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特許7492186電気化学デバイス用合剤、電気化学デバイス用合剤シート、電極、及び、電気化学デバイス
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  • 特許-電気化学デバイス用合剤、電気化学デバイス用合剤シート、電極、及び、電気化学デバイス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】電気化学デバイス用合剤、電気化学デバイス用合剤シート、電極、及び、電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1391 20100101AFI20240522BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20240522BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240522BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240522BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240522BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240522BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20240522BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20240522BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20240522BHJP
   C08F 259/08 20060101ALI20240522BHJP
   C08F 261/06 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
H01M4/1391
H01M4/131
H01M4/525
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0562
H01G11/06
H01G11/38
C08F2/44
C08F259/08
C08F261/06
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2024005986
(22)【出願日】2024-01-18
【審査請求日】2024-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2023006089
(32)【優先日】2023-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023006115
(32)【優先日】2023-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】西村 賢汰
(72)【発明者】
【氏名】加藤 丈人
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】永井 翔太
(72)【発明者】
【氏名】井上 僚
(72)【発明者】
【氏名】寺田 純平
(72)【発明者】
【氏名】山中 拓
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/054540(WO,A1)
【文献】特開2022-036069(JP,A)
【文献】特開2018-005971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
H01G 11/00-11/86
C08F 2/44
C08F 259/08
C08F 261/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質及び/又は固体電解質と、バインダーとを含有する電気化学デバイス用合剤であって、
前記バインダーは、テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物を含み、
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、テトラフルオロエチレン系ポリマー、及び、イオン性基を有する高分子化合物を含み、
前記バインダーの含有量が、前記電気化学デバイス用合剤に対し、0.3質量%以上、8質量%以下である電気化学デバイス用合剤。
【請求項2】
前記イオン性基は、-SO、-PO及び-COOM(式中、Mは、-H、金属原子、-NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基である。)からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項3】
前記イオン性基は、-SO及び-COOM(式中、Mは、-H又はアルカリ金属原子である。)からなる群より選択される少なくとも1種である請求項2に記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項4】
前記イオン性基の含有量が、前記高分子化合物に対し、0.8meq/g以上である請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項5】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー及び前記高分子化合物の合計量が、前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物に対し、99.95質量%以上である請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項6】
前記高分子化合物の含有量が、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーに対し、0.08質量%以上、1.0質量%以下である請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項7】
前記高分子化合物が有する炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子に置換された割合が50%以上である請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項8】
前記高分子化合物のイオン交換率が53以下である請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項9】
前記高分子化合物は、水溶性高分子化合物である請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項10】
前記高分子化合物は、下記一般式(I)で表される単量体に基づく重合単位(I)を含む重合体(I)、及び、下記一般式(II)で表される化合物(II)からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤。
一般式(I):
CX=CXR(-CZ-A (I)
(式中、X及びXは、それぞれ独立して、F、Cl、H又はCFであり;Aは、アニオン性基であり;Xは、H、F、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり;Rは連結基であり;Z及びZは、それぞれ独立して、H、F、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり;mは1以上の整数である。)
一般式(II):
-X-RFA1-RFA2-X-T’ (II)
(式中、
FA1は、-Rf -R-O-であり、
FA2は、-Rf -RFX-O-であり、
は、2価のフルオロポリエーテル基であり、
FXは、アニオン性基を含む2価のフルオロポリエーテル基であり、
Rf及びRfは、それぞれ独立して、1個又はそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1-6アルキレン基であり、
pは、それぞれ独立して、0又は1であり、
qは、それぞれ独立して、0又は1であり、
は、それぞれ独立して、単結合又は2~10価の基であり、
及びT’は、それぞれ独立して、(i)H、O及びClの1種又は複数種を含んでもよく、前記アニオン性基を持たないC~C24(ヒドロ)(フルオロ)炭素基、及び、(ii)少なくとも1個の前記アニオン性基を含むC~C24(ヒドロ)(フルオロ)炭素基からなる群から選択される。)
【請求項11】
前記高分子化合物は、前記重合体(I)であり、前記一般式(I)中のX及びXは、それぞれ独立して、F又はHであり;Aは、-SO又は-COOM(式中、Mは、-H又はアルカリ金属原子)であり;Xは、Fであり;Rは、エーテル結合を含む炭素数1~4のフッ素化アルキレン基であり;Z及びZは、それぞれ独立して、F又はCFであり;mは、1である請求項10に記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項12】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーは、ポリテトラフルオロエチレンである請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項13】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーは、テトラフルオロエチレン単位、及び、テトラフルオロエチレンと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含む請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項14】
前記バインダーは、フィブリル径(中央値)が100nm以下の繊維状構造を有する請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項15】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物の標準比重が2.280以下である請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項16】
前記固体電解質は、硫化物系固体電解質又は酸化物系固体電解質である請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項17】
前記電極活物質は、リチウム・ニッケル系複合酸化物である請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項18】
自立膜である請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項19】
厚みが300μm以下である請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項20】
二次電池用である請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項21】
リチウムイオン二次電池用である請求項20に記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項22】
固体二次電池用である請求項20に記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項23】
キャパシタ用である請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤。
【請求項24】
請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤を含む電気化学デバイス用合剤シート。
【請求項25】
請求項24に記載の電気化学デバイス用合剤シートを含む電極。
【請求項26】
請求項25に記載の電極を備える電気化学デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学デバイス用合剤、電気化学デバイス用合剤シート、電極、及び、電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、高電圧、高エネルギー密度で、自己放電が少ない、メモリー効果が少ない、超軽量化が可能である、等の理由から、ノート型パソコン、携帯電話、スマートフォン、タブレットパソコン、ウルトラブック等小型で携帯に適した電気・電子機器等に用いられるとともに、更には、自動車用等の駆動用車載電源や定置用大型電源等に至るまでの広範な電源として実用化されつつある。二次電池には、更なる高エネルギー密度化が求められており、電池特性の更なる改善が求められている。
【0003】
特許文献1には、カソード及びアノードのうち少なくとも一方が、ポリテトラフルオロエチレン混合バインダー材を含むエネルギー貯蔵装置が記載されている。
【0004】
特許文献2~6には、ポリテトラフルオロエチレンを電池のバインダーとして使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2017-517862号公報
【文献】国際公開第2021/181887号
【文献】国際公開第2021/181888号
【文献】国際公開第2021/192541号
【文献】国際公開第2022/138942号
【文献】国際公開第2022/138939号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、バインダー量が少ないにもかかわらず、強度及び柔軟性に優れる合剤シートを得ることができる電気化学デバイス用合剤、並びに、それを用いた電気化学デバイス用合剤シート、電極、及び、電気化学デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示(1)は電極活物質及び/又は固体電解質と、バインダーとを含有する電気化学デバイス用合剤であって、
前記バインダーは、テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物を含み、
前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、テトラフルオロエチレン系ポリマー、及び、イオン性基を有する高分子化合物を含み、
前記バインダーの含有量が、前記電気化学デバイス用合剤に対し、0.3質量%以上、8質量%以下である電気化学デバイス用合剤である。
【0008】
本開示(2)は前記イオン性基は、-SO、-PO及び-COOM(式中、Mは、-H、金属原子、-NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基である。)からなる群より選択される少なくとも1種である本発明(1)に記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0009】
本開示(3)は前記イオン性基は、-SO及び-COOM(式中、Mは、-H又はアルカリ金属原子である。)からなる群より選択される少なくとも1種である本発明(2)に記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0010】
本開示(4)は前記イオン性基の含有量が、前記高分子化合物に対し、0.8meq/g以上である本発明(1)~(3)のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0011】
本開示(5)は前記テトラフルオロエチレン系ポリマー及び前記高分子化合物の合計量が、前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物に対し、99.95質量%以上である本発明(1)~(4)のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0012】
本開示(6)は前記高分子化合物の含有量が、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーに対し、0.08質量%以上、1.0質量%以下である本発明(1)~(5)のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0013】
本開示(7)は前記高分子化合物が有する炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子に置換された割合が50%以上である本発明(1)~(6)のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0014】
本開示(8)は前記高分子化合物のイオン交換率が53以下である本発明(1)~(7)のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0015】
本開示(9)は前記高分子化合物は、水溶性高分子化合物である本発明(1)~(8)のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0016】
本開示(10)は前記高分子化合物は、下記一般式(I)で表される単量体に基づく重合単位(I)を含む重合体(I)、及び、下記一般式(II)で表される化合物(II)からなる群より選択される少なくとも1種である本発明(1)~(9)のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤である。
一般式(I):
CX=CXR(-CZ-A (I)
(式中、X及びXは、それぞれ独立して、F、Cl、H又はCFであり;Aは、アニオン性基であり;Xは、H、F、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり;Rは連結基であり;Z及びZは、それぞれ独立して、H、F、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり;mは1以上の整数である。)
一般式(II):
-X-RFA1-RFA2-X-T’ (II)
(式中、
FA1は、-Rf -R-O-であり、
FA2は、-Rf -RFX-O-であり、
は、2価のフルオロポリエーテル基であり、
FXは、アニオン性基を含む2価のフルオロポリエーテル基であり、
Rf及びRfは、それぞれ独立して、1個又はそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1-6アルキレン基であり、
pは、それぞれ独立して、0又は1であり、
qは、それぞれ独立して、0又は1であり、
は、それぞれ独立して、単結合又は2~10価の基であり、
及びT’は、それぞれ独立して、(i)H、O及びClの1種又は複数種を含んでもよく、前記アニオン性基を持たないC~C24(ヒドロ)(フルオロ)炭素基、及び、(ii)少なくとも1個の前記アニオン性基を含むC~C24(ヒドロ)(フルオロ)炭素基からなる群から選択される。)
【0017】
本開示(11)は前記高分子化合物は、前記重合体(I)であり、前記一般式(I)中のX及びXは、それぞれ独立して、F又はHであり;Aは、-SO又は-COOM(式中、Mは、-H又はアルカリ金属原子)であり;Xは、Fであり;Rは、エーテル結合を含む炭素数1~4のフッ素化アルキレン基であり;Z及びZは、それぞれ独立して、F又はCFであり;mは、1である本発明(10)に記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0018】
本開示(12)は前記テトラフルオロエチレン系ポリマーは、ポリテトラフルオロエチレンである本発明(1)~(11)のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0019】
本開示(13)は前記テトラフルオロエチレン系ポリマーは、テトラフルオロエチレン単位、及び、テトラフルオロエチレンと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含む本発明(1)~(12)のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0020】
本開示(14)は前記バインダーは、フィブリル径(中央値)が100nm以下の繊維状構造を有する本発明(1)~(13)のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0021】
本開示(15)は前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物の標準比重が2.280以下である本発明(1)~(14)のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0022】
本開示(16)は前記固体電解質は、硫化物系固体電解質又は酸化物系固体電解質である本発明(1)~(15)のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0023】
本開示(17)は前記電極活物質は、リチウム・ニッケル系複合酸化物である本発明(1)~(16)のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0024】
本開示(18)は自立膜である本発明(1)~(17)のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0025】
本開示(19)は厚みが300μm以下である本発明(1)~(18)のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0026】
本開示(20)は二次電池用である本発明(1)~(19)のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0027】
本開示(21)はリチウムイオン二次電池用である本発明(20)に記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0028】
本開示(22)は固体二次電池用である本発明(20)又は(21)に記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0029】
本開示(23)はキャパシタ用である本発明(1)~(19)のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤である。
【0030】
本開示(24)は本発明(1)~(22)のいずれかに記載の電気化学デバイス用合剤を含む電気化学デバイス用合剤シートである。
【0031】
本開示(25)は本発明(24)に記載の電気化学デバイス用合剤シートを含む電極である。
【0032】
本開示(26)は本発明(25)に記載の電極を備える電気化学デバイスである。
【発明の効果】
【0033】
本開示によれば、バインダー量が少ないにもかかわらず、強度及び柔軟性に優れる合剤シートを得ることができる二次電池用合剤、並びに、それを用いた二次電池用合剤シート、電極、及び、二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】実施例における固体電解質合剤シートのイオン伝導度測定に用いた圧力セルの断面の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本開示において、「有機基」は、1個以上の炭素原子を含有する基、又は有機化合物から1個の水素原子を除去して形成される基を意味する。
【0036】
以下、本開示を具体的に説明する。
【0037】
本開示は、電極活物質及び/又は固体電解質と、バインダーとを含有する電気化学デバイス用合剤であって、上記バインダーは、テトラフルオロエチレン(TFE)系ポリマー組成物を含み、上記TFE系ポリマー組成物は、TFE系ポリマー、及び、イオン性基を有する高分子化合物を含み、上記バインダーの含有量が、上記電気化学デバイス用合剤に対し、0.3質量%以上、8質量%以下である電気化学デバイス用合剤を提供する。
【0038】
本開示の電気化学デバイス用合剤は、特定のバインダーを含有するので、バインダー量が少ないにもかかわらず、強度及び柔軟性に優れる合剤シートを得ることができる。このため、活物質や導電助剤等の電池特性を向上させる材料をより多く含むことができる。
【0039】
本開示の電気化学デバイス用合剤において、上記バインダーの含有量が、上記電気化学デバイス用合剤に対し、0.3質量%以上、8質量%以下である。結着力、合剤シートの強度及び柔軟性が向上する点で、上記含有量は、0.4質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることが更に好ましい。また、電池特性を向上させる材料を増量できる点で、上記含有量は、6質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましく、2質量%以下であることが更により好ましく、2質量%未満であることが特に好ましい。
【0040】
上記バインダーに用いるTFE系ポリマー組成物は、TFE系ポリマーとともに、イオン性基を有する高分子化合物を含む。上記イオン性基が存在することにより、結着力を向上させることができる。
なお、上記TFE系ポリマーは上記高分子化合物に含まれないものとする。
【0041】
イオン性基が存在するかどうかは、以下の方法により判断する。
高分子化合物をメタノールにて抽出し、得られたメタノール抽出液に水を加えて、減圧蒸留を行い、水溶液を得る。得られた水溶液の電位差によりイオン性基を有しているか判断する。
【0042】
上記イオン性基としては、アニオン性基が好ましく、例えば、サルフェート基、-COOM(カルボキシレート基)、ホスフェート基、-PO(ホスホネート基)、-SO(スルホネート基)、-C(CFOM(各式中、Mは、-H、金属原子、-NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基である。)等が挙げられる。
なかでも、-SO、-PO及び-COOMからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、-SO及び-COOMからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、-SO及び-COOM(式中、Mは、-H又はアルカリ金属原子である。)からなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましい。
【0043】
上記イオン性基の含有量は、上記高分子化合物に対し、0.80meq/g以上であることが好ましく、1.20meq/g以上であることがより好ましく、1.75meq/g以上であることが更に好ましく、2.00meq/g以上であることが更により好ましく、2.50meq/g以上であることが特に好ましい。上記含有量は、また、10.0meq/g以下であってよく、8.00meq/g以下であってもよく、5.00meq/g以下であってもよい。
上記イオン性基の含有量は、上記高分子化合物の組成から計算により求められる。
【0044】
上記高分子化合物は、フッ素原子を含むことが好ましく、上記高分子化合物が有する炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子に置換された割合が50%以上であることが好ましい。「炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子に置換された割合」は、炭素原子に結合する水素原子と、炭素原子に結合するハロゲン原子(フッ素原子を含む)との合計数に対するフッ素原子数の割合として求められる。上記高分子化合物における、炭素原子に結合した水素原子がフッ素原子に置換された割合は、特に限定されないが、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、更により好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは100%である。
【0045】
上記高分子化合物は、53以下のイオン交換率(IXR)を有することが好ましい。上記IXRは、イオン性基に対する上記高分子化合物の主鎖中の炭素原子数と定義される。加水分解によりイオン性となる前駆体基(例えば、-SOF)は、IXRを決定する目的ではイオン性基と見なされない。
上記IXRは、0.5以上が好ましく、1以上がより好ましく、3以上が更に好ましく、4以上が更により好ましく、5以上が殊更に好ましい。また、IXRは43以下が好ましく、33以下がより好ましく、23以下が更に好ましい。
上記高分子化合物において、イオン性基は、典型的に、ポリマー主鎖に沿って分布している。上記高分子化合物は、ポリマー主鎖に結合された繰り返し側鎖とともに含み、この側鎖はイオン性基を有することが好ましい。
【0046】
上記高分子化合物は、水溶性高分子化合物であることが好ましい。「水溶性」とは、容易に水性媒体に溶解又は分散する性質を意味する。水溶性を有する高分子化合物は、例えば、動的光散乱法(DLS)によって、粒子径を測定できないか、又は、5nm以下の粒子径が示される。一方、非水溶性を有する高分子化合物は、例えば、動的光散乱法(DLS)によって、5nm超の粒子径を測定することができる。
【0047】
上記高分子化合物が水溶性高分子化合物であることは以下の方法によっても判断できる。
上記高分子化合物を含むメタノール溶液に水を加え、40℃で減圧蒸留し、水溶液を得る。
