(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】希土類鉄ガーネットの前駆体である複合物、この複合物を含む塗料、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 49/02 20060101AFI20240522BHJP
【FI】
C01G49/02 Z
(21)【出願番号】P 2019214745
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2022-10-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 配布日 令和 1年 9月 3日 刊行物名 第35回日本セラミックス協会関東支部研究発表会講演要旨集 発行者名 公益社団法人 日本セラミックス協会 開催日 令和 1年 9月 3日~ 4日 集会名 第35回日本セラミックス協会関東支部研究発表会
(73)【特許権者】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000242002
【氏名又は名称】北興化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】阿部 修実
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 亜莉沙
(72)【発明者】
【氏名】安部 恵理夏
(72)【発明者】
【氏名】吉田 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】荒木 真剛
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-187612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径(BET法換算)100nm以下である希土類鉄ガーネットからなる種結晶と、Ln
3Fe
5O
p(OH)
q(2p+q=24)からなる希土類鉄オキシ水酸化物とを含むことを特徴とする希土類鉄ガーネットの前駆体である複合物。
【請求項2】
酸化物換算した
前記希土類鉄オキシ水酸化物100重量部に対して、前記種結晶を0.01重量部以上5.0重量部以下含むことを特徴とする請求項1に記載の複合物。
【請求項3】
1000℃未満の熱処理により、96.0%以上の純度で希土類鉄ガーネットとなることを特徴とする請求項1または2に記載の複合物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の複合物を含むことを特徴とする塗料。
【請求項5】
三価の希土類(Ln:希土類元素)の水酸化物と、水和酸化鉄(Fe
2O
3・xH
2O(xは任意の正の数))とを、Ln:Feのモル比が3:4~6の割合で含み、
さらに、希土類鉄ガーネットからなる種結晶を含む原料を調製する調製工程、
前記原料を、粉砕媒液中で媒体撹拌式粉砕機を用いて粉砕混合する粉砕混合工程、
を有することを特徴とする、粒径(BET法換算)100nm以下である希土類鉄ガーネットからなる種結晶と、Ln
3Fe
5O
p(OH)
q(2p+q=24)からなる希土類鉄オキシ水酸化物とを含むことを特徴とする希土類鉄ガーネットの前駆体である複合物の製造方法。
【請求項6】
請求項5で得られた複合物を、1000℃未満で熱処理することを特徴とする希土類鉄ガーネットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類鉄ガーネットの前駆体である複合物、この複合物を含む塗料、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類鉄ガーネット(Ln3Fe5O12:Lnは希土類元素)は、フェライトの一つで、結晶磁気異方性が小さく、磁気損失が小さい、強磁性共鳴帯域幅が狭い等の特性を有するため、マイクロ波材料、光磁気材料等の焼結体磁性材料として利用されている。
希土類鉄ガーネットは、通常、固相反応法で合成される(非特許文献1)。しかし、固相反応法では、オルソフェライト(LnFeO3)が中間生成物として生成し、希土類鉄ガーネット単一相の合成には1000℃以上の高温での熱処理が必要である。また、熱処理が高温であるため、粒子の粗大化や凝集が起こり、微粒子として得ることができない。
希土類鉄ガーネットの製造方法として、ゾルゲル法等の湿式法も知られているが、湿式法は、多量の溶媒を必要とする(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Fenghua Xue, et al., “Lowering the synthesis temperature of Y3Fe5O12 by surfactant assisted solid state reaction” Journal of Magnetism and Magnetic Materials, 2018, Vol.446,p.118-124.
