(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】疼痛のための精密医療:診断バイオマーカー、薬理ゲノミクス、およびリパーパス薬
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240521BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20240521BHJP
C07K 14/715 20060101ALN20240521BHJP
C12N 9/12 20060101ALN20240521BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20240521BHJP
【FI】
G01N33/68
C07K14/47
C07K14/715
C12N9/12
C12N9/10
(21)【出願番号】P 2020548719
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 US2019022305
(87)【国際公開番号】W WO2019178379
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-03-09
(32)【優先日】2018-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507277642
【氏名又は名称】インディアナ ユニバーシティー リサーチ アンド テクノロジー コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INDIANA UNIVERSITY RESEARCH AND TECHNOLOGY CORPORATION
(73)【特許権者】
【識別番号】502310254
【氏名又は名称】アメリカ合衆国
【氏名又は名称原語表記】The United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100103182
【氏名又は名称】日野 真美
(74)【代理人】
【識別番号】100209037
【氏名又は名称】猪狩 俊博
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ニクレス,アレクサンダー ボグデン
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】PLOS ONE,2013年,8(11),e79435(10 pages)
【文献】Annals of Oncology,2013年,24(Supplement 9),ix31-ix65, Abstract Number: O1-057,doi:10.1093/annonc/mdt459.21
【文献】ONCOLOGY REPORTS,2012年,27,pp.1393-1399
【文献】Eur J Pain,2013年,17,pp.635-637
【文献】JOURNAL OF NEUROCHEMISTRY,2012年,122,pp.976-994
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C07K
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象から得た試料中の性別および診断によって個別化された
疼痛の強度に関連する血液バイオマーカーのパネルの発現レベルを定量的に測定すること;
前記血液バイオマーカーの対照発現レベルを得ること;および
前記試料中の前記血液バイオマーカーのパネルの発現レベルと前記血液バイオマーカーの対照発現レベルとの差を特定することを含む方法であって、
前記バイオマーカーのパネルが、GNG7、CNTN1、LY9、CCDC144B、GBP1、およびミクロフィブリル関連タンパク質3(MFAP3)からなる群から選択されるバイオマーカーの少なくとも1つを含む、方法。
【請求項2】
前記バイオマーカーのパネルが、CASP6、COMT(カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ)、RAB33A、ZYX、Hs.696420/MTERF1、COL27A1、HRAS、CALCA、Hs.596713/PPP1R14B、ASTN2、ELAC2、HLA-DQB1、PNOC、TCF15、TOP3A、H05785/LRRC75A、CLSPN、COL2A1、Hs.554262、PIK3CD、SVEP1、TNFRSF11B、ZNF91、CDK6、EDN1、AF090920/PPFIBP2、DCAF12、DNAJC18、HLA-DRB1、SEPT7P2、VEGFA、WNK1、AF087971/PBRM1、Hs.609761/SFPQ、Hs.659426/PHC3、CCDC85C、GSPT1、LOXL2、MBNL3、PTN、RALGAPA2、YBX3、ZNF441、CCND1、CDK6、HTR2A、NF1、SHMT1、TSPO、DENND1B、MCRS1、OSBP2、FAM134B、ZNF429、およびHs.677263/SMURF2からなる群から選択されるバイオマーカーの少なくとも1つをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象から得た試料中の性別および診断によって個別化された
疼痛の強度に関連する血液バイオマーカーのパネルの発現レベルを定量的に測定すること;
前記血液バイオマーカーの対照発現レベルを得ること;および
前記試料中の前記血液バイオマーカーのパネルの発現レベルと前記血液バイオマーカーの対照発現レベルとの差を特定することを含む方法であって、
前記バイオマーカーのパネルが、ミクロフィブリル関連タンパク質3(MFAP3)、ホスファチジルイノシトール-4,5-ビスホスフェート3-キナーゼ触媒サブユニットデルタ(PIK3CD)、スシ、フォン・ヴィレブランド因子タイプA、EGFおよびペントラキシンドメイン含有1(SVEP1)、TNF受容体スーパーファミリーメンバー11b(TNFRSF11B)、およびElaCリボヌクレアーゼZ2(ELAC2)からなるバイオマーカーの組合せである、方法。
【請求項4】
前記対象から得た前記試料中の前記血液バイオマーカーのパネルの発現レベルは、前記バイオマーカーの対照発現レベルと比較して増加している、または前記対象から得た前記試料中の前記血液バイオマーカーのパネルの発現レベルは、前記バイオマーカーの対照発現レベルと比較して減少している、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2018年3月14日出願の米国仮出願第62/642,789号に基づく優先権を主張するものである。
【0002】
政府支援の記載
本発明は、National Institutes of Healthにより授与されたOD007363およびVeterans AdministrationによるCX000139 merit awardの下での政府の支援によりなされたものである。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本開示は、概して、疼痛を客観的に決定および予測する方法に関する。より詳細には、本開示は、疼痛強度を追跡し、疼痛のレベルを予測し、疼痛による将来の医療施設での受診を予測する方法に関する。バイオマーカー遺伝子発現シグネチャーを使用して疼痛を治療するための候補物質として特定された薬物および天然化合物も開示する。
【背景技術】
【0004】
疼痛とは、身体的損傷および将来の不都合の可能性を反映する主観的感覚である。疼痛の治療は、米国では数十億ドルの市場である。しかし、米国は、オピオイド乱用の流行という状態に置かれている。
【0005】
精神状態は、疼痛の知覚に影響を与える場合があり、同様に、疼痛によって影響を受ける場合もある。精神病患者は、しばしば不運な人生の軌道のために、疼痛に関する知覚が高まるとともに、疼痛に関する身体的健康上の理由も増加する場合がある。
【0006】
現在、疼痛を決定するための客観的な検査は存在せず、したがって、臨床医は患者による自己申告に依存しなければならない。疼痛の客観的検査によって、適切な診断や治療が容易となり、疼痛の治療を必要とする人々向けにより自信に満ちた治療が可能となるとともに、それを必要としない人々への依存性の可能性のある医薬の過量処方を回避することができる。疼痛の血液バイオマーカーは、新しい鎮痛医薬の開発のため、および疼痛治療としての使用向けへの既存の薬物のリパーパス(repurposing)のための、治験のコンパニオン診断法として役立つ可能性がある。したがって、適切な治療を導くことができる、疼痛を決定するための客観的物差しに対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、概して、疼痛を決定および予測する方法に関する。より詳細には、本開示は、疼痛強度を客観的に決定し、疼痛による将来の救急部門(ED)での受診を予測する方法に関する。バイオマーカー遺伝子発現シグネチャーを使用して、疼痛を治療するための候補物質として薬物および天然化合物を特定する方法も開示する。
【0008】
一態様では、本開示は、それを必要とする対象において疼痛強度を決定する方法を対象とする。方法は、対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルを得ること;血液バイオマーカーの対照発現レベルを得ること;および対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルと血液バイオマーカーの対照発現レベルとの間の差を特定すること、を含み、ここで、対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルと血液バイオマーカーの対照発現レベルの差が疼痛強度を決定する。一実施形態では、血液バイオマーカーは、血液バイオマーカーのパネルである。対照レベルとは、集団の平均または対照範囲であってもよく(「横断的」アプローチ)、対象が疼痛を治療する必要がなかったときに対象において以前に得ておいた試料のレベルであってもよい(「縦断的」アプローチ)。
