(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】音源の空間的位置の特定のための装置、システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01S 5/20 20060101AFI20240521BHJP
G03H 3/00 20060101ALI20240521BHJP
G01H 3/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
G01S5/20
G03H3/00
G01H3/00 Z
(21)【出願番号】P 2021500316
(86)(22)【出願日】2019-03-19
(86)【国際出願番号】 AT2019060092
(87)【国際公開番号】W WO2019178626
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-02-16
(32)【優先日】2018-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(32)【優先日】2019-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】520361748
【氏名又は名称】セブン ベル ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Seven Bel GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110000718
【氏名又は名称】弁理士法人中川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リッテンショーバー トーマス
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】実開昭64-038538(JP,U)
【文献】特開昭55-027904(JP,A)
【文献】特開2000-075014(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104459625(CN,A)
【文献】特開2003-111183(JP,A)
【文献】実開昭57-032867(JP,U)
【文献】特開平09-134113(JP,A)
【文献】特表2011-527421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/18-5/30
G03H 1/00-5/00
G01H 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置と、計算ユニット(40)とを有する音源強度決定システムであって、
前記装置は、
移動可能に設けられ、測定シーンにおける音源を検出するように構成された少なくとも1つの第1のマイクロフォン(10)と、
前記測定シーンの音源を検出するように構成され、固定された第2のマイクロフォン(11)と、
前記1のマイクロフォン(10)の位置を検出するように構成された少なくとも1つの位置センサ(16)と、
を有し、
前記計算ユニット(40)は、少なくとも1つの前記第1のマイクロフォン(10)と前記第2のマイクロフォン(11)のセンサ信号及び少なくとも1つの前記位置センサ(16)によって検出された位置信号に基づいて複数の再構成点において音源の強度を決定するように構成され、
前記装置は、回転軸の周りを回転可能に支持されており、
前記第2のマイクロフォン(11)は、回転中にその位置を変えないように前記回転軸上に位置し、
少なくとも1つの前記第1のマイクロフォン(10)と前記第2のマイクロフォン(11)は、前記回転軸に垂直な第1の平面上に配置され、
複数の前記再構成点は、前記回転軸に実質的に垂直な第2の平面上に設けられており、
前記第1の平面は、前記第2の平面と平行である
音源強度決定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の音源強度決定システムであって、
前記装置は、空気力学的に形成された翼の形状を有する音源強度決定システム。
【請求項3】
請求項1に記載の音源強度決定システムであって、
前記回転
軸の周りの回転運動中に前記装置がアンバランスとならないように装置内に設けられたバランスウエイト(17)を更に有する音源強度決定システム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の音源強度決定システムであって、
前記装置は、第1の部分と第2の部分とを有し、前記第1の部分は前記第2の部分に対してスライド可能に取り付けられ、少なくとも1つの前記第1のマイクロフォン(10)は前記第1の部分に設けられ、前記第2のマイクロフォン(11)は前記第2の部分に設けられている音源強度決定システム。
【請求項5】
ホルダと、
前記ホルダに搭載された請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の音源強度決定システムと、
前記音源強度決定システムからの、センサ信号に基づいた測定データを受信して前記測定データに基づいて測定結果を可視化するように構成され、前記ホルダに取付可能なデバイス(20)と、
を有する音源強度可視化システム。
【請求項6】
請求項5に記載の音源強度可視化システムであって、
前記計算ユニット(40)は、前記デバイス(20)に含まれているか、又は通信接続を介して前記デバイスに結合されている音源強度可視化システム。
【請求項7】
請求項6に記載の音源強度可視化システムであって、
前記計算ユニット(40)はクラウドコンピューティングサービスによって形成されている音源強度可視化システム。
【請求項8】
第1のマイクロフォン(10)を、第2のマイクロフォン(11)が設けられている固定の基準位置に対して相対的に移動させるステップと、
前記第1のマイクロフォン(10)及び前記第2のマイクロフォン(11)から提供されるセンサ信号を検出し、これと同時に、前記基準位置に対する前記第1のマイクロフォン(10)の位置を示す位置信号を検出するステップと、
前記第1のマイクロフォン(10)及び前記第2のマイクロフォン(11)からの前記センサ信号及び検出された前記位置信号に基づいて、複数の再構成点における音源の強度を計算するステップと、
を有し、
前記第1のマイクロフォン(10)を移動させる前記ステップは、
回転中にその位置が変わらないように前記第2のマイクロフォン(11)を回転軸上で、かつ、前記回転軸に垂直な第1の平面上に位置させて、前記第1のマイクロフォン(10)を
前記第1の平面上で前記回転軸の周りに回転させるステップを有し、
複数の前記再構成点は、前記回転軸に実質的に垂直な第2の平面上に配置され、
前記第1の平面は、前記第2の平面と平行である
方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、
