(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】多重エマルジョン、その製造方法、並びに食品、化粧品、及び医薬品における用途
(51)【国際特許分類】
A23D 7/005 20060101AFI20240521BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240521BHJP
A61K 9/113 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
A23D7/005
A23L5/00 L
A61K9/113
(21)【出願番号】P 2021532212
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 US2019061475
(87)【国際公開番号】W WO2020117447
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-09-05
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514112710
【氏名又は名称】ジェネラル ミルズ インコーポレーテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】514058706
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ボルドー
(73)【特許権者】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】513277212
【氏名又は名称】アンスティチュ ポリテクニーク ドゥ ボルドー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】ジョイビエ,リュシー
(72)【発明者】
【氏名】フォーレ,クリステル
(72)【発明者】
【氏名】レアル・サルデロン,フェルナンド
(72)【発明者】
【氏名】シャウデマンシュ,シリル
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-175475(JP,A)
【文献】Food Res. Int.,2015年,vol.67,pp.366-375
【文献】J. Am. Oil Chem. Soc.,1999年,vol.76,pp.383-389
【文献】Chem. Eng. J.,2015年,vol.263,pp.412-418
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00-7/06
A23L 5/00
A61K 9/113
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
P1/O/W2を含む又はP1/O/W2から成る多重エマルジョンであって、P1は、液滴を形成する水相又は気泡を形成する気相であり、前記液滴又は気泡がO中に分散されることで
一次P1/O
二重相を形成しており、Oは、結晶を含む油相であり、
前記結晶は前記一次P1/O二重相を安定化し、W2は、少なくとも1つの親水性界面活性剤を含む水相であり、W2中にP1/O小滴が形成されており、前記油相Oは、前記O相の質量に対して、少なくとも90質量%のトリグリセリドを含み、
添加された親油性界面活性剤を含まない、多重エマルジョン。
【請求項2】
P1/Oが、内在性のトリグリセリド結晶の存在により安定化されている、請求項1に記載の多重エマルジョン。
【請求項3】
P1/O/W2を含む又はP1/O/W2から成る多重エマルジョンであって、P1は、液滴を形成する水相又は気泡を形成する気相であり、前記液滴又は気泡がO中に分散されることでP1/Oを形成しており、Oは、結晶を含む油相であり、W2は、少なくとも1つの親水性界面活性剤を含む水相であり、W2中にP1/O小滴が形成されており、前記油相Oは、前記O相の質量に対して、少なくとも90質量%のトリグリセリドを含み、
P1が、気相であり、空気、又は窒素を含むガスである、
多重エマルジョン。
【請求項4】
水性液滴P1の平均径が1μm乃至10μmの範囲内であり、ガス気泡P1の平均径が5μm乃至20μmの範囲内であり、または、脂肪小滴の平均径が5μm乃至100μmの範囲内である、請求項1に記載の多重エマルジョン。
【請求項5】
多重エマルジョンを製造するための方法であって、前記多重エマルジョンは、P1/O/W2で表され、P1は、液滴を形成する水相又は気泡を形成する気相であり、前記液滴又は気泡がO中に分散されることでP1/Oを形成しており、Oは、結晶を含む油相であり、W2は、P1と同一の又は異なる水相であり、前記組成物は、前記多重エマルジョンの全質量に対して5質量%未満の内在性親油性界面活性剤を含み、
前記多重エマルジョンは添加された親油性界面活性剤を含まず、前記プロセスは、以下の工程、
P1を、Oが結晶を含有する温度でO中に分散して、一次P1/O二重相を得る工程であって、前記結晶が前記一次P1/O二重相を安定化する、工程、
P1/Oを、Oが結晶を含有する温度で、1又は複数のタンパク質を含有するW2中に分散して、P1/O/W2多重エマルジョンを得る工程、
を含む、方法。
【請求項6】
P1/Oが、内在性のトリグリセリド結晶の存在により安定化されている、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記P1/O/W2多重エマルジョンが、Oが結晶を含有する条件下で保存される、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の多重エマルジョンを含む組成物。
【請求項9】
組成物を製造するための方法であって、前記方法は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の多重エマルジョン、又は請求項5乃至7のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる多重エマルジョンをベース組成物に組み込んで前記組成物を形成することを含む、方法。
【請求項10】
請求項8に記載の組成物を含有するパッケージ。
【請求項11】
前記油相の結晶含有量は、10~40%である、請求項1に記載の多重エマルジョン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重エマルジョンに関し、詳細には、二重エマルジョンに関する。
本発明は、食品組成物、化粧品組成物、及び医薬品組成物で使用するための多重エマルジョンに関する。
【0002】
本発明は、そのような多重エマルジョン及びそれを含有する組成物を製造するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
多重エマルジョン、特に水中油中水型(W1/O/W2)は、小さい水性液滴を含有する油小滴の複合液体分散体であり、食品、医薬品、又は化粧品などの多くの産業用途において高い関心を集めている。添加剤の種類を低減した製剤及び/又は添加剤の濃度を制限した製剤が、強く求められている。
【0004】
W1/O/W2は、内部の水相が親水性化合物を閉じ込めることができることから、医薬品又は化粧品などの産業用途において高い可能性を有している。二重エマルジョンは、したがって、薬物のカプセル化と隔離、放出制御、及び標的化送達に用いられ得る。食品分野においても多くの用途が考えられ得る。W1/O/W2型の多重エマルジョンは、香気及び風味の閉じ込めと放出制御、プロバイオティクスの保護、矯味、並びに油小滴中に水性部分を含むことによる食品中の脂肪含有量の低減のために用いられ得る。
【0005】
実際の用途のほとんどでは、長期的な動力学的安定性が求められる。二重エマルジョンは、一般的に、溶解性が反対である2つの乳化剤(水溶性(親水性)及び油溶性(親油性))を用いて製造される。両方の乳化剤は界面で混合し、合体に関する膜の安定性は、二成分混合物の組成によって決まる。合体は、i)小さい内部液滴間で、ii)油小滴間で、及びiii)外相と小滴内に分散した内部液滴との間で発生し得る。
【0006】
最初は、内部水性液滴は、カプセル化化合物(EC)を含有し、外相は、浸透圧調節剤(OR)を含んでいる。濃度勾配のために、両溶質は、油相を通って一方の区画から他方の区画へ移動する傾向にある。水の移動は、群を抜いて最も速いプロセスであることから、2つの区画の浸透圧平衡は、恒久的に確保される。EC及びORの輸送は、一般に異なる速度で発生することから、浸透圧調節プロセスは、連続的な水の流動を誘導し、内部及び外部の体積を変動させる。多重エマルジョンの様々な用途において、水の輸送が極めて重要であり得る。例えば、内部液滴の膨潤は、有効小滴分率を増加させて、二重エマルジョンのレオロジー性に著しい変化を起こし得る。
【0007】
二重エマルジョンに関する先駆的な研究が、低分子量界面活性剤の存在下で行われた。そのような物質に固有の不安定性、すなわち、素早い合体及び拡散のために、実行可能な技術的開発は妨げられた。両親媒性ポリマー、タンパク質、及び固体コロイド粒子を用いた最近の研究から、合体を阻害可能であること、及び拡散輸送を著しく遅延させることができることが明らかとなっている。
【0008】
持続可能でラベルフレンドリーな(label-friendly)成分から二重エマルジョンを製剤すること、及び消費者の要求を満たすために添加剤の種類を減らすことが、依然として関心を集めている。食品関連用途で遭遇する主要な問題点の1つは、W/Oエマルジョンを効率的に安定化させるのに利用可能である食品グレードの乳化剤が存在しないことである。最も広く用いられている親油性乳化剤は、ポリリシノール酸ポリグリセロール(PGPR)である。この乳化剤は、トリグリセリド油で作製されたW/Oエマルジョンの安定化に対して非常に有効である。しかしながら、その使用は、多くの食品製品に対して厳しく規制されている。さらに、その存在は、W/Oエマルジョンの有効な長期的安定性のために通常必要とされるレベル(すなわち、2~10重量%)で組み込まれた場合、不快な異味として容易に感知される。その結果、PGPRの使用は、食品産業における二重エマルジョンの実施に対する主たる技術的課題の1つである。最近、多重エマルジョン中のPGPRの量を低減するためのいくつかの取り組みが、特に、油/水界面でPGPRと相互作用を起こしてカプセル化された種の収率を増加することができるカゼイン、アルギン酸カルシウム、アラビアゴム、又は乳清タンパク質などの親水コロイドを内部液滴に組み込むことによって行われた。Frasch-Melnik, S., Spyropoulos, F., & Norton, I.T. (2010) (W1/O/W2 double emulsions stabilized by fat crystals-formulation, stability and salt release. Journal of Colloid and Interface Science, 350(1), 178-185, https://doi.org/10.1016/j.jcis.2010.06.039)は、PGPRの使用を回避する代替戦略を提案した。ヒマワリ油をベースとし、脂肪結晶を含有するW1/Oエマルジョンが、カゼインナトリウムを含有する水相に組み込まれて、動力学的に安定なW1/O/W2二重エマルジョンが作製された。W1/O一次エマルジョンは、モノグリセリド及びトリグリセリドの結晶「殻」によって安定化された。この二重エマルジョンの保存条件下での安定性が、経時でモニタリングされた。一次エマルジョンのW1相中にカプセル化されたKClは、W2連続水相へゆっくり放出された。さらに、保存中に油小滴の部分的な合体が観察された。そのような組成物の安定性は、したがって、さらに改善される必要がある。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、上記に挙げた欠点の1又は複数を克服する多重エマルジョン、典型的には二重エマルジョンを提供する技術的課題を解決することである。
