(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】13族元素窒化物結晶層、自立基板および機能素子
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20240521BHJP
C30B 19/02 20060101ALI20240521BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20240521BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20240521BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B19/02
H01L21/20
H01L33/32
(21)【出願番号】P 2021558164
(86)(22)【出願日】2020-07-15
(86)【国際出願番号】 JP2020027467
(87)【国際公開番号】W WO2021100242
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2019210396
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】野口 卓
(72)【発明者】
【氏名】平尾 崇行
(72)【発明者】
【氏名】磯田 佳範
(72)【発明者】
【氏名】内川 哲哉
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/097102(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/038892(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/098756(WO,A1)
【文献】特開2015-096453(JP,A)
【文献】特開2002-299267(JP,A)
【文献】特開2011-162407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 19/02
H01L 21/20
H01L 33/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
13族元素窒化物結晶層からなる自立基板であって、
13族元素窒化物結晶層が、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウムまたはこれらの混晶から選択された13族元素窒化物結晶からなり、上面及び底面を有
しており、
前記13族元素窒化物結晶層を前記上面に対して垂直な方向に切った断面でカソードルミネッセンスによって観測したときに、高輝度層と低輝度層とが交互に存在しており、前記高輝度層の厚さを1としたとき、前記低輝度層の厚さが3以上、10以下であ
り、隣接する一つの前記高輝度層と一つの前記低輝度層との合計厚さが1μm以上、4μm以下であることを特徴とする、
自立基板。
【請求項2】
前記自立基板の厚さが20μm以上、3000μm以下であることを特徴とする、請求項1記載の自立基板。
【請求項3】
前記上面に対して交差する方向に向かって延びる低輝度帯を有することを特徴とする、請求項1または2記載の
自立基板。
【請求項4】
隣接する一つの前記高輝度層と一つの前記低輝度層との合計厚さの最大値と最小値との比率が1.8以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つの請求項に記載の
自立基板。
【請求項5】
前記13族元素窒化物結晶が窒化ガリウム系窒化物である、請求項1~4のいずれか一つの請求項に記載の
自立基板。
【請求項6】
前記上面が略c面であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一つの請求項に記載の
自立基板。
【請求項7】
請求項1
~6のいずれか一つの請求項に記載の自立基板および
前記13族元素窒化物結晶層上に設けられた機能層を有することを特徴とする、機能素子。
【請求項8】
前記機能層の機能が、発光機能、整流機能または電力制御機能であることを特徴とする、請求項
