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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】絶縁油の入替方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/14 20060101AFI20240522BHJP
【FI】
H01F27/14 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022021418
(22)【出願日】2022-02-15
(65)【公開番号】P2023118459
(43)【公開日】2023-08-25
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000141015
【氏名又は名称】株式会社かんでんエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】西川 精一
(72)【発明者】
【氏名】山中 功
(72)【発明者】
【氏名】久住 政喜
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-256306(JP,A)
【文献】特開2020-194829(JP,A)
【文献】特開2008-112323(JP,A)
【文献】特開平07-006922(JP,A)
【文献】特開昭58-048303(JP,A)
【文献】特開昭61-174705(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0990648(KR,B1)
【文献】中国特許出願公開第111308053(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112712969(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/12-27/14
H01B 3/20-3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油入電気機器に充填されている絶縁油aを外部に排出する抜油工程、
前記油入電気機器に、引火点が250℃以上の絶縁油bを充填する充填工程、
前記絶縁油bが充填されている前記油入電気機器を構成する内壁及び内部部材に付着又は浸透している絶縁油aを課電又は無課電下で絶縁油bに溶出させる際に、絶縁油bに溶出した絶縁油aの含有率を下記式(1)に基づき経時的に算出し、前記含有率が、7%未満で平衡状態になることを確認し、絶縁油aを含む絶縁油bの引火点が250℃以上であることを推定する確認工程、
を含み、
前記絶縁油bが、消防法に規定される指定可燃物(可燃性液体類)に含まれる、植物油又はシリコーン油である、絶縁油の入替方法。
【数1】
【請求項2】
前記確認工程において前記平衡状態にならない場合又は前記平衡状態になった後、前記油入電気機器に充填された絶縁油bの少なくとも一部を外部に排出し、排出した量に応じた量の絶縁油bを新たに充填した後、課電又は無課電下で絶縁油bに溶出した絶縁油aの含有率を前記式(1)に基づき経時的に算出し、前記含有率が、7%未満で平衡状態になることを確認する追加の確認工程を少なくとも1回さらに含む、請求項1記載の絶縁油の入替方法。
【請求項3】
油入電気機器に充填されている絶縁油aを外部に排出する抜油工程、
前記油入電気機器に、燃焼点が300℃以上の絶縁油bを充填する充填工程、
前記絶縁油bが充填されている前記油入電気機器を構成する内壁及び内部部材に付着又は浸透している絶縁油aを課電又は無課電下で絶縁油bに溶出させる際に、絶縁油bに溶出した絶縁油aの含有率を下記式(1)に基づき経時的に算出し、前記含有率が、12%未満で平衡状態になることを確認し、絶縁油aを含む絶縁油bの燃焼点が300℃以上であることを推定する確認工程、
を含み、
前記絶縁油bが、消防法に規定される指定可燃物(可燃性液体類)に含まれる、植物油又はシリコーン油である、絶縁油の入替方法。
【数2】
【請求項4】
前記確認工程において前記平衡状態にならない場合又は前記平衡状態になった後、前記油入電気機器に充填された絶縁油bの少なくとも一部を外部に排出し、排出した量に応じた量の絶縁油bを新たに充填した後、課電又は無課電下で絶縁油bに溶出した絶縁油aの含有率を前記式(1)に基づき経時的に算出し、前記含有率が、12%未満で平衡状態になることを確認する追加の確認工程を少なくとも1回さらに含む、請求項3記載の絶縁油の入替方法。
