群から選択される材料を含む、請求項1、2、又は4に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項7】
多孔質支持体が、シリカ、チタニア、ジルコニア、ゲルマニア、アルミナ、グラファイト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ホウケイ酸ガラス、ケイ酸リチウム、ケイ酸カリウム、酸化スズ、酸化鉄、カーボンナノチューブ、鉄、又はそれらの組合せを含む、請求項1、2、又は4に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項8】
多孔質支持体が、不織布、不織メッシュ、ベール、編布、織布、織メッシュ、連続気泡発泡体、及びそれらの組合せからなる群から選択される材料を含む、請求項1、2、又は4に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項9】
ポリマー材料により形成された、多孔質支持体の縁部の少なくとも一部に沿った圧縮可能な縁取りを更に含み、ポリマー材料が、多孔質支持体に少なくとも1μm浸透している、請求項1、2、又は4に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項10】
圧縮可能な縁取りが、多孔質支持体の全ての縁部に沿っており、ガスケットを画定している、請求項9に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項11】
圧縮可能な縁取りが、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜の表面の50%以下を被覆する、請求項9に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項12】
圧縮可能な縁取りのポリマー材料が、弾性ポリマーを含む、請求項9に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項13】
ゾルゲル前駆体組成物が、触媒、導電性粒子、機械的特性改善材料、及びそれらの組合せからなる群から選択される添加剤を更に含む、請求項1に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項14】
ゾルゲル前駆体組成物が、触媒、イオン伝導性ポリマー、導電性粒子、機械的特性改善材料、及びそれらの組合せからなる群から選択される添加剤を更に含む、請求項2又は3に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項15】
添加剤が、ゾルゲル前駆体組成物の10体積%以下の量で存在する、請求項13又は14に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項16】
ゾルゲル前駆体組成物が、1種又は複数種の有機溶媒を更に含む、請求項1、2、又は4に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項17】
有機溶媒が、C1~C5アルコール又はC6芳香族化合物である、請求項1、2、又は4に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項18】
バッテリー膜、燃料電池膜、電気透析膜、酸回収膜、クロロ-アルカリ膜、溶媒抽出膜、電着膜、及び電気脱イオン化膜、栄養素回収膜、食品加工膜、逆浸透膜、気体分離膜、並びにバイオ分離膜からなる群から選択される種類の膜である、請求項1、2、又は4に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項19】
フローバッテリー用のイオン伝導膜である、請求項1、2、又は4に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項20】
燃料電池用のイオン伝導膜である、請求項1、2、又は4に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項21】
電気透析用のイオン伝導膜である、請求項1、2、又は4に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項22】
クロロ-アルカリプロセス用のイオン伝導膜である、請求項1、2、又は4に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項23】
小角X線散乱プロファイルを多分散フラクタルモデルに当てはめることにより決定される、0.5nm~2nmの範囲内の平均細孔半径を有する、請求項1、2、又は4に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項24】
4M H
2SO
4中で測定した場合に0.01オーム*cm
2~10オーム*cm
2の範囲内、又は0.5M NaCl中で測定した場合に0.1オーム*cm
2~100オーム*cm
2の範囲内のイオン面積比抵抗(ASR)を有する、請求項1、2、又は4に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜。
【請求項25】
平面構成で結合した複数の個別の選択性膜を含み、
前記個別の選択性膜が、請求項1~24のいずれか一項に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜である、選択性膜構造体。
【請求項26】
複数の個別の選択性膜が、複数の個別の選択性膜のそれぞれの少なくとも一部を重ね合わせている支持体部材によって、平面構成で結合している、請求項25に記載の選択性膜構造体。
【請求項27】
複数の個別の選択性膜を含む選択性膜構造体の活性膜表面積が、選択性膜構造体の全表面積の50%超である、請求項25に記載の選択性膜構造体。
【請求項28】
複数の個別の選択性膜を含む選択性膜構造体の活性膜表面積が、50%~95%の範囲内である、請求項25に記載の選択性膜構造体。
【請求項29】
支持体部材が、イオン交換材料を含む、請求項25に記載の選択性膜構造体。
【請求項30】
支持体部材が、個別の選択性膜が配置される複数の開口を画定するようにグリッド構成で配置される、請求項25に記載の選択性膜構造体。
【請求項31】
個別の選択性膜が、
直径10nm以上である複数の支持体細孔を有する多孔質支持体と;
多孔質支持体の活性領域を充填するナノ多孔質ゾルゲルセラミック複合材を含むナノ多孔質複合材と
を含む、請求項25に記載の選択性膜構造体。
【請求項32】
ナノ多孔質複合材が、0.5以下の多分散指数を有する半径5nm以下の複数のナノ細孔を含む、請求項31に記載の選択性膜構造体。
【請求項33】
ナノ多孔質ゾルゲルセラミックが、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックの小角散乱スペクトルを数学モデルに当てはめることにより決定されるフラクタルナノ多孔質構造を有する、請求項31に記載の選択性膜構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年1月4日出願の米国仮特許出願第62/613,719号、及び2018年1月4日出願の米国仮特許出願第62/613,712号の利益を主張し、それらの開示は、参照によりその全内容が明示的に本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
分子を選択的にフィルターリングすることができるナノ多孔質セラミック膜は、そのポリマー対応物に比べて、化学的安定性の向上及び汚損の低下を含む数多くの利点を提供する。耐用性を改善し、また粒界を低減するために、セラミック膜の高温焼結及び焼成が使用されるが、さもなければ、セラミック膜は、気密及び液密シールを形成するために必要な圧縮下で破損する。残念ながら、これらの高温処理工程は、商業的に頻繁には実施できないことが多くなるほど、膜のコストを著しく増加させる。
【0003】
セラミック選択性膜を形成する能力は、レドックスフローバッテリー(RFB)に特に顕著に有益となり得る。RFBは、グリッドスケールのエネルギー貯蔵の必要性に対する有望な解決策を提供する。従来の固体バッテリーとは異なり、RFBにおける電解質は外部タンク内に貯蔵され、バッテリーのセルスタックを通してポンピングされる。したがって、RFBは、スケーラビリティの容易性、長い耐用年数、並びに出力及びエネルギーの分離等のいくつかの魅力的な品質を有する。残念ながら、現在のRFBの高いコストにより、その能力の幅広い商業化が妨げられている。膜はこの高コストに著しく寄与しており、総資本コストの最大40%を構成し得る。これらの用途では、膜は、電荷平衡イオンを輸送し、活性種のクロスオーバーを防止することができなければならない。商用膜の低いイオン選択性により、その対称的な電解質組成によってクロスオーバーの有害作用を軽減し得る全バナジウムRFB(VRFB)に重点が置かれるようになった。VRFBでは、クロスオーバーは容量の永久的損失ではなく効率の損失をもたらすだけである。しかしながら、バナジウムは高価であり、RFBの総資本コストの50%もの割合を占める結果となり得る。米国エネルギー省は、RFBに対して$100/kWhの目標コストを掲げたが、VRFBの推定資本コストは$447/kWhである。
【0004】
最初の真のRFBとして、安価で豊富な活性材料を含む鉄-クロムレドックスフローバッテリー(ICRFB)は、コスト効果の点で極めて魅力的である。これは1.18Vの標準的な全体電池電位を有し、バッテリー内で生じる反応は以下に示される。
【0005】
【0006】
【0007】
【0008】
ICRFBのコスト効果にもかかわらず、これは、不可逆的な容量低下をもたらす活性種の顕著な膜クロスオーバーを生じやすい。多くの他の安価なRFB化学でもこれと同じ容量が生じ、それらの商業化が大きく妨げられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】S. Sladeら、「Ionic Conductivity of an Extruded Nafion(登録商標) 110 EW Series of Membranes」、J. Electrochemical Society、149(12)、A1556~A1564(2002)
【文献】J Teixeira、J. Appl. Cryst.、21(1988) 781~785
【文献】Fan、M. Degen、S. Bendle、N. Grupido、J. Ilavsky、The absolute calibration of a small angle scattering source instrument with a laboratory x-ray source、J. Phys: Conf. Series、247(2010)、012005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
フローバッテリーのコストを低減することができ、また新たなフローバッテリー化学を可能にし得る選択性ゾルゲル膜が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この概要を、以下の発明を実施するための形態で更に説明される、選択された概念を簡略化された形態で紹介するために記述する。この概要は、特許請求の範囲に記載される主題の主要な特徴を特定することを意図するものではなく、また特許請求の範囲に記載される主題の範囲を決定する上での補助として使用されることを意図するものではない。
【0012】
一態様において、本開示は、直径10nm以上である複数の支持体細孔を有する多孔質支持体と、多孔質支持体の少なくとも一部を充填するナノ多孔質ゾルゲルセラミック複合材を含むナノ多孔質複合材とを一般に含むナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜であって、ナノ多孔質複合材が、0.5以下の多分散指数を有する半径5nm以下の複数のナノ細孔を含む、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜を提供する。
【0013】
別の態様において、本開示は、直径10nm以上である複数の支持体細孔を有する多孔質支持体と;多孔質支持体の活性領域の少なくとも一部を充填するナノ多孔質ゾルゲルセラミック複合材を含むナノ多孔質複合材とを一般に含むナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜であって、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックが、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックの小角散乱スペクトルを数学モデルに当てはめることにより決定されるフラクタルナノ多孔質構造を有する、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜を提供する。
【0014】
更に別の態様において、本開示は、平面構成で結合した複数の個別の選択性膜を一般に含む、選択性膜構造を提供する。
【0015】
本発明の上記態様及びそれに付随する利点の多くは、添付の図面と関連して考慮されると、以下の発明を実施するための形態を参照することによってより良く理解されるため、より容易に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】例示的なナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜を調製するための、本開示の一実施形態による方法を示す図である。工程1:縁取りを支持体に適用する。工程2:前駆体溶液からのゾルゲルコーティング。
【
図2】例示的なナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜を調製するための、本開示の一実施形態による方法を示す図である。工程1:縁取りを適用する。工程2:性能向上材料を含むプレコーティング。工程3:前駆体溶液からのゾルゲルコーティング。
【
図3】例示的なナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜を調製するための、本開示の一実施形態による方法を示す図である。工程1:縁取りを適用する。工程2:前駆体溶液からのゾルゲルコーティング。工程3:酸(Acid)又は塩浴に浸漬して更なるゲル化を誘発する。
【
図4】1側にCrCl
3、2側にAlCl
3を有する、又は1側にVOSO
4、2側にMgSO
4を有するH型セル構成の概略図である。
【
図6】本開示の一実施形態による、Nafion(登録商標)膜及びナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜を通したCr
3+イオンの外的透過性(extrinsic permeability)のグラフである。
【
図7】本開示の一実施形態による、Nafion(登録商標)膜及びナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜を通したFe
3+イオンの外的透過性のグラフである。
【
図8】本開示の一実施形態による、Nafion(登録商標)膜及びナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜の面積比抵抗(area specific resistance、ASR)のグラフである。
