(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】電解質組成物
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0566 20100101AFI20240521BHJP
H01G 11/58 20130101ALI20240521BHJP
H01G 11/60 20130101ALI20240521BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20240521BHJP
H01G 11/64 20130101ALI20240521BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240521BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20240521BHJP
H01M 8/18 20060101ALI20240521BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240521BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240521BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20240521BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240521BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20240521BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20240521BHJP
H01M 10/36 20100101ALI20240521BHJP
【FI】
H01M10/0566
H01G11/58
H01G11/60
H01G11/62
H01G11/64
H01M4/13
H01M8/02
H01M8/18
H01M10/052
H01M10/054
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M10/058
H01M10/36 A
(21)【出願番号】P 2021534205
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 NZ2019050164
(87)【国際公開番号】W WO2020130857
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-14
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】519018945
【氏名又は名称】ヴィクトリア リンク リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ボーラ,ローハン
(72)【発明者】
【氏名】ナン,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ヒューソン,フレイザー ロス
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0242466(US,A1)
【文献】特開2011-108388(JP,A)
【文献】国際公開第2005/061629(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00 -10/39
H01G 11/00 -11/86
H01M 8/00 - 8/2495
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質組成物を含む電気的に再充電可能な電気化学エネルギー蓄積装置であって、
前記電解質組成物はマイクロエマルションを含み
、
前記マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含
み、
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの1重量%~99重量%の水を含む、
装置。
【請求項2】
前記水相は連続相である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記水不混和性相は分散相である、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記マイクロエマルションは両連続相マイクロエマルションである、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記マイクロエマルションは溶解塩をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記溶解塩は、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩およびアルミニウム塩からなる群から選択される、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記溶解塩の濃度は0.001mol/kg~10mol/kgである、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記マイクロエマルションは1種以上の酸化還元活性有機種をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記酸化還元活性有機種は前記水不混和性相または前記水相に溶解されている、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記酸化還元活性有機種は前記水不混和性相に溶解されている、請求項8または9に記載の装置。
【請求項11】
前記水不混和性相は有機溶媒を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記有機溶媒は、脂肪族溶媒、芳香族溶媒、ハロゲン化溶媒
、水不混和性のケトン溶媒
、水不混和性のエステル溶媒またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記マイクロエマルションは界面活性剤、補助界面活性剤および/または共溶媒をさらに含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
アノード電極およびカソード電極および任意で集電装置をさらに備え、前記アノード電極、前記カソード電極および前記集電装置のうちの1つ以上の表面の少なくとも一部
は疎水性である、請求項1~13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
前記アノード電極、前記カソード電極および前記集電装置のうちの1つ以上の前記表面の前記一部は非金属であるか導電性カーボンまたは導電性ポリマーである、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記カソード電極と前記アノード電極との間に位置するイオン透過性セパレーターをさらに備える、請求項14または15に記載の装置。
【請求項17】
1.23V超
のセル電圧を有する、請求項1~16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの10重量%~99重量%の水を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの20重量%~99重量%の水を含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の装置。
【請求項20】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの20重量%~80重量%の水を含む、請求項1~19のいずれか1項に記載の装置。
【請求項21】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの80重量%~99重量%の水を含む、請求項1~19のいずれか1項に記載の装置。
【請求項22】
電解質組成物を含むリチウムイオン電池であって、
前記電解質組成物はマイクロエマルションを含み
、
前記マイクロエマルションはリチウム塩、水相および水不混和性相を含
み、
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの1重量%~99重量%の水を含む、
リチウムイオン電池。
【請求項23】
電解質組成物を含むマグネシウムイオン電池であって、
前記電解質組成物はマイクロエマルションを含み
、
前記マイクロエマルションはマグネシウム塩、水相および水不混和性相を含
み、
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの1重量%~99重量%の水を含む、
マグネシウムイオン電池。
【請求項24】
電解質組成物を含むナトリウムイオン電池であって、
前記電解質組成物はマイクロエマルションを含み
、
前記マイクロエマルションはナトリウム塩、水相および水不混和性相を含
み、
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの1重量%~99重量%の水を含む、
ナトリウムイオン電池。
【請求項25】
電解質組成物を含むレドックスフロー電池であって、
前記電解質組成物はマイクロエマルションを含み
、
前記マイクロエマルションは酸化還元活性有機種、水相および水不混和性相を含
み、
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの1重量%~99重量%の水を含む、
レドックスフロー電池。
【請求項26】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの10重量%~99重量%の水を含む、請求項22~25のいずれか1項に記載の電池。
【請求項27】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの20重量%~99重量%の水を含む、請求項22~26のいずれか1項に記載の電池。
【請求項28】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの20重量%~80重量%の水を含む、請求項22~27のいずれか1項に記載の電池。
【請求項29】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの80重量%~99重量%の水を含む、請求項22~27のいずれか1項に記載の電池。
【請求項30】
電解質組成物を含むスーパーキャパシタであって、
前記電解質組成物はマイクロエマルションを含み
、
前記マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含
み、
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの1重量%~99重量%の水を含む、
スーパーキャパシタ。
【請求項31】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの10重量%~99重量%の水を含む、請求項30に記載のスーパーキャパシタ。
【請求項32】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの20重量%~99重量%の水を含む、請求項30または31に記載のスーパーキャパシタ。
【請求項33】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの20重量%~80重量%の水を含む、請求項30~32のいずれか1項に記載のスーパーキャパシタ。
【請求項34】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの80重量%~99重量%の水を含む、請求項30~32のいずれか1項に記載のスーパーキャパシタ。
【請求項35】
電気的に再充電可能な電気化学エネルギー蓄積装置を使用するための方法であって、前記電気的に再充電可能な電気化学エネルギー蓄積装置を負荷に接続して電荷を前記負荷に供給する工程を含み、前記装置は電解質組成物を備え、前記電解質組成物はマイクロエマルションを含み、前記マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含