【文献】A.Z. Arsad, N.B. Ibrahim, “The effect of Ce doping on the structure, surface morphology and magnetic properties of Dy doped-yttrium iron garnet films prepared by a sol-gel method” Journal of Magnetism and Magnetic Materials, 2016, Vol.410,p.128-136.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、1000℃未満の熱処理で希土類鉄ガーネットを合成することができる希土類鉄ガーネットの前駆体である複合物、この複合物を含む塗料、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題を解決するための手段は以下の通りである。
[1]
希土類鉄ガーネットからなる種結晶と、希土類鉄オキシ水酸化物とを含むことを特徴とする希土類鉄ガーネットの前駆体である複合物。
[2]
前記種結晶を0.01重量部以上5.0重量部以下含むことを特徴とする[1]に記載の複合物。
[3]
1000℃未満の熱処理により、96.0%以上の純度で希土類鉄ガーネットとなることを特徴とする[1]または[2]に記載の複合物。
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載の複合物を含むことを特徴とする塗料。
[5]
三価の希土類(Ln:希土類元素)の酸化物、水酸化物、水和酸化物の少なくとも1種と、水和酸化鉄(Fe2O3・xH2O(xは任意の正の数))とを、Ln:Feのモル比が3:4~6の割合で含み、
さらに、希土類鉄ガーネットからなる種結晶を含む原料を調製する調製工程、
前記原料を、粉砕媒液中で媒体撹拌式粉砕機を用いて粉砕混合する粉砕混合工程、
を有することを特徴とする、希土類鉄ガーネットからなる種結晶と、希土類鉄オキシ水酸化物とを含むことを特徴とする希土類鉄ガーネットの前駆体である複合物の製造方法。
[6]
[5]で得られた複合物を、1000℃未満で熱処理することを特徴とする希土類鉄ガーネットの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の希土類鉄ガーネットの前駆体である複合物を1000℃未満で熱処理することにより、希土類鉄ガーネットを得ることができる。本発明の複合物は、オルソフェライトの生成が少なく、96%以上の非常に高い純度で、さらには100%の純度で希土類鉄ガーネットを得ることができる。本発明の複合物は、微粒子状であり、分散媒中に分散することで塗料とすることができる。この塗料を塗布し、1000℃未満の熱処理を行う(焼成)ことにより、様々なモノの表面に希土類鉄ガーネットの被膜を製造することができる。
【0007】
本発明の製造方法は、特殊な機材や薬品等が不要であり、非常に低コストである。本発明の製造方法は、水以外の副生物は生じず、安全で環境への負荷も小さい。本発明の製造方法により、複合希土類鉄ガーネットの前駆体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
・希土類鉄ガーネット
希土類鉄ガーネットは、一般式Ln3Fe5O12(式中、Lnは、希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素である)で表される。本発明で用いる希土類元素としては、イットリウム(Y)と、原子番号60(ネオジム:Nd)から71(ルテチウム:Lu)のいずれか1種以上であることが好ましい。これは、これらの希土類元素が、3価の状態を取りやすく、3価(6配位)のイオン半径の大きさが近いためである。なお、プロメチウム(Pr)は、放射性元素であるため、取り扱いに注意を要する。また、本発明において、希土類鉄ガーネットは、ビスマス(Bi)、アルミニウム(Al)等のガーネット型結晶構造を取り得る金属元素により、一部の希土類元素が置換されていてもよい。
【0010】
「製造方法」
以下、本発明を製造方法に沿って説明する。
・調製工程
まず、三価の希土類(Ln)の酸化物、水酸化物、水和酸化物の少なくとも1種(以下、単に「三価の希土類材料」ともいう)と、水和酸化鉄(Fe2O3・xH2O(xは任意の正の数))とを、Ln:Feのモル比が3:4~6の割合で含み、さらに、希土類鉄ガーネットからなる種結晶を含む原料を調製する。
希土類鉄ガーネット(Ln3Fe5O12)の前駆体である複合物を効率よく製造するために、Ln:Feのモル比は、3:4.5~5.5であることが好ましく、3:4.8~5.2であることがより好ましく、3:4.9~5.1であることが更に好ましく、3:5であることが最も好ましい。
【0011】
三価の希土類材料は、酸化物(Ln2O3)、水酸化物(Ln(OH)3)、水和酸化物(LnOOH)のいずれか、または2種以上を用いることができる。これらは、結晶水を含有していてもよく、希土類水酸化物、希土類水和酸化物については、不定比な希土類酸化物の水和物(Ln2O3・yH2O(yは任意の正の数))であってもよい。三価の希土類材料は、2種以上の異なる希土類元素を有する化合物を混合して用いることができる。2種以上の異なる希土類元素を混合して用いることで、異種の希土類元素が同一結晶構造中に組み込まれた複合希土類鉄ガーネットを製造するための複合物を得ることができる。また、希土類の一部を置換する場合は、それらの酸化物、水酸化物、水和酸化物を添加すればよい。
