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特許7492222アディポネクチン受容体作動薬及びその使用、並びにアディポネクチン受容体作動用食品組成物及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】アディポネクチン受容体作動薬及びその使用、並びにアディポネクチン受容体作動用食品組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/015 20060101AFI20240522BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240522BHJP
   A61K 31/01 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 31/336 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 36/81 20060101ALI20240522BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240522BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240522BHJP
   A61P 5/00 20060101ALI20240522BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
A61K31/015
A23L33/105
A61K31/01
A61K31/336
A61K36/81
A61P3/04
A61P3/10
A61P5/00
A61P43/00 111
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018224030
(22)【出願日】2018-11-29
(65)【公開番号】P2019189598
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-12-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2018080006
(32)【優先日】2018-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼刊行物名 平成30年度京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻 学位請求論文講演要旨 頒布日:平成30年5月7日 ▲2▼集会名、開催場所 平成30年度京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻 学位請求論文発表会 京都大学農学部講義室 W306 開催日:平成30年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】河田 照雄
(72)【発明者】
【氏名】毛利 晋輔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 春弥
(72)【発明者】
【氏名】後藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】荒 武
(72)【発明者】
【氏名】松村 康生
(72)【発明者】
【氏名】柴田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】脇 尚子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慎吾
【合議体】
【審判長】前田 佳与子
【審判官】石井 徹
【審判官】原田 隆興
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-286729(JP,A)
【文献】特開2009-108022(JP,A)
【文献】特開2012-176914(JP,A)
【文献】特開2008-222555(JP,A)
【文献】特開2012-171893(JP,A)
【文献】特開2003-95930(JP,A)
【文献】特開2014-37417(JP,A)
【文献】特開2010-180220(JP,A)
【文献】特開2017-212999(JP,A)
【文献】特開2015-205882(JP,A)
【文献】特開2010-6816(JP,A)
【文献】特開2010-150193(JP,A)
【文献】特表2007-502605(JP,A)
【文献】Mol Nutr Food Res, 2018年,62:1700738
【文献】J. Agric. Food Chem. 2015, Vol.63, p.2378-2382
【文献】J Sci Food Agric 2017, Vol.97, p.488-496
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/
A61K36/
A23L33/105
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマト由来のカロテノイドを有効成分として含有する、アディポネクチン受容体に作用して、アディポネクチン受容体を直接活性化させる、アディポネクチン受容体作動薬。
【請求項2】
前記トマト由来のカロテノイドが、フィトエン、フィトフルエン、β-カロテン、リコピン、及びα-カロテンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のアディポネクチン受容体作動薬。
【請求項3】
フィトエン、フィトフルエン、β-カロテン、トルレン、リコピン、α-カロテン、及びフコキサンチンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカロテノイドを有効成分として含有する、アディポネクチン受容体に作用して、アディポネクチン受容体を直接活性化させる、アディポネクチン受容体作動薬。
【請求項4】
前記β-カロテン又は前記リコピンが、シス異性体である、請求項2又は3に記載のアディポネクチン受容体作動薬。
【請求項5】
トマトから、メタノールとメチルtert-ブチルエーテルとの混合溶媒を用いて抽出された抽出物を有効成分として含有する、アディポネクチン受容体に作用して、アディポネクチン受容体を直接活性化させる、アディポネクチン受容体作動薬。
【請求項6】
トマト由来のカロテノイドを有効成分として含有する、アディポネクチン受容体に作用して、アディポネクチン受容体を直接活性化させる、アディポネクチン受容体作動用食品組成物。
【請求項7】