得られた水溶液約1gを、減圧乾燥機中で60℃、60分の条件で乾燥し、加熱残分の質量を測定し、水溶液の質量に対する、加熱残分の質量の割合を百分率で表す。この値が0.1質量%以上であれば、水溶性高分子であると判断する。
【0048】
上記高分子化合物の数平均分子量としては、0.1×10超が好ましく、0.15×10以上がより好ましく、0.2×10以上が更に好ましく、0.3×10以上が更により好ましく、0.5×10以上が更により好ましく、1.0×10以上が殊更に好ましく、2.0×10以上が特に好ましく、3.0×10以上が最も好ましい。また、75.0×10以下が好ましく、50.0×10以下がより好ましく、40.0×10以下が更に好ましく、30.0×10以下が殊更に好ましく、20.0×10以下が特に好ましい。
【0049】
上記高分子化合物の重量平均分子量としては、0.1×10超が好ましく、0.2×10以上がより好ましく、0.4×10以上が更に好ましく、0.6×10以上が更により好ましく、1.0×10以上が更により好ましく、2.0×10以上が特に好ましく、5.0×10以上が最も好ましい。また、150.0×10以下が好ましく、100.0×10以下がより好ましく、80.0×10以下が更に好ましく、60.0×10以下が殊更に好ましく、40.0×10以下が特に好ましい。
【0050】
上記数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、単分散ポリスチレン、又は、単分散ポリエチレンオキサイド(PEO)及びポリエチレングリコール(PEG)を標準として分子量を算出する値である。また、GPCによる測定ができない場合には、NMR、FT-IR等により得られた末端基数から計算された数平均分子量とメルトフローレートとの相関関係により、上記高分子化合物の数平均分子量を求めることができる。メルトフローレートは、JIS K 7210に準拠して測定できる。
【0051】
上記高分子化合物は、分子量1000以下のフラクションを実質的に含まないことが好ましく、分子量1500未満のフラクションを実質的に含まないことがより好ましく、分子量2000未満のフラクションを実質的に含まないことが更に好ましく、分子量3000未満のフラクションを実質的に含まないことが特に好ましい。
上記フラクションを実質的に含まないとは、上記高分子化合物に対する上記フラクションの含有量が3.0質量%以下であることを意味する。上記フラクションの含有量は、上記高分子化合物に対し、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましい。
上記フラクションの含有量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)又は液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS)により測定することができる。
【0052】
上記高分子化合物は、分子量1000以下の含フッ素化合物を実質的に含まないことが好ましい。上記含フッ素化合物を実質的に含まないとは、上記含フッ素化合物の量が、上記高分子化合物に対し25質量ppb以下であることを意味する。
上記含フッ素化合物の量は、25質量ppb未満であることがより好ましく、10質量ppb以下であることが更に好ましく、10質量ppb未満であることが更により好ましく、5質量ppb以下であることが更により好ましく、3質量ppb以下であることが更により好ましく、1質量ppb以下であることが更により好ましく、1質量ppb未満であることが特に好ましい。下限は特に限定されず、検出限界未満の量であってよい。
上記分子量1000以下の含フッ素化合物及びその定量方法については後述する。
【0053】
上記高分子化合物は、下記一般式(I)で表される単量体に基づく重合単位(I)を含む重合体(I)、及び、下記一般式(II)で表される化合物(II)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、重合体(I)であることがより好ましい。
一般式(I):
CX=CXR(-CZ-A (I)
(式中、X及びXは、それぞれ独立して、F、Cl、H又はCFであり;Aは、アニオン性基であり;Xは、H、F、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり;Rは連結基であり;Z及びZは、それぞれ独立して、H、F、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり;mは1以上の整数である。)
一般式(II):
-X-RFA1-RFA2-X-T’ (II)
(式中、
FA1は、-Rf -R-O-であり、
FA2は、-Rf -RFX-O-であり、
は、2価のフルオロポリエーテル基であり、
FXは、アニオン性基を含む2価のフルオロポリエーテル基であり、
Rf及びRfは、それぞれ独立して、1個又はそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1-6アルキレン基であり、
pは、それぞれ独立して、0又は1であり、
qは、それぞれ独立して、0又は1であり、
は、それぞれ独立して、単結合又は2~10価の基であり、
及びT’は、それぞれ独立して、(i)H、O及びClの1種又は複数種を含んでもよく、上記アニオン性基を持たないC~C24(ヒドロ)(フルオロ)炭素基、及び、(ii)少なくとも1個の上記アニオン性基を含むC~C24(ヒドロ)(フルオロ)炭素基からなる群から選択される。)
【0054】
重合体(I)は、単量体(I)に基づく重合単位(I)を含む重合体である。単量体(I)は、下記の一般式(I)で表される。
CX=CXR(-CZ-A (I)
(式中、X及びXは、それぞれ独立して、F、Cl、H又はCFであり;Xは、H、F、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり;Aは、アニオン性基であり;Rは連結基であり;Z及びZは、それぞれ独立して、H、F、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり;mは1以上の整数である。)
及びXとしては、F又はHが好ましい。Xとしては、F、Cl、H又はCFが好ましく、Fがより好ましい。また、Z及びZとしては、F又はCFが好ましい。
【0055】
本開示において、アニオン性基には、サルフェート基、カルボキシレート基等のアニオン性基に加えて、-COOHのような酸基、-COONHのような酸塩基等のアニオン性基を与える官能基が含まれる。アニオン性基としては、サルフェート基、カルボキシレート基、ホスフェート基、ホスホネート基、スルホネート基、又は、-C(CFOM(式中、Mは、-H、金属原子、-NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基である。)が好ましく、-SO又は-COOM(式中、Mは、前記と同じ)がより好ましく、-SO又は-COOM(式中、Mは、-H又はアルカリ金属原子である)が更に好ましい。
【0056】
本開示の製造方法において、一般式(I)で表される単量体(I)として、1種又は2種以上の単量体を用いることができる。
【0057】
Rは、連結基である。本開示において「連結基」は、(m+1)価連結基であり、mが1の場合は二価連結基である。連結基は、単結合であってもよく、少なくとも1個の炭素原子を含むことが好ましく、炭素原子の数は、2以上であってよく、4以上であってよく、8以上であってよく、10以上であってよく、20以上であってもよい。上限は限定されないが、例えば、100以下であってよく、50以下であってよい。
【0058】
連結基は、鎖状又は分岐鎖状、環状又は非環状構造、飽和又は不飽和、置換又は非置換であってよく、所望により硫黄、酸素、及び窒素からなる群から選択される1つ以上のヘテロ原子を含み、所望によりエステル、アミド、スルホンアミド、カルボニル、カーボネート、ウレタン、尿素及びカルバメートからなる群から選択される1つ以上の官能基を含んでよい。上記連結基は、炭素原子を含まず、酸素、硫黄又は窒素等のカテナリーヘテロ原子であってもよい。
【0059】
mは1以上の整数であり、好ましくは1又は2であり、より好ましくは1である。mが2以上の整数である場合、Z、Z及びAは、同一であっても、異なっていてもよい。
次に、一般式(I)においてmが1である場合の好適な構成について説明する。
【0060】
Rは、例えば、酸素、硫黄、窒素等のカテナリーヘテロ原子、又は、2価の有機基であることが好ましい。
【0061】
Rが2価の有機基である場合、炭素原子に結合する水素原子は、フッ素以外のハロゲン、例えば塩素等で置き換えられてもよく、二重結合を含んでも含まなくてもよい。また、Rは、鎖状及び分岐鎖状のいずれでもよく、環状及び非環状のいずれでもよい。また、Rは、官能基(例えば、エステル、エーテル、ケトン(ケト基)、アミン、ハロゲン化物等)を含んでもよい。
【0062】
Rはまた、非フッ素の2価の有機基であってもよいし、部分フッ素化又は過フッ素化された2価の有機基であってもよい。
【0063】
Rとしては、例えば、炭素原子にフッ素原子が結合していない炭化水素基、炭素原子に結合する水素原子の一部がフッ素原子で置換された炭化水素基、又は、炭素原子に結合する水素原子の全てがフッ素原子で置換された炭化水素基であってもよく、これらは酸素原子を含んでいてもよく、二重結合を含んでいてもよく、官能基を含んでいてもよい。
【0064】
Rは、エーテル結合又はケト基を含んでいてもよい炭素数1~100の炭化水素基であることが好ましく、該炭化水素基は、炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部がフッ素に置換されていてもよい。
より好ましくは、Rは、エーテル結合を含んでいてもよい炭素数1~4のフッ素化アルキレン基であり、更に好ましくは、エーテル結合を含む炭素数1~4のフッ素化アルキレン基である。
【0065】
Rとして好ましくは、-(CH-、-(CF-、-O-(CF-、-(CF-O-(CF-、-O(CF-O-(CF-、-(CF-[O-(CF-、-O(CF-[O-(CF-、-[(CF-O]-[(CF-O]-、-O[(CF-O]-[(CF-O]-、-O-[CFCF(CF)O]-(CF-、-[CFCF(CF)O]-、-[CF(CF)CFO]-、-(CF-O-[CF(CF)CFO]-、-(CF-O-[CF(CF)CFO]-(CF-、-[CFCF(CF)]-CO-(CF-、及び、これらの組み合わせから選択される少なくとも1種である。
式中、a、b、c及びdは独立して少なくとも1以上である。a、b、c及びdは独立して、2以上であってよく、3以上であってよく、4以上であってよく、10以上であってよく、20以上であってよい。a、b、c及びdの上限は、例えば、100である。
【0066】
Rとしては、一般式(r1):
-CF-O-(CX -{O-CF(CF)}-(O)- (r1)
(式中、Xはそれぞれ独立してH、F又はCFであり、eは0~3の整数であり、fは0~3の整数であり、gは0又は1である)で表される2価の基が好ましく、一般式(r2):
-CF-O-(CX -(O)- (r2)
(式中、Xはそれぞれ独立してH、F又はCFであり、eは0~3の整数であり、gは0又は1である)で表される2価の基がより好ましい。
【0067】
Rとして好適な具体的としては、-CF-O-、-CF-O-CF-、-CF-O-CH-、-CF-O-CHCF-、-CF-O-CFCF-、-CF-O-CFCH-、-CF-O-CFCFCH-、-CF-O-CF(CF)-、-CF-O-CF(CF)CF-、-CF-O-CF(CF)CF-O-、-CF-O-CF(CF)CF-O-CF-、-CF-O-CF(CF)CH-等が挙げられる。なかでも、Rは、酸素原子を含んでもよい、パーフルオロアルキレン基が好ましく、具体的には、-CF-O-、-CF-O-CF-、-CF-O-CFCF-、-CF-O-CF(CF)-、-CF-O-CF(CF)CF-、又は、-CF-O-CF(CF)CF-O-が好ましい。
【0068】
一般式(I)の-R-CZ-としては、一般式(s1):
-CF-O-(CX -{O-CF(CF)}-(O)-CZ- (s1)
(式中、Xはそれぞれ独立してH、F又はCFであり、eは0~3の整数であり、fは0~3の整数であり、gは0又は1であり、Z及びZは、それぞれ独立して、H、F、アルキル基又は含フッ素アルキル基である)で表されるものが好ましく、式(s1)において、Z及びZは、F又はCFがより好ましく、一方がFで他方がCFであることが更に好ましい。
【0069】
また、一般式(I)において、-R-CZ-としては、一般式(s2):
-CF-O-(CX -(O)-CZ- (s2)
(式中、Xはそれぞれ独立してH、F又はCFであり、eは0~3の整数であり、gは0又は1であり、Z及びZは、それぞれ独立して、H、F、アルキル基又は含フッ素アルキル基である)で表されるものが好ましく、式(s2)において、Z及びZは、F又はCFがより好ましく、一方がFで他方がCFであることが更に好ましい。
【0070】
一般式(I)の-R-CZ-としては、-CF-O-CF-、-CF-O-CF(CF)-、-CF-O-C(CF-、-CF-O-CF-CF-、-CF-O-CF-CF(CF)-、-CF-O-CF-C(CF-、-CF-O-CFCF-CF-、-CF-O-CFCF-CF(CF)-、-CF-O-CFCF-C(CF-、-CF-O-CF(CF)-CF-、-CF-O-CF(CF)-CF(CF)-、-CF-O-CF(CF)-C(CF-、-CF-O-CF(CF)CF-CF-、-CF-O-CF(CF)CF-CF(CF)-、-CF-O-CF(CF)CF-C(CF-、-CF-O-CF(CF)CF-O-CF-、-CF-O-CF(CF)CF-O-CF(CF)-、又は、-CF-O-CF(CF)CF-O-C(CF-が好ましく、-CF-O-CF(CF)-、-CF-O-CF-CF(CF)-、-CF-O-CFCF-CF(CF)-、-CF-O-CF(CF)-CF(CF)-、-CF-O-CF(CF)CF-CF(CF)-、又は、-CF-O-CF(CF)CF-O-CF(CF)-がより好ましい。
【0071】
重合体(I)は、高度にフッ素化されていることも好ましい。例えば、ホスフェート基部分(例えば、CHOP(O)(OM)及びサルフェート基部分(例えば、CHOS(O)OM)のようなアニオン性基(A)を除き、重合体(I)中のC-H結合の80%以上、90%以上、95%以上、又は100%がC-F結合で置換されていることが好ましい。
【0072】
単量体(I)及び重合体(I)は、アニオン性基(A)を除いて、C-F結合を有し、C-H結合を有していないことも好ましい。すなわち、一般式(I)において、X、X、及びXの全てがFであり、Rは炭素数が1以上のパーフルオロアルキレン基であることが好ましく、上記パーフルオロアルキレン基は、鎖状及び分岐鎖状のいずれでもよく、環状及び非環状のいずれでもよく、少なくとも1つのカテナリーヘテロ原子を含んでもよい。上記パーフルオロアルキレン基の炭素数は、2~20であってよく、4~18であってもよい。
【0073】
単量体(I)及び重合体(I)は、部分フッ素化されたものであってもよい。すなわち、単量体(I)及び重合体(I)は、アニオン性基(A)を除いて、炭素原子に結合した少なくとも1つの水素原子を有し、炭素原子に結合した少なくとも1つのフッ素原子を有することも好ましい。
【0074】
アニオン性基(A)は、-SO、-OSO、-COOM、-SONR’CHCOOM、-CHOP(O)(OM、[-CHO]P(O)(OM)、-CHCHOP(O)(OM、[-CHCHO]P(O)(OM)、-CHCHOSO、-P(O)(OM、-SONR’CHCHOP(O)(OM、[-SONR’CHCHO]P(O)(OM)、-CHOSO、-SONR’CHCHOSO、又は、-C(CFOMであってよい。なかでも、-SO、-OSO、-COOM、-P(O)(OM又はC(CFOMが好ましく、-COOM、-SO、-OSO又はC(CFOMがより好ましく、-SO、-COOM又はP(O)(OMが更に好ましく、-SO又はCOOMが特に好ましく、-COOMが最も好ましい。
【0075】
は、H、金属原子、NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基である。
【0076】
金属原子としては、アルカリ金属(1族)、アルカリ土類金属(2族)等が挙げられ、Na、K又はLiが好ましい。
【0077】
としては、-H、金属原子又はNR が好ましく、-H、アルカリ金属(1族)、アルカリ土類金属(2族)又はNR がより好ましく、-H、-Na、-K、-Li又はNHが更に好ましく、-H、-Na、-K又はNHが更により好ましく、-H、-Na又はNHが特に好ましく、-H又はNHが最も好ましい。
【0078】
重合体(I)において、各重合単位(I)で異なるアニオン性基を有してもよいし、同じアニオン性基を有してもよい。
一般式(I)で表される単量体としては、CF=CF(OCFCFSO)、CF=CF(O(CFSO)、CF=CF(O(CFSO)、CF=CF(OCFCF(CF)SO)、CF=CF(OCFCF(CF)OCFCFSO)、CF=CF(OCFCFCOOM)、CF=CF(O(CFCOOM)、CF=CF(O(CFCOOM)、CF=CF(O(CFCOOM)、CF=CF(OCFCF(CF)COOM)、CF=CF(OCFCF(CF)O(CFCOOM)(nは1より大きい)が挙げられる。
【0079】
単量体(I)は、一般式(1)で表される単量体(1)であることが好ましい。
重合体(I)は、一般式(1)で表される単量体に基づく重合単位(1)を含む重合体(1)であることが好ましい。
CX=CY(-CZ-O-Rf-A) (1)
(式中、Xは、同一又は異なって、-H又はFであり、Yは-H、-F、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり、Zは、同一又は異なって、-H、-F、アルキル基又はフルオロアルキル基である。Rfは炭素数1~40の含フッ素アルキレン基、又は、炭素数2~100のエーテル結合を有する含フッ素アルキレン基である。Aは、-COOM、-SO、-OSO又はC(CFOM(Mは、-H、金属原子、-NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基である。)である。但し、X、Y及びZの少なくとも1つはフッ素原子を含む。)
【0080】
本開示の製造方法において、一般式(1)で表される単量体(1)と、他の単量体とを共重合してもよい。
重合体(1)は、一般式(1)で表される単量体(1)の単独重合体であってもよいし、他の単量体との共重合体であってもよい。
【0081】
上記炭素数2~100のエーテル結合を有する含フッ素アルキレン基は、酸素原子が末端である構造を含まず、炭素炭素間にエーテル結合を含んでいるアルキレン基である。
【0082】
一般式(1)において、Xは-H又はFである。Xは、両方が-Fであってもよいし、少なくとも1つが-Hであってよい。例えば、片方が-Fで他方が-Hであってもよいし、両方が-Hであってもよい。
【0083】
一般式(1)において、Yは-H、-F、アルキル基又は含フッ素アルキル基である。上記アルキル基は、フッ素原子を含有しないアルキル基であり、炭素数は1以上であればよい。上記アルキル基の炭素数は6以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下が更に好ましい。上記含フッ素アルキル基は、フッ素原子を少なくとも1つ含有するアルキル基であり、炭素数は1以上であればよい。上記含フッ素アルキル基の炭素数は6以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下が更に好ましい。上記Yとしては、-H、-F又はCFが好ましく、-Fがより好ましい。
【0084】
一般式(1)において、Zは、同一又は異なって、-H、-F、アルキル基又はフルオロアルキル基である。上記アルキル基は、フッ素原子を含有しないアルキル基であり、炭素数は1以上であればよい。上記アルキル基の炭素数は6以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下が更に好ましい。上記含フッ素アルキル基は、フッ素原子を少なくとも1つ含有するアルキル基であり、炭素数は1以上であればよい。上記含フッ素アルキル基の炭素数は6以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下が更に好ましい。上記Zとしては、-H、-F又はCFが好ましく、-Fがより好ましい。
【0085】
一般式(1)において、上記X、Y及びZの少なくとも1つはフッ素原子を含む。例えば、Xが-Hであり、Y及びZが-Fであってよい。
【0086】
一般式(1)において、上記Rfは炭素数1~40の含フッ素アルキレン基、又は、炭素数2~100のエーテル結合を有する含フッ素アルキレン基である。
【0087】
上記含フッ素アルキレン基の炭素数は2以上が好ましい。また、上記含フッ素アルキレン基の炭素数は、30以下が好ましく、20以下がより好ましく、10以下が更に好ましく、6以下が特に好ましく、3以下が最も好ましい。上記含フッ素アルキレン基としては、-CF-、-CHCF-、-CFCF-、-CFCH-、-CFCFCF-、-CFCFCH-、-CF(CF)-、-CF(CF)CF-、-CF(CF)CH-等が挙げられる。上記含フッ素アルキレン基は、パーフルオロアルキレン基であることが好ましい。
【0088】
上記エーテル結合を有する含フッ素アルキレン基の炭素数は3以上が好ましい。また、上記エーテル結合を有する含フッ素アルキレン基の炭素数は、60以下が好ましく、30以下がより好ましく、12以下が更に好ましく、9以下が特に好ましく、6以下が最も好ましい。上記エーテル結合を有する含フッ素アルキレン基は、例えば、一般式:
【化1】
(式中、ZはF又はCF;Z及びZはそれぞれH又はF;ZはH、F又はCF;p1+q1+r1が1~10の整数;s1は0又は1;t1は0~5の整数)で表される2価の基であることも好ましい。
【0089】
上記エーテル結合を有する含フッ素アルキレン基として具体的には、-CFCF(CF)OCFCF-、-CF(CF)CF-O-CF(CF)-、-(CF(CF)CF-O)-CF(CF)-(式中、nは1~10の整数)、-CF(CF)CF-O-CF(CF)CH-、-(CF(CF)CF-O)-CF(CF)CH-(式中、nは1~10の整数)、-CHCFCFO-CHCFCH-、-CFCFCFO-CF-、-CFCFCFO-CFCF-、-CFCFCFO-CFCFCF-、-CFCFCFO-CFCFCH-、-CFCFO-CF-、-CFCFO-CFCH-等が挙げられる。上記エーテル結合を有する含フッ素アルキレン基は、パーフルオロアルキレン基であることが好ましい。
【0090】
一般式(1)において、Aは、-COOM、-SO、-OSO又はC(CFOM(Mは、H、金属原子、NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基)である。
【0091】
としては、H又はC1-10の有機基が好ましく、H又はC1-4の有機基がより好ましく、H又はC1-4のアルキル基が更に好ましい。
【0092】
金属原子としては、アルカリ金属(1族)、アルカリ土類金属(2族)等が挙げられ、Na、K又はLiが好ましい。
【0093】
としては、H、金属原子又はNR が好ましく、H、アルカリ金属(1族)、アルカリ土類金属(2族)又はNR がより好ましく、H、Na、K、Li又はNHが更に好ましく、H、Na、K又はNHが更により好ましく、H、Na又はNHが特に好ましく、H又はNHが最も好ましい。
【0094】
Aとしては、-COOM又はSOが好ましく、-COOMがより好ましい。
【0095】
一般式(1)で表される単量体としては、例えば、一般式(1a):
CX=CFCF-O-(CF(CF)CFO)n5-CF(CF)-A (1a)
(式中、各Xは、同一であり、F又はHを表す。n5は0又は1~10の整数を表し、Aは、上記定義と同じ。)で表される単量体が例示される。
【0096】
一般式(1a)において、n5は、一次粒子径が小さい粒子を得ることができる点で、0又は1~5の整数であることが好ましく、0、1又は2であることがより好ましく、0又は1であることが更に好ましい。
【0097】
本開示の製造方法において、一般式(1a)で表される単量体と、他の単量体とを共重合してもよい。
重合体(1)は、一般式(1a)で表される単量体の単独重合体であってもよいし、他の単量体との共重合体であってもよい。
【0098】
単量体(1)は、一般式(1A)で表される単量体であることが好ましい。
重合単位(1)は、一般式(1A)で表される単量体に基づく重合単位(1A)であることが好ましい。
CH=CF(-CF-O-Rf-A) (1A)
(式中、Rf及びAは前記と同じ。)
【0099】
本開示の製造方法において、一般式(1A)で表される単量体と、他の単量体とを共重合してもよい。
重合体(1)は、一般式(1A)で表される単量体の単独重合体であってもよいし、他の単量体との共重合体であってもよい。
【0100】
式(1A)で表される単量体として具体的には、一般式
【0101】
【化2】
【0102】
(式中、ZはF又はCF;Z及びZはそれぞれH又はF;ZはH、F又はCF;p1+q1+r1が0~10の整数;s1は0又は1;t1は0~5の整数、ただし、Z及びZがともにHの場合、p1+q1+r1+s1が0でない;Aは上記定義と同じ)で表される単量体が挙げられる。より具体的には、
【0103】
【化3】
【0104】
等が好ましく挙げられ、なかでも
【0105】
【化4】
【0106】
であることが好ましい。
【0107】
一般式(1A)で表される単量体としては、式(1A)中のAが-COOMであることが好ましく、特に、CH=CFCFOCF(CF)COOM、及び、CH=CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COOM(式中、Mは上記定義と同じ。)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、CH=CFCFOCF(CF)COOMがより好ましい。
【0108】
単量体(I)は、一般式(2)で表される単量体(2)であることも好ましい。
重合体(I)は、一般式(2)で表される単量体に基づく重合単位(2)を含む重合体(2)であることも好ましい。
CX=CY(-O-Rf-A) (2)
(式中、Xは、同一又は異なって、-H又はFであり、Yは-H、-F、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり、Rfは炭素数1~40の含フッ素アルキレン基、又は、炭素数2~100のエーテル結合もしくはケト基を有する含フッ素アルキレン基である。Aは、前記と同じである。)
【0109】
単量体(I)は、一般式(3)で表される単量体(3)であることも好ましい。
重合体(I)は、一般式(3)で表される単量体に基づく重合単位(3)を含む重合体(3)であることも好ましい。
CX=CY(-Rf-A) (3)
(式中、Xは、同一又は異なって、-H又はFであり、Yは-H、-F、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり、Rfは炭素数1~40の含フッ素アルキレン基、又は、炭素数2~100のエーテル結合を有する含フッ素アルキレン基である。Aは、前記と同じである。)
【0110】
一般式(I)においてmが2以上の整数である場合の単量体としては、
【化5】
等が挙げられる。
【0111】
重合体(I)は、通常、末端基を有する。末端基は、重合時に生成する末端基であり、代表的な末端基は、水素、ヨウ素、臭素、鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、及び、鎖状又は分岐鎖状のフルオロアルキル基から独立に選択され、任意追加的に少なくとも1つのカテナリーヘテロ原子を含有してもよい。アルキル基又はフルオロアルキル基は、炭素数が1~20であることが好ましい。これらの末端基は、一般的には、重合体(I)の形成に使用される開始剤又は連鎖移動剤から生成するか、又は連鎖移動反応中に生成する。
【0112】
重合体(I)において、重合単位(I)の含有量としては、全重合単位に対して、好ましい順に、1.0モル%以上、3.0モル%以上、5.0モル%以上、10モル%以上、20モル%以上、30モル%以上、40モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上である。重合単位(I)の含有量は、実質的に100モル%であることが特に好ましく、重合体(I)は、重合単位(I)のみからなることが最も好ましい。
【0113】
重合体(I)において、一般式(I)で表される単量体と共重合可能な他の単量体に基づく重合単位の含有量としては、全重合単位に対して、好ましい順に、99.0モル%以下、97.0モル%以下、95.0モル%以下、90モル%以下、80モル%以下、70モル%以下、60モル%以下、50モル%以下、40モル%以下、30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下である。一般式(I)で表される単量体と共重合可能な他の単量体に基づく重合単位の含有量は、実質的に0モル%であることが特に好ましく、重合体(I)は、他の単量体に基づく重合単位を含まないことが最も好ましい。
【0114】
重合体(I)の数平均分子量は、0.1×10以上が好ましく、0.2×10以上がより好ましく、0.3×10以上が更に好ましく、0.4×10以上が更により好ましく、0.5×10以上が殊更に好ましく、1.0×10以上が特に好ましく、3.0×10以上が殊更特に好ましく、3.1×10以上が最も好ましい。また、75.0×10以下が好ましく、50.0×10以下がより好ましく、40.0×10以下が更に好ましく、30.0×10以下が殊更に好ましく、20.0×10以下が特に好ましい。数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、単分散ポリスチレンを標準として分子量を算出する値である。また、GPCによる測定ができない場合には、NMR、FT-IR等により得られた末端基数から計算された数平均分子量とメルトフローレートとの相関関係により、重合体(I)の数平均分子量を求めることができる。メルトフローレートは、JIS K 7210に準拠して測定できる。