7記載の機能素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、13族元素窒化物結晶層、自立基板および機能素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、フラックス法によって高品質かつ大口径の窒化ガリウム結晶を育成する研究が注目されている。こうした窒化ガリウム結晶は、発光素子の他、自動車部品や半導体部品用のパワーデバイスとして期待されている。
【0003】
最近は、こうした窒化ガリウム結晶の微細構造を制御する技術研究も進展している。例えば、非特許文献1の
図5や非特許文献2の
図7(a)では、GaN(0001)面に直角な断面(GaN層の厚み方向の断面)をカソードルミネッセンス法で観察している。
【0004】
また、非特許文献3においても、GaN(0001)面に直角な断面(GaN層の厚み方向の断面)をカソードルミネッセンス法で観察しているが、一部領域に低輝度層と高輝度層とが観察可能である。
【0005】
さらに、特許文献1記載の窒化ガリウム結晶でも、GaN(0001)面に直角な断面(GaN層の厚み方向の断面)をカソードルミネッセンス法で観察しているが、厚み方向に向かって輝度がほぼ均一になっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】http://bunseki.kyushu-u.ac.jp/bunseki/media/108.pdf
【文献】Japanese Journal of Applied Physics 54, 105501 (2015)
【文献】国立大学法人大阪大学の博士論文「Naフラックス法における高速成長にむけた核発生制御」村上航介著(2017年1月)
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来技術で作製した窒化ガリウム自立基板の反りは、φ50mmにおいて典型的には100~200μmである。この反りは可能な限り低減することが望まれており、例えばφ50mmにおいて30μm以下とすることが好ましい。
【0009】
本発明の課題は、13族元素窒化物結晶層の反りを低減できるような厚さ方向の微構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、13族元素窒化物結晶層からなる自立基板を提供する。
【0011】
ここで、13族元素窒化物結晶層が、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウムまたはこれらの混晶から選択された13族元素窒化物結晶からなり、上面及び底面を有しており、
前記13族元素窒化物結晶層を前記上面に対して垂直な方向に切った断面でカソードルミネッセンスによって観測したときに、高輝度層と低輝度層とが交互に存在しており、前記高輝度層の厚さを1としたとき、前記低輝度層の厚さが3以上、10以下であり、隣接する一つの前記高輝度層と一つの前記低輝度層との合計厚さが1μm以上、4μm以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、前記自立基板および
前記13族元素窒化物結晶層上に設けられた機能層を有することを特徴とする、機能素子に係るものである。
【0013】
また、本発明は、支持基板、および
前記支持基板上に設けられた前記13族元素窒化物結晶層
を備えていることを特徴とする、複合基板に係るものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、13族元素窒化物結晶層を上面に対して垂直な方向に切った断面でカソードルミネッセンスによって観測したときに、帯状の高輝度層と帯状の低輝度層とが交互に存在しており、前記高輝度層の厚さを1としたとき、低輝度層の厚さが3以上、10以下である。このようなカソードルミネッセンスで観測可能な微構造は、ドーパントや不純物金属がリッチな薄い高輝度層と、ドーパントや不純物金属の少ない厚めの低輝度層とが交互に積層された微構造を意味している。このような微構造は、一種の超格子的構造として作用し、13族元素窒化物結晶層の物理的な反りを低減することを見いだし、本発明に到達した。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)は、支持基板1上にアルミナ層2、種結晶層3および13族元素窒化物結晶層13を設けた状態を示し、(b)は、支持基板から分離された13族元素窒化物結晶層13を示す。
