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特許7492077断線位置推定装置および断線位置推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】断線位置推定装置および断線位置推定方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/10 20060101AFI20240521BHJP
   B23H 7/02 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B23H7/10 Z
B23H7/02 R
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023502287
(86)(22)【出願日】2022-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2022005533
(87)【国際公開番号】W WO2022181368
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2021030797
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 大輝
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特許第6760997(JP,B2)
【文献】特開昭56-139833(JP,A)
【文献】国際公開第2012/157068(WO,A1)
【文献】特開2000-172340(JP,A)
【文献】特許第2573514(JP,B2)
【文献】国際公開第2021/153430(WO,A1)
【文献】特許第2987305(JP,B2)
【文献】特許第2705460(JP,B2)
【文献】特許第3079734(JP,B2)
【文献】特許第3047536(JP,B2)
【文献】実公平6-45296(JP,Y2)
【文献】特開昭62-63018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/10
B23H 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ放電加工機において、加工対象物を通過する所定の送出経路に沿って送出されるワイヤ電極の断線位置を推定する断線位置推定装置であって、
前記ワイヤ放電加工機は、
前記所定の送出経路において前記加工対象物よりも下流に配され、前記加工対象物に向けて送出されて前記加工対象物を通過した前記ワイヤ電極を巻き取る巻取りローラと、
前記巻取りローラを駆動する巻取りモータと、
前記巻取りモータのシャフトの駆動に応じた検出信号を出力するセンサと、
を備え、
前記断線位置推定装置は、
前記検出信号に基づいて前記巻取りモータのトルクを取得するトルク取得部と、
前記ワイヤ電極が断線した場合に、前記巻取りローラによって巻き取られる前記ワイヤ電極の後端が前記巻取りローラを通過したか否かを前記トルクに基づいて判定する判定部と、
前記検出信号に基づいて前記巻取りモータの回転角度を取得する回転角度取得部と、
前記ワイヤ電極が断線してから前記ワイヤ電極の後端が前記巻取りローラを通過したと判定されるまでの前記巻取りモータの回転角度に基づいて、前記ワイヤ電極の断線位置を推定する断線位置推定部と、
を備える、断線位置推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の断線位置推定装置であって、
前記判定部は、前記トルクの単位時間あたりの変化率に基づいて、前記ワイヤ電極の後端が前記巻取りローラを通過したか否かを判定する、断線位置推定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の断線位置推定装置であって、
前記判定部は、取得された前記トルクが、前記トルクに関して予め決められた範囲を逸脱したか否かに基づいて、前記ワイヤ電極の後端が前記巻取りローラを通過したか否かを判定する、断線位置推定装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の断線位置推定装置であって、
前記ワイヤ電極の断線位置と、断線原因および対処方法のうち少なくとも一方とを対応付けたテーブルと、
前記断線位置推定部が推定した断線位置に対応する断線原因および対処方法のうち少なくとも一方を前記テーブルに基づいて特定する原因対処特定部と、
特定された前記断線原因および前記対処方法のうち少なくとも一方を表示部に表示させる表示制御部と、
をさらに備える、断線位置推定装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の断線位置推定装置であって、
前記ワイヤ放電加工機を制御する制御装置に設けられている、断線位置推定装置。
【請求項6】
ワイヤ放電加工機において、加工対象物を通過する所定の送出経路に沿って送出されるワイヤ電極の断線位置を推定する断線位置推定方法であって、
前記ワイヤ放電加工機は、
前記所定の送出経路において前記加工対象物よりも下流に配され、前記加工対象物に向けて送出されて前記加工対象物を通過した前記ワイヤ電極を巻き取る巻取りローラと、
前記巻取りローラを駆動する巻取りモータと、
前記巻取りモータのシャフトの駆動に応じた検出信号を出力するセンサと、
を備え、
前記断線位置推定方法は、
前記センサの検出信号に基づいて前記巻取りモータの回転角度を取得する回転角度取得ステップと、
