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特許7492090表面処理銅箔及び該表面処理銅箔を用いた銅張積層板並びにプリント配線板
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  • 特許-表面処理銅箔及び該表面処理銅箔を用いた銅張積層板並びにプリント配線板 図1
  • 特許-表面処理銅箔及び該表面処理銅箔を用いた銅張積層板並びにプリント配線板 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】表面処理銅箔及び該表面処理銅箔を用いた銅張積層板並びにプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/06 20060101AFI20240521BHJP
   C25D 5/16 20060101ALI20240521BHJP
   C25D 5/48 20060101ALI20240521BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20240521BHJP
   C25D 5/10 20060101ALI20240521BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20240521BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20240521BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C25D7/06 A
C25D5/16
C25D5/48
C25D7/00 J
C25D5/10
C23C26/00 A
C23C28/00 C
H05K3/38 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023569671
(86)(22)【出願日】2023-08-08
(86)【国際出願番号】 JP2023028850
【審査請求日】2023-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2022189414
(32)【優先日】2022-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000239426
【氏名又は名称】福田金属箔粉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173406
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 真貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100067301
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 順一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 健
(72)【発明者】
【氏名】宮本 健太
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-324546(JP,A)
【文献】特開2016-135927(JP,A)
【文献】国際公開第2021/193863(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/093109(WO,A1)
【文献】特開2007-332418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00-7/12
C23C 24/00-30/00
H05K 3/10-3/26
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未処理銅箔の少なくとも一方の面に粗化処理層と前記粗化処理層上に耐熱処理層と前記耐熱処理層上にクロメート処理層を備える表面処理銅箔であって、前記粗化処理層は一次粒子径が0.5μm以上、かつ、0.9μm以下の銅粒子で形成されてなり、前記耐熱処理層はコバルトとモリブデンを含有する耐熱処理層であり、前記クロメート処理層の処理面の光沢度Gs(85°)が60以上、かつ、80以下である表面処理銅箔。
【請求項2】
