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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】耐食性銅合金、銅合金管および熱交換器
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
C22C9/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022038301
(22)【出願日】2022-03-11
(65)【公開番号】P2022165385
(43)【公開日】2022-10-31
【審査請求日】2023-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2021070659
(32)【優先日】2021-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504136753
【氏名又は名称】株式会社KMCT
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 真一
(72)【発明者】
【氏名】細木 哲郎
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-166272(JP,A)
【文献】特開2014-118580(JP,A)
【文献】特開2016-089217(JP,A)
【文献】国際公開第2020/203071(WO,A1)
【文献】特開昭51-072920(JP,A)
【文献】特開2018-162518(JP,A)
【文献】特開昭58-052453(JP,A)
【文献】特開平06-330210(JP,A)
【文献】特開2008-255380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alよりも標準電極電位が低い金属から選択される合金成分としてMgを含有し、残部がCuと不可避的不純物からなり、
前記Mgの含有量が0.01質量%以上、0.5質量%未満であり、
引張強さが280N/mm 以下であり、
耐蟻の巣状腐食性が必要とされる用途に用いることを特徴とする耐食性銅合金。
【請求項2】
前記耐食性銅合金がPを含有する場合において、Pの含有量が0.015質量%以下であり、
前記Mgの含有量をX質量%とし、前記Pの含有量をp質量%としたときに、Xをpで割った値である[X/p]が9.10以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性銅合金。
【請求項3】
前記[X/p]が16.60以上であることを特徴とする請求項に記載の耐食性銅合金。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の耐食性銅合金を用いた銅合金管。
【請求項5】
内面溝付銅合金管である請求項に記載の銅合金管。
【請求項6】
請求項または請求項に記載の銅合金管を用いた熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性銅合金、それを用いた銅合金管および熱交換器に係り、特に、蟻の巣状腐食に対する耐食性を向上させた耐食性銅合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、冷媒用配管又は熱交換器用配管等には、熱伝導性、曲げ加工性及びろう付け性に優れるりん脱酸銅管(JIS H3300 C1220)が広く用いられてきた。また、銅管は一般に、非常に優れた耐食性を示す。金属の腐食反応は、電気化学反応における電子の受け渡しで説明される。電子が放出される陽極と電子を受け取る陰極が常に対称の関係で生じ、それぞれアノードとカソードとも呼ばれる。例えばガルバニ電池においては、アノードにおける反応は金属の溶出反応が該当し、カソードにおける反応は金属の析出反応が該当する。
【0003】
標準電極電位に示される通り、CuはHよりも貴な電位を持つため、HイオンではCuに対してカソードの反応を起こすことが出来ない。Oなどの酸化剤が存在しなければ、酸化性を持たない酸中ではカソード反応が存在しないため、アノード反応も存在し得ず、このため銅は非酸化性の環境において極めて優れた耐食性を示す。
【0004】
しかし、冷媒用配管又は熱交換器用配管等において蟻の巣状腐食と呼ばれる特異な形態の腐食が発生することがある。前述の通りCuはHより貴な電位を持つため、酸との反応はHを消費せず、一旦酸性環境での腐食が進行するとCuだけでは腐食速度を抑制する事が困難である。その結果、蟻の巣状腐食は腐食の進行速度が速く、短期間のうちに肉厚方向へ進展し、銅管を貫通してしまう。
【0005】
