(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】界磁制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 7/298 20160101AFI20240522BHJP
【FI】
H02P7/298 B
(21)【出願番号】P 2020154066
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【氏名又は名称】高橋 英樹
(72)【発明者】
【氏名】間 由樹
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-092786(JP,A)
【文献】特公昭50-034204(JP,B1)
【文献】特開昭57-148586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 7/298
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電動機に対する界磁電流を変化させる界磁サイリスタの点弧角を制御する位相制御部と、
前記位相制御部に対して位相制御基準を出力するようにPI制御を行う界磁電流制御部と、
前記界磁電流制御部に対する界磁電流弱め量を決定するようにPI制御を行う界磁弱め制御部と、
前記直流電動機の回転速度
、及び応答速度の変動に応じて、前記界磁弱め制御部が用いる比例ゲインを補正する補正部と
を有することを特徴とする界磁制御装置。
【請求項2】
前記補正部は、
前記直流電動機の回転速度がベース速度以上になった場合、予め定められた値まで比例ゲインを下げるように補正すること
を特徴とする請求項1に記載の界磁制御装置。
【請求項3】
前記補正部は、
前記直流電動機の回転速度に対する比例ゲインの割合を示す折れ点関数に基づいて比例ゲインを補正すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の界磁制御装置。
【請求項4】
前記補正部は、
前記折れ点関数に対する複数の設定値の平均値を算出することにより、前記複数の設定値の中間値を設定して比例ゲインを補正すること
を特徴とする請求項3に記載の界磁制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電動機の速度制御を行う界磁制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄鋼のプロセスラインなどには、界磁制御装置によって回転速度を制御される直流電動機が用いられる。この直流電動機は、特にベース速度(基底回転数)以上の運転において、定出力特性が求められる。
【0003】
また、電機子制御を行う電機子制御回路と、界磁電流制御を行う界磁制御回路とを備える直流電動機の駆動装置では、例えば界磁弱め制御が行われている。
【0004】
この直流電動機の駆動装置は、ベース速度未満の運転では界磁電流を一定にし、電機子制御によって定トルク領域を得る。また、この直流電動機の駆動装置は、ベース速度以上の運転では直流電動機の回転数を上昇させるとともに界磁電流を減少させて電機子電圧を一定に保つことにより、トルクが減少してしまうが定出力領域を得ることができる。
【0005】
このような制御は、直流電動機の出力を効率よく使用するために行われている。また、直流電動機の界磁弱め制御には、上位のPLC(Programmable Logic Controller)から界磁基準を入力する方法と、駆動装置内で電機子電圧から界磁基準を算出する方法がある。後者の方法は、自動界磁弱め制御と呼ばれている。
【0006】
界磁制御装置は、例えば自動界磁弱め制御部及び界磁電流制御部によって構成される。この界磁制御装置は、電機子電圧の基準とフィードバック電圧との偏差から自動界磁弱め制御によって界磁電流基準を出力し、界磁電流制御を行う。
【0007】
界磁電流制御では、電流値が増加すると巻線のインダクタンスが低下するので、界磁電流が大きくなると応答時間が早くなる。すなわち、ベース速度付近の界磁電流値が高い領域での運転中は、電流制御の応答時間が早い。
【0008】
しかし、界磁電流制御では、応答時間が早すぎると、負荷がかかった場合に電機子反作用によって界磁が弱められ、界磁電流がハンチングしてトルクが不安定になる可能性がある。
【0009】
そこで、界磁電流制御部には、界磁電流の大きさに応じてPI制御の比例ゲインを下げるように折れ点関数が設けられ、折れ点関数の設定値が調整されている。