【
図9】本開示の一実施形態による、Nafion(登録商標)膜及びナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜のASR対Cr
3+イオンの外的透過性のプロットを示すグラフである。
【
図10】本開示の一実施形態による、Nafion(登録商標)膜及びナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜のASR対Fe
3+イオンの外的透過性のプロットを示すグラフである。
【
図11】本開示の一実施形態による、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜の小角X線散乱(SAXS)プロファイルを示すグラフである。
【
図12】本開示の一実施形態による、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜の調製に使用されるシリカ及びセルロース多孔質支持体のSAXSプロファイルを示すグラフである。
【
図13】ナノ多孔質ゾルゲルセラミック複合材膜の可撓性及び強靭性を示す、応力下での本開示の一実施形態によるナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜の写真である。
【
図14】テトラエチルオルトシリケート(TEOS)及びヘキシルトリエトキシシランの50/50モル混合物を使用して形成された、本開示の一実施形態によるナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜のSAXSプロファイル、及びコアシェルフラクタル凝集体モデルへの対応する当てはめを示すグラフである。
【
図15】Ludox(登録商標)及びエチルトリエトキシシランを使用して合成された例示的なナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜のASR及び塩化鉄透過性のプロットを示すグラフである。
【
図16】テトライソプロポキシド(TTIP)、エタノール及び水の相図である。
【
図17】本開示の実施形態による、膜を通過したFeCl
3及びCrCl
3溶液、並びにティッシュペーパー上に示された溶液の色の写真である。
【
図18】ポリスチレンスルホネート(PSS)TEOS単相モル比の比較を示す一連の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。両方の倍率における断面の密度は、PSS比率の増加に関連して増加する。
【
図19A】撮像領域上で重ね合わされた、1:5のPSS:TEOSモル比の膜における9つの領域の上面のSEM画像である。
【
図19B】撮像領域上で重ね合わされた、1:5のPSS:TEOSモル比の膜における9つの領域の断面のSEM画像である。
【
図20】異なる比率で形成された、本開示の実施形態によるPSS/TEOナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜のバナジウム(IV)透過性及びプロトン伝導性の比較を示すグラフである。
【
図21】異なる比率で形成された、本開示の実施形態によるPSS/TEOナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜の細孔半径及びプロトン伝導性の比較を示すグラフである。
【
図22A】異なる酸条件でゲル化され、フラクタル凝集体モデルに当てはめられた、本開示の一実施形態によるNafion(登録商標)膜及び2つのナノ多孔質ゾルゲルセラミック膜のSAXSプロファイルを示すグラフである。
【
図22B】SAXSモデリングに基づく
図22AのNafion(登録商標)膜及びセラミック膜の細孔サイズ(半径)分布のグラフである。
【
図23】2mm厚のNafion(登録商標)膜(PFSA)と比較した9mm厚のナノ多孔質シリカ膜の孔隙体積分率に基づく、本開示の一実施形態による膜のイオンASRにより表される、プロトン輸送のグラフである。
【
図24】2mm厚のNafion(登録商標)膜(PFSA)と比較した9mm厚のナノ多孔質シリカ膜のフラクタル次元に基づく膜のイオン面積比抵抗(ASR)により表される、プロトン輸送のグラフである。
【
図25】商用膜が本質的に異なるナノ構造を有することを実証するための、水和したナノ多孔質Nafion(登録商標)膜のフラクタル凝集体モデルによるSAXSプロファイル当てはめを示すグラフである。このモデル当てはめは830のChi
2/N
ptを生成し、Nafion(登録商標)膜がフラクタル構造を有さないことを示している。
【
図26】本開示の一実施形態による、単一のより小さい膜を含む大型のグリッド状膜構造を調製するための方法の概略図である。
【
図27】本開示の一実施形態による、単一のより小さい膜を含む大型のグリッド状膜構造を調製するための方法の概略図である。工程1:縁取りを適用する。工程2:膜を作製する。工程3:膜グリッドを作製する。
【
図28】グリッド構造の一部としての使用に好適な、本開示の一実施形態による2つのより小さい膜(それぞれ250cm
2)の写真である。
【
図29】本開示の一実施形態によるより小さい膜(それぞれ250cm
2、ボックス)で構成される選択性膜構造(4000cm
2)の写真である。
【
図30A】本開示の一実施形態による選択性膜構造の概略図である。
【
図30B】本開示の一実施形態による別の選択性膜構造の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜、選択性膜構造、及び多孔質膜支持体上に選択性セラミックを形成することによりナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜を作製する方法が開示される。代表的なナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜は、イオン伝導性膜(例えばプロトン伝導性膜)及び気体選択性膜を含む。本開示の膜の代表的な用途は、イオン伝導性膜としての燃料電池及びレドックスフローバッテリー(RFB)への組み込みを含む。
【0018】
ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜
一態様において、直径10nm以上である複数の支持体細孔を有する多孔質支持体と;多孔質支持体の少なくとも一部を充填するナノ多孔質ゾルゲルセラミック複合材を含むナノ多孔質複合材とを含み、ナノ多孔質複合材は、約0.5以下の多分散指数を有する半径約5nm以下の複数のナノ細孔を含む、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜が本明細書で開示される。
【0019】
ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜は、セラミックの高温処理なしに形成され得る。構造は、例えば、多孔質支持体の縁部を圧縮可能ポリマーで裏打ちし(例えば
図1)、多孔質支持体をゾルゲルセラミック複合材で充填することにより達成される。このアプローチによって、膜活性領域は、圧縮領域から機械的に分断され得、したがって、非焼結及び非焼成ゾルゲルセラミック含有膜を濾過及び分離プロセスに使用するための経路が提供される。
【0020】
RFBに加えて、本明細書で開示される方法を使用して調製された膜、フィルター、又はセパレーターは、例えば、燃料電池、リチウムイオンバッテリー、他のバッテリー化学、電気透析、クロスフロー濾過、デッドエンド濾過、薬学的精製、廃水処理、逆浸透浄水、食品加工、布地及びその他の用途に使用され得る。重要な相違点を有する他のゾルゲル法を利用して、ナノ多孔質セラミック複合材膜を構築することが可能であることに留意されたい。
【0021】
典型的には、記載される膜は、異なる目的を果たす3つの成分、すなわちマクロ多孔質支持体、ナノ多孔質複合材層、及びポリマー性の縁部を含む。マクロ多孔質支持体構造は、ナノ多孔質(すなわち10nm未満の)セラミック構造を形成するために、溶媒ベースセラミック分散体/溶液(例えばシロキサン)で湿潤し得る。ナノ多孔質複合材層は、マクロ多孔質支持体構造内にあり、10nm未満の特徴的孔隙率を有する。圧縮可能なポリマー縁部は、存在する場合、縁部での液密シールを可能にしながら、ナノ多孔質ゾルゲル選択性セラミック層に対する圧縮力を排除又は低減する。ある特定の状況において、多孔質支持体構造はまた、機械的、化学的又は電気化学的安定性を改善するために、プレコーティング(すなわちナノ多孔質ゾルゲルの前)を含んでもよい。他の状況において、膜は、更にゲル化を誘発するために、後処理化学浴に供されてもよい。
【0022】
多孔質膜支持体
多孔質膜支持体(本明細書では単に「多孔質支持体」又は「支持体」と呼ばれる場合がある)は、その中及び/又は上にナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミックが形成される構造基盤である。支持体は、機械的強度及び多孔質構造を提供する。典型的には、多孔質基材は、約10nm~約50μmの平均支持体細孔半径を有する支持体細孔を含む。一部の実施形態において、支持体細孔は、約10nm以上の平均半径を有する。支持体上にセラミックが形成される場合、支持体の比較的大きな細孔は、最終的な膜内にナノメートル又はオングストロームサイズの細孔が残留するまでセラミックで閉じられ、充填される。
【0023】
多孔質支持体として、任意の好適な有機又は無機材料が使用され得る。一部の実施形態において、多孔質支持体は、ポリマー材料、セラミック材料、金属、及びそれらの組合せからなる群から選択される材料を含む。多孔質基材は、不織布、不織メッシュ、ベール、編布、織布、織メッシュ、連続気泡発泡体、及びそれらの組合せを含んでもよい。一部の実施形態において、多孔質膜支持体は、膜を形成するために使用されるセラミック前駆体ゾルに化学的に類似した化学表面官能性を有し、例えば、本開示のシリカベースゾルゲルセラミック膜を形成するための支持体として、シリカメッシュが使用され得る。他の実施形態において、多孔質膜支持体は、膜を形成するために使用されるセラミック前駆体ゾルと化学的に異なる。例えば、シリカゾルは、ポリマー又は金属膜の少なくとも一部を充填することにより、例示的な膜を形成するために使用され得る。
【0024】
一部の実施形態において、多孔質支持体は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアセトニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリスルホンアミド、ポリアクリルアミド、ポリジメチルシロキサン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンスルフィド、ポリテトラフルオロエチレン、セルロース、及びそれらの組合せからなる群から選択される材料を含む。一実施形態において、多孔質支持体は、シリカ濾紙、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群から選択される。ある特定の実施形態において、多孔質支持体は、シリカ、チタニア、ゲルマニア、ジルコニア、アルミナ、グラファイト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ホウケイ酸ガラス、ケイ酸リチウム、ケイ酸カリウム、酸化スズ、酸化鉄、カーボンナノチューブ、鉄、又はそれらの組合せを含む。
【0025】
圧縮可能な縁取り又はガスケット
一部の実施形態において、本明細書で開示される膜は、圧縮可能な縁取り又はガスケットを備える。ある特定の実施形態において、圧縮可能な縁取りにより、バッテリー、燃料電池、又は膜をシールするガスケットが使用される他のシステムに膜を組み込むことができる。圧縮可能な縁取りは、機械的に圧縮可能であると同時に、熱及び/又は膜が利用される過酷な化学環境に抵抗性である。
【0026】
したがって、一部の実施形態において、本明細書で開示されるナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜は、ポリマー材料により形成された、多孔質支持体の縁部の少なくとも一部に沿った圧縮可能な縁取りを更に含む。一部の実施形態において、ポリマー材料は、多孔質支持体に少なくとも1μm浸透している。
【0027】
一部の実施形態において、圧縮可能な縁取りは、多孔質支持体の全ての縁部に沿って形成され、ガスケットを画定する。他の実施形態において、圧縮可能な縁取りは、多孔質支持体の少なくとも1つの縁部の少なくとも一部に沿って形成される。一部の実施形態において、圧縮可能な縁取りは、本明細書で開示されるナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜の表面の約50%以下、約25%以下、約10%以下、又は約5%以下を被覆する。一部の実施形態において、縁部分は、幅1mm以上である。一部の実施形態において、縁部分は、幅5mm以上である。他の実施形態において、縁部分は、幅1cm以上である。
【0028】
圧縮可能な縁取りは、多孔質膜支持体を前駆体ゾルで充填し、前駆体ゾルをゲル化する前、又はその後に、任意の好適な方法を使用して形成され得る。一実施形態において、圧縮可能な縁取りは、セラミック選択性膜の形成後(すなわちゾルゲルプロセス後)に形成される。一実施形態において、方法は、多孔質膜基材の縁部分にポリマー材料を含浸させる工程、例えば、多孔質膜基材の1つ又は複数又は全ての縁部に、多孔質膜基材を区切るガスケットを形成するのに十分な圧縮可能なポリマーを含浸させる工程を含む。
【0029】
更なる実施形態において、圧縮可能な縁取りは、超音波溶接又はホットプレスを使用して形成される。ある特定の実施形態において、多孔質膜基材の縁部分に圧縮可能なポリマーを含浸させる工程は、溶融、溶液堆積、及びin situ反応からなる群から選択される方法を含む。
【0030】
一部の実施形態において、ポリマー材料は、弾性ポリマー、例えば熱可塑性弾性ポリマーを含む。本明細書で開示される膜の圧縮可能な縁取りを形成するために、任意の好適な弾性ポリマーを使用することができ、例えば、好適な材料は、スチレンイソブチレンブタジエンポリマー、UV又は熱硬化性シリコーン、及びエポキシを含む。一部の実施形態において、ポリマーは、ポリ(スチレン-イソブチレン-スチレン)(SIBS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及びポリジメチルシロキサン(PDMS)からなる群から選択される。
【0031】
ゾルゲル前駆体
一部の実施形態において、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜は、1種又は複数種のセラミック前駆体を含むゾルゲル前駆体組成物で多孔質支持体をコーティングし、ゾルゲル前駆体組成物をゲル化して多孔質支持体内にナノ多孔質ゾルゲルセラミック複合材を形成することにより調製される。
【0032】
好適なセラミック前駆体は、シリカ、シロキサン、ケイ酸エステル、シラノール、シラン、オルモシル(ormosil)、チタニア、ジルコニア、ゲルマニア、アルミナ、グラファイト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、及びそれらの組合せを含む。一部の実施形態において、セラミック前駆体は、テトラアルキルオルトシリケート、シラノール、シラン、ハロシラン、及びそれらの組合せを含む。
【0033】