み、前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの1重量%~99重量%の水を含む、方法。
【請求項36】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの10重量%~99重量%の水を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの20重量%~99重量%の水を含む、請求項35または36に記載の方法。
【請求項38】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの20重量%~80重量%の水を含む、請求項35~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの80重量%~99重量%の水を含む、請求項35~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
電気的に再充電可能な電気化学エネルギー蓄積装置に使用される場合の電解質組成物であって、前記電解質組成物はマイクロエマルションを含み、前記マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含
み、前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの1重量%~99重量%の水を含む、電解質組成物。
【請求項41】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの10重量%~99重量%の水を含む、請求項40に記載の電解質組成物。
【請求項42】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの20重量%~99重量%の水を含む、請求項40または41に記載の電解質組成物。
【請求項43】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの20重量%~80重量%の水を含む、請求項40~42のいずれか1項に記載の電解質組成物。
【請求項44】
前記マイクロエマルションは、前記マイクロエマルションの80重量%~99重量%の水を含む、請求項40~42のいずれか1項に記載の電解質組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロエマルション電解質組成物および電気化学エネルギー蓄積装置におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学系、特に電池は、イオンおよび電気化学的活性種の溶解および移動を促進することができる電解質を必要とする。電解質の望ましい特性またはさらには必要な特性は、良好な導電率、広い電位窓ならびに電池に使用される塩および電気化学的活性種を可溶化する能力である。電解質の商業的用途のために低コストは経済的重要事項である。
【0003】
水は非毒性であり、かつ安全に取り扱うことができる安価な溶媒であるため、望ましい電解質溶媒である。
【0004】
電解質溶媒として使用するための水の欠点は、水の電気化学的安定性窓(1.23V)があまりに狭すぎて現代の電池で使用される多くの電気化学対を支持することができないことである。
【0005】
水は1.23Vの電位で酸化されて酸素ガスを形成し、かつ還元されて水素ガスを形成することができる(一般に水分解と呼ぶ)。
【化1】
【0006】
従って、水性電解質を用いる電池は劣化を回避するために1.23V未満のセル電圧で動作するように制限されている。電気化学的安定性窓から外れた電位による反応は水分解ならびに水素および/または酸素の発生を引き起こす。これらの反応は電気化学系を劣化させ、かつユーザに危害を加える。現代の電池は例えば1.23Vを大きく超える電位で動作することができるため(これは水を電解質として使用できないことを意味する)、これは重大な制限である。
【0007】
注目すべき点は、水分解反応の熱力学ポテンシャルは還元の場合はAg/AgClに対して約-0.2Vであり、酸化の場合はAg/AgClに対して約1Vであり、それにより1.23Vの全体的な理論上の窓が得られることである。しかし水分解反応の実際の適用では些細ではない過電位が発生する。酸化および/または還元のための開始電位の計測値は典型的には理論上期待されるものよりも大きい電圧である。従って水性電池を1.23Vの熱力学的極限を超えて作動させることは可能であるが、公知の水性電解質は通常の使用ではこの限界を超えると著しく分解するため、水性電解質の熱力学的限界を超えないように防止されている。
【0008】
過去には水の電気化学的安定性窓を拡張させるための試みがなされてきた。水性電解質はバルク水と比較して電気化学的安定性窓を広げることが報告されているが、これらの進歩は多くの用途において非水性電解質の代わりとして使用するのには十分ではなかった。さらに、電極で使用される材料およびこれらの試みで必要とされる電解質添加剤として使用される材料はコストが高い、かつ/または危険である。
【0009】
バルク水よりも広い電位窓を有する非水性溶媒は、いくつかの電池を含む多くの電気化学セルで使用されている。しかし非水性溶媒には水と比較して、費用、毒性、引火性および/または低い塩可溶化能力などの欠点がある。
【0010】
溶媒としての水は、無機塩および多くの有機塩などの塩を可溶化することができるので、それは電池電解質として使用するための(この点に関しては)理想的な溶媒である。水溶液に溶解された塩の濃度の上昇はその溶液の電荷伝導率を上昇させる。さらに水はいくつかの酸化還元活性有機分子などのいくつかの非イオン性化合物を可溶化する能力も有し、かつ水性電解質を異なる電気化学的活性種を有する様々な電池に適用するのを可能にする。
【0011】
動作中の電気化学セルの電流は、電気化学反応に関与する電気化学的活性種の濃度に依存している。より多くの電気化学的活性種が電解質に溶解されるほど、活性種の濃度が高くなり、かつ故に電気化学セルから抽出することができる電流がさらに増加する。金属塩などの水溶性の電気化学的活性種のために、水を溶媒として用いることにより比較的高い塩濃度が可能になる。しかし水性電解質を用いる電気化学セルによって生成することができる電流は、電気化学的活性種が水にあまり可溶でない場合に減少する。水不溶性の電気化学的活性種は水性溶媒に適合しない場合が多く、かつ水溶性の活性種は有機溶媒に適合しない場合が多いため、電解質の導電率および電解質中の活性種の濃度を同時に最大化することができる適合可能な溶媒および活性種を見つけるのはかなり難しい。
【0012】
公知の電解質組成物における限界の例は、マグネシウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、アルミニウムイオン電池およびリチウムイオン電池などのイオン電池に認めることができる。例えば、マグネシウムイオン電池は有用なマグネシウム電池を作製するために必要な導電率、溶解度および電位窓を達成するために必要なマグネシウム塩および有機溶媒のコストおよび複雑性によって悩まされてきた。
【0013】
公知の電解質組成物の限界はフロー電池においても明らかである。レドックスフロー電池などのフロー電池は、交換膜によって分離された非反応性電極の表面を超えて流れる電解質(具体的にはアノード液およびカソード液)の使用を特徴とする。電気化学的活性種を含むアノード液およびカソード液は別個の区画に収容されている。使用時にアノード液およびカソード液はそれらのそれぞれの電極を超えるように汲みだされ、かつ区画間での電荷の移動によって電流が生成される。エネルギーが電解質に蓄積されるので、電池の蓄積容量は電解質組成物および電解質体積の向上に対応する。電解質の体積の増加により蓄積することができるエネルギーが増加する。従ってフロー電池からのエネルギーの経済的コストは部分的に電解質のコストに比例している。他の種類の電気化学セルと同様に、レドックスフロー電池の効率はより高い濃度の電気化学的活性種を支持することができる電解質およびより広い電気化学的安定性窓を有する電解質によって高めることができる。
【0014】
従って、電池の性能は電池の電極を作製する材料および電解質溶液の物理化学的特性などの多くの因子に大きく依存している。そのような因子は電池の電圧を減少させ、クーロン効率に影響を与え、セルのレート性能(最大の充電/放電レート)およびセルの安定性を低下させることにより電池性能に影響を与える。
【0015】
電気化学を行うことができる広い電位窓を提供し、良好な導電率を示し、低コストであり、かつ様々な極性にわたって化合物を溶解する能力を有する電解質組成物が必要とされている。
【0016】
本発明の目的は、上記欠点のうちの少なくとも1つを克服するか、あるいは上記必要性の少なくとも1つに(部分的に)対処するか、あるいは少なくとも有用な選択を大衆に提供する電解質組成物および/またはイオン電池、レドックスフロー電池およびスーパーキャパシタなどの電気化学セルにおけるその使用を提供することにある。
【発明の概要】
【0017】
一態様では、電気化学セルに好適であるか、それに適しているか、そのために構成された電解質組成物であって、マイクロエマルションを含む電解質組成物が提供される。マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含む。
【0018】
一例では、水相は連続相である。水不混和性相は連続した水相中に分散されていてもよく、あるいは代わりとしてマイクロエマルションは水不混和性相および水相がどちらも連続相であるように両連続相マイクロエマルションであってもよい。
【0019】
好ましい実施形態では、マイクロエマルションは水中油型マイクロエマルションまたは両連続相マイクロエマルションである。
【0020】
マイクロエマルションは、例えばマイクロエマルションの10重量%~99重量%の水、およびマイクロエマルションの20重量%~99重量%の水などの、マイクロエマルションの1%重量%~99重量%の水を含んでいてもよい。
【0021】
マイクロエマルションが連続した水相および分散された水不混和性相を含む場合(すなわち水中油型マイクロエマルション)、マイクロエマルションはマイクロエマルションの80重量%~99重量%の水を含んでいてもよい。マイクロエマルションが両連続相マイクロエマルションである場合、マイクロエマルションはマイクロエマルションの20重量%~80重量%の水を含んでいてもよい。
【0022】
マイクロエマルションは、例えばマイクロエマルションの導電性を高めるために溶解塩を含んでいてもよい。溶解塩は有機塩、無機塩またはそれらの組み合わせであってもよい。一例では、溶解塩はリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。一例では、本マイクロエマルション電解質組成物中の塩の濃度は0~10M、約0.001M~10M、より好ましくは約0.01M~5M、より好ましくは0.05M~1M、最も好ましくは約0.05M~0.5Mである。別の例では、本マイクロエマルション電解質組成物中の塩の濃度は0~10mol/kg、より好ましくは約0.001mol/kg~10mol/kg、より好ましくは約0.01mol/kg~5mol/kg、より好ましくは0.05mol/kg~1mol/kgである。
【0023】
マイクロエマルションは1種以上の電気化学的活性種を含んでいてもよい。電気化学的活性種はマイクロエマルションの水不混和性相または水相に溶解されている。電気化学的活性種は酸化還元活性有機種であってもよい。酸化還元活性有機種および電気化学的活性種は容易に公知であり、かつ当業者には理解されるであろう。マイクロエマルションに溶解することができる酸化還元活性有機種の例としては、フェロセン、(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)オキシル(TEMPO)、フェノチアジン、ジメトキシベンゼン、メナジオンおよび2,1,3-ベンゾチアジアゾールが挙げられる。
【0024】
マイクロエマルションの水不混和性相は有機溶媒を含んでいてもよい。一例では、水不混和性相はヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテルなどの脂肪族溶媒、ベンゼン、トルエン、p-キシレン、1,2-ジクロロベンゼンなどの芳香族溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化溶媒、アセトフェノンなどの実質的に水不混和性のケトン溶媒、安息香酸エチル、酢酸エチルなどの実質的に水不混和性のエステル溶媒、ジエチルエーテルなどのエーテル溶媒、およびそれらの組み合わせから選択されてもよい。
【0025】
