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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】車上装置及び保全検査用情報選択方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/40 20060101AFI20240522BHJP
   B61L 3/12 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
B60L15/40 A
B61L3/12 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020178535
(22)【出願日】2020-10-26
(65)【公開番号】P2022069729
(43)【公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】關 淳史
(72)【発明者】
【氏名】望月 寛
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-004991(JP,A)
【文献】特開2000-049655(JP,A)
【文献】特開2012-121400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
B61L 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成波信号を送信する送信回路と、所定の共振回路を有する地上子に接近した場合に当該共振回路に応じた信号が誘起される受信回路とを備え、当該受信回路の受信信号に基づいて当該地上子を検出する車上装置であって、
前記受信回路の受信信号の位相周波数特性を解析する第1の解析手段と、
前記第1の解析手段の解析結果が示す位相周波数特性グラフを、所定の共振周波数の前後で位相が180度変化する所定の曲線形状として算出し、当該算出した位相周波数特性グラフに基づくQ値を、前記地上子の保全検査用情報として算出する第1の算出手段と、
を備える車上装置。
【請求項2】
前記地上子には、所与の列車制御情報を示す信号を前記受信回路に誘起させる、当該列車制御情報に応じた複数種類の地上子があり、
前記受信信号の振幅周波数特性を解析する第2の解析手段と、
前記第2の解析手段の解析結果に基づく第2の共振周波数を算出する第2の算出手段と、
前記地上子を検出する検出手段と、
を更に備え、
前記第1の算出手段は、前記第1の解析手段の解析結果に基づく第1の共振周波数を算出し、
前記検出手段は、
前記第1の共振周波数に基づいて第1の地上子候補を選択することと、
前記第2の共振周波数に基づいて第2の地上子候補を選択することと、
前記第1の地上子候補と前記第2の地上子候補とが異なる場合に、前記第1の地上子候補に対応する列車制御情報と、前記第2の地上子候補に対応する列車制御情報とのうち、列車運行にとってより安全側となる列車制御情報に対応する地上子候補を判定する所定の安全優先判定を行って、検出する地上子を決定することと、
を行う、
請求項に記載の車上装置。
【請求項3】
前記第2の算出手段は、前記第2の解析手段の解析結果に基づくQ値を算出し、
同一の前記地上子に対する、前記第1の算出手段により算出されたQ値の履歴情報と、前記第2の算出手段により算出されたQ値の履歴情報とを記録する制御を行う記録制御手段と、
前記記録制御手段による記録内容に基づき、前記第1の算出手段により算出されたQ値と、前記第2の算出手段により算出されたQ値とのうち、バラツキの小さいほうのQ値を、前記同一の地上子の前記保全検査用情報として選択する保全検査用情報選択手段と、
を備える請求項に記載の車上装置。
【請求項4】
合成波信号を送信する送信回路と、
所定の共振回路を有する地上子に接近した場合に当該共振回路に応じた信号が誘起される受信回路と、
前記受信回路の受信信号の位相周波数特性を解析する第1の解析手段と、
前記第1の解析手段の解析結果に基づいてQ値を算出する第1の算出手段と、
前記受信信号の振幅周波数特性を解析する第2の解析手段と、
前記第2の解析手段の解析結果に基づいてQ値を算出する第2の算出手段と、
同一の前記地上子に対する、前記第1の算出手段により算出されたQ値の履歴情報と、前記第2の算出手段により算出されたQ値の履歴情報とを記録する制御を行う記録制御手段と、
