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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】導電性ゴム引布
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/10 20060101AFI20240521BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20240521BHJP
【FI】
B32B25/10
B32B7/025
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022555386
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2021035751
(87)【国際公開番号】W WO2022075128
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2020169662
(32)【優先日】2020-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】林 泰成
(72)【発明者】
【氏名】久保 真之
(72)【発明者】
【氏名】林 隆浩
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】実公平03-046903(JP,Y2)
【文献】特公平07-120868(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
D06N 1/00 - 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の基布で形成される基布層であって、第1の基布層面と第2の基布層面とを有する基布層と、
前記第1の基布層面に導電性ゴムを積層して形成される導電性ゴム層と、
前記第2の基布層面に、前記導電性ゴムよりも低い電気抵抗値を有する導電性ペースト材料をコーティングして形成される導電性ペースト層と、
を有
前記導電性ペースト層は、前記第2の基布層面の一部のみを被覆する、
導電性ゴム引布。
【請求項2】
前記導電性ゴム層は、前記第1の基布層面の全面に当接する、
請求項1に記載の導電性ゴム引布。
【請求項3】
前記第2の基布層面は、長尺状であり、
前記導電性ペースト層は、前記第2の基布層面の長手方向に延びる、
請求項1又は2に記載の導電性ゴム引布。
【請求項4】
前記導電性ペースト層は、前記基布層と前記導電性ゴム層の合計層厚さの1/10以下の層厚さを有する、
請求項1~のいずれかに記載の導電性ゴム引布。
【請求項5】
前記基布層と前記導電性ゴム層は、前記基布に前記導電性ゴムをカレンダー成形によって貼り合わせ、一体的に形成される、
請求項1~のいずれかに記載の導電性ゴム引布。
【請求項6】
前記基布は、複数の空隙を内部に有する多孔質構造を有し、
前記空隙に、前記導電性ゴム及び前記導電性ペースト材料の少なくとも一部が混在する、
請求項1~のいずれかに記載の導電性ゴム引布。
【請求項7】
前記基布は、アラミド繊維からなる不織布で形成される、
請求項に記載の導電性ゴム引布。
【請求項8】
前記導電性ゴムは、シリコーンゴムまたはウレタンゴムである、
請求項1~のいずれかに記載の導電性ゴム引布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導電性ゴム引布に関する。更に詳しくは、微弱な生体信号を安定して検出可能な生体用電極として利用可能な導電性ゴム引布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療現場において、心電図計、脳波計、或いは筋電図計等の医療機器が使用されている。このような医療機器は、人体から発する電位変動を生体信号として捉え、表示することにより、健康状態等を把握することが可能である。また、近年、アクティブトラッカー(活動量計)等のウェアラブル情報機器が、健康に気を遣う人々に広く普及している。ウェアラブル情報機器は、腕や手首等に装着し、体温や心拍数、或いは血圧等を経時的に測定したり、歩行距離や歩数等の活動量を計測したり、睡眠時間や睡眠の深さや質などを計測したりするなど、種々の日常的な生体情報を収集可能である。