【請求項5】
前記確認工程又は前記追加の確認工程において、1日当たりの前記含有率の変化の大きさが0.1%以下であることで平衡状態になっていることを確認する、請求項1~4の何れか一項に記載の絶縁油の入替方法。
【請求項6】
前記絶縁油aが消防法に規定される危険物第4類である、請求項1~の何れか一項に記載の絶縁油の入替方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁油の入替方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油入電気機器に充填されている絶縁油としては、鉱油などが広く使用されている。しかし、このような絶縁油は、引火点が250℃未満又は燃焼点が300℃未満であり、可燃性であることから、従来、難燃化や不燃化の取り組みが行われてきた(特許文献1)。近年では、環境対応の一環として、鉱油に替えて植物油を油入電気機器の絶縁油として使用する取り組みが行われているが、植物油は一般に鉱油よりも引火点及び燃焼点が高く、植物油を絶縁油に適用することによりその難燃化を図ることができると期待されている。
【0003】
このように、例えば鉱油などの可燃性の絶縁油からより難燃化が可能な絶縁油への切り替えを行う場合、油入電気機器自体を取り換える方法以外に、既存の油入電気機器の絶縁油を入れ替える方法が考えらえる。後者の方法の場合は、既存設備を有効に活用することができるため、廃棄物の抑制等の環境負荷の低減の観点で有効な方法であると考えられる。しかし、この方法では、絶縁油を入れ替えた後に油入電気機器を稼働させると、油入電気機器を構成する内壁及び内部部材に付着又は浸透していた入れ替え前の絶縁油が、入れ替え後の絶縁油に溶出するため、入れ替え後の絶縁油の特性が低下することがある。
【0004】
特許文献1には、油入電気電器に含まれる絶縁媒体として、パークレン系絶縁油に体積比15~30%の鉱油系絶縁油を含む混合絶縁油が記載されており、この混合絶縁油により、鉱油系絶縁油を絶縁媒体とする油入電気電器の絶縁媒体をパークレン系絶縁油に入れ替えて不燃化しようとする場合、数%程度の残留鉱油系絶縁油が混じることによってパークレン系絶縁油の耐電圧性能が低下するという問題点を解消することができることが記載されている。
【0005】
また、絶縁油の難燃化や不燃化とは関係はないが、特許文献2には、PCBで汚染された変圧器の浄化方法として、PCBを含有する絶縁油が封入された変圧器にPCBを含有していない絶縁油(新油)を注入して循環させて、変圧器の内壁及び内部部材に付着あるいは浸透したPCBを新油に溶出させ、PCBを変圧器から除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭62-256306号公報
【文献】特開2009-260283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、油入電気機器内に封入されている元の絶縁油を他の絶縁油に入れ替える場合、入れ替えた後の他の絶縁油に元の絶縁油が溶出すること、また、元の絶縁油が入れ替えた後の他の絶縁油に溶出することで、その特性に影響を与え得ることは知られている。しかしながら、溶出した元の絶縁油が、入れ替えた後の他の絶縁油の引火点や燃焼点にどのように影響するかについて着目した検討は未だなされていない。
【0008】
引火点が250℃未満である絶縁油は、消防法に規定される危険物第4類に該当し、取り扱いに留意しなければならず、また、消防法に規定される所定の手続きを行う必要がある。その一方、引火点が250℃以上である場合は、消防法に規定される「危険物」ではなく「指定可燃物(可燃性液体類)」となり、「危険物」に要求されるような取り扱い上の留意点はなく、所定の手続も行う必要がなくなる。また、消防法では規定されていないが、難燃性の基準として、燃焼点が300℃以上であることが要求されることもある。そのため、入れ替えた絶縁油に元の絶縁油が溶出することで、引火点が250℃未満、燃焼点が300℃未満になると、絶縁油の難燃化を実現できないことになり、消防法上の規制の対象ともなる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、油入電気絶縁に充填されている元の絶縁油を、引火点が250℃以上又は燃焼点が300℃以上の絶縁油に入れ替える際に、入れ替えた後の絶縁油の引火点が250℃以上又は燃焼点が300℃以上となるようにすることが可能な絶縁油の入替方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前述の課題解決のため、鋭意検討を行った。その結果、入れ替え後の絶縁油に溶出する元の絶縁油の含有率の経時変化に着目し、これを経時的に特定の計算式で算出した値が、特定の数値範囲で平衡状態になる場合に、入れ替え後の絶縁油の引火点が250℃以上又は燃焼点が300℃以上となることが推定できることを見出した。本発明の要旨は以下のとおりである。