前記粗化処理層、前記耐熱処理層及び前記クロメート処理層の各処理面の算術平均高さSaが0.08μm以上、かつ、0.16μm以下である請求項1記載の表面処理銅箔。
【請求項3】
前記クロメート処理層上にシランカップリング剤処理層を備えてなる請求項1又は2記載の表面処理銅箔。
【請求項4】
請求項1又は2記載の表面処理銅箔の処理面と絶縁性樹脂基材とを張り合わせてなる銅張積層板。
【請求項5】
前記絶縁性樹脂基材が、エポキシ樹脂基材、ポリイミド樹脂基材、ポリフェニレンエーテル樹脂基材、ビスマレイミドトリアジン樹脂基材、シクロオレフィンポリマー樹脂基材、液晶ポリマー樹脂基材及びフッ素含有樹脂基材から選択される絶縁性樹脂基材である請求項4記載の銅張積層板。
【請求項6】
請求項4記載の銅張積層板を用いたプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理銅箔に関する。詳しくは、該表面処理銅箔は、一次粒子径が0.5μm~0.9μmの銅粒子で粗化処理層が形成されているため、絶縁性樹脂基材に対してアンカー効果に優れ、また、前記粗化処理層上にコバルトとモリブデンを含有する耐熱処理層、さらに前記耐熱処理層上にクロムを含有するクロメート処理層が形成されているため、粗化処理層表面が酸化され難く、銅粒子も変形し難いから、成形温度が高い低誘電性樹脂基材に対しても高い密着性を維持できると共に高い耐熱性を実現でき、しかも、クロメート処理層処理面の光沢度Gs(85°)が60~80であって銅粒子が疎に形成されているため、挿入損失を低く抑えられることから、成形温度が300℃以上の低誘電性樹脂基材を用いる高周波信号伝送用プリント配線板の製造に好適に使用することができる表面処理銅箔に関する。
【背景技術】
【0002】
日本では、2020年3月より第5世代移動通信システム(5G)のサービスが開始され、都市部の限られた場所だけではあるが高速通信を利用できるようになった。
【0003】
また、先進運転支援システム(ADAS)を搭載した自動車が高級車だけでなく軽自動車まで拡大し、例えば、高速道路をクルーズコントロールにより定速走行している際、先行車への接近を検知して自動的に車間距離を制御したり、市街地で急に飛び出してきた歩行者や自転車等を検知して自動的に制動装置を作動させたりすること等が一般化しつつあり、運転者の負担軽減や交通事故の抑制に貢献している。
【0004】
現在、5Gはサブ6(Sub6)と呼ばれる周波数3.6GHz~6GHz未満の周波数帯を使用していることが多いが、今後はミリ波と呼ばれる周波数28GHz以上の高い周波数帯の使用も増加していくことが予想される。
【0005】
また、ADASを搭載した自動車台数も今後増加していくと予想され、ADASを支えるセンサーの1つである周波数24GHz~79GHz帯を使用するミリ波レーダーの需要もさらに高まるにつれ、よりレベルの高い性能を持つミリ波レーダーの要請も高まっている。
【0006】
これら高い周波数帯を使用する通信システムには、信号を高速で伝送するだけでなく、低損失で伝送することが求められる。
【0007】
信号を低損失で伝送できるかどうかは、プリント配線板やアンテナ等を構成する絶縁性樹脂基材や銅箔の物性、即ち、誘電特性や導体抵抗に強く影響される。
【0008】
一般的に、挿入損失は誘電体損失と導体損失を足し合わせたものである。
【0009】
誘電体損失は、主に絶縁性樹脂基材に起因するものであり、誘電特性の影響を受けるため、誘電率や誘電正接の値が高くなると挿入損失が大きくなる傾向にあり、その傾向は、高い周波数でより顕著になる。
【0010】
導体損失は、主に銅箔に起因するものであり、銅箔の表面粗さだけでなく、異種金属の種類やその付着量等の影響を受けるため、表面粗さが大きかったり、磁性金属を使用していたりすると挿入損失が大きくなる傾向にあり、その傾向は、高い周波数でより顕著になる。
【0011】
したがって、ミリ波と呼ばれる周波数約30GHz以上の信号を低損失で伝送するためには、絶縁性樹脂基材は、誘電特性に優れるものが好ましく、特に比誘電率と誘電正接の小さな液晶ポリマー樹脂やフッ素含有樹脂等からなる低誘電性樹脂基材が期待されている。
【0012】
また銅箔は、より表面粗さが小さく、より磁性金属付着量が少ないものが好ましく、微細粗化処理銅箔や異種金属処理量を大幅に減らした銅箔が多く提案されている。
【0013】
液晶ポリマーやフッ素含樹脂基材を用いて銅張積層板を作製する場合は温度を300℃以上の高温に加熱して成形する必要があるが、一次粒子径がサブミクロンオーダー以下の微細粗化処理銅箔や異種金属が付着していない、又は、付着量が極めて少ない処理銅箔は、高温下で粗化処理層表面が酸化され易く、また、粗化粒子の形状が変化し易く、物理的なアンカー効果が弱まって十分な密着性が確保できないという問題がある。