【0003】
また、運転者による操作や動作に伴う生体信号を検出し、自動車に搭載されたカーナビゲーションシステムや各種車載機器の操作及び制御を行う技術の開発も広く進められている。これにより、事故を未然に防止したり、運転者に対して危険を予め報知するなど、生体信号を安全運転等に反映できる。
【0004】
このように、ウェアラブル情報機器や車載機器等の各種電子機器のために、人体により発せられる生体信号を精度良く検出するためのセンサ等の検出・計測技術の開発が多く行われている。特に、微弱な生体信号の変化を高精度で検出するために、人体に直接貼付される生体用電極の性能向上が期待されている。
【0005】
生体用電極は、例えば、皮膚等の人体の体表面の一部に貼付される。生体用電極は、体表面或いは人体内部を流れる生体信号の電流量等の変化を捉える。このとき、微弱な生体信号を検出するために、例えば、導電性ゴムが多く用いられる。
【0006】
しかし、導電性ゴム自体は、機械的強度が低い等の欠点を有する。そこで、生体用電極として使用した際に加わる衝撃や、生体用電極の製作時(例えば、縫製時等)において、過剰な外力が加わることで、導電性ゴムが容易に裂けたり、破れたりする等の不具合を生じることがある。そのため、導電性ゴムを生体用電極として使用する場合、生体用電極の耐久性の向上が求められる。
【0007】
例えば、導電性ゴムと、布帛(布)とをカレンダー成形等の周知の成形加工技術を用いて一体的に貼り合わせ、導電性ゴム及び布帛を積層させた二層構造の導電性ゴム引布(以下、「二層構造導電性ゴム引布」と称す。)を形成する。これにより、導電性ゴムによる生体信号の良好な検出を可能とするとともに、布帛による機械的強度の向上を図ることができる。このように、機械的強度に優れた二層構造導電性ゴム引布を生体用電極として採用することが可能である。
【0008】
なお、他の生体用電極の例として、絶縁性の布地に導電性材料を含浸させ、その後に配線及び電極等を施して形成した導電性布帛(特開2014-151018号公報参照)が知られている。また、基材となる布帛に導電性ゴムを用いて電極及び配線を接続させ、伸縮性を備えた伸縮性電極や配線シート(国際公開第2016/114298号参照)等が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
二層構造導電性ゴム引布を生体用電極として使用した場合、下記に掲げる問題点を生じる可能性がある。
二層構造導電性ゴム引布は、電気を通さない性質の絶縁性の布帛と、電気を通す性質の導電性ゴムとを互いに貼り合わせ、一体的に形成される。そのため、導電性ゴムを単体で使用した場合と比較して、絶縁性の布帛により、二層構造導電性ゴム引布の全体の電気抵抗値が増大することがある。その結果、生体信号の検出精度が低下し、微弱な生体信号の変化が検出できなくなるおそれがある。すなわち、生体用電極としての十分な性能を発揮できない可能性がある。
【0010】
具体的には、自動車の車室内に設置された車載機器の操作や制御のために、自動車のシート、アームレスト、或いはステアリングホイールの一部に、二層構造導電性ゴム引布から形成される生体用電極が用いられる。これにより、運転者の生体情報(生体信号)を取得する。この場合、生体用電極自体は、一般に長尺状に形成されることが多い。
【0011】
生体用電極自体は、車載機器等から延びた配線と、金属端子を介して電気的に接続される。しかし、長尺状の生体用電極では、配線と接続した金属端子から離れた生体用電極の電極面では、絶縁性の布帛の影響により電気抵抗値が高くなる可能性がある。すると、生体信号として捉える電流量が流れ難くなり、電極面での微弱な生体信号の変化を検出する検出精度が低下するおそれがある。
【0012】
このような不具合を解消するために、例えば、生体用電極に取り付ける金属端子の数を増やし、金属端子からの電極面の距離が長くならないような対応も考えられる。しかし、金属端子の設置数の増加によって、生体用電極自体が嵩張り、装着位置が制約される。また、生体用電極自体の見栄えが悪くなり、設置する車室内の美観を損なう。また、金属端子の設置数の増加により、コストが高くなる。また、例えば、ステアリングホイールに金属端子のような付属物を多数取付けると、ステアリングホイール自体の操作性が低下するおそれがある。