【0009】
別の態様では、本開示は、疼痛に関する血液バイオマーカーを特定する方法であって、対象から第1の生体試料を得ること、および第1の疼痛強度検査を対象に行うこと;対象から第2の生体試料を得ること、および第2の疼痛強度検査を対象に行うこと;第1の疼痛強度検査と第2の疼痛強度検査との間の差によって決定された、低疼痛強度から高疼痛強度への変化を有する対象を特定することにより、対象の第1のコホートを特定すること;第1の生体試料と第2の生体試料との間で発現の変化を有するバイオマーカーを特定することにより、第1のコホートにおいて候補バイオマーカーを特定すること、を含む、方法を対象とする。
【0010】
一態様では、本開示は、疼痛による将来の救急部門(ED)での受診を予測する方法を対象とする。方法は、対象から得た試料中の血液バイオマーカーまたは血液バイオマーカーのパネルの発現レベルを得ること;血液バイオマーカーまたは血液バイオマーカーのパネルの対照発現レベルを得ること;試料中の血液バイオマーカーの発現レベルと血液バイオマーカーの対照発現レベルの差を特定すること、を含み、ここで、対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルと血液バイオマーカーの対照発現レベルの差が、疼痛による将来のED受診の可能性を決定する。一実施形態では、血液バイオマーカーは血液バイオマーカーのパネルである。対照発現レベルは本明細書に記載のレベルとすることができる。
【0011】
別の態様では、本開示は、それを必要とする対象において疼痛を緩和する方法を対象とする。方法は、対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルを得ること;血液バイオマーカーの対照発現レベルを得ること;試料中の血液バイオマーカーの発現レベルと血液バイオマーカーの対照発現レベルの差を特定すること;および治療を行うこと、を含み、ここで、上記治療は、試料中の血液バイオマーカーの発現レベルと血液バイオマーカーの対照発現レベルとの間の差を低減して、対象における疼痛を緩和する。一実施形態では、血液バイオマーカーは、血液バイオマーカーのパネルである。対照発現レベルは、本明細書に記載のレベルとすることができる。
【0012】
以下の詳細な説明を考慮すると、本開示はいっそう理解され、上記のもの以外の特徴、態様および利点が明らかになる。かかる詳細な説明は、以下の図面を参照するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】ステップ1~3:発見、優先順位付け、および検証を示す図である。
図1Aは、研究で使用されたコホートを示し、各ステップによるバイオマーカーの発見、優先順位付け、および検証のフローを示す。
【
図1B】
図1Bは、発見コホートの縦断的参加者内解析を示す。Phchp###は、各参加者のスタディIDである。V#は受診数を表す。
【
図1C】
図1Cは、発見コホートにおける高疼痛受診に基づく疼痛の可能なサブタイプの発見を示す。参加者は、気分と不安の物差し(単純化感情状態尺度(Simplified Affective State Scale)(SASS))、ならびに精神病(PANNS陽性)を使用してクラスター化された。
【
図1D】
図1Dは、発見コホートにおける差次的遺伝子発現-差次的発現(DE)および内部スコアが1以上である、無し-有り(AP)メソッドで特定された遺伝子の数を示す。赤/下線-高疼痛において発現が増加、青/太字-高疼痛において発現が減少。発見ステップにて、最大6の内部ポイント(33%(2pt)、50%(4pt)および80%(6pt))である疼痛を追跡するためのスコアに基づいてプローブセットを特定する。
【
図1E】
図1Eは、疼痛への関与の以前のエビデンスに対するCFGによる優先順位付けを示す。優先順位付けのステップでは、AffymetrixアノテーションおよびGeneCardsを使用して、プローブセットをその関連遺伝子に変換する。遺伝子を、最大12の外部ポイントを持つ疼痛のエビデンスに対してCFGを使用して、優先順位付けし、スコア化する。可能な最大18の内部と外部の総スコアポイントから少なくとも6ポイントをスコアリングする遺伝子を、検証ステップへと進める。
【
図1F】
図1Fは、共存性疼痛障害ならびに重度の主観的および機能性疼痛評価を有する精神神経科の患者の独立コホートにおける検証を示す。検証ステップでは、ANOVAを使用して、低疼痛である参加者の発見群から高疼痛への、臨床上重度の疼痛障害への段階的変化に関してバイオマーカーを評価する。N=検査受診の数。
【
図1G】5つのバイオマーカーが名目有意であり、MFAP3およびPIK3CDが最も有意であり、68のバイオマーカーが段階的に変化した。
【
図2A】状態予測(
図2A)、初年の形質予測(
図2B)、およびすべての将来の年の形質予測(
図2C)に関する最良のそれぞれのバイオマーカー予測因子を示す図である。ロングリストから(n=65)。ショートリスト(n=5)上にあるものは太字である。棒グラフは、各群の最良の予測バイオマーカーを示す。
*名目有意 p<0.05。
**検査された65のバイオマーカーについてBonferroni有意。図の下の表は、そのROC AUC p値が少なくとも名目有意であった各群の実際のバイオマーカー数を示す。一部の女性診断群については、有意なバイオマーカーを何ら有さなかったので、グラフから削除した。横断的は、1回の受診でのレベルに基づいた。縦断的は、複数の受診でのレベルに基づいた(最新の受診でのレベル、最大レベル、最新の受診への勾配、および最大勾配を統合する)。分割線は、チャンスレベル(白)で、横断的(灰色)および縦断的(黒)ベースの予測におけるすべての対象にとって最良のバイオマーカーと同じレベルで、行う検査のカットオフを表す。すべてのバイオマーカーはチャンスよりも成績が良かった。バイオマーカーはまた、性別および診断によって個別化すると、成績がより良かった。
【
図2B】状態予測(
図2A)、初年の形質予測(
図2B)、およびすべての将来の年の形質予測(
図2C)に関する最良のそれぞれのバイオマーカー予測因子を示す図である。
【
図2C】状態予測(
図2A)、初年の形質予測(
図2B)、およびすべての将来の年の形質予測(
図2C)に関する最良のそれぞれのバイオマーカー予測因子を示す図である。
【
図3】男性および女性の精神神経科の参加者の疼痛尺度示す図である。
【
図4】疼痛の60の上位のバイオマーカーに関するSTRING相互作用ネットワークを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は各種の変更形態や代替形態を許容するが、その特定の実施形態について、図面において例として示し、本明細書で以下に詳細に説明する。しかし、特定の実施形態に関する説明は、本開示を限定することを意図するものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の精神および範囲に包含される変更形態、均等物および代替物すべてを網羅することを理解されたい。
【0015】
別途定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様または均等である任意の方法および材料を本開示の実施または検査に使用することができるが、好ましい材料および方法について以下に記載する。
【0016】
本開示に従って、疼痛強度を客観的に決定するとともに、疼痛による将来の救急部門(ED)での受診を予測する、方法が開発された。
【0017】
一部の実施形態では、本明細書に記載の本開示の方法は、疼痛の治療、治療計画、および治療オプションを為すことができるように、対象を診断、予後予測、および特定するために、本明細書に記載の疼痛に侵されていない、またはそうでなければ苦しんでいない対象を含めて、「リスクに晒されている」対象におけるかかる方法の使用を含むことが意図されている。本明細書で使用する場合、「疼痛のリスクに晒らされている」対象とは、疼痛を発症する可能性のある個体を指す。したがって、一部の実施形態では、本明細書に開示の方法は母集団のサブセットを対象とし、その結果、こういった実施形態では、母集団のすべてが方法から利益を得るというわけではない。前述に基づいて、本開示の方法の実施形態の一部では、特定された対象の特定のサブセットまたはサブクラス(すなわち、本明細書に記載の特定の状態の「リスクに晒らされている」対象のサブセットまたはサブクラス)を対象とするので、すべての対象が、本明細書に記載のように、対象のサブセットまたはサブクラスに包含されることになるとは限らない。
【0018】
特に適切な対象はヒトである。適切な対象はまた、疼痛と関連した行動表現型を呈する、例えばサルおよびげっ歯類などの実験的動物とすることができる。特定の一態様では、対象は女性のヒトである。特定の別の態様では、対象は男性のヒトである。
【0019】
適切な試料は、例えば、唾液、血液、血漿、血清および頬スワブとすることができる。当業者であれば知っている方法を使用して試料をさらに処理して、例えば細胞、タンパク質および核酸(例えば、DNAおよびRNA)などの、試料に含有される分子を単離することができる。
【0020】