典型的には、セラミック前駆体は、小分子(すなわち半径2nm未満)を含み、一般にゾルゲル前駆体組成物の約20体積%以上を占める。一部の実施形態において、セラミック前駆体は、ゾルゲル前駆体組成物の約40体積%以上を占める。一部の実施形態において、セラミック前駆体は、ゾルゲル前駆体組成物の約60体積%以上を占める。
【0034】
一部の実施形態において、セラミック前駆体は、式Si(OR)4[式中、Rは、任意選択で置換されていてよいC1~C15アルキルである]のテトラアルキルオルトシリケートを含む。一部の実施形態において、テトラアルキルオルトシリケートは、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)である。TEOSを含むセラミック前駆体を使用したいくつかの例示的な膜の調製は、後述の実施例に記載される。
【0035】
一部の実施形態において、セラミック前駆体は、式R*2-Si-(OR)2又はR*-Si-(OR)3[式中、R*は、それぞれ出現する毎に独立して、任意選択で置換されていてよいC1~C15アルキル、任意選択で置換されていてよいC4~C20ヘテロアルキル、任意選択で置換されていてよいアリール、又は任意選択で置換されていてよいヘテロアリールであり、Rは、それぞれ出現する毎に独立して、任意選択で置換されていてよいC1~C6アルキルである]の1種又は複数種の有機シランを含む。一部の実施形態において、有機シランは、C6H13-Si-(OR)3である。
【0036】
本明細書において使用される場合、「アルキル」という用語は、直鎖、分岐鎖及び環式一価ヒドロカルビル基、並びにそれらの組合せを含み、これは非置換である場合にはC及びHのみを含む。「アルキル」という用語は、本明細書において使用される場合、シクロアルキル及びシクロアルキルアルキル基を含む。その例は、メチル、エチル、イソブチル、シクロヘキシル、シクロペンチルエチル等を含む。そのような基のそれぞれにおける炭素原子の総数が本明細書に記載される場合があり、例えば、基が最大10個の炭素原子を含む場合、1~10C、C1~C10、C1~C10、C1~10、又はC1~10と表現され得る。「ヘテロアルキル」という用語は、本明細書において使用される場合、1個又は複数の鎖炭素原子がヘテロ原子により置き換えられた対応する炭化水素を意味する。例示的なヘテロ原子は、N、O、S、及びPを含む。ヘテロ原子が炭素原子と置き換えられた場合、例えばヘテロアルキル基において、基を説明する数字は、例えばC3~C10と記述されているとしても、環又は鎖内の炭素原子の数、及び説明されている環又は鎖内の炭素原子の置き換えとして含まれるそのようなヘテロ原子の数の和を表す。
【0037】
アルキル基は、そのような置換が化学的に理にかなっている限り、任意選択で置換されていてもよい。典型的な置換基は、これらに限定されないが、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、=O、=NCN、=NOR、=NR、OR、NR2、SR、SO2R、SO2NR2、NRSO2R、NRCONR2、NRC(O)OR、NRC(O)R、CN、C(O)OR、C(O)NR2、OC(O)R、C(O)R、及びNO2を含み、式中、各Rは、独立して、H、C1~C8アルキル、C2~C8ヘテロアルキル、C1~C8アシル、C2~C8ヘテロアシル、C2~C8アルケニル、C2~C8ヘテロアルケニル、C2~C8アルキニル、C2~C8ヘテロアルキニル、C6~C10アリール、又はC5~C10ヘテロアリールであり、各Rは、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、=O、=NCN、=NOR'、=NR'、OR'、NR'2、SR'、SO2R'、SO2NR'2、NR'SO2R'、NR'CONR'2、NR'C(O)OR'、NR'C(O)R'、CN、C(O)OR'、C(O)NR'2、OC(O)R'、C(O)R'、及びNO2で任意選択で置換されており、式中、各R'は、独立して、H、C1~C8アルキル、C2~C8ヘテロアルキル、C1~C8アシル、C2~C8ヘテロアシル、C6~C10アリール又はC5~C10ヘテロアリールである。アルキル基はまた、C1~C8アシル、C2~C8ヘテロアシル、C6~C10アリール又はC5~C10ヘテロアリールにより置換されていてもよく、それらはそれぞれ、特定の基に適した置換基により置換されていてもよい。
【0038】
「芳香族」又は「アリール」置換基又は部分は、周知の芳香族性の特徴を有する単環式又は融合二環式部分を指し、アリールの例は、フェニル及びナフチルを含む。同様に、「ヘテロ芳香族」及び「ヘテロアリール」は、環員として1個又は複数のヘテロ原子を含むそのような単環式又は融合二環式環系を指す。好適なヘテロ原子は、N、O、及びSを含み、その含有は5員環及び6員環における芳香族性を許容する。典型的なヘテロ芳香族系は、単環式C5~C6芳香族基、例えばピリジル、ピリミジル、ピラジニル、チエニル、フラニル、ピロリル、ピラゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、及びイミダゾリル等、並びにこれらの単環式基の1つをフェニル環と、又はヘテロ芳香族単環式基のいずれかと融合させてC8~C10二環式基、例えばインドリル、ベンゾイミダゾリル、インダゾリル、ベンゾトリアゾリル、イソキノリル、キノリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾフラニル、ピラゾロピリジル、キナゾリニル、キノキサリニル、シンノリニル等を形成することにより形成された融合二環式部分を含む。環系全体にわたる電子分布に関して芳香族性の特徴を有する任意の単環式又は融合環二環式系が、この定義に含まれる。これにはまた、少なくとも分子の残りの部分に直接結合した環が芳香族性の特徴を有する二環式基が含まれる。典型的には、環系は、5~14個の環員原子を含む。典型的には、単環式ヘテロアリールは、5~6個の環員を含み、二環式ヘテロアリールは、8~10個の環員を含む。
【0039】
アリール及びヘテロアリール部分は、C1~C8アルキル、C2~C8アルケニル、C2~C8アルキニル、C5~C12アリール、C1~C8アシル、及びこれらのヘテロ形態を含む様々な置換基で置換されていてもよく、そのそれぞれがそれ自体更に置換されていてもよく;アリール及びヘテロアリール部分の他の置換基は、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、OR、NR2、SR、SO2R、SO2NR2、NRSO2R、NRCONR2、NRC(O)OR、NRC(O)R、CN、C(O)OR、C(O)NR2、OC(O)R、C(O)R、及びNO2を含み、式中、各Rは、独立して、H、C1~C8アルキル、C2~C8ヘテロアルキル、C2~C8アルケニル、C2~C8ヘテロアルケニル、C2~C8アルキニル、C2~C8ヘテロアルキニル、C6~C10アリール、C5~C10ヘテロアリール、C7~C12アリールアルキル、又はC6~C12ヘテロアリールアルキルであり、各Rは、アルキル基に関して上述されたように、任意選択で置換されている。アリール又はヘテロアリール基上の置換基は、そのような置換基のそれぞれの種類、又は置換基の各成分に好適であるとして本明細書において説明された基で更に置換されていてもよい。したがって、例えば、アリールアルキル置換基は、アリール基に典型的であるとして本明細書において説明された置換基によりアリール部分で置換されていてもよく、また、アルキル基に典型的又は好適であるとして本明細書において説明された置換基によりアルキル部分で更に置換されていてもよい。
【0040】
「任意選択で置換されていてよい」とは、本明細書において使用される場合、説明されている特定の基が、非水素置換基で置き換えられた1つ又は複数の水素置換基を有し得ることを示す。いくつかの任意選択で置換されていてよい基又は部分において、全ての水素置換基が非水素置換基(例えばトリフルオロメチル等のポリフッ素化アルキル)により置き換えられている。別段に指定されない場合、存在し得るそのような置換基の総数は、説明されている基の非置換形態において存在するH原子の数に等しい。カルボニル酸素又はオキソ(=O)等、任意選択の置換基が二重結合により結合している場合、基が2つの利用可能な原子価を占有しているため、含むことができる置換基の総数は、利用可能な原子価の数に応じて低減される。本明細書において使用される場合、任意選択の置換基は、負に帯電した基、負に帯電可能な基、正に帯電した基、正に帯電可能な基、親水性基、及び疎水性基を含む。一部の実施形態において、任意選択の置換基は、スルホン酸基に酸化可能な基、チオール基(すなわちS-H)、アルキルチオール基、スルホン酸基、カルボン酸基、アミノ基、及びアンモニウム基を含む。
【0041】
一部の実施形態において、セラミック前駆体は、膜を官能化する基、例えば任意選択の置換基を含む。例えば、一部の実施形態において、セラミック前駆体は、プロトン伝導性又は分子選択性を改善するために、スルホン酸基を有するシランを含む。例示的な化合物は、3-トリヒドロキシシリル-1-プロパンスルホン酸及びトリエトキシ(ヘキシル)シランを含む。他の実施形態は、耐用性を改善する、又は細孔サイズを低減するために、長鎖アルカン基を有するシランを含む。例示的なシランは、トリエトキシ(ヘキシル)シランを含む。
【0042】
一部の実施形態において、セラミック前駆体は、コロイド状セラミック粒子を含む。例示的なコロイド状セラミック粒子は、コロイド状シリカ粒子、例えばLudox(登録商標)粒子を含む。一部の実施形態において、コロイド状シリカ粒子、例えばLudox(登録商標)粒子は、二官能性(R*2-Si-(OR)2)又は三官能性有機シラン(R*-Si-(OR)3)と混合される。好適なコロイド状粒子は、Ludox(登録商標)SM-30、Ludox(登録商標)HS-40、及びLudox(登録商標)CLを含む。コロイド状シリカ粒子と組み合わせて使用される有機シランの種類は、膜用途に依存する。例えば、フローバッテリーにおける使用のための膜を調製するためには、アルキル基を含む有機シランを使用して選択性を補助することができ、またスルホン酸基を含む有機シランを使用してプロトン伝導性を補助することができる。コロイド状粒子を含むセラミック前駆体を使用した例示的な膜の調製は、後述の実施例に記載される。
【0043】
本明細書で開示されるナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜の調製において、ケイ素(Si)以外の元素を含むセラミック前駆体が使用されてもよい。一部の実施形態において、セラミック前駆体は、式Ti(OH)x(OR)y[式中、Rは、出現する毎に独立して、任意選択で置換されていてよいC1~C6アルキルであり、xは、0~4の範囲の整数であり、yは、0~4の範囲の整数であり、x及びyの和は、4である]のチタン化合物を含む。一部の実施形態において、セラミック前駆体は、例えば、後述の実施例に記載されるように、テトライソプロポキシド(TTIP)を含むチタンアルコキシド及び/又はその部分加水分解種を含む。
【0044】
ある特定の実施形態において、セラミック前駆体は、アルミニウム化合物Al(OR)3[式中、Rは、出現する毎に独立して、H又は任意選択で置換されていてよいC1~C6アルキルである]を含む。本明細書で開示される膜のセラミック前駆体としての使用に好適な例示的化合物には、アルミニウムイソプロポキシド(AIP)を含むアルミニウムアルコキシドがある。
【0045】
一部の実施形態において、セラミック前駆体は、ゲルマニウムアルコキシドを含む。好適なゲルマニウムアルコキシドは、これらに限定されないが、モノ-、ジ-、トリ-、及びテトラアルコキシゲルマナン、例えばテトラエトキシゲルマン、テトラメトキシゲルマン、テトラプロポキシゲルマン、及びテトラブトキシゲルマンを含む。ゲルマニアベースのゾルゲル前駆体はまた、加水分解ゲルマニウムアルコキシドモノマー、ダイマー、及び/又はトリマーであってもよい。一部の実施形態において、セラミック前駆体は、テトラアルキルオルトゲルマネートGe(OR)4を含む。一部の実施形態において、テトラエチルオルトシリケートSi(OC2H5)4及びテトラエチルオルトゲルマネートGe(OC2H5)4の混合物を含むセラミック前駆体が、本明細書で開示されるナノ多孔質膜の調製において有用となり得る。
【0046】
一部の実施形態において、上述の複数の成分を含むゾルゲル前駆体組成物もまた、独立した前駆体として、又はコアシェル粒子(例えばアルミナコーティングシリカナノ粒子)等の複合前駆体として使用され得る。前駆体は、純粋な材料であってもよく、或いは、水及び/又は1種若しくは複数種の他の溶媒中の溶液又は分散体であってもよい。更に、セラミック前駆体は、水又は他の好適な溶媒中のエマルジョン又は分散体として適用されてもよい。
【0047】
添加剤
ある特定の実施形態において、形成された際にナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜の特定の望ましい特性を可能にするために、ゾルゲル前駆体組成物に添加剤が添加される。
【0048】
一部の実施形態において、ゾルゲル前駆体組成物は、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜のイオン輸送特性を増大させるように構成された選択性添加剤、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜の耐用性を改善するように構成された耐用性添加剤、及びナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜に触媒特性を追加するように構成された触媒添加剤からなる群から選択される添加剤を更に含む。好適な添加剤は、触媒、イオン伝導性ポリマー、導電性粒子、機械的特性改善材料、及びそれらの組合せを含む。
【0049】
ある特定の実施形態において、添加剤は、イオン伝導性ポリマー及び気体伝導性ポリマーからなる群から選択される選択性添加剤である。選択性を改善するために、ある特定の実施形態において、ポリマーは、選択性イオン輸送を促進するために使用される添加剤である。例えば、プロトン伝導性ポリマー、例えばポリスチレンスルホネート(PSS)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PolyDADMAC)、スルホン化ナノ結晶性セルロース、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(SPEEK)、スルホン化ポリベンズイミダゾール(S-PBI)又はペルフルオロスルホン酸(PFSA)等である。他の実施形態において、添加剤は、他の分子(例えば気体又は他のイオン)の選択的輸送を促進するポリマー(すなわちポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール等)である。いずれの添加剤ポリマーも、ゾルゲル前駆体組成物に可溶性又は分散性である。更に、それらは、過酷な環境に対応可能でなければならず、又は酸化物による分解から保護され得なければならない。
【0050】
一部の実施形態において、添加剤は、セラミック選択性膜に増加した可撓性を提供するように構成された低ヤング率ポリマー、及びナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜に増加した耐用性を提供するように構成された高ヤング率ポリマーからなる群から選択される耐用性添加剤である。
【0051】
