(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】加工条件推定装置
(51)【国際特許分類】
B23H 7/02 20060101AFI20240521BHJP
B23H 7/20 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B23H7/02 R
B23H7/20
(21)【出願番号】P 2023511061
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2022013554
(87)【国際公開番号】W WO2022210170
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-10-10
(31)【優先権主張番号】P 2021055156
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】羽田 啓太
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-320389(JP,A)
【文献】特開2010-042499(JP,A)
【文献】特開平07-116927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/02
B23H 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ放電加工機における加工条件を推定する加工条件推定装置であって、
加工内容に係るデータ及び要求仕様に係るデータに対して該加工内容及び該要求仕様を満足する加工条件に係るデータが関連付けられた加工情報データが記憶された加工情報データベースと、
前記加工情報データベースに記憶された加工情報データに基づいて、所望の加工内容及び要求仕様を満足すると推定される少なくとも1つの加工条件を導出する加工条件導出部と、
前記加工条件導出部が導出した加工条件に基づいてワイヤ放電加工機のシミュレーションを実行するシミュレーション部と、
前記シミュレーション部によるシミュレーションの結果に基づいて、前記加工条件を評価する加工条件評価部と、
前記加工条件評価部による評価の結果に基づいて、前記加工情報データベースを更新するデータベース更新部と、
を備えた加工条件推定装置。
【請求項2】
さらに、前記加工情報データベースに記憶された加工
情報データに基づいて、加工内容に係るデータ及び要求仕様に係るデータと、加工条件に係るデータとの相関性を学習する機械学習部を備え、
前記加工条件導出部は、前記機械学習部による学習結果に基づいて、所望の加工内容及び要求仕様を満足すると推定される少なくとも1つの加工条件を導出する、
請求項1に記載の加工条件推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工条件推定装置に関し、特にワイヤ放電加工機の加工条件を探索する加工条件推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工機で加工を行う場合、加工内容(ワーク材質、ワーク板厚、加工形状、段差、周辺の環境など)及び要求仕様(加工速度、断線頻度、真直精度、面粗さ、形状誤差など)に合わせて用意された加工条件(電圧波形、電圧極性、電流波形、放電時間、休止時間、加工液量、加工液圧、ワイヤ張力、ワイヤ送り制御など)を用いて加工を行う。メーカは、ワイヤ放電加工機の加工条件を変更しながら実加工を何度も行い、それぞれの加工内容及び要求仕様の組み合わせに対して適切と思われる加工条件を探索していき、加工条件リストを作成しておく。このような加工条件の探索作業は、熟練した作業者が時間をかけて行う必要がある。ユーザはメーカがあらかじめ用意した加工条件リストの中から、所望する加工内容及び要求仕様を満たす加工条件を選択して使用することになる。
【0003】
加工条件の探索に係る従来技術として、例えば特許文献1には、設定した加工条件と、実加工した時の加工結果との関係をデータベース化しておき、作成したデータベースをもとに、機械学習で要求仕様を満たす加工条件を予測する技術が開示されている。特許文献1の技術では、予測された加工条件で実際に加工を行い、そこから得られた結果によってデータベースを更新し、次に試すべき加工条件を予測して提示することを繰り返す。これにより、作業員が人手で行うよりも速く、より適切な加工条件を見つけることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した加工内容及び要求仕様には膨大な組み合わせがある。そのため、全ての加工における加工内容及び要求仕様の組み合わせに対して適切な加工条件を網羅することは困難である。メーカは一般的に使用される加工内容及び要求仕様に限定して加工条件を探索しているのが現状である。加工条件リスト外の特殊な加工内容及び要求仕様に対しては、加工性能の悪化を妥協して加工条件リスト内の類似した加工条件を利用するか、メーカに特注して加工条件の探索を依頼しなければならない。こういった背景から、メーカは可能な限り多くの加工内容及び要求仕様の組み合わせを加工条件リストに組み込むことが求められている。加工条件の探索作業においては、加工内容や要求仕様に応じて加工条件を変化させながら実加工を行う必要がある。実加工や加工結果の評価には人手が必要なので、完全自動化をすることも難しい。