【0014】
また、仮令、常態で密着性が高くても、長期耐熱性試験を行うと著しい劣化が生じるという問題がある。
【0015】
300℃以上の高温で成形しても粗化処理層表面の酸化や粗化粒子の変形を抑制し、十分な密着性を確保しようとすると、異種金属処理量を増やしたり、粗化粒子を大きくしたりする必要がある。
【0016】
しかし、異種金属処理量を増やしたり、粗化粒子を大きくしたりすると、挿入損失が増加するという問題がある。
【0017】
そこで、成形温度が300℃以上の低誘電性樹脂基材に対して十分な密着性及び耐熱性を備え、さらに高周波信号伝送時の挿入損失を抑制できる表面処理銅箔であって、低誘電性樹脂基材を使用する高周波信号伝送用プリント配線板に好適に使用できる表面処理銅箔の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特開2015-147978
【文献】特開2021-098892
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献1には、表面処理銅箔を幅方向に切断した幅方向長さ30μmの範囲内において、粗化高さ1.5μm以上の粗化粒子が1個以上5個未満存在し、粗化高さ1.0μm以下の粗化粒子が10個以上存在することを特徴とする表面処理銅箔が記載され、該表面処理銅箔は、成形温度300℃以上の低誘電性樹脂基材に対しても高い密着性が得られ、高周波回路用銅箔として伝送特性にも優れることが記載されている。
【0020】
しかし、粗化高さ1.0μm以下であっても粗化粒子の数が多いと挿入損失が大きくなるという問題がある。
【0021】
特許文献2には、未処理銅箔の少なくとも一面に形成された表面処理層と、前記表面処理層上に形成された酸化防止層とを含み、前記表面処理層は、平均粒径が約10nm~100nmである銅粒子を含み、10点平均粗さRzは約0.2μm~0.5μmであり、光沢度Gs(60°)は約200以上であり、前記酸化防止層はニッケル及びリンを含むことを特徴とする表面処理銅箔が記載され、該表面処理銅箔は、絶縁性樹脂基板との接着強度に優れ、挿入損失が少なくて、高周波箔として優れることが記載されている。
【0022】
しかし、成形温度が300℃以上の低誘電性樹脂基材に対しては、成形時の高温で銅粒子が変形し易いため、前記樹脂基材との密着性が低下したり、成形後に長時間高温に晒されると密着性が低下したりするという問題がある。
【0023】
本発明者らは、前記諸問題を解決することを技術的課題とし、数多くの試作と評価を重ねた結果、未処理銅箔の少なくとも一方の面に粗化処理層と前記粗化処理層上に耐熱処理層と前記耐熱処理層上にクロメート処理層を備える表面処理銅箔であって、前記粗化処理層は一次粒子径が0.5μm以上、かつ、0.9μm以下の銅粒子で形成されてなり、前記耐熱処理層はコバルトとモリブデンを含有する耐熱処理層であり、前記クロメート処理層処理面の光沢度Gs(85°)が60以上、かつ、80以下である表面処理銅箔であれば、成形温度が300℃以上の低誘電性樹脂基材に対しても高い密着性を示し、また、高温に長時間晒されても実用上問題のない程度に高い密着性を維持でき、しかも、低誘電性樹脂基材による優れた伝送特性を活かすことができる導体損失の低い表面処理銅箔になるという刮目すべき知見を得て、前記技術的課題を達成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記技術的課題は次のとおり、本発明によって解決できる。
【0025】
本発明は、未処理銅箔の少なくとも一方の面に粗化処理層と前記粗化処理層上に耐熱処理層と前記耐熱処理層上にクロメート処理層を備える表面処理銅箔であって、前記粗化処理層は一次粒子径が0.5μm以上、かつ、0.9μm以下の銅粒子で形成されてなり、前記耐熱処理層はコバルトとモリブデンを含有する耐熱処理層であり、前記クロメート処理層の処理面の光沢度Gs(85°)が60以上、かつ、80以下である表面処理銅箔である。
【0026】
また本発明は、前記粗化処理層、前記耐熱処理層及び前記クロメート処理層の各処理面の算術平均高さSaが0.08μm以上、かつ、0.16μm以下である前記の表面処理銅箔である。
【0027】
また本発明は、前記クロメート処理層上にシランカップリング剤処理層を備えてなる前記の表面処理銅箔である。
【0028】