マイクロエマルションは、界面活性剤、補助界面活性剤および/または共溶媒などの1種以上の両親媒性物質を含んでいてもよい。マイクロエマルション電解質組成物の調製に好適な界面活性剤および補助界面活性剤は当該技術分野で知られている。好適な界面活性剤の例としてはアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、双性イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤が挙げられる。好ましい界面活性剤の例としては、Triton X-100(t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)、塩化セチルトリメチルアンモニウム(CTAC)、塩化セチルピリジニウム(CPC)、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、およびラウリルエーテル硫酸ナトリウム(SLES)が挙げられる。好適な補助界面活性剤または共溶媒の例としては、C2~C6アルコールなどの脂肪族アルコールおよびC2~C6アルキルアミンなどのアミンが挙げられる。本発明のための好ましい補助界面活性剤および/または共溶媒としてはエタノール、プロパノール、ブタノールおよびペンタノールが挙げられる。
【0026】
マイクロエマルションは1種以上相間移動触媒を含んでいてもよい。好適な相間移動触媒の例はビス(2-メトキシエチル)エーテル(ダイグライム)である。
【0027】
本発明の一例では、マイクロエマルションは0.1mS.cm-1超、1mS.cm-1超、3mS.cm-1超、5mS.cm-1超、1~12mS.cm-1、3~10mS.cm-1の導電率を有する。
【0028】
本発明の一例では、マイクロエマルションは1.23V超、1.5V超、2V超、2.5V超、3V超、3.5V超または4V超の電気化学的安定性窓を有する。
【0029】
本発明のさらなる態様では、イオン電池に好適であるか、それに適しているか、そのために構成された電解質組成物であって、マイクロエマルションを含む電解質組成物が提供される。
【0030】
本発明の別の態様では、レドックスフロー電池に好適であるか、それに適しているか、そのために構成された電解質組成物であって、マイクロエマルションを含む電解質組成物が提供される。
【0031】
本発明のさらなる態様では、スーパーキャパシタに好適であるか、それに適しているか、そのために構成された電解質組成物であって、マイクロエマルションを含む電解質組成物が提供される。
【0032】
本発明のさらなる態様では、電気化学セルにおいて電解質として使用するのに好適であるか、その使用に適しているか、その使用のために構成されたマイクロエマルションが提供される。
【0033】
本発明の一例では、本電解質組成物は本質的にマイクロエマルションからなる。
【0034】
本発明のさらなる態様では、1種以上の電気化学的活性種を含むマイクロエマルションが提供される。
【0035】
本発明のこの態様に係る一例では、マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含む。好ましくは、マイクロエマルションは水中油型マイクロエマルションまたは両連続相マイクロエマルションである。
【0036】
本発明のこの態様に係る一例では、1種以上の電気化学的活性種は水不混和性相に溶解されている。他の例では、1種以上の電気化学的活性種は水相に溶解されている。
【0037】
電気化学的活性種は溶解塩であってもよい。電気化学的活性種は酸化還元活性有機種であってもよい。
【0038】
本発明のこの態様に係る一例では、電気化学的活性種または酸化還元活性有機種のうちの少なくとも1つは1.23V超(基準水素電極と比較して)の反応電位または酸化還元電位を有する。すなわち、電気化学的活性種または酸化還元活性有機種の電気化学反応はバルク水の水分解を引き起こす。
【0039】
本発明のさらなる態様では、水相を含むマイクロエマルションであって、マイクロエマルションの電気化学的安定性窓は1.23V超であるマイクロエマルションが提供される。
【0040】
マイクロエマルションは電気化学的活性種を含んでいてもよい。一例では、電気化学的活性種の少なくとも1つは1.23V超の反応電位または酸化還元電位を有する。
【0041】
電気化学的活性種は酸化還元活性有機種であってもよく、その例は本明細書に記載されている。
【0042】
本発明のさらなる態様では、電解質を含む電気化学セルであって、電解質はマイクロエマルションを含む電気化学セルが提供される。マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含む。
【0043】
一例では、電気化学セルは電気化学エネルギー蓄積装置(EESD)である。EESDは化学エネルギーの形態であるエネルギーを蓄積する。化学エネルギーを電気エネルギーに変換することにより電流の形態の電気エネルギーが当該装置の放電中に放出される。EESDは2つの電極(例えばアノード電極およびカソード電極)、これらの電極と電気接触している電解質、および任意にイオン透過性セパレーターを備える。EESDはこれらの電極間で電位差を生じる。EESDの例としてはスーパーキャパシタ、イオン電池およびフロー電池が挙げられる。
【0044】
一例では、EESDは電気的に再充電可能なEESDである。電気的に再充電可能なEESDは、可逆的に反応して電気エネルギーを生成(放電中)または蓄積(充電中)する電気化学的活性種を含む。電気的に再充電可能なEESDは電気エネルギーの入力によって充電され、これにより電気化学的活性種を再生させる。放電中に電気化学的活性種は反応して電流を生成する。充電中に外部から印加された電位は逆反応を進行させて電気化学的活性種を再生させる。電気的に再充電可能なEESDの例としてはスーパーキャパシタ、イオン電池およびフロー電池が挙げられる。
【0045】
一例では、EESDは燃料電池ではない。一例では、電気的に再充電可能なEESDは燃料電池ではない。
【0046】
本発明の一例では、電解質は本質的にマイクロエマルションからなる。
【0047】
一例では、電気化学セルは1.23V超、1.5V超、2V超、2.5V超、3V超、3.5V超または4V超のセル電圧を有する。本発明の一例では、電気化学セルは、0.01V~4V、1.0~4.0V、1.23V~4.0V、1.23~3.5V、1.23~3.0V、1.23~2.5Vまたは1.23~2.0Vのセル電圧を有する。
【0048】
一例では、水相は連続相である。水不混和性相は連続した水相中に分散されていてもよく、あるいは代わりとしてマイクロエマルションは水不混和性相および水相がどちらも連続相であるように両連続相マイクロエマルションであってもよい。
【0049】
好ましい実施形態では、マイクロエマルションは水中油型マイクロエマルションまたは両連続相マイクロエマルションである。
【0050】
一例では、電解質は電気化学セルの電極と電気接触している。
【0051】
一例では、電気化学セルはイオン電池から選択されてもよい。イオン電池はリチウムイオン電池、マグネシウムイオン電池、カルシウムイオン電池、アルミニウムイオン電池、カリウムイオン電池またはナトリウムイオン電池であってもよい。一例では、当該電池はアノード、カソード、本マイクロエマルション電解質組成物、および任意にイオン透過性膜(例えばアノードとカソードとの間に配置されている)などのイオン透過性セパレーターを備える。一例では、本電解質組成物はアノードおよびカソードと電気接触している。
【0052】
当該電池は集電装置を備えていてもよい。好ましい集電装置は、電解質と接触するように構成されている実質的に疎水性または親油性の表面を含む。
【0053】
実質的に疎水性または親油性の表面の例としては、非金属導電性表面、導電性カーボン(例えばグラファイトおよびカーボンブラック)、および共役ポリマー(ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン)などの導電性ポリマーが挙げられる。実質的に疎水性または親油性の表面の好ましい例としてはグラッシーカーボンおよびグラファイト表面が挙げられる。
【0054】
一例では、電気化学セルはスーパーキャパシタである。スーパーキャパシタはアノードおよびカソード電極、任意にイオン透過性セパレーター、および本発明のマイクロエマルション電解質組成物を備えていてもよい。これらの電極はマイクロエマルションと接触している(またはそれと接触するように構成された)実質的に疎水性または親油性の表面を含んでいてもよい。これらの電極はゼオライトおよびモレキュラーシーブなどの高表面積材料を含んでいてもよい。これらの電極は導電体を含んでいなければならない。好適な導電体としてはグラファイトまたはカーボンブラックが挙げられる。スーパーキャパシタの電解質は本発明のマイクロエマルション電解質組成物である。
【0055】
一例では、電気化学セルはセンサーである。
【0056】
本発明のさらなる態様では、電解質を含む電気化学セルであって、電解質はマイクロエマルションを含むか本質的にそれからなり、かつマイクロエマルションは1.23V超、1.5V超、2V超、2.5V超、3V超、3.5V超、4V超の電気化学的安定性窓を有する電気化学セルが提供される。
【0057】
本発明のさらなる態様では、電解質を含む電気化学セルであって、電解質はマイクロエマルションを含むか本質的にそれからなり、電気化学セルは1.23V超、1.5V、2V超、2.5V超、3V超、3.5V超、4V超のセル電圧を有する電気化学セルが提供される。
【0058】
本発明のさらなる態様では、電解質を含むナトリウムイオン電池であって、電解質はマイクロエマルションを含むか本質的にそれからなるナトリウムイオン電池が提供される。
【0059】
本発明のさらなる態様では、電解質を含むマグネシウムイオン電池であって、電解質はマイクロエマルションを含むか本質的にそれからなるマグネシウムイオン電池が提供される。
【0060】
本発明のさらなる態様では、電解質を含むリチウムイオン電池であって、電解質はマイクロエマルションを含むか本質的にそれからなり、マイクロエマルションはリチウム塩を含むリチウムイオン電池が提供される。
【0061】
本発明のさらなる態様では、電解質を含むアルミニウムイオン電池であって、電解質はマイクロエマルションを含むか本質的にそれからなり、マイクロエマルションはアルミニウム塩を含むアルミニウムイオン電池が提供される。
【0062】
本発明のさらなる態様では、電解質を含むカリウムイオン電池であって、電解質はマイクロエマルションを含むか本質的にそれからなり、マイクロエマルションはカリウム塩を含むカリウムイオン電池が提供される。
【0063】
本発明のさらなる態様では、電解質を含むカルシウムイオン電池であって、電解質はマイクロエマルションを含むか本質的にそれからなり、マイクロエマルションはカルシウム塩を含むカルシウムイオン電池が提供される。
【0064】
本発明のさらなる態様では、電解質を含むレドックスフロー電池であって、電解質はマイクロエマルションを含むか本質的にそれからなるレドックスフロー電池が提供される。一例では、電解質はアノード液、カソード液または両方であってもよい。
【0065】
本発明のさらなる態様では、電解質を含むスーパーキャパシタであって、電解質はマイクロエマルションを含むか本質的にそれからなるスーパーキャパシタが提供される。
【0066】
一例では、電気化学セルはマイクロエマルションと接触している(またはそれと接触するように構成された)実質的に疎水性または親油性の表面を有する電極を備える。実質的に疎水性または親油性の表面の好ましい例としてはグラッシーカーボンおよびグラファイト表面が挙げられる。一例では、アノードはマイクロエマルションと接触している(またはそれと接触するように構成された)実質的に疎水性または親油性の表面を有する。別の例では、カソードは、マイクロエマルションと接触している(またはそれと接触するように構成された)実質的に疎水性または親油性の表面を有する。
【0067】
電気化学セルは集電装置を備えていてもよい。好ましい集電装置はマイクロエマルションと接触しているかそれと接触するように構成された実質的に疎水性または親油性の表面を含む。実質的に疎水性または親油性の表面の好ましい例としてはグラッシーカーボンおよびグラファイト表面が挙げられる。
【0068】
電気化学セルはハウジング内に配置されていてもよい。例えばハウジングは、本マイクロエマルション電解質組成物、電極および任意にイオン透過性セパレーター(例えばアノード電極とカソード電極との間に位置している)などの構成要素を収容していてもよい。
【0069】
