(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 15/06 20060101AFI20240522BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
B60C15/06 N
B60C15/06 B
B60C9/00 B
(21)【出願番号】P 2020096950
(22)【出願日】2020-06-03
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】中野 敦人
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-156047(JP,A)
【文献】特開2001-180233(JP,A)
【文献】特開平08-175131(JP,A)
【文献】特開2019-156070(JP,A)
【文献】特開2012-126390(JP,A)
【文献】特開2012-001167(JP,A)
【文献】特開2007-283896(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0145531(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記ビード部の各々に配置されたビードコアと、前記ビードコアのタイヤ径方向外側に配置されたビードフィラーと、前記一対のビード部間に装架された少なくとも1層のカーカス層とを有する空気入りタイヤにおいて、
前記カーカス層は、ポリエステル繊維コードからなるカーカスコードで構成され、前記カーカスコードの切断伸度は20%~30%であり、
前記カーカス層は、各ビード部に配置された前記ビードコアおよび前記ビードフィラーの廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられて、前記一対のビード部間に位置する本体部と前記ビードコアおよび前記ビードフィラーのタイヤ幅方向外側に巻き上げられた巻き上げ部とからなり、
前記巻き上げ部のタイヤ幅方向内側にゴム中に複数本の補強コードが埋設されて構成されたコード補強層が設けられており、前記コード補強層は前記ビードフィラーのタイヤ幅方向外側に隣接し、前記ビードフィラーの上端よりもタイヤ径方向外側まで延在しており、
前記ビードフィラーの上端のタイヤ径方向高さh1がタイヤ断面高さSHの50%以下であり、前記コード補強層の上端のタイヤ径方向高さh2がタイヤ断面高さSHの20%~55%であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ビードフィラーの上端と前記コード補強層の下端とのタイヤ径方向に沿った離間距離を距離D1とし、前記ビードフィラーの上端と前記コード補強層の上端とのタイヤ径方向に沿った離間距離を距離D2としたとき、これら距離D1およびD2がそれぞれ5mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記カーカス層の巻き上げ端と前記ビードフィラーの上端とのタイヤ径方向に沿った離間距離を距離d1とし、前記カーカス層の巻き上げ端と前記コード補強層の上端とのタイヤ径方向に沿った離間距離を距離d2とし、前記カーカス層の巻き上げ端と前記コード補強層の下端とのタイヤ径方向に沿った離間距離を距離d3としたとき、これら距離d1、d2、およびd3がそれぞれ5mm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記トレッド部のセンター領域における前記カーカス層が1層であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記カーカスコードの1.0cN/dtex負荷時の中間伸度が5.0%以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記カーカスコードの正量繊度が4000dtex以上8000dtex以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
下記式(1)で表される前記カーカスコードの撚り係数Kが2000以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
K=T×D
1/2 ・・・(1)
(式中、Tは前記カーカスコードの上撚り数[回/10cm]であり、Dは前記カーカスコードの総繊度[dtex]である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維コードからなるカーカス層を備えた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、一般的に、一対のビード部間に装架されたカーカス層を備えており、カーカス層は複数本の補強コード(カーカスコード)で構成されている。カーカスコードとしては、主として有機繊維コードが使用される。特に、優れた操縦安定性が要求されるタイヤにおいては、剛性の高いレーヨン繊維コードが用いられることがある(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