また本発明は、前記の表面処理銅箔の処理面と絶縁性樹脂基材とを張り合わせてなる銅張積層板である。
【0029】
また本発明は、前記絶縁性樹脂基材がエポキシ樹脂基材、ポリイミド樹脂基材、ポリフェニレンエーテル樹脂基材、ビスマレイミドトリアジン樹脂基材、シクロオレフィンポリマー樹脂基材、液晶ポリマー樹脂基材及びフッ素含有樹脂基材から選択される絶縁性樹脂基材である前記の銅張積層板である。
【0030】
また本発明は、前記の銅張積層板を用いたプリント配線板である。
【発明の効果】
【0031】
本発明の表面処理銅箔における粗化処理層は、一次粒子径が0.5μm~0.9μmという比較的大きな銅粒子で形成されているので、絶縁性樹脂基材に対してアンカー効果に優れる表面処理銅箔である。
【0032】
また、耐熱処理層にコバルトとモリブデンを含有し、さらにクロメート処理層にクロムを含有することから、高温でも粗化処理層表面が酸化され難く、銅粒子も変形し難いから、成形温度が300℃以上である低誘電性樹脂基材に対しても高い密着性を維持でき、また、耐熱性に優れる表面処理銅箔である。
【0033】
しかも、クロメート処理層の処理面の光沢度Gs(85°)が60~80という比較的高い値であり、銅粒子が疎に形成されているから挿入損失を低く抑えられる表面処理銅箔である。
【0034】
また、前記粗化処理層、前記耐熱処理層及び前記クロメート処理層の各処理面の算術平均高さSaが0.08μm~0.16μmであれば、さらに挿入損失を低く抑えられる表面処理銅箔になる。
【0035】
また、クロメート処理層上にシランカップリング剤処理層を備えれば、さらに密着性や耐熱性に優れる表面処理銅箔になる。
【0036】
したがって、本発明における表面処理銅箔は、成形温度が300℃以上である低誘電性樹脂基材を使用する高周波信号伝送用プリント配線板の製造に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明における表面処理銅箔の模式図である。
図2】本発明における表面処理銅箔(実施例1)の走査電子顕微鏡写真(10,000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、未処理銅箔の少なくとも一方の面に粗化処理層と、前記粗化処理層上に耐熱処理層と、前記耐熱処理層上にクロメート処理層を備える表面処理銅箔である。
【0039】
<未処理銅箔>
本発明における表面処理前の銅箔(以下「未処理銅箔」と言う)は特に限定されるものではなく、圧延銅箔や電解銅箔等の表裏の区別のない銅箔及び表裏の区別のある銅箔のいずれも使用できる。
【0040】
表面処理を施す面は特に限定されるものではなく、圧延銅箔はいずれの面でもよく、電解銅箔は析出面又はドラム面のいずれの面でもよい。
【0041】
表面処理を施す面は、JISZ8471に基づいて60度鏡面光沢を測定したときの光沢度Gs(60°)が500以上であることが好ましい。
【0042】
圧延銅箔を用いる場合は、炭化水素系有機溶剤、或いは、アルカリ脱脂液に浸漬し、圧延油を除去してから表面処理を行うことが好ましい。
【0043】
電解銅箔を用いる場合は、希硫酸に浸漬し、酸化被膜を除去してから表面処理を行うことが好ましい。
【0044】
未処理銅箔の厚さは、表面処理後にプリント配線板に使用できる厚さであれば特に限定されるものではないが、6μm~300μmが好ましく、より好ましくは12μm~35μmである。
【0045】
<粗化処理層>
本発明における表面処理銅箔は、未処理銅箔上に銅粒子を粗化粒子とする粗化処理層を備える。
【0046】
銅粒子の一次粒子径は0.5μm~0.9μmが好ましく、より好ましくは0.6μm~0.8μmである。
【0047】
本発明においては一次粒子径の下限値を0.5μmとするが、0.5μm以下の銅粒子が含まれることを排除するものではない。
【0048】
しかし、一次粒子径が0.5μm未満のものが多い場合、成形温度が300℃以上になる低誘電性樹脂基材との張り合わせにおいて、粗化処理層表面が酸化したり、銅粒子が変形したりするため、低誘電性樹脂基材に対するアンカー効果が低下し、密着性や耐熱性が著しく低下する虞がある。
【0049】
また、一次粒子径が0.9μmを超えるものが多い場合、表面粗さが増加して、導体損失が大きくなる虞がある。
【0050】
一次粒子径は、走査電子顕微鏡で傾斜角度0°、倍率10,000倍で観察される銅粒子の中から10個選択し、各銅粒子の最大長さを計測して平均することで求めることができる。
【0051】
