IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニチコン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電解コンデンサの製造方法 図1
  • 特許-電解コンデンサの製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/00 20060101AFI20240521BHJP
   H01G 9/028 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
H01G9/00 290H
H01G9/028 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021059420
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022155958
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】大橋 赳太
(72)【発明者】
【氏名】峯村 英利
(72)【発明者】
【氏名】多田 勝
【審査官】上谷 奈那
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-53386(JP,A)
【文献】特開2011-192983(JP,A)
【文献】特開2016-25122(JP,A)
【文献】特表2009-536110(JP,A)
【文献】特開2014-53387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
H01G 9/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,4-エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体の繰り返し単位を有する導電性高分子を溶媒に分散させた分散液に、アセチレン系界面活性剤、または、アセチレン系界面活性剤および有機溶媒を加えることにより、表面張力が35mN/m以上50mN/m以下に調整された含浸液を得る第1工程と、
誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配置されたセパレータとを有するコンデンサ素子本体部に、前記第1工程によって得られた含浸液を含浸させた後、熱処理することにより、前記コンデンサ素子本体部に導電性高分子層を形成する第2工程とを有することを特徴とする電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒は、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記ポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびエチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサとして、誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、陽極および陰極の間に配置されたセパレータとを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子が収納された外装体と、を備えた電解コンデンサが知られている。
【0003】
特許文献1には、巻回型固体電解コンデンサの製造方法が記載されている。特許文献1に記載された方法は、コンデンサ素子に、可溶性導電性高分子と、溶剤(水および/または有機溶媒)とを含み、表面張力を65mN/m以下に調整した導電性組成物を塗布する工程と、乾燥して導電性高分子層を形成する工程とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-192983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、導電性高分子として、溶剤に溶ける可溶性導電性高分子を使用している。特許文献1に記載のように可溶性導電性高分子と溶剤とを含む導電性組成物をコンデンサ素子に塗布した場合、導電性組成物は誘電体酸化皮膜が表面に形成されたエッチングピットの奥に浸透する。これにより、エッチングピットの奥にまで導電性高分子層が形成される。そのため、高い静電容量のコンデンサが得られる。しかし、エッチングピットの最奥に形成される誘電体酸化皮膜には、欠陥部が残存することがある。欠陥部に導電性組成物が浸透した場合、漏れ電流が大きくなる。
【0006】
そこで、本発明者らは、導電性高分子として、溶剤に不溶で分散する粒子状導電性高分子(以下、分散性導電性高分子と記載することもある。)を使用する場合について検討した。その結果、漏れ電流の増大、および、高ESR(等価直列抵抗)化するおそれがあることがわかった。
【0007】
本発明の目的は、分散性導電性高分子を使用する場合に、高い静電容量を有し、漏れ電流が小さく、かつ、ESRが低い電解コンデンサを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、導電性高分子として、溶媒に分散する粒子状導電性高分子を使用する場合について検討したところ、以下のことがわかった。
【0009】