一方で、近年、タイヤの軽量化や転がり抵抗の低減に対する要求が高まっており、トレッド部のゴムゲージを薄くすることが検討されている。しかしながら、上述のレーヨン繊維コードからなるカーカス層を備えたタイヤの場合、トレッド部の薄肉化に伴って、耐ショックバースト性が低下することが懸念される。尚、耐ショックバースト性とは、走行中にタイヤが大きなショックを受けて、カーカスが破壊する損傷(ショックバースト)に対する耐久性であり、例えばプランジャーエネルギー試験(トレッド中央部に所定の大きさのプランジャーを押し付けてタイヤが破壊する際の破壊エネルギーを測定する試験)が指標となる。そこで、レーヨン繊維コードを用いた場合と同程度の良好な操縦安定性を確保しながら、耐ショックバースト性を改善するために、所定の物性を備えたポリエステル繊維コードを使用することが検討されている。しかしながら、単純にレーヨン繊維コードの代わりにポリエステル繊維コードを用いると、その物性(例えば発熱性)の違いに起因して、荷重耐久性が十分に確保できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、操縦安定性を良好に維持しながら、耐ショックバースト性および荷重耐久性を向上し、これら性能を高度に両立することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記ビード部の各々に配置されたビードコアと、前記ビードコアのタイヤ径方向外側に配置されたビードフィラーと、前記一対のビード部間に装架された少なくとも1層のカーカス層とを有する空気入りタイヤにおいて、前記カーカス層は、ポリエステル繊維コードからなるカーカスコードで構成され、前記カーカスコードの切断伸度は20%~30%であり、前記カーカス層は、各ビード部に配置された前記ビードコアおよび前記ビードフィラーの廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられて、前記一対のビード部間に位置する本体部と前記ビードコアおよび前記ビードフィラーのタイヤ幅方向外側に巻き上げられた巻き上げ部とからなり、前記巻き上げ部のタイヤ幅方向内側にゴム中に複数本の補強コードが埋設されて構成されたコード補強層が設けられており、前記コード補強層は前記ビードフィラーのタイヤ幅方向外側に隣接し、前記ビードフィラーの上端よりもタイヤ径方向外側まで延在しており、前記ビードフィラーの上端のタイヤ径方向高さh1がタイヤ断面高さSHの50%以下であり、前記コード補強層の上端のタイヤ径方向高さh2がタイヤ断面高さSHの20%~55%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明においては、カーカス層を構成するカーカスコードが、切断伸度が20%~30%のポリエステル繊維コードであるため、レーヨン繊維コードを用いた場合と同程度の良好な操縦安定性を確保しながら、耐ショックバースト性を向上することができる。即ち、カーカスコードが上述の切断伸度を有するため、カーカスコードの剛性を適度に確保することができ、良好な操縦安定性を発揮することができる。また、カーカスコードが上述の切断伸度を有するため、カーカスコードが局所変形に追従しやすくなり、プランジャーエネルギー試験時(プランジャーに押圧された際)の変形を充分に許容することが可能になり、破壊エネルギーを向上することができる。つまり、走行時においてはトレッド部の突起入力に対する破壊耐久性が向上することになるので、耐ショックバースト性を向上することができる。一方で、上述のようにコード補強層を設けているので、レーヨン繊維コードの代わりにポリエステル繊維コードを用いた場合に低減することが懸念される荷重耐久性が維持・向上することができる。特に、コード補強層とビードフィラーとの位置関係(それぞれの端部どうしの位置関係)を上述のように設定しているので、応力集中を抑制して荷重耐久性の更なる向上を図ることができる。これらの協働により、操縦安定性を良好に維持しながら、耐ショックバースト性および荷重耐久性を向上し、これら性能を高度に両立することができる。
【0008】
本発明においては、ビードフィラーの上端とコード補強層の下端とのタイヤ径方向に沿った離間距離を距離D1とし、ビードフィラーの上端とコード補強層の上端とのタイヤ径方向に沿った離間距離を距離D2としたとき、これら距離D1およびD2がそれぞれ5mm以上であることが好ましい。このようにビードフィラーとコード補強層との位置関係を設定することで、応力集中を抑制することができ、荷重耐久性を向上するには有利になる。