【0013】
本開示は、電気抵抗値の増大を抑え、微弱な生体信号の検出精度の低下を防ぐことのできる、生体用電極として使用可能な導電性ゴム引布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示の第1の観点は、
絶縁性の基布で形成される基布層であって、第1の基布層面と第2の基布層面とを有する基布層と、
前記第1の基布層面に導電性ゴムを積層して形成される導電性ゴム層と、
前記第2の基布層面に、前記導電性ゴムよりも低い電気抵抗値を有する導電性ペースト材料をコーティングして形成される導電性ペースト層と、
を有する、導電性ゴム引布である。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、電気抵抗値の増大を抑え、微弱な生体信号の検出精度の低下を防ぐことのできる、生体用電極として使用可能な導電性ゴム引布を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第一実施形態の導電性ゴム引布の概略構成を示す説明図
図2図1のA-A’線断面図
図3】第二実施形態の導電性ゴム引布の概略構成を示す説明図
図4図3のB-B’線断面図
図5】導電性ゴム引布の電気抵抗値の測定方法の概略構成を示す説明図
図6】導電性ゴム引布の電気抵抗値の測定時における配線方法の一例を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本開示の導電性ゴム引布の実施の形態について詳述する。なお、実施形態の導電性ゴム引布は、以下に示すものに限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、種々の設計の変更、修正、及び改良等を加え得るものである。
【0018】
本開示の導電性ゴム引布1,5は、図1図4に示すように、三層が積層した三層構造を有する。導電性ゴム引布1,5は、基布層2と、導電性ゴム層3と、導電性ペースト層4,9とを有する。
【0019】
図1は、第一実施形態の導電性ゴム引布1の概略構成を示す説明図である。図2は、図1のA-A’線断面図である。図3は、第二実施形態の導電性ゴム引布5の概略構成を示す説明図である。図4は、図3のB-B’線断面図である。図5は、導電性ゴム引布1,5の電気抵抗値の測定方法の概略構成を示す説明図である。図6は、導電性ゴム引布1,5の電気抵抗値の測定時における配線方法の一例を示す説明図である。
【0020】
<第一実施形態>
第一実施形態の導電性ゴム引布1は、図1及び図2に示されるように、基布層2と、導電性ゴム層3と、導電性ペースト層4とを有する。基布層2は、絶縁性素材の基布6によって形成される。導電性ゴム層3は、基布層2の第1の基布層面2bの全面に亘って当接する導電性ゴム7によって形成される。導電性ペースト層4は、基布層2の第2の基布層面2aの一部に導電性ペースト材料8をコーティングすることによって形成される。
【0021】
導電性ゴム引布1は、導電性ゴム層3と導電性ペースト層4との間に、基布層2を挟んだ三層構造である。また、導電性ペースト層4は、第2の基布層面2aの一部のみを被覆して形成される。
【0022】
図1及び図2に示されるように、導電性ゴム層3は、導電性ゴム7を所定厚さのシート状に形成したものである。未加硫のゴム生地の導電性ゴム7を第1の基布層面2bの上に押出しながら、複数のロール間で加熱及び加圧等を行う。これにより、導電性ゴム層3を形成しつつ基布層2と貼り合わせる周知のカレンダー成形等によって、基布層2と導電性ゴム層3を一体的に形成できる。基布層2と導電性ゴム層3からなる二層構造は、二層構造導電性ゴム引布に相当する。
【0023】
導電性ゴム引布1は、基布層2及び導電性ゴム層3からなる二層構造導電性ゴム引布の構成に加え、第1の基布層面2bに相対する面である第2の基布層面2aに、導電性ペースト材料8をコーティングすることで導電性ペースト層4を設けたものである。これにより、全体として三層構造を有する導電性ゴム引布1が完成する。
【0024】