粒子状導電性高分子が分散した分散液にコンデンサ素子本体部を浸漬した場合、粒子状導電性高分子はある程度の大きさを有するため、エッチングピットの最奥まで到達しにくい。そのため、粒子状導電性高分子が、エッチングピットの最奥の欠陥部に接触する確率が低い。したがって、漏れ電流を低減できると考えられる。
【0010】
しかし、粒子状導電性高分子が分散した分散液は、コンデンサ素子に対する含浸性が低い。コンデンサ素子に対する導電性高分子の含浸量が少ない場合、静電容量が小さくなる。そこで、分散液に界面活性剤を添加することにより、分散液の表面張力を小さくすることで、粒子状導電性高分子の含浸性を高くすることが考えられる。これにより、静電容量を高めることができるが、以下の別異の問題があることがわかった。
【0011】
コンデンサ素子のリード端子には、アルミニウムなどからなる丸棒部(例えば、図2の「丸棒部21a」)と、CP線などからなるリード部(例えば、図2の「リード部21b」)とが形成されている。丸棒部とリード部とは溶接によって接合されているが、互いに異なる金属同士が接合されているため、これらの接合部分に酸化皮膜を形成することはできない。分散液の含浸性が高すぎる場合、リード部と丸棒部との接合部分に分散液が染み上がり、これらの接合部分に導電性高分子層を形成するおそれがある。これらの接合部分に導電性高分子層が形成された場合、漏れ電流が増加する。
また、上記により、コンデンサ素子への分散液の含浸性は高まるが、分散液の表面張力が低下するに伴いコンデンサ素子における分散液の保持量が減少するため、導電性高分子層を厚くしにくい。したがって、ESRを低くすることが難しい。
【0012】
そこで、本発明者らは、分散性導電性高分子を使用する場合についてさらに研究を進めた結果、高い静電容量を有しつつ、ESRが低く、かつ、漏れ電流が小さい電解コンデンサを製造可能な方法を見出した。
【0013】
具体的には、本発明の電解コンデンサの製造方法は、3,4-エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体の繰り返し単位を有する導電性高分子を溶媒に分散させた分散液に、アセチレン系界面活性剤、または、アセチレン系界面活性剤および有機溶媒を加えることにより、表面張力が35mN/m以上50mN/m以下に調整された含浸液を得る第1工程と、誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配置されたセパレータとを有するコンデンサ素子本体部に、前記第1工程によって得られた含浸液を含浸させた後、熱処理することにより、前記コンデンサ素子本体部に導電性高分子層を形成する第2工程と、を有する。
【0014】
本発明者らの知見から、上記方法によると、3,4-エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体の繰り返し単位を有する分散性導電性高分子を使用する場合、アセチレン系界面活性剤、または、アセチレン系界面活性剤および有機溶媒によって、表面張力を上記範囲に調整した含浸液を使用する。これにより、高い静電容量を有しつつ、ESRが低く、かつ、漏れ電流が小さい電解コンデンサを製造することができることがわかった。
【0015】
上記構成において、前記有機溶媒は、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体の少なくとも1種であってもよい。
【0016】
上記構成において、前記ポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびエチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0017】
有機溶媒を使用することにより、含浸液の表面張力をより調整しやすくなる。また、上記有機溶媒を使用することにより、誘電体酸化皮膜の自己修復性能を補助する効果、コンデンサの高容量化、耐電圧向上等の効果を期待できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、分散性導電性高分子を使用した場合に、高い静電容量を有しつつ、ESRが低く、かつ、漏れ電流が小さい電解コンデンサを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る電解コンデンサの正面図である。
図2図1に示すコンデンサ素子の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
電解コンデンサ1は、図1に示すように、外装ケース2と、外装ケース2に収容されたコンデンサ素子3と、外装ケース2の開口を封止した封口体4とを備えた電解コンデンサである。
【0022】
コンデンサ素子3は、図2に示すように、陽極箔(陽極)11と陰極箔(陰極)12とをセパレータ13を介して円筒形に巻回して形成され、外周面に貼り付けられたテープ14により巻止めされている。
【0023】
陽極11および陰極12には、それぞれ、リード端子21およびリード端子22が接続されている。リード端子21は、図示しないタブ部と、丸棒部21aと、リード部21bとを有する。リード端子22は、図示しないタブ部と、丸棒部22aと、リード部22bとを有する。
【0024】