【0012】
三価の希土類材料としては、水酸化物を用いることが好ましい。本発明の希土類鉄ガーネットの前駆体である複合物は、希土類オキシ水酸化物を含むため、原料として水酸化物を用いると、反応に要する時間を短縮できる。また、水酸化物由来の複合物は、酸化物または水和酸化物由来の複合物と比較して、熱処理温度を同一とした場合により高い純度の希土類鉄ガーネットを得ることができる。
【0013】
水和酸化鉄(Fe2O3・xH2O(xは任意の正の数))は、特に制限することなく使用することができるが、熱処理温度を同一とした場合により高い純度で希土類鉄ガーネットとなる複合物を得ることができるため、xが0.5以上3.0以下であることが好ましく、0.8以上3.0以下であることがより好ましく、1.5以上3.0以下であることがさらに好ましい。
【0014】
種結晶は、希土類鉄ガーネットを使用する。
種結晶の大きさは、使用する媒体撹拌式粉砕機で粉砕可能な大きさであれば特に制限されない。これは、大きな種結晶を用いても、続く粉砕混合工程において、種結晶が粒径(BET法換算)100nm以下にまで粉砕されるためである。
種結晶の添加量は特に制限されないが、例えば、酸化物換算した原料(三価の希土類、水和酸化鉄の合計)100重量部に対して、0.01重量部以上5.0重量部以下が挙げられる。種結晶の添加量が0.01重量部未満では、結晶成長の起点となる部分が少なくなり、結晶化に時間がかかる場合がある。種結晶の添加量が5.0重量部を越えると、高コストとなる。
【0015】
種結晶中の希土類元素は、三価の希土類材料と同一であっても異なっていてもよい。三価の希土類材料中の希土類元素と種結晶中の希土類元素とを、異種の希土類元素とすることで、異なる種類の希土類元素を含む複合物を得ることができる。異種の希土類元素を含有することで、高機能化、低コスト等が期待できる。また、種結晶は、複合希土類鉄ガーネットであってもよい。この場合、三価の希土類材料として、種結晶である複合希土類鉄ガーネット中の異種の希土類元素と、同一種類を同一比率で用いることにより、複合希土類鉄ガーネットの前駆体である複合物を得ることができる。
【0016】
・粉砕混合工程
所定量となるように調製した原料を、粉砕媒液中で媒体撹拌式粉砕機を用いて粉砕混合する。
粉砕混合により、原料が粒径(BET法換算)100nm以下に微細化され部分水酸化する。さらに微細化により、単位体積あたりの表面積が増大し、反応性が向上することで、三価の希土類元素と鉄とが原料の仕込み比に近く安定なLn:Fe=3:5のネットワーク構造が生じ、本発明である微細化した種結晶と希土類鉄オキシ水酸化物とが強く結びついた複合物が得られる。なお、希土類鉄オキシ水酸化物は、一般式Ln3Fe5Op(OH)q(式中、pとqは2p+q=24を満足する正の数)で表される。
【0017】
本発明で使用する媒体撹拌式粉砕機は、粉砕媒体を物理的に撹拌しながら、原料を機械的に粉砕、磨砕する粉砕機を特に制限することなく使用することができる。具体的には遊星ボールミル、ビーズミル、アトライター等を用いることができる。粉砕媒体であるボール(ビーズ)としては、直径0.1~10mm程度の、ZrO2(ジルコニア)、Si3N4(窒化ケイ素)、SiC(炭化ケイ素)、WC(タングステンカーバイド)、スチールなどの素材からなるものを用いることができる。
【0018】
粉砕混合処理の際に水分子(原料中の構造水由来)が放出されるため、粉砕媒液は、水と相溶性があるものであれば特に制限することなく使用することができる。具体的には、水、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等)、多価アルコール類(エチレングリコール等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)などの有機溶媒を用いることができる。これらは、互いに混合して均一な液相を形成するのであれば、2種以上を混合して用いることもできる。
【0019】
水と相溶性のある有機溶媒は、原料および粉砕混合の処理条件に応じて、適切な比誘電率および粘性を有するものを用いることが好ましい。有機溶媒の比誘電率が適度な範囲であれば、水系溶媒中の粉砕処理物の分散性が高まりすぎず、粒子会合体(凝集粒子)の形成が充分なものとなり、熱処理により得られる希土類鉄ガーネットの結晶性が向上する。また、有機溶媒の粘性が適度な範囲にあれば、沈降性の粒子会合体が形成され、粉砕応力がこの粒子会合体に効果的に作用するため、結晶性が向上する。
【0020】
粉砕混合の処理条件は、媒体撹拌式粉砕機の種類等に応じて調整することができ、たとえば、遊星ボールミルを使用する場合には、容器容積100mL当たり、粉砕媒体であるボール(ビーズ)の充填量を15~60mL、粉砕媒液および原料の合計の充填量を10~30mLとし、かつ粉砕媒液と原料の混合物中の原料の濃度を2~30体積%とすることが好ましい。また、遊星ボールミルの公転回転数は通常1~10Hz、好ましくは4~6Hzであり、処理時間は1~10時間程度である。