ある特定の実施形態において、耐用性添加剤は、ポリマーである。低ヤング率ポリマー添加剤は、最終的な膜の可撓性をもたらし、又は、高ヤング率は、最終的な膜の改善された耐用性をもたらす。これらは、以前に定義された過酷な環境に対応可能な、又は酸化物による分解から保護され得るゾルゲル前駆体組成物中に可溶性又は分散性である。代表的な耐用性ポリマー添加剤は、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、及びポリエチレングリコール、並びにそれらの組合せ及びコポリマーを含む。
【0052】
一実施形態において、添加剤は、ゾルゲル前駆体組成物に添加された触媒粒子、及びゾルゲル前駆体組成物中で形成された触媒粒子からなる群から選択される触媒添加剤である。触媒添加剤は、以下のスキームから選択される:(1)触媒ナノ又はマイクロ粒子のゾルへの添加;(2)ゾル中での触媒粒子の形成(例えばゲル化/自己集合の前);(3)ゾルゲルの間の触媒粒子の形成;及び(4)硬化後の活性領域の表面への触媒粒子の適用/コーティング。白金は、触媒添加剤の一例である。一実施形態において、触媒添加剤は、膜が曝露される過酷環境に対応するのに好適である(外部に含まれる場合)、又はセラミック膜による分解から保護される(内部に含まれる場合)。一実施形態において、触媒添加剤は、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜の10体積%以下である。
【0053】
本明細書で開示される添加剤は、使用される添加剤に特有の任意の好適な量で最終的な膜内に存在し得る。例えば、PSS及びPDDAの場合、約3wt%~約40wt%、約3wt%~約20wt%、約3wt%~約10wt%の最終膜投入量(すなわち水/溶媒が除去された乾燥状態)を有することが、典型的には有利である。ある特定の実施形態において、添加剤は、ゾルゲル前駆体組成物の10体積%以下の量で存在する。
【0054】
溶媒
一部の実施形態において、ゾルゲル前駆体組成物は、1種又は複数種の有機溶媒を更に含む。任意の好適な有機溶媒が、ゾルゲル前駆体に含まれ得る。一部の実施形態において、有機溶媒は、C1~C5アルコール又はC6アリーレンである。例示的な溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、トルエン、キシレン、及びそれらの混合物を含む。有機溶媒は、典型的には、使用されるゾルゲル前駆体組成物に特有の量で添加される。例えば、TEOS、水、及び有機溶媒を含む組成物の場合、TEOS:水:有機溶媒成分のモル比は、1:1~4:1~2又は1:1~3:1である。例えば、一部の実施形態において、有機溶媒としてエタノールが使用される場合、ゾルゲル前駆体組成物は、1:1:1、1:2:1、1:3:1、又は1:4:1のモル比のTEOS:水:エタノールを含む。他の実施形態において、イソプロパノールが使用される場合、ゾルゲル前駆体組成物は、1:1:1、1:2:1、1:3:1又は1:4:1のモル比のTEOS:水:イソプロパノールを含む。典型的には、0~4の範囲内のpHを有する水が、ゾルゲル前駆体組成物中に使用される。
【0055】
一部の実施形態において、ゾルゲル前駆体組成物は、有機溶媒を含まない。一部の実施形態において、ゾルゲル前駆体組成物は、セラミック前駆体の加水分解性ゲル化を触媒するのに好適な酸又は塩基を更に含む。一部の実施形態において、セラミック前駆体の成分は、ゲル化触媒として機能し得る塩基性基又は酸性基を含む。例えば、PSSは、実施例において実証されるように、TEOS及びPSS水溶液を含むゾルゲル前駆体組成物のゲル化のための酸触媒として機能するのに好適なスルホン酸基を含む。
【0056】
ある特定の実施形態において、ゾルゲル前駆体組成物は、(a)セラミック前駆体、例えばシリカ(例えばシロキサン)、オルモシル、チタニア、ゲルマニア、ジルコニア、アルミナ、グラファイト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素又はその他、及び(b)任意選択で溶媒、例えばアルコール(例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等)又は芳香族化合物(例えばトルエン、キシレン等)を含む。これらの2つの成分の混合物は、典型的には、ゾルゲル前駆体組成物の約30体積%以下、ゾルゲル前駆体組成物の約20体積%以下、又はゾルゲル前駆体組成物の約10体積%以下を占める。一部の実施形態において、ゾルゲル前駆体組成物は、ゾルゲル前駆体組成物の約40体積%以下、ゾルゲル前駆体組成物の約30体積%以下、又はゾルゲル前駆体組成物の約20体積%以下の量の水を更に含む。
【0057】
一部の実施形態において、ゾルゲル前駆体組成物又は前処理組成物は、組成物の約80体積%以下、組成物の約60体積%以下、又は組成物の約50体積%以下の量の水及び/又は溶媒、例えばアルコール(例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等)若しくは芳香族化合物(例えばトルエン、キシレン等)を含む溶液、ゲル又はスラリーである。更に、ゾルゲル前駆体組成物又は前処理組成物は、組成物の約50体積%、組成物の約40体積%、又は組成物の約20体積%の量で存在するセラミック(例えばシリカ、チタニア、ゲルマニア、アルミナ等)のコロイド状懸濁液又はナノ粒子分散体を含む。
【0058】
一部の実施形態において、後処理組成物、例えばゾルゲル膜を浸漬するための化学浴は、水及び酸、例えば硫酸、塩酸、リン酸、硝酸、メタンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、酢酸、又はそれらの混合物を含む。酸濃度は、典型的には、約10M~約0.1M、又は約2.5M~約0.5Mである。後処理組成物は、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、アンモニウムイオン又はマグネシウムイオン等のカチオン基、並びに塩化物イオン、臭化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、スルホン酸イオン、ヨウ化物イオン、リン酸イオン、亜硝酸イオン、硝酸イオン、塩素酸イオン、ホウ酸イオン、チオシアネートイオン、チオ硫酸イオン及び硫化物イオン等のアニオン基を含む塩を更に含んでもよい。典型的には、塩濃度は、約1M~約0.01M、又は約1M~約0.1Mである。
【0059】
ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜の調製方法
上述の成分から本明細書で開示される膜を形成するために、任意の好適なゲル化方法が使用され得る。例えば、一部の実施形態において、ゾルゲル前駆体組成物のゲル化は、加水分解化学的ゲル化、非加水分解化学的ゲル化、及びそれらの組合せを含む、化学的ゲル化を含む。
【0060】
一実施形態において、化学的ゲル化は、ゾルゲル前駆体組成物を酸溶液に曝露することを含む。一実施形態において、酸溶液は、0.001N超である。一実施形態において、酸溶液は、1N超である。一実施形態において、酸溶液は、3N超である。好適な酸は、硫酸、硝酸、酢酸、塩酸、メタンスルホン酸、及びリン酸からなる群から選択され得る。
【0061】
図1~
図3は、本明細書で開示される膜の例示的調製方法の工程を概略的に示している。
【0062】
図1を参照すると、支持体とポリマーとの間の接着を確実にするために、ポリマーがマクロ多孔質支持体に少なくとも1μm浸透するようにポリマーが多孔質支持体に添加される。この工程は、活性領域を包囲する縁取りを形成する。ポリマーは、ポリマーがマクロ多孔質支持体の縁部を超えて少なくとも1μm、少なくとも1mm、又は少なくとも1cm延在するようなサイズに切断されたマクロ多孔質支持体の縁部に追加され得る。一部の実施形態において、ポリマー又は圧縮可能な縁取りは、マクロ多孔質支持体の外縁部を超えて延在しない。膜を超えて延在するポリマー支持体の縁部は、支持体の他方側のポリマーと液密シールを形成しなければならない。ポリマーは、加熱、溶媒若しくは放射線を使用してフィルム/シートとして適用されてもよく、又は、ポリマーは、一般的なコーティング技術(例えばディップ、スプレー、ドロップ、ブレード、スクリーン)を使用して溶液若しくは分散体として液相から適用されてもよい。一部の実施形態において、ポリマーは、in situ重合反応が可能なモノマー又はオリゴマーを含む組成物を適用し、次いで重合させて圧縮可能な縁取りを形成することにより、in situで形成されてもよい。
【0063】
一部の実施形態において、ポリマーにより被覆されていないマクロ多孔質支持体は、グリッド表面積の50%超、理想的には95%超となり得る。更に、ポリマーにより被覆されていない支持体の面積は、典型的には1cm2~10m2である。ポリマーの適用後、多孔質支持体内にゾルゲルベースコーティングが適用されて、ナノ多孔質膜構造が形成され得る。上述のプロセスにより形成された膜は、典型的には、約0.5以下又は約0.25以下の多分散指数で約5nm以下の平均細孔サイズを有する。ゾルゲルは、ディップ、スプレー、ブレード、スクリーン印刷、ジェット、刷毛塗り等の標準的なコーティングプロセスを使用して適用され得る。一部の実施形態において、上述の縁取りの適用及びゾルゲルセラミック前駆体の適用の工程は、逆であってもよい。
【0064】
ゾルゲル前駆体によるコーティング後、膜を少なくとも1分間静置させるように反応が進行する。一部の実施形態において、ゾルゲル溶液の自己集合を誘発して所望のナノ細孔を生成するように、最大48時間反応を進行させる。一部の実施形態において、自己集合プロセスは、制御雰囲気中(例えば湿度及び温度)で生じ得る。この自己集合プロセスは、膜を平坦中実表面に対置させて、平坦多孔質表面に対置させて、又は膜を垂直に吊るした状態で生じ得る。一部の実施形態において、マクロ多孔質支持体を複数回コーティングすることが有利となり得る。一部の実施形態において、2回のコーティングの間の間隔は、約30分、約20分、又は約10分である。
【0065】
一部の実施形態において、膜の活性領域をゾルゲル前駆体組成物よりも低い表面張力の液体中にディップコーティング(又はドロップコーティング、ブレードコーティング、スプレーコーティング)する第3の任意選択の工程を追加することが有利である。この工程は、乾燥が望ましい場合に膜の亀裂が低減された膜を提供することができる。好適な液体は、アルコール、水、及びアルコール-水混合物を含む。低濃度の界面活性剤が液体に添加されてもよい。
【0066】
一部の実施形態において、膜を乾燥させることである第4の任意選択の工程を追加することが有利である。典型的な乾燥は、約400℃まで、約150℃まで、又は約80℃までの温度で行うことができる。一部の実施形態において、ゾルゲルが崩壊するが脆くならない、又は取り扱っている間に亀裂を生じないように、膜は5~10%の含水率まで乾燥される。
【0067】
一部の実施形態において、室温でゾルゲルコーティングが乾燥した後に、膜はより高い温度まで更に加熱されてもよい。温度は、約250℃~約450℃の範囲内であってもよい。一部の実施形態において、膜は、約2時間標的温度で加熱される。一部の実施形態において、膜は、約48時間まで標的温度で加熱される。一部の実施形態において、追加の加熱は、より稠密な膜を生成する。
【0068】
図2を参照すると、
図1に関して説明されたように、ポリマーがマクロ多孔質支持体に浸透するようにポリマーが多孔質支持体に添加される。次いで、支持体構造の機械的、化学的又は電気化学的安定性を向上させるために、プレコーティング材料のプレコーティング溶液、ゲル、又はスラリーが、多孔質支持体の中又は上に適用される。プレコーティング溶液、ゲル、又はスラリーは、ディップ、スプレー、ブレード、スクリーン印刷、ジェット、刷毛塗り又はそれらの組合せ等の標準的なコーティングプロセスを使用して適用され得る。
【0069】
プレコーティング後、プレコーティング材料が多孔質支持体に付着するように、プレコーティング溶液、ゲル、又はスラリーの液相の約90~約100体積%を除去するために多孔質支持体が乾燥される。乾燥は、一般に約24時間以下の時間を要する。一部の実施形態において、乾燥は、約5分を要する。乾燥時間は、一般に、プレコーティング溶液、ゲル、又はスラリー中に使用される液相の性質に依存する。乾燥は、室温~約100℃の任意の温度で生じ得る。この工程は、ゾルゲルコーティング前のマクロ多孔質支持体の特性を十分に向上させるために、同じ又は異なるプレコーティング組成物を使用して3回まで反復され得る。
【0070】
プレコーティング工程後、多孔質支持体の少なくとも一部を充填するナノ多孔質ゾルゲルセラミック複合材を含む複合材が、
図1に示される方法に関して上述されたように形成され得る。上述のように、更なる後処理工程が使用されてもよい。
【0071】
図3を参照すると、
図1に関して説明されたように、ポリマーがマクロ多孔質支持体に浸透するようにポリマーが多孔質支持体に添加され、また上記の
図2で説明されたように、プレコーティング工程が任意選択で行われてもよい。ゾルゲル前駆体組成物が適用された後、膜は、酸又は塩溶液に少なくとも10秒、約4時間超、又は約24時間の期間曝露される。この工程は、ゲル化の反応速度を変更することによりゾルゲルコーティングの細孔サイズ、形状及び構造を制御するために利用され得る。形成された膜は、上述のように後処理工程に供されてもよい。
【0072】
一部の実施形態において、本明細書で開示される膜は、ゾルゲル前駆体組成物のゲル化後に後処理工程に供される。後処理は、膜に特定の特性を提供するための別の経路を提供する。後処理は、特定の特性を有する膜を生成するために、添加剤と共に、又は添加剤の代わりに使用されてもよい。例えば、本明細書で開示される膜を官能化するために、シランが使用されてもよい。これは、プロトン伝導性又は分子選択性を改善するために、スルホン酸基を有するシランを含む。他の実施形態は、耐用性を改善する、又は細孔サイズを低減するために、長鎖アルカン基を有するシランを含む。例示的な後処理試薬は、3-トリヒドロキシシリル-1-プロパンスルホン酸及びトリエトキシ(ヘキシル)シランを含む。
【0073】
一部の実施形態において、ゾルゲル前駆体組成物を多孔質膜支持体に適用する工程の前に多孔質膜支持体に前処理を適用する工程が、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜の調製に含まれる。例えば、多孔質膜支持体は、ポリマー(例えばポリスチレンスルホン酸)でコーティングされてもよい。
【0074】
本明細書に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜は、多くの用途、例えばバッテリー膜、燃料電池膜、電気透析膜、酸回収膜、クロロ-アルカリ膜、溶媒抽出膜、電着膜、電気脱イオン化膜、栄養素回収膜、食品加工膜、逆浸透膜、気体分離膜、及びバイオ分離膜における使用に好適である、一部の実施形態において、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜は、フローバッテリー用のイオン伝導膜である。他の実施形態において、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜は、燃料電池用のイオン伝導膜である。更に他の実施形態において、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜は、電気透析用のイオン伝導膜又はクロロ-アルカリプロセス用のイオン伝導膜である。
【0075】
ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック複合材膜の特性評価