前記センサの検出信号に基づいて前記巻取りモータのトルクを取得するトルク取得ステップと、
前記ワイヤ電極が断線した場合に、前記巻取りローラによって巻き取られる前記ワイヤ電極の後端が前記巻取りローラを通過したか否かを前記トルクに基づいて判定する判定ステップと、
前記ワイヤ電極が断線してから前記ワイヤ電極の後端が前記巻取りローラを通過したと判定されるまでの前記巻取りモータの回転角度に基づいて、前記ワイヤ電極の断線位置を推定する断線位置推定ステップと、
を含む、断線位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤ放電加工機に関し、特に、ワイヤ電極の断線位置を推定する断線位置推定装置および断線位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-217559号公報には、ワイヤ放電加工機に係る先行技術が開示されている。先行技術は、ワイヤ電極の断線位置を算出することを目的とする。特開2019-217559号公報には、先行技術に係る先端検出電極が開示される。先端検出電極は、ワイヤ電極の搬送経路中に設置される。先端検出電極は、ワイヤ電極と接触する。先端検出電極の電圧は、先端検出電極とワイヤ電極とが接触しているか否かに応じて、変化する。
【0003】
先行技術に係る先端検出電極は、ワイヤ電極の断線位置よりも上流に設置される。ワイヤ電極は、断線発生時において巻き戻される。ここで、先行技術は、先端検出電極電圧の変化に基づいて、巻き戻されるワイヤ電極が先端検出電極に接触しなくなる位置を検出する。すなわち、先行技術は先端検出電極電圧の変化に基づいて、ワイヤ電極の先端位置を検出する。また、先行技術は、ワイヤ電極の先端位置と、ワイヤ電極の巻き戻し量とに基づいて、ワイヤ電極の断線位置を算出する。
【発明の概要】
【0004】
特開2019-217559号公報に開示される技術は、少なくとも次の問題点を有する。すなわち、オペレータは、ワイヤ電極の搬送経路中に先端検出電極を設置しなければならない。つまり、オペレータの段取り作業の工程数が増える。また、先端検出電極よりも上流においてワイヤ電極が断線した場合、巻き戻しが開始される時点において、ワイヤ電極の先端は、既に先端検出電極よりも上流にある。したがって、巻き戻るワイヤ電極の先端が先端検出電極に到達することは有り得ない。したがって、特開2019-217559号公報の技術によって断線位置を算出することはできない。さらに、ワイヤ電極の先端を検出するためには、送出時とは逆方向にワイヤ電極を巻き戻さ(逆走させ)なければならない。ワイヤ電極を逆走させると、その拍子にワイヤ電極が絡まるおそれがある。
【0005】
本発明は、先端検出電極を省略しつつ、ワイヤ電極の断線位置を信頼性よく推定する断線位置推定装置および断線位置推定方法を提供することを目的とする。
【0006】
本発明の第1の態様は、ワイヤ放電加工機におけるワイヤ電極の断線位置を推定する断線位置推定装置であって、前記ワイヤ放電加工機は、加工対象物に向けて送出されて前記加工対象物を通過した前記ワイヤ電極を巻き取る巻取りローラと、前記巻取りローラを駆動する巻取りモータと、前記巻取りモータのシャフトの駆動に応じた検出信号を出力するセンサと、を備え、前記断線位置推定装置は、前記検出信号に基づいて前記巻取りモータのトルクを取得するトルク取得部と、前記ワイヤ電極が断線した場合に、前記トルクに基づいて前記巻取りローラによって巻き取られる前記ワイヤ電極の後端が前記巻取りローラを通過したか否かを判定する判定部と、前記検出信号に基づいて前記巻取りモータの回転角度を取得する回転角度取得部と、前記ワイヤ電極が断線してから前記ワイヤ電極の後端が前記巻取りローラを通過したと判定されるまでの前記巻取りモータの回転角度に基づいて、前記ワイヤ電極の断線位置を推定する断線位置推定部と、を備える。
【0007】
本発明の第2の態様は、ワイヤ放電加工機におけるワイヤ電極の断線位置を推定する断線位置推定方法であって、前記ワイヤ放電加工機は、加工対象物に向けて送出されて前記加工対象物を通過した前記ワイヤ電極を巻き取る巻取りローラと、前記巻取りローラを駆動する巻取りモータと、前記巻取りモータのシャフトの駆動に応じた検出信号を出力するセンサと、を備え、前記断線位置推定方法は、前記センサの検出信号に基づいて前記巻取りモータの回転角度を取得する回転角度取得ステップと、前記センサの検出信号に基づいて前記巻取りモータのトルクを取得するトルク取得ステップと、前記ワイヤ電極が断線した場合に、前記トルクに基づいて前記巻取りローラによって巻き取られる前記ワイヤ電極の後端が前記巻取りローラを通過したか否かを判定する判定ステップと、前記ワイヤ電極が断線してから前記ワイヤ電極の後端が前記巻取りローラを通過したと判定されるまでの前記巻取りモータの回転角度に基づいて、前記ワイヤ電極の断線位置を推定する断線位置推定ステップと、を含む。
【0008】
本発明の態様によれば、先端検出電極を省略しつつ、ワイヤ電極の断線位置を信頼性よく推定する断線位置推定装置、および断線位置推定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態に係るワイヤ放電加工機の構成図である。
図2図2は、実施の形態に係る送り機構の構成図である。
図3図3は、実施の形態に係る断線位置推定装置の構成図である。
図4図4Aは、ワイヤ電極が断線した場合の送り機構を例示する図である。図4Bは、図4Aから時間が経過し、断線したワイヤ電極が巻取りローラおよびピンチローラを通過した後の送り機構を例示する図である。