本発明の目的は、食品グレードの乳化剤のみを含む多重エマルジョン、典型的には二重エマルジョンを提供する技術的課題を解決することである。
【0010】
特に、本発明の目的は、PGPRを含まない、より一般的には添加された親油性界面活性剤を含まない多重エマルジョン、典型的には二重エマルジョンを提供する技術的課題を解決することである。
【0011】
特に、本発明の目的は、食品組成物、化粧品組成物、又は医薬品組成物で使用するための、多重エマルジョン、典型的には二重エマルジョンを提供する技術的課題を解決することである。
【0012】
本発明の目的はまた、組成物中の脂肪を低減させる多重エマルジョン、典型的には二重エマルジョンを提供する技術的課題を解決することである。
本発明の目的は、組成物の感覚刺激特性に負の影響を与えない多重エマルジョン、典型的には二重エマルジョンを提供する技術的課題を解決することであり、特に、そのような二重エマルジョンを含有する組成物の味に負の影響を与えない多重エマルジョン、典型的には二重エマルジョンを提供する技術的課題を解決することである。
【0013】
本発明の目的は、安定な、より具体的には、W1とW2との間の浸透圧の不適合に充分に耐える、多重エマルジョン、典型的には二重エマルジョンを提供する技術的課題を解決することである。
【0014】
本発明の目的は、1又は複数の活性成分をカプセル化し、その放出を制御する多重エマルジョン、典型的には二重エマルジョンを提供する技術的課題を解決することである。
本発明の目的は、そのような多重エマルジョン、典型的には二重エマルジョンを製造するためのプロセスを提供する技術的課題を解決することである。
【0015】
特に、本発明の目的は、食品産業、典型的には食品組成物の製造における上記に挙げた技術的課題を解決することである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、30重量%の水性液滴を含有するW1/Oエマルジョンにおける、(a)純水(0℃)及び(b)鹹水溶液(-5℃)で急冷した場合の温度の変化を示す。温度は、エマルジョン中に入れた熱電対を用いて記録した。
【
図2】
図2は、無水乳脂肪(AMF)中に分散された0.5mol.L-1のNaCl水相を30重量%含有する一次W1/Oエマルジョンの、(a)T=-5℃及び(b)T=0℃の冷却浴で処理した後の顕微鏡画像を示す。
【
図3】
図3は、外部水相中の12重量%のNaCASによって安定化された、30重量%のW1液滴を含有するW1/O小滴の30重量%から最初は構成される二重エマルジョンにおいて、適用されたせん断速度によるサイズ分布の変化を示す。
図3は、2つの限界せん断速度(1050s
-1(b)及び7350s
-1(a))で得たエマルジョンの顕微鏡画像を含む。エマルジョンは、観察しやすいように、等張性D-グルコース溶液で希釈した。
【
図4】
図4は、外部水相中の12重量%のNaCASによって安定化された、30重量%のW1液滴を含有するW1/O小滴の30重量%から最初は構成される二重エマルジョンにおいて、適用されたせん断速度による体積平均径の変化を示す。ドットは、3つの異なるサンプルからの測定値の平均値±SDである。
【
図5】
図5は、外部水相W
2、及び異なる内部液滴分率でのW
1/Oエマルジョンの流動曲線を示す。
【
図6】
図6は、12重量%のNaCASを含有する水相中に分散されたW
1/O小滴の30重量%から最初は構成される多重エマルジョンにおける、初期内部液滴分率による平均小滴径の変化を示す。適用されたせん断速度は、5250s
-1であった。ドットは、3つの異なるサンプルからの測定値の平均値±SDである。
【
図7】
図7は、12重量%のNaCASの水相中に分散された、30重量%のW
1液滴を含有するW
1/O小滴の30重量%から最初は構成される多重エマルジョンにおいて、適用されたせん断速度の関数としてのカプセル化収率の変化を示す。ドットは、3つの異なるサンプルからの測定値の平均値±SDである。
【
図8】
図8は、12重量%のNaCASの水相中に分散されたW
1/O小滴の30重量%から最初は構成される多重エマルジョンにおいて、最初の内部液滴分率の関数としての最終内部液滴分率の変化を示す。適用されたせん断速度は、5250s
-1であった。点線は、目安のガイド線である。
【
図9】
図9は、30重量%のW
1液滴を含有するW
1/O小滴の30重量%から最初は構成され、5250s
-1でせん断処理された多重エマルジョンにおいて、4℃で保存した場合のカプセル化収率の測定値を示す。
【
図10】
図10は、外部水相の12重量%のNaCAS中に分散された、30重量%のW
1液滴を含有するW
1/O小滴の30重量%から最初は構成される多重エマルジョンの安定性実験を示す:(a)希釈なし;(b)0.8mol.L
-1のD-グルコースを含有する水相中に3倍希釈。画像は、21日間の保存期間後に得た。
【
図11】
図11は、(a)純水及び(b)等張溶液で10倍希釈したエマルジョン1及び2を示す。観察は、2時間の保存後に行った。
【
図12】
図12は、12重量% NaCASの水相中に分散された、30重量%のW
1液滴を含有するW
1/O小滴の30重量%から最初は構成される多重エマルジョンを示す。用いた油相は、(a)カカオバター;(b)パーム油;(c)ココナッツ油である。エマルジョンは、観察しやすいように、等張性D-グルコース溶液で希釈した。
【
図13】
図13は、5分間の泡立て時間後の温度の関数としてのオーバーランの変動を示す。点線は、目安のガイド線である。
【
図14】
図14は、20℃での時間の関数としてのオーバーランの変動を示す。点線は、目安のガイド線である。
【
図15】
図15は、Couetteセル中での微細化工程前後のA/Oフォームの顕微鏡画像を示す。
【
図17】
図17は、3150s-1でせん断処理したA/O/Wエマルジョンの顕微鏡画像及び対応するサイズ分布を示す。
【
図18】
図18は、A/O/W多重エマルジョンの脂肪小滴の体積平均径に対するせん断速度の影響を示す。ドットは、少なくとも4つのサンプル測定値の平均値である。
【
図19】
図19は、多重A/O/Wエマルジョンの顕微鏡画像を示す。
【
図20】
図20は、Couetteセル中、異なるせん断速度で得た多重エマルジョンにおける脂肪液滴中の空気のカプセル化収率の定量を示す。
【
図21】
図21は、4℃で1日保存した後の多重液滴の部分的な合体を示す。
【
図22】
図22は、Couetteセル中、3150s
-1で得たA/W/O二重エマルジョンの、(a)t=0、(b)t=15日、(c)t=1ヶ月での顕微鏡画像を示す。
【
図23】
図23は、ヨーグルト中の二重エマルジョン構造のW
1/Oエマルジョンのサイズ分布及び顕微鏡画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、上記に挙げた技術的課題に対するソリューションを提供する。
より詳細には、本発明は、P1/O/W2を含む又はP1/O/W2から成る多重エマルジョンに関し、P1は、液滴を形成する水相又は気泡を形成する気相であり、前記液滴又は気泡がO中に分散されることでP1/Oを形成しており、Oは、結晶を含む油相であり、W2は、少なくとも1つの親水性界面活性剤を含む水相であり、W2中にP1/O小滴が形成されており、前記油相Oは、O相の質量に対して、少なくとも90質量%、好ましくは少なくとも92質量%、さらに好ましくは少なくとも95質量%のトリグリセリドを含む。
【0018】
そのような多重エマルジョンは、多重エマルジョンを製造するためのプロセス又は方法によって得ることができ、前記多重エマルジョンは、P1/O/W2で表され、P1は、液滴を形成する水相又は気泡を形成する気相であり、前記液滴又は気泡がO中に分散されることでP1/Oを形成しており、Oは、結晶を含む油相であり、W2は、P1と同一の又は異なる水相であり、前記組成物は、多重エマルジョンの全質量に対して5質量%未満の内在性親油性界面活性剤を含み、前記プロセスは、以下の工程:
- P1を、Oが結晶を含有する温度でO中に分散して、一次P1/O二重相を得る工程であって、有利には、前記結晶が一次P1/O二重相を安定化する、工程、
- P1/Oを、Oが結晶を含有する温度で、1又は複数のタンパク質を含有するW2中に分散して、P1/O/W2多重エマルジョンを得る工程、
を含む。
【0019】
本発明者は、そのようなプロセスが、必要とされる特性を有する多重エマルジョンの製造を可能にすることを見出した。有利には、本発明の多重エマルジョンは、動力学的に安定である。
【0020】
有利には、本発明に従う多重エマルジョンは、1%未満の親油性界面活性剤を含む。この条件は、基本的に、本発明に従う多重エマルジョンが、いかなる添加された親油性界面活性剤も含まないことを示唆している。好ましくは、親油性界面活性剤は、油相(O)の製造に用いられる天然油を例とする原材料中に天然に存在するために最終多重エマルジョン中に存在するだけである。脂肪酸、モノ又はジグリセリドなどのそのような内在性の親油性界面活性剤は、それ自体は効率的なW/Oエマルジョン安定化剤ではない。「多重エマルジョンはいかなる添加された親油性界面活性剤も含まない」という表現は、製剤中に外因性の親油性界面活性剤は組み込まれていないことを意味する。典型的には、親油性界面活性剤は、親水性-親油性バランス(HLB)値が10未満の界面活性剤であり、したがって油溶性である。
【0021】
実施形態によると、油相Oは、O相の質量に対して5質量%以下の、好ましくは5質量%未満の脂肪酸、モノグリセリド及びジグリセリドを含む。
1つの実施形態では、前記多重エマルジョンは、飽和モノ又はジグリセリドから成る脂肪結晶を含まない。
【0022】
Frasch-Melnik, S., Spyropoulos, F., & Norton, I.T. (2010)による二重エマルジョンは、外因性の親油性界面活性剤を含有していた。W1相中にカプセル化されたKClの放出は、二重エマルジョン構造を得るために用いられた二次乳化工程の過程で脂肪結晶殻に対して引き起こされた損傷によるものであった。そのような先行技術のエマルジョンでは、6週間後に小滴の部分的な合体が見られた。結晶化可能である油をベースとするO/Wエマルジョンに親油性界面活性剤を組み込むことは、部分的な合体を誘導する可能性がある。この不安定性は、脂肪結晶の存在下で開始される。冷却すると、温められて分散している液滴の、表面張力によって制御されている球形状が、不規則な形状/配向の結晶の形成に起因して、粗く波状の表面へと徐々に変化する。脂肪結晶は、界面付近に形成されると、連続相中に突出して、隣接する液滴間の膜を貫通する場合があり、不可逆的な連結が形成される。この現象は、部分的に固化した液滴の固有の剛性によって形状緩和プロセスが阻止されることから、部分的な合体と称される。本発明は、この技術的課題を克服するものである。