本発明のさらなる態様では、電気化学セルに使用される場合の電解質組成物であって、マイクロエマルションを含むか本質的にそれからなる電解質組成物が提供される。マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含む。
【0070】
電気化学セルはイオン電池、スーパーキャパシタ、電解槽およびフロー電池から選択されてもよい。イオン電池はリチウムイオン電池、マグネシウムイオン電池、カルシウム電池、アルミニウムイオン電池およびナトリウムイオン電池から選択されてもよい。フロー電池はレドックスフロー電池であってもよい。
【0071】
本発明のさらなる態様では、電気化学セルにおけるマイクロエマルションの使用であって、マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含む使用が提供される。
【0072】
本発明のさらなる態様では、電気化学セルのための電解質として使用される場合のマイクロエマルションであって、水相および水不混和性相を含むマイクロエマルションが提供される。
【0073】
本発明のさらなる態様では、レドックスフロー電池に使用される場合の電解質組成物であって、電解質組成物はマイクロエマルションを含むか本質的にそれからなり、マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含む電解質組成物が提供される。
【0074】
本発明のさらなる態様では、ナトリウムイオン電池に使用される場合の電解質組成物であって、電解質組成物はマイクロエマルションを含むか本質的にそれからなり、マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含む電解質組成物が提供される。
【0075】
本発明のさらなる態様では、リチウムイオン電池に使用される場合の電解質組成物であって、電解質組成物はマイクロエマルションを含むか本質的にそれからなり、マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含む電解質組成物が提供される。
【0076】
本発明のさらなる態様では、マグネシウムイオン電池に使用される場合の電解質組成物であって、電解質組成物はマイクロエマルションを含むか本質的にそれからなり、マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含む電解質組成物が提供される。
【0077】
本発明のさらなる態様では、アルミニウムイオンに使用される場合の電解質組成物であって、電解質組成物はマイクロエマルションを含むか本質的にそれからなり、マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含む電解質組成物が提供される。
【0078】
好ましい実施形態では、本明細書に記載されているイオン電池は相間移動触媒をさらに含む。
【0079】
本発明のさらなる態様では、スーパーキャパシタに使用される場合の電解質組成物であって、電解質組成物はマイクロエマルションを含むか本質的にそれからなり、マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含む電解質組成物が提供される。
【0080】
本発明のさらなる態様では、電気化学セルにおけるマイクロエマルションの使用であって、マイクロエマルションは電気化学セルの電位窓を1.23V超に広げ、マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含む使用が提供される。
【0081】
本発明のさらなる態様では、電気化学セルの電気化学的安定性窓を1.23V超に広げるための電気化学セルに使用される場合のマイクロエマルションであって、水相および水不混和性相を含むマイクロエマルションが提供される。
【0082】
本発明の上記使用の一例では、水相は連続相である。水不混和性相は連続した水相中に分散されていてもよく、あるいは代わりとしてマイクロエマルションは水不混和性相および水相がどちらも連続相であるように両連続相マイクロエマルションであってもよい。
【0083】
好ましい実施形態では、マイクロエマルションは水中油型マイクロエマルションまたは両連続相マイクロエマルションである。
【0084】
本発明のさらなる態様では、電気化学セルのための有機電解質の導電率を高める方法であって、有機電解質を水相と1つに合わせて有機電解質をマイクロエマルションに変換する工程を含み、マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含む方法が提供される。
【0085】
本発明のさらなる態様では、電気化学セルのための水性電解質の電気化学的安定性窓を広げる方法であって、水性電解質を有機溶媒と1つに合わせて水性電解質をマイクロエマルションに変換する工程を含み、マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含む方法が提供される。
【0086】
本発明のさらなる態様では、電気化学セルにおける電位窓を1.23V超に広げるための方法であって、水相および水不混和性相を1つに合わせてマイクロエマルションを得る工程を含み、マイクロエマルションは水相および水不混和性相を含む方法が提供される。
【0087】
本発明のさらなる態様では、本発明の電気化学セルを使用するための方法であって、本発明のマイクロエマルション電解質組成物を含む電気化学セルを負荷に接続して電荷をこの負荷に供給する工程を含む方法が提供される。
【0088】
本発明の上記方法の一例では、水相は連続相である。水不混和性相は連続した水相中に分散されていてもよく、あるいは代わりとしてマイクロエマルションは水不混和性相および水相がどちらも連続相であるように両連続相マイクロエマルションであってもよい。
【0089】
好ましい実施形態では、マイクロエマルションは水中油型マイクロエマルションまたは両連続相マイクロエマルションである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【
図1】ME1のサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図2】ME2のサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図3】ME3のサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図4】ME4のサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図5】ME5のサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図6】ME6のサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図7】ME10のサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図8】ME11のサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図9】ME12のサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図10】ME13のサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図11】ME2bのサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図12】0.1MのKCl水溶液のサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図13】ME1中のフェロセンのサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図14】ME2中のフェロセンのサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図15】ME3中のフェロセンのサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図16】ME4中のフェロセンのサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図17】ME5中のフェロセンのサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図18】ME6中のフェロセンのサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図19】ME10中のフェロセンのサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図20】ME11中のフェロセンのサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図21】ME12中のフェロセンのサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図22】ME13中のフェロセンのサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図23】ME2b中のフェロセンのサイクリックボルタモグラム(走査速度100mV.s
-1)である。
【
図24】ME1中に0.5mol.dm
-3のMgSO
4を含むマグネシウムイオン電池のクロノポテンショグラムである。
【
図25】ME2中に0.1mol.dm
-3のNaClを含むナトリウムイオン電池のクロノポテンショグラムである。
【
図26】ME2中に0.1mol.dm
-3のLiClを含むリチウムイオン電池のクロノポテンショグラムである。
【
図27】ME2中に0.1mol.dm
-3のAlCl
3を含むアルミニウムイオン電池のクロノポテンショグラムである。
【
図28】水性電解質を含むマグネシウムイオン電池のクロノポテンショグラムである。
【
図29】実施例6に記載されているME2ベースの電解質を含むレドックスフロー電池のクロノポテンショグラムである。
【
図30】30回の充電/放電サイクル後のセル1の充電-放電曲線である。
【
図31】セル1の繰り返しの充電/放電サイクルに対する充電容量(mAh/g)、放電容量(mAh/g)およびクーロン効率を示す。
【
図32】1A/gで試験した30回の充電/放電サイクル後のセル1の充電-放電曲線である。
【
図33】1A/gで試験したセル1の繰り返しの充電/放電サイクル中の充電容量(mAh/g)、放電容量(mAh/g)およびクーロン効率を示す。
【
図34】90回の充電/放電サイクル後のセル2の充電-放電曲線である。
【
図35】セル2の繰り返しの充電/放電サイクル中の充電容量(mAh/g)、放電容量(mAh/g)およびクーロン効率を示す。
【
図36】40回の充電/放電サイクル後のセル3の充電-放電曲線である。
【
図37】セル3の繰り返しの充電/放電サイクル中の充電容量(mAh/g)、放電容量(mAh/g)およびクーロン効率を示す。
【
図38】50および100回の充電/放電サイクル後のセル4の充電-放電曲線である。
【
図39】セル4の繰り返しの充電/放電サイクル中の充電容量(mAh/g)、放電容量(mAh/g)およびクーロン効率を示す。
【
図40】750回の充電/放電サイクル後のセル4の充電-放電曲線である。
【
図41】750回の充電/放電サイクルのためのセル4の繰り返しの充電/放電サイクル中の充電容量(mAh/g)、放電容量(mAh/g)およびクーロン効率を示す。
【
図42】セル5の繰り返しの充電/放電サイクル中の充電容量(mAh/g)、放電容量(mAh/g)およびクーロン効率を示す。
【
図43】セル5(V
2O
5電極)のサイクリックボルタモグラムである。
【
図44】セル5(TiO
2電極)のサイクリックボルタモグラムである。
【
図45】セル6(TiO
2電極)のサイクリックボルタモグラムである。
【
図46】495~500回の充電-放電サイクルについての実施例8のスーパーキャパシタの充電-放電曲線を示す。
【
図47】繰り返しのサイクル中の実施例8のスーパーキャパシタの充電容量および放電容量(mAh/g)を示す。
【
図48】繰り返しのサイクル中の実施例8のスーパーキャパシタのクーロン効率を示す。
【0091】
定義
特に具体的に定義されていない限り、本明細書で使用される全ての技術および科学用語は当業者(例えば材料科学および化学)によって一般に理解される意味と同じ意味を有するものとみなす。
【0092】
