(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】半導体製造装置用ステンレス鋼部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 11/38 20060101AFI20240522BHJP
C25F 3/24 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
C25D11/38 302
C25F3/24
(21)【出願番号】P 2023200418
(22)【出願日】2023-11-28
【審査請求日】2023-11-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518440408
【氏名又は名称】オロル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】307016180
【氏名又は名称】地方独立行政法人鳥取県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100167645
【氏名又は名称】下田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】川見 和嘉
(72)【発明者】
【氏名】木下 淳之
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 直人
(72)【発明者】
【氏名】寺田 直文
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊行
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-021112(JP,A)
【文献】特開2017-226883(JP,A)
【文献】特開2023-070216(JP,A)
【文献】特開昭57-086000(JP,A)
【文献】特開2002-129399(JP,A)
【文献】特開2022-183791(JP,A)
【文献】特開昭56-055594(JP,A)
【文献】特開平04-173999(JP,A)
【文献】特開昭55-077667(JP,A)
【文献】特開2020-104514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00-22/86
C25D 9/10
C25D 11/38
C25F 3/24
C25D 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解研磨ステンレス鋼部材表面にクロム酸化物皮膜を被覆したクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材であって、
前記電解研磨ステンレス鋼部材表面は、走査型プローブ顕微鏡で計測したJISB0601-2013に準拠した輪郭曲線の最大高さ(Rz)が30nm以下であり、
前記クロム酸化物皮膜の膜厚が190nm~280nmであり、かつ近赤外領域(波長750nm~2500nm)における表面反射率の最大値が60%以下であることを特徴とするクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材。
【請求項2】
クロム酸化物皮膜の膜厚が190nm~280nmであり、かつ近赤外領域(波長750nm~2500nm)における表面反射率の最大値が60%以下であるクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材の製造方法であって、
ステンレス鋼部材表面を
50vol%リン酸及び
50vol%メタンスルホン酸のみからなる
85℃のステンレス鋼用電解研磨液で
、パルス電圧印加処理、ミクロ曝気処理、電解液噴流処理を併用して、電流密度20A/dm
2
で5min電解研磨
して、電解研磨ステンレス鋼部材表面を走査型プローブ顕微鏡で計測したJISB0601-2013に準拠した輪郭曲線の最大高さ(Rz)が30nm以下とする電解研磨処理工程と、
電解研磨処理されたステンレス鋼部材を、25w/vol%クロム酸と50w/vol%硫酸の混合溶液からなる処理液に浸漬して、発色電位17mV~28mVでステンレス鋼部材表面にクロム酸化物皮膜をする形成する皮膜形成処理及びクロム酸とリン酸の混合溶液からなる処理液に浸漬して、クロム酸化物皮膜を硬化する硬化処理からなるクロム酸化皮膜被覆工程と、
からなるクロム酸化物皮膜の膜厚が190nm~280nmであり、かつ近赤外領域(波長750nm~2500nm) における表面反射率の最大値が60%以下であるクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、半導体製造装置用ステンレス鋼部材およびその製造方法に関する。特に、電解研磨方法により表面の平滑化処理を行ったステンレス鋼部材に湿式処理(ウエットプロセス)により形成した金属酸化物皮膜を被覆した半導体製造装置用ステンレス鋼部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造は、薄膜形成工程、リソグラフ工程、エッチング工程、平坦化工程等が繰り返される。これらの工程は、超真空状態あるいは減圧条件下で行われ、さまざまな半導体処理液が使用される。