【
図2】本発明に係る機能素子21を示す模式図である。
【
図3】本発明の13族元素窒化物結晶層の断面のカソードルミネッセンスによる測定結果を示す写真である。
【
図5】
図4の13族元素窒化物結晶を説明する概念図である。
【
図6】CL画像から生成したグレースケールのヒストグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(13族元素窒化物結晶層)
本発明の13族元素窒化物結晶層は、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウムまたはこれらの混晶から選択された13族元素窒化物結晶からなり、上面及び底面を有する。例えば、
図1(b)に示すように、13族元素窒化物結晶層13では上面13aと底面13bとが対向している。なお、13族元素窒化物結晶層の他の面よりも広い二つの主面を上面および底面と定義する。
【0017】
13族元素窒化物結晶層を構成する窒化物は、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウムまたはこれらの混晶である。具体的には、GaN、AlN、InN、GaxAl1-xN(1>x>0)、GaxIn1-xN(1>x>0)、GaxAlyInzN(1>x>0、1>y>0、x+y+z=1)である。
【0018】
特に好ましくは、13族元素窒化物結晶層を構成する窒化物が窒化ガリウム系窒化物である。具体的には、GaN、GaxAl1-xN(1>x>0.5)、GaxIn1-xN(1>x>0.4)、GaxAlyInzN(1>x>0.5、1>y>0.3、x+y+z=1)である。
【0019】
13族元素窒化物は、亜鉛、カルシウムや、その他のn型ドーパント又はp型ドーパントでドープされていてもよく、この場合、多結晶13族元素窒化物を、p型電極、n型電極、p型層、n型層等の基材以外の部材又は層として使用することができる。p型ドーパントの好ましい例としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、及びカドミウム(Cd)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。n型ドーパントの好ましい例としては、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)及び酸素(O)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0020】
本発明においては、13族元素窒化物結晶層を上面に対して垂直な方向Tに切った断面でカソードルミネッセンスによって観測したときに、帯状の高輝度層と帯状の低輝度層とが交互に存在しており、前記高輝度層の厚さを1としたとき、前記低輝度層の厚さが3以上、10以下である。
【0021】
すなわち、
図3に示すように、13族元素窒化物結晶層には、カソードルミネッセンスで測定したときに、相対的に明るい帯状の高輝度層と、相対的に暗い低輝度層とを有する。
図3を部分的に拡大すると、
図4の拡大写真および
図5の説明図のようになる。
【0022】
図5に示すように、13族元素窒化物結晶層13を上面13aに対して垂直な方向Tに切った断面(
図3~
図5の断面)でカソードルミネッセンスによって観測する。このとき、帯状の高輝度層5と帯状の低輝度層6とが交互に存在している。そして、高輝度層5の厚さtbを1としたとき、低輝度層5の厚さtdが3以上、10以下である。このように、高輝度層よりも低輝度層のほうが相対的にかなり厚いような繰り返し構造を有すると、13族元素窒化物結晶層の反りが抑制されることがわかった。
【0023】
すなわち、高輝度層は結晶成長時にドーパントや不純物金属が多く巻き込まれてリッチになった層であり、低輝度層は、ドーパントや不純物金属があまり巻き込まれず、発光が少なくなる。このような微構造は、一種の超格子的構造として作用し、13族元素窒化物結晶層の物理的な反りを低減する。
【0024】
こうした観点からは、高輝度層5の厚さtbを1としたとき、低輝度層5の厚さtdを3以上とする。また、tdは、10以下とするが、実際的には7以下とすることが好ましい。