なお、導電性ゴム引布1の製造方法は、特に限定されない。例えば、二層構造導電性ゴム引布を予め製造した後に、第2の基布層面2aに導電性ペースト材料8をディッピング、スクリーン印刷、或いはスキージ等の周知のコーティング形成手段を用いて導電性ペースト層4を形成してもよい。また、導電性ペースト層4を第2の基布層面2aに形成した後に、基布層2及び導電性ゴム層3を一体的に形成してもよい。
【0025】
また、基布層2と導電性ゴム層3の貼り合わせも、導電性ゴム層3を形成しつつ基布層2と貼り合わせるものに限定されない。例えば、予めシート状に形成した導電性ゴム層3を、周知の接着技術等により、導電性の接着剤を用いて基布層2と貼り合わせてもよい。この場合、接着剤は、基布層2と導電性ゴム層3の間で全面に亘って塗布されることが好ましい。また、カレンダー成形以外の成形加工技術を用いてもよい。
【0026】
導電性ゴム引布1のサイズは、特に限定されない。生体用電極等としての使用を想定する場合、例えば、基布層2、導電性ゴム層3、及び導電性ペースト層4を含む三層全体の厚さは、0.1mm~10mm程度、より好ましくは、0.3mm~1mm程度であることが好ましい。また、長尺体として形成される導電性ゴム引布1の長さは、50mm以上である。
なお、図1及び図2に示すように、第一実施形態の導電性ペースト層4は、基布層2と導電性ゴム層3の合計層厚さの1/10以下の層厚さを有する。
【0027】
このような導電性ゴム引布1のサイズにより、金属端子から離間した電極面であっても、電気抵抗値の増大を抑制し、生体信号を精度良く検出できる。
【0028】
ここで、基布層2に用いられる基布6は、特に限定されず、種々の絶縁性の素材を使用できる。例えば、従来の二層構造導電性ゴム引布の基布層として主に使用されるアラミド繊維からなる不織布等を使用できる。アラミド繊維からなる不織布は、基布6の内部に複数の空隙(不図示)が形成された多孔質構造を有する。
【0029】
そのため、カレンダー成形等の成形加工技術によって、導電性ゴム7を基布6に圧着しながら貼り合わせて導電性ゴム層3を形成する際や、ペースト状の所定の粘性を有する導電性ペースト材料8を第2の基布層面2aにコーティングする際に、貼り合わされた導電性ゴム7の一部が基布6の空隙に侵入したり、導電性ペースト材料8の一部が第2の基布層面2aから内部に染み込んだりする。その結果、基布6の内部の空隙に、導電性ゴム7や導電性ペースト材料8の少なくとも一部がそれぞれ混在する。
【0030】
これにより、第1の基布層面2b側に形成された導電性ゴム層3と、第2の基布層面2a側に形成された導電性ペースト層4との間が、電気的に接続される。そのため、導電性ゴム引布1の電気抵抗値の増大が抑制される。これにより、良好な導電性を保持し、生体信号の検出時の不具合を防止する。
【0031】
導電性ゴム7は、従来から周知の導電性ゴム引布に使用されるものである。導電性ゴム7は、例えば、シリコーンゴムを基材として用いた導電性シリコーンゴムや、ウレタンゴムを基材として用いた導電性ウレタンゴムである。
【0032】
なお、導電性ゴム7は、シリコーンゴム等の基材に対してカーボンブラックやグラファイト等の導電性炭素粒子や銀ペーストや銀粉等を適宜混合し、練り混ぜた後に所定のゴム成形技術(直圧成形技術、直圧注入技術、射出成形技術等)を用いて所望のサイズに成形加工することにより、導電性が付与されたシート状の導電性ゴム7としてもよい。
ここで、シリコーンゴムやウレタンゴム等のベースに対する導電性炭素粒子等の混合比率は、特に限定されず、例えば、10重量%~70重量%の範囲、より好ましくは、20重量%~50重量%の範囲で混合したものを使用できる。
【0033】
導電性ペースト材料8は、導電性ゴム7と同様、ベースとなる基材(シリコーンゴム等)に対して導電性炭素粒子等を、例えば、基材100重量部に対して、50重量部から500重量部の範囲、より好ましくは、100重量部から300重量部の範囲で混合したものを使用できる。但し、第2の基布層面2aに対してコーティングを可能とするため、導電性ゴム7と比較して粘度等が調整される。
なお、基布層2に対するコーティングの手法は特に限定されない。例えば、周知のディスペンサーによる第2の基布層面2a上への塗布、或いはスクリーン印刷等の印刷技術を用いるものでもよい。各コーティングの手法に応じて、導電性ペースト材料8の粘度等が調整される。
【0034】