【0009】
本発明においては、カーカス層の巻き上げ端とビードフィラーの上端とのタイヤ径方向に沿った離間距離を距離d1とし、カーカス層の巻き上げ端とコード補強層の上端とのタイヤ径方向に沿った離間距離を距離d2とし、カーカス層の巻き上げ端とコード補強層の下端とのタイヤ径方向に沿った離間距離を距離d3としたとき、これら距離d1、d2、およびd3がそれぞれ5mm以上であることが好ましい。このようにカーカス層の巻き上げ端とビードフィラーとコード補強層との位置関係を設定することで、応力集中を抑制することができ、荷重耐久性を向上するには有利になる。
【0010】
本発明においては、トレッド部のセンター領域におけるカーカス層が1層であることが好ましい。これにより、良好な耐ショックバースト性を確保しながら、タイヤ重量を低減し、転がり抵抗を低減することができる。
【0011】
本発明においては、カーカスコードの1.0cN/dtex負荷時の中間伸度が5.0%以下であることが好ましい。これによりカーカスコードの剛性を十分に確保することができ、操縦安定性を向上するには有利になる。
【0012】
本発明においては、カーカスコードの正量繊度が4000dtex以上8000dtex以下であることが好ましい。これによりカーカスコードの剛性を十分に確保することができ、操縦安定性を向上するには有利になる。
【0013】
本発明においては、下記式(1)で表されるカーカスコードの撚り係数Kが2000以上であることが好ましい。これにより、カーカスコードの剛性を十分に確保することができ、操縦安定性を向上するには有利になる。
K=T×D1/2 ・・・(1)
(式中、Tはカーカスコードの上撚り数[回/10cm]であり、Dはカーカスコードの総繊度[dtex]である。)
【0014】
尚、本発明において、「トレッド部のセンター領域」とは、タイヤ赤道を中心とした接地幅の30%の領域である。「接地幅」とは、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で平面上に垂直に置いて正規荷重を加えたときに形成される接地領域の両端(接地端)の間のタイヤ幅方向に沿って測定される長さである。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”であるが、タイヤが乗用車用である場合には前記荷重の88%に相当する荷重とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図2】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
図1において、符号CLはタイヤ赤道を示し、符号Eは接地端を示す。
図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、
図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0018】
左右一対のビード部3間にはタイヤ径方向に延びる複数本の補強コード(後述のカーカスコード)を含むカーカス層4が装架されている。カーカス層4の層数は特に限定されないが、タイヤ重量を低減し、転がり抵抗を低減する観点から、トレッド部1のセンター領域Ce(タイヤ赤道CLを中心とした接地幅Wの30%の領域)においてカーカス層4が1層であることが好ましい。各ビード部3には、ビードコア5が埋設されており、そのビードコア5の外周上に断面略三角形状のビードフィラー6が配置されている。カーカス層4は、ビードコア5の廻りにタイヤ幅方向内側から外側に折り返されている。これにより、ビードコア5およびビードフィラー6はカーカス層4の本体部4a(トレッド部1から各サイドウォール部2を経て各ビード部3に至る部分)と巻き上げ部4b(各ビード部3においてビードコア5の廻りに折り返されて各サイドウォール部2側に向かって延在する部分)とにより包み込まれている。尚、図示の例では、巻き上げ部4bはビードフィラー6のタイヤ径方向外側端から本体部4aに沿って延在し、巻き上げ部4bの端部(以下、「巻き上げ端」という)は後述のベルト層7の端部近傍まで到達している。
【0019】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図示の例では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コード(ベルトコード)を含み、かつ層間でベルトコードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、ベルトコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルトコードとしては、例えばスチールコードが好ましく使用される。
【0020】