本明細書で開示される膜は、複数のナノ細孔を含む。一部の実施形態において、膜は、約10体積%~90体積%、約50体積%~90体積%、又は約70体積%~90体積%の孔隙率を有する。一実施形態において、セラミック選択性膜は、直径0.1nm~10nmのサイズ範囲内の細孔を含む。細孔サイズは、セラミック及び任意の前処理又は後処理層の全ての層を含む、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜の最終細孔サイズである。一実施形態において、セラミック選択性膜は、直径0.1nm~5nmのサイズ範囲内の細孔を含む。一実施形態において、セラミック選択性膜は、直径0.1nm~1nmのサイズ範囲内の細孔を含む。一実施形態において、セラミック選択性膜は、直径0.5nm~1nmのサイズ範囲内の細孔を含む。
【0076】
一部の実施形態において、本明細書で開示される膜のナノ多孔質複合材は、約0.7以下の多分散指数を有する半径約5nm以下の複数のナノ細孔を含む。一部の実施形態において、複数のナノ細孔は、約0.6以下、約0.5以下、約0.3以下、又は約0.25以下の多分散指数を有する。
【0077】
典型的には、本明細書で開示される膜は、5μm~1mmの厚さを有する。一実施形態において、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜は、0.1mm~1mmの範囲内の厚さを有する。一実施形態において、セラミック選択性膜は、0.1mm~0.5mmの範囲内の厚さを有する。一実施形態において、セラミック選択性膜は、0.2mm~0.4mmの範囲内の厚さを有する。
【0078】
有利には、本明細書で開示される膜は、イオン交換膜の質量及び形状変化の決定のためのASTM D756標準技法に従い、x、y又はz方向に約5%以下の線膨張を経験する。一実施形態において、ASTM D756標準技法に従うx、y又はz方向における膜の線膨張は、約1%以下である。別の実施形態において、ASTM D756標準技法に従うx、y又はz方向における膜の線膨張は、約0.5%以下である。
【0079】
ルギン管を有するH型セル内でイオン面積比抵抗(ASR)測定を0~0.5アンペアの動電流掃引(galvanodynamic sweep)を使用して行い、セルイオン抵抗を差し引いてASRを得た場合、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜は、4M H2SO4中で測定すると0.01オーム*cm2~10オーム*cm2の範囲内、又は0.5M NaCl中で測定すると0.1オーム*cm2~100オーム*cm2の範囲内のASRを有する。方法及び構成は、S. Sladeら、「Ionic Conductivity of an Extruded Nafion(登録商標) 110 EW Series of Membranes」、J. Electrochemical Society、149(12)、A1556~A1564(2002)に見出すことができる。一実施形態において、膜は、4M H2SO4中で測定すると、約0.08オーム*cm2~約0.5オーム*cm2の範囲内のASRを有する。一実施形態において、膜は、0.5M NaCl中で測定すると、約0.6オーム*cm2~約15オーム*cm2の範囲内のASRを有する。
【0080】
フラクタルナノ多孔質構造を有するナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜
一態様において、本開示は、多孔質支持体と、多孔質支持体上に配置されたナノ多孔質複合材とを含むナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜を提供し、ナノ多孔質複合材は、フラクタルナノ多孔質構造を有するナノ多孔質ゾルゲルセラミックを含む。本明細書において更に議論されるように、そのようなフラクタルナノ多孔質構造は、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックの小角散乱スペクトルを数学モデルに当てはめることにより決定され得る。一実施形態において、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜は、本明細書の別の個所に記載のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜である。
【0081】
本明細書において更に議論されるように、一実施形態において、多孔質支持体は細孔の数を定義する。一実施形態において、細孔は、10nm以上の平均直径を有する。これに関連して、ナノ多孔質ゾルゲルセラミック複合材を含むナノ多孔質複合材は、多孔質支持体の少なくとも一部を充填するため、ナノ多孔質複合材は、少なくとも部分的に、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜の活性領域を画定する。本明細書において更に議論されるように、そのような活性領域は、例えば濾過、イオン交換、フローバッテリー等のために、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜を通して、流体及び例えばイオンを選択的に通過させるのに好適である。
【0082】
この態様において、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックの小角散乱スペクトルは、数学モデルに当てはめられ得る。一実施形態において、数学モデルは、フラクタル凝集体モデルである。一例として、フラクタル凝集体モデルは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるJ Teixeira、J. Appl. Cryst.、21(1988) 781~785に記載のフラクタル凝集体モデルであってもよい。これに関連して、ナノ多孔質ゾルゲルセラミック複合材は、本明細書において更に議論されるように、少なくとも部分的にフラクタル次元Df及び相関長ξにより定義されるフラクタル構造を有する。
【0083】
数学モデルに当てはめられ得る散乱スペクトルは、小角散乱スペクトルを含み得る。そのような小角散乱スペクトルは、特にナノ多孔質ゾルゲルセラミックを含むナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜の内部構造に関する情報を提供するのに好適である。特に例えばナノ多孔質ゾルゲルセラミックからの粒子の弾性散乱のそのような小角散乱スペクトルの分析は、細孔サイズ、粒子配置等に関する情報を提供する。
【0084】
一実施形態において、小角散乱スペクトルは、小角X線散乱スペクトル、小角中性子散乱スペクトル、小角光散乱スペクトル、及びそれらの組合せからなる群から選択される小角散乱スペクトルを含む。一実施形態において、小角散乱スペクトルは、小角X線散乱スペクトルを含む。
【0085】
一実施形態において、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックの小角散乱スペクトルは、数学モデルに密接に適合する。これに関連して、デスミア処理された(de-smeared)1次元小角散乱スペクトルのフラクタル凝集体モデルへの最小自乗回帰当てはめは、10未満のχ
2/N
pt値をもたらし、χ
2は、フラクタル凝集体モデルと小角散乱スペクトルデータとの間の強度差の自乗和であり、N
ptは、モデル当てはめ範囲にわたる小角散乱データ点の数である。そのような比較的低いχ
2/N
pt値は、小角散乱スペクトルとフラクタル凝集体モデルとの間の良好な適合を示している。一実施形態において、χ
2/N
pt値は、5未満である。一実施形態において、χ
2/N
pt値は、1未満である。
図22Aに関して本明細書において更に議論されるように、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックの小角散乱スペクトルは一般に、10未満の、またしばしば5未満のχ
2/N
pt値を有する。これは、フラクタル構造を有さないNafion(登録商標)等の多孔質構造と対照的である。
図22Aに関して議論されるように、例えばNafion(登録商標)は830のχ
2/N
pt値を有し、本開示のナノ多孔質ゾルゲルセラミックの対応する値よりはるかに大きい。
【0086】
一実施形態において、フラクタル凝集体モデルは、散乱ベクトルqの関数としての散乱強度Iの尺度である。一実施形態において、フラクタル凝集体モデルは、下記式に従う。
【0087】
【0088】
S(q)は、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックの構成単位(building block)の組織化又は構成を定義するネットワーク又はフラクタル構造である。bckは、例えば散乱粒子源からのバックグラウンド散乱、及び/又はナノ多孔質ゾルゲルセラミックからの散乱粒子の非弾性散乱を定義する。一実施形態において、S(q)は、以下の式
【0089】
【0090】
[式中、
R0は、構成単位の半径であり、
ρ溶媒は、溶媒の散乱長密度であり、
ρ構成単位は、構成単位の散乱長密度であり、
Dfは、フラクタル次元であり、
ξは、相関長であり、
Γは、標準数学的ガンマ関数である]
により定義され得る。
【0091】
P(q)は、qの関数としてのナノ多孔質ゾルゲルセラミックの構成単位の構造を定義する形状因子である。そのような形状因子は、様々な形状、例えば球、立方体、楕円等の単純な幾何学的形状をとり得る。
【0092】
一実施形態において、構成単位は、均一な構成単位、例えば均一な球として定義される。それに関連して、一実施形態において、P(q)は、以下の式
【0093】
【0094】
[式中、
【0095】
【0096】
であり、
【0097】
【0098】
であり、
スケールは、測定されたナノ多孔質ゾルゲルセラミックの構成単位の体積分率である]
により定義される。
【0099】
一実施形態において、形状因子は、球状コアシェル構成単位を定義する。
【0100】
それに関連して、P(q)は、以下の式
【0101】
【0102】
[式中、
スケールは、測定されたナノ多孔質ゾルゲルセラミックの構成単位の体積分率であり、
Vcは、コアの体積であり、
Vsは、シェルの体積であり、
ρcは、コアの散乱長密度であり、
ρsは、シェルの散乱長密度であり、
ρ構成単位は、構成ブロックの散乱長密度であり、
rcは、コアの半径であり、
rsは、シェルの半径であり、
bckは、バックグラウンド散乱である]
により定義され得る。
【0103】
一実施形態において、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックの1つ又は複数の表面が、コーティングでコーティングされる。そのようなコーティングは、アルキル基、スルホン酸、カルボン酸基、アンモニウム、及びそれらの組合せからなる群から選択される材料を含んでもよい。コアシェルフラクタル凝集体モデル等のコアシェルモデルは、アルキル又は他の炭化水素シェルでコーティングされたセラミック粒子等のコアシェル粒子構成単位を特徴付けるのに好適となり得る。
【0104】
上述のように、小角散乱スペクトルを特徴付けるために使用されるフラクタル凝集体モデルの形状因子P(q)の様々な実施形態は、散乱長密度間の差を含む因子を含む。
【0105】
一実施形態において、上記式中の散乱長密度は、ナノ多孔質ゾルゲルセラミック膜の成分を構成する材料により定義される。一般に、細孔等の散乱源の散乱長密度と周囲のセラミック材料との間の散乱長密度の差が大きいほど、散乱コントラストがより大きくなる。したがって、一実施形態において、小角散乱データは、細孔から溶媒又は他の液体を除去するために乾燥されたナノ多孔質ゾルゲルセラミックから生成され、したがって、液体溶媒で充填された細孔を有するナノ多孔質ゾルゲルセラミックと比較してより大きい散乱長密度の差が生じる。
【0106】
一実施形態において、散乱長密度は、Å-2(オングストロームの二乗の逆数)の単位で定義される。散乱長密度は、分子体積で正規化された各原子の結合干渉性散乱長の和として定義される。例えば、空気のX線散乱長密度は約0Å-2であり、非晶質シリカのX線散乱長密度は約18.8Å-2である。
【0107】
一実施形態において、小角散乱データは、残留イオン、化学反応物質等を除去するために洗浄されたナノ多孔質ゾルゲルセラミックから生成される。これに関連して、小角散乱データは、ナノ多孔質ゾルゲルセラミック及びそれにより定義される細孔を表し、残留イオンを更に含むそのような構造を表すものではない。
【0108】
小角散乱スペクトルのフラクタル凝集体モデルへの当てはめには、一桁を超えるq値の範囲にわたる、例えば一桁にわたる小角散乱スペクトルの当てはめが含まれ、qは、Å-1の単位である。そのような比較的広い当てはめ範囲によって、フラクタル凝集体モデルに適合するのに十分なデータを提供することに加えて、領域が例えばナノ多孔質ゾルゲルセラミックの細孔のサイズスケールに等しいサイズの範囲にわたりデータがフラクタル凝集体モデルに適合することが確実となる。一実施形態において、小角散乱スペクトルのフラクタル凝集体モデルへの当てはめは、約0.01Å-1~約1Å-1の範囲内のq値の範囲にわたる小角散乱スペクトルの当てはめを含む。一実施形態において、小角散乱スペクトルのフラクタル凝集体モデルへの当てはめは、約0.02Å-1~約0.8Å-1の範囲内のq値の範囲にわたる小角散乱スペクトルの当てはめを含む。
【0109】
上述のように、スケールは、ナノ多孔質ゾルゲルセラミック内の細孔の体積分率に対応する。一実施形態において、スケールは、小角散乱スペクトルが1/cmの強度単位である場合、膜孔隙率に対応し、スケールは0.7未満である。これに関連して、スケールは、試料のサイズで正規化された細孔の数に対応する。一実施形態において、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックは、約0.01~約0.7の範囲内の孔隙体積分率を有する。一実施形態において、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックは、約0.15~約0.35の範囲内の孔隙体積分率を有する。
【0110】
Dfは、本明細書に記載のフラクタル凝集体モデルの一部の実施形態のフラクタル次元である。一実施形態において、Dfは、ナノ多孔質ゾルゲルセラミック内の細孔の形状及び/又は構成に対応する。一般に、Dfは、約1~約3の範囲内である。Dfが1に近い、又は1である場合、細孔は一般に、1次元トンネルとして特徴付けられ得る。Dfが3に近い、又は3である場合、細孔は一般に、開球として特徴付けられ得る。
【0111】
一実施形態において、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックを通る入り組んだ、又は曲がった経路を有する細孔を画定するナノ多孔質ゾルゲルセラミックを有することが有利である。入り組んだ細孔と流体連通したイオン又は他の粒子の場合、より入り組んでいない細孔と比較して、イオン又は他の粒子のサイズが入り組んだ細孔のサイズに近づくにつれて、イオン又は他の粒子が膜を横切る可能性は低い。それに関連して、入り組んだ細孔を画定するそのようなナノ多孔質ゾルゲルセラミックは、例えば、同じサイズの細孔を画定するがナノ多孔質ゾルゲルセラミックを通るよりまっすぐな経路を提供するナノ多孔質ゾルゲルセラミック等よりも、選択的な濾過を提供するのに好適である。これに関連して、Dfは、約1.5~約2.5の範囲内であってもよい。一実施形態において、Dfは、1.8~約2.0の範囲内である。そのようなDf範囲は、直線と開球との間のいずれかの形状因子を有する比較的入り組んだ細孔を有するナノ多孔質ゾルゲルセラミックを説明又は特徴付ける。
