(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】サーボ制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/18 20060101AFI20240521BHJP
G05D 3/12 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
G05B19/18 W
G05D3/12 305Z
(21)【出願番号】P 2022559074
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2021038960
(87)【国際公開番号】W WO2022091941
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2020180253
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】寳澤 駿
(72)【発明者】
【氏名】猪飼 聡史
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-093711(JP,A)
【文献】特開2007-058278(JP,A)
【文献】特開2010-079845(JP,A)
【文献】特開2011-221612(JP,A)
【文献】特開2017-212812(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0039666(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18-19/404
B23Q 15/12
G05D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械または産業機械の駆動軸を駆動するモータのサーボ制御装置において、
移動指令に基づいてモータ駆動を制御する制御部と、
前記駆動軸の反転時に生ずるバックラッシ量を測定するバックラッシ量測定部と、を備え、
前記バックラッシ量測定部は、
位置指令、速度指令、位置の検出値又は速度の検出値に基づいて、前記駆動軸の反転開始を検出する反転検出部と、
指令又は検出値に基づいて、前記駆動軸の前記反転開始からバックラッシ端に到達したことを検出する到達検出部と、
前記反転検出部が前記反転開始を検出してから、前記到達検出部が前記バックラッシ端に到達したことを検出するまでの時間、または、距離を測定する時間・距離測定部と、を備え
、
前記時間・距離測定部の測定周期は、1ms以下であるサーボ制御装置。
【請求項2】
前記バックラッシ量測定部においてバックラッシ量を測定するために必要とされるモータの位置または速度の検出器は、モータの位置または速度の1つの検出器のみである請求項1のサーボ制御装置。
【請求項3】
前記反転検出部は、速度指令の反転または速度フィードバックの反転により検出する請求項1または2のサーボ制御装置。
【請求項4】
前記到達検出部は、トルク指令もしくはトルクフィードバックの変化、または、加速度指令もしくは加速度フィードバックの変化から検出する請求項1~3のいずれかのサーボ制御装置。
【請求項5】
工作機械または産業機械の駆動軸を駆動するモータのサーボ制御装置において、
移動指令に基づいてモータ駆動を制御する制御部と、
前記駆動軸の反転時に生ずるバックラッシ量を測定するバックラッシ量測定部と、を備え、
前記バックラッシ量測定部は、
位置指令、速度指令、位置の検出値又は速度の検出値に基づいて、前記駆動軸の反転開始を検出する反転検出部と、
指令又は検出値に基づいて、前記駆動軸の前記反転開始からバックラッシ端に到達したことを検出する到達検出部と、
前記反転検出部が前記反転開始を検出してから、前記到達検出部が前記バックラッシ端に到達したことを検出するまでの時間、または、距離を測定する時間・距離測定部と、を備え、
前記時間・距離測定部の測定周期は、バックラッシ量測定時にのみ短くするサーボ制御装置。
【請求項6】
工作機械または産業機械の駆動軸を駆動するモータのサーボ制御装置において、
移動指令に基づいてモータ駆動を制御する制御部と、
前記駆動軸の反転時に生ずるバックラッシ量を測定するバックラッシ量測定部と、を備え、
前記バックラッシ量測定部は、
位置指令、速度指令、位置の検出値又は速度の検出値に基づいて、前記駆動軸の反転開始を検出する反転検出部と、
指令又は検出値に基づいて、前記駆動軸の前記反転開始からバックラッシ端に到達したことを検出する到達検出部と、
前記反転検出部が前記反転開始を検出してから、前記到達検出部が前記バックラッシ端に到達したことを検出するまでの時間、または、距離を測定する時間・距離測定部と、を備え、
前記時間・距離測定部のバックラッシ量測定時における測定周期は、サーボモータ駆動制御の制御周期以下であるサーボ制御装置。
【請求項7】