更に、ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、ベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する補強コード(カバーコード)を含む。ベルト補強層8において、カバーコードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。ベルト補強層8としては、ベルト層7の幅方向の全域を覆うフルカバー層8aや、ベルト層7のタイヤ幅方向の両端部を局所的に覆う一対のエッジカバー層8bをそれぞれ単独で、またはこれらを組み合わせて設けることができる(図示の例では、フルカバー層8aおよびエッジカバー層8bの両方が設けられている)。ベルト補強層8は、例えば、少なくとも1本のカバーコードを引き揃えてコートゴムで被覆したストリップ材をタイヤ周方向に螺旋状に巻回して構成することができる。カバーコ―ドとしては、例えば有機繊維コードが好ましく使用される。
【0021】
本発明において、カーカス層4を構成するカーカスコードは、ポリエステル繊維のフィラメント束を撚り合わせたポリエステル繊維コードで構成される。このカーカスコード(ポリエステル繊維コード)の切断伸度は20%~30%、好ましくは22%~28%である。このような物性を有するカーカスコード(ポリエステル繊維コード)をカーカス層4に用いているので、従来のレーヨン繊維コードを用いた場合と同程度の良好な操縦安定性を確保しながら、耐ショックバースト性を向上することができる。即ち、カーカスコードが上述の切断伸度を有するため、カーカスコードの剛性を適度に確保することができ、良好な操縦安定性を発揮することができる。また、カーカスコードが上述の切断伸度を有するため、カーカスコードが局所変形に追従しやすくなり、プランジャーエネルギー試験時(プランジャーに押圧された際)の変形を充分に許容することが可能になり、破壊エネルギーを向上することができる。つまり、走行時においてはトレッド部の突起入力に対する破壊耐久性が向上することになるので、耐ショックバースト性を向上することができる。特に、上述のようにトレッド部1のセンター領域Ceにおいてカーカス層4が1層であったとしても、カーカスコードの物性によって良好な耐ショックバースト性を確保することができる。カーカスコードの切断伸度が20%未満であると、切断伸度が低すぎるため、耐ショックバースト性を向上する効果を得ることができない。カーカスコードの切断伸度が30%を超えると、中間伸度も大きくなる傾向があるため、剛性が低下して操縦安定性が低下する虞がある。尚、「切断伸度」は、JIS L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施し、コード切断時に測定される試料コードの伸び率(%)である。
【0022】
カーカスコード(ポリエステル繊維コード)は、上述の物性を有することに加えて、1.0cN/dtex負荷時の中間伸度が好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.0%以下であるとよい。このような物性を有するコードを用いることで、剛性を十分に確保することができるので、操縦安定性を向上するには有利になる。カーカスコードの1.0cN/dtex負荷時の中間伸度が5.0%を超えると、剛性を十分に確保できず操縦安定性を向上する効果が限定的になる虞がある。尚、「1.0cN/dtex負荷時の中間伸度」は、JIS L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施し、1.0cN/dtex負荷時に測定される試料コードの伸び率(%)である。
【0023】
カーカスコード(ポリエステル繊維コード)は、上述の物性を有することに加えて、正量繊度が好ましくは4000dtex以上8000dtex以下、より好ましくは5000dtex以上7000dtex以下であるとよい。このような正量繊度を有するコードを用いることで、剛性を十分に確保することができるので、操縦安定性を向上するには有利になる。カーカスコードの正量繊度が4000dtex未満であると操縦安定性を十分に確保することが難しくなる。カーカスコードの正量繊度が8000dtexを超えると耐ショックバースト性を十分に確保することが難しくなる。
【0024】
カーカスコード(ポリエステル繊維コード)は、上述の物性を有することに加えて、熱収縮率が好ましくは0.5%~2.5%、より好ましくは1.0%~2.0であるとよい。このような熱収縮率を有するコードを用いることで、加硫時に有機繊維コードにキンク(捩じれ、折れ、よれ、形くずれ等)が発生して耐久性が低下することや、ユニフォミティの低下を抑制することができる。カーカスコードの熱収縮率が0.5%未満であると、加硫時にキンクが発生しやすくなり、耐久性を良好に維持することが難しくなる。カーカスコードの熱収縮率が2.5%を超えると、ユニフォミティが悪化する虞がある。尚、「熱収縮率」は、JIS L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、試料長さ500mm、加熱条件150℃×30分の条件にて加熱したときに測定される試料コードの乾熱収縮率(%)である。