1つ以上の音源を有する光学的な画像を検出するステップと、
検出された光学的な前記画像に、複数の前記再構成点について計算された音源強度を重畳するステップと、
を更に有する方法。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載の方法であって、
検出した測定データを、通信接続を介して、計算ユニット、特にクラウドコンピューティングサービスに送信するステップを更に有し、
複数の前記再構成点における音源強度の計算は、前記計算ユニットによって実行される方法。
【請求項11】
定義された軌跡に沿って移動する少なくとも1つの第1のマイクロフォン(10)によって少なくとも1つの第1のセンサ信号(
p
1(t))を検出し、同時に、固定された基準位置(M
2)に対する前記第1のマイクロフォン(10)の位置(M
1(t))を測定するステップと、
前記基準位置(M
2)に設けられた第2のマイクロフォン(11)によって第2のセンサ信号(p
2(t))を検出するステップと、
前記第1のセンサ信号(p
1(t))、前記第2のセンサ信号(p
2(t))、及び前記固定された基準位置(M
2)に対する前記
第1のマイクロフォン(10)の測定された位置に基づいて、第2のセンサ信号(p
2(t))の測定された信号パワーに対する、予め定められ得る複数の再構成点(R)内に仮想的に配置された仮想音源の寄与度を決定するステップと、
を有し、
前記第1のマイクロフォン(10)を移動させる前記ステップは、
回転中にその位置が変わらないように前記第2のマイクロフォン(11)を回転軸上で、かつ、前記回転軸に垂直な第1の平面上に位置させて、前記第1のマイクロフォン(10)を
前記第1の平面上で前記回転軸の周りに回転させるステップを有し、
複数の前記再構成点は、前記回転軸に実質的に垂直な第2の平面上に配置され、
前記第1の平面は、前記第2の平面と平行である
方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、
前記
第2のマイクロフォン(11)に対して固定された位置にあるカメラによって画像を取り込むするステップと、
前記画像の対応する画素に再構成点(R)を割り当てるステップと、
前記再構成点(R)に割り当てられた画素が、前記再構成点(R)ごとに計算された前記再構成点(R)に位置する仮想音源の寄与度に基づいて色付けされて画像を表示するステップと、
を更に有する方法。
【請求項13】
請求項11又は請求項12に記載の方法であって、各再構成点(R)について、仮想音源の寄与度を決定する前記ステップは、
前記第1のセンサ信号(p
1(t))を、第1の変換センサ信号(p
-
1(t))に変換するステップであって、前記
第1のマイクロフォン(10)の動きによって生じるドップラー効果の影響が少なくともほぼ補償されるステップと、
第2のセンサ信号(p
2(t))と前記第1の変換センサ信号(p
-
1(t)
)との間のコヒーレンス(C
p2p-
1(f))を計算するステップと、
予め与えられ得る周波数帯域([F1,F2])についての第2のセンサ信号(p
2(t))の測定された信号パワーとの関係で、各々の再構成点(R)に存在する仮想音源の寄与度を計算するステップと、
を更に有する方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、
前記第1のセンサ信号(p
1(t
))を変換する前記ステップは、
測定の任意の開始時刻における前記第1のマイクロフォン(10)と前記再構成点(R)との間の距離に依存する期間だけ、前記第1のセンサ信号(
p
1(t))を各々の再構成点(R)にバックプロパゲートするステップと、
バックプロパゲートされた前記第1のセンサ信号を、前記再構成点から前記第1のマイクロフォン(10)まで音響信号が移動するのに必要な時間を表す期間だけ、時間変化フラクショナル遅延フィルタでフィルタリングするステップと
測定の任意の開始時刻における前記第1のマイクロフォン(10)と前記再構成点(R)との間の距離に依存する期間だけ、フィルタリングされた前記センサ信号を前記再構成点(R)にバックプロパゲートするステップであって、結果としての、バックプロパゲートされ、フィルタリングされたセンサ信号(p^
1(t))は、各々の再構成点(R)に存在する仮想音源から発せられる音響信号を表しているステップと、
バックプロパゲートされ、フィルタリングされたセンサ信号(p
1(t))を、前記基準位置と前記再構成点(R)との間の距離に依存する期間だけ前記基準位置にフォーワードプロパゲートするステップと、
を有する方法。
【請求項15】
請求項13又は請求項14に記載の方法であって、
各々の再構成点(R)に存在する仮想音源の寄与度を計算する前記ステップは、
前記コヒーレンス(C
p2p-
1(f))と前記第2のセンサ信号(p
2(t))のスペクトルパワー密度(P
p2p2(f))の積の予め与えられ得る周波数帯域([F1,F2])の範囲の積分を求めるステップ
を有する。
【請求項16】
2つのマイクロフォン(10,11)を用いて音場の測定量を取り込むことにより、任意の表面上の音源の空間的な位置を特定する装置において、
第1のマイクロフォン(10)が経路上を移動し、第2のマイクロフォン(11)が固定されており、
関係する音響信号は、移動する前記第1のマイクロフォン(10)と一緒に移動するユニットに送信され、
前記ユニットは、
移動する前記第1のマイクロフォン(10)の空間座標を検出するためのセンサシステムと、
両方のマイクロフォン(10、11)のデータを取得するデータ取得装置と、
移動する前記第1のマイクロフォン(10)の空間座標を検出するためのセンサ(16)と、
電力供給装置(49)と、
を有し、
前記関係する音響信号は、さらに、データ処理装置(20)に転送され、
前記データ処理装置(20)は、
測定の制御と、カメラ(21)によって検出された測定シーンの画像と音源の再構成画像とを重ね合わせた形で、結果の表示とをするための表示及び操作面を有し、
移動する前記第1のマイクロフォン(10)、固定された前記第2のマイクロフォン(11)及び一緒に移動する前記ユニットが、フレーム構造(100、200)に一体化されており、
回転中にその位置が変わらないように前記第2のマイクロフォン(11)は、回転軸上で、かつ、前記回転軸に垂直な第1の平面上に位置し、前記第1のマイクロフォン(10)は、前記第1の平面上で前記回転軸の周りに回転し、
複数の再構成点は、前記回転軸に実質的に垂直な第2の平面上に設けられており、
前記第1の平面は、前記第2の平面と平行である
装置。
【請求項17】
請求項16に記載の装置において、
前記フレーム構造(100、200)は、前記回転
軸を中心に回転可能に取り付けられており、前記フレーム構造(100、200)の制御された回転が行われることを特徴とする装置。
【請求項18】
請求項17に記載の装置において、
前記フレーム構造(100、200)が駆動装置(30)に結合され、それにより前記回転