空調機などの熱交換器に用いられる銅管において、貫通に至った腐食孔は管内に流れる冷媒を漏洩せしめ、機器としての機能を維持できなくなるため、深刻な問題となる。加えて近年、地球温暖化係数の高いフロン系冷媒の漏洩に関する法規制も厳格化されつつあり、銅管で発生する蟻の巣状腐食の対策はより重要となっている。
【0006】
この問題に関しては、市場から耐蟻の巣状腐食性に優れた銅管が強く求められており、特許文献1~3のような技術の提案がなされ、製品化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平7-19788号公報
【文献】国際公開第2014/148127号
【文献】特開平6-122932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、蟻の巣状腐食への耐食性に優れた銅合金として、Zn、MnおよびMgのいずれかを含有する銅合金が開示されている。しかし、耐蟻の巣状腐食性の評価条件が、熱交換器実機による冷房運転と送風運転であるため、ギ酸が共存するような厳しい条件下における蟻の巣状腐食に対して有効かどうか、さらなる検討を要するものである。
【0009】
特許文献2には、耐蟻の巣状腐食性に優れた銅合金として、P含有量が高い銅合金が開示されている。しかし、耐蟻の巣状腐食性の評価期間が20日間と短いため、より長期に渡る腐食環境に曝露した場合において有効かどうか、さらなる検討を要するものである。また、Pを多く含有すると、溶出部のpHが低下して、酸性環境下における減肉量が大きくなる懸念がある。
【0010】
特許文献3には、耐蟻の巣状腐食性に優れた銅合金として、P含有量が低い銅合金が開示されている。しかし、前述の通りCuはHよりも高い電位を有するため、Cuのみでは腐食孔内のpH制御が困難である。そのため、より厳しい条件下における蟻の巣状腐食に対して有効かどうか、さらなる検討を要するものである。
【0011】
また、鋳造方式や使用する原料によっては、Pの添加あるいは混入を避けられないことがあり、Pの含有量が所定以下であっても、合金成分の含有量に対するPの含有量の割合が一定の値以上になると、所望の耐蟻の巣状腐食性を得られないことがある。また、銅合金は、合金成分の含有量が多いと加工性が低下する場合がある。
【0012】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、加工性に優れると共に、低級カルボン酸の存在下における蟻の巣状腐食に対して、長期間に渡って優れた耐食性を有する耐食性銅合金、当該耐食性銅合金を用いた銅合金管および熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
蟻の巣状腐食の腐食孔内部のような酸性環境での銅の溶出においては、CuはHイオンよりも電位が高いため、非酸化性の酸ではカソード反応として作用せず、Cuの溶出はHイオンを直接消費するものではない。そのため酸性環境において腐食の進行が一旦開始すると、Cuだけでは進行速度を抑制することが難しい。
【0014】
本発明者らは、Cu中に、酸性の溶液に溶出しやすく、溶出によってpHを上昇させ得る添加元素として、標準電極電位においてAlよりも電位の低い(卑)金属、特に長周期の周期律表で第一族若しくは第二族に属する元素、例えばMgを添加することによって、細孔内でCuと共にMgを溶出させ、Mgの溶出によるpHの上昇によって、細孔内部のカルボン酸を中和し、無害化できることを発見した。
【0015】
さらに、本発明者らは、所望の耐蟻の巣状腐食性を備えるためは、当該銅合金に含有させた合金成分の含有量であるX質量%に対し、合金成分によるカルボン酸無害化作用がPによって無効化されることのない、合金成分の含有量であるX質量%と、Pの含有量であるp質量%との割合に適正な範囲が存在することを見出した。
具体的には、図4のグラフに示すように、横軸にX/p(=x)、縦軸に腐食深さ(y)を取ると、下式の関係が高い精度で成り立つことを見出した。
y=-0.0218×ln(x-8.87)+0.295
【0016】
本発明はこのような知見に基づいて完成するに至ったものである。すなわち、本発明は以下のような構成を有するものである。
【0017】
(1)本発明の耐食性銅合金は、Alよりも標準電極電位が低い金属から選択される合金成分としてMgを含有し、残部がCuと不可避的不純物からなり、前記Mgの含有量が0.01質量%以上、0.5質量%未満であり、引張強さが280N/mm 以下であり、耐蟻の巣状腐食性が必要とされる用途に用いることを特徴としている。
【0018】
このような耐食性銅合金であれば、合金成分が酸性の溶液に溶出しやすく、溶出によってpHを上昇させて、細孔内部のカルボン酸を中和し、無害化することができる。
【0021】