【0025】
カーカスコード(ポリエステル繊維コード)は、上述の物性を有することに加えて、下記式(1)で表される撚り係数Kが好ましくは2000以上、より好ましくは2100~2400であるとよい。尚、この撚り係数Kは、ディップ処理後のカーカスコードの数値である。このような撚り係数Kを有するコードを用いることで、剛性を十分に確保することができるので、操縦安定性を向上するには有利になる。また、コード疲労性を良好にすることができ、優れた耐久性を確保することもできる。このとき、カーカスコードの撚り係数Kが2000未満であると、剛性を十分に確保できず操縦安定性を向上する効果が限定的になる虞がある。
K=T×D1/2 ・・・(1)
(式中、Tはカーカスコードの上撚り数[回/10cm]であり、Dはカーカスコードの総繊度[dtex]である。)
【0026】
カーカスコード(ポリエステル繊維コード)を構成する繊維の種類は特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)、ポリエチレンナフタレート繊維(PEN繊維)、ポリブチレンテレフタレート繊維(PBT)、ポリブチレンナフタレート繊維(PBN)を例示することができ、PET繊維を好適に用いることができる。いずれの繊維を用いた場合も、各繊維の物性によって、操縦安定性と耐ショックバースト性とをバランスよく高度に両立するには有利になる。特に、PET繊維の場合は、PET繊維が安価であることから、空気入りタイヤの低コスト化を図ることができる。また、コードを製造する際の作業性を高めることもできる。
【0027】
上述のカーカスコード(ポリエステル繊維コード)は、その物性によって、操縦安定性と耐ショックバースト性とをバランスよく高度に発揮することができるが、従来のレーヨン繊維コードと比較すると荷重耐久性が十分に確保できないことが懸念される。そこで、本発明では、カーカス層4の巻き上げ部4bのタイヤ幅方向内側にコード補強層9を設けている。コード補強層9は、ゴム中に複数本の補強コードが埋設されて構成される。コード補強層9を構成するコードとしては、例えばスチールコードを用いることができる。コード補強層9を構成するコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば5°~45°の範囲に設定することができる。コード補強層9は、図示のようにビードフィラー6のタイヤ幅方向外側に隣接するように設けられ、かつ、ビードフィラー6の上端よりもタイヤ径方向外側まで延在している。このようにコード補強層9を設けているので、サイドウォール部2の剛性を適度に向上することができ、レーヨン繊維コードの代わりに上述のポリエステル繊維コードを用いた場合に低減することが懸念される荷重耐久性を維持・向上することができる。
【0028】
このようにコード補強層9を設けるにあたって、コード補強層9とビードフィラー6との位置関係(それぞれの端部どうしの位置関係)は、応力集中を抑制して荷重耐久性の更なる向上を図る観点から以下のように設定される。
【0029】
ビードフィラー6の上端のタイヤ径方向高さh1は、タイヤ断面高さSHの50%以下、好ましくは15%~45%である。コード補強層9の上端のタイヤ径方向高さh2は、タイヤ断面高さSHの20%~55%、好ましくは25%~50%である。このように設定することで、各タイヤ構成部材の端部における応力集中を抑制して荷重耐久性の更なる向上を図ることができる。ビードフィラー6の上端のタイヤ径方向高さh1がタイヤ断面高さSHの50%を超えると、応力集中を抑制できず、荷重耐久性を確保することが難しくなる。コード補強層9の上端のタイヤ径方向高さh2がタイヤ断面高さSHの20%未満であると、コード補強層9が小さすぎるためコード補強層9による補強効果が十分に得られない。コード補強層9の上端のタイヤ径方向高さh2がタイヤ断面高さSHの55%を超えると、サイドウォール部2が変形しにくくなり、それに伴いトレッド部1が変形しやすくなるため、耐ショックバースト性を確保することが難しくなる。
【0030】