そのため、極力人手をかけずに加工条件の探索の作業を行うことを可能とする技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による加工条件推定装置は、加工条件の探索を行う際に、探索により予測した加工条件の評価にシミュレーションの技術を用いることで、上記課題を解決する。シミュレーションの技術を用いることで、実加工することなく、加工条件の評価を行うことが可能となり、また、実加工を行うよりも短時間でより多くのデータを取得することが可能となる。
【0007】
そして、本発明の一態様は、ワイヤ放電加工機における加工条件を推定する加工条件推定装置であって、加工内容に係るデータ及び要求仕様に係るデータに対して該加工内容及び該要求仕様を満足する加工条件に係るデータが関連付けられた加工情報データが記憶された加工情報データベースと、前記加工情報データベースに記憶された加工情報データに基づいて、所望の加工内容及び要求仕様を満足すると推定される少なくとも1つの加工条件を導出する加工条件導出部と、前記加工条件導出部が導出した加工条件に基づいてワイヤ放電加工機のシミュレーションを実行するシミュレーション部と、前記シミュレーション部によるシミュレーションの結果に基づいて、前記加工条件を評価する加工条件評価部と、前記加工条件評価部による評価の結果に基づいて、前記加工情報データベースを更新するデータベース更新部と、を備えた加工条件推定装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様により、オペレータから入力された加工内容及び要求仕様を満足する加工条件の探索を行う際に、探索により予測した加工条件の評価にシミュレーションの技術を用いることで、実加工することなく、加工条件の評価を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態による制御装置の概略的なハードウェア構成図である。
【
図2】第1実施形態による制御装置の機能を示す概略的なブロック図である。
【
図3】加工情報データベースに記憶される加工情報データの例を示す図である。
【
図4】第2実施形態による制御装置の概略的なハードウェア構成図である。
【
図5】第2実施形態による制御装置の機能を示す概略的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は本発明の第1実施形態による加工条件推定装置の要部を示す概略的なハードウェア構成図である。
本発明の加工条件推定装置1は、例えば、ワイヤ放電加工機8を制御する制御装置として実装することができ、また、制御装置に併設されたパソコンとして実装することができ、更には、フォグコンピュータ6、クラウドサーバ7等のコンピュータとして実装することもできる。本実施形態による加工条件推定装置1は、有線/無線のネットワーク5を介してワイヤ放電加工機8(を制御する制御装置)と接続されたコンピュータとして実装されている。
【0011】
本実施形態による加工条件推定装置1が備えるCPU11は、加工条件推定装置1を全体的に制御するプロセッサである。CPU11は、バス22を介してROM12に格納されたシステム・プログラムを読み出し、該システム・プログラムに従って加工条件推定装置1全体を制御する。RAM13には一時的な計算データや表示データ、及び外部から入力された各種データ等が一時的に格納される。
【0012】
不揮発性メモリ14は、例えばバッテリ(図示せず)でバックアップされたメモリやSSD(Solid State Drive)等で構成され、加工条件推定装置1の電源がオフされても記憶状態が保持される。不揮発性メモリ14には、インタフェース15を介して外部機器72から読み込まれたプログラムやデータ、インタフェース18を介して入力装置71から入力されたプログラムやデータ、ネットワーク5を介してフォグコンピュータ6やクラウドサーバ7等の他の装置から取得されたプログラムやデータ等が記憶される。不揮発性メモリ14に記憶されるデータは、例えばワイヤ放電加工機8における加工内容に係るデータや、要求仕様に係るデータ、その他のワイヤ放電加工機8に取り付けられたセンサ(図示せず)で検出された各物理量に係るデータ等が含まれていてよい。不揮発性メモリ14に記憶されたプログラムやデータは、実行時/利用時にはRAM13に展開されてもよい。また、ROM12には、公知の解析プログラムなどの各種システム・プログラムがあらかじめ書き込まれている。