単離された分子はまた、さらに処理することもできる。例えば、細胞を溶解し、細胞内に含有されるタンパク質および/または核酸を単離する方法に供することができる。試料および/または単離された細胞に含有されるタンパク質および核酸を処理することができる。例えば、タンパク質は、電気泳動、ウエスタンブロット分析、免疫沈降およびそれらの組合せ向けに処理することができる。核酸は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応、電気泳動、ノーザンブロット分析、サザンブロット分析、RNase保護アッセイ、マイクロアレイ、遺伝子発現の逐次分析(SAGE)およびそれらの組合せ向けに処理することができる。
【0021】
適切なプローブが本明細書に記載されており、これには、例えば、核酸プローブ、抗体プローブ、および化学プローブが含まれ得る。
【0022】
一部の実施形態では、プローブは標識プローブとすることができる。適切な標識は、例えば、蛍光標識、酵素標識、放射性標識、化学標識、およびそれらの組合せとすることができる。適切な放射性標識は当業者に公知であり、例えば、32P、33P、35S、3Hおよび125Iなどの放射性同位体とすることができる。適切な酵素標識は、例えば、比色標識および化学発光標識とすることができる。適切な比色(発色)標識は、例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ビオチンおよびジゴキシゲニンとすることができる。ビオチンは、例えば、抗ビオチン抗体を使用して、あるいはストレプトアビジンもしくはアビジンまたは例えばアルカリホスファターゼおよび西洋ワサビペルオキシダーゼなどの発色酵素にコンジュゲートしたビオチン結合活性を保持するその誘導体によって、検出することができる。ジゴキシゲニンは、例えばアルカリホスファターゼおよび西洋ワサビペルオキシダーゼなどの発色酵素にコンジュゲートした抗ジゴキシゲニン抗体を例えば使用して、検出することができる。化学発光標識は、例えば、アルカリホスファターゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、レニラルシフェラーゼ、およびキサンチンオキシダーゼとすることができる。特に適切な標識は、例えば、SYBR(登録商標)Green(Life Technologiesから市販)とすることができる。特に適切なプローブは、例えば、SYBR(登録商標)Greenで標識されたオリゴヌクレオチドとすることができる。適切な化学標識は、例えば、過ヨウ素酸塩および1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDC)とすることができる。
【0023】
本明細書で使用する場合、「診断すること」および「診断」とは、当業者によって理解されるその普通の意味に従って使用されて、対象が疼痛強度の増加を有すると客観的に決定することを指す。
【0024】
本明細書で使用する場合、「それを必要とする対象において疼痛を予測すること」とは、対象が疼痛を発症する可能性があることもしくは発症するリスクに晒されていることを事前に示すこと、ならびに/または疼痛が増加する可能性がある当該疼痛を有する対象を特定すること、ならびに/または疼痛のためにおよび/もしくは疼痛の増加のために病院もしくはその他の医療施設を受診することになる対象を特定すること、を指す。
【0025】
本明細書で使用する場合、「バイオマーカー」という用語は、対象の検査試料を解析するのに使用される分子を指す。そのようなバイオマーカーの例は、核酸(例えば、遺伝子、DNAおよびRNAなどの)、タンパク質およびポリペプチドとすることができる。特に好ましい実施形態では、バイオマーカーは、バイオマーカー遺伝子の発現レベルとすることができる。特に適切なバイオマーカー遺伝子は、例えば、表1、4、5、7に列挙されているものおよびそれらの組合せとすることができる。
【0026】
本明細書で使用する場合、「バイオマーカーの対照発現レベル」とは、本明細書に記載の確立された方法を使用して当業者により決定された、無痛の対象について確立されたバイオマーカーの発現レベル、無痛の正常な/健康な対象におけるバイオマーカーの発現レベル、および/または文献から得られるバイオマーカーの公知の発現レベル、を指す。適切な一実施形態では、対照のレベルは、集団における平均または対照の範囲とすることができる(「横断的」アプローチ)。別の実施形態では、対照発現レベルは、対象が疼痛を治療する必要がなかったときに当該対象において以前に得た試料のレベルとすることができる(「縦断的」アプローチ)。バイオマーカーの対照発現レベルとは、高疼痛対象の集団を含めて、高疼痛対象について確立されたバイオマーカーの発現レベルをさらに指すことができる。バイオマーカーの対照発現レベルはまた、低疼痛対象の集団を含めて、低疼痛対象について確立されたバイオマーカーの発現レベルも指すことができる。バイオマーカーの対照発現レベルはまた、無痛の対象などの対象の任意の組合せについて確立されたバイオマーカーの発現レベル、無痛の正常の/健康な対象におけるバイオマーカーの発現レベル、試料を対象から得た時点に疼痛を有するが、後で疼痛の増加を呈する当該対象についてのバイオマーカーの発現レベル、高疼痛対象の集団を含めて高疼痛対象について確立されたバイオマーカーの発現レベルも指すことができ、バイオマーカーの発現レベルはまた、低疼痛対象の集団を含めて、低疼痛対象について確立されたバイオマーカーの発現レベルも指すこともできる。バイオマーカーの対照発現レベルはまた、方法が適用される対象から得たバイオマーカーの発現レベルも指すことができる。したがって、受診ごとの対象内の変化によって、疼痛の増加または減少を指示することができる。例えば、バイオマーカーの複数の発現レベルを、同じ対象から得た複数の試料から得て使用して、各試料中の複数の発現レベル間の差を特定することができる。したがって、一部の実施形態では、同じ対象から得た2つ以上の試料によって、血液バイオマーカーの発現レベルと血液バイオマーカーの対照発現レベルとを提供することができる。
【0027】
本明細書で使用する場合、「バイオマーカーの発現レベル」とは、当業者に公知のように、バイオマーカーをコードする遺伝子から遺伝子産物を合成するプロセスを指す。遺伝子産物は、例えば、RNA(リボ核酸)およびタンパク質とすることができる。発現レベルとは、例えば、ノーザンブロッティング、増幅、ポリメラーゼ連鎖反応、マイクロアレイ解析、タグベースの技術(例えば、遺伝子発現の逐次分析およびホールトランスクリプトームショットガンシーケンスまたはRNA-Seqなどの次世代シーケンシング)、ウエスタンブロッティング、酵素免疫測定法(ELISA)、およびそれらの組合せなどの当業者に公知の方法によって定量的に測定することができる。
【0028】
本明細書で使用する場合、バイオマーカーの発現レベルの「差」および/または「変化」とは、バイオマーカーの対照発現レベルに対して解析した場合の、血液バイオマーカーの測定された発現レベルの増加または減少を指す。一部の実施形態では、「差」および/または「変化」とは、対象から得た試料とバイオマーカーの対照発現レベルとの間で特定されたバイオマーカーの発現レベルの約1.2倍以上の増加または減少を指す。一実施形態では、発現レベルの差および/または変化とは、約1.2倍の増加または減少である。本明細書で使用する場合、「疼痛のリスク」とは、対象が疼痛を経験する(または発症する)ことになる増加した(より大きな)リスクを指すことができる。例えば、選択したバイオマーカーに応じて、バイオマーカーの発現レベルの差および/または変化によって、対象が疼痛を経験する(または発症する)ことになるというリスクの増加(より大きい)を指示することができる。逆に、選択したバイオマーカーに応じて、バイオマーカーの発現レベルの差および/または変化によって、対象が疼痛を経験する(または発症する)ことになるというリスクの減少(より低い)を指示することができる。
【0029】
疼痛を治療する方法
一態様では、本開示は、それを必要とする対象において疼痛を治療する方法を対象とする。方法は、対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルを得ること;血液バイオマーカーの対照発現レベルを得ること;試料中の血液バイオマーカーの発現レベルと血液バイオマーカーの対照発現レベルの差を特定すること;および治療を行うこと、を含み、ここで、上記治療は、試料中の血液バイオマーカーの発現レベルと血液バイオマーカーの対照発現レベルとの間の差を低減して、対象における疼痛を緩和する。
【0030】
バイオマーカーは、表1、4、5、7に列挙されている群およびそれらの組合せから選択される。一部の実施形態では、血液バイオマーカーのパネルが使用される。バイオマーカーは、可能な様々な重み付け係数を用いて選択することができる。
【0031】
適切な治療には、表1、2、7に列挙されたもの、およびそれらの組合せが含まれる。適切な治療にはさらに、当業者に知られている疼痛治療が含まれる。特に適切な治療には、SC-560、ピリドキシン、メチルエルゴメトリン、LY-294002、ハロペリドール、シチシン、シアノコバラミン、アピゲニン、ベータエスシン、アモキサピン、およびそれらの組合せが含まれる。
【0032】
一部の実施形態では、対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルは、バイオマーカーの対照発現レベルと比較して減少している。
【0033】
一部の実施形態では、対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルは、バイオマーカーの対照発現レベルと比較して増加している。
【0034】