【0021】
・複合物
粉砕混合工程後に得られる複合物は、粉砕媒液に分散している。粉砕媒液を乾燥することで、微粒子状の複合物を得ることができる。この微粒子状の複合物を熱処理することにより、微粒子状の希土類鉄ガーネットを得ることができる。
得られた複合物の分散液をそのまま、または、必要に応じて溶媒置換を行い、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂、スチレン系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂等のバインダー、界面活性剤等を混合して、塗料とすることができる。塗料を基体上に塗布し、熱処理する(焼成)ことで、基体上に希土類鉄ガーネットの被膜を設けることができる。
【0022】
本発明の複合物から希土類鉄ガーネットを合成する際の熱処理温度は、1000℃未満である。熱処理温度は、希土類鉄ガーネットが得られる温度であれば特に制限されないが、950℃以下であることが好ましく、900℃以下であることがより好ましく、800℃以下であることが更に好ましく、700℃以下であることが最も好ましい。
本発明の複合物は、熱処理温度が低くとも希土類鉄ガーネットを合成できるため、粒子の粗大化や凝集が起こりにくく、粒径(BET法換算)150nm以下の希土類鉄ガーネットを得ることができる。
【0023】
本発明の複合物は、オルソフェライト(LnとFeのモル比が1:1)の生成を抑制し、高純度の希土類鉄ガーネットを得ることができる。熱処理後に得られる生成物における希土類鉄ガーネットの純度は、96%以上であることが好ましく、98%以上であることがより好ましく、99%以上であることがより好ましく、99.5%以上であることが更に好ましく、100%であることが最も好ましい。
なお、本明細書において純度は、目的化合物YIGのX線回折ピーク強度Gと副生成物であるYIPの回折ピーク強度Pから、結晶相の純度 φ =G/(G+P)で求めたものである。
【実施例】
【0024】
次に実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例において、種結晶としては、下記比較例2の前駆体を1200℃で熱処理して得た希土類鉄ガーネットを、遊星ミルで解砕して遠心分級し、またはそのまま使用した。
【0025】
「測定方法」
・X線回折
粉末X線回折装置(株式会社リガク製、RAD-C型)
CuKα線、40kV、20mA、走査速度:1°/min
・粒子径(BET法換算)
比表面積測定装置(Quantachrome社製、Monosorb-b型(窒素吸着フローBET法))
液体窒素温度で窒素(30%)+ヘリウム(70%)の混合ガスから試料に窒素ガスを吸着させ、次に試料を室温にして脱離した窒素ガスを熱伝導度セルで検出し、BET式に従って表面積を算出した。粒子径dは、粒子を球と考えて比表面積Sとdの関係式 d=6/(S×ρ)で求めた。ρは格子定数から求めたガーネットの密度である。
【0026】
「実施例1」
酸化物換算で合計10.0g、Ln:Feのモル比が3:5となるように、Y(OH)
3(5.691g)と水和酸化鉄(Fe
2O
3・2.869H
2O:7.187g)、および種結晶(Y
3Fe
5O
12:35nm)0.021gを、アセトン76.0cm
3およびジルコニア製粉砕媒体(φ2mm、636g/嵩充填率0.40)とともに容量420cm
3のステンレス製粉砕容器に入れ、媒体撹拌式粉砕機(遊星ボールミル)を用いて公転回転速度6.0s
-1で3時間粉砕混合し、吸引ろ過したのち、85℃で16時間真空乾燥して複合物を得た。
得られた複合物を、500~1000℃で100℃毎に熱処理した。熱処理後の粉末のX線回折パターンを
図1に示す。
【0027】
得られた複合物は、酸化物換算の原料100重量部に対する種結晶の添加量がわずかに0.20重量部でも、600℃でオルソフェライトをほとんど生成することなく希土類鉄ガーネット(Y3Fe5O12)単一相に結晶化した。また、合成温度を600℃まで低減できたため、得られた希土類鉄ガーネット粉末の粒子径も約100nmと微細であった。
熱処理温度600℃で得られた粉末の粒子径(BET法換算)は32nm(比表面積36.0m2/g)、純度は97%であった。また、熱処理温度700℃、1000℃で得られた粉末の粒子径と純度は、それぞれ92nm(比表面積12.6m2/g)と97%、290nm(比表面積4.0m2/g)と99%以上であった。
【0028】
「実施例2」
酸化物換算で合計9.9g、Ln:Feのモル比が3:5となるように、Y(OH)
3(5.689g)と水和酸化鉄(Fe
2O
3・1.687H
2O:6.364g)、および種結晶(Y
3Fe
5O
12:18nm)0.020gを、アセトン76.0cm
3およびジルコニア製粉砕媒体(φ2mm、636g/嵩充填率0.40)とともに容量420cm
3のステンレス製粉砕容器に入れ、媒体撹拌式粉砕機(遊星ボールミル)を用いて公転回転速度6.0s
-1で3時間粉砕混合し、吸引ろ過したのち、85℃で16時間真空乾燥して複合物を得た。