本明細書に開示されている様々な数(例えば1~10)の言及は、その範囲内の全ての関連する数(例えば1、1.1、2、3、3.9、4、5、6、6.5、7、8、9~10)およびその範囲内のあらゆる範囲の有理数(例えば2~8、1.5~5.5および3.1~4.7)の言及も組み込むことが意図されており、従って本明細書に明白に開示されている全ての範囲の全ての部分範囲は明白に開示されている。これらは具体的に意図されているものの単なる例であり、列挙されている最も低い値と最も高い値との間の数値の全ての可能な組み合わせは同様に本出願に明白に記載されているものとみなす。
【0093】
「および/または」、例えば「Xおよび/またはY」という用語は「XおよびY」あるいは「XまたはY」のいずれかを意味するものと理解され、かつ両方の意味またはいずれかの意味のための明示的な支持を提供するものとみなす。
【0094】
本明細書全体を通して「~を含む(comprise)」という言葉あるいは「~を含む(comprises)」または「~を含む(comprising)」などの語尾変化は、記載されている要素、整数または工程あるいは要素、整数または工程のグループの包含を示すが、あらゆる他の要素、整数または工程あるいは要素、整数または工程のグループを排除せず、すなわち「~を含むがそれらに限定されない」ことを示すものと理解される。
【0095】
本明細書全体を通して特に具体的に記載されていない限り、あるいは文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単一の工程、物質の組成、工程のグループまたは物質の組成のグループの言及はそれらの工程、物質の組成、工程のグループまたは物質の組成のグループの1つおよび複数(すなわち1つ以上)を包含するものとみなす。
【0096】
「サイクリックボルタンメトリー」という用語は動電位の電気化学的測定の一種を指す。サイクリックボルタモグラムを得るために、電圧を溶液中で変化させ、かつ電流中の電荷をその電圧の変化に関して測定する。それは化学物質の酸化還元特性および界面構造を調べるために使用されるボルタンメトリーの具体的な種類である。
【0097】
電解質の「電位窓」または「電気化学的安定性窓」という用語は、電解質が実質的に酸化または還元されない電圧範囲を指す。例えば、水の電気化学的安定性窓は水が還元されて水素(H2)になる電位と水が酸化されて酸素(O2)になる電位との差である。電気化学的安定性はサイクリックボルタンメトリー測定値に換算して測定または記載することができ、ここでは電気化学的安定性窓はカソードおよびアノード反応のそれぞれの開始電位(電流が上昇または低下し始める電位)間の電位差である。
【0098】
「不混和性」という用語は、2種以上の材料に言及する場合、ある材料が別の材料により溶解したりそれと混ぜ合ったりしないことを意味する。本明細書に記載されているマイクロエマルションなどの二相系中の不混和性液体に言及する場合、「不混和性」は、それらの液体が互いに不溶性であるか、あるいは互いの中に非常に僅かにのみ可溶であるために実際上それらの液体は互いに不溶性であると慣習的にみなされていることを意味する。2種類の不混和性液体をある系の中で1つに合わせた場合、それは不混和性液体の二相系を形成する。
【0099】
マイクロエマルションは2つの不混和性液相の熱力学的に安定な混合物である。マイクロエマルションは「水中油型」、「油中水型」または「両連続相」であってもよく、マイクロエマルション構造を定めるこれらの用語は当該技術分野でよく知られている。水中油型マイクロエマルションでは、水不混和性相が連続した水相中に分散されている。油中水型マイクロエマルションでは、水相が連続的な水不混和性相に分散されている。両連続相マイクロエマルションでは、水相および水不混和性相がそれぞれ相互接続され、かつその混合物全体に散在されている。
【0100】
本明細書において「水」および「油」という用語(例えば、水中油型マイクロエマルションおよび油中水型マイクロエマルションに言及する際に使用される)は、水相および水不混和性相を表すように理解される。「水不混和性相」という用語は水相と不混和性のあらゆる液体を記述するために使用される。本明細書で使用される「水相(Water phase)」および「水相(aqueous phase)」は同義で使用することができる。
【0101】
本明細書で使用される「活性種」および「電気化学的活性種」という用語は、電気化学反応の反応物である化合物(荷電化合物、中性化合物およびラジカルなどを含む)を意味する。電気化学的活性種の反応は少なくとも部分的に電気化学セル内を流れる電荷の生成に寄与し、かつその結果として電流の生成に寄与する。
【0102】
「酸化還元活性有機種」という用語は、電気化学反応において還元または酸化される有機の電気化学的活性種を意味する。酸化還元活性有機種の反応は少なくとも部分的に電気化学セル内を流れる電荷の生成に寄与し、かつその結果として電流の生成に寄与する。例えば、J.Winsberg,T.Hagemann,T.Janoschka,M.D.Hager,U.S.Schubert,Angew.Chem.Int.Ed.2017,56,686;P.Leung,F.C.Walshら,Journal of Power Sources,2017,360,243-283;X.Weiら,ACS Energy Lett.2017,2,9,2187-2204を参照されたい。
【発明を実施するための形態】
【0103】
本発明は少なくとも部分的に、1)水相を含むマイクロエマルションはバルク水の電気化学的安定性窓、すなわち1.23V超を超える電気化学的安定性窓を有するという驚くべき発見、および/または2)電気化学的活性種の酸化還元反応が水不混和性(かつ実質的に非導電性)の相において生じるマイクロエマルションは、マイクロエマルションが電荷を電極に運んで電流を生成することができるように電荷伝導率を高める、という驚くべき発見に基づいている。
【0104】
本発明者らは、本発明のマイクロエマルション電解質組成物を電気化学セルにおいて電解質として使用し得ることをさらに証明した。本マイクロエマルション電解質組成物は1.23V超の電位差を生じる電気化学的酸化還元反応を支持することができる。
【0105】
従って本発明は、電気化学セルのための電解質としてのマイクロエマルションの新しい使用および用途に関し、より具体的には電気化学エネルギー蓄積装置(EESD)に関する。本発明はさらに、電気化学セルにおける使用に適し、その使用のために構成されており、その使用に有用または好適である新しいマイクロエマルション電解質組成物に関する。
【0106】
マイクロエマルションは、巨視的レベルで均質に見えるマイクロ不均質液体二相構造を有する。マイクロエマルションの水性および水不混和性相は、所望の動作温度(通常は室温または室温前後である)で不混和性である。マイクロエマルションは熱力学的に安定であり、従って自然発生的に(エネルギーの印加なしに)形成することができ、一旦形成されると時間が経ってもそれらの成分相に分離しない。従ってマイクロエマルションの電気化学的特性も一定であり、時間が経っても持続する。本明細書に記載されているように、マイクロエマルションはそれらのバルク状態における各相の材料と比較して驚くべき電気化学的特性をもたらす。
【0107】
「エマルション」または「乳化された電解質」は似たような命名法にも関わらずマイクロエマルションとは非常に異なることを強調すべきである。エマルションは不混和性液体の熱力学的に不安定な(動態学的に安定な)混合物である。これはマイクロエマルションとは対照的に、エマルションの2つの不混和性相は時間が経つと分離することを意味する。
【0108】
本マイクロエマルション電解質組成物は水相および水不混和性相を含む。
【0109】
好ましくは、水不混和性相は水相に分散されており、水相は連続相である(すなわちマイクロエマルションは「水中油型」マイクロエマルションである)。あるいは、なお好ましくは、水不混和性相および水相は両連続相である。あまり好ましくない実施形態では、マイクロエマルションは油中水型マイクロエマルションであってもよい(すなわち水不混和性相は連続相であり、かつ水相は分散された相である)。
【0110】
本マイクロエマルション電解質組成物の水不混和性相に好適な溶媒としては水不混和性溶媒または2種以上の水不混和性溶媒の組み合わせが挙げられる。水不混和性有機溶媒およびそれらの混合物は特に好適である。単なる一例として、本マイクロエマルション電解質組成物の水不混和性相に好適な溶媒の非限定的なリストは、脂肪族溶媒(例えば、ヘキサン、シクロヘキサンなどの環式および非環式、分岐鎖状および非分岐鎖状アルカンおよび石油エーテル、アルケン、アルキン)、芳香族溶媒(例えばベンゼン、トルエン、p-キシレン、1,2-ジクロロベンゼン)、ハロゲン化溶媒(例えばジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン)、エーテル溶媒(例えばジエチルエーテル、ジフェニルエーテル)、アセトフェノンなどのケトン溶媒、安息香酸エチル、酢酸エチルなどのエステル、またはそれらの組み合わせを含む。
【0111】
本マイクロエマルション電解質組成物の水相のための好ましい溶媒は水である。他の水相としては水とメタノールおよびエタノールなどの水混和性溶媒との組み合わせが挙げられる。明らかに、本マイクロエマルション電解質組成物の水相は水不混和性相と不混和性でなければならない。
【0112】
本マイクロエマルション電解質組成物中での水相と水不混和性相との相対的割合は当然のことながら、本マイクロエマルション電解質組成物を構成する成分の混合物(例えば水相、水不混和性相ならびに両親媒性物質、塩および電気化学的活性種などのあらゆる他の化合物の存在)の全体的な熱力学的安定性によって限定される。本組成物がマイクロエマルションとして存在するのに熱力学的に好ましい各相の相対的割合に対して、自然な限界が存在する。水中油型マイクロエマルションまたは両連続相マイクロエマルションを達成するための各相の相対的割合に対してさらなる自然な限界が存在する。各相の相対的割合は理論的に、あるいは当業者による日常的な実験法によって決定してもよい。
【0113】
本発明のマイクロエマルション電解質組成物のための水相と水不混和性相との相対的割合としては、マイクロエマルションが形成されるそのありとあらゆる割合および範囲が挙げられる。水中油型および両連続相マイクロエマルション系が好ましいため、水相と水不混和性相との好ましい割合は水中油型および両連続相マイクロエマルションが得られるものである。
【0114】
水相と水不混和性相との好ましい相対的割合を決定するための要素は、溶解されている電気化学的活性種の濃度を最大化するという目的である。電気化学的活性種が水不混和性相に溶解されている場合、本マイクロエマルション電解質組成物中の水不混和性相の割合を最大化することにより本組成物中の活性種の濃度を最大化し、かつそれによりエネルギー密度を最大化する。同様に、活性種が水相に溶解されている場合、本マイクロエマルション電解質組成物中の水相の割合を最大化することにより活性種の濃度を最大化する。
【0115】
いくつかの実施形態では、本マイクロエマルション電解質組成物はマイクロエマルションの約1重量%~99重量%の水、より好ましくはマイクロエマルションの約10重量%~99重量%の水、より好ましくはマイクロエマルションの約20重量%~99重量%の水を含む。
【0116】
マイクロエマルション電解質組成物は高い水含有量または低い水含有量で調製してもよい。
【0117】
より高い割合の水相(すなわち約75重量%超)、および低い割合の水不混和性相(すなわち約10重量%未満)を有するマイクロエマルションのための電気化学的安定性窓はバルク水を大きく超えており、水性環境の電気化学的安定性窓を超える電位による電気化学反応を可能にする。
【0118】
より低い水含有量(すなわち約50重量%未満)を有するマイクロエマルションの場合、これらのマイクロエマルションは、電気化学的活性種が水不混和性相に溶解されている電気化学セルにおいて特に有用である。低い水含有量を有するマイクロエマルション電解質組成物は望ましくは油中水型組成物ではなく、より好ましくは両連続相または水中油型(実行可能な場合)のいずれかである。本発明者らによって試験されたことのある油中水型マイクロエマルションは低い導電率を有するか非導電性であり、従って電気化学セルのための電解質組成物として好適ではない。
【0119】
本マイクロエマルション電解質組成物が水中油型マイクロエマルションを含む実施形態では、本マイクロエマルション電解質組成物は好ましくは本組成物の約80重量%~約99重量%の水を含む。
【0120】
本マイクロエマルション電解質組成物が両連続相マイクロエマルションを含む実施形態では、本マイクロエマルション電解質組成物は好ましくは本組成物の約20重量%~約80重量%の水を含む。
【0121】