丸棒部21aは、アルミニウムなどからなる。リード部21bは、CP線やCu線などからなる。丸棒部21aとリード部21bとは溶接により接合されている。丸棒部21aとリード部21bの材質は異なるため、丸棒部21aとリード部21bとの接合部分に酸化皮膜は形成されていない。
【0025】
丸棒部22aおよびリード部22bは、それぞれ、丸棒部21aおよびリード部21bと同様な材質である。丸棒部22aとリード部22bとは溶接により接合されている。丸棒部22aとリード部22bの材質は異なるため、丸棒部22aとリード部22bとの接合部分に酸化皮膜は形成されていない。
【0026】
リード端子21およびリード端子22は、それぞれ、図1に示す封口体4の貫通孔31および貫通孔32を挿通している。
【0027】
図2に示す陽極11は、表面に誘電体である誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属である。弁作用金属として、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブおよびチタンから構成される群より選択される少なくとも1つが挙げられる。誘電体酸化皮膜は、例えば、弁作用金属の箔の表面をエッチング処理により粗面化した後、化成処理を施すことによって形成されている。
【0028】
陰極12は、弁作用金属を用いて形成されている。陰極12として、例えば、弁作用金属箔の表面をエッチング処理により粗面化した箔、または、粗面化後、化成処理を施した箔が使用される。また、陰極12として、エッチング処理を施さないプレーン箔を使用してもよい。さらに、陰極12として、前記粗面化箔もしくはプレーン箔の表面に、チタン、ニッケル、チタン炭化物、ニッケル炭化物、チタン窒化物、ニッケル窒化物、チタン炭窒化物およびニッケル炭窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む金属薄膜が形成されたコーティング箔を使用してもよい。また、陰極12として、粗面化箔もしくはプレーン箔の表面にカーボン薄膜が形成されたコーティング箔を使用してもよい。
【0029】
セパレータ13の材質は特に限定されない。セパレータ13として、例えば、セルロースを主体とするものを使用してもよい。
【0030】
陽極11の誘電体酸化皮膜と陰極12との間に、セパレータ13に保持された導電性高分子層が形成されている。導電性高分子層は、溶媒に分散する分散性導電性高分子を含む層である。導電性高分子層の形成方法については後述する。導電性高分子層は、さらに、誘電体酸化皮膜上に形成されていてもよく、陰極12上に形成されていてもよい。
【0031】
分散性導電性高分子は、溶媒に溶解することなく、溶媒中でコロイド粒子状態で存在する導電性高分子である。分散性導電性高分子は、3,4-エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体の繰り返し単位を有する。3,4-エチレンジオキシチオフェンの誘導体とは、例えば、3,4-エチレンジオキシチオフェンのエチレン基が他のアルキル基に置換されたもの、3,4-エチレンジオキシチオフェンのエチレン基の水素が他の置換基に置換されたものが挙げられる。分散性導電性高分子として、例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)およびポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)の誘導体から選択される少なくとも一種が挙げられる。ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)の誘導体とは、例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)のエチレン基が他のアルキル基に置換されたもの、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)のエチレン基の水素原子がアルキル基などの他の置換基に置換されたものである。
【0032】
分散性導電性高分子を構成するドーパントとして、例えば、ポリスチレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸および1-ナフタレンスルホン酸から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0033】
導電性高分子層は、酸化防止剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0034】
上述した電解コンデンサ1は、例えば以下の方法によって作製される。
【0035】
所定の幅に切断された陽極11および陰極12(図2参照)に、外部引き出し電極用のリードタブを接続する。リードタブが接続された陽極11および陰極12を、セパレータ13を介して巻回することにより、コンデンサ素子本体部を作製する。陽極11は、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属である。
【0036】
コンデンサ素子本体部の切り口や作製時に欠損した誘電体酸化皮膜を修復するため、コンデンサ素子本体部を化成処理する。化成処理は、化成液中でコンデンサ素子本体部に電圧を印加することによって行われる。化成処理に使用される化成液として、例えば、アジピン酸およびアジピン酸塩の少なくとも一方を含む水溶液が挙げられる。
【0037】