図5図5は、ワイヤ電極の後端が巻取りローラを通過する前後における巻取りモータのトルクの変化を簡単に例示するグラフである。
図6図6は、実施の形態に係る断線位置推定方法の流れを例示するフローチャートである。
図7図7は、変形例1に係る断線位置推定装置の構成図である。
図8図8は、ワイヤ電極の送出経路上に規定される複数の区間を例示する図である。
図9図9は、図8の複数の区間と、その各々の区間内で生じ得る断線原因および対処方法との対応関係が規定されたテーブルを例示する図である。
図10図10は、変形例1に係る断線位置推定方法の流れを例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の断線位置推定装置、および断線位置推定方法について好適な実施の形態が、添付の図面を参照しながら詳細に説明される。
【0011】
[実施の形態]
図1は、実施の形態に係るワイヤ放電加工機10の構成図である。
【0012】
図1には、ワイヤ放電加工機10のみならず、X軸線と、Y軸線と、Z軸線とが図示される。X軸線と、Y軸線と、Z軸線とは互いに直交する。本実施の形態において、X軸線と、Y軸線とは水平面に平行な方向軸線である。本実施の形態において水平方向とは、特に断らない限り、XY方向を指す。また、本実施の形態において、Z軸線は重力方向と平行な方向軸線である。
【0013】
ワイヤ放電加工機10は、ワイヤ電極12と加工対象物Wとの間に形成される極間g(図2参照)に放電を発生させることにより、加工対象物Wに放電加工を施す産業機械である。ワイヤ放電加工機10は、加工機本体14と、制御装置16とを備える。加工機本体14は、放電加工を行う。制御装置16は、加工機本体14を制御する。
【0014】
加工機本体14は、加工槽18と、テーブル(移動台座)20と、送り機構22と、回収箱24とを備える。加工槽18は加工液Lqを貯留する槽である。加工液Lqは誘電性を有する液体である。例えば、加工液Lqは脱イオン水である。
【0015】
テーブル20は、加工対象物Wを支持する台座である。テーブル20は、加工槽18内に設置される。テーブル20は、水平方向に沿って移動可能である。なお、移動可能なテーブル20は、既知の技術に基づいて実現される。
【0016】
図2は、実施の形態に係る送り機構22の構成図である。
【0017】
送り機構22は、所定の送出経路に沿ってワイヤ電極12を送出する機構である。ワイヤ電極12の送出経路は、ワイヤボビン30と、送りローラ32と、上ワイヤガイド38Aと、加工対象物Wと、下ワイヤガイド38Bと、巻取りローラ48とを、この順序で辿る経路である。なお、ワイヤボビン30と、送りローラ32と、上ワイヤガイド38Aと、加工対象物Wと、下ワイヤガイド38Bと、巻取りローラ48との詳しい説明は、後述される。送り機構22は、供給系統26と、回収系統28とを有する。供給系統26は、ワイヤ電極12を加工対象物Wに供給する。回収系統28は、加工対象物Wを通過したワイヤ電極12を回収する。
【0018】
なお、図2において、加工対象物Wを支持するテーブル20の図示は割愛されている。また、図2のワイヤ電極12と加工対象物Wとは、隣り合わせで描かれている。しかし、一般的に、ワイヤ電極12は、加工対象物Wを貫通する孔に通される(図1参照)。
【0019】
供給系統26は、ワイヤボビン30と、送りローラ32と、2つの補助ローラ34Aと、上パイプダイス36Aと、上ワイヤガイド38Aとを備える。ワイヤボビン30は、回転可能なボビンである。ワイヤボビン30には、ワイヤ電極12が引き出し可能に巻かれる。送りローラ32と、2つの補助ローラ34Aとの各々は、回転可能なローラである。送りローラ32には、ワイヤボビン30から引き出されたワイヤ電極12が架け渡される。2つの補助ローラ34Aは、ワイヤボビン30と送りローラ32との間に設置される。2つの補助ローラ34Aは、ワイヤ電極12の撓みを抑止する。上パイプダイス36Aは、送りローラ32より下流に設置される筒状部材である。上パイプダイス36Aは、ワイヤ電極12を上ワイヤガイド38Aの方へと案内する。上ワイヤガイド38Aは、送りローラ32から加工対象物Wの方へとワイヤ電極12を案内するワイヤガイドである。上ワイヤガイド38Aは水平方向に移動可能である。上ワイヤガイド38A(上ワイヤガイド38Aの内部)には、上電極ピン40Aが設けられる。上電極ピン40Aは、不図示の電源に接続される。この電源は、上電極ピン40Aを介して、ワイヤ電極12に電圧パルス(電圧)を印加する。
【0020】
送りローラ32と補助ローラ34Aとは、ワイヤ電極12を挟持する(図2参照)と好ましい。これにより、ワイヤ電極12が送りローラ32から外れるおそれが低減される。なお、補助ローラ34Aの数は、図2の例示(2つ)に限定されない。
【0021】
供給系統26は、トルクモータ42と、送りモータ44とをさらに備える。トルクモータ42は、ワイヤボビン30に回転トルクをかけるモータである。この回転トルクは、ワイヤ電極12の送出を妨げる方向のトルクである。この回転トルクにより、送出方向とは逆方向の力(バックテンション)がワイヤ電極12にかかる。送りモータ44は、例えばサーボモータである。送りモータ44は送りローラ32に接続される。送りモータ44は、送りローラ32の回転を制御する。
【0022】
送りモータ44は、シャフト44aを有する。また、送りモータ44には、センサ46Aが設けられている。センサ46Aは、例えばロータリエンコーダである。センサ46Aは、シャフト44aの駆動に応じた検出信号Siを出力する。検出信号Siは制御装置16に入力される(図1参照)。
【0023】