【0115】
重合体(I)の重量平均分子量の下限としては、好ましい順に、0.2×10以上、0.4×10以上、0.6×10以上、0.8×10以上、1.0×10以上、2.0×10以上、5.0×10以上、10.0×10以上、15.0×10以上、20.0×10以上、25.0×10以上である。また、重合体(I)の重量平均分子量の上限としては、好ましい順に、150.0×10以下、100.0×10以下、60.0×10以下、50.0×10以下、40.0×10以下である。
【0116】
重合体(I)は、53以下のイオン交換率(IXR)を有することが好ましい。上記IXRは、イオン性基に対するポリマー主鎖中の炭素原子数と定義される。加水分解によりイオン性となる前駆体基(例えば、-SOF)は、IXRを決定する目的ではイオン性基と見なされない。
【0117】
IXRは、0.5以上が好ましく、1以上がより好ましく、3以上が更に好ましく、4以上が更により好ましく、5以上が殊更に好ましい。また、IXRは43以下がより好ましく、33以下が更に好ましく、23以下が特に好ましい。
【0118】
重合体(I)のイオン交換容量としては、好ましい順に、0.80meq/g以上、1.50meq/g以上、1.75meq/g以上、2.00meq/g以上、2.20meq/g以上、2.20meq/g超、2.50meq/g以上、2.60meq/g以上、3.00meq/g以上、3.50meq/g以上である。イオン交換容量は、重合体(I)のイオン性基(アニオン性基)の含有量であり、重合体(I)の組成から計算により求められる。
【0119】
重合体(I)において、イオン性基(アニオン性基)は、典型的に、ポリマー主鎖に沿って分布している。上記重合体(I)は、ポリマー主鎖を、この主鎖に結合された繰り返し側鎖とともに含み、この側鎖はイオン性基を有することが好ましい。
【0120】
重合体(I)は、10未満、より好ましくは7未満のpKaを有するイオン性基を含むことが好ましい。重合体(I)のイオン性基は、好ましくは、スルホナート、カルボキシラート、ホスホナート、及び、ホスファートからなる群から選択される。
【0121】
用語「スルホナート、カルボキシラート、ホスホナート、及びホスファート」は、それぞれの塩、又は塩を形成し得るそれぞれの酸をいうことが意図される。塩が用いられる場合、好ましくは、その塩はアルカリ金属塩又はアンモニウム塩である。好ましいイオン性基は、スルホナート基である。
【0122】
重合体(I)は、水溶性を有していることが好ましい。水溶性とは、容易に水性媒体に溶解又は分散する性質を意味する。水溶性を有する重合体(I)は、例えば、動的光散乱法(DLS)によって、粒子径を測定できないか、又は、5nm以下の粒子径が示される。
【0123】
重合体(I)の水溶液の粘度は、好ましくは5.0mPa.s以上であり、より好ましくは8.0mPa.s以上であり、更に好ましくは10.0mPa.s以上であり、特に好ましくは12.0mPa.s以上であり、最も好ましくは14.0mPa.s以上であり、好ましくは100.0mPa.s以下であり、より好ましくは50.0mPa.s以下であり、更に好ましくは25.0mPa.s以下であり、殊更に好ましくは20.0mPa.s以下である。
【0124】
重合体(I)の水溶液の粘度は、水溶液中の重合体(I)の含有量を水溶液に対して33質量%に調整し、得られた水溶液の粘度を、エー・アンド・デイ社製音叉振動式粘度計(型番:SV-10)を用いて、20℃で測定することにより、特定することができる。
【0125】
重合体(I)の臨界ミセル濃度(CMC)は、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上であり、更に好ましくは1質量%以上であり、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以下である。
【0126】
重合体(I)の臨界ミセル濃度は、表面張力を測定することで決定できる。表面張力は、例えば、協和界面化学株式会社製表面張力計CBVP-A3型により測定することができる。
【0127】
重合体(I)の酸価は、好ましくは60以上であり、より好ましくは90以上であり、更に好ましくは120以上であり、特に好ましくは150以上であり、最も好ましくは180以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは300以下である。
【0128】
重合体(I)の酸価は、重合体(I)が酸型の官能基以外のアニオン性基、例えば、-COOM、-SO、-OSO又はC(CFOM(Mは、金属原子、NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基)を有している場合には、これらの基を酸型の基に変換した後、酸-塩基滴定によって測定できる。
【0129】
重合体(I)として、一般式(11)で表される単量体(11)の重合体(11)であって、単量体(11)に基づく重合単位(11)の含有量が、重合体(11)を構成する全重合単位に対して、50モル%以上であり、重量平均分子量(Mw)が、38.0×10以上である重合体(11)を用いることもできる。
一般式(11):CX=CY-CF-O-Rf-A
(式中、X及びYは、独立に、H、F、CH又はCFであり、X及びYのうち、少なくとも1つはFである。Rfは、炭素数1~40の含フッ素アルキレン基、又は、炭素数2~100のエーテル結合を有する含フッ素アルキレン基である。Aは、-COOM、-SO、-OSO又はC(CFOM(Mは、H、金属原子、NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基である)である。)
【0130】
一般式(11)中、X及びYは、独立に、H、F、CH又はCFであり、X及びYのうち、少なくとも1つはFである。Xとしては、H又はFが好ましく、Hがより好ましい。Yとしては、H又はFが好ましく、Fがより好ましい。
【0131】
一般式(11)中のRf及びAについては、重合体(1)を構成する単量体を表す一般式(1)中のRf及びAと同様である。
【0132】
重合体(11)は、単量体(11)に基づく重合単位(11)のみからなる単独重合体であってもよいし、重合単位(11)と、単量体(11)と共重合可能な他の単量体に基づく重合単位とを含む共重合体であってもよい。他の単量体については、上述したとおりである。重合単位(11)は、各出現において、同一又は異なっていてもよく、重合体(11)は、2種以上の異なる一般式(11)で表される単量体に基づく重合単位(11)を含んでいてもよい。
【0133】
重合体(11)における重合単位(11)の含有量としては、重合体(11)を構成する全重合単位に対して、好ましい順に、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、99モル%以上である。重合単位(11)の含有量は、実質的に100モル%であることが特に好ましく、重合体(11)は、重合単位(11)のみからなることが最も好ましい。
【0134】
重合体(11)において、単量体(11)と共重合可能な他の単量体に基づく重合単位の含有量としては、重合体(11)を構成する全重合単位に対して、好ましい順に、99.0モル%以下、97.0モル%以下、95.0モル%以下、90モル%以下、80モル%以下、70モル%以下、60モル%以下、50モル%以下である。単量体(11)と共重合可能な他の単量体に基づく重合単位の含有量は、実質的に0モル%であることが特に好ましく、重合体(11)は、他の単量体に基づく重合単位を含まないことが最も好ましい。
【0135】
重合体(11)の重量平均分子量の下限としては、好ましい順に、38.0×10以上、40.0×10以上である。重合体(11)の重量平均分子量の上限としては、好ましい順に、150.0×10以下、100.0×10以下、60.0×10である。
【0136】
重合体(11)の数平均分子量の下限としては、好ましい順に、5.0×10、8.0×10、10.0×10以上、12.0×10以上である。重合体(11)の数平均分子量の上限としては、好ましい順に、75.0×10以下、50.0×10以下、40.0×10以下、30.0×10以下である。
【0137】
重合体(I)として、一般式(12)で表される単量体(12)の重合体(12)であって、単量体(12)に基づく重合単位(12)の含有量が、重合体(12)を構成する全重合単位に対して、50モル%以上であり、重量平均分子量(Mw)が、1.4×10以上である重合体(12)を用いることもできる。
一般式(12):CX=CX-O-Rf-A
(式中、Xは、独立に、F又はCFであり、Rfは、炭素数1~40の含フッ素アルキレン基、又は、炭素数2~100のエーテル結合もしくはケト基を有する含フッ素アルキレン基である。Aは、-COOM、-SO、-OSO又はC(CFOM(Mは、-H、金属原子、-NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基である)である。)
【0138】
一般式(12)中、Xは、独立に、F又はCFである。少なくとも1以上のXがFであることが好ましく、XがいずれもFであることがより好ましい。
【0139】
一般式(12)中のRf及びAについては、重合体(2)を構成する単量体を表す一般式(2)中のRf及びAと同様である。
【0140】
重合体(12)は、単量体(12)に基づく重合単位(12)のみからなる単独重合体であってもよいし、重合単位(12)と、単量体(12)と共重合可能な他の単量体に基づく重合単位とを含む共重合体であってもよい。他の単量体については、上述したとおりである。重合単位(12)は、各出現において、同一又は異なっていてもよく、重合体(12)は、2種以上の異なる一般式(12)で表される単量体に基づく重合単位(12)を含んでいてもよい。
【0141】
重合体(12)における重合単位(12)の含有量としては、重合体(12)を構成する全重合単位に対して、好ましい順に、40モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、99モル%以上である。重合単位(12)の含有量は、実質的に100モル%であることが特に好ましく、重合体(12)は、重合単位(12)のみからなることが最も好ましい。
【0142】
重合体(12)において、単量体(12)と共重合可能な他の単量体に基づく重合単位の含有量としては、重合体(12)を構成する全重合単位に対して、好ましい順に、50モル%以下、40モル%以下、30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下、1モル%以下である。単量体(12)と共重合可能な他の単量体に基づく重合単位の含有量は、実質的に0モル%であることが特に好ましく、重合体(12)は、他の単量体に基づく重合単位を含まないことが最も好ましい。
【0143】
重合体(12)の重量平均分子量(Mw)の下限としては、好ましい順に、1.4×10以上、1.7×10以上、1.9×10以上、2.1×10以上、2.3×10以上、2.7×10以上、3.1×10以上、3.5×10以上、3.9×10以上、4.3×10以上、4.7×10以上、5.1×10以上である。重合体(12)の重量平均分子量(Mw)の上限としては、好ましい順に、150.0×10以下、100.0×10以下、60.0×10以下、50.0×10以下、40.0×10以下である。
【0144】
重合体(12)の数平均分子量(Mn)の下限としては、好ましい順に、0.7×10以上、0.9×10以上、1.0×10以上、1.2×10以上、1.4×10以上、1.6×10以上、1.8×10以上である。重合体(12)の数平均分子量(Mn)の上限としては、好ましい順に、75.0×10以下、50.0×10以下、40.0×10以下、30.0×10以下、20.0×10以下である。
【0145】
重合体(12)の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.4以下であり、更に好ましくは2.2以下であり、特に好ましくは2.0以下であり、最も好ましくは1.9以下である。
【0146】
重合体(12)が、重合単位(12)、及び、単量体(12)と共重合可能な他の単量体に基づく重合単位を含有する場合において、単量体(12)に基づく重合単位(12)の含有量が、重合体(12)を構成する全重合単位に対して、好ましくは40~60モル%、より好ましくは45~55モル%であり、他の単量体に基づく重合単位の含有量が、重合体(12)を構成する全重合単位に対して、好ましくは60~40モル%であり、より好ましくは55~45モル%である。このような構成は、単量体(12)と共重合可能な他の単量体に基づく重合単位が、一般式CFR=CRで表される単量体に基づく重合単位(M)である場合に特に好適である。
【0147】
重合体(12)が、重合単位(12)、及び、単量体(12)と共重合可能な他の単量体に基づく重合単位を含有する場合において、重合単位(12)と、単量体(12)と共重合可能な他の単量体に基づく重合単位との交互率は、好ましくは40%以上であり、より好ましくは50%以上であり、更に好ましくは60%以上であり、尚更に好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上であり、最も好ましくは90%以上である。交互率は、例えば、40~99%であってよい。このような構成は、単量体(12)と共重合可能な他の単量体に基づく重合単位が、一般式CFR=CRで表される単量体に基づく重合単位(M)である場合に特に好適である。
【0148】
重合体(12)における重合単位(12)と単量体(12)と共重合可能な他の単量体に基づく重合単位との交互率は、重合体(12)の19F-NMR分析により求めることができる。
【0149】
重合体(I)は上記の単量体を用いること以外は従来公知の方法により製造することができる。
【0150】
重合体(I)として、一般式(13)で表される単量体(13)の重合体(13)であって、単量体(13)に基づく重合単位(13)の含有量が、重合体(13)を構成する全重合単位に対して、50質量%以上である重合体(13)を用いることもできる。重合体(13)は、新規な重合体である。
一般式(13):CX=CX-O-Rf-SO
(式中、Xは、独立に、F又はCFであり、Rfは、炭素数1~40の含フッ素アルキレン基、又は、炭素数2~100のエーテル結合もしくはケト基を有する含フッ素アルキレン基である。Mは、-H、金属原子、-NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基である。)
【0151】
一般式(13)中、Xは、独立に、F又はCFである。少なくとも1以上のXがFであることが好ましく、XがいずれもFであることがより好ましい。
【0152】
一般式(13)中のRf及びMについては、重合体(2)を構成する単量体を表す一般式(2)中のRf及びAと同様である。
【0153】
重合体(13)は、単量体(13)に基づく重合単位(13)のみからなる単独重合体であってもよいし、重合単位(13)と、単量体(13)と共重合可能な他の単量体に基づく重合単位とを含む共重合体であってもよい。他の単量体については、上述したとおりである。重合単位(13)は、各出現において、同一又は異なっていてもよく、重合体(13)は、2種以上の異なる一般式(13)で表される単量体に基づく重合単位(13)を含んでいてもよい。
【0154】
重合体(13)は、単量体(13)に基づく重合単位(13)の含有量が、重合体(13)を構成する全重合単位に対して、50質量%以上である。重合体(13)における重合単位(13)の含有量は、重合体(13)を構成する全重合単位に対して、好ましい順に、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、99質量%以上である。重合単位(13)の含有量は、実質的に100質量%であることが特に好ましく、重合体(13)は、重合単位(13)のみからなることが最も好ましい。
【0155】
重合体(13)において、単量体(13)と共重合可能な他の単量体に基づく重合単位の含有量は、重合体(13)を構成する全重合単位に対して、好ましい順に、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、1質量%以下である。単量体(13)と共重合可能な他の単量体に基づく重合単位の含有量は、実質的に0質量%であることが特に好ましく、重合体(13)は、他の単量体に基づく重合単位を含まないことが最も好ましい。
【0156】
重合体(13)の数平均分子量の下限は、好ましい順に、0.3×10以上、0.4×10以上、0.5×10以上、0.7×10以上、0.8×10以上、1.0×10以上、1.2×10以上、1.4×10、1.6×10以上、1.8×10以上、2.0×10以上、3.0×10以上である。重合体(13)の数平均分子量の上限は、好ましい順に、75.0×10以下、50.0×10以下、40.0×10以下、30.0×10以下、20.0×10以下である。
【0157】
重合体(13)の重量平均分子量の下限は、好ましい順に、0.4×10以上、0.5×10以上、0.6×10以上、0.8×10以上、1.0×10以上、1.2×10以上、1.4×10以上、1.7×10以上、1.9×10以上、2.1×10以上、2.3×10以上、2.7×10以上、3.1×10以上、3.5×10以上、3.9×10以上、4.3×10以上、4.7×10以上、5.1×10以上、10.0×10以上、15.0×10以上、20.0×10以上、25.0×10以上である。重合体(13)の重量平均分子量の上限は、好ましい順に、150.0×10以下、100.0×10以下、60.0×10以下、50.0×10以下、40.0×10以下である。
【0158】
重合体(13)の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましい順に、3.0以下、2.4以下、2.2以下、2.0以下、1.9以下、1.7以下、1.5以下、1.4以下、1.3以下である。
【0159】
一般式(I)で表される単量体(I)のダイマー及びトリマーの含有量としては、重合体(I)に対して、好ましくは1.0質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、更に好ましくは0.01質量%以下であり、特に好ましくは0.001質量%以下であり、最も好ましくは0.0001質量%以下である。
【0160】
上記ダイマー及びトリマーは、限外濾過、精密濾過、透析膜処理等により除去することができる。
【0161】
上記高分子化合物の含有量は、上記TFE系ポリマーに対して、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上であり、更に好ましくは0.08質量%以上であり、好ましくは5.0質量%以下であり、より好ましくは3.0質量%以下であり、更に好ましくは2.0質量%以下であり、更により好ましくは1.0質量%以下である。
【0162】
上記高分子化合物の含有量は、固体NMR測定より求められる。
また、国際公開第2014/099453号、国際公開第2010/075497、国際公開第2010/075496号、国際公開第2011/008381、国際公開第2009/055521号、国際公開第1987/007619号、特開昭61-293476号公報、国際公開第2010/075494号、国際公開第2010/075359号、国際公開第2012/082454号、国際公開第2006/119224号、国際公開第2013/085864号、国際公開第2012/082707号、国際公開第2012/082703号、国際公開第2012/082451号、国際公開第2006/135825号、国際公開第2004/067588号、国際公開第2009/068528号、特開2004-075978号公報、特開2001-226436号公報、国際公開第1992/017635号、国際公開第2014/069165号、特開平11-181009号公報等に、それぞれの重合体の測定方法が記載されている。上記高分子化合物の含有量の測定方法としては、これらに記載のそれぞれの重合体の測定方法を用いることができる。
【0163】
本開示のTFE系ポリマー組成物におけるTFE系ポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)の単独重合体であってもよいし、TFEに基づく重合単位(TFE単位)と、変性モノマーに基づく重合単位(以下「変性モノマー単位」とも記載する)とを含むTFE共重合体であってもよい。
TFEの単独重合体とは、全重合単位中TFEと共重合可能な変性モノマーに基づく重合単位の含有量が0.0001質量%未満のものを指す。上記TFE共重合体は、10質量%以下の変性モノマー単位を含むものである。
上記TFE系ポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であってもよい。上記PTFEは、TFEのホモポリマーであってもよいし、変性PTFEであってもよい。
上記変性PTFEは、99.0質量%以上のTFE単位と、1.0質量%以下の変性モノマー単位とを含むものである。また、上記変性PTFEは、TFE単位及び変性モノマー単位のみからなるものであってよい。
上記TFE共重合体は、変性PTFEであってよい。
上記TFE系ポリマーとしては、ガス発生及び電気化学デバイス特性の劣化を一層抑制することができる点、結着力、合剤シートの強度及び柔軟性が向上する点で、上記TFE共重合体が好ましく、上記変性PTFEがより好ましい。
【0164】
上記TFE系ポリマーは、ガス発生及び電池特性の劣化を一層抑制することができる点、延伸性、結着力、合剤シートの強度及び柔軟性が向上する点で、変性モノマー単位の含有量が全重合単位に対し0.0001~10質量%の範囲であることが好ましい。変性モノマー単位の含有量の下限としては、0.001質量%がより好ましく、0.005質量%が更に好ましく、0.010質量%が更により好ましく、0.015質量%が殊更に好ましい。変性モノマー単位の含有量の上限としては、5.0質量%が好ましく、3.0質量%がより好ましく、1.0質量%が更に好ましく、0.90質量%が更により好ましく、0.80質量%が更により好ましく、0.50質量%が更により好ましく、0.40質量%が更により好ましく、0.30質量%が更により好ましく、0.20質量%が更により好ましく、0.15質量%が更により好ましく、0.10質量%が更により好ましく、0.08質量%が更により好ましく、0.05質量%が特に好ましく、0.03質量%が最も好ましい。
本明細書において、上記変性モノマー単位とは、TFE系ポリマーの分子構造の一部分であって変性モノマーに由来する部分を意味する。
【0165】
上述した各重合単位の含有量は、NMR、FT-IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0166】
上記変性モノマーとしては、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕等のパーフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン〔VDF〕等の水素含有フルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕等のパーハロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル:パーフルオロアリルエーテル;(パーフルオロアルキル)エチレン、エチレン等が挙げられる。また、用いる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0167】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては特に限定されず、例えば、下記一般式(A):
CF=CF-ORf (A)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0168】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(A)において、Rfが炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕が挙げられる。上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1~5である。
【0169】
上記PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。
【0170】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、更に、上記一般式(A)において、Rfが炭素数4~9のパーフルオロ(アルコキシアルキル)基であるもの、Rfが下記式:
【0171】
【化6】
【0172】
(式中、mは、0又は1~4の整数を表す。)で表される基であるもの、Rfが下記式:
【0173】
【化7】
【0174】
(式中、nは、1~4の整数を表す。)で表される基であるもの等が挙げられる。
【0175】
(パーフルオロアルキル)エチレン〔PFAE〕としては特に限定されず、例えば、(パーフルオロブチル)エチレン〔PFBE〕、(パーフルオロヘキシル)エチレン等が挙げられる。
【0176】
パーフルオロアリルエーテルとしては、例えば、一般式(B):
CF=CF-CF-ORf (B)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるフルオロモノマーが挙げられる。
【0177】
上記Rfは、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基又は炭素数1~10のパーフルオロアルコキシアルキル基が好ましい。上記パーフルオロアリルエーテルとしては、CF=CF-CF-O-CF、CF=CF-CF-O-C、CF=CF-CF-O-C、及び、CF=CF-CF-O-Cからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、CF=CF-CF-O-C、CF=CF-CF-O-C、及び、CF=CF-CF-O-Cからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、CF=CF-CF-O-CFCFCFが更に好ましい。
【0178】
上記変性モノマーとしては、延伸性、結着力及び合剤シートの柔軟性が向上する点で、PAVE、HFP、VDF及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、HFP、VDF及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、PMVE及びHFPからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0179】
上記TFE系ポリマーは、コアシェル構造を有していてもよい。コアシェル構造を有するTFE系ポリマーとしては、例えば、粒子中に高分子量のPTFEのコアと、より低分子量のPTFE又は変性のPTFEのシェルとを含む変性PTFEが挙げられる。このような変性PTFEとしては、例えば、特表2005-527652号公報に記載されるPTFEが挙げられる。
【0180】
上記TFE系ポリマーは、強度に一層優れる電極合剤シートを形成することができる点で、吸熱ピーク温度が320℃以上であることが好ましく、325℃以上であることがより好ましく、330℃以上であることが更に好ましく、335℃以上であることが更により好ましく、340℃以上であることが更により好ましく、342℃以上であることが更により好ましく、344℃以上であることが特に好ましい。上記吸熱ピーク温度は、また、350℃以下であることが好ましい。
上記吸熱ピーク温度は、300℃以上の温度に加熱した履歴がないフッ素樹脂について10℃/分の昇温速度で示差走査熱量測定〔DSC〕を行って得られた融解熱曲線における極小点に対応する温度である。1つの融解ピーク中に極小点が2つ以上ある場合は、それぞれを吸熱ピーク温度とする。
【0181】
上記TFE系ポリマーは、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線において、333~347℃の範囲に1つ以上の吸熱ピークが現れ、上記融解熱曲線から算出される290~350℃の融解熱量が62mJ/mg以上であることが好ましい。
【0182】
上記TFE系ポリマーは、強度に一層優れる電極合剤シートを形成することができる点で、数平均分子量(Mn)が0.5×10以上であることが好ましく、1.0×10以上であることがより好ましく、1.5×10以上であることが更に好ましく、2.0×10以上であることが更により好ましく、3.0×10以上であることが特に好ましい。上記数平均分子量は、また、20.0×10以下であることが好ましく、15.0×10以下であることがより好ましく、12.0×10以下であることが更に好ましく、10.0×10以下であることが更により好ましく、8.0×10以下であることが特に好ましい。
上記数平均分子量は、フッ素樹脂を溶融後に示差走査型熱量計(DSC)の降温測定を行って見積もった結晶化熱から、下記の文献に記載の方法に従って求めた分子量である。測定は5回行い、最大値及び最小値を除いた3つの値の平均値を採用する。
文献:Suwa,T.;Takehisa,M.;Machi,S.,J.Appl.Polym.Sci.vol.17,pp.3253(1973).