前記記録制御手段による記録内容に基づき、前記第1の算出手段により算出されたQ値と、前記第2の算出手段により算出されたQ値とのうち、バラツキの小さいほうのQ値を、前記同一の地上子の保全検査用情報として選択する保全検査用情報選択手段と、
を備える車上装置
【請求項5】
合成波信号を送信する送信回路と、
所定の共振回路を有する地上子に接近した場合に当該共振回路に応じた信号が誘起される受信回路と、
前記受信回路の受信信号の位相周波数特性を解析する第1の解析手段と、
前記第1の解析手段の解析結果に基づいてQ値を算出する第1の算出手段と、
前記受信信号の振幅周波数特性を解析する第2の解析手段と、
前記第2の解析手段の解析結果に基づいてQ値を算出する第2の算出手段と、
を備える1以上の車上装置が同一の前記地上子について算出したQ値の情報から、当該同一の地上子の保全検査用情報を選択する保全検査用情報選択方法であって、
前記同一の地上子に接近した各車上装置の前記第1の算出手段により算出されたQ値と、当該各車上装置の前記第2の算出手段により算出されたQ値とのうち、バラツキの小さいほうのQ値を前記同一の地上子の保全検査用情報として選択する保全検査用情報選択方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上子を検出する車上装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
自動列車停止装置(ATS:Automatic Train Stop装置)は、車上側が地上子を検出して列車制御を行う装置である。ATS装置は、おおまかに、変周式及びトランスポンダ式の2種類に分類される。変周式ATS装置は、車上子から所定の周波数の信号を発信し、車上子が地上子と電磁結合したときにこの周波数が地上子の共振周波数に変周される現象を利用して地上子を検出する。
【0003】
地上子の保全検査として、Q値及び共振周波数の測定が定期的に行われている。この測定は、保守作業員が現地に赴き測定器を用いて地上子を一つ一つ測定するため、手間が掛かり、測定作業の効率化が求められていた。電気検測車が地上子の保全検査を行う手法も実用化されているが、地上子と車上子間の相対的距離や地上子の設置状況などによりレベルが変動するため、実際のQ値と異なって検測される問題が指摘されていた。これに応えて、地上子がとり得る共振周波数及び遮断周波数からなる合成波信号を用いることで、車上において地上子の保全検査用情報であるQ値及び共振周波数を測定する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4723382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気検測車ではなく、営業車両に地上子の保全検査機能を付加しようとすると、次のような問題があった。すなわち、変周式ATS装置の車上装置における地上子の検出は、通常、車上子が受信信号に対するフーリエ変換等の周波数変換を行って周波数スペクトルを求め、最大振幅(レベル)の周波数が地上子の共振周波数であるか否かを判定することで行っている。高速で走行する列車においては、車上子と地上子との電磁結合の時間が短いため、地上子を確実に検出するためには、フーリエ変換の時間分解能を高める必要がある。また、保全検査用情報であるQ値及び共振周波数を精度良く測定するためには、測定時間により決まるフーリエ変換の周波数分解能を高める必要がある。地上子を確実に検出するための時間分解能と、Q値及び共振周波数を精度良く検出するための周波数分解能とはトレードオフの関係にある。従って、営業車両においては、地上子の確実な検出が大前提であるから、保全検査用情報であるQ値及び共振周波数を精度良く測定することは難しく、従来技術を適用することは困難であった。また、電気検測車においても、走行速度を上げて保全検査用情報であるQ値及び共振周波数を精度良く測定することには限界があった。
【0006】
また、送信信号として、広い周波数帯域の合成信号を用いる場合、車上子が地上子と結合する時間が短いために、地上子の検出や、保全検査用情報であるQ値及び共振周波数の測定がノイズの影響を受け易いという問題もあった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされてものであり、その目的とするところは、地上子を検出する車上装置において、保全検査に用いる地上子の保全検査用情報の測定精度を高めることができる新たな技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための第1の発明は、