近年、半導体設計ルールの微細化に伴って、半導体製造装置に使用される部材から発生する金属不純物や半導体処理液中に含まれる金属不純物をpptレベルで管理することが求められている。
また、半導体デバイス製造工程は、高温を維持する必要があるため、半導体製造装置には保温性が高い部材が求められている。
【0003】
特許文献1には、ステンレス鋼の表面を電解研磨処理した後、酸性雰囲気ガス中で酸化処理し、水素ガスにより表面の鉄酸化物を還元除去するステンレス鋼不働態膜形成方法、表面粗度(Rmax)0.1μm以下の不働態膜を表面に有するステンレス鋼不働態膜を表面に有する接流体部品が開示されている。
特許文献2には、オーステナイト系ステンレス鋼からなる母材表面に膜厚2~20nmの不働態層が形成されたオーステナイト系ステンレス鋼部材、半導体処理液との接液部を前記オーステナイト系ステンレス鋼部材で構成される装置が開示されている。
【0004】
特許文献3には、黒色化処理を施した際の熱吸収率が高くなるように電解研磨若しくは化学研磨処理を施し、インコ法若しくは電解発色法により黒色化処理されたインゴット製造装置が開示されている。
【0005】
特許文献4には、リン酸および少なくとも1種の有機スルホン酸のみからなる電解研磨液を用いることにより、電解研磨処理において被研磨金属近傍に形成される陽極液層(Jacquet層)の粘性を低減でき、アノード反応に伴う気泡が被研磨金属表面に滞留しにくくなり、結果として電解加工の進行が均一となり、加工精度が向上して、被処理金属であるステンレス鋼の表面平滑性が向上するステンレス鋼の電解研磨処理液、電解処理方法、電解処理したステンレス鋼に不働態膜を被覆したステンレス鋼の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO1992/021786
【文献】WO2019/167885
【文献】特開2005-247629号公報
【文献】特許第7029742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、半導体製造装置から発生する金属不純物や半導体処理液中に含まれる金属不純物をpptレベルで管理でき、かつ赤外線反射率が低く保温性が高いクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の課題は、以下の態様により解決できる。具体的には、
【0009】
(態様1) 電解研磨ステンレス鋼部材表面にクロム酸化物皮膜を被覆したクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材であって、前記電解研磨ステンレス鋼部材表面は、走査型プローブ顕微鏡で計測したJISB0601-2013に準拠した輪郭曲線の最大高さ(Rz)が30nm以下であり、前記クロム酸化物皮膜の膜厚が190nm~280nmであり、かつ近赤外領域(波長750nm~2500nm)における表面反射率の最大値が60%以下であることを特徴とするクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材である。
クロム酸化物皮膜の膜厚を190nm~280nmとすることで、近赤外領域(波長750nm~2500nm)における表面反射率の最大値が60%以下とすることができるからである。
【0011】
(態様2) クロム酸化物皮膜の膜厚が190nm~280nmであり、かつ近赤外領域(波長750nm~2500nm)における表面反射率の最大値が60%以下であるクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材の製造方法であって、ステンレス鋼部材表面を50vol%リン酸及び50vol%メタンスルホン酸のみからなる85℃のステンレス鋼用電解研磨液で、パルス電圧印加処理、ミクロ曝気処理、電解液噴流処理を併用して、電流密度20A/dm
2
で5min電解研磨して、電解研磨ステンレス鋼部材表面を走査型プローブ顕微鏡で計測したJISB0601-2013に準拠した輪郭曲線の最大高さ(Rz)が30nm以下とする電解研磨処理工程と、電解研磨処理されたステンレス鋼部材を、25w/vol%クロム酸と50w/vol%硫酸の混合溶液からなる処理液に浸漬して、発色電位17mV~28mVでステンレス鋼部材表面にクロム酸化物皮膜をする形成する皮膜形成処理及びクロム酸とリン酸の混合溶液からなる処理液に浸漬して、クロム酸化物皮膜を硬化する硬化処理からなるクロム酸化皮膜被覆工程と、からなるクロム酸化物皮膜の膜厚が190nm~280nmであり、かつ近赤外領域(波長750nm~2500nm) における表面反射率の最大値が60%以下であるクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材の製造方法である。
