(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】電気機械式のブレーキシステムおよび電気機械式のブレーキシステムを解除するための方法
(51)【国際特許分類】
B60T 13/74 20060101AFI20240521BHJP
F16D 65/14 20060101ALI20240521BHJP
F16D 121/24 20120101ALN20240521BHJP
F16D 125/20 20120101ALN20240521BHJP
F16D 127/04 20120101ALN20240521BHJP
F16D 127/06 20120101ALN20240521BHJP
【FI】
B60T13/74
F16D65/14
F16D121:24
F16D125:20
F16D127:04
F16D127:06
(21)【出願番号】P 2022565815
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(86)【国際出願番号】 EP2021057226
(87)【国際公開番号】W WO2021219294
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-10-27
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】597007363
【氏名又は名称】クノル-ブレムゼ ジステーメ フューア ヌッツファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr-Bremse Systeme fuer Nutzfahrzeuge GmbH
【住所又は居所原語表記】Moosacher Strasse 80, D-80809 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ブレッシング
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ブーフ
(72)【発明者】
【氏名】チャバ コクレヘル
(72)【発明者】
【氏名】チャバ ムリナールチェク
(72)【発明者】
【氏名】フーバ ネーメト
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング パーレ
(72)【発明者】
【氏名】ヤーノシュ サボ
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-315411(JP,A)
【文献】特開2013-087930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
F16D 121/24
F16D 125/20
F16D 127/04
F16D 127/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械式のブレーキシステムであって、
作動力をブレーキパッドに伝達するための力伝達手段を有するブレーキアクチュエータ
(2)であって、前記力伝達手段は、回転可能なシャフトを含む、ブレーキアクチュエータ
(2)と、
ロック要素(35)を備えたカップリング手段であって、前記ロック要素(35)が前記回転可能なシャフト(81)に係合されて、前記回転可能なシャフト(81)の回転を阻止するように、または前記ロック要素(35)が前記回転可能なシャフト(81)から係合解除され、これにより、前記回転可能なシャフト(81)を回転させることができるように制御することができるカップリング手段と、
第1の工具要素が前記回転可能なシャフト(81)に係合して、前記回転可能なシャフト(81)に回転を伝達するように、前記第1の工具要素を挿入することができる第1のレセプタクルと、
を備え
、
第2の工具要素(32)が前記ロック要素(35)に係合して、前記ロック要素(35)を前記回転可能なシャフト(81)から係合解除するように、前記第2の工具要素(32)を挿入することができる第2のレセプタクルをさらに備える、
ブレーキシステム。
【請求項2】
前記第2の工具要素(32)は、前記ロック要素(35)に取り付けられるように構成されていて、前記ロック要素(35)を前記
回転可能なシャフト(81)から係合解除することができる、請求項
1記載のブレーキシステム。
【請求項3】
前記回転可能なシャフト(81)は、歯車を備えるディスクの形態の回転部材(36)を備える、請求項
1または2記載のブレーキシステム。
【請求項4】