軸の周りを前記フレーム構造(100、200)が自動的に回転することを特徴とする装置。
【請求項19】
請求項17に記載の装置において、
移動する前記第1のマイクロフォン(10)は、前記データ取得装置によって制御される電子マルチプレクサ(45)によって、前記フレーム構造(100、200)に沿って分布するマイクロフォンのアレイから時間及び/又は前記フレーム構造(100、200)の角度位置に依存して選択されることにより移動前記第1のマイクロフォン(10)の近似的な螺旋運動が実現可能であることを特徴とする装置。
【請求項20】
請求項17に記載の装置において、
移動する前記第1のマイクロフォン(10)は、前記フレーム構造(200)に埋め込まれ、半径方向に向けられたレール上をスライドし、移動する前記第1のマイクロフォン(10)の半径方向の動きは、前記回転
軸に対する前記フレーム構造(200)の動きと同期しており、前記フレーム構造(200)が動く際に前記第1のマイクロフォン(10)が螺旋状に動くことを特徴とする装置。
【請求項21】
請求項16に記載の装置において、
移動する前記第1のマイクロフォン(10)と固定された前記第2のマイクロフォン(11)は、構造伝達音の観点で前記フレーム構造(100、200)から実質的に音響的に切り離されており、駆動音、移動音、又は風切り音は無視できる程度にしか測定動作に影響を与えないことを特徴とする装置。
【請求項22】
請求項16に記載の装置において、
移動する前記第1のマイクロフォン(10)と固定された前記第2のマイクロフォン(11)には、移動する前記フレーム構造(100、200)の空気音響ノイズを抑制するウインド防護部材(14)が装備されており、前記空気音響ノイズが無視できる程度にしか測定動作に影響を与えないことを特徴とする装置。
【請求項23】
請求項16に記載の装置において、
前記フレーム構造(100、200)の表面が、移動する前記フレーム構造の空気音響ノイズを抑制するために、移動方向に空気力学的に形成されており、前記空気音響ノイズが無視できる程度にしか測定動作に影響を与えないことを特徴とする装置。
【請求項24】
請求項17に記載の装置において、
移動する前記第1のマイクロフォン(10)の空間座標を検出する前記センサシステムは、前記回転
軸に対する回転角度を測定するための回転角度センサ(16)によって実現されていることを特徴とする装置。
【請求項25】
請求項17に記載の装置において、
移動する前記第1のマイクロフォン(10)の空間座標を検出する前記センサシステムは、前記フレーム構造(100、200)の前記回転
軸と同軸に整列した少なくとも1軸の角速度センサと、3軸の加速度センサとによって実現されていることを特徴とする装置。
【請求項26】
請求項16に記載の装置において、
移動する前記第1のマイクロフォン(10)の空間座標を検出する前記センサシステムが、モーショントラッキングシステムによって実現されていることを特徴とする装置。
【請求項27】
請求項16に記載の装置において、
移動する前記第1のマイクロフォン(10)の前記フレーム構造(200)の回転中心からの距離を、特に低周波数の音源の場合の空間的な分解能を向上させるために変化可能であることを特徴とする装置。
【請求項28】
請求項16に記載の装置において、
前記フレーム構造(100、200)に統合された前記データ取得装置のデータが、さらなる処理又は可視化のために、パーソナルコンピュータ、ラップトップコンピュータ又はモバイルデバイスに無線で送信されることを特徴とする装置。
【請求項29】
固定された第1の音響センサの時間信号と移動する第2の音響センサの時間信号を変換した変換信号との間のコヒーレンスを推定することにより、空間内の任意の点における音源の強度を再構成する方法において、
移動する前記第2の音響センサの時間信号は、観察される媒体における伝搬速度を考慮して時間シフトすることにより再構成点で変換され、
結果として得られる信号は、再構成点におけるモノポール音源の刺激として機能し、
前記結果として得られる信号は、再構成点と、移動する前記第2の音響センサの位置との間の時間に依存する時間遅延に関する時間遅延プロファイルであって、一定のオフセットで反転された時間遅延プロファイルにより時間シフトされ、
前記結果として得られる信号は、最終的に、一定の時間シフトによって固定された前記第1の音響センサの位置で映像化され、
このようにして決定された、周波数領域のコヒーレンス関数は、固定されたセンサの位置で測定されたレベルに対する、再構成点から放射される音源の寄与度の尺度を定義する
ことを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法において、
周波数領域のコヒーレンス推定値は、周波数領域の音源分布の分析を可能にするために、特定の周波数で評価されるか、定義された周波数帯域に統合されることを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法において、
音源強度の再構成は空間のいくつかのポイントで実行され、音源強度の映像化は任意の形状の表面で可能であることを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項31に記載の方法において、
空間割り当てを可能にするために、音源強度の映像化が、光学的に取り込まれた測定シーンの画像と重ね合わされることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音源の空間的位置特定のための装置、システム、および方法に関するものであり、したがって、音響測定技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
音源の空間的位置特定は、自動車および航空宇宙セクタ、ならびに家電および産業機器セクタの製品のノイズおよび振動特性の定量化において不可欠な課題である。この課題は、製品開発プロセスにおけるノイズ、振動、ハーシュネス(NVH)テストと呼ばれる。騒音限界と音の知覚に関する規制要件と顧客要件の両方を満たす製品を開発するためには、NVH試験が不可欠であり、それに伴い製品は適切な信頼性と精度で測定されなければならない。音源の空間的な位置特定は、上述の産業分野の製品に限定されるものではなく、例えば、職場での環境騒音測定、公共の場での音響干渉源の特定、あるいは建物の遮音性の評価など、他の分野でも使用されている。音源の空間的な位置を特定するためのシステムのユーザには、上述の産業分野の製品メーカ、エンジニアリングサービスプロバイダ、建築音響技師、建設会社、公共機関などが含まれている。
【0003】
特に、規制要件と望ましい音質の検証は、製品開発プロセスの比較的遅い段階で行われる。この時点で、製品開発者は、NVHの問題を分析し、製品仕様を満たすための意思決定を行うために、使いやすく直感的なツールを必要としている。建築音響の分野では、構造物対策のその場での検証、製品製造における品質モニタリング、機械やプロセスの状態モニタリングなど、同様の問題が発生する。