【0013】
インタフェース15は、加工条件推定装置1のCPU11と外部記憶媒体等の外部機器72と接続するためのインタフェースである。外部機器72側からは、例えばシミュレーションに用いられるプログラムやデータ等が読み込まれる。また、加工条件推定装置1内で編集したプログラムやデータ等は、外部機器72を介してCFカードやUSBメモリ等の外部記憶媒体(図示せず)に記憶させることができる。
【0014】
インタフェース20は、加工条件推定装置1のCPUと有線乃至無線のネットワーク5とを接続するためのインタフェースである。ネットワーク5は、例えばRS-485等のシリアル通信、Ethernet(登録商標)通信、光通信、無線LAN、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)等の技術を用いて通信をするものであってよい。ネットワーク5には、他の機械を制御する制御装置や、フォグコンピュータ6、クラウドサーバ7等の上位の管理装置が接続され、加工条件推定装置1との間で相互にデータのやり取りを行っている。
【0015】
表示装置70には、メモリ上に読み込まれた各データ、プログラム等が実行された結果として得られたデータ等がインタフェース17を介して出力されて表示される。また、キーボードやポインティングデバイス等から構成される入力装置71は、作業者による操作に基づく指令,データ等をインタフェース18を介してCPU11に渡す。
【0016】
図2は、本発明の第1実施形態による加工条件推定装置1が備える機能を概略的なブロック図として示したものである。
本実施形態による加工条件推定装置1が備える各機能は、
図1に示した加工条件推定装置1が備えるCPU11がそれぞれシステム・プログラムを実行し、加工条件推定装置1の各部の動作を制御することにより実現される。
【0017】
本実施形態の加工条件推定装置1は、加工条件導出部100、シミュレーション部110、加工条件評価部120、データベース更新部130を備える。また、加工条件推定装置1のRAM13乃至不揮発性メモリ14には、所定の加工内容に係るデータ及び要求仕様に係るデータに対して、加工条件に係るデータを関連付けた加工情報データを記憶する領域である加工情報データベース200が設けられている。
【0018】
図3は、加工情報データベース200に記憶される加工情報データの例を示している。
図3に例示されるように、加工情報データベース200には、加工内容に係るデータ及び要求仕様に係るデータに対し、その加工内容及び要求仕様を満足するための加工条件に係るデータが関連づけられて記憶される。そして前記加工内容に係るデータにはワーク材質、ワーク板厚、加工形状、段差、周辺の環境などのデータが含まれ、前記要求仕様に係るデータには加工速度、断線頻度、真直精度、面粗さ、形状誤差などのデータが含まれ、また、前記加工条件に係るデータには電圧波形、電圧極性、電流波形、放電時間、休止時間、加工液量、加工液圧、ワイヤ張力、ワイヤ送り制御などのデータが含まれる。それぞれの加工情報データは、該加工情報データを一意に識別する識別情報と関連付けられている。
【0019】
初期の段階において加工情報データベース200に記憶される加工情報データは、例えば、入力装置71や外部機器72を介してオペレータにより入力されたデータであってもよいし、ワイヤ放電加工機8において過去に行った加工において観測されたデータを取得したものであってもよい。初期の段階で加工情報データベース200に記憶するべきデータは、あらゆる加工内容及び要求仕様を網羅的にカバーするものである必要はない。
【0020】
加工条件導出部100は、
図1に示した加工条件推定装置1が備えるCPU11がROM12から読み出したシステム・プログラムを実行し、主としてCPU11によるRAM13、不揮発性メモリ14を用いた演算処理が行われることで実現される。加工条件導出部100は、オペレータから入力された加工内容に係るデータ及び要求仕様に係るデータに基づいて、該加工内容及び要求仕様を満足すると推定される所定の加工条件を導出する。
加工条件導出部100は、例えば加工情報データベース200に記憶された加工情報データに基づいて、オペレータから入力された加工内容及び要求仕様を満足すると推定される所定の加工条件を導出してもよい。この場合、加工条件導出部100は、オペレータから入力された加工内容に係るデータ及び要求仕様に係るデータと、加工情報データベース200に記憶される各加工情報データに含まれる加工内容に係るデータ及び要求仕様に係るデータとの間で類似検索を行う。類似検索では、例えばそれぞれの加工内容に係るデータ及び要求仕様に係るデータをベクトルに見立てた場合の距離を計算し、最も距離が近いものを類似度が高い加工情報データとして抽出する。そして、抽出した加工情報データに含まれる加工条件に対して、所定の変化を加えた複数の加工条件を、加工内容及び要求仕様を満足すると推定される所定の加工条件として導出する。
【0021】