(2)また、本発明の耐食性銅合金は、前記耐食性銅合金がPを含有する場合において、Pの含有量が0.015質量%以下であり、前記Mgの含有量をX質量%とし、前記Pの含有量をp質量%としたときに、Xをpで割った値である[X/p]が9.10以上であるものとする。
(3)また、本発明の耐食性銅合金は、前記[X/p]が16.60以上であることが好ましい。
【0022】
(4)本発明の銅合金管は、前記(1)~(3)のいずれか1項に記載の耐食性銅合金を用いたものである。
【0023】
(5)また、本発明の銅合金管は、内面溝付銅合金管とすることもできる。
【0024】
(6)本発明の熱交換器は、前記(4)または前記(5)に記載の銅合金管を用いたものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の耐食性銅合金は、加工性に優れると共に、低級カルボン酸存在下における蟻の巣状腐食に対して、長期間に渡って優れた耐食性を有している。本発明の耐食性銅合金を用いた銅合金管および熱交換器も同様である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】耐蟻の巣状腐食性の評価に用いる試験容器の模式的断面図である。
図2】耐蟻の巣状腐食性の評価に用いる銅合金からなる供試材の寸法を記した図であり、(a)は、供試材の平面図、(b)は、供試材の斜視図である。
図3】(a)、(b)、(c)は、ろう材濡れ性評価試験の操作手順を示す模式図である。
図4】[X/p]の値と、腐食深さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る耐食性銅合金の実施形態について、以下詳細に説明する。
蟻の巣状腐食は、アノードにおける銅の溶出(下記(1)式)に対し、酸素が存在する湿潤環境下で溶存酸素の還元反応(下記(2)式)が起こる銅の表面がカソードになり、蟻酸、酢酸等の低級カルボン酸が腐食促進物質として作用することによって発生する。これらの腐食促進物質は、製管工程及び熱交換器組立工程等で使用される潤滑油、加工油、有機溶剤、または空調機器の使用環境中に含まれる物質より生成し得ることが知られている。
【0028】
蟻の巣状腐食が発生すると、銅中に細孔状の腐食孔を形成し、かつ細孔の先端部にアノードが集中するため、腐食の進行速度が速く、短期間のうちに肉厚方向へ進展し、銅管を貫通してしまう。
【0029】
電位やpH毎の安定状態を示す図として知られているpourbaix-diagram(プルべダイアグラム)を参考に、以下に水溶液中におけるCuの溶出に関連する反応の例を記す。
Cu → Cu2+ + 2e (1) (アノード反応)
+ 2HO + 4e → 4OH (2) (カソード反応)
【0030】
上記の通り、銅の溶出において、カルボン酸などの非酸化性の酸だけではカソード反応が起こらないため、蟻の巣状腐食における銅の溶出は腐食促進物質であるカルボン酸ではなく酸素に依存する(上記(2)式)。酸素は一般の環境中に豊富に存在し、腐食孔の開口部は酸素が豊富な環境にあると考えられる。
【0031】
蟻の巣状腐食の進行メカニズムにおいて、カルボン酸がどの様な効果を示すかその全容は未だ明らかになっていないが、少なくとも塩酸や硫酸、若しくは酸化力を持つ硝酸のような無機酸と異なり、蟻の巣状腐食と言う特異な形態の腐食を発生させることは明らかである。
【0032】
蟻の巣状腐食の孔内においてカルボン酸は銅錯体として存在するか(下記(3)式)、もしくはアルデヒドとして腐食環境中に残存し、腐食孔内部において酸化され、再びカルボン酸を生じる(下記(4)式、(5)式)ことで、特異的な腐食孔の形成を担っていると考えられる。
Cu2+ + 2(HCOO)→ Cu(HCOO) (3)
HCOOH + 2H → HCHO + HO (4)
HCHO + 2OH → HCOOH + HO + 2e (5)
【0033】
蟻の巣状腐食は、カルボン酸及び、酸素、水の三要素が全て揃ったときに発生し、腐食孔内部でそれらが共存した環境が維持されることで腐食の進行が継続される。これらの要素の一つでも腐食孔内から除去する事が出来れば腐食の進行を抑制することが出来る。
【0034】
加えて、腐食孔内のpHを低下させる要因が同時に存在すると、腐食反応が助長される。例えば、りん脱酸銅(JIS H3300 C1220)中に含まれるPは、溶出に伴いりん酸を生じ、蟻の巣状腐食の進行を助長する要因として知られている。
【0035】
一方で、標準電極電位において、H(水素)よりも電位の低い(卑)金属は、原則としてより電位の高い水素イオンの還元がカソード反応となることで、水素イオンを消費して酸性の溶液中に溶出する。この反応は標準電極電位が低い金属程顕著である。また、異なる金属が導電性の液中で接触すると、電位差が生じ電位の低い(卑な)金属が優先的に溶出する異種金属接触腐食が生じやすいとされており、金属間の電位差が大きいほど顕著である。
【0036】