【0004】
音源を視覚化できるいわゆる音響カメラは、先行技術から知られている。このような音響カメラは通常、ディスク状の表面に配置された多数のマイクを備えたマイクアレイを備えている。このような音響カメラの構造は複雑であることが多く、特に並列データの取得と処理のために高性能のシステムに接続された多数のマイクが通常必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2004/068085A2
【文献】US 7,098,865 B2
【文献】US 9,357,293 B2
【文献】US 2,405,281 A
【文献】EP 2 948 787 A1
【文献】EP 2 304 969 B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、音源の空間的な位置特定およびその可視化のための装置であって、例えば、画像品質において、特に、コントラスト、空間分解能、および音源の最大表示可能な周波数の領域において、従来技術と比較して、本質的な技術的優位性を提供することができ、さらに、特に取り扱いが容易であり、技術的な複雑さ低減により低コストで製造することができる装置を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は、請求項1、及び18に記載の装置、請求項7に記載のシステム、及び請求項10、13及び31に記載の方法によって達成される。様々な例示的な実施形態およびさらなる展開は、従属請求項の主題である。
【0008】
可動に配置された少なくとも1つの第1のマイクロフォン、少なくとも1つの第2の固定されたマイクロフォン、および少なくとも1つのセンサを含むデバイスが記載されている。マイクロフォンは音源から放射される音波を検出でき、センサは第1のマイクロフォンの空間座標を検出可能である。
【0009】
対応する装置を備えたシステムも記載されており、このシステムは、固定のデータ処理デバイスを含み、対応する装置がデータ処理デバイスに回転軸の周りに回転可能に取り付けられている。データ処理デバイスは、対応する装置から測定データを受信し、測定対象物の音源強度を表示することができる。
【0010】
一実施形態による方法は、以下のステップを含む。移動可能に配置された少なくとも1つの第1のマイクロフォンと、少なくとも1つの静止した第2のマイクロフォンとを有する回転可能に取り付けられた装置を提供するステップ。回転軸を中心に装置を回転させ、第1のマイクロフォンが装置と一緒に回転し、第2のマイクロフォンが固定されたままであるステップ。被測定物から発せられる音波を第1及び第2のマイクロフォンで検出し、第1のマイクロフォンの空間座標を同時に取得するステップ。取得した測定データに基づいて、音を発する物体の音源強度を算出し、画像化するステップ。
【0011】
また、本発明は、(i)移動するセンサと固定されたセンサによる音場の音響量の取り入れ、(ii)移動するセンサの経路座標の取り入れ、及び(iii)カメラによる測定シーンの光学像の取り入れ、並びにセンサシステムと共に移動する電子ユニットにデータを取り入れ、端末装置に転送してデータを処理して、色分けされた音響画像と被測定物の光学的に記録された画像を重ね合わせて結果を表示することにより音響を発する物体の像を表示する方法および装置についても記載している。
【0012】
ここに記載されている装置は、様々な用途で使用することができ、特に自動車、航空宇宙、民生用電子機器、産業用機器などの産業分野における製品の規制要件や望ましい音質の検証のためだけでなく、建築音響、製品の生産における品質監視、機械の状態監視の分野でも使用することができる。
【発明の効果】
【0013】
ここで説明する音響を放射する物体の画像化の概念は、たとえば、センサアレイとビームフォーミング技術に基づく同等のパフォーマンスと画質を備えた既知のシステムと比較して、測定機器の費用が少ないため、さまざまなアプリケーションで役立つ。これに伴うコスト削減により、この技術を幅広いユーザが利用できるようになる。大幅な小型軽量化により持ち運びが容易になり、複雑さが軽減されることで、測定のための準備時間が短縮され、動作の信頼性が向上する。
【0014】
いくつかのアプリケーションでは、既知のセンサアレイおよびビームフォーミング技術と比較して、1ー2桁のオーダー少ない量のデータを処理しなければならないだけなので、ここで説明した概念を有利に使用することができ、したがって、データ取得および処理のために使用されるハードウェア上の要件が大幅に削減され、音源の画像の形での結果を大幅に高速に計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】音響量の測定とセンサの動きの測定された特性に基づいて音響放射物体の映像化の計算の方法のブロック図の一例を示す図である。
【
図2】本発明の装置の第1の実施形態を正面図(左、電子ユニットのブロック図を含む)および断面図(右)で示した図である。
【
図3】本発明の装置の代替的構成例を、正面図(左、電子ユニットのブロック図を含む)、断面図(中)、および背面図(右、ハウジングカバおよび駆動部を除く)で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図示の実施形態を用いてさらに詳細に説明する。図示は必ずしも縮尺に忠実ではなく、本発明は描かれた側面に限定されるものではない。むしろ、発明の基礎となる原理を提示することに重点が置かれている。
【0017】
本発明は、音源の空間的位置特定の問題に対処し、この問題は、文献では「到着方向」(Direction of Arrival, DoA)問題と呼ばれている。DoA問題と関連する解決策は、基礎となる物理学が波の伝播によって特徴づけられるほとんどすべての状況、例えばレーダー、ソナー、地震学、無線通信、無線天文学、医療イメージング、音響などに関連し得ることに留意すべきである。音響の場合には、音場の物理量の測定(例えば、マイクを用いた測定)に基づいて、観測測定システムの位置および方位に対して音響源の方向または位置を再構成することが課題となる。
【0018】
ここに記載されている測定装置および方法は、ビデオカメラ、センサに接続されたデータレコーダ、および音響画像の再構成のためのアルゴリズムを実装するためのコンピュータを備えた市販のソリューションに組み合わされており、例えば、公開WO2004/068085A2(特許文献1)に記載されているシステムの説明を参照されたい。
【0019】
以下の物理量および関連するセンサ技術は、音源定位のための市販のソリューションにおいて考慮される。すなわち、圧力(無指向性圧力マイクロフォン)、音速(ホットワイヤマイクロフォン)、音響強度(2マイクロフォン技術)、空気の屈折率(レーザドップラ振動計)、反射面の横速度(レーザドップラ振動計)である。科学文献には、音源の空間的位置にレーザドップラ振動計を使用した、光学反射性で音響的に透明な膜の横方向速度の測定についても説明されている。通常、様々なセンサ技術で記録された物理量は、電気的に変換され、対応するシングルチャンネルまたはマルチチャンネルのデータ収集システムでデジタル的に記録され、前処理され、最終的に実際の測定プロセスに投入される。