回収系統28は、下ワイヤガイド38Bと、補助ローラ34Bと、下パイプダイス36Bと、巻取りローラ48と、ピンチローラ50とを備える。下ワイヤガイド38Bは、加工対象物Wを通過したワイヤ電極12を巻取りローラ48の方へと案内するワイヤガイドである。下ワイヤガイド38Bは水平方向に移動可能である。下ワイヤガイド38Bには下電極ピン40Bが設けられる。下電極ピン40Bは、不図示の電源に接続される。この電源は、下電極ピン40Bを介してワイヤ電極12に電圧を印加する。なお、下電極ピン40Bと上電極ピン40Aとは、同一の電源に接続されてもよい。補助ローラ34Bは、回転可能なローラである。補助ローラ34Bは、下ワイヤガイド38Bと巻取りローラ48との間に設置される。補助ローラ34Bは、ワイヤ電極12の撓みを抑止する。補助ローラ34Bの数は、特に限定されない。下パイプダイス36Bは、下ワイヤガイド38Bより下流に設置される筒状部材である。下パイプダイス36Bは、ワイヤ電極12を巻取りローラ48へと案内する。巻取りローラ48と、ピンチローラ50との各々は、回転可能なローラである。巻取りローラ48には、下ワイヤガイド38Bを通過したワイヤ電極12が架け渡される。ピンチローラ50は、巻取りローラ48と共にワイヤ電極12を挟持する。これにより、ワイヤ電極12が撓むおそれが低減される。
【0024】
回収系統28は、巻取りモータ52をさらに備える。巻取りモータ52は、例えばサーボモータである。巻取りモータ52は、巻取りローラ48に接続される。巻取りモータ52は、巻取りローラ48の回転を制御する。
【0025】
巻取りモータ52はシャフト52aを有する。また、巻取りモータ52にはセンサ46Bが設けられている。センサ46Bは、例えばロータリエンコーダである。センサ46Bは、シャフト52aの駆動に応じた検出信号Siを出力する。検出信号Siは制御装置16に入力される(図1参照)。
【0026】
制御装置16は、モータ駆動装置54と、モータ指令装置56と、断線位置推定装置58とを有する(図1参照)。モータ駆動装置54は、トルクモータ42と、送りモータ44と、巻取りモータ52とを駆動させる。モータ指令装置56は、モータ駆動装置54に向けて指令信号Siを出力する。
【0027】
以下に、モータ駆動装置54と、モータ指令装置56と、断線位置推定装置58とが説明される。ただし、モータ駆動装置54と、モータ指令装置56とについては、モータ制御に関する既知の技術が流用されてもよい。したがって、モータ駆動装置54と、モータ指令装置56との説明は、以下においては簡単な説明に留められる。
【0028】
モータ指令装置56は、プロセッサと、メモリとを含む。なお、モータ指令装置56のプロセッサと、メモリとは、いずれも不図示である。モータ指令装置56のメモリには、所定のプログラムがインプットされる。モータ指令装置56のプロセッサは、所定のプログラムを実行する。これにより、モータ指令装置56は、指令信号Siを出力する。指令信号Siは、トルクモータ42と、送りモータ44と、巻取りモータ52との回転速度を指定するための信号である。モータ指令装置56は、トルクモータ42の回転速度を指定するための指令信号Siと、送りモータ44の回転速度を指定するための指令信号Siと、巻取りモータ52の回転速度を指定するための指令信号Siとを出力可能である。
【0029】
モータ駆動装置54は、モータアンプ(モータドライバ)を適宜含む。モータ駆動装置54は、入力される指令信号Siに基づいて、トルクモータ42と、送りモータ44と、巻取りモータ52とに駆動電流を供給する。トルクモータ42と、送りモータ44と、巻取りモータ52とは、供給される駆動電流に応じて駆動する。
【0030】
モータ駆動装置54は、検出信号Siと、検出信号Siとを取得する。モータ駆動装置54は、検出信号Siと、検出信号Siとに基づいて、フィードバック制御を行う。例えば、指令信号Siで指定された送りモータ44の回転速度と、実際の送りモータ44の回転速度とが相違する場合がある。この場合、モータ駆動装置54は、送りモータ44に供給する駆動電流を検出信号Siに基づいて調整する。これにより、実際の送りモータ44の回転速度が、指令信号Siで指定された回転速度に近づけられる。また、例えば、指令信号Siで指定された巻取りモータ52の回転速度と、実際の巻取りモータ52の回転速度とが相違する場合がある。この場合、モータ駆動装置54は、巻取りモータ52に供給する駆動電流を検出信号Siに基づいて調整する。これにより、実際の巻取りモータ52の回転速度が、指令信号Siで指定された回転速度に近づけられる。
【0031】
以上のモータ指令装置56と、モータ駆動装置54とは、送りモータ44と巻取りモータ52とを駆動させることにより、ワイヤ電極12をワイヤボビン30から回収箱24の方へと送る。また、以上のモータ指令装置56と、モータ駆動装置54とは、トルクモータ42を制御することで、ワイヤ電極12にバックテンションをかける。モータ指令装置56と、モータ駆動装置54とは、送りモータ44と、巻取りモータ52と、トルクモータ42とを適宜制御することで、送りローラ32と巻取りローラ48との間においてワイヤ電極12を張架させる。
【0032】
張架したワイヤ電極12と、加工対象物Wとの間には、極間gが形成される(図2参照)。ワイヤ放電加工機10は、上電極ピン40Aと、下電極ピン40Bとを介してワイヤ電極12に電圧を印加することで、極間gに放電を発生させる。また、ワイヤ放電加工機10は、極間gに放電を発生させながらワイヤ電極12と加工対象物Wとを相対移動させる。これにより、加工対象物Wは、加工品の形状へと加工される。これに関連し、制御装置16は、テーブル20と、上ワイヤガイド38Aと、下ワイヤガイド38Bとの移動制御と、ワイヤ電極12に印加される電圧の制御と、を実行する。