一部の実施形態では、方法は、対象に対して神経心理学的検査を行うことをさらに含む。一般に、神経心理学的検査は、認知機能および人格機能の総合的評価を含む。より具体的には、例示的な神経心理学的検査には:知能向け(例えば、WAIS、WISC、SB、TONI);学力向け(例えば、WJ-III、WIAT、WRAT);注意向け(例えば、CCPT、WCST、Vanderbilt、NEPSY);言語向け(例えば、GORT、ボストン呼称、HRB-失語症);記憶と学習向け(例えば、WMS、WRAML、CVLT、RAVLT、ROCF、NEPSY);運動制御向け(例えばグルーブドペグボード、フィンガータッピング、握力、利き手);視覚向け(例えば、空間-ROCFT、ベンダー・ゲシュタルト、HVOT);自閉症向け(例えば、ADOS、ASDS、ADI、GARS);実行機能向け(例えば、WCST、BRIEF、EFSD、D-KEFS、HRB);および行動向け(例えば、BASC、アッヘンバッハ、バンダービルト)、が含まれる。
【0035】
疼痛を決定する方法
一態様では、本開示は、それを必要とする対象において高疼痛強度を決定する方法を対象とする。方法は、対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルを得ること;血液バイオマーカーの対照発現レベルを得ること;および試料中の血液バイオマーカーの発現レベルと血液バイオマーカーの対照発現レベルの差を特定すること、を含む。
【0036】
本明細書に記載のように、「低疼痛」とは、疼痛の視覚的アナログ尺度(VAS)2以下を指す。「中程度の疼痛」とは、VAS3~5を指す;および「高疼痛」とは、VAS6以上を指す(
図3を参照されたい)。疼痛VASとは対象による自己記入式である。疼痛VASは、水平(HVAS)または垂直(VVAS)の線で構成される連続的な尺度で、通常は長さ10センチメートル(100mm)で、2つの言語記述子が、極端な症状のそれぞれに対して1つであるが(「無痛」に対して0でおよび「考えられる最悪の疼痛」に対して100で)、アンカーとなっている。対象は、彼らの疼痛強度を表す点にVAS線に対して垂直な線を置くように求められる。ルーラーを使用して、スコア(すなわち、疼痛の強度)を、「無痛」のアンカーと患者のマークの間の10cmの線上の距離(mm)を測定することによって決定し、0~100のスコアの範囲を提供する。スコアが高いほど、疼痛の強度が大きいことを示す。
【0037】
本明細書では使用しないが、他の適切な疼痛検査には、例えば、数値評価尺度(NRS)、McGill疼痛質問票(MPQ)、簡易型McGill疼痛質問票(SF-MPQ)、慢性疼痛グレード尺度(CPGS)、簡易型36の体の疼痛尺度(SF-36 BPS)、間欠的および恒常的変形性関節症疼痛の物差し(ICOAP)、ならびにそれらの組合せが含まれる。これらの検査とその適用に関するさらなる情報については、Hawker et al., Arthritis Care & Research, vol.36, no. S11, November 2011, pp. S240-S252を参照されたい。
【0038】
バイオマーカーは、表1、4、5、7に列挙されている群およびそれらの組合せから選択される。一部の実施形態では、血液バイオマーカーのパネルが使用される。バイオマーカーは、可能な様々な重み付け係数を用いて選択することができる。
【0039】
一部の実施形態では、対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルは、バイオマーカーの対照発現レベルと比較して増加している。
【0040】
一部の実施形態では、対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルは、バイオマーカーの対照発現レベルと比較して減少している。
【0041】
疼痛強度を決定するのに特に適したバイオマーカーは、CNTN1である。
【0042】
一部の実施形態では、対象は女性である。女性対象における疼痛状態を予測するのに特に適したバイオマーカーは、DNAJC18である。
【0043】
一部の実施形態では、対象は男性である。女性対象における疼痛状態を予測するのに特に適したバイオマーカーはCTN1である。
【0044】
一部の実施形態では、方法は、対象に対して神経心理学的検査を行うことをさらに含む。
【0045】
疼痛による将来の医療施設での受診を予測する方法
別の態様では、本開示は、それを必要とする対象において疼痛による将来の医療施設での受診を予測する方法を対象とする。方法は、対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルを得ること;血液バイオマーカーの対照発現レベルを得ること;および試料中の血液バイオマーカーの発現レベルと血液バイオマーカーの対照発現レベルの差を特定すること、を含み、ここで、対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルと血液バイオマーカーの対照発現レベルの差が、疼痛による将来の医療施設/救急部門(ED)での受診の可能性を決定する。
【0046】
本明細書で使用する場合、「救急部門(ED)」とは、当業者によって理解されるその普通の意味に従って使用されて、救急医療に、彼ら自身の手段または救急車の手段のいずれかによって事前の予約なしで現れる患者の急患治療に専門化した医療施設を指し、これは、救急救命科(A&E)、救急処置室(ER)、緊急病棟(EW)、および救急外来を含む。
【0047】
バイオマーカーは、表1、4、5、7に列挙されている群およびそれらの組合せから選択される。一部の実施形態では、血液バイオマーカーのパネルが使用される。バイオマーカーは、可能な様々な重み付け係数を用いて選択することができる。
【0048】
一部の実施形態では、対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルは、バイオマーカーの対照発現レベルと比較して増加している。
【0049】
一部の実施形態では、対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルは、バイオマーカーの対照発現レベルと比較して減少している。
【0050】
GBP1は、形質としての初年のED受診を予測するのに特に適している。GNG7は、形質としてのすべての将来のED受診を予測するのに特に適している。
【0051】
一部の実施形態では、対象は女性である。GBP1は、女性対象において形質としての初年のED受診に関する予測因子として特に適している。ASTN2は、女性対象において形質としてのすべての将来のED受診に特に適している。対象が双極性障害の女性である場合、CDK6は状態向けに特に適した予測因子である。対象がPTSDの女性である場合、SHMT1は、形質としての初年のED受診向けに特に適した予測因子である。対象がうつ病の女性である場合、GNG7は形質としてのすべての将来のED受診に特に適している。
【0052】
一部の実施形態では、対象は男性である。CTN1は、男性対象において状態に関する予測因子として特に適している。Hs.554262は、男性対象において形質としての初年のED受診に関する予測因子として特に適している。MFAP3は、男性対象において形質としてのすべての将来のED受診に特に適している。対象がうつ病の男性である場合、CASPSは状態に関する予測因子として特に適している。対象がPTSDの男性の場合、LY9は、形質としての初年のED受診向けの強力な予測因子として特に適している。対象がPTSDの男性である場合、MFAP3は、形質としてのすべての将来のED受診の強力な予測因子として特に適している。
【0053】
疼痛に特に適したバイオマーカーには、CCDC144B(コイルドコイルドメイン含有の144B)、COL2A1(コラーゲンタイプIIアルファ1鎖)、PPFIBP2(PPFIA結合タンパク質2)、DENND1B(DENNドメイン含有の1B)、ZNF441(ジンクフィンガータンパク質441)、TOP3A(トポイソメラーゼ(DNA)III Alpha)、およびZNF429(ジンクフィンガータンパク質429)、およびそれらの組合せ、が含まれる。
【0054】
一部の実施形態では、方法は、対象に対して神経心理学検査を行うことをさらに含む。
【0055】
疼痛の予後予測
別の態様では、本開示は、それを必要とする個体において疼痛を予後予測する方法を対象とする。本明細書で使用する場合、「予後予測する」および「予後予測」という用語は、当業者によって理解されるその普通の意味に従って使用されて、無痛から、低疼痛まで中度の(中程度の)疼痛まで高疼痛までの疼痛レベルの増加を指す。
【0056】
方法は、対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルを得ること;血液バイオマーカーの対照発現レベルを得ること;および試料中の血液バイオマーカーの発現レベルと血液バイオマーカーの対照発現レベルの差を特定すること、を含む。
【0057】
一部の実施形態では、方法は、対象に対して神経心理学検査を行うことをさらに含む。
【実施例】
【0058】
材料および方法
独立した3つのコホートを使用した:発見(主要な精神障害)、検証(臨床上重度の疼痛障害を伴う主要な精神障害)、および検査(疼痛状態を予測するため、および疼痛による将来のER受診を予測するための独立した主要な精神障害コホート)(
図1Aを参照されたい)。
【0059】
精神神経科の参加者/対象は、絶えず集められている成人のより大きな縦断的コホートの一部であった。参加者を、Indianapolis VA Medical Centerでの患者集団から募集した。すべての参加者が、IRB承認プロトコルに従って、研究目標、手順、注意事項および保護手段を詳述したインフォームドコンセントフォームを理解し、署名した。参加者は、広範な構造化臨床面接-遺伝子研究向けの診断面接と、3~6か月離れて、または新しい精神科入院が発生した場合はいつでも、最大6回の検査受診と、による診断的評価を完了した。各検査受診で、対象は、疼痛評価用の視覚的アナログ尺度(1~10)および2つの疼痛関連項目(項目21および22)を有するSF-36クオリティオブライフ尺度を含めて、一連の評価尺度を受け取り、血液を採取した。全血(10ml)を2本のRNA安定化PAXgeneチューブに収集し、匿名のID番号で標識を付け、将来の処理の時間まで施錠された冷凍庫で-80℃で保管した。下で詳述するように、全血RNAを、PAXgeneチューブからマイクロアレイ遺伝子発現研究用に抽出した。