【0020】
さらなる考察のために、文献ではセンサアレイと呼ばれている、複数の静止した、時間同期したセンサ(例えば、マイクロフォン)を有する第1のグループと、1つ以上の移動した、時間同期したセンサを有する第2のグループとに分割することが有用である。用途に応じて、センサアレイは、1次元、2次元、または3次元の幾何学的配置、例えば、直線状、環状、十字形、螺旋状、球状で、平面または体積内に規則的、またはランダムに分布し得る。横方向にオフセットされたスポークを有するホイールの形態の変形例は、文献US 7,098,865 B2(特許文献2)(原公報DK 174558 B1)に記載されている。センサ間の距離とアレイの空間的な広がり(開口部)に関するアレイの構成は、以下の方法のすべてにおいて、達成可能な空間分解能、妨害信号の抑制、および測定される音響源の最大検出可能な周波数成分に決定的な影響を与える。
【0021】
ビームフォーミングとは、第1のステップで検討中の焦点に関連して、音源からアレイ内のそれぞれのセンサまでの通過時間が異なることに基づいて時間オフセットを補正し、第2のステップですべての時間補正信号を合計する信号処理技術を指す。したがって、ビームフォーミングアルゴリズムの出力信号は、音響信号が問題の焦点の方向から来る場合はその振幅が増幅され、他の方向から来る場合は減衰される。したがって、ビームフォーミングは音響信号の空間フィルタリングに対応する。記載されている方法でのセンサ信号のアルゴリズムの組み合わせは、「遅延と合計(Delay and Sum)」または「ステアリング応答パワー(Steered Response Power)」(SRP)アルゴリズムとしても知られている。
【0022】
センサ信号の信号処理の第1のステップ、とりわけ焦点に関連する時間補正は、信号ノイズに対する受信信号パワーの比率を最適化するために、フィルタで補償することができる。関連する方法は、「超指向性ビームフォーミング(superdirective beamforming)」および「アダプティブビームフォーミング(adaptive beamforming)」と呼ばれる。この方法は、列車、自動車、または、機械の回転する物体の通過など移動する音源にも適用できる。
【0023】
音を発する物体の近距離場音響ホログラフィ(Near field Acoustic Holography,NAH)は、音源のない領域にセンサをチェッカーボード状に配置したセンサアレイでの測定に基づいて、平面に音源の画像を生成する。そして、アレイは音の伝播方向を横切って向けられており、放射面の大部分をカバーする必要がある。圧力マイクロフォンを用いた測定の場合、音源面における音響圧力は、測定面(ホログラム面)における音響圧力分布の(2次元の)空間フーリエ変換の逆フーリエ変換に、ホログラム面から任意の平行な音源のない平面への位相回転を記述する関数を乗算して決定される。この計算方法により、オイラー方程式を使用して音速と音響強度を再構築することができる。いわゆるパッチNAH法は、大きな領域と構造を測定する問題に対処しており、測定される領域が小さな領域(パッチ)に分割される。NAH法の拡張は、NAHベースの境界要素法(IBEM)であり、覆い上の音源が観察される体積の内部の点に及ぼす影響を決定するためにヘルムホルツ積分理論を使用する。上記の方法の近似は、文献では「ヘルムホルツ方程式、最小二乗」(HELS)法として知られており、音場は、最小二乗誤差に関連する品質関数を備えた許容基底関数によって近似される。
【0024】
到着時間差(Time Difference of Arrival)(TDOA)は2段階の方法であり、第1段階では、空間的に隣接するセンサペアのセンサ信号間の時間遅延が相互相関によってセンサアレイに対して決定される。ペアの時間遅延とセンサの空間位置を知ることで、曲線または曲面が生成され、最適化問題の結果として得られた曲線または曲面の交点が音源の推定位置として決定される。
【0025】
多重信号分類(MUSIC)アルゴリズムは、部分空間法のグループに属し、高空間分解能で複数の高調波音源(狭帯域音源)を識別することができる。ある時点での複数の予め定義された空間音源の信号をある時点でのセンサアレイの測定信号に写像する、いわゆる「ステアリング」ベクトルをコラム毎に有する線形写像に基づいて、センサ信号の相互相関行列を数学的な部分空間に分解し、固有値を計算することにより、音源分布の空間スペクトルが計算される。スペクトルのピークは、モデルでパラメータ化された音源の音が到達する方向に対応している。ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Technique)は、上記の部分空間法を、センサの位置、ゲイン、及び位相の誤差の変動の影響を受けにくくするために適応させたものである。
【0026】
円形のセンサアレイのセンサ信号の時間的に同期した空間サンプリングは、合成された信号にドップラー効果を誘発する。時間離散的なティーガー・カイザー(Teager-Kaiser)演算子は、変調を解析し、平面の場合には、入ってくる音の方向を解析的に計算するために使用することができる。複数の音源の位置特定、したがって音源分布の空間スペクトルの計算は、個々の期間の評価に基づいて確率密度関数を決定することによって実現される。あるいは、重心アルゴリズムを使用して、実際に使用可能な周波数範囲のノイズ感度および制限を低減することができる。
【0027】
US 9,357,293 B2(特許文献3)には、多数のセンサを有するリニアアレイの実質的に移動するサブアパーチャーからのマイクロフォン信号のサンプリングに基づく周波数領域の方法が示されている。アレイに沿って異なる速度でサブアパーチャーが移動することで、音源の周波数と位置に応じて異なる信号の重ね合わせが生成される。サブの異なる動きの際の周波数スペクトルにおける異なる混合物および信号エネルギーに関する情報は、最終的に特定の周波数における音源の位置を推論するために使用することができる。
【0028】
いわゆる「光屈折トモグラフィ」では、固定反射板で反射されたレーザ光に沿って音場が伝播する媒体の屈折率の変化を、レーザ走査型振動計を用いて算出している。この際、レーザビームのアライメントは、音場の伝播方向に対して横方向である。その拡張として、屈折率の変化が計算される平面内の音場の断面画像を再構成するために、コンピュータトモグラフィ法を使用することができる。
【0029】
以下では、単一または複数の移動センサを用いてドップラー効果を利用する方法について説明する。
【0030】
円形の経路上の音響センサの事前に知られた動きによって、一定の周波数と振幅で空間に配置された単一の音源は、観測された信号の位相変調の位相ロックループ(PLL)復調によって位置特定される。
【0031】