この様な特性を持つ元素は長周期の周期律表で第一族若しくは第二族に属する元素が多く、特に第一族及び第二族の元素は酸性の溶液に溶出しやすく、溶出に伴って溶液のpHを上昇させることが知られている。
【0037】
Cu中にAlよりも標準電極電位が低い金属、例えばMgを添加すると、合金中にMg(金属マグネシウム)またはMgの酸化物等が分散し、酸性の溶液に溶出する際にpHを上昇させる効果がある。
【0038】
Alよりも標準電極電位が低い金属として、Mgを例にとって、説明すると、本発明者らは、Cu母材に微量のMgを添加することを検討した。その結果、Mgの添加量が微量であっても、腐食孔内部にCuと共に溶出するMg若しくはその酸化物等が蟻の巣状腐食孔内部のpHを上昇させ、腐食孔内部に含まれる蟻の巣状腐食の腐食促進物質であるカルボン酸を無害化出来ることを見出した。
【0039】
本発明の耐食性銅合金は、Alよりも標準電極電位が低い金属から選択される少なくとも一種類の合金成分を含有する。
【0040】
Cu中に、標準電極電位において、Alよりも電位の低い(卑)金属から少なくとも一種類添加する事で、pH上昇の効果を付与できる。特に、長周期の周期律表で第一族若しくは第二族に属する元素であれば、pH上昇の効果を得やすい。Alよりも標準電極電位が低い金属で、第一族若しくは第二族に属する元素として、Li、K、Ca、Na、Mgの少なくとも一種類が好ましい。表1に、Alよりも標準電極電位が低い金属の標準電極電位の数値を示した。
【0041】
【表1】
【0042】
本発明の耐食性銅合金は、上記添加元素以外の残部は、Cuと不可避的不純物のみである。ここでいう不可避的不純物とは、本発明の合金又は合金管を製造する上で添加が必要、若しくは完全な除去が困難等、現在の技術水準において量産工程上混入することが避けられない不純物を示す。具体的にはJIS H3300 C1220に基づき、本発明で定めた特性を満足すると同時に、Cu及び本発明に基づく添加元素を除く、その他の元素である。不可避的不純物としては、例えば、Zn,Pb,Fe,Sn,Ni,Si,Sb,Bi等が挙げられる。不可避的不純物は、合計の含有量が0.1質量%以下であれば本発明の効果を阻害しない。
【0043】
Alよりも標準電極電位が低い金属で、Cuに添加する金属として、CaおよびMgがさらに好ましい。Ca又はMgを添加する事で、pH上昇による腐食の抑制効果を付与できると同時に、合金材としての加工性、ろう付け性を良好に保つ事が出来る。また、溶出に伴うpH上昇の効果、鋳造や添加元素そのものの取り扱いの難度、合金材としての加工性やろう付け性の観点から、Cuに添加する金属として、Mgが特に好ましい。
【0044】
本発明者らが見出したpH調整能力による蟻の巣状腐食の抑制作用は、Cu中の添加元素の含有量に依存している。
本発明の耐食性銅合金は、Alよりも標準電極電位が低い金属から選択される少なくとも一種類の合金成分(以下、単に「合金成分」と記載することがある。)の含有量の合計が、0.01質量%以上、0.5質量%未満である。合金成分の含有量の合計が、0.01質量%以上であれば、蟻の巣状腐食において十分な耐食性を発現させることができる。耐蟻の巣状腐食性の評価方法は、0.5vol%ギ酸水溶液雰囲気に60日曝露する試験を行った後の腐食深さで評価することができる。腐食深さが0.25mm以下であると、耐蟻の巣状腐食性が良好であると判定される。耐蟻の巣状腐食性の評価方法の詳細は後記する。
【0045】
Cuは、添加元素が少ない程伸びの特性が良く、曲げ等の加工において非常に優れた加工性を示す。この特性を維持するには焼鈍後の引張強さが280N/mm以下であればよいことが分かっている。Cu合金は、合金成分の含有量の合計が、0.5質量%未満であれば、焼鈍後の引張強さが280N/mm以下という条件を満足することができる。
【0046】
Cuは、合金成分によっては、その成分を一定以上含むと、アンモニアを含む環境に曝露したときに、応力腐食割れを生じる恐れがある。Cu合金は、合金成分を添加する場合の含有量の合計が0.35質量%以下であれば、アンモニアによる応力腐食割れをより抑制することができる。したがって、Cu合金は、合金成分を添加する場合の含有量の合計が0.35質量%以下であることが好ましい。
【0047】
Cuは、りん銅ろうを用いたろう付けにおけるろう材の濡れ性が非常に良く、添加元素が少ない程顕著である。Cu合金は、合金成分を添加する場合の含有量の合計が0.25質量%以下であれば、ろう材の濡れ性がより良好となる。したがって、Cu合金は、合金成分を添加する場合の含有量の合計が0.25質量%以下であることが好ましい。
【0048】