【0010】
また、特許文献1には、界磁電流制御が遅いことによる過電圧を防止する電動機の速度制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した直流電動機の界磁制御装置は、自動界磁弱め制御の応答が直流電動機の回転速度によって異なり、ベース速度運転での応答が遅すぎる場合にはモータ過電圧になる。また、上述した界磁制御装置は、直流電動機の回転速度がトップ速度である場合、応答が早すぎると界磁電流がハンチングを起こす恐れがある。
【0013】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、直流電動機をベース速度以上で回転させる場合にも、応答速度の変動を低減させることができる界磁制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様にかかる界磁制御装置は、直流電動機に対する界磁電流を変化させる界磁サイリスタの点弧角を制御する位相制御部と、前記位相制御部に対して位相制御基準を出力するようにPI制御を行う界磁電流制御部と、前記界磁電流制御部に対する界磁電流弱め量を決定するようにPI制御を行う界磁弱め制御部と、前記直流電動機の回転速度、及び応答速度の変動に応じて、前記界磁弱め制御部が用いる比例ゲインを補正する補正部とを有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一態様にかかる界磁制御装置は、前記補正部が、前記直流電動機の回転速度がベース速度以上になった場合、予め定められた値まで比例ゲインを下げるように補正する。
【0016】
また、本発明の一態様にかかる界磁制御装置は、前記補正部が、前記直流電動機の回転速度に対する比例ゲインの割合を示す折れ点関数に基づいて比例ゲインを補正する。
【0017】
また、本発明の一態様にかかる界磁制御装置は、前記補正部が、前記折れ点関数に対する複数の設定値の平均値を算出することにより、前記複数の設定値の中間値を設定して比例ゲインを補正する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、直流電動機をベース速度以上で回転させる場合にも、応答速度の変動を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】一実施形態にかかる界磁制御装置を備えた直流電動機駆動システムの概要を例示する図である。
【
図2】一実施形態にかかる界磁制御装置を構成する制御系を例示する図である。
【
図3】折れ点関数部の具体的な構成例を示す図である。
【
図4】直流電動機駆動システムを有する鉄鋼の熱延システムの概要を示す図である。
【
図5】直流電動機駆動システムを有する鉄鋼のプロセスラインの概要を示す図である。
【
図6】直流電動機を駆動するシステムの特性を例示するグラフである。
【
図7】自動界磁弱め制御の応答が遅すぎる場合の電動機加減速運転波形を例示するグラフである。
【
図8】自動界磁弱め制御の応答が早すぎる場合の電動機加減速運転波形を例示するグラフである。
【
図9】電動機加減速運転波形を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本発明がなされるに至った背景について説明する。自動界磁弱め制御は、直流電動機の速度(回転速度)によって応答が変わることが分かっている。
図6は、直流電動機を駆動するシステムの特性を示すグラフである。
【0021】
図6に示されているように、例えば、直流電動機の回転速度をベース速度から上昇させ、電機子電圧を一定に保つ場合には、界磁電流の弱め量は大きくなる。一方、直流電動機の回転速度がトップ速度(定格速度)に近い場合には、ベース速度から回転速度を同じだけ上昇させたときよりも界磁電流の弱め量は小さくなる。
【0022】
すなわち、直流電動機の回転速度をベース速度から上昇させる場合には界磁電流の変化に対する回転速度の応答時間が遅くなり、直流電動機の回転速度がトップ速度に近い場合には界磁電流の変化に対する回転速度の応答時間が早くなっている。
【0023】
例えば、自動界磁弱め制御におけるゲイン調整は、ベース速度とトップ速度の中間速度で応答が所定の時間となるように行われる。
【0024】
しかし、
図7に示したように、直流電動機の回転速度を上昇させる場合などに応答が遅すぎると、加減速運転時に電機子電圧がオーバーシュート(a)するという問題点がある。
【0025】