【0023】
1つの実施形態では、本発明に従う多重エマルジョンは、トリグリセリド系の食用脂肪の結晶を含む。
1つの実施形態では、前記多重エマルジョンは、親油性界面活性剤を含まない。
【0024】
本発明において、特に断りのない限り、液滴又はガスの気泡は、O(油相)に分散されたP1相を表し、小滴は、W2中に分散されたP1/Oエマルジョンを表す。
1つの実施形態では、空気又はガスの気泡(P1相)が、O中に分散され、小滴は、W2中に分散されたA/Wフォームを表す。
【0025】
有利には、本発明の多重エマルジョンは、油相O中の液滴及び空気(ガス)気泡を安定化させることができる。
1つの実施形態では、本発明の多重エマルジョンは、二重エマルジョンである。
【0026】
P1相
1つの実施形態では、P1は、液滴を形成する水相である。
1つの実施形態では、P1は、気相であり、空気、又は窒素を含むガスである。
【0027】
有利には、油相中に空気を取り込むことは、化粧品又はパーソナルケア製品などの多くの用途において高い関心を集めている。油フォームは、知覚及びテクスチャ特性を変化させることなく脂肪の摂取量を低減するために、食品産業でも用いられ得る。同時に、現在の傾向は、多くの製剤中において添加剤の種類を低減する方向である。本発明は、特に、添加された親油性界面活性剤を含まない水中油中空気型(A/O/W)多重エマルジョンに関する。
【0028】
好ましくは、水性液滴P1の平均径は、1μm~10μm、好ましくは1μm~5μmの範囲内である。
好ましくは、ガス気泡P1の平均径は、5μm~20μmの範囲内である。
【0029】
好ましくは、脂肪小滴の平均径は、5μm~100μmの範囲内である。
液滴及び小滴の平均サイズは、例2の方法に従って、Mastersizer 2000 Hydro SMによって特定される。
【0030】
ガス気泡のサイズは、ビデオカメラを取り付けた光学顕微鏡を用いた直接イメージングによって特定される。画像が記録され、約350の液滴の寸法が測定されることによって、平均径及び多分散指数の両方を算出することができ:
【0031】
【0032】
式中、Niは、径がDiである液滴の総数である。メジアン径、
【0033】
【0034】
とは、それよりも小さい累積体積分率が50%に等しい径のことである。
好ましくは、多分散指数Uは、0.5未満であり、好ましくは0.4未満である。
1つの実施形態では、P1は、例えば親水性の医薬活性成分又は化粧活性成分、親水性の知覚的活性成分、及びこれらのいずれかの組み合わせから成る群より選択される、親水性活性成分を含む。
【0035】
親水性の知覚的活性成分は、P1に最初から溶解されていて、知覚という観点から有益性を提供する親水性成分として定義され、より詳細には、食品、化粧品、又は医薬品産業の熟練した専門家によって、その知覚的有益性に関して又は知覚特性に対する負の影響を持たないとして認識され得る。例えば、この成分は、食品製品の味覚及び他の知覚特性に対して有害な影響を与えるべきではない。食品製品は、味覚、テクスチャ、色、及び他の知覚特性の変化に対して特に感受性が高いことで知られている。有利には、知覚的活性成分は、食品組成物、化粧品組成物、又は医薬組成物の味覚、テクスチャ、色、及び他の知覚特性に対する有益性を提供する。
【0036】
1つの実施形態では、親水性知覚的活性成分は、食品成分である。
1つの実施形態では、親水性知覚的活性成分は、食品の香りである。
1つの実施形態では、親水性活性成分は、健康上及び/又は栄養上の有益性を提供する化合物である。
【0037】
知覚という観点からの有益性又は負の影響の非存在を特定するための方法は以下の通りであり、この方法は、消費者の嗜好及び許容性に対する製品変更の影響を定性的及び定量的に理解することから成る。定性的観点からは、この方法の目的は、小グループの人々(10人までの消費者)の親水性活性成分に対する感知及び感じ方について知ることである。定量的観点からは、消費者(典型的には100人超)又は専門家のいずれかに、無記名でアンケートに答えてもらい、嗜好、全体的な外観、風味、及びテクスチャに従って、個別に及び連続的に味をみた製品に特異的である知覚的属性のランク付けをしてもらう。
【0038】
二重エマルジョンの製造後、前記活性成分のカプセル化収率は、最初にP1に組み込まれたモル量に対して20~80%である。
油相(O)
好ましくは、Oは、例えば、バター、乳脂肪、無水乳脂肪、獣脂、ラード、ヒツジ脂肪、家禽類脂肪、魚油、カカオバター、パーム油、ココナッツ油、木の実油、マメ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、トウモロコシ油、綿実油、ダイズ油、キャノーラ油、ピーナッツ油、パーム油、パームオレイン、パームスーパーオレイン、パーム核油、藻油、アマニ油、又はこれらのいずれかの組み合わせから成る群より選択される、1若しくは複数の食用脂肪を含む又は1若しくは複数の食用脂肪から成る。
【0039】
食用脂肪は、好ましくは、トリグリセリドから成る群より選択される。
Oは、1若しくは複数の脂肪酸及び/又は脂肪エステルを、典型的には植物油又は動物油由来のものを、含んでよい。
【0040】
1つの実施形態では、Oは、天然植物脂肪及び動物脂肪、所望に応じて構造的に転位していても又はそれ以外で修飾されていてもよい植物脂肪及び動物脂肪から成る群より選択され、これらのいずれかの組み合わせも含む、1若しくは複数のトリグリセリド系食用油(又は脂肪)を含む又は1若しくは複数のトリグリセリド系食用油(又は脂肪)から成る。
【0041】
例えば、Oは、-40℃~+45℃の融点範囲を有するトリグリセリドを含む、又はそのようなトリグリセリドから成る。典型的には、Oは、-40℃~+45℃の融点範囲を有するトリグリセリドの混合物を含む、又はそのようなトリグリセリドの混合物から成る。
【0042】
Oは、様々な入手源からの1又は複数の油(又は脂肪)を含んでよく、例えばそれは、バター、乳脂肪、無水乳脂肪、獣脂、ラード、ヒツジ脂肪、家禽類脂肪、魚油、カカオバター、パーム油、ココナッツ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、トウモロコシ油、綿実油、ダイズ油、キャノーラ油、ピーナッツ油、パーム油、パームオレイン、パームスーパーオレイン、パーム核油、藻油、アマニ油、又はこれらのいずれかの組み合わせから成る群より選択されてよい。
【0043】
1つの実施形態では、Oは、コレステロールを含まない、又はコレステロールが低減されている。
典型的には、Oは、所望に応じて飽和炭素を含んでよい、短鎖脂肪酸(厳密に8炭素未満)、中鎖脂肪酸、及び長鎖脂肪酸(厳密に14炭素超)を含む、又はこれらから成る。例えば、脂肪酸鎖は、12~22個の炭素原子を、典型的には16~20個の炭素原子を含有する。1つの実施形態では、不飽和鎖は、全脂肪酸の20%超であってよい。1つの実施形態では、Oは、オレイン酸を含む。
【0044】
1つの実施形態では、O相は、無水乳脂肪を例とする乳脂肪を含む又は乳脂肪から成る。
無水乳脂肪は、-40℃~+40℃の様々な融点を有するトリグリセリドの複雑な混合物である。典型的には、それは、およそ6%の短鎖脂肪酸(厳密に8炭素未満)、およそ20%の中鎖、及びおよそ72%の長鎖(厳密に14炭素超)から構成され、42%の飽和C16鎖及びC18鎖を含む。1つの実施形態では、不飽和鎖は、全脂肪酸の25~30%(典型的には約27%)であってよく、20~25%(典型的には約22%)のオレイン酸が最も豊富である。
【0045】
有利には、本発明に従って用いられる油は、P1/O/Wエマルジョンを安定化させる結晶をもたらす。
1つの実施形態では、木の実油、マメ油、又はこれらのいずれかの混合物が用いられる。
【0046】
1つの実施形態では、油は、結晶含有量がP1/O/Wエマルジョンを安定化するのに充分となるように、酵素を用いて、特にエステル交換プロセス又は同等のプロセスで変換されてもよい。例えば、そのようなエステル交換プロセス又は同等のプロセスは、木の実油で実行されてよい。
【0047】
好ましくは、一次P1/Oエマルジョンの粘度は、層流条件下でエマルジョンを処理するのに充分に低く維持される。
1つの実施形態では、一次P1/Oエマルジョンの粘度は、粘度試験で示される条件に従って、0.08~1Pa.sの範囲内であり、例えば0.2~1Pa.sである。典型的には、P1/Oの粘度は、AR G2応力制御型レオメータを用いて、例2に従って特定される。
【0048】
有利には、P1/Oは、脂肪結晶の存在によって、保存条件下で安定である。
1つの実施形態では、Oは、P1/O相の全質量に対して、5~60質量%、好ましくは40質量%未満のP1を含む。
【0049】
1つの実施形態では、前記多重エマルジョンは、多重エマルジョンの全質量に対して、5~60質量%、好ましくは10~40質量%のP1/O相を含む。
本発明において、P1が油相O中に分散された水相である場合は、W1/Oと称し、P1が油相O中に分散された気相である場合(P1/Oはフォーム)、A/Oと称する。
【0050】
1つの実施形態では、W1は、全分散相P1/Oの10~60%の範囲内の質量分率に相当する。
1つの実施形態では、Aは、20~40%の範囲内の分率に相当し、パーセントは、全A/Oフォーム体積に対するガスの体積で表される。
【0051】
実施形態では、A/Oは、非水性フォームである。
水性フォームについては広く研究されているが、非水性フォームに関する研究は、依然として先駆的段階である。先行技術(Brun M.; Delample M.; Harte E.; Lecomte S.; Leal-Calderon F. Stabilization of Air Bubbles in Oil by Surfactant Crystals: A Route to Produce Air-in-Oil Foams and Air-in-Oil-in-Water Emulsions. Food Res. Int. 2015, 67, 366-375、など)は、油相中に最初から存在していなかった化合物を添加することによってフォームの安定化が得られることを支持するものである。本発明において、結晶化が可能な油、例えば無水乳脂肪(AMF)を泡立てることによって、油相に外部分子(外因性分子)をまったく添加することなく非常に安定なフォームを得ることが可能であることが見出された。
【0052】
本発明は、新規な種類の製品:水中油中空気(A/O/W)多重エマルジョン、すなわち、水相中の油フォーム、に関する。
W/O/W多重エマルジョンの用途は、典型的には、その熱力学的不安定性によって、特に、保存期間中の望ましくない液滴-小滴合体の傾向によって制限される。この種類のW/O/Wエマルジョンの別の不都合な点は、水性区画間の何らかの浸透圧差によって引き起こされる水の拡散の可能性、及び濃度の不適合に起因する油層を通しての水相から別の水相への親水性化合物の拡散の可能性にある。
【0053】
有利には、本発明のA/O/Wエマルジョンにおいて、浸透圧制御は、問題ではなく、内部気泡の小滴表面上での合体を、空気と水とが不溶性であることから、排除することができる。
【0054】
有利には、A/O/Wエマルジョンは、脂肪の摂取を低減する。
有利には、A/O/Wエマルジョンは、空気の気泡によって得られる大きい音響コントラストに特に起因して、例えば超音波イメージングなどの新規な用途を提供する。