【0060】
これらの実施例の場合、バイオマーカーデータが導出された参加者内発見コホートは、複数の検査受診を伴う28人の参加者(19人の男性、9人の女性)から構成されたが、各々が、検査受診ごとに低疼痛(VAS2以下)から高疼痛(VAS6以上)への疼痛の少なくとも1つのまったく正反対の変化を有した(
図1Bおよび3)。各々5回の受診を伴う3人の参加者、各々4回の受診を伴う1人の参加者、各々3回の受診を伴う12人の参加者、および各々2回の受診を伴う12人の参加者がおり、その結果、続いて行う遺伝子発現マイクロアレイ研究用に合計79本の血液試料が得られた(
図1A~1C;表3)。
【0061】
上位バイオマーカーの所見が発現においてさらに変化していることについて検証された、検証コホートは、疼痛障害診断および臨床上重度の疼痛を有する13人の男性参加者および10人の女性参加者から構成された(表3)。これは、疼痛VAS6以上、ならびにSF36尺度項目21(疼痛強度)および22(日常活動の疼痛による不自由)の合計10以上を有すると決定された。(表3を参照されたい)。
【0062】
状態(高疼痛)を予測するための独立した検査コホートは、発見コホートと人口統計学的に一致させた、精神障害を有する134人の男性参加者および28人の女性の参加者から構成され、1回または複数の検査受診が有り、低疼痛、中程度疼痛、または高疼痛のいずれかを有したが、その結果、全ゲノム血液遺伝子発現データが得られた合計414本の血液試料がもたらされた(
図1A~
図1Cおよび表3)。
【0063】
形質を予測するための検査コホート(経過観察の初年の一番の理由として疼痛による将来のED受診、および疼痛のためすべての将来のED受診)(
図1A~
図1C)は、171人の男性参加者および19人の女性参加者から構成されたが、これらの参加者については、電子カルテを用いた縦断的経過観察が得られた。検査に続いて当該年において参加者が疼痛関連でEDを受診したその後の回数は、臨床研究者による電子カルテから集計したが、臨床研究者は、ED受診の理由において「疼痛」というキーワードを、またはメモのテキストに急性疼痛の記載とともに「痛み(ache)」を使用した。
【0064】
医薬。発見コホートの参加者は、様々な精神障害と全員診断され、様々な医学的共存症を有した(表1)。彼らの医薬は彼らの電子カルテに列挙され、各自の検査受診時に文書に記録された。医薬は遺伝子発現に強い影響を有する可能性がある。しかし、差次的に発現した遺伝子の発見は、参加者内解析に基づいており、この解析によって、遺伝的背景の影響がくくり出されるとともに、参加者が受診と受診の間に主たる医薬の変更をすることはほとんどなかったので、医薬の影響も最小限に抑えられた。さらに、参加者は、精神科と非精神科の多種多様な様々な医薬を受けていたので、任意の特定種類の医薬に関する一貫したパターンがなかった。一部の参加者は、彼らの治療に対して服薬不遵守である場合があり、したがって、彼らのカルテに反映されていない医薬の変更または乱用医薬を有する可能性がある。とはいえ、その理由が内因的な生物学であったのか、または薬物乱用や医薬の服薬不遵守によって駆動されたのかを問わず、目標は、疼痛を追跡するバイオマーカーを発見することとした。実際、これらのバイオマーカーのいくつかが医薬の標的であると期待された。全体として、参加者が異なる性別、診断を有し、様々な異なる医薬を受け、かつ他の生活様式変数にあったにもかかわらず、ユニバーサルデザインを備えたバイオマーカーの発見が行われた。
【0065】
血液遺伝子発現実験
RNA抽出。全血(2.5~5ml)を、ルーチンの静脈穿刺によって各PaxGeneチューブに採取した。RNAを先に記載のように抽出し、処理した(Le-Niculescu, H. et al. Mol Psychiatry 18, 1249-64 (2013); Niculescu, A.B. et al. Mol Psychiatry 20, 1266-85 (2015); Levey, D.F. et al. Mol Psychiatry 21, 768-85 (2016)、を参照されたい)。
【0066】
マイクロアレイ。マイクロアレイ作業を先に記載のように実施した(Le-Niculescu, H. et al. Mol Psychiatry 18, 1249-64 (2013); Niculescu, A.B. et al. Mol Psychiatry 20, 1266-85 (2015); Levey, D.F. et al. Mol Psychiatry 21, 768-85 (2016)を参照されたい)。
【0067】
バイオマーカー
ステップ1:発見.
VAS疼痛尺度からの参加者のスコアを使用し、採血時に評価した(
図1A~
図1C)。受診と受診の間の遺伝子発現の差は、強力な参加者内デザインを使用して、次いで、参加者間の合計を使用して、低疼痛(スコア0~2と定義)によっておよび高疼痛(スコア6以上と定義)によって解析した(
図1A~
図1C)。
【0068】
無し-有り(AP)アプローチおよび差次的発現(DE)アプローチを使用してデータを解析した(Le-Niculescu, H. et al. Mol Psychiatry 18, 1249-64 (2013); Niculescu, A.B. et al. Mol Psychiatry 20, 1266-85 (2015); Levey, D.F. et al. Mol Psychiatry 21, 768-85 (2016)、を参照されたい)。APアプローチによって遺伝子のターンオン、ターンオフをとらえることでき、DEアプローチによって発現の徐変をとらえることができる。Rスクリプトとは、バルクでのこれらの大規模なデータセット解析をすべて自動化し実行するために開発されたものであり、ヒトの手動スコアリングと照査されたものである。
【0069】
プローブセットの遺伝子記号は、Affymetrix HG-U133 Plus 2.0 GeneChipsのNetAffyx(Affymetrix)を使用して、これに続いてGeneCardsによって特定して、一次遺伝子記号を確認した。NettAffyxによって遺伝子記号が割り当てられなかったプローブセットについては、GeneAnnotを使用して、これに続いてGeneCardによって、特徴付けされていないプローブセットの遺伝子記号を得た。次いで、遺伝子を、下記のように手動でキュレーションしたCFGデータベースを使用してスコア化した(
図1E)。
【0070】
ステップ2.収束的機能ゲノミクス(CFG)を使用した優先順位付け。
データベース。精神障害に関して現在までに公表された、ヒトの遺伝子発現/タンパク質発現研究(死後脳、末梢組織/体液:CSF、血液および細胞培養)、ヒトの遺伝学研究(関連、コピー数の変動とリンケージ)、および動物モデルの遺伝子発現と遺伝学研究に関するマニュアルキュレーションのデータベースを創成した。彼らの特定の実験計画と閾値を使用して、研究著者らが主要な出版物で有意と見なした知見のみをデータベースに組み込んだ。データベースには一次文献データのみが含まれ、冗長性および循環性を回避するために、レビューペーパーおよびその他の二次データ統合解析は含めなかった。こういった大規模で定期的に更新されるデータベースは、発明者らのCFG交差検証および優先順位付けプラットフォームで使用されている(
図1E)。これらの実施例については、CFG分析時(2017年12月)に、疼痛に関する355報の論文からのデータがデータベースに存在していた(ヒトの遺伝学研究-212報、ヒトの神経組織研究-3報、ヒトの末梢組織/体液-57報、非ヒトの遺伝学研究-26報、非ヒトの脳/神経組織の研究-48報、非ヒトの末梢組織/体液-9報)。本明細書およびLe-Niculescu, H. et al. Mol Psychiatry 18, 1249-64 (2013); Niculescu, A.B. et al. Mol Psychiatry 20, 1266-85 (2015); Levey, D.F. et al. Mol Psychiatry 21, 768-85 (2016)に記載されているように解析を行った。
【0071】
ステップ3.検証解析。
候補バイオマーカー遺伝子の検証解析は、APについておよびDEについて別々に行った。上位の候補遺伝子(合計CFGスコアが6以上)のうちのどれが、発現が低疼痛群および高疼痛群から臨床上重度の疼痛群に段階的に変化したものかを決定した。CFGスコア6以上は、可能なCFGスコアの最大12の経験上のカットオフ33.3%を反映しており、このカットオフによって、最大内部スコアが6であるが外部のエビデンススコアを含まない、期待できる新規遺伝子を組み入れることができた。重度の臨床的疼痛を抱えていなかった(項目21と22とのSF36合計<10)発見コホートからの、低疼痛の参加者ならびに高疼痛の参加者を、全員が重度の臨床的疼痛および共存する疼痛障害の診断を抱えた独立検証コホート(n=23)とともに、使用した。
【0072】
AP解析については、重度の疼痛の検証コホートの参加者からのAffymetrixマイクロアレイ.chpデータファイルを、目下の発見コホートの低疼痛群および高疼痛群からのデータファイルと一緒に、MAS5 Affymetrix Expression Consoleにインポートした。APデータをExcelシートに転送し、Aを0に、Mを0.5に、Pを1に変換した。すべてを性別および診断によって一緒にZスコア化した。プローブセットが分散を示さなかった場合、したがって、性別および診断でのZスコア化において非決定(0/0)値を与えた場合、解析によるその性別および診断のそのプローブセット向けの解析から、値を除外した。