前記時間・距離測定部のバックラッシ量測定時における測定周期は、サーボモータ駆動制御の制御周期の半分以下である請求項6のサーボ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動軸のサーボ制御装置に関し、特に、サーボモータで駆動制御されるモータ駆動軸におけるバックラッシ量の測定の機能を備えたサーボ制御に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械や産業機械の駆動軸の駆動制御においては、駆動軸の反転時に生じるバックラッシが制御の精度を低下させる1つの要因となっている。そこで、軸駆動の制御の精度を向上させるため、従来より、駆動軸の反転時のバックラッシ量を測定し、バックラッシ量を考慮した駆動制御がなされてきた。
【0003】
特許文献1には、数値制御装置において、位置制御部が軸を往復させるための移動指令に従って機械可動部の位置検出データとモータの回転位置検出データを読み出して、各データを記憶部に格納し、一連の往復移動が終了するときに、両者を比較することによりバックラッシ量を自動的に測定することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、駆動対象物の反転開始時点から、駆動対象物が移動を開始する時点を計測し、この時間からバックラッシュ駆動時間を決定した後、その時間だけモータを駆動してバックラッシュを除去した後、実質的な駆動制御を開始することが記載されている。
【0005】
特許文献3には、ロボット制御装置において、各アクチュエータのエンコーダより検出されるエンコーダ値から求められた各関節の角度と、保持ツールに取り付けられた慣性センサにより検出される慣性力から求められた保持ツールの角度に対応した各関節の角度との差からバックラッシュ量を検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-250950号公報
【文献】特開2003-224994号公報
【文献】特開2011-42022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、工作機械や産業機械の駆動軸制御において、駆動軸に生じる反転時のバックラッシ量を検出し、バックラッシ量を考慮して駆動軸制御を行うことにより、駆動制御の精度を向上させようとするものは知られている。しかしながら、上記の特許文献1ないし特許文献3のバックラッシ量の検出においては、いくつもの検出器を必要とし、検出のシステムが大掛かりとなって装置が大型化するとともに、コストも嵩むものであった。従来のものに比べて、より簡易なシステムで、バックラッシ量を正確に測定できるシステムが求められている。
【0008】
したがって、本開示は、工作機械や産業機械のサーボモータ制御装置において、検出器の数を減らして、より簡易なシステムで、駆動軸の反転時のバックラッシ量を正確に測定できるシステムを構築することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本開示のサーボ制御装置は、工作機械または産業機械の駆動軸を駆動するモータのサーボ制御装置において、移動指令に基づいてモータ駆動を制御する制御部と、前記駆動軸の反転時に生ずるバックラッシ量を測定するバックラッシ量測定部と、を備え、前記バックラッシ量測定部は、位置指令、速度指定、位置の検出値又は速度の検出値に基づいて、前記駆動軸の反転開始を検出する反転検出部と、指令又は検出値に基づいて、前記駆動軸の前記反転開始からバックラッシ端に到達したことを検出する到達検出部と、前記反転検出部が前記反転開始を検出してから、前記到達検出部が前記バックラッシ端に到達したことを検出するまでの時間、または、距離を測定する時間・距離測定部と、を備えるサーボ制御装置である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、工作機械や産業機械の駆動モータのサーボ制御装置が備えるバックラッシ量測定システムにおいて、少ない数の検出器で、より簡易な構成のバックラッシ量測定システムで、正確に駆動軸の反転時のバックラッシ量を測定することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示のサーボ制御装置とモータ装置の間での信号の流れを示すブロック線図である。
【
図2】反転開始とバックラッシ端の定義を説明する図である。
【
図3】バックラッシ端到達の検出のしかたを説明する図である。
【
図4】本開示のバックラッシ量の測定方法を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本開示の一実施形態のサーボ制御装置10とモータ装置20の間での信号の流れを示すブロック線図である。
図1に示すように、モータを駆動制御するサーボ制御装置10からモータ装置20へ駆動指令の信号が送られ、モータ装置20からフィードバック信号や検出情報の信号がサーボ制御装置10へ戻される。
【0014】