合成波信号を送信する送信回路と、所定の共振回路を有する地上子に接近した場合に当該共振回路に応じた信号が誘起される受信回路とを備え、当該受信回路の受信信号に基づいて当該地上子を検出する車上装置であって、
前記受信回路の受信信号の位相周波数特性を解析する第1の解析手段(例えば、図1のFFT部202及び位相算出部204)と、
前記第1の解析手段の解析結果に基づいて、検出した前記地上子の保全検査用情報を算出する第1の算出手段(例えば、図1の第1算出部212)と、
を備える車上装置である。
【0009】
第1の発明によれば、地上子を検出する車上装置において、保全検査に用いる地上子の保全検査用情報の測定精度を高めることができる。つまり、車上装置は、合成波信号を送信回路から送信し、受信回路の受信信号の位相周波数特性の解析結果に基づいて地上子の保全検査用情報を算出する。位相周波数特性は、例えば、受信信号に対するフーリエ変換を行うことで得られる。後述するように、地上子の共振回路と電磁結合したときの受信信号の位相周波数特性は、共振回路の共振周波数の前後で180度変化し、その形状としてピークを有しない単調減少の曲線であるといった特徴をもつ。この特徴から、地上子の保全検査用情報を精度良く算出することが可能である。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、
前記第1の算出手段は、前記第1の解析手段の解析結果が示す位相周波数特性グラフを、所定の共振周波数の前後で位相が180度変化する所定の曲線形状として算出し、当該算出した位相周波数特性グラフに基づくQ値を、前記保全検査用情報として算出する、
車上装置である。
【0011】
第2の発明によれば、車上装置は、位相周波数特性のグラフを所定の共振周波数の前後で位相が180度変化する所定の曲線形状として算出し、そのグラフに基づき保全検査用情報としてQ値を算出する。位相周波数特性のグラフは共振周波数でピークを有さない曲線形状であるから、フーリエ変換の周波数分解能が低い場合であっても、例えば、多項式を用いた回帰分析により、フーリエ変換によって得られる位相の離散値に精度良くフィッティングした曲線を求めることができる。地上子の共振回路と電磁結合したときの位相周波数特性のグラフは、その傾きが共振周波数で最大となり、遮断周波数で±45度となるといった特徴を有する曲線形状となる。従って、算出した位相周波数特性のグラフの傾きから、共振周波数及び遮断周波数を求め、これらを用いて、地上子の保全検査用情報であるQ値を精度良く算出することが可能となる。
【0012】
第3の発明は、第2の発明において、
前記地上子には、所与の列車制御情報を示す信号を前記受信回路に誘起させる、当該列車制御情報に応じた複数種類の地上子があり、
前記受信信号の振幅周波数特性を解析する第2の解析手段(例えば、図1のFFT部202及び振幅算出部206)と、
前記第2の解析手段の解析結果に基づく第2の共振周波数を算出する第2の算出手段(例えば、図1の第2算出部214)と、
を更に備え、
前記第1の算出手段は、前記第1の解析手段の解析結果に基づく第1の共振周波数を算出し、
前記検出手段は、
前記第1の共振周波数に基づいて第1の地上子候補を選択することと、
前記第2の共振周波数に基づいて第2の地上子候補を選択することと、
前記第1の地上子候補と前記第2の地上子候補とが異なる場合に、前記第1の地上子候補に対応する列車制御情報と、前記第2の地上子候補に対応する列車制御情報とのうち、列車運行にとってより安全側となる列車制御情報に対応する地上子候補を判定する所定の安全優先判定を行って、検出する地上子を決定することと、
を行う、
車上装置である。
【0013】