得られた複合物を、500~1000℃で100℃毎に熱処理した。熱処理後の粉末のX線回折パターンを
図2に示す。
【0029】
微細な種結晶(18nm)を添加した実施例2は、粗大な種結晶(35nm)を添加した実施例1よりも100℃ほど高い600℃までほぼ非晶質であった。700℃まで加熱すると、希土類鉄ガーネットに結晶化した。種結晶は、18nm程度の微細なものでもオルソフェライトの生成を抑えて希土類鉄ガーネットへの結晶化を促進できた。
熱処理温度700℃で得られた粉末の粒子径(BET法換算)は130nm(比表面積8.7m2/g)、純度は95%であった。また、熱処理温度800℃、1000℃で得られた粉末の粒子径と純度は、それぞれ190nm(比表面積6.0m2/g)と97%、360nm(比表面積3.2m2/g)と97%以上であった。
【0030】
「実施例3」
酸化物換算で合計10.0g、Ln:Feのモル比が3:5となるように、Y(OH)
3(5.708g)と水和酸化鉄(Fe
2O
3・2.869H
2O:7.185g)、および種結晶(Y
3Fe
5O
12:未解砕)0.023gを、アセトン76.0cm
3およびジルコニア製粉砕媒体(φ2mm、636g/嵩充填率0.40)とともに容量420cm
3のステンレス製粉砕容器に入れ、媒体撹拌式粉砕機(遊星ボールミル)を用いて公転回転速度6.0s
-1で3時間粉砕混合し、吸引ろ過したのち、85℃で16時間真空乾燥して複合物を得た。
得られた複合物を、500~1000℃で100℃毎に熱処理した。熱処理後の粉末のX線回折パターンを
図3に示す。
【0031】
未解砕の種結晶を使用しても、18nmの種結晶を使用した実施例2と同様に、600℃までほぼ非晶質でオルソフェライト相をほとんど生成せず、700℃まで加熱すると、希土類鉄ガーネットに結晶化した。これは、大きな種結晶が混合粉砕時に粉砕され微細化したためであると推測される。
熱処理温度700℃で得られた粉末の粒子径(BET法換算)は96nm(比表面積12.0m2/g)、純度は96%であった。
【0032】
「実施例4」
酸化物換算で合計10.0g、Ln:Feのモル比が3:5となるように、Y(OH)
3(5.712g)と水和酸化鉄(Fe
2O
3・2.869H
2O:7.183g)、および種結晶(Y
3Fe
5O
12:18nm)0.005gを、アセトン76.0cm
3およびジルコニア製粉砕媒体(φ2mm、636g/嵩充填率0.40)とともに容量420cm
3のステンレス製粉砕容器に入れ、媒体撹拌式粉砕機(遊星ボールミル)を用いて公転回転速度6.0s
-1で3時間粉砕混合し、吸引ろ過したのち、85℃で16時間真空乾燥して複合物を得た。
得られた複合物を、500~1000℃で100℃毎に熱処理した。熱処理後の粉末のX線回折パターンを
図4に示す。
【0033】
酸化物換算の原料100重量部に対する種結晶の添加量をわずか0.05重量部としても、オルソフェライト相の生成を抑え、固相反応法と比較して200℃以上低温の700℃で、希土類鉄ガーネットを合成することができた。
熱処理温度700℃で得られた粉末の粒子径(BET法換算)は95nm(比表面積12.2m2/g)、純度は97%であった。
【0034】
「実施例5」
酸化物換算で合計7.92g、Ln:Feのモル比が3:5となるように、Sm(OH)
3(6.485g)と水和酸化鉄(Fe
2O
3・1.706H
2O:5.110g)、および種結晶(Y
3Fe
5O
12:35nm)0.01gを、アセトン76.0cm
3およびジルコニア製粉砕媒体(φ2mm、636g/嵩充填率0.40)とともに容量420cm
3のステンレス製粉砕容器に入れ、媒体撹拌式粉砕機(遊星ボールミル)を用いて公転回転速度6.0s
-1で3時間粉砕混合し、吸引ろ過したのち、85℃で16時間真空乾燥して複合物を得た。
得られた複合物と、この複合物を600~1000℃で100℃毎に熱処理した。熱処理後の粉末のX線回折パターンを
図5に示す。
【0035】
種結晶としてイットリウム鉄ガーネット(Y3Fe5O12)を用いることにより、種結晶と異なる希土類元素(Sm)のガーネットであるサマリウム鉄ガーネット(Sm3Fe5O12)が合成できた。種結晶の添加量をわずか0.10重量部としても、オルソフェライト相の生成を抑え、固相反応法と比較して100℃以上低温の900℃で、希土類鉄ガーネットを合成することができた。
熱処理温度900℃で得られた粉末の粒子径(BET法換算)は270nm(比表面積3.1m2/g)、純度は99.9%であった。また、熱処理温度700℃、800℃で得られた粉末の純度は、それぞれ86%、93%であったが、種結晶の添加量を増やす、公転回転速度と熱処理時間等を最適化する等により、より高純度とすることができると考えられる。
【0036】
「実施例6」
酸化物換算で合計7.75g、Ln:Feのモル比が3:5となるように、Gd(OH)
3(6.560g)と水和酸化鉄(Fe
2O
3・1.706H
2O:4.998g)、および種結晶(Y
3Fe
5O
12:35nm)1.0gを、アセトン76.0cm
3およびジルコニア製粉砕媒体(φ2mm、636g/嵩充填率0.40)とともに容量420cm
3のステンレス製粉砕容器に入れ、媒体撹拌式粉砕機(遊星ボールミル)を用いて公転回転速度6.0s