前記トマト由来のカロテノイドが、フィトエン、フィトフルエン、β-カロテン、リコピン、及びα-カロテンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載のアディポネクチン受容体作動用食品組成物。
【請求項8】
フィトエン、フィトフルエン、β-カロテン、トルレン、リコピン、α-カロテン及びフコキサンチンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカロテノイドを有効成分として含有する、アディポネクチン受容体に作用して、アディポネクチン受容体を直接活性化させる、アディポネクチン受容体作動用食品組成物。
【請求項9】
前記β-カロテン又は前記リコピンが、シス異性体である、請求項7又は8に記載のアディポネクチン受容体作動用食品組成物。
【請求項10】
トマトから、メタノールとメチルtert-ブチルエーテルとの混合溶媒を用いて抽出された抽出物を有効成分として含有する、アディポネクチン受容体に作用して、アディポネクチン受容体を直接活性化させる、アディポネクチン受容体作動用食品組成物。
【請求項11】
前記食品組成物が、健康食品、機能性表示食品、特別用途食品、病者用食品、栄養補助食品、サプリメント、又は特定保健用食品である、請求項6~10のいずれか一項に記載のアディポネクチン受容体作動用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アディポネクチン受容体作動薬及びその使用に関する。具体的には、本発明は、トマト由来のカロテノイド、又はフィトエン、フィトフルエン、β-カロテン、トルレン、リコピン、α-カロテン、及びフコキサンチンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカロテノイド、或いはトマトから、メタノールとメチルtert-ブチルエーテルとの混合溶媒を用いて抽出された抽出物を有効成分として含有する、アディポネクチン受容体作動薬、該アディポネクチン受容体作動薬を有効成分として含有する、アディポネクチン分泌異常に起因する疾患の治療剤及び/又は予防剤に関する。また、本発明は、アディポネクチン受容体作動用食品組成物及びその使用に関する。具体的には、本発明は、トマト由来のカロテノイド、又はフィトエン、フィトフルエン、β-カロテン、トルレン、リコピン、α-カロテン、及びフコキサンチンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカロテノイド、或いはトマトから、メタノールとメチルtert-ブチルエーテルとの混合溶媒を用いて抽出された抽出物を有効成分として含有する、アディポネクチン受容体作動用食品組成物、該アディポネクチン受容体作動用食品組成物を含有する、アディポネクチン分泌異常に起因する疾患の治療及び/又は予防用食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アディポネクチンは、脂肪細胞から分泌されるホルモンで、インスリン感受性の亢進、動脈硬化の抑制、抗炎症の抑制などの作用が知られている。運動不足などから肥満になった人や、2型糖尿病の人では、脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンが低下するため、アディポネクチンは、肥満から引き起こされるインスリン抵抗性に関わる因子として注目されている。
【0003】
アディポネクチンの作用を細胞内に伝える分子である、アディポネクチン受容体(以下、AdipoRとも称する)が同定されている。遺伝的素養や肥満等により既にアディポネクチンの分泌に異常を来している場合、アディポネクチン自体の分泌を促すのではなく、AdipoRを直接的に活性させることが重要との報告がある(非特許文献1)。
【0004】
一方、リコピンやβ-カロテンは、トマト等に含まれている天然に存在するカロテノイド化合物の一種であって、様々な疾病に対して予防的又は治療的に働くことが知られている。
【0005】
リコピンは、アディポネクチンの産生を促進すること(特許文献1)や、β-カロテンがアディポネクチン受容体の発現を増加させること(特許文献2)が知られている。しかし、リコピンやβ-カロテンを含むカロテノイドが、AdipoRに直接作用してAdipoRを活性化させることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-286729号公報
【文献】特開2008-222555号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】昭和医会誌 第70巻 第1号 52-57頁 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、アディポネクチンの低下により引き起こされる2型糖尿病や肥満等の疾患の治療又は予防に有用な、アディポネクチン受容体作動薬、及びアディポネクチン受容体作動用食品組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、リコピンやβ-カロテン等のトマト由来のカロテノイド、及び、トルレン、フコキサンチン等のカロテノイド、並びにトマトから、メタノールとメチルtert-ブチルエーテルとの混合溶媒を用いて抽出された抽出物がAdipoRに直接作用し、AdipoRを活性化させる、AdipoR作動薬として機能することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の[1]~[13]に関する。
【0010】
[1] トマト由来のカロテノイドを有効成分として含有する、アディポネクチン受容体作動薬。
[2] 前記トマト由来のカロテノイドが、フィトエン、フィトフルエン、β-カロテン、リコピン、及びα-カロテンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]に記載のアディポネクチン受容体作動薬。
[3] フィトエン、フィトフルエン、β-カロテン、トルレン、リコピン、α-カロテン、及びフコキサンチンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカロテノイドを有効成分として含有する、アディポネクチン受容体作動薬。
[4] 前記β-カロテン又は前記リコピンが、シス異性体である、[2]又は[3]に記載のアディポネクチン受容体作動薬。
[5] トマトから、メタノールとメチルtert-ブチルエーテルとの混合溶媒を用いて抽出された抽出物を有効成分として含有する、アディポネクチン受容体作動薬。
[6] [1]~[5]のいずれか一項に記載のアディポネクチン受容体作動薬を有効成分として含有する、アディポネクチン分泌異常に起因する疾患の治療剤及び/又は予防剤。