サーボ制御装置10は、トルク・位置・速度指令生成部11、加算器12、制御部13及びバックラッシ量測定部30を具備する。トルク・位置・速度指令生成部11は、ユーザプログラムにおける規定や上位の制御装置からの指令に基づいて、モータ駆動のための、トルク・位置・速度の指令値を算出する。なお、速度指令は、位置指令を時間で微分して算出したものを用いることもでき、また、トルク指令は速度指令を時間微分して求めた加速度指令にモータ装置20や駆動軸等の慣性を積算した慣性(イナーシャ)を乗じて算出したものを用いることもできる。
【0015】
トルク・位置・速度指令生成部11で算出され、生成されたトルク・位置・速度の指令値は、加算器12に出力され、モータ装置20において検出され、フィードバックされたトルク・位置・速度の値が減算されて、指令値と検出値の偏差が求められる。加算器12から出力された、トルク・位置・速度の指令値と検出値の偏差による指令値は、制御部13に入力される。制御部13では、モータ装置20の特性や、要請される制御の精度や特性に応じて、従来より公知の制御、例えば、PID制御や学習制御などが適用され、モータ装置20に出力される。
【0016】
モータ装置20は、モータ駆動部21、モータ本体22、位置・速度検出器23を有する。モータ駆動部21では、サーボ制御装置10から出力された指令値を受けて、モータごとに規定される起動電力を生じさせ、モータ本体22を回転駆動する。モータ本体22の回転については、位置・速度検出器23により、その回転位置や回転速度(回転数)の検出が行われる。なお、検出されたモータの速度を時間で微分することにより加速度が算出され、算出された加速度にモータ装置20や駆動軸等の慣性(イナーシャ)を乗じてモータ装置20等において生じている実トルク値を求めることができる。
【0017】
位置・速度検出器23で検出されたモータ本体22の位置・速度(回転数)、及び、位置・速度検出器23で検出されたモータ本体22の位置・速度(回転数)から算出された実トルク値は、前述のように、サーボ制御装置10にフィードバックされて、加算器12に出力されるとともに、バックラッシ量測定部30にも送信される。
【0018】
バックラッシ量測定部30は、反転検出部31、到達検出部32、及び、時間・距離測定部33を備える。そして、トルク・位置・速度指令生成部11からの信号や、モータ装置20の位置・速度検出器23からの検出信号を受けて、反転検出部31において反転開始を検出し、また、到達検出部32においてバックラッシ端への到達を検出し、それらの検出結果を、時間・距離測定部33の時間・距離測定手段に用いてバックラッシ量を算出する。その具体的手法については、後で詳細に述べる。
【0019】
次に、本開示におけるバックラッシ量の定義について
図2を用いて説明する。
図2の上段は、テーブル202に対してボール軸受を介したねじ(ボールねじ201)がモータ装置20により回転駆動され、テーブル202が進行方向に向かって移動している状態から、ボールねじ201が反転して、テーブル202が逆方向に移動し始めるまでの、テーブル202とボールねじ201の相対的位置関係の状態を、時系列に沿って図示したものである。
【0020】
図2の上段のテーブル202とボールねじ201の相対的位置関係を時系列に沿って示した5つの図において、左端の(1)は、ボールねじ201の回転により、テーブル202が進行方向に移動する状態を示している。テーブル202とボールねじ201のねじ部の間で軸受の機能を有するボールは、テーブル202及びねじ部と密着して、進行方向に力を伝達するための負荷を受けており、そのことを示すために、楕円形に描かれている。
【0021】
図2の上段の左から2番目の(2)の状態は、ボールねじ201の反転が開始され、テーブル202とねじ部の間のボールが、進行方向に無負荷となった状態を示す。すなわち、モータ装置20に対するトルク・位置・速度の移動指令による、テーブル202のボールねじ201に対する相対速度が0となった時点であり、本開示では、この状態の時点を反転開始時点と定義する。したがって、反転検出部31は、テーブル202のボールねじ201に対する相対速度が0となったことを検出することにより、速度指令の反転またはフィードバックの反転を検出したものとし、反転開始が検出される。
【0022】
図2の上段の中央の(3)の状態は、反転開始が検出されてから、バックラッシ端に到達するまでの途中の状態であり、テーブル202とねじ部の間のボールが進行方向に無負荷となった状態が継続し、バックラッシの発生が継続している状態である。そして、ボールねじ201がバックラッシ端に到達して、右から2番目の(4)の状態に至り、ボールは進行方向と反対の方向に負荷を受けて、以降、右端の(5)の状態になって、ボールねじ201の反転方向の回転により、テーブル202が進行方向と反対方向に移動する。
【0023】
したがって、バックラッシは、
図2の左から2番目の、速度指令または速度フィードバックの反転開始によって、テーブル202のボールねじ201に対する相対速度が0となった時点に始まり、