本発明における粗化処理層は、未処理銅箔に銅粒子層を形成した後、前記銅粒子層を銅めっきして形成することができる。
【0052】
銅粒子層は、電解液として硫酸銅五水和物20g/L~110g/L、硫酸45g/L~150g/L、タングステンイオン4mg/L~60mg/L、チタンイオン225mg/L~1200mg/Lを含有する液温40℃の水溶液を用い、前記電解液の中に白金族酸化物被覆チタンの不溶性電極を陽極として浸漬し、また、一定の間隔を空けて向かい側に未処理銅箔を陰極として浸漬し、電流密度10A/dm~40A/dm、電気量20C/dm~100C/dmで電解することで形成することができる。
【0053】
銅めっきは、電解液として硫酸銅五水和物150g/L~300g/L、硫酸50g/L~400g/Lを含有する液温40℃の水溶液を用い、前記電解液に白金族酸化物被覆チタンの不溶性電極を陽極として浸漬し、また、一定の間隔を空けて向かい側に銅粒子層を設けた銅箔を陰極として浸漬し、電流密度2A/dm~10A/dm、電気量60C/dm~240C/dmで電解すればよい。
【0054】
<耐熱処理層及びクロメート処理層>
本発明は、粗化処理層上にコバルトとモリブデンを含有する耐熱処理層と前記耐熱処理層上にクロムを含有するクロメート処理層を備える表面処理銅箔である。
【0055】
耐熱処理層やクロメート処理層を形成しなければ、低誘電性樹脂基材と張り合わせて銅張積層板を作製した後、温度150℃以上の高温に晒すと、低誘電性樹脂基材に対する密着性が著しく低下する虞があるからである。
【0056】
耐熱処理層は、未処理銅箔上に粗化処理層を形成した銅箔を電解液に浸漬しながら電解して形成することができる。
【0057】
耐熱処理層を形成する電解液は、コバルト含有化合物20g/L~70g/L、モリブデン含有化合物10g/L~50g/L及びクエン酸三ナトリウム二水和物10g/L~100g/Lを含有する水溶液をpH4~pH10に調製したものが好ましい。
【0058】
電解は、電解液に白金族酸化物被覆チタン等の不溶性電極を陽極として浸漬し、また、一定の間隔を空けて向かい側に粗化処理層を形成した銅箔を陰極として浸漬し、電流密度3A/dm~14A/dm、電気量7C/dm~30C/dm、液温25℃~45℃の電解条件で行うことが好ましい。
【0059】
コバルト含有化合物は特に限定されないが、硫酸コバルト七水和物、塩化コバルト六水和物を例示する。
【0060】
モリブデン含有化合物は特に限定されないが、モリブデン酸二ナトリウム二水和物を例示する。
【0061】
クロメート処理層は、耐熱処理層を形成した銅箔を電解液に浸漬させながら電解して形成することができる。
【0062】
クロメート処理層を形成する電解液は、クロム酸含有化合物10g/L~60g/Lを含有する水溶液、又は、クロム酸含有化合物10g/L~60g/Lと亜鉛イオン0.2g/L~4.0g/Lを含有する水溶液を硫酸又は水酸化ナトリウムによってpH2~pH12に調製したものが好ましい。
【0063】
電解は、電解液の中に白金族酸化物被覆チタン等の不溶性電極を陽極として浸漬し、また、一定の間隔を空けて向かい側に耐熱処理層を形成した銅箔を陰極として浸漬し、電流密度0.5A/dm~5A/dm、電気量1C/dm~6C/dm、液温25℃~50℃の電解条件で行うことが好ましい。
【0064】
クロム酸含有化合物は特に限定されないが、二クロム酸ナトリウム二水和物を例示する。
【0065】
亜鉛イオン源は特に限定されないが、酸化亜鉛を例示する。
【0066】
<光沢度>
本発明は、クロメート処理層の処理面の光沢度Gs(85°)が60~80の表面処理銅箔である。
【0067】
光沢度が60未満であると銅粒子の数が多くなり過ぎて導体損失が大きくなり、80を超えると銅粒子の数が少なくなり過ぎて低誘電性樹脂基材に対して十分な密着性や耐熱性が得られない虞があるからである。
【0068】
Gs(85°)はJISZ8741に基づいて85度鏡面光沢を測定すればよい。
【0069】
<表面粗さ>
本発明における表面処理銅箔の粗化処理層、耐熱処理層及びクロメート処理層の各処理面の算術平均高さSaは0.08μm~0.16μmが好ましく、より好ましくは0.09μm~0.15μmである。
【0070】
算術平均高さSaが0.08μm未満であると、低誘電性樹脂基材に対して十分な密着性や耐熱性が得られない虞があり、また、0.16μmを超えると導体損失が増加する虞があるからである。
【0071】
<シランカップリング剤処理層>
本発明における表面処理銅箔は、クロメート処理層上にシランカップリング剤処理層を備えることができる。
【0072】