【0033】
図3は、実施の形態に係る断線位置推定装置58の構成図である。
【0034】
断線位置推定装置58は、表示部60と、操作部62と、記憶部64と、演算部66とを備える(図3参照)。
【0035】
表示部60は、情報をオペレータに向けて表示する表示器である。表示部60は、例えば表示画面を含む。なお、表示部60は、断線位置推定装置58に関する情報のみならず、例えばモータ指令装置56に関する情報を表示してもよい。表示部60の表示画面は、例えば液晶パネルを有する。ただし、表示部60の表示画面の材料は液晶に限定されない。例えば表示部60の表示画面の材料は、有機EL(OEL:Organic Electro-Luminescence)を含んでもよい。
【0036】
操作部62は、オペレータが断線位置推定装置58に指示を出すために設けられる。操作部62は、例えばキーボード(複数の操作キー)と、マウスと、タッチパネルとを含む。タッチパネルは、例えば表示部60に設置される。なお、操作部62は、断線位置推定装置58に関するオペレータの指示のみならず、モータ指令装置56に関するオペレータの指示を受け付けてもよい。
【0037】
記憶部64は、メモリを含む。例えば記憶部64は、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)とを含む。記憶部64のメモリと、モータ指令装置56のメモリ(不図示)とは、重複してもよい。
【0038】
記憶部64は、断線位置推定プログラム68を記憶する。断線位置推定プログラム68は、ワイヤ電極12の断線位置PBR図4A参照)を信頼性よく推定する断線位置推定方法を断線位置推定装置58に実行させるためのプログラムである。
【0039】
演算部66は、プロセッサを含む。例えば演算部66は、CPU(Central Processing Unit)と、GPU(Graphics Processing Unit)とを含む。演算部66のプロセッサと、モータ指令装置56のプロセッサ(不図示)とは、重複してもよい。
【0040】
演算部66は、トルク取得部70と、判定部72と、回転角度取得部74と、断線位置推定部76と、表示制御部78とを有する。トルク取得部70と、判定部72と、回転角度取得部74と、断線位置推定部76と、表示制御部78とは、演算部66が断線位置推定プログラム68を実行することにより実現される。
【0041】
トルク取得部70は、巻取りモータ52のシャフト52aの回転トルクTq(以下、単にトルクTq)を取得する。トルクTqは、例えばモータ駆動装置54またはモータ指令装置56により、センサ46Bの検出信号Siに基づいて算出される。この場合、トルク取得部70は、モータ駆動装置54またはモータ指令装置56から、トルクTqを取得する。ただし、トルク取得部70は、検出信号Siに基づいてトルクTqを算出してもよい。この場合、トルク取得部70は、検出信号Siを取得する。検出信号Siは、例えばモータ駆動装置54から取得される。
【0042】
トルク取得部70は、取得したトルクTqを判定部72に入力する。
【0043】
判定部72は、トルクTqに基づいて、ワイヤ電極12の後端12a(図4A)が巻取りローラ48を通過したか否かを判定する。以下、この判定に関連して、ワイヤ電極12の断線とトルクTqとの関係性が説明される。
【0044】
図4Aは、ワイヤ電極12が断線した場合の送り機構22を例示する図である。
【0045】
ワイヤ電極12の送出中において、ワイヤ電極12と巻取りローラ48とは互いに擦れ合う。したがって、ワイヤ電極12に摩擦力Fが作用する(図2参照)。摩擦力Fは、シャフト52aの回転を妨げる力(負荷)である。したがって、指定された回転速度で巻取りローラ48を回転させるために必要な巻取りモータ52の駆動電流は、摩擦力Fがワイヤ電極12に作用する場合と、作用しない場合とでは、摩擦力Fがワイヤ電極12に作用する場合の方が大きくなる。モータ駆動装置54は、巻取りモータ52を指令信号Siの通りに駆動させるために、摩擦力Fがワイヤ電極12に作用しない場合よりも大きな駆動電流を巻取りモータ52に供給する。すなわち、モータ駆動装置54は、巻取りモータ52の回転速度とトルクTqとを所定範囲内に維持するために、摩擦力Fが作用しない場合よりも大きな駆動電流を巻取りモータ52に供給する。摩擦力Fは、ワイヤ電極12が巻取りローラ48により巻き取られている間であれば、ワイヤ電極12が断線した後であっても発生する(図4A参照)。
【0046】
図4Bは、図4Aから時間が経過し、断線したワイヤ電極12が巻取りローラ48およびピンチローラ50を通過した後の送り機構22を例示する図である。
【0047】
ワイヤ電極12の後端12aが巻取りローラ48を通過することにより、摩擦力Fは消失する(図4B参照)。これにより、巻取りローラ48にかかる負荷が低下する。これ以降は、負荷が低下した分に応じて、指定された回転速度で巻取りローラ48を回転させるために必要な巻取りモータ52の駆動電流は小さくなる。したがって、モータ駆動装置54は、巻取りモータ52に供給する駆動電流を小さくする。ここで、摩擦力Fが消失してから、巻取りモータ52の駆動電流が変更されるまでには時間差がある。その時間帯においては、摩擦力Fを加味した大きな駆動電流が、摩擦力Fが作用していない巻取りモータ52に供給される。
【0048】
図5は、ワイヤ電極12の後端12aが巻取りローラ48を通過する前後における巻取りモータ52のトルクTqの変化を簡単に例示するグラフ(縦軸:トルクTq、横軸:時間)である。図5中の時点(以下、ワイヤ通過時点)tは、ワイヤ電極12の後端12aが巻取りローラ48(巻取りローラ48とピンチローラ50との間)を通過した時点を示す。