水相と水不混和性相との好ましい相対的割合を決定するための別の要素は、電荷伝導率を最大化するという目的である。本マイクロエマルション電解質組成物の導電率は大部分が水相によって提供され、従って水相が連続相であるマイクロエマルション電解質組成物(すなわち水中油型および両連続相マイクロエマルション)が好ましい。
【0122】
水相の導電率は電気化学的酸化還元反応が実質的に非導電性水不混和性相内で生じるのを可能にする。例えば水不混和性相が脂肪族もしくは芳香族溶媒などの有機溶媒である場合、本マイクロエマルション電解質組成物の水不混和性相は実質的に非導電性である。水不混和性相内で生じるのが観察される電気化学的酸化還元反応(例えば以下の実施例4を参照)は水相の導電率によって促進される。
【0123】
水相は、本電解質組成物のためのイオンを提供するために添加された溶解塩をさらに含んでいてもよい。溶解塩は第1族元素の塩、第2族元素の塩、遷移金属塩、アルミニウム塩またはそれらの組み合わせを含む群から選択されてもよい。溶解塩の例としては限定されるものではないが、LiCl、NaCl、KCl、LiOH、NaOH、KOH、MgSO4、MgCl2、Zn(NO3)2およびAlCl3が挙げられる。水相は溶解された第1族元素のイオン、第2族元素のイオン、遷移金属イオン、アルミニウムイオンまたはそれらの組み合わせを含んでいてもよい。溶解されているイオンの例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、銅、ニッケル、亜鉛、銀、ハロゲンイオン(例えばフッ化物、塩化物、塩素酸、臭化物、臭素酸、ヨウ化物、ヨウ素酸)、硫酸イオン、硝酸イオンおよびそれらの組み合わせが挙げられる。水相中に溶解されているイオンの濃度は0%から飽和水溶液の間であってもよい。溶解されているイオンは本マイクロエマルション電解質組成物の導電率に寄与し得るため、溶解されているイオンの濃度は可能な限り高くしてもよい。溶解されているイオンの例示的な範囲としては0~10M、より好ましくは約0.01M~5M、より好ましくは0.05M~1M、最も好ましくは約0.05M~0.5Mが挙げられる。
【0124】
本発明の実施例に示されている水中油型および両連続相マイクロエマルション電解質組成物の導電率は3~8mS.cm-1である。本マイクロエマルション電解質組成物の導電率は具体的に例示されているものを超えて高めることができることは当業者によって理解されるであろう。本マイクロエマルション電解質組成物の導電率は、本電解質組成物の水相によって可溶化されるさらなる荷電化学種を添加することによって(塩を溶解することなどによって)高めてもよい。当該塩は既に形成されていれば本マイクロエマルション電解質組成物に添加してもよく、あるいは本マイクロエマルション電解質組成物の調製の前に水性成分に添加してもよい。
【0125】
本マイクロエマルション電解質組成物は、電流が電解質を通って流れるのを可能にするのに十分な導電性を有するものでなければならない。本マイクロエマルション電解質組成物は好ましくは0.1mS.cm-1超、好ましくは1mS.cm-1超、好ましくは3mS.cm-1超、好ましくは5mS.cm-1超または0.1~12mS.cm-1、好ましくは1~12mS.cm-1、好ましくは3~10mS.cm-1の導電率を有する。
【0126】
マイクロエマルションは1種以上両親媒性物質を含んでいてもよい。両親媒性物質は界面活性剤、補助界面活性剤または共溶媒であってもよい。マイクロエマルション電解質組成物の調製に好適な界面活性剤および補助界面活性剤は当該技術分野で知られている。好適な界面活性剤の例としてはアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、双性イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤が挙げられる。好ましい界面活性剤の例としてはTriton X-100、塩化セチルトリメチルアンモニウム(CTAC)、塩化セチルピリジニウム(CPC)、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)およびラウリルエーテル硫酸ナトリウム(SLES)が挙げられる。好適な補助界面活性剤または共溶媒の例としては、C2~C6アルコールなどの脂肪族アルコールおよびC2~C6アルキルアミンなどのアミンが挙げられる。本発明のための好ましい補助界面活性剤および/または共溶媒としてはエタノール、プロパノール、ブタノールおよびペンタノールが挙げられる。
【0127】
本マイクロエマルション電解質組成物は溶解された電気化学的活性種を含むか、あるいはそれを含むように構成されていてもよい。電気化学セルにおける電気化学的活性種の反応は電荷の流れを生じさせ、その結果として電流を生じさせる。特に本マイクロエマルション電解質組成物は酸化還元活性有機種を含んでいてもよい。
【0128】
本マイクロエマルション電解質組成物は水性および水不混和性相を含むため、本組成物は広い範囲の極性および溶解度にわたって電気化学的活性種および酸化還元活性有機種を溶解することができる。本組成物は、水相、水不混和性相または両方に可溶な電気化学的活性種を含んでいてもよい。本マイクロエマルション電解質組成物に溶解することができる電気化学的活性種の例としては、塩(有機および無機)、中性有機分子、安定な有機ラジカル、油溶性の金属ベースの化合物、有機金属化合物が挙げられる。マイクロエマルションに溶解することができる酸化還元活性有機種の具体例としては、フェロセン、(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)オキシル(TEMPO)、フェノチアジン、ジメトキシベンゼン、メナジオンおよび2,1,3-ベンゾチアジアゾールが挙げられる。本マイクロエマルション電解質組成物が電気化学セルに、特にレドックスフロー電池のために使用される場合、本組成物中の酸化還元活性種の濃度は好ましくは最大化される。水または水溶液に不溶性である電気化学的活性種のために、電気化学的活性種が可溶である水不混和性相溶媒が選択される。
【0129】
例えば、本発明者らはマイクロエマルション電解質組成物中にフェロセンを用いるレドックスフロー電池において電気化学反応を行った(実施例4および
図13~
図23を参照)。フェロセンは水に不溶性であり、これはフェロセンの電気化学反応が本マイクロエマルション電解質組成物の水不混和性相において生じることを示している。これは、本マイクロエマルション電解質組成物が水性溶媒に可溶でない有機(有機金属を含む)成分を可溶化することができること、およびそのような成分が極性およびイオン性成分と同じ電解質組成物中に同時に存在することができることを示している。
【0130】
本マイクロエマルション電解質組成物はバルク水の電気化学的安定性窓(1.23V)を超える電気化学的安定性窓を有する。好ましくは、本マイクロエマルション電解質組成物の電気化学的安定性窓は1.5V超、好ましくは2V超、好ましくは2.5V超、好ましくは3V超、好ましくは3.5V超、好ましくは4V超である。
【0131】
好ましくは、室温および海面気圧でグラッシーカーボン作用電極、白金対電極およびAg/AgCl参照電極を用いる実験において、本マイクロエマルション電解質組成物は-0.25Vよりも負である、より好ましくは-0.5Vよりも負である、より好ましくは-1Vよりも負である、より好ましくは-1.5Vよりも負である、最も好ましくは-2Vよりも負である電圧で安定である(すなわち劣化しない)。本マイクロエマルション電解質組成物は好ましくは1.25V超、より好ましくは1.5V超、より好ましくは2V超、より好ましくは2.25V超の正の電圧でも安定である(すなわち劣化しない)。
【0132】
本マイクロエマルション電解質組成物の水不混和性相は使用時に劣化しないことが好ましい。特に、水不混和性相は使用時に安定であり、かつ/または電気化学的に劣化しないことが好ましく、例えば水不混和性相が-2V~+2.5Vの電位(Ag/AgCl参照電極、海面において周囲温度)で安定であることが好ましい。好ましくは、水不混和性相の電気化学的安定性窓は1.5V超、好ましくは2V超、好ましくは2.5V超、好ましくは3V超、好ましくは3.5V超、好ましくは4V超である。同様に、マイクロエマルション中に存在するあらゆる両親媒性物質が使用時に劣化しないことが好ましい。特に両親媒性物質は安定であり、かつ/または使用時に電気化学的に劣化しないことが好ましく、例えば両親媒性物質が-2V~+2.5Vの電位(Ag/AgCl参照電極、海面において周囲温度)で安定であることが好ましい。
【0133】
上の記載から、本マイクロエマルション電解質組成物中の各成分(例えば、水相、水不混和性相、塩、両親媒性物質および電気化学的活性種)の量は本組成物の導電率、本組成物の電気化学的安定性窓および電気化学的活性種の溶解度などのパラメータを最適化するように構成または調整し得ることは明らかであろう。そのような最適化は日常的な実験法の問題であり、本発明の範囲内である。
【0134】
さらなる態様では、本発明のマイクロエマルション電解質組成物を含む電池セルなどの電気化学セルが提供される。
【0135】
好ましい実施形態では、電気化学セルは本マイクロエマルション電解質組成物と接触している実質的に疎水性または親油性の表面を有する電極を備える。疎水性または親油性の電極の例としては、グラッシーカーボンおよびグラファイト電極などの炭素電極が挙げられる。非疎水性もしくは非親油性電極の表面はその表面が疎水性または親油性になるように処理されていてもよい。これらの特徴を有する好適な電極は当業者によく知られているであろう。
【0136】
電気化学セルはあらゆる種類の電池に好適であってもよい。電気化学セルはイオン電池またはフロー電池であってもよい。好ましくは、電気化学セルはリチウムイオン電池、マグネシウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、アルミニウムイオン電池またはレドックスフロー電池であってもよい。
【0137】
電気化学セルがフロー電池またはレドックスフロー電池である場合、本マイクロエマルション電解質組成物をアノード液、カソード液または両方として使用してもよい。アノード液およびカソード液のための本マイクロエマルション電解質組成物は本組成物の導電率、本組成物の電気化学的安定性窓および電気化学的活性種の溶解度などのパラメータを最適化するように構成されていてもよい。従って、アノード液およびカソード液は実質的に同じ製剤(電気化学的活性種の同一性を除く)を有するマイクロエマルション電解質組成物を含んでいてもよく、あるいはアノード液およびカソード液は異なる製剤を含んでいてもよい。
【0138】
本発明のマイクロエマルション電解質組成物は当業者によく知られているマイクロエマルションを調製する公知の方法に従って調製してもよい。本発明のマイクロエマルションは個々の成分の組み合わせによって調製してもよい。マイクロエマルションは熱力学的に安定しているため、自然発生的に形成することができる。但し、マイクロエマルションが適切に短時間で形成するようにマイクロエマルション成分の撹拌を行ってもよい。例えば1つに合わせた成分を撹拌、振盪または超音波処理によって掻き混ぜてもよい。
【0139】
本発明のマイクロエマルションは界面活性剤、共溶媒および/または補助界面活性剤などの両親媒性物質を必要としてもよい。好ましい両親媒性物質は上に記載されており、選定した両親媒性物質が実施例で使用されているが、本発明はこれらの特定の化合物に限定されない。当業者によって理解されるように、両親媒性物質の選択は、所望のマイクロエマルションの種類(水中油型、両連続相または油中水型)ならびに本マイクロエマルション電解質組成物中の成分の具体的な同一性および割合に依存している。
【0140】
本マイクロエマルション電解質組成物は周囲条件下で調製してもよく、本マイクロエマルション電解質組成物を含む電池も周囲条件下で調製してもよい。すなわち、室温および周囲湿度、酸素、二酸化炭素および他の大気成分の存在下で調製してもよい。
【0141】
本マイクロエマルション電解質組成物は、リチウムイオン電池、マグネシウムイオン電池、ナトリウムイオン電池およびアルミニウムイオン電池などの金属イオン電池などの電気化学セルにおいて電解質として有用である。本マイクロエマルション電解質組成物は1.23V超の動作電位を可能にすると共に、さらに金属イオン電池で使用される金属イオンの溶解を可能にする。
【0142】
本マイクロエマルション電解質組成物はレドックスフロー電池などのフロー電池においても電解質として有用である。本マイクロエマルション電解質組成物はカソード液および/またはアノード液として使用してもよい。
【0143】