前記カップリング手段は、前記ロック要素(35)を、前記回転部材(36)の一方の側に係合する位置に移動させるためのばねを備える、請求項
3記載のブレーキシステム。
【請求項5】
前記第1の工具要素(31)は、ねじ山付きシャフトをさらに備え、前記ねじ山付きシャフトのねじ山は、前記歯車に係合することができるピッチを有する、請求項
3記載のブレーキシステム。
【請求項6】
前記ロック要素(35)は、ディスクの形状を有し、前記ロック要素(35)の一方の側が前記回転部材(36)の一方の側に係合して、前記回転部材(36)の回転を阻止し、前記回転部材(36)の前記一方の側から係合解除されて、前記回転部材(36)の回転を可能にするように移動することができるように前記カップリング手段に配置されている、請求項
3から5までのいずれか1項記載のブレーキシステム。
【請求項7】
前記ロック要素(35)は、ディスク形状を有し、ディスク形状の前記ロック要素(35)から互いに反対の側で半径方向にタブが延在している、請求項1から
6までのいずれか1項記載のブレーキシステム。
【請求項8】
前記力伝達手段は、電気的に駆動され、前記回転可能なシャフト(81)の回転運動を生じさせる、請求項1から
7までのいずれか1項記載のブレーキシステム。
【請求項9】
前記カップリング手段は、前記ブレーキアクチュエータ
(2)をロックするための電磁式の駐車ブレーキロック機構に配置されている、請求項1から
8までのいずれか1項記載のブレーキシステム。
【請求項10】
緊急用のブレーキキットであって、請求項1記載のブレーキシステムと、第1の工具要素および第2の工具要素(32)のうちの一方または両方とを備える、ブレーキキット。
【請求項11】
電気機械式のブレーキを解除する方法であって、
第1の工具要素(31)がブレーキアクチュエータ
(2)の回転可能なシャフト(81)に係合するように、前記第1の工具要素(31)を前記電気機械式のブレーキの前記ブレーキアクチュエータ
(2)に挿入することと、
第2の工具要素(32)が前記ブレーキアクチュエータ
(2)の、前記ブレーキアクチュエータ
(2)の移動をロックするロック要素(35)に係合するように、前記第2の工具要素(32)を前記ブレーキアクチュエータ
(2)に挿入することと、
前記第2の工具要素(32)を挿入することにより、前記ロック要素(35)を前記ブレーキアクチュエータ
(2)の前記回転可能なシャフト(81)から係合解除することと、
力を前記ブレーキアクチュエータ
(2)の前記
回転可能なシャフト(81)に伝達し、前記回転可能なシャフト(81)を回転させて、前記ブレーキを解除するように、前記第1の工具要素(31)を移動させることと、
を含む、方法。
【請求項12】
前記ロック要素(35)を前記回転可能なシャフト(81)から係合解除する前に、ロックされた前記ブレーキの状態で前記回転可能なシャフト(81)によって前記ロック要素(35)に加えられたトルクを解放するように、前記第1の工具要素(31)を回転させることをさらに含む、請求項
11記載の方法。
【請求項13】
前記第2の工具要素(32)の少なくとも2つの可能な向きのうちの1つを選択し、前記第2の工具要素(32)を、前記ロック要素(35)に係合させて前記ロック要素(35)を前記ブレーキアクチュエータ(2)の前記回転可能なシャフト(81)から係合解除させるために、前記ブレーキアクチュエータ(2)に挿入し、前記第2の工具要素(32)を前進させ、これにより、前記第2の工具要素(32)の楔状の端区分が、選択された前記向きに従って前記ロック要素(35)を移動させ、これにより、前記ロック要素(35)を前記ブレーキアクチュエータ(2)の前記回転可能なシャフト(81)から係合解除させることをさらに含む、請求項
11または12記載の方法。
【請求項14】
前記第2の工具要素(32)を、前記ロック要素(35)に係合させて前記ロック要素(35)を前記ブレーキアクチュエータ(2)の前記回転可能なシャフト(81)から係合解除させるために、
前記ブレーキアクチュエータ(2)の少なくとも2つの可能なレセプタクルのうちの1つに挿入し、前記第2の工具要素(32)を前進させ、これにより、選択された前記レセプタクルに従って前記ロック要素(35)を移動させ、前記ブレーキアクチュエータ(2)の前記回転可能なシャフト(81)から係合解除させることをさらに含む、請求項
11または12記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械式のブレーキシステム、機械式のブレーキ解除工具および相応の方法に関する。
【0002】