加工条件導出部100は、変化させるデータが数値である場合には、例えば予め定めた所定の変量を加えることで、該データを変化させてよい。この所定の変量は、複数の変量であってよい。加工条件導出部100が導出した加工条件はシミュレーション部110によるワイヤ放電加工機のシミュレーション動作のパラメータとして用いられる。基本的に、シミュレーションでは、実機の仕様により実加工できない加工条件を設定することも可能である。そのため、加工条件導出部100がデータに対して適用する変化は、一般的な設定値の範囲や、組合せの範囲を超えるものであってもよい。
【0022】
一例として、加工条件導出部100は、加工情報データベース200から抽出した加工情報データに含まれる加工条件に係るデータに対して、条件項目毎に予め定めた所定の変化を加えることで、加工内容及び要求仕様を満足すると推定される所定の加工条件を導出するようにしてもよい。これは、それぞれの条件項目に変化を加えたものであってもよいし、それぞれの条件項目に対して変化を加えたものの組み合わせであってよい。
説明を簡単にするために、加工条件として電圧値、放電時間の2つの条件項目があるとする。また、電圧値については±0.1V、放電時間は±1μsecが所定の変化として予め定義されているとする。この時、加工条件導出部100は、加工情報データベース200から抽出した加工情報データに対して、以下8つの変化を加えることで加工条件を導出する。
(加工条件1)電圧値+0.1V
(加工条件2)電圧値-0.1V
(加工条件3)放電時間+1μsec
(加工条件4)放電時間-1μsec
(加工条件5)電圧値+0.1V,放電時間+1μsec
(加工条件6)電圧値+0.1V,放電時間-1μsec
(加工条件7)電圧値-0.1V,放電時間+1μsec
(加工条件8)電圧値-0.1V,放電時間-1μsec
【0023】
また、予め定められた変化に加えて、更に乱数を用いて加工条件に対して変化を加えた加工条件を導出するようにしてもよい。このような加工条件の変化は、機械仕様外の加工条件や、人では想定していない加工条件を導出するために用いることができる。
【0024】
なお、加工条件導出部100が導出する加工条件は、加工情報データベース200において網羅されていない加工条件についてシミュレーションを行うためのものである。そのため、加工条件導出部100が導出する加工条件は、該加工条件が含まれる加工情報データが、既に加工情報データベース200に記憶されているものでは無いことが望ましい。加工条件導出部100は、所定の変化を加えた加工情報データが既に加工情報データベース200に記憶されたものと同一のものであった場合には、当該加工条件を出力対象から外してよい。
【0025】
シミュレーション部110は、
図1に示した加工条件推定装置1が備えるCPU11がROM12から読み出したシステム・プログラムを実行し、主としてCPU11によるRAM13、不揮発性メモリ14を用いた演算処理が行われることで実現される。シミュレーション部110は、加工条件導出部100が導出した加工条件に基づいたワイヤ放電加工機のシミュレーションを行い、その加工結果を出力する。シミュレーション部110は、加工条件導出部100が導出した加工条件、及びオペレータから入力された加工内容に係るデータ及び要求仕様に係るデータの内で、シミュレーション動作のパラメータとして設定可能なデータを設定した上で、ワイヤ放電加工機のシミュレーション処理を実行する。シミュレーション部110が行うワイヤ放電加工機のシミュレーションは、例えば「特開2002-160127号公報」や、「国枝正典,”放電加工シミュレーション”精密
工学会誌,Vol.76, No.8, 2010, pp.861-866」等に開示される公知の手法を用いればよい。
【0026】
シミュレーション部110は、設定されたパラメータによるワイヤ放電加工機のシミュレーションの結果として、加工速度、断線頻度、真直精度、面粗さ、形状誤差などを出力する。
【0027】
加工条件評価部120は、
図1に示した加工条件推定装置1が備えるCPU11がROM12から読み出したシステム・プログラムを実行し、主としてCPU11によるRAM13、不揮発性メモリ14を用いた演算処理が行われることで実現される。加工条件評価部120は、加工条件導出部100が導出したそれぞれの加工条件に基づくシミュレーションの結果が、オペレータから入力された要求仕様に係るデータをどの程度満足するのかを評価する。加工条件評価部120は、例えばシミュレーション結果の形状誤差が、オペレータから入力された形状誤差よりも小さい場合に1、形状誤差が2倍未満の場合0.5、形状誤差が2倍以上の場合に0、といったように、結果が良好である場合に高い点数、結果が不良である場合に低い点数となるように各項目について点数付けをして、その合計値で評価するようにしてもよい。点数付けには各項目の重要度に応じて重みを掛けるようにしてもよい。加工条件評価部120は、それぞれの加工条件とその評価を出力する。加工条件評価部120による評価結果は表示装置70に表示出力しても良いし、ネットワーク5を介してフォグコンピュータ6やクラウドサーバ7などの上位装置に対して送信出力しても良い。