【0183】
上記バインダーは、フィブリル径(中央値)が100nm以下の繊維状構造を有することが好ましい。上記フィブリル径(中央値)は、80nm以下であることがより好ましく、70nm以下であることが更に好ましく、65nm以下であることが更により好ましく、62nm以下であることが特に好ましい。このようにフィブリル径が細いバインダーが二次電池用合剤中に存在し、これが二次電池用合剤を構成する成分の粉体(電極活物質や固体電解質)同士を結着させる作用を奏することによって、合剤シートの強度及び柔軟性を一層向上させることができる。
なお、フィブリル化を進めすぎると、柔軟性が失われる傾向にある。下限は特に限定されるものではないが、強度の観点から、例えば、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることが更に好ましく、20nm以上であることが更により好ましい。
【0184】
上記フィブリル径(中央値)は、以下の方法によって測定した値である。
(1)走査型電子顕微鏡(S-4800型日立製作所製)を用いて、二次電池用合剤シートの拡大写真(7000倍)を撮影し画像を得る。
(2)この画像に水平方向に等間隔で2本の線を引き、画像を三等分する。
(3)上方の直線上にある全てのフィブリル化したバインダーについて、フィブリル化したバインダー1本あたり3箇所の直径を測定し、平均した値を当該フィブリル化したバインダーの直径とする。測定する3箇所は、フィブリル化したバインダーと直線との交点、交点からそれぞれ上下に0.5μmずつずらした場所を選択する(未繊維化のバインダー一次粒子は除く。)。
(4)上記(3)の作業を、下方の直線上にある全てのフィブリル化したバインダーに対して行う。
(5)1枚目の画像を起点に画面右方向に1mm移動し、再度撮影を行い、上記(3)及び(4)によりフィブリル化したバインダーの直径を測定する。これを繰り返し、測定した数が80本を超えた時点で終了とする。
(6)上記測定した全てのフィブリル化したバインダーの直径の中央値をフィブリル径の大きさとする。
【0185】
上記バインダーに用いるTFE系ポリマー組成物は、実質的に上記TFE系ポリマー及び上記高分子化合物のみからなることが好ましい。これにより、上記TFE系ポリマー及び上記高分子化合物による効果を顕著に発揮させることができる。実質的に上記TFE系ポリマー及び上記高分子化合物のみからなるとは、上記TFE系ポリマー及び上記高分子化合物の合計量が、上記TFE系ポリマー組成物に対し、95.0質量%以上であることを意味する。
上記TFE系ポリマー及び上記高分子化合物の合計量は、上記TFE系ポリマー組成物に対し、98.0質量%以上であることが好ましく、99.0質量%以上であることがより好ましく、99.5質量%以上であることが更に好ましく、99.9質量%以上であることが特に好ましく、99.95質量%以上であることが最も好ましい。
【0186】
上記バインダーは、実質的に上記TFE系ポリマー組成物のみからなることが好ましい。これにより、上記TFE系ポリマー組成物による効果を顕著に発揮させることができる。実質的に上記TFE系ポリマー組成物のみからなるとは、上記PTFE組成物の含有量が、上記バインダーに対し、95.0質量%以上であることを意味する。
上記TFE系ポリマー組成物の含有量は、上記バインダーに対し、98.0質量%以上であることが好ましく、99.0質量%以上であることがより好ましく、99.5質量%以上であることが更に好ましく、99.9質量%以上であることが特に好ましく、99.95質量%以上であることが最も好ましい。
【0187】
上記TFE系ポリマー組成物は、水分を実質的に含まないことが好ましい。これにより、ガス発生及び電池特性の劣化を一層抑制することができ、合剤シート強度を向上させることもできる。また、組み合わせる電極活物質や固体電解質を広く選択することができるので、生産工程上有利である。水分を実質的に含まないとは、上記TFE系ポリマー組成物に対する水分含有量が0.050質量%以下であることを意味する。
上記水分含有量は、0.040質量%以下であることが好ましく、0.020質量%以下であることがより好ましく、0.010質量%以下であることが更に好ましく、0.005質量%以下であることが更により好ましく、0.002質量%以下であることが特に好ましい。
上記水分含有量は、以下の方法により測定する。
TFE系ポリマー組成物を150℃で2時間加熱した前後の質量を測定し、以下の式に従って算出する。試料を3回取り、それぞれ算出した後、平均を求め、当該平均値を採用する。
水分含有量(質量%)=[(加熱前のTFE系ポリマー組成物の質量(g))-(加熱後のTFE系ポリマー組成物の質量(g))]/(加熱前のTFE系ポリマー組成物の質量(g))×100
【0188】
上記TFE系ポリマー組成物は、分子量1000以下の含フッ素化合物を実質的に含まないことが好ましい。上記含フッ素化合物を実質的に含まないとは、上記含フッ素化合物の量が、上記TFE系ポリマー組成物に対し25質量ppb以下であることを意味する。
上記含フッ素化合物の量は、25質量ppb未満であることが好ましく、10質量ppb以下であることがより好ましく、10質量ppb未満であることが更に好ましく、5質量ppb以下であることが更により好ましく、3質量ppb以下であることが更により好ましく、1質量ppb以下であることが更により好ましく、1質量ppb未満であることが特に好ましい。下限は特に限定されず、定量下限未満の量であってよい。
【0189】
上記分子量1000以下の含フッ素化合物の量は、以下の方法により測定する。
試料を1g秤量し、メタノールを10g(12.6ml)加え、60分間の超音波処理を行ない、抽出液を得る。得られた抽出液を適宜窒素パージで濃縮し、濃縮後の抽出液中の含フッ素化合物をLC/MS/MS測定する。得られたLC/MSスペクトルから、分子量情報を抜出し、候補となる含フッ素化合物の構造式との一致を確認する。標準物質の5水準以上の含有量の水溶液を作製し、それぞれの含有量の水溶液のLC/MS分析を行ない、含有量と、その含有量に対するエリア面積と関係をプロットし、検量線を描く。上記検量線を用いて、抽出液中の含フッ素化合物のLC/MSクロマトグラムのエリア面積を、含フッ素化合物の含有量に換算する。
なお、この測定方法における定量下限は10質量ppbである。
【0190】
上記分子量1000以下の含フッ素化合物の量は、以下の方法によっても測定することができる。
試料を1g秤量し、メタノールを10g(12.6ml)加え、60℃で2時間、超音波処理を行ない、室温で静置した後、固形分を除き、抽出液を得る。得られた抽出液を適宜窒素パージで濃縮し、濃縮後の抽出液中の含フッ素化合物をLC/MS/MS測定する。得られたLC/MSスペクトルから、分子量情報を抜出し、候補となる含フッ素化合物の構造式との一致を確認する。濃度既知の含フッ素化合物のメタノール標準溶液を5水準調製し、液体クロマトグラフ質量分析計を用いて測定を行い、それぞれの濃度範囲において、メタノール標準溶液濃度とピークの積分値から一次近似を用い、検量線を作成する。上記検量線から、抽出液に含まれる含フッ素化合物の含有量を測定し、試料に含まれる含フッ素化合物の含有量を換算する。
なお、この測定方法における定量下限は1質量ppbである。
【0191】
上記分子量1000以下の含フッ素化合物としては、例えば、分子量1000g/mol以下の親水基を有する含フッ素化合物が挙げられる。上記含フッ素化合物の分子量は、800以下であることが好ましく、500以下であることがより好ましい。
含フッ素界面活性剤の存在下で行う重合により得られる重合粒子には、PTFE以外に、含フッ素界面活性剤が含まれることが通常である。本明細書において、含フッ素界面活性剤は、重合時に使用されるものである。
上記分子量1000以下の含フッ素化合物は、重合の際に添加されていない化合物、例えば、重合途中で副生する化合物であってよい。
なお、上記分子量1000以下の含フッ素化合物は、アニオン性部とカチオン性部とを含む場合は、アニオン性部の分子量が1000以下であるフッ素を含む化合物を意味する。上記分子量1000以下の含フッ素化合物には、PTFEは含まれないものとする。
【0192】
上記親水基としては、例えば、-COOM、-SOM、又は、-SOMであってよく、-COOM、-SOM(各式中、Mは、H、金属原子、NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基である。)等のアニオン性基が挙げられる。
【0193】
上記含フッ素界面活性剤としては、アニオン性部分の分子量が1000以下のフッ素を含む界面活性剤(アニオン性含フッ素界面活性剤)を用いることもできる。上記「アニオン性部分」は、上記含フッ素界面活性剤のカチオンを除く部分を意味する。例えば、F(CFn1COOMの場合には、「F(CFn1COO」の部分である。
上記アニオン性含フッ素界面活性剤としては、下記一般式(N):
n0-Rfn0-Y (N
(式中、Xn0は、H、Cl又は及びFである。Rfn0は、炭素数3~20で、鎖状、分枝鎖状又は環状で、一部又は全てのHがFにより置換されたアルキレン基であり、該アルキレン基は1つ以上のエーテル結合を含んでもよく、一部のHがClにより置換されていてもよい。Yはアニオン性基である。)で表される化合物が挙げられる。
のアニオン性基は、-COOM、-SOM、又は、-SOMであってよく、-COOM、又は、-SOMであってよい。
Mは、H、金属原子、NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムであり、Rは、H又は有機基である。
上記金属原子としては、アルカリ金属(1族)、アルカリ土類金属(2族)等が挙げられ、例えば、Na、K又はLiである。
としては、H又はC1-10の有機基であってよく、H又はC1-4の有機基であってよく、H又はC1-4のアルキル基であってよい。
Mは、H、金属原子又はNR であってよく、H、アルカリ金属(1族)、アルカリ土類金属(2族)又はNR であってよく、H、Na、K、Li又はNHであってよい。
上記Rfn0は、Hの50%以上がフッ素に置換されているものであってよい。
【0194】
上記含フッ素界面活性剤は、1種の含フッ素界面活性剤であってもよいし、2種以上の含フッ素界面活性剤を含有する混合物であってもよい。
【0195】
上記含フッ素界面活性剤としては、例えば、以下の式で表される化合物が挙げられる。含フッ素界面活性剤は、これらの化合物の混合物であってよい。
F(CFCOOM、
F(CFCOOM、
H(CFCOOM、
H(CFCOOM、
CFO(CFOCHFCFCOOM、
OCF(CF)CFOCF(CF)COOM、
CFCFCFOCF(CF)COOM、
CFCFOCFCFOCFCOOM、
OCF(CF)CFOCF(CF)COOM、
CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOM、
CFClCFCFOCF(CF)CFOCFCOOM、
CFClCFCFOCFCF(CF)OCFCOOM、
CFClCF(CF)OCF(CF)CFOCFCOOM、
CFClCF(CF)OCFCF(CF)OCFCOOM、及び、
【化8】
(各式中、Mは、H、金属原子、NR 、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム又は置換基を有していてもよいホスホニウムである。Rは、H又は有機基である。)。
本開示のPTFE組成物は、上記式で表される含フッ素化合物のいずれをも実質的に含まないことが好ましい。
【0196】
上記の各式において、Mは、H、金属原子又はNR であってよく、H、アルカリ金属(1族)、アルカリ土類金属(2族)又はNR であってよく、H、Na、K、Li又はNHであってよい。
は、H又はC1-10の有機基であってよく、H又はC1-4の有機基であってよく、H又はC1-4のアルキル基であってよい。
【0197】
上記TFE系ポリマー組成物が上記式で表される含フッ素化合物のいずれをも実質的に含まないものであると、ガス発生及び電池特性の劣化を一層抑制することができ、合剤シート強度を一層向上させることもできる。
上記式で表される含フッ素化合物のいずれをも実質的に含まないとは、当該含フッ素化合物の量が、上記TFE系ポリマー組成物に対し25質量ppb以下であることを意味する。
上記含フッ素化合物の量は、25質量ppb未満であることが好ましく、10質量ppb以下であることがより好ましく、10質量ppb未満であることが更に好ましく、5質量ppb以下であることが更により好ましく、3質量ppb以下であることが更により好ましく、1質量ppb以下であることが更により好ましく、1質量ppb未満であることが特に好ましい。下限は特に限定されず、定量下限未満の量であってよい。
【0198】
上記TFE系ポリマー組成物は、下記一般式:
[Cn-12n-1COO]M
(式中、nは9~14の整数、好ましくは9~12の整数、Mはカチオンを表す。)で表される含フッ素化合物を実質的に含まないことも好ましい。これにより、ガス発生及び電池特性の劣化を一層抑制することができ、合剤シート強度を一層向上させることもできる。
上記式中のカチオンMを構成するMは、上述したMと同様である。
上記式で表される含フッ素化合物を実質的に含まないとは、当該含フッ素化合物の量が、上記TFE系ポリマー組成物に対し25質量ppb以下であることを意味する。
上記含フッ素化合物の量は、25質量ppb未満であることが好ましく、10質量ppb以下であることがより好ましく、10質量ppb未満であることが更に好ましく、5質量ppb以下であることが更により好ましく、3質量ppb以下であることが更により好ましく、1質量ppb以下であることが更により好ましく、1質量ppb未満であることが特に好ましい。下限は特に限定されず、定量下限未満の量であってよい。
【0199】
上記TFE系ポリマー組成物は、非溶融二次加工性を有することが好ましい。上記非溶融二次加工性とは、ASTM D-1238及びD-2116に準拠して、融点より高い温度でメルトフローレートを測定できない性質、言い換えると、溶融温度領域でも容易に流動しない性質を意味する。
【0200】
上記TFE系ポリマー組成物は、ガス発生及び電池特性の劣化を一層抑制することができる点、延伸性、結着力、合剤シートの強度及び柔軟性が向上する点で、標準比重(SSG)が2.280以下であることが好ましく、2.250以下であることがより好ましく、2.220以下であることが更に好ましく、2.200以下であることが更により好ましく、2.190以下であることが更により好ましく、2.180以下であることが殊更に好ましく、2.170以下であることが特に好ましい。
上記SSGは、また、2.130以上であることが好ましい。
上記SSGは、ASTM D 4895に準拠して成形されたサンプルを用い、ASTM D 792に準拠した水置換法により測定する。
【0201】
上記TFE系ポリマー組成物は、ガス発生及び電池特性の劣化を一層抑制することができる点、結着力、合剤シートの強度及び柔軟性が向上する点で、リダクションレシオ(RR)100における押出圧力が10MPa以上であることが好ましく、12MPa以上であることがより好ましく、15MPa以上であることが更に好ましく、16MPa以上であることが更により好ましく、17MPa以上であることが特に好ましい。
RR100における押出圧力は、また、加工性が向上する点で、50MPa以下であることが好ましく、40MPa以下であることがより好ましく、35MPa以下であることが更に好ましく、30MPa以下であることが更により好ましく、25MPa以下であることが更により好ましく、21MPa以下であることが更により好ましく、20MPa以下であることが特に好ましい。
【0202】
RR100における押出圧力は、特開2002-201217号公報記載の方法に準拠し、下記方法で求める。
TFE系ポリマー組成物100gに、潤滑剤(商品名:アイソパーH(登録商標)、エクソン社製)21.7gを添加し、室温にてガラスビン中で3分間混合する。次いで、ガラスビンを、押出前少なくとも1時間、室温(25℃)に放置し、潤滑化樹脂を得る。潤滑化樹脂をオリフィス(直径2.5mm、ランド長11mm、導入角30°)を通して、室温で100:1の減速比でペースト押出し、均一なビード(beading;押出成形体)を得る。押出スピード、すなわち、ラムスピードは、20インチ/分(51cm/分)とする。ペースト押出において押出負荷が平衡状態になった時の負荷を測定し、ペースト押出に用いたシリンダーの断面積で除することにより、押出圧力を算出する。
【0203】
上記TFE系ポリマー組成物は、ガス発生及び電池特性の劣化を一層抑制することができる点、結着力、合剤シートの強度及び柔軟性が向上する点で、RR300における押出圧力が18MPa以上であることが好ましく、23MPa以上であることがより好ましく、25MPa以上であることが更に好ましく、28MPa以上であることが更により好ましく、30MPa以上であることが殊更に好ましく、32MPa以上であることが特に好ましい。
RR300における押出圧力は、また、加工性が向上する点で、45MPa以下であることが好ましく、40MPa以下であることがより好ましい。
【0204】
RR300における押出圧力は、以下の方法により測定する。
TFE系ポリマー粉末50gと押出助剤としての炭化水素油(商品名:アイソパーG、エクソン社製)10.25gとをポリエチレン容器内で3分間混合する。室温(25℃)で、押出機のシリンダーに上記混合物を充填し、シリンダーに挿入したピストンに0.47MPaの負荷をかけて1分間保持する。次にラム速度18mm/minでオリフィスから押出する。オリフィスの断面積に対するシリンダーの断面積の比(リダクションレシオ)は300である。押出操作の後半において、圧力が平衡状態になったときの荷重(N)をシリンダー断面積で除した値を押出圧力(MPa)とする。
【0205】
上記TFE系ポリマー組成物は、ガス発生及び電池特性の劣化を一層抑制することができる点、結着力、合剤シートの強度及び柔軟性が向上する点で、延伸可能であることが好ましい。
延伸可能であるとは、以下の延伸試験において延伸体が得られることを意味する。
上記のRR100でのペースト押出により得られたビードを230℃で30分加熱することにより、潤滑剤をビードから除去する。次に、ビード(押出成形体)を適当な長さに切断し、クランプ間隔が1.5インチ(38mm)となるよう、各末端をクランプに固定し、空気循環炉中で300℃に加熱する。次いでクランプを所望のストレッチ(総ストレッチ)に相当する分離距離となるまで所望の速度(ストレッチ速度)で離し、延伸試験(ストレッチ試験)を実施する。このストレッチ方法は、押出スピード(84cm/分でなく51cm/分)が異なることを除いて、本質的に米国特許第4,576,869号明細書に開示された方法に従う。『ストレッチ』とは、延伸による長さの増加であり、通常元の長さに対する比率として表される。ストレッチ方法においてストレッチ速度は、1000%/秒であり、上記総ストレッチは2400%である。
【0206】
上記TFE系ポリマー組成物は、ガス発生及び電池特性の劣化を一層抑制することができる点、結着力、合剤シートの強度及び柔軟性が一層向上する点で、24倍に延伸可能であることが好ましい。
24倍に延伸可能であるとは、上記の延伸試験の延伸中に破断しないことを意味する。
【0207】
上記TFE系ポリマー組成物は、合剤シート強度が一層向上する点で、破断強度が5N以上であることが好ましく、10N以上であることがより好ましく、15N以上であることが更に好ましい。破断強度の上限は特に限定されないが、例えば、50N以下であって良い。
上記破断強度は、下記方法で求めた値である。
上述の延伸試験で得られた延伸ビード(ビードをストレッチすることによって作製されたもの)について、5.0cmのゲージ長である可動ジョーにおいて挟んで固定し、25℃で300mm/分の速度で引っ張り試験を行い、破断した時の強度を破断強度として測定する。
【0208】
上記TFE系ポリマー組成物の形態は限定されないが、分散媒を多量に使用することなく電極活物質や固体電解質と混合できる点で、粉末であることが好ましい。
なお、上記TFE系ポリマー組成物は、粉末以外の形態であってもよく、例えば、分散液であってもよい。
【0209】
上記TFE系ポリマー組成物は、平均一次粒子径が100~350nmであることが好ましい。平均一次粒子径が上記範囲内にあることにより、上記TFE系ポリマーの分子量が高く、結着力及び合剤シートの柔軟性が向上する。
上記平均一次粒子径は、330nm以下であることがより好ましく、320nm以下であることが更に好ましく、300nm以下であることが更により好ましく、280nm以下であることが更により好ましく、250nm以下であることが特に好ましく、また、150nm以上であることがより好ましく、170nm以上であることが更に好ましく、200nm以上であることが更により好ましい。
上記平均一次粒子径は、以下の方法により測定する。
TFE系ポリマー水性分散液を水で固形分濃度0.15質量%になるまで希釈し、得られた希釈ラテックスの単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真により定方向を測定して決定した数基準長さ平均粒子径とを測定して、検量線を作成する。この検量線を用いて、各試料の550nmの投射光の実測透過率から数平均粒子径を決定し、平均一次粒子径とする。
また、平均一次粒子径は、動的光散乱法により測定できる。動的光散乱法においては、固形分濃度を約1.0質量%に調整したTFE系ポリマー水性分散液を作製し、ELSZ-1000S(大塚電子社製)を使用して25℃、積算70回にて測定する。溶媒(水)の屈折率は1.3328、溶媒(水)の粘度は0.8878mPa・sとする。
【0210】
上記TFE系ポリマー組成物は、平均二次粒子径が350μm以上であってよく、400μm以上であることが好ましく、450μm以上であることがより好ましく、500μm以上であることが更に好ましく、550μm以上であることが更により好ましく、600μm以上であることが特に好ましく、また、1000μm以下であることが好ましく、900μm以下であることがより好ましく、800μm以下であることが更に好ましく、700μm以下であることが更により好ましい。
上記平均二次粒子径は、JIS K 6891に準拠して測定する。
【0211】
上記TFE系ポリマー組成物は、取り扱い性に優れる点で、平均アスペクト比が2.0以下であってよく、1.8以下であることが好ましく、1.7以下であることがより好ましく、1.6以下であることが更に好ましく、1.5以下であることが更により好ましく、1.4以下であることが更により好ましく、1.3以下であることが殊更に好ましく、1.2以下であることが特に好ましく、1.1以下であることが最も好ましい。上記平均アスペクト比は、また、1.0以上であってよい。
上記平均アスペクト比は、TFE系ポリマー組成物、又は、固形分濃度が約1質量%となるように希釈したTFE系ポリマー水性分散液を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、無作為に抽出した200個以上の粒子について画像処理を行い、その長径と短径の比の平均より求める。
【0212】
上記TFE系ポリマー組成物は、成形性が良好で、破断強度が高い合剤シートが得られる点で、アスペクト比が1.5以上の繊維状粒子を、全TFE系ポリマー粒子に対して、20~60%の割合で含むことが好ましい。
上記繊維状粒子の全粒子に対する割合は、以下のようにして算出することができる。
(1)上記繊維状粒子を含むTFE系ポリマー粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像する。撮影倍率は、例えば、300~1000倍とすることができる。
(2)撮像した画像をコンピュータに取り込み、ImageJ等の画像解析ソフトで、全粒子を上記繊維状粒子と、アスペクト比が1.5未満の粒子とに分ける。
(3)上記繊維状粒子の個数を、全粒子の個数、即ち、上記繊維状粒子とアスペクト比が1.5未満の粒子の個数の合計で除して、全粒子に対する上記繊維状粒子の割合を算出する。
上記アスペクト比が1.5以上の繊維状粒子は、例えば、上記TFE系ポリマー組成物を電極活物質や固体電解質と混合する際に形成される。
【0213】
上記TFE系ポリマー組成物は、取り扱い性に優れる点で、見掛密度が0.40g/ml以上であることが好ましく、0.43g/ml以上であることがより好ましく、0.45g/ml以上であることが更に好ましく、0.48g/ml以上であることが更により好ましく、0.50g/ml以上であることが特に好ましい。上限は特に限定されないが、0.70g/mlであっても構わない。
上記見掛密度は、JIS K 6892に準拠して測定する。
【0214】
上記TFE系ポリマー組成物は、例えば、上記イオン性基を有する高分子化合物の存在下に、水性媒体中でテトラフルオロエチレン(TFE)を重合することにより、上記高分子化合物、TFE系ポリマー及び水性媒体を含有する水性分散液を得る工程(A)、上記水性分散液を凝析して湿潤粉末を得る工程(B)、及び、上記湿潤粉末を乾燥させる工程(C)を含む製造方法によって好適に製造することができる。
【0215】
工程(A)の重合において、上記高分子化合物の添加量としては、水性媒体に対して、好ましくは0.02質量%を超え10質量%以下であり、より好ましい上限は3質量%、更に好ましい上限は1質量%である。上記高分子化合物の添加量を上記範囲内とすることにより、水性媒体中でのモノマーの重合を円滑に進行させることができる。上記高分子化合物の添加量は、上記重合において添加する上記高分子化合物の合計添加量である。
【0216】
上記重合においては、上記高分子化合物を一括して添加してもよいし、上記高分子化合物を連続的に添加してもよい。上記高分子化合物を連続的に添加するとは、例えば、上記高分子化合物を一括ではなく、経時的に、かつ、間断なく又は分割して、添加することである。上記重合においては、上記高分子化合物と水を含む水溶液を調製して、該水溶液を添加してもよい。
【0217】
上記重合においては、水性媒体中に形成されるTFE系ポリマーの固形分含有量が0.5質量%に達する前に、上記高分子化合物の添加を開始し、その後も上記高分子化合物を連続的に添加することが好ましい。上記高分子化合物の添加開始時期としては、好ましくはTFE系ポリマーの固形分含有量が0.3質量%に達する前であり、より好ましくは0.2質量%に達する前であり、更に好ましくは0.1質量%に達する前であり、特に好ましくは重合開始と同時である。上記固形分含有量は、水性媒体及びTFE系ポリマーの合計に対するTFE系ポリマーの含有量である。
【0218】
上記重合においては、上記高分子化合物を少なくとも1種用いれば、TFE系ポリマーを効率よく製造することが可能である。また、上記高分子化合物に包含される化合物を2種以上同時に用いてもよいし、揮発性を有するもの又はTFE系ポリマーからなる成形体等に残存してもよいものであれば、上記高分子化合物以外のその他の界面活性能を有する化合物を同時に使用してもよい。
【0219】
上記重合において、核形成剤を使用してもよい。核形成剤の添加量は、核形成剤の種類により適宜選択できる。核形成剤の添加量としては、水性媒体に対して、5000質量ppm以下であってよく、好ましくは1000質量ppm以下であり、より好ましくは500質量ppm以下であり、更に好まくは100質量ppm以下であり、特に好ましくは50質量ppm以下であり、最も好ましくは10質量ppm以下である。
【0220】
上記重合においては、重合開始前、又は、水性媒体中に形成されるTFE系ポリマーの固形分含有量が5.0質量%に達する前に、核形成剤を水性媒体中に添加することが好ましい。重合初期に核形成剤を添加することによって、平均一次粒子径が小さく、安定性に優れる水性分散液を得ることができる。
【0221】
重合初期に添加する核形成剤の量としては、得られるTFE系ポリマーに対して、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下であり、更に好ましくは0.5質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以下である。重合初期に添加する核形成剤の量の下限は限定されるものではないが、例えば、0.01質量ppmである。
【0222】
核形成剤を使用することにより、上記核形成剤の非存在下で重合を行うのと比較して、小さい一次粒子径を有するTFE系ポリマーが得られる。
【0223】
上記核形成剤としては、ジカルボン酸、パーフルオロポリエーテル(PFPE)酸又はその塩、炭化水素含有界面活性剤等が挙げられる。上記核形成剤は、芳香環を含まないことが好ましく、脂肪族化合物であることが好ましい。
【0224】
上記核形成剤は、重合開始剤の添加より前、若しくは、重合開始剤の添加と同時に加えることが好ましいが、重合途中に加えることにより、粒度分布を調整することもできる。