今日、商用車には、電空式のブレーキアクチュエータが使用されることが多い。多くの場合、このアクチュエータは、常用ブレーキと駐車ブレーキとの両方の作動を実現するために、空気圧シリンダを介して空気圧エネルギー源を使用する。駐車ブレーキ機能は、常用ブレーキに対する独立したアクチュエータによって実現され、独立して操作することができる。駐車ブレーキアクチュエータのばねをベースとした設計により、エネルギー源として圧縮空気を使用せずにシングルブレーキ作動を実現することもできる。システム内で圧力損失が発生した場合、駐車ブレーキチャンバ内の予荷重ばねが、車両を停止させるかまたは車両を静止状態に維持するのに十分なブレーキエネルギーを提供する。システム内に圧縮空気が供給されていないときに車両を牽引可能にするためには、駐車ブレーキシリンダを解除する必要がある。組み合わされた空気圧ブレーキチャンバでは、この解除は、ねじ山付き機構によって実現することができる。ねじ山付きシャフトがブレーキチャンバから引き出されており、ねじ山付きシャフトに操作者がアクセス可能となる。このシャフトを通常の工具で回転させることで、ブレーキを解除することができる。
【0003】
将来的には、電気機械式のブレーキの作動がますます一般的になるはずである。このブレーキも外部から解除することができる必要がある。故障が発生した場合、通常の操作中にブレーキがかかったままになり、ブレーキを解除できない場合には、車両を牽引可能にするために、ブレーキを解除する能力が必要である。電気機械式のアクチュエータは複雑であるため、緊急用のブレーキ解除の新たな解決手段が必要である。
【0004】
本出願の目的は、電気機械式のブレーキの緊急解除を可能にする電気機械式のブレーキシステム、機械式のブレーキ解除工具および相応の方法を提供することである。
【0005】
この目的は、請求項1の特徴を備えるブレーキシステム、請求項11の特徴を備えるキットおよび請求項12の特徴を備える方法によって達成される。
【0006】
1つの態様によれば、ブレーキシステムは、作動力をブレーキパッドに伝達するための力伝達手段を有するブレーキアクチュエータであって、前記力伝達手段は、回転可能なシャフトを含む、ブレーキアクチュエータと、ロック要素を備えたカップリング手段であって、ロック要素が回転可能なシャフトに係合されて、回転可能なシャフトの回転を阻止するように、またはロック要素が回転可能なシャフトから係合解除され、これにより、回転可能なシャフトを回転させることができるように制御することができるカップリング手段と、第1のレセプタクルであって、第1の工具要素が回転可能なシャフトに係合し、回転可能なシャフトに回転を伝達して、ブレーキパッドを作動または移動させるように、第1の工具要素を挿入することができる第1のレセプタクルとを備える。レセプタクルは、第1の工具要素をレセプタクル内に自由に挿入し、そこから自由に取り出すことができるように構成することができる。
【0007】
レンチなどの工具であってもよい第1の工具要素がブレーキシステムのブレーキアクチュエータ内に挿入され、第1の工具要素が回転シャフトに係合すると、第1の工具要素を使用してブレーキアクチュエータを手動で移動させ、ブレーキを解除またはクランプすることができる。これにより、車両が使用されていないときでも、ブレーキシステムを外側から解除したり作動させたりすることが可能になる。
【0008】
一実施形態によれば、ブレーキシステムは、第2のレセプタクルであって、第2の工具要素がロック要素に係合して、ロック要素を回転可能なシャフトから係合解除し、回転可能なシャフトを移動させて、ブレーキパッドを移動または作動させるように、第2の工具要素を挿入することができる第2のレセプタクルをさらに備える。
【0009】
一実施形態によれば、第2の工具要素は、ロック要素に係合して、ロック要素を回転要素から係合解除するように構成されている。
【0010】
ブレーキアクチュエータと回転可能なシャフトとがロック要素によってロックされている場合、ブレーキアクチュエータと回転可能なシャフトとは互いに回転することができないため、ロック要素を解除することは、第1の工具要素を用いてブレーキを解除する前の前提条件となる。第2の工具要素を用いて、ロック要素を手動で解除することができ、幾つかの場合では駐車ブレーキ状態またはロック状態においてロック要素を回転シャフトに対して不動に保持する機構の予荷重に抗して、ロック要素を持ち上げるかまたは移動させることができる。ブレーキシステムでは、ロック要素は、ばね機構または永久磁石などの他の手段によって、駐車ブレーキ状態で回転シャフトに対して保持される。加えて、ロック要素を反対方向に押圧するかまたは引っ張り、第2の工具要素を用いたロック要素の解除を補助するばね機構を設けることができる。