【0049】
図5のグラフには、図4A図4Bの間におけるトルクTqの変化が簡単に例示される。トルクTqは、ワイヤ通過時点tから急激に上昇する。これは摩擦力Fを加味した大きな駆動電流が、摩擦力Fが作用していない巻取りローラ48に供給されるためである。
【0050】
以上を踏まえ、判定部72が改めて説明される。判定部72は、ワイヤ電極12が断線した場合に、トルクTqの単位時間あたりの変化率に基づいて、巻取りローラ48に巻き取られるワイヤ電極12の後端12aが巻取りローラ48を通過したか否かを判定する。例えば判定部72は、断線の発生後において上記変化率が予め決められた閾値を超過した場合に、後端12aが巻取りローラ48を通過したと判定する。なお、閾値は、例えば実験に基づいて予め決められる。
【0051】
なお、巻取りローラ48によるワイヤ電極12の巻き取りとは、巻取りローラ48の回転に応じてワイヤ電極12を回収箱24の方に送出することを指す。ワイヤ電極12を逆走させることは不要である。巻取り最中の巻取りモータ52の制御はモータ駆動装置54とモータ指令装置56とが行う。
【0052】
上記判定を行うために、判定部72は、ワイヤ電極12の断線タイミングを取得する。ここで、ワイヤ電極12の断線タイミングは、断線検出に関する既知の技術を流用して取得される。例えば特開2019-217559号公報に開示される断線検出手段(張力センサ)が流用される。
【0053】
回転角度取得部74は、巻取りモータ52の回転角度AROを取得する。回転角度AROは、検出信号Siに基づいて算出可能である。なお、モータ駆動装置54またはモータ指令装置56が検出信号Siに基づいて回転角度AROを算出してもよい。図3の回転角度取得部74は、モータ駆動装置54またはモータ指令装置56から回転角度AROを取得する。
【0054】
回転角度取得部74は、特に、ワイヤ電極12が断線してから後端12aが巻取りローラ48を通過したと判定されるまでの間の回転角度(回転量)AROを取得する。ワイヤ電極12が断線してから後端12aが巻取りローラ48を通過したと判定されるまでの間の回転角度AROは、断線位置推定部76に入力される。
【0055】
断線位置推定部76は、ワイヤ電極12が断線してから後端12aが巻取りローラ48を通過するまでに巻取りローラ48を通過したワイヤ電極12のワイヤ長Lを算出する。ワイヤ長Lは、回転角度取得部74から入力された回転角度AROと、巻取りローラ48の径とに基づいて算出可能である。ここで、巻取りローラ48は既知の情報である。また、巻取りローラ48の径は、巻取りローラ48の半径でもよい。次いで、断線位置推定部76は、送出経路中におけるワイヤ電極12の断線位置PBRを、ワイヤ長Lに基づいて推定する。断線位置推定部76は、ワイヤ電極12の送出経路のうち、巻取りローラ48の位置からワイヤ長Lの長さだけ上流に戻った位置を、断線位置PBRであると推定する(図4A参照)。
【0056】
断線位置推定部76は、推定結果(断線位置PBR)を表示制御部78に出力する。
【0057】
表示制御部78は、表示部60を制御する。表示制御部78は、断線位置推定部76から入力された推定結果を、表示部60に表示させる。これにより、オペレータは、表示部60を通じて、推定された断線位置PBRを把握する。表示制御部78は、例えば断線位置PBRを示すメッセージを表示させる。ただし、表示制御部78は、例えば送り機構22の構成を表す図面を用いて、その図面中のうち断線位置PBRに相当する箇所に所定のアイコンを表示させてもよい。
【0058】
本実施の形態の断線位置推定装置58は、センサ46Bから得られる巻取りモータ52の駆動情報に基づいて、ワイヤ電極12の断線位置PBRを推定する。したがって、断線位置推定装置58は、送出経路のうち巻取りローラ48よりも上流の全範囲に関して、断線位置PBRを推定可能である。また、断線位置推定装置58は、ワイヤ電極12の後端12aの位置を検出信号Siに基づいて検出する。したがって、先端検出電極を別途設けることと、断線後にワイヤ電極12を逆走させることとは、いずれも本実施の形態において不要である。ワイヤ電極12を逆走させる必要がないので、ワイヤ電極12の逆走によってワイヤ電極12が絡まるおそれもない。
【0059】
図6は、実施の形態に係る断線位置推定方法の流れを例示するフローチャートである。
【0060】
断線位置推定方法が以下に説明される。断線位置推定方法は、断線位置推定装置58により実行される。断線位置推定方法は、回転角度取得ステップS1と、トルク取得ステップS2と、判定ステップS3と、断線位置推定ステップS4と、表示ステップS5とを含む(図6参照)。
【0061】
断線位置推定方法は、例えばワイヤ電極12の断線が発生した場合に、自動的に開始される(START)。
【0062】
回転角度取得ステップS1では、回転角度取得部74が、センサ46Bの検出信号Siに基づいて巻取りモータ52の回転角度AROを取得する。ここで、巻取りモータ52は、回収箱24に向かってワイヤ電極12を送出するための回転を続行する。なお、送りモータ44は停止させてもよい。
【0063】
トルク取得ステップS2では、トルク取得部70が、センサ46Bの検出信号Siに基づいて巻取りモータ52のトルクTqを取得する。
【0064】
判定ステップS3では、判定部72が、巻取りローラ48によって巻き取られるワイヤ電極12の後端12aが巻取りローラ48を通過したか否かを、トルクTqに基づいて判定する。
【0065】