Cu合金は、熱伝導性が高いと、ろう付け時に加熱部の熱が分散し易くなり、局所的に加熱され難くなることで、ろう付け性が向上する。また、熱伝導性が高いと、熱移動し易くなり、熱交換器性能が向上する。熱伝導性は導電率と強い相関がある。Cu合金がろう付け性を従来のC1220と同等に維持するには、導電率が85%IACS以上あればよい。そのためには、Cu合金は、合金成分を添加する場合の含有量の合計が0.15質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
Cuに脱酸の目的でPが添加されることがある。しかし、Cu中のPは溶出する事でりん酸を生じ、周囲のpHを低下させ、本発明の効果を阻害し得る。Pによる悪影響を回避するためには、Cu中のPの含有量が0.015質量%以下であることが好ましい。
【0050】
耐食性銅合金は、鋳造方式や使用する原料によっては、Pの添加あるいは混入を避けられないことがあり、Pの含有量が0.015質量%以下であっても、合金成分の含有量(X質量%)に対するPの含有量(p質量%)の割合が一定の値以上になると、合金成分によるpH上昇効果、すなわち、カルボン酸の無害化の作用を十分得られず、結果、所望の耐蟻の巣状腐食性を得られないことがあった。そのため、合金成分の含有量(X質量%)に対するPの含有量(p質量%)の割合を所定とする。
【0051】
具体的には、耐食性銅合金は、合金成分の含有量をX質量%とし、Pの含有量をp質量%としたときに、Xをpで割った値である[X/p]が9.10以上であるものとする。これを維持することにより、Pが引き起こす耐食性無効化作用を相殺せしめ、且つ求められる耐蟻の巣状腐食性を付与することができる。
また、耐食性銅合金は、日本国内でもやや厳しい腐食環境条件で使用する用途や、ルームエアコン等の機器耐久性を重要視する用途などに対しては、[X/p]が16.60以上であることが好ましい。
【0052】
なお、Mgの含有量が上限の0.5質量%近傍の値(例えば、0.499質量%)であっても、Pを0.01質量%以上含有すると、耐食性無効化作用が低下する。また、Mgの含有量が上限の0.5質量%近傍の値(例えば、0.499質量%)である場合、Pの含有量が0.001質量%未満であると、[X/p]の関係性に関係なく、耐蟻の巣状腐食性の評価結果がPを含有していない場合と変わらない。そのため、[X/p]の上限値については特に規定されないが、例えば50以下である。
【0053】
本発明の銅合金管は、本発明の耐食性銅合金を用いたものである。本発明の熱交換器は、本発明の銅合金管を用いたものである。
本発明の耐食性銅合金は、公知の溶解・鋳造工程を用いて製造することができる。
また、本発明の銅合金管は、公知の溶解・鋳造工程、ソーキング工程、熱間押出工程、圧延・抽伸工程、焼鈍工程を経て製造することができる。
【0054】
本発明の銅合金管は、内面溝付管であることが好ましい。内面溝付管とは、管内面に所定形状の溝が形成された銅合金管である。溝数、溝間に形成されたフィンの高さ、溝底肉厚、溝リード角等の溝形状は、従来公知の溝付管の溝形状を用いることができる。溝付管とすることで熱伝達率が向上し、熱交換器の性能が向上する。
【0055】
本発明の耐食性銅合金を用いた銅合金管および内面溝付管は、熱交換器に用いる資材として有用である。
【実施例
【0056】
以下、本発明の要件を満たす実施例と本発明の要件を満たさない比較例によって、本発明をより具体的に説明する。
以下のサンプルにおいて、表3~表6については、引張強さ及び耐蟻の巣状腐食性に優れるものを実施例とした。表7、表8については、耐蟻の巣状腐食性に優れるものを実施例とした。
なお、一部のサンプルについては、参考として耐応力腐食割れ性、ろう材濡れ性、導電率を測定した。そして、表3~表6について、引張強さ及び耐蟻の巣状腐食性に優れるものを総合判定が(○)とし、引張強さ及び耐蟻の巣状腐食性に優れていても、耐応力腐食割れ性、ろう材濡れ性、導電率のいずれかに劣るものを総合判定が(△)とした。総合判定が(△)であっても、使用環境や、使用用途等によっては問題がなく、本発明の課題を解決できるものである。
【0057】
また、表3~6では、耐蟻の巣状腐食性の判定基準は0.25mm以下であるが、実施例においてPを含んでいないため、評価結果は0.20mm以下で、最も厳しい環境に耐えるレベルと言える。例えば、SOx、NOxなどの酸化性を有する大気汚染物質を多く含む大気汚染の進んだ地域で使用されるエアコンにおいて、上記酸化性ガスが室内に侵入し、室内に存在するアルコール成分との接触により、アルコール成分が酸化劣化して生成する低級カルボン酸の増加が著しい場合に、これに耐えるレベルを想定している。また、材料費削減のための薄肉化にも好適である。
表7のサンプルは、腐食性の比較的マイルドな環境条件で使用できるレベルを想定している。例えば、日本国内における気密性の高い新築家屋において、建築資材などから発生する揮発性化学物質(VOC)の影響で蟻の巣状腐食の発生することがあった一般家庭において使用できるレベルを想定している。