【0011】
代替的な実施形態によれば、ブレーキシステムは、第2のレセプタクルであって、第2の工具要素がロック要素に係合して、ロック要素を回転可能なシャフトに係合するように移動させ、これにより、回転可能なシャフトがロックされて、ブレーキパッドを移動または作動させることができないように、第2の工具要素を挿入することができる第2のレセプタクルをさらに備える。
【0012】
別の実施形態によれば、回転可能なシャフトは、歯車を備えるディスクの形態の回転部材を備える。回転部材は、回転可能なシャフトの一方の端部に設けることができる。
【0013】
一実施形態によれば、カップリング手段は、ロック要素を、回転部材の一方の側に係合する位置に移動させるためのばね機構を備える。ばね機構は、1つ以上のばねを含むことができる。代替的なブレーキシステムでは、カップリング手段は、ロック要素を、回転部材の一方の側に係合する位置に保持するための永久磁石などの他の手段を備える。加えて、ロック要素を反対方向に押圧するかまたは引っ張り、第2の工具要素を用いたロック要素の解除を補助するばね機構を設けることができる。
【0014】
一実施形態によれば、カップリング手段は、ばねと、永久磁石と、ソレノイドとを備える双安定クラッチを備える。ばねは、ロック要素が回転部材に係合する位置などの1つの位置にロック要素を保持する。永久磁石は、ロック要素が回転部材から係合解除する位置などの第2の位置にロック要素を保持する。ソレノイドは、電気的な操作で2つの位置を切り替えることができる。しかしながら、別の実施形態によれば、第1の位置および第2の位置は、それぞれ、ロック要素と回転部材との間の係合または係合解除に関して入れ替えることができる。
【0015】
更なる別の実施形態によれば、第1の工具要素は、ねじ山付きシャフトをさらに備え、ねじ山付きシャフトのねじ山は、回転可能なシャフトの回転部材の歯車に係合することができるピッチを有する。次いで、シャフトはウォーム歯車として第1の工具要素と相互作用する。
【0016】
一実施形態によれば、ロック要素は、ディスクの形状を有し、回転部材に向かって移動させることができ、ロック要素の一方の側が回転部材の一方の側に係合して、回転部材の回転を阻止するように形成されているようにカップリング手段に配置されている。ロック要素は、また、ロック要素の一方の側が回転部材の前記一方の側から係合解除して、回転部材の回転を可能にするように移動させることができる。
【0017】
ロック要素と回転可能なシャフトの回転部材とは、ロック要素を回転部材に押圧して駐車ブレーキ状態を実現する機構を介してロック要素と回転部材との2つの対向する表面同士の間の係合によってロックが実現される解離可能なカップリングとして配置することができる。機構は、1つ以上のばねを備えたばね機構または永久磁石などの他の手段であってもよい。機構は、また、ロック要素または回転部材のうちの1つが、回転部材またはロック要素に対して引っ張られて駐車ブレーキ状態を実現する別の構成を有してもよい。ブレーキシステムは、電磁式のアクチュエータなどの、通常の動作において回転部材に対して相対的にロック要素を移動させるための手段を備えることができる。
【0018】
一実施形態によれば、第2の工具要素として使用され、ロック要素を持ち上げるかまたは移動させることができる工具は、その1つ以上の端部分に1つ以上の楔状の区分を有することができ、楔状の区分は、ロック要素と回転部材との間に挿入することができ、第2の工具要素が前進するときに、ロック要素と回転部材との分離をもたらすことができる。第2の工具要素は、フォークの形状を有してもよい。
【0019】
一実施形態によれば、ロック要素は、ディスク形状を有し、ディスク形状の本体の互いに反対の側から半径方向にタブまたはウィングが延在している。第2の工具要素の2つの楔状の区分は、ロック要素に係合してロック要素を移動させることができる。
【0020】
一実施形態によれば、ロック要素、回転可能なシャフトおよび回転部材は、ロック要素、回転可能なシャフトおよび回転部材の、対称軸線に関して同軸に配置されている。
【0021】
一実施形態によれば、力伝達手段は、電気的に駆動され、回転可能なシャフトの回転運動を生じさせる。電気モータをアクチュエータとして使用することができる。
【0022】
一実施形態によれば、カップリング手段およびロック手段は、ブレーキアクチュエータをロックするための電磁式の駐車ブレーキロック機構に配置されている。
【0023】
別の態様によれば、上記のブレーキシステムと、第1の工具要素および第2の工具要素のうちの一方または両方とを備える緊急用のブレーキキットが提供される。緊急用のブレーキキットは、車両が動作しておらず、車両の1つ以上のブレーキを解除またはクランプする必要がある場合に使用することができる。