導電性高分子層を形成するため、溶媒に導電性高分子が分散した分散液を準備する。
水を溶媒とし、3,4-エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体の繰り返し単位を有する導電性高分子が分散した分散液に、アセチレン系界面活性剤、または、アセチレン系界面活性剤および有機溶媒を添加することにより、表面張力が35mN/m以上50mN/m以下に調整した含浸液を得る(第1工程)。表面張力は、例えば、ペンダントドロップ法によって測定することができる。
【0038】
導電性高分子として、上記で例示した導電性高分子を使用することができる。分散液として、例えば、導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)と、ドーパントであるポリスチレンスルホン酸(PSS)とを含むPEDOT/PSSが、水に分散した液が挙げられる。分散液中の導電性高分子の濃度は、特に限定されない。導電性高分子の濃度は、例えば、1.6wt%以上2.5wt%以下である。
【0039】
有機溶媒は特に限定されない。有機溶媒として、例えば、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体の少なくとも1種を使用してもよい。ポリアルキレングリコールおよびそれらの誘導体は、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体、および、これらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。有機溶媒の濃度は、特に限定されない。
【0040】
有機溶媒を使用することにより、導電性高分子を含む上述した液の表面張力を調整しやすい。また、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体は、誘電体酸化皮膜の自己修復性能を補助する効果、コンデンサの静電容量の向上、耐電圧向上等の効果を期待できる。
【0041】
アセチレン系界面活性剤は、非イオン性界面活性剤の一種である。アセチレン系界面活性剤は、分子内にアセチレン構造を有する界面活性剤である。アセチレン系界面活性剤として、例えば、アセチレングリコール系、アセチレンジオール系、アセチレンアルコール系が挙げられる。アセチレン系界面活性剤として、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-へキシン-3-オール、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、および、それらのエトキシル化体等が挙げられる。
【0042】
アセチレン系界面活性剤の濃度は、特に限定されない。アセチレン系界面活性剤の濃度は、好ましくは0.01wt%以上であり、より好ましくは0.02wt%以上である。アセチレン系界面活性剤の濃度は、好ましくは0.07wt%以下であり、より好ましくは0.05wt%以下である。
【0043】
第1工程によって表面張力が調整された含浸液は、酸化防止剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0044】
第1工程によって表面張力が調整された含浸液に、陽極11、陰極12およびセパレータ13を有するコンデンサ素子本体部を浸漬することにより、コンデンサ素子本体部に含浸液が含浸される。このとき、陽極11の誘電体酸化皮膜表面およびセパレータ13などにも、含浸液が含浸される。コンデンサ素子本体部を熱処理することにより(例えば、40℃以上220℃以下で加熱することにより)、導電性高分子層が形成されたコンデンサ素子3が得られる(第2工程)。導電性高分子層は、セパレータ13に主に保持されている。導電性高分子層は、陽極11の誘電体酸化皮膜上、陰極12上、陽極11とセパレータ13との間、および/または、陰極12とセパレータ13との間にも形成されていてよい。
【0045】
上記により、コンデンサ素子3が得られる。コンデンサ素子3を外装ケース2(図1参照)に収容し、封口体4により外装ケース2の開口を閉じる。これにより、電解コンデンサ1が得られる。
【0046】
上記では、分散液として、水を溶媒とし、3,4-エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体の繰り返し単位を有する導電性高分子が分散した分散液を使用する場合を例示した。しかし、分散液として、有機溶媒、または、水および有機溶媒に、3,4-エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体の繰り返し単位を有する導電性高分子が分散した分散液を使用してもよい。
【0047】
本発明者らにより、以下の知見が得られた。
導電性高分子として、分散性導電性高分子を使用した場合、導電性高分子粒子はある程度の大きさを有するため、エッチングピットの最奥にまで到達しにくい。そのため、導電性高分子粒子が、エッチングピットの最奥の欠陥部に接触する確率が低い。したがって、漏れ電流を低減できると考えられる。
【0048】
また、アセチレン系界面活性剤にて表面張力が35mN/m以上50mN/m以下に調整された含浸液を使用することにより、以下の効果が得られると推測される。