-1で3時間粉砕混合し、吸引ろ過したのち、85℃で16時間真空乾燥して複合物を得た。
得られた複合物と、この複合物を600~1000℃で100℃毎に熱処理した。熱処理後の粉末のX線回折パターンを
図6に示す。
【0037】
種結晶としてイットリウム鉄ガーネット(Y3Fe5O12)を用いることにより、種結晶と異なる希土類元素(Gd)のガーネットであるガドリニウム鉄ガーネット(Gd3Fe5O12)が合成できた。種結晶の添加量を10重量部としても、オルソフェライト相の生成を抑え、固相反応法と比較して300℃以上低温の700℃で、希土類鉄ガーネットを合成することができた。
熱処理温度700℃で得られた粉末の粒子径(BET法換算)は98nm(比表面積8.6m2/g)、純度は98%であった。また、熱処理温度800℃で得られた粉末の粒子径(BET法換算)と純度は、それぞれ160nm(比表面積5.2m2/g)、99.9%であり、高純度の希土類鉄ガーネットが得られた。これは、種結晶に用いたイットリウムのイオン半径(90pm)と、ガドリニウムのイオン半径(93.8pm)が近いためであると考えられる。
【0038】
「実施例7」
酸化物換算で合計7.38g、Ln:Feのモル比が3:5となるように、Yb(OH)
3(6.720g)と水和酸化鉄(Fe
2O
3・1.706H
2O:4.759g)、および種結晶(Y
3Fe
5O
12:35nm)0.01gを、アセトン76.0cm
3およびジルコニア製粉砕媒体(φ2mm、636g/嵩充填率0.40)とともに容量420cm
3のステンレス製粉砕容器に入れ、媒体撹拌式粉砕機(遊星ボールミル)を用いて公転回転速度6.0s
-1で3時間粉砕混合し、吸引ろ過したのち、85℃で16時間真空乾燥して複合物を得た。
得られた複合物と、この複合物を600~1000℃で100℃毎に熱処理した。熱処理後の粉末のX線回折パターンを
図7に示す。
【0039】
種結晶としてイットリウム鉄ガーネット(Y3Fe5O12)を用いることにより、種結晶と異なる希土類元素(Yb)のガーネットであるイッテルビウム鉄ガーネット(Yb3Fe5O12)が合成できた。種結晶の添加量をわずか0.10重量部としても、オルソフェライト相の生成を抑え、固相反応法と比較して300℃以上低温の700℃で、希土類鉄ガーネットを合成することができた。
熱処理温度700℃で得られた粉末の粒子径(BET法換算)は86nm(比表面積9.8m2/g)、純度は98%であった。また、熱処理温度800℃で得られた粉末の粒子径(BET法換算)と純度は、それぞれ160nm(比表面積5.2m2/g)、99.9%であり、高純度の希土類鉄ガーネットが得られた。これは、種結晶に用いたイットリウムのイオン半径(90pm)と、イッテルビウムのイオン半径(93.8pm)が近いためであると考えられる。
【0040】
「実施例8」
酸化物換算で合計10.0g、Ln:Feのモル比が3:5となるように、2種類の希土類水酸化物Sm(OH)
3(3.632g)およびY(OH)
3(2.523g)と水和酸化鉄(Fe
2O
3・2.384H
2O:6.090g)、および種結晶(Y
3Fe
5O
12:未解砕)0.20gを、アセトン76.0cm
3およびジルコニア製粉砕媒体(φ2mm、636g/嵩充填率0.40)とともに容量420cm
3のステンレス製粉砕容器に入れ、媒体撹拌式粉砕機(遊星ボールミル)を用いて公転回転速度6.0s
-1で3時間粉砕混合し、吸引ろ過したのち、85℃で16時間真空乾燥して複合物を得た。
得られた複合物と、この複合物を600~1000℃で100℃毎に熱処理した。熱処理後の粉末のX線回折パターンを
図8に示す。
【0041】
種結晶としてイットリウム鉄ガーネット(Y3Fe5O12)を用いて、二種類の希土類元素を含むガーネット型固溶体(Sm1.5Y1.5Fe5O12)が合成できた。種結晶の添加量をわずか2.0重量部としても、オルソフェライト相の生成を抑え、低温で複合希土類鉄ガーネットを合成することができた。
熱処理温度700℃では、若干量のオルソフェライトが副生するが、そのピーク強度は、希土類元素が1種類のY3Fe5O12よりも大きく、Sm3Fe5O12よりも小さかった(両者の間にある)。熱処理温度700℃において得られた粉末の粒子径(BET法換算)は140nm(比表面積7.4m2/g)であった。熱処理温度800℃では、得られた粉末の純度は98%であった。
種結晶の添加量は0.20%でも十分であるが、良く結晶化した複合希土類鉄ガーネット固溶体(Sm1.5Yb1.5Fe5O12)を種結晶に用いる、あるいは、種結晶の添加量を増やして1.00%程度にする、または、処理条件をもう少し高負荷・長時間にするなどにより、700℃での反応率(純度)も向上できると考えられる。
【0042】
「実施例9」
酸化物換算で合計10.0g、Ln:Feのモル比が3:5となるように、2種類の希土類水酸化物Gd(OH)
3(3.710g)およびY(OH)
3(2.492g)と水和酸化鉄(Fe
2O
3・2.384H
2O:6.016g)、および種結晶(Y
3Fe
5O
12:未解砕)0.020gを、アセトン76.0cm
3およびジルコニア製粉砕媒体(φ2mm、636g/嵩充填率0.40)とともに容量420cm