【0025】
なお、高輝度層の厚さに対する低輝度層の厚さの比率が3~10の範囲を外れている場合が偶発的に存在することは否定されないが、そのような組み合わせは全体の1%以下であることが好ましい。
【0026】
また、好適な実施形態においては、隣接する一つの前記高輝度層の厚さtbと一つの低輝度層の厚さtdとの合計値tが4μm以下である。これは高輝度層と低輝度層とからなる超格子的な微構造がより一層微細であることを意味する。このように、高輝度層の厚さtbと低輝度層の厚さtdとの合計値tを4μm以下とすることによって、13族元素窒化物結晶層の反りを一層低減できる。この観点からは、一つの高輝度層の厚さと一つの低輝度層との厚さとの合計値tは3μm以下とすることがさらに好ましい。また、この一つの高輝度層の厚さと一つの低輝度層との厚さとの合計値tは、実際上は1μm以上となることが多い。
なお、高輝度層の厚さtbと低輝度層の厚さtdとの合計値tは13族元素窒化物結晶層の厚さ方向において一定値に近いことが好ましく、tの厚さ方向における最大値と最小値の比がどの部分においても1.8以下であることが好ましい。また、tの厚さ方向における最大値と最小値の比が1.5以下であることが更に好ましい。
【0027】
さらに好適な実施形態においては、13族元素窒化物結晶層の上面に対して交差する方向に向かって延びる低輝度帯を有する。例えば
図4、
図5においては、低輝度帯7が、前記上面に対して交差する方向に向かって延びている。これは結晶成長時にドーパントや不純物が疎である結晶が成長方向に向かって堆積していき、全体として帯状ないし筋状の低輝度帯7を生成させたものと考えられる。こうした低輝度帯も、13族元素窒化物結晶層の反りの低減に作用しているものと考えられる。
【0028】
こうした低輝度帯7の幅t1は、本発明の観点からは、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。また、低輝度帯7の幅t1は、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがさらに好ましい。
【0029】
また、13族元素窒化物結晶層の上面の法線と低輝度帯7との交差角度は、-30~30°が好ましく、-10~10°とすることがさらに好ましい。
好適な実施形態においては、13族元素窒化物結晶層の上面が略c面である。すなちわ、13族元素窒化物結晶はウルツ鉱結晶構造を有しており、c面、a面、m面を有している。ここで、13族元素窒化物結晶層の上面が略c面であるとは、幾何学的に厳密なc面である場合だけでなく、幾何学的に厳密なc面から10°以内傾斜している場合も含む趣旨である。
【0030】
以下、低輝度層、高輝度層および低輝度帯の測定方法を述べる。
カソードルミネッセンス(CL)観察には、カソードルミネッセンス検出器付きの走査電子顕微鏡(SEM)を用いる。例えばGatan製MiniCLシステム付きの日立ハイテクノロジーズ製S-3400N走査電子顕微鏡を用いた場合、測定条件は、CL検出器を試料と対物レンズの間に挿入した状態で、加速電圧10kV、プローブ電流「90」、ワーキングディスタンス(W.D.)21mm、倍率600倍以上で観察するのが好ましい。
【0031】
また、高輝度層と、低輝度層および低輝度帯とは、カソードルミネッセンスによる観測から以下のようにして区別する。
加速電圧10kV、プローブ電流「90」、ワーキングディスタンス(W.D.)21mm、倍率600倍でCL観察した画像の輝度を、画像解析ソフト(例えば、三谷商事(株)製WinROOF Ver6.1.3)を用いて、縦軸を度数、横軸を輝度(GRAY)として、256段階のグレースケールのヒストグラムを作成する。ヒストグラムには、
図6のように、2つのピークが確認され、2つのピーク間で度数が最小値となる輝度を境界として、高い側を高輝度層と定義し、低い側を低輝度層または低輝度帯と定義する。
【0032】
(好適な製法例)
以下、13族元素窒化物結晶層の好適な製法を例示する。
本発明の13族元素窒化物結晶層は、下地基板上に種結晶層を形成し、その上に13族元素窒化物結晶から構成される層を形成することにより製造することが可能である。
【0033】
例えば