[7] トマト由来のカロテノイドを有効成分として含有する、アディポネクチン受容体作動用食品組成物。
[8] 前記トマト由来のカロテノイドが、フィトエン、フィトフルエン、β-カロテン、リコピン、及びα-カロテンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[7]に記載のアディポネクチン受容体作動用食品組成物。
[9] フィトエン、フィトフルエン、β-カロテン、トルレン、リコピン、α-カロテン及びフコキサンチンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカロテノイドを有効成分として含有する、アディポネクチン受容体作動用食品組成物。
[10] 前記β-カロテン又は前記リコピンが、シス異性体である、[8]又は[9]に記載のアディポネクチン受容体作動用食品組成物。
[11] トマトから、メタノールとメチルtert-ブチルエーテルとの混合溶媒を用いて抽出された抽出物を有効成分として含有する、アディポネクチン受容体作動用食品組成物。
[12] [7]~[11]のいずれか一項に記載のアディポネクチン受容体作動用食品組成物を含有する、アディポネクチン分泌異常に起因する疾患の治療及び/又は予防用食品組成物。
[13] 前記食品組成物が、健康食品、機能性表示食品、特別用途食品、病者用食品、栄養補助食品、サプリメント、又は特定保健用食品である、[7]~[12]のいずれか一項に記載の食品組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る、トマト由来のカロテノイドを有効成分として含有する、AdipoR作動薬は、優れたAdipoR活性化作用を有し、アディポネクチンの低下により引き起こされる2型糖尿病や肥満等の疾患の治療剤及び/又は予防剤として有用である。また、本発明に係る、トマト由来のカロテノイドを有効成分として含有する、AdipoR作動用食品組成物は、優れたAdipoR活性化作用を有し、アディポネクチンの低下により引き起こされる2型糖尿病や肥満等の疾患の治療及び/又は予防用食品組成物として有用である。
本発明に係る、フィトエン、フィトフルエン、β-カロテン、トルレン、リコピン、α-カロテン、及びフコキサンチンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカロテノイドを有効成分として含有する、アディポネクチン受容体作動薬は、優れたAdipoR活性化作用を有し、アディポネクチンの低下により引き起こされる2型糖尿病や肥満等の疾患の治療剤及び/又は予防剤として有用である。また、本発明に係る、フィトエン、フィトフルエン、β-カロテン、トルレン、リコピン、α-カロテン、及びフコキサンチンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカロテノイドを有効成分として含有する、AdipoR作動用食品組成物は、優れたAdipoR活性化作用を有し、アディポネクチンの低下により引き起こされる2型糖尿病や肥満等の疾患の治療及び/又は予防用食品組成物として有用である。
本発明に係る、トマトから、メタノールとメチルtert-ブチルエーテルとの混合溶媒を用いて抽出された抽出物(以下、トマトのMTBE抽出物とも称する)を有効成分として含有する、アディポネクチン受容体作動薬は、優れたAdipoR活性化作用を有し、アディポネクチンの低下により引き起こされる2型糖尿病や肥満等の疾患の治療剤及び/又は予防剤として有用である。また、本発明に係る、トマトのMTBE抽出物を有効成分として含有する、AdipoR作動用食品組成物は、優れたAdipoR活性化作用を有し、アディポネクチンの低下により引き起こされる2型糖尿病や肥満等の疾患の治療及び/又は予防用食品組成物として有用である。
本発明のアディポネクチン作動薬及びアディポネクチン作動用食品組成物は、アディポネクチンの産生を促進したり、AdipoRの発現を促進したりしても、アディポネクチンの効果を期待することができない、遺伝的素養によりアディポネクチン分泌に異常を来している患者に対しても、AdipoRに作用して、AdipoRを直接活性化させることができるため、アディポネクチン分泌異常に起因する2型糖尿病や肥満等の疾患の治療剤及び/又は予防剤、並びに前記疾患の治療用食品組成物及び/又は予防用食品組成物として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】トマト由来のカロテノイド及びトルレンのAMPキナーゼ(AMPK)のリン酸化作用を示す図である。
図2】α-カロテン及びフコキサンチンのAMPキナーゼ(AMPK)のリン酸化作用を示す図である。
図3】AdipoRのノックダウンによる、β-カロテンのAMPキナーゼ(AMPK)のリン酸化に対する抑制作用を示す図である。
図4】AdipoRのノックダウンによる、リコピンのAMPキナーゼ(AMPK)のリン酸化に対する抑制作用を示す図である。
図5】トマトのMTBE抽出物及びトマトの80%メタノール抽出物のAMPキナーゼ(AMPK)のリン酸化作用を示す図である。
図6】AdipoRのノックダウンによる、トマトのMTBE抽出物のAMPキナーゼ(AMPK)のリン酸化に対する抑制作用を示す図である。
図7】オールトランスリコピン、13-シスリコピンのAMPキナーゼ(AMPK)のリン酸化作用を示す図である。
図8】オールトランスβ-カロテン、9-シスβ-カロテン及び13-シスβ-カロテンのAMPキナーゼ(AMPK)のリン酸化作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳しく説明する。
≪トマト由来のカロテノイド≫
本発明において用いられるトマト由来のカロテノイドとしては、トマトに含まれるカロテノイドであれば、特に制限はないが、例えば、フィトエン、フィトフルエン、β-カロテン、リコピン、α-カロテン等が挙げられるが、β-カロテン及びリコピンが好ましい。
【0014】
本発明において用いられるトマト由来のカロテノイドは特に限定されず、天然の成分であっても、合成されたものであってもよい。また、トマト由来のカロテノイドが体内で吸収・分解された際に生じるものであってもよい。例えば、β-カロテンの代わりに、β-カロテンが体内で吸収分解された際に生じるレチナール、レチノイン酸の形態で用いてもよい。
【0015】
β-カロテンは、下記構造を有する分子量536.87のカロテノイドであり、水には殆ど溶けない脂溶性の橙色色素である。
【0016】
【化1】
【0017】
本発明において用いられるβ-カロテンは、異性体が存在する。該異性体としては、オールトランス異性体(以下、オールトランス体ともいう)と、11個の共役π結合のうち、少なくとも1個にシス型を含む、シス異性体(以下、シス体ともいう)等が挙げられる。該シス異性体としては、5-シス体、9-シス体、13-シス体等が挙げられる。本発明において用いられるβ-カロテンは、これらのβ-カロテンのいずれであってもよいが、シス体であることが好ましい。