3のステンレス製粉砕容器に入れ、媒体撹拌式粉砕機(遊星ボールミル)を用いて公転回転速度6.0s
-1で3時間粉砕混合し、吸引ろ過したのち、85℃で16時間真空乾燥して複合物を得た。
得られた複合物と、この複合物を600~1000℃で100℃毎に熱処理した。熱処理後の粉末のX線回折パターンを
図9に示す。
【0043】
種結晶としてイットリウム鉄ガーネット(Y3Fe5O12)を用いて、二種類の希土類元素を含むガーネット型固溶体(Gd1.5Y1.5Fe5O12)が合成できた。種結晶の添加量をわずか0.20重量部としても、オルソフェライト相の生成を抑え、低温で複合希土類鉄ガーネットを合成することができた。
熱処理温度700℃において得られた粉末の粒子径(BET法換算)は150nm(比表面積6.6m2/g)であった。
熱処理温度700℃でのオルソフェライトの生成量は、上記実施例8のSm1.5Y1.5Fe5O12と近い値で、希土類元素が1種類のY3Fe5O12とGd3Fe5O12では700℃でもオルソフェライトの副生はほとんど認められず純度98%以上のガーネット相が得られていることを考えると、このオルソフェライトの副生は固溶体の反応性が単成分ガーネットに比べてやや劣ることが原因と考えられる。反応性のさらなる改善には、上記実施例8で挙げた方法が効果的と考えられる。
【0044】
「実施例10」
酸化物換算で合計10.0gとなるように、Y(OH)
3(2.730g)と、三酸化ビスマス(Bi
2O
3:3.247g)と水和酸化鉄(Fe
2O
3・2.715H
2O:5.814g)、および種結晶(Y
3Fe
5O
12:未解砕)0.10gを、アセトン76.0cm
3およびジルコニア製粉砕媒体(φ2mm、636g/嵩充填率0.40)とともに容量420cm
3のステンレス製粉砕容器に入れ、媒体撹拌式粉砕機(遊星ボールミル)を用いて公転回転速度6.0s
-1で3時間粉砕混合し、吸引ろ過したのち、85℃で16時間真空乾燥して複合物を得た。
得られた複合物と、この複合物を600~1000℃で100℃毎に熱処理した。熱処理後の粉末のX線回折パターンを
図10に示す。
【0045】
種結晶としてイットリウム鉄ガーネット(Y3Fe5O12)を用いて、ビスマス置換希土類鉄ガーネット(Bi1.25Y1.75Fe5O12)が合成できた。
熱処理温度600℃で目的のビスマス置換希土類鉄ガーネット(Bi1.25Y1.75Fe5O12)の単一相に結晶化(生成率(純度):100%)し、熱処理温度が600℃から900℃では回折ピークが鋭くなって結晶性が向上した。しかしながら、1000℃ではピークがブロードになって結晶性が低下した。これは、イオン半径が103pmと大きなビスマスで置換したガーネットが軟化した(融解しかけている)ためであると推測される。
【0046】
「実施例11」
酸化物換算で合計10.0gとなるように、Y(OH)
3(5.755g)と水和量が小さい水和酸化鉄(Fe
2O
3・0.885H
2O:5.952g)、および種結晶(Y
3Fe
5O
12:未解砕)0.022gを、アセトン76.0cm
3およびジルコニア製粉砕媒体(φ2mm、636g/嵩充填率0.40)とともに容量420cm
3のステンレス製粉砕容器に入れ、媒体撹拌式粉砕機(遊星ボールミル)を用いて公転回転速度6.0s
-1で3時間粉砕混合し、吸引ろ過したのち、85℃で16時間真空乾燥して複合物を得た。
得られた複合物を600~1000℃で100℃毎に熱処理した。熱処理後の粉末のX線回折パターンを
図11に示す。
【0047】
熱処理温度600℃では、α-Fe2O3の小さな回折ピークのみを示すほぼ非晶質相であった。熱処理温度700℃では主生成相としてガーネット相(純度91%)が生成し、オルソフェライトへの結晶化は大幅に抑えられた。熱処理温度800℃以上ではほぼガーネット単一相とみなせる生成率(98%)になり、目的の希土類鉄ガーネット(Y3Fe5O12)の単一相が得られた。原料酸化鉄の水和量が小さく(x=0.885)とも、オルソフェライトの生成を抑え、主相としてガーネット相が得られ、従来の固相反応法に比べて300℃以上の合成温度の低減が可能であった。
【0048】
「実施例12」
酸化物換算で合計10.0gとなるように、Y(OH)
3(5.765g)と水和量が小さい水和酸化鉄(Fe
2O
3・0.885H
2O:5.976g)、および種結晶(Y
3Fe
5O
12:未解砕)0.022gを、アセトン74.86cm
3と蒸留水1.14cm
3およびジルコニア製粉砕媒体(φ2mm、636g/嵩充填率0.40)とともに容量420cm
3のステンレス製粉砕容器に入れ、媒体撹拌式粉砕機(遊星ボールミル)を用いて公転回転速度6.0s
-1で3時間粉砕混合し、吸引ろ過したのち、85℃で16時間真空乾燥して複合物を得た。
得られた複合物を600~1000℃で100℃毎に熱処理した。熱処理後の粉末のX線回折パターンを
図12に示す。
【0049】
熱処理温度600℃では、α-Fe2O3の小さな回折ピークのみを示すほぼ非晶質相であった。熱処理温度700℃ではオルソフェライトへの結晶化が抑えられ、主生成相としてガーネット相が生成し、純度は91%であった。熱処理温度800℃以上では、目的の希土類鉄ガーネット(Y3Fe5O12)の単一相(純度98%以上)が得られ、粉砕媒液に水を加えていない実施例11とほぼ同等の結果であった。これは、原料である水和酸化鉄(x=0.885)でも、複合物の反応性が比較的高いためである。