図1に例示するように、下地基板は、単結晶基板1上にアルミナ層2を形成したものを用いることができる。単結晶基板1はサファイア、AlNテンプレート、GaNテンプレート、GaN自立基板、SiC単結晶、MgO単結晶、スピネル(MgAl
2O
4)、LiAlO
2、LiGaO
2、LaAlO
3,LaGaO
3,NdGaO
3等のペロブスカイト型複合酸化物、SCAM(ScAlMgO4)を例示できる。また組成式〔A
1-y(Sr
1-xBa
x)
y〕〔(Al
1-zGa
z)
1-u・D
u〕O
3(Aは、希土類元素である;Dは、ニオブおよびタンタルからなる群より選ばれた一種以上の元素である;y=0.3~0.98;x=0~1;z=0~1;u=0.15~0.49;x+z=0.1~2)の立方晶系のペロブスカイト構造複合酸化物も使用できる。
【0034】
アルミナ層2の形成方法は公知の技術を用いることができ、スパッタリング、MBE(分子線エピタキシー)法、蒸着、ミストCVD法、ゾルゲル法、エアロゾルデポジション(AD)法、或いはテープ成形等で作製したアルミナシートを上記単結晶基板に貼り合わせる手法が例示され、特にスパッタリング法が好ましい。必要に応じてアルミナ層を形成後に熱処理やプラズマ処理、イオンビーム照射を加えたものを用いることができる。熱処理の方法は特に限定がないが、大気雰囲気、真空、或いは水素等の還元雰囲気、窒素・Ar等の不活性雰囲気で熱処理すればよく、ホットプレス(HP)炉、熱間静水圧プレス(HIP)炉等を用いて加圧下で熱処理を行っても良い。
【0035】
また、下地基板としてサファイア基板に上記と同様の熱処理やプラズマ処理、イオンビーム照射を加えたものも用いることができる。
【0036】
次いで、例えば
図1(a)に示すように、上記のように作製したアルミナ層2上または上記のように熱処理やプラズマ処理、イオンビーム照射を加えた単結晶基板1上に種結晶層3を設ける。種結晶層3を構成する材質は、IUPACで規定する13族元素の一種または二種以上の窒化物とする。この13族元素は、好ましくはガリウム、アルミニウム、インジウムである。また、13族元素窒化物結晶は、具体的には、GaN、AlN、InN、Ga
xAl
1-xN(1>x>0)、Ga
xIn
1-xN(1>x>0)、Ga
xAl
yInN
1―x-y(1>x>0、1>y>0)が好ましい。
【0037】
種結晶層3の作製方法は特に限定されないが、MOCVD(有機金属気相成長法)、MBE(分子線エピタキシー法)、HVPE(ハイドライド気相成長法)、スパッタリング等の気相法、Naフラックス法、アモノサーマル法、水熱法、ゾルゲル法等の液相法、粉末の固相成長を利用した粉末法、及びこれらの組み合わせが好ましく例示される。
例えば、MOCVD法による種結晶層の形成は、450~550℃にて低温成長緩衝GaN層を20~50nm堆積させた後に、1000~1200℃にて厚さ2~4μmのGaN膜を積層させることにより行うのが好ましい。
【0038】
13族元素窒化物結晶層は種結晶層上にフラックス法によって形成できる。13族元素窒化物結晶層中の添加剤としては、炭素や、低融点金属(錫、ビスマス、銀、金)、高融点金属(鉄、マンガン、チタン、クロムなどの遷移金属)が挙げられる。
【0039】
フラックスの種類は、アルカリ金属とアルカリ土類金属の少なくとも一方を含むフラックスを使用し、ナトリウムを含むフラックスが特に好ましい。
フラックスには、ガリウム等の13族元素の原料物質を混合し、使用する。この原料物質としては、13族元素単体、13族元素の合金、13族元素の化合物を適用できるが、ガリウム単体が取扱いの上からも好適である。
融液におけるガリウム等の13族元素/フラックス(例えばナトリウム)の比率(mol比率)は、10mol%~30mol%が好ましく、10~20mol%が更に好ましい。
【0040】
フラックス法によって13族元素窒化物結晶層を育成する際の温度は、800~1500℃が好ましく、800~1200℃が更に好ましい。
フラックス法によって13族元素窒化物結晶を育成する際の圧力は、窒素分圧で2.5~5.0MPaが好ましく、3.0~4.0MPaが更に好ましい。
【0041】
好適な実施形態においては、フラックス法で13族元素窒化物結晶を作製する際に、結晶育成工程において、坩堝の回転による融液の撹拌と攪拌停止を繰り返すことが好ましい。さらに、融液中の窒素の過飽和度を徐々に上昇させる条件下で育成を行うことが好ましい。