含浸液にコンデンサ素子本体部を浸漬したとき、含浸液が、図2に示すリード端子21の丸棒部21aとリード部21bとの接合部分、および、リード端子22の丸棒部22aとリード部22bとの接合部分に染み上がりにくい。さらに、アセチレン系界面活性剤を含む含浸液は、コンデンサ素子本体部への含浸時に含浸液が泡立ちにくくなるため、リード端子21の丸棒部21aとリード部21bとの接合部分、および、リード端子22の丸棒部22aとリード部22bとの接合部分に、泡や泡が割れて発生する飛沫による含浸液の付着が発生しにくくなる。これらの接合部分に含浸液が接することが抑制されるため、漏れ電流が高くなることを抑制できる。
また、表面張力を35mN/m以上50mN/m以下に調整することでコンデンサ素子本体部への含浸液の保持量が多くなることにより、導電性高分子層の厚さがある程度の厚さになるため、ESRが低くなる。
さらに、上記含浸液は、エッチングピットの最奥の欠陥部には接触しないがエッチングピット開口部付近へは浸透しやすいため、エッチングピット開口部付近に導電性高分子層が形成されると推測される。これにより、静電容量の低下が抑えられると考えられる。
【0049】
上記より、高い静電容量を有しつつ、ESRが低く、かつ、漏れ電流が小さい電解コンデンサ1を製造することができることがわかった。
【実施例
【0050】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0051】
以下の方法により電解コンデンサを作製した。
【0052】
所定の幅に切断された陽極箔および陰極箔に外部引き出し電極用のアルミリード棒を接続した。陽極箔として、弁作用金属であるアルミニウム箔の表面にエッチング処理を施すことよって粗面化した後、100Vで化成処理を施すことによって誘電体酸化皮膜が形成された陽極アルミニウム箔を使用した。陰極箔として、カーボンが蒸着された陰極アルミニウム箔を使用した。陽極アルミニウム箔および陰極アルミニウム箔を、ナイロンを主体とした電解紙(セパレータ)を介して巻回することにより、コンデンサ素子本体部を作製した。
【0053】
陽極箔の切り口およびリードタブの取り付け部に欠損した誘電体酸化皮膜を修復するため、化成処理を行った。化成処理は、化成液にコンデンサ素子本体部を浸した状態で、誘電体酸化皮膜の化成電圧値に近似した電圧を印加することにより行った。化成液として、アジピン酸アンモニウム濃度が2wt%のアジピン酸アンモニウム水溶液を使用した。
【0054】
次に、コンデンサ素子本体部に、下記の条件(後述の[導電性高分子層の作製条件])で調整された含浸液を用意した。90kPaに減圧した環境下で、含浸液にコンデンサ素子本体部を30分間浸漬することにより、コンデンサ素子本体部に含浸液を含浸させた。その後、熱処理として、コンデンサ素子本体部を40℃に設定した恒温槽内で30分間保持した後、160℃に設定した恒温槽内で30分間保持し、乾燥させた。これにより、導電性高分子層が形成されたコンデンサ素子を得た。
【0055】
得られたコンデンサ素子のリード線を封口体の孔に挿通し、コンデンサ素子と封口体とをアルミニウム製のケース内に収容した後、ケースの開口の周縁をカーリング加工した。135℃に設定された恒温槽内で、ケースに収容されたコンデンサ素子に定格電圧(50V)を印加し、エージング処理を施すことにより、電解コンデンサを作製した。本実験で作成した電解コンデンサは、定格電圧50WV、定格静電容量8.2μFおよび製品サイズφ6.3×6L(mm)の製品である。
【0056】
[導電性高分子層の作製条件]
<No.1>
水溶媒にPEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)が分散した分散液を含浸液とした。含浸液の表面張力は、68.0mN/mであった。表面張力は、ペンダントドロップ法で測定した。以下のNo.2~No.12においても、同じ方法により表面張力を測定した。
<No.2>
水溶媒にPEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)が分散した分散液に、界面活性剤であるポリエチレングリコール-モノ-2-エチルヘキシルエーテル(日本乳化剤社製ニューコール1004)0.1wt%を添加することにより、表面張力を29.0mN/mに調整した含浸液を得た。この界面活性剤は、アセチレン系界面活性剤でない。
<No.3>
水溶媒にPEDOT/PSS (濃度 2.0wt%)が分散した分散液に、ポリエチレングリコール(PEG400)5wt%とエチレングリコール(EG)5wt%の合計10wt%のポリアルキレングリコールと、界面活性剤である2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール,エトキシラテド(エアープロダクツ社製ダイノール604)0.05wt%とを添加することにより、表面張力を35.0mN/mに調整した含浸液を得た。ここで、「PEG400」とは、数平均分子量が400のポリエチレングリコールである。
<No.4>
水溶媒にPEDOT/PSS (濃度 2.0wt%)が分散した分散液に、ポリエチレングリコール(PEG400)5wt%とエチレングリコール(EG)5wt%の合計10wt%のポリアルキレングリコールと、界面活性剤である2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール,エトキシラテド(エアープロダクツ社製ダイノール604)0.025wt%とを添加することにより、表面張力を41.0mN/mに調整した含浸液を得た。