クロメート処理層上にシランカップリング剤処理層を形成することでさらに密着性や耐熱性に優れた表面処理銅箔になる。
【0073】
シランカップリング剤処理層は、液温20℃~50℃に調製したシランカップリング剤水溶液にクロメート処理層を形成した銅箔を浸漬した後、又は、スプレー等の方法で散布した後、水洗して形成することができる。
【0074】
シランカップリング剤層に用いるシランカップリング剤は特に限定されるものではなく、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、ウレイド基及びメルカプト基を含有するシランカップリング剤を使用することができるが、アミノ基、エポキシ基又はビニル基含有のシランカップリング剤は耐吸湿性と防錆性の効果が非常に高く、より好適に使用することができる。
【0075】
シランカップリング剤は1種又は2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0076】
シランカップリング剤処理層を形成する水溶液の組成及び条件として、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン1mL/L~5mL/L、液温25℃~35℃、浸漬時間15秒を例示する。
【0077】
<絶縁性樹脂基材>
本発明における銅張積層板に使用する絶縁性樹脂基材は特に限定されないが、エポキシ樹脂基材やポリイミド樹脂基材、また、低誘電性樹脂基材として、ポリフェニレンエーテル樹脂基材やビスマレイミドトリアジン樹脂基材、シクロオレフィンポリマー樹脂基材を例示する。
【0078】
また、本発明における表面処理銅箔は、成形温度300℃以上である低誘電性樹脂基材にも好適に使用できる。
【0079】
成形温度300℃以上である低誘電性樹脂基材として、液晶ポリマー樹脂基材及びフッ素含樹脂基材を例示する。
【実施例
【0080】
本発明の実施例を以下に示すが、本発明はこれに限定されない。
【0081】
<未処理銅箔>
実施例及び比較例の未処理銅箔として、公称厚さ18μm、光沢度Gs(60°)が500以上の電解銅箔を用いた。
【0082】
電解銅箔は希硫酸に浸漬し、酸化被膜を除去してから各処理を行った。
【0083】
(実施例1)
<粗化処理層の形成>
電解液として、硫酸銅五水和物47g/L、硫酸95g/L、タングステンイオン15mg/L、チタンイオン500mg/Lを含有する液温40℃の水溶液を用い、前記電解液の中に白金族酸化物被覆チタンの不溶性電極を陽極として浸漬し、また、一定の間隔を空けて向かい側に未処理銅箔を陰極として浸漬し、電流密度25A/dm、電気量50C/dmで電解して未処理銅箔上に銅粒子層を形成した。形成された銅粒子層は樹枝状であった。
【0084】
電解液として硫酸銅五水和物220g/L、硫酸110g/Lを含有する液温40℃の水溶液を用い、前記電解液に白金族酸化物被覆チタンの不溶性電極を陽極として浸漬し、また、一定の間隔を空けて向かい側に先に作製した銅粒子層を設けた銅箔を陰極として浸漬し、電流密度10A/dm、電気量120C/dmで電解して前記銅粒子層上に銅めっきすることで粗化処理層を形成した。
【0085】
<耐熱処理層の形成>
電解液として、硫酸コバルト七水和物39g/L、モリブデン酸二ナトリウム二水和物24g/L及びクエン酸三ナトリウム二水和物45g/Lを含有する水溶液をpH5.6に調製したものを用いた。
【0086】
電解は、電解液に白金族酸化物被覆チタンの不溶性電極を陽極として浸漬し、また、一定の間隔を空けて向かい側に粗化処理層を形成した銅箔を陰極として浸漬し、電流密度7A/dm、電気量14C/dm、液温30℃の電解条件で行うことで耐熱処理層を形成した。
【0087】
<クロメート処理層>
電解液として、二クロム酸ナトリウム二水和物12.5g/L、亜鉛イオン2.5g/Lを含有する水溶液をpH12に調製したものを用いた。
【0088】
電解は、電解液に白金族酸化物被覆チタンの不溶性電極を陽極として浸漬し、また、一定の間隔を空けて向かい側に耐熱処理層を形成した銅箔を陰極として浸漬し、電流密度2A/dm、電気量10C/dm、液温25℃の電解条件で行うことでクロメート処理層を設けた。
【0089】
<シランカップリング剤処理層>
液温25℃のγ-アミノプロピルトリエトキシシラン5ml/Lを含有する水溶液に前記クロメート処理層を形成した銅箔を10秒間浸漬し、その後引き上げて乾燥させることでシランカップリング剤処理層を形成して表面処理銅箔を得た(図2)。
【0090】
(実施例2)