【0011】
(1)油入電気機器に充填されている絶縁油aを外部に排出する抜油工程、
前記油入電気機器に、引火点が250℃以上又は燃焼点が300℃以上の絶縁油bを充填する充填工程、
前記絶縁油bが充填されている前記油入電気機器を構成する内壁及び内部部材に付着又は浸透している絶縁油aを課電又は無課電下で絶縁油bに溶出させる際に、絶縁油bに溶出した絶縁油aの含有率を下記式(1)に基づき経時的に算出し、前記含有率が、引火点が250℃以上の絶縁油bでは7%未満、燃焼点が300℃以上の絶縁油bでは12%未満で平衡状態になることを確認し、絶縁油aを含む絶縁油bの引火点が250℃以上又は燃焼点が300℃以上であることを推定する確認工程、
を含む、絶縁油の入替方法。
【0012】
【数1】
【0013】
(2)前記確認工程において前記平衡状態にならない場合又は前記平衡状態になった後、前記油入電気機器に充填された絶縁油bの少なくとも一部を外部に排出し、排出した量に応じた量の絶縁油bを新たに充填した後、課電又は無課電下で絶縁油bに溶出した絶縁油aの含有率を前記式(1)に基づき経時的に算出し、前記含有率が、引火点が250℃以上の絶縁油bでは、7%未満、燃焼点が300℃以上の絶縁油bでは、12%未満で平衡状態になることを確認する追加の確認工程を少なくとも1回さらに含む、前記項(1)記載の絶縁油の入替方法。
(3)前記確認工程又は前記追加の確認工程において、1日当たりの前記含有率の変化の大きさが0.1%以下であることで平衡状態になっていることを確認する、前記項(1)又は(2)に記載の絶縁油の入替方法。
(4)前記絶縁油bが消防法に規定される指定可燃物(可燃性液体類)である、前記項(1)~(3)の何れか一項に記載の絶縁油の入替方法。
(5)前記絶縁油aが消防法に規定される危険物第4類である、前記項(1)~(4)の何れか一項に記載の絶縁油の入替方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、油入電気機器に充填されている元の絶縁油を、引火点が250℃以上又は燃焼点が300℃以上の絶縁油に入れ替える際に、入れ替えた後の絶縁油の引火点が250℃以上又は燃焼点が300℃以上となるようにすることが可能な絶縁油の入替方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)絶縁油bに溶出する絶縁油aの含有率と、絶縁油aを含む絶縁油bの引火点との関係を示した図である。(b)図1(a)において絶縁油aの含有率が0~10%の部分の拡大図である。
図2】(a)絶縁油bに溶出する絶縁油aの含有率と、絶縁油aを含む絶縁油bの燃焼点との関係を示した図である。(b)図1(a)において絶縁油aの含有率が0~25%の部分の拡大図である。
図3】実施例1の確認工程における絶縁油b(植物油)中の絶縁油a(鉱油)含有率の経時変化を示した図である。
図4】実施例1の追加の確認工程における絶縁油b(植物油)中の絶縁油a(鉱油)含有率の経時変化を示した図である。
図5】実施例2の確認工程における絶縁油b(植物油)中の絶縁油a(鉱油)含有率の経時変化を示した図である。
図6】実施例2の追加の確認工程における絶縁油b(植物油)中の絶縁油a(鉱油)含有率の経時変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施例に係る絶縁油の入替方法は、以下の(a)~(c)の工程を含む。
(a)油入電気機器に充填されている絶縁油aを外部に排出する抜油工程、
(b)前記油入電気機器に、引火点が250℃以上又は燃焼点が300℃以上の絶縁油bを充填する充填工程、
(c)前記絶縁油bが充填されている前記油入電気機器を構成する内壁及び内部部材に付着又は浸透している絶縁油aを課電又は無課電下で絶縁油bに溶出させる際に、絶縁油bに溶出した絶縁油aの含有率を下記式(1)に基づき経時的に算出し、前記含有率が、引火点が250℃以上の絶縁油bでは7%未満、燃焼点が300℃以上の絶縁油bでは12%未満で平衡状態になることを確認し、絶縁油aを含む絶縁油bの引火点が250℃以上又は燃焼点が300℃以上であることを推定する確認工程。