<No.5>
水溶媒にPEDOT/PSS (濃度 2.0wt%)が分散した分散液に、ポリエチレングリコール(PEG400)5wt%とエチレングリコール(EG)5wt%の合計10wt%のポリアルキレングリコールと、界面活性剤である2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール,エトキシラテド(エアープロダクツ社製ダイノール604)0.01wt%とを添加することにより、表面張力を47.0mN/mに調整した含浸液を得た。
<No.6>
水溶媒にPEDOT/PSS (濃度 2.0wt%)が分散した分散液に、ポリエチレングリコール(PEG400)5wt%とポリグリセリン(PolyG)2.5wt%の合計7.5wt%のポリアルキレングリコールと、界面活性剤である2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール,エトキシラテド(エアープロダクツ社製ダイノール604)0.05wt%とを添加することにより、表面張力を40.0mN/mに調整した含浸液を得た。
<No.7>
水溶媒にPEDOT/PSS (濃度 2.0wt%)が分散した分散液に、ポリエチレングリコール(PEG400)5wt%とポリプロピレングリコール(PPG400)1wt%の合計6wt%のポリアルキレングリコールと、界面活性剤である2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール,エトキシラテド(エアープロダクツ社製ダイノール604)0.05wt%とを添加することにより、表面張力を50.0mN/mに調整した含浸液を得た。ここで、「PPG400」とは、数平均分子量が400のポリプロピレングリコールである。
<No.8>
水溶媒にPEDOT/PSS (濃度 2.0wt%)が分散した分散液に、界面活性剤である2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール,エトキシラテド(エアープロダクツ社製ダイノール604)0.025wt%とを添加することにより、表面張力を39.0mN/mに調整した含浸液を得た。
<No.9>
水溶媒にPEDOT/PSS (濃度 2.0wt%)が分散した分散液に、ポリエチレングリコール(PEG400)5wt%とエチレングリコール(EG)5wt%の合計10wt%のポリアルキレングリコールと、界面活性剤である2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール,エトキシラテド(エアープロダクツ社製ダイノール604)0.5wt%とを添加することにより、表面張力を26.0mN/mに調整した含浸液を得た。
<No.10>
水溶媒にPEDOT/PSS (濃度 2.0wt%)が分散した分散液に、ポリエチレングリコール(PEG400)5wt%とエチレングリコール(EG)5wt%の合計10wt%のポリアルキレングリコールと、界面活性剤である2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール,エトキシラテド(エアープロダクツ社製ダイノール604)0.1wt%とを添加することにより、表面張力を27.0mN/mに調整した含浸液を得た。
<No.11>
水溶媒にPEDOT/PSS (濃度 2.0wt%)が分散した分散液に、ポリエチレングリコール(PEG400)5wt%とポリプロピレングリコール(PPG400)5wt%の合計10wt%のポリアルキレングリコールと、界面活性剤である2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール,エトキシラテド(エアープロダクツ社製ダイノール604)0.01wt%とを添加することにより、表面張力を55.0mN/mに調整した含浸液を得た。
【0057】
下記化学式1は、No.3~11で添加したアセチレン系界面活性剤のダイノール604(エアープロダクツ社製)の構造式である。
【化1】
【0058】
(評価)
20℃の環境下で、電解コンデンサの静電容量(Cap.)、等価直列抵抗(ESR)および漏れ電流(L.C.)を測定した。また、コンデンサ素子に形成した導電性高分子層について、電解コンデンサの単位体積当たりの重量を測定した。電解コンデンサの単位体積当たりの重量は、(導電性高分子層形成後のコンデンサ素子の重量-含浸液に浸漬する前のコンデンサ素子の重量)/コンデンサ素子本体部の体積 から求めた。
【0059】
表1に、実験条件を示している。
【表1】
【0060】
表2に、実験条件および評価結果を示している。
【表2】
【0061】
表1および表2に示すように、No.2は含浸液の表面張力が29.0mN/m、No.9は含浸液の表面張力が26.0mN/m、No.10は含浸液の表面張力が27.0mN/mと小さい。表面張力が小さいNo.2、No.9およびNo.10では、表2に示すように、高い静電容量となったが、ESRが高く、漏れ電流も大きかった。
No.2、No.9およびNo.10では、含浸液の表面張力が低いため、コンデンサ素子本体部への含浸液の含浸性が高かったことで、静電容量が大きくなったと考えられる。
しかし、電解コンデンサの単位体積当たりの重量が小さいこと、および、ESRが高いことを考慮すると、セパレータの含浸液の保持量が少なかったため、導電性高分子層が薄くなり、ESRが高くなったと推測される。
