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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】鋼インゴットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 27/15 20060101AFI20240521BHJP
   B22D 7/00 20060101ALI20240521BHJP
   B22D 27/02 20060101ALI20240521BHJP
   C21C 7/10 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B22D27/15
B22D7/00 Z
B22D27/02 V
C21C7/10 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021553132
(86)(22)【出願日】2020-03-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-11
(86)【国際出願番号】 EP2020057771
(87)【国際公開番号】W WO2020193404
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】1950360-6
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】518424017
【氏名又は名称】オヴァコ スウェーデン アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】アンデション ヤン-エリク
(72)【発明者】
【氏名】ファーゲルルント ヨアキム
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-021230(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0288794(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0272054(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 7/00,27/02,27/04,27/15
C21C 5/52
C21D 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器(110)と、前記真空容器内に配置されたインゴット型(120)と、前記インゴット型内の液体溶鋼を撹拌するように配置された撹拌装置(130)とを含む鋳造装置(100)における鋼インゴットの製造方法であって、
液体溶鋼を提供する工程(1000)と、
前記インゴット型(120)に前記液体溶鋼を充填する工程(2000)と、
前記真空容器(110)内を減圧する工程(3000)と、
前記液体溶鋼を減圧状態で少なくとも部分的に凝固させてインゴットにする工程であって、前記液体溶鋼が、前記液体溶鋼の凝固の少なくとも一部の間、減圧状態で前記インゴット型内で撹拌される工程(4000)と
を含み、
前記インゴット型が、鋼又は鋳鉄で製造されており、
前記液体溶鋼が、Feをベースとし、所定の量の炭素と、
酸化物の形態の付随的不純物元素と
を含み、撹拌中に、前記酸化物が、前記酸化物中の酸素と前記液体溶鋼中の炭素とが一酸化炭素を生成する炭素熱反応により還元され、
前記液体溶鋼を提供する工程(1000)が、前記真空容器の外側で前記液体溶鋼を製造することを含み、
前記真空容器(110)内の圧力が1mbar以下であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記真空容器(110)内の圧力が0.1mbar以下である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