判定の結果、後端12aが巻取りローラ48を通過したと判定された場合(S3:YES)には、断線位置推定ステップS4に進む。一方、後端12aが巻取りローラ48を通過していないと判定された場合(S3:NO)には、回転角度取得ステップS1およびトルク取得ステップS2を再び実行する。これにより、断線が発生してからワイヤ電極12の後端12aが巻取りローラ48を通過するまでの間の回転角度AROが取得される。
【0066】
断線位置推定ステップS4では、断線位置推定部76が、ワイヤ電極12の断線位置PBRを推定する。
【0067】
表示ステップS5では、断線位置推定ステップS4で行われた断線位置PBRの推定結果に基づき、表示制御部78が表示部60に断線位置PBRを表示させる。本実施の形態の断線位置推定方法の説明は以上である。
【0068】
[変形例]
以上、本発明の一例として実施の形態が説明された。上記実施の形態には、多様な変更または改良を加えることが可能である。また、その様な変更または改良を加えた形態が本発明の技術的範囲に含まれ得ることは、請求の範囲の記載から明らかである。
【0069】
実施の形態に係る変形例が以下に説明される。ただし、実施の形態と重複する説明は、以下の説明では可能な限り省略される。以下の説明において、実施の形態で説明済みの構成要素には、特に断らない限り、実施の形態と同一の参照符号が付される。
【0070】
(変形例1)
図7は、変形例1に係る断線位置推定装置58A(58)の構成図である。
【0071】
断線位置推定装置58Aは、テーブル80と、原因対処特定部82とをさらに有する。
【0072】
テーブル80は、ワイヤ電極12の断線位置PBRと、断線原因と、対処方法とが対応付けられた対応表である。テーブル80は、予め記憶部64に記憶される。
【0073】
図8は、ワイヤ電極12の送出経路上に規定される複数の区間を例示する図である。
【0074】
ワイヤ電極12の送出経路は、複数の区間に区分される。図8には、送出経路を区分する6つの区間[1]~[6]が例示される。区間[1]は、送りローラ32から上ワイヤガイド38Aまでを含む区間である。区間[2]は、上ワイヤガイド38Aを含む区間である。区間[3]は、加工対象物Wの上面または下面を含む区間である。区間[4]は、加工対象物Wの上面および下面を除いた部分(中央部分)を含む区間である。区間[5]は、下ワイヤガイド38Bを含む区間である。区間[6]は、下ワイヤガイド38Bよりも下流を含む区間である。なお、上記区分は説明のための例示である。したがって、送出経路の区分の仕方と、区間数とは、図8の例示に限定されない。
【0075】
図9は、図8の複数の区間と、その各々の区間内で生じ得る断線原因および対処方法との対応関係が規定されたテーブル80を例示する図である。
【0076】
ワイヤ電極12の断線原因の候補は、断線位置PBRに基づいて絞り込まれる。例えば区間[1]で生じる断線原因の候補としては、上ワイヤガイド38A(上電極ピン40A)の摩耗と、上パイプダイス36Aの清掃不良と、送りローラ32付近の異常とが挙げられる。また、区間[1]で断線が生じた場合の対処方法としては、上ワイヤガイド38A(上電極ピン40A)の点検と、上ワイヤガイド38Aの交換と、上パイプダイス36Aの清掃と、送りローラ32の点検と、送りローラ32の交換とが挙げられる。
【0077】
図9のテーブル80において、複数の区間[1]~区間[6]は、最も左欄に規定される。図9のテーブル80において、各区間に対応する断線原因は、中央欄に規定される。図9のテーブル80において、各区間に対応する対処方法は、最も右欄に規定される。ただし、図9のテーブル80は例示である。したがって、テーブル80の具体的な内容は、図9の例示に限定されない。
【0078】
原因対処特定部82は、例えばトルク取得部70と同様に、演算部66が所定のプログラムを実行することによって仮想的に実現可能である。
【0079】
原因対処特定部82は、断線位置推定部76により推定された断線位置PBRが区間[1]~区間[6]のうちのどれに属しているかを判定する。また、原因対処特定部82は、その判定結果に基づいて、断線位置PBRに対応する断線原因および対処方法を特定する。ここで、原因対処特定部82は、テーブル80を必要に応じて参照する。
【0080】
本変形例の表示制御部78は、断線位置PBRのみならず、原因対処特定部82により特定された原因と対処方法とを表示部60に表示させる。これにより、オペレータは、ワイヤ電極12の断線に効率よく対処することができる。
【0081】
図10は、変形例1に係る断線位置推定方法の流れを例示するフローチャートである。
【0082】
断線位置推定装置58Aは、図10の断線位置推定方法を実現可能である。図10の断線位置推定方法は、回転角度取得ステップS1と、トルク取得ステップS2と、判定ステップS3と、断線位置推定ステップS4と、原因対処特定ステップS6と、表示ステップS7とを含む。
【0083】
以下において、原因対処特定ステップS6と、表示ステップS7とが説明される。なお、回転角度取得ステップS1~断線位置推定ステップS4の説明は、割愛される(実施の形態参照)。
【0084】
原因対処特定ステップS6は、断線位置推定ステップS4の後に実行される。原因対処特定ステップS6では、原因対処特定部82が、断線位置推定ステップS4で推定された断線位置PBRに対応する断線原因と対処方法とをテーブル80に基づいて特定する。ここで、原因対処特定部82は、断線原因と対処方法とのうち一方のみを特定してもよい。
【0085】