また、No.2は、コンデンサ素子本体部への含浸液の含浸時に、液面に泡が発生し、リード端子のリード部と丸棒部との接合部分に泡の付着が観察された。そして、No.2、No.9およびNo.10では、含浸液の表面張力が低いため、含浸液がリード端子のリード部と丸棒部との接合部分に染み上がったことで、漏れ電流が大きくなったと推測される。
【0062】
表1および表2に示すように、No.11では、含浸液の表面張力が55.0mN/mと大きい。
有機溶媒と界面活性剤を添加していないNo.1では、含浸液の表面張力が68.0mN/mと大きい。
表2に示すように、No.1とNo.11では、静電容量が小さい。表面張力が大きいこと、および、電解コンデンサの単位体積当たりの重量が小さいことを考慮すると、コンデンサ素子本体部への含浸液の含浸性が低かったため、静電容量が小さかったと推測される。
【0063】
表2に示すように、No.3~No.8では、静電容量が大きく、ESRが小さく、かつ、漏れ電流が小さかった。No.3~No.8では、電解コンデンサの単位体積当たりの重量が大きかった。No.3~No.8の表面張力は、35.0mN/m~50.0mN/mであった。また、No.3~No.8では、コンデンサ素子本体部への含浸液の含浸時に、液面での泡の発生がなく、リード端子のリード部と丸棒部との接合部分に泡の付着が観察されなかった。
上記より、No.3~No.8の含浸液は、コンデンサ素子本体への含浸性が高く、セパレータへの保持量が多く、かつ、リード端子のリード部と丸棒部との接合部分に染み上がりにくい含浸液であると推測される。
【0064】
上記実験より、以下のことがわかった。
導電性高分子として、3,4-エチレンジオキシチオフェンの繰り返し単位を有する分散性導電性高分子を使用する場合、アセチレン系界面活性剤を使用し、かつ、アセチレン系界面活性剤、または、アセチレン系界面活性剤および有機溶媒によって、表面張力を35mN/m以上50mN/m以下に調整した含浸液を使用することにより、高い静電容量を有しつつ、ESRが低く、かつ、漏れ電流が小さい電解コンデンサを製造することができることがわかった。
【0065】
上記実験では、導電性高分子としてPEDOT/PSSを使用した。しかし、分散性導電性高分子は、3,4-エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体の繰り返し単位を有するものであれば、PEDOTに限られない。例えば、分散性導電性高分子は、3,4-エチレンジオキシチオフェン誘導体の繰り返し単位を有するものでもよい。また、ドーパントはPSSに限られない。PEDOT/PSS以外の導電性高分子を使用した場合にも、上記と同様な効果が得られる。また、他のドーパントを使用した場合にも、上記と同様な効果が得られる。
【0066】
また、上記実験では、アセチレン系界面活性剤として、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール,エトキシラテドを使用した。しかし、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール,エトキシラテド以外のアセチレン系界面活性剤を使用してもよい。また、1種類のアセチレン系界面活性剤を使用してもよく、2種類以上のアセチレン系界面活性剤を使用してもよい。これらの場合にも、上記と同様な効果が得られる。
【0067】
また、上記実験では、水溶媒に分散性導電性高分子が分散した分散液に、アセチレン系界面活性剤、または、アセチレン系界面活性剤および有機溶媒を添加することにより、表面張力を調整した。しかし、水および有機溶媒、または、有機溶媒に分散性導電性高分子が分散した分散液に、アセチレン系界面活性剤、または、アセチレン系界面活性剤および有機溶媒を添加することにより、表面張力を調整してもよい。これによっても、上記と同様な効果が得られる。
【0068】
また、上記実験では、有機溶媒として、ポリエチレングリコール、エチレングリコールおよび/またはポリグリセリンを使用した。しかし、有機溶媒は、実験で使用したポリアルキレングリコール以外の有機溶媒を使用してもよい。1種類のポリアルキレングリコールを使用してもよく、2種類以上のポリアルキレングリコールを使用してもよい。
【0069】
以上、本発明の実施形態について実施例に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0070】
上記実験では、定格電圧50WV、定格容量8.2μFおよび製品サイズφ6.3×6L(mm)の電解コンデンサを作製したが、本発明の電解コンデンサの定格電圧、定格容量及び製品サイズは上記に限られない。
【0071】
また、上記では、導電性高分子層は、セパレータに保持されていることを説明したが、導電性高分子層が、コンデンサ素子本体部の空隙(例えば、誘電体酸化皮膜のエッチングピット、陰極のピット、陽極とセパレータとの間、陰極とセパレータとの間)にも形成されていてよい。
【0072】
さらに、コンデンサ素子本体部に導電性高分子層を形成後、電解液を含浸してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 電解コンデンサ
2 外装ケース
3 コンデンサ素子
4 封口体
11 陽極
12 陰極
21、22 リード端子
21a、22a 丸棒部
21b、22b リード部
図1
図2