第3の発明によれば、地上子の検出に係る安全性を向上させることができる。つまり、車上装置は、受信信号の位相周波数特性及び振幅周波数特性それぞれの解析結果から算出される共振周波数に基づく2つの地上子候補を選択し、それぞれに対応する列車制御情報が列車運行にとってより安全側となる列車制御情報に対応する地上子候補を、検出する地上子として決定する。安全側となる列車制御情報とは、走行速度の制御閾値がより低いほうの列車制御情報のことであり、停止させる制御情報が含まれている場合には停止させる列車制御情報のことである。これにより、受信信号に対するノイズの影響や共振周波数の算出精度の違い等により2つの地上子候補が一致しない場合であっても、安全側となる列車制御情報に対応する地上子を検出することで、列車運行の安全性を向上させることができる。
【0014】
第4の発明は、第3の発明において、
前記第2の算出手段は、前記第2の解析手段の解析結果に基づくQ値を算出し、
同一の前記地上子に対する、前記第1の算出手段により算出されたQ値の履歴情報と、前記第2の算出手段により算出されたQ値の履歴情報とを記録する制御を行う記録制御手段(例えば、図1の記録制御部230)と、
前記記録制御手段による記録内容に基づき、前記第1の算出手段により算出されたQ値と、前記第2の算出手段により算出されたQ値とのうち、バラツキの小さいほうのQ値を、前記同一の地上子の前記保全検査用情報として選択する保全検査用情報選択手段(例えば、図1の選択部240)と、
を備える車上装置である。
【0015】
第5の発明は、
合成波信号を送信する送信回路と、
所定の共振回路を有する地上子に接近した場合に当該共振回路に応じた信号が誘起される受信回路と、
前記受信回路の受信信号の位相周波数特性を解析する第1の解析手段(例えば、図1の位相算出部204)と、
前記第1の解析手段の解析結果に基づいてQ値を算出する第1の算出手段(例えば、図1の第1算出部212)と、
前記受信信号の振幅周波数特性を解析する第2の解析手段(例えば、図1の振幅算出部206)と、
前記第2の解析手段の解析結果に基づいてQ値を算出する第2の算出手段(例えば、図1の第2算出部214)と、
を備える1以上の車上装置が同一の前記地上子について算出したQ値の情報から、当該同一の地上子の保全検査用情報を選択する保全検査用情報選択方法であって、
前記同一の地上子に接近した各車上装置の前記第1の算出手段により算出されたQ値と、当該各車上装置の前記第2の算出手段により算出されたQ値とのうち、バラツキの小さいほうのQ値を前記同一の地上子の保全検査用情報として選択する保全検査用情報選択方法である。
【0016】
第4又は第5の発明によれば、保全検査用情報であるQ値の検出精度を向上させることができる。つまり、車上装置は、受信信号の位相周波数特性及び振幅周波数特性のそれぞれ解析結果に基づいて算出した2種類のQ値のうちバラツキの小さいほうのQ値を保全検査用情報として選択する。これにより、受信信号に対するノイズの影響や共振周波数の算出精度に違い等によって測定毎に算出されるQ値が異なる場合であっても、同一の地上子に対する複数回の測定の結果のバラツキが小さいほうを選択することで、保全検査用情報であるQ値の測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】車上装置の構成例。
図2】地上子と電磁結合したときの受信信号の振幅周波数特性の一例。
図3】地上子と電磁結合したときの受信信号の位相周波数特性の一例。
図4】地上子情報の一例。
図5】算出履歴情報の一例。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0019】
[装置構成]
図1は、本実施形態の車上装置10の構成を示すブロック図である。この車上装置10は、変周式ATS装置の車上装置であり、地上子30に接近したときに車上子20で受信された受信信号に基づいて地上子30を検出するとともに、検出した地上子30の保全検査用情報である共振周波数及びQ値を算出する。
【0020】
地上子30は、所定の共振周波数で共振する共振回路を有する。この共振回路を構成するコンデンサCやインダクタLを切り替えることで、地上子30の共振周波数を切り替えることができる。これらの共振周波数それぞれには、列車制御情報として現示(停止現示や進路別の進行現示等)が対応付けて定められている。
【0021】
車上装置10は、車上子20と、合成波生成部100と、受信部200と、地上子判定部220と、記録制御部230とを有する。
【0022】
車上子20は、送信コイルを有する送信回路22と、受信コイルを有する受信回路24とを備える。送信コイル及び受信コイルは、互いに弱く電磁結合した状態となるように配置されている。
【0023】