凝固した前記インゴット中のppm酸素として測定された酸化物の含有量が、3ppm未満又は0.3ppm以下又は0.1ppm以下又は0.01ppm以下である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記液体溶鋼の初期温度が1650~1500℃である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記液体溶鋼中のppm酸素として測定された酸化物の初期含有量が3ppm以上である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記真空容器(110)が閉鎖可能な開口部(112)を含み、前記インゴット型が、前記閉鎖可能な開口部(112)を介して液体溶鋼を供給することによって充填される請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記真空容器(110)内で減圧が優勢である間に、前記インゴット型が充填される請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記液体溶鋼の撹拌が、液体溶鋼が前記インゴット型の底部から前記インゴット型の頂部に向かう方向及び前記インゴット型の頂部から前記インゴット型の底部に向かう方向に輸送されるように行われる請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記撹拌装置(130)が電磁撹拌装置である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記液体溶鋼が、0.01~1.3重量%の量の炭素を含む請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記液体溶鋼が、少なくとも、重量%で、Si:0~3;Mn:0~3;Cr:0~18;Ni:0~10;V:0~2;Mo:0~3;N:0~0.4の合金元素の1種以上を含む請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋳造装置における鋼インゴットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の製鋼では、製錬炉からの溶融金属は、通常、取鍋に注がれ、そこからさらに生産工程のために金属が容器に注がれる。溶融金属は、取鍋の容量が小さい場合、取鍋の上部にあるリップから注がれてもよい。取鍋が大きい場合は、金属は取鍋の底部にある耐火性のノズルから注がれる。このノズルは、取鍋の内側から耐火物のストッパーで閉じることができる。ストッパーのない装置も広く使われている。この場合、取鍋のノズルは、耐火性のプレートで外側から閉じられる。このプレートはオリフィスを有しており、オリフィスがノズルと一致するように移動させることができ、これにより金属を流出させることができる。
【0003】
溶製鋼業界では、溶鋼が取鍋から鋳型に流し込まれる。金属は、鋳型の上部から、又は連結した流路を介して底部からのいずれかによって鋳型に流し込むことができる。前者では、鋼は、取鍋から直接鋳型に注ぎ込まれる。鋳型が満たされた後、取鍋の開口部が閉じられ、取鍋が次の鋳型に移動され、このプロセスが繰り返される。底注ぎ法では、複数の鋳型に同時に鋼を充填することができる。この場合、耐火レンガを敷き詰めた流路を持つ定盤の上に鋳型が設置される。取鍋から出た鋼は、注入管を通って定盤の流路に下り、底から鋳型に入る。使用される注湯方法は、鋼のグレード及び重量、並びにインゴットの使用目的等の要因によって異なる。
【0004】
現在の鉄鋼業界では、底注ぎの技術が最先端である。これは、複数の鋳型に同時に充填できるため、充填が容易なことが主な理由である。30年前によく使われていた頂部充填では、注出中に鋼束が空気に触れてしまうため、激しい再酸化が起こっていた。
【0005】
底注ぎ法では、鋼は、湯道レンガでも、漏斗レンガ(取鍋から底注ぎ式システムに鋼が注がれる場所)でも、セラミックに曝される。鋳型に入る鋼の再酸化を抑制するために、鋳型への充填時に鋼の表面を覆うべきモールドパウダーが使用される。凝固を制御するために、モールドパウダーの上に発熱プレートが使用されることが多い。セラミックスもモールドパウダーも、安定性の低い酸化物で構成されており、鋼によって還元されることになるため、鋼を再酸化させる傾向が強い。鋼の酸素含有量が増えると、溶鋼中の酸素と合金元素との反応、又はスラグ若しくは過去の生産工程で生じた不純物が原因で、酸化物の形態で非金属介在物が形成されることになる。
【0006】
近年、高品質な鋼の需要が高まっていることから、製鋼方法の継続的な改善が行われている。非金属介在物は後の段階に有害な影響を与え、最終的な鉄鋼製品の特性に大きな影響を与えるため、その管理には特別な関心が寄せられている。最終製品の品質は、鋼の強度又は延性によって決定されるだけでなく、介在物の量、サイズ及び化学組成の制御によっても制御される。非金属介在物の形成を制御し、その構成相を特定することは、清浄な鋼を製造するために極めて重要である。