電池は公知の方法に従って本発明のマイクロエマルション電解質組成物を用いて調製してもよい。例えば、電池はグラファイトおよび/または五酸化バナジウムを含む電極、任意の種類(鋼など)の集電装置、ならびにプラスチックまたは金属などの任意の好適な材料の本体を用いて作製してもよく、これらは当業者には容易に明らかであろう。
【0144】
イオン電池は本発明のマイクロエマルション電解質組成物を用いて周囲条件下で構築してもよい。例えば第1の集電装置を本体(例えばプラスチックセル)の中に配置する。第1の電極を電極の活性材料が内部に面している状態で集電装置の上に配置する。ガラス極小繊維フィルターを大きさに合わせて切断し、次いでセパレーターとして機能するように第1の電極の上に配置する。小型の電池のために、本発明の約0.1mL~約1mLの電解質をガラス極小繊維の上に追加した後、第2の電極をその活性材料が当該セルの内部に面した状態で当該セルの中に配置する。次いで第2の集電装置を第2の電極の上に配置する。これらの構成要素を固定し、例えば閉じられるセルをネジで締めることにより当該セルを閉じる。
【0145】
同様に本発明のマイクロエマルション電解質組成物を用いてフロー電池を構築してもよい。例えば、本マイクロエマルション電解質組成物をフロー電池においてカソード液および/またはアノード液として使用してもよい。そのようなカソード液および/またはアノード液は酸化還元活性有機種などの溶解された電気化学的活性種を含む。フロー電池の活性化により酸化還元活性有機種をフロー電池において反応させて電荷の流れおよび電流を生成する。
【0146】
スーパーキャパシタを同様に本発明のマイクロエマルション電解質組成物を用いて構築してもよい。スーパーキャパシタは典型的にはその2つの電極の間に位置するイオン透過性セパレーターによって分離された本マイクロエマルション電解質組成物と接触している2つの高表面積電極(アノードおよびカソード)を備える。これらの電極の表面と接触している本マイクロエマルション電解質組成物は電荷を蓄積するための電気二重層を形成する。
【実施例】
【0147】
実施例1:電解質組成物の調製
以下の方法に従ってマイクロエマルション試料を調製した。
【0148】
各マイクロエマルション試料は水性成分および水不混和性成分、任意に界面活性剤および/または任意に補助界面活性剤を含んでいた。各マイクロエマルション試料の成分が表1に示されている。
【0149】
水不混和性成分および補助界面活性剤が添加されたエルレンマイヤーフラスコに界面活性剤を秤量した。この混合物を徹底的に撹拌して均一なスラリーを形成し、次いで水性成分を添加した。この混合物は濁っていて白色であり、これを超音波浴中で超音波処理すなわち撹拌すると、透明のマイクロエマルションが形成された。
【0150】
ME1は、F.M.&Elrington,A.R.“Organic reactivity in microemulsion systems(マイクロエマルション系における有機反応性)”,J.Am.Chem.Soc.113,9621-9624(1991)に記載されている方法に従って調製し、ME2、ME3、ME5、ME12およびME13を調製する方法はこの開示に基づいていた。ME2bは、Lang,Djavanbakht,Zana,“Ultrasonic absorption study of microemulsions in ternary and pseudoternary systems(三元および擬三元系におけるマイクロエマルションの超音波吸収研究)”,J.Phys.Chem.,1980,84(12),pp1541-1547に記載されている方法に従って調製した。ME6は、Sun,Bら“A surfactant-free microemulsion consisting of water,ethanol,and dichloromethane and its template effect for silica synthesis(水、エタノールおよびジクロロメタンからなる界面活性剤非含有マイクロエマルションおよびシリカ合成のためのそのテンプレート効果)”,J. Colloid Interface Sci.526,9-17(2018)に記載されている方法に従って調製した。ME10は、Mukherjee,K.,Mukherjee,D.C.&Moulik,S.P.“Thermodynamics of Microemulsion Formation(マイクロエマルション形成の熱力学)”,J.Colloid Interface Sci.187,327-333(1997)に記載されている方法に従って調製した。ME11は、Gorel,F.“Assessment of agar gel loaded with microemulsion for the cleaning of porous surfaces(多孔性表面の清浄のためのマイクロエマルションが負荷された寒天ゲルの評価)”,CeROArt Conserv.Expo.Restaur.D’Objets D’Art(2010)に記載されている方法に従って調製した。
【0151】
溶解塩を含むマイクロエマルション(例えばME6)のために、必要とされる量の塩の重さを測り、調製したマイクロエマルションに添加した。
【0152】
実施例2:マイクロエマルションの電気化学的安定性窓
グラッシーカーボン作用電極、白金対電極およびAg/AgCl参照電極を用いるMetrohm Autolab PGSTAT302ポテンショスタットを用いて、各試料のサイクリックボルタンメトリー分析を行った。100mV/sの走査速度を使用した。
【0153】
各試料のボルタモグラムが
図1~
図11に示されている。
【0154】
各マイクロエマルション試料の電気化学的安定性窓をカソードおよびアノード反応のそれぞれの開始電位(電流が上昇または低下し始める電位)間の電位差として決定した。各マイクロエマルション電解質組成物試料の電気化学的安定性窓は表1に示されている。
【0155】
図12は、Ag/AgClに対して約1.25VのO
2発生のための開始電位(電流が上昇または低下し始める電位)およびAg/AgClに対して約-1VのH
2発生のための開始電位を有する、0.1MのKCl水溶液のサイクリックボルタモグラムを示す。マイクロエマルションの大部分(ME6およびME10を除く)は、マイクロエマルション組成に応じて1.25Vよりも高いO
2発生のための開始電位を示す。H
2発生のための開始電位も、この場合もマイクロエマルション組成に応じて-2.0V~-2.5Vの範囲で-1.0Vよりも低い。なお開始電位はpHの差ならびに参照電極間の差などの因子により電解質間で異なってもよい。従って単なる比較では、例えば電解質の還元反応開始電位はそれらの電解質の電気化学的安定性窓に関する有意義な情報を提供することはできない。還元および酸化開始電位の両方が分かっている場合に2つの差により電気化学的安定性窓が得られるため、開始電位は電解質組成物の電気化学的安定性のために有意義なものになる。実施例のマイクロエマルションの場合、電気化学的安定性窓は0.1MのKCl水溶液のための窓よりも著しく広い(例えば、KCl水溶液の2.25Vと比較してME1では最大約4.5V)。
【0156】
実施例3:マイクロエマルションの導電率
ECTestr11(Eutech Instruments社)導電率計を用いて全ての試料の導電率試験を行った。Enviroquip導電率較正標準(25℃で1413μS/cm)を用いて当該装置を較正した後に測定を行った。各マイクロエマルション試料の導電率測定値は表1に示されている。
【表1】
【0157】
実施例4:マイクロエマルションにおける電気化学実験法
各マイクロエマルション試料のためにフェロセンの量を測り、水不混和性相成分の中に溶解して油相において100mM濃度を達成した後に、実施例1に係るマイクロエマルションを調製した。
【0158】
グラッシーカーボン作用電極、白金対電極およびAg/AgCl参照電極を用いるMetrohm Autolab PGSTAT302ポテンショスタットを用いて、各試料のサイクリックボルタンメトリー分析を行った。100mV/sの走査速度を使用した。
【0159】
試料のそれぞれの中のフェロセンのボルタモグラムが
図13~
図23に示されている。
【0160】
フェロセンの酸化還元反応は以下のように解釈することができる:順方向走査(0V~より大きい正の電圧)の間に、フェロセン(Fc)は1つの電子の酸化によりフェロセニウム(Fc+)に酸化され、これは電位Epcにおけるカソードピーク電流(ipc)の形態で認めることができる。逆方向走査の間に、この場合も1つの電子の還元によるFc+のFcへの還元が電位Epaにおけるアノードピーク電流ipaの形態で認めることができる。Fc/Fc+の酸化還元電位はそれによりEpaおよびEpcの平均として定め、酸化還元プロセスの可逆性は比ipa/ipcに換算して定める(完全に可逆的なプロセスの場合、この比は1である)。
【0161】
各試料におけるFc/Fc+対のための酸化還元電位は約0.3Vであり、ピーク電流比は1に近く、これは可逆的な電子移動を示している。
【0162】
実施例5:電池の構築
実施例1のマイクロエマルション電解質組成物を含む電池を周囲条件下で卓上で調製した。Whatman(商標)ガラス極小繊維フィルターをセパレーターとして使用した。当該セルは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)体および当該セルを一緒に挟む鋼製集電装置を用いて作製した。0.1mL~0.2mLの本電解質組成物を各セルに追加した後に最後の層を追加した。
【0163】
電池で使用される電極は熱分解性グラファイトシート(MTI社から購入)および熱分解性グラファイトシート上にドクターブレードで塗布したV2O5スラリーから作製した。V2O5スラリーは85重量%のV2O5、9重量%の超導電性カーボン(Super P)および6%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)バインダーを用いて調製した。N-メチルピロリドン(NMP)を溶媒として使用した。このスラリーを熱分解性グラファイトシート上にブレードで塗布し、次いでこのシートを真空乾燥器内で120℃で一晩加熱して溶媒を完全に蒸発させた。
【0164】
マイクロエマルション電解質組成物から、
・水相が0.5moldm-3のMgSO4であるME1
・水相が0.1moldm-3のNaClであるME2
・水相が0.1moldm-3のLiClであるME2
・水相が0.1moldm-3のAlCl3であるME2
を含む電池電解質を調製した。
【0165】
実施例5に従って調製した電池を10mAg
-1の電流密度においてNeware電池分析装置BTS3000で試験し、
図24~
図27に示されている電圧間でサイクルさせた。全ての実験を室温で行った。各電池のクロノポテンショグラムが
図24~
図27に示されている。
図24~
図27は規則的な充電-放電挙動を示しており、セルの動作中に水の分解が生じないことを示している。
【0166】
比較のために、
図28は水性電解質を含む(マイクロエマルションを含まない)マグネシウムイオン電池のクロノポテンショグラムを示す。
図28は、電位が約0.7Vまで上昇し、次いで多くの急激な増加により不規則に上昇し、かつ最大1V弱まで低下した後、再び僅かに低下することを示している。このセルは電荷がセルの中に絶えず流れているにも関わらず当該電池分析装置の1Vの上限カットオフに到達することができなかった。曲線におけるスパイクおよびディップは、当該電池が充電を行っておらず、かつ当該セル内でいくつかの他のプロセス(最も可能性が高いのは電解質分解)が進行していることを示している。これは電解質がマイクロエマルション電解質組成物である場合にはセルにおいて観察されず(例えば
図24~
図27)、ここでは曲線はより滑らかであり、これは水性セルの挙動とは対照的に規則的な充電-放電挙動を示している。
【0167】
実施例6:レドックスフロー電池の構築および試験
本明細書に記載されているマイクロエマルション電解質組成物の有効性を、実験室規模の従来のフロー電池アセンブリを用いたレドックスフロー電池系において調べた。
【0168】
炭素布電極、アルミニウム金属製のインターディジタル型フロープレート付き集電装置およびCelgard4560セパレーターを備えたレドックスフロー電池を作製した。Masterflex Tygon(E-3603)管に繋がれたSchenzen社から購入した蠕動ポンプを用いて電解質(カソード液およびアノード液)の流れを達成した。
【0169】