合成波生成部100は、複数の共振周波数に対応した周波数の信号を合成(重畳)した合成信号波を生成し、生成した合成波信号を車上子20の送信回路22へ出力する。つまり、共振周波数が異なる複数の地上子30がレールに沿って設けられており、これらの各地上子30の共振周波数が変周可能な周波数帯域を含む広い周波数帯域の信号を、合成波信号として生成する。送信回路22の送信コイルと受信回路24の受信コイルとは弱く電磁結合している状態であるから、列車が地上子30に接近していないときは、受信回路24には、送信回路22が送信する合成波信号の周波数成分に応じた信号が誘起され、合成波信号の一部が受信信号として受信される。そして、列車が地上子30に接近して車上子20が地上子30と電磁結合すると、地上子30の共振周波数に応じた信号が受信回路24に誘起されて受信信号として受信される。
【0024】
受信部200は、FFT(Fast Fourie Transform:高速フーリエ変換)部202と、位相算出部204と、振幅算出部206と、フィルタ回路208,210と、第1算出部212と、第2算出部214とを有する。FFT部202及び位相算出部204が第1の解析手段に、FFT部202及び振幅算出部206が第2の解析手段に相当する。
【0025】
FFT部202は、車上子20の受信回路24で受信された受信信号に対するFFT演算処理を行う。振幅算出部206は、FFT部202によるFFT演算処理の結果に基づき、受信信号の振幅(レベル)についての周波数特性である振幅周波数特性を解析する。第2算出部214は、フィルタ回路210を介して入力される、振幅算出部206による振幅周波数特性の解析結果に基づいて、地上子の保全検査用情報である共振周波数及びQ値を算出する。
【0026】
図2は、車上子20と地上子30とが電磁結合している状態における受信信号の振幅周波数特性の一例である。横軸は周波数f、縦軸は振幅Vである。図2に示すように、振幅周波数特性では、地上子30の共振周波数fにおいて振幅Vが最大(ピーク)となる。そして、この共振周波数fにおける最大振幅Vから3dB小さい振幅(=V/√2)での周波数(遮断周波数)fd1,fd2から、次式(1)で示すようにQ値が求められる。
Q=f/(fd2-fd1) ・・(1)
【0027】
FFT部202が行うFFT演算処理は離散フーリエ変換であり、且つ、受信信号のサンプリング間隔等の影響もあるため、FFT演算処理の結果として得られる周波数特性は、周波数分解能fに応じた離散値(図2図3において、白丸で示す値)となる。また、この離散値に係る振幅Vを、FFT部202によるFFT演算処理の結果に基づき、振幅算出部206が算出する。従って、実際に得られるのは、図2に示す実線の振幅周波数特性のような切れ目の無い滑らかなグラフではなく、白丸で示される離散値(サンプリング値)となる。
【0028】
第2算出部214は、振幅算出部206により算出された各周波数成分の振幅Vから、振幅(レベル)が最大となる共振周波数fと、その共振周波数fの振幅Vから3dB小さい振幅となる遮断周波数fd1,fd2とを求め、式(1)に従ってQ値を算出する。但し、図2に示すように、実際に得られる周波数特性は離散値であるため、例えば、各離散値の間を直線近似することによって、共振周波数fと、遮断周波数fd1,fd2とを求めてQ値を算出することとなる。このため、誤差が含まれることとなる。
【0029】
なお、車上子20が地上子30と電磁結合していないときは、受信信号の周波数特性はピークを有さない形状となる。そのため、第2算出部214は、振幅周波数特性がピークを有さない形状である場合、つまり、最大となる振幅が所定の閾値を超えない場合には、Q値を求めないことにしてもよい。振幅の閾値は、例えば、地上子30と電磁結合していないときの受信信号についての振幅周波数特性における周波数成分の振幅を基準として定めることができる。
【0030】
位相算出部204は、FFT部202によるFFT演算処理の結果に基づき、受信信号の位相についての周波数特性である位相周波数特性を解析する。第1算出部212は、フィルタ回路208を介して入力される、位相算出部204による位相周波数特性の解析結果に基づいて、地上子の保全検査用情報の1つである共振周波数及びQ値を算出する。
【0031】