パルス電圧印加処理、ミクロ曝気処理、電解液噴流処理のいずれかまたはすべてを電解研磨処理で併用することで、電解研磨処理において被研磨金属近傍に形成される陽極液層(Jacquet層)及びアノード反応に伴う気泡の滞留を排除でき、結果として電解加工の進行が均一となり、加工精度が向上して、被処理金属であるステンレス鋼の表面平滑性が向上するからである。
【発明の効果】
【0013】
本願発明によれば、精密電解研磨処理したステンレス鋼部材と同等の金属不純物の発生が少ない半導体製造装置に供するクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材およびその製造方法を提供できる。
また、クロム酸化物皮膜をステンレス鋼部材に被覆することで赤外線反射率が低く保温性が高い半導体製造装置に供するクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材およびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本願発明のクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材の製造方法の流れを示す工程図である。
【
図2】本願発明の精密電解研磨処理に供する電解研磨装置の実施態様の1つを示す模式図である。
【
図3】本願発明のパルス電圧印加処理におけるパルス波形(電圧波形)を示す模式図である。
【
図4】本願発明の実施態様における発色電位とクロム酸化物皮膜の厚さとの関係を示すグラフである。
【
図5】本願発明の実施態様における分光吸収データ(250nm~2700nm)である。
【
図6】本願発明の実施態様における走査型プローブ顕微鏡による凹凸表面プロフィルを示す画像である。
【
図7】本願発明の実施態様におけるX線光電子分光分析による表面元素分析を示すデータである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本願発明について、実施態様に従って説明する。ただし、以下の説明は、本願発明の理解のためであって、本願発明を限定するものではない。
【0016】
A.クロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材
本願発明のクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材は、電解研磨処理したステンレス鋼部材表面にクロム酸化物皮膜を被覆したステンレス鋼部材である。また、クロム酸化物皮膜の膜厚は、190nm~280nmであり、かつ近赤外領域(波長750nm~2500nm)における表面反射率の最大値が60%以下である。
クロム酸化物皮膜の膜厚は、後述するクロム酸化物皮膜形成工程により190nm~280nmに制御される。皮膜厚を190nm~280nmとすることで近赤外領域(波長750nm~2500nm)における表面反射率の最大値が60%以下とすることができる。
【0017】
1.ステンレス鋼
本願発明のクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材に供するステンレス鋼としては、半導体製造装置における主要な装置材料として、配管や容器部材として使用されているステンレス鋼を好適に用いることができる。具体的には、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼がある。耐食性や高強度が要求される高圧貯蔵容器や高圧パイプラインには、マルテンサイト系ステンレス鋼(例えば、410C、420、430、440C、440B)、オーステナイト系ステンレス鋼(例えば、304、304L、321、347、316L)が好適に用いることができる。
本願発明のクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材には、半導体製造装置における主要な装置材料である配管、容器部材、半導体製造用構造物を構成する溶接接合を施したステンレス鋼も含まれる。例えば、貯蔵用圧力容器はステンレス鋼板で形成した各部材を溶接接合して容器を構成し、内面を酸洗処理して製造する。薬液を輸送する高圧パイプはステンレス鋼板を鋼帯の状態で溶接造管ラインを通して製造する。パイプラインとするためには複数のパイプを溶接接合して製造する。
【0018】
B.クロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材の製造方法
図1に示すように、本願発明のクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材は、ステンレス鋼部材表面をリン酸及び有機スルホン酸からなる電解液中で、パルス電圧印可処理、ミクロ曝気処理、電解液噴流処理を備えた電解槽中で電解研磨処理する精密電解研磨処理工程と、電解研磨したステンレス鋼部材表面にウエットプロセスによりクロム酸化物皮膜を形成し、クロム酸化物皮膜を硬化するクロム酸化皮膜形成工程、により製造される。なお、電解研磨の精度、迅速化を図るため事前に機械研磨処理工程を行うことができる。
以下、機械研磨処理工程、精密電解研磨処理工程、クロム酸化物皮膜形成工程について順に説明する。
【0019】
1.機械研磨処理工程