表8のサンプルは、日本国内でもやや厳しい腐食環境条件で使用できるレベルを想定している。例えば、気密性の高い新築家屋において、ペットを飼っている、消臭剤をよく使用する、消毒液をよく使用するなど、生活習慣的な揮発性化学物質要因の影響により蟻の巣状腐食の発生が認められた一般家庭において使用できるレベルを想定している。また、ルームエアコン等の機器耐久性を重要視する用途などの使用も想定している。
【0058】
1.サンプルの製作方法
Cuに、添加元素としてMg、Pを使用し、表3~表8に記載の種々の添加量で添加した銅合金を作成して試験に供した。
銅板は、溶解鋳造、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍の各工程を経て作製した。
【0059】
2.サンプルの化学成分分析方法
JIS K 0116:2014 発光分光分析通則、5項、スパーク放電発光分光分析により行った。
分析条件の詳細は下記の通りである。
使用機器:島津製作所製PDA-7000
雰囲気ガス:99.9995%高純度アルゴンガス
電極間隔(放電ギャップ):7mm
予備放電:1500パルス
定量方法:強度比法における定時積分
積分時間:1200パルス
各元素の定量分析における分析線(元素毎の測定波長)の例を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
3.評価方法
銅板の焼鈍後に組織観察を行い、機械的性質(引張強さ)、耐蟻の巣状腐食性、耐応力腐食割れ性、ろう材濡れ性、導電率を測定した。
【0062】
<No.1~5>
[評価項目]引張強さ、耐蟻の巣状腐食性
【0063】
(引張強さ)
・供試材寸法:幅30mm×長さ180mm×厚さ0.2mm、JIS Z2241:2011金属材料引張試験方法5号試験片準拠
・試験方法:JIS Z2241:2011金属材料引張試験方法に準拠し、引張試験機で引張強さを測定した。
・引張強さの判定基準
○:引張強さ280N/mm以下、曲げ等の加工性を維持
×:引張強さ280N/mmを超える、曲げ等の加工性が低下
【0064】
(耐蟻の巣状腐食性)
蟻の巣状腐食の代表的な腐食促進物質である蟻酸を用いた湿潤環境に供試材を暴露し、腐食試験後の最大腐食深さを測定した。試験条件を以下に示す。図1に、耐蟻の巣状腐食性の評価に用いる試験容器の模式的断面図を示した。試験容器10は、シリコン栓14で密閉できる密閉容器11である。密閉容器11内の底部に腐食促進物質12が注入されており、供試材13は中空に保持されている。
【0065】
図2は、耐蟻の巣状腐食性の評価に用いる銅合金からなる供試材の寸法を記した図であり、図2(a)は、供試材の平面図であり、図2(b)は、供試材の斜視図である。供試材は、幅12mm×長さ200mm×厚さ1.0mmの銅合金板のうち、片面の幅10mm×長さ200mmの範囲のみを容器内の腐食環境に暴露させる。片面の幅10mm×長さ200mmの範囲以外の部分は、ゴム材で被覆されており、腐食環境に暴露されないように保護されている。
・供試材寸法:幅12mm×長さ200mm×厚さ1.0mm
・腐食促進物質:0.5vol%ギ酸水溶液500mL
・温度条件:恒温槽内にポリ容器を保管して、20℃×2時間保持後に40℃×22時間保持するヒートサイクルを繰り返す。この方法では20℃の保持で結露の発生を促し、容器内部に揮発したギ酸を結露水に取り込み、40℃の保持で結露水を乾燥させ、ギ酸を濃縮させる事で、腐食の進行をより助長する加速条件となっている。
・試験容器:2Lのポリ容器にて供試材を中空保持する
・容器内雰囲気:酸素置換
・試験期間:60日
・耐蟻の巣状腐食性の判定基準
○:効果あり、最大腐食深さ0.25mm以下
×:効果なし、最大腐食深さ0.25mmを超える
【0066】
【表3】
【0067】
[評価結果]
表3に、耐蟻の巣状腐食性、引張強さの評価結果を示した。
No.1、No.2は、Mgの含有量がそれぞれ0.01質量%、0.495質量%である。いずれも耐蟻の巣状腐食性、引張強さの各項目において、判定基準を満足し、優れた性能を有していた。
No.3は、Mgの含有量が0.005質量%と少なく、耐蟻の巣状腐食性において判定基準を満足できなかった。
No.4は、Mgの含有量が0.98質量%と過剰であり、引張強さにおいて判定基準を満足できなかった。
No.5は、Mgを添加せず、Pの含有量が0.020質量%であるが、耐蟻の巣状腐食性において、判定基準を満足できなかった。
【0068】
<No.6~8>
[評価項目]耐蟻の巣状腐食性、引張強さ、耐応力腐食割れ性
耐蟻の巣状腐食性、引張強さの試験方法及び評価方法は、No.1~5と同じである。
【0069】
(耐応力腐食割れ性)
試験装置の構成などについて、JBMA T-301を参考に、応力腐食割れ試験を実施した。また、より詳細な特性を調べるために、詳細な試験条件は下記の通りとした。
・供試材寸法:幅12mm×長さ20mm×厚さ1.0mm