図2の右から2番目の、ボールねじ201がバックラッシ端に到達した時点で終了するものであると定義される。そして、その間の、ボールねじ201に対するテーブル202の相対的移動距離またはテーブル202に対するボールねじ201の相対的移動距離が、バックラッシ量であり、それは、テーブル202とねじ部の間のボール移動距離であり、
図2の下段の右図においてΔxとして示される距離である。
【0024】
すなわち、バックラッシ量は、
図2の上段の左から2番目の反転開始時点と、右から2番目のバックラッシ端到達時点を検出し、その間の距離を求めることによって得られる。左から2番目の反転開始時点は、前述のように、テーブル202のボールねじ201に対する相対速度が0となった時点を検知することによって検出することができる。次に、ボールねじ201がバックラッシ端に到達した時点の検知について、
図2及び
図3を参照して詳述する。
【0025】
本開示においては、ボールねじ201がバックラッシ端に到達した時点を、ボールねじ201がバックラッシ端に到達したことによるトルク指令の変化または加速度の変化で検知することを考える。ここで、
図2、
図3のモータ装置20でボールねじ201を回転させ、テーブル202を移動させている系(モデル)において、モータ装置20、ボールねじ201及びテーブル202からなる系が有しているイナーシャ(慣性)について、モデルを簡単にするために、モータ装置20、ボールねじ201及びテーブル202の、それぞれのイナーシャを等しくJ
Mであるとする。
【0026】
バックラッシが生じて、バックラッシ端に到達する前の状態、すなわち、
図2の上段の中央の(3)の状態においては、この系のモデルでは、モータ装置20及びボールねじ201の2要素にのみ動きが生じ、この系の全イナーシャJ
Σは、
[数1]
J
Σ=2J
M・・・式(1)
となる。これに対して、ボールねじ201がバックラッシ端に到達した状態、すなわち、
図2の上段の右から2番目の(4)の状態においては、この系のモデルでは、モータ装置20、ボールねじ201及びテーブル202の3要素に動きが生じ、この系の全イナーシャJ
Σは、
[数2]
J
Σ=3J
M・・・式(2)
となる。
【0027】
トルク指令Tcmdと実トルクTの関係については、次の式(3)で表されることが知られている。
[数3]
Tcmd[%]=(T×100)/(Kt×Imax)・・・式(3)
ここで、Tcmd[%]はトルク指令、T[Nm]は実トルク、Kt[Nm/Ap]はモータのトルク定数、Imax[Ap]はアンプ最大電流である。
また、実トルクT[Nm]は、次の式(4)で定義される。
[数4]
T[Nm]=JΣ×(dω/dt)・・・式(4)
ここで、ωは角速度であり、dω/dtは、角加速度となる。
【0028】
そうすると、角加速度(dω/dt)が一定になるように制御した場合、ボールねじ201がバックラッシ端に到達する前の状態から、バックラッシ端に到達した状態への変化したことは、式(3)に式(4)及び式(1)を代入したバックラッシ端に到達する前のトルク指令の値と、式(3)に式(4)及び式(1)を代入した場合のバックラッシ端に到達する前のトルク指令の値の変化を検知することによって検出することができる。角加速度dω/dtが一定である前提においては、式(3)に式(4)及び式(2)を代入した値は、式(3)に式(4)及び式(1)を代入した値の1.5倍になるから、トルク指令値が1.5倍になったことを検知することによって、バックラッシ端への到達を検出できる。逆にトルク指令が一定になるように制御した場合には、角加速度が2/3倍になったことを検知して、バックラッシ端への到達を検出できる。
【0029】
反転開始検出からバックラッシ端到達検出までの時間tが経過してトルク指令値が1.5倍になったことをグラフに示すと、
図3の下段右の左側のグラフのようになる。
図3の下段右の左側のグラフにおいて、縦軸はトルク指令値TCMD、横軸は時間を表す。反転開始検出からバックラッシ端到達検出までの時間tが経過して加速度が2/3倍になったことをグラフに示すと、
図3の下段右の右側のグラフのようになる。
図3の下段右の右側のグラフにおいて、縦軸は加速度、横軸は時間を表す。
【0030】
また、ボールねじ201の角加速度(dω/dt)とテーブル202の並進加速度aとの関係については、次の式(5)で表されることが知られている。
[数5]
dω/dt[rad/s2]=(2π/(L×10-3))×a・・・式(5)
ここで、L[mm]はボールねじ201のリードであり、a[m/s2]は、ボールねじ201の並進加速度である。
さらに、並進加速度aとバックラッシ量Δxとの関係については、次の式(6)で表されることが知られている。
[数6]
a[m/s2]=2×10-6×(Δx/t2)・・・式(6)
【0031】
そうすると、バックラッシ量は、バックラッシが生じている間においては、系のモデルは式(1)のイナーシャを有するのであるから、式(1)と式(3)~式(6)から、バックラッシ量Δxは、次の式(7)で表されることになる。
[数7]
Δx=(1/(8π×1011))×(Kt×Imax×L/JM)×Tcmd×t2・・・式(7)
【0032】