本願発明のクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材を製造するための機械研磨処理工程ではバフ研磨を好適に採用できる。電解研磨処理を行う前にバフ研磨を行うことで電解研磨処理工程を迅速化でき、電解研磨による表面平滑性が向上するからである。
バフ研磨は、布又は不織布の外周面に研磨剤を塗ったものにより磨く方法である。表面状態が粗く不均一であるものを、布若しくは不織布又は研磨剤を代えて数回研磨することで、粗研磨から光沢を出す状態まで研磨できる。
バフの種類は布バフでは、縫いバフ、とじバフ、ばらバフ、バイアスバフ、サイザルバフなどがある。その他のバフとしては、フラップホイール、不織布ホイール、ワイヤーホイールなどがある。これらのバフは、その用途に応じて使用される。ナイロン繊維を起毛したものが好ましい。また、バフ研磨材としては、比較的微粉の研磨材を主成分とし、これと油脂やその他適当な成分からなる媒体とを均一に混合した研磨材料がある。本願発明のバフ研磨材としては、400番以上の仕上げ研磨剤を好適に採用できる。
【0020】
2.精密電解研磨処理工程
本願発明のクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材を製造するための精密電解研磨処理工程は、ステンレス鋼部材表面の酸化皮膜や不純物(非金属介在物)、加工変質層等の表面欠陥を除去または低減して、ステンレス鋼部材表面に均一で緻密なクロム酸化物皮膜を形成する前処理としての役割を担う。
電解研磨処理は、外部電源により、電解研磨液中で、被研磨金属をアノード(陽極)として直流電流を流して、微細な凹凸のある被研磨金属表面の凸部分の溶解により被研磨金属表面を平滑化し光沢化する研磨方法である。バフ研磨などの物理的研磨と異なり加工変質や加工硬化層を作らず、研磨面に不純物や汚染が少ないため研磨面が清浄となるという長所がある。
電解研磨浴における陽極分極曲線(Jacquet曲線)では、電極電位に依存しない一定電流(限界電流)範囲が存在する。この限界電流範囲において、被研磨金属近傍には濃厚な粘性の高い陽極液層(Jacquet層)が形成される。この陽極液層(Jacquet層)は溶出カチオンの拡散を抑制し、これによって研磨が行われると考えられる。すなわち、被研磨金属表面状の凹凸により、粘性液層中の濃度勾配に差異を生じ、拡散電流が影響して凸部に電流が集中するようになり、表面の凹凸が消失して研磨が行われる。
【0021】
(2-1)電解研磨液
本願発明の電解研磨処理では、電解液組成をリン酸濃度が25~50vol%、かつメタンスルホン酸濃度が50~75vol%の範囲で選択されたリン酸及びメタンスルホン酸のみからなるステンレス鋼用電解研磨液が好適である。すなわち、溶媒としての水、溶質としてのリン酸及びメタンスルホン酸のみで構成されている。電解研磨液の溶質を粘性の高い硫酸に代えてメタンスルホン酸とすることで、電解研磨液の粘性を下げることができ、電解研磨処理によるアノード反応に伴い金属表面に発生する気泡の滞留を抑制できるからである。また、メタンスルホン酸濃度をリン酸濃度より同等以上とすることで、電解研磨液の粘性を低減することができるからである。電解研磨液を安定化するためのエチレングリコールモノエチルエーテル,エチレングリコールモノブチルエステルやグリセリン等の添加剤を含まないのも、電解液の安定化より、気泡の発生抑制が金属表面の平滑化に効果があるからである。
なお、メタンスルホン酸に代えて、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-フェノールスルホン酸、ビニルスルホン酸などの有機スルホン酸を選択することもできる。
【0022】
(2-2)電解研磨処理
本願発明の電解研磨処理は、上述した電解研磨液を満たした電解研磨処理槽にステンレス鋼部材を浸漬して行う。パルス電圧印加処理、ミクロ曝気処理、電解液噴流処理を採用する。また、アノードを上下左右に揺動する揺動機構を採用する。パルス電圧印加処理、ミクロ曝気処理、電解液噴流処理、揺動機構を採用することで、電解研磨ステンレス鋼部材表面の平滑性が向上し、は、走査型プローブ顕微鏡で計測した凹凸差を30nm以下とすることができるからである。
【0023】
(2-2-1)パルス電圧印加処理
図2は、本願発明の電解研磨処理に供する電解研磨装置100の実施態様の1つを示す模式図である。本実施態様では、外部電源として直流電源と負荷との間に設けたスイッチング素子でON、OFF制御するパルス電圧発生装置20を電解研磨処理槽10に設置して行う。被研磨金属21をアノード(陽極)として導線22によりパルス電圧発生装置20と接続する。ここで、被研磨金属21は、本願発明においては、ステンレス鋼またはステンレス鋼部材である。
本願発明の電解研磨方法は、特定の電流密度に調整した電解研磨液23中において、電解時にパルス波形(矩形波)の電圧を被研磨金属21に印加するパルス電圧印加処理を採用することで被研磨金属21表面の平滑性を向上することができる。
【0024】
図2は、本願発明のパルス電圧印加処理におけるパルス波形(電圧波形)を模式的に示したものであり、それぞれ、印加電圧(E
+-E
0)、電圧印加時間(T
on)、電圧休止時間(T