【0055】
W2
1つの実施形態では、親水性乳化剤は、タンパク質、親水コロイド、両親媒性ポリマー、10を超えるHLB値を有すること、すなわち水に対する親和性を有することが好ましい界面活性剤、から成る群より選択される。
【0056】
1つの実施形態では、W2は、少なくとも1つのタンパク質を含む。
タンパク質は、動物由来又は植物由来であってよい。これらとしては、例えば、ウシの乳由来のカゼイン又は乳清タンパク質、及びヒマワリ、ナタネ、ダイズなどの何らかの植物源由来のタンパク質が挙げられる。
【0057】
1つの具体的な実施形態では、W2のタンパク質は、カゼインナトリウム(NaCAS)(典型的にはMw約23300g.mol-1、典型的には3重量%のナトリウムを含有)である。
【0058】
典型的には、W2は、0.1~1Pa.sの範囲内の動的粘度を有する。
W2の粘度は、従来のレオメータを用いて測定することができる。
W2の粘度は、好ましくは、せん断速度が10000s-1である場合に、0.1Pa.s超であるべきである。
【0059】
実施形態では、W2は、ゲル化されている。有利には、ゲル化によって、小滴の浮力によって引き起こされる現象(クリーミング)が回避される。
1つの具体的な実施形態では、本発明は、唯一の乳化剤としてカゼインナトリウムを例とするタンパク質を含むA/O/Wエマルジョンに関する。
【0060】
1つの具体的な実施形態では、本発明は、O相として無水乳脂肪を、及びW2相の唯一の乳化剤としてカゼインナトリウムを例とするタンパク質を含むA/O/Wエマルジョンに関する。
【0061】
有利には、本発明に従う多重エマルジョンは、従来の多重エマルジョンと比較して向上された、以下を含む特性を呈する:
i)カプセル化された種の非常にゆっくりした受動的な解放、
ii)浸透圧ストレス耐性、及び
iii)二重小滴が内部液滴の含有物を加温時に放出可能であることによる、熱応答性。
【0062】
有利には、本発明に従う多重エマルジョンは、カプセル化された活性種を解放することなく、及び小滴が合体することなく、数ヶ月間にわたって安定である。
プロセス
本発明はまた、多重エマルジョン、典型的には二重エマルジョンを製造するための方法にも関する。
【0063】
1つの実施形態では、前記プロセスは以下を含む:
1)P1を、Oが結晶を含有する温度でO中に分散して、一次P1/O二重相を得ること:有利には、前記結晶が一次P1/O二重相を安定化
例えば、そのような分散工程は、活性成分を含む水溶液P1を製造することを含み、必要に応じて、活性成分は水溶液中に溶解される。親水性活性成分を水溶液中に、典型的には水中に溶解するための技術は、当業者に公知である。
【0064】
好ましくは、分散工程の前に、プロセスは、Oを完全に溶融することを含む。
例えば、Oを溶融するための温度T0は、25℃超であり、典型的には、30℃超、40℃超、50℃超、又は60℃超である。
【0065】
好ましくは、溶融後、Oは、脂肪結晶を得るために第一の温度T1で冷却される。
1つの実施形態では、溶融後、Oは、第一の量の脂肪結晶を得るために、T1で冷却され、続いてOは、第二の量の脂肪結晶を得るために、第二の温度T2に加熱される。
【0066】
所望に応じて、Oは、結晶を脱凝集するために、及び粘度を低下させるために、せん断処理される。
1つの実施形態では、固体脂肪(結晶)含有量は、10~40%の範囲内である。固体脂肪含有量は、プロトンNMRを用いて測定することができ、O中の全プロトン含有量に対して表される。
【0067】
1つの実施形態では、第一の固体脂肪含有量は、30~80%の範囲内である。
1つの実施形態では、第二の固体脂肪含有量は、10~40%の範囲内である。
好ましくは、分散工程の前に、プロセスは、水溶液P1をOと同じ又は同等の温度に設定することを含む。次に、好ましくは、P1は、T0又は同等の温度でOに組み込まれる。
【0068】
1つの実施形態では、P1/Oは、次に、冷却浴中に浸漬することによって急冷される。
1つの実施形態では、小さい脂肪結晶を生成させるために、P1/Oの冷却速度が高められる。
【0069】
1つの実施形態では、冷却速度は、-1~-10℃/分の範囲内である。
1つの実施形態では、冷却浴は、0℃の氷水である。
1つの実施形態では、冷却浴は、-5℃を例とする0℃未満の温度の鹹水(食塩水)である。
【0070】
典型的には、O中で脂肪結晶が結晶化する温度よりも低い温度にP1/Oが到達するまで待つ必要がある。
好ましくは、急冷後、P1/Oは、O中で脂肪結晶の結晶化が開始する温度よりも低い温度、例えば20℃で、せん断処理される。
【0071】
P1/Oエマルジョンを製造するためのせん断条件の例は以下の通りであり:系は、乱流条件下で運転されるミキサーを用いて、例えばUltra-Turrax(登録商標)T5により、例えば12000rpmで、第一のP1/Oエマルジョンを得るのに充分な時間、典型的には1~10分間、例えば2分間にわたって運転して、Oの結晶化開始温度よりも低い温度でせん断処理される。
【0072】
本発明によると、プロペラ、ローターステーター装置、及び高圧ホモジナイザーを含む異なる機械的処理が、W1/Oエマルジョンを製造するために実行されてもよい。
A/Oフォームを製造するためのせん断条件の例は以下の通りであり:Oは、IKA RW20モーターで回転する4ブレードのR1342プロペラ撹拌器(IKA)を例とするプロペラを用い、例えば2000rpmで、A/Oフォームを得るのに充分な時間、典型的には5~10分間、例えば5分間にわたって運転して、Oの結晶化開始温度よりも低い温度で泡立てられる。
【0073】
本発明によると、プロペラ又は当業者に公知のいかなる種類の泡立て装置も含む異なる機械的処理が、A/Oフォームを製造するために実行されてもよい。
2)W2中にP1/Oを分散させてP1/O/W2エマルジョンを得ること
この第二の工程は、第一の工程よりもせん断の非常に微細な調整を必要とする。P1/Oの粘度が高いことを考えると、低過ぎるせん断では、系はW2中に適正に分散されない。逆に、せん断が強すぎると、内部相W1又はAの放出が引き起こされる。
【0074】
このため、適用されるせん断は、最適範囲内でなければならない。1つの実施形態では、W2中のP1/Oに適用されるせん断応力は、1000~10000s-1の範囲内である。
【0075】
エマルジョンがせん断流に掛けられる場合、液滴の平衡形状は、2つの無次元量:分散相対連続相粘度比=ηd/ηc及び以下のように定義されるキャピラリー数、によって決まる。
【0076】
【0077】
式中、ηcは、連続相の粘度であり、
【0078】
【0079】
は、適用されるせん断速度であり、σは、油相-水相界面張力であり、Dは、液滴径である(ここでは、小滴の平均径)。キャピラリー数は、粘性応力のラプラス圧、PL=4σ/Dに対する比である。粘性応力は、液滴をフィラメント形状に伸ばす傾向にあり、一方ラプラス圧(界面応力)は、液滴を球形状に縮める傾向にある。せん断速度が増加すると、キャピラリー数も増加し、液滴はだんだんと引き伸ばされてくる。
【0080】
破裂する液滴の平均液滴径は、以下の式で与えられる:
【0081】
【0082】
式(3)に従うと、比較的低いせん断速度で液滴を分離させるためには、連続相の高い粘度が必要である。
1つの好ましい実施形態では、分散相(P1/O)対連続相(W2)粘度比p=ηd/ηcは、0.1~5の範囲内であり、せん断速度
【0083】
【0084】
は、1000s-1~7000s-1の範囲内である。
本発明によると、プロセスは、オレオゲルを形成するための第一の乳化工程を含む。1つの実施形態では、Oは、液体油中に分散された脂肪結晶を含む、又はそれから成る。
【0085】
1つの実施形態では、A/Oは、脂肪結晶を含有するフォームを形成する。
典型的には、適用されるせん断速度を増加させると、小滴のサイズが低下する結果となる。
【0086】
好ましくは、W2中のP1/Oの分散は、Oが結晶を含有する温度で、一次W1/Oエマルジョン又はA/Oフォームを外部水相W2中に撹拌しながら組み込むことによって行われる。
【0087】
好ましくは、W2の浸透圧は、W1相と同じである。有利には、このことによって、水が移動する現象が回避される。
1つの実施形態では、特に浸透圧を適合させるために、グルコースを例とする浸透圧調節剤がW2に添加されてもよい。
【0088】
好ましくは、第二の乳化工程(W2中のP1/O)は、P1/Oを製造した後の30分未満に行われる。
好ましくは、プロセスは、層流条件下で粘性水相W2中のP1/Oをせん断処理することを含む。
【0089】
せん断は、Oが結晶を含有する温度で適用される必要がある。
そのようなせん断は、例えば、2つの同心円状のシリンダーから成り、少なくとも1つのシリンダーが他方に対して回転するようになっているセルで作り出されてよく、Couetteセル(TSR,France;同心円状シリンダーの構成)などである。1つの実施形態では、内部シリンダーが回転し、外部シリンダーは固定されている。この種類のセルの場合、せん断は、1分間あたりの回転数及び2つのシリンダー間の間隔(例えば100~300μm、典型的には200μm)によって定められる。
【0090】
有利には、せん断条件は、せん断の制御を可能とし、分散相の液滴を単分散として、液滴及び/又は小滴のサイズを制御する。
例えば、P1/O/W2に適用されるせん断応力は、1000~10000s-1の範囲内である。
【0091】
間隔の狭い(典型的には100μm)Couetteセルでは、空間的に均質なせん断が確保される。本発明によると、二重エマルジョンは、ローターステーター装置及びプロペラなど、全乳化体積に対して空間的に均質なせん断が適用されるわけではないミキサーを用いて得ることもできる。
【0092】
本発明によると、プロセスは、第二の乳化工程の前に、W2に1又は複数のタンパク質を溶解する工程を含む。
1つの実施形態では、P1は、油相(O)と、界面活性剤を添加せずにOの溶融範囲よりも高い温度で混合され;P1/O系は、脂肪を結晶化するために、撹拌しながらOの結晶化開始温度よりも低い温度まで冷却され、続いてP1/Oエマルジョンは、タンパク質を含有する高粘性外部水相W2中に分散されて、P1/O/W2二重エマルジョンが製造される。
【0093】
有利には、前記P1/O/W2多重エマルジョンは、Oが結晶を含有する条件下で保存される。
そのような保存は、例えば、30℃未満を例とするOが結晶を含有するような温度での保存である。
【0094】
有利には、P1/O系の動的粘度は、層流条件下で材料を処理するのに充分に低い。
有利には、W2中にP1/Oを分散させるためのせん断速度は、1000~10000s-1の範囲内である。
【0095】
組成物を製造するための方法
本発明はまた、組成物を、好ましくは食品組成物、化粧品組成物、又は医薬品組成物を製造するための方法にも関し、前記方法は、本発明で定める多重エマルジョン又は本発明で定める方法によって得ることができる多重エマルジョンをベース組成物に組み込んで前記組成物を形成することを含む。
【0096】
1つの実施形態では、前記組成物は、食品組成物である。
1つの実施形態では、前記組成物は、生の乳製品である。
1つの実施形態では、前記組成物は、生の発酵乳製品である。
【0097】
1つの実施形態では、前記組成物は、ヨーグルトである。
1つの実施形態では、前記組成物は、アイスクリームである。