粗化処理層の形成条件を、1段階目の銅粒子層を形成する電解条件を電流密度22A/dm、電気量55C/dmにしたこと以外は、実施例1と同一の条件で作製した。
【0091】
(実施例3)
粗化処理層の形成条件を、1段階目の銅粒子層を形成する電解条件を電流密度23A/dm、電気量52C/dmにし、シランカップリング剤処理層を備えなかったこと以外は、実施例1と同一の条件で作製した。
【0092】
(比較例1)
粗化処理層の形成条件を、1段階目の銅粒子層を形成する電解条件を電流密度16A/dm、電気量40C/dmにしたこと以外は、実施例1と同一の条件で作製した。
【0093】
(比較例2)
粗化処理層の形成条件を、1段階目の銅粒子層を形成する電解条件を電流密度24A/dm、電気量60C/dmにしたこと以外は、実施例1と同一の条件で作製した。
【0094】
(比較例3)
粗化処理層の形成条件を、1段階目の銅粒子層を形成する電解液として、硫酸銅五水和物57g/L、硫酸100g/L、タングステンイオン15mg/L、塩素イオン35mg/Lを含有する液温40℃の水溶液を用い、電解条件を電流密度50A/dm、電気量125C/dmとし、また、2段階目の前記銅粒子層上に銅めっきする電解条件を電流密度5A/dm、電気量440C/dmにしたこと以外は、実施例1と同一の条件で作製した。
【0095】
(比較例4)
粗化処理層の形成条件を、1段階目の銅粒子層を形成する電解液として硫酸銅五水和物100g/L、硫酸100g/L、硫酸インジウム九水和物150mg/L、澱粉分解物5g/Lを含有する液温40℃の水溶液を用い、電解条件を電流密度50A/dm、電気量130C/dmとし、銅めっき処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同一の条件で作製した。
【0096】
(比較例5)
粗化処理層の形成条件を、1段階目の銅粒子層を形成する電解条件を電流密度22A/dm、電気量55C/dmとし、耐熱処理層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同一の条件で作製した。
【0097】
(比較例6)
粗化処理層の形成条件を、1段階目の銅粒子層を形成する電解条件を電流密度22A/dm、電気量55C/dmとし、耐熱処理層の形成条件を、電解液として硫酸ニッケル六水和物30g/L、次亜リン酸ナトリウム一水和物2g/L、酢酸ナトリウム三水和物10g/Lを含有する水溶液を硫酸でpH4.5に調製したものを用い、電解条件を電流密度5A/dm、電気量10C/dm、液温30℃にしたこと以外は、実施例1と同一の条件にて作製した。
【0098】
(比較例7)
粗化処理層の形成条件を、1段階目の銅粒子層を形成する電解条件を電流密度23A/dm、電気量52C/dmにし、クロメート処理層を備えなかったこと以外は、実施例1と同一の条件で作製した。
【0099】
(比較例8)
粗化処理層の形成条件を、1段階目の銅粒子層を形成する電解条件を電流密度23A/dm、電気量52C/dmにし、クロメート処理層及びシランカップリング剤処理層を備えなかったこと以外は、実施例1と同一の条件で作製した。
【0100】
実施例及び比較例の各表面処理銅箔の処理条件を[表1]に示す。
【0101】
【表1】

<銅張積層板Aの作製>
実施例及び比較例の各表面処理銅箔の処理面を被接着面として、フッ素含樹脂基材(ロジャースコーポレーション製/RO3003/公称厚さ100μm)の片面又は両面に合わせ、真空熱プレス機(北川精機株式会社製/KVHC-II)を使用し、真空下、温度370℃、面圧3MPaで45分間、加熱・加圧成形を行い、銅張積層板Aを得た。
【0102】
<銅張積層板Bの作製>
実施例及び比較例の各表面処理銅箔の処理面を被接着面として、液晶ポリマー樹脂基材(株式会社クラレ製/CTQ-50/公称厚さ50μm)の片面又は両面に合わせ、真空熱プレス機(北川精機株式会社製/KVHC-II)を使用し、真空下、温度300℃、面圧4MPaで10分間、加熱・加圧成形を行い、銅張積層板Bを得た。
【0103】
表面処理銅箔の評価は次の方法により行った。
【0104】
<一次粒子径の測定>
走査電子顕微鏡SEM(日本電子株式会社製/JSM-6010LA)を使用して粗化処理層を形成した面を傾斜角度0°、倍率10,000倍で観察し、得られたSEM像から銅粒子10個それぞれの最大長さを計測し、平均して一次粒子径を得た。
【0105】
<光沢度の測定>
処理面の光沢度は、光沢度計(コニカミノルタ株式会社製/GM-268A)を使用し、JISZ8741に基づいて85度鏡面光沢(Gs(85°))を測定することにより求めた。