【0073】
DE解析については、コホートを、性別および診断によってRMA正規化されたAffymetrix.celデータから組み立てた。対数変換した発現データをExcelシートに転送したが、非対数データを、変換した発現値のべき指数に2を取って変換した。次いで、性別および診断によって値をZスコア化した。
【0074】
性別および診断によってZスコア化されたAPおよびDE発現データが含まれているエクセルシートをPartekにインポートし、段階的に変化したプローブセットについて一元配置ANOVAを使用して統計解析を行い、APおよびDEで検査したすべてのプローブセット(段階的および非段階的)について厳格なBonferroni補正を行った(
図1F)。次いで、Excelシートから直接データを自動的に解析するRスクリプトを開発し、これを使用して計算を確認した。
【0075】
進展させるべきバイオマーカーの選択
各ステップからの上位のバイオマーカーを進展させた。候補バイオマーカーのロンガーリストは、発見ステップからの上位のバイオマーカー(スコア≧90%、n=28)、優先順位付けステップからの上位のバイオマーカー(CFGスコア≧8、n=32)、および検証ステップ後の名目有意なバイオマーカー(n=5)、合計n=65のプローブセット(n=60遺伝子)を含む。検証ステップ後の上位のバイオマーカーのショートリストは、5つのバイオマーカーである。ステップ4の検査では、独立コホートにおいて、ロングリストからのバイオマーカーを用いて、高疼痛状態、ならびに初年におけるおよびすべての将来の年における疼痛による将来のED受診の予測を行った。
【0076】
診断法
高疼痛(状態)を予測するための検査コホート、および将来のER受診(形質)を予測するための検査コホートであったそれのサブセットを、性別および診断によってRMA正規化されたデータから組み立てた。発見コホートとオーバーラップする対象がいなかったので、コホートは完全に独立していた。予測に使用されるフェノミック(Phenomic)(臨床)マーカーおよび遺伝子発現マーカーを、性別および診断によってZスコア化して、様々なマーカーをパネルに組み合わせることができ、異なる性別および診断における様々な発現範囲に起因する潜在的アーチファクトを回避することができる。マーカーを、減少のリスクマーカーを差し引いた増加のリスクマーカーを単純に合計することによって組み合わせた。予測はRスタジオを使用して行った。
【0077】
高疼痛状態の予測。ゲノムおよびフェノミックマーカーレベルと疼痛の間の受信者動作特性(ROC)解析を、疼痛スコア6以上である参加者を高疼痛カテゴリに割り当てることによって行った。RのpROCパッケージ(Xavier Robin et al. BMC Bioinformatics 2011)を使用した。Zスコア化したバイオマーカースコアおよび遺伝的表現型スコアを、ROC生成プログラムで、独立検査コホートの診断群(高疼痛vs.残りの参加者)に対してランさせた。加えて、高疼痛群対残りの群の間で片側t検定を行い、疼痛スコアとマーカーレベルの間でピアソンR(片側)を計算した。
【0078】
検査後の初年における疼痛による将来のER受診を予測する。VAシステムで少なくとも1年の経過観察を有した対象の各検査受診後の初年における疼痛のためER受診を予測する解析を実施した。特定の検査受診および疼痛による将来のER受診でのゲノムマーカーレベルとフェノミックマーカーレベルの間のROC解析を、参加者が検査受診後の1年以内に主たる理由が疼痛のためでERを受診したか否かの割り付けに基づいて、前記のように行った。加えて、疼痛のためER受診があっても無くても、参加者の受診の群間で、不等分散の片側t検定を行った。ピアソンR(片側)相関を、入院頻度(経過観察の期間で割った疼痛のためER受診の回数)とマーカーレベルの間で行った。Cox回帰を、ERに行った患者の場合においては、検査受診日から最初のER受診日までの日数での時間、またはERに行かなかった患者については365日の時間を使用して、行った。ハザード比を、バイオマーカーが発現で増加したか減少したかに関係なく、1よりも大きい値はER受診のリスクが増加していることを常に指示するように、算出した。
【0079】
検査後の年において、経過観察の1年を超えて発生したものを含めて、疼痛によるすべての将来のER受診の疼痛のためER受診について、オッズ比解析を行った(参加者1人あたり平均5.26年、範囲0.44~11.27年;表1および表3を参照されたい)。なぜなら、ROCやt検定とは違って、この計算では、参加者ごとに異なる経過観察の実際の長さを考慮にいれるからである。理論に縛られるものではないが、ROCおよびt検定を使用する場合、より重度の精神神経科の患者は地理的に移動する、かつ/または経過観察のものではなくなる可能性がより高いので、予測するマーカーのパワーを過小評価する可能性がある。Cox回帰も、疼痛のためにERに行った患者の場合において、受診日から最初のER疼痛の受診日までの日数での時間、またはERに行かなかった患者については電子カルテの受診日から最後のメモ日までの日数での時間を使用して実行した。ハザード比を、バイオマーカーが発現で増加したか減少したかに関係なく、1よりも大きい値は、ER疼痛関連受診に関連してリスクが増加していることを常に指示するように、算出した。
【0080】
生物学的理解
パスウェイ解析
IPA(インジェヌイティー(Ingenuity)パスウェイ解析、24390178版、Qiagen)、David機能アノテーションバイオインフォマティクスマイクロアレイ解析(National Institute of Allergy and Infectious Diseases)6.7版(2016年8月)、および京都遺伝子ゲノム百科事典(KEGG)(DAVIDによる)を使用して、これら実施例の結果である候補遺伝子の、上位の標準パスウェイおよび疾患を含めた(表6)生物学的役割を解析するとともに、既存の薬物の標的であった、データセット内の遺伝子を特定した。APとDEの組合せプローブセットに関するパスウェイ解析により、60の独特な遺伝子(65のプローブセット)を特定した。60の独特な遺伝子のネットワーク解析を、STRING相互作用ネットワークを使用して、遺伝子を検索ウィンドウに入れ、複数のタンパク質のホモサピエンス解析を行うことによって行った。
【0081】
疼痛を超えたCFG:他の精神障害および関連障害での関与のエビデンス。
CGFアプローチも使用して、65の候補バイオマーカーのリスト(表5)について、他の精神障害および関連障害からのエビデンスを調べた。
【0082】
治療法
薬理ゲノミクス。個々の上位のバイオマーカーのうちのどれが、既存の薬物によってモジュレートされることがわかっているものであるか、CFGデータベースを使用しておよびインジェヌイティー薬物解析を使用して、解析した(表7)。
【0083】
新しい薬物の発見/リパーパシング。薬物および天然化合物もまた、コネクティビティマップ(Connectivity Map)(Broad Institute、MIT)を使用して、上位のバイオマーカー(n=65)のパネルの遺伝子発現プロファイルに対する反対の一致として解析した(表2)。65のプローブセットのうち33が、コネクティビティマップにおいて使用したHGU-133Aアレイに存在した。NIH LINCS L1000データベースも使用した(表4)。
【0084】
収束的機能のエビデンス
発見(最大6ポイント)、優先順位付け(最大12ポイント)、検証(最大6ポイント)、検査(状態、形質としての初年のED受診、形質としてのすべての将来のED受診-すべての参加者で有意に予測する場合はそれぞれ最大8ポイント、性別で予測する場合は6ポイント、性別/診断で予測する場合は4ポイント)からのすべてのエビデンスを、収束的機能のエビデンススコアに集計した。合計スコアは最大48ポイントとすることができた:このデータから36ポイントおよび文献データから12ポイントである。これらの実施例からのデータを、文献データよりも3倍重み付けした。実施例によって、実験データと現在までの現場のエビデンスとの全体に基づいて、全面的なエビデンスを備えるバイオマーカー:疼痛を追跡したもの、それを予測したもの、疼痛および他の病理を反映したもの、および潜在的な薬物標的であったもの、が強調されている。
【0085】
本明細書で提供されるのは、自己申告の低疼痛状態と高疼痛状態との間の血液遺伝子発現の変化を発見するための、精神障害の個体における強力な縦断的参加者内デザインである(
図1A~
図1C)。縦断的参加者内デザインは、横断的ケースコントロールデザインよりも桁違いに強力である。これらの候補遺伝子発現バイオマーカーの一部は、高疼痛状態で発現が増加し(推定リスク遺伝子、または「アルゴジーン(algogenes)」)、その他は発現が減少する(推定保護遺伝子、または「疼痛抑制遺伝子」)。
【0086】
候補バイオマーカーのリストを、ベイジアン様収束的機能ゲノミクスアプローチで優先付けを行い、現場における先のヒトおよび動物のモデルのエビデンスを包括的に統合した。
【0087】
発見および優先順位付けからの上位のバイオマーカーを、疼痛障害の診断を抱え、かつ疼痛の重症度評価に関して高スコアを有する精神神経科の対象の独立コホートで検証した。5つの検証済みバイオマーカー(MFAP3、PIK3CD、SVEP1、TNFRSF11B、ELAC2)のショーターリストを含めて、65の候補バイオマーカーのリスト(表1および表3)を、最初の3ステップから得た。検証後に最良のエビデンスを有するバイオマーカーは、Hs.666804/MFAP3(p=6.03E-04)およびPIK3CD(p=1.59E-02)であった。