・腐食促進物質:14vol%アンモニア水溶液、100mL
・試験容器:デシケーター
・暴露状態:アンモニア水溶液を底部に入れたデシケーター中に、液面より約100mm離したところに中板を水平に設置する。さらに、中板の上に供試材を設置して、密封する。なお、供試材は、表裏を上下方向に向けて水平に設置した。また、供試材の両端部には、中板との間に樹脂被覆したφ2.5mmの銅ワイヤを置き、中板と直接設置しないようにした。
・暴露時間:72時間
・評価方法:試験終了後、酸洗(硫酸)した後、試験設置時の上面側を外側にして180°に折り曲げる。折り曲げた断面を観察し、き裂の有無を評価する。
・耐応力腐食割れ性の判定基準
○:き裂深さ0.10mm未満
×:き裂深さ0.10mm以上
【0070】
【表4】
【0071】
[評価結果]
表4に、耐蟻の巣状腐食性、引張強さ、耐応力腐食割れ性の評価結果を示した。
Mgの含有量は、応力腐食割れの感受性に影響を及ぼす。No.6及びNo.7は、Mgの含有量がそれぞれ0.01質量%、0.35質量%であるが、耐蟻の巣状腐食性、引張強さ、耐応力腐食割れ性の各項目において、判定基準を満足し、優れた性能を有していた。
No.8は、Mgの含有量が0.40質量%であるが、応力腐食割れによるき裂が生じ、耐応力腐食割れ性の判定基準を満足できなかった。
【0072】
<No.9~11>
[評価項目]耐蟻の巣状腐食性、引張強さ、耐応力腐食割れ性、ろう材濡れ性
耐蟻の巣状腐食性、引張強さ、耐応力腐食割れ性の試験方法及び評価方法は、No.1~8と同じである。
【0073】
(ろう材濡れ性)
図3に、ろう材濡れ性評価試験の操作手順を示した。図3(a)に示すように、供試材21を長さ方向に90°折り曲げ、供試材21の谷折り部中央にろう材20を配置させる。図3(b)に示すように、加熱前のろう材20の長さはAである。上記の状態で加熱し、加熱後の濡れ広がったろう材20の全体の長さ(長手方向)Bを測定した(図3(c))。
・供試材寸法:幅30mm×長さ100mm×厚さ1.0mm
・ろう材:BCuP-2(φ1.6mm×長さ20mm)
・加熱機器:ULVAC社製ゴールドイメージ炉
・加熱雰囲気:N置換
・加熱条件:(i)昇温条件:室温→850℃/5min(温度制御は供試材を測温)
(ii)保持条件:850℃、5min保持
(iii)冷却条件:自然冷却
・ろう材濡れ性の判定基準
○:100mm以上
×:100mm未満
【0074】
【表5】
【0075】
[評価結果]
表5に、耐蟻の巣状腐食性、引張強さ、耐応力腐食割れ性、ろう材濡れ性の評価結果を示した。
No.9及びNo.10は、Mgの含有量がそれぞれ0.01質量%、0.25質量%であるが、耐蟻の巣状腐食性、引張強さ、耐応力腐食割れ性だけでなく、ろう材濡れ性においても判定基準を満足し、優れた性能を有していた。
No.11は、Mgの含有量が0.29質量%であるが、ろう材濡れ性の判定基準を満足できなかった。
【0076】
<No.12~14>
[評価項目]耐蟻の巣状腐食性、引張強さ、耐応力腐食割れ性、ろう材濡れ性、導電率
耐蟻の巣状腐食性、引張強さ、耐応力腐食割れ性、ろう材濡れ性の試験方法及び評価方法は、No.1~11と同じである。
【0077】
(導電率)
・供試材寸法:幅10mm×長さ300mm×厚さ0.2mm
・試験方法:シグマテスタ(ETherNDE製ポータブル導電率計SigmaCheck2)を用いて導電率を測定した。なお、測定時の温度は、22℃に保持した。
・導電率の判定基準
〇:85%IACS以上(C1220と同等)
×:85%IACS未満
【0078】
【表6】
【0079】
[評価結果]
表6に、耐蟻の巣状腐食性、引張強さ、耐応力腐食割れ性、ろう材濡れ性、導電率の評価結果を示した。
No.12及びNo.13は、Mgの含有量がそれぞれ0.10質量%、0.14質量%であるが、耐蟻の巣状腐食性、引張強さ、耐応力腐食割れ性、ろう材濡れ性、導電率の各性能において判定基準を満足し、優れた性能を有していた。
No.14は、Mgの含有量が0.18質量%であるが、導電率の判定基準を満足できなかった。
【0080】
<No.15~20>
[評価項目]Pが添加された場合の耐蟻の巣状腐食性
試験方法及び評価方法は、No.1~5と同じである。
評価方法における評価判定基準について、本試験方法において発生する蟻の巣状腐食深さが、本発明の実使用における用途と部材の肉厚、使用する機器により求められる耐用年数設定によっては実用上問題ないと判断されるレベル、具体的には、腐食性の比較的マイルドな環境条件で使用できるレベルとして、最大腐食深を0.370mm以下とした。
○:効果あり、最大腐食深さ0.370mm以下
×:効果なし、最大腐食深さ0.370mmを超える
【0081】
【表7】
【0082】
[評価結果]
表7に、耐蟻の巣状腐食性評価結果を示した。