図3は、車上子20と地上子30とが電磁結合している状態における受信信号の位相周波数特性の一例である。横軸は周波数f、縦軸は位相θである。図3に示すように、位相周波数特性は、地上子30の共振周波数fの前後で位相θが180度変化し、且つ、単調減少する形状の曲線となる。この位相周波数特性を表す曲線は、共振周波数fにおける傾き(位相θの変化率を表す)が最大となり、遮断周波数fd1,fd2における傾きが±45°となる。
【0032】
上述のように、FFT部202が行うFFT演算処理は離散フーリエ変換であり、FFT演算処理の結果として得られる周波数特性は周波数分解能fに応じた離散値(図3において、白丸で示す値)である。また、この離散値に係る位相θを、FFT部202によるFFT演算処理結果に基づき、位相算出部204が算出する。従って、この時点で実際に得られるのは、図3に示す実線の位相周波数特性のような切れ目の無い滑らかなグラフではなく、白丸で示される離散値(サンプリング値)である。しかし、第1算出部212は、振幅算出部206により算出された離散値となっている各周波数成分の位相θに対して、多項式による回帰分析を行うことで位相周波数特性のグラフを求める。図3では、最小二乗法により三次式での回帰分析を行って得られたグラフを点線で示している。次いで、求めたグラフにおいて、傾きが最大となる周波数fを共振周波数fとし、この共振周波数fの前後であって傾きが±45°となる周波数を遮断周波数fd1,fd2とする。そして、求めた周波数f,fd1,fd2に基づき、式(1)に従ってQ値を算出する。従って、第2算出部214が算出する共振周波数fや遮断周波数fd1,fd2に比べて、ひいては第2算出部214が算出するQ値に比べて、第1算出部212が算出するQ値のほうが、誤差の少ない可能性が高い。
【0033】
なお、地上子30と電磁結合していないときは、送信回路22の送信コイルと受信回路24の受信コイルとは弱く電磁結合している状態であるから、位相周波数特性は、送信回路22からの送信信号(つまり、合成波生成部100が生成する合成波信号)の位相周波数特性と同じ形状となる。そのため、第1算出部212は、求めたグラフが位相が180度変化しない形状である場合には、Q値を求めないようにしてもよい。さらに、外部からノイズが混入した場合であると、位相周波数特性は、特徴を持たない不規則な形状となる。そのため、第1算出部212は、求めたグラフがピークを有さない単調減少の曲線の形状でない場合には、Q値を求めないようにしてもよい。
【0034】
地上子判定部220は、第1算出部212及び第2算出部214それぞれによって算出された共振周波数f及びQ値に基づき、地上子情報302を参照して地上子30を検出する。つまり、第1算出部212が算出した共振周波数に対応する地上子(より詳細には地上子の種類)と、第2算出部214が算出した共振周波数に対応する地上子(より詳細には地上子の種類)とを地上子候補として選択し、選択した2つの地上子候補が一致するならば、当該地上子候補を検出した地上子として確定する。2つの地上子候補が異なるならば、地上子候補それぞれに対応する列車制御情報のうち、列車運行にとってより安全側となる列車情報に対応する地上子候補を判定する安全優先判定を行って、検出する地上子を決定する。
【0035】
図4に、地上子情報302の一例を示す。図4に示すように、地上子情報302は、レールに沿って設けられている地上子それぞれについて、地上子の種類を示す地上子IDに、共振周波数と、列車制御情報とを対応付けて格納している。共振周波数は1又は複数が定められ、共振周波数それぞれに列車制御情報が対応付けられる。列車制御情報は、停止現示(R現示)や注意現示(Y現示)、進行現示(G現示)等の現示の他、上限速度閾値等の情報がある。
【0036】
地上子には、対応する1又は複数の共振周波数が予め定められた種類がある。そして、地上子種類(地上子ID)には列車制御情報が対応付けられている。従って、地上子判定部220は、第1算出部212が算出した共振周波数に対応する地上子候補(或いは共振周波数そのものを地上子候補の代用としてもよい)と、第2算出部214が算出した共振周波数に対応する地上子候補(或いは共振周波数そのものを地上子候補の代用としてもよい)とを選択する。そして、選択した2つの組み合わせの地上子候補が一致するならば、当該地上子候補を検出した地上子として決定し、異なるならば、より安全側の列車制御情報に対応するほうの地上子候補を検出した地上子として決定する安全優先判定を行う。ここで、安全側の列車制御情報を選択することとは、走行速度の制御閾値がより低いほうを選択する意味であり、列車を停止させる列車制御情報が含まれているならば、停止させる列車制御情報を選択することとなる。例えば、列車制御情報が、停止、注意、進行の3種類であるとすると、停止、注意、進行の順により安全側の列車制御情報となる。