【0018】
リコピンは、下記構造を有する分子量536.87のカロテノイドであり、水には殆ど溶けない脂溶性の赤色色素である。
【0019】
【化2】
【0020】
本発明において用いられるリコピンは、異性体が存在する。該異性体としては、オールトランス異性体(以下、オールトランス体ともいう)と、11個の共役π結合のうち、少なくとも1個にシス型を含む、シス異性体(以下、シス体ともいう)等が挙げられる。該シス異性体としては、5-シス体、9-シス体、13-シス体等が挙げられる。本発明において用いられるリコピンは、これらのリコピンのいずれであってもよいが、シス体であることが好ましい。
【0021】
リコピンは、天然においては、トマト、柿、スイカ、ピンクグレープフルーツなどの天然物に含まれており、本発明において用いられるリコピンは、これらの天然物から分離及び抽出されたのものであってもよい。
【0022】
また、本発明において用いられるリコピンは、天然物からの抽出物を必要に応じて適宜精製したものでもよいし、合成品であってもよい。
【0023】
また、本発明において用いられるリコピンは、リコピン誘導体であってもよい。該リコピンの誘導体としては、例えば、レチノイン酸のようなカロテノイド、合成アシクロ-レチノイン酸、1-HO-3’,4’-ジデヒドロリコピン、3,1’-(HO)-γ-カロテン、1,1’-(HO)-3,4,3’,4’-テトラデヒドロリコピン、1,1’-(HO)-3,4-ジデヒドロリコピン等が挙げられ、常法に従い、製造することができる。
【0024】
本発明において用いられるリコピンの形態の一つとしては、トマト加工品から抽出された脂溶性抽出物が挙げられる。トマト加工品としては、トマトペースト、トマトピューレ、トマトジュース、トマトパルプ等が挙げられる。該トマト加工品から抽出された脂溶性抽出物は、当該脂溶性抽出物を含む組成物中における安定性、品質、生産性の点から特に好ましい。
ここで、トマト加工品から抽出された脂溶性抽出物とは、トマト加工品から、有機溶剤や油を用いて抽出された抽出物や超臨界抽出法によって抽出された抽出物を意味する。脂溶性抽出物であるリコピンとしては、リコピン含有オイル又はオレオレジンとして広く市販されているトマト抽出物を用いることができ、例えば、サンブライト(株)より販売されているLyc-O-Mato 15%、Lyc-O-Mato 6%、協和発酵バイオ(株)より販売されているリコピン18等が挙げられる。
【0025】
≪その他のカロテノイド≫
本発明において用いられるカロテノイドとしては、前記トマト由来のカロテノイド以外に、トルレン、フコキサンチン等が挙げられる。
本発明において用いられるトルレン、及びフコキサンチンは特に限定されず、天然の成分であっても、合成されたものであってもよい。
【0026】
≪トマトのMTBE抽出物≫
本発明において用いられる、トマトのMTBE抽出物としては、トマトから、メタノール:メチルtert-ブチルエーテル=1:3の溶媒を用いて抽出された抽出物等が挙げられる。使用されるトマトとしては、トマトそのものであっても、前記トマト加工品であってもよい。トマトのMTBE抽出物は、当該抽出物をさらに濃縮等の処理や精製を行ったものであってもよい。トマトのMTBE抽出物は、カロテノイド等の脂溶性成分を多く含む。それに対し、トマトを、80%メタノール水溶液(以下、80%メタノールとも称する)で抽出した抽出物は、トマトの水溶性成分を多く含む。
トマトのMTBE抽出物は、例えば、トマトに、メタノール:メチルtert-ブチルエーテル=1:3の溶媒を添加し、ビーズ破砕機等を用いて溶媒内でトマトを破砕した後、超音波処理を行い、得られたトマト破砕物にメタノール:水=1:3の溶媒を加えて混和して遠心分離し、得られる上清を乾固させること等により得ることができる。
【0027】
≪AdipoR作動薬≫
トマト由来のカロテノイド、トルレン、及びフコキサンチンは、AdipoRを活性化させ、AdipoR作動薬として機能する。また、トマトのMTBE抽出物は、AdipoRを活性化させ、AdipoR作動薬として機能する。従って、トマト由来のカロテノイドを有効成分として含有する、AdipoR作動薬、フィトエン、フィトフルエン、β-カロテン、トルレン、リコピン、α-カロテン及びフコキサンチンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカロテノイドを有効成分として含有する、AdipoR作動薬、及びトマトのMTBE抽出物を有効成分として含有する、AdipoR作動薬は、AdipoRが活性化されないことにより引き起こされる状態又は疾病の治療及び/又は予防に用いることができる。例えば、インスリン抵抗性の改善、TNF-α産生の抑制、及び2型糖尿病、動脈硬化、冠動脈疾患、腎不全、心筋梗塞、高血圧、肝線維化、肥満等の治療及び/又は予防に用いることができる。
【0028】
また、本発明のAdipoR作動薬は、アディポネクチンの産生を促進したり、AdipoRの発現を促進したりしても、アディポネクチンの効果を期待することができない、遺伝的素養によりアディポネクチン分泌に異常を来している患者に対しても、AdipoRに作用して、AdipoRを直接活性化させることができるため、アディポネクチン分泌異常に起因する2型糖尿病や肥満等の疾患の治療剤及び/又は予防剤として用いることができる。
【0029】
トマト由来のカロテノイド、トルレン、フコキサンチン、及びトマトのMTBE抽出物は、そのままでAdipoR作動薬とすることができるし、さらに他の任意成分を配合してAdipoR作動薬としてもよい。このような任意成分は、AdipoRの活性化作用が期待され、かつ安全性が確認されているものを特に制限なく用いることができる。
【0030】
本発明に係るAdipoR作動薬の投与形態としては、例えば錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、溶液、シロップ剤、乳液等による経口投与を挙げることができる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬である、トマト由来のカロテノイド、トルレン、フコキサンチン、又はトマトのMTBE抽出物に加えて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬等の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。
【0031】
本発明のAdipoR作動薬におけるトマト由来のカロテノイド、トルレン、フコキサンチン、及びトマトのMTBE抽出物の含有量は、剤型によって異なるため特に限定されない。