【0028】
データベース更新部130は、
図1に示した加工条件推定装置1が備えるCPU11がROM12から読み出したシステム・プログラムを実行し、主としてCPU11によるRAM13、不揮発性メモリ14を用いた演算処理が行われることで実現される。データベース更新部130は、加工条件評価部120が出力した加工条件とその評価に基づいて、加工情報データベースを更新する。データベース更新部130は、例えば加工条件評価部120が最も高い評価を付けた加工条件について、オペレータが入力した加工内容及びシミュレーション部によるシミュレーション結果としての要求仕様項目と関連付けて加工情報データを作成し、加工情報データベース200に記憶するようにしてもよい。また、データベース更新部130は、例えば加工条件評価部120が所定以上の評価点を付けた加工条件について加工情報データを作成し、加工情報データベース200に記憶するようにしてもよい。更に、データベース更新部130は、表示装置に表示された加工条件の内で、オペレータが選択した加工条件について加工情報データを作成し、加工情報データベース200に記憶するようにしてもよい。
【0029】
本実施形態による加工条件推定装置1の変形例として、加工条件評価部120は、それぞれの加工条件について所定以上の評価が得られなかった場合、例えば予め定めた所定の閾値以上の評価点が得られなかった場合、加工条件導出部100に対して更なる加工条件の導出を指令するようにしてよい。このような指令を受けた加工条件導出部100は、あらかじめ定められた変化を複数回重畳させた加工条件を更に導出するか、あるいは更なる乱数による変化を加えた加工条件を導出する。このようにして、新たに導出された加工条件に基づいてシミュレーション部110でワイヤ放電加工機のシミュレーションを行い、所定以上の評価が得られる加工条件を探索し続けてもよい。
【0030】
上記構成を備えた本実施形態による加工条件推定装置1は、オペレータから入力された加工内容及び要求仕様を満足する加工条件の探索を行う際に、探索により予測した加工条件の評価にシミュレーションの技術を用いることで、実加工することなく、加工条件の評価を行うことが可能となる。実加工をする必要がなくなるため、実加工に係る人手を削減することができる。また、シミュレーションに用いる計算資源を高速なものとすることで、実加工を行うよりもはるかに短時間でより多くのデータを取得することが可能となる。シミュレーションでは、実機の仕様により実加工できない加工条件についても評価することが可能である。そのため、範囲や組み合わせが想定されていなかった加工条件についてシミュレーションを行うことも可能であるため、機械仕様外の加工条件や作業者等が思いつかないような加工条件を評価することができるようになり、機械の仕様改良・新規研究開発の指針となりうる。
【0031】
図4は、本発明の第2実施形態による加工条件推定装置の要部を示す概略的なハードウェア構成図である。本実施形態による加工条件推定装置1は、加工条件の推定に機械学習器2を用いる。
【0032】
本実施形態による加工条件推定装置1は、第1実施形態による加工条件推定装置1(
図2)が備える構成に加えて、インタフェース21及び機械学習器2を備える。
インタフェース21は、CPU11と機械学習器2とを接続するためのインタフェースである。機械学習器2は、機械学習器2全体を統御するプロセッサ201と、システム・プログラム等を記憶したROM202、機械学習に係る各処理における一時的な記憶を行うためのRAM203、及び学習の対象となるデータ群を学習したモデル等の記憶に用いられる不揮発性メモリ204を備える。機械学習器2は、インタフェース21を介して加工条件推定装置1で生成されたデータ(例えば、加工内容に係るデータや、要求仕様に係るデータ、加工条件に係るデータ等)を観測することができる。また、加工条件推定装置1は、機械学習器2から出力される処理結果をインタフェース21を介して取得し、取得した結果を記憶したり、表示したり、他の装置に対してネットワーク5等を介して送信する。なお、
図1では機械学習器2は加工条件推定装置1に内蔵されているが、加工条件推定装置1との間で所定のインタフェースを介して外部接続されていてもよい。
【0033】
図5は、本発明の第2実施形態による加工条件推定装置1が備える機能を概略的なブロック図として示したものである。
本実施形態による加工条件推定装置1が備える各機能は、
図4に示した加工条件推定装置1が備えるCPU11及び機械学習器2が備えるプロセッサ201がそれぞれシステム・プログラムを実行し、加工条件推定装置1及び機械学習器2の各部の動作を制御することにより実現される。
【0034】