1つの実施形態では、前記組成物は、発酵植物由来製品である。
【0098】
好ましくは、前記ベース組成物は、低脂肪ベース組成物である。
「ベース組成物」の用語は、本発明の多重エマルジョンを添加して(最終)組成物を形成することができる成分を含む製剤を意味する。
【0099】
1つの実施形態では、本発明の多重エマルジョンは、ヨーグルト又はアイスクリームの製造のためのミックス、特にタンパク質ミックスを形成する。
1つの実施形態では、W1、O、及びW2は、低温殺菌されている。
【0100】
1つの実施形態では、本発明の多重エマルジョンは、発酵されている。
組成物
本発明は、本発明で定める多重エマルジョン又は本発明で定める方法によって得ることができる多重エマルジョンを含む組成物、好ましくは食品組成物、化粧品組成物、又は医薬品組成物に関する。
【0101】
1つの実施形態では、前記組成物は、食品組成物である。
1つの実施形態では、前記組成物は、生の乳製品である。
1つの実施形態では、前記組成物は、生の発酵乳製品である。
【0102】
1つの実施形態では、前記組成物は、ヨーグルトである。
1つの実施形態では、前記組成物は、アイスクリームである。
1つの実施形態では、前記組成物は、発酵植物由来製品である。
【0103】
好ましくは、前記組成物は、低脂肪組成物である。
本発明はまた、本発明に従う組成物を含有するパッケージにも関する。
そのようなパッケージは、例えば、1回分ずつのマルチパッケージ又は大容量パッケージの形態であってよい。
【0104】
1つの実施形態では、パッケージは、ヨーグルト又はアイスクリームの容器である。
実施例
例1 - 本発明に従う二重エマルジョンの製造(W1/O/W2)
例によると、本発明に従う二重エマルジョンの製造は、以下の2つの工程を含んでいた。
【0105】
- 第一の工程、W
1/Oエマルジョン
水相W
1は、0.5mol.L
-1でNaClを溶解することによって製造した。この溶質は、カプセル化収率、放出動態を測定するためのトレーサーとして、及び粗大化現象を回避するための安定化剤としても用いた。無水乳脂肪(AMF)は、T=65℃で完全に溶融し、W1相は、同じ温度に加熱すると、手作業による撹拌下、10~60重量%の範囲内の分率まで油相中に次第に組み込まれた。合計で50gを100mLビーカー中で処理した。次にこの系を、大容量の冷却浴(500mL)にビーカーを浸漬することによって急冷した。一方は0℃の氷水をベースとし、他方は-5℃の10重量%NaCl鹹水溶液をベースとする冷却浴の2つの組成に対応して、2つの異なる急冷条件について実験した。
図1は、2つの異なる冷却浴における、30重量%の水相を含有するエマルジョンの温度の変化を示す。エマルジョンの温度が20℃に達すると、Ultra-Turrax(登録商標)T5ミキサーを用い、12000rpmで2分間運転して系をせん断処理し、最終一次油中水型(W
1/O)エマルジョンを得た。
【0106】
- 第二の工程、W1/O/W2エマルジョン
第一の工程の直後、手作業による撹拌下、20℃で30gの一次W1/Oエマルジョンを70gの外部水相W2に組み込むことによって、粗い多重W1/O/W2エマルジョンを製造した。外部水相は、内部水相W1の浸透圧に適合させるために、及びその結果として水の移動現象を回避するために、12重量%のNaCAS、0.8mol.L-1のD-グルコースから構成した。グルコースの濃度は、Handbook of Chemistry and Physics(Handbook of Chemistry and Physics 98th Edition, 2017)からの表の値を用いて選択した。NaCASの浸透圧への寄与は、その分子質量が高いこと及びナトリウムイオンの量が低減されていること(3重量%)から、無視できる程度であった。
【0107】
プレエマルジョンをCouetteセル(TSR,France;同心円状シリンダーの構成)中の狭い間隔内で20℃でせん断処理することによって、準単分散多重エマルジョンを最終的に得た。半径r=20mmの内部シリンダーが、78.5rad.s-1まで上げることができる選択された角速度ωで回転するモーターによって作動する。外部シリンダーは固定されており、ステーターとローターとの間の間隔は、e=200μmに固定されている。最大角速度では、単純なせん断流条件下で、
【0108】
【0109】
という非常に高いせん断速度に到達可能である。平均多重液滴サイズは、せん断速度を変動させることによって微細に調整した。最終エマルジョンは、4℃で数週間にわたって保存した。
【0110】
例2 - エマルジョンの特性評価
2.1.液滴の特性評価
一次W1/Oエマルジョン及び二重W1/O/W2エマルジョンの両方を、油浸対物レンズ(×100/1.3、Olympus,Germany)及びデジタルカラーカメラ(Olympus U-CMAD3,Germany)を装備した光学顕微鏡Olympus BX51(Olympus,Germany)を用いて観察した。必要に応じて、AMF結晶を可視化するために、顕微鏡に交差偏光の構成を取り入れた。
【0111】
一次W1/Oエマルジョンの液滴サイズ分布は、Malvern Instruments S.A(Malvern,UK)製のMastersizer 2000 Hydro SMを用いて測定した。測定は、乳化直後に行った。静的光散乱データを、ヒマワリ油に対する屈折率1.47及び水相W1に対する屈折率1.34を採用することにより、ミー理論(Mie,1908)を用いてサイズ分布に変換した。サンプル(1mL)をまず、PGPR(ポリグリセロールのポリリシノール酸エステル)を4重量%含有するヒマワリ油(10mL)により、室温で希釈した。次に、希釈したW1/Oエマルジョンの少量を、ヒマワリ油を含有する分散ユニットに撹拌しながら導入した。非常に高い希釈率のために、AMF結晶は完全に溶解し、光散乱シグナルは、PGPRによって安定化された液滴W1によるものだけであった。
【0112】
油小滴の平均サイズを測定するために、1mLのW1/O/W2エマルジョンを8×10-3mol.L-1のSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)溶液10mLで希釈した。この界面活性剤は、エマルジョン液滴を繋げるタンパク質凝集体を解離することができる。次に、光学素子上での発泡及び液滴析出を回避するための1.2×10-5mol.L-1のTween(登録商標)80及び小滴内の液滴W1の浸透圧を適合させるための0.8mol.L-1のD-グルコースの溶液を含有する分散ユニットに、少量のサンプルを撹拌しながら導入した。この場合、小滴が内部の水液滴及び脂肪結晶の存在によって光学的に均質ではないことから、サイズ分布は、フラウンホーファーのモデルを用いて得た。
【0113】
エマルジョンのサイズ分布は、製造直後及び4℃で1週間保存後に分析した。エマルジョンを、式(1)で定義される体積平均径D[4;3]及び多分散指数Uについて特性評価した。
【0114】
2.2.粘度測定
W1/Oエマルジョン及び外部水相W2の粘度は、AR G2応力制御型レオメータ(TA Instruments,Delaware,USA)を用いて別々に測定した。60mm径の円錐平板形状を採用し、円錐角2°、ギャップ56μmとした。サンプルを、20℃で100~5000s-1の範囲で一定増加するせん断応力に掛けた。
【0115】
2.3.示差走査熱量測定(DSC)実験
熱分析を、サンプル容器として密封したアルミニウムパン(0.7mL)を用いて示差走査熱量計(Setaram,micro DSC VII)で実施した。DSC測定は、AMF及び30重量%の分散水性液滴から構成されるW1/Oエマルジョンに対して実施した。エマルジョンを20℃で保存し、その製造後の異なる時間で測定を実施した:t=0分、t=45分、及びt=24時間。サンプルは、まず20℃で5分間保持し、続いて+2℃.分-1で50℃まで加熱した。
【0116】
2.4.導電率測定
第二の乳化工程の過程での及び保存条件下での内部水相(W1)中にカプセル化された溶質(NaCl)を保持する多重エマルジョンの能力を、外部相(W2)に放出された溶質の量を測定することによって評価した。この目的のために、導電率の測定を、Consort C931伝導度計(Consort bvba,Belgium)を用いて室温で行った。まず、6重量%のNaCAS及び異なる濃度のNaClを含有する溶液から検量線を得た。
【0117】
少量の二重エマルジョンを集め、再蒸留水を用いて2倍に希釈した。次に、外部水相から小滴を分離するために、サンプルを、Rotanta 460 RF遠心機(Hettich Lab technology,Germany)を用い、1500g(gは地球の重力定数)で5分間にわたって遠心分離した。導電率測定は、小滴のない浮上分離液に対して行い、塩濃度を検量線から導き出した。適用した遠心分離が、塩のさらなる放出を起こす可能性のある合体現象に繋がっていないことを確認した。この目的のために、遠心分離によって得たクリームを再分散させ、顕微鏡下で観察した。小滴内の内部液滴サイズ及び液滴濃度のいずれも、明らかに変化せずに維持されていた。
【0118】
まず、30重量%の内部水性液滴を含有する一次W
1/Oエマルジョンを、油相に親油性界面活性剤を添加せずに製造した。エマルジョンは、AMFをその融点範囲よりも高い60℃で加熱し、水相を組み込み、激しく撹拌しながら20℃までこの混合物を冷却してオレオゲルを形成することによって得た。20℃でのAMFの平衡固体脂肪含有量は、およそ20%である。この温度において、AMFオレオゲルの粘度は、乳化を促進するのに充分に高かったが、取り扱いが容易であるのに充分に低かった。2つの急冷速度を実行した(
図1を参照)。
【0119】
図2は、得られたエマルジョンの顕微鏡画像、及び対応する水液滴のサイズ分布を示す。最も遅い急冷条件(0℃の氷水を使用)から得たエマルジョンは、平均径D=3.74μmを有しており、最も速い急冷(-5℃の冷却浴を使用)で得られたD=2.15μmよりも大きかった。両エマルジョン共に、それぞれU=0.22及びU=0.26と比較的狭いサイズ分布を有していた。液滴平均径が異なることは、乳化プロセスに対する冷却速度の影響を強調するものである。以降、W
1/Oエマルジョンは、-5℃の鹹水溶液で得た最も速い急冷を用いて形成することになる。エマルジョンは、数週間の保存後にも変動しなかったサイズ分布によって明らかであるように、20℃又は4℃で保存した場合に、動力学的に安定であった。しかし、一次W
1/Oエマルジョンを、油相が完全に溶融する温度である50℃に加熱すると、数時間以内に2つの不混和性相へのマクロ的分離が発生した。この観察結果から、脂肪結晶によってエマルジョンの安定化が確保されていることが分かる。
【0120】
脂肪結晶は、連続相又は界面に存在し得る。脂肪結晶による油連続相エマルジョンの安定化は、したがって、界面で吸着された表面活性結晶によるピッカリング安定化と、結晶ネットワーク中に液滴を物理的に取り込むことによるネットワーク安定化との組み合わせとして述べられることが多い。
【0121】
結晶のサイズ及び形状は、主として、冷却速度及び流動条件によって制御される。
例3 - 多重W1/O/W2エマルジョン
3.1 せん断速度の影響
得られたW1/Oエマルジョンは、経時で硬化し易い粘性のペーストであった。製造したばかりのエマルジョンは、比較的流動性であったが、20℃で数時間後には、それは著しい降伏応力及び硬さを呈した。