No.15~18は、Mgの含有量であるXがそれぞれ0.0440質量%、0.0830質量%、0.0470質量%、0.0800質量%であり、Pの含有量であるpは同じく0.00310質量%、0.00680質量%、0.00510質量%、0.00850質量%であるが、各サンプルにおける各元素の含有量の割合であるX/pがそれぞれ基準の9.10以上となり、耐蟻の巣状腐食性において判定基準を満足した。
No.19及びNo.20はMgの含有量であるXがそれぞれ0.0453質量%、0.0837質量%であり、Pの含有量であるpは同じく0.00510質量%、0.00930質量%であるが、前記X/pがそれぞれ基準の9.10を下回り、耐蟻の巣状腐食性において判定基準を満足的できなかった。
なお、各サンプルにおいてMgの含有量が0.5質量%未満であるため、引張強さが280N/mm以下になると推定されるため、引張強さの評価は省略した。
【0083】
<No.21~26>
[評価項目]Pが添加された場合の耐蟻の巣状腐食性(ただし、No.25及びNo.26については、Pが添加されないサンプルを参考例として示した。)
試験方法及び評価方法は、No.1~5と同じである。
評価方法における評価判定基準について、既に蟻の巣状腐食対策材として採用されている無酸素銅(C1020)を、本試験方法で試験した場合に発生した蟻の巣状腐食の最大腐食深さ0.262mmを下回る0.250mmを判定基準とした。
本試験方法における本判定基準は同時に、日本国内でもやや厳しい腐食環境条件で使用する用途や、ルームエアコン等の機器耐久性を重要視する用途などに対しても、必要かつ十分な判定基準である。
○:効果あり、最大腐食深さ0.250mm以下
×:効果なし、最大腐食深さ0.250mmを超える
【0084】
【表8】
【0085】
[評価結果]
表8に、耐蟻の巣状腐食性評価結果を示した。
No.21及びNo.22はMgの含有量であるXがそれぞれ0.0468質量%、0.0833質量%であり、Pの含有量であるpは同じく0.00270質量%、0.00480質量%であるが、各サンプルにおける各元素の含有量の割合であるX/pがそれぞれ基準の16.60以上となり、耐蟻の巣状腐食性において判定基準を満足した。
No.23及びNo.24はMgの含有量であるXがそれぞれ0.0454質量%、0.0840質量%であり、Pの含有量であるpは同じく0.00280質量%、0.00530質量%であるが、前記X/pがそれぞれ基準の16.60を下回り、耐蟻の巣状腐食性において判定基準を満足的できなかった。
なお、No.23及びNo.24のサンプルであっても、No.15~18と同様に、腐食性の比較的マイルドな環境条件では実用上問題ないものである。
また、各サンプルにおいてMgの含有量が0.5質量%未満であるため、引張強さが280N/mm以下になると推定されるため、引張強さの評価は省略した。
【0086】
表7、表8の結果を図4に示した。図4中、αは表7に対応するものであり、βは表8に対応するものである。また、丸のスポットは、Mgの含有量であるXが0.08代のものであり、三角のスポットは、Mgの含有量であるXが0.04代のものである。
【0087】
以上の結果から以下のことが判明した。
(1)合金成分の含有量の合計が0.01質量%以上、0.5質量%未満であると、耐蟻の巣状腐食性、加工性(引張強さ)の各性能において優れた耐食性銅合金とすることができた。
(2)合金成分の含有量の合計が0.01質量%以上、0.35質量%以下であると、耐蟻の巣状腐食性、加工性(引張強さ)、耐応力腐食割れ性の各性能において優れた耐食性銅合金とすることができた。
(3)合金成分の含有量の合計が0.01質量%以上、0.25質量%以下であると、耐蟻の巣状腐食性、加工性(引張強さ)、耐応力腐食割れ性、ろう材濡れ性の各性能において優れた耐食性銅合金とすることができた。
(4)合金成分の含有量の合計が0.01質量%以上、0.15質量%以下であると、耐蟻の巣状腐食性、加工性(引張強さ)、耐応力腐食割れ性、ろう材濡れ性、導電率の各性能において優れた耐食性銅合金とすることができた。
(5)耐食性銅合金がPを含有する場合において、Pの含有量が0.015質量%以下であり、合金成分の含有量をX質量%とし、Pの含有量をp質量%としたときに、Xをpで割った値である[X/p]が9.10以上であると、耐蟻の巣状腐食性において、合金成分によりもたらされる耐食性のPによる無効化作用が緩和され、優れた耐食性銅合金とすることができた。
(6)同[X/p]が16.60以上であると、耐蟻の巣状腐食性において、合金成分によりもたらされる耐食性のPによる無効化作用がさらに緩和され、さらに優れた耐食性銅合金とすることができた。
【符号の説明】
【0088】
10 試験容器
11 密閉容器
12 腐食促進物質
13 供試材
14 シリコン栓
20 ろう材
21 供試材
図1
図2
図3
図4