【0007】
鋼の清浄度は、脱酸素剤及び鉄合金の添加、二次冶金処理の範囲及び順序、撹拌及び移送作業、シュラウドシステム、連続鋳造手順、様々な冶金用フラックスの吸収能力、並びに鋳造方法等を含む幅広い操作方法によって達成される。
【0008】
炭素は鋼の強力な脱酸剤であり、溶鋼中の酸素と反応して一酸化炭素(CO)を生成する。脱酸素の程度は平衡状態によって制限され、通常の大気圧(1bar(バール))では、1重量%のCを含む鋼の平衡酸素レベルは20ppmである。それゆえ、従来、より多くの酸素を化学的に結合させるために、アルミニウム等の脱酸素剤が添加される。この方法で、鋼中の酸素濃度が3ppmにまで低下することもある。
【0009】
真空に曝された鋼は「清浄化効果」を受けることになるが、これは鉄鋼業界では周知である。これは主に、真空取鍋処理又はRH脱ガス等の通常の製鋼手順で使用される。この場合、真空は主に水素及び窒素等のガスを鋼に溶けにくくするために使用され、これらのガスは、真空中に蒸発して鋼中のこれらのガスの量を減らす。真空は、VIM(Vacuum Induction Melting、真空誘導溶解)又はVAR(Vacuum Arc Remelting、真空アーク再溶解)等の様々な再溶解手順にも使用される。真空を「清浄化手順」として使用することの有益な効果は十分に確立されている。
【0010】
さらに、真空状態での超合金の鋳造に関する研究も行われている。例えば、[Wenzhong Jin、Tingju Li、Guomao Yin:「Research on vacuum-electromagnetic casting of IN100 superalloy ingots」、Science and Technology of Advanced Materials 8(2007) 1-4]を参照。この論文では、VIM炉での超合金の2段階の製造方法について述べている。第1段階では、超合金の原料がVIM炉で溶解され、鋳造される。第2段階では、超合金がVIM炉内で再溶解されて鋼製の鋳型に鋳込まれ、そして、超合金の結晶構造を微細化するためにVIM炉内で真空下で電磁撹拌を受ける。
【0011】
この論文に記載されている製造方法では、溶解-鋳造及び再溶解-鋳造の2つのステップが統合されたVIMプロセスで行われるため、より均質な結晶構造が得られる。この論文に記載されている方法は、結晶構造の微細化を目的としているが、鋼の清浄度の向上については論じていない。また、記載されている装置構成は、工業規模での製鋼には適していない。
【0012】
従って、鋼インゴットを製造するための改良された方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】Wenzhong Jin、Tingju Li、Guomao Yin:「Research on vacuum-electromagnetic casting of IN100 superalloy ingots」、Science and Technology of Advanced Materials 8(2007) 1-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本開示の目的は、先行技術の問題の少なくとも1つを解決する鋼インゴットの製造方法を提供することである。
【0015】
特に、本開示の目的は、最小量の非金属介在物しか有さない鋼インゴットの製造方法を提供することである。
【0016】
さらに、本開示の目的は、工業規模の製造に適した、最小量の非金属介在物しか有さない鋼インゴットの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本開示によれば、これらの目的の少なくとも1つは、真空容器と、この真空容器内に配置されたインゴット型と、このインゴット型内の液体鋼を撹拌するように配置された撹拌装置とを含む鋳造装置における鋼インゴットの製造方法であって、
液体溶鋼を提供する工程と、
インゴット型に上記液体溶鋼を充填する工程と、
上記真空容器内を減圧する工程と、
上記液体溶鋼を減圧状態で少なくとも部分的に凝固させてインゴットにする工程であって、上記液体溶鋼が、上記溶鋼の凝固の少なくとも一部の間、減圧状態で上記インゴット型内で撹拌される工程と
を含み、
上記液体溶鋼が、所定の量の炭素と、
酸化物の形態の付随的不純物元素と
を含み、上記溶鋼の撹拌中に、この酸化物が、この酸化物中の酸素と溶鋼中の炭素とが一酸化炭素を生成する炭素熱反応により還元されることを特徴とする方法によって満たされる。