コード補強層9の下端のタイヤ径方向高さh3は、タイヤ断面高さSHの好ましくは5%以上、より好ましくは10%~20%である。コード補強層9のタイヤ径方向長さLは、タイヤ断面高さSHの15%~50%、好ましくは20%~45%である。このように設定することで、コード補強層9による効果的な補強を図ることができ、荷重耐久性を向上するには有利になる。コード補強層9の下端のタイヤ径方向高さh3がタイヤ断面高さSHの5%未満であると、コード補強層9がビードコア5と重複するため、耐荷重耐久性向上の効果が見込めない。コード補強層9のタイヤ径方向長さLがタイヤ断面高さSHの15%未満であると、コード補強層9が小さすぎるためコード補強層9による補強効果が十分に得られない。コード補強層9のタイヤ径方向長さLがタイヤ断面高さSHの50%を超えると、サイドウォール部2が変形しにくくなり、それに伴いトレッド部1が変形しやすくなるため、耐ショックバースト性を確保することが難しくなる。
【0031】
上記のように各部のタイヤ径方向高さh1~h3を、タイヤ断面高さSHに対する割合で定義するにあたって、タイヤ断面高さSHは特に限定されないが、例えば70mm~120であるとよい。また、タイヤの偏平率は例えば25%~50%であるとよい。このようなサイズのタイヤでは、荷重耐久性を確保することが難しいため、上述のコード補強層9によって荷重耐久性を大幅に向上することができる。
【0032】
図2に示すように、ビードフィラー6の上端とコード補強層9の下端とのタイヤ径方向に沿った離間距離を距離D1とし、ビードフィラー6の上端とコード補強層9の上端とのタイヤ径方向に沿った離間距離を距離D2としたとき、距離D1は好ましくは5mm以上、より好ましくは5mm~25mmであるとよく、距離D2は好ましくは5mm以上、より好ましくは5mm~25mmであるとよい。このように設定することで、各タイヤ構成部材の端部における応力集中を抑制することができ、荷重耐久性を向上するには有利になる。距離D1,D2がそれぞれ5mm未満であると、ビードフィラー6の上端とコード補強層9の上端や下端が接近するため、応力集中を十分に抑制することが難しくなる。尚、距離D1と距離D2の和がコード補強層9のタイヤ径方向長さLであるので、コード補強層9のタイヤ径方向長さLは好ましくは10mm以上、より好ましくは10mm~50mmであるとよい。
【0033】
図2に示すように、カーカス層4の巻き上げ端とビードフィラー6の上端とのタイヤ径方向に沿った離間距離を距離d1とし、カーカス層4の巻き上げ端とコード補強層9の上端とのタイヤ径方向に沿った離間距離を距離d2とし、カーカス層4の巻き上げ端とコード補強層9の下端とのタイヤ径方向に沿った離間距離を距離d3としたとき、距離d1は好ましくは5mm以上、より好ましくは10mm~90mmであるとよく、距離d2は好ましくは5mm以上、より好ましくは10mm~90mmであるとよく、距離d3は好ましくは5mm以上、より好ましくは10mm~90mmであるとよい。このように設定することで、各タイヤ構成部材の端部における応力集中を抑制することができ、荷重耐久性を向上するには有利になる。距離d1,d2,およびd3がそれぞれ5mm未満であると、カーカス層4の巻き上げ端がビードフィラー6の上端やコード補強層9の上端および下端に接近するため、応力集中を十分に抑制することが難しくなる。
【0034】
コード補強層9の厚さGは、コード補強層9を構成するコードの線径に応じて設定されるが、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは0.7mm~1.5mmに設定するとよい。これにより、コード補強層9による補強効果を適度に発揮することができ、荷重耐久性を向上するには有利になる。コード補強層9の厚さGが0.5mm未満であると、コード補強層9が薄すぎるため、コード補強層9による補強効果が十分に見込めなくなる。
【0035】
本発明は、上述のカーカスコード(ポリエステル繊維コード)の物性によって、操縦安定性と耐ショックバースト性を向上しながら、コード補強層9によって荷重耐久性を維持・向上するものである。そのため、カーカスコード(ポリエステル繊維コード)に関する上述の物性と、コード補強層9に関する上述の特徴(コード補強層9とビードフィラー6との位置関係など)は適宜組み合わせて採用することができる。いずれの場合も組み合わせて採用した物性や特徴の協働によって、操縦安定性を良好に維持しながら、耐ショックバースト性および荷重耐久性を向上し、これら性能を高度に両立することができる。
【0036】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
タイヤサイズが315/30ZR21(105Y)であり、
図1,2に示す基本構造を有し、カーカス層を構成するカーカスコードの材質(有機繊維の種類)や物性(切断伸度、1.0cN/dtex負荷時の中間伸度、正量繊度、撚り係数K)、タイヤ構造に関してコード補強層の有無、タイヤ断面高さSHに対するビードフィラーの上端のタイヤ径方向高さh1の割合(h1/SH×100%)、タイヤ断面高さSHに対するコード補強層の上端のタイヤ径方向高さh2の割合(h2/SH×100%)、ビードフィラーの上端とコード補強層の下端とのタイヤ径方向に沿った離間距離D1、ビードフィラーの上端とコード補強層の上端とのタイヤ径方向に沿った離間距離D2、カーカス層の巻き上げ端とビードフィラーの上端とのタイヤ径方向に沿った離間距離d1、カーカス層の巻き上げ端とコード補強層の上端とのタイヤ径方向に沿った離間距離d2、カーカス層の巻き上げ端とコード補強層の下端とのタイヤ径方向に沿った離間距離d3を、表1~2のように異ならせた従来例1、比較例1~5、実施例1~12の空気入りタイヤを製作した。