【0032】
本発明のAdipoR作動薬の投与量は、個々の有効成分の活性、患者の性別、症状、年齢、投与方法によって異なるが、例えば、トマト由来のカロテノイド、トルレン、フコキサンチン、又はトマトのMTBE抽出物を、通常、成人1人、1日当たり、5~500mg、好ましくは、40mg~200mg投与することができる量である。例えば、AdipoR作動薬全量に対して、トマト由来のカロテノイド、トルレン、フコキサンチン、又はトマトのMTBE抽出物を好ましくは1~95%質量%、より好ましくは、10~40質量%の割合とする。
【0033】
本発明のAdipoR作動薬を投与する対象は、動物、中でも哺乳類が挙げられる。哺乳類としては、特に制限はないが、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ等が挙げられ、ヒトであることが好ましい。また、本発明のAdipoR作動薬は、AdipoRが活性化されないことに伴う疾患に対する予防剤として、AdipoRが活性化されないことに伴う疾患を発症していない上記対象に投与することもできる。
【0034】
本発明のAdipoR作動薬のAdipoR活性化作用の測定は、AdipoRが活性化されたことに伴う作用を測定することであれば特に制限はないが、例えば、アディポネクチンがAdipoRに結合した際の下流シグナルである、AMPキナーゼ(以下、AMPKと称する)のリン酸化を測定することにより行うことができる。被検物質投与下におけるリン酸化したAMPK(pAMPK)の量と、被検物質非投与下でのリン酸化したAMPKの量との比(pAMPK/AMPK比)が高くなれば当該被検物質はAdipoR活性化作用を有すると評価することができる。
【0035】
また、前記AMPKのリン酸化は、AdipoRの活性化以外でも起こるため、前記AMPKのリン酸化が、AdipoRを介して生じていることの判断は、siRNAによりAdipoRをノックダウンした系におけるAMPKのリン酸化を測定し、AdipoRをノックダウンしていない系で認められるAMPKのリン酸化が、AdipoRをノックダウンした系で認められるか否かを確認することにより行うことできる。例えば、AdipoRノックダウンしていない系で認められるAMPKのリン酸化が、AdipoRをノックダウンした系で認められない場合は、AMPKのリン酸化は、AdipoRの活性化により生じたものと判断することができる。
【0036】
≪アディポネクチン分泌異常に起因する疾患の治療剤及び/又は予防剤≫
本発明のAdipoR作動薬は、AdipoRを直接活性化することができるため、本発明のAdipoR作動薬は、アディポネクチン分泌異常に起因する疾患の治療剤及び/又は予防剤の有効成分として用いることができる。
本発明によって治療或いは予防されるアディポネクチン分泌異常に起因する疾患は、アディポネクチンが分泌異常により、分泌されない、或いは、分泌されても少量しか分泌されないため、AdipoRが活性化されないことにより引き起こされる疾患であれば特に制限はないが、例えば、アディポネクチンの産生を促進したり、AdipoRの発現を促進したりしても、アディポネクチンの効果を期待することができない、遺伝的素養によりアディポネクチン分泌が異常となっていることに伴う疾患を挙げることができる。
【0037】
本発明のアディポネクチン分泌異常に起因する疾患の治療剤及び/又は予防剤の投与形態としては、例えば錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、溶液、シロップ剤、乳液等による経口投与を挙げることができる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬であるトマト由来のカロテノイド、トルレン、フコキサンチン、又はトマトのMTBE抽出物に加えて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬等の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。
【0038】
本発明のアディポネクチン分泌異常に起因する疾患の治療剤及び/又は予防剤におけるトマト由来のカロテノイド、トルレン、フコキサンチン、又はトマトのMTBE抽出物の含有量は、剤型によって異なるが、一般にアディポネクチン分泌異常に起因する疾患の治療剤及び/又は予防剤の全質量に対して、1質量%~95質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましい。
【0039】
本発明のアディポネクチン分泌異常に起因する疾患の治療剤及び/又は予防剤の投与量は、個々の有効成分の活性、患者の性別、症状、年齢、投与方法によって異なるが、例えば、トマト由来のカロテノイド、トルレン、フコキサンチン、又はトマトのMTBE抽出物を、通常、成人1人、1日当たり、5~500mg、好ましくは、40mg~200mg投与することができる量である。例えば、アディポネクチン分泌異常に起因する疾患の治療剤及び/又は予防剤全量に対して、トマト由来のカロテノイド、トルレン、フコキサンチン、又はトマトのMTBE抽出物を好ましくは1~95%質量%、より好ましくは、10~40質量%の割合とする。
【0040】
本発明のアディポネクチン分泌異常に起因する疾患の治療剤及び/又は予防剤を投与する対象は、動物、中でも哺乳類が挙げられる。哺乳類としては、特に制限はないが、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ等が挙げられ、ヒトであることが好ましい。
【0041】
≪食品組成物≫
本発明により、トマト由来のカロテノイドを有効成分として含有する、AdipoR作動用食品組成物、及びフィトエン、フィトフルエン、β-カロテン、トルレン、リコピン、α-カロテン及びフコキサンチンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカロテノイドを有効成分として含有する、AdipoR作動用食品組成物、及びトマトのMTBE抽出物を有効成分として含有するAdipoR作動用食品組成物を提供することができる。本発明に係るトマト由来のカロテノイド、トルレン、フコキサンチン及びトマトのMTBE抽出物は、AdipoR活性化作用を有するため、AdipoR作動用食品組成物の有効成分として、各種食品組成物に含有させることができる。本発明において、食品組成物には、食品だけでなく飲料も含む。
【0042】
本発明の食品組成物において、トマト由来のカロテノイドは、フィトエン、フィトフルエン、β-カロテン、トルレン、リコピン、α-カロテン等が挙げられ、β-カロテン及びリコピンが好ましく用いられる。