【0042】
融液中の窒素の過飽和度を上昇させる方法としては、窒素の溶解度を下げる方法と、窒素の溶解量を上げる方法があげられる。
窒素の溶解度を下げる方法としては、結晶育成温度を下げるという手段を用いることができる。
また、融液中への窒素溶け込みを促進して窒素の溶解量を上げる方法としては、以下の手段がある。
(1) 結晶育成時の窒素圧力を徐々に上昇させる。
(2) 坩堝の回転による融液の撹拌と攪拌停止を繰り返す実施形態においては、攪拌速度ゼロから目的攪拌速度まで回転速度を増加させる速度増加ステップと、また目的回転速度から攪拌速度ゼロまで速度を低下させる速度低下ステップとがある。この場合には、結晶育成工程間に、速度増加ステップが複数回設けられ、また速度低下ステップも複数回設けられる。この実施形態において、速度増加ステップにおける加速度を結晶育成工程中で徐々に増加させることによって、融液の攪拌をより強く促進することができる。速度低下ステップにおける加速度を結晶育成工程中で徐々に増加させることによって、融液の攪拌をより強く促進することができる。
【0043】
また、こうしてフラックス法により得られた13族元素窒化物結晶層を砥石で研削して板面を平坦にした後、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により板面を平滑化するのが好ましい。
【0044】
(13族元素窒化物結晶層の分離方法)
次いで、13族元素窒化物結晶層を単結晶基板から分離することによって、13族元素窒化物結晶層を含む自立基板を得ることができる。
【0045】
ここで、13族元素窒化物結晶層を単結晶基板から分離する方法は限定されない。好適な実施形態においては、13族元素窒化物結晶層を育成した後の降温工程において13族元素窒化物結晶層を単結晶基板から自然剥離させる。
【0046】
あるいは、13族元素窒化物結晶層を単結晶基板からケミカルエッチングによって分離することができる。
ケミカルエッチングを行う際のエッチャントとしては、硫酸、塩酸等の強酸や硫酸とリン酸の混合液、もしくは水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等の強アルカリが好ましい。また、ケミカルエッチングを行う際の温度は、70℃以上が好ましい。
【0047】
あるいは、13族元素窒化物結晶層を単結晶基板からレーザーリフトオフ法によって剥離することができる。
あるいは、13族元素窒化物結晶層を単結晶基板から研削によって剥離することができる。
あるいは、13族元素窒化物結晶層を単結晶基板からワイヤーソーで剥離することができる。
【0048】
(自立基板)
13族元素窒化物結晶層を単結晶基板から分離することで、自立基板を得ることができる。本発明において「自立基板」とは、取り扱う際に自重で変形又は破損せず、固形物として取り扱うことのできる基板を意味する。本発明の自立基板は発光素子等の各種半導体デバイスの基板として使用可能であるが、それ以外にも、電極(p型電極又はn型電極でありうる)、p型層、n型層等の基材以外の部材又は層として使用可能なものである。この自立基板には、一層以上の他の層が更に設けられていても良い。
【0049】
13族元素窒化物結晶層が自立基板を構成する場合には、自立基板の厚さは基板に自立性を付与できる必要があり、20μm以上が好ましく、より好ましくは100μm以上であり、さらに好ましくは300μm以上である。自立基板の厚さに上限は規定されるべきではないが、製造コストの観点では3000μm以下が現実的である。
【0050】
(複合基板)
単結晶基板上に13族元素窒化物結晶層を設けた状態で、13族元素窒化物結晶層を分離することなく、他の機能層を形成するためのテンプレート基板として用いることができる。
【0051】
(機能素子)
本発明の13族元素窒化物結晶層上に設けられた機能素子構造は特に限定されないが、発光機能、整流機能または電力制御機能を例示できる。
【0052】
本発明の13族元素窒化物結晶層を用いた発光素子の構造やその作製方法は特に限定されるものではない。典型的には、発光素子は、13族元素窒化物結晶層に発光機能層を設けることにより作製される。もっとも、13族元素窒化物結晶層を電極(p型電極又はn型電極でありうる)、p型層、n型層等の基材以外の部材又は層として利用して発光素子を作製してもよい。