【0112】
一実施形態において、フラクタル凝集体モデルは、特定範囲内の細孔サイズを有するように制約される。上述のように、多孔質支持体は、10nm超の細孔を画定する。同様に、一実施形態において、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックの細孔は、10nm以下に制約される。一実施形態において、フラクタル凝集体モデルは、5nm以下の細孔サイズを有するように制約される。本明細書において更に議論されるように、例えば5nm未満の平均半径を有する細孔を画定するナノ多孔質ゾルゲルセラミックは、一般に、イオン交換、濾過、フローバッテリー膜等における使用に好適である。同様に、本開示に記載の方法は、そのようなサイズ範囲内の細孔を画定するそのようなナノ多孔質ゾルゲルセラミックを作製するのに好適である。したがって、小角散乱データの当てはめに使用されるフラクタル凝集体モデルを制約することによって、フラクタル多孔質ゾルゲルセラミックとフラクタル凝集体モデルとの間の良好な当てはめを得ることができる。
【0113】
上述のように、相関長ξは、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックのフラクタルパターン自体が反復する長さである。より高品質のナノ多孔質ゾルゲルセラミックは、比較的広いサイズスケールにわたりフラクタルパターンを反復する。これに関連して、そのようなより高品質のナノ多孔質ゾルゲルセラミックは、比較的大きなサイズスケールにわたり規則的な秩序化細孔を画定し、これは濾過、イオン交換等の改善された機能的特性に対応する。同様に、フラクタルパターンは一般に、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックの構成単位のサイズスケールより小さい、例えば分子又は原子より小さいサイズスケールに拡張することができない。したがって、一実施形態において、相関長ξは、1nm超の値に制約される。一実施形態において、相関長ξは、50nm超の値に制約される。一実施形態において、相関長ξは、100nm超の値に制約される。一実施形態において、相関長ξは、ほぼナノ多孔質ゾルゲルセラミックの厚さの値に制約される。一実施形態において、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックは、1nm超、例えば50nm超又は100nm超の相関長ξを有する。
【0114】
ナノ多孔質ゾルゲルセラミックを特徴付けるために使用されるフラクタル凝集体モデルは、散乱源、例えばナノ多孔質ゾルゲルセラミックの細孔のサイズの変動性を説明するための項を含み得る。それに関連して、一実施形態において、フラクタル凝集体モデルは、半径パラメータにおける多分散比を含む。したがって、一実施形態において、構成単位の半径R0は、定数ではなく加重平均である。加重平均は、例えばガウス関数、対数正規関数、矩形分布等のいくつかの数学関数に従い得る。一実施形態において、多分散比は、ガウス関数であり、下記式
【0115】
【0116】
[式中、
x平均は、分布の平均値であり、
Normは、数値計算中に決定される正規化因子である]
に従う。
【0117】
一実施形態において、多分散比は、対数正規関数であり、下記式
【0118】
【0119】
[式中、
μ=ln(xmed)であり、
xmedは、分布の中央値であり、
Normは、数値計算中に決定される正規化因子である]
に従う。
【0120】
ある特定の実施形態において、対数正規分布は、一般にxmedに対して対称性ではないため有利である。これに関連して、多分散比が増加すると、例えば細孔を物理的に画定する原子等より小さい細孔サイズを画定するもの等、低い方のテールが物理的な(aphysical)範囲に含まれない可能性がある。
【0121】
一実施形態において、多分散比は、0.7未満に制約される。例えば0.7超の多分散性は、高分散及び可変直径の細孔を画定するナノ多孔質ゾルゲルセラミックを特徴付ける高分散性を定義する。一実施形態において、多分散比は、約0.1~約0.4の範囲内である。一実施形態において、多分散比は、約0.1~約0.2の範囲内である。
【0122】
上述のように、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックは、本明細書に記載のナノ多孔質ゾルゲルセラミックのいずれかを含み得る。一実施形態において、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックは、20モル%超の酸素及び10モル%超の無機分子を含む。一実施形態において、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックは、約20モル%~約80モル%の範囲内の酸素を含む。一実施形態において、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックは、約10モル%~約33.3モル%の範囲内の酸素を含む。一実施形態において、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックは、シリカ、アルミナ、チタニア、ゲルマニア、ジルコニア、及びそれらの組合せからなる群から選択される材料を含む。
【0123】
選択性膜構造
別の態様において、本開示は、複数の個別の選択性膜を含む選択性膜構造を提供する。一実施形態において、個別の選択性膜は、それを通る流体流動を可能にするように平面構成で支持体膜により結合される。
【0124】
一実施形態において、個別の選択性膜は、1つ又は複数の細孔を画定する。一実施形態において、個別の選択性膜は、多孔質材料を含む。一実施形態において、多孔質材料は、1つ又は複数の細孔を画定するポリマー材料を含む。そのような多孔質ポリマー材料は、固有多孔性(intrinsic porosity、PIM)を有するポリマーを含み得る。一実施形態において、多孔質材料は、約5nm~約1,000nmの範囲内の平均直径を有する1つ又は複数の細孔を画定する。一実施形態において、多孔質材料は、約1ミクロン~約100ミクロンの範囲内の平均直径を有する1つ又は複数の細孔を画定する。一実施形態において、多孔質材料は、ゾルゲル集合材料、例えばゾルゲル集合ポリマー、ゾルゲル集合金属等を含む。一実施形態において、多孔質材料は、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、例えば多孔質PTFE及び延伸PTFEを含む。一実施形態において、多孔質材料は、多孔質ポリエチレンを含む。一実施形態において、多孔質材料は、多孔質ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)を含む。
【0125】
上述のように、ある特定の実施形態において、非焼結及び非焼成セラミック含有膜は、脆性である。この態様に関して説明されるように、そのような膜をグリッド状構造に構成することで、大面積の非焼結及び非焼成セラミック含有膜の脆性に関連する重要な問題が解決される。グリッド構造に組み合わせることができるより小さい別々のセラミック含有膜を形成することによって、セラミックセル間のポリマー連結部等を含む支持体構造により可撓性である大面積膜を形成することが可能である。更に、セラミックの活性領域は、追加的なセルを追加することによって増加され得る。
【0126】
個別の選択性膜は、本開示のナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜のいずれかを含み得る。それに関連して、一態様において、個別の選択性膜は、多孔質支持体の少なくとも一部を充填するナノ多孔質ゾルゲルセラミック複合材を含むナノ多孔質複合材を含み得、ナノ多孔質複合材は、0.5以下の多分散指数を有する半径5nm以下の複数のナノ細孔を含む。一実施形態において、個別の選択性膜は、多孔質支持体の活性領域を充填するナノ多孔質ゾルゲルセラミック複合材を含むナノ多孔質複合材を含み得、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックは、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックの小角散乱スペクトルを数学モデルに当てはめることにより決定されるフラクタルナノ多孔質構造を有する。
【0127】
一実施形態において、個別の選択性膜は、グラフェン、グラフェン酸化物、及びそれらの組合せからなる群から選択される材料を含む。一実施形態において、そのような材料は、開口、例えば分子サイズの孔を画定する。一実施形態において、開口は、イオンを使用してグラフェン及び/又はグラフェン酸化物を穿孔して、ナノ多孔質膜構造を形成することにより形成される。
【0128】
一実施形態において、個別の選択性膜は、グラフェン、グラフェン酸化物、又はそれらの組合せを含み、そのような材料は、グラフェン又はグラフェン酸化物の単原子層又はシートの形態である。一実施形態において、個別の選択性膜は、グラフェン又はグラフェン酸化物の積層原子層又はシートの形態の、グラフェン、グラフェン酸化物、又はそれらの組合せを含む。
【0129】
一実施形態において、個別の選択性膜の1つ又は複数が、グラフェン、例えば直径10nm以上の複数の細孔を有する多孔質支持体の少なくとも一部を充填するグラフェンを含む。グラフェンは、例えば濾過膜としての使用に好適であるが、一般に、独立型のフィルターとして機能するのに十分な構造的特徴を有さない。しかしながら、グラフェンを含む個別の選択性膜が結合され、支持体部材により支持される場合、そのようなグラフェンを含有する個別の選択性膜は、支持体部材を有さないものよりも大きな応力に耐えるのに好適である。これに関連して、グラフェンを含有する個別の選択性膜を含む選択性膜構造は、例えば、グラフェンを含有する個別の選択性膜と接触する流体の成分を選択的に濾過するのに好適である。
【0130】
一実施形態において、個別の選択性膜は、Nafion(登録商標)等のイオン交換材料を含む。一実施形態において、イオン交換材料は、多孔質支持体構造の少なくとも一部を充填する。一実施形態において、そのようなイオン交換材料は、例えば、支持体部材が多孔質支持体構造に結合された後に、多孔質支持体構造に浸透することによって選択性膜構造内に組み込まれる。
【0131】
図30Aは、本開示の一実施形態による選択性膜構造100を概略的に示す。図示されるように、選択性膜構造100は、支持体構造106により平面構成で結合された複数の個別の選択性膜102を含むように示されている。例示された実施形態において、支持体構造106は、個別の選択性膜102の側縁部に隣接して配置された複数の支持体部材104を含む。これに関連して、複数の支持体部材104は、複数の個別の選択性膜102の少なくとも一部に重複している。図示されるように、支持体部材104は、個別の選択性膜102が配置される複数の開口を画定するようにグリッド構成で配置される。
【0132】
一実施形態において、個別の選択性膜102は、個別の選択性膜102の外縁部付近に配置された縁取り材料(図示せず、例えば
図26及び
図27を参照されたい)を含む。そのような縁取り材料は、弾性及び/又は圧縮可能な材料を含んでもよい。縁取り材料は、個別の選択性膜102を外縁部に沿って互いに結合するのに好適である。図示されるように、選択性膜構造100は、複数の個別の選択性膜102同士をグリッド構成に保持するために縁取り材料を圧縮するように構成され得る支持体構造106を更に含む。これに関連して、グリッド状構造は、液体が個別の選択性膜102の間で流動しないような液密シールを提供するように構成される。むしろ、選択性膜構造100は、個別の選択性膜102を通して流体を流動させるように、例えばそれを通して流体を濾過する、又はイオン輸送を可能にするように構成される。
【0133】
縁取り材料はポリマーであってもよく、例えば圧縮可能なポリマーから作製されてもよい。1つの個別の選択性膜102の縁取り材料は、縁取り材料の加熱、縁取り材料の溶媒への曝露、縁取り材料の放射線照射、及びそれらの組合せからなる群から選択される方法によって、別の個別の選択性膜102の縁取り材料に結合されてもよい。
【0134】
一実施形態において、縁取り材料は、圧縮可能なポリマー及び圧縮可能な熱可塑性エラストマーを含む。
【0135】
一実施形態において、支持体構造106は可撓性であり、したがって、例えば濾過、イオン交換等における使用中に流体が選択性膜構造100を介して流動する際の選択性膜構造100に対する応力を吸収することができる。これに関連して、支持体構造106は、選択性膜構造100に応力が印加された際に湾曲、屈曲、圧縮、変形等を生じるように構成される。そのような応力吸収は、個別の選択性膜102のナノ多孔質ゾルゲルセラミックに対する応力を低減する。本明細書において更に議論されるように、そのようなナノ多孔質ゾルゲルセラミックは、剛性又は脆性であってもよい。ナノ多孔質ゾルゲルセラミックに対する応力を低減することにより、ナノ多孔質ゾルゲルセラミックは破損する可能性が低くなり、それによって選択性膜構造100の寿命を増加させ、及び/又は選択性膜構造100の破壊点を増加させる。
【0136】
一実施形態において、支持体構造106は、ポリマーである。一実施形態において、支持体構造106は、エポキシ、ポリウレタン、ポリ(スチレン-イソプレン-スチレン)、ポリ(スチレン-イソブチレン-スチレン)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアセトニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリアクリルアミド、ポリジメチルシロキサン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンスルフィド、ポリテトラフルオロエチレン、セルロース及びその誘導体、並びにそれらの組合せからなる群から選択される材料を含む。
【0137】
一実施形態において、支持体膜104を含む支持体構造106は、イオン交換材料を含む。これに関連して、支持体構造106は、選択性膜構造100の機能的領域に寄与する。支持体構造106は、イオン交換以外、又はイオン交換に追加したタスクを実行するように機能する材料、例えば濾過、レドックスフローセルバッテリー、電気透析、デッドエンド濾過、薬学的濾過、リチウムイオンバッテリー、逆浸透浄水、廃水処理、食品加工、布地等に好適な材料を含んでもよい。
【0138】
上述のように、支持体部材は、個別の選択性膜が配置される複数の開口を画定するようにグリッド構成で配置され得る。
図30Aに例示されるように、グリッドは、四角形の活性領域を画定する四角形グリッドである。四角形活性領域及び四角形グリッドが例示されているが、規則的なモザイク状多角形、不規則形状、円形等の他のグリッド構成も可能であることが理解される。それに関連して、別の選択性膜構造200が例示されている
図30Bに注目されたい。
【0139】
図示されるように、選択性膜構造200は、それを通した流体流動を可能にするように平面構成で結合された複数の個別の選択性膜202を含む。それに関連して、選択性膜構造200は、個別の選択性膜同士を結合する複数の支持体部材204を含む支持体構造206を含む。例示された実施形態において、個別の選択性膜202は、モザイク状六角形構成で配置される。
【0140】