【0225】
上記ジカルボン酸の好ましい量として、上記水性媒体に対し、1000質量ppm以下であり、より好ましい量として500質量ppm以下であり、更に好ましい量として100質量ppm以下である。
【0226】
上記炭化水素含有界面活性剤の添加量は、上記水性媒体に対して、好ましくは40質量ppm以下、より好ましくは30質量ppm以下、更に好ましくは質量20ppm以下である。上記水性媒体中に存在する親油性核形成部位のppm量は、上記添加量よりも少ないと推測される。したがって、上記親油性核形成部位の量は、それぞれ上記の40質量ppm、30質量ppm、20質量ppmよりも小さい。上記親油性核形成部位は分子として存在すると考えられるので、ごく少量の上記炭化水素含有界面活性剤でも、大量の親油性核形成部位を生成することができる。したがって、上記炭化水素含有界面活性剤を水性媒体に1質量ppm程度加えるだけでも、有益な効果が得られる。好ましい下限値は0.01質量ppmである。
【0227】
上記炭化水素含有界面活性剤には、米国特許第7897682号明細書(Brothers et al.)及び米国特許第7977438号明細書(Brothers et al.)に開示されるもの等のシロキサン界面活性剤を含む、非イオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤が含まれる。
【0228】
上記炭化水素含有界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤(例えば、非イオン性炭化水素界面活性剤)が好ましい。すなわち、核形成剤としては、非イオン性界面活性剤が好ましい。上記非イオン性界面活性剤は、好ましくは芳香族部分を含まない。
【0229】
上記非イオン性界面活性剤としては、濃縮に供する組成物が含有し得る非イオン性界面活性剤を挙げることができる。
【0230】
上記重合において、上記高分子化合物とともに、ラジカル重合で反応可能な官能基と親水基とを有する化合物を使用してもよい。
【0231】
上記重合において、上記高分子化合物と、所望により用いるその他の界面活性能を有する化合物に加え、各化合物を安定化するため添加剤を使用することができる。上記添加剤としては、緩衝剤、pH調整剤、安定化助剤、分散安定剤等が挙げられる。
【0232】
安定化助剤としては、パラフィンワックス、フッ素系オイル、フッ素系溶剤、シリコーンオイル等が好ましい。安定化助剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。安定化助剤としては、パラフィンワックスがより好ましい。パラフィンワックスとしては、室温で液体でも、半固体でも、固体であってもよいが、炭素数12以上の飽和炭化水素が好ましい。パラフィンワックスの融点は、通常40~65℃が好ましく、50~65℃がより好ましい。
【0233】
安定化助剤の使用量は、使用する水性媒体の質量基準で0.1~12質量%が好ましく、0.1~8質量%がより好ましい。安定化助剤は十分に疎水的で、重合後に水性分散液と完全に分離されて、コンタミ成分とならないことが望ましい。
【0234】
上記重合は、重合反応器に、水性媒体、上記高分子化合物、モノマー及び必要に応じて他の添加剤を仕込み、反応器の内容物を撹拌し、そして反応器を所定の重合温度に保持し、次に所定量の重合開始剤を加え、重合反応を開始することにより行う。重合反応開始後に、目的に応じて、モノマー、重合開始剤、連鎖移動剤及び上記高分子化合物等を追加添加してもよい。上記高分子化合物を重合反応が開始した後に添加してもよい。
【0235】
通常、重合温度は、5~120℃であり、重合圧力は、0.05~10MPaGである。重合温度、重合圧力は、使用するモノマーの種類、目的とするPTFEの分子量、反応速度によって適宜決定される。
重合温度は、例えば、分子量分布に影響を与えるために、すなわち、広い分子量分布を得るため、又は二峰性若しくは多峰性の分子量分布を得るために、重合中に変化させてもよい。
重合媒体のpHは、pH2~11、好ましくは3~10、最も好ましくは4~10の範囲にあってもよい。
【0236】
上記重合開始剤としては、上記重合温度範囲でラジカルを発生しうるものであれば特に限定されず、公知の油溶性及び/又は水溶性の重合開始剤を使用することができる。更に、還元剤等と組み合わせてレドックスとして重合を開始することもできる。上記重合開始剤の濃度は、モノマーの種類、目的とするTFE系ポリマーの分子量、反応速度によって適宜決定される。
【0237】
上記重合開始剤としては、油溶性ラジカル重合開始剤、又は水溶性ラジカル重合開始剤を使用できる。
【0238】
水溶性ラジカル重合開始剤としては、公知の水溶性過酸化物であってよく、例えば、過硫酸、過ホウ酸、過塩素酸、過リン酸、過炭酸等のアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、ジコハク酸パーオキシド、ジグルタル酸パーオキシド等の有機過酸化物、t-ブチルパーマレエート、t-ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。サルファイト類のような還元剤も併せて含んでもよく、その使用量は過酸化物に対して0.1~20倍であってよい。
【0239】
例えば、30℃以下の低温で重合を実施する場合等では、重合開始剤として、酸化剤と還元剤を組み合わせるレドックス開始剤を用いるのが好ましい。酸化剤としては、過硫酸塩、有機過酸化物、過マンガン酸カリウム、三酢酸マンガン、セリウム硝酸アンモニウム等が挙げられる。還元剤としては、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、臭素酸塩、ジイミン、シュウ酸等が挙げられる。過硫酸塩としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムが挙げられる。亜硫酸塩としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウムが挙げられる。開始剤の分解速度を上げるため、レドックス開始剤の組み合わせには、銅塩、鉄塩を加えることも好ましい。銅塩としては、硫酸銅(II)、鉄塩としては硫酸鉄(II)が挙げられる。
【0240】
上記レドックス開始剤としては、例えば、過マンガン酸カリウム/シュウ酸、過硫酸アンモニウム/重亜硫酸塩/硫酸鉄、三酢酸マンガン/シュウ酸、セリウム硝酸アンモニウム/シュウ酸、臭素酸塩/重亜硫酸塩等が挙げられ、過マンガン酸カリウム/シュウ酸が好ましい。レドックス開始剤を用いる場合は、酸化剤又は還元剤のいずれかをあらかじめ重合槽に仕込み、ついでもう一方を連続的又は断続的に加えて重合を開始させてもよい。例えば、過マンガン酸カリウム/シュウ酸を用いる場合、重合槽にシュウ酸を仕込み、そこへ過マンガン酸カリウムを連続的に添加することが好ましい。
【0241】
重合開始剤の添加量は、特に限定はないが、重合速度が著しく低下しない程度の量(例えば、数ppm対水濃度)以上を重合の初期に一括して、又は逐次的に、又は連続して添加すればよい。上限は、装置面から重合反応熱で除熱を行ないながら、反応温度を上昇させてもよい範囲であり、より好ましい上限は、装置面から重合反応熱を除熱できる範囲である。
【0242】
上記水性媒体は、重合を行わせる反応媒体であって、水を含む液体を意味する。上記水性媒体は、水を含むものであれば特に限定されず、水と、例えば、アルコール、エーテル、ケトン等のフッ素非含有有機溶媒、及び/又は、沸点が40℃以下であるフッ素含有有機溶媒とを含むものであってもよい。
【0243】
上記重合において、更に、目的に応じて、公知の連鎖移動剤、ラジカル捕捉剤、分解剤を添加し、重合速度、分子量の調整を行うこともできる。
【0244】
上記連鎖移動剤としては、例えばマロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、コハク酸ジメチル等のエステル類のほか、イソペンタン、メタン、エタン、プロパン、メタノール、イソプロパノール、アセトン、各種メルカプタン、四塩化炭素等の各種ハロゲン化炭化水素、シクロヘキサン等が挙げられる。
【0245】
連鎖移動剤として臭素化合物又はヨウ素化合物を使用してもよい。臭素化合物又はヨウ素化合物を使用して行う重合方法としては、例えば、実質的に無酸素状態で、臭素化合物又はヨウ素化合物の存在下に、水性媒体中でフルオロモノマーの重合を行う方法が挙げられる(ヨウ素移動重合法)。使用する臭素化合物又はヨウ素化合物の代表例としては、例えば、一般式:
Br
(式中、x及びyはそれぞれ0~2の整数であり、かつ1≦x+y≦2を満たすものであり、Rは炭素数1~16の飽和若しくは不飽和のフルオロ炭化水素基又はクロロフルオロ炭化水素基、又は炭素数1~3の炭化水素基であり、酸素原子を含んでいてもよい)で表される化合物が挙げられる。臭素化合物又はヨウ素化合物を使用することによって、ヨウ素又は臭素が重合体に導入され、架橋点として機能する。
【0246】
臭素化合物又はヨウ素化合物としては、例えば1,3-ジヨードパーフルオロプロパン、2-ヨードパーフルオロプロパン、1,3-ジヨード-2-クロロパーフルオロプロパン、1,4-ジヨードパーフルオロブタン、1,5-ジヨード-2,4-ジクロロパーフルオロペンタン、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサン、1,8-ジヨードパーフルオロオクタン、1,12-ジヨードパーフルオロドデカン、1,16-ジヨードパーフルオロヘキサデカン、ジヨードメタン、1,2-ジヨードエタン、1,3-ジヨード-n-プロパン、CFBr、BrCFCFBr、CFCFBrCFBr、CFClBr、BrCFCFClBr、CFBrClCFClBr、BrCFCFCFBr、BrCFCFBrOCF、1-ブロモ-2-ヨードパーフルオロエタン、1-ブロモ-3-ヨードパーフルオロプロパン、1-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブタン、2-ブロモ-3-ヨードパーフルオロブタン、3-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブテン-1、2-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブテン-1、ベンゼンのモノヨードモノブロモ置換体、ジヨードモノブロモ置換体、並びに(2-ヨードエチル)及び(2-ブロモエチル)置換体等が挙げられ、これらの化合物は、単独で使用してもよく、相互に組み合わせて使用することもできる。
【0247】
これらのなかでも、重合反応性、架橋反応性、入手容易性等の点から、1,4-ジヨードパーフルオロブタン、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサン、2-ヨードパーフルオロプロパンを用いるのが好ましい。
【0248】
上記連鎖移動剤の使用量は、通常、供給されるフルオロモノマー全量に対して、1~50,000質量ppmであり、好ましくは1~20,000質量ppmである。
【0249】
上記連鎖移動剤は、重合開始前に一括して反応容器中に添加してもよいし、重合開始後に一括して添加してもよいし、重合中に複数回に分割して添加してもよいし、また、重合中に連続的に添加してもよい。
【0250】
重合開始剤としては、過硫酸塩(例えば、過硫酸アンモニウム)や、ジコハク酸パーオキシド、ジグルタル酸パーオキシド等の有機過酸化物を、単独で又はこれらの混合物の形で使用することができる。また、亜硫酸ナトリウム等の還元剤と共用し、レドックス系にして用いてもよい。更に、重合中に、ヒドロキノン、カテコール等のラジカル捕捉剤を添加したり、亜硫酸アンモニウム等のパーオキサイドの分解剤を添加し、系内のラジカル濃度を調整したりすることもできる。
【0251】
上記重合においては、上記高分子化合物の存在下に、水性媒体中でフルオロモノマーを重合して、フルオロポリマー粒子の水性分散液を製造し、上記フルオロポリマー粒子の水性分散液中で、フルオロモノマーをフルオロポリマー粒子にシード重合することにより、フルオロポリマーを得てもよい。
【0252】
上記重合は、実質的に含フッ素界面活性剤(但し、ラジカル重合で反応可能な官能基と親水基とを有する化合物を除く)の非存在下に、フルオロモノマーを重合するものであることが好ましい。上記製造方法によれば、含フッ素界面活性剤を使用しない場合であってもPTFEを得ることができる。
【0253】
本開示において「実質的に含フッ素界面活性剤の非存在下に」とは、水性媒体に対する含フッ素界面活性剤の量が10質量ppm以下であることを意味する。水性媒体に対する含フッ素界面活性剤の量としては、好ましくは1質量ppm以下であり、より好ましくは100質量ppb以下であり、更に好ましくは10質量ppb以下であり、更により好ましくは10質量ppb未満であり、更により好ましくは1質量ppb以下であり、特に好ましくは1質量ppb未満である。
【0254】
上記含フッ素界面活性剤としては、本開示のTFE系ポリマー組成物に実質的に含まれないことが好ましい含フッ素界面活性剤として、上述したものが挙げられる。
【0255】
上記重合により、TFE系ポリマー、上記高分子化合物及び水性媒体を含有する水性分散液が得られる。上記水性分散液中のTFE系ポリマーの含有量(固形分濃度)は、通常、10~50質量%であり、より好ましくは15質量%以上であり、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは35質量%以下である。
【0256】
上記水性分散液に、更に上記高分子化合物を添加してもよい。
【0257】
工程(B)における凝析は、公知の方法により行うことができる。
上記TFE系ポリマーの水性分散液に対して凝析を行う場合、通常、ポリマーラテックス等の重合により得た水性分散液を、水を用いて10~25質量%のポリマー濃度(好ましくは10~20質量%のポリマー濃度)になるように希釈し、場合によっては、pHを中性又はアルカリ性に調整した後、撹拌機付きの容器中で反応中の撹拌よりも激しく撹拌して行う。上記凝析は、メタノール、アセトン等の水溶性有機化合物、硝酸カリウム、炭酸アンモニウム等の無機塩や、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸等を凝析剤として添加しながら撹拌を行ってもよい。上記凝析は、また、インラインミキサー等を使用して連続的に行ってもよい。
【0258】
工程(C)において、上記乾燥は、通常、上記湿潤粉末をあまり流動させない状態、好ましくは静置の状態を保ちながら、真空、高周波、熱風等の手段を用いて行う。粉末同士の、特に高温での摩擦は、一般にファインパウダー型のTFE系ポリマーに好ましくない影響を与える。これは、この種のTFE系ポリマーからなる粒子が小さな剪断力によっても簡単にフィブリル化して、元の安定な粒子構造の状態を失う性質を持っているからである。
上記乾燥の温度は、押出圧力が低下する観点では、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、230℃以下が更に好ましく、210℃以下が更により好ましく、190℃以下が更により好ましく、170℃以下が特に好ましい。破断強度が向上する観点では、10℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、150℃以上が更に好ましく、170℃以上が更により好ましく、190℃以上が更により好ましく、210℃以上が特に好ましい。上記強度比を一層高くするために、この温度範囲で適宜調整することが好ましい。
【0259】
工程(C)においては、工程(B)で得られた湿潤粉末を底面及び/又は側面に通気性のある容器に配置し、130~300℃の温度で2時間以上の時間熱処理することが好ましい。このように極めて限定された条件下で熱処理することにより、上記分子量1000以下の含フッ素化合物を水とともに効率よく除去することができ、当該含フッ素化合物及び水分の含有量を上述の範囲内とすることができる。
【0260】
工程(C)における熱処理の温度は、水分及び含フッ素化合物を一層効率よく除去できる点で、140℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、160℃以上であることが更に好ましく、180℃以上であることが更により好ましく、200℃以上であることが更に好ましく、220℃以上であることが特に好ましく、また、280℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましい。
【0261】
工程(C)における熱処理の時間は、水分及び含フッ素化合物を一層効率よく除去できる点で、5時間以上であることが好ましく、10時間以上であることがより好ましく、15時間以上であることが更に好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、100時間であることが好ましく、50時間であることがより好ましく、30時間であることが更に好ましい。
【0262】
工程(C)における風速は、水分及び含フッ素化合物を一層効率よく除去できる点で、0.01m/s以上であることが好ましく、0.03m/s以上であることがより好ましく、0.05m/s以上であることが更に好ましく、0.1m/s以上であることが更により好ましい。また、粉末の飛び散りを抑制する観点で、50m/s以下が好ましく、30m/s以下がより好ましく、10m/s以下が更に好ましい。
【0263】
工程(C)における熱処理は、電気炉又はスチーム炉を用いて行うことができる。例えば、並行流箱型電気炉、通気式箱型電気炉、通気式コンベア式電気炉、バンド電気炉、輻射式コンベア式電気炉、流動層電気炉、真空電気炉、攪拌式電気炉、気流式電気炉、熱風循環式電気炉等の電気炉、又は、上記に対応するスチーム炉(上記各電気炉の装置名における電気炉をスチーム炉に読み替えた装置)を用いて行うことができる。水分を一層効率よく除去できる点で、並行流箱型電気炉、通気式箱型電気炉、通気式コンベア式電気炉、バンド電気炉、流動層電気炉、熱風循環式電気炉、上記に対応するスチーム炉(上記各電気炉の装置名における電気炉をスチーム炉に読み替えた装置)が好ましい。
【0264】
工程(C)における熱処理は、水分及び含フッ素化合物を一層効率よく除去できる点で、上記湿潤粉末を底面及び/又は側面に通気性のある容器に配置して行うことが好ましい。上記底面及び/又は側面に通気性のある容器は、上記熱処理温度に耐え得るものであればよいが、ステンレス等の金属製であることが好ましい。
上記底面及び/又は側面に通気性のある容器としては、底面及び/又は側面に通気性を有するトレー(バット)が好ましく、底面及び/又は側面がメッシュで作製されたトレー(メッシュトレー)が更に好ましい。
上記メッシュは、織網とパンチングメタルのいずれかであることが好ましい。
上記メッシュの目開きは、2000μm以下(ASTM規格の10メッシュ以上)が好ましく、595μm以下(30メッシュ以上)がより好ましく、297μm以下(50メッシュ以上)が更に好ましく、177μm以下(80メッシュ以上)が更により好ましく、149μm以下(100メッシュ以上)が殊更に好ましく、74μm以下(200メッシュ以上)が特に好ましい。また、25μm以上(500メッシュ以下)が好ましい。
上記メッシュが織網である場合の織り方としては、例えば、平織、綾織、平畳織、綾畳織が挙げられる。
上記メッシュがパンチングメタルである場合の開孔率は、10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上が更に好ましい。また、95%以下が好ましい。
【0265】
工程(C)において、上記湿潤粉末の配置量は、水分及び含フッ素化合物を一層効率よく除去できる点で、10g/cm以下であることが好ましく、8g/cm以下であることがより好ましく、5g/cm以下であることが更に好ましく、3g/cm以下であることが特に好ましく、また、0.01g/cm以上であることが好ましく、0.05g/cm以上であることがより好ましく、0.1g/cm以上であることが更に好ましい。
【0266】
工程(C)において熱処理する湿潤粉末の水分含有量は、水分及び含フッ素化合物を一層効率よく除去できる点で、上記湿潤粉末に対し10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましく、また、150質量%以下であることが好ましく、100質量%以下であることがより好ましい。
【0267】
本開示の電気化学デバイス用合剤は、支持体を用いなくても強度及び柔軟性に優れる点で、自立膜であることが好ましい。
本開示において、自立膜とは、基材等の支持体がなくても独立して膜形状を維持することができる膜を意味する。自立膜は、単独での取り扱いが可能な状態の膜であり、支持体上に蒸着等によって形成された状態の膜(支持膜)とは異なる。
ただし、その用途や使用態様において接着等の適宜の接合手段により各種基材や基材に接合、積層されていても良いし、各種支持体に支持されていても良い。
膜が自立膜であるか否かは、以下の方法により判断する。
膜厚が10μm以上1000μm以下の時に、膜を10×10cmにカッターで切り出し、重心をピンセット(株式会社エンジニア製、PTS07)で摘んだ時にヒビや割れが生じたり、折れ曲がったりすることがない場合に、自立膜であると判断する。
【0268】
本開示の合剤は電池、キャパシタ等の電気化学デバイスに用いられる。
電池としては、リチウムイオン電池等の二次電池等が挙げられる。
キャパシタとしては特に限定されないが、電気化学キャパシタであることが好ましい。電気化学キャパシタとしては、電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、レドックスキャパシタ等が挙げられる。ハイブリッドキャパシタとしては、例えば、ナトリウムイオンキャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、マグネシウムイオンキャパシタが挙げられる。これらの中でも特に電気二重層キャパシタが好ましい。
【0269】
本開示の電気化学デバイス用合剤は、電池に用いられることが好ましく、二次電池に用いられることがより好ましい。二次電池に用いられる場合、電解液を使用する二次電池(電解液含有二次電池)の電極に用いられるものであってもよく、固体二次電池の電極に用いられるものであってもよく、固体二次電池の固体電解質層に用いられるものであってもよい。
なお、本明細書において、固体二次電池は、固体電解質を含む二次電池であればよく、電解質として固体電解質及び液体成分を含む半固体二次電池であってもよいし、電解質として固体電解質のみを含む全固体二次電池であってもよい。
【0270】
電解液含有二次電池の電極に用いられる場合、上記二次電池用合剤は、通常、電極活物質を含む。
固体二次電池の電極に用いられる場合、上記二次電池用合剤は、通常、電極活物質及び固体電解質を含む。
固体二次電池の固体電解質層に用いられる場合、上記二次電池用合剤は、通常、固体電解質を含む。
【0271】
上記電極活物質としては、正極活物質及び負極活物質が挙げられる。
【0272】
正極活物質としては、電気化学的にアルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に制限されないが、例えば、アルカリ金属と少なくとも1種の遷移金属を含有する物質が好ましい。具体例としては、アルカリ金属含有遷移金属複合酸化物、アルカリ金属含有遷移金属リン酸化合物等が挙げられる。なかでも、正極活物質としては、特に、高電圧を産み出すアルカリ金属含有遷移金属複合酸化物が好ましい。上記アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。好ましい態様において、アルカリ金属イオンは、リチウムイオンであり得る。即ち、この態様において、アルカリ金属イオン二次電池は、リチウムイオン二次電池である。
【0273】
上記アルカリ金属含有遷移金属複合酸化物としては、例えば、
式:MMn2-b
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;0.9≦a;0≦b≦1.5;MはFe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si及びGeからなる群より選択される少なくとも1種の金属)で表されるアルカリ金属・マンガンスピネル複合酸化物(リチウム・マンガンスピネル複合酸化物等)、
式:MNi1-c
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;0≦c≦0.5;MはFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si及びGeからなる群より選択される少なくとも1種の金属)で表されるアルカリ金属・ニッケル複合酸化物(リチウム・ニッケル複合酸化物等)、又は、
式:MCo1-d
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;0≦d≦0.5;MはFe、Ni、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si及びGeからなる群より選択される少なくとも1種の金属)で表されるアルカリ金属・コバルト複合酸化物(リチウム・コバルト複合酸化物等)が挙げられる。
上記において、Mは、好ましくは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種の金属であり、より好ましくはLi又はNaであり、更に好ましくはLiである。
【0274】
なかでも、エネルギー密度が高く、高出力な二次電池を提供できる点から、MCoO、MMnO、MNiO、MMn、MNi0.8Co0.15Al0.05、又はMNi1/3Co1/3Mn1/3等が好ましく、下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
MNiCoMn (3)
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、MはFe、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si及びGeからなる群より選択される少なくとも1種を示し、(h+i+j+k)=1.0、0≦h≦1.0、0≦i≦1.0、0≦j≦1.5、0≦k≦0.2である。)
【0275】
上記アルカリ金属含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、下記一般式(4):
(PO (4)
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、MはV、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される少なくとも1種を示し、0.5≦e≦3、1≦f≦2、1≦g≦3である。)で表される化合物が挙げられる。上記において、Mは、好ましくは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種の金属であり、より好ましくはLi又はNaであり、更に好ましくはLiである。すなわち、上記アルカリ金属含有遷移金属リン酸化合物としては、リチウム含有遷移金属リン酸化合物が好ましい。
【0276】
上記リチウム含有遷移金属リン酸化合物の遷移金属としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、具体例としては、例えば、LiFePO、LiFe(PO、LiFeP等のリン酸鉄類、LiCoPO等のリン酸コバルト類、これらのリチウム遷移金属リン酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Si等の他の元素で置換したもの等が挙げられる。上記リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、オリビン型構造を有するものが好ましい。
【0277】
その他の正極活物質としては、リチウム・ニッケル系複合酸化物が挙げられる。上記リチウム・ニッケル系複合酸化物としては、下記一般式(5):
LiNi1-x (5)
(式中、xは、0.01≦x≦0.7、yは、0.9≦y≦2.0であり、Mは金属原子(但しLi及びNiを除く)を表す)で表される正極活物質が好ましい。
【0278】
その他の正極活物質としては、MFePO、MNi0.8Co0.2、M1.2Fe0.4Mn0.4、MNi0.5Mn1.5、MV、MMnO等も挙げられる。特に、MMnO、MNi0.5Mn1.5等の正極活物質は、4.4Vを超える電圧や、4.6V以上の電圧で二次電池を作動させた場合であっても、結晶構造が崩壊しない点で好ましい。従って、上記に例示した正極活物質を含む正極材を用いた二次電池等の電気化学デバイスは、高温で保管した場合でも、残存容量が低下しにくく、抵抗増加率も変化しにくい上、高電圧で作動させても電池性能が劣化しないことから、好ましい。