式(7)から、トルク指令Tcmd一定の制御を行い、反転開始を検知した時点からバックラッシ端への到達を検知した時点までの時間を計測すれば、バックラッシ量を検出することができる。または、距離の測定を行うことができる場合には、反転開始を検知した時点からバックラッシ端への到達を検知した時点まで移動距離を計測することにより、直接にバックラッシ量が求まる。
【0033】
式(7)を用いてバックラッシ量を測定するためには、モータの制御周期以下の高速な測定周期が必要となる。さらに高精度な測定のためには、例えば、モータの制御周期の半分以下の周期で測定を行うことがより好ましい。一般的な制御周期の目安として1msがあり、サーボ制御装置の高速な制御周期を利用することで高精度な測定が可能となる。
【0034】
次に、本開示のサーボ制御装置におけるバックラッシ量測定方法の1つの実施形態について、
図4のフロー図を用いて説明する。初めに、サーボ制御装置で駆動制御されるモータ装置によるボールねじ駆動の制御が、a.加速度一定制御であるか、または、b.トルク指令一定制御であるかを判定する(ステップSt10)。判定結果がa.の加速度一定制御である場合には、ステップSt21に進み、判定結果がb.のトルク指令一定制御である場合には、ステップSt22に進む。
【0035】
ステップSt21では、ボールねじの反転開始を検出する。具体的には、ボールねじの速度が0となったことを検知して、ボールねじの反転開始を検出する。そして、次に、ステップSt31に進み、ボールねじがバックラッシ端に到達したかを検出する。具体的には、加速度一定制御では、トルク指令が1.5倍になるタイミングを検知してボールねじがバックラッシ端に到達したことを検出する。同様に、ステップSt22では、ボールねじの反転開始を検出する。具体的には、ボールねじの速度が0となったことを検知して、ボールねじの反転開始を検出する。そして、次に、ステップSt32に進み、ボールねじがバックラッシ端に到達したかを検出する。具体的には、トルク指令一定制御では、加速度が2/3倍になるタイミングを検知してボールねじがバックラッシ端に到達したことを検出する。
【0036】
ステップSt31及びステップSt32の後は、ともに、ステップSt40に進む。ステップSt40では、ボールねじの距離の測定が可能かを判定する。ボールねじの距離の測定は、例えば、ボールねじの位置の検出が可能であれば、ボールねじの反転開始の位置と、ボールねじがバックラッシ端に到達した位置の差分から求めることが可能である。判定結果がYesのとき、すなわち、ボールねじの距離の測定が可能であるときには、ステップSt51に進み、判定結果がNoのとき、すなわち、ボールねじの距離の測定が可能でないときには、ステップSt52に進む。
【0037】
ステップSt51では、ボールねじの反転開始の位置と、ボールねじがバックラッシ端に到達した位置の間の距離から、バックラッシ量を測定する。そして、測定されたボールねじの反転開始の位置から、ボールねじがバックラッシ端に到達した位置までの移動距離がバックラッシ量である。バックラッシ量が測定されれば、本開示の目的は達成され、このフローは終了する。ステップSt52では、ボールねじの反転開始から、ボールねじがバックラッシ端に到達するまでの時間から、バックラッシ量を測定する。ステップSt51の場合と同様に、バックラッシ量が測定されれば、本開示の目的は達成され、このフローは終了する。
【0038】
上記のとおり、本開示においては、ボールねじのバックラッシ量の測定について、ボールねじの反転開始の検出と、バックラッシ端への到達の検出から測定するもので、ボールねじの反転開始は、ボールねじの速度が0となったことを検知することによって検出し、バックラッシ端への到達は、トルク指令又は加速度の変化を検知することで検出するものである。そのため、位置または速度(回転数)の検出器は、モータ装置に備えられる検出器1つのみが必要となるだけで、別値の検出器を必要としない。したがって、従来のバックラッシ量測定システムに比べて、必要となる検出器の数を減少することができ、より簡易な構成で正確にバックラッシ量を測定することができるようになった。
【0039】
また、ボールねじ駆動制御が加速度一定制御である場合にも、トルク指令一定制御である場合にも対応でき、さらに、ボールねじの反転開始とバックラッシ端への到達の検知後に、その距離からも、時間からもバックラッシ量を測定することができ、汎用性が高く、種々の条件に対しても応用が利くというメリットも挙げられる。
【0040】
以上、本発明の実施に関して、実施態様について説明したが、本発明はこうした実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々なる態様で実施できるものであることは勿論である。
【符号の説明】
【0041】
10 サーボ制御装置
11 トルク・位置・速度指令生成部
12 加算器
13 制御部
20 モータ装置
201 ボールねじ
202 テーブル
21 モータ駆動部
22 モータ本体
23 位置・速度検出器
30 バックラッシ量測定部
31 反転検出部
32 到達検出部
33 時間・距離測定部