【0088】
65の候補バイオマーカーを、精神神経科の対象の別の独立コホートにおける疼痛の重度状態および疼痛による将来の救急部門(ED)での受診を予測するために解析した。バイオマーカーを、検査コホートの対象全員においてならびに性別および精神神経科の診断によって解析したが、これによって、特に女性において、精度の向上が示された。(
図2)。全体として、縦断的情報は横断的情報よりもいっそう予測的であった。検査した参加者全員にわたって、CNTN1が状態に関する最良の予測因子(AUC 63%、p=0.0014)、GBP1が形質としての初年のED受診に関する最良の予測因子(AUC 59%、p=0.0035)、およびGNG7が形質としてのすべての将来のED受診に関する最良の予測因子(OR 1.28、p=0.000161、検査した65のバイオマーカーに対するBonferroni補正を残存)であった。性別では、女性においては、DNAJC18が状態に関する最良の予測因子(AUC 78%、p=0.0049)、GBP1が形質としての初年のED受診に関する最良の予測因子(AUC 71%、p=0.043)、およびASTN2が形質としてのすべての将来のED受診に関する最良の予測因子(OR 2.45、p=0.043)であった。男性においては、CNTN1が状態に関する最良の予測因子(AUC 63%、p=0.0022)、Hs.554262が形質としての初年のED受診に関する最良の予測因子(AUC 59%、p=0.016)、およびMFAP3が形質としてのすべての将来のED受診に関する最良の予測因子(OR 1.34、p=0.014)であった。性別および診断による個別化では、女性の双極性において、CDK6が状態に関する強力な予測因子(AUC 100%、p=0.007)、女性のPTSDにおいては、SHMT1が形質としての初年のED受診に関する強力な予測因子(AUC 100%、p=0.022)、および女性のうつ病においては、GNG7が形質としてのすべての将来のED受診の関する強力な予測因子(OR 14.54、p=0.023)であった。男性のうつ病においては、CASPSが状態に関する強力な予測因子(AUC 87%、p=0.00007、検査した65のバイオマーカーについてBonferroni補正を残存)、男性のPTSDにおいては、LY9が形質としての初年のED受診に関する強力な予測因子(AUC 77%、p=0.041)、および男性PTSDにおいては、MFAP3が形質としてのすべての将来のED受診に関する強力な予測因子(OR 15.95、p=0.00084)であった。独立コホートでの疼痛による将来のED受診に関する予測は、臨床的表現型マーカー(疼痛VAS尺度、SF-36からの疼痛項目21および22)を使用するよりも、バイオマーカーを使用して一貫して強く、バイオマーカーの有用性を支持した。また、全体として、65のバイオマーカーすべてのパネル、または5つの検証済みバイオマーカーのパネルは、個々のバイオマーカーと同じようにうまく機能せず、特に、性別および診断によって後者を検査した場合であるが、集団に不均一性があることと矛盾せず、個別化の必要性を支持している。注目すべき例外は、疼痛のためすべての将来のED受診を予測することであったが、この場合、5つの検証済みバイオマーカーのパネルは、個々のバイオマーカーよりも成績が良好であった。
【0089】
バイオマーカーを、他の精神障害および関連障害での関与についてさらに解析した(表5)。バイオマーカーの大部分は他の障害にいくつかのエビデンスを有し、いっぽう、CCDC144B(コイルドコイルドメイン含有144B)、COL2A1(コラーゲンタイプIIアルファ1鎖)、PPFIBP2(PPFIA結合タンパク質2)、DENND1B(DENNドメイン含有1B)、ZNF441(ジンクフィンガータンパク質441)、TOP3A(トポイソメラーゼ(DNA)IIIアルファ)、およびZNF429(ジンクフィンガータンパク質429)などの、少数が疼痛に特異的であるように思える。バイオマーカーの大部分(60遺伝子のうち50遺伝子、すなわち、83.3%)が、自殺に関与しているという以前のエビデンスがあり、疼痛と自殺の間の広汎性の分子共存症を指示して、臨床的および現象学的共存症(肉体的疼痛、精神的な疼痛)と協調する。バイオマーカーが関与する生物学的パスウェイおよびネットワークを解析した(表6および
図4)。GNG7に集中したネットワークがあり(
図4)、これは、接続性/シグナル伝達に関与している可能性があり、HTR2A、EDN1、PNOC(疼痛シグナル伝達に関与)およびCALCA(反射性交感神経性ジストロフィーおよび複雑性局所疼痛症候群に関与)を含む。PNOC(プレプロノシセプチン)が高疼痛状態で、すなわち、アルゴジーンとして発現が増加したことは心強いことであった。疼痛におけるその公知の役割を考慮すると、それは事実上の陽性対照として機能することができる。第2のネットワークは、CCND1に集中し、活性/栄養に関与している可能性があり、HRAS、CDK6、PBRM1、CSDA、LOXL2、EDN1、PIK3CD、およびVEGFAを含む。第3のネットワークはHLA DRB1に集中し、反応性/免疫応答に関与している可能性があり、65の上位のバイオマーカーのリストから、GBP1、ZNF429、COL2A1、およびHLA DQB1を含む。
【0090】
バイオマーカーを既存薬物の標的として解析し、したがって薬理ゲノミクス集団の構造化におよび治療への応答の測定に使用でき(表7)、ならびに、バイオマーカー遺伝子発現シグネチャーを使用して、Broad/MITからコネクティビティマップデータベースのデータを得、その結果、疼痛の治療にリパーパシングできる薬物および天然化合物を特定した(表2)。潜在的な新規な疼痛治療薬として特定された上位の薬物は、SC-560、NSAID、ハロペリドール、抗精神病薬、およびアモキサピン、抗うつ薬であった。上位の天然化合物は、ピリドキシン(ビタミンB6)、シアノコバラミン(ビタミンB12)、およびアピゲニン(植物フラボノイド)であった。
【0091】
6つのステップ全体にわたって最良の全体的なエビデンスを有するバイオマーカーは、GNG7、CNTN1、LY9 CCDC144B、GBP1およびMFAP3であった(表1)。GNG7(Gタンパク質サブユニットガンマ7)は、高疼痛状態の血中では発現が減少した、すなわち、これは疼痛抑制遺伝子である。ヒトの研究では他の組織において、疼痛への関与に関するエビデンスがある(糖尿病性神経障害、椎間板)。GNG7にはまた、他の精神障害での関与に関する診断横断的エビデンスもある。これは、アルコール、幻覚剤、ストレスによってマウス脳で発現が減少し、オメガ3脂肪酸によって発現が増加する。CNTN1(コンタクチン1)は、高疼痛状態の血中で発現が減少した、すなわち、これは疼痛抑制遺伝子である。心強いことに、ヒトの研究では他の組織において、疼痛への関与に関する収束的エビデンスがあった:CNTN1はまた、広範囲の慢性疼痛(CWP)を抱える女性のCSFでの発現が減少すると報告されてきた。コンタクチン1のレベルをブロック/減少する抗コンタクチン1自己抗体は、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー4に記載されている。CNTN1には、精神障害での関与に関する診断横断的エビデンスもある。CNTN1は、女性では、統合失調症の脳および血中で、自殺傾向の血中で、発現が減少する。CNTN1は、マウス脳でクロザピンによって発現が増加した。LY9(リンパ球抗原9)は、高疼痛状態の血中で発現が増加した、すなわち、これはアルゴジーンである。LY9にはまた、ストレスへの曝露での関与に関するエピジェネティックなエビデンスがあり、マウス脳でオメガ3脂肪酸により発現が減少する。CCDC144B(コイルドコイルドメイン含有の144B)は、高疼痛状態の血中で発現が減少した。疼痛への関与に関するヒトおよび動物モデル研究では他の組織においてエビデンスがある。CCDC144Bは、独立コホートにおいて、特に精神病(SZ、SZA)の男性の状態および形質に関する良好な予測因子であった。CCDC144Bには、他の精神障害での関与に関する診断横断的エビデンスがなく、疼痛に比較的特異的であると思われる。GBP1(グアニル酸結合タンパク質1)は、インターフェロン誘導性シグナル伝達の役割を持つが、高疼痛状態の血中で発現が増加する。ヒトの研究では、遺伝子発現および遺伝学であるが、疼痛への関与に関する他のエビデンスがある。GBP1は、独立コホートにおいて、特に女性では、形質に関する予測因子である。GBP1は、MDD、統合失調症、および自殺では脳で、PTSDでは血中で、発現が増加する。GBP1は、マウス脳でオメガ3により発現が減少した。Hs.666804/MFAP3(ミクロフィブリル関連タンパク質3)は、上位のマーカーのうちの別の1つ、エラスチン会合性ミクロフィブリルの成分である。MFAP3には、発見ステップと検証ステップから最も確固たる経験上のエビデンスがあり、独立コホートにおいて、特にPTSDの女性と男性の疼痛に関する強力な予測因子であった。興味深いことに、MFAP3には、優先順位付け/CFGステップに関して現在までにキュレーションした文献に、疼痛に関する以前のエビデンスはなく、このことは、先頭に位置する完全に新規な知見をもたらす可能性のある本開示のアプローチによって広く十分なネットが投じられたことを実証する。MFAP3は、高疼痛状態の血中で発現が減少した、すなわち、MFAP3は疼痛抑制遺伝子である。MFAP3にはまた、アルコール中毒症、ストレス、自殺での関与に関する以前のエビデンスもある。
【0092】