【0279】
その他の正極活物質として、MMnOとMM(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、Mは、Co、Ni、Mn、Fe等の遷移金属)との固溶体材料等も挙げられる。
【0280】
上記固溶体材料としては、例えば、一般式Mx[Mn(1-y) ]Oで表わされるアルカリ金属マンガン酸化物が挙げられる。ここで式中のMは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、Mは、M及びMn以外の少なくとも一種の金属元素からなり、例えば、Co,Ni,Fe,Ti,Mo,W,Cr,Zr及びSnからなる群より選択される一種又は二種以上の元素を含んでいる。また、式中のx、y、zの値は、1<x<2、0≦y<1、1.5<z<3の範囲である。中でも、Li1.2Mn0.5Co0.14Ni0.14のようなLiMnOをベースにLiNiOやLiCoOを固溶したマンガン含有固溶体材料は、高エネルギー密度を有するアルカリ金属イオン二次電池を提供できる点から好ましい。
【0281】
また、正極活物質にリン酸リチウムを含ませると、連続充電特性が向上するので好ましい。リン酸リチウムの使用に制限はないが、前記の正極活物質とリン酸リチウムを混合して用いることが好ましい。使用するリン酸リチウムの量は上記正極活物質とリン酸リチウムの合計に対し、下限が、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、上限が、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0282】
また、上記正極活物質の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等が挙げられる。
【0283】
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加、乾燥する方法、表面付着物質前駆体を溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加後、加熱等により反応させる方法、正極活物質前駆体に添加して同時に焼成する方法等により該正極活物質表面に付着させることができる。なお、炭素を付着させる場合には、炭素質を、例えば、活性炭等の形で後から機械的に付着させる方法を用いることもできる。
【0284】
表面付着物質の量としては、上記正極活物質に対して質量で、下限として好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは1ppm以上、更に好ましくは10ppm以上、上限として、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下で用いられる。表面付着物質により、正極活物質表面での電解質の酸化反応を抑制することができ、電池寿命を向上させることができるが、その付着量が少なすぎる場合その効果は十分に発現せず、多すぎる場合には、リチウムイオンの出入りを阻害するため抵抗が増加する場合がある。
【0285】
正極活物質の粒子の形状は、従来用いられるような、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等が挙げられる。また、一次粒子が凝集して、二次粒子を形成していてもよい。
【0286】
正極活物質のタップ密度は、好ましくは0.5g/cm以上、より好ましくは0.8g/cm以上、更に好ましくは1.0g/cm以上である。該正極活物質のタップ密度が上記下限を下回ると正極活物質層形成時に、必要な分散媒量が増加すると共に、導電材やバインダーの必要量が増加し、正極活物質層への正極活物質の充填率が制約され、電池容量が制約される場合がある。タップ密度の高い複合酸化物粉体を用いることにより、高密度の正極活物質層を形成することができる。タップ密度は一般に大きいほど好ましく、特に上限はないが、大きすぎると、正極活物質層内における電解質を媒体としたリチウムイオンの拡散が律速となり、負荷特性が低下しやすくなる場合があるため、上限は、好ましくは4.0g/cm以下、より好ましくは3.7g/cm以下、更に好ましくは3.5g/cm以下である。
上記タップ密度は、正極活物質粉体5~10gを10mlのガラス製メスシリンダーに入れ、ストローク約20mmで200回タップした時の粉体充填密度(タップ密度)g/cmとして求める。
【0287】
正極活物質の粒子のメジアン径d50(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子径)は好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは0.8μm以上、最も好ましくは1.0μm以上であり、また、好ましくは30μm以下、より好ましくは27μm以下、更に好ましくは25μm以下、最も好ましくは22μm以下である。上記下限を下回ると、高タップ密度品が得られなくなる場合があり、上限を超えると粒子内のリチウムの拡散に時間がかかるため、電池性能の低下をきたす等の問題を生ずる場合がある。ここで、異なるメジアン径d50をもつ上記正極活物質を2種類以上混合することで、正極作製時の充填性を更に向上させることができる。
【0288】
上記メジアン径d50は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定される。粒度分布計としてHORIBA社製LA-920を用いる場合、測定の際に用いる分散媒として、0.1質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散後に測定屈折率1.24を設定して測定される。
【0289】
一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には、上記正極活物質の平均一次粒子径としては、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは0.2μm以上であり、上限は、好ましくは5μm以下、より好ましくは4μm以下、更に好ましくは3μm以下、最も好ましくは2μm以下である。上記上限を超えると球状の二次粒子を形成し難く、粉体充填性に悪影響を及ぼしたり、比表面積が大きく低下したりするために、出力特性等の電池性能が低下する可能性が高くなる場合がある。逆に、上記下限を下回ると、通常、結晶が未発達であるために充放電の可逆性が劣る等の問題を生ずる場合がある。
上記平均一次粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定される。具体的には、10000倍の倍率の写真で、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長の値を、任意の50個の一次粒子について求め、平均値をとることにより求められる。
【0290】
正極活物質のBET比表面積は、好ましくは0.1m/g以上、より好ましくは0.2m/g以上、更に好ましくは0.3m/g以上であり、上限は好ましくは50m/g以下、より好ましくは40m/g以下、更に好ましくは30m/g以下である。BET比表面積がこの範囲よりも小さいと電池性能が低下しやすく、大きいとタップ密度が上がりにくくなり、正極活物質層形成時の加工性に問題が発生しやすい場合がある。
上記BET比表面積は、表面積計(例えば、大倉理研社製全自動表面積測定装置)を用い、試料に対して窒素流通下150℃で30分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定した値で定義される。
【0291】
本開示の電気化学デバイスが、ハイブリッド自動車用や分散電源用の大型リチウムイオン二次電池として使用される場合、高出力が要求されるため、上記正極活物質の粒子は二次粒子が主体となることが好ましい。上記正極活物質の粒子は、二次粒子の平均粒子径が40μm以下で、かつ、平均一次粒子径が1μm以下の微粒子を、0.5~7.0体積%含むものであることが好ましい。平均一次粒子径が1μm以下の微粒子を含有させることにより、電解液との接触面積が大きくなり、電極合剤と電解質との間でのリチウムイオンの拡散をより速くすることができ、その結果、電池の出力性能を向上させることができる。
【0292】
正極活物質の製造法としては、無機化合物の製造法として一般的な方法が用いられる。特に球状ないし楕円球状の活物質を作製するには種々の方法が考えられるが、例えば、遷移金属の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、攪拌をしながらpHを調節して球状の前駆体を作製回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、LiCO、LiNO等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法等が挙げられる。
【0293】
正極の製造のために、前記の正極活物質を単独で用いてもよく、異なる組成の2種以上を、任意の組み合わせ又は比率で併用してもよい。この場合の好ましい組み合わせとしては、LiCoOとLiNi0.33Co0.33Mn0.33等の三元系との組み合わせ、LiCoOとLiMn若しくはこのMnの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせ、あるいは、LiFePOとLiCoO若しくはこのCoの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせが挙げられる。
【0294】
上記正極活物質の含有量は、電池容量が高い点で、正極合剤の50~99.5質量%が好ましく、80~99質量%がより好ましい。また、正極活物質層中の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは82質量%以上、特に好ましくは84質量%以上である。また上限は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。正極活物質層中の正極活物質の含有量が低いと電気容量が不十分となる場合がある。逆に含有量が高すぎると正極の強度が不足する場合がある。
【0295】
負極活物質としては特に限定されず、例えば、リチウム金属、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛及び、難黒鉛化性炭素等の炭素質材料を含むもの、ケイ素及びケイ素合金等のシリコン含有化合物、LiTi12等から選択されるいずれか、又は2種類以上の混合物等を挙げることができる。なかでも、炭素質材料を少なくとも一部に含むものや、シリコン含有化合物を特に好適に使用することができる。
【0296】
本開示において用いる負極活物質は、ケイ素を構成元素に含むことが好適である。ケイ素を構成元素に含むものとすることで、高容量な電池を作製することができる。
【0297】
ケイ素を含む材料としては、ケイ素粒子、ケイ素の微粒子がケイ素系化合物に分散した構造を有する粒子、一般式SiOx(0.5≦x≦1.6)で表される酸化ケイ素粒子、又はこれらの混合物が好ましい。これらを使用することで、より初回充放電効率が高く、高容量でかつサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極合剤が得られる。
【0298】
本開示における酸化ケイ素とは、非晶質のケイ素酸化物の総称であり、不均化前の酸化ケイ素は、一般式SiOx(0.5≦x≦1.6)で表される。xは0.8≦x<1.6が好ましく、0.8≦x<1.3がより好ましい。この酸化ケイ素は、例えば、二酸化ケイ素と金属ケイ素との混合物を加熱して生成した一酸化ケイ素ガスを冷却・析出して得ることができる。
【0299】
ケイ素の微粒子がケイ素系化合物に分散した構造を有する粒子は、例えば、ケイ素の微粒子をケイ素系化合物と混合したものを焼成する方法や、一般式SiOxで表される不均化前の酸化ケイ素粒子を、アルゴン等不活性な非酸化性雰囲気中、400℃以上、好適には800~1,100℃の温度で熱処理し、不均化反応を行うことで得ることができる。特に後者の方法で得た材料は、ケイ素の微結晶が均一に分散されるため好適である。上記のような不均化反応により、ケイ素ナノ粒子のサイズを1~100nmとすることができる。なお、ケイ素ナノ粒子が酸化ケイ素中に分散した構造を有する粒子中の酸化ケイ素については、二酸化ケイ素であることが望ましい。なお、透過電子顕微鏡によってシリコンのナノ粒子(結晶)が無定形の酸化ケイ素に分散していることを確認することができる。
【0300】
ケイ素を含む粒子の物性は、目的とする複合粒子により適宜選定することができる。例えば、平均粒径は0.1~50μmが好ましく、下限は0.2μm以上がより好ましく、0.5μm以上が更に好ましい。上限は30μm以下がより好ましく、20μm以下が更に好ましい。上記平均粒径は、レーザー回折法による粒度分布測定における重量平均粒径で表すものである。
【0301】
BET比表面積は、0.5~100m/gが好ましく、1~20m/gがより好ましい。BET比表面積が0.5m/g以上であれば、電極に加工した際の接着性が低下して電池特性が低下するおそれがない。また100m/g以下であれば、粒子表面の二酸化ケイ素の割合が大きくなり、リチウムイオン二次電池用負極材として用いた際に電池容量が低下するおそれがない。
【0302】
上記ケイ素を含む粒子を炭素被覆することで導電性を付与し、電池特性の向上が見られる。導電性を付与するための方法として、上記ケイ素を含む粒子と黒鉛等の導電性のある粒子とを混合する方法、上記ケイ素を含む粒子の表面を炭素被膜で被覆する方法、及びその両方を組み合わせる方法が挙げられるが、炭素被膜で被覆する方法が好ましく、化学蒸着(CVD)する方法がより好ましい。
【0303】
上記負極活物質の含有量は、得られる電極合剤の容量を増やすために、電極合剤中40質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上、特に好ましくは60質量%以上である。また上限は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。
【0304】
上記固体電解質は、硫化物系固体電解質であっても、酸化物系固体電解質であってもよい。特に、硫化物系固体電解質を使用する場合、柔軟性があるという利点がある。
【0305】
上記硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、LiS-P、LiS-P、LiS-P-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiI-LiS-SiS-P、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、LiPS-LiGeS、Li3.40.6Si0.4、Li3.250.25Ge0.76、Li4-xGe1-x(X=0.6~0.8)、Li4+yGe1-yGa(y=0.2~0.3)、LiPSCl、LiCl、Li7-x-2yPS6-x-yCl(0.8≦x≦1.7、0<y≦-0.25x+0.5)、Li10SnP12等から選択されるいずれか、又は2種類以上の混合物を使用することができる。
【0306】
上記硫化物系固体電解質は、リチウムを含有するものであることが好ましい。リチウムを含有する硫化物系固体電解質は、リチウムイオンをキャリアとして使用する固体電池に使用されるものであり、高エネルギー密度を有する電気化学デバイスという点で特に好ましいものである。
【0307】
上記酸化物系固体電解質は、酸素原子(O)を含有し、かつ、周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
【0308】
具体的な化合物例としては、例えば、LixaLayaTiO〔xa=0.3~0.7、ya=0.3~0.7〕(LLT)、LixbLaybZrzbbb mbnb(MbbはAl,Mg,Ca,Sr,V,Nb,Ta,Ti,Ge,In,Snの少なくとも1種以上の元素でありxbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。)、Lixcyccc zcnc(MccはC,S,Al,Si,Ga,Ge,In,Snの少なくとも1種以上の元素でありxcは0≦xc≦5を満たし、ycは0≦yc≦1を満たし、zcは0≦zc≦1を満たし、ncは0≦nc≦6を満たす。)、Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadmdnd(ただし、1≦xd≦3、0≦yd≦2、0≦zd≦2、0≦ad≦2、1≦md≦7、3≦nd≦15)、Li(3-2xe)ee xeeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。)、LixfSiyfzf(1≦xf≦5、0<yf≦3、1≦zf≦10)、Lixgygzg(1≦xg≦3、0<yg≦2、1≦zg≦10)、LiBO-LiSO、LiO-B-P、LiO-SiO、LiBaLaTa12、LiPO(4-3/2w)(wはw<1)、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.51Li0.34TiO2.94、La0.55Li0.35TiO、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12、Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyh3-yh12(ただし、0≦xh≦1、0≦yh≦1)、ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12(LLZ)等が挙げられる。また、LLZに対して元素置換を行ったセラミックス材料も知られている。例えば、LLZに対して、一部をAlで置換したLi6.24LaZrAl0.2411.98、Li6.25Al0.25LaZr12や、Taで置換したLi6.6LaZr1.6Ta0.412、Nbで置換したLi6.75LaZr1.75Nb0.2512等が挙げられる。他にはLLZに対して、Mg(マグネシウム)とA(Aは、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Ba(バリウム)から構成される群より選択される少なくとも1つの元素)との少なくとも一方の元素置換を行ったLLZ系セラミックス材料も挙げられる。また、Li、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiPOD(Dは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt、Au等から選ばれた少なくとも1種)等が挙げられる。また、LiAON(Aは、Si、B、Ge、Al、C、Ga等から選ばれた少なくとも1種)等も好ましく用いることができる。具体例として、例えば、LiO-Al-SiO-P-TiO-GeO、LiO-Al-SiO-P-TiO等が挙げられる。
【0309】
上記酸化物系固体電解質は、リチウムを含有するものであることが好ましい。リチウムを含有する酸化物系固体電解質は、リチウムイオンをキャリアとして使用する固体電池に使用されるものであり、高エネルギー密度を有する電気化学デバイスという点で特に好ましいものである。
【0310】
上記酸化物系固体電解質は、結晶構造を有する酸化物であることが好ましい。結晶構造を有する酸化物は、良好なLiイオン伝導性という点で特に好ましいものである。結晶構造を有する酸化物としては、ペロブスカイト型(La0.51Li0.34TiO2.94等)、NASICON型(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO等)、ガーネット型(LiLaZr12(LLZ)等)等が挙げられる。なかでも、NASICON型が好ましい。
【0311】
酸化物系固体電解質の体積平均粒子径は特に限定されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.03μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。なお、酸化物系固体電解質粒子の平均粒子径の測定は、以下の手順で行う。酸化物系固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mlサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調整する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJISZ8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0312】
本開示の電気化学デバイス用合剤は、厚みが300μm以下であることが好ましく、250μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることが更に好ましく、180μm以下であることが更により好ましく、150μm以下であることが特に好ましく、また、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることが更に好ましい。
【0313】
本開示の電気化学デバイス用合剤が電極合剤である場合は、更に、導電助剤を含むことが好ましい。
上記導電助剤としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス、カーボンナノチューブ、フラーレン、VGCF等の無定形炭素等の炭素材料等が挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0314】
導電助剤は、電極合剤中に、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、また、通常50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下含有するように用いられる。含有量がこの範囲よりも低いと導電性が不十分となる場合がある。逆に、含有量がこの範囲よりも高いと電池容量が低下する場合がある。
【0315】
本開示の電気化学デバイス用合剤が電極合剤である場合は、更に、熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。熱可塑性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデンや、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0316】
電極活物質に対する熱可塑性樹脂の割合は、通常0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上であり、また、通常3.0質量%以下、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下の範囲である。熱可塑性樹脂を添加することで、電極の機械的強度を向上させることができる。また、この範囲を上回ると、電極合剤に占める電極活物質の割合が低下し、電池の容量が低下する問題や活物質間の抵抗が増大する問題が生じる場合がある。
【0317】
本開示の電気化学デバイス用合剤は、電池用の合剤として好適に使用することができ、二次電池用の合剤としてより好適に使用することができる。特に、本開示の電気化学デバイス用合剤は、リチウムイオン二次電池に好適である。上記合剤は、二次電池に使用するにあたっては、通常、シート状の形態で使用される。
本開示は、本開示の電気化学デバイス用合剤を含む電気化学デバイス用合剤シートも提供する。
【0318】
本開示の電気化学デバイス(好ましくは二次電池)用合剤シートは、厚みが300μm以下であることが好ましく、250μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることが更に好ましく、180μm以下であることが更により好ましく、150μm以下であることが特に好ましく、また、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることが更に好ましい。
【0319】
本開示の電気化学デバイス用合剤及び電気化学デバイス用合剤シートは、電極活物質、固体電解質等の粉体成分と、バインダー(上記TFE系ポリマー組成物)とを用いて製造することができる。
【0320】
以下に、合剤シートの具体的な製造方法の一例を示す。上記合剤シートは、電極活物質及び/又は固体電解質を含む粉体成分及びバインダー、必要に応じて導電助剤を含む原料組成物を混合する工程(1)、上記工程(1)によって得られた原料組成物をバルク状に成形する工程(2)、及び、上記工程(2)によって得られたバルク状の原料組成物をシート状に圧延する工程(3)を有する製造方法によって得ることができる。
【0321】
上記工程(1)において原料組成物を混合した段階では、原料組成物は、粉体成分、バインダー等が単に混ざっているだけで定まった形のない状態で存在している。具体的な混合方法としては、W型混合機、V型混合機、ドラム型混合機、リボン混合機、円錐スクリュー型混合機、1軸混練機、2軸混練機、ミックスマラー、撹拌ミキサー、プラネタリーミキサー等を用いて混合する方法が挙げられる。
【0322】
上記工程(1)において、バインダー混合条件は、3000rpm以下とすることが好適である。好ましくは10rpm以上、より好ましくは15rpm以上、更に好ましくは20rpm以上であり、また、好ましくは2000rpm以下、より好ましくは1500rpm以下、更に好ましくは1000rpm以下の範囲である。上記の範囲を下回ると、混合に時間がかかることとなり生産性に影響を与える。また、上回ると、フィブリル化が過度に進行し、強度及び柔軟性の劣る合剤シートとなるおそれがある。
【0323】
上記工程(2)において、バルク状に成形するとは、原料組成物を1つの塊とするものである。バルク状に成形する具体的な方法として、押出成形、プレス成形等が挙げられる。また、「バルク状」とは、特に形状が特定されるものではなく、1つの塊状になっている状態であればよく、ロッド状、シート状、球状、キューブ状等の形態が含まれる。
【0324】
上記工程(3)における具体的な圧延方法としては、ロールプレス機、平板プレス機、カレンダーロール機等を用いて圧延する方法が挙げられる。
【0325】
また、工程(3)の後に、得られた圧延シートに、より大きい荷重を加えて、更に薄いシート状に圧延する工程(4)を有することも好ましい。工程(4)を繰り返すことも好ましい。このように、圧延シートを一度に薄くするのではなく、段階に分けて少しずつ圧延することで柔軟性がより良好となる。工程(4)の回数としては、2回以上10回以下が好ましく、3回以上9回以下がより好ましい。具体的な圧延方法としては、例えば、2つあるいは複数のロールを回転させ、その間に圧延シートを通すことによって、より薄いシート状に加工する方法等が挙げられる。
【0326】
また、フィブリル径を調整する観点で、工程(3)又は工程(4)の後に、圧延シートを粗砕したのち再度バルク状に成形し、シート状に圧延する工程(5)を有することも好ましい。工程(5)を繰り返すことも好ましい。工程(5)の回数としては、1回以上12回以下が好ましく、2回以上11回以下がより好ましい。
【0327】
工程(5)において、圧延シートを粗砕してバルク状に成形する具体的な方法として、シートを折りたたむ方法、あるいはロッド若しくは薄膜シート状に成形する方法、チップ化する方法等が挙げられる。本開示において、「粗砕する」とは、次工程でシート状に圧延するために、工程(3)又は工程(4)で得られた圧延シートの形態を別の形態に変化させることを意味するものであり、単に圧延シートを折りたたむような場合も含まれる。
【0328】
また、工程(5)の後に、工程(4)を行うようにしてもよく、繰り返し行ってもよい。また、工程(2)ないし、(3)、(4)、(5)において1軸延伸若しくは2軸延伸を行っても良い。また、工程(5)での粗砕程度によってもフィブリル径を調整することができる。
【0329】
上記工程(3)、(4)又は(5)において、圧延率は、好ましくは10%以上、更に好ましくは20%以上であり、また、好ましくは80%以下、より好ましくは65%以下、更に好ましくは50%以下の範囲である。上記の範囲を下回ると、圧延回数の増大とともに時間がかかることとなり生産性に影響を与える。また、上回ると、フィブリル化が過度に進行し、強度及び柔軟性の劣る電極合剤シートとなるおそれがある。なお、ここでいう圧延率とは、試料の圧延加工前の厚みに対する加工後の厚みの減少率を指す。圧延前の試料は、バルク状の原料組成物であっても、シート状の原料組成物であってもよい。試料の厚みとは、圧延時に荷重をかける方向の厚みを指す。