US 2,405,281 A(特許文献4)によれば、円軌道上を移動するセンサを用いて、支配的な音響波または電磁波が到来する方向を、ドップラー効果に基づいて特定することができる。ここで、センサの回転面が音源の受信方向と直交する場合、高調波音源のドップラー履歴の測定帯域幅は最大となる。ドップラー効果を用いた1つ以上のマイクロフォンの移動による単一の支配的な音源の同定に関するさらなる文献としては、EP 2 948 787 A1(特許文献5)及びEP 2 304 969 B1(特許文献6)がある。
【0032】
(一様に分散したセンサを有する)センサアレイに到着する音波の空間フィルタリングのためのビームフォーミングの適用は、音源の最大検出可能(臨界)周波数がアレイの2つの隣接するセンサ間の距離によって定義されるという制限がある。この周波数を超えて音源の位置特定しようとすると、再構成された音響画像にいわゆる「ゴーストイメージ」が発生する。これは、文献では空間エイリアシング効果とも呼ばれている。臨界周波数を超えて固定配置されたセンサアレイの使用と、それに対応する空間的エイリアシング妨害信号の抑制は、センサアレイの空間的な移動によって実現され得る。円軌道上を等角速度で移動するセンサアレイからなる撮像システムのポイントスプレッド関数を遅延和アルゴリズム(Delay and Sum Algorithm)でシミュレートし、単一高調波音源を用いてエイリアシング妨害信号の抑制を実験的に検証することができる。
【0033】
この節の冒頭で既に述べたように、音響学において直接応用されていないが、その基礎となる物理学が波の伝播によって特徴づけられる源や反射構造物の位置を特定する方法も言及する価値がある。例えば、合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar(SAR))は、既知の位置で移動する送信機によって発生する電磁界を走査することによって、表面の画像を提供することができる。表面に対する送信機の相対的な動きは、連結された受信機にドップラー効果を誘発する。測定されたドップラー履歴、すなわち物体のエコーのドップラー周波数の最初は正の値から負の値までの時間的経過について、いわゆるレプリカ(送信機の動きの知識に基づいて点反射板により距離ごとに生成されたドップラー履歴)との相関をとることにより、スキャンされた表面の画像を高解像度で再構成する。
【0034】
ここに記載された新しい概念の基本的な考え方は、音場情報を取得するための測定手段の技術的な労力を最小限に抑えながら、同時に、特にコントラストの範囲、空間分解能、および最大表示可能な周波数に関して、音源の空間的写像の品質を向上させることである。センサアレイを必要とする測定方法は、許容可能なコントラスト範囲及び合理的な上限カットオフ周波数で有用な空間分解能を達成するために、多数のセンサを使用するという固有の欠点を有している。
【0035】
ビームフォーミングや音響ホログラフィでは、空間分解能は、アレイの開口部の大きさ、最大表現可能な周波数で表され、視野は、センサ間の距離で表される。このように、局所分解能を向上させるためには、測定面上のセンサの数を増やす必要がある。
【0036】
TDOA法では、最も支配的な音源のみを特定することができ、MUSIC/ESPRIT法では、識別可能なソースの数に制限があり、この上限は使用されるセンサの数によって決定される。TDOA法でも、MUSIC/ESPRIT法でも、未知数の音源で音場を測定すると、誤った解釈を招く可能性がある。DREAM(Discrete Representation Array Modelling)法では、複数回の実行が必要であり、第1のステップで音源の信号スペクトルを特性化し、最後に第2のステップで線形アレイのサブアパーチャーのサイズと速度を決定する。この方法は、構成を決定するための逐次的な手順であるため、予めの情報がない個々の音響イベントの測定には適用できない。
【0037】
前述の光屈折トモグラフィの方法は、音場による媒体の屈折率の変化が、典型的には、それを引き起こす源の振動レベルよりも数桁低いため、レーザスキャニング振動計と固定反射鏡のための振動のない環境を作ることが計量者の課題となっている。ビームフォーミングや音響ホログラフィと同様に、使用可能な空間分解能を達成するには、再構築する断面画像の円周に沿ったレーザドップラ振動計のアレイが必要である。使用する計測手段が複雑なため、レーザドップラ振動計を用いたアレイの実装には、圧力センサや音速センサを用いたアレイと比較して数桁の測定技術的労力が必要となる。
【0038】
円運動するセンサの観測信号の位相変調の復調を使用する方法は、通常、一定の振幅と周波数を有する高調波源又は支配的な静止音源の識別のためにのみ機能する。
【0039】
図1は、ここで説明した実施形態において、音を発する物体の画像(例えば、音圧が色分けされたいわゆる音響画像)を決定するために用いられる信号処理方法の一例をブロック図で示したものである。以下でより詳細に説明する実施形態は、それぞれ、既知の固定位置M
2を有する1つのセンサ(例えば、マイクロフォン)と、円形の経路に沿って移動する1つ以上のセンサとを使用する。本実施形態では、例えば、円形又は螺旋状の動きが時間に依存する位置M
1(t)で記述される移動マイクロフォンが考えられる。ただし、軌跡M
1(t)は必ずしも円形や螺旋状の軌跡に沿って走る必要はない。しかし、円軌道や螺旋軌道の場合には、角度センサ(回転角度エンコーダ)を用いて瞬時位置M
1(t)を比較的容易に求めることができる。
【0040】
この方法の入力変数としては、以下の変数が考えられる。すなわち、(i)固定センサの位置M2を原点とする座標系に対して空間座標で記述された再構成点R、(ii)移動する第1のセンサのセンサ信号(マイクロフォン信号p1(t))と静止する第2のセンサのセンサ信号(マイクロフォン信号p2(t))、(iii)固定センサの位置を原点とする座標系に関連する空間座標で記述された移動する第1のセンサの移動量M1(t)、(iv)アパーチャの完全な走査(例えば、円軌道上に案内されたセンサによる1回転)によって定義され、周波数領域への変換のための時間信号の時間窓を決定する観測時間T、(v)観測された周波数帯域[F1,F2]である。
【0041】
第1のステップでは、時刻点t=0における移動センサの時間信号p
1(t)は、値τ
1=d(R,M
1)
t=0/cで、再構成点Rへ時間的にバックプロパゲートされる(時間的に逆にシフトされる)。ここで、「d(R,M
1)」は再構成点Rと移動センサの位置との間の距離であり、「c」は観察される媒体中の外乱の伝搬速度(音速)である。第2のステップでは、時間信号p
1(t+τ
1)は、遅延2τ
1-δ
1を有する可変時間フラクショナル遅延フィルタによって時間的にシフトされる。時間変動可能な遅延時間δ
1=τ
1+δτ(M
1)は、再構成点Rから移動センサの位置M
1まで、考慮された媒体中の音響擾乱が必要とする時間差を示している。δτは、移動マイクロフォンM
1の位置の関数である。第3のステップでは、第1のステップと同様に、時間信号を再構成点Rに(値τ