【0043】
本発明の食品組成物において、トマトのMTBE抽出物としては、トマトから、メタノール:メチルtert-ブチルエーテル=1:3の溶媒を用いて抽出された抽出物等が挙げられる。前記トマトとしては、トマトそのものであっても、前記トマト加工品であってもよい。トマトのMTBE抽出物は、当該抽出物をさらに濃縮等の処理や精製を行ったものであってもよい。トマトのMTBE抽出物は、カロテノイド等の脂溶性成分を多く含む。
【0044】
本発明のAdipoR作動用食品組成物により治療及び/又は予防することができる疾患としては、AdipoRが活性化されないことにより引き起こされる状態又は疾病であれば特に制限はないが、例えば、インスリン抵抗性の改善、TNF-α産生の抑制、及び2型糖尿病、動脈硬化、冠動脈疾患、腎不全、心筋梗塞、高血圧、肝線維化、肥満等を挙げることができる。
【0045】
また、本発明のAdipoR作動用食品組成物は、アディポネクチンの産生を促進したり、AdipoRの発現を促進したりしても、アディポネクチンの効果を期待することができない、遺伝的素養によりアディポネクチン分泌に異常を来している患者に対しても、AdipoRに作用して、AdipoRを直接活性化させることができるため、アディポネクチン分泌異常による2型糖尿病や肥満等の疾患の治療及び/又は予防用食品組成物として用いることができる。
【0046】
トマト由来のカロテノイド、トルレン、フコキサンチン、及びトマトのMTBE抽出物は、そのままでAdipoR作動用食品組成物とすることができるし、さらに他の任意成分を配合してAdipoR作動用食品組成物としてもよい。このような任意成分は、AdipoRを活性化作用が期待され、かつ安全性が確認されているものを特に制限なく用いることができる。
【0047】
本発明のAdipoR作動用食品組成物を摂取させる対象は、動物、中でも哺乳類が挙げられる。哺乳類としては、特に制限はないが、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ等が挙げられ、ヒトであることが好ましい。また、本発明のAdipoR作動用食品組成物は、AdipoRが活性化されないことに伴う疾患に対する予防用食品組成物として、AdipoRが活性化されないことに伴う疾患を発症していない上記対象に摂取させることもできる。
【0048】
本発明のAdipoR作動用食品組成物は、AdipoRを直接活性化することができるため、本発明のAdipoR作動用食品組成物は、アディポネクチン分泌異常に起因する疾患の治療及び/又は予防用食品組成物の有効成分として用いることができる。
本発明によって治療或いは予防されるアディポネクチン分泌異常に起因する疾患は、アディポネクチンが分泌異常により、分泌されない、或いは、分泌されても少量しか分泌されないため、AdipoRが活性化されないことにより引き起こされる疾患であれば特に制限はないが、例えば、アディポネクチンの産生を促進したり、AdipoRの発現を促進したりしても、アディポネクチンの効果を期待することができない、遺伝的素養によりアディポネクチン分泌が異常となっていることに伴う疾患を挙げることができる。
【0049】
本発明のAdipoR作動用食品組成物、及びアディポネクチン分泌異常に起因する疾患の治療及び/又は予防用食品組成物(以下、本発明の食品組成物と総称する)としては、特に限定されないが、例えば、各種飲料、ヨーグルト、チーズ、バター、乳酸菌発酵品等の各種乳製品、流動食、ゼリー、キャンディ、レトルト食品、錠菓、クッキー、カステラ、パン、ビスケット、などが挙げられる。また、健康食品、機能性表示食品、特別用途食品、病者用食品、栄養補助食品、サプリメント又は特定保健用食品等として使用することもできる。
【0050】
本発明の食品組成物には、可食性の、炭水化物、蛋白質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、糖質(ブドウ糖、等)、天然又は人工甘味剤、クエン酸、炭酸水、果汁、安定剤、保存剤、結合剤、増粘剤、乳化剤などを適宜配合することができる。
【0051】
本発明の食品組成物の摂取量は、その形態によって異なるが、トマト由来のカロテノイド、トルレン、フコキサンチン又はトマトのMTBE抽出物を、1通常、成人1人、1日当たり、5~500mg、好ましくは、40mg~200mg投与することができる量である。例えば、AdipoR作動用食品組成物100g中に、トマト由来のカロテノイド、トルレン、フコキサンチン又はトマトのMTBE抽出物を好ましくは5~500mg、より好ましくは、40~200mg含有させる。なお、トマトを主成分とした食品組成物にAdipoR作動薬を配合する場合には、トマト中のカロテノイドの量に合わせて上記トマト由来のカロテノイド量となるように、AdipoR作動薬の含有量を調節することができる。
【0052】
本発明の食品組成物の摂取回数は、特に限定されないが、好ましくは1日1~3回であり、必要に応じて摂取回数を増減してもよい。なお、「1日当り」とは、本発明の食品組成物の形態によって異なるが、表示される1日の摂取目安量や、通常1度で消費する飲みきりタイプの飲料であれば1本当りに含まれる量を指すものである。
【0053】
上記の食品組成物は、AdipoR活性化による、AdipoRが活性化されないことに伴う各種疾患の治療及び/又は予防作用を有する旨の表示をした食品組成物であってもよい。前記AdipoRが活性化されないことに伴う各種疾患に対する治療及び/又は予防作用を有する旨の表示をした食品組成物としては、例えば、遺伝的素養による、アディポネクチン分泌異常に起因する各種疾患に対して治療及び/又は予防作用を有する旨の表示を付した食品組成物等が挙げられる。
【実施例
【0054】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(以下、P/Sと略記する)を加えた高グルコースダルベッコ改変イーグル培地(以下、DMEMと略記する)を使用し、マウス筋芽細胞株C2C12を12ウェルプレートに2×10細胞/ウェルで播種した。3日後、2%ウマ血清、1%P/Sを含むDMEMを分化誘導培地として使用して培地交換を行った。その後、2日おきに分化誘導培地の交換を行い、5日間分化誘導を行った。5日後、無血清のDMEMで一晩培養した。
【0056】
一晩培養後、C2C12の培養液を除去し、被験薬として、フィトエン、フィトフルエン、β-カロテン(オールトランス体)、トルレン、リコピン(オールトランス体)及びカロテノイドと類似構造を有するレチノール及びゲラニルゲラニオール(GGOH)、並びに、陽性コントロールとしてAdipoRを活性化することが知られている下記構造式で表されるアディポロン(AdipoRon;Nature 503:494-499 2013)を用い、各被験薬を1μM(アディポロンは1μMと50μM)となるように溶解した無血清のDMEMを添加して10分間培養することで、被験薬をC2C12に10分間反応させた。なお、各被験薬の溶媒として0.2%Tween-20を含むテトラヒドロフランを使用し、DMEM中の溶媒の最終濃度が0.05%になるようにして各被験薬を添加した。コントロールとしては、0.05%の溶媒のみを含むDMEMを用いた。