電気化学的活性種をマイクロエマルション組成物ME2(表1を参照)に添加することにより、レドックスフロー電池のためのカソード液およびアノード液組成物を調製した。この試験のために、以下の表2に示されているいくつかの異なる酸化還元活性有機種を使用した。各試験のために、アノード液およびカソード液はME2マイクロエマルション中に10mMの活性種からなっていた。
【表2】
【0170】
上の表2を参照すると、フェロセンは有機金属酸化還元活性有機種である。メナジオンは中性有機分子酸化還元活性有機種、具体的にはキノンである。TEMPOは安定な有機ラジカルである。フェノチアジンは中性酸化還元活性有機種である。ジメトキシベンゼンは中性酸化還元活性有機種である。2,1,3-ベンゾチアジアゾールは別の中性酸化還元活性有機種である。フェノチアジンおよびジメトキシベンゼンは異なる置換基で置換することができ、かつ各化合物はフェノチアジンおよびジメトキシベンゼンのクラスの一部であることに留意されたい。
【0171】
各試験において、それぞれ50mLのアノード液およびカソード液を20mL/分の一定流量で使用した。レドックスフロー電池の充電/放電試験を10mAの電流を用いてガルバノスタットモードで行った。電圧を0V~1Vのカットオフ内に設定した。試験番号1の電池セルのクロノポテンショグラムは
図29に示されており、これは規則的な充電-放電挙動を示している。
【0172】
図29は、本マイクロエマルション電解質組成物が酸化還元活性有機種の酸化および還元反応のための導電性媒体として機能することができ、かつ従ってレドックスフロー電池電解質として使用することができることを示している。0.7V前後に特徴的な充電および放電プラトーが存在する。
【0173】
図29は、本マイクロエマルション組成物がこのアセンブリの典型的なレドックスフロー電池から予測されるiR降下(充電の終了時と放電の開始時との電圧差)を有することを示しているため、本マイクロエマルション組成物が電解質として良好な導電率を有することをさらに示している。観察されるiR降下は典型的には膜およびセル抵抗性に由来するものであり、電解質に由来するものではない。
【0174】
フェロセンまたはメナジオンはどちらも水に可溶でないため、これらの酸化還元活性有機種は本マイクロエマルション電解質組成物の水不混和性相に溶解されていると推測されるが、規則的な充電/放電挙動がなお観察される。従って
図29は、電気化学的に活性な油相を有することにより本マイクロエマルション電解質組成物が酸化還元活性有機種を溶解することができ、かつその電気化学反応を促進するというさらなる証拠である。
【0175】
実施例7:イオン電池の構築および試験
本明細書に記載されているマイクロエマルション電解質組成物の有効性をイオンセル系において調べた。本明細書に記載されている電解質、アノード、カソード、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)体、グラッシーカーボン集電装置およびガラス極小繊維セパレーターを備えたSwagelokセルの中にイオン電池を構築した。
【0176】
以下の方法に従ってアノードを調製した:255mgのTiO2粉末(Degussa社、P-25)、27mgの超導電性カーボン(Super P)および18mgのポリフッ化ビニリデンをN-メチルピロリドン(NMP)と1つに合わせて厚いスラリーを形成した。次いでこのスラリーを熱分解性グラファイトシート(MTI社)上にドクターブレードで塗布し、真空乾燥器内で120℃で12時間乾燥した。
【0177】
セル1~3のために、以下の方法に従ってカソードを調製した:周囲条件下で激しく撹拌しながら水の中で等モル量のFeCl3およびフェリシアン化カリウム(K3[Fe(CN)6])を1つに合わせることによってプルシアンブルーを調製した。この混合物を乾燥し、得られた固体を粉砕した。255mgのプルシアンブルー粉末、27mgの超導電性カーボン(Super P)および18mgのポリフッ化ビニリデンをN-メチルピロリドン(NMP)と1つに合わせて厚いスラリーを形成した。次いでこのスラリーを熱分解性グラファイトシート(MTI社)上にドクターブレードで塗布し、真空乾燥器内で120℃で12時間乾燥した。
【0178】
セル4~6のために、実施例5に記載されている方法に従ってV2O5カソードを調製した。
【0179】
セル5のために、MoS2カソードおよびグラファイトアノードを使用した。
【0180】
以下の方法に従ってマイクロエマルション電解質(ME14)を調製した:65.7重量%の蒸留水、24.3重量%のTriton X-100(t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)および10重量%のシクロヘキサンを1つに合わせ、約1時間超音波処理し、次いでそのまま一晩撹拌し続けた。ME14に10重量%のビス(2-メトキシエチル)エーテル(ダイグライム)を添加した。従ってこのマイクロエマルションの最終組成は、59.7重量%の蒸留水、22.1重量%のTriton X-100、9.1重量%のシクロヘキサンおよび10重量%のダイグライムである。
【0181】
セル1~3のために、対応する金属塩化物塩をME14に添加して1mol/kgのカチオン濃度を得た。セル4のために、LiClをME14に添加して0.1mol/kgの濃度を得た。セル5のために、MgCl2をME14に添加して0.1mol/kgの濃度を得た。
【0182】
従って、構築したセルは表3に記載されている組成を有する。
【表3】
【0183】
0.1mL~0.2mLの電解質組成物を各セル構築物に追加した後に最後の層を追加した。
【0184】
充電/放電
図30~
図42はセル1~5の充電-放電挙動を示す。セル1~3、5~6は50mA/gの電流密度においてNeware電池分析装置BTS3000で試験した。セル4は10mA/gの電流密度において試験した。セルは0V~約2.0V(正確な上限カットオフ範囲はセルに応じて1.9V~2.2Vであった)で、100mA/gの一定の充電および放電電流で動作させた。全ての実験を室温で行った。
【0185】
図30~
図33はセル1(KCl)の分析を示す。
図34および
図35はセル2(CaCl
2)の分析を示す。
図36および
図37はセル3(NaCl)の分析を示す。
図30~
図37に示されているセル1~3の試験は2V超での動作にも関わらず水分解の証拠を示さなかった。
図30、
図32、
図34~
図36の充電-放電曲線の形状は酸化還元反応がセルにおいて生じることを示している。名目上のセル電圧(充電および放電曲線がおよそ交差する場所とみなす)は理論上の1.23Vの水分解電位を十分に超えている約1.7Vである。
【0186】
図38~
図41はセル4(LiCl)の分析を示す。このセルは140mAh/g超の容量を示す。名目上のセル電圧は約0.7Vである。それが2.4Vまで充電されているとしても水分解の証拠は存在しない。
【0187】
【0188】
複数のサイクルにわたって規則的な充電-放電挙動が観察され、これは水分解がセルの動作中に生じていないことを示している。例えばこれらの図は、セル1~5が30サイクルにわたってそれらの充電および放電容量を保持していることを示している。
【0189】
サイクリックボルタンメトリーデータ
セル4(ME14中に1.0mol/kgのLiCl)およびセル6(ME14対照)のサイクリックボルタンメトリー分析(Ag/AgCl参照電極)をMetrohm Autolab PGSTAT302ポテンショスタットを用いてを行った。100mV/sの走査速度を使用した。ボルタモグラムは
図43~
図45に示されている。
【0190】
セル4のV2O5電極のために、このセルを-1.5V~2.0V(Ag/AgClに対して)で分析した。セル4のTiO2電極のために、このセルを-1.0~1.5V(Ag/AgClに対して)で分析した。各電極の分析はこの範囲において水分解が生じないことを示している。これらの測定値をセル6(他の溶解塩を含まないME14の対照マイクロエマルション)のサイクリックボルタンメトリー測定値と比較し、これによりセル4において観察される電気化学反応はリチウムの作用によるものであり、セル6は静電容量のみを示し、電気化学的活性を示していないことを確認した。
【0191】
実施例8:スーパーキャパシタ
本明細書に記載されているマイクロエマルション電解質組成物を含むスーパーキャパシタを構築して分析した。
【0192】
以下のように電極を調製した:NMPが0.05gのPVDF(約2mL)を完全に溶解するまでそれを滴下することにより、70重量%のゼオライトスラリー溶液を調製した。この溶液に0.10gのカーボンブラックおよび0.35gの4Åモレキュラーシーブを添加し、これは粘性の黒色のスラリーを形成した。次いでこのスラリーを熱分解性グラファイトシート(MTI社)上にドクターブレードで塗布し、真空乾燥器内で120℃で12時間乾燥してゼオライト電極を形成した。
【0193】
ゼオライト電極(アノードおよびカソードの両方として)、グラッシーカーボン集電装置、1mol/kgのKClを含むME14の電解質組成物、ガラス極小繊維セパレーターおよびポリエーテルエーテルケトン(PEEK)体を備えたスーパーキャパシタを組み立てた。
【0194】
このスーパーキャパシタを500サイクルまで100mA/gにおいて0~2Vの間でサイクルさせた。
図46~
図48に示すように、このスーパーキャパシタは約4.5mAh/gの可逆的な容量(
図46および
図47)および約98%のクーロン効率(
図48)を有する。電圧容量曲線(
図46)の形状は純粋に容量性のプロセスを示している。静電容量を計算すると約16.7F/gであった。
【0195】
本発明を例として説明してきたが、当然のことながら特許請求の範囲に定められている本発明の範囲から逸脱することなく変形および修正を行うことができる。さらに、具体的な特徴に対して公知の均等物が存在する場合、そのような均等物は本明細書に具体的に言及されているかのように組み込まれる。本明細書に記載されている具体的な組成物および方法は好ましい例の代表であり、かつ例示的なものであり、本発明の範囲に対する限界として意図されていない。他の態様および実施例は本明細書を考察すれば当業者によって想到され、特許請求の範囲によって定められている本発明の趣旨の範囲内に包含される。本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく本明細書に開示されている発明に対して様々な置換および修正を行い得ることが当業者には容易に明らかになるであろう。例示的に本明細書に記載されている発明は、不可欠なものとして具体的に開示されていない1つ以上のあらゆる要素または1つ以上の限定の非存在下で適宜実施することができる。従って例えば、本明細書に記載または使用されている各事例、すなわち本発明の実施形態または実施例において、「~を含む(comprising)」、「本質的に~からなる」および「~からなる」という用語はいずれも本明細書においてその他の2つの用語のいずれかと置き換えてもよい。また「~を含む(comprising)」、「~を含む(備える)(including)」、「~を含む(含有する)(containing)」などの用語は広く、かつ限定されることなく解釈されるべきである。本明細書に例示的に記載されているアッセイおよび方法は適宜異なる工程順序で実施してもよく、それらは必ずしも本明細書または特許請求の範囲に示されている工程順序に限定されない。さらに本明細書および添付の特許請求の範囲に使用または記載されている単数形の「1つの(a)」「1つの(an)」および「その(前記)」は文脈が明らかにそうでないことを示していない限り複数の指示対象を含む。どんな状況でも本特許は具体例あるいは本明細書に具体的に開示されている実施形態または方法に限定されるものとして解釈されてはならない。
【0196】
用いられてきた用語および表現は限界の用語としてではなく説明の用語として用いられており、そのような用語および表現の使用において図示および記載されているあらゆる同等の特徴またはその一部を排除することは意図されておらず、特許請求されている発明の範囲内で様々な修正が可能であると認識される。従って当然のことながら、本発明は好ましい実施形態および任意の特徴によって具体的に開示されているが、本明細書に開示されている概念の修正および変形は当業者によって行われてもよく、そのような修正および変形は本明細書に記載されており、かつ添付の特許請求の範囲によって定められている本発明の範囲内であるとみなす。
【0197】
本発明を広くかつ一般的に本明細書に説明してきた。一般的な開示に含まれているより狭い種および亜属集団もそれぞれ本発明の一部を形成する。これは、削除事項が本明細書に具体的に記載されているか否かに関わらず、任意の主題をその属から除去するという条件または消極的限定を含む本発明の属の説明を含む。他の実施形態は以下の特許請求の範囲内である。