【0018】
本開示結果による方法の主な利点は、当該方法が溶鋼中の付随的不純物元素の非常に高度な除去を達成することである。これは、炭素が酸化物の形態の付随的不純物元素に低圧で強い影響を与えることによる。さらに、本開示によれば、鋼の清浄化はインゴット型内で凝固中に行われ、それゆえ、溶鋼に再混入(再汚染)が生じることはない。溶鋼の凝固中にインゴット型の中で、付随的不純物元素を除去することのさらなる利点は、以前は鋳造前に行われていたコストのかかる従来の製鋼工程が省略されてもよいことである。
【0019】
本開示によれば、溶鋼の凝固は、減圧雰囲気下で、すなわち、通常の大気圧(海面位で約1bar)よりも低い圧力で少なくとも部分的に行われる。溶鋼は、減圧雰囲気下で完全に凝固させてもよい。
【0020】
本開示によれば、大気圧を下げることで、溶鋼中の酸素(酸化物に結合している)と炭素との間の平衡が変化し、酸素レベルを非常に低いレベルまで下げることが可能となる。図1は、様々な含有量で、様々な大気圧(線a、b及びc)が溶鋼に作用した場合の、溶鋼中の酸素と炭素との間の1600℃での平衡状態に関する図を示す。図1に示されているように、大気圧を0.1mbarに下げることで、1%Cの溶鋼中の酸素含有量を0.004ppmにすることができる(線c)。このプロセスは通常、炭素熱反応と呼ばれ、以下に概略的に提示される。炭素熱反応では、溶鋼中に溶解している炭素(C)が、溶鋼中に含まれる固体酸化物(MeO)を還元し、一酸化炭素ガス(CO)と遊離の酸化物形成元素(Me)とが生成される。一酸化炭素はガスとして溶鋼から離れ、酸化物形成元素(Me)はその蒸気圧に応じて、溶鋼に溶解するか、蒸気として溶鋼から離れてもよい。
【化1】
【0021】
酸化物形成元素Meは、通常、例えば、合金元素として、又はセラミックの内張り(ライニング)の元素として、又はフラックスの元素として、あるいは付随的不純物の形で製鋼に使用されるような元素で構成されていてもよい。例えば、酸化物形成元素Meは、Mg、Ca、Al、Si及びMnからなる群から選択されてもよい。それらの酸化物は、従って、MgO、CaO、Al、SiO及びMnOである。
【0022】
本開示によれば、インゴット型内での溶鋼の凝固の少なくとも一部の間、溶鋼は減圧状態で撹拌される。上述したように、理論的には、0.1mbarの大気圧で酸素が0.004ppmになることが可能である。しかしながら、溶鋼中の炭素と酸素との間の反応で生成されるCOバブルに対する溶鋼の溶鋼静圧によって、脱酸素が制限される場合がある。すなわち、炭素及び酸素が溶鋼の奥深くで反応した場合、溶鋼の溶鋼静圧がCOバブルの核生成と成長を妨げる。溶鋼を撹拌することで、溶鋼静圧がCOバブルの生成が容易になるのに十分に低い表層部の下に常に溶鋼が運ばれる。
【0023】
これにより、溶鋼が本質的に完全に凝固してインゴットになるまで、溶鋼が撹拌されてもよい。撹拌は、溶鋼がインゴット型内で本質的に液体状態にあるときに、すなわち、注湯及び/又は真空の適用の直後に開始されてもよい。あるいは、溶鋼の本質的に完全な液体状態と本質的に完全な固体状態との間にある期間に、溶鋼が撹拌されてもよい。当業者は、経験及び/又は実験に基づいて適切な撹拌時間を決定してもよい。
【0024】
好ましくは、インゴット型は、型の内張りからの鋼の再混入を防ぐために、オーステナイト鋼又は鋳鉄等の鋼で製造される。従って、この鋳型にはセラミックの内張りがない。あるいは、炭素熱反応を促進するために、型の内面を炭素を含む物質でコーティングすることもできる。
【0025】
セラミックの内張りは低圧では分解する可能性があり、これは、酸素が鋼の中に入り、炭素熱反応による清浄化効果が十分に発揮されないことを意味する。しかしながら、本開示の方法では、鋼の清浄化は鋳型内の不活性な鋼の中で行われる。これにより、非常に低い圧力を使用することが可能となり、これは炭素熱反応の発生に有利となる。
【0026】
液体溶鋼は、外部、すなわち真空容器から離れた場所で製造されてもよい。溶鋼の製造には、電気炉での鋼原料の溶解、転炉での溶鋼の処理、取鍋での鋼組成の調整等、従来の製鋼方法が用いられる。既存の従来型の製鋼設備を使用することで、本開示に係る鋼インゴットの製造のコストが削減される。
【0027】
遠隔地の施設から鋼を受け取るために、真空容器は、真空容器の外側にある容器から鋼を鋳型に充填できるようにするための閉鎖可能な開口部を含んでいてもよい。
【0028】