【0122】
乳脂肪の結晶化は、不定の多形形態が関与するゆっくりした複雑なプロセスである。急冷の最終温度が13℃を超える場合、準安定性のb’結晶が短時間でまず出現する。続いて、それらは次第に安定なβ形態へと変化する。本発明のW1/Oエマルジョンを、製造直後に偏光顕微鏡下で観察した。偏光顕微鏡により、恐らくはβ’形態と思われる非常に小さい結晶の形成を反映する小さく明るい点が見られた。いくつかのマルタ十字形状(Maltese crosses)も識別可能である。それらは、一般に、球晶状の結晶で、又は界面結晶化を起こしている系で観察される。
【0123】
DSC測定を、30重量%の内部水性液滴を含有するW1/Oエマルジョンに対して、20℃での異なる保存時間:t=0;t=45分;t=24時間の後に行った。サーモグラムの形状は、多形転移が発生した結果として、経時で変化している。
【0124】
第二の乳化工程は、脂肪結晶の著しいいかなる多形変化及び構造変化も回避するために、常にW1/Oエマルジョンの製造後30分未満で行った。この方法により、一次エマルジョンの粘度は、層流条件下で材料を処理するのに充分に低く維持された。いくつかの予備試験を、2つの相(W1/Oエマルジョン及び水相W2)の混合物を、Ultra-Turraxミキサーを12000rpmで2分間運転して激しく撹拌することによって行った。多重エマルジョンが得られたが、乱流混合の結果、内部液滴が著しく放出された。得られたエマルジョンは、多分散であり、小滴の多くの部分は、内部水性液滴を含有していなかった。これらの予備実験から、第二の乳化工程では、多重構造を保存するために、撹拌に関しては穏和な条件が必要であると結論付けた。したがって、高粘性水相において層流条件下でせん断を適用することに基づく別の選択肢としての戦略を採用した。
【0125】
例1に記載の第二の工程後に、多重小滴が得られた。Couetteセル中で適用したせん断は、1050~7350s
-1まで変動させた。
図3は、最初は30重量%の水相液滴を含有するW
1/Oエマルジョンから得た多重小滴のサイズ分布の変化を示し、予想された通り、適用したせん断速度の増加の結果、小滴サイズが低下した。多分散指数Uが比較的低い値(<0.4)であることによって反映されるように、すべてのエマルジョンが、狭いサイズ分布を呈した。
図3では(a/b)、2つの限界せん断速度(1050s
-1(a)及び7350s
-1(b))で得たエマルジョンの顕微鏡画像を報告する。均一なサイズの大きい油小滴が視認され、それらよりも小さい水液滴W
1も区別可能である。適用した分離方法によって、比較的狭いサイズ分布であり、その平均径を適用されるせん断速度によって調節可能である区画化された小滴が良好に製造されると結論付けることができる。
図4は、せん断速度
【0126】
【0127】
の関数としての平均小滴径Dの変化を示す。多分散指数Uを、各実験点の近くに示す。
W1/Oエマルジョン及び連続相W2の粘度を、各相に20℃で100から5000s-1まで一定増加するせん断速度を施すことによって測定した。内部水の分率φ0
iが30重量%よりも大きいエマルジョンでは、測定に再現性がないことが分かった。レオメータの固体表面上での水性液滴の合体現象によって壁スリップ(wall slipping)が発生し、最終的には水性層が形成された。この現象は、液滴分率がより低いエマルジョンでは観察されず、その粘度をより信頼性高く特定することができた。また、Couetteセルに適用されたせん断速度は、本発明者らのレオメータの到達可能範囲(<5000s-1)を超える7350s-1という高さであったことも強調しておかなければならない。
【0128】
図5は、様々な液滴分率(10及び30重量%)のW
1/Oエマルジョンの、及び外部水相W
2の流動曲線を示す。すべての系が、せん断流動化(shear-thinning)挙動を呈する。
【0129】
図5では、W
1/Oエマルジョンの粘度と連続相の粘度とが、実現可能な最も高いせん断速度5000s
-1において互いに近いことが分かる。このことは、粘度比pが、乳化プロセスの条件下において1に近いことを示唆している。
【0130】
本実験では、内部液滴及び脂肪結晶がいずれも、小滴サイズと比較して充分に小さいことから、同じ条件が適用される。式(2)から、臨界キャピラリー数の推定値を誘導することが可能である。以下の値:D=22.5μm、
【0131】
【0132】
、σ=4mN.m
-1(ライジングドロップ法を用いて45℃で測定を実施(「Tracker」装置、Teclis Instruments(France)製)、η
c=0.2Pa.s(
図5から外挿した値)を採用することによって、Cac=約3を得ることができる。
【0133】
3.2 内部液滴分率の影響
内部水の分率は、20~60重量%で変動した。液滴の分率が大きいと(φ0
i>50重量%)、W1/Oエマルジョンは、転相し易かった。この不安定性を防止するために、1分間の時間スケール内で、AMFにW1相を常に少しずつ添加した。すべてのケースにおいて、平均液滴サイズは2~3μmに近かったが、多分散度は、φ0
iと共に増加する傾向にあり、φ0
i=10重量%の場合はU=0.21及びφ0
i=50重量%の場合はU=0.57であった。説明したように、乱流ミキサーを用いてW1/Oエマルジョンを得た。これらの条件下では、最終サイズ分布は、液滴の分裂及び再結合(合体)の両方の結果である。液滴分率が大きい場合に観察されたサイズ分布の広がりは、乳化プロセスの過程でのせん断に誘導された合体に恐らくは起因するものであり、それは、液滴分率が増加するに従って次第に顕著となる傾向にある。
【0134】
製造が完了すると、今度は一次W
1/Oエマルジョンを、30重量%で外部水相W
2中に乳化した。Couetteセル中でのせん断速度は、5250s
-1に固定した。
図6では、φ
0
iの関数として平均小滴サイズの変化をプロットしている。小滴サイズが、液滴の質量分率と共に増加することが見られる。この傾向は、
図5で裏付けられるようにW
1/Oエマルジョンの粘度が液滴分率と共に増加することを考えると、合理的に説明することができる。これらの結果は、液体油をベースとする準単分散W
1/O/W
2エマルジョンが製造されたことを支持するものである。
【0135】
3.3.カプセル化収率
カプセル化収率を評価するために、外部相W
2中に放出された塩の定量を、1050~7350s
-1の様々なせん断速度でのCouetteセル中での乳化直後に行った。この目的のために、各エマルジョンの外部水相に対して導電率測定を行った。エマルジョンは、φ
0
i=30重量%の小滴を30重量%含んでいた。
図7から、カプセル化収率は小さく変動するだけであることが分かる。調べたせん断速度の範囲全体にわたって、最終内部水性液滴分率の平均値は22重量%であり、これは、平均カプセル化収率72%に相当する。
【0136】
最終内部水性分率の変化も、一定のせん断速度5250s
-1で、初期値の関数として測定した。初期小滴分率は、常に30重量%であった。
図8から、最終的な水の分率が、初期値に対しておおよそ比例していることが分かる。直線状であることから、多くの実用的用途での必要性に応じて、70%に近い平均カプセル化収率で、最終内部液滴含有量の微細な調整が可能である。
【0137】
3.4.安定性の評価
3.4.1.熱応答性
得られた二重エマルジョンは、熱感受性であった。それらは、温めると、短い時間内でW1/O/W2エマルジョンから単純なW/Oエマルジョンに変化可能であった。NaClを解放プローブとして用いた導電率測定によって明らかとなったように、45℃超に加熱すると、油相は完全に溶融し、この結果、内部液滴が素早く放出された。完全な放出は、10分未満後に達成された。
【0138】
3.4.2.カプセル化能力
静止保存条件下での内部液滴から外部水相へ放出された塩のパーセントを測定するために、5250s
-1でせん断処理したφ
0
i=30重量%の小滴を30重量%含むエマルジョンを、4℃でほぼ1ヶ月間保存した。結果を
図9に報告する。初期値(t=0)は、乳化プロセスによって誘発された解放に相当する。驚くべきことに、解放は、経時で変化せず、このタイプの二重エマルジョンの傑出したカプセル化能力を反映している。
【0139】
3.4.3.部分的合体に対する耐性
組成変化及び部分的合体に対するその回復力を調べるために、エマルジョンを、等張条件下、0.8mol.L
-1のD-グルコース水溶液を用いて3倍希釈した。目標とした組成は以下の通りであった:10重量%の小滴;φ
0
i=30重量%;W
1中に0.5mol.L
-1のNaCl;W
2中に4重量%のNaCAS及び0.8mol.L
-1のD-グルコース。4℃での安定性を、液滴サイズ測定及び顕微鏡観察によって21日間にわたって追跡した。非希釈エマルジョンをレファレンス系と見なした(
図10a)。まず、エマルジョンを、D-グルコースのみを含有する溶液で希釈した。連続相(W2)の粘度が低いことから、数時間の静置後、小滴は濃いクリームを形成する傾向にあった。しかし、クリームは、手で振とうすると容易に再分散することができ、明確な合体の徴候はなかった。
図10bから、平均小滴サイズ及び内部液滴分率の両方が、実験した時間長さ全体にわたってほぼ一定に維持されたことが分かる。小滴のクリーミングを回避するために、濃度0.5重量%でカラゲナンをW2に導入したが、やはりサイズ分布又は液滴の見掛け内部構造のいずれも、大きな変化を見せなかった。
【0140】
3.5.浸透圧ショックに対する耐性-膨潤プロセス
一方は親油性界面活性剤を含まないAMFをベースとし(エマルジョン1)、他方は液体油(ヒマワリ)及びPGPRをベースとする(エマルジョン2)2つの二重エマルジョンの浸透圧ショックに対する耐性を比較した。
【0141】
両系共に、上記例1のエマルジョン製造で述べたプロトコルに従って製造した。エマルジョン2については、第一の工程時、水相W1(0.5mol.L-1のNaCl)と油相(ヒマワリ油+3重量%PGPR)との1:1(重量/重量)混合物を、Ultra-Turrax(登録商標)ミキサーを12000rpmで2分間運転して、20℃で激しく撹拌した。一次W1/Oエマルジョンの30重量%を、12重量%のNaCAS及び0.8mol.L-1のD-グルコースを含有する水相に、Couetteセルを用いて分散させた。水性液滴の平均径は、2~3μmに近く、油小滴の平均径は、およそ25μmであった。製造の直後に、純水又は等張溶液でエマルジョンを10倍(重量基準)に希釈した。浸透圧の不適合が大きいことに起因して、純水で希釈したエマルジョンの場合に、油相を通しての外部W2相から内部W1液滴への水の移動から成る浸透圧膨潤現象の発生が予想された。
【0142】
4℃で2時間の静置後の二重エマルジョンのマクロ的態様について評価した。小滴は、チューブの上部に溜まったクリーム層を形成する。エマルジョン1の場合、希釈条件に関わらず薄いクリーム層が形成され、これは水の移動がないことを反映している。エマルジョン2のクリーム層の厚さは、膨潤現象のために、純水で希釈した系の方が非常に大きい。等張条件下では、クリーム層の厚さは、エマルジョン1の場合と同等である。希釈したエマルジョンを、2時間の保存後に顕微鏡下で観察した。
図11から、エマルジョン1の場合は条件に関わらず、エマルジョン2では等張条件下で希釈した場合に、膨潤が発生していないことが分かる。逆に、純水で希釈したエマルジョン2の小滴は、初期の小滴よりも著しく大きく、多数の小さい詰め込まれた状態の内部液滴を含有しており、これは水の移動を裏付けるものである。