第一実施形態の導電性ゴム引布1では、第2の基布層面2aに導電性ペースト層4が設けられる。これにより、従来の二層構造導電性ゴム引布と比して、電気抵抗値の増大を抑制できる。特に、基布層2が多孔質構造を有することで、導電性ゴム7及び導電性ペースト材料8の一部がいずれも多孔質構造の空隙に混在する。これにより、導電性ゴム層3と導電性ペースト層4との電気的な接続が確保され、導電性ゴム引布1の全体での良好な導電性が確保される。そのため、生体用電極として好適に使用できる。
【0035】
また、導電性ペースト層4を形成する導電性ペースト材料8の電気抵抗値は、導電性ゴム7の電気抵抗値よりも低い。これにより、生体用電極として用いる場合に電極面として使用される導電性ペースト層4側で電流が流れやすくなり、生体用電極として更に好適に使用できる。
【0036】
また、生体用電極に接続する金属端子の数を最低限にすることができ、美観を損なうことがなく、かつ操作性等に及ぼす影響を抑制できる。
【0037】
<第二実施形態>
第二実施形態の導電性ゴム引布5は、図3及び図4に示すように、基布層2と、導電性ゴム層3と、導電性ペースト層9とを有する。基布層2は、絶縁性の素材からなる基布6によって形成される。導電性ゴム層3は、基布層2の第1の基布層面2bの全面に亘って当接するシート状の導電性ゴム7によって形成される。導電性ペースト層9は、基布層2の第2の基布層面2aの全面に亘って導電性ペースト材料8をコーティングして形成される。ここで、第二実施形態の導電性ゴム引布5において、第一実施形態の導電性ゴム引布1と同一構成のものは、同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0038】
第二実施形態の導電性ゴム引布5は、第一実施形態の導電性ゴム引布1と比較して、第2の基布層面2aの全面に亘って導電性ペースト層9が形成される点で相違し、その他の構成は同一である。そのため、基布層2及び導電性ゴム層3の詳細については、説明を省略する。
【0039】
導電性ペースト層9を形成する導電性ペースト材料8も、第一実施形態と同一である。そのため、導電性ペースト層9の詳細も省略する。
但し、第2の基布層面2aの全面に亘って導電性ペースト層9を形成する必要があるため、ディッピングによるコーティングよりも、スキージやスクリーン印刷等を用いることで、第2の基布層面2aに均一な厚さの導電性ペースト層9を形成することが可能となる。
【0040】
図3及び図4に示すように、導電性ゴム引布5では、第2の基布層面2aの全面に亘って導電性ペースト層9が形成される。そのため、第一実施形態の導電性ゴム引布1よりも、電極面における生体信号の検出精度が良好となる。そのため、生体信号の検出を高精度で安定的に行うことができ、好適となる。
【0041】
第一実施形態の導電性ゴム引布1と比較して、第2の基布層面2aの全面に亘って導電性ペースト材料8を塗布し、導電性ペースト層9を形成するため、導電性ペースト材料8の使用量が必然的に多くなり、製造コストが嵩むおそれがある。
【0042】
したがって、例えば、広範な範囲での生体信号の検出を行う場合には、第一実施形態の導電性ゴム引布1を用い、局所的な範囲での生体信号の検出を行う場合には、より検出精度が高い第二実施形態の導電性ゴム引布5を用いる等、生体用電極として使用する際の貼付位置や設置環境等に応じて適宜使い分けてもよい。
【実施例
【0043】
以下、実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例の他にも、本開示の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えることができる。
【0044】
(1)使用部材、及び導電性ペースト材料の使用条件
基布: アラミド繊維
導電性ゴム: 導電性ウレタンゴム、導電性シリコーンゴム
導電性ペースト材料: 銀粉分散シリコーンゴム
導電性ペースト材料の加硫温度: 150℃
導電性ペースト材料の加硫時間: 30分
【0045】
使用部材として用いられる導電性ウレタンゴム、導電性シリコーンゴム、及び導電性ペースト材料のそれぞれの電気抵抗値(表面抵抗値)の測定結果を表1に示す。ここで、電気抵抗値を測定するためのテスターの端子間距離は、90mmに設定して測定を行った。また、測定は、幅48mm×長さ93mmのサイズの使用部材からなるテストピースを3つ準備し、各テストピースの測定結果の平均を電気抵抗値として算出した。