off)である。電圧印加時間(T
on)及び電圧休止時間(T
off)の繰返し周期(T
cycle)は、5~20secである。電圧印加時間(T
on)及び電圧休止時間(T
off)の比率は、7:3~8:2が好適に採用できる。例えば、繰返し周期(T
cycle)が10secの場合、電圧印加時間(T
on)はそれぞれ7sec、8sec、電圧休止時間(T
off)は、それぞれ2sec、3secである。パルス電圧印加処理を採用することで、電圧休止時間(T
off)において、被研磨金属の印加電圧(E
+-E
0)がゼロ(E
0)となり、被研磨金属近傍の濃厚な粘性の高い陽極液層(Jacquet層)が拡散するからである。
電流密度は10~30A/dm
2、好ましくは10~30A/dm
2であり、電解研磨時間(T
all)は、5~10minである。ただし、印加電圧(E
+-E
0)、電圧印加時間(T
on)、電圧休止時間(T
off)、電解研磨時間(T
all)は、被研磨金属の表面の粗さ、被研磨金属の材質により適宜変更することができる。
【0025】
(2-2-2)アノード揺動機構
アノード揺動装置(図示せず)によるアノード揺動機構を備えることにより、電解研磨面に滞留する気泡を表面から剥離することができる。
【0026】
(2-2-3)ミクロ曝気処理
本願発明の電解研磨処理を行う電解研磨処理槽10には、リン酸及び少なくとも1種の有機スルホン酸のみからなる電解研磨液23が貯留されている。この電解研磨処理槽10には、マイクロバブル発生装置11が外側面に設けられ、マイクロバブル送気菅12が内側面に設けられている。マイクロバブル13は、マイクロバブル送気菅12を通じて電解研磨処理槽10の底部から供給される。また、電解研磨処理槽10の底部には散気装置14が設けられ、外側面に設けられたコンプレッサー15から内側面に設けられた送気菅16を通じて供給された気体が多数の小孔が形成された散気面(図示せず)から気泡として供給される。供給されたマイクロバブル13と散気装置14から供給される微細気泡は旋回流17として電解研磨処理槽10で撹拌旋回される。これにより、電解研磨処理のアノード反応に伴い被研磨金属21の表面に滞留する気泡が被研磨金属21の表面から剥離され、被研磨金属21の表面へ再付着することがなくなる。結果として、被研磨金属21の表面に滞留する気泡がなくなり、被研磨金属21の表面が均一に電解研磨されて被研磨金属21の表面平滑性が向上する。
【0027】
マイクロバブルの作用を得るには、平均気泡径の異なるマイクロバブル、すなわち平均気泡径10~40μmの第1マイクロバブルと平均気泡径80~150μmの第2マイクロバブルをスマット除去槽に加えればよい。ここで、平均気泡径とは、マイクロバブル2400個の直径分布において、標本数最大の直径をいう。平均気泡径の異なるマイクロバブルを用いることで、スマット除去性が向上するからである。スマット除去槽に加えるマイクロバブルの平均気泡径は吐出量により制御する。本願発明の平均気泡径10~40μmの第1マイクロバブルと平均気泡径80~150μmの第2マイクロバブルを加えるためには、吐出量は105~150L/minに制御する必要がある。
マイクロバブルの平均気泡径は、10~150μmの範囲が好ましい。10μm未満の場合は、バブル発生装置が大型になり気泡径を制御することが難しいからであり、150μmを超えるとバブル浮上速度が増加し電解研磨処理槽10でのバブルの寿命が短くなるからである。
【0028】
マイクロバブルの平均気泡径は、SALD-7100(島津製作所)、Multisizer4(Beckman Coulter)、音響式気泡径分布測定装置(西日本流体技研)などの液中パーティクルカウンターや気泡径分布計測装置で計測できる。しかしながら、本願発明では、平均気泡径の異なるマイクロバブルの発生を制御することが重要であるため、一定時間に発生する気泡の映像に基づく静止画像から得られる気泡形状を画像処理により実際に計測することにより、24000個の平均径を算出する方法を採用した。
【0029】
本願発明では、気体供給管と多数の小孔が形成された散気面及び気体が供給される内部空間を有する散気用部材とを備えるディフューザーなどの散気装置を用いることができる。散気用部材の形状は特に限定されず、多数の均一な小孔が全面に亘って均一に形成された散気面を備える筒状の散気菅、または箱状物の一面が散気面となった散気板を用いることができる。散気面の小孔は、良好な撹拌を行うため、直径が0.3~2.0mm程度であることが好ましい。散気による気泡の上昇に伴って旋回流を発生させることで、金属表面に滞留する気泡の除去効率は上がる。旋回流速は0.5~1.5m/secが好ましい。
【0030】
(2-2-4)電解液噴流処理
パルス電圧印加処理、ミクロ曝気処理に加えて、電解研磨処理面に流速0.5~100L/minの噴流を与える電解液噴流処理を行う。ミクロ曝気処理と同様に電解研磨面に滞留する気泡を表面から剥離するためである。噴流は噴流ノズル18から電解研磨処理面に与える。
【0031】
3.クロム酸化物皮膜形成工程
クロム酸化物皮膜形成工程は、近赤外領域(波長750nm~2500nm)における表面反射率の最大値が60%以下とするクロム酸化物皮膜をステンレス鋼部材表面に形成して、ステンレス鋼部材に近赤外領域における熱輻射率を低減する役割を担う。