【0050】
「比較例1」
酸化物換算で合計10.0g、Ln:Feのモル比が3:5となるように、Y
2O
3(4.590g)とFe(OH)
3(7.241g)とをアセトン50.0cm
3およびジルコニア製粉砕媒体(φ4mm、636g/嵩充填率0.37)とともに、容量250cm
3のポリプロピレン製容器に入れ、転動ボールミルを用いて回転速度150rpmで16時間粉砕混合し、吸引ろ過した後、85℃で16時間真空乾燥して粉末状の前駆体を得た。
得られた前駆体を、500℃、700℃、1000℃で1時間熱処理した。熱処理後の粉末のX線回折パターンを
図13に示す。
【0051】
前駆体は、Y2O3の小さな回折ピークのみを示す低結晶性の複合物であり、希土類鉄オキシ水酸化物への転換があまり進んでいなかった。
熱処理温度500℃で原料成分のY2O3とα-Fe2O3に結晶化したが、700℃までは反応性が非常に低かった。熱処理温度1000℃では、オルソフェライト相YFeO3が生成したが、目的のガーネットY3Fe5O12の生成量は極めて少なく、純度は5%以下であった。
【0052】
「比較例2」
酸化物換算で合計20.0g、Ln:Feのモル比が3:5となるように、Y
2O
3(9.179g)と水和酸化鉄(Fe
2O
3・0.784H
2O:11.777g)をアセトン76.0cm
3およびジルコニア製粉砕媒体(φ2mm、636g/嵩充填率0.40)とともに、容量420cm
3のステンレス製粉砕容器に入れ、媒体撹拌式粉砕機(遊星ボールミル)を用いて公転回転速度6.0s
-1で3時間粉砕混合し、吸引ろ過した後、85℃で16時間真空乾燥して粉末状の前駆体を得た。
得られた前駆体を、600~1000℃で100℃毎に1時間熱処理した。熱処理後の粉末のX線回折パターンを
図14に示す。
【0053】
前駆体はY2O3の小さな回折ピークのみを示し、低結晶性であった。
熱処理温度700℃でも原料成分のY2O3とα-Fe2O3への結晶化が大幅に抑えられ、媒体撹拌式粉砕機を用いることで、転動ボールミルを用いた比較例1と比較して反応性は大幅に改善した。熱処理温度900℃以下では純度45%と主たる生成相はオルソフェライト相(YFeO3)であった。1000℃では粒子径(BET法換算)360nm(比表面積3.2m2/g)、純度100%の希土類鉄ガーネットの単一相が得られた。
【0054】
「比較例3」
酸化物換算で合計9.7g、Ln:Feのモル比が3:5となるように、Y(OH)
3(5.711g)と水和酸化鉄(Fe
2O
3・2.077H
2O:6.313g)をアセトン76.0cm
3およびジルコニア製粉砕媒体(φ2mm、636g/嵩充填率0.40)とともに、容量420cm
3のステンレス製粉砕容器に入れ、媒体撹拌式粉砕機(遊星ボールミル)を用いて公転回転速度6.0s
-1で3時間粉砕混合し、吸引ろ過した後、85℃で16時間真空乾燥して粉末状の前駆体を得た。
得られた前駆体を、500~1000℃で100℃毎に1時間熱処理した。熱処理後の粉末のX線回折パターンを
図15に示す。
【0055】
三価の希土類材料を水酸化物とすると、前駆体はY2O3の回折ピークを示さず、600℃まではほぼ非晶質であった。
熱処理温度700℃でも原料成分のY2O3とα-Fe2O3はほとんど観察されず、オルソフェライト相(YFeO3)が生成した。熱処理温度900℃以下では純度17%と希土類鉄ガーネットの生成がわずかに増加し、1000℃では粒子径(BET法換算)350nm(比表面積3.5m2/g)、純度100%の希土類鉄ガーネットの単一相が得られた。
【0056】
「比較例4」
酸化物換算で合計10.0g、Ln:Feのモル比が3:5となるように、Y(OH)
3(5.693g)と水和酸化鉄(Fe
2O
3・2.869H
2O:7.187g)、および種結晶(Y
3Fe
5O
12:35nm)0.200gをアセトン40.0cm
3およびジルコニア製粉砕媒体(φ4mm、247g/嵩充填率0.25)とともに、容量250cm
3のポリプロピレン製容器に入れ、転動ボールミルを用いて回転速度150rpmで16時間粉砕混合し、吸引ろ過した後、85℃で16時間真空乾燥して粉末状の前駆体を得た。
得られた前駆体を、500~1000℃で100℃毎に1時間熱処理した。熱処理後の粉末のX線回折パターンを
図16に示す。
【0057】
媒体撹拌式粉砕機でないボールミルでの粉砕混合では、種結晶を添加しても500℃で原料成分のY2O3とα-Fe2O3に結晶化し、600℃で中間相のオルソフェライト相に結晶化し始め、700℃でオルソフェライトが主相となった。700℃で希土類鉄ガーネットが結晶化し始め、種結晶の効果が認められた。900℃で希土類鉄ガーネットが主相になったが、依然としてかなりのオルソフェライトが残り、未反応のα-Fe2O3も完全には消費されなかった。熱処理温度が1000℃になると希土類鉄ガーネットの粒子径(BET法換算)330nm(比表面積3.5m2/g)、純度98%のほぼ単一相が得られた。