本明細書に開示のように、経時的に縦断的にフォローした、精神障害の参加者で構成される発見コホートのクラスター解析であって、各々参加者は採取された血液試料を携え、少なくとも1回の低疼痛状態の受診(疼痛VAS 10のうち≦2)および少なくとも1回の高疼痛状態の受診(疼痛VAS 10のうち≧6)において神経心理学的検査が行われた、クラスター解析によって、高疼痛状態に関して広範な2つのサブタイプが明らかになった:主に精神病性のサブタイプ、誤接続性および中枢的な疼痛の知覚の増加に関連している可能性がある、ならびに主に不安性のサブタイプ、末梢的な疼痛に対する反応性および身体の健康上の理由の増加に関連している可能性がある。強力な縦断的参加者内デザインを使用して、自己申告による低疼痛の状態と高疼痛の状態間の血液遺伝子の発現の変化を発見した。これらの遺伝子発現バイオマーカーの一部は、高疼痛状態(推定リスク遺伝子、または「アルゴジーン」である)で発現が増加し、その他は発現が減少した(推定防御遺伝子、または「疼痛抑制遺伝子」である)。
【0093】
有利なことに、本開示によって、客観的診断法および標的化新規治療法を用いて、疼痛の精密医療が可能となる。未治療の疼痛がクオリティオブライフに及ぼす多大な悪影響、治療の妥当性を決定する客観的物差しが現在欠如していること、および既存のオピオイドベースの鎮痛薬の深刻な中毒ゲートウェイの可能性を考慮して、本開示がここにおいて提供する。本明細書に記載の方法によって、主観的な感覚である疼痛の客観的なバイオマーカーを提供する。さらに、本明細書で提供されるバイオマーカーによれば、疼痛の状態を客観的に決定することができると共に、疼痛による将来の救急部門の受診を予測することができ、性別および診断によって個体化した場合はなおさらである。本明細書のバイオマーカーは、既存の薬物を使用した標的化に適しており、新しい薬物候補をもたらした。
【0094】
以上に鑑みて、本開示のいくつかの利点が達成され、他の有益な結果が得られることが分かる。上記の方法およびシステムにおいて、本開示の範囲から逸脱することなく様々な変更をなし得るので、上記の説明に含まれ添付の図面に示されるすべての事項は、限定する意味合いではなく、例示として解釈されるものとすることが意図される。
【0095】
本開示の要素またはその様々なバージョン、実施形態もしくは態様を取り上げる場合、冠詞「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」および「前記(said)」は、1つまたは複数の要素があることを意味することを意図している。「含む(comprising)」、「含む(including)」および「有する(having)」という用語は内包的なものであり、記載した要素以外の追加の要素が存在していてもよいことを意味する。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
【表7-7】
なお、本発明は以下の態様を含みうる。
[1]それを必要とする対象において疼痛を治療する方法であって、
前記対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルを得ること;
前記血液バイオマーカーの対照発現レベルを得ること;
前記試料中の前記血液バイオマーカーの前記発現レベルと前記血液バイオマーカーの前記対照発現レベルの差を特定すること;および
治療を行うこと
を含み、
前記治療は、前記試料中の前記血液バイオマーカーの前記発現レベルと前記血液バイオマーカーの前記対照発現レベルとの間の前記差を低減して、前記対象における疼痛を緩和する、
方法。
[2]前記バイオマーカーは、表1に列挙されているバイオマーカーおよびそれらの組合せの群から選択される、上記[1]に記載の方法。
[3]前記バイオマーカーは、ミクロフィブリル関連タンパク質3(MFAP3)、ホスファチジルイノシトール-4,5-ビスホスフェート3-キナーゼ触媒サブユニットデルタ(PIK3CD)、スシ、フォン・ヴィレブランド因子タイプA、EGFおよびペントラキシンドメイン含有1(SVEP1)、TNF受容体スーパーファミリーメンバー11b(TNFRSF11B)、ElaCリボヌクレアーゼZ2(ELAC2)、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される、上記[1]に記載の方法。
[4]前記治療は、表1、2A、2Bおよび7に列挙されている群ならびにそれらの組合せから選択される、上記[1]に記載の方法。
[5]前記バイオマーカーは前記治療に応答して減少する、上記[1]に記載の方法。
[6]前記バイオマーカーは前記治療に応答して増加する、上記[1]に記載の方法。
[7]それを必要とする対象において疼痛強度を決定する方法であって、
前記対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルを得ること;
前記血液バイオマーカーの対照発現レベルを得ること;および
前記試料中の前記血液バイオマーカーの前記発現レベルと前記血液バイオマーカーの前記対照発現レベルとの間の差を特定すること、
を含み、
前記対象から得た前記試料中の前記血液バイオマーカーの前記発現レベルと前記血液バイオマーカーの前記対照発現レベルの前記差が前記疼痛強度を決定する、
方法。
[8]前記バイオマーカーは、表1に列挙されているバイオマーカーおよびそれらの組合せの群から選択される、上記[7]に記載の方法。
[9]前記バイオマーカーは、ミクロフィブリル関連タンパク質3(MFAP3)、ホスファチジルイノシトール-4,5-ビスホスフェート3-キナーゼ触媒サブユニットデルタ(PIK3CD)、スシ、フォン・ヴィレブランド因子タイプA、EGFおよびペントラキシンドメイン含有1(SVEP1)、TNF受容体スーパーファミリーメンバー11b(TNFRSF11B)、ElaCリボヌクレアーゼZ2(ELAC2)、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される、上記[7]に記載の方法。
[10]前記対象から得た前記試料中の前記血液バイオマーカーの前記発現レベルは、前記バイオマーカーの前記対照発現レベルと比較して増加している、上記[7]に記載の方法。
[11]前記対象から得た前記試料中の前記血液バイオマーカーの前記発現レベルは、前記バイオマーカーの前記対照発現レベルと比較して減少している、上記[7]に記載の方法。
[12]それを必要とする対象において、疼痛による将来の医療施設での受診を予測する方法であって、
前記対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルを得ること;
前記血液バイオマーカーの対照発現レベルを得ること;
前記試料中の前記血液バイオマーカーの前記発現レベルと前記血液バイオマーカーの前記対照発現レベルの差を特定すること、
を含み、
前記対象から得た前記試料中の前記血液バイオマーカーの前記発現レベルと前記血液バイオマーカーの前記対照発現レベルの前記差が、疼痛による将来の医療施設での受診の可能性を決定する、
方法。
[13]前記バイオマーカーは、表1に列挙されているバイオマーカーおよびそれらの組合せの群から選択される、上記[12]に記載の方法。
[14]前記対象から得た前記試料中の前記血液バイオマーカーの前記発現レベルは、前記バイオマーカーの前記対照発現レベルと比較して増加している、上記[12]に記載の方法。
[15]前記対象から得た前記試料中の前記血液バイオマーカーの前記発現レベルは、前記バイオマーカーの前記対照発現レベルと比較して減少している、上記[12]に記載の方法。
[16]それを必要とする対象において疼痛を緩和する方法であって、
前記対象から得た試料中の血液バイオマーカーの発現レベルを得ること;
前記血液バイオマーカーの対照発現レベルを得ること;
前記試料中の前記血液バイオマーカーの前記発現レベルと前記血液バイオマーカーの前記対照発現レベルの差を特定すること;および
治療を行うこと
を含み、
前記治療は、前記試料中の前記血液バイオマーカーの前記発現レベルと前記血液バイオマーカーの前記対照発現レベルとの間の前記差を低減して、前記対象における疼痛を緩和する、
方法。
[17]前記治療は、表1、2A、2Bおよび7に列挙されている群、ならびにそれらの組合せから選択される、上記[16]に記載の方法。
[18]前記治療は、SC-560、ピリドキシン、メチルエルゴメトリン、LY-294002、ハロペリドール、シチシン、シアノコバラミン、ベータエスシン、アモキサピン、アピゲニン、およびそれらの組合せからなる群から選択される、上記[16]に記載の方法。
[19]前記治療は、表2Bに列挙されている群、およびそれらの組合せから選択される、上記[16]に記載の方法。
[20]疼痛に関する血液バイオマーカーを特定する方法であって、
対象から第1の生体試料を得ること、および第1の疼痛強度検査を前記対象に行うこと;
前記対象から第2の生体試料を得ること、および第2の疼痛強度検査を前記対象に行うこと;
前記第1の疼痛強度検査と前記第2の疼痛強度検査との間の差によって決定された、低疼痛強度から高疼痛強度への変化を有する対象を特定することにより、対象の第1のコホートを特定すること;
前記第1の生体試料と前記第2の生体試料との間で発現の変化を有するバイオマーカーを特定することにより、前記第1のコホートにおいて候補バイオマーカーを特定すること、
を含む、方法。
[21]疼痛と関連すると知られている候補バイオマーカーを特定することによって前記候補バイオマーカーを優先順位付けすることをさらに含む、上記[20]に記載の方法。
[22]前記疼痛強度検査は、疼痛の視覚的アナログ尺度(VAS疼痛)、疼痛の数値評価尺度(NRS疼痛)、McGill疼痛質問票(MPQ)、簡易型McGill疼痛質問票(SF-MPQ)、慢性疼痛グレード尺度(CPGS)、簡易型36の体の疼痛尺度(SF-36BPS)、間欠的および恒常的変形性関節症疼痛(ICOAP)の物差し、およびそれらの組合せからなる群から選択される、上記[20]に記載の方法。