1だけ)時間的に遡って伝搬させる。結果として得られる時間信号p^
1(t)は、仮想音源(モノポール音源)から再構成点Rで放射される音響信号を表し、この時間信号p
1(t)は、最終的に、第4のステップで、時間遅延t
2=d(R,M
2)/Cで静止センサの位置M
2へフォーワードプロパゲート(時間的に前方にシフト)される。ここで、d(R,M
2)は、再構成点Rと静止センサの位置との間の距離を表す。なお、本明細書において記述されるp^
1(t)は、
【数1】
を示すものとする。再構成点Rの実際に放射する音源の場合、第1のセンサの動きM
1によって引き起こされる時間可変ドップラーシフトが補正される。したがって、結果として得られる時間信号p
-
1(t)は、再構成点Rの放射源の場合、移動センサの時間信号p
1(t)の静止センサの位置M
2への空間マッピングである。なお、本明細書において記述されるp
-
1(t)は、
【数2】
を示すものとする。再構成点Rから離れた実際の放射源からの時間信号の寄与により、追加の時間可変ドップラーシフトを経験する。
【0042】
時間信号p
2(t)およびp
-
1(t)を使用して、周波数領域で、コヒーレンス推定値
【数3】
(以下、C
p2p-
1(f)とも記載する)は、スペクトルパワー密度関数
【数4】
(以下P
p2p2(f)とも記載する)と
【数5】
及び、スペクトルクロスパワー密度関数
【数6】
に基づいて以下のように決定される。
【数7】
推定されたコヒーレンス
【数8】
に、スペクトルパワー密度関数
【数9】
が乗算され、
【数10】
に従って観測された周波数帯域(考慮された周波数帯域の下位周波数F
1と上位周波数F
2で定義される)の積分によって評価される。このようにして定義された値Qは、周波数帯域[F
l,F
2]において再構成点Rから放射される放射源の、固定センサの位置M
2で測定された信号パワーへの寄与に対応する。この寄与は、基準点M
2(固定マイクロフォンの位置)における信号パワーに関連しており、例えば、dBで表すことができる。
【0043】
図1は、空間内の再構成点Rにおける音源強度の再構成を示しているが、この概念を任意の形状の
面に拡張することは、
面を多数の再構成点に空間的に離散化し、それぞれの離散的な再構成点における音源強度を計算することによって達成される。次に、再構成点における計算された音源強度の画像は、空間的な割り当てを可能にするために、光学的に記録された(例えば、カメラによって)測定シーンの画像に重ね合わせることができる。一実施形態では、再構成点が位置する
面は、例えば、移動マイクロフォンが回転する回転軸に垂直であり、固定マイクロフォンから定義された、予め定められた距離に位置する画像平面であり得る。
【0044】
図2は、1つまたは複数の音源を有する測定シーンにおける音源の位置特定およびそれらの強度のマッピングをするためのシステムを示している。このシステムは、可動フレーム構造100として構成された装置と、それに接続された固定データ処理装置とを含み、これは、カメラ21を備えたモバイルデバイス20(例えば、スマートフォンまたはタブレットPC)であり得る。また、有線または無線の通信リンクを介してデータを受信して送信したり、画像を表示したりすることができる他の種類のデータ処理装置を用いてもよい。
【0045】
一実施形態によれば、フレーム構造100は、(静止した)軸54(回転軸Aを有する軸54)について回転可能に取り付けられている。回転の中心、すなわち回転軸A上には、上述した固定マイクロフォン11(位置M2)が配置されている一方、フレーム構造100の長手方向に沿って、複数(例えば、電子的に多重化された)のマイクロフォン10が配置されている。フレーム構造100の前述の長手軸は、回転軸Aに直交している。このため、フレーム構造100が軸54の周りを回転するとき、マイクロフォン10が回転軸Aの周りの円形経路上を移動する。また、フレーム構造100に、マイクロフォン10、11が接続される電子ユニット40を配置し得る。また、固定軸54の代わりに、回転軸Aを有する回転可能な軸を用いることもできる。
【0046】
エネルギー供給のために、電子ユニット40は、電子ユニットの残りの部品に電圧を供給するバッテリ49を有し得る。充電ユニット44は、バッテリ49を充電するために使用される。ただし、他の形式の電源も可能である。
図2に示される例によれば、電子ユニット40は、(i)回転軸Aに対するフレーム構造100の角度位置を決定するための(例えば、磁気的または光学的な)回転角度エンコーダ16、(ii)固定マイクロフォン10及び移動マイクロフォン11のセンサ信号p
2(t)及びp
1(t)をアナログ的に前段増幅するためのマイクロフォンアンプ41、(iii)マイクロフォン10、11のセンサ信号と回転角エンコーダ16のセンサ信号をデジタル化して記憶するためのデータ収集装置(アナログ/デジタル変換器42、メモリ46)、(iv)データ収集装置に接続された移動マイクロフォン10を選択するための電子マルチプレクサ45、(v)測定データの更なる処理またはユーザによる分析を目的として、記憶されたデータをモバイルデバイス20に無線送信するためのモジュール47、をさらに備える。マイクロコントローラ43は、マルチプレクサ45、アナログ/デジタル変換器42、データの流れ、データ送信を制御する。また、移動マイクロフォンの空間座標M
1(t)を取得するためのセンサシステムとして、角速度センサと3軸加速度センサとを有するシステムや、動きを直接取得するためのモーショントラッキングシステムなど、他のセンサシステムを用いることもできる。
【0047】
カメラ21を内蔵したモバイルデバイス20は、その光軸が回転軸Aと平行に配置されており、デジタル化された測定データを電子ユニット40から無線手段で受信し、無線ネットワーク接続を介して例えばクラウドコンピューティングサービスに送信して、
図1を参照して上述した手順に従って音響画像を算出し、(クラウドコンピューティングサービスによって)算出された結果を、カメラ21によって撮影された、音源が含まれている測定シーンの光学画像と重ね合わせて表示する。計算はクラウドコンピューティングサービスにアウトソーシングされており、モバイルデバイスの消費電力を軽減し、連続測定の場合にはデータを継続的かつ持続的に保存し、適切なアクセス権を持つ他のユーザのためにデータへのアクセスを簡素化し、任意の測定・制御技術システムへのセンサのウェブベースの統合を可能にしている。また、計算能力のアウトソーシング先は、必ずしもクラウドコンピューティングサービスである必要はなく、計算は、モバイルデバイス20に接続された他の任意のコンピュータ(例えばワークステーション)によっても行うことができる。
【0048】