【0017】
ここで、前述の(c)の工程において、入れ替えた絶縁油bに溶出した絶縁油aの含有率が、所定の範囲で平衡状態になるとは、1日当たりの前記含有率の変化の大きさが0.1%以下、好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.01%以下であることを意味する。1日当たりの含有率の変化の大きさは、下記式(2)により算出することができる。
【0018】
【数2】
【0019】
但し、式(2)中、y-x≧1日である。
【0020】
また、絶縁油aの含有率がこのような平衡状態になることで、引火点及び燃焼点が所定の閾値以上となることは、以下の検証実験を行うことにより、本発明者により初めて見出されたものである。
【0021】
先ず、使用済みの絶縁油を模擬した劣化絶縁油(酸価:0.3mgKOH/g)(元油と称する。絶縁油aに対応する。)を作製し、入れ替え用の絶縁油(例として、植物油(株式会社かんでんエンジニアリング製、サンオームECO、密度:921.0kg/m、引火点:330℃、燃焼点:360℃)を使用)(新油と称する。絶縁油bに対応する。)を用い、元油の含有率を変化させた元油と新油の混合油を調製し、それぞれの引火点と燃焼点を後述する方法で測定し、引火点又は燃焼点と元油の含有率の関係を求めた。結果を図1、2に示す。図1は引火点と元油の含有率の関係、図2は燃焼点と元油の含有率の関係を示したものである。図1(a)は元油の含有率が0~100%の範囲の関係を示したものであり、図1(b)は、図1(a)において元油の含有率が0~10%の範囲を拡大した図である。図2(a)は元油の含有率が0~100%の範囲の関係を示したものであり、図2(b)は、図2(a)において元油の含有率が0~25%の範囲を拡大した図である。図1から分かるように、元油(絶縁油a)の含有率が7%において引火点が250℃であり(図1(b)の「■」のマーカー参照)、含有率が7%を超えると、引火点が250℃より低くなる。図2から分かるように、元油(絶縁油a)の含有率が12%において燃焼点が300℃であり(図2(b)の「●」のマーカー参照)、含有率が12%を超えると、燃焼点が300℃より低くなる。
【0022】
このようにして、元油(絶縁油a)と新油(絶縁油b)の混合油中の元油の含有率を把握することで、当該混合油の引火点及び燃焼点の推定が可能であることが明らかになった。その結果、絶縁油aの含有率を把握することだけで、絶縁油bの引火点又は燃焼点を所望の範囲に調整することが行なえることが明らかとなった。以下、前述の各工程について説明する。
【0023】
前述の絶縁油の入替方法を適用可能な油入電気機器としては、絶縁油、絶縁油が充填され、その絶縁油と接する内壁及び内部部材を含む電気機器であれば特に限定はない。例えば、絶縁油及び内部部材を密封状態で収容可能な容器を有するものが挙げられ、具体的には、変圧器、リアクトル、変成器、遮断器等が挙げられる。
【0024】
油入電気機器に充填されている絶縁油aは、難燃性又は不燃性の観点等で入れ替え対象となる絶縁油であり、例えば、消防法に規定される危険物第4類の第3石油類、第4石油類、動植物油類の何れかに属し、JIS、ASTM、IEC等の各種絶縁油規格を満たすものが挙げられる。また、このような危険物第4類で各種絶縁油規格を満たすものとしては、例えば、鉱油、アルキルベンゼン(アルキルベンゼンの混合物を含む)、パーム油等が挙げられる。尚、絶縁油aには、各種の添加剤が含まれていてもよい。
【0025】
(a)の工程において、油入電気機器に充填されている絶縁油aを外部に排出する方法としては、特に限定はなく、油入電気機器の大きさ、構造などに応じて適宜決定することができる。例えば、油入電気機器の下部にドレンバルブが設けられている場合はドレンバルブから排出する等の従来公知の方法を採用することができる。尚、この際、後述する式(1)中の「入替前絶縁油a密度」を測定するためのサンプルを所定量採取しておく必要がある。この密度の測定は、採取後直ちに行うのが好ましい。密度の測定は、例えば、後述する実施例で示した方法により行うことができる。
【0026】
(a)の工程では、絶縁油aを排出した後、残存する絶縁油a、汚染物質等を低減するため、例えば油入電気機器に充填する絶縁油全量に対して5~10質量%の量の絶縁油bを用いて油入電気機器内部を洗浄することができる。洗浄後は、絶縁油bを外部に排出する。また、油入電気機器を構成する部材のうち、交換が推奨される部材については交換するのが望ましい。