【0024】
本発明によれば、電気機械式のブレーキを解除する方法も提供される。方法は、第1の工具要素がブレーキアクチュエータの回転可能なシャフトに係合するように、第1の工具要素を電気機械式のブレーキのブレーキアクチュエータに挿入するステップと、第2の工具要素がブレーキアクチュエータの、ブレーキアクチュエータと回転可能なシャフトとの移動をロックされたブレーキの状態にロックするロック要素に係合するように、第2の工具要素をブレーキアクチュエータに挿入するステップと、第2の工具要素を挿入して作動させ、ロック要素を移動させることにより、ロック要素をブレーキアクチュエータの回転可能なシャフトから係合解除するステップと、トルクをブレーキアクチュエータの回転可能なシャフトに伝達し、回転可能なシャフトを回転させて、ブレーキを解除するように、第1の工具要素を移動させるステップとを含む。
【0025】
代替的または付加的に、方法は、第1の工具要素がブレーキアクチュエータの回転可能なシャフトに係合するように、第1の工具要素を電気機械式のブレーキのブレーキアクチュエータに挿入するステップと、トルクをブレーキアクチュエータの回転可能なシャフトに伝達し、回転可能なシャフトを回転させて、ブレーキをロックするように、第1の工具要素を移動させるステップと、第2の工具要素がブレーキアクチュエータのロック要素に係合するように、第2の工具要素をブレーキアクチュエータに挿入するステップと、第2の工具要素を挿入して作動させることにより、第2の工具要素がブレーキアクチュエータの回転可能なシャフトに係合し、ロック要素がブレーキアクチュエータと回転可能なシャフトとの移動をロックされたブレーキの状態にロックするように、ロック要素を移動させるステップとを含むことができる。
【0026】
一実施形態によれば、方法は、ロック要素を回転可能なシャフトから係合解除する前に、ロックされたブレーキの状態で回転可能なシャフトによってロック要素に加えられたトルクを解放するように、第1の工具要素を回転させるステップを含む。
【0027】
別の実施形態によれば、方法は、第2の工具要素の少なくとも2つの可能な向きのうちの1つを選択し、第2の工具要素を、ロック要素に係合させてロック要素をブレーキアクチュエータの回転可能なシャフトから係合解除させるために、ブレーキアクチュエータに挿入し、第2の工具要素を前進させ、これにより、第2の工具要素の楔状の端区分が、選択された向きに従ってロック要素を移動させ、これにより、ロック要素をブレーキアクチュエータの回転可能なシャフトから係合解除させるステップを含む。
【0028】
更なる別の実施形態によれば、方法は、第2の工具要素を、ロック要素に係合させてロック要素をブレーキアクチュエータの回転可能なシャフトから係合解除させるために、ブレーキアクチュエータの少なくとも2つの可能なレセプタクルのうちの1つに挿入し、第2の工具要素を前進させ、これにより、選択されたレセプタクルに従ってロック要素を移動させて、ブレーキアクチュエータの回転可能なシャフトから係合解除させるステップを含む。
【0029】
各々のレセプタクルは、第2の工具要素の2つの端区分を収容するための2つの開口によって形成することができる。第2の工具要素を他のレセプタクル内に挿入すると、ロック要素がブレーキアクチュエータの回転可能なシャフトに係合する位置にロック要素を移動させることができる。
【0030】
別の実施形態によれば、方法は、第2の工具要素の少なくとも2つの可能な向きのうちの1つを選択し、第2の工具要素を、ロック要素に係合させてロック要素をブレーキアクチュエータの回転可能なシャフトに係合させるように移動させるために、ブレーキアクチュエータに挿入し、第2の工具要素を前進させ、これにより、第2の工具要素の楔状の端区分が、選択された向きに従ってロック要素を移動させ、これにより、ロック要素をブレーキアクチュエータの回転可能なシャフトに係合させるステップを含む。
【0031】
更なる別の実施形態によれば、方法は、第2の工具要素を、ロック要素に係合させてロック要素をブレーキアクチュエータの回転可能なシャフトに係合させるように移動させるために、ブレーキアクチュエータの少なくとも2つの可能なレセプタクルのうちの1つに挿入し、第2の工具要素を前進させ、これにより、選択されたレセプタクルに従ってロック要素を移動させ、ブレーキアクチュエータの回転可能なシャフトに係合させるステップを含む。
【0032】