クロム酸化物皮膜形成工程は、クロム酸と硫酸の混合溶液からなる処理液に浸漬して、ステンレス鋼部材表面にクロム酸化物皮膜をする形成する皮膜形成処理、クロム酸化物皮膜を、クロム酸とリン酸の混合溶液からなる処理液に浸漬して、クロム酸化物皮膜を硬化する硬化処理とからなる。
【0032】
(3-1)皮膜形成処理
クロム酸化物皮膜の形成には、クロム酸と硫酸混合溶液中でクロム酸化物皮膜を形成する、いわゆるインコ法(特開昭48-011243号公報参照)を採用する。形成されたクロム酸化物皮膜の厚さは発色電位(陽極と参照極との電位差)で制御する。近赤外領域(波長750nm~2500nm)における表面反射率の最大値が60%以下とするクロム酸化物皮膜の厚さは、190nm~280nmであり、発色電位は17mV~27mVである。
【0033】
クロム酸化物皮膜の形成速度(以下、「皮膜形成速度」という。)を制御することで、皮膜の密着性、均一性を高めて半導体製造装置に使用される部材から発生する金属不純物や半導体処理液中に含まれる金属不純物の滞留の原因となる皮膜が薄い部分や皮膜欠損(ピンホール)の発生を抑制できる。
皮膜形成速度は、処理液組成と温度で制御できる。処理液組成としては、硫酸とクロム酸の混合比(クロム酸/硫酸)は、クロム酸15~30wt/v%に対し、硫酸40~50wt/v%が好適である。クロム酸濃度を低減することで、水素バリア機能を担うクロム酸化物皮膜の形成速度を低くすることができ、クロム酸化物皮膜の生成厚みを精密に制御できるからである。処理液温度は、60~90℃である。
皮膜形成速度は、電位速度(mV/sec)で制御することができる。電位速度は、0.002~0.08mV/sec、好ましくは0.005~0.065mV/secである。電位速度が0.002mV/sec未満であるとクロム酸化物皮膜の生成が遅れ生産性が低下するからである。電位速度が0.08mV/secを超えると形成されるクロム酸化物皮膜の厚みが不均一となり、水素バリア性が低下する原因となる塗膜が薄い部分や塗膜欠損(ピンホール)が生じるからである。
処理液中のクロム酸濃度の低減に伴うクロム酸化物皮膜の形成速度を補うために、マンガンイオン(Mn2+)を添加することができる。マンガン塩としては、塩化マンガン(MnCl2)、硫酸マンガン(MnSO4)、硝酸マンガン(Mn(NO3)2)などがあり、これらの中の1種または2種以上を用いることができる。処理液中のマンガンイオン(Mn2+)濃度は、0.5~300mmol/Lが好ましく、5~150mmol/Lがより好ましい。マンガンイオン(Mn2+)濃度が0.5mmol/L未満では、クロム酸化物皮膜の形成を促す効果がなく、マンガンイオン(Mn2+)濃度が300mmol/Lを超えると不溶な部分が残って、クロム酸化物皮膜の形成に影響を及ぼすからである。
【0034】
(3-2)硬化処理
硬化処理工程は、溶接加工を施したステンレス鋼表面に形成されたクロム酸化物皮膜を硬化させて強固にする役割を担う。
硬化処理は、皮膜形成工程によりクロム酸化物皮膜が形成されたステンレス鋼部材を陰極とし、陰極電解によりクロム酸化物皮膜を硬化させる。皮膜形成工程により形成されたクロム酸化物皮膜は、10~20nmの空孔が1cm2当たり1011個程度分布している。この空孔は、水素バリア性を低下させる原因となるものであり、硬化処理により空孔を封じることができる。また、ルーズな皮膜を強固にすることもできる。
硬化処理液としては、クロム酸とリン酸の混合比(クロム酸/リン酸)は、クロム酸15~30wt/v%に対し、反応促進剤としてリン酸0.2~0.3wt/v%が好適である。電流密度0.2~1.0A/dm2で、5~10min行う。
【0035】
4.特性評価
実施例及び比較例で作製したサンプルについては、以下の特性を評価した。
【0036】
(4-1)表面粗さ計測
精密研磨処理品の表面凹凸プロフィルを走査型プローブ顕微鏡(島津製作所製 SFT-4500)により計測し、凹凸差を求めた。
【0037】
(4-2)クロム酸化物皮膜厚み
クロム酸化物皮膜の厚さは、皮膜を形成した破断面のSEM観察により計測した。なお、断面形態のSEM観察の条件は、加速電圧:10.0kV、検出モード:2次電子検出、倍率:10000倍とした。
また、クロム酸化物皮膜の色調を目視で評価した。
【0038】
(4-3)クロム酸化物皮膜層の構成元素分析
クロム酸化物被膜層を構成する元素(Cr、O、C)をXPS(X線光電子分光分析)により測定した。X線光電子分光分析装置(島津製作所製 KRATOS AXIS-ultra)を用いた。X線源には単色AlKα線を用い、照射径は30μmとした。
ワイドスキャン(定性分析)は、パスエネルギー160eV、エネルギーステップ1eVで行い、ナロースキャン(定量分析、電子状態分析)は、Cr2p、O2p、C2pスペクトルについて、パスエネルギー80eV、エネルギーステップ1eVで行った。
【0039】
(4-4)脱ガス特性
脱ガス特性は、クロム酸化皮膜を被覆したステンレス鋼部材をアセトン溶液中で超音波処理(120秒)した後、真空チャンバーに導入して真空度が4.9×10-5Paとなるのに要する時間を計測した。