【0046】
【表1】
【0047】
なお、表1の電気抵抗値の測定結果から、導電性ゴム層に使用される導電性ゴム(導電性ウレタンゴム、導電性シリコーンゴム)の電気抵抗値(=表面抵抗値)よりも、導電性ペースト層に使用される導電性ペースト材料の電気抵抗値の方が低いことが示される。すなわち、導電性ゴムである導電性ウレタンゴムの電気抵抗値が7.5MΩ、及び導電性シリコーンゴムの電気抵抗値が420Ωであるのに対し、導電性ペースト材料の電気抵抗値は、これらよりも著しく低い1.00Ωである。
【0048】
(2)実施例1~5、及び比較例1、2の導電性ゴム引布の作製
上記使用部材を用い、実施例1~5、及び比較例1,2の導電性ゴム引布の作製を行った。始めに、アラミド繊維からなる基布と、予めシート状に成形加工された導電性ゴムとを貼り合わせ、ロール間で加熱及び加圧する。これにより、従来から周知の長尺状の二層構造導電性ゴム引布を形成した。カレンダー成形加工による成形方法は周知であるため、ここでは詳細な説明は省略する。ここで、得られた二層構造導電性ゴム引布において、導電性ゴムとして導電性ウレタンゴムを用い、以下の導電性ペースト材料によるコーティングを行わなかったものを比較例1、及び、導電性ゴムとして導電性シリコーンゴムを用い、以下の導電性ペースト材料によるコーティングを行わなかったものを比較例2とした。すなわち、比較例1,2はいずれも周知の二層構造導電性ゴム引布である。
【0049】
実施例1は、基布と導電性ウレタンゴムからなる導電性ゴムとを貼り合わせた二層構造導電性ゴム引布に対し、導電性ゴム(導電性ゴム層)と相対する基布の面(第2の基布層面)に上記使用部材の導電性ペースト材料を形成する(不図示)。ここで、ディスペンサーを用いて、所定のディップ高さ及びディップ量となるように、線状の図形を一つ描き、所定時間の乾燥及び導電性ペースト材料の硬化を経て、導電性ペースト層を形成した。
【0050】
ここで、線状の図形からなる導電性ペースト層が一つのものを、表2において「導電性ペースト線1本」と表す。以下、線状の図形からなる導電性ペースト層の数に応じて、それぞれ「導電性ペースト線N本」と表す。ここで、作成された導電性ゴム引布は、全体として矩形状を有する長尺体である。
【0051】
実施例2は、実施例1と同一の使用部材及び作製方法によって作製される。実施例2では、第2の基布層面に線状の導電性ペースト層が三つ形成される(「導電性ペースト層3本」に相当)。すなわち、図1及び図2で示した第一実施形態の導電性ゴム引布の形状に相当する。
【0052】
実施例3は、実施例1及び実施例2と同一の使用部材及び作製方法によって作製される。実施例3では、第2の基布層面に線状の導電性ペースト層が五つ形成される(「導電性ペースト線5本」、不図示)。
このように、実施例1~3は、それぞれ第一実施形態の導電性ゴム引布に相当し、第2の基布層面に形成される導電性ペースト層の数のみが相違する。
【0053】
実施例4は、基布と導電性ウレタンゴムからなる導電性ゴムとを貼り合わせた二層構造導電性ゴム引布に対し、導電性ゴム(導電性ゴム層)と相対する基布の面(第2の基布層面)の全面に亘って、使用部材の導電性ペースト材料を形成する。ここで、スキージ及びスクリーン印刷を用いて、薄く均一となるように導電性ペースト材料をコーティングし、所定時間の乾燥及び導電性ペースト材料の硬化を経て、導電性ペースト層を形成した。
実施例5は、実施例4と同一の作製方法によって作製される。実施例5では、導電性ゴム層を導電性シリコーンゴムに変更した。
【0054】
比較例1,2は、前述のように、導電性ペースト材料を用いた導電性ペースト層の形成を行うものである。比較例1では、導電性ゴム層として導電性ウレタンゴムを用いた。比較例2では、導電性ゴム層として導電性シリコーンゴムを用いた。
【0055】
(3)電気抵抗値の測定方法
実施例1~5、及び比較例1,2の導電性ゴム引布を、図5に模式的に示す電気抵抗値の測定方法により測定を行った。ここで、電気抵抗値の測定に使用したテスターTは、三和電機計器株式会社製(型名:CD772)であり、最大定格入力は40MΩである。
【0056】