【0053】
図2に、本発明の一態様による発光素子の層構成を模式的に示す。
図2に示される発光素子21は、自立基板13と、この基板上に形成される発光機能層18とを備えてなる。この発光機能層18は、電極等を適宜設けて電圧を印加することによりLED等の発光素子の原理に基づき発光をもたらすものである。
【0054】
発光機能層18が基板13上に形成される。発光機能層18は、基板13上の全面又は一部に設けられてもよいし、後述するバッファ層が基板13上に形成される場合にはバッファ層上の全面又は一部に設けられてもよい。発光機能層18は、電極及び/又は蛍光体を適宜設けて電圧を印加することによりLEDに代表される発光素子の原理に基づき発光をもたらす公知の様々な層構成を採りうる。したがって、発光機能層18は青色、赤色等の可視光を放出するものであってもよいし、可視光を伴わずに又は可視光と共に紫外光を発光するものであってもよい。発光機能層18は、p-n接合を利用した発光素子の少なくとも一部を構成するのが好ましく、このp-n接合は、
図2に示されるように、p型層18aとn型層18cの間に活性層18bを含んでいてもよい。なお、20、22は、電極の例である。
【0055】
したがって、発光機能層18を構成する一以上の層は、n型ドーパントがドープされているn型層、p型ドーパントがドープされているp型層、及び活性層からなる群から選択される少なくとも一以上を含むものであることができる。n型層、p型層及び(存在する場合には)活性層は、主成分が同じ材料で構成されてもよいし、互いに主成分が異なる材料で構成されてもよい。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
(窒化ガリウム自立基板の作製)
径φ6インチのサファイア基板1上に、0.3μmのアルミナ層2をスパッタリング法で成膜した後、MOCVD法で厚さ2μmの窒化ガリウムからなる種結晶膜3を成膜し、種結晶基板を得た。
【0057】
この種結晶基板を、窒素雰囲気のグローブボックス内でアルミナ坩堝の中に配置した。次に、Ga/Ga+Na(mol%)=15mol%となるように金属ガリウムと金属ナトリウムを坩堝内に充填し、アルミナ板で蓋をした。その坩堝をステンレス製内容器に入れ、さらにそれを収納できるステンレス製外容器に入れて、容器蓋で閉じた。この外容器を結晶製造装置内の加熱部に設置されている回転台の上に配置し、耐圧容器に蓋をして密閉した。
【0058】
次いで、耐圧容器内を真空ポンプにて0.1Pa以下まで真空引きした。続いて、上段ヒータ、中段ヒータ及び下段ヒータを調節して加熱空間の温度を870℃になるように加熱しながら、4.0MPaまで窒素ガスボンベから窒素ガスを導入し、外容器を中心軸周りに20rpmの速度で一定周期の時計回りと反時計回りで回転させた。加速時間=12秒、保持時間=600秒、減速時間=12秒、停止時間=0.5秒とした。この後40時間保持し、結晶育成を実施した(結晶育成工程)。結晶育成工程中では、結晶育成中の温度を870℃から800℃までの範囲で制御しながら徐々に下げた。結晶育成工程後(40時間保持した後)、室温まで自然冷却して大気圧にまで減圧した後、耐圧容器の蓋を開けて中から坩堝を取り出した。坩堝の中の固化した金属ナトリウムを除去し、種結晶基板から剥離したクラックのない窒化ガリウム自立基板を回収した。
【0059】
(評価)
窒化ガリウム自立基板の上面に対して垂直な断面を研磨加工して、前述のようなCL検出器付きの操作型電子顕微鏡(SEM)でCL観察した。その結果、
図3~
図5に示すように、CL写真では窒化ガリウム結晶内部に、高輝度層と低輝度層とが交互に形成された微構造が見られた。また、上面に対して約-5~5°に傾斜した低輝度帯が多数確認された。しかし、同じ視野をSEM観察したところ、ボイド等が確認されず、均質な窒化ガリウム結晶が成長していることが確認された。
【0060】
そして、得られた窒化ガリウム結晶の自立基板の測定値を以下に示す。なお、tの厚さ方向における最大値と最小値の比は1.5であった。
低輝度層の厚さtd: 2.1μm
高輝度層の厚さtb: 0.7μm
td+tb(t): 2.8μm
低輝度帯の幅t1: 1.1μm
自立基板の反り: 20μm
【0061】
(実施例2)
実施例1と同様にして窒化ガリウム結晶の自立基板を製造した。