【0040】
(4-5)近赤外領域反射率測定
分光光度計(日本分光社製、V-670)を用いて、近赤外領域(波長750~2500nm)における平均反射率を測定し、最大反射率を求めた。
【実施例】
【0041】
次に本願発明の効果を奏する実施態様を実施例として示す。また、そのまとめを表1(電解研磨処理条件と表面凹凸差)及び表2(皮膜形成処理条件と最大反射率・脱ガス性)に示す。
また、
図4に発色電位とクロム酸化物皮膜の厚さとの関係、色調緑のTEM断面写真を、
図5に実施例1-3、比較例1-3の分光吸収データ(250nm~2700nm)を、それぞれ示す。
【0042】
【0043】
【0044】
<まとめ>
(1)表1および
図6に示すとおり、本願発明のリン酸及び少なくとも1種の有機スルホン酸のみからなる電解研磨液中で、アノード揺動、パルス電圧印加処理、ミクロ曝気処理、電解液噴流処理を併用した本願発明の精密電解研磨処理(実施例1、3)は、走査型プローブ顕微鏡(島津製作所製 SFT-4500)により計測した凹凸差がそれぞれ21nm、27nmであり、リン酸と硫酸とからなる電解液中で電解研磨処理を行う電解研磨処理(比較例4)の395nmと比べて有意に小さい。クロム酸化物皮膜を形成するステンレス鋼表面をナノオーダーで平滑化することで、クロム酸化物皮膜が均一かつ平滑にステンレス鋼表面に形成できる。
(2)表2、
図4に示すとおり、クロム酸化物皮膜の膜厚は発色電位に比例する。また、表2、
図5に示すとおり、クロム酸化物皮膜の膜厚を厚くするほど近赤外領域(波長750~2500nm)における平均反射率は低くなり、皮膜厚を190nm~280nmとすることで近赤外領域(波長750nm~2500nm)における表面反射率の最大値が60%以下とすることができる。
(3)表2に示すとおり、クロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼(実施例1-3、比較例1-2)脱ガス性は、精密電解研磨品(比較例3)と同等(58min)であり、クロム酸化物皮膜被覆品においても金属不純物はpptレベルで管理可能である。
(4)
図7に示すとおり、X線光電子分光分析による表面元素分析では、素地(ステンレス鋼)では、クロム元素(Cr
2p)に明確なピークはない。精密電解研磨、クロム酸化物皮膜被覆を行うことで、Cr
2p、O
2p、C
2pピークはより明確になる。クロム酸化物皮膜被覆品は、Cr
2p、O
2p、C
2pピークのみでクロム酸化物で被覆されている。
【0045】
実施例1-3及び比較例1-4のサンプルを以下のとおり作製した。
【0046】
<実施例1>
#400研磨材でバフ研磨したステンレス鋼(SUS304、80×60×2mm、2B仕上げ 平板)を被研磨材とした。
(1)精密電解研磨処理
被研磨材に電極(+)を取り付け、揺動装置で被研磨材(ステンレス鋼)を上下方向又は左右方向に揺動させ、以下の処理条件で精密電解研磨を行い、精密研磨処理品1を作製した。
[電解研磨処理条件]
・電解研磨液組成 リン酸50ml/L、メタンスルホン酸50ml/L
・処理温度 75℃
・処理時間 5min
・電流密度 20A/dm2
・電解液噴流 50L/min
[パルス電圧処理]
パルス電圧発生装置(千代田エレクトロニクス社製 NC-025025S20X)を、印加電圧8V、繰返し周期10sec、電圧印加時間7sec、電圧休止時間3secに設定して、電解研磨処理にパルス電圧処理を加えた。
[ミクロ曝気処理]
マイクロバブル発生装置(関西オートメ機器株式会社製;HBKA80-0.2S1-SDX型)により、2400カウント当たり、平均気泡径30μmと平均気泡径100μmのマイクロバブルを吐出量(120L/min)で発生させた。マイクロバブルの平均気泡径は、画像処理法(マイクロバブル画像の実測)で計測した。併せて、円筒型散気装置(株式会社西田製作所製、サイズφ70mm×1000mm)から気泡を給気速度(100L/min)でスマット処理槽の底部から発生させて、電解研磨槽に上下旋回流を発生させた。処理時間は180secであった。
【0047】
(2)クロム酸化物皮膜形成処理
研磨処理品1を以下の条件で皮膜形成処理(発色処理)と、硬化処理を順に行い、クロム酸化物皮膜形成品1を作製した。
〔皮膜形成処理条件〕
・発色液組成 クロム酸化物250g/L、硫酸500g/L
・処理温度 65℃
・処理時間 40min
・発色電位速度 0.011mV/sec
・発色電位 27mV
〔硬化処理条件〕
・硬化液組成 クロム酸化物250g/L、リン酸2.5g/L
・処理温度 25℃
・処理時間 10min
・電流密度 0.5A/dm2
【0048】
<実施例2>
クロム酸化物皮膜形成処理を以下の条件で行った以外、実施例1と同様にして精密研磨処理品2、クロム酸化物皮膜形成品2を作製した。
【0049】
(1)クロム酸化物皮膜形成処理
〔皮膜形成処理条件〕
・発色液組成 クロム酸化物250g/L、硫酸500g/L
・処理温度 65℃
・処理時間 35min
・発色電位速度 0.011mV/sec
・発色電位 22mV
〔硬化処理条件〕
・硬化液組成 クロム酸化物250g/L、リン酸2.5g/L