【0037】
記録制御部230は、第1算出部212により算出された共振周波数及びQ値の履歴情報と、第2算出部214により算出された共振周波数及びQ値の履歴情報とを、算出履歴情報304として記録する。
【0038】
図5に、算出履歴情報304の一例を示す。図5によれば、算出履歴情報304は、地上子それぞれについて、当該地上子を検出した日時と、算出された保全検査用情報であるQ値及び共振周波数とを対応付けて時系列に格納している。Q値及び共振周波数は、それぞれ、第1算出部212により位相周波数特性に基づいて算出された値と、第2算出部214により振幅周波数特性に基づいて算出された値とを含む。
【0039】
選択部240は、記録制御部230による記録内容である算出履歴情報304に基づき、地上子30毎に、第1算出部212により位相周波数特性に基づいて算出されたQ値と、第2算出部214により振幅周波数特性に基づいて算出されたQ値とのうち、バラツキの小さいほうのQ値を、当該地上子30の保全検査用情報のQ値として選択する。
【0040】
[作用効果]
このように、本実施形態によれば、地上子を検出する車上装置において、地上子の保全検査用情報であるQ値及び共振周波数の測定精度を高めることができる。つまり、車上装置10は、合成波信号を送信回路22から送信し、受信回路24の受信信号の位相周波数特性及び振幅周波数特性の解析結果に基づいて地上子の保全検査用情報である共振周波数及びQ値を算出する。
【0041】
地上子30の共振回路と電磁結合したときの受信信号の位相周波数特性は、共振回路の共振周波数の前後で180度変化し、その共振周波数を含む前後形状が極大値や極小値といったピークを有しない単調減少の曲線形状であるから、フーリエ変換の周波数分解能が低い場合であっても、例えば、多項式を用いた回帰分析により、フーリエ変換によって得られる位相の離散値に精度良くフィッティングした曲線を求めることができる。また、地上子30の共振回路と電磁結合したときの位相周波数特性のグラフは、その傾きが共振周波数fで最大となり、遮断周波数fd1,fd2で±45度となるといった特徴を有する曲線形状となる。従って、算出した位相周波数特性のグラフの傾きから、共振周波数f及び遮断周波数fd1,fd2を求め、これらを用いて、地上子30のQ値を精度良く算出することが可能となる。
【0042】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0043】
(A)選択部240
選択部240の機能は、車上装置10以外の外部装置が有するとしてもよい。例えば、1日の運行が終了した後に、通信回線を介して算出履歴情報304を外部装置に出力したり、着脱自在な記憶媒体に記憶した算出履歴情報304を車上装置10から取り出して外部装置に装着して読み出させるといったことで、車上装置10が記録した算出履歴情報304を、選択部240の機能を有する外部装置が取り込む。そして、外部装置は、取り込んだ算出履歴情報304に基づいて地上子30の保全検査用情報であるQ値を選択する。この場合、選択部240の機能を有する外部装置は、複数の列車の各車上装置10が記録した算出履歴情報304に基づき、同一の地上子30について算出したQ値の履歴情報から、当該地上子30の保全検査用情報であるQ値を算出することができる。
【0044】
(B)地上子の判定
車上装置10において、地上子判定部220は、第1算出部212が受信信号の位相周波数特性に基づいて算出した共振周波数及びQ値のみに基づいて、地上子30を検出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10…車上装置
20…車上子
22…送信回路、24…受信回路
100…合成波生成部
200…受信部
202…FFT部
204…位相特性算出部
206…振幅特性算出部
208,210…フィルタ回路
212…第1算出部
214…第2算出部
220…地上子判定部
230…記録制御部
240…選択部
302…地上子情報
304…算出履歴情報
30…地上子
図1
図2
図3
図4
図5