方法は、また、ロック要素を移動させて回転可能なシャフトに係合させる動作を含むことができる。この動作は、上記の回転可能なシャフトからロック要素を係合解除させるために第1の工具要素または第2の工具要素のうちの1つを使用する前だけでなく、これらの動作の後、例えば、車両を牽引して駐車する必要がある場合にも、駐車ブレーキ操作の一部として実施することができる。回転可能なシャフトに係合するようにロック要素を保持することは、ロック要素を回転可能なシャフトに係合するように保持するカップリング手段の磁石、特に永久磁石、またはばね機構によって実施することができる。
【0033】
方法は、ブレーキシステムの更なるステップおよび特徴を含むことができ、第1の工具要素および第2の工具要素は、上記のようにすることができる。方法は、電磁式の駐車ブレーキロック機構を備えた電気機械式のブレーキに使用することができる。この場合、カップリングなどの電磁式のロック機構が最初に解除され、次いで、第1の工具要素を使用してブレーキの予荷重が穏やかに解放される。ブレーキの外部操作は、上記のように1つ以上の解除ステップの組み合わせとして実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
本発明の更なる特徴、機構および利点は、以下の添付の図面を参照した実施形態の以下の説明から明らかである。
【
図1】一実施形態による電気機械式のブレーキシステムの概略図である。
【
図2】一実施形態による電気機械式のブレーキシステムを示す図である。
【
図3a】第1の工具要素の1つの実施形態を示す図である。
【
図3b】第1の工具要素の1つの実施形態を示す図である。
【
図4a】一実施形態による、第1の工具要素の挿入時のブレーキアクチュエータと第1の工具要素との断面図である。
【
図4b】一実施形態による、第1の工具要素がブレーキアクチュエータの回転可能なシャフトの回転部材に係合した後のブレーキアクチュエータと第1の工具要素との断面図である。
【
図6】一実施形態による、第1の工具要素と第2の工具要素とが適用された電気機械式のブレーキシステムを示す図である。
【
図7a】ブレーキアクチュエータの回転シャフトの回転軸線に対して垂直な平面において、第1の工具要素が挿入されていて、第2の工具要素が挿入される前の状態の、一実施形態によるブレーキアクチュエータの断面図である。
【
図7b】ブレーキアクチュエータの回転シャフトの回転軸線に対して平行な平面において、第1の工具要素が挿入されていて、第2の工具要素が挿入される前の状態の、一実施形態によるブレーキアクチュエータの断面図である。
【
図8a】ブレーキアクチュエータの回転シャフトの回転軸線に対して垂直な平面において、第1の工具要素と第2の工具要素とが挿入位置および係合位置にある状態の、一実施形態によるブレーキアクチュエータの断面図である。
【
図8b】ブレーキアクチュエータの回転シャフトの回転軸線に対して平行な平面において、第1の工具要素と第2の工具要素とが挿入位置および係合位置にある状態の、一実施形態によるブレーキアクチュエータの断面図である。
【
図9】代替的な実施形態による、第2の工具要素とロック要素との係合の詳細を示す図である。
【0035】
以下に、本発明によるブレーキ操作装置の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0036】
図1には、ブレーキキャリパ1と、ブレーキキャリパ1に接続されたブレーキアクチュエータ2であって、シャフトアセンブリ8と、プッシュ型のジョイント9またはプッシュプル型のジョイント9を介してシャフトアセンブリ8に接続されたレバーアセンブリとを含む力伝達機構を備えるブレーキアクチュエータ2とを備える電気機械式のブレーキシステムが示されている。レバーアセンブリは、レバーアセンブリのレバー7に接続されている押圧機構10を介して、電気モータなどのモータ4から1つ以上のブレーキパッド10bに作動力を伝達する。ブレーキアクチュエータ2は、回転可能なシャフト81に接続されたモータ4によって発生した作動力が、回転並進変換機構を介してシャフトアセンブリ8の並進要素82によって並進力としてレバー7に伝達され、レバー7がその端部の固定点を中心とした回転によって1つ以上のブレーキパッド10bに力を伝達するように構成されている。ブレーキアクチュエータ2はまた、電磁式のカップリングアセンブリ3または電磁式のクラッチアセンブリ3を備える。
【0037】
カップリングアセンブリ3は、シャフトアセンブリ8の回転可能なシャフト81に接続された回転部材36を有している。カップリングアセンブリ3は、内部に電磁式のアクチュエータを備えたカップリング本体34と、電磁式のアクチュエータによって移動させることができるロック要素35とをさらに備える。