・処理温度 25℃
・処理時間 10min
・電流密度 0.5A/dm2
【0050】
<実施例3>
クロム酸化物皮膜形成処理を以下の条件で行った以外、実施例1と同様にして精密研磨処理品3、クロム酸化物皮膜形成品3を作製した。
【0051】
(1)クロム酸化物皮膜形成処理
〔皮膜形成処理条件〕
・発色液組成 クロム酸化物250g/L、硫酸500g/L
・処理温度 65℃
・処理時間 26min
・発色電位速度 0.011mV/sec
・発色電位 17mV
〔硬化処理条件〕
・硬化液組成 クロム酸化物250g/L、リン酸2.5g/L
・処理温度 25℃
・処理時間 10min
・電流密度 0.5A/dm2
【0052】
<比較例1>
クロム酸化物皮膜形成処理を以下の条件で行った以外、実施例1と同様にして精密研磨処理品4、クロム酸化物皮膜形成品4を作製した。
【0053】
(1)クロム酸化物皮膜形成処理
〔皮膜形成処理条件〕
・発色液組成 クロム酸化物250g/L、硫酸500g/L
・処理温度 65℃
・処理時間 70min
・発色電位速度 0.0024mV/sec
・発色電位 10mV
〔硬化処理条件〕
・硬化液組成 クロム酸化物250g/L、リン酸2.5g/L
・処理温度 25℃
・処理時間 10min
・電流密度 0.5A/dm2
【0054】
<比較例2>
クロム酸化物皮膜形成処理を以下の条件で行った以外、実施例1と同様にして精密研磨処理品5、クロム酸化物皮膜形成品5を作製した。
【0055】
(1)クロム酸化物皮膜形成処理
〔皮膜形成処理条件〕
・発色液組成 クロム酸化物250g/L、硫酸500g/L
・処理温度 65℃
・処理時間 11min
・発色電位速度 0.011mV/sec
・発色電位 7mV
〔硬化処理条件〕
・硬化液組成 クロム酸化物250g/L、リン酸2.5g/L
・処理温度 25℃
・処理時間 10min
・電流密度 0.5A/dm2
【0056】
<比較例3>
#400研磨材でバフ研磨したステンレス鋼(SUS304、80×60×2mm、2B仕上げ 平板)を被研磨材とした。
(1)電解研磨処理
被研磨材に電極(+)を取り付け、揺動装置で被研磨材を上下方向又は左右方向に揺動させ、以下の処理条件で精密電解研磨を行い、精密研磨処理品6を作製した。
[電解研磨処理条件]
・電解研磨液組成 リン酸50ml/L、メタンスルホン酸50ml/L
・処理温度 75℃
・処理時間 5min
・電流密度 20A/dm2
・電解液噴流 50L/min
[パルス電圧処理]
パルス電圧発生装置(千代田エレクトロニクス社製 NC-025025S20X)を、印加電圧8V、繰返し周期10sec、電圧印加時間7sec、電圧休止時間3secに設定して、電解研磨処理にパルス電圧処理を加えた。
[ミクロ曝気処理]
マイクロバブル発生装置(関西オートメ機器株式会社製;HBKA80-0.2S1-SDX型)により、2400カウント当たり、平均気泡径30μmと平均気泡径100μmのマイクロバブルを吐出量(120L/min)で発生させた。マイクロバブルの平均気泡径は、画像処理法(マイクロバブル画像の実測)で計測した。併せて、円筒型散気装置(株式会社西田製作所製、サイズφ70mm×1000mm)から気泡を給気速度(100L/min)でスマット処理槽の底部から発生させて、電解研磨槽に上下旋回流を発生させた。処理時間は180secであった。
【0057】
<比較例4>
#400研磨材でバフ研磨したステンレス鋼(SUS304、80×60×2mm、2B仕上げ 平板)を被研磨材とした。
(1)電解研磨処理
被研磨材に電極(+)を取り付け、以下の処理条件で精密電解研磨を行い、研磨処理品7を作製した。
なお、パルス電圧処理、ミクロ曝気処理、電解液噴流を行わなかった。揺動装置で被研磨材を上下方向又は左右方向に揺動させなかった。
[電解研磨処理条件]
・電解研磨液組成 リン酸25ml/L、硫酸75ml/L
・処理温度 75℃
・処理時間 5min
・電流密度 20A/dm2
【産業上の利用可能性】
【0058】
本願発明により、半導体製造装置に供するステンレス鋼およびその製造方法を提供できる。
【符号の説明】
【0059】
100 電解研磨装置
10 電解研磨処理槽
11 マイクロバブル発生装置
12 マイクロバブル送気管
13 マイクロバブル
14 散気装置
15 コンプレッサー
16 送気管
17 旋回流
18 噴流ノズル
20 パルス電圧発生装置
21 被研磨金属
22 導線
23 電解研磨液
【要約】
【課題】金属不純物が少なく、保温性が高いクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材を提供する。
【解決手段】クロム酸化物皮膜の膜厚が190nm~280nmであり、かつ近赤外領域(波長750nm~2500nm)における表面反射率の最大値が60%以下であるクロム酸化物皮膜被覆ステンレス鋼部材である。精密電解研磨工程とクロム酸化皮膜被覆工程とで製造する。精密電解研磨工程は、パルス電圧印加処理、ミクロ曝気処理、電解液噴流処理を含み、研磨後のステンレス鋼表面は、走査型プローブ顕微鏡で計測した凹凸差が30nm以下である。
【選択図】
図1