例えば、直流電動機が回転させる機械が材料に拘束された状態から解放された場合などのように、急加減速になるとモータ過電圧でトリップする恐れがある。例えば複数の直流電動機がそれぞれ圧延ローラを駆動する鉄鋼ラインの操業中にモータ過電圧が発生すると、ライン停止に至り、生産量に影響が出てしまう。
【0026】
また、
図8に示したように、直流電動機の回転速度を上昇させる場合などに応答が早すぎると、加減速中に界磁電流がハンチング(b)し、トルク出力が不安定になって板緩みしてしまうなどの品質にも影響が出てしまう。
【0027】
理想的には、
図9に示したように、電機子電圧にオーバーシュートがなく、界磁電流にもハンチングがないように直流電動機の加減速を行う制御が望ましい。
【0028】
次に、直流電動機を駆動する直流電動機駆動システムの具体例について説明する。
図1は、一実施形態にかかる界磁制御装置を備えた直流電動機駆動システム1の概要を例示する図である。
【0029】
図1に示すように、直流電動機駆動システム1は、例えば直流電動機2、主回路3、主回路サイリスタ4、界磁制御装置5、界磁サイリスタ6、及び検出器7を有する。
【0030】
直流電動機2は、主回路3により点弧される主回路サイリスタ4と、界磁制御装置5により点弧される界磁サイリスタ6とを介して駆動される。また、検出器7は、直流電動機2の回転数(速度)を検出し、検出した速度を主回路3へフィードバックする。
【0031】
主回路3は、速度制御部30、電機子電流制御部32、及び位相制御部34を有する。速度制御部30は、速度基準に基づいて速度指令を電機子電流制御部32に対して出力する。電機子電流制御部32は、速度指令に基づいて電流指令を位相制御部34に対して出力する。位相制御部34は、電流指令に基づいて、主回路サイリスタ4に対する点弧角を制御する。
【0032】
界磁制御装置5は、界磁弱め制御部50、界磁電流制御部52、位相制御部54、及び補正部56を有する。なお、界磁制御装置5の具体的な構成例については、
図2及び
図3を用いて詳述する。
【0033】
図2は、一実施形態にかかる界磁制御装置5を構成する制御系を例示する図である。界磁弱め制御部50は、電機子電圧基準と電機子電圧フィードバックとの偏差に対し、界磁弱め制御の積分ゲインと、補正部56から入力される界磁弱め制御の比例ゲイン(後述)とを用いて、界磁電流制御部52に対する界磁電流弱め量を決定するようにPI制御を行う。なお、界磁弱め制御部50が出力する界磁電流弱め量には、リミット処理が施されている。
【0034】
界磁電流制御部52は、界磁電流基準と界磁電流フィードバックとの偏差に対し、電流制御比例ゲインと電流制御積分ゲインとを用いて、位相制御部54に対して位相制御基準を出力するようにPI制御を行う。なお、界磁電流基準は、強め時界磁電流基準に対し、界磁弱め制御部50が出力した界磁電流弱め量が合成されたものである。
【0035】
強め時界磁電流基準は、定格界磁電流である。強め界磁範囲では界磁電流弱め量は0となり、弱め界磁範囲では強め時界磁電流基準と界磁電流弱め量との差が界磁電流基準となる。
【0036】
位相制御部54は、界磁電流制御部52から入力される位相制御基準に基づいて、直流電動機2に対する界磁電流を変化させる界磁サイリスタ6の点弧角を制御する。
【0037】
補正部56は、例えば内部に折れ点関数部57及び補正カーブ生成部58を有する。
図3は、折れ点関数部57の具体的な構成例を示す図である。折れ点関数部57は、例えばユーザにより予め設定される21通りの折れ点関数設定値00~折れ点関数設定値20に基づいて、折れ点関数00~折れ点関数20を補正カーブ生成部58に対して出力して設定する。
【0038】
なお、折れ点関数設定値00~折れ点関数設定値20は、ベース速度以上になった直流電動機2の速度が変化しても、界磁弱め制御の応答をほぼ一定とすることができる折れ点関数00~折れ点関数20を折れ点関数部57が補正カーブ生成部58に対して設定することができるように調整される。
【0039】
また、折れ点関数部57は、例えば偶数の折れ点関数設定値のみが設定されても、隣り合う2つの偶数の折れ点関数設定値を用いて平均値を算出することにより、奇数の折れ点関数を算出する機能を備えている。つまり、折れ点関数部57は、ユーザが調整すべき折れ点関数設定値の数を削減する機能を備えている。
【0040】
また、折れ点関数部57は、奇数の折れ点関数設定値の入力を、計算による自動入力、又はユーザによる手動入力のいずれかに、フラグによって切り替えることが可能にされている。つまり、折れ点関数部57は、界磁弱め制御の微調整を可能にしている。