【0038】
ロック位置では、カップリング本体34は、ロック要素35を、回転可能なシャフト81の回転部材36に接触させるように押圧する。接触位置では、回転部材36およびロック要素35ならびに回転部材36およびカップリング本体34が相対回動不能である。こうして、ブレーキアクチュエータ2によって1つ以上のブレーキパッド10bにクランプ力が加えられた後にロック要素35が作動させられると、カップリング3は、回転可能なシャフト81を、一定の制動力を提供する位置に固定することができる。
【0039】
ブレーキシステムが機能しない緊急時には、駐車ブレーキを無効にするかまたは作動させることが必要となる場合がある。次いで、以下の機械工具と方法とを使用して、ブレーキを解除またはロックすることができる。駐車ブレーキ状態では、ブレーキとアクチュエータとに予荷重が加えられ、その結果、ブレーキがロックされ、カップリング3はロック位置にある。
【0040】
図2に示す実施形態では、ハウジングは、ブレーキアクチュエータとカップリングアセンブリ3とに第1の工具要素31を挿入するための1つの開口を覆う1つのカバー21と、ブレーキを解除するように第2の工具要素32を挿入するための2つの開口を覆う2つのカバー22とを有している。第1の工具要素の実施形態は、
図3aおよび
図3bに示されている。フォーク形状を有するカップリングスイッチ工具として実現することができる第2の工具要素32の例は、
図5に示されている。
【0041】
カバー21,22を取り外した後、第1の工具要素31は、カバー21が配置されていたハウジングの開口に挿入され、その後、第1の工具要素31が孔状のレセプタクルに到達し、カップリングアセンブリ3の回転部材36に接触することができる。回転部材36は、ウォームホイールとして形成されている。遠位端がウォームねじとして設計された第1の工具要素31は、カップリングアセンブリ3の回転部材36に係合し、ハウジング内のレセプタクルの盲穴の端部までレセプタクル内にねじ込むことができる。この位置で第1の工具要素31は回転部材36をブロックする。
図4bに示される実施形態では、回転部材36を反時計回りの回転を阻止することができる。このとき、カップリングアセンブリ3は依然としてロックされている。駐車ブレーキ状態のアセンブリカップリング3は予荷重状態にあるので、使用者は、カップリング3への応力を減少させるために、第1の工具要素31に特定のトルクを付与する必要がある。このことは、カップリング3を保護するためにも役立つ。
【0042】
ここで、
図6に示すように、カバー22が配置されていたハウジングの穴に第2の工具要素32を挿入することができる。第2の工具要素32は、非対称の楔形状を有する遠位端分を備えているので、第2の工具要素32の挿入時には、第2の工具要素32の端部分の楔状の区分の、ロック要素35に対する相対的な向きに応じて、カップリング3を無効にする機能およびカップリング3を作動させる機能という互いに異なる機能を有する2つの向きが可能である。工具および/またはハウジングにおける記号、注意または突起は、所望の動作に対する適正な向きを選択するために役立てることができる。
【0043】
第2の工具要素32を挿入するとき、第2の工具要素32の遠位端にある楔状の区分は、ロック要素35に係合し、カップリング3が開放されるようにロック要素35に予荷重をかけるばねなどの手段の力に抗してロック要素35を移動させる。この開放プロセスは、
図7a、
図7b、
図8aおよび
図8bに示されており、それぞれ、第2の工具要素32の端部分の楔状の区分が、第2の工具要素32の端部分の互いに反対の側でロック要素35に係合する前後の状況が示されている。
図7aおよび
図8aでは、ディスク状のロック要素35の互いに反対の側から突出したタブまたはウィングを認めることができ、タブまたはウィングは、第2の工具要素32がロック要素35に係合することを容易にする。タブは、カップリング3を傾けることなく開放するために役立つ。第2の工具要素32とロック要素35との間に付加的な接触点を設けて、動作を改善することができる。
【0044】
第2の工具要素32の可視のエンドストップ(またはマーク)は、第2の工具要素32がカップリング3のロックを解除するのに十分深くハウジングに挿入されているか否かを示す。第2の工具要素32の2つのロッドにおける対応する突出部は、
図7aおよび