【0330】
上記合剤シートは、
工程(a):粉体成分とバインダーとを混合して合剤を形成するステップと、
工程(b):合剤をカレンダリング又は押出成形してシートを製造するステップと
を含み、
工程(a)の混合は、
(a1)粉体成分とバインダーとを均質化して粉末にする工程と、
(a2)工程(a1)によって得られた粉末状の原料混合物を混合して合剤を調製する工程と
を含むことを特徴とする製造方法によっても、好適に製造することができる。
【0331】
例えば、PTFEは、約19℃及び約30℃で2つの転移温度を有する。19℃未満では、PTFEは形状を維持した状態で容易に混合することができる。しかし、19℃を超えると、PTFE粒子の構造が緩くなり、機械的せん断に対してより敏感になる。30℃を超える温度では、より高度なフィブリル化が生じるようになる。
【0332】
このため、(a1)の均質化は、19℃以下、好ましくは0℃~19℃の温度で実施することが好ましい。
すなわち、このような(a1)においては、フィブリル化を抑制しながら、混合して均質化することが好ましい。
次いで行う工程である(a2)における混合は、30℃以上の温度で行うことで、フィブリル化を促進させることが好ましい。
【0333】
上記工程(a2)は、好ましくは30℃~150℃、より好ましくは35℃~120℃、更により好ましくは40℃~80℃の温度で行われる。
一実施形態では、上記工程(b)のカレンダリング又は押し出しは、30℃から150℃の間、好ましくは35℃から120℃の間、より好ましくは40℃から100℃の間の温度で実行される。
【0334】
上記工程(a)の混合は剪断力を付与しながら行うことが好ましい。
具体的な混合方法としては、W型混合機、V型混合機、ドラム型混合機、リボン混合機、円錐スクリュー型混合機、1軸混練機、2軸混練機、ミックスマラー、撹拌ミキサー、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミキサー、高速ミキサー等を用いて混合する方法が挙げられる。
【0335】
混合条件は、回転数と混合時間を適宜設定すればよい。例えば、回転数は、15000rpm以下とすることが好適である。好ましくは10rpm以上、より好ましくは50rpm以上、更に好ましくは100rpm以上であり、また、好ましくは12000rpm以下、より好ましくは10000rpm以下、更に好ましくは8000rpm以下の範囲である。上記の範囲を下回ると、混合に時間がかかることとなり生産性に影響を与える。また、上回ると、フィブリル化が過度に進行し、強度の劣る電極合剤シートとなるおそれがある。
工程(a1)では工程(a2)よりも弱い剪断力で行うことが好ましい。
また工程(a1)では工程(a2)よりも短い時間で行うことが望ましい。
【0336】
上記工程(a2)において、原料組成物は液体溶媒を含まないことが好ましいが、少量の潤滑剤を使用してもよい。すなわち、上記工程(a1)によって得られた粉末状の原料混合物に対して、潤滑剤を添加して、ペーストを調製してもよい。
【0337】
上記潤滑剤としては特に限定されず、水、エーテル化合物、アルコール、イオン液体、カーボネート、脂肪族炭化水素(ヘプタン、キシレン等の低極性溶剤)、イソパラフィン系炭化水素化合物及び石油留分(ガソリン(C4-C10)、ナフサ(C4-C11)、灯油/パラフィン(C10-C16)、及びそれらの混合物)等を挙げることができる。
【0338】
上記潤滑剤は、水分含有量が1000ppm以下であることが好ましい。
水分含有量が1000ppm以下であることによって、電気化学デバイスの劣化を低減させるという点で好ましい。上記水分含有量は、500ppm以下であることが更に好ましい。
【0339】
上記潤滑剤を用いる場合は、酪酸ブチル等の極性の低い溶剤、又はエーテル化合物であることが特に好ましい。
【0340】
上記潤滑剤を用いる場合は、その量は、工程(a1)に供する組成物の総重量に対して、5.0~35.0重量部、好ましくは10.0~30.0重量部、より好ましくは15.0~25.0重量部であってよい。
【0341】
上記原料組成物は、実質的に液体媒体を含有しないことが好ましい。従来の電極合剤形成方法は、バインダーが溶解した溶媒を使用して、電極合剤成分である粉体を分散させたスラリーを調製し、当該スラリーの塗布・乾燥によって電極合剤シートを調製することが一般的であった。この場合、バインダーを分散又は溶解する溶媒を使用する。しかし、従来一般に使用されてきたバインダー樹脂を溶解することができる溶媒はN-メチルピロリドン等の特定の溶媒に限定される。極性が高く、乾燥工程を経るため溶媒の使用による工程及びコストが生じる。また、これらは電解液及び固体電解質といった電解質と反応して、電解質を劣化させるため、スラリー調製時や乾燥後の残留成分が電池性能の低下原因となることがある。また、ヘプタン等の低極性溶媒では溶解するバインダー樹脂が非常に限定されるうえ、引火点が低く、取り扱いが煩雑になることがある。
【0342】
合剤シート形成時に溶媒を使用せず、水分の少ない粉体状のバインダーを用いることで、電解質の劣化が少ない電池を製造することができる。更に、上記のような製造方法においては、微細な繊維構造を有するバインダーを含有する合剤シートを製造することができると共に、また、スラリーを作製しないことで、製造プロセスの負担を軽減することができる。
【0343】
工程(b)は、カレンダリング又は押出しである。カレンダリング、押出しは、周知の方法によって行うことができる。これによって、合剤シートの形状に成形することができる。
工程(b)は、(b1)前記工程(a)によって得られた合剤をバルク状に成形する工程と、(b2)バルク状の合剤をカレンダリング又は押出成形する工程を含むことが好ましい。
【0344】
バルク状に成形するとは、合剤を1つの塊とするものである。
バルク状に成形する具体的な方法として、押出成形、プレス成形等が挙げられる。
また、「バルク状」とは、特に形状が特定されるものではなく、1つの塊状になっている状態であればよく、ロッド状、シート状、球状、キューブ状等の形態が含まれる。上記塊の大きさは、その断面の直径又は最小の一辺が10000μm以上であることが好ましい。より好ましくは20000μm以上である。
【0345】
上記工程(b2)におけるカレンダリング又は押出成形の具体的な方法としては、ロールプレス機、カレンダーロール機等を用いて、電極合剤を圧延する方法が挙げられる。
【0346】
上記工程(b)は、30~150℃で行うことが好ましい。上述したように、PTFEは、30℃付近にガラス転移温度を有することから、30℃以上において容易にフィブリル化するものである。よって、工程(b)は、このような温度で行うことが好ましい。
【0347】
そして、カレンダリング又は押出は、剪断力がかかるため、これによってPTFEがフィブリル化して、成形がなされる。
【0348】
工程(b)のあとに、得られた圧延シートに、より大きい荷重を加えて、更に薄いシート状に圧延する工程(c)を有することも好ましい。工程(c)を繰り返すことも好ましい。このように、圧延シートを一度に薄くするのではなく、段階に分けて少しずつ圧延することで柔軟性がより良好となる。
工程(c)の回数としては、2回以上10回以下が好ましく、3回以上9回以下がより好ましい。
具体的な圧延方法としては、例えば、2つあるいは複数のロールを回転させ、その間に圧延シートを通すことによって、より薄いシート状に加工する方法等が挙げられる。
【0349】
また、シート強度を調整する観点で、工程(b)又は工程(c)の後に、圧延シートを粗砕したのち再度バルク状に成形し、シート状に圧延する工程(d)を有することも好ましい。工程(d)を繰り返すことも好ましい。工程(d)の回数としては、1回以上12回以下が好ましく、2回以上11回以下がより好ましい。
【0350】
工程(d)において、圧延シートを粗砕してバルク状に成形する具体的な方法として、圧延シートを折りたたむ方法、あるいはロッドもしくは薄膜シート状に成形する方法、チップ化する方法等が挙げられる。本開示において、「粗砕する」とは、次工程でシート状に圧延するために、工程(b)又は工程(c)で得られた圧延シートの形態を別の形態に変化させることを意味するものであり、単に圧延シートを折りたたむような場合も含まれる。
【0351】
また、工程(d)の後に、工程(c)を行うようにしてもよく、繰り返し行ってもよい。
また、工程(a)ないし、(b)、(c)、(d)において1軸延伸もしくは2軸延伸を行っても良い。
また、工程(d)での粗砕程度によってもシート強度を調整することができる。
【0352】
上記工程(b)、(c)又は(d)において、圧延率は、好ましくは10%以上、更に好ましくは20%以上であり、また、好ましくは80%以下、より好ましくは65%以下、更に好ましくは50%以下の範囲である。上記の範囲を下回ると、圧延回数の増大とともに時間がかかることとなり生産性に影響を与える。また、上回ると、フィブリル化が過度に進行し、強度及び柔軟性の劣る電極合剤シートとなるおそれがある。
なお、ここでいう圧延率とは、試料の圧延加工前の厚みに対する加工後の厚みの減少率を指す。圧延前の試料は、バルク状の原料組成物であっても、シート状の原料組成物であってもよい。試料の厚みとは、圧延時に荷重をかける方向の厚みを指す。
上記工程(c)~(d)は30℃以上で行うのが好ましく、60℃以上がより好ましい。また、150℃以下で行うのが好ましい。
【0353】
上記合剤シートは、電気化学デバイス用の電極合剤シートとして使用することができる。負極、正極のいずれとすることもできる。特に、上記電極合剤シートは、リチウムイオン二次電池に好適である。
【0354】
本開示は、上述した本開示の電気化学デバイス用合剤シートを含む電極も提供する。上記電極は、本開示の電気化学デバイス用合剤シートと、集電体とを含むことが好ましい。本開示の電極は、強度及び柔軟性に優れる。
【0355】
本開示の電極は、上述した本開示の電気化学デバイス用合剤(好ましくは合剤シート)、及び、集電体を含むものであってもよい。
【0356】
本開示の電極は、正極であってもよく、負極であってもよい。
【0357】
上記正極は、集電体と、上記正極活物質を含む電極合剤シートとから構成されることが好適である。正極用集電体の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼、ニッケル等の金属、又は、その合金等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。なかでも、金属材料、特にアルミニウム又はその合金が好ましい。
【0358】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属箔が好ましい。なお、金属箔は適宜メッシュ状に形成してもよい。金属箔の厚さは任意であるが、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、また、通常1mm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。金属箔がこの範囲よりも薄いと集電体として必要な強度が不足する場合がある。逆に、金属箔がこの範囲よりも厚いと取り扱い性が損なわれる場合がある。
【0359】
また、集電体の表面に導電助剤が塗布されていることも、集電体と正極活物質層の電気接触抵抗を低下させる観点で好ましい。導電助剤としては、炭素や、金、白金、銀等の貴金属類が挙げられる。
【0360】
正極の製造は、常法によればよい。例えば、上記電極合剤シートと集電体とを接着剤を介して積層し、真空乾燥する方法等が挙げられる。
【0361】
正極合剤シートの密度は、好ましくは2.80g/cm以上、より好ましくは3.00g/cm以上、更に好ましくは3.20g/cm以上であり、また、好ましくは3.80g/cm以下、より好ましくは3.75g/cm以下、更に好ましくは3.70g/cm以下の範囲である。この範囲を上回ると集電体/活物質界面付近への電解液の浸透性が低下し、特に高電流密度での充放電特性が低下し高出力が得られない場合がある。また下回ると活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大し高出力が得られない場合がある。
【0362】
正極の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、集電体の金属箔厚さを差し引いた合剤層の厚さは、集電体の片面に対して下限として、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上で、また、好ましくは500μm以下、より好ましくは450μm以下である。
【0363】
上記負極は、集電体と、上記負極活物質を含む電極合剤シートとから構成されることが好適である。負極用集電体の材質としては、銅、ニッケル、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属、又は、その合金等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。なかでも、金属材料、特に銅、ニッケル、又はその合金が好ましい。
【0364】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属箔が好ましい。なお、金属箔は適宜メッシュ状に形成してもよい。金属箔の厚さは任意であるが、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、また、通常1mm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。金属箔がこの範囲よりも薄いと集電体として必要な強度が不足する場合がある。逆に、金属箔がこの範囲よりも厚いと取り扱い性が損なわれる場合がある。
【0365】
負極の製造は、常法によればよい。例えば、上記電極合剤シートと集電体とを接着剤を介して積層し、真空乾燥する方法等が挙げられる。
【0366】
負極合剤の密度は、好ましくは1.3g/cm以上、より好ましくは1.4g/cm以上、更に好ましくは1.5g/cm以上であり、また、好ましくは2.0g/cm以下、より好ましくは1.9g/cm以下、更に好ましくは1.8g/cm以下の範囲である。この範囲を上回ると集電体/活物質界面付近への電解液の浸透性が低下し、特に高電流密度での充放電特性が低下し高出力が得られない場合がある。また下回ると活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大し高出力が得られない場合がある。
【0367】
負極の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、集電体の金属箔厚さを差し引いた合剤層の厚さは、集電体の片面に対して下限として、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上で、また、好ましくは500μm以下、より好ましくは450μm以下である。
【0368】
本開示は、上述した本開示の電極を備える電気化学デバイスも提供する。
【0369】
本開示の電気化学デバイスは、電解液を使用する二次電池であってもよく、固体二次電池であってもよい。
【0370】
上記電解液を使用する二次電池は、公知の二次電池において使用される電解液、セパレータ等を使用することができる。以下、これらについて詳述する。
【0371】
上記電解液としては、非水電解液が好ましく用いられる。非水電解液としては、公知の電解質塩を公知の電解質塩溶解用有機溶媒に溶解したものが使用できる。
【0372】
電解質塩溶解用有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の公知の炭化水素系溶媒;フルオロエチレンカーボネート、フルオロエーテル、フッ素化カーボネート等のフッ素系溶媒の1種若しくは2種以上が使用できる。
【0373】
電解質塩としては、例えばLiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、LiN(SOCF、LiN(SO等が挙げられ、サイクル特性が良好な点から特にLiPF、LiBF、LiN(SOCF、LiN(SO又はこれらの組合せが好ましい。
【0374】
電解質塩の濃度は、0.8モル/リットル以上、更には1.0モル/リットル以上であることが好ましい。上限は電解質塩溶解用有機溶媒にもよるが、通常1.5モル/リットルである。
【0375】
上記電解液を使用する二次電池は、更に、セパレータを備えることが好ましい。上記セパレータの材質や形状は、電解液に安定であり、かつ、保液性に優れていれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。なかでも、上記電解液に対し安定な材料で形成された、樹脂、ガラス繊維、無機物等が用いられ、保液性に優れた多孔性シート又は不織布状の形態の物等を用いるのが好ましい。
【0376】
樹脂、ガラス繊維セパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルター等を用いることができる。ポリプロピレン/ポリエチレン2層フィルム、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン3層フィルム等、これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。なかでも、上記セパレータは、電解液の浸透性やシャットダウン効果が良好である点で、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シート又は不織布等であることが好ましい。
【0377】
セパレータの厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、5μm以上が好ましく、8μm以上が更に好ましく、また、通常50μm以下であり、40μm以下が好ましく、30μm以下が更に好ましい。セパレータが、上記範囲より薄過ぎると、絶縁性や機械的強度が低下する場合がある。また、上記範囲より厚過ぎると、レート特性等の電池性能が低下する場合があるばかりでなく、電解液電池全体としてのエネルギー密度が低下する場合がある。
【0378】
一方、無機物の材料としては、例えば、アルミナや二酸化ケイ素等の酸化物、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩が用いられ、粒子形状若しくは繊維形状のものが用いられる。
【0379】
形態としては、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状のものが用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01~1μm、厚さが5~50μmのものが好適に用いられる。上記の独立した薄膜形状以外に、樹脂製のバインダーを用いて上記無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いることができる。例えば、正極の両面に90%粒径が1μm未満のアルミナ粒子を、フッ素樹脂をバインダーとして多孔層を形成させることが挙げられる。
【0380】
外装ケースの材質は用いられる電解液に対して安定な物質であれば特に制限されない。具体的には、ニッケルめっき鋼板、ステンレス、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム合金等の金属類、又は、樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が用いられる。軽量化の観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金の金属、ラミネートフィルムが好適に用いられる。
【0381】
金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、若しくは、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。上記ラミネートフィルムを用いる外装ケースでは、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。シール性を上げるために、上記樹脂層の間にラミネートフィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂や極性基を導入した変成樹脂が好適に用いられる。
【0382】
上記電解液を使用する二次電池の形状は任意であり、例えば、円筒型、角型、ラミネート型、コイン型、大型等の形状が挙げられる。なお、正極、負極、セパレータの形状及び構成は、それぞれの電池の形状に応じて変更して使用することができる。
【0383】
上記固体二次電池は、全固体二次電池であることが好ましい。上記固体二次電池は、リチウムイオン電池であることが好ましく、硫化物系固体二次電池であることも好ましい。
上記固体二次電池は、正極、負極、並びに、当該正極及び当該負極の間に介在する固体電解質層を備えることが好ましい。
上記固体二次電池において、本開示の電気化学デバイス用合剤を電極層に用いてもよく、固体電解質層に用いてもよい。
本開示の電気化学デバイス用合剤(好ましくは合剤シート)を含む固体電解質層(好ましくは固体電解質層シート)も、本開示の好適な態様である。
【0384】
上記固体二次電池は、正極及び負極の間にセパレータを備えていてもよい。上記セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔膜;及びポリプロピレン等の樹脂製の不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を挙げることができる。
【0385】
上記固体二次電池は、更に電池ケースを備えていてもよい。上記電池ケースの形状としては、上述した正極、負極、固体電解質層等を収納できるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等を挙げることができる。
【0386】
上記固体二次電池は、例えば、正極、固体電解質層シート、負極を順に積層し、プレスすることにより製造することができる。
【0387】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例
【0388】
次に実施例を挙げて本開示を更に詳しく説明するが、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0389】
各種物性は下記方法にて測定した。
【0390】
<反応器内の酸素濃度>
フロー下の反応器の排ガスラインから出てきたガスについて、低濃度酸素分析計(商品名「PS-820-L」、飯島電子工業社製)を用いて測定及び分析することにより、反応時における酸素濃度を求めた。
【0391】
<重合体(重合体D、K等)の濃度>
重合体の水溶液約1gを、減圧乾燥機中で60℃、60分の条件で乾燥し、加熱残分の質量を測定し、重合体水溶液の質量(1g)に対する、加熱残分の質量の割合を百分率で表した値を採用した。
【0392】
<重合体Dの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)の測定方法>
重合体DのMw、Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、東ソー社製のGPC HLC-8020を用い、Shodex社製のカラム(GPC KF-801を1本、GPC KF-802を1本、GPC KF-806Mを2本直列に接続)を使用し、溶媒としてテトラハイドロフラン(THF)を流速1ml/分で流して測定し、単分散ポリスチレンを標準として分子量を算出した。
【0393】
<重合体Lの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量が3000以下の画分(フラクション)の含有量の測定方法>
重合体LのMw、Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、Agilent Technologies社製の1260 Infinity IIを用い、東ソー社製のカラム(TSKgel G3000PWXLを1本及びTSG gel GMPWXLを1本)を連結して使用し、溶媒としてトリス緩衝液とアセトニトリルの混合溶媒(トリス緩衝液:アセトニトリル=8:2(v/v))を流速0.5ml/分で流して測定し、単分散ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)を標準として分子量を算出することにより求めた。
【0394】
<重合体(重合体D、K等)中の単量体(単量体D、K)のダイマー及びトリマーの含有量の測定方法>
(1)水溶液からの抽出
重合体の水溶液の固形分を測定し、重合体の固形分0.2gに相当する量の水溶液を秤量した。その後、水溶液中に含まれている水と合わせ、水とメタノールとの体積比が50/50(体積%)となるように、水とメタノールを加え、重合体並びに水及びメタノールを含有する混合液を得た。その後、得られた混合液を用いて、4000rpmで1時間遠心分離を行い、重合体を含む上澄み液を得た後、得られた上澄み液に対して、限外ろ過ディスク(分画分子量3000Da)を用いてろ過を行ない、抽出液として回収した。
液体クロマトグラフ質量分析計(Waters,LC-MS ACQUITY UPLC/TQD)を用いて、抽出液の分析を行い、抽出液のクロマトグラムを得た。
抽出液に含まれる単量体のダイマー及びトリマーの含有量は、抽出液のクロマトグラムに現れる単量体のダイマー及びトリマーに由来するピークの積分値を、検量線を用いて、単量体のダイマー及びトリマーの含有量に換算することにより求めた。
【0395】
(2)単量体の検量線
1ng/mL~100ng/mLの含有量既知の単量体のメタノール標準溶液を5水準調製し、液体クロマトグラフ質量分析計(Waters,LC-MS ACQUITY UPLC/TQD)を用いて測定を行った。それぞれの単量体の含有量と、その含有量に対するピークの積分値との関係をプロットし、各単量体の検量線(一次近似)を作成した。次に、各単量体の検量線(一次近似)を用いて、各単量体のダイマー及びトリマーの検量線を作成した。
【0396】
測定機器構成とLC-MS測定条件
【表1】
【0397】
この測定機器構成における定量限界は1ng/mLである。
【0398】
<重合体(重合体D、K等)のDLS測定>
動的光散乱法において、固形分濃度を約1.0質量%に調整した重合体分散液を作製し、ELSZ-1000S(大塚電子社製)を使用して25℃、積算70回にて測定した。溶媒(水)の屈折率は1.3328、溶媒(水)の粘度は0.8878mPa・sとした。
【0399】
<ポリマー固形分濃度>
TFE系ポリマー水性分散液1gを、送風乾燥機中で150℃、60分の条件で乾燥し、水性分散液の質量(1g)に対する、加熱残分の質量の割合を百分率で表した値を採用する。
【0400】
<平均一次粒子径>
平均一次粒子径は、動的光散乱法により測定した。動的光散乱法においては、固形分濃度を約1.0質量%に調整したTFE系ポリマー水性分散液を作製し、ELSZ-1000S(大塚電子社製)を使用して25℃、積算70回にて測定した。溶媒(水)の屈折率は1.3328、溶媒(水)の粘度は0.8878mPa・sとした。
【0401】
<水分含有量>
約20gのTFE系ポリマー組成物を150℃、2時間加熱した前後の質量を測定し、以下の式に従って算出する。試料を3回取り、それぞれ算出した後、平均を求め、当該平均値を採用した。
水分含有量(質量%)=[(加熱前のTFE系ポリマー組成物の質量(g))-(加熱後のTFE系ポリマー組成物の質量(g))]/(加熱前のTFE系ポリマー組成物の質量(g))×100
【0402】
<標準比重(SSG)>
ASTM D4895 89に準拠して成形されたサンプルを用い、ASTM D 792に準拠した水置換法により測定した。
【0403】
<変性モノマーの含有量>
HFP含有量は、TFE系ポリマー組成物をプレス成形することで薄膜ディスクを作製し、薄膜ディスクをFT-IR測定した赤外線吸光度から、982cm-1における吸光度/935cm-1における吸光度の比に0.3を乗じて求めた。
【0404】
<吸熱ピーク温度>
吸熱ピーク温度は、300℃以上の温度に加熱した履歴のないTFE系ポリマーの粉末約10mgを精秤し、DSC(示差走査熱量計)を用いて測定した。吸熱ピーク温度は、10℃/分の条件で昇温させることにより融解熱曲線を得て、得られた融解熱曲線における極小値に対応する温度とした。
【0405】