【0038】
表1~2の「有機繊維の種類」の欄については、レーヨン繊維コードを用いた場合を「レーヨン」、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)コードを用いた場合を「PET」、ポリエチレンナフタレート繊維(PEN繊維)コードを用いた場合を「PEN」と表示した。表1~2の離間距離D2の欄について、コード補強層の上端がビードフィラーの上端よりもタイヤ径方向外側に位置する場合を正の値、コード補強層の上端がビードフィラーの上端よりもタイヤ径方向内側に位置する場合を負の値で示した。
【0039】
これら試験タイヤについて、下記の評価方法により、耐ショックバースト性、荷重耐久性、転がり抵抗性能、操縦安定性を評価し、その結果を表1~2に併せて示した。
【0040】
耐ショックバースト性
各試験タイヤを、リムサイズ21×11.5Jのホイールに組み付け、空気圧を220kPaとし、JIS K6302に準拠して、プランジャー径19±1.6mmのプランジャーを負荷速度(プランジャーの押し込み速度)50.0±1.5m/minの条件でトレッド中央部に押し付けるタイヤ破壊試験(プランジャー破壊試験)を行い、タイヤ強度(タイヤの破壊エネルギー)を測定した。評価結果は、従来例1の測定値を100とする指数にて示した。この値が大きいほど破壊エネルギーが大きく、耐ショックバースト性に優れることを意味する。
【0041】
荷重耐久性
各試験タイヤをリムサイズ21×11.5Jのホイールに組み付け、空気圧を220kPaとし、JIS D4230の耐久性能試験に準拠して、室内ドラム試験機(ドラム径:1707mm)を用いて、周辺温度38±3℃、走行速度81km/hの条件で、負荷荷重をJATMA規定の最大荷重の85%から4時間毎に15%ずつ増加させて、タイヤが破壊するまでの走行距離を測定した。尚、負荷荷重がJATMA規定の最大荷重の280%に達した場合は、それを最終荷重として故障するまで走行させた。評価結果は、従来例1の測定値を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど荷重耐久性が優れていることを意味する。
【0042】
低転がり抵抗性
各試験タイヤをリムサイズ21×11.5Jのホイールに組み付け、半径854mmのドラムを備えた転がり抵抗試験機に装着し、初期温度5℃、空気圧250kPa、負荷荷重5.80kN、速度80km/hの条件にて、30分間の予備走行後に転がり抵抗を測定した。評価結果は、従来例1の測定値を100とする指数で示した。この指数値が小さいほど転がり抵抗が小さく低転がり抵抗性に優れることを意味する。
【0043】
操縦安定性
各試験タイヤをリムサイズ21×11.5Jのホイールに組み付けて、空気圧を240kPaとして試験車両(3Lクラスの欧州車(セダン))に装着し、平坦な周回路を有する乾燥路面からなるテストコースにて、60km/h以上100km/h以下の速度で走行し、操縦安定性(テストドライバーがレーンチェンジおよびコーナリングを行う際の操舵性と、直進時における安定性)について官能評価を行った。評価結果は、従来例1を100とする指数で示した。この指数が大きいほど操縦安定性に優れることを意味する。
【0044】
【0045】
【0046】
表1~2から判るように、実施例1~12のタイヤは、従来例1との対比において、操縦安定性および低転がり抵抗性を良好に維持または改善しながら、耐ショックバースト性と荷重耐久性を向上した。一方、比較例1は、カーカスコードの切断伸度が小さいため、耐ショックバースト性が低下した。比較例2は、カーカスコードの切断伸度が大きいため、操縦安定性を向上する効果が得られなかった。比較例3は、タイヤ断面高さSHに対するビードフィラーの上端のタイヤ径方向高さh1の割合(h1/SH×100%)が大きいため、荷重耐久性が低下した。比較例4は、タイヤ断面高さSHに対するコード補強層の上端のタイヤ径方向高さh2の割合(h2/SH×100%)が小さいため、荷重耐久性が低下した。比較例5は、タイヤ断面高さSHに対するコード補強層の上端のタイヤ径方向高さh2の割合(h2/SH×100%)が大きいため、耐ショックバースト性が低下した。
【符号の説明】
【0047】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルト補強層
9 コード補強層
CL タイヤ赤道
E 接地端