【0057】
【化3】
【0058】
反応後、C2C12をリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline;PBS)で洗浄し、細胞溶解液(50mM Tris-HCl、5mM EDTA、150mM NaCl、0.5% Nonidet P-40、1% protease inhibitor、1% phosphatase inhibitor)を添加した。続いて、氷上でスクレイパーにて細胞を回収し、超音波処理により細胞を破砕した。得られた細胞破砕物を遠心分離し、上清をタンパク質溶液として回収した。回収タンパク質の濃度を測定後、タンパク質溶液に等量のSDSサンプルバッファー(125mM Tris-HCl(pH 6.8)、4% SDS、10% スクロース、10% 2-メルカプトエタノール、0.01% ブロモフェノールブルー)を加えて混合し、沸騰水中で3分間煮沸処理したものを、泳動用サンプルとして以降のウエスタンブロットまで-30℃にて保存した。
【0059】
泳動用サンプルを、各サンプルのタンパク質量が10μgになるようにして10%アクリルアミドゲルを用いたポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供した。タンパク質をPVDF膜に転写後、1次抗体として抗pAMPK抗体(Cell signaling社製、#2535)または抗AMPK抗体(Cell signaling社製、#5831)、2次抗体としてHRP標識抗ウサギIgG抗体(Santa Cruz Biotechnology社製、#sc-2004)、及び検出試薬としてMillipore Immobilon Westernを用いて、リン酸化されたAMPK(pAMPK)又はAMPKを検出した。検出されたバンドの画像から、画像解析ソフト(ImageJ、NIH)を用いてpAMPK及びAMPKの発現量を定量化し、AMPKリン酸化活性の指標としてpAMPK/AMPK比を算出した。その結果を図1に示す。
【0060】
図1に示したように、フィトエン、フィトフルエン、β-カロテン(オールトランス体)、トルレン、リコピン(オールトランス体)及び陽性コントロールであるアディポロンは、pAMPK/AMPK比を上昇させ、AMPKをリン酸化させることが確認された。それに対し、レチノール及びゲラニルゲラニオール(GGOH)は、pAMPK/AMPK比を上昇させず、AMPKをリン酸化させないことが確認された。
【0061】
[実施例2]
被験薬として、α-カロテン及びフコキサンチンを用い、実施例1と同様にして、pAMPK/AMPK比を算出した。その結果を図2に示す。
図2に示したように、α-カロテン及びフコキサンチンは、pAMPK/AMPK比を上昇させ、AMPKをリン酸化させることが確認された。
【0062】
[実施例3]
実施例1で分化誘導して3日目のマウス筋芽細胞株C2C12を、2%ウマ血清を含むDMEMで1回洗浄後、DMEMを600μL/ウェル加えた。
Opti-MEM I Reduced Serum Medium(invitrogen社製、以下、Opti-MEMと略記する)60μLにLipofectamine 2000(invitrogen社製)を5μL添加し、5分間室温にて静置した。
一方、別のOpti-MEM 60μLに、配列番号1で表される塩基配列からなるセンス鎖と、配列番号2で表されるアンチセンス鎖とからなるsiRNA(QIAGEN社製、Mm_Adipor1_3、#SI00890309)またはコントロールsiRNA(SIGMA-ALDRICH社製、MISSION siRNA Universal Negative Control、#SIC-001)を60pmol添加し、ここに5分間静置した前述のLipofectamine 2000含有Opti-MEM 60μLを加え緩やかに混和して20分間室温で静置した。
20分後、計120μLの上記Opti-MEMを、前述の600μL/ウェルのDMEMで培養中のC2C12に添加し、2日間培養した。2日後、実施例1と同様の方法で、β-カロテン(オールトランス体)をC2C12に10分間反応させ、pAMPK及びAMPKの発現量の定量及びAMPKリン酸化活性の算出を行った。
【0063】
その結果を図3に示す。図3において、「コントロール siRNA」は、AdipoRをノックダウンしない系でのpAMPK/AMPK比、「AdipoR siRNA」は、AdipoRをsiRNAによりノックダウンした系でのpAMPK/AMPK比をそれぞれ示す。
図3に示したように、pAMPK/AMPK比は、β-カロテン(オールトランス体)の添加により上昇し、当該β-カロテンにより上昇したpAMPK/AMPK比は、AdipoRのノックダウンにより抑制された。
このことから、実施例1で見られた、β-カロテン(オールトランス体)によるAMPKのリン酸化は、AdipoRの活性化によるものであることが明らかとなった。
【0064】
[実施例4]
β-カロテン(オールトランス体)の代わりに、リコピン(オールトランス体)を用い、実施例3と同様にして、pAMPK/AMPK比を算出した。その結果を図4に示す。図4に示したように、pAMPK/AMPK比は、リコピン(オールトランス体)の添加により上昇し、当該リコピンの添加により上昇したpAMPK/AMPK比は、AdipoRのノックダウンにより抑制された。
このことから、実施例1で見られた、リコピン(オールトランス体)によるAMPKのリン酸化は、AdipoRの活性化によるものであることが明らかとなった。
【0065】
[実施例5]
(トマトのMTBE抽出物の製造)
液体窒素を用いて凍結破砕したトマトを、氷上にて蓋付きのチューブに約150mg秤量し、トマト150mgに対してメタノール: メチルtert-ブチルエーテル=1:3の溶媒を600μL添加した。ビーズ破砕機を用いて溶媒内でトマトを破砕した後、2分間超音波処理を行った。トマト破砕物から色が抜けていることを確認後、チューブにメタノール:水=1:3の溶媒を600μL加え転倒混和し、4℃、10000Gで5分間遠心分離した。溶液が2層に分離していることを確認後、橙色の上清を回収した。これを遠心エバポレーターにより乾固させることによりトマトのMTBE抽出物を得た。
【0066】
(トマトの80%メタノール抽出物の製造)