型内の溶鋼の撹拌は、電磁撹拌装置によって達成されてもよい。この撹拌装置は、液体溶鋼を撹拌することで、液体鋼が型の底部から型の頂部に向かう方向及び型の頂部から型の底部に向かう方向に輸送されるように構成されていてもよい。これにより、COバブルの生成が促進され、従って鋼中の酸素レベルが低下する。
【0029】
好ましくは、上記方法工程の1つ以上は、凝固したインゴット中の酸化物の含有量が所定の閾値レベル未満になるように設計される。その際、酸化物の含有量は、百万分率(ppm)で測定されてもよい。測定は従来の方法で行ってもよい。溶鋼中の酸化物含有量の閾値レベルは、3ppm以下、又は0.3ppm以下、又は0.01ppm以下であってもよい。酸化物の含有量が少ないと、凝固したインゴット及びそれから製造される製品の機械的特性が向上する。
【0030】
その際、真空容器内の圧力は1mbar未満であってもよい。より好ましくは、圧力は0.1mbar以下である。圧力が低ければ低い酸素含有量が得られるが、極端に低い圧力を製造条件で実現するのは困難な場合がある。
【0031】
溶鋼の初期温度、すなわちインゴット型に注湯されるときの温度は、1650~1500℃、例えば1580~1500℃であってよい。
【0032】
溶鋼は、Feをベースとし、公称0.01~1.3重量%、例えば0.05~1.3重量%の量の溶存炭素を含んでいてもよい。この量は、公称3ppmの不純物の量に比べて極めて大きい。従って、溶鋼中の酸化物の還元を達成するのに十分な炭素が常に存在することになる。一例では、炭素の量は、溶鋼中に0.1~1.3重量%である。
【0033】
溶鋼は、以下の合金元素の1種以上を含んでいてもよい(単位:重量%)。
Si:0~3、好ましくは0.05~3;Mn:0~3、好ましくは0.05~3;Cr:0~18、好ましくは0.05~18;Ni:0~10、好ましくは0.05~10;V:0~2、好ましくは0.05~2;Mo:0~3、好ましくは0.05~3;N:0~0.4、好ましくは0.01~0.4。
【0034】
典型的には、型に充填する前の溶鋼は、約20ppm~約3ppmの酸素含有量を有する。
【0035】
当該方法は、溶鋼を事前に脱酸素処理する任意の工程を含んでもよい。これにより、溶鋼は、インゴット型に溶鋼を流し込む前に、又はその後に、事前に脱酸素処理されてもよい。事前脱酸素処理は、アルミニウムの添加等の従来の製鋼方法によって行われてもよい。事前脱酸素処理後、溶鋼は、約3ppmの酸素含有量を有していてもよい。
【0036】
本開示はさらに、本明細書にこれまで開示された方法によって製造された物体に関する。当該物体は、バー(棒)、ワイヤ、ストリップ、チューブ、リング、又はプレートであってもよい。
【0037】
本開示はさらに、低酸素含有量、すなわち、インゴット型に充填する前の液体鋼よりも低い酸素含有量のインゴットを製造するための本明細書にこれまで開示された方法の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1図1は、様々な大気圧における酸素と炭素との間の平衡状態を示す図である。
図2a図2aは、本開示の方法の工程を示す模式図である。
図2b図2bは、本開示の方法の工程を示す模式図である。
図2c図2cは、本開示の方法の工程を示す模式図である。
図2d図2dは、本開示の方法の工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本開示に係る鋼インゴットの製造方法について、より詳細に説明する。しかしながら、本開示に係る方法は、多くの異なる形態で具現化されてもよく、本明細書に記載された実施形態に限定して解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全なものとなり、当業者に本開示の範囲を十分に伝えることができるように、例示として提供されている。同じ参照番号は、説明全体を通して同じ要素を指す。
【0040】
図2aは、溶鋼を提供する第1の工程1000を示す。この溶鋼は、電気炉10でスクラップメタル等の鋼原料を溶解することを含む、従来の製鋼方法によって製造されてもよい。この溶鋼は、酸素低減のために取鍋20に注がれ、続いて精錬のために取鍋30に注がれる。取鍋30は、本開示に係る方法において、溶鋼を輸送するための容器を提供してもよい。取鍋30内の鋼の総重量は、20トン以上であってもよい。
【0041】