【0143】
これらの実験から、膨潤プロセスは、液体油及びPGPRを含有するエマルジョンでは速く、脂肪結晶の存在下ではほとんど識別されない程度であることが明らかである。
エマルジョン2の場合、膨潤は、4℃で7日間保存した後であっても識別されない程度であった。PGPRベースのエマルジョンは、塩濃度勾配の存在に影響を受け易く、一方本発明に従う脂肪結晶で安定化したエマルジョンは、ほとんど応答を示さないことが実証された。
【0144】
本発明によると、W1液滴周辺の脂肪結晶は、水の拡散輸送のための薄い液膜の形成を阻害する厚い固体連続相を形成するものと考えられる。この特性が、結晶化した油をベースとする二重エマルジョンに、浸透圧ショックに対する著しい耐性を付与する。
【0145】
3.6.手法の汎用性の精査
本発明の範囲の汎用性を、AMFを様々な植物源、すなわち、例えばカカオ、パーム、及びココナッツからの脂肪に置き換えることによって検証した。
【0146】
すべてのケースにおいて、エマルジョンは以下の初期組成を有していた:30重量%の小滴;φ
0
i=30重量%;W
1中に0.5mol.L
-1のNaCl;W
2中に12重量%のNaCAS及び0.8mol.L
-1のD-グルコース。これらは、例1で述べたプロトコルに従って得られたものであり、第二の乳化工程で適用したせん断速度は、10500s
-1であった。
図12(a、b、c)は、製造直後の二重エマルジョンの顕微鏡画像を示す。静的光散乱によって測定した対応するサイズ分布についても報告した。サイズ分布は、すべてのケースにおいて比較的狭く、カカオバターをベースとする二重エマルジョンの場合に特に狭かった。この画像から、内部液滴の大部分が小滴中にカプセル化された状態で維持されたと言える。
【0147】
W1/O/W2のタイプの準単分散二重エマルジョンを、親油性界面活性剤を添加せずに設計した。一次W1/Oエマルジョンでは、水性液滴は、オレオゲルを形成する脂肪結晶によって安定化された。このプロセスは、かなり汎用性が高く、乳、パーム、カカオ、及びココナッツを含む複数の脂肪源からの脂肪で再現可能である。
【0148】
得られた多重エマルジョンは、親水性薬物のカプセル化及びそれらの制御された解放、矯味戦略の実行、低脂肪製品の製造などを含む広範な用途の可能性を有する。平均小滴サイズは、制御されたせん断の適用によって微細に調整可能であり、サイズ分布は、著しく狭かった。単分散性は、再現性が高く充分に特徴付けられた特性を有する材料の製造を可能とすることから、価値の高い特性である。加えて、得られた材料は、傑出した特性を呈し、それらは、熱応答性であり、浸透圧ショックに対する耐性を有し、及び脂肪結晶の存在にも関わらず、保存条件下での部分的合体を起こさなかった。
【0149】
例4-本発明に従うA/O/Wタイプの二重エマルジョンの製造(A/O/W2)
- 結晶化油相の泡立て及び気泡の細密化
最初に4℃で数週間保存しておいたAMF(Barry Callebaut(Belgium)提供の無水乳脂肪)を20℃まで加熱し、Ultra-Turrax(登録商標)T5ミキサーを24000rpmで30秒間運転して用いてせん断処理した。次に、50gのせん断処理したAMFを100mlビーカーに導入し、4ブレードのR1342プロペラを備えたIKA RW20オーバーヘッドスターラーを用い、2000rpmの最大回転速度で5分間泡立てた。気泡サイズを低下させる目的で、得られたフォームをCouetteセル(TSR,France;同心円状シリンダーの構成)中の狭い間隔内で20℃でせん断処理した。半径r=20mmの内部シリンダーを、78.5rad.s-1まで上げることができる選択された角速度ωで回転するモーターで作動させた。外部シリンダーは固定されており、ステーターとローターとの間の間隔は、e=200μmに固定した。最大角速度では、単純なせん断流条件下で、高いせん断速度を、すなわち、
【0150】
【0151】
を得ることができた。
油フォームの特性評価
油フォームのオーバーランは、油相中に組み込まれた空気の体積パーセントとして定義される。その測定のために、およそ15mLのフォームを目盛り付きFalcon(登録商標)チューブに導入し、初期レベルに印を付けた。次に、サンプルを、gが地球の重力定数である11700gで、50℃で15分間遠心分離した。AMFは、この温度で完全に溶融し、空気気泡の素早いクリーミング及びチューブの上部からのその放出を可能とした。最後に、サンプルを室温で2時間冷却し、AMFを再結晶化させた。体積の変動を初期体積で除して、オーバーランを得た。
【0152】
空気気泡のサイズ分布を、画像分析によって推計した。画像は、油浸対物レンズ及びデジタルカメラ(Olympus U-CMAD3,Germany)を装備した顕微鏡Olympus BX51(Olympus,Germany)を用いて得た。約350個の液滴の寸法を測定して、式(1)で定義される体積平均径D[4;3]及び多分散指数Uを特定した。測定した直径を、20の粒度測定クラスにサブ分割した。
【0153】
多重A/O/Wエマルジョンの製造
油フォームの形成の直後に、手作業による撹拌下、20重量%のフォームを外部水相中に組み込むことによって、粗い多重A/O/Wエマルジョンを製造した。希釈エマルジョンでは、液滴の変形及び分裂を起こすために、適用されるせん断応力
【0154】
【0155】
(式中、ηcは、連続相の粘度であり、
【0156】
【0157】
は適用されたせん断速度である)は、充分に高くなければならない。比較的低いせん断速度(層流計画)で液滴を分離するためには、高い粘度が必要である。本発明の実験では、これは、連続相中に大量のタンパク質を溶解することによって実現した。外部相は、12重量%のNaCASから構成した。次に、粗いエマルジョンに、上述のCouetteセル中、20℃で異なるせん断速度を施すことによって多重エマルジョンを得た。最後に、得られた多重エマルジョンを、10重量%のヒドロキシエチルセルロースを含有するゲル溶液で2倍に希釈し、その後4℃で保存した。
【0158】
多重エマルジョンの特性評価
A/O/Wエマルジョンの液滴サイズ分布を、Mastersizer 2000 Hydro SMを用いて測定した。測定は、乳化直後に行った。静的光散乱データを、5~10μmを超えるサイズの液滴に有効であるフラウンホーファー理論を用いてサイズ分布に変換した。A/O/Wエマルジョン(1mL)を、8×10-3mol.L-1のSDS溶液の10mLで希釈した。次に、光学素子上での発泡及び液滴析出を回避するための1.2×10-5mol.L-1のTween(登録商標)80の溶液を含有する分散ユニットに、少量のサンプルを撹拌しながら導入した。得られた結果を、光学顕微鏡を用いて体系的に確認した。エマルジョンを、式(1)で定義される体積平均径D[4;3]について特性評価した。
【0159】
空気のカプセル化収率は、一次A/Oフォーム中の空気の体積に対する乳化工程後に油小滴中に残った空気のパーセントとして定義される。A/O/Wエマルジョン中の空気の分率は、以下の手順によって推計した。体積V1のエマルジョンを15mLのFalcon(登録商標)チューブに導入し、11500gで15分間、50℃で遠心分離した。最も大きい小滴が合体して、チューブの上部の位置するマクロ的油相を形成した。カプセル化された空気は、容易にそこから放出され、空気気泡の非存在下において、溶融した油相は透明となった。非合体液体から成る薄いクリーム層が、油相の下に観察された。顕微鏡下での観察から、これらの液滴が依然として空気気泡を含有していることが分かった。このために、チューブを真空ベルジャー中に導入し、0.5barまで減圧した。この処理の結果、空気気泡がすべて解放された。このプロセス後、新たな体積V2を測定した。そして、カプセル化収率は簡単に得られ:
【0160】
【0161】
式中、V
Foamは、二重エマルジョンに初期に導入したフォーム体積である。そのオーバーランの測定は、上記で定めるプロトコルに従って行った。
結果
AMFの泡立て
撹拌条件及び温度に関するAMFに空気を含ませる最適条件をまず特定した。Ultra-Turrax(登録商標)のようなローターステーター装置で適用した乱流せん断が、低いオーバーランレベル(<20%)をもたらすことが分かった。非常に高いせん断速度及び小さい回転ヘッドは、サンプル中に空気気泡を組み込むのに適していなかった。このために、プロペラ型の装置、さらには比較的中程度の回転速度、すなわち2000rpmを採用した。
図13は、温度の関数としての、5分間の撹拌後に測定したオーバーランの変動を示す。変化は、特徴のないものではなく、オーバーランは、20℃よりも10℃及び30℃の方が明確に小さい。プロットにピークが存在することで、フォーム形成のための最適な固体脂肪含有量が存在することが確認される。AMFの場合、20℃の最適温度は、約15~20%の固体脂肪含有量に相当する(F. Thivilliers, E. Laurichesse, H. Saadaoui, F.L. Calderon, V. Schmitt, Thermally induced gelling of oil-in-water emulsions comprising partially crystallized droplets: The impact of interfacial crystals, Langmuir. 24, 13364-13375 (2008))。20℃未満では、油相の粘度が大きく上昇してしまい、空気の取り込みがより困難となった。30℃以上では、結晶の含有量が空気気泡の安定化を確保するのに不充分であり(<10%)(上述したThivilliers et al. (2008))、オーバーランが大きく減少した。最大のオーバーランが20℃で得られたことから、この後のすべての実験でこの温度を選択した。
【0162】
泡立てプロセスの動態を調べるために、20℃で撹拌時間を0~30分間の間で変動させた。時間の関数としてのオーバーランの変化を
図14に報告する。およそ30~35%の空気を含有するフォームが、5分間のAMFの泡立てによって得られたが、せん断時間を延長してもオーバーランのさらなる変化は見られなかった。
【0163】
20℃で5分間の泡立て後に得られた油フォームの顕微鏡画像によると、体積平均気泡サイズは、20μmに近い。泡立て時間を延長した場合についても観察したが、平均サイズに変化はなかった。数十マイクロメートルを超えない小滴径のA/O/Wエマルジョンを得ることが目的であることから、できる限り気泡サイズを低下させることが重要である。その細密化のために、粗いフォームを、Couetteセル中、20℃、5250s
-1でせん断処理した。
図15(右のカラム)は、細密化工程後の特徴的な顕微鏡画像を示す。画像の比較から、Couetteセル中でフォームを処理することの付加価値が明らかとなり、すなわち、気泡のサイズ分布がシャープとなり、その平均液滴サイズが低下した。さらに、細密化工程は、オーバーランを変化させず、せん断速度が約6000s
-1よりも低い限りにおいて、30%近くに維持した。最終空気気泡は、ほぼ球形状を有しており、その表面は粗かった。それらは、4℃で保存した場合、数週間にわたって合体及びオストヴァルト熟成に対して安定であった。結晶が気泡の周囲に閉塞層を形成して、ピッカリング型の安定化を提供した可能性が高い。サイズ分布を
図16に報告する。体積平均気泡サイズ(D[4,3])は6.4μmであり、多分散度U=0.22%であった。