液体窒素を用いて凍結破砕したトマトを72時間凍結乾燥させた。その乾燥粉末約50mgを蓋付きのチューブに秤量し、トマト50mgに対して80%メタノールを1mL添加した。ビーズ破砕機を用いて80%メタノール中でトマトを破砕した後、15,000rpm、4℃で10分間遠心分離し、上清を回収した。回収した上清の一部を新しいチューブに移し、上清と等量の水を加えた後、転倒混和した。さらに、上清の1.2倍量のメタノール: メチルtert-ブチルエーテル=1:3の溶媒を加え、転倒混和後、4℃、10000G、5分間遠心分離した。溶液が2層に分離していることを確認後、橙色の上清を除去し、下層の溶液を回収した。これを遠心エバポレーターにより乾固させることでトマトの80%メタノール抽出物を得た。
【0067】
(各抽出物のAMPKリン酸化活性の評価)
10%ウシ胎児血清、1%P/Sを加えた高グルコースDMEMを使用し、マウス筋芽細胞株C2C12を12ウェルプレートに2×10細胞/ウェルで播種した。3日後、2%ウマ血清、1%P/Sを含むDMEMを分化誘導培地として使用して培地交換を行った。その後、2日おきに分化誘導培地の交換を行い、5日間分化誘導を行った。5日後、無血清のDMEMで一晩培養した。
【0068】
一晩培養後、C2C12の培養液を除去し、被験薬として、上記で得られたトマトのMTBE抽出物、トマトの80%メタノール抽出物、並びに、陽性コントロールとしてアディポロン(AdipoRon)を用い、各被験薬を1μM(アディポロンは50μM)となるように溶解した無血清のDMEMを添加して10分間培養することで、被験薬をC2C12に10分間反応させた。なお、トマトのMTBE抽出物の溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を、トマトの80%メタノール抽出物の溶媒として水を、それぞれ使用し、DMEM中の溶媒の最終濃度が1.0%になるようにして各被験薬を添加した。コントロールとしては、各抽出物に用いたものと同じ溶媒を1.0%含むDMEMを用いた。アディポロンの溶媒にはDMSOを用いた。
反応後、実施例1と同様にして、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を行い、リン酸化されたAMPK(pAMPK)又はAMPKを検出した。検出されたバンドの画像から、画像解析ソフト(ImageJ、NIH)を用いてpAMPK及びAMPKの発現量を定量化し、AMPKリン酸化活性の指標としてpAMPK/AMPK比を算出した。その結果を図5に示す。
図5に示したように、トマトのMTBE抽出物及び陽性コントロールであるアディポロンは、pAMPK/AMPK比を上昇させ、AMPKをリン酸化させることが確認された。それに対し、トマトの80%メタノール抽出物は、pAMPK/AMPK比を上昇させず、AMPKをリン酸化させないことが確認された。
【0069】
[実施例6]
β-カロテン(オールトランス体)の代わりに、実施例5で得られたトマトのMTBE抽出物を100μg/mL用いる以外は、実施例3と同様にして、pAMPK/AMPK比を算出した。その結果を図6に示す。
図6に示したように、pAMPK/AMPK比は、トマトのMTBE抽出物の添加により上昇し、当該MTBE抽出物により上昇したpAMPK/AMPK比は、AdipoRのノックダウンにより抑制された。
このことから、実施例5で見られた、トマトのMTBE抽出物によるAMPKのリン酸化は、AdipoRの活性化によるものであることが明らかとなった。
【0070】
[実施例7]
(シス体リコピンの調製)
リコピン(オールトランス体;以下、オールトランスリコピンともいう)をクロロホルムに溶解し、50℃で一晩加温した。加温後、遠心濃縮器でクロロホルムを留去し乾固させ、-80℃にて冷凍保存した。
上記で得られた乾固物をメタノール: メチルtert-ブチルエーテル=1:1の溶媒に溶解し、分取HPLC(Prominenceシステム、島津製作所)を用いて、シス体リコピン(以下、シスリコピンともいう)である、13-シスリコピンを分取後、乾固させた。
【0071】
(シスリコピンのAMPKリン酸化活性の評価)
被験薬として、オールトランスリコピン、及び、上記で得られた13-シスリコピンを、それぞれ0.2%Tween-20を含むテトラヒドロフランに溶解したものを用い、実施例1と同様にして、pAMPK/AMPK比を算出した。その結果を図7に示す。
図7に示したように、13-シスリコピンは、オールトランスリコピンよりも強くpAMPK/AMPK比を上昇させ、シスリコピンは、オールトランスリコピンよりも強くAMPKをリン酸化させることが確認された。
【0072】
[実施例8]
(シス体β-カロテンのAMPKリン酸化活性の評価)
被験薬として、β-カロテン(オールトランス体;以下、オールトランスβ-カロテンともいう)及び、シス体β-カロテン(以下、シスβ-カロテンともいう)である、9-シスβ-カロテン及び13-シスβ-カロテンを用い、実施例1と同様にして、pAMPK/AMPK比を算出した。その結果を図8に示す。
図8に示したように、9-シスβ-カロテン及び13-シスβ-カロテンは、オールトランスβ-カロテンよりも強くpAMPK/AMPK比を上昇させ、シスβ-カロテンは、オールトランスβ-カロテンよりも強くAMPKをリン酸化させることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係るトマト由来のカロテノイド、又はフィトエン、フィトフルエン、β-カロテン、トルレン、リコピン、α-カロテン、及びフコキサンチンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカロテノイド、或いはトマトから、メタノールとメチルtert-ブチルエーテルとの混合溶媒を用いて抽出された抽出物を有効成分として含有する、AdipoR作動薬は、優れたAdipoR活性化作用を有し、アディポネクチンの低下により引き起こされる2型糖尿病や肥満等の疾患の治療剤及び/又は予防剤として利用可能である。また、本発明に係るトマト由来のカロテノイド、又はフィトエン、フィトフルエン、β-カロテン、トルレン、リコピン、α-カロテン、及びフコキサンチンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカロテノイド、或いはトマトから、メタノールとメチルtert-ブチルエーテルとの混合溶媒を用いて抽出された抽出物を有効成分として含有する、AdipoR作動用食品組成物は、優れたAdipoR活性化作用を有し、2型糖尿病や肥満等の疾患の治療及び/又は予防用食品組成物として利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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