そのような構成は、選択性膜構造202の活性膜表面積を増加させるのに好適となり得る。一実施形態において、複数の個別の選択性膜を含む選択性膜構造の活性膜表面積は、選択性膜構造の全表面積の50%超である。一実施形態において、複数の個別の選択性膜を含む選択性膜構造の活性膜表面積は、約50%~約95%の範囲内である。
図30Aに関して本明細書で更に議論されるように、活性膜表面積を更に増加させるために、個別の選択性膜202の様々な構成が機能的な支持体構造206材料と組み合わされてもよい。
【0141】
一実施形態において、本開示の選択性膜構造は、ナノ多孔質ゾルゲルセラミック複合材を含むナノ多孔質複合材の下に配置された支持体構造を含む。そのような支持体構造は、例えば、多孔質支持体に結合されてもよく、ナノ多孔質複合材は、多孔質支持体及び支持体構造の上に形成される。支持体構造がナノ多孔質複合材の少なくとも一部の下に配置されたそのような構成において、支持体構造は、ナノ多孔質複合材の内部骨格を形成する。これに関連して、支持体構造は、
図30A及び
図30Bに関して本明細書において更に議論されるように、選択性膜構造に印加される応力を低減するためにナノ多孔質複合材に物理的支持を提供する。
【0142】
そのような内部骨格支持体構造の材料は、本明細書において更に説明されるそれらの支持体構造材料を含み得る。これに関連して、内部骨格支持体構造は、可撓性及び/又は圧縮可能であってもよい。一実施形態において、内部骨格支持体構造は、ナノ多孔質複合材を通した流体流動を可能にするように1つ又は複数の開口を画定するグリッド構成で配置される。
【0143】
本明細書において、本発明の要素はそれぞれ複数の実施形態を含むものとして説明されているが、別段に指定されない限り、本発明の所与の要素の実施形態はそれぞれ、本発明の他の要素の実施形態のそれぞれと共に使用されてもよく、それぞれのそのような使用は、本発明の異なる実施形態を形成することを意図することが理解されるべきである。
【0144】
本明細書において言及される参照特許、特許出願、及び科学文献は、それぞれの個別の出版物、特許又は特許出願が具体的に、及び個別に参照により組み込まれることが示されるのと同等に、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本明細書において引用される任意の参考文献と、本明細書の特定の教示との間のいかなる矛盾も、後者を優先して解決される。同様に、単語又は語句の当技術分野において理解される定義と、単語又は語句の本明細書において教示される定義との間のいかなる矛盾も、後者を優先して解決される。
【0145】
上記の開示から理解され得るように、本発明は広範な用途を有する。単なる例示であり、決して本発明の定義及び範囲を制限することを意図しない以下の実施例によって、本発明を更に例示する。
【実施例】
【0146】
(実施例1)
この実施例では、ナノ多孔質選択性ゾルゲルセラミック膜の構造的特性評価の方法を説明する。
【0147】
膜透過性
膜を介したイオン拡散を測定するために、基本的なH型セル構成を利用した(
図4)。セルの左側は、共に3M HCl中の1M FeCl
3若しくは1M CrCl
3、又は2.5M H
2SO
4中の1M VOSO
4を10mL含んでいた。右側は、浸透圧及びイオン強度を相殺するように、1M AlCl
3又はMgSO
4を10mL含んでいた。イオンが膜を介して拡散し始めたら、透過液側から1mLを抽出し、キュベット内に入れ、抽出した日付及び時間を記録した。次いで、1mLの新しいAlCl
3又はMgSO
4溶液を透過液側に補充した。十分な試料を採取した後、Thermo Scientific Evolution 300 UV Vis Spectrophotometerを使用して、各試料の吸光度を測定し、最終的に以下のベールの法則(式中、Absは吸光度であり、εはFeCl
3、CrCl
3、又はVOSO
4溶液の吸光係数であり、lはキュベットを通って伝わる光の経路長であり、cは濃度である)を使用して濃度を計算した。
【0148】
【0149】
イオンの濃度を時間に対してプロットし、疑似定常拡散近似を使用してH型セルにおいて得られた濃度プロファイルに当てはめる。拡散プロセス時間(tp)の値が得られたら、式3(式中、Aは膜の面積であり、Vはセル内の溶液の体積である)を使用して外的透過性が得られる。
【0150】
【0151】
【0152】
面積比抵抗(ASR)
図5は、4電極定電位電気化学的インピーダンス分光法(potentiostatic electrochemical impedance spectroscopy、PEIS)によりASRを測定するために利用された構成の概略を示す。使用した機器は、Gamry Reference 600 Potentiostatであった。構成は、ルギン管を有する修正されたH型セルからなる。セル内の容積は50mLである。10~1,000,000Hzの周波数で5mVのAC電位を印加した。文献では、系の疑似線形を維持するためにわずかなAC電位励起(1~10mV)が一般的である。
【0153】
構造特性評価
小角X線散乱(SAXS)を利用して、ゾルゲルセラミック複合材膜のナノ構造を特性評価した。SAXS技術は、文献において、ゾルゲル材料のナノ構造の調査に広範に使用されている。SAXS測定は、スリットコリメーションでAnton Paar SAXess機器を使用して行った。必要に応じてバックグラウンド(例えば石英管)に対するデータ補正を適用し、Fanら(Fan、M. Degen、S. Bendle、N. Grupido、J. Ilavsky、The absolute calibration of a small angle scattering source instrument with a laboratory x-ray source、J. Phys: Conf. Series、247(2010)、012005)により説明されるように高密度ポリエチレン(HDPE)標準を使用してデータを絶対スケールで表示した。
【0154】
(実施例2)
この実施例では、4種類の例示的膜を以下のように調製した。
【0155】
PSS TEOSシリカ膜
この膜は、
図1に記載の方法を用いて処理した。工程1(STEP 1)では、不織シリカマクロ多孔質基材(公称細孔サイズ1μm、厚さ330μm、孔隙率70%)を、SIBSポリマー縁取り(Kraton D1170)と組み合わせて使用した。SIBSは厚さ400μmであり、マクロ多孔質支持体との2mmの重複領域を有し、支持体のいずれかの側のSIBSがそれ自体にシールし得る9mmの非重複領域を有していた。100kPa未満の圧力及び300°F~400°Fの間の温度で、1~10分の期間熱プレスを使用して、SIBSをマクロ多孔質支持体に溶かし込んだ。これにより、マクロ多孔質支持体へのSIBSポリマーの十分な浸透が確保された。完全なシールを更に確保するために、50μLのトルエンをマクロ多孔質支持体及びポリマー縁取りの境界領域に滴下した。工程2では、1:1の体積比の98質量%テトラエチルオルトシリケート(TEOS)及び18質量%の水中のポリスチレンスルホン酸(PSS)を含むゾルゲル溶液を調製した。工程1からの縁取りされた支持体を、ゾルゲル(Sol-Gel)溶液中に15分間浸し、その後取り出した。この後、ゲル化(すなわち自己集合)を誘発し、膜(Membrane)から可能な限り液体分を除去(すなわち濃縮/蒸発)するために、任意選択の第3の工程として支持体を乾燥させた。テフロン(登録商標)プレート上で、周囲圧力及び室温(すなわち1atm及び約23℃)で12~24時間膜を乾燥させた。
【0156】
SS TEOSシリカ膜
この膜は、
図2に記載の方法を用いて処理した。工程1では、不織シリカマクロ多孔質基材(公称細孔サイズ1μm、厚さ150μm、孔隙率75%)を、SIBSポリマー縁取り(Kraton D1170)と組み合わせて使用した。SIBSは厚さ400μmであり、マクロ多孔質支持体との2mmの重複領域を有し、支持体のいずれかの側のSIBSがそれ自体にシールし得る9mmの非重複領域を有していた。100kPa未満の圧力及び300°F~400°Fの間の温度で、1~10分の期間熱プレスを使用して、SIBSをマクロ多孔質支持体に溶かし込んだ。これにより、マクロ多孔質支持体へのSIBSポリマーの十分な浸透が確保された。完全なシールを更に確保するために、50μLのトルエンをマクロ多孔質支持体及びポリマー縁取りの境界領域に滴下した。工程2では、縁取りされたマクロ多孔質支持体を27%のケイ酸ナトリウム(SS)水溶液(Pre-Coat)に15分間浸した。SSは、基材を完全に充填するのに役立つ。工程3では、98質量%のテトラエチルオルトシリケートを含有するゾルゲル溶液40μLを、SS浸透基材上にドロップキャストした。基材の縁取りされていない部分全体を被覆するには、40μLで十分であった。ゾルゲルコーティング後、ゲル化(すなわち自己集合)を誘発し、膜から可能な限り液体分を除去(すなわち濃縮/蒸発)するために、任意選択の第4の工程として膜を乾燥させた。テフロン(登録商標)プレート上で、周囲圧力及び室温(すなわち1atm及び約23℃)で12~24時間膜を乾燥させた。
【0157】
SS TEOSセルロース膜
この膜は、
図2に記載の方法を用いて処理した。工程1では、不織セルロースマクロ多孔質基材(1μm、厚さ190μm、孔隙率75%)を、SIBSポリマー縁取り(Kraton D1170)と組み合わせて使用した。SIBSは厚さ400μmであり、マクロ多孔質支持体との2mmの重複領域を有し、支持体のいずれかの側のSIBSがそれ自体にシールし得る9mmの非重複領域を有していた。100kPa未満の圧力及び300°F~400°Fの間の温度で、1~10分の期間熱プレスを使用して、SIBSをマクロ多孔質支持体に溶かし込んだ。これにより、マクロ多孔質支持体へのSIBSポリマーの十分な浸透が確保された。完全なシールを更に確保するために、50μLのトルエンをマクロ多孔質支持体及びポリマー縁取りの境界領域に滴下した。工程2では、縁取りされたマクロ多孔質支持体を27%のケイ酸ナトリウム(SS)水溶液に15分間浸した。SSは、基材を完全に充填するのに役立つ。工程3では、98質量%のテトラエチルオルトシリケートを含有するゾルゲル溶液40μLを、SS浸透基材上にドロップキャストした。基材の縁取りされていない部分全体を被覆するには、40μLで十分であった。ゾルゲルコーティング後、ゲル化(すなわち自己集合)を誘発し、膜から可能な限り液体分を除去(すなわち濃縮/蒸発)するために、任意選択の第4の工程として膜を乾燥させた。テフロン(登録商標)プレート上で、周囲圧力及び室温(すなわち1atm及び約23℃)で12~24時間膜を乾燥させた。
【0158】
SS PSS TEOSシリカ膜
この膜は、
図2に記載の方法を用いて処理した。工程1では、不織シリカマクロ多孔質基材(公称細孔サイズ1μm、厚さ330μm、孔隙率70%)を、SIBSポリマー縁取り(Kraton D1170)と組み合わせて使用した。SIBSは厚さ400μmであり、マクロ多孔質支持体との2mmの重複領域を有し、支持体のいずれかの側のSIBSがそれ自体にシールし得る9mmの非重複領域を有していた。100kPa未満の圧力及び300°F~400°Fの間の温度で、1~10分の期間熱プレスを使用して、SIBSをマクロ多孔質支持体に溶かし込んだ。これにより、マクロ多孔質支持体へのSIBSポリマーの十分な浸透が確保された。完全なシールを更に確保するために、50μLのトルエンをマクロ多孔質支持体及びポリマー縁取りの境界領域に滴下した。工程2では、縁取りされたマクロ多孔質支持体を27%のケイ酸ナトリウム(SS)水溶液に15分間浸した。SSは、基材を完全に充填するのに役立つ。工程3では、1:1の体積比の98質量%テトラエチルオルトシリケート(TEOS)及び18質量%の水中のポリスチレンスルホン酸(PSS)を含むゾルゲル溶液を調製した。工程2からのSS浸透基材を、ゾルゲル溶液中に15分間浸し、その後取り出した。ゾルゲルコーティング後、ゲル化(すなわち自己集合)を誘発し、膜から可能な限り液体分を除去する(すなわち濃縮/蒸発)ために、任意選択の第4の工程として膜を乾燥させた。テフロン(登録商標)プレート上で、周囲圧力及び室温(すなわち1atm及び約23℃)で12~24時間膜を乾燥させた。
【0159】
例示的な膜を、以下のように特性評価した。
図6及び
図7は、Cr
3+及びFe
3+イオンに対する例示的な膜の外的透過性を示す。膜にはより低い透過性が望ましいことに留意されたい。産業において一般的に使用されるペルフルオロスルホン酸膜の最も一般的な種類の2つである、Nafion(登録商標)115及び212は、例示的なゾルゲルセラミック複合材膜の基準として機能した。
図1に従って処理されたPSS TEOSシリカ膜が、最も高い透過性を有していた。次に、
図2に従って処理されたSS TEOSシリカ及びセルロース膜が、次に高い透過性を有していた。シリカベース及びセルロースベースマクロ多孔質支持体の間の変動性に基づくこれらの2つの膜間の顕著な差はなかった。しかしながら、セルロース紙はより低密度で薄いことから、セルロース膜がシリカ紙と比較して若干高い透過性を有していたことは理にかなっている。興味深いことに、再び
図2に従って処理されたSS PSS TEOSシリカ膜はゾルゲルセラミック複合材膜の中で最も低い透過性を達成した。更により注目すべきことに、この膜配合物は、両方のNafion(登録商標)膜のCr
3+及びFe
3+透過性のそれぞれに匹敵及びそれらを低減することが可能であった。これは、同じ膜に存在するPSS触媒及び高密度SS溶液の両方の利益に起因すると考えられる。また、これらが膜を貫通する極めて小さいイオンであることが言及されるべきである。SS TEOSシリカ/セルロース及びPSS TEOSシリカ膜は、この特定の目的(すなわちICRFB)には同様に性能を発揮しなかったが、より大きな分子を使用する他の種類のバッテリー膜又は濾過目的のために、切り捨てるべきではない。これらも確かに、良好な選択肢として機能し得る。
【0160】
これらの膜に対して面積比抵抗(ASR)を計算した。定電位電気化学的インピーダンス分光法(PEIS)を行った後、膜の抵抗は、単に、膜を有さないセルの抵抗(R
0)から膜を有するセルの抵抗(R
1)を差し引き、最後に膜の断面積(A)を乗じることによって判明し得る。結果は以下の
図8に示される。当然ながら、Nafion(登録商標)膜は最も低いASRを有していたが、これは、極めて貴重とされる品質であり、またその高いコストにもかかわらず非常によく使用される大きな理由である。
【0161】
【0162】
ゾルゲルセラミック複合材膜のASRは、全てNafion(登録商標)より高かった。更に、膜製造における周知の障害は、ASRと透過性との間の関係である。一般に、より低い透過性を有する膜は概してより高いASRを有し、逆もまた成り立つ。これは
図8において明確に観察することができ、SS PSS TEOSシリカ膜は最も高いASRを有し、一方でこれは以前に最も低い透過性を有することが観察された。他のゾルゲルセラミック複合材膜も同様の傾向に従っていた。この傾向は、これらの膜のASRに対して外的透過性がプロットされている
図9及び
図10において更に強調されている。
【0163】
ゾルゲルセラミック複合材膜のASRと透過性との間の反比例関係が確認され得る。しかしながら、1Ω・cm2のASRは、ICRFBには許容され得る値とみなされることが言及されるべきである。可能な限り低いASRを有することが望ましく、これは、このゾルゲルプロセスにおける前駆体の更なる改質及び選択によって達成され得る。
【0164】
図11及び
図12は、SAXS実験の結果を示す。