【0027】
(b)の工程において、入れ替える絶縁油bは、引火点が250℃以上又は燃焼点が300℃以上である(以下、これらの下限値を「閾値」と称する場合がある。)。このような絶縁油bのうち、引火点が250℃以上のものとしては、例えば、消防法に規定される指定可燃物の可燃性液体類が挙げられ、具体的には、菜種油、大豆油、ひまわり油、サフラワー油(ベニバナ油)及びこれらの混合油、シリコーン油等が挙げられる。燃焼点が300℃以上のものとしてもこれらと同様である。尚、絶縁油bには、各種の添加剤が含まれていてもよい。引火点は、JIS K 2265に準拠して測定することができる。燃焼点は、JIS K 2265に準拠して測定することができる。これらのうち、消防法に規定される指定可燃物の可燃性液体類に含まれる植物油、例えば、菜種油、大豆油、ひまわり油、サフラワー油(ベニバナ油)及びこれらの混合油が好ましい。このような植物油は、カーボンニュートラルで生分解性であり環境負荷が小さく、引火点が一般に300℃以上と高いため火災予防の向上が可能であり、例えば油入電気機器の内部部材である絶縁紙の劣化抑制による長寿命化などの効果も期待できる。
【0028】
(b)の工程においては、油入電気機器に必要量の絶縁油bを充填した後、必要に応じて、油入電気機器の密閉性の確認、油中水分上昇の抑制、酸化劣化の抑制の観点から、乾燥空気又は窒素ガスを充填し、ヘッドスペースの圧力を、13~20kPaとすることができる。
【0029】
(c)の工程においては、絶縁油bが充填され、密閉状態の油入電気機器を課電又は無課電の状態で静置し、油入電気機器内の絶縁油bを定期的に採取してサンプルを取得し、このサンプルの密度を測定する。この密度を式(1)中の「経時後絶縁油b密度」とする。そして、式(1)に基づき、絶縁油bに溶出した絶縁油aの含有率を算出し、「絶縁油a含有率」の経時変化を求める。この経時変化において、入替前の絶縁油bの引火点、燃焼点に応じて、絶縁油aの含有率が所定の範囲で平衡状態になることを確認し、入替後の絶縁油bが所望の閾値以上の引火点又は燃焼点となっていることを推定する。この時点で、所望の閾値以上の引火点又は燃焼点となっている場合は、その後継続して使用した後も絶縁油b中の絶縁油aの含有率は増加せず、継続して所望の引火点又は燃焼点を有することになると推定することができる。その結果、油入電気機器内に充填されている絶縁油bは、引火点が所定の閾値以下である場合は消防法に規定される指定可燃物(可燃性液体類)として扱われ、また、燃焼点が所定の閾値以下である場合は、例えば、燃焼点が難燃性の基準となっている国、地域等において難燃性の液体類として扱われるため、継続使用することで閾値を超え、絶縁油の扱いを変更しなければならなくなる事態を回避することができる。したがって、このような平衡状態になったことを確認できれば、油入電気機器の元の場所に設置して稼働させることができる。
【0030】
(c)の工程の後、必要に応じて、追加の確認工程として(d)の工程を行うことができる。このような(d)の工程を行うのは、例えば、(c)の工程において、(i)前述の平衡状態にならない場合、(ii)前述の平衡状態にはなったものの、所定の数値範囲の上限に近く、継続して使用することで、引火点又は燃焼点が所定の閾値未満になることが懸念される等の場合である。(i)の場合は、必ず行う必要があるが、(ii)の場合は必要に応じて行うことができる。尚、(d)の工程において、絶縁油bの入れ替えは、全量入れ替えてもよいし、一部を入れ替えてもよい。
【0031】
また、充填されている絶縁油bの全量を新たな絶縁油bに入れ替える場合は、前述の(a)及び(b)の工程を行うことができる。但し、(a)の工程において、前述の洗浄や部品の交換は必要に応じて行うことができる。一部を入れ替える場合は、(a)の工程において、前述の洗浄を行う必要はなく、部品の交換は絶縁油bが残存じた状態で可能な場合は必要に応じて行うことができる。
【0032】
その後、前述の(c)の工程を行って、前述の平衡状態になっていること、また、絶縁油aの含有率が、最初に行った(c)の工程後の値より低くなっていることを確認する。そして、前述の平衡状態になっていない場合は、前述の平衡状態になっていることが確認できるまで、追加の確認工程を繰り返すことができる。尚、この場合も、式(1)における「入替前絶縁油b密度」及び「入替前絶縁油a密度は」は、前述の(c)の工程における値を用いる。