ただし、結晶育成工程において、外容器を中心軸周りに20rpmの速度で一定周期の時計回りと反時計回りで回転させた。加速時間=20秒、保持時間=300秒、減速時間=20秒、停止時間=0.5秒とした。この後40時間保持した。その際、結晶育成中の温度を870℃から800℃までの範囲で制御しながら徐々に下げた。
【0062】
窒化ガリウム自立基板の上面に対して垂直な断面を研磨加工して、前述のようなCL検出器付きの操作型電子顕微鏡(SEM)でCL観察した。その結果、
図3~
図5に示すように、CL写真では窒化ガリウム結晶内部に、高輝度層と低輝度層とが交互に形成された微構造が見られた。また、上面に対して約-5~5°に傾斜した低輝度帯が多数確認された。しかし、同じ視野をSEM観察したところ、ボイド等が確認されず、均質な窒化ガリウム結晶が成長していることが確認された。
【0063】
そして、得られた窒化ガリウム結晶の自立基板の測定値を以下に示す。なお、tの厚さ方向における最大値と最小値の比は1.4であった。
低輝度層の厚さtd: 1.4μm
高輝度層の厚さtb: 0.4μm
td+tb(t): 1.8μm
低輝度帯の幅t1: 1.0μm
自立基板の反り: 18μm
【0064】
(実施例3)
実施例1と同様にして窒化ガリウム結晶の自立基板を製造した。
ただし、結晶育成工程において、外容器を中心軸周りに20rpmの速度で一定周期の時計回りと反時計回りで回転させた。加速時間=20秒、保持時間=600秒、減速時間=20秒、停止時間=0.5秒とした。この後40時間保持した。その際、結晶育成中の圧力を3.0MPaから4.0MPaに徐々に上げた。なお、結晶育成中の温度は870℃で一定とした。
【0065】
窒化ガリウム自立基板の上面に対して垂直な断面を研磨加工して、前述のようなCL検出器付きの操作型電子顕微鏡(SEM)でCL観察した。その結果、
図3~
図5に示すように、CL写真では窒化ガリウム結晶内部に、高輝度層と低輝度層とが交互に形成された微構造が見られた。また、上面に対して約-5~5°に傾斜した低輝度帯が多数確認された。しかし、同じ視野をSEM観察したところ、ボイド等が確認されず、均質な窒化ガリウム結晶が成長していることが確認された。
【0066】
そして、得られた窒化ガリウム結晶の自立基板の測定値を以下に示す。なお、tの厚さ方向における最大値と最小値の比は1.6であった。
低輝度層の厚さtd: 1.2μm
高輝度層の厚さtb: 0.2μm
td+tb(t): 1.4μm
低輝度帯の幅t1: 1.5μm
自立基板の反り: 22μm
【0067】
(比較例1)
実施例1と同様にして窒化ガリウム結晶の自立基板を製造した。
ただし、実施例1とは異なり、結晶育成工程において、結晶育成中の温度は870℃として一定の温度で保持した。
この結果、得られた窒化ガリウム結晶の窒化ガリウム自立基板の上面に対して垂直な断面を研磨加工して、前述のようなCL検出器付きの操作型電子顕微鏡(SEM)でCL観察した。その結果、CL写真では窒化ガリウム結晶内部に、高輝度層と低輝度層とが交互に形成された微構造が見られた。また、上面に対して約-5~5°に傾斜した低輝度帯が多数確認された。しかし、同じ視野をSEM観察したところ、ボイド等が確認されず、均質な窒化ガリウム結晶が成長していることが確認された。
【0068】
そして、得られた窒化ガリウム結晶の自立基板の測定値を以下に示す。なお、tの厚さ方向における最大値と最小値の比は2.1であった。
低輝度層の厚さtd: 2.1μm
高輝度層の厚さtb: 0.7μm
td+tb(t): 2.8μm
低輝度帯の幅t1: 1.1μm
自立基板の反り: 60μm
【0069】
(比較例2)
実施例1と同様にして窒化ガリウム結晶の自立基板を製造した。
ただし、実施例1とは異なり、結晶育成工程において、結晶育成中の温度は870℃として一定の温度で保持した。また、外容器を中心軸周りに20rpmの速度で一方向に回転させ、40時間保持した。
この結果、得られた窒化ガリウム結晶の窒化ガリウム自立基板の上面に対して垂直な断面を研磨加工して、前述のようなCL検出器付きの操作型電子顕微鏡(SEM)でCL観察した。その結果、窒化ガリウム結晶の明度はほぼ一定であった。また、同じ視野をSEM観察したところ、ボイド等が確認されず、均質な窒化ガリウム結晶が成長していることが確認された。
得られた自立基板の反りは130μmであった。