図6に示すように、電気抵抗値の測定において、測定対象となる長尺体の導電性ゴム引布からなる試料Sと配線13a,13bとを、導電性素材で形成された導通材14a,14bで固定し、導電性ペースト層4側で配線13a等と導通させる必要がある。そのため、電気抵抗値の測定方法を採用している。
【0057】
始めに、電気抵抗値を測定するテスターTを配置し、テスターTと接続した第1の端子10aを試料Sの一端(図5における右方向)と接続する。更に、テスターTに接続した第2の端子10bをアルミホイル11の一端(図5における左方向)と接続する。ここで、アルミホイル11は、第2の端子10bから第1の端子10aに向かって(図5における左方向から右方向に)、長手方向に沿って延びる。
【0058】
アルミホイルの先端11aから10mmの幅の試料密着区間L1の範囲で、アルミホイル11の上から試料Sを、導電性ペースト層4がアルミホイル11と接するように被せる。これにより、導電性のアルミホイル11と測定対象の試料Sの一部とが密着する。なお、測定時における密着状態を保持するために、試料Sの上から更に錘12が載せられ、試料Sとアルミホイル11との密着状態が固定される。
なお、図5に示すように、テスターTと接続した第1の端子10aから第2の端子10bの間の距離(端子間距離L2)は、100mmとなるように設定される。
【0059】
このような電気抵抗値の測定方法により、それぞれの試料S(実施例1~5、比較例1,2)を所定位置にセットした状態で、テスターTによる電気抵抗値の測定を行った。なお、電気抵抗値の測定は同一試料Sに対して3回行い、その平均値を算出した。その結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
(4)測定結果のまとめ
上記表2の電気抵抗値の測定結果に示されるように、導電性ウレタンゴムを導電性ゴムとして使用した場合、導電性ペースト層を設けなかった比較例1の電気抵抗値と比較して、導電性ペースト層を設けた実施例1~4は、いずれも電気抵抗値が著しく低いことが示される。
【0062】
更に、基布層に線状の導電性ペースト層を一つ設けた実施例1に対し、三つ若しくは五つを設けた実施例2及び実施例3がより、電気抵抗値が低くなる傾向が示された。
【0063】
また、これらの導電性ペースト層を第2の基布層面の一部に設けた実施例1~3に比べ、導電性ペースト層を第2の基布層面の全面に亘ってコーティングした実施例4は、比較例1に対する電気抵抗値の低下が特に顕著であることが示された。これにより、導電性ペースト層を少なくとも一部に有する三層構造の導電性ゴム引布による効果が明らかとなった。また、導電性ペースト層を全面に設けたものが、電気抵抗値の増大抑制において特に顕著な効果を有することが明らかとなった。
【0064】
同様に、導電性ペースト層を全面に設けることは、導電性ゴムとして導電性シリコーンゴムを用いた場合にも認められ、比較例2と比べて、導電性ペースト層を第2の基布層面に全面に設けた実施例5の導電性ゴム引布は、電気抵抗値が70~80kΩから50~70Ωに約1/1000以下に変化するなど、更に顕著な効果を奏することが確認された。
【0065】
以上、説明したように、本開示の導電性ゴム引布は、基布層の第2の基布層面に、更に第三層となる導電性ペースト層を設けることで、電気抵抗値の増大を飛躍的に抑制することが確認された。これにより、微弱な生体信号の検出を精度よく行う生体用電極として、好適に使用できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本開示の導電性ゴム引布は、脳波計等の医療機器、活動量計等のウェアラブル情報機器、或いは車載機器等の各種電子機器において、生体信号を検出するための生体用電極として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0067】
1,5:導電性ゴム引布
2:基布層
2a:第2の基布層面
2b:第1の基布層面
3:導電性ゴム層
4,9:導電性ペースト層
6:基布
7:導電性ゴム
8:導電性ペースト材料
10a:第1の端子
10b:第2の端子
11:アルミホイル
11a:アルミホイルの先端
12:錘
13a,13b:配線
14a,14b:導通材
L1:試料密着区間
L2:端子間距離
S:試料
T:テスター

図1
図2
図3
図4
図5
図6