サブ工程1500では、図2bを参照すると、取鍋30は、真空容器110と、この真空容器内に配置されたインゴット型120と、このインゴット型内の液体鋼を撹拌するように配置された撹拌装置130とを有する鋳造装置100に搬送される。この真空容器は、鋼板から製造されてもよく、内部が外部から完全に気密及びガスタイトに遮断されるように配置されたドーム型ハウジング111を有する。この真空容器は、任意の適切な形状を有していてもよいことは明らかである。この真空容器は、真空容器の外側にある取鍋から鋳型に鋼を充填できるようにするための、閉鎖可能で気密性の高い密封可能な開口部112を含む。
【0042】
上記真空容器は、真空容器内の圧力を低下させることができる真空ポンプ(図示せず)に接続される真空開口部113をさらに含む。インゴット型113は、600×600×2000mmの寸法にオーステナイト鋼又は鋳鉄で製造されており、その頂部120で開いている。通常、この型は4.2トンのインゴットを収容してもよい。真空容器内に2つ以上のインゴット型を配置することが可能である。撹拌装置10は、電磁撹拌装置であってもよく、鋳型の底部から頂部へ、またその逆に、液体鋼を循環させるように配置されていてもよい。撹拌装置は、ABB社から市販されているORC1100/400Mシリーズのストランド撹拌装置であってもよい。
【0043】
取鍋内の液体鋼は、C:0.1%、Mn:0.2%、Si:0.2%、Cr:1.5%、残部Feの組成を有してもよい。液体鋼中の酸素含有量は、酸化物として結びついて約3ppmであってもよい。
【0044】
第2の工程2000では、図2cを参照して、インゴット型120に液体溶鋼が充填される。これは、取鍋30を真空容器の閉鎖可能な開口部122の上方に配置し、閉鎖可能な開口部を開き、その出口管31が閉鎖可能な開口部を通ってインゴット型120の頂部110に入るように取鍋を下ろすことによって達成されてもよい。その後、取鍋内の鋼は、出口管を通って型内に放出される。鋳型が満たされると、取鍋が取り外され、閉鎖可能な開口部が閉じられる。
【0045】
続いて、第3の工程3000では、図2dを参照して、真空ポンプ(図示せず)を作動させることにより、真空容器110内の圧力が低減される。圧力は、0.1mbar以下に低減されてもよい。
【0046】
次に、又は同時に、第4の工程4000で、撹拌装置130を作動させて、型内の液体鋼が循環される。撹拌は、溶鋼の少なくとも一部が凝固するまで続けられる。本寸法のインゴット型の場合、溶鋼が完全に凝固してインゴットになるまでの時間は2時間であってもよい。撹拌中、本明細書で説明したように、溶鋼中の炭素との反応により、酸素含有量が減少する。説明した実施形態では、インゴット型の側面に撹拌を適用している。しかしながら、他の位置に、例えば、鋳型の上部、又は鋳型の頂部、又は鋳型の底部に撹拌を適用することが可能である。撹拌が鋳型の複数の位置に適用されてもよい。
【0047】
図示しない後続の工程5000では、インゴットがインゴット型から取り出される。続いて、インゴットは、熱処理や、圧延、鍛造又は延伸等による、バー、ワイヤ、ストリップ、シート又はプレート等の物体への成形等、追加の作業工程に供されてもよい。これらの工程は示されていない。
【0048】
特定の実施形態を詳細に開示してきたが、これは説明のためだけに行われたものであり、限定することを意図したものではない。特に、添付の請求項の範囲内で、様々な置換、変更及び修正を行われてもよいということが企図されている。例えば、以下のようなものがある。
【0049】
上記鋳造装置は、真空容器110内で減圧が優勢である(支配している)間に、インゴット型が液体鋼で充填されるように配置されてもよい。一実施形態では、これは、鋳造装置の周囲にさらなる真空チャンバを配置することによって達成されてもよい。鋳型の充填は、取鍋を真空チャンバ内に配置し、真空チャンバ及び真空容器の両方を排気し、閉鎖可能な開口部112を介して鋳型を充填し、開口部を閉じることによって行われてもよい。
【0050】
別の実施形態では、閉鎖可能な開口部122にエアロックを設けてもよい。
【0051】
説明した代替案を組み合わせることも可能である。
【0052】
さらに、本明細書では、特定の用語が採用されることがあるが、それらの用語は、一般的かつ説明的な意味でのみ使用され、限定を目的としたものではない。さらに、本明細書で使用する場合、「comprise/comprises(含む)」又は「include/includes(含む)」という用語は、他の要素の存在を排除するものではない。最後に、請求項における参照符号は、単に明確な例として提供されているだけであり、いかなる点でも請求項の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
図1
図2a
図2b
図2c
図2d