図12は、参照としての裸のシリカ及びセルロースマクロ多孔質支持体の散乱である。PSS TEOSシリカ膜の低Q領域に幅広いピークが見られる。この膜は、以前に
図2において説明されたSSプレコートを利用した他の3つの膜と比較して極めて異なる散乱パターンを有していた。このことから、プレコートは、ゾルゲルセラミック複合材膜の構造に対してある種の有意な効果を有していたことが明らかである。これはまた透過性の結果において以前に確認され、SSプレコートを含む膜は全て、プレコートを含まない
図1に従って処理された膜よりも良好に機能した。全体として、ここで示された結果は、Nafion(登録商標)並びに他の高価な膜及びフィルターの代替品として機能する、本方法により処理されたゾルゲルセラミック複合材膜の可能性を示している。
【0165】
(実施例3)
以下の実施例は、細孔内に様々な所望の官能基を有する多孔質及び可撓性シリカベース膜の合成を詳述する。これらの膜は、
図1又は
図2に記載の方法のいずれかを使用して処理した。方法は共に同じ第1の工程を有し、マクロ多孔質支持体の充填のみが異なる。工程1では、不織シリカマクロ多孔質基材(公称細孔サイズ1μm、厚さ220μm、孔隙率70%)を、SIBSポリマー縁取り(Kraton D1170)と組み合わせて使用した。SIBSは厚さ150μmであり、マクロ多孔質支持体との5mmの重複領域を有し、支持体のいずれかの側のSIBSがそれ自体にシールし得る15mmの非重複領域を有していた。100kPa未満の圧力及び300°F~400°Fの間の温度で、1~10分の期間熱プレスを使用して、SIBSをマクロ多孔質支持体に溶かし込んだ。これにより、マクロ多孔質支持体へのSIBSポリマーの十分な浸透が確保された。配合物に依存して、いくつかの膜はSIBS縁取りなしで使用されるのに十分強靭であった。
【0166】
図1の方法を使用するにあたり、Ludox(登録商標)粒子を二官能性R*
2-Si-(OR)
2又は三官能性有機シランR*-Si-(OR)
3と混合した。典型的には、Ludox(登録商標)SM-30(水中30質量%、直径7nm)が使用されるが、用途に依存して他の種類のLudox(登録商標)、例えばLudox(登録商標)HS-40又はLudox(登録商標)CLも同様に使用され得る。使用される有機シランの種類もまた、用途に依存する。例えば、フローバッテリーにおける膜の場合、選択性を補助するためにアルキル基が使用され、プロトン伝導性を補助するためにスルホン酸基が使用された。Ludox(登録商標)懸濁液を1種又は複数種の有機シランと混合したが、混合物は、50~95体積%のLudox(登録商標)懸濁液及び5~50体積%の有機シランの間で様々である。濃塩酸又は水酸化ナトリウムを使用してpHを2に調整し、混合物が単相溶液となるまで混合物を60℃で激しく撹拌した。最初は混合物は混和性となり得ないが、加水分解の結果としてのエタノール及び有機シランのヒドロキシル基の放出が、単相溶液を形成するのに十分であった。溶液を、0~24時間エージングした。工程1からの基材をゾルゲル溶液中に30秒間浸した。次いで、ゾルゲル浸透基材を溶液から取り出した。浸されたマクロ多孔質支持体を、テフロン(登録商標)プレート上で室温で24時間乾燥させる。このプロセスから得られた膜は、強靭で可撓性である。約10cmの曲率半径への最大圧縮又は湾曲後、膜は亀裂を生じなかった。
【0167】
図2の方法を使用するにあたり、濃塩酸を使用してLudox(登録商標)懸濁液をpH2に調整した。工程1からの基材をゾルゲル溶液中に30秒間浸した。次いで、ゾルゲル浸透基材を溶液から取り出した。浸されたマクロ多孔質支持体を、テフロン(登録商標)プレート上で室温で24時間乾燥させる。次いで、別のバッチのゾルを調製したが、四官能性シラン分子前駆体、例えばテトラエチルオルトシリケート(TEOS)又はテトラメチルオルトシリケート(TMOS)を、有機シラン、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール)、水、及びpHを2に調整するための塩酸と混合する。有機シランの量は、全シラン種の0~50%の範囲であってもよい。シラン種対水及びアルコールのモル比は、1:2~5:0~4で変動する。シランエトキシ基の十分な加水分解が生じ、相分離が生じなくなるまで、成分を60℃で激しく撹拌した。次いで、ゾルを0~24時間エージングした。最後に、以前に充填されたマクロ多孔質支持体をゾルに漬け、テフロン(登録商標)プレート上で24時間乾燥させた。
【0168】
有機シラン上の官能基は、シリカネットワーク内に埋没するのではなく、細孔内へと外側に突き出している。ヘキシルトリエトキシシラン及びTEOSから形成された膜に対してSAXSを行ったところ(
図14)、コアがシリカでシェルが炭化水素及び溶媒の組合せであるフラクタルコアシェルモデルに適合する。
図14における適合は、5.6Åのコアシリカ半径及び10.4Åのヘキシルシェルを有する複合材膜を示している。モデルは、R*が疎水性アルキル官能基である場合であっても、これらの基はミセルを形成するのではなく外側に突き出していることを示唆している。R*基が外側に突き出している分散体中のゾルのこの構造は、細孔内に調整可能な官能基を有する膜の形成に重要である。しかしながら、混合物にTEOS又はLudox(登録商標)を添加しないと、有機基は加水分解及び縮合することができないため、混合物は長期間経った後でもゲル化しなかった。ゾルをゲル化するために必要なTEOSの最少量は、使用される有機シランに依存するが、典型的には約30モル%である。
【0169】
また、方法の項で説明されたように、ASR及び透過性測定(
図15)を行った。値は、基準としてのNafion(登録商標)と比較される。結果は有望であり、シリカベース膜のASR及び透過性の両方が、Nafion(登録商標)に匹敵する、又はそれより良好である。
【0170】
(実施例4)
この実施例は、チタニアベースの例示的な膜の調製を説明する。チタニア膜に使用された化学物質は、チタンテトライソプロポキシド(TTIP)、TEOS、3M塩酸、DI水、及び純エタノール(EtOH)であった。97%のTTIP及び99%のTEOSをSigma-Aldrich Corporation社から入手し、純エタノール200プルーフをDecon Laboratories, Inc社から入手した。TTIPを少量のエタノール中の水で加水分解することにより二酸化チタンを調製したが、TiO2が沈殿するのを防止するために塩酸によりpHを調節する必要があった。部分加水分解生成物はエタノールに可溶であり、酸素架橋の縮合によりポリマー鎖を形成する。式を以下に示す。
【0171】
【0172】
【0173】
式中、x<4であり、x1<xであり、y1<yであり、z=[4-(x1+y1)]/2であり、zはチタン原子毎に形成される酸素架橋の数である。
【0174】
膜は、
図1に記載の方法を用いて調製した。この場合、ポリマー縁取りを追加する前にゾルゲルコーティング及び乾燥工程が行われる、
図1の説明における任意選択の方法(2a)が利用された。工程1では、エタノール、HCl、TTIP、及び水又はTEOSの順に化学物質を混合してゾルゲル溶液を調製した。1:29:18、1:24:23、1:14:32のH
2O:TTIP:EtOH質量比を利用した。溶液はまた、1:21:26、1:17:26、1:10:26のTEOS:TTIP:EtOH質量比でも調製することができた。ガラス繊維紙(公称細孔サイズ1μm、厚さ330μm)を、紙を溶液中に約2分間浸漬することによりコーティングした。紙は3回コーティングした。コーティングの間の間隔は、表面が目に見えて湿潤しないように約10分であった。工程2では、コーティングされた紙を、最終コーティング後約24時間の間ドラフト内で自然乾燥させた。膜を、焼結のためにThermo Scientific社のF6030C炉に送った。炉を5℃/分の速度で標的温度より50℃低い温度まで加熱し、次いで温度を1℃/分の測度で標的温度まで上昇させた。膜を標的温度(250℃、350℃及び450℃)で2時間焼結し、次いで室温まで冷却した。工程3では、約325°Fの温度及び約2分の期間熱プレスを使用して、コーティングされた紙にポリマーを溶かし込むことによってSIBSポリマー縁部(Kraton D1170)を膜に追加した。SIBSポリマーは、膜の縁部を約15mm超えて延在し、約5mmの重複領域を有していた。
【0175】
反応に使用される化学物質の適切な量を見出すために、TTIP、エタノール及び水の相図を検討した(
図16)。相図は、質量パーセントに基づいている。塩酸の質量パーセントを0.022%に固定し、他の化学物質の質量パーセントを変化させた。
図14は、この相図を示す。TTIPは、過剰量の水により沈殿する。少量の水(10%未満)との反応後に、透明黄色溶液が得られた。試料が乾燥した後、より少ないTTIPを含む試料は透明黄色結晶となり、より多いTTIPを含む試料は非透明黄色結晶となった。試料は、10%~20%の水及び比較的少量のTTIPで即座に黄色ゲルを形成することが判明した。相図における影付きの領域は、乾燥後に黄色透明結晶が形成した領域である。透明な黄色は、TiO
2ナノ材料が得られた可能性があることを示している。したがって、膜コーティングには影付きの領域に焦点が置かれる。
【0176】
膜上に1M FeCl
3又は1M CrCl
3を数滴(1滴あたり約12μL)滴下することにより、最終的な膜を試験した。次いで、金属イオンが通過するかどうかをチェックするために、膜をティッシュペーパーにプレスした。
図17は、この試験後の膜を示す。コーティングされた紙は、数滴の溶液が通過するのを防止することができ、ティッシュペーパーは清潔なままである。膜が不合格である場合は、ティッシュペーパー上に試験溶液の色が現れる。試験溶液を空の基材上に滴下すると、溶液は直接貫通し、ティッシュペーパー上に色が現れる。一般に、焼結なしでは、より多量のTTIPでコーティングされた膜は、より多くの溶液の液滴が貫通するのを防止する。したがって、より高濃度のTTIPでコーティングされた膜は、より悪い透過性を有し得る。
【0177】
Table 1(表1)は、異なる膜の間のSAXS結果及び滴下試験結果を比較している。一般に、焼結膜は、非焼結膜よりも大きい細孔半径及び低い空隙率を示す。焼結後には稠密構造が形成し得、収縮が生じてより大きな細孔サイズをもたらす可能性がある。滴下試験結果は、焼結後に大きく変化しない。水でコーティングされた膜は、より悪い滴下試験結果及び最大の細孔半径を示す。全てのフラクタル次元は3に近く、これは、細孔が球状に拡大するフラクタル構造で組織化されることを示唆している。
【0178】
同じ組成物でコーティングされた膜を異なる温度で焼結したが、Table 2(表2)は、これらの膜の特性を示す。焼結温度が上昇すると、細孔サイズが増加する一方で空隙率が減少する。より高い焼結温度では、より高密度の構造が形成し得る。膜は、より低い温度で加熱された後に褐色に変化したが、これは有機汚染物質の燃焼によりもたらされた可能性がある。より高い焼結温度では有機汚染物質は蒸発し得、したがって膜は白色を維持した。Table 3(表3)は、異なる組成で450℃で焼結された膜のWAXS結果を示す。溶液中のTTIPの組成が増加すると、細孔サイズが増加する。しかしながら、空隙率は明確な傾向を示さない。組成の変化は、空隙率に対する重大な影響を示さない。
【0179】
【0180】
【0181】
【0182】
(実施例5)
この実施例では、ゾルゲル溶液は、体積比の17wt%の水溶液中のポリスチレンスルホネート(PSS)及び純テトラエチルオルトシリケート(TEOS)を含む。これらの膜は、
図1に記載の方法を用いて処理した。工程1では、不織シリカマクロ多孔質基材(公称細孔サイズ1μm、厚さ220μm、孔隙率70%)を、SIBSポリマー縁取り(Kraton D1170)と組み合わせて使用した。SIBSは厚さ150μmであり、マクロ多孔質支持体との5mmの重複領域を有し、支持体のいずれかの側のSIBSがそれ自体にシールし得る15mmの非重複領域を有していた。100kPa未満の圧力及び300°F~400°Fの間の温度で、1~10分の期間熱プレスを使用して、SIBSをマクロ多孔質支持体に溶かし込んだ。これにより、マクロ多孔質支持体へのSIBSポリマーの十分な浸透が確保された。工程2では、ゾルゲル溶液を調製した。2:1、1:1、1:2、1:3、1:5、1:7、1:11、1:18、1:41のPSS:TEOS比を利用した。これらの比のうち、1:2~1:11の範囲は、5時間以内に単相ゾルに達することができ、優れた性能を示した。したがって、PSS及びTEOSの溶液を、1:2、1:3、1:5、1:7、1:11のPSS:TEOS比で調製し、溶液が単相に達するまで撹拌した。ポリマーで縁取りされた工程1からの基材をゾルゲル溶液中に30秒間浸した。次いで、ゾルゲル浸透基材を溶液から取り出した。任意選択の第3の工程(すなわち乾燥)を利用して、ゲル化(すなわち自己集合)を誘発し、次いで濃縮した。乾燥表面への膜の貼り付きを防止するために、テフロン(登録商標)プレート上で室温(約23℃)で24時間乾燥を行った。
【0183】
走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して膜構造を特性評価した。SEMを利用して、膜の上面及び断面の両方の200倍及び2000倍の倍率の画像を収集した。画像を使用して、上面及び断面上で目に見える欠陥を、及び断面のみで架橋した亀裂を走査した。
図18は、生成された試料のこれらのSEM画像を示す。TEOSの量が増加すると、膜は上面からより高密度に充填されたように見える。しかしながら、断面画像(クローズアップ及びズームアウト)は、全ての膜配合物が充填されていることを示し、これは効果的な膜の動作を防止するのに必要である。
【0184】
SAXSデータもまた収集した。透過法を使用して試料毎に10分のSAXSプロファイルを収集し、上記実施例4に記載のようにフラクタル凝集体モデルに当てはめた。上記と同じプロセスを使用し、1:5のPSS:TEOS比を使用した10cm×10cm膜において、膜ナノ構造の再現性を調査した。膜を9つのゾーンに分割し、それぞれSEM及びSAXS手順に供した(
図19A~
図19C)。SEM画像は、密度、欠陥、又はマクロ構造に関して、膜にわたる認識可能な変動を示さなかった。SAXSモデリングは、ゾーンにわたるいかなる変動も検出できず、また特徴的な細孔半径は4.5Åであり、最小孔隙率は2.6%であった。
【0185】
また、方法の項で説明されたように、ASR及び透過性測定を使用して膜を特性評価した。このデータは、
図20及び
図21にプロットされている。理想的には、膜は、低いイオン透過性及び高いプロトン伝導性を有するが、両者の間のトレードオフが一般的である。この場合、
図20は、最善の性能を示す1:7、1:5及び1:3のPSS:TEOS比でのこのトレードオフを示している。
図21は、膜細孔サイズ(SAXSにより評価)とプロトン伝導性との間の関係を示し、細孔サイズの減少(及びPSS含量の増加)と共に伝導性が増加することを示している。
【0186】
「約」、「およそ」及び「実質的に」等のいかなる近似的用語も、対象がプラス又はマイナス5%で修飾され得、説明された実施形態に含まれ得ることを示す。
【0187】
例示的実施形態を例示し説明したが、本発明の精神及び範囲から逸脱せずに、様々な変更を行うことができることが理解される。
【0188】
独占的な所有権又は権限が請求される本発明の実施形態は、以下に定義される。
【符号の説明】
【0189】
100 選択性膜構造
102 個別の選択性膜
104 支持体部材
106 支持体構造
200 選択性膜構造
202 個別の選択性膜
204 支持体部材
206 支持体構造