表示ステップS7は、原因対処特定ステップS6の後に実行される。表示ステップS7では、表示制御部78が、断線位置PBRと、断線原因と、対処方法とを表示部60に表示させる。以上により、本変形例の断線位置推定方法は完了(RETURN)する。
【0086】
なお、テーブル80には、断線位置PBRに対応する断線原因と対処方法とのうち、いずれか一方のみが含まれてもよい。その場合、原因対処特定部82は、断線原因または対処方法を特定する。
【0087】
(変形例2)
判定部72は、取得されたトルクTqが、トルクTqに関して予め決められた範囲を逸脱したか否かに基づいて、ワイヤ電極12の後端12aが巻取りローラ48を通過したか否かを判定してもよい。
【0088】
(変形例3)
トルク取得部70は、トルクTqに応じて変化する物理量を取得することで、実質的にトルクTqを取得してもよい。トルクTqに応じて変化する物理量とは、トルクTqに応じて変化する限りにおいて特に限定されないが、例えば巻取りモータ52の駆動電流、または巻取りモータ52の回転速度である。
【0089】
(変形例4)
断線位置推定装置58は、制御装置16(モータ指令装置56、モータ駆動装置54)とは別個の電子装置でもよい。この場合、断線位置推定装置58は、例えばネットワーク(有線/無線を問わない)を介して、制御装置16からトルクTqまたは回転角度AROを取得する。
【0090】
(変形例5)
前述の各変形例は、矛盾しない範囲内であれば、適宜組み合わされてよい。
【0091】
[実施の形態から得られる発明]
上記実施の形態および変形例から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0092】
<第1の発明>
第1の発明は、ワイヤ放電加工機(10)におけるワイヤ電極(12)の断線位置(PBR)を推定する断線位置推定装置(58)であって、前記ワイヤ放電加工機は、加工対象物(W)に向けて送出されて前記加工対象物を通過した前記ワイヤ電極を巻き取る巻取りローラ(48)と、前記巻取りローラを駆動する巻取りモータ(52)と、前記巻取りモータのシャフト(52a)の駆動に応じた検出信号(Si)を出力するセンサ(46B)と、を備え、前記断線位置推定装置は、前記検出信号に基づいて前記巻取りモータのトルク(Tq)を取得するトルク取得部(70)と、前記ワイヤ電極が断線した場合に、前記トルクに基づいて前記巻取りローラによって巻き取られる前記ワイヤ電極の後端(12a)が前記巻取りローラを通過したか否かを判定する判定部(72)と、前記検出信号に基づいて前記巻取りモータの回転角度(ARO)を取得する回転角度取得部(74)と、前記ワイヤ電極が断線してから前記ワイヤ電極の後端が前記巻取りローラを通過したと判定されるまでの前記巻取りモータの回転角度に基づいて、前記ワイヤ電極の断線位置を推定する断線位置推定部(76)と、を備える。
【0093】
これにより、先端検出電極を省略しつつ、ワイヤ電極の断線位置を信頼性よく推定する断線位置推定装置が提供される。
【0094】
前記判定部は、前記トルクの単位時間あたりの変化率に基づいて、前記ワイヤ電極の後端が前記巻取りローラを通過したか否かを判定してもよい。これにより、先端検出電極によらず、且つワイヤ電極の逆走を必要とせず、後端を検出することができる。
【0095】
前記判定部は、取得された前記トルクが、前記トルクに関して予め決められた範囲を逸脱したか否かに基づいて、前記ワイヤ電極の後端が前記巻取りローラを通過したか否かを判定してもよい。これにより、先端検出電極によらず、且つワイヤ電極の逆走を必要とせず、後端を検出することができる。
【0096】
前記ワイヤ電極の断線位置と、断線原因および対処方法のうち少なくとも一方とを対応付けたテーブル(80)と、前記断線位置推定部が推定した断線位置に対応する断線原因および対処方法のうち少なくとも一方を前記テーブルに基づいて特定する原因対処特定部(82)と、特定された前記断線原因および前記対処方法のうち少なくとも一方を表示部(60)に表示させる表示制御部(78)と、をさらに備えてもよい。これにより、オペレータは、ワイヤ電極が断線した場合に効率的に対処できる。
【0097】
前記断線位置推定装置は、前記ワイヤ放電加工機を制御する制御装置(16)に設けられてもよい。
【0098】
<第2の発明>
ワイヤ放電加工機(10)におけるワイヤ電極(12)の断線位置(PBR)を推定する断線位置推定方法であって、前記ワイヤ放電加工機は、加工対象物(W)に向けて送出されて前記加工対象物を通過した前記ワイヤ電極を巻き取る巻取りローラ(48)と、前記巻取りローラを駆動する巻取りモータ(52)と、前記巻取りモータのシャフト(52a)の駆動に応じた検出信号(Si)を出力するセンサ(46B)と、を備え、前記断線位置推定方法は、前記センサの検出信号(Si)に基づいて前記巻取りモータの回転角度(ARO)を取得する回転角度取得ステップ(S1)と、前記センサの検出信号に基づいて前記巻取りモータのトルク(Tq)を取得するトルク取得ステップ(S2)と、前記ワイヤ電極が断線した場合に、前記トルクに基づいて前記巻取りローラによって巻き取られる前記ワイヤ電極の後端(12a)が前記巻取りローラを通過したか否かを判定する判定ステップ(S3)と、前記ワイヤ電極が断線してから前記ワイヤ電極の後端が前記巻取りローラを通過したと判定されるまでの前記巻取りモータの回転角度に基づいて、前記ワイヤ電極の断線位置を推定する断線位置推定ステップ(S4)と、を含む。
【0099】
これにより、先端検出電極を省略しつつ、ワイヤ電極の断線位置を信頼性よく推定する断線位置推定方法が提供される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10