【0106】
<表面粗さの測定>
ISO25178-607に準拠した共焦点顕微鏡であるレーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製/LEXT OLS5000)を用い、JPCA-KHS01(2021)に準拠して、評価領域を125μm×125μm、Sフィルタを0.5μm、Lフィルタを50μm、F演算を多次曲面(3次)としたときの算術平均高さSaを測定した。
【0107】
<常態の引き剥がし強さ>
前記で作製した銅張積層板Aに対し、エッチング装置(株式会社二宮システム製/SPE-40)を用い、幅10mmの銅回路を形成して試験片とした。
【0108】
JIS C6481に準拠し、万能試験機を用いて引き剥がし強さを測定し、0.53kN/m以上を「〇」、0.53kN/m未満を「×」として評価した。
【0109】
<加熱処理後の引き剥がし強さ>
前記で作製した銅張積層板Aに幅10mmの回路を形成した試験片に対し、恒温器を用いて温度177℃で5日間、大気雰囲気下で加熱処理して試験片とした。
【0110】
JIS C6481に準拠し、万能試験機を用いて加熱処理後の引き剥がし強さを測定し、0.53kN/m以上を「〇」、0.53kN/m未満を「×」として評価した。
【0111】
<伝送特性>
前記で得られた銅張積層板Bに対し、エッチング装置(株式会社二宮システム製/SPE-40)を用い、シングルエンドのマイクロストリップ回路を形成して試験片とした。
【0112】
試験片は回路長を100mmとし、特性インピーダンスが50Ωとなるよう回路幅を設定した。
【0113】
試験片は、ネットワークアナライザ(キーサイト・テクノロジー株式会社製/E5071C)を使用して周波数20GHzにおける挿入損失(S21)を測定し、-4.4dB/100mm以上を「〇」、-4.4dB/100mm未満を「×」として評価した。
【0114】
<総合評価>
常態の引き剥がし強さ及び加熱処理後の引き剥がし強さ、伝送特性の各評価を総合して、上記試験のいずれの評価も〇のものを「〇」とし、上記試験の内、評価×が1つ以上あるものを「×」として評価した。
【0115】
実施例及び比較例の各表面処理銅箔の密着性、耐熱性及び伝送特性の結果を[表2]に示す。
【0116】
【表2】
【0117】
実施例1~3より、本発明における表面処理銅箔の引き剥がし強さは、常態及び加熱処理後も0.53kN/m以上と、実用上問題のない程度に高い値であり、かつ、挿入損失S21は、周波数20GHzの高周波においても-4.4dB/100mm以上であり良好な伝送特性を備える表面処理銅箔であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明における表面処理銅箔は、一次粒子径が0.5μm~0.9μmの銅粒子で粗化処理層が形成されているため、絶縁性樹脂基材に対して優れたアンカー効果を示し、また、前記粗化処理層上にコバルトとモリブデンを含有する耐熱処理層と前記耐熱処理層上にクロムを含有するクロメート処理層が形成されているため、粗化処理層表面が酸化され難く、銅粒子も変形し難いから、成形温度が高い低誘電性樹脂基材に対しても高い密着性を維持できると共に高い耐熱性を実現でき、しかも、クロメート処理層処理面の光沢度Gs(85°)が60~80であって銅粒子が疎に形成されているため、挿入損失を低く抑えられることから、成形温度が300℃以上の低誘電性樹脂基材を用いる高周波信号伝送用プリント配線板の製造に好適に使用することができる表面処理銅箔である。
よって本発明は産業上の利用可能性の高い発明である。
【要約】
【課題】
絶縁性樹脂基材へのアンカー効果に優れ、また、成形温度が高い低誘電性樹脂基材に対しても高い密着性を維持できると共に高い耐熱性を実現でき、しかも、挿入損失を低く抑えられることから、成形温度が300℃以上の低誘電性樹脂基材を用いる高周波信号伝送用プリント配線板の製造に好適に使用することができる表面処理銅箔を提供する。
【解決手段】
未処理銅箔の少なくとも一方の面に粗化処理層と前記粗化処理層上に耐熱処理層と前記耐熱処理層上にクロメート処理層を備える表面処理銅箔であって、前記粗化処理層は一次粒子径が0.5μm以上、かつ、0.9μm以下の銅粒子で形成されてなり、前記耐熱処理層はコバルトとモリブデンを含有する耐熱処理層であり、前記クロメート処理層の処理面の光沢度Gs(85°)が60以上、かつ、80以下である表面処理銅箔。
【選択図】図2
図1
図2