<TFE系ポリマー組成物中の重合体(重合体D、L等)の含有量>
TFE系ポリマー組成物中に含まれる重合体D等の含有量は、固体19F-MAS NMR測定により得られたスペクトルから求めた。
【0406】
<押出圧力>
押出圧力は、特開2002-201217号公報記載の方法に準拠し、下記方法で求めた。
TFE系ポリマー組成物100gに、潤滑剤(商品名:アイソパーH(登録商標)、エクソン社製)21.7gを添加し、室温にてガラスビン中で3分間混合した。次いで、ガラスビンを、押出前少なくとも1時間、室温(25℃)に放置し、潤滑化樹脂を得た。潤滑化樹脂をオリフィス(直径2.5mm、ランド長11mm、導入角30°)を通して、室温で100:1の減速比でペースト押出し、均一なビード(beading;押出成形体)を得た。押出スピード、すなわち、ラムスピードは、20インチ/分(51cm/分)とした。ペースト押出において押出負荷が平衡状態になった時の負荷を測定し、ペースト押出に用いたシリンダーの断面積で除することにより、押出圧力を算出した。
【0407】
<延伸試験>
延伸試験は、特開2002-201217号公報記載の方法に準拠し、下記方法で実施した。
上記のペースト押出により得られたビードを230℃で30分加熱することにより、潤滑剤をビードから除去した。次に、ビード(押出成形体)を適当な長さに切断し、クランプ間隔が1.5インチ(38mm)となるよう、各末端をクランプに固定し、空気循環炉中で300℃に加熱した。次いでクランプを所望のストレッチ(総ストレッチ)に相当する分離距離となるまで所望の速度(ストレッチ速度)で離し、延伸試験(ストレッチ試験)を実施した。このストレッチ方法は、押出スピード(84cm/分でなく51cm/分)が異なることを除いて、本質的に米国特許第4,576,869号明細書に開示された方法に従った。『ストレッチ』とは、延伸による長さの増加であり、通常元の長さに対する比率として表される。ストレッチ方法においてストレッチ速度は、1000%/秒であり、上記総ストレッチは2400%であった。上記延伸試験において延伸中に破断しなかったものを延伸可能とした。
【0408】
<含フッ素化合物含有量>
TFE系ポリマー組成物をそれぞれ1g秤量し、メタノールを10g(12.6ml)加え、60分間の超音波処理を行ない、抽出液を得た。得られた抽出液をLC/MS/MS測定した。抽出液中の含フッ素化合物について、液体クロマトグラフ質量分析計(Waters,LC-MS ACQUITY UPLC/TQD)を用いて測定を行った。測定機器構成とLC-MS測定条件を表2に示す。濃度既知の含フッ素化合物の水溶液を用いて、5水準以上の含有量の水溶液を作製し、それぞれの含有量の水溶液のLC/MS分析を行ない、含有量とその含有量に対するエリア面積と関係をプロットし、検量線を描いた。上記検量線を用いて、抽出液中の含フッ素化合物のLC/MSクロマトグラムのエリア面積を、含フッ素化合物の含有量に換算した。
なお、この測定方法における定量下限は10質量ppbである。
【0409】
【表2】
【0410】
<フィブリル径(中央値)>
(1)走査型電子顕微鏡(S-4800型日立製作所製)を用いて、二次電池用合剤シートの拡大写真(7000倍)を撮影し画像を得た。
(2)この画像に水平方向に等間隔で2本の線を引き、画像を三等分した。
(3)上方の直線上にある全てのフィブリル化したバインダーについて、フィブリル化したバインダー1本あたり3箇所の直径を測定し、平均した値を当該フィブリル化したバインダーの直径とした。測定する3箇所は、フィブリル化したバインダーと直線との交点、交点からそれぞれ上下に0.5μmずつずらした場所を選択した(未繊維化のバインダー一次粒子は除く。)。
(4)上記(3)の作業を、下方の直線上にある全てのフィブリル化したバインダーに対して行った。
(5)1枚目の画像を起点に画面右方向に1mm移動し、再度撮影を行い、上記(3)及び(4)によりフィブリル化したバインダーの直径を測定した。これを繰り返し、測定した数が80本を超えた時点で終了とした。
(6)上記測定した全てのフィブリル化したバインダーの直径の中央値をフィブリル径の大きさとした。
【0411】
<自立膜試験>
膜厚が10μm以上1000μm以下の時に、膜を10×10cmにカッターで切り出し、重心をピンセット(株式会社エンジニア製、PTS07)で摘んだ時にヒビや割れが生じたり、折れ曲がったりすることがない場合に、自立膜であると判断した。
【0412】
調製例1
反応器に、CH=CF(CFOCFCFCOOH)で表される単量体D220g、水513gを加え、更に、過硫酸アンモニウム(APS)を単量体Dに対して0.5mol%加えた。窒素雰囲気下にて60℃で24時間加熱撹拌し、CH=CF(CFOCFCFCOOH)の単独重合体である重合体Dを含む重合体D水溶液D-1を得た。
得られた重合体D水溶液D-1のGPC分析した結果、重合体Dは、Mw18万、Mn8.6万、ダイマー及びトリマーの含有量が、重合体Dに対して2.0質量%であった。
【0413】
得られた重合体D水溶液D-1に水を加えて、重合体Dの濃度を5.0質量%に調整したのちに、限外ろ過膜(分画分子量50000Da、ポリエチレン製)に、30℃で、0.1MPaの水圧で接触させ限外濾過を実施した。適宜注水を行いながら最終的に水溶液に対して7倍量の水の濾過液が溶出するまで限外濾過を継続し、重合体D水溶液D-2を得た。得られた重合体D水溶液D-2をGPC分析した結果、重合体Dは、Mw18万、Mn14万、ダイマー及びトリマーの含有量が、重合体Dに対して1ppm未満であった。得られた重合体D水溶液D-2の濃度は、5.0質量%であった。重合体D水溶液D-2をDLS分析したところ、粒子径を測定できなかった。重合体Dのイオン性基の含有量は3.91meq/g、フッ素置換率は80%、イオン交換率は4であった。
【0414】
製造例1
内容量6Lの撹拌機付きSUS製反応器に、3457gの脱イオン水、180gのパラフィンワックス、107.4gの重合体D水溶液D-2、1.8gの0.1質量%濃度のトライトン(登録商標)X-100(商品名、ダウ・ケミカル社製)の水溶液及び、1.1gの1.0質量%濃度のイソプロパノール水溶液を入れた。アンモニア水を加えてpHを9.1に調整した。次いで反応器の内容物を70℃まで加熱しながら吸引すると同時にTFEでパージして反応器内の酸素を除き、内容物を攪拌した。反応器中に2.4gのHFPを加えた後、0.73MPaGの圧力となるまでTFEを加えた。20gの脱イオン水に溶解した17.9mgの過硫酸アンモニウム(APS)開始剤を反応器に注入し、反応器を0.83MPaGの圧力にした。開始剤の注入後に圧力の低下が起こり重合の開始が観測された。反応器にTFEを加えて圧力を0.78MPaG一定となるように保った。反応で消費したTFEが約180gに達した時点でTFEの供給と撹拌を停止した。続いて反応器の圧力が0.02MPaGに達するまで反応器内のガスをゆっくりと放出した。その後、反応器の圧力が0.78MPaGになるまでTFEを供給し、再び撹拌を開始して引き続き反応を行った。反応で消費したTFEが約540gに達した時点で20gの脱イオン水に溶解した14.3mgのハイドロキノンを反応器に注入し、引き続き反応を行った。反応で消費したTFEが約1200gに達した時点でTFEの供給を止め、撹拌を停止して反応を終了した。その後に、反応器内の圧力が常圧になるまで排気し、内容物を反応器から取り出して冷却した。上澄みのパラフィンワックスをTFE系ポリマー水性分散液から取り除いた。得られたTFE系ポリマー水性分散液の固形分濃度24.4質量%、平均一次粒子径は261nmであった。
【0415】
作製例1
製造例1で得られたTFE系ポリマー水性分散液を脱イオン水で固形分濃度が13質量%となるように希釈し撹拌機付きの容器内で激しく攪拌し凝固させた後、水と濾別し、湿潤粉末を得た。湿潤粉末の水分含有量は約45質量%であった。
得られた湿潤粉末をステンレス製のメッシュトレーに配置し(配置量:2.0g/cm)、210℃の熱風循環式電気炉内でメッシュトレーを熱処理した。18時間後、メッシュトレーを取り出し、メッシュトレーを空冷させた後、TFE系ポリマー組成物Aを得た。
得られたTFE系ポリマー組成物Aの水分含有量は0.002質量%、標準比重は2.176、吸熱ピーク温度は342℃、HFP含有量は0.094質量%、重合体Dの含有量は0.46質量%であった。押出圧力は24.4MPa、延伸可能であった。
【0416】
作製例2
メッシュトレーを平板トレー(底面及び側面に通気性のないトレー)に、熱処理する時間を5時間とする以外は、作製例1と同様にしてTFE系ポリマー組成物Xを得た。
得られたTFE系ポリマー組成物Xの水分含有量は0.072質量%であった。
【0417】
作製例3
製造例1で得られたTFE系ポリマー水性分散液を脱イオン水で固形分濃度が13質量%となるように希釈し、TFE系ポリマー固形分に対して1.0質量%相当の重合体Dを含むように重合体D水溶液D-2を添加し、撹拌機付きの容器内で激しく攪拌し凝固させた後、水と濾別した。湿潤粉末の水分含有量は約45質量%であった。
得られた湿潤粉末をステンレス製のメッシュトレーに配置し(配置量:2.0g/cm)、210℃の熱風循環式電気炉内でメッシュトレーを熱処理した。18時間後、メッシュトレーを取り出し、メッシュトレーを空冷させた後、TFE系ポリマー組成物Bを得た。
得られたTFE系ポリマー組成物Bの水分含有量は0.002質量%、重合体Dの含有量は1.00質量%であった。
【0418】
作製例4
製造例1で得られたTFE系ポリマー水性分散液を脱イオン水で固形分濃度が13質量%となるように希釈し、撹拌機付きの容器内で激しく攪拌し凝固させた後、水と濾別した。
濾別したポリマーをTFE系ポリマー固形分に対して4倍量相当のメタノールで洗浄し、さらに水で洗浄し、湿潤粉末を得た。湿潤粉末の水分含有量は約45質量%であった。
得られた湿潤粉末をステンレス製のメッシュトレーに配置し(配置量:2.0g/cm)、210℃の熱風循環式電気炉内でメッシュトレーを熱処理した。18時間後、メッシュトレーを取り出し、メッシュトレーを空冷させた後、TFE系ポリマー組成物Cを得た。
得られたTFE系ポリマー組成物Cの水分含有量は0.002質量%、重合体Dの含有量は0.10質量%であった。
【0419】
調製例2
反応器に、170gのsodium 1,1,2,2-tetrafluoro-2-((1,2,2-trifluorovinyl)oxy)ethane-1-sulfonate(単量体K)、340gの水、単量体Kの量に対して2.0モル%に相当する量の過硫酸アンモニウム(APS)を加え、Nフロー下にて40℃で72時間撹拌することにより、単量体Kの単独重合体である重合体Kを含む重合体K水溶液K-1を得た。反応器内の酸素濃度は15体積ppmから800体積ppmの範囲で推移した。
【0420】
得られた重合体K水溶液K-1に水を加えて、重合体Kの濃度を3.8質量%に調整した後、限外ろ過(分画分子量6000Da、ポリスルフォン製)に、25℃で、0.1MPaの水圧で接触させ、限外濾過を実施した。適宜注水を行いながら最終的に水溶液に対して4倍量の水の濾過液が溶出するまで限外濾過を継続し、重合体K水溶液K-2を得た。得られた水溶液の濃度は1.6質量%であった。
【0421】
容器にアンバーライト(IR120B(H)-HG)300mlを測り取り、水で着色が無くなるまで洗浄した後、1M-HClを500ml加え、1時間室温で攪拌した。コック付きカラムにアンバーライトを充填し、水を廃液の酸性度が中性になるまで流した。得られた重合体K水溶液K-2をコック付きカラムに投入し滴下を開始した。滴下終了後、水を滴下液が中性になるまで流し、1,1,2,2-tetrafluoro-2-((1,2,2-trifluorovinyl)oxy)ethane-1-sulfonic acid(単量体L)の重合体Lを含む重合体L水溶液L-1を得た。得られた水溶液の濃度は1.5質量%であった。
【0422】
重合体L水溶液L-1を分析した。重合体Lの重量平均分子量(Mw)は1.0×10、数平均分子量(Mn)は0.8×10であった。
【0423】
重合体L水溶液L-1中の単量体Lのダイマー及びトリマーの含有量は、重合体Lに対して、0.1質量%以下であった。重合体L水溶液L-1中の分子量3000以下の画分の含有量は、0.5%以下であった。重合体L水溶液L-1をDLS分析したところ、粒子径を測定できなかった。重合体Lのイオン性基の含有量は3.60meq/g、フッ素置換率は100%、イオン交換率は4であった。
【0424】
製造例2
内容量6Lの撹拌機付きSUS製反応器に、3087gの脱イオン水、104gのパラフィンワックス、477gの重合体L水溶液L-1、3.58gの0.1質量%濃度のイソプロパノール水溶液を入れた。次いでアンモニア水を入れてpHを9.0に調整し、反応器の内容物を70℃まで加熱しながら吸引すると同時にTFEでパージして反応器内の酸素を除き、内容物を攪拌した。反応器中に5.8gのHFPを加えた後、0.73MPaGの圧力となるまでTFEを加えた。20gの脱イオン水に溶解した17.9mgの過硫酸アンモニウム(APS)開始剤を反応器に注入し、反応器を0.83MPaGの圧力にした。開始剤の注入後に圧力の低下が起こり重合の開始が観測された。反応器にTFEを加えて圧力を0.78MPaG一定となるように保った。反応で消費したTFEが約180gに達した時点でTFEの供給と撹拌を停止した。
【0425】
続いて反応器の圧力が0.02MPaGに達するまで反応器内のガスをゆっくりと放出した。その後、反応器の圧力が0.78MPaGになるまでTFEを供給し、再び撹拌を開始して引き続き反応を行った。反応で消費したTFEが約540gに達した時点で20gの脱イオン水に溶解した14.3mgのハイドロキノンを反応器に注入し、引き続き反応を行った。反応で消費したTFEが約1250gに達した時点でTFEの供給を止め、撹拌を停止して反応を終了した。その後に、反応器内の圧力が常圧になるまで排気し、内容物を反応器から取り出して冷却した。上澄みのパラフィンワックスをTFE系ポリマー水性分散液から取り除いた。
【0426】
得られたTFE系ポリマー水性分散液の固形分濃度は25.5質量%であり、平均一次粒子径は182nmであった。
【0427】
作製例5
製造例2で得られたTFE系ポリマー水性分散液を脱イオン水で固形分濃度が13質量%となるように希釈し撹拌機付きの容器内で激しく攪拌し凝固させた後、水と濾別し、湿潤粉末を得た。湿潤粉末の水分含有量は約45質量%であった。
得られた湿潤粉末をステンレス製のメッシュトレーに配置し(配置量:2.0g/cm)、240℃の熱風循環式電気炉内でメッシュトレーを熱処理した。18時間後、メッシュトレーを取り出し、メッシュトレーを空冷させた後、TFE系ポリマー組成物Dを得た。
得られたTFE系ポリマー組成物Dの水分含有量は0.002質量%、標準比重は2.165、吸熱ピーク温度は344℃、HFP含有量は0.294質量%、重合体Lの含有量は0.58質量%であった。押出圧力は17.9MPa、延伸可能であった。
【0428】
作製例1~5で得られたTFE系ポリマー組成物からは、下記式で表される含フッ素化合物は検出されなかった。即ち10質量ppb未満であった。
F(CFCOOH、
F(CFCOOH、
H(CFCOOH、
H(CFCOOH、
CFO(CFOCHFCFCOOH、
OCF(CF)CFOCF(CF)COOH、
CFCFCFOCF(CF)COOH、
CFCFOCFCFOCFCOOH、
OCF(CF)CFOCF(CF)COOH、
CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOH、
CFClCFCFOCF(CF)CFOCFCOOH、
CFClCFCFOCFCF(CF)OCFCOOH、
CFClCF(CF)OCF(CF)CFOCFCOOH、
CFClCF(CF)OCFCF(CF)OCFCOOH、及び、
【化9】
(式中、MはHである。)
【0429】
上記で得られた各TFE系ポリマー組成物を用いて以下の方法で正極合剤シート、電極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。
【0430】
電解液含有電池評価
下記の手順で実施例1~7及び比較例1の合剤シート作製と合剤シート評価、電池評価を行った。
<正極合剤シートの作製>
活物質と導電助剤を秤量し、V型混合機に材料を投入し、37rpmで10分間混合し活物質と導電助剤からなる混合物を得た。その後、混合物に秤量したバインダー(TFE系ポリマー組成物)を投入し、5℃の恒温槽にて十分に冷却させた。活物質、導電助剤とバインダーからなる混合物をヘンシェルミキサーに投入し、1000rpmで3分間処理することで混合物の均質化を行った。
その後、混合物を50℃の恒温槽にて十分に昇温させた後に、ヘンシェルミキサーにて1500rpmで10分間処理することでフィブリル化を促進し、電極合剤を得た。
平行に配置された金属ロール(温度:80℃、回転速度:1m/min)に電極合剤を投入し、圧延することで電極合剤シートを得た。再度、得られた圧延シートを2つに折りたたむことにより粗砕して、金属ロール(温度:80℃、回転速度:1m/min)に電極合剤を投入し、圧延することでより強度のある電極合剤シートを得た。
その後、ロールプレス機に電極合剤シートを投入し、ギャップを調整した。最終的な正極合剤層の厚みは90μmになるように調整した。
表3に材料種と組成を示す。
また、得られた電極合剤シートはいずれも自立膜であった。
【0431】
【表3】
SuperP Li:Imerys社製カーボンブラック
【0432】
<正極合剤シートの強度測定>
上記正極合剤シートを切り出し4mm幅の短冊状の試験片を作製した。引張試験機(島津製作所社製AGS-100NX)を使用して、100mm/分の条件下にて測定した。チャック間距離は30mmとした。破断するまで変位を与え、測定した結果の最大応力を各サンプルの強度とした。実施例1を100として比較した。引張強度が高く、電極強度が良好なものからA~Eでランク付けした。
A:230以上
B:180~229
C:120~179
D:105~119
E:105未満
結果を表4に示す。
【0433】
<正極合剤シートの柔軟性評価(曲げ試験)>
作製した正極合剤シートを幅4cm、長さ10cmに切り取り試験片とした。次に、これらの試験片をΦ10mmの丸棒に巻き付けた後、目視で試験片を確認し、傷や割れといった破損の有無を確認した。破損が見られない場合、更に細いΦ5mmの丸棒で試験を行い、破損を確認した。やはり、破損が見られない場合、更に細いΦ2mmの丸棒で試験を行い、破損を確認した。その結果をA~Dで分類した。
A:Φ2mm棒で破損なし
B:Φ2mm棒で破損あり
C:Φ5mm棒で破損あり
D:Φ10mm棒で破損あり
結果を表4に示す。
【0434】
<正極の作製>
上記正極合剤シートを、以下のようにして20μmのアルミ箔と接着させた。
接着剤には、N-メチルピロリドン(NMP)にポリビニデンフルオライド(PVDF)を溶解させ、カーボンブラックを80:20で分散させたスラリーを用いた。アルミ箔に上述した接着剤を塗布し、ホットプレートにて120℃、15分間乾燥させ、接着層つき集電体を形成した。
その後、正極合剤シートを接着層つき集電体の上に置き、100℃に加熱したロールプレス機にて正極合剤シートと集電体の貼り合わせを行い、所望のサイズに切り出し、タブ付を行って正極とした。
【0435】
<負極の作製>
炭素質材料(グラファイト)98質量部に、増粘剤及びバインダーとして、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)1質量部及びスチレン-ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン-ブタジエンゴムの濃度50質量%)1質量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ10μmの銅箔に塗布して乾燥し、プレス機で圧延したものを所望のサイズに切り出し、タブ付を行って負極とした。
【0436】
<電解液の作製>
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(EC:EMC=30:70(体積比))をサンプル瓶に量り取り、ここにフルオロエチレンカーボネート(FEC)とビニレンカーボネート(VC)を1質量%ずつ溶解させて混合液を調製した。この混合液に、電解液中の濃度が1.1モル/Lとなるように、LiPF塩を23℃で混合することにより、非水電解液を得た。
【0437】
<アルミラミネートセルの作製>
上記の正極を厚さ20μmの微孔性ポリエチレンフィルム(セパレータ)を介して負極と対向させ、上記で得られた非水電解液を注入し、上記非水電解液がセパレータ等に充分に浸透した後、封止し予備充電、エージングを行い、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0438】
<保存特性(残存容量率、ガス発生量)の評価>
上記で製造したリチウムイオン二次電池を、25℃において、0.33Cに相当する電流で4.3Vまで定電流-定電圧充電(以下、CC/CV充電と表記する。)(0.1Cカット)した後、0.33Cの定電流で3Vまで放電し、これを1サイクルとして、3サイクル目の放電容量から初期放電容量を求めた。
初期放電容量の評価が終了した電池を再度、25℃において4.3VまでCC/CV充電(0.1Cカット)し、アルキメデス法により電池の体積を求めた。電池の体積を求めた後、60℃、30日間の条件で高温保存を行った。高温保存終了後、十分に冷却した後25℃において電池の体積を求め、保存試験前後の電池の体積差からガス発生量を求めた。比較例1のガス発生量を100として、ガス発生量を比較した。
ガス発生量を求めた後、25℃において0.33Cで3Vまで放電を行い、残存容量を求めた。
初期放電容量に対する高温保存後の残存容量の割合を求め、これを残存容量率(%)とした。
(残存容量)/(初期放電容量)×100=残存容量率(%)
結果を表4に示す。
【0439】
【表4】
【0440】
固体電池用電極合剤シート評価
下記の手順で実施例8~12及び比較例2の合剤シート評価を行った。作製はアルゴン雰囲気にて行われた。
<正極合剤シートの作製>
活物質と導電助剤を秤量し、V型混合機に材料を投入し、37rpmで10分間混合し活物質と導電助剤からなる混合物を得た。その後、混合物に秤量したバインダー(TFE組成物)と固体電解質を投入し、5℃の恒温槽にて十分に冷却させた。活物質、導電助剤、バインダー、固体電解質とからなる混合物をヘンシェルミキサーに投入し、300rpmで2分間処理することで混合物の均質化を行った。
その後、混合物を40℃の恒温槽にて十分に昇温させた後に、ヘンシェルミキサーにて1000rpmで3分間処理することでフィブリル化を促進し、電極合剤を得た。
平行に配置された金属ロール(温度:80℃、回転速度:1m/min)に電極合剤を投入し、圧延することで電極合剤シートを得た。再度、得られた圧延シートを2つに折りたたむことにより粗砕して、金属ロール(温度:80℃、回転速度:1m/min)に電極合剤を投入し、圧延することでより強度のある電極合剤シートを得た。
その後、ロールプレス機に電極合剤シートを投入し、ギャップを調整した。最終的な正極合剤層の厚みは150μmになるように調整した。
表5に材料種と組成を示す。
また、得られた電極合剤シートはいずれも自立膜であった。
【0441】
【表5】
denka Li-400:デンカ社製カーボンブラック
【0442】
<正極合剤シートの強度測定(引張試験)>
上記正極合剤シートを切り出し4mm幅の短冊状の試験片を作製した。引張試験機(島津製作所社製AGS-100NX)を使用して、100mm/分の条件下にて測定した。チャック間距離は30mmとした。破断するまで変位を与え、測定した結果の最大応力を各サンプルの強度とした。実施例8を100として比較した。引張強度が高く、電極強度が良好なものからA~Eでランク付けした。
A:230以上
B:180~229
C:120~179
D:105~119
E:105未満
結果を表6に示す。
【0443】
<正極合剤シートの柔軟性評価(曲げ試験)>
作製した正極合剤シートを幅4cm、長さ10cmに切り取り試験片とした。次に、これらの試験片をΦ10mmの丸棒に巻き付けた後、目視で試験片を確認し、傷や割れといった破損の有無を確認した。破損が見られない場合、更に細いΦ5mmの丸棒で試験を行い、破損を確認した。やはり、破損が見られない場合、更に細いΦ2mmの丸棒で試験を行い、破損を確認した。その結果をA~Dで分類した。
A:Φ2mm棒で破損なし
B:Φ2mm棒で破損あり
C:Φ5mm棒で破損あり
D:Φ10mm棒で破損あり
結果を表6に示す。
【0444】
【表6】
【0445】
固体電解質合剤シート評価
下記の手順で実施例13~19及び比較例3の合剤シート作製と合剤シート評価を行った。
<固体電解質合剤シートの作製>
秤量したバインダー(PTFE組成物)を5℃の恒温槽にて十分に冷却させた後、ヘンシェルミキサーに投入し、300rpmで2分間処理することで粉砕処理を行った。
粉砕したバインダーと固体電解質をそれぞれ秤量し、5℃の恒温槽にて十分に冷却させた。ヘンシェルミキサーに投入し、300rpmで1分間処理することで混合物の均質化を行った。
その後、混合物を40℃の恒温槽にて十分に昇温させた後に、ヘンシェルミキサーにて1000rpmで1分間処理することでフィブリル化を促進し、電解質合剤を得た。
平行に配置された金属ロール(温度:80℃、回転速度:1m/min)に電極合剤を投入し、圧延することで電解質合剤シートを得た。再度、得られた圧延シートを2つに折りたたむことにより粗砕して、金属ロール(温度:80℃、回転速度:1m/min)に電解質合剤を投入し、圧延することでより強度のある電解質合剤シートを得た。
その後、ロールプレス機に電解質合剤シートを投入し、ギャップを調整した。最終的な電解質合剤シートの厚みは120μmになるように調整した。
表7に材料種と組成を示す。
【0446】
【表7】
【0447】
<固体電解質合剤シートの強度測定(引張試験)>
上記固体電解質合剤シートを切り出し4mm幅の短冊状の試験片を作製した。引張試験機(島津製作所社製AGS-100NX)を使用して、100mm/分の条件下にて測定した。チャック間距離は30mmとした。破断するまで変位を与え、測定した結果の最大応力を各サンプルの強度とした。実施例13を100として比較した。引張強度が高く、電極強度が良好なものからA~Eでランク付けした。
A:230以上
B:180~229
C:120~179
D:105~119
E:105未満
結果を表8に示す。
【0448】
<固体電解質合剤シートの柔軟性評価(曲げ試験)>
作製した固体電解質合剤シートを幅4cm、長さ10cmに切り取り試験片とした。次に、これらの試験片をΦ10mmの丸棒に巻き付けた後、目視で試験片を確認し、傷や割れといった破損の有無を確認した。破損が見られない場合、更に細いΦ5mmの丸棒で試験を行い、破損を確認した。やはり、破損が見られない場合、更に細いΦ2mmの丸棒で試験を行い、破損を確認した。その結果をA~Dで分類した。
A:Φ2mm棒で破損なし
B:Φ2mm棒で破損あり
C:Φ5mm棒で破損あり
D:Φ10mm棒で破損あり
結果を表8に示す。
【0449】
<固体電解質合剤シートのイオン伝導度>
固体電解質合剤シートを適当な大きさに切り出し、両面に金を蒸着した。その後、パンチでΦ10mmの円形に打ち抜いた固体電解質合剤シートを圧力セルに納め、セルのネジを8Nで締め、セルの上下から電極をとった。用いた圧力セルの概略図を図1に示す。
この試料について、東陽テクニカ製インピーダンス装置を用い、25℃、AC振幅変調10mV、周波数5×10~0.1Hzの条件でイオン伝導度を測定した。
結果を表8に示す。
【0450】
【表8】
【0451】
本開示の電気化学デバイス用合剤を用いることで、電極の機械特性(強度及び柔軟性)が良好な合剤シートを作製することができ、これにより良好な電池特性を発揮する。

【符号の説明】
【0452】
1:ネジ
2:ナット
3:絶縁シート
4:固体電解質合剤シート
5:金蒸着
6:上部電極
7:下部電極

【要約】
【課題】バインダー量が少ないにもかかわらず、強度及び柔軟性に優れる合剤シートを得ることができる電気化学デバイス用合剤、並びに、それを用いた電気化学デバイス用合剤シート、電極、及び、電気化学デバイスを提供する。
【解決手段】電極活物質及び/又は固体電解質と、バインダーとを含有する電気化学デバイス用合剤であって、前記バインダーは、テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物を含み、前記テトラフルオロエチレン系ポリマー組成物は、テトラフルオロエチレン系ポリマー、及び、イオン性基を有する高分子化合物を含み、前記バインダーの含有量が、前記電気化学デバイス用合剤に対し、0.3質量%以上、8質量%以下である電気化学デバイス用合剤。
【選択図】 図1

図1