【0041】
なお、折れ点関数部57は、界磁弱め制御部50が用いる所定の界磁弱め制御の比例ゲインよりも補正部56が補正した比例ゲインが調整中に誤って大きくなることを防止するために、各折れ点関数設定値に対してリミット処理を施している。
【0042】
例えば、折れ点関数00~折れ点関数20は、0%~100%まで5%ずつ異なる21通りの速度に対応しており、直流電動機2の回転速度に対する比例ゲインの割合を示している。
【0043】
補正カーブ生成部58は、折れ点関数00~折れ点関数20に基づいて、絶対値処理を施された直流電動機2の速度フィードバックに対してゲインを下げる割合を決定する界磁弱め制御ゲイン補正カーブを生成する。
【0044】
そして、補正部56は、入力された所定の界磁弱め制御の比例ゲインに対し、補正カーブ生成部58が決定したゲインを下げる割合を乗じることにより、直流電動機2の速度に応じて下げた(補正した)界磁弱め制御比例ゲインを算出して界磁弱め制御部50へ出力する。例えば、補正部56は、直流電動機2の速度がベース速度に近づくまで上昇したときに比例ゲインの補正を行う。
【0045】
つまり、補正部56は、直流電動機2の回転速度に応じて界磁弱め制御部50が用いる比例ゲインを補正し、例えば直流電動機2の回転速度がベース速度以上になった場合には、予め定められた値まで比例ゲインを下げるように補正する。
【0046】
このように、界磁制御装置5は、界磁弱め制御部50が用いる比例ゲインを補正部56が補正するので、直流電動機2をベース速度以上で回転させる場合にも、応答速度の変動を低減させることができる。
【0047】
また、界磁制御装置5は、直流電動機2の速度上昇に応じて界磁弱め制御部50が用いる比例ゲインを下げ、界磁弱め範囲の領域を含む全領域で自動界磁弱め制御の応答時間が一定となるように調整することもできる。すなわち、界磁制御装置5は、直流電動機2の加減速運転時における電機子電圧のオーバーシュートや界磁電流のハンチングの発生を低減することができる。
【0048】
次に、直流電動機2及び界磁制御装置5を備えた直流電動機駆動システム1の具体的な実施例について説明する。
【0049】
図4は、直流電動機駆動システム1を有する鉄鋼の熱延システム8の概要を示す図である。鉄鋼の熱延システム8は、運転室80から情報系LANを介して運転を行い、計算機室81から制御用LANを介して制御を行うことが可能にされている。
【0050】
加熱炉エリア82では、加熱炉燃焼制御が行われる。粗圧延機エリア83では、粗圧延機幅制御が行われる。エッジヒータ・バーヒータエリア84の下流に配置される仕上圧延機エリア85では、ルーパ制御、ルーパレス制御、自動板厚制御、及び仕上出側温度制御が行われる。例えば、界磁制御装置5は、仕上圧延機エリア85で用いられる直流電動機2などに対して用いられる。また、水冷却装置86の下流に配置されたコイラーエリア87において用いられる直流電動機2などに対しても、界磁制御装置5が用いられている。
【0051】
図5は、直流電動機駆動システム1を有する鉄鋼のプロセスライン9の概要を示す図である。プロセスライン9は、連続焼鈍ラインであり、冷間圧延された薄板(鋼板)を一定速度で搬送する必要がある。プロセスライン9は、搬送ロール間にスリップが生じてしまうと、薄板に疵を生じさせてしまうからである。
【0052】
薄板は、ペイオフリール90から払い出される。例えば、ペイオフリール90において用いられる直流電動機2などに対し、界磁制御装置5が用いられている。
【0053】
また、溶接機91、洗浄セクション92、入側ルーパ93、焼鈍炉94、及び出側ルーパ95を通って搬送された薄板は、調質圧延機96により機械特性及び形状の微調整が行われ、レンションリール97により巻き取られる。例えば、調質圧延機96及びレンションリール97において用いられる直流電動機2などに対しても、界磁制御装置5が用いられている。
【符号の説明】
【0054】
1・・・直流電動機駆動システム、2・・・直流電動機、3・・・主回路、4・・・主回路サイリスタ、5・・・界磁制御装置、6・・・界磁サイリスタ、7・・・検出器、8・・・鉄鋼の熱延システム、9・・・プロセスライン、30・・・速度制御部、32・・・電機子電流制御部、34・・・位相制御部、50・・・界磁弱め制御部、52・・・界磁電流制御部、54・・・位相制御部、56・・・補正部、57・・・折れ点関数部、58・・・補正カーブ生成部、85・・・仕上圧延機エリア、87・・・コイラーエリア、90・・・ペイオフリール、96・・・調質圧延機、97・・・レンションリール