図8aに認めることができる。ここで、カップリング3が開放された状態では、ブレーキの予荷重は、回転部材36から回転部材36のウォームホイールとウォームねじとを介して、ハウジングのレセプタクルに位置する第1の工具要素31に案内される。第1の工具要素31を回転させることにより、回転部材36も回転する。ウォーム駆動ピッチとウォームねじ前面の直径とにより、解除の強度が決定される。ブレーキが解除されると、第1の工具要素31および第2の工具要素32を取り外すことができる。穴はカバー21,22で閉鎖することができる。
【0045】
第1の工具要素31は、
図3aに示されるようにクランクを用いて、または
図3bに示されるように電動工具または空気圧式の手持ち工具用の共通の接続部を用いて設計することができる。
【0046】
説明された第1の工具要素31と第2の工具要素32とを用いて、車両を操作することなく駐車ブレーキを作動させることもできる。これを行うには、まず、カバー21,22が取り外される。回転部材36を回転させ、ブレーキに予荷重を加えるために、第1の工具要素31を挿入し、前方方向(
図4bでは時計回り)に回転させる必要がある。第1の工具要素31に加えられる回転数および回転トルクにより、ブレーキのクランプ力が決定される。次いで、第2の工具要素32を、エンドストップまでハウジング2に挿入するが、カップリング3を閉鎖するための第2の工具要素32の適正な向きを考慮する必要がある。駐車ブレーキを作動させるために、第2の工具要素32の端部分の楔状の区分は、ロック要素35を回転部材36に向かう方向に移動させて、ロック要素35をブレーキの予荷重位置でロックする。次いで、第1の工具要素31および第2の工具要素32を取り外すことができる。続いて、ブレーキアクチュエータハウジングをカバー21,22で閉鎖することができる。
【0047】
本発明の範囲を逸脱することなく、示された実施形態に変更を適用することができる。
【0048】
図7aおよび
図8aに示される実施形態によれば、ロック要素35のウィングは、回転部材36の歯と同一の平面に近接している。この配置のため、第1の工具要素31と第2の工具要素32とは、互いに交差またはブロックし合うことがないように、アクチュエータの軸線を中心とした向きの可能性を制限している。ロック要素35のウィングまたは回転部分のウィングを軸線方向にオフセットすることにより、アクチュエータ軸線を中心とした第2の工具要素32のウィングへのより良好なアクセスが可能となる。
【0049】
ロック要素35を回転部分36にロックするかまたはロック要素35を回転部分36からロック解除するために、第2の工具要素32をブレーキアクチュエータ2のハウジングに挿入するときに、楔状の遠位端を有する第2の工具要素32の向きを変更することは、ロック要素35を移動させるための係合手段の一実施形態にすぎない。代替的に、移動方向ごとにロック要素35に設けられた楔区分も考えられる。この場合、第2の工具要素32のための平行な孔および平行なレセプタクルをブレーキアクチュエータ2のハウジング内に設けることができ、このことは、ロック要素35の各々の傾斜面または楔区分につながる。カップリング3を開閉するには、次いで、工具を適正な孔に挿入し、ロック要素35の適正な傾斜面または楔区分に接触させて、ロックまたはロック解除を実現する必要がある。ロック要素35を所望の方向に押圧するかまたは引っ張るために、孔またはレセプタクルが、ブレーキアクチュエータ2およびブレーキアクチュエータ2のハウジングに互いに異なる方向から延在することも考えられる。
【0050】
更なる代替手段として、挿入中にロック要素35を移動させるために、傾斜面をブレーキシリンダハウジング内に設け、第2の工具要素32の端区分を屈曲させるかまたは偏向させることができる。このことは、第2の工具要素32の端部分が一方の側のブレーキアクチュエータ2のレセプタクルに挿入されたときに、水平矢印によって示される方向のうちの1つの方向に変位するロック要素35の一部を示す
図18に示されている。
【0051】
第2の工具要素32のエンドストップは、様々な位置に取り付けられていてもよい。ブレーキシリンダハウジングの外側にあるエンドストップの利点は、視認性が良いことである。ブレーキシリンダ2のハウジングの盲穴の端部にエンドストップを設けること、または第2の工具要素32の輪郭をオフセットして、ロック要素35のウィングにエンドストップを設けることも可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 ブレーキキャリパ
2 ブレーキアクチュエータ
3 電磁式のカップリングアセンブリ
4 電気モータ
7 レバーアセンブリ
8 シャフトアセンブリ
9 ジョイント
10b ブレーキパッド
10 押圧機構
31 工具
32 工具
34 カップリング本体
35 カップリング移動要素
36 回転部材
81 回転可能なシャフト
82 並進要素