本実施形態の加工条件推定装置1は、加工条件導出部100、シミュレーション部110、加工条件評価部120、データベース更新部130に加えて、機械学習器2の上に構成された機械学習部205を備える。また、加工条件推定装置1のRAM13乃至不揮発性メモリ14には、所定の加工内容に係るデータ及び要求仕様に係るデータに対して、加工条件に係るデータを関連付けた加工情報データを記憶する領域である加工情報データベース200が設けられている。更に、機械学習器2のRAM203乃至不揮発性メモリ204には、学習部206が学習した結果として作成したモデルを記憶するための領域としてモデル記憶部209が予め用意されている。
【0035】
本実施形態による機械学習部205は、
図4に示した機械学習器2が備えるプロセッサ201がROM202から読み出したシステム・プログラムを実行し、主としてプロセッサ201によるRAM203、不揮発性メモリ204を用いた演算処理が行われることにより実現される。機械学習部205は、加工条件推定装置1の各機能からの指令に基づいて機械学習に係る処理(学習、推定など)を行う。
機械学習部205が備える学習部206は、加工情報データベース200に記憶された加工情報データに基づいて、加工内容に係るデータ及び要求仕様に係るデータと、加工条件に係るデータとの間の相関性を学習したモデルを作成し、作成したモデルをモデル記憶部209に記憶する。学習部206が行う学習は、例えば公知の教師あり学習であってよい。学習部206が作成するモデルは、機械学習を行うことで加工内容に係るデータ及び要求仕様に係るデータが入力されると、その加工内容及び要求仕様を満足する加工条件に係るデータを推定することが可能なものとなる。学習部206が作成するモデルとしては、例えば回帰学習器や多層ニューラルネットワーク等が挙げられる。
【0036】
機械学習部205が備える推定部208は、加工条件導出部100から入力された加工内容に係るデータ及び要求仕様に係るデータに基づいて、モデル記憶部209に記憶されるモデルを用いた加工条件の推定処理を実行する。推定部208が行う推定処理は、公知の教師あり学習や強化学習による推定処理であってよい。
【0037】
そして、加工条件導出部100は、第1実施形態による加工条件導出部100(
図2)と同様に、オペレータから入力された加工内容に係るデータ及び要求仕様に係るデータに基づいて、該加工内容及び要求仕様を満足すると推定される所定の加工条件を導出する。本実施形態による加工条件導出部100は、学習部206によるモデルの学習が十分でない段階では、第1実施形態による加工条件導出部100と同様に、加工情報データベース200に記憶される加工情報データに基づいて、所定の加工条件を導出する。一方で、加工条件導出部100は、学習部206によるモデルの学習が十分となった段階では、オペレータから入力された加工内容に係るデータ及び要求仕様に係るデータを機械学習部205に対して入力し、オペレータから入力された加工内容及び要求仕様を満足すると推定される所定の加工条件を取得する。そして、推定された加工条件に対して、所定の変化を加えた複数の加工条件を、加工内容及び要求仕様を満足すると推定される所定の加工条件として導出する。
【0038】
学習部206によるモデルの学習が十分であるか否かは、加工情報データベース200に記憶された加工情報データの数で判定するようにしてよい。例えば、加工条件導出部100は、加工情報データベース200に記憶された加工情報データの数が予め定めた閾値以上である場合に、機械学習部205に対して加工条件の推定を依頼するようにしてよい。
【0039】
上記構成を備えた本実施形態による加工条件推定装置1は、オペレータから入力された加工内容及び要求仕様を満足する加工条件の探索を行う際に、探索により予測した加工条件の評価にシミュレーションの技術を用いることで、実加工することなく、加工条件の評価を行うことが可能となる。探索の基準となる加工条件を機械学習により推定することで、機械学習器による推定精度の向上に伴い探索に係るシミュレーション処理の計算量が大幅に低下することが期待できる。
【0040】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態の例のみに限定されることなく、適宜の変更を加えることにより様々な態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 加工条件推定装置
5 ネットワーク
6 フォグコンピュータ
7 クラウドサーバ
8 ワイヤ放電加工機
11 CPU
12 ROM
13 RAM
14 不揮発性メモリ
15,17,18,20,21 インタフェース
22 バス
70 表示装置
71 入力装置
72 外部機器
100 加工条件導出部
110 シミュレーション部
120 加工条件評価部
130 データベース更新部
2 機械学習器
201 プロセッサ
202 ROM
203 RAM
204 不揮発性メモリ
205 機械学習部
206 学習部
208 推定部
209 モデル記憶部