フレーム構造100の回転は、手動または電気駆動装置30(電動モータ)によって行うことができる。代替手段として、機械的なバネ機構による駆動も可能である。示された例では、駆動装置30の動力伝達は、フレーム構造100に固定的に連結され、車軸54に回転可能に取り付けられた駆動輪31を介して実現される。車軸54と駆動装置30は、例えばホルダ22に取り付けられて固定されいている。駆動輪31は、例えば電動モータのモータ軸に設けられたピニオン32を介して駆動される。ホルダ22には、バッテリを含む電動モータ30を制御するためのコントローラ、または外部電源のための接続部が組み込まれている。ホルダ22は、例えば(カメラにも使用されるような)三脚に載せることができる。
【0049】
一実施形態では、フレーム構造100のハウジング13(すなわち外側カバー)は、空気力学上の翼12の形状の(フレーム構造100の長手方向軸に垂直な方向の)断面を有し得る。これにより、フレーム構造体100の回転運動に起因する空気音源が発生しないか、あるいは少なくともその発生が大幅に低減されるという利点がある。本実施形態では、4つのマイクロフォン10がフレーム構造100に取り付けられ、フレーム構造100と共に回転する。上述したように、マイクロフォン11は、回転軸上の位置に配置されているため、その位置は変化しない。マイクロフォン10、11は、フレーム構造100の長手方向に沿って配置されており、これにより、隣接する2つのマイクロフォン間の距離は、それぞれの場合において同じであり得る(必ずしもそうである必要はない)。図示の例では、可動マイクロフォン10はフレーム構造100の一方の側に配置され、電子ユニット40及びバランスウエイト17はフレーム構造100の他方の側に配置されている。バランスウェイト17は、それ自体が非対称であるフレーム構造100が、回転軸Aの周りの回転の際にアンバランスとならないように寸法が決めされ、配置され得る。また、フレーム構造が対称構成であっても、フレーム構造100に取り付けられた部材の質量が回転軸に対して対称ではないため、通常はバランスウェイト17が必要である。
【0050】
図2に示す例によれば、マイクロフォン10、11は、弾性マウント15を介してフレーム構造体100に取り付けられている。弾性マウント15は、マイクロフォン10、11をフレーム構造100から機械的に切り離し、例えば駆動装置30または回転ベアリング50によって引き起こされるマイクロフォンへの振動の伝達を防止するのに役立ち得る。換言すれば、マイクロフォン10、11の弾性的で振動減衰性を有するマウントにより、構造物を媒介とした音のマイクロフォンへの経路が遮断されることになる。示された例では、フレーム構造体100の移動に伴う風切り音と他の空気音響源からの信号とがセンサ信号へ結合することを抑制するために、マイクロフォン10、11を覆うウインド防護部材14をフレーム構造体100のハウジング13に設けてもよい。これらのウインド防護部材14の使用は、用途に応じて任意である。
【0051】
要約すると、
図2に示した実施形態の機能を以下のように説明することができる。フレーム構造100が軸Aの周りに回転する際に、固定マイクロフォン11の位置は変わらない一方、別のマイクロフォン10は円軌道を移動する。マイクロフォン10、11は、音源から発せられる音波を音圧の形で検知し、回転角エンコーダ16は、移動するマイクロフォン10の空間座標を検知する。空間座標は、フレーム構造100の角度位置と、フレーム構造100に対するマイクロフォン10の(固定された)位置とによって定義される。受信したセンサ信号は、電子ユニット40で受信され、デジタル化されて移動体ユニット20に送信される。以上説明したように、自身で、受信した測定データから被測定物に存在する音源の音源強度を算出してもよいし、外部の計算装置に計算をアウトソーシングしてもよい。光学カメラ画像に対する音源とその音源強度の視覚的な表現と割り当てを得るために、カメラ21は、計算された音源強度を重ね合わせる、測定対象の物体(または複数の物体)の光学画像をキャプチャする。例えば、この光学画像を白黒で記録し、画像中の音源強度を色分けしてもよい。
【0052】
図3は、測定対象物上の音源の位置を特定し、画像化するためのシステムの別の実施形態を示す図である。
図3に示すシステムは、フレーム構造200の構成においてのみ、
図2に示すシステムとは異なる。円形の経路に沿って移動可能な4つのマイクロフォン10の代わりに、本実施形態では、半径方向(その長手方向軸に沿って)に移動可能(スライド可能)なようにフレーム構造200に取り付けられた1つの移動可能なマイクロフォン10のみが設けられている。このようにして、マイクロフォン10と回転軸との間の距離(つまりマイクロフォン10の円運動の半径)を変化させることができる。マイクロフォンの別の配置、特に複数のスライド式に取り付けられたマイクロフォン10を備えた配置も同様に可能である。
【0053】
フレーム構造200が回転している間に、マイクロフォン10と回転軸Aとの半径方向の距離を変化(増減)させることにより、マイクロフォン10は、回転軸Aを中心とした螺旋運動を効果的に行うことができる。マイクロフォン10と回転軸Aとの間の距離(すなわち、フレーム構造200に対するマイクロフォン10の位置)の調整は、例えば、ケーブル牽引装置60によって達成され得る。フレーム構造200に取り付けられ、直線的に移動可能(スライド可能)なマイクロフォンホルダ65に、ケーブル61が接続され得る。この目的のために、フレーム構造200は、例えば、2つのガイドロッド62を有することができ、この2つのガイドロッド62は、フレーム構造の長手方向軸と実質的に平行に配置され、マイクロフォンホルダ65がその2つのガイドロッド62に沿って移動可能(スライド可能)である。このようにして、ガイドロッド62は、マイクロフォンホルダと共にマイクロフォン10のためのリニアガイドを形成する。示された例では、ケーブル61は、複数の偏向ローラ63及び車軸54に固定的に連結された滑車66の周りにガイドされる。示された例では、ケーブルは、(中空の)ガイドロッド62の1つを部分的に貫通している。
【0054】
フレーム構造200が固定軸54の周りを回転されるとき、ケーブル61は、滑車66の円周で巻き戻され、これは、マイクロフォンホルダ65の変位をもたらし、その結果、マイクロフォン10のほぼ螺旋状の動きをもたらす。その際に、移動するマイクロフォン10の半径方向の位置は、フレーム構造の測定された角度位置に明確に関連付けられており、フレーム構造の各々の全回転で、マイクロフォンは、滑車
66の円周に対応する距離だけ変位(スライド)する。フレーム構造は、先行する実施形態と同様にハウジング213を有し、ハウジング213は、ケーブル61、偏向ローラ63、滑車
66、ガイドロッド62、マイクロフォンホルダ65からなるケーブル牽引装置60を取り囲み、マイクロフォン10のための細長い開口部(スロット)を有する。それ以外は、
図3に示す構成は、
図2の構成と同じである。
【符号の説明】
【0055】
10…第1のマイクロフォン
11…第2のマイクロフォン
14…ウインド防護部材
16…位置センサ、回転角度センサ
17…バランスウエイト
20…デバイス
45…電子マルチプレクサ
49…電力供給装置
54…軸
100、200…フレーム構造
A…回転軸
M2…基準位置
R…再構成点