【0033】
以上のようにして、絶縁油aの含有率が、所定の平衡状態になるように絶縁油aを絶縁油bに入れ替えることで、入れ替え後の絶縁油の引火点又は燃焼点を所定の閾値以上となるようにすることができる。
【実施例
【0034】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態に係る絶縁油の入替方法について説明する。
【0035】
(密度の測定)
絶縁油の密度の測定は、JIS C 2101の8(密度試験)に準拠して行った。
【0036】
(引火点の測定)
絶縁油の引火点の測定は、JIS K 2265(原油及び石油製品-引火点試験方法)に準拠して行った。
【0037】
(燃焼点の測定)
絶縁油の燃焼点の測定は、JIS K 2265(原油及び石油製品-引火点試験方法)に準拠して行った。
【0038】
(実施例1)
24年間使用した後の変圧器(鉱油封入、自冷、単相、30kVA、50Hz)を用い、封入されていた絶縁油aである鉱油を、未使用の絶縁油bである植物油(株式会社かんでんエンジニアリング製、サンオームECO、密度:921.1kg/m、引火点:330℃、燃焼点:360℃)に入れ替える作業を以下のようにして行った。
(a)鉱油の密度測定のためにサンプルを採取した後、定法に従って鉱油を変圧器タンクから排出した(抜油工程-1)。その後、サンプルの密度、引火点、燃焼点を測定した。
(b)新しい植物油を用いて、変圧器タンク内を洗浄した後、一般に推奨される変圧器内の内部部品を交換した(抜油工程-2)。
(c)その後、無課電下で静置し、所定期間経過後に入れ替えた植物油を採取し、その密度を測定し、式(1)に従って、植物油密度の経時変化を測定し、植物油中の鉱油含有率の経時変化を求めた(確認工程)。結果を図3に示す。尚、式(1)中の「入替前絶縁油b密度」は、新しい植物油の密度921.0kg/mであり、「入替前絶縁油a密度」は、(a)の工程で測定したサンプルの密度888.0kg/mであり、「経時後絶縁油b密度」が、経時的に測定した各植物油の密度である。
図3に示すように、植物油中の鉱油含有率は、入替後42~56日経過した時点において4%程度で平衡状態にあった。また、入替後118日経過した時の絶縁油の鉱油含有率は4.0%であり、この時の絶縁油の引火点の実測値は、270℃、燃焼点の実測値は、320℃であった。このように、絶縁油の実際の引火点及び燃焼点は、絶縁油の鉱油含有率の値から推定される引火点及び燃焼点の閾値より大きい値であった。
(d)平衡状態における鉱油含有率が4%程度であり、(推定)引火点及び(推定)燃焼点は、所定の範囲を満たしているが、閾値よりもさらに引火点及び燃焼点を高くすることを目的に、前述の(a)、(b)の工程を行って、再度、前述の未使用の植物油を用いて絶縁油の入れ替え作業を行った。その後、(c)の工程と同様にして、入れ替えた植物油の密度の経時変化を測定し、植物油中の鉱油含有率の経時変化を求めた(以上、再度の確認工程)。結果を図4に示す。
【0039】
(実施例2)
15年間使用した後の変圧器(鉱油封入、自冷、三相、20kVA、50Hz)を用いた以外は、実施例1の(a)~(c)の工程と同様にして、植物油密度の経時変化を測定した。結果を図5に示す。尚、(a)の工程で採取したサンプルの密度は882.4kg/mであった。
図5に示すように、植物油中の鉱油含有率は、入替後56~63日経過した時点において5~6%程度で平衡状態にあった。また、入替後100日経過した時の絶縁油の鉱油含有率は5.6%であり、この時の絶縁油の引火点の実測値は、280℃、燃焼点の実測値は、320℃であった。このように、絶縁油の実際の引火点及び燃焼点は、絶縁油の鉱油含有率の値から推定される引火点及び燃焼点の閾値より大きい値であった。
次いで、実施例1と同様に、前述の(a)~(c)と同様の工程を行って、再度、前述の未使用の植物油を用いて絶縁油の入れ替え作業を行った後、前述の(d)の工程と同様にして、入れ替えた植物油の密度の経時変化を測定した。結果を図6に示す。
【0040】
図3~6に示すように、式(1)に従って算出される鉱油含有率が所定の範囲で平衡状態であることで、その絶縁油の引火点及び燃焼点が所定の範囲となることが推定可能であることが分かる。また、入れ替え作業を再度行うことで、鉱油含有率をより低下させ、引火点及び燃焼点を閾値に対してより高くすることができることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6