【0164】
泡立てた油の水相中への分散
外部水相中の油フォームの乳化は、脂肪の硬化を起こす脂肪結晶のいかなる構造変化(凝集及び/又は半融(sintering))も回避するために、常にフォームの製造後30分未満で行った。これらの条件では、非水性フォームの粘度は、層流条件下で材料を処理するのに充分に低かった。
【0165】
最初は約30体積%の空気を含有する非水性フォームを、12重量%のNaCASを含む高粘性水相中に4℃で分散した。油フォームは、手作業による撹拌下、最大20重量%まで、次第に水相中に導入された。得られた粗いエマルジョンを、次に、Couetteセル中、20℃でせん断処理して、最終多重A/O/Wエマルジョンを得た。適用したせん断は、1050~7350s
-1の間で変動させた。
図17は、3150s
-1のせん断速度を適用した後に得られた多重エマルジョンの顕微鏡画像及び対応するサイズ分布を示す。平均小滴径は、30μmであった。比較的低い多分散指数の数値:U=0.39によって反映されるように、エマルジョンは、狭いサイズ分布を呈した。油小滴中の空気気泡の存在は、空気とAMFとの間の屈折率の不適合が大きいことによって明らかに裏付けられる。当然のことながら、空気気泡のほとんどは、最も大きい小滴中に閉じ込められており、一方小さい小滴(<1μm)は、気泡を含まないものが多い。低い倍率では、大きい小滴は、内部気泡によって光が複数回散乱し、その結果として光がほとんど透過しないことから、暗い球状として見えている。
【0166】
せん断速度の影響
図18は、多重小滴の平均サイズ特性の変化を示す。平均小滴径D
Gを、せん断速度
【0167】
【0168】
の関数としてプロットし、多分散指数Uを、各実験点の近くに示す。
予想通り、適用されるせん断速度を増加させると、小滴のサイズが低下する結果となった。実験を、各せん断速度に対して少なくとも4回繰り返した。
【0169】
適用した分離方法では、比較的狭いサイズ分布の区画化された小滴が良好に生成されるだけでなく、せん断速度を変動させることによって、平均小滴径を微細に調整することも可能である。
図19は、異なるせん断速度で得た多重エマルジョン小滴の典型的な顕微鏡画像を示す。内部気泡濃度は、1050~5250s
-1では大きく変化していないように見える。しかし、7350s
-1では、著しい低下が見られる。この傾向は、既に述べたプロトコルを用いて空気カプセル化収率(EY)を測定することによって確認した。結果を
図20に報告する。EYは、小滴の分裂によって誘導される空気気泡の部分的な解放を反映して、適用したせん断速度と共に低下する傾向にある。同様の傾向が、W/O/Wエマルジョンについても数多く報告されている。実際、内部液滴の放出が、小滴の分離と合わせて発生することが観察されている。本発明者らの系では、EYは、6000s
-1を超えないせん断速度において、74%を超える比較的高いレベルに維持された。この場合、新たに形成したエマルジョン中の小滴は、22%の空気を含有していた。この閾値せん断速度よりも上では、小滴中13%の空気に相当する7350s
-1で測定した比較的低いEY(44%)によって反映されるように、適用される応力が、明らかに多重構造の持続性に対して有害となった。
【0170】
安定性の評価
得られたエマルジョンの安定性を、4℃で長期間保存した後に評価した。水相の高い粘度にも関わらず、空気含有小滴と水相との間の密度の不適合が大きい(Δρ>0.25g.cm
-3)ことによって、小滴は、短い期間内で(数日間)、容器の上部でクリーム状となる傾向にある。クリーム層では、小滴は恒久的に接触状態であり、この状況は、
図21から分かるように、部分的合体を誘発した。この顕微鏡画像を得るために、サンプル上部の少量のクリームを集めて純水に溶解した。顕微鏡画像から、合体し、形状が部分的に緩和された初期液滴の残部から成る大きい凝集体の存在が分かる。脂肪結晶は、界面付近に形成されると、連続相中に突出して、隣接する液滴間の薄膜を貫通する場合がある。この現象は、表面張力によって引き起こされる形状緩和プロセスが部分的に固化した液滴の固有の剛性によって阻止されることから、部分的な合体と称される。本発明者らのケースでは、部分的な合体は、液滴のサイズが大きいことによっても促進された。浮力によって引き起こされる不安定性を回避するために、エマルジョンを、10重量%のヒドロキシエチルセルロースを含有するゲル化溶液で1:1重量/重量に希釈した。希釈は、乳化プロセスの直後に行った。水相のゲル化状態が、クリーミングを阻止し、それによって、系は、4℃で少なくとも1ヶ月間にわたって均質に維持可能であった。実際には、
図22から分かるように、小滴の内部構造もその平均サイズも、4週間の保存期間後に明らかな変化をまったく呈さなかった。
【0171】
エマルジョンは、一般に、合体及びオストヴァルト熟成(OR)という2種類の不安定性を呈する。多重A/O/Wエマルジョンの場合、合体は、異なるレベルで起こり得る:(1)油小滴間、(2)空気気泡間、及び(3)気泡と小滴表面との間。油小滴間及び空気気泡間の合体は、その対象が埋め込まれている対応する相のゲル化状態によって本質的に阻止された。空気気泡は、オレオゲル中に、すなわち、液体油中に分散した脂肪結晶凝集体から成るネットワーク中に物理的に取り込まれた。動態がないことによって、直接接触が経時で発現することが排除され、したがって、油小滴内の発泡構造を維持することができる。
【0172】
他の不安定性は、油小滴間及び空気気泡間で発生する可能性のあるORである。この不安定性は、ラプラス圧の違いに起因する、より小さいコロイド状物体から大きいコロイド状物体への分子拡散から成る。空気気泡の体積変動を力学的に阻害する剛性層が界面に形成されることに恐らくは起因して、本発明者らの観察によると、空気気泡のORも発生しなかった。同じ理由から、観察を行った時間スケール内では、油小滴中の空気気泡間のORは観察されなかった。
【0173】
例5 - 生の乳製品用途のためのW1/O/W2タイプの二重エマルジョンのスケールアップ
W1/O/W2タイプの二重エマルジョンを撹拌ヨーグルト中に製造する技術的実行可能性を、商業的な発酵乳製品に代表的な製剤及び処理条件を用いて(典型的な70リットルのバッチサイズ)パイロットプラントスケールで行った。
【0174】
68g/kgの一定タンパク質レベルをターゲットとして、成分を、ステンレス鋼容器中、Rushtonタービンインペラを用いて8℃で10分間混合することによって、合計で3つの処方を製造した(用いた成分についてのさらなる詳細については以下の表を参照)。
- 処方1(F1):バッチステージで導入したAMFからの3%の脂肪を含み、二重エマルジョンを含まないレファレンスとして用いた。
- 処方2(F2) 発酵後に、30%の水相を含有するW1/Oを4.3%添加することからの3%の脂肪を含む。
- 処方3(F3) 発酵後に、30%の水相を含有するW1/Oを2.86%添加することからの2%の脂肪を含む。
【0175】
F2の場合、脂肪含有量は、主として油中水型エマルジョンによってもたらされたものであるが、F3の場合は、最終脂肪含有量のうちの33%は、42%の脂肪を含有する乳クリームの添加によってタンパク質ミックス中に既に添加されていたものである。レシピ組成のこの変動によって、関連するゲルに対して2つのレベルの粘度が発酵後に誘導された。
【0176】
【0177】
処方F1の場合、AMFをまず4℃で保存し、80℃の湯浴中で溶融し、その後リクイバーター(Liquiverter)を用いてタンパク質ミックスに添加した。均質なレシピを得るために、続いて処方F1を、70barでホモジナイズして、AMFをタンパク質ミックス中で乳化した。次に、すべての処方を、低温殺菌前に4℃で保存した。
【0178】
低温殺菌の間、上流位置で、以下のパラメータでホモジナイザーを用いた。
- ホモジナイズ圧力 163bar
- 低温殺菌温度 95℃
- 保持時間 6分
- 流速 250L/時間
- 出口部温度 29℃
次に、処方をインキュベーター中28℃で保存し、その後乳酸菌を播種した。
【0179】
ストレプトコッカスサーモフィルス(Streptococcus thermophilus)及びラクトバチルスブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)を含有する凍結乾燥した乳酸菌培養物を用いて発酵を行った。50DCUのバッチを、処方F1からのタンパク質ミックス500ml中に分散させた。次に、各処方に、pH4.60以下が得られるまでこの溶液を播種した。
【0180】
処方F1をまず手作業で混合し、その後300L/時間の流速で保存タンクに移し、外径130mmで、ローター及びステーターあたり3つの歯状ケージから構成され、スロット幅が3mmのインラインローター/ステーター装置を用いて50Hz又は1500RPMでせん断処理し、続いてプレート式熱交換器によって4℃で冷却した。
【0181】
処方F1は、せん断処理後、4℃で保存した。簡便な知覚試験によって、SMPの高い含有量に起因する強いタンパク質味/粉末味を証明した。
次に、W1/Oエマルジョンを、処方F2及びF3への注入用に製造した。油中水型エマルジョンの5kgバッチを製造するために、AMFを、水及び塩と共に80℃の湯浴中で溶融した。次に、以下の組成の混合物を、スクレーパー及びブレード式インペラを備えた工業用バッチクッカー(RoboQbo)を用いて低温殺菌した。
- 3.50kgのAMF
- 1.50kg(1.460kgの水+0.040kgの塩)
低温殺菌の過程で用いたパラメータは、以下の通りであった:92℃で60秒間加熱、1800秒間で30℃に冷却、全プロセスの過程で、ブレードを用いて50rpmで撹拌。次に、低温殺菌した成分を、乳化の前に、連続撹拌下で30℃で保存した。低温殺菌したAMF/水ブレンドを、2段式卓上ホモジナイザーを用いて乳化した。まず、ホモジナイザーを洗浄し、温水で温めた。次に、AMF/水ブレンドを、ホモジナイズ圧力20/80bar(2段階)を用いてホモジナイズした。得られた油中水型エマルジョンの色は、乳化の過程で黄色から白色に変化し、W1/Oエマルジョンの形成を示唆した。
【0182】
油中水型エマルジョンのいくつかのバッチは、均質性を高めるために2回ホモジナイズした。最終油中水型エマルジョンを、各処方用に秤量し、25~30℃の温度範囲でインキュベーター中で保存した。
【0183】
各エマルジョンを、処方F2及びF3に手作業で添加した。インラインローター/ステーター装置を用いて、2つのせん断強度(それぞれ50及び100Hzに相当)について試験した。W1/Oエマルジョンのサイズを、静的光散乱実験によって測定した。結果は、最も高い周波数を用いて得られたエマルジョンが、平均径20μmの狭いサイズ分布を有していることを示した。そして、この周波数を一定に維持した。
【0184】
インラインローター/ステーター装置でのせん断処理後、得られたヨーグルトを、冷却チャンバー中4℃で保存した。マクロ的には、多重エマルジョンを含有するヨーグルトとレファレンスとの間に違いは見られなかった。二重エマルジョン構造を有するヨーグルトは、渋みが少なく、スムーズで安定であった。最後に、顕微鏡分析を、脂肪小滴中に内部水性液滴が存在することを確認するために、処方F2及びF3での製造後、D+14日に行った。Mastersizer 3000を用いてサイズ測定を行い、脂肪液滴の平均径は、およそ20μmであった(
図23)。